説明

ガラス薄板の3次元加工方法

【課題】ガラス薄板に対して複雑な3次元微細加工を施すことが可能であり、且つ、簡単に加工できる3次元加工方法を提供する。
【解決手段】レーザ吸収剤30が被着されたガラス薄板20の加工箇所にレーザ22を走査して、前記ガラス薄板をレーザの走査位置で曲げる。レーザ光22を吸収したガラスは軟化して膨張し、ガラス表面が盛り上がる。この盛り上がった部分が冷めて収縮するときの表面張力でガラス薄板20が屈曲する。この3次元加工方法では、ガラス薄板を直線的に折り曲げたり、球面形状に湾曲させたり、円筒や波形状に成形するなど、複雑な3次元形状に成形することができ、また、このガラス薄板への微細加工を簡単に実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス薄板に対して3次元的な加工を施す加工方法に関し、特に、レーザを用いてガラス薄板を複雑な3次元形状に成形できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスは、従来から多くの分野で使われてきたが、近年、ナノテクやMEMS(Micro Electro Mechanical System)、バイオチップなど、微細加工を必要とする先端分野においても頻繁に使用され始めている。
ガラスに対する微細加工技術としては、ガラス薄板にミクロンオーダーの溝や小孔を形成する技術が知られている。
【0003】
また、下記非特許文献1には、加熱して柔らかくなった素材を型に押付けて型形状を素材に転写するホットエンボス成形技術を利用して、ガラスの微細成形を行う方法が提案されている。
この方法では、型離れを良くするため、非晶質カーボンを型材料に用いている。同文献には、この3次元微細型加工で形成したピラミッドが示されている。
【非特許文献1】高橋正春「ホットエンボス成形技術の開発−MEMS製造技術の低コスト化に向けて−」 “AIST Today”2004,8(産総研発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、型を使用する加工方法は、型の成形に多くの時間と費用が掛かる。また、成形物は型から抜き取る必要があるため、単純な形状のものしか成形できない。また、この加工方法は、ガラス箔のようなガラス薄板を対象とする成形には適用できない。
【0005】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、ガラス薄板に対して複雑な3次元微細加工を施すことが可能であり、且つ、簡単に加工できる3次元加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガラス薄板の3次元加工方法は、レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の加工箇所にレーザを走査して、前記ガラス薄板をレーザの走査位置で曲げることを特徴としている。
レーザ光を吸収したガラスは軟化して膨張し、冷めて収縮するときの表面張力でガラス薄板が屈曲する。
【0007】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、前記レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の面からレーザを入射して、前記ガラス薄板をレーザ入射面の側に曲げることができる。
レーザ吸収剤がレーザ入射面に存在するときは、レーザ入射面でガラスの軟化、膨張が生じるため、ガラス薄板はレーザ入射面の側に曲がる。
【0008】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、ガラスを透過するレーザを用いて、前記レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の面の反対面からレーザを入射し、前記ガラス薄板をレーザ入射面の反対側に曲げることができる。
レーザ吸収剤がレーザ入射面の反対面に存在するときは、その反対面でガラスの軟化、膨張が生じるため、ガラス薄板はレーザ入射面の反対側に曲がる。
【0009】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、前記加工箇所の曲げ角度に応じて、前記レーザの繰り返し走査回数を設定する。
レーザ光の走査回数が増える程、ガラス薄板の曲がる角度は大きくなる。
【0010】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、ガラス薄板の離間した複数個所に前記レーザを走査して、平板を複数個所で折り曲げた成形体を形成することができる。
【0011】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、ガラス薄板上の点に向かう複数の放射状の線に沿って前記レーザを走査して、球面形状の成形体を形成することができる。
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、ガラス薄板上の螺旋や同心円などの曲線に沿って前記レーザを走査して、曲面形状の成形体を形成することができる。
【0012】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、球面や曲面形状の成形体を形成する際に、前記レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の面の反対面に、前記レーザ吸収剤よりも厚さが薄いレーザ吸収剤の層を形成し、前記反対面からレーザを入射する。
こうすることで、薄いレーザ吸収剤の層を形成した反対面も軟化し、厚いレーザ吸収剤の層が形成されたガラス面の曲げ作用を妨げなくなるため、球面や曲面の曲率半径が小さくなる。
【0013】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、前記レーザの走査とともに、該レーザの走査方向と交差する方向に前記ガラス薄板を相対移動して、円筒形状の成形体を形成することができる。
【0014】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、円筒形状の成形体を形成する際に、前記ガラス薄板の相対移動の方向を、レーザの走査方向と直交する方向に設定することができる。
こうすることで、軸心と平行な繋ぎ目を持つ円筒体が成形できる。
【0015】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、円筒形状の成形体を形成する際に、前記ガラス薄板の相対移動の方向を、レーザの走査方向と45°を成す方向に設定しても良い。
こうすることで、螺旋状の繋ぎ目を持つ円筒体が成形できる。
【0016】
また、本発明のガラス薄板の3次元加工方法では、ガラス薄板の一方の面に、前記レーザ吸収剤の層を隙間を空けて縞状に形成し、前記ガラス薄板の他方の面に、前記隙間を埋めるように前記レーザ吸収剤の層を縞状に形成し、前記レーザ吸収剤の縞の平行する方向に前記レーザを走査するとともに、前記縞と直交する方向に前記ガラス薄板を相対移動して、波形状の成形体を形成することができる。
この場合、ガラス薄板は、レーザ吸収剤が被着された各箇所で凹状に曲がるため、波形状に成形される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の3次元加工方法では、ガラス薄板を直線的に折り曲げたり、球面形状に湾曲させたり、円筒や波形状に成形するなど、複雑な3次元形状に加工することができる。また、このガラス薄板への微細加工は、レーザを用いて簡単に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を基に説明する。
図1は、ガラス箔を3次元加工するために使用したレーザ装置を示している。図2は、この加工方法でガラス箔が屈曲する原理について示している。図3は、ガラス箔を直線的に折り曲げるときのレーザ走査を示し、図4は、直線的に屈曲したガラス箔の実例を示している。図5は、レーザ吸収剤の被着面とガラス箔の屈曲方向との関係を示し、図6は、レーザの繰り返し走査回数と屈曲角度との関係を示している。図7は、一枚のガラス箔の離間した複数箇所を折り曲げる「連続曲げ」におけるレーザ走査位置を示し、図8は、連続曲げの実例を示している。図9は、ガラス箔を球面形状に成形するときのレーザ走査位置を示し、図10は、球面形状に成形したガラス箔の実例を示し、また、図11は、この球面形状の曲率についての測定結果を示している。図12は、球面形状の曲率半径を小さくするための方法について示し、図13は、その方法で形成した球面形状の実例を示している。図14は、ガラス箔を円筒形状に成形するときのレーザ走査位置を示し、図15は、このときのレーザの走査方向とガラス箔の移動方向との関係を示し、また、図16は、円筒形状に成形したガラス箔の実例を示している。図17は、レーザの走査方向とガラス箔の移動方向との角度を45°に設定する場合を示し、図18は、このときに形成される円筒形状の実例を示している。図19は、ガラス箔を波形状に成形するときのレーザ吸収剤の配置を示し、図20は、このときのレーザ走査方向とガラス箔の移動方向との関係を示し、また、図21は、波形状に成形したガラス箔の実例を示している。
【0019】
図1に示すように、この加工方法で使用したレーザ装置は、λ=1064nmまたは532nmのレーザ光を連続発光するYAGレーザ10(TEM00:18Wmax)と、制御装置19により回転角度が制御されるガルバノミラー11、12と、レーザ光を分岐するダイクロイックミラー13と、レーザ光を集光する対物レンズ16と、加工対象のガラス箔20が固定されたスライドガラス21を支持するXYZステージ17とを備え、さらに、ガラス箔20の微細加工を観察するためのCCDカメラ14、18と、CCDカメラ14の位置に像を結ぶ結像レンズ15とを備えている。
ここでは、ガラス箔20として、長さ10mm、幅1.5mm、厚さ50μmのガラスを使用した。このガラス箔20の組成及び物性値は次のとおりである。
【0020】
(ガラス箔の組成) (Wt%)
SiO2 : 64.2
Al23 : 3.0
BaO : 3.1
23 : 8.9
Na2O : 7.2
2O : 6.4
ZnO : 7.1
【0021】
(ガラス箔の物性値)
ヤング率 : 72.9GPa
密度 : 2.51g/cm3
屈折率 : 1.52
軟化点 : 736℃
【0022】
図3に拡大して示すように、YAGレーザ10のレーザ光22は、スライドガラス21に固定されたガラス箔20の上方1.5mmの位置に対物レンズ16で集光されてガラス箔20に入射する。また、ガルバノミラー11、12の回転が制御されて、入射レーザ光22による走査がガラス箔20の所定位置で行われる。
このガラス箔20のレーザ入射面または反対側の面には、49nmの膜厚のAu層がレーザ吸収剤として、予め、被着されている。なお、このレーザ吸収剤の層は、加工処理後、ガラス箔20の面を軽く擦れば除去することができる。
このレーザ照射の条件を纏めると、次のとおりである。
【0023】
対物レンズ : ×5(N.A.=0.13)
レーザ出力 : 0.96W
走査周波数 : 1.38Hz
走査距離 : 1.5mm
デフォーカス量 : 試料上方1.5mm
ガラス箔の長さ : 10mm
走査位置 : 先端から2mm
レーザ吸収剤膜厚: 49nm
【0024】
レーザ光が走査されたガラス箔20は、レーザ光の走査位置から屈曲する。これは、次のような現象によるものと考えられる。
即ち、図2に示すように、レーザ光22は、レーザ吸収剤30が被着されたガラス箔20の面で吸収され、ガラス箔20の表面が軟化して膨張する(図2(a))。レーザ光照射による加熱は局所的であるため、膨張部分は周りから拘束され、ガラス箔20の表面が盛り上がる。この盛り上がった部分は、その後、冷却されて収縮し、そのときの表面張力で軟化部分の両側のガラス箔20が引き寄せられて屈曲する(図2(b))。
また、レーザ光を吸収して溶けたガラスが対流で凹み、この部分が冷えるときの収縮でガラス箔が曲がることも考えられる。
【0025】
図4は、屈曲したガラス箔の実例を示している。(a1)は、屈曲した側の面(レーザ入射面)のSEM画像を示し、(a2)は、その屈曲部分の拡大画像を示している。(b1)は、裏面側のSEM画像を示し、(b2)は、その屈曲部分の拡大画像を示している。(a2)から明らかなように、レーザが照射されたレーザ走査位置は僅かに盛り上がっている。また、(b2)から明らかなように、裏面側では、割れが生じることなく、滑らかな面が保たれている。
図5に示すように、レーザが照射されたガラス箔20は、レーザの入射方向とは無関係に、レーザ吸収剤30が被着された面の側に屈曲する。
【0026】
また、図6に示すように、レーザ光の走査を繰り返すことで、ガラス箔20の屈曲角度は増加する。図6では、横軸に走査回数、縦軸に屈曲角度を示している。この測定は、レーザ出力を1.94W及び1.51Wに設定して行っている。屈曲角度の変化は、楕円で囲んだ始めの段階で最も大きく、走査一回当たり、屈曲角度が約0.6°増加している。
従って、レーザ走査回数を制御することで、ガラス箔の曲げ角度を任意に設定することができる。
【0027】
また、ガラス箔は、折曲げ加工により、強度が向上する。ガラス箔の強度を測定するため、幅1.5mm、長さ10mm、厚さ50μmのガラス箔を用いて三点曲げ試験を実施した結果は、次の通りである。
この三点曲げ試験では、6mmの隙間にガラス箔を渡し、その中間を球形圧子で押して、ガラス箔が破壊するまでの強度を測定した。前記サイズの平板状ガラス箔(未加工)の平均強度は、0.12Nである。同じサイズのガラス箔の長手方向にレーザを走査して、ガラス箔を屋根のように20°程度に折り曲げ、頂角を下にして同一試験を行ったところ、平均強度は0.25Nであった。このように、ガラス箔の折曲げ加工で2倍の強度を得ることができる。
【0028】
このように、レーザ光の走査でガラス箔が屈曲することを利用して、ガラス箔を複雑な形状に成形することができる。その成形例を以下に示す。
(連続曲げ)
図7(a)に示すように、レーザ光の走査位置でガラス箔20が屈曲するため、図7(b)に示すように、ガラス箔20の離間した複数個所を、順次、レーザ光で走査することにより、ガラス箔20を連続して複数回折り曲げることができる。ここでは、この成形を「連続曲げ」と称する。
図7(c)に示すように、レーザ吸収剤30が被着されたガラス箔20の面の反対面からレーザ光を入射すれば、ガラス箔20は、各レーザ走査位置でレーザ入射面の反対側に曲がる。
図8は、連続曲げの実例を示している。図8(a)に、ガラス箔20へのレーザ走査位置を示し、図8(b)に、連続曲げを実施したガラス箔のSEM画像を示している。
【0029】
この連続曲げの成形に際して、レーザ照射の条件は次のように設定した。
レーザ出力 : 0.96W
走査周波数 : 1.38Hz
走査距離 : 1.5mm
デフォーカス量 : 試料上方1.5mm
レーザ吸収剤膜厚: 49nm(裏面)
【0030】
(球面形状)
図9(a)に示すように、ガラス箔上の一点に向かう複数の放射状の線に沿ってレーザを走査すれば、図9(b)に示すように、ガラス箔20を球面形状に成形することができる。図10には、球面形状に成形したガラス箔のSEM画像を示している。
この球面形状の成形に際して、レーザ照射の条件は次のように設定した。
レーザ出力 : 0.42W×2周、0.96W×2周、2.42W×2周
走査速度 : 2.97mm/s
走査範囲の半径 : 1.5mm
レーザ吸収剤膜厚: 49nm(裏面)
【0031】
実際のレーザ走査は、次の手順で実施している。
まず、ガラス箔のレーザ吸収剤被着面がレーザ入射面の裏側になるように設定する。次に、レーザ出力を0.42Wに設定し、ガラス箔20の中心からの距離が1.5mmの位置を開始点として、開始点から中心までレーザを走査する。次いで、開始点を周方向に僅かにずらし、再び中心までのレーザ走査を行う。これを、中心の周りを2周するまで繰り返し、次に、レーザ出力を0.96Wに上げて、同様の走査を、中心の周りを2周するまで繰り返し、さらに、レーザ出力を2.42Wに上げて、中心の周りを2周するまでレーザ走査を繰り返した。
図11は、この球面形状の曲率について測定した結果を示している。曲率半径は4.45mmであった。
【0032】
この球面形状の曲率半径は、図12(b)に示すように、ガラス箔20のレーザ入射面の側にも少しのレーザ吸収剤31を設けることで、小さくすることができる。
図12(a)に示すように、ガラス箔20のレーザ入射面(表面)にレーザ吸収剤が無い場合は、レーザが照射されても、この表面は殆ど軟化せずに、ガラス箔を平面に保とうとする力が働く。この力により、ガラス箔裏面の曲がろうとする力が減殺され、そのため、球面形状の曲率半径が小さくできない。
【0033】
これに対し、図12(b)に示すように、ガラス箔20のレーザ入射面(表面)に少量のレーザ吸収剤層31を形成すると、レーザ照射時に、表面側も多少軟化して曲がり易くなり、表面側の“ガラス箔を平面に保とうとする力”が解消する(図12(c))。その結果、ガラス箔の曲がりは大きくなる。
図13(a)には、ガラス箔の裏面には49nmの厚さのレーザ吸収剤を形成し、表面には7nmのレーザ吸収剤を形成して球面形状に成形したガラス箔のSEM画像を示している。また、図13(b)(c)には、この球面形状の曲率について測定した結果を示している。曲率半径は1.31mmであった。
【0034】
(円筒形状)
図14(a)に示すように、ガラス箔20の離間した複数個所をレーザ光で走査した場合に、ガラス箔20は、走査位置で屈曲して、多角形状に成形されるが、この走査間隔を狭めていくと、図14(b)に示すように、ガラス箔20は円筒形状に成形される。
ここでは、走査間隔を狭めるために、図15に示すように、レーザ光をY軸方向に走査し、スライドガラス21に固定されたガラス箔20の方を、レーザ光の走査方向と直交する方向(X軸方向)に移動している。ガラス箔20の移動は、ガラス箔20が固定されたスライドガラス21をXYZステージ17で動かすことにより行われる。
図16には、円筒形状に成形したガラス箔のSEM画像を示している。
【0035】
この円筒形状の成形に際して、レーザ照射の条件は次のように設定した。
対物レンズ : ×5(N.A.=0.46)
レーザ出力 : 0.96W
走査周波数 : 1.38Hz
走査距離 : 1.5mm
デフォーカス量 : 試料上方1.5mm
ガラス箔の長さ : 10mm
ガラス箔の移動速度: 約5μm/s
レーザ吸収剤膜厚 : 49nm(裏面)
ここでは、レーザの走査方向とガラス箔20の移動方向とを直交させているため、成形された円筒の繋ぎ目は、円筒の軸心と平行になる。
【0036】
また、図17に示すように、レーザの走査方向とガラス箔20の移動方向とが成す角度を45°に設定すると、図18のSEM画像に示すように、捻った状態の円筒体(円筒の繋ぎ目が螺旋状を成す円筒体)が成形できる。
この円筒形状の成形に際して、レーザ照射の条件は次のように設定した。
対物レンズ : ×5(N.A.=0.46)
レーザ出力 : 0.96W
走査周波数 : 0.98Hz
走査距離 : 2.12mm
デフォーカス量 : 試料上方1.5mm
ガラス箔の長さ : 10mm
ガラス箔の移動速度: 約5μm/s
レーザ吸収剤膜厚 : 49nm(裏面)
【0037】
(波形状)
図19(a)に示すように、ガラス箔の表面にレーザ吸収剤の層を設けてレーザ走査を行うと、ガラス箔は表面の側に屈曲し、図19(b)に示すように、ガラス箔の裏面にレーザ吸収剤の層を設けてレーザ走査を行うと、ガラス箔は裏面の側に屈曲する。
そのため、図19(c)に示すように、ガラス箔の両面に交互にレーザ吸収剤の層を設けてレーザ走査を行うことで、ガラス箔を波形状に成形することができる。
図20は、ガラス箔20を波形状に成形するときのレーザ走査及びガラス箔の移動を示している。ガラス箔20の一方の面には、レーザ吸収剤30の層を隙間を空けて縞状に形成し、ガラス箔20の他方の面には、この隙間を埋めるようにレーザ吸収剤31の層を縞状に形成している。また、レーザ光はY軸方向に走査し、ガラス箔20は、レーザ光の走査方向と直交する方向(X軸方向)に移動する。
図21には、波形状に成形されたガラス箔のSEM画像を示している。
【0038】
この波形状の成形に際して、レーザ照射の条件は次のように設定した。
対物レンズ : ×5(N.A.=0.46)
レーザ出力 : 0.96W
走査周波数 : 1.38Hz
走査距離 : 1.5mm
デフォーカス量 : 試料上方1.5mm
ガラス箔の長さ : 10mm
ガラス箔の移動速度: 約8μm/s
レーザ吸収剤膜厚 : 49nm
【0039】
このように、本発明のガラス薄板の3次元加工方法は、ガラス薄板を複雑な3次元形状に加工することができる。また、この加工方法は、レーザを用いて簡単に実施できる。
ここで示した成形体は、本発明の加工方法を用いて成形できる成形体の一例であり、本発明は、他の形状の成形体を生成する際にも使用することができる。
レーザ走査は、直線状の軌跡を画く走査だけでなく、曲線状の軌跡を画く走査も可能であり、螺旋や同心円などの曲線に沿ってガラス薄板上をレーザで走査することにより、種々の曲面形状の成形体を得ることができる。
ここでは、YAGレーザを用いる場合について説明したが、本発明は、炭酸ガスレーザや半導体レーザ、エキシマレーザ、アルゴンレーザ、YVO4レーザ、YLFレーザ等、他のレーザを用いて実施することも可能である。
【0040】
また、レーザ吸収剤は、使用するレーザ装置のレーザ光を吸収できる素材であれば、無機材料、有機材料を問わず、用いることができる。
また、レーザ吸収剤の層をガラス薄板に形成するためには、塗布や蒸着、スパッタリングなど、一般的な被膜形成方法が適用できる。
このレーザ吸収剤は、ガラス薄板の成形加工後、指で擦ったり、布などで拭き取ったりして、簡単に取り除くことができる。そのため、レーザ吸収剤は、ガラス薄板の成形体にとって、邪魔な存在ではない。
【0041】
ガラスは、光学機器、MEMS、電子工学、医療機器など、多方面で多くの可能性を持っている。しかし、欠点も有しており、ガラス箔の成形加工が困難であることもその一つに数えられる。
本発明は、こうしたガラスの欠点を除くことが可能であり、ガラスの有用性を飛躍的に高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、光学機器、MEMS、電子工学、医療機器など、幅広い分野において、ガラス薄板を成形加工するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る3次元加工方法で使用したレーザ装置を示す図
【図2】本発明の3次元加工方法でガラス箔が屈曲する原理を説明する図
【図3】本発明の3次元加工方法でのガラス箔へのレーザ走査を示す図
【図4】本発明の3次元加工方法で直線的に屈曲したガラス箔を示す図
【図5】本発明の3次元加工方法でレーザ吸収剤被着面とガラス箔屈曲方向との関係を示す図
【図6】本発明の3次元加工方法でのレーザの繰り返し走査回数と屈曲角度との関係を示す図
【図7】本発明の3次元加工方法での連続曲げにおけるレーザ走査を説明する図
【図8】本発明の3次元加工方法で実施した連続曲げの実例を示す図
【図9】本発明の3次元加工方法でガラス箔を球面形状に成形する際のレーザ走査を示す図
【図10】本発明の3次元加工方法で球面形状に成形したガラス箔の実例を示す図
【図11】図10の球面形状の曲率についての測定結果を示す図
【図12】本発明の3次元加工方法で球面形状の曲率半径を小さくする方法を示す図
【図13】図12の方法で形成した球面形状の実例を示す図
【図14】本発明の3次元加工方法でガラス箔を円筒形状に成形するレーザ走査を示す図
【図15】本発明の3次元加工方法で円筒形状を成形するときのレーザ走査方向とガラス箔移動方向とを示す図
【図16】本発明の3次元加工方法で形成した円筒形状の実例を示す図
【図17】本発明の3次元加工方法で、引き伸ばされた円筒形状を成形するときのレーザ走査方向とガラス箔移動方向とを示す図
【図18】図17の方法で形成した円筒形状の実例を示す図
【図19】本発明の3次元加工方法で波形状を成形するときのレーザ吸収剤の配置を示す図
【図20】本発明の3次元加工方法で波形状を成形するときのレーザ走査方向とガラス箔移動方向とを示す図
【図21】本発明の3次元加工方法で形成した波形状の実例を示す図
【符号の説明】
【0044】
10 YAGレーザ
11 ガルバノミラー
12 ガルバノミラー
13 ダイクロイックミラー
14 CCDカメラ
15 結像レンズ
16 対物レンズ
17 XYZステージ
18 CCDカメラ
19 制御装置
20 ガラス箔
21 スライドガラス
30 レーザ吸収剤
31 レーザ吸収剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の加工箇所にレーザを走査して、前記ガラス薄板をレーザの走査位置で曲げることを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、前記レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の面からレーザを入射して、前記ガラス薄板をレーザ入射面の側に曲げることを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項3】
請求項1に記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、ガラスを透過するレーザを用いて、前記レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の面の反対面からレーザを入射し、前記ガラス薄板をレーザ入射面の反対側に曲げることを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、前記加工箇所の曲げ角度に応じて、前記レーザの繰り返し走査回数を設定することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、ガラス薄板の離間した複数個所に前記レーザを走査して、平板を複数個所で折り曲げた成形体を形成することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、ガラス薄板上の点に向かう複数の放射状の線に沿って前記レーザを走査して、球面形状の成形体を形成することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、ガラス薄板上の螺旋や同心円などの曲線に沿って前記レーザを走査して、曲面形状の成形体を形成することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、前記レーザ吸収剤が被着されたガラス薄板の面の反対面に、前記レーザ吸収剤よりも厚さが薄いレーザ吸収剤の層を形成し、前記反対面からレーザを入射することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、前記レーザの走査とともに、該レーザの走査方向と交差する方向に前記ガラス薄板を相対移動して、円筒形状の成形体を形成することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項10】
請求項9に記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、前記ガラス薄板の相対移動の方向を、レーザの走査方向と直交する方向に設定することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項11】
請求項9に記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、前記ガラス薄板の相対移動の方向を、レーザの走査方向と45°を成す方向に設定することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれかに記載のガラス薄板の3次元加工方法であって、ガラス薄板の一方の面に、前記レーザ吸収剤の層を隙間を空けて縞状に形成し、前記ガラス薄板の他方の面に、前記隙間を埋めるように前記レーザ吸収剤の層を縞状に形成し、前記レーザ吸収剤の縞の平行する方向に前記レーザを走査するとともに、前記縞と直交する方向に前記ガラス薄板を相対移動して、波形状の成形体を形成することを特徴とするガラス薄板の3次元加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−143787(P2009−143787A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325797(P2007−325797)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年9月12日〜14日に北海道旭川市で開催された、社団法人精密工学会主催の「2007年度精密工学会秋季大会学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】