説明

ガルバノスキャナ用制御装置及びレーザ加工機

【課題】ミラーの温度変化に起因するビーム位置決め精度の低下を改善し、良好なビーム位置決め特性を有するガルバノスキャナ用制御装置及びレーザ加工機を提供する。
【解決手段】ミラー温度センサ5、振動周波数取得部7、及び振動抑制部12,13を備える。レーザ光を反射するミラーの温度をミラー温度センサにて測定し、得られたミラー温度におけるガルバノスキャナ3の振動周波数を振動周波数取得部にて求める。求めた振動周波数を振動抑制部にて減衰させる。このような構成によりミラーの温度上昇によりガルバノスキャナの振動周波数が変化した場合でも、ミラーの温度に対応した振動周波数の減衰が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガルバノスキャナのようなビーム走査器を用いてレーザ光の位置決めを行うガルバノスキャナ用制御装置、及び該制御装置を備えたレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なレーザ加工機として、加工対象物の所望位置へレーザ光の照射位置を移動させるガルバノスキャナを備えたものがある。即ち、上記ガルバノスキャナでは、回転軸(回動軸)の一端に、レーザ光を反射するミラーが取り付けられており、上記回転軸を駆動部にて回転駆動することで、レーザ光の照射位置を変化させる。よって上記レーザ加工機は、加工対象物に対するレーザ光の照射位置をガルバノスキャナで変化させることで上記加工対象物のレーザ加工を行う。
【0003】
上述のようなガルバノスキャナには、加工対象物に対するレーザ光の照射位置を制御するため、上記ミラーの回動を制御するガルバノスキャナ用制御装置が接続されている。一方、ガルバノスキャナの上記回転軸に取り付けられた上記ミラー等は、慣性負荷として作用するため、ガルバノスキャナが高速動作するときには、上記回転軸にねじり振動が発生し、ガルバノスキャナが振動する場合がある。よってガルバノスキャナ用制御装置には、ねじり振動モードを安定化させるために、サーボ制御系内にノッチフィルタのようなねじり振動安定化要素が設けられ、ねじり振動の発生を防止するようにサーボ制御が行われる。
【0004】
又、ガルバノスキャナの上記駆動部のコイルに大電流を入力すると、コイルが発熱し、これによる上記回転軸の温度上昇により当該回転軸の剛性が低下する。これに伴い、当該回転軸のねじり振動周波数も低下する現象が発生する。このような温度変化に起因するねじり振動数の変化にも対応して上記サーボ制御が可能なように、ガルバノスキャナ用制御装置には、ガルバノスキャナにおける電圧及び電流からコイルの温度を推定する温度推定部と、コイル推定温度とねじり振動周波数との対応関係を記載した固有周波数テーブルとが備わり、ガルバノスキャナ用制御装置は、これらを用いてコイル温度に対応したねじり振動周波数を求め、上記ねじり振動安定化要素の周波数設定値を変化させる。
【0005】
このようにして、ガルバノスキャナの駆動部に備わるコイルの発熱によりミラーの回転軸のねじり振動周波数が変動しても、ねじり振動安定化要素によって、発熱に対応した周波数成分の振動は抑制される。その結果、レーザ光の照射位置決め特性の劣化を抑制できる。したがって、このようなガルバノスキャナ用制御装置を備えたレーザ加工機は、加工精度及び加工効率の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−235414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したガルバノスキャナを備え、ミラーを操作してレーザ光の照射位置決めを行うレーザ加工機では、加工速度を高速化するため、ハイパワーのレーザ光がミラーに照射され、ミラーの回動による走査によってレーザ加工が行われる。そのため、上記コイルの温度とは独立して、ミラーの温度も上昇する。このような状況において、ミラーが鏡面とその裏面とで形状が異なる非対称構造であるときや、ミラーマウントの非対称性や、ミラーとミラーマウントとを接着する接着材の熱変形等に起因して、ミラーの温度上昇に伴い、通常、鏡面が法線方向に倒れる面倒れが発生する。
【0008】
この面倒れが発生すると、回転軸の回転方向のイナーシャが増大し、上記回転軸の振動周波数が低下する。このようなミラー及びミラーマウントの温度上昇による振動周波数の変化は、上述したように従来行われているコイル温度の計測では検出することはできない。
したがって、上記特許文献1に開示されるような従来のレーザ加工機では、ハイパワーのレーザ加工を行った場合には、ミラー及びミラーマウントの温度上昇により、振動周波数に変化が生じ、ノッチフィルタのようなねじり振動安定化要素あるいは振動抑制フィルタにおいて予め設定されている設定値にずれが生じる。その結果、ガルバノスキャナは、ミラーの温度変化により発生した新たな振動周波数(固有振動数)にて振動を起こす。したがって、ビーム位置決め精度は低下し、レーザ加工機の加工精度も低下する。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、良好なビーム位置決め特性を有するガルバノスキャナ用制御装置及びレーザ加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の一態様におけるガルバノスキャナ用制御装置は、レーザ光を反射するミラーを回動させてレーザ光の照射位置決めを行うガルバノスキャナの制御装置であって、上記ミラーの温度を測定するミラー温度センサと、上記レーザ光の反射により温度変化が生じた上記ミラーの回動によるねじり振動に含まれる、上記ミラー温度センサによる測定温度における振動周波数を求める振動周波数取得部と、上記振動周波数取得部にて求めた上記振動周波数の減衰を行う振動抑制部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様におけるガルバノスキャナ用制御装置によれば、ミラー温度センサ、振動周波数取得部、及び振動抑制部を備える。レーザ光が反射するミラーの温度を上記ミラー温度センサにて測定し、得られたミラー温度における振動周波数を振動周波数取得部にて求める。求めた振動周波数を振動抑制部にて減衰させる。このような構成を備えたことで、ミラーの温度上昇が発生し、ガルバノスキャナの振動周波数が変化した場合でも、ミラーの温度に対応した振動周波数の減衰が行われる。したがって、ガルバノスキャナは、振動周波数で振動を起こさないように制御される。その結果、高精度なレーザ加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガルバノスキャナ用制御装置のブロック図である。
【図2】ガルバノスキャナのミラーの温度変化による振動周波数の変化を説明するための図である。
【図3】ミラーの温度とガルバノスキャナの振動周波数との関係の一例を示すグラフである。
【図4A】ガルバノスキャナの周波数特性を示すグラフである。
【図4B】図1に示す振動抑制フィルタ部の周波数特性を説明するためのグラフである。
【図5】図1に示すガルバノスキャナ用制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2におけるレーザ加工機のブロック図である。
【図7】図6に示すレーザ加工機に備わるガルバノスキャナ用制御装置のブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態3におけるレーザ加工機のブロック図である。
【図9】図8に示すレーザ加工機に備わるガルバノスキャナ用制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態であるガルバノスキャナ用制御装置、及び該ガルバノスキャナ用制御装置を備えたレーザ加工機について、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同一又は同様の構成部分については同じ符号を付している。
【0014】
実施の形態1.
図1には、本実施形態1におけるガルバノスキャナ用制御装置1の構成をブロック図にて示すとともに、制御されるガルバノスキャナ3、数値制御装置2、及び電流アンプ4が示されている。まず、これらについて簡単に説明する。
【0015】
ガルバノスキャナ用制御装置1は、数値制御装置2から出力される角度指令と、ガルバノスキャナ3のロータリエンコーダ3cからの回転角度検出値とが一致するように、電流アンプ4に電流指令を出力する。尚、ガルバノスキャナ用制御装置1については、以下で詳しく説明する。
数値制御装置2は、ガルバノスキャナ3に備わるミラー3dを目標角度に位置決めするための角度指令データを格納しており、順次、角度指令データを読み出してガルバノスキャナ用制御装置1に出力する。
電流アンプ4は、ガルバノスキャナ用制御装置1から出力される電流指令に応じた電流をガルバノスキャナ3に供給する。
【0016】
ガルバノスキャナ3は、レーザ発振器から出力されたレーザ光を加工対象物の所望位置へ照射可能とする装置であり、回転軸(回動軸)3aと、モータ部3bと、ロータリエンコーダ3cと、ミラー3dと、ミラーマウント3eとを有する。回転軸3aの一端には、レーザ光を反射するミラー3dがミラーマウント3eを介して取り付けられ、他端には、回転軸3aの回転角度を検出するロータリエンコーダ3cが取り付けられている。このような回転軸3aは、電流アンプ4から電流がモータ部3bに供給されることでモータ部3bが発するトルクにて回転される。尚、モータ部3bの構成としては、回転子側にコイル、固定子側に磁石を用いた可動コイル型モータや、回転子側に磁石、固定子側にコイルを用いた可動マグネット型モータ等がある。ロータリエンコーダ3cは、回転軸3aの検出した回転角信号をパルス信号あるいはシリアル信号化して制御装置1に出力する。
このような構成により、ガルバノスキャナ3は、レーザ発振器から出力されたレーザ光を反射するミラー3dの角度を変化させ、加工対象物の所望位置へ照射可能とする。
【0017】
上述のように構成されたガルバノスキャナ3では、ミラー3dはレーザ光を反射することから、レーザ光が照射される鏡面は、コーティングされて高い反射率及び平面度を有するように製作され、一方、ミラー3dの裏面は、レーザ光が照射されないので、低イナーシャ化のため、一般には削られている。このような裏面の切削により、ミラー3dは構造的に非対称構造となり、熱変形が生じ易い。又、ミラーマウント3eとミラー3dとは接着材で固定されており、ミラーマウント3eと回転軸3aとは、ネジ締めで固定可能な構造となっている。よってミラーマウント3eも非対象構造になっている場合もあり、また、接着材の熱変形の影響で、ミラー3dの取り付け角度が温度変化に伴い変化する場合も生じる。
【0018】
一方、ミラー3d及びエンコーダ3cは慣性負荷として作用することから、モータ部3bにより回転軸3aが高速駆動されると、回転軸3aにはねじり振動が発生する。回転軸3aは、図4Aに示すようなねじり振動の周波数特性を有し、この周波数特性には、振動周波数(固有振動数)が含まれる。このように、回転軸3aつまりガルバノスキャナ3は、振動周波数(固有振動数)を有し、ガルバノスキャナ3は振動周波数にて振動する。このような振動が発生すると、ミラー3dの位置が変位し加工対象物へのレーザ光の照射位置が変位することから、振動周波数は低減させる必要がある。
【0019】
さらに、ミラー3dへのレーザ光の照射によりミラー3dの温度が変化すると、上述のようにミラー3dの熱変形や取り付け角度の変化が発生し、慣性負荷が変化する。よって、回転軸3aつまりガルバノスキャナ3の振動周波数に変化が生じる。したがって、ミラー3dの温度変化を検出し、検出温度に対応した振動周波数を求めてこれを低減することは、加工対象物へのレーザ光の照射位置精度を高めるために重要となる。
【0020】
そこで本実施形態のガルバノスキャナ用制御装置1では、振動周波数の変化を検出するために、レーザ光の照射により温度変化が生じるミラー3dの温度を計測するためのミラー温度センサ5を備え、該ミラー温度センサ5をミラー3dの裏面に接着している。ミラー温度センサ5は、ミラー3dの温度信号を制御装置1に出力する。尚、ミラー温度センサ5は、熱電対やサーミスタのような接触型センサや、あるいは、放射温度センサのような非接触型温度センサ等を用いる。よって、本実施形態では、ミラー3dの裏面にミラー温度センサ5を設けているが、ミラー3dの裏面に非接触な状態でミラー温度センサ5を設置することも可能である。
【0021】
尚、図1では、上記ミラー温度センサ5が制御装置1の構成要素であることを明確に示すため、実際の取り付け位置であるミラー3dの黒丸部分から引き出す形ではなく、ガルバノスキャナ制御装置1の一部に配置する形で示した。図7、図9においても同様である。
【0022】
ガルバノスキャナ用制御装置1は、基本的構成部分として、ミラー温度センサ5の他に、振動周波数取得部7、振動抑制フィルタ部12、及び振動周波数設定変更部13を備え、本実施形態ではさらに、温度センサ信号処理部6、エンコーダ信号処理部8、角速度計算部9、位置制御部10、及び角速度制御部11を備えている。尚、振動抑制フィルタ部12、及び振動周波数設定変更部13にて振動抑制部を構成する。
【0023】
温度センサ信号処理部6は、ミラー温度センサ5からの検出信号を入力し、ミラー3dの温度検出値を振動周波数取得部7へ出力する。
【0024】
振動周波数取得部7は、温度センサ信号処理部6から供給された温度検出値におけるガルバノスキャナ3、詳しくはガルバノスキャナ3の回転軸3aの振動周波数を求めて出力する。求め方について以下に具体的に説明する。
まず、ガルバノスキャナ3つまり回転軸3aの周波数特性の一例を図2に示す。本周波数特性は、ガルバノスキャナ3の電流からエンコーダ3cで検出される回転角速度までの伝達特性であり、レーザ光照射前のミラー3dの温度T0での特性と、レーザ光照射後の、温度上昇した温度T1での特性とを示している。又、Fk0は、ミラー温度T0のときの回転軸3aの振動周波数(固有振動数)であり、Fh0は、ミラー温度T0のときの反共振周波数である。また、Fk1は、ミラー3dの温度が上昇して温度T1となったときの振動周波数(固有振動数)であり、Fh1は、ミラー温度T1のときの反共振周波数である。尚、本周波数特性は、FFTアナライザ等を使って計測する。図2から明らかなように、ミラー3dの温度が上昇すると、振動周波数は低下する。
【0025】
又、図3はミラー3dの温度と、上記振動周波数との関係の一例を示している。ミラー温度T0、T1、T2における各振動周波数は、Fk0、Fk1、Fk2である。これらの関係から、ミラー温度Txと振動周波数Fkxとの関係式は、例えば2次関数を用いると下記(1)式のようになる。
【0026】
Fkx = a2・Tx +a1・Tx +a0 (1)
【0027】
ここで、Txは、ミラー3dの温度、Fkxは、ミラー温度がTxのときの振動周波数の計算値である。尚、a0、a1、a2は、ミラー温度T0、T1、T2と振動周波数Fk0、Fk1、Fk2とから求めた2次関数の係数である。
【0028】
振動周波数取得部7は、本実施形態では、例えば上記(1)式のような計算式を用いて、温度センサ信号処理部6にて得られたミラー3dの温度における、ガルバノスキャナ3つまり回転軸3aの振動周波数を計算し、振動周波数設定変更部13へ出力する。
尚、温度センサ信号処理部6にて得られたミラー3dの温度に対応した振動周波数の取得方法は、上記(1)式に基づくものに限定されず、1次関数や高次関数を用いても良いし、上記温度と振動周波数との関係を記載したテーブルを用いても良い。
【0029】
エンコーダ信号処理部8は、ガルバノスキャナ3に備わるロータリエンコーダ3cからの角度信号を入力し、回転軸3aの角度検出値を、位置制御部10及び角速度計算部9へ出力する。
角速度計算部9は、エンコーダ信号処理部8から供給された角度検出値を微分して角速度検出値を求め、求めた角速度検出値を角速度制御部11へ出力する。
【0030】
位置制御部10は、数値制御装置2が出力する角度指令と、エンコーダ信号処理部8が出力する角度検出値とが供給され、上記角度指令と上記角度検出値との差が0になるように、位置制御計算(比例及び積分計算)を行い、角速度指令を角速度制御部11へ出力する。
角速度制御部11は、角速度計算部9から供給される角速度検出値と、位置制御部10から供給される角速度指令との差が0になるように、角速度制御計算(比例積分計算)を行い、電流指令を振動抑制フィルタ部12及び振動周波数設定変更部13へ出力する。
【0031】
振動抑制フィルタ部12は、上記電流指令から、ガルバノスキャナ3つまり回転軸3aの振動周波数成分を減衰させるフィルタであり、本実施形態では例えば図4Bに示すような周波数特性を有するノッチフィルタを用いる。図4Aは、ガルバノスキャナ3、詳しくは回転軸3aの周波数特性の一例を示しており、振動周波数(固有振動数)をFkxとする。このような場合に、ノッチフィルタは、図4Bに示す周波数特性を有するものを用い、ノッチ周波数をFkxに一致させる。尚、ノッチフィルタの伝達関数の一例を下記(2)式に示す。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、ωはノッチ角周波数、ωはノッチフィルタのバンド幅であり、単位はrad/secである。また、Sはラプラス演算子である。
【0034】
図4Bに示すようなノッチフィルタの周波数は、下記の(3)式及び(4)式のようなω、ωを設定する。
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
振動周波数設定変更部13は、振動周波数取得部7で計算した振動周波数Fkxを振動抑制フィルタ部12に設定して、振動抑制フィルタ部12におけるノッチ周波数を変更する。設定するタイミングは、振動抑制フィルタ部12の入、出力信号が、双方ともほぼ0付近になったと判断した場合に設定する。
このように振動抑制フィルタ部12の振動周波数設定値を、ミラー温度センサ5で検出されたミラー3dの温度に対応した振動周波数に変更することで、振動抑制フィルタ部12の出力信号が不連続に変化することを防止できる。
【0038】
以上の構成によれば、振動抑制フィルタ部12から電流アンプ4へ出力される電流指令は、ミラー温度センサ5で検出されたミラー3dの温度における回転軸3aの振動周波数が減衰された信号となる。したがって、ガルバノスキャナ3が上記振動周波数で振動することはなく、ガルバノスキャナ3のミラー3dについて良好な制御が可能となる。尚、振動抑制フィルタ部12の電流指令出力は、DAコンバータなどを用いて電流アンプ4に出力される。
【0039】
尚、ガルバノスキャナ用制御装置1は、マイクロプロセッサで実行するデジタル制御系であり、プログラムで記述されており、一定のサンプリング時間間隔で処理動作が行われる。
【0040】
次に、以上説明したように構成されたガルバノスキャナ用制御装置1の動作について、図5を参照して以下に説明する。本処理は、上述のように一定時間間隔で起動される。
【0041】
まずステップS1では、数値制御装置2から、ガルバノスキャナ3の回転軸3aの角度指令を入力する。この角度指令は、ミラー3dの鏡面でレーザ光を反射させて、加工対象物におけるレーザ光の位置決めを行う際のレーザ光の位置に対応した角度指令であり、数値制御装置2内で計算され、ガルバノスキャナ用制御装置1へ出力される。
【0042】
次に、ガルバノスキャナ3つまり回転軸3aにおける角度信号は、エンコーダ部3cからパルス信号やシリアル信号にてエンコーダ信号処理部8へ伝送され、ステップS2において、エンコーダ信号処理部8は、上記信号を角度検出値に変換する。
次のステップS3では、角速度計算部9にて上記角度検出値の微分計算が行なわれ、角速度検出値が求められる。また、ミラー3dの温度を計測するミラー温度センサ5から電圧で温度信号が温度センサ信号処理部6のA/Dコンバータに入力される。温度センサ信号処理部6は、信号処理して、温度検出値に変換する(ステップS4)。
【0043】
ステップS5において、上記温度検出値は、振動周波数取得部7にて、ミラー3dの温度に対応した、ガルバノスキャナ3詳しくは回転軸3aの振動周波数に、上記(1)式を用いて計算される。計算された振動周波数は、振動周波数設定変更部13に送出される(ステップS5)。振動周波数設定変更部13は、供給された振動周波数を振動抑制フィルタ部12のノッチ周波数に設定する。ここで振動周波数設定変更部13は、振動抑制フィルタ部12の入力、出力がほぼ0になっているかどうかを判断し、ほぼ0になっている場合には、振動抑制フィルタ部12の周波数設定値を変更可能と判断し、ステップS7へ分岐する。一方、ほぼ0になっていない場合には、ステップS8へ分岐する(ステップS6)。
【0044】
ステップS7では、振動周波数設定変更部13により、振動周波数取得部7で求めた振動周波数を振動抑制フィルタ部12の振動周波数設定値(ノッチ周波数)に設定変更する。
また、位置制御部10では、数値制御装置2から供給される角度指令と、エンコーダ信号処理部8で求められ供給される角度検出値とに基づいて、位置制御演算が行われ、角速度指令が出力される(ステップS8)。
角速度制御部11では、位置制御部10から供給される角速度指令と、角速度計算部9で計算され供給される角速度検出値とを用いて角速度制御計算が行なわれ、電流指令が出力される(ステップS9)。
【0045】
次のステップS10では、振動抑制フィルタ部12は、角速度制御部11から供給された電流指令から振動周波数成分を抑制するノッチフィルタ等のフィルタリング処理を行い、ステップS11にて、電流アンプ4に電流指令として出力する。このとき抑制される振動周波数成分は、振動周波数設定変更部13から設定されるように、レーザ光反射により温度変化したミラー3dの温度に対応した振動周波数成分である。
尚、電流アンプ4へは、DA変換を用いてアナログ信号で伝送するか、シリアル信号に変換して伝送する。
【0046】
このようにガルバノスキャナ用制御装置1では、ミラー3dの温度がレーザ光によって上昇し、ガルバノスキャナ3詳しくは回転軸3aの振動周波数に変化が生じ振動抑制フィルタ部12の振動周波数設定値にずれが生じるような場合でも、ミラー3dの温度に対応して振動抑制フィルタ部12の振動周波数設定値を変更することから、常に良好なミラー3dの位置決め制御、ひいては加工対象物へのレーザ光の位置決め制御を行うことが可能である。
【0047】
実施の形態2.
本実施形態では、実施の形態1で説明したガルバノスキャナ用制御装置1等を備えたレーザ加工機について説明する。図6は、本実施の形態におけるレーザ加工機51の構成を示している。レーザ加工機51は、XYテーブル装置25に備わり互いに直交するX軸方向及びY軸方向に移動可能なXYテーブルに載置された加工対象物26に対してレーザ光を位置決めして照射し加工対象物26のレーザ加工を行う装置である。このようなレーザ加工機51は、基本的構成部分として、実施の形態1で説明したガルバノスキャナ用制御装置1、ガルバノスキャナ3、及び電流アンプ4を備え、本実施形態ではさらに、上述のXYテーブル装置25の他に、数値制御装置20と、レーザ発振器21と、ベンドミラー23及びfθレンズ24を含む光学系とを備える。
【0048】
又、加工対象物26に対するレーザ光の照射位置をX軸及びY軸方向に移動させるため、ガルバノスキャナ3は、X軸方向用ガルバノスキャナ3X、及びY軸方向用ガルバノスキャナ3Yにて構成される。これに対応して、ガルバノスキャナ用制御装置1も、X軸方向用ガルバノスキャナ3X用の制御装置1X、及びY軸方向用ガルバノスキャナ3Y用の制御装置1Yから構成され、電流アンプ4も、X軸方向用ガルバノスキャナ3X用の電流アンプ4X、及びY軸方向用ガルバノスキャナ3Y用の電流アンプ4Yから構成される。又、ミラー温度センサ5についても、本実施形態では、X軸方向用ガルバノスキャナ3Xのミラー3dの温度を測定するミラー温度センサ5X、及びY軸方向用ガルバノスキャナ3Yのミラー3dの温度を測定するミラー温度センサ5Yから構成される。
尚、図6に示すレーザ加工機51において、X軸は紙面の左右方向、Y軸は紙面に対して垂直方向としている。
【0049】
X軸方向用ガルバノスキャナ3X、Y軸方向用ガルバノスキャナ3Y、制御装置1X、及び制御装置1Yの各構成について、図7にブロック図にて示している。ブロック図にて示された各構成部分に関する説明は、実施の形態1にて説明した内容に同じであるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0050】
数値制御装置20は、レーザ発振器21、制御装置1X、制御装置1Y、及びXYテーブル装置25の制御を行う装置であり、レーザ発振器21に対してレーザ照射指令を送出し、制御装置1X及び制御装置1Yに対して角度指令を送出し、XYテーブル装置25に対して位置決め指令を送出する。
【0051】
ガルバノスキャナ3X、3Yにおいて、それぞれのミラー3d、3dの回転軸3a,3aは、互いに直交するように配置されている。よって、レーザ発振器21から照射されたレーザ光22は、2つのベンドミラー23を経て、ガルバノスキャナ3Xのミラー3dの鏡面に反射し、次にガルバノスキャナ3Yのミラー3dの鏡面を反射した後、fθレンズ24に入射してレーザ光が絞られ、加工対象物26に照射される。このような構成において、ガルバノスキャナ3Xを駆動すると、レーザ光は加工対象物26上でX軸方向に、ガルバノスキャナ3Yを駆動すると、加工対象物26上でY軸方向に、レーザ光の照射位置が移動する。このように2台のガルバノスキャナ3X、3Yを用いると、加工対象物26のX軸方向及びY軸方向にレーザ光22を位置決めすることが可能となる。又、ガルバノスキャナ3X、3Yのミラー3d、3dの裏面には、実施の形態1と同様に、ミラー温度センサ5X,5Yが接着されており、温度信号はそれぞれ制御装置1X、1Yに伝送される。
【0052】
上述のように2台のガルバノスキャナ3X、3Yにより、加工対象物26上にレーザ光を走査できるが、走査範囲が狭いことから、XYテーブル装置25を用いて、加工対象物をX軸方向、Y軸方向に移動させて、より広い加工範囲へのレーザ加工を可能にしている。
尚、XYテーブル装置25は、XYテーブル制御装置、XYテーブル駆動用パワーアンプ、XYテーブル駆動用モータ、及びXYテーブルから構成されており、XYテーブル上に加工対象物26を固定し、数値制御装置20の位置指令によって、XYテーブル装置25を駆動し加工対象物26を位置決めする。
【0053】
以上のように構成されるレーザ加工機51における動作について以下に説明する。
数値制御装置20は、加工対象物26上にレーザ加工するための加工座標が記載された加工プログラムを有する。この加工プログラムに従い、数値制御装置20は、XYテーブル装置25に位置指令を出力し、加工対象物26を所定の位置に位置決めするとともに、ガルバノスキャナ3X、3Yのミラー3d、3dを位置決めするために制御装置1X、1Yにそれぞれ角度指令を出力する。この角度指令は、加工対象物26上のレーザ加工位置に対応した角度指令が数値制御装置20内で計算される。
【0054】
XYテーブル装置25、及びガルバノスキャナ3X、3Yのミラー3d、3dの位置決めが完了した後、数値制御装置20は、レーザ発振器21にレーザ発振指令を出力し、レーザ発振器21からレーザ光22が照射される。レーザ光22は、ベンドミラー23、ガルバノスキャナ3X、3Yのミラー3d、3d、fθレンズ24を経由して、加工対象物26に照射される。
【0055】
このとき、レーザ光22は、ガルバノスキャナ3X、3Yのミラー3d、3dにも照射されているので、ハイパワーのレーザ光を長時間照射した場合には、ミラー3d、3dの温度が上昇する。該温度変化は、各ミラー3d、3dの裏面にそれぞれ設けられているミラー温度センサ5X,5Yにて検出される。検出された各温度は、それぞれ対応するガルバノスキャナ用制御装置1X、1Yの温度センサ信号処理部6,6にそれぞれ供給される。以後、各ガルバノスキャナ用制御装置1X,1Yは、実施の形態1にて説明したように、各温度信号に基づいて各振動抑制フィルタ部12、12の振動周波数設定値をそれぞれ補正し、電流アンプ4X、4Yを介してガルバノスキャナ3X,3Yにおける各ミラー3d、3dの回動を制御する。
【0056】
このように本実施形態におけるレーザ加工機51は、ガルバノスキャナ3X,3Yにおける各ミラー3d、3dの温度に対応して振動抑制フィルタ12,12の振動周波数設定値を変更する。よって、各ミラー3d、3dの温度がレーザ光によって上昇し、ガルバノスキャナ3X,3Y、詳しくは回転軸3a,3aの各振動周波数が変化した場合でも、ガルバノスキャナ3X,3Yが振動周波数で振動を起こすことを防止できる。よって、各ミラー3d、3dに対して常に良好な位置決め制御を行うことができ、ひいては良好なレーザ加工を実現することができる。
【0057】
尚、実施の形態1に記載した変形例については、本実施の形態2のレーザ加工機51に対しても適用可能である。
【0058】
実施の形態3.
上述の実施形態2におけるレーザ加工機51では、ガルバノスキャナ3X,3Yの各ミラー3d、3dの裏面にそれぞれミラー温度センサ5、5を接着した構成を採っている。これに対し本実施の形態3のレーザ加工機52では、ガルバノスキャナ3X,3Yのミラー3d、3dのいずれか一方にミラー温度センサ5を装着する構成を採る。レーザ加工機52におけるその他の構成は、レーザ加工機51の構成に同じであり、ここでの説明は省略する。
【0059】
図8には、本実施の形態3におけるレーザ加工機52の構成を示し、図9には、X軸方向用ガルバノスキャナ3X、Y軸方向用ガルバノスキャナ3Y、制御装置1X、及び制御装置1Yの各構成についてブロック図にて示している。これらの図に示すように、本実施形態では、ガルバノスキャナ3Yのみにおけるミラー3dの裏面にミラー温度センサ5を取り付けている。但し、このミラー温度センサ5から得られた温度信号は、ガルバノスキャナ用制御装置1X、1Yのそれぞれに伝送され、ガルバノスキャナ用制御装置1X、1Yにおいてそれぞれの振動周波数を求めるためのミラー温度として用いられる。
【0060】
上記ミラー温度を用いたこれ以後の動作、つまり、各振動抑制フィルタ部12、12の振動周波数設定値をそれぞれ補正し、電流アンプ4X、4Yを介してガルバノスキャナ3X,3Yにおける各ミラー3d、3dの回動を制御し、加工対象物26のレーザ加工を行う動作は、上述の各実施の形態1,2における説明に同じである。
【0061】
本実施形態のように、ガルバノスキャナ3X,3Yのいずれか一方のみのミラー3dにミラー温度センサ5を装着し他方のガルバノスキャナのミラーへの装着を省略可能となる条件は、ガルバノスキャナ3X、3Yのミラー3d、3dがほぼ同等の反射率を有し、かつレーザ光22の大半が鏡面に照射されるように設計されていることである。本実施形態の構成は、このような条件に合致するので、ガルバノスキャナ3Xのミラー3dと、ガルバノスキャナ3Yのミラー3dとの発熱量は、ほぼ同等になる。よって、ガルバノスキャナ3X,3Yのいずれか一方におけるミラー3dの温度を計測することで、他方のミラー3dの温度は、計測温度とほぼ同じと考えて、制御装置1X及び制御装置1Yの各振動周波数取得部7、7での計算に用いることが可能となる。
【0062】
又、ミラーの反射率がガルバノスキャナ3Xのミラー3dと、ガルバノスキャナ3Yのミラー3dとで多少相違する場合でも、両者の発熱量は、ほぼ比例関係になる。よって、振動周波数取得部7にて用いられる上記(1)式のような計算式に補正ゲインを乗じるだけの修正を行うことで、ガルバノスキャナ3X,3Yのそれぞれに対応して対処することが可能である。
【0063】
又、本実施形態では、上述のようにガルバノスキャナ3Yのミラー3dの温度を制御装置1X、1Yへの温度信号として用いた場合を説明したが、ガルバノスキャナ3Xのミラー3dの温度を制御装置1X、1Yへの温度信号として用いてもよい。
又、本実施形態では、ミラー3dの温度計測を接触型温度センサで行っているが、非接触型温度センサを用いても良い。
【0064】
このように本実施の形態3のレーザ加工機52によれば、実施の形態1,2の場合と同様に、ミラー3dの温度変化に対応してガルバノスキャナ3X,3Yのミラー3d、3dの回動制御ができ、良好なレーザ加工が実現でき、さらに、2つのミラー3dの内、いずれか一方のみにミラー温度センサ5を設けることから、実施の形態2のレーザ加工機51に比べて、温度センサに要するコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0065】
1、1X、1Y ガルバノスキャナ用制御装置、3、3X、3Y ガルバノスキャナ、
3d ミラー、4、4X、4Y 電流アンプ、5、5X、5Y ミラー温度センサ、
7 振動周波数取得部、12 振動抑制フィルタ部、13 振動周波数設定変更部、
21 レーザ発振器、51,52 レーザ加工機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を反射するミラーを回動させてレーザ光の照射位置決めを行うガルバノスキャナの制御装置であって、
上記ミラーの温度を測定するミラー温度センサと、
上記レーザ光の反射により温度変化が生じた上記ミラーの回動によるねじり振動に含まれる、上記ミラー温度センサによる測定温度における振動周波数を求める振動周波数取得部と、
上記振動周波数取得部にて求めた上記振動周波数の減衰を行う振動抑制部と、
を備えたことを特徴とするガルバノスキャナ用制御装置。
【請求項2】
上記振動抑制部は、ノッチフィルタにて構成されるフィルタ部と、上記振動周波数取得部にて求めた振動周波数をノッチ周波数に設定する振動周波数設定変更部とを有する、請求項1記載のガルバノスキャナ用制御装置。
【請求項3】
レーザ光を反射するミラーを回動させてレーザ光の照射位置決めを行うガルバノスキャナと、
請求項1又は2記載のガルバノスキャナ用制御装置と、
上記ガルバノスキャナ用制御装置の出力に応じた電流を上記ガルバノスキャナに供給する電流アンプと、を備え、
振動抑制部にて減衰された振動周波数を有する電流信号にて上記ミラーの回動制御を行うことを特徴とするレーザ加工機。
【請求項4】
上記ガルバノスキャナは、レーザ発振器が発したレーザ光を反射する第1ミラーを有する第1ガルバノスキャナと、上記第1ミラーにて反射したレーザ光を反射する第2ミラーを有する第2ガルバノスキャナとを備え、
上記ミラー温度センサは、上記第1ミラー及び上記第2ミラーの少なくとも一方に設けられ、
上記振動周波数取得部は、上記第1ミラー及び上記第2ミラーの回動によるそれぞれのねじり振動に含まれる、上記ミラー温度センサによる測定温度におけるそれぞれの振動周波数を求め、
上記振動抑制部は、上記振動周波数取得部にて求めたそれぞれの上記振動周波数の減衰を行う、請求項3記載のレーザ加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−191239(P2010−191239A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36203(P2009−36203)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】