ガンを処置するためのDNA損傷修復阻害剤および方法
本発明は、ガンを処置する組成物および方法、ならびに、DNA修復経路に特異的な治療用化合物に対するガン細胞の反応性を評価する/モニターする方法に関する。以下の工程を含む、ガンを処置するための方法が提供される:a)ガン細胞がDNA修復経路を欠損している(例えば、ファンコニ貧血)かどうかを決定する工程、およびb)DNA損傷剤または、工程(a)で同定された経路(例えば、ミスマッチ修復経路または非相同末端結合修復経路)以外の少なくとも1つの異なるDNA修復経路に特異的な阻害剤を投与する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2006年10月20日に出願されたU.S.S.N.60/853,208および2007年3月19日に出願されたU.S.S.N.60/895,606(これらの内容は、それらの全体が参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【0002】
連邦政府によって後援された研究の声明
本発明は、NIH助成金RO1−HL52725、RO1−DK43889、およびPO1−HL54785、およびT43CA09361のもとで政府支援によって行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、一般的に、ガンを処置する方法に関する。さらに具体的には、本発明は、治療用化合物に対するガン細胞の反応性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
DNA修復は、細胞がそのゲノムをコードするDNA分子の損傷を特定し修正するプロセスの総称をいう。ヒト細胞においては、正常な代謝活性と環境的要因(例えば、紫外線)のいずれもがDNAの損傷を引き起こし得、それにより、1日あたり細胞1個あたり100万個程度の数の個々の分子の損傷が生じ得る。これらの損傷の多くはDNA分子の構造的な損傷を引き起こし、影響を受けたDNAがコードする遺伝子を転写する細胞の能力が変化してしまうかまたは失われてしまう可能性がある。他の損傷によっては、細胞のゲノムに有害な変異が誘導される可能性があり、これは、それが有糸分裂を受けた後のその娘細胞の生存性に影響を及ぼすであろう。結果として、DNAの修復プロセスは、それがDNA構造の中に起きたあらゆる損傷に対して迅速に反応できるように、常に活発でなければならない。
【0005】
DNAの修復速度は、細胞のタイプ、細胞の年齢、および細胞外環境を含む多くの要因に依存する。多量のDNA損傷、またはそのDNAによって行われたもはや有効ではないように修復された損傷が蓄積した細胞は、可能性のある3つの状態にうちの1つに入り得る:老化として知られている不可逆的な休眠状態;アポトーシスもしくはプログラムされた細胞死としても知られている細胞自殺;または腫瘍の形成に至る可能性がある無秩序な細胞分裂。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、腫瘍細胞はDNA修復経路およびDNAの損傷に対する応答経路が変化してしまっていること、そしてこれらの経路のうちの1つが失われることが、特定のクラスのDNA損傷剤に対してガンをさらに敏感にすることの発見に基づく。さらに具体的には、本発明は、細胞の中の2つのDNA修復経路の欠損が致命的であることの発見にも一部基づく。
【0007】
本発明により、被験体のガンを処置する方法が提供される。1つの実施形態においては、ガンを処置する方法には以下の工程が含まれる:(a)ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程、および(b)DNA損傷剤または工程(a)において同定されたものとは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を被験体に投与する工程。別の実施形態においては、被験体のガンを処置する方法には以下の工程が含まれる:(a)ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程、(b)ガン細胞の中でアップレギュレートされているDNA修復経路のタンパク質または遺伝子を同定する工程、ならびに、(c)DNA損傷剤または工程(b)において同定されたDNA修復経路のタンパク質または遺伝子に特異的な阻害剤を被験体に投与する工程。
【0008】
本発明によってはまた、以下の工程を含む、特定のガン細胞に対する治療薬を選択するための方法も提供される:(a)正常な細胞と比較して、ガン細胞の1つ以上のDNA修復経路の欠損を決定する工程、および(b)DNA損傷剤または工程(a)において同定されたDNA経路とは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を選択する工程。
【0009】
本発明によってはまた、化学療法薬に対するガン細胞の耐性または感受性を決定する方法も提供される。1つの実施形態においては、化学療法薬に対するガン細胞の耐性を決定する方法には、DNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれる。この場合、欠損の存在は、その細胞がDNA修復経路に特異的な化学療法薬に耐性であることを示す。別の実施形態においては、化学療法薬に対するガン細胞の感受性を決定する方法には、DNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれ、この場合、欠損が存在しないことは、その細胞がDNA修復経路に特異的な化学療法薬に対して感受性であることを示す。
【0010】
本発明によってはまた、処置に対するガン細胞の反応性を同定し、調節する方法も提供される。1つの実施形態においては、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を同定する方法には、相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれ、この場合、欠損の存在は、その細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して感受性であることを示すが、存在しない場合には、効力は、その細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して耐性であることを示す。別の実施形態においては、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を増大させる方法には、ガン細胞を相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の阻害剤と接触させる工程が含まれる。別の実施形態においては、MAP2KAP2阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法には、MAP2KAP2のリン酸化を検出する工程が含まれ、この場合、リン酸化の存在は、その細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、リン酸化が存在しないことは、その細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して耐性であることを示す。別の実施形態においては、FA/HR DNA修復経路の阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法には、ミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれ、ここでは、欠損が存在することは、その細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、欠損が存在しない場合には、効力は、その細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して耐性であることを示す。
【0011】
本発明によってはまた、ガンを有している被験体の処置の有効性を評価するか、またはその処置をモニターする方法も提供される。1つの実施形態においては、ガンを有している被験体の処置の有効性を評価する方法には、以下の工程が含まれる:(a)被験体由来の試料中のDNARMARKERS1〜259から選択される2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを測定する工程、および(b)2つ以上のNARMARKERSの有効量のレベルを参照値に対して比較する工程。別の実施形態においては、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法には、以下の工程が含まれる:(a)第1の時点での被験体由来の第1の試料中のDNARMARKERS 1〜259から2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程、(b)第2の時点での被験体由来の第2の試料中の2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程、および(c)工程(a)で検出された2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを工程(b)で検出された量に対して、または参照値に対して比較する工程。別の実施形態においては、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法には以下の工程が含まれる:(a)ガン細胞が第1の時点でDNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程、(b)ガン細胞が、第2の時点で、工程(a)において同定されたDNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程。この場合、DNA修復経路の欠損の減少は、処置が有効ではないことを示し、一方、DNA修復経路の増大またはそれに変化がないことは、処置が有効であることを示す。
【0012】
本発明によってはまた、以下を含む2つ以上のDNA修復経路に由来する少なくとも2つのタンパク質を有しているパネルも提供される:塩基除去修復(BER)、相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)、ミスマッチ修復(MMR)、非相同末端結合修復(NHEJ)、ヌクレオチド除去修復(NER)、損傷乗り越えDNA合成(translesion DNA synthesis;TLS)、およびDNA損傷応答(DDR)。1つの実施形態においては、パネルには、少なくとも1つのファンコニ貧血タンパク質(Fanconi Anemia protein)と少なくとも1つのミスマッチ修復タンパク質(Mismatch Repair protein)が含まれる。別の実施形態においては、パネルには、DNAの修復またはDNAの損傷の認識および調節タンパク質に関係している経路の指標である1つ以上のDNARMARKERSが含まれる。
【0013】
他の場所で定義されない限りは、本明細書中で使用される全ての技術用語および学術用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載されている方法および材料と同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料が以下に記載される。本明細書中に記載される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が引用により本明細書中に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が支配するであろう。加えて、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定するようには意図されない。
【0014】
本発明の他の特徴および利点は、以下に詳細に記載される説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1Aは、siRNAスクリーニングを示している図である。図1Bは、FA経路が欠損している細胞に対して選択的に毒性である上位10個のsiRNA標的を示しているグラフである。
【図2】図2Aは、siRNAを標的化するATMでの処理後の細胞の生存性を示している、免疫ブロットの写真とそれに伴うグラフ表示である。図2Bは、siRNAを標的化するFANCGでの処理後の細胞の生存性を示している免疫ブロットの写真とそれに伴うグラフ表示である。図2Cは、Fancg+/− ATM+/−異種交配マウスの子孫における遺伝子型の頻度を示しているグラフである。
【図3−1】図3Aは、FANCG欠損EUFA326細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Bは、FANCC欠損EUFA426細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Cは、FANCA欠損EUFA6914細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Dは、FancG−/− MEF細胞株とFancG野生型MEF細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Eは、ATMキナーゼアッセイを示している免疫ブロットの写真である。
【図3−2】図3Fは、電離放射線での処理の前および後の、ATMの自己リン酸化とFANCD2モノユビキチン化を示している免疫ブロットの写真である。図3Gは、ATMに対するsiRNAでの処理後のDNAの断裂を比較するCometアッセイを示しているグラフとそれに伴う視野の写真である。
【図4】図4Aは、FANCC欠損EUFA426細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性(dose viability)曲線を示しているグラフである。図4Bは、FANCG欠損EUFA326細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Cは、FANCD2欠損PD20細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Dは、FANCE欠損DF1179細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Eは、Fancg−/− MEF細胞対Fancg+/+ MEF細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Fは、FANCC変異体EUFA426細胞の中のコロニー数を比較する、14日のコロニーカウントアッセイを示しているグラフである。図4Gは、FANCC変異体EUFA426細胞株の中でのFANCD2モノユビキチン化、ATM自己リン酸化、およびH2AXリン酸化を示している免疫ブロットの写真である。
【図5】図5Aは、KU55933での処理の0時間後、24時間後、および48時間後の有糸分裂中期スプレッド(metaphase spread)について測定した、細胞あたりの染色体の断裂の数を示しているグラフである。図5Bは、KU55933での処理の前および後のFANCE欠損EUFA130細胞株の細胞周期プロフィールを示しているヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーの提示である。図5Cは、KU55933の0時間後、24時間後、48時間後、および72時間後に2N未満のDNA(sub G0集団)を含む細胞の提示を示しているグラフである。
【図6】図6Aは、内因性のDNAの損傷が、野生型細胞においては複製フォークの行き詰まり(stall)を引き起こし、そしてATMおよびATR修復経路を引き起こすDNAの断裂を生じる事を示している、模式的な提示である。図6Bは、細胞が行き詰まった複製フォークの修復のためにATM依存性経路に頼る機能性のFA経路が存在しないことを示している模式的な提示である。図6Cは、FA経路が欠損している細胞においてATM機能が失われた場合には、行き詰まったDNAの複製を再度確立させるための機構が存在せず、壊滅的なDNAの損傷と死が生じることを示している模式的な提示である。
【図7】図7は、電離放射線での処理後のPrkdcsc/scマウス、およびFancd2−/−;Prkdcsc/scマウスの生存率を示しているグラフである。
【図8】図8は、電離放射線での処理後の野生型マウス、Fancd2−/−マウス、Prkdcsc/scマウス、およびFancd2−/−;Prkdcsc/scマウスの全DNA含有量を示しているグラフである。
【図9】図9は、光活性化ソラレンでの処理後の、野生型マウス、Fancd2−/−マウス、Prkdcsc/scマウス、およびFancd2−/−;Prkdcsc/scマウスの全DNA含有量を示しているグラフである。
【図10】図10は、shMlh1A、shMlh1B、またはそれらの組み合わせでの処理後の、ヒトFA−A線維芽細胞の中でのMlh1の発現を示している免疫ブロットの写真である。
【図11】図11は、DOX処理後のshMlh1AとshMlh1Bの組み合わせで処理した細胞の増殖の低下を示しているグラフである。
【図12】図12は、Mlh1 siRNAでトランスフェクトし、それに続いてシスプラチンで処理した、またはシスプラチンで処理しなかった、HeLa細胞中でのMlh1の発現とFANCD2のユビキチン化を示している免疫ブロットの写真である。
【図13】図13は、PVUIIを有しているFrancd2 cDNAでのレトロウイルス修正(retroviral correction)後に二重変異細胞の中で形成されたコロニーの数を示しているグラフである。
【図14】図14は、PVUIIを有しているFancd2 cDNAでのレトロウイルス修正後の二重変異細胞のコロニー形成能力の低下が、修正されていない細胞の中でのタンパク質の取り込みの増大の結果ではないことを示している、FACS分析の提示である。
【図15】図15は、ガンの処置方法に対するDNA修復の影響を示している模式図である。
【図16】図16は、乳ガンの処置レジメンの中での化学療法薬の使用を評価することにおけるDNARMARKERSの使用の模式的なグラフ提示である。
【図17】図17は、様々なガンの処置レジメンにおける化学療法薬の使用を評価することにおけるDNARMARKERSの使用の模式的なグラフ提示である。
【図18】図18は、乳ガンの処置レジメンの中での化学療法薬の使用を評価することにおける、DNARMARKERSの使用と6個のDNA修復経路の機能性の模式的なグラフ提示である。
【図19−1】図19Aは、他の生物体のFANCE配列でヒトFANCEの中のChk1(R−X−X−S/T)のリン酸化モチーフが取り囲まれている配列のアラインメントの模式図である。図19Bは、空のベクター(pMMP)、pMMP−FLAG−FANCE、pMMP−FLAG−T346A、pMMP−FLAG−S374A、pMMP−FLAG−TS/AA(T346A、S374Aの二重変異体)でのFA−Eリンパ芽球細胞株EUFA130のMMC感受性の相補性を示している線グラフである。示されるレトロウイルス上清を作成し、EUFA130細胞に形質導入するために使用した。ピューロマイシン耐性細胞を選択し、マイトマイシンC(MMC)感受性を、「材料および方法」に記載されるように決定した。示される値は、別の4回の実験による平均±標準偏差(SD)である。
【図19−2】図19Cは、FANCD2のモノユビキチン化の回復を示しているウェスタンブロットの写真である。示される安定にトランスフェクトされたFA−Eリンパ芽球細胞株は、未処理のままとしたか、または示したように、様々な線量の電離放射線(IR)に曝したかのいずれかとし、6時間後に回収した。ウェスタンブロッティングは、抗FANCD2抗体または抗FLAG抗体を用いて行った。図19Dは、FANCD2核焦点の形成の回復を示している細胞培養物の写真である。FLAG−FANCEwt(EUFA130+FLAG−FANCE)を安定に発現しているEUFA130(FA−E)リンパ芽球、および二重変異体FLAG−TS/AA(EUFA130+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているEUFA130(FA−E)リンパ芽球は、未処理のままとしたか、または、IR(10Gy)で処理したかのいずれかとし、6時間後に固定し、免疫蛍光分析を抗FANCD2(FI−17)抗体を使用して行った。倍率×630。図19Eは、FANCD2焦点の定量を示している棒グラフである。4個を上回る異なる焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。
【図20−1】図20Aは、GST−FANCEペプチド融合タンパク質を示している模式図である。これには、インビトロでのキナーゼアッセイのために作成し、基質として使用したFANCEの示される領域が含まれており、アラニンに変異したスレオニン(346)および/またはセリン(374)残基が示されている(左のパネル)。GST−FANCEペプチド融合タンパク質を、[γ−32P]ATPと精製された組み換え体Chk1とともにインキュベートした。反応を、SDS−PAGEとオートラジオグラフィー(右のパネル)による分析の前にSDS試料緩衝液の添加によって停止させた。GST−Cdc25C(200−256)ペプチド融合タンパク質とGSTを、Chk1についてのポジティブ対照基質およびネガティブ対照基質として使用して、インビトロでのキナーゼアッセイの効果を明らかにした。図20Bは、インビトロでのキナーゼアッセイを示している写真である。インビトロでのキナーゼアッセイは、野生型のFANCEタンパク質(rFANCEwt)と二重変異体(rTS/AA)の組み換えFANCEタンパク質(149〜536)をリン酸化させるために、GST、精製された組み換え体Chk1、Chk2、またはMK2を使用したインビトロでのキナーゼアッセイを使用して行い、SDS−PAGE、その後の免疫ブロッティングによって、ホスホ−T346−FANCE(pT346−FANCE)、ホスホ−S374−FANCE(pS374−FANCE)抗体を用いて分析した。GST−Cdc25C(200−256)ペプチド融合タンパク質とGSTを、Chk1、Chk2、およびMK2のポジティブ対照基質およびネガティブ対照基質として使用して、インビトロでのキナーゼアッセイの効果を明らかにした。図20Cは、Chk1がインビボでFANCEをリン酸化することを示している免疫ブロットの写真である。EUFA130(FA−E)リンパ芽球には、示したように、空のベクター、FLAG−FANCEwt、FLAG−TS/AA(二重変異体)を安定に発現させた。細胞は未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、3時間後に、免疫沈降を抗FLAG抗体を使用して行い、SDS−PAGE、その後のウェスタンブロットによって、抗pT346−FANCEおよび抗pS374−FANCEホスホ特異的、ならびに抗FLAG抗体を用いて分析した。
【図20−2】図20Dは、空のベクター(EUFA130+Vec.)およびFLAG−FANCEwt(EUFA130+FLAG−FANCE)を安定に発現しているEUFA130(FA−E)リンパ芽球の写真である。これらは、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、その後、2時間固定した。免疫蛍光試験を、抗pT346−FANCE抗体を使用して行った(左のパネル)。倍率×630。HeLa細胞を、GFP(対照)、Chk1、またはATRに対して標的化させたsiRNAで一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、細胞を未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、固定する前に2時間インキュベートし、免疫蛍光分析を、抗pT346−FANCE抗体を使用して行った(右のパネル)。倍率×400。図20Eは、pT346−FANCE焦点の定量を示している棒グラフである。4個を上回る焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。100細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。UV(60J/m2)の処理を行った場合のpT346FANCE焦点の形成は、ATRまたはChk1がsiRNAで抑制されているHeLa細胞の中で大幅に減少した。
【図21】図21Aは、GFP(対照)またはChk1に対して標的化させられたsiRNAでトランスフェクトされたHeLa細胞を示している一連の写真である。トランスフェクションの72時間後に、細胞をUV(60J/m2)で処理し、固定および溶解の前に3時間または6時間、インキュベートし、免疫蛍光分析を抗FANCD2抗体を使用して行った。倍率×400。図21Bは、全細胞抽出物のウェスタンブロットの写真である。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した(B)。図21Cは、FANCD2焦点の定量を示している棒グラフである。4個を上回る異なる焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。
【図22】図22Aは、DNA損傷後に追跡調査した、ホスホ−T346−FANCE焦点およびFANCD2焦点のT/the速度論を示している一連の写真である。HeLa細胞は、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、固定の前に、示されるように様々な時間(30分、2時間、、4時間、6時間、8時間)インキュベートし、免疫蛍光分析を、抗pT346−FANCE抗体および抗FANCD2(FI−17)抗体を使用して行った。倍率×400。図22Bは、ポジティブとしてカウントした4個を上回る異なる焦点を有している細胞の分析を示している棒グラフである。200細胞/試料。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。図22Cは、4時間の紫外線照射の後の、HeLa細胞中でのホスホ−T346−FANCE焦点およびFANCD2焦点の共局在の一連の写真である。倍率×630。
【図23】図23Aは、Chk1によるFANCEのリン酸化はMMCによって媒介される細胞死を修正することはないが、MMC処理後に細胞周期の進行を修正し、そしてDNA合成を促進することを示している棒グラフである。野生型FANCE(EUFA130+FLAG−FANCEwt)またはFANCEの二重変異体(EUFA130+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞(EUFA130)は、空のベクター(EUFA130+Vec.)を安定に発現している細胞と比較した場合には、MMC処理の24時間後に、細胞周期の後期S/G2期に蓄積することはない。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。図23Bは、Chk1によるFANCEのリン酸化はMMCによって媒介される細胞死を修正することはないが、MMC処理後に細胞周期の進行を修正し、DNAの合成を促進することを示している棒グラフである。空のベクター(EUFA130+Vec.)を安定に発現しているFA−E細胞は、野生型FANCE(EUFA130+FLAG−FANCEwt)またはFANCEの二重変異体(EUFA130+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞と比較した場合には、MMC 160ng/mlでの処理の24時間後にはDNA合成が低下していた。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。図23Cは、Chk1によるFANCEのリン酸化はMMCによって媒介される細胞死を修正することはないが、MMC処理後には細胞周期の進行を修正し、DNA合成を促進することを示している棒グラフである。FANCEの二重変異体(EUFA130+FLAG−TS/AA)または空のベクター(EUFA130+Vec.)を安定に発現しているFA−E細胞は、野生型FANCEを発現している細胞と比較した場合には、MMC(160ng/ml)処理の48時間後および72時間後に、sub G1細胞の高い割合を示した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。
【図24−1】図24Aは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。HeLa細胞は、未処理のままとしたか、または60J/m2の紫外線照射によって処理したかのいずれかとし、溶解の前に、示される様々な時間、インキュベートした。全細胞抽出物を示される抗体で免疫ブロットした。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Bは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。HeLa細胞を、二重チミジンブロックによって同調させ、その後、S期に入るように開放した。開放の1時間後、細胞を未処理のままとした(対照)か、またはUV(60J/m2、15時間)、HU(2mM、24時間)、MMC(160ng/ml、24時間)、およびシスプラチン(10μM、24時間)で処理したかのいずれかを行った.全細胞抽出物を、示される抗体でのウェスタンブロットによって分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Cは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。EUFA130(FA−E)リンパ芽球は、示されるように、pMMP(空のベクター)、FLAG−FANCEwt、FLAG−TS/AA(二重変異体)を安定に発現していた。細胞は、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかを行い、8時間後、全細胞抽出物を、示される抗体でのウェスタンブロットによって分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Dは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。U2OS細胞は未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、細胞培養の最後の2時間の間に示される試料に25μMのMG132を加えて、あるいは加えずに、3時間インキュベートした。全細胞抽出物を、示される抗体でのウェスタンブロットによって分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Eは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。FANCEのインビボでのユビキチン化。空のベクター(a)、FLAG−FANCEwt(b)、およびFLAG−TS/AA(二重変異体)(c)を安定に発現しているU2OSを、HA−ユビキチンをコードしているcDNAを用いることなく、またはそれらを用いて一時的にトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後に、細胞を未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかを行い、2時間インキュベートし、その後、SDS変性緩衝液の中で細胞を溶解させた。FLAG−FANCEwtおよび二重変異体タンパク質を、抗FLAG抗体免疫沈降によって単離した。免疫複合体をSDS−PAGE上に泳動させ、抗HA抗体または抗FLAG抗体で免疫ブロットした。
【図24−2】図24Fは、ATR−Chk1経路によるFA/BRCA経路の活性化を示している模式的なモデルである。DNAの損傷または複製の停止(MMC、UV、IR、HU)は、ATR依存性のFANCD2(6)のリン酸化およびFANCEのChk1依存性リン酸化を活性化させる。モノユビキチン化FANCD2とリン酸化FANCEはいずれにも、MMC耐性が必要である。FANCD2の非ユビキチン化変異体(K561R)またはFANCEの非リン酸化変異体(TS/AA)は、MMC過敏性を修正できなかった。
【図25】図25Aは、FA−E患者由来の繊維芽細胞株(DF1179)の変異分析を示しているブロットの写真である。DF1179(FA−E)細胞とU2OS細胞(対照)から精製したRNAのRT−PCR増幅を特異的なプライマー対を使用して行い、cDNA産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。図25Bは、FA−E線維芽細胞株(DF1179)の中でのFANCE遺伝子の変異を、FANCEのエキソン1からエキソン10までの範囲にまたがる様々なプライマーを使用する直接のDNA配列決定によって確認できたことを示している模式図である。示されるクロマトグラムは、FANCEの1111位でのCからTへの点変異がミスセンス変異(R371W、ArgからTrp)を生じることを示している。図25Cは、FANCE変異を示している模式図である。図25Dは、野生型FANCEでFA−E繊維芽細胞株DF1179のMMC感受性が相補されるが、FANCEの二重変異体(TS/AA)を用いた場合には相補されないことを示している線グラフである。空のベクター(pMMP)、pMMP−FLAG−FANCEwt、pMMP−FLAG−TS/AA(T346A、S374Aの二重変異体)を有しているFA−E線維芽細胞株DF1179のMMC感受性。示されるレトロウイルス上清を作成し、これをDF1179細胞に形質導入するために使用した。ピューロマイシン耐性細胞を選択し、MMC感受性を以下に記載されるように決定した。示される値は、4回の別々の実験による平均±標準偏差(SD)である。
【図26】図26A〜Dは、DNAの損傷に応答したホスホ−T346−FANCE焦点の形成を説明する。A、B.低用量のDNA損傷に応答したホスホ−T346−FANCE焦点の形成。HeLa細胞を低用量のDNA損傷:UV(10J/m2)、IR(2Gy)、またはMMC(40ng/ml)に対して暴露し、固定の前に、示されるさまざまな時間の間インキュベートし、免疫蛍光分析を、抗pT346−FANCE抗体を使用して行った。倍率×400(A)。4個を上回る異なるpT346−FANCE焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである(B)。C、D.ホスホ−T346−FANCE焦点の形成に対するChk1阻害剤の効果。HeLa細胞を、Chk1阻害剤Goe6976およびSB218078(5μM)を伴って、または伴わずに、30分間前処理し、その後、UV(60J/m2)に暴露し、固定の前に3時間インキュベートし、免疫蛍光分析を抗pT346−FANCE抗体を使用して行った。倍率×400(C)。4個を上回る異なるpT346−FANCE焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである(D)。
【図27】図27Aは、空のベクター(DF1179+Vec.)、野生型FANCE(DF1179+FLAG−FANCEwt)、または二重変異体(DF1179+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E線維芽細胞(DF1179)を示しているブロットである。FA−E線維芽細胞(DF1179)は、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、6時間インキュベートし、全細胞抽出物について抗FLAGを用いて免疫沈降を行い、免疫複合体をSDS−PAGEによって、続いて、ウェスタンブロット分析によって、抗FANCA抗体、抗FANCG抗体、抗FANCC抗体、および抗FLAG抗体を用いて分析した。重鎖IgGをローディング対照として使用した。図27Bは、U2OS細胞、GM0637細胞、またはHEK293T細胞を示しているブロットである。これらの細胞は、未処理のままとしたか、または60J/m2のUVで処理したかのいずれかとし、3時間または8時間インキュベートし、全細胞抽出物を、示される抗体を用いてウェスタンブロットについて分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。
【図28】図28は、Chk1阻害剤で処理したHela細胞がFANCD2のモノユビキチン化の増大を示すことを示しているウェスタンブロットの写真である。ヒトHeLa細胞をChk1阻害剤G06976で処理した。HeLa細胞溶解物の画分について、SDS−PAGE、その後に、FANCD2タンパク質に対する抗体を用いた免疫ブロッティングを行った。Chk1阻害剤で処理した細胞は、ファンコニ貧血経路の活性の指標であるFANCD2のユビキチン化形態の高いレベルを示した。
【図29】図29は、EUFA426(FANCC欠損)細胞の中でのChk1に対するsiRNAの毒性を示している棒グラフである。細胞の生存性の決定を、FANCCを含むレトロウイルスでFANCC遺伝子の発現が相補されたEUFA426細胞およびEUFA426細胞に適用した。細胞の生存性アッセイは、LacZまたはChk1 siRNA(それぞれ、LacZsiおよびChk1si)の導入を標準的なプロトコールによって行った後に決定した。
【図30】図30は、ファンコニ貧血欠損細胞が細胞生存性の測定においてChk1阻害剤に対して過敏であることを示している線グラフである。コロニー形成性の細胞の生存性アッセイは、EUFA326(FANCG欠損)ヒト細胞およびEUFA326+G(FANCGで相補された)ヒト細胞の、示される様々な用量のChk1キナーゼ阻害剤G06976に対する暴露の後に完了した。それぞれの暴露量で、FANC−細胞に対するディファレンシャルな細胞死滅が存在していた。
【図31】図31は、ファンコニ貧血欠損細胞は、Chk1阻害剤とのインキュベーションの後に染色体の断裂が増えることを示している棒グラフと一連の模式図であり、細胞周期の変化を示している。FANCE欠損細胞株EUFA130(FE変異体)と、相補によってFANCE遺伝子で修正されたEUFA130(FE修正)を2つの分析によって比較した。上段のパネルにおいては、染色体の断裂のレベルを、1uMのG06976への暴露後0時間および48時間でスコアした。染色体の断裂の数を50個の細胞から定量した。下段のパネルにおいては、FE変異体とFE修正細胞を、細胞周期の期における細胞の割合について比較した。
【図32】図32は、自然発生したヒトの腫瘍(既知のBRCA1もしくはBRCA2欠損、またはファンコニ貧血欠損と明らかには関係していない)の中のファンコニ貧血経路の破壊の例を示しているチャートである。
【図33】図33は、ヒト卵巣細胞株2008がChk1阻害剤またはAtm阻害剤による阻害に過敏であることを示している写真と棒グラフである。2008および2008+F細胞の細胞生存性を、Chk1キナーゼ阻害剤G06976、およびAtmキナーゼ阻害剤KU55933での処理後に試験した。対照または上記阻害剤とともにインキュベーションした後の7〜10日後の組織培養プレートのメチレンブルー染色が示される。G06976処理についての細胞コロニーアッセイの定量を右のパネルに示す。G06796は、2008卵巣ガン細胞の有意な過敏性を引き起こすが、この細胞はFANCFの発現を回復した。
【図34】図34は、FANCA欠損細胞が、FANCA遺伝子で相補されている同じ細胞との比較により、PARP1阻害剤に対して過敏であることを示している棒グラフである。「FANCA変異体」は、ヒトFANCA欠損患者の細胞株である。「FANCA修正」は、FANCA遺伝子がレトロウイルス形質導入によって再導入されている同じ細胞である。細胞の生存性は、コロニー形成の量によって測定した。
【図35−1】図35A〜B。免疫組織化学分析によって11個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて分析した頭頸部ガン腫瘍マイクロアレイ。Head & Neck TMAの連続切片をIHCのために調製した。この実験で使用した抗体は、以下のエピトープに対する抗体であった:MSH2(ミスマッチ修復)、PT2056 DNAPK(非相同末端結合)、FANCDD2(FA/相同組み換え)、PS HSP27(MapKapキナーゼ2基質)、PT334MAPKAPキナーゼ2(DNA損傷のシグナル伝達)、MLH1(ミスマッチ修復)、MSH6(ミスマッチ修復)、PAR(塩基除去修復)、PARP1(塩基除去修復)、XPF(ヌクレオチド除去修復)。画像分析は、図36に示されるように、TMAに由来する9個のガンの標本のグループについて行った。
【図35−2】図35C。免疫組織化学分析によって11個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて分析した頭頸部ガン腫瘍マイクロアレイ。Head & Neck TMAの連続切片をIHCのために調製した。この実験で使用した抗体は、以下のエピトープに対する抗体であった:MSH2(ミスマッチ修復)、PT2056 DNAPK(非相同末端結合)、FANCDD2(FA/相同組み換え)、PS HSP27(MapKapキナーゼ2基質)、PT334MAPKAPキナーゼ2(DNA損傷のシグナル伝達)、MLH1(ミスマッチ修復)、MSH6(ミスマッチ修復)、PAR(塩基除去修復)、PARP1(塩基除去修復)、XPF(ヌクレオチド除去修復)。画像分析は、図36に示されるように、TMAに由来する9個のガンの標本のグループについて行った。
【図36】頭頸部ガンの患者に由来する9個の腫瘍コアを用いた11個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーのIHC染色パターンの比較。頭頸部ガンの患者に由来する腫瘍マイクロアレイ(TMA)を、DNA修復とDNAの損傷シグナル伝達の生体マーカーの1つのグループを用いて調べた。点線の黄色い丸は、アレイの中の1つの患者の腫瘍を示す。同様に、点線の紫色の丸は、TMAの中の第2の患者の腫瘍を示している。染色のレベルは、マーカーあたり、および腫瘍の標本あたりのバリエーションを示すために、H:高い、M:中程度、またはL:低いと幅を持たせて見積もった。評価した生体マーカーは、左側から右側に向かって以下である(上段:MSH2、DNAPK、ERCC1、FANCD2)(中段:HSP27、MapKapキナーゼ2、MLH1、MSH6)(下段:PAR、PARP1、XPF)。
【図37−1】図37A〜B。ヒトの前立腺ガンの標本についてのDNA修復生体マーカーの分析の例。A.3つの患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5個の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析によって解釈するために高倍率でTMAから撮影した。B.患者1、2、および3についての生体マーカーあたりのバリエーション。着色した出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを明らかにしている。
【図37−2】図37A〜B。ヒトの前立腺ガンの標本についてのDNA修復生体マーカーの分析の例。A.3つの患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5個の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析によって解釈するために高倍率でTMAから撮影した。B.患者1、2、および3についての生体マーカーあたりのバリエーション。着色した出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを明らかにしている。
【図37−3】図37A〜B。ヒトの前立腺ガンの標本についてのDNA修復生体マーカーの分析の例。A.3つの患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5個の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析によって解釈するために高倍率でTMAから撮影した。B.患者1、2、および3についての生体マーカーあたりのバリエーション。着色した出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを明らかにしている。
【図38−1】図38A〜B。ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)標本について明らかになったDNA修復生体マーカーの分析の例。A.4つの患者の腫瘍の標本の提示が、異なる経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。他のTMAを用いて上記に記載されたように、NSCLC TMAの連続切片を、図に示されるように5個の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析による解釈のために、高倍率でTMAから撮影した。B.出力を記載するための着色スキームを使用した、患者1〜4についての生体マーカーあたりのバリエーション。
【図38−2】図38A〜B。ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)標本について明らかになったDNA修復生体マーカーの分析の例。A.4つの患者の腫瘍の標本の提示が、異なる経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。他のTMAを用いて上記に記載されたように、NSCLC TMAの連続切片を、図に示されるように5個の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析による解釈のために、高倍率でTMAから撮影した。B.出力を記載するための着色スキームを使用した、患者1〜4についての生体マーカーあたりのバリエーション。
【図38−3】図38A〜B。ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)標本について明らかになったDNA修復生体マーカーの分析の例。A.4つの患者の腫瘍の標本の提示が、異なる経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。他のTMAを用いて上記に記載されたように、NSCLC TMAの連続切片を、図に示されるように5個の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析による解釈のために、高倍率でTMAから撮影した。B.出力を記載するための着色スキームを使用した、患者1〜4についての生体マーカーあたりのバリエーション。
【図39】図39A〜F。漿液性卵巣ガンの連続切片からの関心領域の選択(ROI)。腫瘍標本の連続切片。緑色と黄色の四角は、ヘマトキシリンとエオシンでの染色に基づいて選択した、選択された領域の中に大きな腫瘍の容積を有している領域を示す。
【図40A】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図40B】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図40C】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図40D】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41A】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41B】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41C】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41D】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41E】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図42】頭頸部ガンのFANCD2(FA/HR)およびXPF(ヌクレオチド除去修復)生体マーカーの比較。頭頸部ガンの患者(N=35)を、FANCD2およびXPF生体マーカーを用いてIHCによって評価した。2つのマーカーは、それぞれ、ファンコニ貧血/相同組み換えおよびヌクレオチド切断修復経路の構成成分である。病状についてのスコアは、1から12の目盛りで、I(強さ)×Q(量)として表す。患者を、それぞれのマーカーについて、>6のスコアに対する6またはそれ未満の生体マーカーのスコアに基づいて4象限に分類した。丸の数は、1つの4象限あたりの患者の数を示す。
【図43】再発後の生検を用いて比較した、外科手術による切除後の卵巣ガン患者の腫瘍の標本のDNA修復生体マーカーの評価。画像分析は、患者15および患者15R(再発)の標本について目的の同じ領域全体にわたって行った。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーは、写真の挿入に記載されるとおりであり、FANCD2、PT334Mapkapキナーゼ2、MLH1、およびXPFが列挙される。画像データは、再発の際のFANCD2およびPT334Mapkapキナーゼ2の発現レベルの増大の傾向、MLH1生体マーカーについての比較的わずかな変化、およびXPF生体マーカーについてのわずかに低いレベルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、腫瘍細胞は変化してしまったDNA修復およびDNAの損傷応答の経路を有していること、ならびに、これらの経路のうちの1つが失われることにより、特定のクラスのDNA損傷剤に対して、ガン細胞がより敏感になることの観察に関係する。ガンの治療手順(例えば、化学療法および放射線治療)は、細胞死を生じるDNAの損傷を修復する細胞の能力を圧倒的に大きくすること(overwhelming)によって作用する。さらに具体的には、本発明は、細胞の2つのDNA損傷経路の中での欠損が致命的であることの発見に一部基づく。したがって、腫瘍の照射および薬物に対する反応性は、ガン細胞の中の6個の主要なDNA修復経路の完全性を決定することによって予想することができる(図15)。DNA修復とDNA損傷経路の状態は、乳ガンについての1つ以上の化学療法または放射線治療を用いた治療の決定を推進するであろう(図16および図18)。DNA修復およびDNA損傷の生体マーカーが、定義された薬剤に対する特異的感受性、および/または化学療法に対する耐性をモニターすることにおいて有用であり得る理由の一例もまた示される(図16〜18)。同様に、DNA修復およびDNA損傷経路の状態は、様々なガンにおける化学療法薬のタイプの決定を評価するための手段であり得る(図17)。
【0017】
したがって、本発明により、DNA修復経路が変化してしまったことを決定することによる、治療薬に対するガン細胞の反応性(例えば、感受性または耐性)を決定する方法が提供される。これらの方法はまた、ガンまたは他の細胞増殖性の障害について処置および治療を受けている被験体をモニターするため、ならびに、ガンまたは他の細胞増殖性の障害を有している被験体において有効であろう治療法および処置を選択するためにも有用である。この場合、そのような処置および治療法の選択および使用により、ガンまたは他の細胞増殖性の障害の進行が遅らせられる。本発明はさらに、DNA修復経路の変化を検出することにおいて有用である生体マーカーに関する。
【0018】
いくつかの基準によって区別することができる主要なDNA修復経路が6つ存在している。これらは、一本鎖の損傷を修復する3つのグループと、二本鎖の損傷を修復する3つのグループに分けることができる。一本鎖の損傷の修復経路には、塩基除去修復(BER);ヌクレオチド除去修復(NER);ミスマッチ修復(MMR);相同組み換え/ファンコニ貧血経路(HR/FA);非相同末端結合(NHEJ)、および損傷乗り越え(translesion)DNA合成(TLS)が含まれる。
【0019】
BER、NER、およびMMRは1本鎖DNAの損傷を修復する。二重ヘリックスの2つの鎖のうちの一方だけが損傷を有している場合には、他方の鎖を、損傷を受けた鎖の修正を導くための鋳型として使用することができる。DNAの2本の対合した分子のうちの一方の損傷を修復するためには、損傷したヌクレオチドを除去し、これを損傷を受けていないDNA鎖の中に見られるものに対して相補的な損傷を受けていないヌクレオチドで置き換える、除去修復機構が多数存在している。BERは、酸化、アルキル化、加水分解、または脱アミノ化反応によって引き起こされた1つのヌクレオチドが原因である損傷を修復する。NERは、2〜30塩基の、より長い鎖に影響を与える損傷を修復する。このプロセスは、チミン二量体、ならびに一本鎖の断裂(UvrABCエンドヌクレアーゼのような酵素で修復された)のような、大きなヘリックスを歪める変化を認識する。転写共役修復(TCR)として知られているNERの特別な形態は、活発に転写されている遺伝子に対して高い優先度でNER修復酵素を配置する。MMRは、DNA複製後に誤って対合したヌクレオチドを生じる、DNA複製および組み換えの間違いを修正する。
【0020】
NEHJとHRは、二本鎖のDNA損傷を修復する。二本鎖の損傷は、分裂中の細胞にとって特に危険である。NHEJ経路は、損傷が起こったDNAの領域をまだ細胞が複製していない場合に作動する。このプロセスでは、断裂してしまったDNA鎖の2つの末端を鋳型を用いることなく直接結合させるので、プロセスにおいては配列情報が失われてしまう。したがって、この修復機構は必然的に突然変異誘発性である。しかし、細胞が分裂中ではなく、そのDNAが複製されていない場合には、NHEJ経路は細胞のオプションにすぎない。NHEJは、連結させられた2つのDNA断片の一本鎖である末端の間で対合する偶然、または微視的相同性(microhomology)に頼る。高等真核生物には、NHEJには依存しない複数の「二重安全装置」である経路が存在する。組み換え修復には、断裂の修復のための鋳型として使用される、同じ配列またはほぼ同じ配列の存在が必要である。この修復プロセスに関係している酵素的機構は、有糸分裂の間の染色体の乗り換えを担っている機構とほぼ同じである。この経路は、鋳型として新しく作成された娘染色分体(すなわち、これもまたセントロメアによって損傷をうけた領域に連結させられる同じコピー)を使用して、損傷を受けた染色体が修復されることを可能にする。この機構によって修復された二本鎖の断裂は、通常、一本鎖の断裂、または対合していない損傷(これらはいずれも、複製フォークの崩壊を生じる)を超えて合成することを試みる複製機構によって引き起こされる。
【0021】
損傷乗り越え修復は、任意の他の機構によっては修復されていないDNAの損傷を修復する、間違いが多い(ほぼ間違いが保証されている)最終手段である方法である。DNA修復機構は、DNA損傷部位を越えて複製を続けることができず、そのために、複製フォークの進行は、損傷を受けた塩基に遭遇すると行き詰るであろう。損傷乗り越え修復経路は、損傷部位に別の塩基を挿入し、それによって染色体の複製を継続するために、複製が損傷を受けた塩基をバイパスすることを可能にする、特異的なDNAポリメラーゼによって媒介される。損傷乗り越え修復機構によって挿入された塩基は鋳型に依存するが、恣意的ではない。例えば、1つのヒトポリメラーゼは、チミンニ量体を超えて合成を行う場合には、アデニン塩基を挿入する。
【0022】
正常なヒト細胞に類似しているガン細胞は、DNA損傷に応答してそれらの増殖を停止することができる。細胞周期の停止は、細胞内のチェックポイントキナーゼの複合アレイによって、少なくとも一部行われる。チェックポイントキナーゼ(例えば、Chk1(CHEK1)、Chk2(CHEK2)、およびMapKapキナーゼ2(MK2、Chk3))は、一旦活性化されると、異なる段階(すなわち、G1/S期、G2/M期、または紡錘体の段階)で細胞周期を停止させることによって細胞増殖を終える。細胞周期の停止によっては、増殖を再開する前に、DNA損傷を修復する機会が提供される。
【0023】
細胞は、DNA損傷に応答してChk1キナーゼを活性化させる。Chk1は、複数のタンパク質基質(エフェクタータンパク質)をリン酸化し、これは続いて、チェックポイント応答に寄与する。例えば、Chk1は、タンパク質Cdc25cをリン酸化させ、それにより、細胞周期のG2期からM期への移行のブロックを導く。このチェックポイントは、細胞(正常な細胞とガン細胞の両方)が、有糸分裂(M)期に入る前にそれらのDAを修復することを可能にする。
【0024】
ガン細胞には、高レベルのDNA損傷が蓄積する。この損傷は、それらの高くなった増殖活性によって、または、化学療法もしくは電離放射線への暴露によって生じ得る。ガン細胞は、多くの場合は、Chk1−キナーゼによって媒介されるG2/M細胞周期チェックポイントに非常に依存する。Chk1への大きな依存はまた、腫瘍細胞が別の重要なチェックポイント媒介因子であるp53タンパク質を持たないことによっても生じる。したがって、Chk1の阻害により、腫瘍細胞の生命維持に必要なチェックポイントがノックアウトされる。このチェックポイントがなければ、腫瘍細胞は、修復されていないままのDNA損傷が残っているにもかかわらず、有糸分裂へと進行して、「細胞分裂異常」、しいては細胞死に至る。この原理に基づいて、Chk1阻害剤が開発されている。7−ヒドロキシ−スタウロスポリン(UCN01)は、臨床開発が最も進んでおり、II相臨床試験の段階にある。しかし、UCN01は、望ましくない毒性を発現する可能性があるその長い半減期の理由から、臨床的には問題がある。したがって、阻害剤で最も適切に処置できる患者を特定することが、重要な臨床上の課題である。広い意味でのChk1阻害剤の場合には、サブグループとして患者の応答者を同定することが重要であり、その結果、これらの患者は、機能するであろう治療に対するより優れたターゲットであり得る。同様に、Chk1阻害剤での処置によって明らかに利益が得られないであろう、したがって、Chk1阻害剤に伴う毒性を回避する可能性がある患者もまた同定することができる。本明細書中に明らかに記載されるように、DNA損傷に応答して、Chk1は、2つの保存されている部位(スレオニン346とセリン374)上にあるFAコア複合体のFANCEサブユニットを直接リン酸化する。リン酸化されたFANCEは、核焦点にアセンブリして、FANCD2と一緒に局在化する。FANCEの非リン酸化変異形態(FANCE−T346A/S374A)は、FANCE欠損細胞株の中で発現された場合には、FANCD2のモノユビキチン化、FANCD2焦点のアセンブリ、および正常なS期への進行を可能にする。しかし、変異体FANCEタンパク質は、トランスフェクトされた細胞のマイトマイシンC過敏性を補うことはできない。まとめると、これらの結果は、FA/BRCA経路の調節、およびDNAの架橋修復の調節におけるChk1の新規の役割を明らかにしている。FANCEのChk1によって媒介されるリン酸化は、FANCD2のモノユビキチン化とは関係のない機能に必要である。
【0025】
DNA修復およびDNA損傷応答のマーカー
患者は治療に対して様々な程度の反応性を有しており、動的様式での処置の能力を識別するために複数の方法が必要である。細胞性のDNA修復経路に対する変化(例えば、活性、異常に活性、抑制された、下方調節された、または不活性)の同定が、治療用化合物に対する応答をモニタリングし、予想することにおいて有用である。したがって、本発明には、DNA修復およびDNAの損傷応答に関係している生体マーカーが含まれる。本発明は、本明細書中に開示される生体マーカーの検出による、治療用化合物(例えば、化学療法薬)に対して耐性を生じる、または治療薬に対して感受性があるか、あるいはそのような素因があるかのいずれかである被験体を同定するための方法を特徴とする。これらの生体マーカーはまた、ガンおよび細胞増殖性の障害について処置および治療を受けている被験体をモニタリングするため、ならびに、ガンおよび細胞増殖性障害を有している被験体において有効である治療法および処置を選択するためにも有用である。
【0026】
用語「生体マーカー」には、本発明の状況においては、タンパク質、核酸、タンパク質および核酸の多形、元素、代謝物、および他の分析物が含まれるが、これらに限定されない。生体マーカーにはまた、変異したタンパク質または変異した核酸も含まれ得る。用語「分析物」は、本明細書中で使用される場合には、測定される任意の物質を意味し得、そしてこれには、電解質および元素(例えば、カルシウム)も含まれ得る。
【0027】
治療用化合物に対して耐性または感受性を有しているか、あるいは、治療用化合物に対して耐性または感受性を生じる素因がある被験体においてそのレベルが変化するタンパク質、核酸、多形、および代謝物が表1にまとめられ、これらはまとめて、本明細書中では特に「DNA修復およびDNA損傷応答タンパク質、すなわちDNARMARKER」と呼ばれる。
【0028】
DNARMARKERSの発現は、当該分野で公知の任意の方法を使用してタンパク質または核酸のレベルで決定される。例えば、核酸レベルでは、これらの配列のうちの1つ以上を特異的に認識するプローブを使用するノーザンハイブリダイゼーション分析を、遺伝子発現を決定するために使用することができる。あるいは、発現は、逆転写に基づくPCRアッセイを使用して、例えば、遺伝子のディファレンシャルに発現された配列に特異的なプライマーを使用して測定される。発現はまた、タンパク質レベルでも、すなわち、本明細書中に記載される遺伝子産物によってコードされるペプチド、またはその活性のレベルを測定することによって、決定することもできる。そのような方法は当該分野で周知であり、例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体、アプタマー、または分子インプリントに基づく免疫アッセイが含まれる。任意の生物学的材料を、タンパク質またはその活性の検出/定量のために使用することができる。あるいは、適切な方法を、分析される個々のタンパク質の活性にしたがってマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するために選択することができる。
【0029】
DNARMARKERタンパク質は任意の適切な様式で検出されるが、通常は、患者に由来する試料がDNARMARKERタンパク質に結合する抗体と接触させられ、その後、反応産物の存在またはそれが存在しないことを検出することによって検出される。抗体は、上記で詳細に議論されたように、モノクローナル、ポリクローナル、キメラ、または上記の断片であり得、反応産物の検出工程は任意の適切な免疫アッセイを用いて行われ得る。被験体に由来する試料は、通常は、上記のような生物学的液体であり、上記方法を行うために使用される生物学的液体の同じ試料であり得る。試料はまた、患者に由来する組織標本の形態でもあり得る。この場合、標本は、パラフィンに包埋された組織、組織の凍結切片、および新しく単離された組織のような様々な形式の、免疫組織化学反応に適している。免疫検出方法は抗体に基づくが、組織の状況での抗体への結合のより高感度な決定を可能にするさらに別の技術が多数存在している。当業者は、様々な免疫組織化学反応のストラテジーをよく知っているであろう。
【0030】
本発明にしたがって行われる免疫アッセイは、ホモジニアスアッセイ(homogeneous assay)またはヘテロジニアスアッセイ(heterogeneous assay)であり得る。ホモジニアスアッセイにおいては、免疫学的反応には、通常、特異的抗体(例えば、抗DNARMARKERタンパク質抗体)、標識された分析物、および目的の試料が含まれる。標識から生じるシグナルは、標識された分析物に対して抗体が結合すると、直接または間接的に修飾される。免疫学的反応とその範囲の検出のいずれもが、均質な溶液の中で行われる。使用することができる免疫化学的標識としては、フリーラジカル、放射性同位元素、蛍光色素、酵素、バクテリオファージ、または補酵素が挙げられる。
【0031】
ヘテロジニアスアッセイのアプローチにおいては、試薬は通常、試料、抗体、および検出シグナルを生じさせるための手段である。上記のような試料を使用することができる。抗体は、一般的には、支持体(例えば、ビーズ、プレート、またはスライド)上に固定され、そして液相中に抗原を含むと予想される標本と接触させられる。その後、支持体は、液相から分離され、支持体相または液相のいずれかが、そのようなシグナルを生じさせるための検出可能なシグナルを使用する手段について試験される。シグナルは、試料中の分析物の存在に関係する。検出可能なシグナルを生じさせるための手段には、放射標識、蛍光標識、または酵素標識の使用が含まれる。例えば、検出される抗原に第2の結合部位が含まれる場合には、その部位に結合する抗体を検出基に結合させることができ、分離工程の前に液相の反応溶液に添加することができる。固体支持体上の検出基の存在は、試験試料中の抗原の存在を示す。適切な免疫アッセイの例は放射免疫アッセイ、免疫蛍光方法、化学発光方法、電気化学的発光方法、または酵素結合免疫アッセイである。
【0032】
当業者は、本明細書中に開示される方法を実行するために有用であり得る多数の特異的な免疫アッセイ形式とそのバリエーションをよく知っているであろう。一般的には、E.Maggio,Enzyme−Immunoassay,(1980)(CRC Press,Inc.,Boca Raton,Fla.)を参照のこと;「Methods for Modulating Ligand−Receptor Interactions and their Application」と題された、Skoldらの米国特許第4,727,022号、「Immunoassay of Antigens」と題されたForrestらの米国特許第4,659,678号、「Immunometric Assays Using Monoclonal Antibodies」と題されたDavidらの米国特許第4,376,110号、「Macromolecular Environment Control in Specific Receptor Assays」と題されたLitmanらの米国特許第4,275,149号、「Reagents and Method Employing Channeling」と題されたMaggioらの米国特許第4,233,402号、および「Heterogenous Specific Binding Assay Employing a Coenzyme as Label」と題されたBoguslaskiらの米国特許第4,230,767号もまた参照のこと。
【0033】
抗体は、公知の技術(例えば、受動的結合)にしたがって、診断アッセイに適している固体支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンのような材料から作られたビーズ、プレート、スライド、またはウェル)に結合させられる。同様に、本明細書中に記載される抗体は、公知の技術にしたがって検出可能な基(例えば、放射標識(例えば、35S、125I、131I)、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、および蛍光標識(例えば、フルオレセイン))に結合させることができる。
【0034】
当業者は、表1のDNARMARKERSのいずれかに対する抗体、核酸プローブ(例えば、オリゴヌクレオチド、アプタマー、siRNA)を日常的に行われているように作成することができる。
【0035】
本発明にはまた、DNARMARKERS検出試薬(例えば、DNARMARKER核酸の一部に相補的である相同な核酸配列(例えば、オリゴヌクレオチド配列)を有していることによって1つ以上のDNARMARKER核酸を特異的に同定する核酸、あるいは、キットの形態で一緒にパッケージされているDNARMARKER核酸によってコードされるタンパク質に対する抗体)も含まれる。オリゴヌクレオチドは、DNARMARKER遺伝子の断片である。例えば、オリゴヌクレオチドは、200、150、100、50、25、10、またはそれ未満のヌクレオチドの長さである。キットには、核酸または抗体(すでに固体マトリックスに結合させられているか、もしくはマトリックスにそれらを結合させるための試薬とは別々にパッケージされているかのいずれか)、対照の処方物(ポジティブおよび/またはネガティブ)、および/または検出標識が容器の中に別々に含まれ得る。アッセイを実施するための説明書(例えば、書面による、テープ、VCR、CD−ROMなど)がキットの中に含まれる場合がある。例えば、アッセイは、当該分野で公知であるように、ノーザンハイブリダイゼーション、またはサンドイッチELISAの形態であり得る。
【0036】
例えば、DNARMARKER検出試薬は、固体マトリックス(例えば、少なくとも1つのDNARMARKER検出部位を形成する多孔性の細片)上に固定される。多孔性の細片の測定または検出領域には、核酸を含む複数の部位が含まれ得る。細片にはまた、ネガティブ対照および/またはポジティブ対照のための部位も含まれ得る。あるいは、対照部位は、試験細片とは別の細片上に配置される。状況に応じて、様々な検出部位には、様々な量の固定された核酸(すなわち、第1の検出部位の中には多量、続く部位にはより少ない量)が含まれ得る。試験試料が添加されると、検出可能なシグナルを提示する部位の数により、試料中に存在するDNARMARKERの量の量的指標が提供される。検出部位は、任意の適切な検出可能な形状になるように構成され得、通常は、試験細片の幅全体に及ぶ棒または点の形状である。
【0037】
あるいは、キットには、1つ以上の核酸配列が含まれている核酸基質アレイが含まれる。アレイ上の核酸は、DNARMARKER1〜259によって提示される1つ以上の核酸配列を特異的に同定する。様々な実施形態においては、DNARMARKER1〜259によって提示される配列のうちの2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、または50、あるいはそれ以上の配列の発現が、アレイへの結合によって同定される。基質アレイは、例えば、「固体の基体」(例えば、米国特許第5,744,305号に記載されているような「チップ」)上であり得る。あるいは、基質アレイは、溶液アレイ(例えば、Luminex,Cyvera,Vitra and Quantum Dots’Mosaic.)であり得る。
【0038】
好ましくは、キットには、DNARMARKERSの検出のための抗体が含まれる。
【0039】
【表1−1】
【0040】
【表1−2】
【0041】
【表1−3】
【0042】
【表1−4】
【0043】
【表1−5】
【0044】
【表1−6】
【0045】
【表1−7】
【0046】
【表1−8】
【0047】
【表1−9】
【0048】
【表1−10】
【0049】
【表1−11】
【0050】
【表1−12】
治療方法
抗原に対する細胞の反応性(例えば、耐性または感受性)は、細胞の中のDNA修復経路の欠損を同定することによって決定される。細胞は、例えば、ガン細胞である。DNA修復経路は、塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、ミスマッチ修復、相同組み換え/ファンコニ貧血(FA)経路、非相同末端結合、または損傷乗り越えDNA合成である(図16〜18)。
【0051】
特定のDNA修復経路における欠損の存在は、細胞が、そのDNA経路に特異的である薬剤に対して耐性であることを示す。一方、欠損がないことは、その細胞がそのDNA経路に特異的な薬剤に対して感受性があることを示す。
【0052】
耐性とは、細胞が薬剤に反応することができないことを意味する。例えば、化学療法薬に対する耐性は、その薬物が損傷を受けないか、または薬物によって死滅させられないことを意味する。感受性とは、細胞が薬剤に対し応答することを意味する。例えば、化学療法薬に対する感受性とは、薬物が損傷を受けるか、または薬物によって死滅させられることを意味する。
【0053】
例えば、DNA架橋剤または電離放射線に対する細胞の反応性は、相同組み換え/FA経路の欠損を同定することによって特定される。相同組み換え/FA経路の欠損の存在は、細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して感受性であることを示す。一方、欠損がないことは、細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して耐性であることを示す。架橋剤としては、例えば、シスプラチンが挙げられる。相同組み換え/FA経路の阻害剤に対するガン細胞の反応性は、ミスマッチ修復DNA経路の欠損を同定することによって特定される。ミスマッチ修復DNA経路における欠損の存在は、細胞が相同組み換え/FA経路の阻害剤に対して感受性であることを示す。一方、欠損がないことは、細胞が、相同組み換え/FA経路の阻害剤に対して耐性であることを示す。相同組み換え/FA経路の阻害剤としては、例えば、クルクミン、ベルケイド(velcade)、またはアルステルパウロン(alsterpaulone)が挙げられる。
【0054】
治療薬に対するガン細胞の感受性は、1つ以上のDNA修復経路のタンパク質または遺伝子の活性を阻害するかまたは低下させることによって増大させられる。正常に作動しないDNA修復経路の数を増大させることによって、ガン細胞がDNA損傷を修復することができる機構の数を減少させ、それによって細胞を治療薬の作用に対してより感受性にすることができる。例えば、相同組み換え/FA経路の阻害因子とガン細胞を接触させることによる、ガン細胞のDNA架橋剤または電離放射線に対する感受性である。適切な阻害剤としては、MAP2KAP2阻害剤が挙げられる。
【0055】
細胞中のDNA修復経路の欠損を決定することにより、特定の細胞について細胞死または損傷を誘導することができる治療薬。その細胞に適している治療薬は、欠損経路以外のDNA経路を特異的に標的化する。標的化される経路は、様々なタイプのDNA損傷を修復する経路である。例えば、欠損している経路が一本鎖の断裂を修復する経路である場合には、標的化される経路は二本鎖の断裂を修復する経路である。同様に、欠損している経路が二本鎖の断裂を修復する経路である場合には、標的化される経路は一本鎖を修復する経路である。
【0056】
あるいは、標的化される経路は、欠損経路の余っていて使われていない(redundant)経路である。「余っていて使われていない(redundant)経路」とは、その経路が同様のDNA損傷を修復することを意味する。例えば、BER、NER、およびMMRは全て、一本鎖の断裂を修復し、したがって、余っていて使われていない経路である。したがって、BER経路が欠損経路である場合には、NERまたはMMR経路が標的化されることが有利である。同様に、NER経路が欠損経路である場合には、BERまたはMMR経路が標的化されることが有利である。同様に、MMR経路が欠損経路である場合には、NERまたはBER経路が標的化されることが有利である。同様に、NHEJ経路が欠損経路である場合には、HR/FA経路が標的化されることが有利である。同様に、HR/FAとNHEJはいずれも二本鎖の断裂を修復し、したがって余っていて使われていない経路である。したがって、FR/FA経路が欠損経路である場合には、NHEJ経路が標的化されることが有利である。同様に、NHEJ経路が欠損経路である場合には、HR/FA経路が標的化されることが有利である。
【0057】
特異的なDNA修復経路を標的化する薬物は当該分野で公知であり、例えば、表2に列挙される薬物が含まれる。
【0058】
【表2−1】
【0059】
【表2−2】
テモゾロミドは、重要な毒性のある損傷の形成を引き起こすアルキル化剤O−6メチルグアニン(O−6MG)である。この損傷を修復するDNA修復タンパク質であるMGMTの不活化は、脳腫瘍の患者のより長い生存性と関係があることが示されている(Hegi ME,ら、Clin Cancer Res 2004;10:1871−4)。手術することができない膠芽細胞腫におけるさらなる実験もまた、テモゾロミドに対する反応がMGMTと関係があることを示していた(Paz MF,ら、Clin Cancer Res 2004;10:4933−8)。
【0060】
PARP1阻害剤は、現在、腫瘍形成性の適応症について最も広く研究されている薬物のクラスのうちの1つである。いくつかの会社が、異なる化学的タイプのPARP1阻害剤の臨床試験を進めている(Ratnam and Low,2007にまとめられている)。BRCA1またはBRCA2の欠損(例えば、乳ガンおよび卵巣ガンについての前兆として遺伝的に分類された女性に起こり、そしてこれらはHR経路の2つの重要な因子である)によっては、腫瘍細胞が、PARP1阻害剤に対して過敏になることが示されている(Bryantら、2005;Farmerら、2005)。これらの研究は、臨床試験でのPARP1阻害剤の使用によって追跡調査されており(Brody,L.C.(2005)Treating cancer by targeting a weakness.N.Engl.J.Med.353,949−950;Turner,N.ら、(2005)Targeting the DNA repair defect of BRCA tumours.Curr.Opin.Pharmacol.5,388−393)、これにより、この腫瘍の弱さを標的とするDNA修復の成分に対する選択的なガン治療の可能性が生じる。HRの欠損のスペクトルの特定は、おそらく、BRCA1およびBRCA2を超えて広がり、おそらく、HR DNA修復タンパク質およびFA DNA修復タンパク質のうちの任意のものが関与している。
【0061】
ATMセリンスレオニンキナーゼは、相同組み換え経路においていくつかの公知の基質を有する。この酵素の阻害は、相同組み換えの不活化を標的化することが明らかにされている(1つの例示的な論文は、Hickson,I.ら、(2004)Identification and characterization of a novel and specific inhibitor of the ataxia−telangiectasia mutated kinase ATM.Cancer Res.64,9152−9159)。
【0062】
DNAPK酵素は、非相同末端結合DNA修復経路のセリンスレオニンキナーゼである。DNAPKのキナーゼ活性は、この経路における不可欠な工程を提供する。酵素活性が失われることによるか、または薬物での処理によるDNAPKの阻害によっては、処理された細胞の、放射線、および鎖の断裂である他の形態のDNAの損傷に対する感受性が導かれる。
【0063】
ユビキチンおよびsumoリガーゼを標的化する化合物もまた、これらの薬剤についての標的酵素が他のDNA修復タンパク質を修飾することが公知であるので、DNA修復の阻害に関係していると考えられている。ユビキチンおよびSUMOリガーゼは、相同組み換え、損傷乗り越え修復、ヌクレオチド除去修復、および塩基除去修復の工程の重要な構成成分である。したがって、このクラスの酵素に対する阻害剤は、指定されたDNA修復経路を遮断するであろう。
【0064】
複数の方法が、被験体のガンまたは細胞増殖性疾患を処置する、その症状を緩和する、その進行をモニターする、またはその発症を遅らせるために有用である。ガンおよび細胞増殖性障害は、例えば、ガン細胞がDNA修復経路にて欠損しているか否かを決定すること、そしてDNA損傷剤または少なくとも1つの異なるDNA修復経路に特異的な阻害剤を投与することによって処置される。状況に応じて、アップレギュレートされているDNA修復経路のタンパク質または遺伝子が細胞の中で同定され、そしてDNA損傷剤または、その中のタンパク質または遺伝子がアップレギュレートされているDNA修復経路に特異的な阻害剤が投与される。
【0065】
DNARMARKERタンパク質、核酸、または代謝物の有効量の発現によってはまた、ガンまたは細胞増殖性障害の処置の経過をモニターすることも可能となる。この方法においては、生物学的試料は、ガンまたは細胞増殖性障害についての処置(例えば、化学療法による処置)を受けている被験体から提供される。所望される場合には、生物学的試料は、処置の前、処置の間、または処置後の様々な時点で被験体から得られる。その後、DNARMARKERタンパク質、核酸、または代謝物の有効量の発現が決定され、参照(例えば、そのガンもしくは細胞増殖性障害の状態が明らかである対照個体または集団)、あるいは指標値に対して比較される。参照試料または指標値は、処置を受けてた1つ以上の個体から得ることができるか、または導くことができる。あるいは、参照試料または指標値は、処置を受けていない1つ以上の個体から得ることができるか、または導くことができる。例えば、試料は、ガンまたは細胞増殖性障害についての最初の処置を受け、処置の進行をモニターするために、その後に糖尿病の処置を受けた被験体から集めることができる。
【0066】
個体の遺伝的構成要素の差異によっては、様々な薬物を代謝するそれらの相対的な能力に差が生じ得る。したがって、本明細書中に開示されるDNARMARKERは、薬剤が被験体のガンまたは細胞増殖性障害を処置または予防するために適しているか否かを決定するために、選択された被験体から、推定される治療薬または予防薬を試験することを可能にする。
【0067】
特異的な被験体に適切である治療薬を同定するためには、DNARMARKERタンパク質、核酸、または代謝物の1つ以上の被験体に由来する試験試料中での発現が、決定される。
【0068】
試験試料中でのDNARMARKERの発現のパターンが測定され、参照プロフィール(例えば、治療用化合物についての参照発現プロフィール)に対して比較される。比較は、同時に測定されたか、または時間的に異なるタイミングで測定された試験試料と参照試料について行うことができる。後者の例は、DNARMARKERSの発現レベルについての情報が集められているコンパイルされた発現情報(例えば、配列データベース)の使用である。
【0069】
参照試料(例えば、対照試料)が治療用化合物に対して感受性のある細胞に由来する場合には、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERタンパク質の量の類似性は、治療用化合物での処置が有効であるであろうことを示す。しかし、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERの量の変化は、その化合物での処置によってあまり好ましくない臨床結果または予後が生じるであろうことを示す。対照的に、参照試料(例えば、対照試料)が治療用化合物に耐性である細胞に由来する場合には、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERタンパク質の量の類似性は、その化合物での処置によってあまり好ましくない臨床結果または予後が生じるであろうことを示す。しかし、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERの量の変化は、その治療用化合物での処置が有効であるであろうことを示す。
【0070】
「有効」とは、その処置によって、被験体の中でのDNARMARKERタンパク質の量の減少、その大きさの縮小、罹患率の低下、またはガンの転移の可能性の低下が導かれることを意味する。処置が予防的に適用される場合には、「有効」は、その処置により、ガンまたは細胞増殖性障害の形成を遅らせるか、または防ぐことを意味する。ガンおよび細胞増殖性障害の評価は標準的な臨床的プロトコールを使用して行われる。
【0071】
ガンには、固形腫瘍(例えば、乳ガン、卵巣ガン、前立腺ガン、肺ガン、腎臓ガン、胃ガン、結腸ガン、精巣ガン、頭頸部ガン、膵臓ガン、脳腫瘍、黒色種)、ならびに、組織形成体の他の腫瘍および血液細胞のガン(例えば、リンパ腫および白血病(急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、T細胞リンパ球性白血病、およびB細胞リンパ腫を含む))が含まれる。
【0072】
「細胞増殖性障害」には、細胞の増殖、活性化、接着、成長、分化、または移動のプロセスに影響を与える障害が含まれる。本明細書中で使用される場合は、「細胞増殖、活性化、接着、成長、分化、または移動のプロセス」は、それにより細胞の数、大きさ、活性化状態、または含有量が増大するプロセス、それにより細胞が他の細胞とは異なる特徴の特別なセットを生じるプロセス、あるいは、それによって細胞が特定の位置もしくは刺激により近い範囲に移動するか、または特定の位置もしくは刺激から離れるプロセスである。異常に調節された増殖、活性化、接着、分化、または移動を特徴とする「細胞増殖性障害」には、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性または免疫系の障害、および/あるいは細胞増殖性障害が含まれる。
【0073】
被験体は哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物は、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシである。被験体は、ガンまたは細胞増殖性障害を有しているとすでに診断されており、そしてガンまたは細胞増殖性障害についての処置をすでに受けている可能性がある。
【0074】
被験体は、ガンまたは細胞増殖性障害に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある。ガンまたは細胞増殖性障害に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある被験体は、当該分野で公知の方法によって同定される。
【0075】
「特定のDNA修復経路に特異的な薬剤」とは、その薬剤によって特定のDNA修復経路が修正するDNA損傷のタイプが誘導されることを意味する。
【0076】
「欠損」とは、細胞が、その経路を通じてDNA損傷を修復する能力が低下しているかまたはその能力が失われている(abrogated)ことを意味する。活性は、(好ましくは、同じ組織に由来する)正常な(すなわち、ガンではない)細胞と比較して決定され得る。経路の欠損は当該分野で公知の方法によって決定される。例えば、HR修復経路の活性は、DNA損傷剤に対して応答する核の中のRad51を含む焦点の形成を測定することによって決定することができる。HR修復経路が欠損している細胞は、そのような焦点を生じる能力がない。Rad51焦点の存在は、標準的な免疫蛍光技術を使用して決定することができる。あるいは、欠損は、発現を測定すること(例えば、対照と比較した増大または低下)、本明細書中に記載される1つ以上のDNARMARKERSの配列のバリエーションまたは翻訳後修飾を検出することによって決定される。
【0077】
翻訳後修飾には、例えば、リン酸化、ユビキチン化、sumo化、アセチル化、アルキル化、メチル化、グリシル化(glycylation)、グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化(lipoylation)、ホスホパンテテイニル化(phosphopantetheinylation)、硫酸化、セレン化(selenation)、およびC末端アミド生成が含まれる。例えば、相同組み換え/FA経路における欠損は、FANCD2のモノユビキチン化を検出することによって決定される。同様に、ガン細胞のMAP2KAP2阻害剤に対する反応性は、MAP2KAP2タンパク質のリン酸化を検出することによって決定される。リン酸化は、細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して反応性であることを示す。対照的に、リン酸化されないことは、細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して耐性であることを示す。
【0078】
変異または多形のような配列のバリエーションには、野生型のヌクレオチド配列と比較した、1つ以上のヌクレオチドの欠失、挿入または置換が含まれ得る。1つ以上のバリエーションは、核酸配列のコード領域の中に存在する場合も、また、非コード領域の中に存在する場合もあり、そして、DNA修復経路の構成成分であるポリペプチドの発現または機能を低下させる場合も、また、完全に失わせる場合もある。言い換えると、変異体核酸は、活性が低下しているかまたは活性を失った変異体ポリペプチドをコードする場合があり、また、例えば、調節エレメントの活性の変化により、細胞の中での発現がほとんどないかもしくは発現が全くない野生型のポリペプチドをコードする場合もある。変異体核酸は、野生型配列と比較して、1個、2個、3個、4個またはそれ以上の変異または多形を有し得る。
【0079】
DNA修復経路の構成成分をコードする核酸の中での1つ以上のバリエーションの存在は、例えば、試験試料の1つ以上の細胞の中で、1つ以上の変異または多形を含むコード核酸配列の存在を検出することによって、あるいは、核酸配列によってコードされる変異体である構成成分のポリペプチドの存在を検出することによって、決定される。
【0080】
個々のものから得られた試料の中での、特定の核酸配列(例えば、DNA修復経路の構成成分の発現もしくは活性を低下させるかまたは失わせる変異あるいは多形を有している核酸配列)の存在あるいはそれが存在しないことを決定するためには、様々な方法を利用できる。さらに、個体または試料の核酸が配列決定されている場合には、配列情報を保有することができ、その後、もともとの核酸自体に頼ることなく検索することができる。したがって、例えば、配列分析ソフトウェアを使用して配列情報のデータベースをスキャンすることにより、配列の変化または変異を同定することができる。
【0081】
本発明のいくつかの態様にしたがう方法には、試料から得られた核酸(例えば、ゲノムDNA、RNA、またはcDNA)に対するオリゴヌクレオチドプローブの結合を決定する工程が含まれ得る。プローブには、1つ以上の変異または多形を含む核酸配列に特異的に結合し、1つ以上の変異または多形を含まない核酸配列には特異的に結合しないヌクレオチド配列が含まれる場合があり、また、その逆である場合もある。オリゴヌクレオチドプローブには標識が含まれる場合があり、プローブの結合は、標識の存在を検出することによって決定することができる。
【0082】
方法には、標的核酸に対する1つ以上(例えば、2つ)のオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーのハイブリダイゼーションが含まれ得る。核酸が二本鎖DNAである場合には、ハイブリダイゼーションの前には、一般的には、一本鎖DNAを生じさせるための変性が行われるであろう。ハイブリダイゼーションは、PCR手順の一部として行われる場合も、また、PCRを含まないプロービング手順の一部として行われる場合もある。1つの例示的な手順は、PCRと低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションの組み合わせである。
【0083】
標的核酸(例えば、DNA)に対するプローブの結合は、当業者の活動場所(disposal)で、様々な技術のうちの任意のものを使用して測定することができる。例えば、プローブは、放射標識される場合も、蛍光標識される場合も、また、酵素標識される場合もある。プローブの標識を使用しない他の方法としては、制限断片長の多形についての試験、PCRを使用する増幅、RN’ase切断、および対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドのプロービングが挙げられる。プロービングでは、標準的なサザンブロッティング技術が使用され得る。例えば、DNAは、細胞から抽出することができ、様々な制限酵素で処理することができる。その後、制限断片が、アガロースゲル上での電気泳動によって分離され、その後、変性、ニトロセルロース膜への移動が行われる。標識されたプローブが、膜上のDNA断片にハイブリダイズさせられ、結合が決定され得る。
【0084】
当業者は、オリゴヌクレオチドの長さと塩基の組成、温度などの要因を考慮して、選択的なハイブリダイゼーションのための所望されるストリンジェンシーに適している条件を使用することが十分に可能である。17から30塩基のオリゴヌクレオチドについての適切な選択的ハイブリダイゼーション条件には、6×SSCの中で42℃で一晩のハイブリダイゼーション、および42℃から65℃まで連続的に温度を上昇させながらの6×SSCの中での洗浄が含まれる。他の適切な条件とプロトコールは、Molecular Cloning:a Laboratory Manual:第3版,Sambrook & Russell(2001)Cold Spring Harbor Laboratory Press NY、およびCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,John Wiley & Sons(1992)に記載されている。
【0085】
核酸は、ゲノムDNA、RNA、もしくはcDNA、またはそれらの増幅させられた領域であり得、これらは、その中に多形または変異が存在することを同定するかあるいは決定するために配列決定され得る。多形または変異は、上記に示されるように、得られた配列をその構成成分のデータベース配列と比較することによって同定することができる。具体的には、ポリペプチド構成成分の機能の、ひいては、DNA修復経路全体としての無効化または喪失を引き起こす、1つ以上の多形または変異の存在が決定され得る。
【0086】
配列決定は、標準的な技術の範囲のうちの任意の1つを使用して行われ得る。増幅産物の配列決定には、例えば、イソプロパノールでの沈殿、再懸濁、およびTaqFS+Dyeターミネーター配列決定キットを使用する配列決定が含まれ得る。伸張産物はABI 377 DNAシーケンサー上に電気泳動され得、Sequence Navigatorソフトウェアを使用してデータが分析され得る。
【0087】
PCRのような、プライマーの1つ以上の対を使用する特異的増幅反応は、核酸配列の中の関心領域(例えば、変異または多形を含むと疑われる配列の部分)を増幅させるために、便利に使用され得る。増幅された核酸は、その後、上記のように配列決定さ得、そして/またはDNA修復経路の構成成分の発現もしくは活性を低下させるかまたは失わせる変異あるいは多形の存在またはそれが存在しないことを決定するために、任意の他の方法で試験される。適切な増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が挙げられる(例えば、「PCR protocols;A Guide to Methods and Applications」,Innisら編,1990,Academic Press,New York,Mullisら、Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.,51:263(1987),Ehrlich(編),PCR technology,Stockton Press,NY,1989、ならびに、Ehrlichら、Science,252:1643−1650(1991)にまとめられている)。
【0088】
ガンと関係している変異および多形はまた、変異体(すなわち、突然変異体または対立遺伝子変異体)ポリペプチドの存在を検出することによって、タンパク質レベルで検出される場合もある。
【0089】
DNA修復の欠損として個体由来の試料中のガン細胞を同定する方法には、試料をその経路の変異体(例えば、突然変異体)ポリペプチド構成成分に対して特異的な結合メンバーと接触させる工程、および試料に対する特異的な結合メンバーの結合を決定する工程が含まれ得る。試料に対する特異的な結合メンバーの結合は、試料中の細胞のDNA修復経路の変異体ポリペプチドである構成成分の存在の指標であり得る。本発明の複数の態様において使用される好ましい特異的結合分子としては、抗体、およびその断片または誘導体(「抗体分子」)が挙げられる。
【0090】
正常な試料と試験試料に対する結合メンバー(例えば、抗体)の反応性は、任意の適切な手段によって決定され得る。個々のレポーター分子でのタグ化が1つの可能性である。レポーター分子は、検出可能な、そして好ましくは測定可能なシグナルを直接、あるいは間接的に生じ得る。レポーター分子の結合は、直接、または間接的な共有結合(例えば、ペプチド結合による)によって行われる場合も、あるいは、共有結合以外の結合によって行われる場合もある。ペプチド結合による連結は、結合分子(例えば、抗体)とレポーター分子をコードする遺伝子融合体の組み換え発現の結果であり得る。
【0091】
本発明の様々な特徴をさらに説明するために、実施例が以下に提供される。これらの実施例はまた、本発明を実施するための有用な方法論を説明する。これらの実施例は、請求される本発明を限定するものではない。
【0092】
(実施例1)
siRNAの同定はFA経路が欠損している細胞に対する選択的毒性を標的化する
EUFA326細胞株は、患者由来のFA−G繊維芽細胞株である。この細胞株を、同系のEUFA326G細胞株を作成するために、FANCGを発現する構築物で予め修正した(Garcia−Higueraら、Blood 96(9):3224−3230,2000)。これらの細胞株は、これらが同等の速度で増殖し、そしてsiRNAオリゴヌクレオチドでの遺伝子のノックダウンについて同等のレベルを示すことが明らかであるので、スクリーニングの目的のために選択した。
【0093】
356のDNA損傷応答遺伝子を標的化するsiRNAオリゴヌクレオチドを含むQiagen DNA修復siRNAライブラリーを、スクリーニングアッセイに使用した。このライブラリーの特徴は、的外れな作用のリスクを低下させるために、それぞれの個々の遺伝子を標的化する2つの個々のsiRNAオリゴヌクレオチドを含むことである。図1は、FA経路が欠損している細胞に必要なDNA損傷応答遺伝子の同定を示す。図1、パネルAは、siRNAスクリーニングの模式図を示す。細胞を、1日目に1ウェルあたり1000個の細胞で、96ウェルプレートにプレートした。2日目には、それぞれのウェルを、1つのDNA損傷応答遺伝子に特異的なsiRNAオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした。6日目には、細胞の生存性を、ATP活性化生体発光アッセイを使用して測定した。スクリーニングを2回繰り返した。
【0094】
siRNAトランスフェクションの後、EUFA326細胞株とEUFA326G細胞株との間での相対的な生存性を、それぞれのオリゴヌクレオチドについて計算した。アッセイを2回繰り返し、EUFA326G細胞株に対するEUFA326細胞株の平均の相対的生存性を、それぞれの遺伝子標的について計算した。それぞれの遺伝子に標的についての平均の標準誤差(SEM)とともに、EUFA326細胞株とEUFA326E細胞株との間での平均の相対的生存性を、4回の別々の測定から計算した。それぞれのsiRNA標的についての4つの生存性の値は、個々の遺伝子を標的化する2つのオリゴヌクレオチドによる2連の結果を示す。表3は、修正されたEUFA326G細胞株と比較して、FA経路が欠損しているEUFA326細胞に対して選択的に毒性である、上位10個のsiRNAオリゴヌクレオチド標的を示す。図1、パネルBには、EUFA326C修正細胞株と比較した場合に、FA経路が欠損しているEUFA326細胞株に対して選択的に毒性である上位10個のsiRNA標的がグラフによって示される。Y軸は、EUFA326修正細胞株と比較したEUFA326細胞株の相対的生存性を示す。4回の測定によるSEMが標的について提供される。GFPは、哺乳動物ではない標的を用いた場合の対照siRNAである。
【0095】
重要なことは、塩基除去修復遺伝子PARP1またはNEIL1のいずれかのノックダウンが、FA経路が欠損している細胞に対して選択的毒性があり、修正された細胞と比較して、PARP1ノックダウンについては64%、そしてNEIL1ノックダウンについては74%の相対的生存率があったことが明らかになったことである。これは、FA経路が欠損しているMEF細胞がPARP阻害剤によるBERの破壊に対して選択的に感受性があるという最近の実験報告(McCabeら、Cancer Res 66(16):8109−8115,2006)と一致しており、スクリーニングアッセイが、新規の標的と、複数のDNA修復経路の間での関係を明らかにするための有効なアプローチであることを示している。加えて、DNA修復経路における他のタンパク質の枯渇もまた、上記実験において細胞の生存性の低下を導く。例えば、EUFA326/EUFA326G生存性の比もまた、他のDNA修復およびDNA損傷応答遺伝子のsiRNAノックダウンによって変化した(表3)。
【0096】
したがって、PARP1および他のBER酵素(例えば、NEIL1、他のウラシルデグリコシラーゼ(Uracil Deglycosylases)、DNAポリメラーゼβ)の阻害剤、ならびに、タンパク質:タンパク質結合の崩壊によるBER作用の阻害剤は、本発明において記載されるように、DNA修復とDNA損傷応答経路の活性/枯渇を監視することを含む、生体マーカーストラテジーを組み入れることによって、臨床において有用性を有し得る。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の調節、ならびに/またはタンパク質レベルを同定するDNAR生体マーカーは、DNA修復および/またはDNA損傷シグナル伝達経路のうちの1つの1つ以上の標的タンパク質メンバーを阻害する薬物、および薬物のクラスに特に関係がある。
【0097】
本実施例に示すように、1つのタイプのPARP1阻害剤(PARP1についてのsiRNA)を、FA遺伝子が枯渇している細胞の過敏性を定義するために使用した。siRNA実験に加えて、PARP1の選択的阻害剤(例えば、低分子、ペプチド、治療用抗体、および他の生物製剤(biotherapeutics))は同様の結果を有するであろうと推測された。PARP1阻害剤は、単剤療法として、あるいは、他の化学療法薬または放射線との併用療法として、腫瘍学における処置の決定のために評価される臨床材料に対して適用されると、選択的有用性を有し得る。ファンコニ貧血経路についてのDNAR生体マーカーによって定義されているガンを有している患者は、PARP1阻害剤に対して特に感受性があるかまたは耐性である患者のサブセットを同定することが期待される。DNA修復および損傷経路の1つ以上のDNA修復状態を理解することは、薬物のクラスの反応性対耐性の重要な決定要因である。
【0098】
本明細書中に示されるようなDNA修復の欠損をモニターすることは、化学療法に加えて、標的特異的治療法に対する腫瘍の反応性を評価することを意味する。DNA修復経路(FA欠損)の分子をモニタリングすることによるDNA修復の変化と、他の経路の変化を同定することとのつながりをさらに評価するために、第2のDNA修復またはDNA損傷タンパク質の阻害剤とのインキュベーションを使用した。変化したDNA修復状態が既知である細胞が他の同定された経路のタンパク質の阻害に対して過敏である場合には、細胞が第2のタンパク質および経路に過剰に依存するようになることの暗示である。
【0099】
したがって、FA欠損とPARP1との間のつながりの同定もまた、PARP1阻害剤に対するこれらの細胞の過敏性を試験することによって試験した。FANCA欠損細胞を、レトロウイルス形質導入によって導入されたFANCA遺伝子で補われたFANCA欠損細胞と比較した。図34に示す実験においては、FANCA欠損細胞は、PARP1阻害剤である4−アミノ−1,8−ナフタリミドに対して特異的感受性があった。この知見は、DNA修復経路の変化(FAの欠損)の一例の評価を、別のタンパク質または経路の阻害剤の適用に直接使用できることを示している。この発見の適用は、腫瘍学における有用な治療用のストラテジーであろう。
【0100】
(実施例2)
FA経路とATM機能を同時に失うことは細胞にとって有毒である
興味深いことに、TP53BP1またはATMのノックダウンは、FA経路が欠損しているEUFA326細胞に対して選択的に毒性であり、EUFA326G細胞株と比較した場合には、それぞれ、60%および70%の相対的生存率を有していた(表3および図1B)。NBS1のノックダウンもまた、EUFA326細胞の選択的毒性を明らかにしたが、対照siGFPオリゴヌクレオチドを用いた場合と、生存性のSEMは重複していた(表3および図1B)。NBS1とTP53BP1は、二本鎖のDNAの断裂(DSB)に対するATMによって媒介される応答に関係していることがこれまでに報告されている。したがって、これらのデータは、FA経路が欠損している細胞におけるATM DSBシグナル伝達経路に対する過剰な依存性を示していた。
【0101】
FA経路が欠損している細胞にATM機能が必要であることを確認するために、EUFA326細胞株とEUFA326G細胞株に別のATM siRNAオリゴヌクレオチドをトランスフェクトした。図2は、FA経路とATM機能が合わせて失われることが細胞にとって有毒であることを示す。図2、パネルAの、ウェスタンブロットのレーン1および3と、グラフの棒1および3は、FA経路が欠損しているEUFA326細胞株を示す。ウェスタンブロットのレーン2および4と、72時間の生存性のグラフの棒2および4は、修正されたEUFA326G細胞株を示す。それぞれの細胞株を、対照であるGFP siRNA(レーン1および2)またはsiRNA標的化ATM(レーン3および4)で、72時間処理した。生存性は、個々の細胞株についてのsiRNA処理を行わなかった対照に対する割合(%)として表す。図2、パネルBにおいては、ウェスタンブロットのレーン1および3と、72時間の生存性のグラフの棒1および3は、ATM欠損AT22細胞株を示し、ウェスタンブロットのレーン2および4と、生存性のグラフの棒2および4は、AT22−ATM修正細胞株を示す。それぞれの細胞株は、対照であるGFP siRNA(レーン1および2)またはsiRNA標的化FANCG(レーン3および4)で72時間処理した。生存性は、個々の細胞株についてのsiRNA処理を行わなかった対照に対する割合として表す。図2、パネルCは、Fancg+/− ATM+/−異種交配マウスの子孫における遺伝子型の頻度のグラフによる提示を示す。黒色の棒は、それぞれの遺伝子型についての測定した頻度を示し、一方、白色の棒は、メンデル遺伝学によって計算した頻度を示す。
【0102】
スクリーニングの結果と一致して、EUFA326細胞株は、EUFA326G細胞株(GFPsi対照の75.5%の生存率)よりもATMノックダウン(GFPsi対照の54.9%の生存率)に対してより感受性が高かった(図2A)。FANCD2モノユビキチン化は、FA経路の活性化のマーカーである(Garcia−Higueraら、Mol Cell 7(2):249−262,2001)。EUFA326G細胞株においては、ATM siRNAでの処理により、GFPsi対照(図2A、レーン2)と比較してウェスタンブロッティングによって示されるように、FANCD2モノユビキチン化が生じ(図2A、レーン4)、このことは、FA経路が、外部からの遺伝子毒性のストレスがない場合にもなお、ATMの発現が失われることによって活性化されることを示している。
【0103】
FA経路が欠損している細胞は、ATMの発現を失うことを寛容できないので、逆もまた真であるかどうか、すなわち、ATM欠損細胞がFA経路の喪失に対して感受性があるかどうかを問うた。ATM欠損AT22細胞、および同系のATM修正細胞株を、siRNA標的化FANCGでトランスフェクトし、細胞の生存性を72時間で測定した(図2B)。ATM欠損細胞株は、修正された細胞株(GFPsi 対照の73.1%の生存性)よりもFANCGの喪失に対して感受性が高く(GFPsi対照の58.3%の生存性)、このことは、FA経路とATM機能の両方を同時に失うことが細胞にとって有毒であるとの仮説をさらにサポートしている。ATM上のセリン1981のリン酸化は、ATM活性化のマーカーとしてこれまでに報告されている(Bakkenist and Kastan,Nature 421(6922):499−506,2003)。FANCGに対するsiRNAでの処理によっては、GFP対照siRNAで処理した同じ細胞株(図2B、レーン2)と比較して、ウェスタンブロットによって測定した場合には、ATM修正細胞株においてATM自己リン酸化が生じた(図2B、レーン4)。これらの結果は、ATMがFA経路の喪失に応答して活性化されることを示していた。
【0104】
ガンの処置におけるDNA応答経路の標的化の確認が、2つのグループによって最近明らかにされている。これらの前臨床的実験においては、塩基除去修復の構成成分であるPARP1の阻害により、BRCA1とBRCA2が欠損している(したがって、相同組み換えが欠損している)細胞に対する特異的な毒性が生じたが、DNA修復の細胞構成成分に対しては小さな影響しか有していなかった(Bryantら、Nature 434(7035):913−917,2005;Farmerら、Nature 434(7035):917−921,2005)。
【0105】
FA経路の欠損は、多数の様々な腫瘍のタイプにおいて報告されており、したがって、別のDNA損傷応答経路の阻害が、FA経路の機能を失った細胞に対して選択的に毒性であり得るかどうかを問うた。siRNAスクリーニングアプローチによって、FA経路が欠損している細胞の生存に必要であるとして、ATM DNA損傷応答キナーゼを同定した。さらに、ATM欠損細胞は、FANCGの喪失に対して感受性があり、このことは、ATMとFA経路機能の両方を合わせて喪失することが細胞にとって有害であることを示している。興味深いことに、FA経路が欠損している細胞は、ATMの構成的活性化を有することが明らかであり、これは、細胞周期のS期の間に優性であった。ATMはFA経路が欠損している細胞の中で活性であったが、活性のレベルは放射線照射した細胞と比較した場合には、比較的低かった。これらのデータは、ATMの活性化を生じる内因性のDNAの損傷は比較的低レベルであり、ほとんどがDNA合成の間に生じることを示している。これは、FANCAまたはFANCD2について免疫枯渇状態にあるアフリカツメガエルの卵細胞が正常な細胞と比較して、DNA複製の間に自発的なDS DNAの断裂を高いレベルで有することを明らかにした最近の研究と一致している(Sobeckら、Mol Cell Biol 26(2):425−437,2006)。ヒトFA細胞株の中で観察された低レベルのATM活性化は、これらの自発的なS期でのDNAの断裂に応答すると予想される。siRNAによるATMの阻害によりFA経路が欠損している細胞において選択的な細胞死を生じることの観察は、このATMのS期活性化が、比較的低いにもかかわらず、細胞の生存に重要であることを示している。
【0106】
したがって、Atmキナーゼおよび他のDNA損傷シグナル伝達工程の阻害剤は、本発明に記載されるように、DNA修復およびDNA損傷応答経路の活性/枯渇を監視することを含む、生体マーカーストラテジーの取り込みにより、臨床で高い有用性を有し得る。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の調節ならびに/またはタンパク質レベルを同定するDNAR生体マーカーは、DNA修復および/またはDNA損傷シグナル伝達経路のうちの1つの1つ以上の標的タンパク質メンバーを阻害する薬物、ならびにそのような薬物のクラスと特に関係している。
【0107】
実施例2〜7に示すように、Atmの選択的阻害剤(例えば、小分子、ペプチド、治療用抗体、および他の生物製剤)は同様の結果を有するであろうと推測される。Atm阻害剤は、腫瘍学において処置の決定のために評価される臨床材料に対して適用される場合には、単剤療法として、または他の化学療法薬もしくは放射線治療との併用療法として、選択的有用性を有し得る。ファンコニ貧血経路についてのDNAR生体マーカーによって定義されているガンを有している患者は、Atm阻害剤に対して特に感受性があるかまたは耐性である患者のサブセットを同定することが期待されるであろう。DNA修復および損傷経路の1つ以上のDNA修復状態を理解することは、薬物のクラスの反応性対耐性の重要な決定要因である。
【0108】
(実施例3)
マウスのFancgとAtmの二重ノックアウトは胚性致死を生じる
ATM経路は、FANCD2のATMによって媒介されるリン酸化を通じた電離放射線処理後にFA経路に収斂することが知られている(Taniguchiら、Cell 109(4):459−472,2002)。したがって、FAおよびATM経路を、Fancg+/− Atm+/−マウスの異種交配によって研究した。一貫した観察は、Atm−/− Fancg−/−子孫の着床前の致死である(図2C)。表4は、メンデル遺伝学によって推定した頻度と比較した、交配させたFancG+/− Atm+/−マウス由来の子孫の遺伝子型の頻度を示す。興味深いことに、Fancg+/− Atm−/−先祖とFancg−/− Atm+/−先祖もまた、メンデル遺伝学によって予想されたよりも低い頻度を有していた(それぞれ、12.5%対16.47%、および8.54%対12.5%)。FANCG−/− ATM−/−マウスが生存できないこと(図2Eおよび表4)がさらに、FA経路が存在しない状況でのATMの機能の重要性を強調している。これらのデータは、siRNAスクリーニングと一致しており、細胞がATMとFA経路の機能の両方を失うことを寛容できないであろうことを示している。
【0109】
(実施例4)
FA経路が欠損している細胞は、DNAの断裂を防ぐためにATMの構成的な活性化を示す
FA経路が欠損している細胞のATM機能の喪失に対する感受性の根底にある機構もまた研究した。FA経路が機能性である細胞とFA経路が欠損している細胞の同系の対に由来するタンパク質を抽出し、ATMの自己リン酸化をウェスタンブロッティングによって測定した。
【0110】
図3は、FA経路が欠損している細胞がATMの構成的な活性化を示すことを示している。図3、パネルAは、FANCG欠損EUFA326細胞株(レーン1)と同系の修正された細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルBは、FANCC欠損EUFA426細胞株(レーン1)と同系の修正された細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルCは、FANCA欠損EUFA6914細胞株(レーン1)と同系の修正された細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルDは、FancG−/− MEF細胞株(レーン1)とFancG野生型MEF細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルEは、組み換え体p53上のセリン15に対する、FA経路が欠損しているEUFA326細胞とFA経路が完全であるEUFA326G細胞から免疫沈降させたATMのキナーゼ活性を比較するATMキナーゼアッセイを示す。図3、パネルFは、ベースライン(レーン1および2)と10Gyの電離放射線の照射の6時間後(レーン3および4)の、FA経路が欠損しているEUFA326細胞(レーン1および3)とFA経路が修正されたEUFA326G細胞(レーン2および4)の中でのATM自己リン酸化とFANCD2モノユビキチン化を評価するウェスタンブロットを示す。図3、パネルGは、ATMに対するsiRNAでのトランスフェクションの72時間後の、EUFA326G細胞に対してEUFA326細胞中でのDNA断裂を比較するCometアッセイを示す。パネル(i)は、Cometアッセイによって測定したDNA損傷のグラフによる記述を示す。Y軸は、DNA断裂の尺度であるcomet末端の長さを示す。黒色の棒はEUFA326細胞株を示し、白色の棒はEUFA326G細胞株を示す。棒1および2については、細胞を、対照である、GFPに対するsiRNAで処理した。棒3および4については、細胞を、ATMを標的化するsiRNAで処理した。SEMは、2回の実験での100回のカウントにより、それぞれの棒について示す。パネル(ii)は、72時間での、ATM siRNAで処理した326G細胞株の典型的な領域を示す。パネル(iii)は、72時間での、ATM siRNAで処理した326細胞株の典型的な領域を示す。
【0111】
それぞれの場合において、FA欠損細胞株EUFA326(FANCG欠損)、EUFA426(FANCC欠損)、EUFA6914(FANCA欠損)株は、同系の修正された細胞株であるEUFA326+FANCG、EUFA426+FANCC、EUFA6914+FANCA(図3A〜C、それぞれのブロットのレーン2)と比較して、ATMの構成的な活性化を示した(図3A〜C、それぞれのブロットのレーン1)。FANCD2のモノユビキチン化のベースラインレベルにより、対応するFA経路が欠損している細胞株と比較して、それぞれの修正された細胞株において正常なFA経路機能を確認した(図3A〜C、それぞれのブロットにおいてレーン1に対してレーン2を比較)。セリン1987でのAtmの自己リン酸化もまた、Fancg野生型マウスから採取したMEFSに対してFancg欠損マウスに由来する一次MEFSの中でのAtmの活性化の尺度として実験した(図3D)。ヒト繊維芽細胞株と一致して、Fancg欠損MEFSは、Fancg野生型MEFS(図3D、レーン1)と比較すると、Atmのベースライン活性化を有していた(図3D、レーン2)。Fancd2のベースラインのモノユビキチン化もまた、Fancg−/−細胞株と比較してFancg+/+MEF細胞において観察し、これは、野生型細胞における機能性のFA経路を示していた(図3D、レーン1に対してレーン2を比較)。
【0112】
FA細胞の中でのATMの構成的活性化をさらに確認するために、インビトロでのキナーゼアッセイを、EUFA326細胞株とEUFA326G細胞株から採取した溶解物中のATM活性について行った。ウェスタンブロットのデータと一致して、FANCG変異EUFA326細胞株から免疫沈降させたATMは、修正されたEUFA326G細胞株(図3E、レーン2)と比較して、組み換え体p53のATMによって媒介されるリン酸化の増加を示した(図3E、レーン1)。
【0113】
次に、FA経路が欠損している細胞のなかで観察されたATMの活性化が、ATM機能の異常調節が原因であるかどうかを問うた。ATMは、電離放射線によって強く活性化される。したがって、EUFA326細胞とEUFA326G細胞に10Gysの電離放射線を照射し、ウェスタンブロッティングによってATMの自己リン酸化を測定した(図3F)。FA経路が欠損している細胞株(EUFA326)と修正された細胞株(EUFA326G)のいずれにおいても、照射によっては、ATMの自己リン酸化の顕著な増大が生じ、このことは正常なATM活性化を示していた(図3F、レーン1および2をレーン3および4と比較)。興味深いことに、EUFA326細胞株は、修正された細胞株よりも大きなATM活性化を示し(図3F、レーン3と4を比較)、このことは、ATMがDNAの損傷後のFA経路機能の喪失を埋め合わせることができるモデルをサポートしている。
【0114】
ATMは、DNAの中の二本鎖の断裂(DSB)に対する応答に関係している。したがって、FA経路が欠損している細胞の中での構成的なATMの活性化が自発的なDNAの断裂の修復に必要であり得るかどうかを問うた。この疑問に着手するために、FANCG欠損EUFA326細胞株と修正されたEUFA326G細胞株をATMを標的化するsiRNA、または対照GFP配列で処理し、72時間後にそれぞれの細胞株について単細胞電気泳動(Cometアッセイ)を行った。それぞれの細胞株によるComet末端の平均の長さが、細胞1個あたりのDNA断裂の平均数の尺度である。対照siRNAを用いた場合には、EUFA326細胞株は、修正されたEUFA326G細胞株と比較して、2倍多い数のDNA断裂を示した。このことは、FA経路が欠損している細胞が、FA経路が機能的である細胞と比較して、より多量の自発的なDNA断裂を有することが報告された他の実験と一致する。ATMを標的化するsiRNAでの処理の後、EUFA326細胞株は、57.6%のDNA断裂の増加を有していたEUFAG細胞株と比較して、92.0%のDNA断裂の増加を示した。これらのデータは、FA経路が欠損している細胞の中での構成的なATMの活性化が、内因性のDNA損傷後のDNAの断裂の蓄積を防ぐためには不可欠であることを示している。
【0115】
(実施例5)
FA経路が欠損している細胞はATM阻害剤KU55933に対して感受性である
化合物KU55933がATMの高特異的競合ATM結合部位阻害剤であることが、最近報告されている(Hicksonら、Cancer Res 64(24):9152−9159,2004)。siRNAのデータの観点から、FA経路が欠損している細胞がこの阻害剤での処理に対して選択的に感受性であるはずであることが、この理由である。この仮説を試験するために、漸増用量のKU55933で処理した、FA経路が欠損している細胞株と修正された細胞株の同系の対の用量生存性曲線を比較した。図4は、FA経路が欠損している細胞がATM阻害剤KU55933に対して選択的に感受性であることを示している。標準誤差の棒を伴う3回の別々の実験による72時間の用量生存性曲線(未処理の対照に対する割合(%)として計算した)は、漸増濃度のKU55933に対する反応を比較する。図4、パネルAは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCC欠損EUFA426細胞(実線)を示す。図4、パネルBは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCG欠損EUFA326細胞(実線)を示す。図4、パネルCは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCD2欠損PD20細胞(実線)を示す。図4、パネルDは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCE欠損DF1179細胞(実線)を示す。図4、パネルEは、Fancg+/+ MEF細胞(点線)に対してFancg−/− MEF細胞(実線)を示す。図4、パネルFは、同系のFANCCが修正された細胞株(レーン1および2)に対してFANCC変異体EUFA426細胞(レーン1および2)の中のコロニーの数を比較する、14日のコロニーカウントアッセイを示す。レーン1および3は、未処理の対照を示す。レーン2および4は、播種の前に10μMのKU55933で24時間処理した細胞を示す。コロニー数は、それぞれの細胞株について、未処理の対照に対する割合(%)として示す。実験を3回繰り返し、平均の標準誤差をそれぞれのデータのセットについて示す。図4、パネルGは、FANCC変異体EUFA426細胞株(レーン1および3)と同系のFANCCが修正された細胞株(レーン2および4)の中でのFANCD2のモノユビキチン化、ATMの自己リン酸化、およびH2AXのリン酸化を比較するウェスタンブロット示す。レーン1および2は、未処理の対照を示す。レーン3および4は、10μMのKU55933で24時間処理した細胞を示す。KU55933に対するFancG−/− MEFの感受性もまた、野生型MEFと比較して試験した。それぞれの場合において、FA経路が欠損している細胞株は、KU55933に対して高い感受性を示した。それぞれの場合のKU55933についての有効用量の範囲は5μMから20μMの間であり、これは、特異的なATMの阻害についての以前に公開された濃度範囲に相当していた(Hicksonら、2004)。
【0116】
FA経路が欠損している細胞において観察されたKU55933に対する感受性がアッセイ依存性ではないことを確認するために、コロニーカウントを、FANCC変異体細胞株と修正されたEUFA426細胞株を使用して行った。この細胞株は、これが低密度で播種された場合にははっきりと見えるコロニーを形成するとの理由から選択した。それぞれの細胞株を10μMのKU55933で24時間処理し、その後、細胞をコロニーカウントアッセイのために播種した。14日後、FANCC変異体細胞株は、FA経路の能力が高いEUFA426C細胞株と比較して、コロニーのおよそ50%の減少を示した(図4F)。
【0117】
EUFA426細胞とEUFA426C細胞をコロニーカウントアッセイのために播種したのと同時に、一定の割合をウェスタンブロッティングによるATMおよびFANCD2活性の分析のために回収した。KU55933での処理の後は、ATMのリン酸化はもはやEUFA426細胞株の中では観察されず、これは完全な阻害と一致していた(図4G、レーン1および3を比較)。興味深いことに、H2AXのリン酸化もまた減少し、これは、ATMがFA経路が欠損している細胞の中でのH2AXのリン酸化を主に担っていることを示している(図4G、レーン1および3を比較)。FA経路が機能的であるEUFA426C細胞株の中でのFANCD2のモノユビキチン化の増加もまた、未処理の対照(図4G、レーン2)と比較して、KU55933での処理の後に観察された(図4G、レーン4)。この結果は、FA経路がKU55933によるATM活性の阻害後に活性化されることを示している。
【0118】
最近まで、ATMの薬理学的阻害は、ATRおよびDNA−PKをもまた標的化するWortmaninのような薬物を用いた場合には、比較的非特異的であった。最近、特異的ATM阻害剤であるKU55933が開発され、有効濃度でのこれらの的外れな作用を示さないことが報告されている(Hicksonら、2004)。この薬物がFA経路が欠損している細胞に対して選択的に毒性であり得るかどうか、それにより、FA経路が欠損している腫瘍についての可能な処置ストラテジーが提供されるかどうかを問うた。試験したFA細胞株においては、FA経路機能の喪失はKU55933に対して細胞を特異的に感作させ、このことは、この化合物が治療的役割を有している可能性があることを示唆していた。
【0119】
KU55933でのFA経路が欠損している細胞の処理によっては、修正された細胞株と比較して、顕著な染色体の断裂が生じた。これらの染色体の断裂は、ほぼおそらく、S期の間に修復されなかったDS DNAの断裂の残留を示している。興味深いことに、FA経路の能力が高い細胞株においては染色体の断裂の証拠は存在せず、このことは、FA経路がDS DNAの断裂を伴わずに効率よくフォークを修復し、それによってATMの必要性をなくしたか、あるいは、FA経路がATMとは無関係にDS DNAを修復できたかのいずれかを示唆している。第2の仮説のサポートにおいては、FA経路の高い活性が、FANCD2のモノユビキチン化の増大によって測定されるように、KU55933での処理後にFA経路が完全である細胞の中で観察された。
【0120】
まとめると、これらのデータは、FA経路が欠損している細胞に対するKU55933によって媒介される細胞毒性の特異性を示している。ガン治療に関して、これは、これがATM阻害剤についての正常細胞とガン細胞との間での可能な治療ウィンドウを示すとの理由から期待されている。さらに、腫瘍組織の中でのFANCD2のモノユビキチン化の喪失または構成的なATMの活性化の存在の同定により、このタイプの処置について患者を選択するための有用な生体マーカーが示され得る。
【0121】
(実施例6)
KU55933での処理はFA経路が欠損している細胞において染色体の断裂と細胞死を生じる
ATMは主に二本鎖DNAの断裂に応答し、そして上記データはFA経路が欠損している細胞の中での必要性を示していたので、これらの細胞がKU55933での処理の後に染色体の断裂を示す場合があると仮定した。このことを試験するために、FANCE変異体リンパ芽球細胞株(EUFA1179)と修正されたリンパ芽球細胞株(EUFA1179E)を使用した。FANCE修正細胞株EUFA1179については、FANCE変異体EUFA1179細胞株と比較して、マイトマイシンCによって誘導された染色体の断裂の完全な修正が明らかになり、このことは、FA経路の完全な修正を示している。したがって、これらの細胞株は、KU55933での処理の後のゲノムの安定性に対するFA経路の状態の影響を測定するためには理想的であった。
【0122】
図5は、KU55933での処理が、FA経路が欠損している細胞においては選択的な染色体の断裂と細胞死を生じることを示す。図5、パネルAは、20μMのKU55933での処理の0時間後、24時間後、および48時間後の有糸分裂中期スプレッド(metaphase spread)について測定した、細胞1個あたりの染色体断裂の数のグラフによる提示を示す。黒色の棒は、FANCE欠損EUFA130細胞株を示す。白色の棒は、同系のFANCE修正細胞株を示す。平均値は、3回の別々の実験から計算し、SEMをそれぞれの棒について示す。図5、パネルBは、20μMのKU55933での処理の前(パネル1)と処理の72時間後(パネル2)の、同系のFANCE修正細胞株に対するFANCE欠損EUFA130細胞株の細胞周期プロフィールを示している、ヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーを示す。平均の割合は3回の別々の実験から計算し、SEMをそれぞれの値について示す。図5、パネルCは、KU55933での処理の0時間後、24時間後、48時間後、および72時間後に2N未満のDNAを含んでいる細胞(sub−G0集団)のグラフによる提示を示す。黒色の棒はFANCE欠損EUFA130細胞株を示す。白色の棒は同系のFANCE修正細胞株を示す。平均の割合は3回の別々の実験から計算し、SEMをそれぞれの棒について示す。
【0123】
それぞれの細胞株を20μMのKU55933で24時間、および48時間処理し、染色体の断裂を、有糸分裂中期スプレッドについて顕微鏡によって評価した(図5A)。処理前は、修正されたEUFA1179E細胞株と比較して、EUFA1179細胞株においては少数ではあったが、より多数の細胞1個あたりの染色体の断裂が観察され(0.005(SEM 0.005)と比較して0.080(SEM 0.02))、これは、FA細胞について以前に報告された自発的な染色体の損傷と一致した。KU55933での処理の24時間後および48時間後には、EUFA1179細胞株は、細胞1個当たりの染色体の断裂において、9倍(0.710(SEM 0.110))および12倍(1.060(SEM 0.060))の増加を示したが、EUFA1179E細胞株は、染色体の断裂に関してベースラインから有意な変化はなかった。
【0124】
次に、KU55933が細胞周期効果により、FA経路が欠損している細胞におけるその選択的毒性を発揮できるかどうかを問うた。EUFA130細胞株とEUFA130E細胞株は、これらがベースラインで同程度のプロフィールを有しているので、細胞周期の分析に有用である(図5、パネルB1)。それぞれの細胞株をKU55933で処理し、細胞周期プロフィールを、ヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーを使用して、24時間後、48時間後、および72時間後に測定した。24時間では、それぞれの細胞株は、G1期に同程度の中度の蓄積を示した。しかし、それよりも遅い時点では、FANCE変異体EUFA130細胞株は、EUFA130E細胞株と比較して、2N未満のDNA含有量を有している細胞(sub−G0集団)の蓄積の増大を示した(72時間の時点を図5、パネルB2に示す)。このsub−G0集団は細胞死を示し、そしてEUFA130細胞株とEUFA130E細胞株における、Ku55933での処理の24時間後、48時間後、および72時間後をグラフで示す(図4C)。それぞれの時点で、FA経路が欠損しているEUFA130細胞株は、EUFA130E細胞株よりも有意に多い細胞死を示した。まとめると、これらのデータは、FA経路が欠損している細胞の中でのATMの阻害が、壊滅的なDNAの損傷を生じ、結果として細胞死を導くことを示している。
【0125】
(実施例7)
ATMとFA経路との関係
図6は、FA経路とATMが、DNA複製が行き詰った後に互いにどのようにして補い合うことができるかのモデルを示す。図6、パネルAは、内因性のDNA損傷により、複製フォークの行き詰まりを引き起こすDNAの断裂が生じることを示している。フォークの行き詰まりに応答して、ATRは、DNA修復経路をコーディネートするFA経路を活性化させ、それにより、DNA合成を再度確立させる。ATMはまた、DNA複製フォークが行き詰まった二本鎖DNAの断裂を検出することもでき、おそらくは、細胞周期の調節とDNA修復における役割を通じて、FA経路とは無関係にDNA合成を再度確立させることができる。図6、パネルBは、機能性のFA経路が存在しない場合には、細胞は、複製フォークの行き詰まりを修復するためにはATM依存性の経路に頼ることを示している。図6、パネルCは、FA経路が欠損している細胞の中でATM機能が失われている場合には、行き詰まったDNA複製を再度確立するための機構が存在せず、それにより壊滅的なDNAの損傷と死が生じることを示している。
【0126】
図6、パネルAは、内因性の損傷によりDNAの断裂が生じる正常な細胞を示している。DNAの断裂は、ATRを活性化させ、その後、FA経路を活性化させるDNA複製フォークの行き詰まりを引き起こす。FA経路は、その後、フォークを安定化させ、その修復をコーディネートする。別のATMによって媒介される経路もまた存在している。この経路においては、ATMは、フォークが行き詰まったDS DNAの断裂を検出し、細胞周期を停止させている媒介因子であるタンパク質をリン酸化して、修復する。図6、パネルBは、FA経路が欠損している細胞の中での事象の順序を示す。これらの細胞の中では、行き詰まったフォークは主に、ATMに依存する経路によって修復される。DNA複製フォークの行き詰まりに応答するATMの実際の役割は明らかではないが、これは、DNA損傷応答のチェックポイントを活性化させることができ、それにより、相同組み換えまたは非相同末端結合による効率的な修復のための時間を提供することができる。最近のデータもまた、ATMがArtemisのリン酸化により、NHEJに対して直接的なシグナル伝達の役割を有している可能性があることを示唆している(Riballoら、Mol細胞16(5):715−724,2004)。興味深いことに、FA経路が欠損している細胞は、修正された細胞(図4G、レーン2)と比較してH2AXのリン酸化の増加を示した(図4G、レーン1)。KU55933はこのH2AXのリン酸化を阻害した(図4G、レーン3)。H2AXは、ATM、ATR、およびDNA−PKによってリン酸化され得る。このデータは、ATMが主に、FA経路が欠損している細胞の中の崩壊した複製フォークに応答するH2AXのリン酸化に関係していることを示している。
【0127】
ATMによって媒介される経路は、FA経路が存在しない場合にはあまり有効ではない可能性があり、これは、FA細胞の中で見られる散発性の染色体の断裂の主な原因となるが、細胞の大部分が生存することを可能にするには十分である。しかし、FA経路が欠損している細胞に対するKU55933の添加(図6、パネルC)によっては、ATMによって媒介される経路が阻害され、これにより、行き詰まったフォークの修復の機構がないままとなってしまう。これにより、DS DNAの断裂が残ったままとなり、染色体の損傷、そして最終的には細胞死が生じる。マウスモデルにおいては、ATM FANCG二重ノックアウト胚の死は、壊滅的なDNA損傷が原因で極めて早い段階で起こると予想される。
【0128】
(実施例8)
Fancd2、Pkrdc、およびMlh1の分析
いくつかの遺伝的実験を、Fancd2/Pkrdc、Fancd2/Rad52、Fancd2/Mlh1ノックアウトマウスの作成に続いて行った。雄と雌のいずれのFancd2−/−マウスも生殖能力がなく、15〜18ヶ月で上皮腫瘍の発症を示した。わずかな出生率の低下もまた、いくつかの株のバックグラウンドについて観察された。Fancd2/Pkrdcマウスは胚性致死ではなく、生まれた時には正常なメンデル比を示し、そして特筆すべき成体の表現形は示さなかった。
【0129】
本発明者らの発見をさらに裏付けるために、二重変異体マウスに420radsの電離放射線を照射した。11匹のSCIDマウスのうちではわずかに3匹しか同じ線量では死亡しなかったが、3匹の二重変異体マウスのうちの3匹がIRの投与後に極めて迅速に死亡し、このことは、Fancd2がIRによって誘導されるDNA損傷の修復においてNHEJとは異なる経路において機能することを示している(図7)。これらの結果は、二重変異体マウスが高い放射線感受性を有していることを示している。
【0130】
DSBの修復におけるFancd2の役割を調べるために、本発明者らは、SCIDマウスに対してFancd2ノックアウトマウスを交配させた。SCIDマウスは、NHEJに必要なタンパク質であるDNA−PKの触媒サブユニットをコードする遺伝子の中のナンセンス変異が原因で、NHEJの中に欠損を有している。野生型、二重変異体細胞、SCID細胞、および単一変異体Fancd2細胞を、漸増量のIR後に細胞増殖アッセイにおいて比較した。Fancd2細胞と野生型細胞は、漸増量のIRに対して特に感受性ではなかったが、SICD細胞は感受性があった(図8)。興味深いことに、二重変異体細胞はSCID細胞よりも感受性があり、これは、Fancd2が、NHEJとは異なるDSB応答経路において機能することを示している。
【0131】
同じ遺伝子型を、漸増量の光活性化ソラレンに対して暴露させた。SCID細胞は野生型細胞よりも大きな感受性はなかったが、二重変異体はSCID細胞と同じ程度の感受性があった(図9)。これらの結果は、NHEJがICLの修復においてはほとんど役割を果たしていないか、全く役割を果たしていないことを示している。
【0132】
図7〜9の結果は、NHEJが、ICLの修復においてはほとんど役割を果たしていないか、全く役割を果たしていないことを示している。これらの結果はまた、Fancd2が、IRによって誘導された損傷の後に、インビトロおよびインビボのいずれにおいても、NHEJとは異なるDNAの損傷応答経路において機能すること:Fancd2が制限酵素によって誘導されたDSBの修復において機能すること、ならびに、Fancd2が、ICL修復の間に、DSB形成の後の相同組み換え工程を制御するように機能し得ることも示している。
【0133】
Fancd2/Mlh1マウスは胚性致死ではなく、生まれたときには正常なメンデル比を示し、その寿命のうちの遅い時期に腫瘍(例えば、腸の、または白血病)を発症する。Fancd2/Mlh1交配マウスは、1/16の確率で二重変異体を生じると予想される。しかし、二重変異体は得られなかった。具体的には、73の胚を回収し、6の二重変異体が得られると予想して、ED15で培養した。二重変異体は観察されなかった。40の胚を回収し、ED12で培養した場合も、二重変異体は観察されなかった。
【0134】
Mlh1の誘導性のノックダウンをヒトFA−A繊維芽細胞の中で行い、DOXによって誘導されるshRNA(shMlh1AおよびshMlh1B、またはそれらの組み合わせ)の発現を試験した。図10の免疫ブロットの結果は、shMlh1AとshMlh1Bの組み合わせがMlh1タンパク質の発現を効率よくサイレンシングさせたことを示している。図11は、96ウェル増殖アッセイにおける、DOXでの処理の後にshMlh1AとshMlh1Bの組み合わせで処理した細胞の増殖の低下をグラフで示している(n=4)。Mlh1の役割をさらに評価するために、HeLa細胞をMlh1 siRNAで72時間トランスフェクトし、その後、10μMのシスプラチンを伴って、または伴わずに24時間処理した(図12)。これらの結果は、Mlh1 siRNAでの誘導とシスプラチンでの処理の後のFancd2のモノユビキチン化を示している。IRが様々なDNA損傷を誘導するので、Fancd2 cDNAでレトロウイルスによって修正した二重変異体と二重変異体細胞を、PVUIIでエレクトロポレーションした。PVUIIは、平滑末端DSBを生じる制限酵素である。このコロニー形成アッセイは、二重変異体細胞のコロニー形成能力が低下していることを示していた(図13)。タンパク質を取り込む細胞の能力についての対照として、両方の遺伝子型をGFPでエレクトロポレーションした。図14のFACS分析によって示されるように、いずれの遺伝子型も、GFPを取り込むそれらの能力についてはほぼ等しく、これは、PvuIIエレクトロポレーション後の低下したコロニー形成能力が、修正されていない細胞の中でのタンパク質の取り込みの増加が原因ではないことを示している。
【0135】
図10〜14の結果は、Mlh1によって媒介されるS期チェックポイントが、FA変異体細胞の生存に必要であることを示している。これは、Atmによって媒介されるMlh1のリン酸化の結果である可能性がある。しかし、p53の欠失もまた、このチェックポイントを無効にしてしまうが、これは合成致死(synthetic lethal)ではない。結果はまた、組み換えを抑制することができないことにより、細胞分裂異常(mitotic catastrophe)(欠失、転座など)が生じることも示している。Fancd2/Mlh1二重変異体は、初期胚性致死であり、Fancd2−/−/Mlh1+/−とFancd2+/−/Mlh1−/−は少ない(underrepresented)。FANCA繊維芽細胞の中でのMlh1の誘導性のノックダウンは、MMC感受性を有意に増大させることが示されている。この結果は有意である。ヒト結腸ガンのうちの20〜25%が、Mlh1のサイレンシングが原因であるマイクロサテライト不安定性を有するので、FA経路の阻害剤は結腸の腫瘍を特異的に標的化できるからである。
【0136】
(実施例9)
2つの保存されている部位でのFANCEのリン酸化がMMC耐性には必要である
FA/BRCA経路におけるChk1の役割を試験するために、11個のFAタンパク質の一次アミノ酸配列を、Chk1リン酸化コンセンサス配列(−7(Leu/Arg)−6(Xaa)−(Leu/疎水性/Arg)−4(塩基性/Val)−3(Arg/Lys)−2(Tyr/Xaa)−1(Xaa)Ser+1(Phe/Met/疎水性)についてスキャンした(A、B、C、D1、D2、E、F、G、L、M、J)。2つの高度に保存されているリン酸化部位:Thr346とSer374を、FANCEタンパク質のカルボキシ末端領域の中で同定した(図19A)。これらの推定されるリン酸化部位の機能的関係を決定するために、それぞれの部位を、全長のFANCEタンパク質の中で個別に、または組み合わせてのいずれかで変異させた。患者に由来するFA−E細胞株、EUFA130リンパ芽球、およびDF1179線維芽細胞を、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)、変異体FANCE(FLAG−T346AまたはFLAG−S374A)、あるいは、二重点変異体FANCE(FLAG−TS/AA)(図19B)のいずれかをコードするcDNAでレトロウイルス形質導入した(図25)。FLAG−FANCEwtを発現している細胞はMMC耐性であったが、二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を発現している細胞は、MMCに対して過敏なままであった。FANCEの単一点変異体を発現している細胞は、ほとんどMMC感受性を示さなかった(図9B)。
【0137】
FANCD2のモノユビキチン化を回復させるFANCE変異体タンパク質の能力を試験した(図19C)。先に記載したように、FLAG−FANCEwtはFANCD2のモノユビキチン化を回復させ(図19C、レーン6〜10)、そして、IRによって生じたDNA損傷は、FANCD2のモノユビキチン化をさらに活性化させた。二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)もまた、FANCD2のモノユビキチン化を回復させた。二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を発現している細胞は、FANCD2のモノユビキチン化について高い基底レベルを有しており(図19C、レーン11と6を比較)、DNA損傷後にはさらなるFANCD2のモノユビキチン化を示すことはできなかった(図19C、レーン11〜15)。
【0138】
二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を発現しているFA−E細胞の中でのFANCD2核焦点のアセンブリ(図19D、E)を決定した。FANCEの野生型と二重変異体(FLAG−TS/AA)はいずれも、FANCD2焦点の形成を回復した(図19D)。FANCEタンパク質の二重変異体(FLAG−TS/AA)を発現している細胞は、FANCD2焦点について高い基底レベルを有しており、DNA損傷後にFANCD2焦点をアップレギュレートすることはできなかった(図19E)。したがって、FANCD2のモノユビキチン化のレベルと関係している(ウェスタンブロットによる、図19C)。まとめると、これらの結果は、FANCE上のThr346とSer374のリン酸化は、FANCD2のモノユビキチン化と焦点形成には必要ないが、MMC耐性には必要であることを示唆している。
【0139】
(実施例10)
インビトロおよびインビボでのChk1によるFANCEのリン酸化
Chk1がFANCEを直接リン酸化するかどうかを決定するために、2つの高度に保存されているスレオニンとセリンの、インビトロでのChk1によるリン酸化を試験した。FANCEの様々な領域を含むグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)ペプチド融合タンパク質(図20A、左側のパネル)を作成した。Thr346もしくはSer374、または両方の残基のいずれかを含む3種類のGSTペプチド融合タンパク質(332−365)WT、(349−382)WT、および(332−382)WT(しかし、ThrからAla、もしくはSerからAlaの単一変異または二重変異を有しているGST融合タンパク質ではない)を、インビトロでChk1によってリン酸化させた(図20A、右のパネル)。
【0140】
Chk1によるT346およびS374でのFANCEのリン酸化をさらに実験するために、ウサギのポリクローナル抗血清を、推定されるリン酸化された残基を含むFANCEペプチド:SDLGLLRLCpT(346)WL(抗pT346)に対して、またはLFLGRILpS(374)LTSS(抗pS374)に対して作成した。精製した組み換え体であるFANCEタンパク質の野生型(rFANCEwt)または二重変異体(rTS/AA)をChk1とともに、または2つの関連するチェックポイントキナーゼChk2およびMAPKAP2(MK2)とともに、インビトロでインキュベートした(図20B)。FANCEについての抗ホスホ抗体(抗pT346および抗pS374)は、インビトロで、Chk1によりリン酸化された組換え体FANCEタンパク質(rFANCEwt)を特異的に認識した(図20B、レーン3)。組み換え体FANCE(rFANCEwt)は、インビトロでは、Chk2またはMAPKAP2によってはリン酸化されなかった(図20B、レーン4および5)。抗体の特異性は、FANCEの二重変異体タンパク質(rTS/AA)およびGSTとの反応性がないことによって明らかであった(図20B、レーン6〜15)。
【0141】
その後、FANCEが、DNA損傷の後でインビボでリン酸化されるかどうかを決定した(図20C)。FANCEの2つの抗ホスホ抗体(抗pT346,抗pS374)を使用して、FLAG−FANCE免疫複合体を、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)または二重変異体(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞から免疫ブロットした。FA/BRCA経路の強力な活性化因子であるUV線への細胞の暴露の後、抗pT346抗血清と抗pS374抗血清はFANCEwtを検出したが、二重変異体タンパク質(TS/AA)を検出することはなかった。まとめると、これらの結果により、抗体の特異性と、これらの2つの残基のDNA損傷によって誘導されるリン酸化を確認した。
【0142】
免疫蛍光試験を使用して、Chk1によるFANCEのインビボでのリン酸化を明らかにした。抗pT346抗血清は、DNA損傷に対する細胞の暴露の後で、修正されたFA−Eリンパ芽球(EUFA130+FLAG−FANCE)の中の活性化されたFANCEタンパク質を検出したが、ベクターおよび二重変異体(TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞の中では検出することはなかった(図20D、左のパネル)。興味深いことに、抗pT346抗体によって検出されたリン酸化されたFANCEタンパク質は、DNA損傷によって誘導される核焦点にアセンブリしていた(図20D、図S2、AおよびB)。UVもまた、HeLa細胞の中でpT346−FANCE焦点を活性化させ、ATRに特異的なsiRNAまたはChk1は、UV誘導性のpT346−FANCE焦点を減少させた(図20、D〜E)。Chk1阻害剤(Goe6976またはSB218078)での前処理によっては、UV暴露後のpT346−FANCE焦点の形成が減少した(図26、CおよびD)。
【0143】
(実施例11)
Chk1のsiRNAノックダウンによりFANCD2のモノユビキチン化とFANCD2焦点について高い基底レベルが生じる
DNA損傷後のFANCD2のモノユビキチン化とFANCD2焦点形成に対する、Chk1のsiRNAノックダウンの効果を試験した(図21)。Chk1のsiRNAノックダウンは、FANCD2焦点形成(図21A)とFANCD2のモノユビキチン化(図21B、レーン4)についての基底レベルの上昇を生じた。FANCD2のモノユビキチン化と核焦点の形成は、DNA損傷後にさらに増大することはなかった(図21B、レーン4〜6、および図21C)。これらの結果は、Chk1活性の破壊がFANCE(TS/AA)二重変異体の細胞性の表現形を模倣することを示している。
【0144】
(実施例12)
FANCD2焦点とホスホ−T346−FANCE焦点の共局在
DNA損傷後のホスホ−T346−FANCE焦点とFANCD2焦点のアセンブリを試験した(図22)。未処理のHeLa細胞は、ホスホ−T346−FANCE焦点も、またFANCD2焦点も示さなかった(図22A)。UV線によるDNAの損傷は、30分までにT346でのFANCEのリン酸化と焦点形成を活性化させ、これらの焦点は8時間後を超えると観察されなかった。FANCD2焦点は、UV後30分で蓄積し始め、8時間でピークに達した。ホスホ−T346−FANCE焦点形成とFANCD2焦点形成の速度論を図22Bにグラフに示す。二重染色は、pT346−FANCE焦点とFANCD2焦点は一緒に局在化するが(図22C)、異なる速度論を示すことを明らかにした(図22B)。
【0145】
(実施例13)
Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化はMMC耐性に必要であるが、DNA複製または正常な細胞周期の進行には必要はない
最近の実験は、FAコア複合体がさらに別の複製とチェックポイントの活性を有しており、これらはFANCD2のモノユビキチン化とは連動していないことを示している。Chk1によるFANCEのリン酸化が正常なS期への進行に必要であるかどうかを調べるために、本発明者らは、DNA複製とS期への進行を回復する、FANCE野生型(FLAG−FANCEwt)または二重変異体(FLAG−TS/AA)の能力を比較した(図23AおよびB)。MMC処理の24時間後、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)を発現しているFA−E細胞(EUFA130)または二重変異体(FLAG−TS/AA)を発現しているFA−E細胞(EUFA130)はいずれも、DNA複製については同じように完全な能力があり、S期後期およびG2期の細胞周期に蓄積していなかった。予想したとおり、空のベクターを含むFA−E細胞は停止しており、S期後期とG2基に蓄積しており、そしてDNA合成の減少を示した(図23AおよびB)。さらに、二重変異体タンパク質(FLAG−TS/AA)はFAコア複合体を安定化させ、FANCD2のモノユビキチン化を回復した(図19C)。
【0146】
FANCEの二重変異体が、FA−E細胞株の中で発現された場合に、MMCによって媒介される細胞死を防ぐことができるかどうかを試験した。細胞死は核の断片化を生じる(sub−G1集団)。そして、これを、MMC処理の後にフローサイトメトリーによって評価した。図23Cに示すように、同等のレベルのsub−G1細胞が、空のベクターを安定に発現しているFA−E細胞とFANCEの二重変異体(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞の中に、MMC処理後に存在していた。対照的に、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)で修正されたFA−E細胞は、断片化された核を有している細胞について有意に低い割合を示した。これらの結果は、FANCEの二重変異体(FLAG−TS/AA)を含む完全なFAコア複合体は、FA−E細胞の細胞周期異常を修正できるが、MMCに対する耐性を与えることはできないことを明らかにしており、これにより、Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化が架橋耐性(crosslinker resistance)に必要であることが確認される(表5)(図22D)。
【0147】
(実施例14)
Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化はFANCEの分解を促進する
DNA損傷後のホスホ−FANCE−T346焦点の消滅(図22A)は、FANCEが調節されたタンパク質分解を受けるであろうことを示唆していた。この仮説を試験するために、本発明者らは、UV損傷後のFANCEの細胞性レベルを試験した(図24A)。わずか30分後に、Chk1の活性化とFANCD2のモノユビキチン化が観察された(図24A、レーン2)。4時間から6時間までに、FANCD2のモノユビキチン化は最大となり、FANCEレベルは低下し(図24A、レーン4〜6)、そしてFANCEの分解もまた、UV線量依存性の様式で観察された。
【0148】
HeLa細胞を、二重のチミジンブロックでG1期−S期境界に同調させ、DNA損傷による処理の1時間前にS期へと細胞を解放した。FANCEタンパク質のレベルは、遺伝子毒性ストレス(UV、HU、MMC、またはシスプラチン)がDNA複製を受けている細胞に与えられた場合には、有意に低下した(図24B、レーン2〜5)。UV誘導性のFANCEの分解はまた、U2OS、GM0637、およびHEK293T細胞を含む他の細胞株においても観察された(図27B)。
【0149】
Chk1依存性のリン酸化がFANCEの安定性を調節するかどうかを試験した(図24C)。野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)または二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E(EUFA130)細胞を試験した。UV処理後、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)は分解されたが(図24C、レーン3と4を比較)、二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)は安定であった(図24C、レーン5と6を比較)。
【0150】
FANCEの分解におけるユビキチン−プロテオソーム経路の役割(図24D)を試験した。細胞を、プロテオソーム阻害剤であるMG132の存在下、またはそれが存在しない条件下で、UVで処理した。MG132処理は、FANCEのUV誘導性の分解をブロックした(図24D、レーン3)。HA−ユビキチン構築物をコードするcDNAを、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)または二重変異体(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているU2OS細胞に一時的にトランスフェクトした。FLAGタグ化FANCEを免疫沈降させ、抗HA抗体と抗FLAG抗体で免疫ブロットした。UVへの暴露の後、FLAG−FANCEwtのポリユビキチン化産物の高分子量のラダーは、UVへの暴露によって大幅に増加し(図24E、レーン8)、これは、空のベクターまたは二重変異体(FLAG−TS/AA)を発現している細胞の中には存在しなかった(図24E、それぞれ、レーン7および9)。このことは、DNA損傷後には、FANCEのリン酸化がそのポリユビキチン化へと進行することを示している。まとめると、これらの結果は、Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化はユビキチンによって媒介されるFANCEの分解を促進することを示している。FANCEの分解に必要な特異的なE3ユビキチンリガーゼ複合体は判らないままである。
【0151】
(実施例15)
Chk1阻害剤で処理したヒト細胞はファンコニ貧血経路の高い活性を示す
ファンコニ貧血経路の活性は、分子レベルでFANCD2のモノユビキチン化を評価することによってモニターすることができる。ヒトHeLa細胞は、多くの基準により、実行可能なFA−HR経路を有することがこれまでに示されている。阻害剤であるG06976でこれらの細胞を処理することによる、HeLa細胞に対するChk1阻害剤の効果を試験した。処理後、HeLa溶解物を、FANCD2抗体での免疫ブロッティングによって試験した(図28)。大きな移動度のFANCD2−Lバンドは、FANCD2のモノユビキチン化形態である。より移動度の小さいバンドがユビキチン化されていないFANCD2である。G06976で処理したHeLa細胞は、高いレベルのFANCD2−モノユビキチン化を示し、これは、Chek1の阻害により、FA−HR経路に対するこれらの細胞の依存性の増大が導かれることを示している。
【0152】
(実施例16)
FA細胞は、Chk1 siRNAの枯渇によるChk1の阻害に過敏である
EUFA426ヒト細胞は、ファンコニ貧血患者から単離されたFANCC欠損細胞である。これまでの実験で、これらの細胞は分子レベルでFANCCタンパク質が欠損しており、遺伝子毒性の要因および照射による様々なDNA損傷ストレスの後のFANCD2のモノユビキチン化のブロックを含む、ファンコニ貧血−相同組み換え(FA−HR)DNA修復経路において下流の工程を活性化させることができないことが明らかになった。FANCC遺伝子レトロウイルスで補われたEUFA426レベルは、FANCCレベルを回復させ、そして遺伝子毒性のストレスおよび照射に対するこれらの細胞の過敏性を補うことが観察された。
【0153】
EUFA426細胞とEUFA426+C細胞を、これまでの実験での標準的なプロトコールにしたがってChk1キナーゼのsiRNAでトランスフェクトした。対照のために、同じ細胞を、対照であるLacZ siRNAでもまたトランスフェクトした。細胞の生存性を、LacZ siRNAおよびChk1 siRNAを用いた場合と比較して、トランスフェクトしなかった細胞(対照)についてスコアした。EUFA426細胞は、Chk1 siRNAでのトランスフェクションの後に、低い生存性を有していたことが明らかになった(図29)。EUFA426+C細胞(FANCCレベルが回復した)を用いた場合には、Chk1 siRNAの存在下での細胞の生存性のレベルは有意に高くなった。したがって、FANCC欠損細胞は、siRNAの枯渇によるChk1キナーゼ活性の喪失に対して選択的に過敏である。
【0154】
(実施例17)
FA−HR欠損細胞はChk1の阻害に過敏である
ファンコニ貧血欠損細胞の感受性もまた、既知のChk1キナーゼ阻害剤であるG06976を用いて試験することによって試験した。この実験においては、FANCG相補グループの遺伝子が欠損していることが公知であるファンコニ貧血患者から単離したEUFA326細胞を評価した。加えて、レトロウイルス形質導入によりFANCGで補ったEUFA326細胞を比較した。これまでの実験は、免疫ブロッティングによって、これらの細胞はFANCGタンパク質が欠損していること、そして、遺伝子毒性の要因および照射による様々なDNA損傷ストレスの後のFANCD2のモノユビキチン化のブロックを含む、ファンコニ貧血−相同組み換え(FA−HR)DNA修復経路の下流の工程を活性化できないことが明らかにした。FANCG遺伝子レトロウイルスで補われたEUFA326レベルは、FANCGレベルを回復し、そして遺伝子毒性ストレスまたは照射に対するこれらの細胞の過敏性を補うことが観察された(図30)。
【0155】
EUFA326(FANCG欠損)細胞とEUFA326+G(FANCG相補)細胞を、Chk1阻害剤に対する感受性について試験した。細胞の生存性の決定においては、EUFA326細胞は、全ての用量でEUFA326+G細胞と比較して、Chk1阻害剤G06976に対して過敏であった。
【0156】
(実施例18)
Chk1阻害剤でのFA−HR欠損細胞の処理により多数の染色体の損傷と断裂が導かれる
FANCE欠損ヒト線維芽細胞株EUFA130と、レトロウイルスからFANCEの発現が安定に再導入された補われたEUFA130を、ゲノムの安定性と細胞周期の制御についていくつかの試験において比較した。EUFA130+E細胞は、免疫ブロッティングによりFANCEレベルが回復したことが示された。
【0157】
EUFA130細胞とEUFA130+E細胞を低密度でプレートし、その後、1uMのChk1阻害剤G06976で処理し、その後、様々な細胞周期の期での細胞の分布について試験した。Chk1阻害剤が、ヨウ化プロピジウム染色により、G1細胞およびsub−G1細胞集団の細胞の割合の増加を引き起こしたことが明らかとなった。sub−G1細胞は、細胞のアポトーシスへの侵入の指標である。
【0158】
加えて、染色体断裂のレベルを、Chk1阻害剤で処理したEUFA13細胞とEUFA130+E細胞についてスコアした。EUFA130細胞は、低いレベルの染色体断裂を有していた(図31)。Chk1阻害剤とのインキュベーションの後、染色体断裂のレベルは劇的に増加した。対照的に、EUFA130+E細胞は、Chk1阻害剤での処理の後、染色体断裂の低いレベルを回復した。
【0159】
これらの実験は、Chk1阻害剤の存在下での染色体の損傷に対するFA欠損細胞の選択的脆弱性を示している。組み合わせた実験の2つの部分は、Chk1阻害剤がFA欠損細胞を優先的に細胞死へと導くことを示している。
【0160】
(実施例19)
ヒト腫瘍細胞株は、Chk1キナーゼまたはAtmキナーゼの阻害に対して感受性がある
ヒトのガンは、染色体再配置、欠失、増幅、突然変異、および/または多くの遺伝子の後成的なサイレンシングもしくは過剰発現を含む、多くの遺伝的変更を示す。DNA修復およびDNA損傷応答経路の遺伝子の場合には、ヒトのガンにおいてはこれらの遺伝子の修飾の有意な証拠が存在している。ファンコニ貧血−相同組み換え経路については、発現の変化または変異が腫瘍において頻繁に観察されることを示唆する十分な証拠が存在している(図32)。
【0161】
ヒトの卵巣腫瘍細胞株2008は、FA−HR経路が欠損していることが公知である。なぜなら、これらの細胞は、FANCFプロモーターの過剰なメチル化によりFANCF遺伝子の後成的なサイレンシングを有しているからである。FANCFプロモーターの過剰なメチル化はFANCFの転写の減少を導き、結果として、細胞のFANCFタンパク質レベルが有意に低くなる。FANCEの後成的なサイレンシングは、ヒトの腫瘍において頻繁に観察される事象である。2008細胞株をFANCF遺伝子でトランスフェクトし、別々に発現させると、これらの誘導した細胞(2008+F)は、FANCFを高レベルで発現することが示された。
【0162】
その後、卵巣2008細胞と2008+F細胞を、Chk1キナーゼ阻害剤G06976またはAtmキナーゼ阻害剤KU55933での処理の後に細胞の生存性について比較し、そして細胞の生存性と増殖をコロニー形成性のアッセイにおいて試験した。細胞コロニーを標準的な手順によって染色し、視覚化した(図33)。スコアしたコロニー数は、Chk1阻害剤での処理が細胞の生存性の有意な低下を導いたことを示している。したがって、2008細胞はChk1の阻害に対して過敏である。同様に、G06976 Atm阻害剤も、同程度の過敏性を導いた。したがって、FA欠損細胞は、DNAの損傷チェックポイントキナーゼの遮断のうちの2つに対して特に脆弱であり、これは、これらの細胞がそれらの生存についてこれらの経路に依存していることを示している。
【0163】
まとめると、これらの実験は、FA欠損の生体マーカーによる同定により、Chk1阻害剤の適用が有効である細胞のサブグループを同定できることを明らかにしている。Chk1阻害剤の選択的使用は、FANCE欠損細胞(図31)およびFANCF欠損卵巣ヒト腫瘍細胞(図33)を用いてここに示したように、FA欠損について腫瘍の標本を評価することによって定義することができる。
【0164】
この発見は、これが、DNA修復経路の状態が理解される状況下でのChk1キナーゼ阻害剤の治療的有用性を指摘しているので、腫瘍学の臨床的状況において重要な効果を有する。本明細書中に示される例においては、ファンコニ貧血−相同組み換え経路の状態が、Chk1阻害剤に対する腫瘍の過敏性の予測の重要要素であることが明白である。この経路の状態は、おそらくは、経路全体の活性の様々な節点を反映している複数の生体マーカーの構成成分によって同定することができる。本発明によって、1つ、または1つ以上の経路の組み合わせによるDNA修復生体マーカーを評価するための手段が開示される。
【0165】
DNA修復生体マーカーは、いくつかの状況に、特に適用可能である。このタイプの生体マーカーは、前臨床開発に、患者のサブ設定に、臨床試験の過程での薬物動態的生体マーカーとして、そして、臨床腫瘍学において治療の決定を行うために有用であろう。
【0166】
(実施例20)
ヒトのガンにおけるDNA修復タンパク質の変化の証拠
DNA修復経路のタンパク質を、その経路の活性についての生体マーカーとして、経路特異的変化、タンパク質特異的変化、または翻訳後のエピトープ特異的変化を使用して、免疫組織化学(IHC)によってモニターした。
【0167】
ヒトのガンは、標本全体の多数の断片または腫瘍のマイクロアレイ(TMA)を評価することができる、ホルマリンで固定されたパラフィンに包埋された(FFPE)標本の分析によって監視することができる。TMAのために、ガンと診断されたそれぞれの患者について、ヒトのガンを、腫瘍の3つの切片と、病理学的には正常な周辺組織の3つの切片を提示するような形式でアレイした。あるいは、患者に由来する同定された腫瘍の領域のTMAを、互いに比較した。
【0168】
ヒトのガンにおけるDNA修復生体マーカーの発現パターンの動的性質を説明するために、同じガンのタイプのTMA[頭頸部扁平上皮細胞ガン]を広範囲にわたって分析した。図35は、ヒトの頭頸部ガンの腫瘍のTMAを示す。ここでは、腫瘍のコアを、11種類のDNA修復生体マーカーに対する抗体でIHC染色した。生体マーカーには、TMAの連続切片に由来する、FA/HF成分(FANCD2)、非相同末端結合生体マーカー(PT2609 DNAPK)、いくつかのヌクレオチド除去修復成分(XPF、ERCC1)、3個のミスマッチ修復成分(MLH1、MSH2、およびMSH6)、塩基除去修復生体マーカー(PARP1、PAR)、ならびに、DNAの損傷成分(PT334 Mapkapキナーゼ2、S78 HSP27)を含めた。それぞれの抗体は、ヒトのガンの検査に基づいてIHCのために最適化されている。一般的には、DNA修復およびDNAの損傷タンパク質がこれらの組織の中で発現されているが、発現レベルと細胞性の局在化は様々であり得る。
【0169】
画像もまた、図36に示すように、一人の患者の腫瘍コアに基づいて見えるようにできる。この患者のサブセットにおいては、頭頸部ガンに由来する9個の腫瘍のコアの選択が、9人の患者から示される。強調されたコアは、TMA上の同じガンのコアの位置にある。したがって、この説明においては、1つの患者のコアを、それを取り囲むオレンジ色の点線で同定することができ、アレイの中の第2の患者のコアは、それを取り囲む紫色の点線を有する。IHCによる相対的な染色強度とスコアの評価を、比較のために、H:高い、M:中程度、またはL:低いとして列挙した。IHC強度のレベルが患者ごとに相対的分布において変化するいくつかのマーカーが存在することに留意されたい。この実施例は、ガンにおけるDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路の複数の生体マーカーを比較することにおけるその有用性を説明する
DNA修復生体マーカーの分析の別の例を、ヒトの前立腺ガンの標本について説明する。図37Aでは、3人の患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5種類のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5種類の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析により読み取るために高倍率でTMAから撮影した。図37Bは、患者1、2、および3について生体マーカーごとのバリエーションを示す。色をつけた出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを提示する。重要なことは、DNA修復生体マーカーが患者に応じて様々な程度に変化することである。図37Bは、DNA修復の生体マーカーXPFとFANCD2が、有意に異なる発現の結果を有している範囲を示す。
【0170】
DNA修復生体マーカーの分析についてのさらなる例を、ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)の標本について示す。図38Aにおいては、4人の患者の腫瘍標本の提示が、様々な経路に由来する5種類のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーとともに説明される。他のTMAを用いた上記の場合と同様に、NSCLC TMAの連続切片を、図に示した5種類の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析により読み取るために高倍率でTMAから撮影した。図38Bは、出力を記載するための着色方法を使用する、患者1〜4についての生体マーカーごとのバリエーションを示す。重要なことは、DNA修復の生体マーカーの相対的発現に関しては患者ごとにバリエーションがあることである。
【0171】
ヒトの腫瘍の全切片を、連続切片の視診によって評価した。腫瘍の中の関心領域(ROI)は、ヘマトキシリンとエオシンの染色パターンを考慮することにより、そして、生体マーカーのグループの全体的な染色パターンによって、病理学の研究者のチームによって同定された。画像ファイルを、腫瘍の同じ領域が重なり合うように操作し、注釈をつけた。ROIを、この実施例では、図39の緑色と黄色の四角によって示す。生体マーカーの分析のための6種類のDNA修復抗体を有しているIHCによって染色した、6つの連続切片の1つのグループを示す。ROIの領域が、さらなる画像分析のための個々の切片の比較可能な領域の選択であることが、腫瘍の形態を調べることにより明らかである。標本のスライド上の絶対的な方向は様々であり得るが、ROIの選択が、同じ腫瘍の領域が、様々なDNA修復およびDNAの損傷シグナル伝達の生体マーカーでの別々の染色を用いて評価され得るように図で表現されることに留意されたい。
【0172】
(実施例21)
頭頸部ガンの患者のDNA修復生体マーカーのプロフィールの比較
頭頸部ガンの患者を、以下の図に示すようにDNA修復生体マーカーの1つのグループを使用して評価した。患者を、ドセタキセル、シスプラチン、5−FUを含む化学的アジュバント(誘導)治療で処置し、放射線治療を行った。しかし、この化学的な放射線治療のレジメンに反応する能力があったか、または反応できなかったかの区別は、分子マーカーに関しては理解されていない。腫瘍の生検を治療前に行い、その時点で腫瘍標本をホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。4種類のマーカー(A=FANCD2、B=MLH1、C=XPF、およびD=PT334 MAPKAPキナーゼ2)もまた、6人の患者の腫瘍標本を用いて同時に分析し、結果を図40に示す。図40のサブセクションのそれぞれにおいて、標本材料は患者ごとに図の中の同じ相対的位置とし、患者には匿名で番号を付けた(患者27、26、23、21、16、および9)。
【0173】
DNA修復生体マーカーの病理学的スコアは、日常的に行っている病理学的スコア方法によって行うことができる。例えば、標本は、染色パターンの完全性について試験される。実施例に示すよりも高倍率でのこれらの生体マーカーでの質的分析は、染色が、以下に示す生体マーカーFANCD2、XPF、MLH1、およびKi67について完全な核であることを示す。加えて、生体マーカーPT334 MAPKAPキナーゼ2は、腫瘍の状況に応じた核と細胞質の染色を有している。例えば、卵巣腫瘍は核染色と細胞質染色の組み合わせを示すが、頭頸部ガンは主に核染色を示す。別のストラテジーは、染色パターンを解明するためにIHCシグナルとアルゴリズムの機械によって行われた収集を使用することである。DNA修復タンパク質については、一般的には、IHCパターンは核である。ポジティブピクセル(Positive pixels)は、核または核周辺(subnuclear)の分布のいずれかに見られ、例えば、核焦点を有する。図40A〜Dには、4種類の生体マーカーの核染色を示す。生体マーカーが患者ごとのバリエーションを示し、これらの相違には直接的な相関関係はないが、逆相関の可能性があることに留意すべきである。
【0174】
(実施例22)
卵巣ガン患者のDNA修復生体マーカーのプロフィールの比較
この実験では、全ての患者は、3期または4期の卵巣ガンもしくは腹膜ガンを有しており、外科手術と、その後の白金を用いた化学療法で処置した。卵巣ガンの患者を、図39に示すようにDNA修復生体マーカーの1つのグループを使用して評価した。4種類の生体マーカー(A=FANCD2、B=MLH1、C=XPF、D=PT334 MAPKAPキナーゼ2、E=Ki67)を、6人の患者を用いて示す。図41のそれぞれのサブセクションにおいては、同じ患者を図の中の同じ位置に示し、患者には匿名で番号を付けた(患者37、38、39、4、40、および41)。マーカーKi67はDNA修復マーカーではないが、その代わりに、腫瘍の領域の中の細胞増殖能力の指標である。6人の患者は、この実施例においてはほぼ同じレベルの細胞増殖を有していたことに留意されたい。頭頸部ガンを用いた実施例と同様に、卵巣ガンを、核の生体マーカーの強度と量の差を識別するために、病理学によるスコアリングによって評価した。DNA修復の生体マーカーは、IHCによる染色の強度に関して有意なバリエーションを示し、これは、これらの生体マーカーが患者の階層化、および/または治療に対する反応に関連している可能性があることを示している。
【0175】
(実施例23)
DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーについての患者の集団の分析
病理学的スコアリングを使用して、生体マーカーのそれぞれを用いて発現の変化の傾向を区別した。4人の病理学者によってスコアリングシステムが確立された。ここでは、強度(I)と量(Q)の測定を、それぞれの腫瘍標本から行った。Iスコアは、値1、2、および3までの範囲であり、順に強度が大きくなる。ここでは、1は弱く、2は中程度、そして3は強い。Qスコアは、1(1〜9%)、2(10〜39%)、3(40〜69%)、または4(70〜100%)と、マーカーについてポジティブであった核の割合に基づいて決定した。I×Qの組み合わせたスコアにより、1〜12の範囲でスコアを得た。
【0176】
頭頸部ガンの標本を、互いに対してプロットした生体マーカーについて、個々の患者についての上記の基準とスコアによって評価した(図42)。XPFについては、25/35人の患者が高い範囲の発現を有していた。また、FANCD2生体マーカーについても、19/35人の患者が高い発現レベルを有していた。しかし、同じ患者は、その時間のうちのほとんどについて両方のマーカーについて高い発現のグループにあったわけではない。FANCD2マーカーとXPFマーカーの例を用いると、これは、患者のうちのおよそ半分は、1つのマーカーについて高いレベルを有しており、一方、他の患者は低いレベルを有していることを示す。患者のうちの13/35、すなわち、37%は両方のマーカーについて高いレベルを有していたが、4/35、すなわち、11%は、両方のマーカーについて低いレベルを有していたことを観察した。したがって、ヒトのガン患者を、DNA修復およびDNA損傷の生体マーカーの使用に基づいて、サブグループに分けることができるか、または階層化することができる。
【0177】
(実施例24)
DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを使用する原発性の症状と再発の症状との関連性の評価
卵巣ガンの患者に由来する腫瘍標本を、一次生検(primary biopsy)(腫瘍の外科手術による切除)において評価し、卵巣ガンがシスプラチンでの化学療法の後に再発した場合には、追跡調査した。患者は、漿液性卵巣ガン、FIGOグレード3、FIGOステージ3cを有していた。DNA修復およびDNAの損傷シグナル伝達の4種類の生体マーカーを同時に調べた:FANCD2、MLH1、XPF、およびPT334 MAPKAPキナーゼ2。図43においては、4種類のマーカーによる画像を縦に並べた。IHC発現パターンが変化していた生体マーカーのいくつかを観察し、これらがマーカーに応じて様々なレベルに変化することを観察した。したがって、いくつかのDNA修復生体マーカーは白金を用いた治療に対する反応を決定することにおいて影響力のあるマーカーであり得る。
【0178】
ファンコニ貧血タンパク質が細胞のシスプラチン感受性の重要な決定要素であることは明らかにされている(Chirnomas and DAndrea,2006)。再発による卵巣ガンの標本の中での強度が増大するFANCD2のような生体マーカーの同定は、FANCD2の増加と治療の間の白金耐性との間の相関の指標である。同様に、Mapkapキナーゼ2酵素とシグナル伝達経路の過剰な活性化の指標であるPT334 Mapkapキナーゼ2生体マーカーが、ヒトのガンの白金を用いた治療に対する適応応答の第2の指標であることを観察した。
【0179】
(実施例25)
一般的方法
細胞培養
HeLa細胞、U2OS細胞、GM6914(FA−A)、PD326(FA−G)、PD426(FA−C)、PD20(FA−D2)、およびEUFA423(FA−D1)は、15%の熱不活化ウシ胎児血清(FCS)を補充したDMEMの中で、加湿した5%のCO2インキュベーターの中で37℃で増殖させた。別のFA−E患者由来のDF1179(FA−E)線維芽細胞は、Chang培地(Irivine Scientific)(Akiko Shimamura,Children’s Hospital,Harvard Medical School,Boston,MAから懇意により提供された)の中で培養した。エプスタイン・バーウイルスEBVで形質転換されたリンパ芽球EUFA130(FA−E)は、15%のFCSを含むRPMI1640の中で維持した。
【0180】
DNA損傷の作成
細胞に、蓋なしの100mmの皿の中でPBSで1回洗浄した後、培地を全く用いることなく50%〜70%の細胞集密度で、Stratalinker(Stratagene)を用いてUVを照射した。UV照射後、新しい培地を加え、示した時間の間培養し続け、その後、溶解させた。γ線の照射は、Gammacell 40装置(MDS Nordion)を使用して行った。MMC(Sigma)処理のためには、細胞を示した時間の間薬物に暴露し続け、その後、溶解させた。ヒトの線維芽細胞とリンパ芽球のMMC感受性アッセイは、原則として、以下のような変更を加えて記載されているように(5、7)行った。ヒトの繊維芽細胞とリンパ芽球を96ウェルマイクロプレートに、適切な培地の中に1000細胞/ウェルの密度で2連で播種した。MMCは、0〜200μMの最終濃度で添加した。その後、細胞を、5%のCO2インキュベーターの中で37℃で5日間インキュベートし、その後、細胞の生存性を、特許権のある色素(CyQUANT;Molecular Probes)で核酸を染色することによって決定し、続いて、製造業者のプロトコールにしたがって蛍光マイクロプレートリーダーによって分析した。
【0181】
プラスミドと組み換えタンパク質の精製
ヒトFANCE cDNA(J.deWinter and H.Joenje,Free University Medical Center,Amsterdam,The Netherlandsから懇意により提供された)を、FANCEのアミノ末端にFLAGタグを付加することによってレトロウイルスベクターpMMP−puroの中にサブクローニングして、pMMP−puro−FLAG−FANCEを作成した。特異的な1つの二重変異(pMMP−FLAG−T346A、pMMP−FLAG−S374A、pMMP−FLAG−T346A/S374A(TS/AA))を、製造業者のプロトコールにしたがって、QuikChange(登録商標)部位特異的突然変異誘発キット(site−directed mutagenesis kit)(Stratagene)を使用して導入した。pGEX−FANCE(332−365)、pGEX−FANCE(349−382)、およびpGEX−FANCE(332−382)の構築のために、対応する断片のPCR産物を、プラスミドpGEX4T−1(Pharmacia)のEcoRI/NotI部位に連結させた。T346A、S374A、およびFANCEの二重変異体(T346A/S374A−TS/AA)のcDNAは、QuikChange(登録商標)部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いて作成した。組み換え体FANCE(149−536)野生型(rFANCEwt)構築物は、pET32a−PPSベクター(Novagen)のEcoRI/HindIII部位にクローニングした。組み換え体である二重変異体FANCE(rTS/AA)については、T346AとS374Aを有している149〜536の断片を、鋳型としてpMMP−FLAG−TS/AAを使用してPCRによって作成した。生成物をpET32a−PPSベクターのEcoRI/HindIII部位にクローニングした。全ての構築物と変異体を、DNA配列決定によって確認した。
【0182】
FANCE配列(332〜382)にまたがるGST−FANCE構築物を大腸菌(E.coli)BL21細胞の中で発現させた。GST−Cdc25C(200〜256)構築物(Michael Yaffe,Massachusetts Institute of Technology,Boston,MAから懇意により提供された)をインビトロでのキナーゼアッセイのポジティブ対照として使用した。その後、GST融合タンパク質をグルタチオンS−セファロースビーズ上で精製し、これをインビトロでのキナーゼ反応において基質として使用した。組み換え体FANCE野生型(rFANCEwt)と二重変異体(rTS/AA)を、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)RP細胞の中で発現させ、その後、ポリヒスチジン(His)結合HiTrapキレート化HPカラム(Pharmacia)を使用して金属アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。組み換え体タンパク質を、正確なプロテアーゼとともにインキュベーションすることによりカラムから溶離させて、そのN末端Hisタグ配列を切断し、HiTrapQFF陰イオン交換カラム(Pharmacia)とS−200ゲル濾過カラムによるさらなる精製を行った。
【0183】
レトロウイルス感染
pMMPレトロウイルス上清の生産と、繊維芽細胞またはリンパ芽球の感染は、これまでに記載されているとおりに行った。
【0184】
抗FANCE抗体、抗FANCE−ホスホスレオニン−T346抗体、抗FANCE−ホスホセリン−S374抗体の作成
FANCEに対するウサギのポリクローナル抗体を、抗原の供給源としてFANCEのC末端ペプチド521〜536を使用してInvitrogen(Zymed)によって作成した。ホスホ特異的抗体(抗pT346−FANCEおよび抗pS374−FANCE)の作成のためには、ウサギを、FANCEのアミノ酸337〜348または367−378から導いた、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)結合FANCEホスホペプチド(SDLGLLRLC(pT)WL)またはホスホペプチド(LFLGRIL(pS)LTSS)でそれぞれ免疫化した。抗体を対応するリン酸化および非リン酸化ペプチド結合ゲルを使用して親和性によって精製した。
【0185】
免疫ブロッティング
細胞を溶解させ、全細胞抽出物についてSDS−PAGEを行い、ニトロセルロース膜に移動させ、ウェスタンブロット分析(5)を行った。以下の抗体を使用した:抗FANCD2(FI−17)(Santa Cruz Biotech.)、抗HA(HA.11、Babcock)、抗FLAG(M2)(Sigma)、抗β−チューブリン(Santa Cruz Biotech.)、抗ATR(N−19)(Santa Cruz Biotech.)、抗ホスホ−317−Chk1(Cell Signaling technology)、抗Chk1(G−4)(Santa Cruz Biotech.)。
【0186】
インビトロでのキナーゼアッセイ
FANCEのGST融合タンパク質(2μg)を、精製した組み換え体Chk1(100ng)(Upstate Technology)とともに、10μCiの[γ32P]−ATPを含む30μlのキナーゼ緩衝液(20mMのTris HCL、10mMのMgCl2、10mMのMnCl2、1mmのDTT、10μMのATP)の中でインキュベートした。キナーゼ反応を30℃で30分間インキュベートし、SDS試料緩衝液の添加によって停止させ、5分間沸騰させ、その後、SDS−PAGEとX線フィルムのオートラジオグラフィーによって分析した。インビトロでのキナーゼアッセイを、ポジティブ対照とネガティブ対照について、GST−Cdc25C(200〜256)およびGSTを使用して行った。アッセイ条件は上記と同じとした。組み換え体FANCEタンパク質(rFANCEwtおよびrTS/AA)(3μg)を100ngの精製した組み換え体Chk1、Chk2、MAPKAP K2(MK2)(Upstate Technology)、またはGSTとともに、あるいはこれらを含まずに、30μlのキナーゼ緩衝液(20mMのTris HCL、10mMのMgCl2、10mMのMnCl2、1mmのDTT、1mMのATP)の中で、30℃で30分間インキュベートした。キナーゼ反応をSDS試料緩衝液の添加によって停止させ、5分間沸騰させ、その後、SDS−PAGEによって、続いて、ウェスタンブロットによって抗pT346−FANCE抗体、抗pS374−FANCE抗体を用いて分析した。
【0187】
免疫沈降
免疫沈降はこれまでに記載されているとおりに行った。
【0188】
siRNAとトランスフェクション
標的遺伝子の発現を、GFPに特異的なsiRNA(5’−AACACTTGTCACTACTTTCTC−3’)、Chk1に特異的なsiRNA(5’−AAGAAGCAGTCGCAGTGAAGA−3’)、ATRに特異的なsiRNA(5’−CAGGCACTAATTGTTCTTCAA−3’)の一時的な発現によってノックダウンさせた。siRNAのトランスフェクションは、製造業者のプロトコールにしたがって、Hiperfect(Qiagen)を使用して行った。トランスフェクションの72時間後、細胞をDNA損傷で処理した。
【0189】
免疫蛍光の顕微鏡試験
免疫蛍光顕微鏡試験のための細胞の準備は記載したとおりに行った、リンパ芽球細胞株を、ポリ−D−リジン(BD Bioscience)でコーティングした培養スライド上で増殖させて、36時間の間、接着を促進させ、その後、処理した。画像を、デジタルカメラを取り付けたAxioplan 2結像型顕微鏡(imaging microscope)(Carl Zeiss)を使用して撮影し、Openlabソフトウェアを使用して処理した。
【0190】
FACS分析
G2/Mチェックポイントの分析とDNAの複製は、これまでに記載されているとおりに行った(30)。sub−G1集団を検出するためには、細胞を、MMC(160ng/ml)での処理の0時間後、24時間後、48時間後、および72時間後に回収し、PBSで洗浄し、4℃で少なくとも1時間かけて70%のエタノールの中で固定し(106細胞/ml)、そして、0.25%のTriton X−100/PBSの中で4℃で15分間、透過処理した。PBSでの洗浄後、細胞を、25/ml μgのヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma)と0.1mg/mlのRNase A(Sigma)を含むPBSの中に再懸濁させ、その後、Becton Dickinson FACSCaliburフローサイトメーターを使用してFACS分析を行った。細胞死は、sub−G1(2N未満のDNA含有量)集団として測定した。
【0191】
変異分析
変異は、特異的なプライマー対を使用した、DF1179細胞(FA−E)とU2OS細胞(対照)から精製した全RNAのRT−PCR増幅によって分析し、その後、両方の細胞株のcDNAを、FANCEのエキソン1からエキソン10までにまたがる様々なプライマーを使用してDNA配列決定によって分析した。
【0192】
【表3】
【0193】
【表4】
【0194】
【表5】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と組み合わせて記載されているが、上記の記載は、本発明を説明するように意図され、添付される特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するようには意図されない。他の態様、利点、および改変も、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2006年10月20日に出願されたU.S.S.N.60/853,208および2007年3月19日に出願されたU.S.S.N.60/895,606(これらの内容は、それらの全体が参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【0002】
連邦政府によって後援された研究の声明
本発明は、NIH助成金RO1−HL52725、RO1−DK43889、およびPO1−HL54785、およびT43CA09361のもとで政府支援によって行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、一般的に、ガンを処置する方法に関する。さらに具体的には、本発明は、治療用化合物に対するガン細胞の反応性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
DNA修復は、細胞がそのゲノムをコードするDNA分子の損傷を特定し修正するプロセスの総称をいう。ヒト細胞においては、正常な代謝活性と環境的要因(例えば、紫外線)のいずれもがDNAの損傷を引き起こし得、それにより、1日あたり細胞1個あたり100万個程度の数の個々の分子の損傷が生じ得る。これらの損傷の多くはDNA分子の構造的な損傷を引き起こし、影響を受けたDNAがコードする遺伝子を転写する細胞の能力が変化してしまうかまたは失われてしまう可能性がある。他の損傷によっては、細胞のゲノムに有害な変異が誘導される可能性があり、これは、それが有糸分裂を受けた後のその娘細胞の生存性に影響を及ぼすであろう。結果として、DNAの修復プロセスは、それがDNA構造の中に起きたあらゆる損傷に対して迅速に反応できるように、常に活発でなければならない。
【0005】
DNAの修復速度は、細胞のタイプ、細胞の年齢、および細胞外環境を含む多くの要因に依存する。多量のDNA損傷、またはそのDNAによって行われたもはや有効ではないように修復された損傷が蓄積した細胞は、可能性のある3つの状態にうちの1つに入り得る:老化として知られている不可逆的な休眠状態;アポトーシスもしくはプログラムされた細胞死としても知られている細胞自殺;または腫瘍の形成に至る可能性がある無秩序な細胞分裂。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、腫瘍細胞はDNA修復経路およびDNAの損傷に対する応答経路が変化してしまっていること、そしてこれらの経路のうちの1つが失われることが、特定のクラスのDNA損傷剤に対してガンをさらに敏感にすることの発見に基づく。さらに具体的には、本発明は、細胞の中の2つのDNA修復経路の欠損が致命的であることの発見にも一部基づく。
【0007】
本発明により、被験体のガンを処置する方法が提供される。1つの実施形態においては、ガンを処置する方法には以下の工程が含まれる:(a)ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程、および(b)DNA損傷剤または工程(a)において同定されたものとは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を被験体に投与する工程。別の実施形態においては、被験体のガンを処置する方法には以下の工程が含まれる:(a)ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程、(b)ガン細胞の中でアップレギュレートされているDNA修復経路のタンパク質または遺伝子を同定する工程、ならびに、(c)DNA損傷剤または工程(b)において同定されたDNA修復経路のタンパク質または遺伝子に特異的な阻害剤を被験体に投与する工程。
【0008】
本発明によってはまた、以下の工程を含む、特定のガン細胞に対する治療薬を選択するための方法も提供される:(a)正常な細胞と比較して、ガン細胞の1つ以上のDNA修復経路の欠損を決定する工程、および(b)DNA損傷剤または工程(a)において同定されたDNA経路とは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を選択する工程。
【0009】
本発明によってはまた、化学療法薬に対するガン細胞の耐性または感受性を決定する方法も提供される。1つの実施形態においては、化学療法薬に対するガン細胞の耐性を決定する方法には、DNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれる。この場合、欠損の存在は、その細胞がDNA修復経路に特異的な化学療法薬に耐性であることを示す。別の実施形態においては、化学療法薬に対するガン細胞の感受性を決定する方法には、DNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれ、この場合、欠損が存在しないことは、その細胞がDNA修復経路に特異的な化学療法薬に対して感受性であることを示す。
【0010】
本発明によってはまた、処置に対するガン細胞の反応性を同定し、調節する方法も提供される。1つの実施形態においては、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を同定する方法には、相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれ、この場合、欠損の存在は、その細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して感受性であることを示すが、存在しない場合には、効力は、その細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して耐性であることを示す。別の実施形態においては、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を増大させる方法には、ガン細胞を相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の阻害剤と接触させる工程が含まれる。別の実施形態においては、MAP2KAP2阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法には、MAP2KAP2のリン酸化を検出する工程が含まれ、この場合、リン酸化の存在は、その細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、リン酸化が存在しないことは、その細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して耐性であることを示す。別の実施形態においては、FA/HR DNA修復経路の阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法には、ミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路の欠損を同定する工程が含まれ、ここでは、欠損が存在することは、その細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、欠損が存在しない場合には、効力は、その細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して耐性であることを示す。
【0011】
本発明によってはまた、ガンを有している被験体の処置の有効性を評価するか、またはその処置をモニターする方法も提供される。1つの実施形態においては、ガンを有している被験体の処置の有効性を評価する方法には、以下の工程が含まれる:(a)被験体由来の試料中のDNARMARKERS1〜259から選択される2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを測定する工程、および(b)2つ以上のNARMARKERSの有効量のレベルを参照値に対して比較する工程。別の実施形態においては、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法には、以下の工程が含まれる:(a)第1の時点での被験体由来の第1の試料中のDNARMARKERS 1〜259から2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程、(b)第2の時点での被験体由来の第2の試料中の2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程、および(c)工程(a)で検出された2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを工程(b)で検出された量に対して、または参照値に対して比較する工程。別の実施形態においては、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法には以下の工程が含まれる:(a)ガン細胞が第1の時点でDNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程、(b)ガン細胞が、第2の時点で、工程(a)において同定されたDNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程。この場合、DNA修復経路の欠損の減少は、処置が有効ではないことを示し、一方、DNA修復経路の増大またはそれに変化がないことは、処置が有効であることを示す。
【0012】
本発明によってはまた、以下を含む2つ以上のDNA修復経路に由来する少なくとも2つのタンパク質を有しているパネルも提供される:塩基除去修復(BER)、相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)、ミスマッチ修復(MMR)、非相同末端結合修復(NHEJ)、ヌクレオチド除去修復(NER)、損傷乗り越えDNA合成(translesion DNA synthesis;TLS)、およびDNA損傷応答(DDR)。1つの実施形態においては、パネルには、少なくとも1つのファンコニ貧血タンパク質(Fanconi Anemia protein)と少なくとも1つのミスマッチ修復タンパク質(Mismatch Repair protein)が含まれる。別の実施形態においては、パネルには、DNAの修復またはDNAの損傷の認識および調節タンパク質に関係している経路の指標である1つ以上のDNARMARKERSが含まれる。
【0013】
他の場所で定義されない限りは、本明細書中で使用される全ての技術用語および学術用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載されている方法および材料と同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料が以下に記載される。本明細書中に記載される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が引用により本明細書中に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が支配するであろう。加えて、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定するようには意図されない。
【0014】
本発明の他の特徴および利点は、以下に詳細に記載される説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1Aは、siRNAスクリーニングを示している図である。図1Bは、FA経路が欠損している細胞に対して選択的に毒性である上位10個のsiRNA標的を示しているグラフである。
【図2】図2Aは、siRNAを標的化するATMでの処理後の細胞の生存性を示している、免疫ブロットの写真とそれに伴うグラフ表示である。図2Bは、siRNAを標的化するFANCGでの処理後の細胞の生存性を示している免疫ブロットの写真とそれに伴うグラフ表示である。図2Cは、Fancg+/− ATM+/−異種交配マウスの子孫における遺伝子型の頻度を示しているグラフである。
【図3−1】図3Aは、FANCG欠損EUFA326細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Bは、FANCC欠損EUFA426細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Cは、FANCA欠損EUFA6914細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Dは、FancG−/− MEF細胞株とFancG野生型MEF細胞株の中でのATMの自己リン酸化を示している免疫ブロットの写真である。図3Eは、ATMキナーゼアッセイを示している免疫ブロットの写真である。
【図3−2】図3Fは、電離放射線での処理の前および後の、ATMの自己リン酸化とFANCD2モノユビキチン化を示している免疫ブロットの写真である。図3Gは、ATMに対するsiRNAでの処理後のDNAの断裂を比較するCometアッセイを示しているグラフとそれに伴う視野の写真である。
【図4】図4Aは、FANCC欠損EUFA426細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性(dose viability)曲線を示しているグラフである。図4Bは、FANCG欠損EUFA326細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Cは、FANCD2欠損PD20細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Dは、FANCE欠損DF1179細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Eは、Fancg−/− MEF細胞対Fancg+/+ MEF細胞における漸増濃度のKU55933での処理後72時間の用量生存性曲線を示しているグラフである。図4Fは、FANCC変異体EUFA426細胞の中のコロニー数を比較する、14日のコロニーカウントアッセイを示しているグラフである。図4Gは、FANCC変異体EUFA426細胞株の中でのFANCD2モノユビキチン化、ATM自己リン酸化、およびH2AXリン酸化を示している免疫ブロットの写真である。
【図5】図5Aは、KU55933での処理の0時間後、24時間後、および48時間後の有糸分裂中期スプレッド(metaphase spread)について測定した、細胞あたりの染色体の断裂の数を示しているグラフである。図5Bは、KU55933での処理の前および後のFANCE欠損EUFA130細胞株の細胞周期プロフィールを示しているヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーの提示である。図5Cは、KU55933の0時間後、24時間後、48時間後、および72時間後に2N未満のDNA(sub G0集団)を含む細胞の提示を示しているグラフである。
【図6】図6Aは、内因性のDNAの損傷が、野生型細胞においては複製フォークの行き詰まり(stall)を引き起こし、そしてATMおよびATR修復経路を引き起こすDNAの断裂を生じる事を示している、模式的な提示である。図6Bは、細胞が行き詰まった複製フォークの修復のためにATM依存性経路に頼る機能性のFA経路が存在しないことを示している模式的な提示である。図6Cは、FA経路が欠損している細胞においてATM機能が失われた場合には、行き詰まったDNAの複製を再度確立させるための機構が存在せず、壊滅的なDNAの損傷と死が生じることを示している模式的な提示である。
【図7】図7は、電離放射線での処理後のPrkdcsc/scマウス、およびFancd2−/−;Prkdcsc/scマウスの生存率を示しているグラフである。
【図8】図8は、電離放射線での処理後の野生型マウス、Fancd2−/−マウス、Prkdcsc/scマウス、およびFancd2−/−;Prkdcsc/scマウスの全DNA含有量を示しているグラフである。
【図9】図9は、光活性化ソラレンでの処理後の、野生型マウス、Fancd2−/−マウス、Prkdcsc/scマウス、およびFancd2−/−;Prkdcsc/scマウスの全DNA含有量を示しているグラフである。
【図10】図10は、shMlh1A、shMlh1B、またはそれらの組み合わせでの処理後の、ヒトFA−A線維芽細胞の中でのMlh1の発現を示している免疫ブロットの写真である。
【図11】図11は、DOX処理後のshMlh1AとshMlh1Bの組み合わせで処理した細胞の増殖の低下を示しているグラフである。
【図12】図12は、Mlh1 siRNAでトランスフェクトし、それに続いてシスプラチンで処理した、またはシスプラチンで処理しなかった、HeLa細胞中でのMlh1の発現とFANCD2のユビキチン化を示している免疫ブロットの写真である。
【図13】図13は、PVUIIを有しているFrancd2 cDNAでのレトロウイルス修正(retroviral correction)後に二重変異細胞の中で形成されたコロニーの数を示しているグラフである。
【図14】図14は、PVUIIを有しているFancd2 cDNAでのレトロウイルス修正後の二重変異細胞のコロニー形成能力の低下が、修正されていない細胞の中でのタンパク質の取り込みの増大の結果ではないことを示している、FACS分析の提示である。
【図15】図15は、ガンの処置方法に対するDNA修復の影響を示している模式図である。
【図16】図16は、乳ガンの処置レジメンの中での化学療法薬の使用を評価することにおけるDNARMARKERSの使用の模式的なグラフ提示である。
【図17】図17は、様々なガンの処置レジメンにおける化学療法薬の使用を評価することにおけるDNARMARKERSの使用の模式的なグラフ提示である。
【図18】図18は、乳ガンの処置レジメンの中での化学療法薬の使用を評価することにおける、DNARMARKERSの使用と6個のDNA修復経路の機能性の模式的なグラフ提示である。
【図19−1】図19Aは、他の生物体のFANCE配列でヒトFANCEの中のChk1(R−X−X−S/T)のリン酸化モチーフが取り囲まれている配列のアラインメントの模式図である。図19Bは、空のベクター(pMMP)、pMMP−FLAG−FANCE、pMMP−FLAG−T346A、pMMP−FLAG−S374A、pMMP−FLAG−TS/AA(T346A、S374Aの二重変異体)でのFA−Eリンパ芽球細胞株EUFA130のMMC感受性の相補性を示している線グラフである。示されるレトロウイルス上清を作成し、EUFA130細胞に形質導入するために使用した。ピューロマイシン耐性細胞を選択し、マイトマイシンC(MMC)感受性を、「材料および方法」に記載されるように決定した。示される値は、別の4回の実験による平均±標準偏差(SD)である。
【図19−2】図19Cは、FANCD2のモノユビキチン化の回復を示しているウェスタンブロットの写真である。示される安定にトランスフェクトされたFA−Eリンパ芽球細胞株は、未処理のままとしたか、または示したように、様々な線量の電離放射線(IR)に曝したかのいずれかとし、6時間後に回収した。ウェスタンブロッティングは、抗FANCD2抗体または抗FLAG抗体を用いて行った。図19Dは、FANCD2核焦点の形成の回復を示している細胞培養物の写真である。FLAG−FANCEwt(EUFA130+FLAG−FANCE)を安定に発現しているEUFA130(FA−E)リンパ芽球、および二重変異体FLAG−TS/AA(EUFA130+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているEUFA130(FA−E)リンパ芽球は、未処理のままとしたか、または、IR(10Gy)で処理したかのいずれかとし、6時間後に固定し、免疫蛍光分析を抗FANCD2(FI−17)抗体を使用して行った。倍率×630。図19Eは、FANCD2焦点の定量を示している棒グラフである。4個を上回る異なる焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。
【図20−1】図20Aは、GST−FANCEペプチド融合タンパク質を示している模式図である。これには、インビトロでのキナーゼアッセイのために作成し、基質として使用したFANCEの示される領域が含まれており、アラニンに変異したスレオニン(346)および/またはセリン(374)残基が示されている(左のパネル)。GST−FANCEペプチド融合タンパク質を、[γ−32P]ATPと精製された組み換え体Chk1とともにインキュベートした。反応を、SDS−PAGEとオートラジオグラフィー(右のパネル)による分析の前にSDS試料緩衝液の添加によって停止させた。GST−Cdc25C(200−256)ペプチド融合タンパク質とGSTを、Chk1についてのポジティブ対照基質およびネガティブ対照基質として使用して、インビトロでのキナーゼアッセイの効果を明らかにした。図20Bは、インビトロでのキナーゼアッセイを示している写真である。インビトロでのキナーゼアッセイは、野生型のFANCEタンパク質(rFANCEwt)と二重変異体(rTS/AA)の組み換えFANCEタンパク質(149〜536)をリン酸化させるために、GST、精製された組み換え体Chk1、Chk2、またはMK2を使用したインビトロでのキナーゼアッセイを使用して行い、SDS−PAGE、その後の免疫ブロッティングによって、ホスホ−T346−FANCE(pT346−FANCE)、ホスホ−S374−FANCE(pS374−FANCE)抗体を用いて分析した。GST−Cdc25C(200−256)ペプチド融合タンパク質とGSTを、Chk1、Chk2、およびMK2のポジティブ対照基質およびネガティブ対照基質として使用して、インビトロでのキナーゼアッセイの効果を明らかにした。図20Cは、Chk1がインビボでFANCEをリン酸化することを示している免疫ブロットの写真である。EUFA130(FA−E)リンパ芽球には、示したように、空のベクター、FLAG−FANCEwt、FLAG−TS/AA(二重変異体)を安定に発現させた。細胞は未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、3時間後に、免疫沈降を抗FLAG抗体を使用して行い、SDS−PAGE、その後のウェスタンブロットによって、抗pT346−FANCEおよび抗pS374−FANCEホスホ特異的、ならびに抗FLAG抗体を用いて分析した。
【図20−2】図20Dは、空のベクター(EUFA130+Vec.)およびFLAG−FANCEwt(EUFA130+FLAG−FANCE)を安定に発現しているEUFA130(FA−E)リンパ芽球の写真である。これらは、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、その後、2時間固定した。免疫蛍光試験を、抗pT346−FANCE抗体を使用して行った(左のパネル)。倍率×630。HeLa細胞を、GFP(対照)、Chk1、またはATRに対して標的化させたsiRNAで一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、細胞を未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、固定する前に2時間インキュベートし、免疫蛍光分析を、抗pT346−FANCE抗体を使用して行った(右のパネル)。倍率×400。図20Eは、pT346−FANCE焦点の定量を示している棒グラフである。4個を上回る焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。100細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。UV(60J/m2)の処理を行った場合のpT346FANCE焦点の形成は、ATRまたはChk1がsiRNAで抑制されているHeLa細胞の中で大幅に減少した。
【図21】図21Aは、GFP(対照)またはChk1に対して標的化させられたsiRNAでトランスフェクトされたHeLa細胞を示している一連の写真である。トランスフェクションの72時間後に、細胞をUV(60J/m2)で処理し、固定および溶解の前に3時間または6時間、インキュベートし、免疫蛍光分析を抗FANCD2抗体を使用して行った。倍率×400。図21Bは、全細胞抽出物のウェスタンブロットの写真である。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した(B)。図21Cは、FANCD2焦点の定量を示している棒グラフである。4個を上回る異なる焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。
【図22】図22Aは、DNA損傷後に追跡調査した、ホスホ−T346−FANCE焦点およびFANCD2焦点のT/the速度論を示している一連の写真である。HeLa細胞は、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、固定の前に、示されるように様々な時間(30分、2時間、、4時間、6時間、8時間)インキュベートし、免疫蛍光分析を、抗pT346−FANCE抗体および抗FANCD2(FI−17)抗体を使用して行った。倍率×400。図22Bは、ポジティブとしてカウントした4個を上回る異なる焦点を有している細胞の分析を示している棒グラフである。200細胞/試料。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。図22Cは、4時間の紫外線照射の後の、HeLa細胞中でのホスホ−T346−FANCE焦点およびFANCD2焦点の共局在の一連の写真である。倍率×630。
【図23】図23Aは、Chk1によるFANCEのリン酸化はMMCによって媒介される細胞死を修正することはないが、MMC処理後に細胞周期の進行を修正し、そしてDNA合成を促進することを示している棒グラフである。野生型FANCE(EUFA130+FLAG−FANCEwt)またはFANCEの二重変異体(EUFA130+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞(EUFA130)は、空のベクター(EUFA130+Vec.)を安定に発現している細胞と比較した場合には、MMC処理の24時間後に、細胞周期の後期S/G2期に蓄積することはない。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。図23Bは、Chk1によるFANCEのリン酸化はMMCによって媒介される細胞死を修正することはないが、MMC処理後に細胞周期の進行を修正し、DNAの合成を促進することを示している棒グラフである。空のベクター(EUFA130+Vec.)を安定に発現しているFA−E細胞は、野生型FANCE(EUFA130+FLAG−FANCEwt)またはFANCEの二重変異体(EUFA130+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞と比較した場合には、MMC 160ng/mlでの処理の24時間後にはDNA合成が低下していた。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。図23Cは、Chk1によるFANCEのリン酸化はMMCによって媒介される細胞死を修正することはないが、MMC処理後には細胞周期の進行を修正し、DNA合成を促進することを示している棒グラフである。FANCEの二重変異体(EUFA130+FLAG−TS/AA)または空のベクター(EUFA130+Vec.)を安定に発現しているFA−E細胞は、野生型FANCEを発現している細胞と比較した場合には、MMC(160ng/ml)処理の48時間後および72時間後に、sub G1細胞の高い割合を示した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである。
【図24−1】図24Aは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。HeLa細胞は、未処理のままとしたか、または60J/m2の紫外線照射によって処理したかのいずれかとし、溶解の前に、示される様々な時間、インキュベートした。全細胞抽出物を示される抗体で免疫ブロットした。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Bは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。HeLa細胞を、二重チミジンブロックによって同調させ、その後、S期に入るように開放した。開放の1時間後、細胞を未処理のままとした(対照)か、またはUV(60J/m2、15時間)、HU(2mM、24時間)、MMC(160ng/ml、24時間)、およびシスプラチン(10μM、24時間)で処理したかのいずれかを行った.全細胞抽出物を、示される抗体でのウェスタンブロットによって分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Cは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。EUFA130(FA−E)リンパ芽球は、示されるように、pMMP(空のベクター)、FLAG−FANCEwt、FLAG−TS/AA(二重変異体)を安定に発現していた。細胞は、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかを行い、8時間後、全細胞抽出物を、示される抗体でのウェスタンブロットによって分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Dは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。U2OS細胞は未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、細胞培養の最後の2時間の間に示される試料に25μMのMG132を加えて、あるいは加えずに、3時間インキュベートした。全細胞抽出物を、示される抗体でのウェスタンブロットによって分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。図24Eは、Chk1によるFANCEのリン酸化がその分解を促進することを示しているウェスタンブロットの写真である。FANCEのインビボでのユビキチン化。空のベクター(a)、FLAG−FANCEwt(b)、およびFLAG−TS/AA(二重変異体)(c)を安定に発現しているU2OSを、HA−ユビキチンをコードしているcDNAを用いることなく、またはそれらを用いて一時的にトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後に、細胞を未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかを行い、2時間インキュベートし、その後、SDS変性緩衝液の中で細胞を溶解させた。FLAG−FANCEwtおよび二重変異体タンパク質を、抗FLAG抗体免疫沈降によって単離した。免疫複合体をSDS−PAGE上に泳動させ、抗HA抗体または抗FLAG抗体で免疫ブロットした。
【図24−2】図24Fは、ATR−Chk1経路によるFA/BRCA経路の活性化を示している模式的なモデルである。DNAの損傷または複製の停止(MMC、UV、IR、HU)は、ATR依存性のFANCD2(6)のリン酸化およびFANCEのChk1依存性リン酸化を活性化させる。モノユビキチン化FANCD2とリン酸化FANCEはいずれにも、MMC耐性が必要である。FANCD2の非ユビキチン化変異体(K561R)またはFANCEの非リン酸化変異体(TS/AA)は、MMC過敏性を修正できなかった。
【図25】図25Aは、FA−E患者由来の繊維芽細胞株(DF1179)の変異分析を示しているブロットの写真である。DF1179(FA−E)細胞とU2OS細胞(対照)から精製したRNAのRT−PCR増幅を特異的なプライマー対を使用して行い、cDNA産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。図25Bは、FA−E線維芽細胞株(DF1179)の中でのFANCE遺伝子の変異を、FANCEのエキソン1からエキソン10までの範囲にまたがる様々なプライマーを使用する直接のDNA配列決定によって確認できたことを示している模式図である。示されるクロマトグラムは、FANCEの1111位でのCからTへの点変異がミスセンス変異(R371W、ArgからTrp)を生じることを示している。図25Cは、FANCE変異を示している模式図である。図25Dは、野生型FANCEでFA−E繊維芽細胞株DF1179のMMC感受性が相補されるが、FANCEの二重変異体(TS/AA)を用いた場合には相補されないことを示している線グラフである。空のベクター(pMMP)、pMMP−FLAG−FANCEwt、pMMP−FLAG−TS/AA(T346A、S374Aの二重変異体)を有しているFA−E線維芽細胞株DF1179のMMC感受性。示されるレトロウイルス上清を作成し、これをDF1179細胞に形質導入するために使用した。ピューロマイシン耐性細胞を選択し、MMC感受性を以下に記載されるように決定した。示される値は、4回の別々の実験による平均±標準偏差(SD)である。
【図26】図26A〜Dは、DNAの損傷に応答したホスホ−T346−FANCE焦点の形成を説明する。A、B.低用量のDNA損傷に応答したホスホ−T346−FANCE焦点の形成。HeLa細胞を低用量のDNA損傷:UV(10J/m2)、IR(2Gy)、またはMMC(40ng/ml)に対して暴露し、固定の前に、示されるさまざまな時間の間インキュベートし、免疫蛍光分析を、抗pT346−FANCE抗体を使用して行った。倍率×400(A)。4個を上回る異なるpT346−FANCE焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである(B)。C、D.ホスホ−T346−FANCE焦点の形成に対するChk1阻害剤の効果。HeLa細胞を、Chk1阻害剤Goe6976およびSB218078(5μM)を伴って、または伴わずに、30分間前処理し、その後、UV(60J/m2)に暴露し、固定の前に3時間インキュベートし、免疫蛍光分析を抗pT346−FANCE抗体を使用して行った。倍率×400(C)。4個を上回る異なるpT346−FANCE焦点を有している細胞をポジティブとカウントした。200細胞/試料を分析した。示される値は、3回の別々の実験による平均±SDである(D)。
【図27】図27Aは、空のベクター(DF1179+Vec.)、野生型FANCE(DF1179+FLAG−FANCEwt)、または二重変異体(DF1179+FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E線維芽細胞(DF1179)を示しているブロットである。FA−E線維芽細胞(DF1179)は、未処理のままとしたか、またはUV(60J/m2)で処理したかのいずれかとし、6時間インキュベートし、全細胞抽出物について抗FLAGを用いて免疫沈降を行い、免疫複合体をSDS−PAGEによって、続いて、ウェスタンブロット分析によって、抗FANCA抗体、抗FANCG抗体、抗FANCC抗体、および抗FLAG抗体を用いて分析した。重鎖IgGをローディング対照として使用した。図27Bは、U2OS細胞、GM0637細胞、またはHEK293T細胞を示しているブロットである。これらの細胞は、未処理のままとしたか、または60J/m2のUVで処理したかのいずれかとし、3時間または8時間インキュベートし、全細胞抽出物を、示される抗体を用いてウェスタンブロットについて分析した。抗β−チューブリンブロットをローディング対照として使用した。
【図28】図28は、Chk1阻害剤で処理したHela細胞がFANCD2のモノユビキチン化の増大を示すことを示しているウェスタンブロットの写真である。ヒトHeLa細胞をChk1阻害剤G06976で処理した。HeLa細胞溶解物の画分について、SDS−PAGE、その後に、FANCD2タンパク質に対する抗体を用いた免疫ブロッティングを行った。Chk1阻害剤で処理した細胞は、ファンコニ貧血経路の活性の指標であるFANCD2のユビキチン化形態の高いレベルを示した。
【図29】図29は、EUFA426(FANCC欠損)細胞の中でのChk1に対するsiRNAの毒性を示している棒グラフである。細胞の生存性の決定を、FANCCを含むレトロウイルスでFANCC遺伝子の発現が相補されたEUFA426細胞およびEUFA426細胞に適用した。細胞の生存性アッセイは、LacZまたはChk1 siRNA(それぞれ、LacZsiおよびChk1si)の導入を標準的なプロトコールによって行った後に決定した。
【図30】図30は、ファンコニ貧血欠損細胞が細胞生存性の測定においてChk1阻害剤に対して過敏であることを示している線グラフである。コロニー形成性の細胞の生存性アッセイは、EUFA326(FANCG欠損)ヒト細胞およびEUFA326+G(FANCGで相補された)ヒト細胞の、示される様々な用量のChk1キナーゼ阻害剤G06976に対する暴露の後に完了した。それぞれの暴露量で、FANC−細胞に対するディファレンシャルな細胞死滅が存在していた。
【図31】図31は、ファンコニ貧血欠損細胞は、Chk1阻害剤とのインキュベーションの後に染色体の断裂が増えることを示している棒グラフと一連の模式図であり、細胞周期の変化を示している。FANCE欠損細胞株EUFA130(FE変異体)と、相補によってFANCE遺伝子で修正されたEUFA130(FE修正)を2つの分析によって比較した。上段のパネルにおいては、染色体の断裂のレベルを、1uMのG06976への暴露後0時間および48時間でスコアした。染色体の断裂の数を50個の細胞から定量した。下段のパネルにおいては、FE変異体とFE修正細胞を、細胞周期の期における細胞の割合について比較した。
【図32】図32は、自然発生したヒトの腫瘍(既知のBRCA1もしくはBRCA2欠損、またはファンコニ貧血欠損と明らかには関係していない)の中のファンコニ貧血経路の破壊の例を示しているチャートである。
【図33】図33は、ヒト卵巣細胞株2008がChk1阻害剤またはAtm阻害剤による阻害に過敏であることを示している写真と棒グラフである。2008および2008+F細胞の細胞生存性を、Chk1キナーゼ阻害剤G06976、およびAtmキナーゼ阻害剤KU55933での処理後に試験した。対照または上記阻害剤とともにインキュベーションした後の7〜10日後の組織培養プレートのメチレンブルー染色が示される。G06976処理についての細胞コロニーアッセイの定量を右のパネルに示す。G06796は、2008卵巣ガン細胞の有意な過敏性を引き起こすが、この細胞はFANCFの発現を回復した。
【図34】図34は、FANCA欠損細胞が、FANCA遺伝子で相補されている同じ細胞との比較により、PARP1阻害剤に対して過敏であることを示している棒グラフである。「FANCA変異体」は、ヒトFANCA欠損患者の細胞株である。「FANCA修正」は、FANCA遺伝子がレトロウイルス形質導入によって再導入されている同じ細胞である。細胞の生存性は、コロニー形成の量によって測定した。
【図35−1】図35A〜B。免疫組織化学分析によって11個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて分析した頭頸部ガン腫瘍マイクロアレイ。Head & Neck TMAの連続切片をIHCのために調製した。この実験で使用した抗体は、以下のエピトープに対する抗体であった:MSH2(ミスマッチ修復)、PT2056 DNAPK(非相同末端結合)、FANCDD2(FA/相同組み換え)、PS HSP27(MapKapキナーゼ2基質)、PT334MAPKAPキナーゼ2(DNA損傷のシグナル伝達)、MLH1(ミスマッチ修復)、MSH6(ミスマッチ修復)、PAR(塩基除去修復)、PARP1(塩基除去修復)、XPF(ヌクレオチド除去修復)。画像分析は、図36に示されるように、TMAに由来する9個のガンの標本のグループについて行った。
【図35−2】図35C。免疫組織化学分析によって11個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて分析した頭頸部ガン腫瘍マイクロアレイ。Head & Neck TMAの連続切片をIHCのために調製した。この実験で使用した抗体は、以下のエピトープに対する抗体であった:MSH2(ミスマッチ修復)、PT2056 DNAPK(非相同末端結合)、FANCDD2(FA/相同組み換え)、PS HSP27(MapKapキナーゼ2基質)、PT334MAPKAPキナーゼ2(DNA損傷のシグナル伝達)、MLH1(ミスマッチ修復)、MSH6(ミスマッチ修復)、PAR(塩基除去修復)、PARP1(塩基除去修復)、XPF(ヌクレオチド除去修復)。画像分析は、図36に示されるように、TMAに由来する9個のガンの標本のグループについて行った。
【図36】頭頸部ガンの患者に由来する9個の腫瘍コアを用いた11個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーのIHC染色パターンの比較。頭頸部ガンの患者に由来する腫瘍マイクロアレイ(TMA)を、DNA修復とDNAの損傷シグナル伝達の生体マーカーの1つのグループを用いて調べた。点線の黄色い丸は、アレイの中の1つの患者の腫瘍を示す。同様に、点線の紫色の丸は、TMAの中の第2の患者の腫瘍を示している。染色のレベルは、マーカーあたり、および腫瘍の標本あたりのバリエーションを示すために、H:高い、M:中程度、またはL:低いと幅を持たせて見積もった。評価した生体マーカーは、左側から右側に向かって以下である(上段:MSH2、DNAPK、ERCC1、FANCD2)(中段:HSP27、MapKapキナーゼ2、MLH1、MSH6)(下段:PAR、PARP1、XPF)。
【図37−1】図37A〜B。ヒトの前立腺ガンの標本についてのDNA修復生体マーカーの分析の例。A.3つの患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5個の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析によって解釈するために高倍率でTMAから撮影した。B.患者1、2、および3についての生体マーカーあたりのバリエーション。着色した出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを明らかにしている。
【図37−2】図37A〜B。ヒトの前立腺ガンの標本についてのDNA修復生体マーカーの分析の例。A.3つの患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5個の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析によって解釈するために高倍率でTMAから撮影した。B.患者1、2、および3についての生体マーカーあたりのバリエーション。着色した出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを明らかにしている。
【図37−3】図37A〜B。ヒトの前立腺ガンの標本についてのDNA修復生体マーカーの分析の例。A.3つの患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5個の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析によって解釈するために高倍率でTMAから撮影した。B.患者1、2、および3についての生体マーカーあたりのバリエーション。着色した出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを明らかにしている。
【図38−1】図38A〜B。ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)標本について明らかになったDNA修復生体マーカーの分析の例。A.4つの患者の腫瘍の標本の提示が、異なる経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。他のTMAを用いて上記に記載されたように、NSCLC TMAの連続切片を、図に示されるように5個の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析による解釈のために、高倍率でTMAから撮影した。B.出力を記載するための着色スキームを使用した、患者1〜4についての生体マーカーあたりのバリエーション。
【図38−2】図38A〜B。ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)標本について明らかになったDNA修復生体マーカーの分析の例。A.4つの患者の腫瘍の標本の提示が、異なる経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。他のTMAを用いて上記に記載されたように、NSCLC TMAの連続切片を、図に示されるように5個の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析による解釈のために、高倍率でTMAから撮影した。B.出力を記載するための着色スキームを使用した、患者1〜4についての生体マーカーあたりのバリエーション。
【図38−3】図38A〜B。ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)標本について明らかになったDNA修復生体マーカーの分析の例。A.4つの患者の腫瘍の標本の提示が、異なる経路に由来する5個のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。他のTMAを用いて上記に記載されたように、NSCLC TMAの連続切片を、図に示されるように5個の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析による解釈のために、高倍率でTMAから撮影した。B.出力を記載するための着色スキームを使用した、患者1〜4についての生体マーカーあたりのバリエーション。
【図39】図39A〜F。漿液性卵巣ガンの連続切片からの関心領域の選択(ROI)。腫瘍標本の連続切片。緑色と黄色の四角は、ヘマトキシリンとエオシンでの染色に基づいて選択した、選択された領域の中に大きな腫瘍の容積を有している領域を示す。
【図40A】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図40B】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図40C】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図40D】図40A〜D。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての頭頸部ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、およびD:PT334Mapkapキナーゼ2を用いて示す。A〜Dのそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、27、26、および23(上段のパネル)、および21、16、9(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41A】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41B】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41C】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41D】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図41E】図41A〜E。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路のIHC染色パターンについての卵巣ガンの6人の患者の比較。4つのマーカーのIHC染色は、A:FANCD2、B:MLH1、C:XPF、D:PT334Mapkapキナーゼ2、およびE:Ki67を用いて示す。A−5のそれぞれの部分において、6人の頭頸部ガンの患者に、37、38、および39(上段のパネル)、および4、40、41(下段のパネル)と番号を付けた。
【図42】頭頸部ガンのFANCD2(FA/HR)およびXPF(ヌクレオチド除去修復)生体マーカーの比較。頭頸部ガンの患者(N=35)を、FANCD2およびXPF生体マーカーを用いてIHCによって評価した。2つのマーカーは、それぞれ、ファンコニ貧血/相同組み換えおよびヌクレオチド切断修復経路の構成成分である。病状についてのスコアは、1から12の目盛りで、I(強さ)×Q(量)として表す。患者を、それぞれのマーカーについて、>6のスコアに対する6またはそれ未満の生体マーカーのスコアに基づいて4象限に分類した。丸の数は、1つの4象限あたりの患者の数を示す。
【図43】再発後の生検を用いて比較した、外科手術による切除後の卵巣ガン患者の腫瘍の標本のDNA修復生体マーカーの評価。画像分析は、患者15および患者15R(再発)の標本について目的の同じ領域全体にわたって行った。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーは、写真の挿入に記載されるとおりであり、FANCD2、PT334Mapkapキナーゼ2、MLH1、およびXPFが列挙される。画像データは、再発の際のFANCD2およびPT334Mapkapキナーゼ2の発現レベルの増大の傾向、MLH1生体マーカーについての比較的わずかな変化、およびXPF生体マーカーについてのわずかに低いレベルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、腫瘍細胞は変化してしまったDNA修復およびDNAの損傷応答の経路を有していること、ならびに、これらの経路のうちの1つが失われることにより、特定のクラスのDNA損傷剤に対して、ガン細胞がより敏感になることの観察に関係する。ガンの治療手順(例えば、化学療法および放射線治療)は、細胞死を生じるDNAの損傷を修復する細胞の能力を圧倒的に大きくすること(overwhelming)によって作用する。さらに具体的には、本発明は、細胞の2つのDNA損傷経路の中での欠損が致命的であることの発見に一部基づく。したがって、腫瘍の照射および薬物に対する反応性は、ガン細胞の中の6個の主要なDNA修復経路の完全性を決定することによって予想することができる(図15)。DNA修復とDNA損傷経路の状態は、乳ガンについての1つ以上の化学療法または放射線治療を用いた治療の決定を推進するであろう(図16および図18)。DNA修復およびDNA損傷の生体マーカーが、定義された薬剤に対する特異的感受性、および/または化学療法に対する耐性をモニターすることにおいて有用であり得る理由の一例もまた示される(図16〜18)。同様に、DNA修復およびDNA損傷経路の状態は、様々なガンにおける化学療法薬のタイプの決定を評価するための手段であり得る(図17)。
【0017】
したがって、本発明により、DNA修復経路が変化してしまったことを決定することによる、治療薬に対するガン細胞の反応性(例えば、感受性または耐性)を決定する方法が提供される。これらの方法はまた、ガンまたは他の細胞増殖性の障害について処置および治療を受けている被験体をモニターするため、ならびに、ガンまたは他の細胞増殖性の障害を有している被験体において有効であろう治療法および処置を選択するためにも有用である。この場合、そのような処置および治療法の選択および使用により、ガンまたは他の細胞増殖性の障害の進行が遅らせられる。本発明はさらに、DNA修復経路の変化を検出することにおいて有用である生体マーカーに関する。
【0018】
いくつかの基準によって区別することができる主要なDNA修復経路が6つ存在している。これらは、一本鎖の損傷を修復する3つのグループと、二本鎖の損傷を修復する3つのグループに分けることができる。一本鎖の損傷の修復経路には、塩基除去修復(BER);ヌクレオチド除去修復(NER);ミスマッチ修復(MMR);相同組み換え/ファンコニ貧血経路(HR/FA);非相同末端結合(NHEJ)、および損傷乗り越え(translesion)DNA合成(TLS)が含まれる。
【0019】
BER、NER、およびMMRは1本鎖DNAの損傷を修復する。二重ヘリックスの2つの鎖のうちの一方だけが損傷を有している場合には、他方の鎖を、損傷を受けた鎖の修正を導くための鋳型として使用することができる。DNAの2本の対合した分子のうちの一方の損傷を修復するためには、損傷したヌクレオチドを除去し、これを損傷を受けていないDNA鎖の中に見られるものに対して相補的な損傷を受けていないヌクレオチドで置き換える、除去修復機構が多数存在している。BERは、酸化、アルキル化、加水分解、または脱アミノ化反応によって引き起こされた1つのヌクレオチドが原因である損傷を修復する。NERは、2〜30塩基の、より長い鎖に影響を与える損傷を修復する。このプロセスは、チミン二量体、ならびに一本鎖の断裂(UvrABCエンドヌクレアーゼのような酵素で修復された)のような、大きなヘリックスを歪める変化を認識する。転写共役修復(TCR)として知られているNERの特別な形態は、活発に転写されている遺伝子に対して高い優先度でNER修復酵素を配置する。MMRは、DNA複製後に誤って対合したヌクレオチドを生じる、DNA複製および組み換えの間違いを修正する。
【0020】
NEHJとHRは、二本鎖のDNA損傷を修復する。二本鎖の損傷は、分裂中の細胞にとって特に危険である。NHEJ経路は、損傷が起こったDNAの領域をまだ細胞が複製していない場合に作動する。このプロセスでは、断裂してしまったDNA鎖の2つの末端を鋳型を用いることなく直接結合させるので、プロセスにおいては配列情報が失われてしまう。したがって、この修復機構は必然的に突然変異誘発性である。しかし、細胞が分裂中ではなく、そのDNAが複製されていない場合には、NHEJ経路は細胞のオプションにすぎない。NHEJは、連結させられた2つのDNA断片の一本鎖である末端の間で対合する偶然、または微視的相同性(microhomology)に頼る。高等真核生物には、NHEJには依存しない複数の「二重安全装置」である経路が存在する。組み換え修復には、断裂の修復のための鋳型として使用される、同じ配列またはほぼ同じ配列の存在が必要である。この修復プロセスに関係している酵素的機構は、有糸分裂の間の染色体の乗り換えを担っている機構とほぼ同じである。この経路は、鋳型として新しく作成された娘染色分体(すなわち、これもまたセントロメアによって損傷をうけた領域に連結させられる同じコピー)を使用して、損傷を受けた染色体が修復されることを可能にする。この機構によって修復された二本鎖の断裂は、通常、一本鎖の断裂、または対合していない損傷(これらはいずれも、複製フォークの崩壊を生じる)を超えて合成することを試みる複製機構によって引き起こされる。
【0021】
損傷乗り越え修復は、任意の他の機構によっては修復されていないDNAの損傷を修復する、間違いが多い(ほぼ間違いが保証されている)最終手段である方法である。DNA修復機構は、DNA損傷部位を越えて複製を続けることができず、そのために、複製フォークの進行は、損傷を受けた塩基に遭遇すると行き詰るであろう。損傷乗り越え修復経路は、損傷部位に別の塩基を挿入し、それによって染色体の複製を継続するために、複製が損傷を受けた塩基をバイパスすることを可能にする、特異的なDNAポリメラーゼによって媒介される。損傷乗り越え修復機構によって挿入された塩基は鋳型に依存するが、恣意的ではない。例えば、1つのヒトポリメラーゼは、チミンニ量体を超えて合成を行う場合には、アデニン塩基を挿入する。
【0022】
正常なヒト細胞に類似しているガン細胞は、DNA損傷に応答してそれらの増殖を停止することができる。細胞周期の停止は、細胞内のチェックポイントキナーゼの複合アレイによって、少なくとも一部行われる。チェックポイントキナーゼ(例えば、Chk1(CHEK1)、Chk2(CHEK2)、およびMapKapキナーゼ2(MK2、Chk3))は、一旦活性化されると、異なる段階(すなわち、G1/S期、G2/M期、または紡錘体の段階)で細胞周期を停止させることによって細胞増殖を終える。細胞周期の停止によっては、増殖を再開する前に、DNA損傷を修復する機会が提供される。
【0023】
細胞は、DNA損傷に応答してChk1キナーゼを活性化させる。Chk1は、複数のタンパク質基質(エフェクタータンパク質)をリン酸化し、これは続いて、チェックポイント応答に寄与する。例えば、Chk1は、タンパク質Cdc25cをリン酸化させ、それにより、細胞周期のG2期からM期への移行のブロックを導く。このチェックポイントは、細胞(正常な細胞とガン細胞の両方)が、有糸分裂(M)期に入る前にそれらのDAを修復することを可能にする。
【0024】
ガン細胞には、高レベルのDNA損傷が蓄積する。この損傷は、それらの高くなった増殖活性によって、または、化学療法もしくは電離放射線への暴露によって生じ得る。ガン細胞は、多くの場合は、Chk1−キナーゼによって媒介されるG2/M細胞周期チェックポイントに非常に依存する。Chk1への大きな依存はまた、腫瘍細胞が別の重要なチェックポイント媒介因子であるp53タンパク質を持たないことによっても生じる。したがって、Chk1の阻害により、腫瘍細胞の生命維持に必要なチェックポイントがノックアウトされる。このチェックポイントがなければ、腫瘍細胞は、修復されていないままのDNA損傷が残っているにもかかわらず、有糸分裂へと進行して、「細胞分裂異常」、しいては細胞死に至る。この原理に基づいて、Chk1阻害剤が開発されている。7−ヒドロキシ−スタウロスポリン(UCN01)は、臨床開発が最も進んでおり、II相臨床試験の段階にある。しかし、UCN01は、望ましくない毒性を発現する可能性があるその長い半減期の理由から、臨床的には問題がある。したがって、阻害剤で最も適切に処置できる患者を特定することが、重要な臨床上の課題である。広い意味でのChk1阻害剤の場合には、サブグループとして患者の応答者を同定することが重要であり、その結果、これらの患者は、機能するであろう治療に対するより優れたターゲットであり得る。同様に、Chk1阻害剤での処置によって明らかに利益が得られないであろう、したがって、Chk1阻害剤に伴う毒性を回避する可能性がある患者もまた同定することができる。本明細書中に明らかに記載されるように、DNA損傷に応答して、Chk1は、2つの保存されている部位(スレオニン346とセリン374)上にあるFAコア複合体のFANCEサブユニットを直接リン酸化する。リン酸化されたFANCEは、核焦点にアセンブリして、FANCD2と一緒に局在化する。FANCEの非リン酸化変異形態(FANCE−T346A/S374A)は、FANCE欠損細胞株の中で発現された場合には、FANCD2のモノユビキチン化、FANCD2焦点のアセンブリ、および正常なS期への進行を可能にする。しかし、変異体FANCEタンパク質は、トランスフェクトされた細胞のマイトマイシンC過敏性を補うことはできない。まとめると、これらの結果は、FA/BRCA経路の調節、およびDNAの架橋修復の調節におけるChk1の新規の役割を明らかにしている。FANCEのChk1によって媒介されるリン酸化は、FANCD2のモノユビキチン化とは関係のない機能に必要である。
【0025】
DNA修復およびDNA損傷応答のマーカー
患者は治療に対して様々な程度の反応性を有しており、動的様式での処置の能力を識別するために複数の方法が必要である。細胞性のDNA修復経路に対する変化(例えば、活性、異常に活性、抑制された、下方調節された、または不活性)の同定が、治療用化合物に対する応答をモニタリングし、予想することにおいて有用である。したがって、本発明には、DNA修復およびDNAの損傷応答に関係している生体マーカーが含まれる。本発明は、本明細書中に開示される生体マーカーの検出による、治療用化合物(例えば、化学療法薬)に対して耐性を生じる、または治療薬に対して感受性があるか、あるいはそのような素因があるかのいずれかである被験体を同定するための方法を特徴とする。これらの生体マーカーはまた、ガンおよび細胞増殖性の障害について処置および治療を受けている被験体をモニタリングするため、ならびに、ガンおよび細胞増殖性障害を有している被験体において有効である治療法および処置を選択するためにも有用である。
【0026】
用語「生体マーカー」には、本発明の状況においては、タンパク質、核酸、タンパク質および核酸の多形、元素、代謝物、および他の分析物が含まれるが、これらに限定されない。生体マーカーにはまた、変異したタンパク質または変異した核酸も含まれ得る。用語「分析物」は、本明細書中で使用される場合には、測定される任意の物質を意味し得、そしてこれには、電解質および元素(例えば、カルシウム)も含まれ得る。
【0027】
治療用化合物に対して耐性または感受性を有しているか、あるいは、治療用化合物に対して耐性または感受性を生じる素因がある被験体においてそのレベルが変化するタンパク質、核酸、多形、および代謝物が表1にまとめられ、これらはまとめて、本明細書中では特に「DNA修復およびDNA損傷応答タンパク質、すなわちDNARMARKER」と呼ばれる。
【0028】
DNARMARKERSの発現は、当該分野で公知の任意の方法を使用してタンパク質または核酸のレベルで決定される。例えば、核酸レベルでは、これらの配列のうちの1つ以上を特異的に認識するプローブを使用するノーザンハイブリダイゼーション分析を、遺伝子発現を決定するために使用することができる。あるいは、発現は、逆転写に基づくPCRアッセイを使用して、例えば、遺伝子のディファレンシャルに発現された配列に特異的なプライマーを使用して測定される。発現はまた、タンパク質レベルでも、すなわち、本明細書中に記載される遺伝子産物によってコードされるペプチド、またはその活性のレベルを測定することによって、決定することもできる。そのような方法は当該分野で周知であり、例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体、アプタマー、または分子インプリントに基づく免疫アッセイが含まれる。任意の生物学的材料を、タンパク質またはその活性の検出/定量のために使用することができる。あるいは、適切な方法を、分析される個々のタンパク質の活性にしたがってマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するために選択することができる。
【0029】
DNARMARKERタンパク質は任意の適切な様式で検出されるが、通常は、患者に由来する試料がDNARMARKERタンパク質に結合する抗体と接触させられ、その後、反応産物の存在またはそれが存在しないことを検出することによって検出される。抗体は、上記で詳細に議論されたように、モノクローナル、ポリクローナル、キメラ、または上記の断片であり得、反応産物の検出工程は任意の適切な免疫アッセイを用いて行われ得る。被験体に由来する試料は、通常は、上記のような生物学的液体であり、上記方法を行うために使用される生物学的液体の同じ試料であり得る。試料はまた、患者に由来する組織標本の形態でもあり得る。この場合、標本は、パラフィンに包埋された組織、組織の凍結切片、および新しく単離された組織のような様々な形式の、免疫組織化学反応に適している。免疫検出方法は抗体に基づくが、組織の状況での抗体への結合のより高感度な決定を可能にするさらに別の技術が多数存在している。当業者は、様々な免疫組織化学反応のストラテジーをよく知っているであろう。
【0030】
本発明にしたがって行われる免疫アッセイは、ホモジニアスアッセイ(homogeneous assay)またはヘテロジニアスアッセイ(heterogeneous assay)であり得る。ホモジニアスアッセイにおいては、免疫学的反応には、通常、特異的抗体(例えば、抗DNARMARKERタンパク質抗体)、標識された分析物、および目的の試料が含まれる。標識から生じるシグナルは、標識された分析物に対して抗体が結合すると、直接または間接的に修飾される。免疫学的反応とその範囲の検出のいずれもが、均質な溶液の中で行われる。使用することができる免疫化学的標識としては、フリーラジカル、放射性同位元素、蛍光色素、酵素、バクテリオファージ、または補酵素が挙げられる。
【0031】
ヘテロジニアスアッセイのアプローチにおいては、試薬は通常、試料、抗体、および検出シグナルを生じさせるための手段である。上記のような試料を使用することができる。抗体は、一般的には、支持体(例えば、ビーズ、プレート、またはスライド)上に固定され、そして液相中に抗原を含むと予想される標本と接触させられる。その後、支持体は、液相から分離され、支持体相または液相のいずれかが、そのようなシグナルを生じさせるための検出可能なシグナルを使用する手段について試験される。シグナルは、試料中の分析物の存在に関係する。検出可能なシグナルを生じさせるための手段には、放射標識、蛍光標識、または酵素標識の使用が含まれる。例えば、検出される抗原に第2の結合部位が含まれる場合には、その部位に結合する抗体を検出基に結合させることができ、分離工程の前に液相の反応溶液に添加することができる。固体支持体上の検出基の存在は、試験試料中の抗原の存在を示す。適切な免疫アッセイの例は放射免疫アッセイ、免疫蛍光方法、化学発光方法、電気化学的発光方法、または酵素結合免疫アッセイである。
【0032】
当業者は、本明細書中に開示される方法を実行するために有用であり得る多数の特異的な免疫アッセイ形式とそのバリエーションをよく知っているであろう。一般的には、E.Maggio,Enzyme−Immunoassay,(1980)(CRC Press,Inc.,Boca Raton,Fla.)を参照のこと;「Methods for Modulating Ligand−Receptor Interactions and their Application」と題された、Skoldらの米国特許第4,727,022号、「Immunoassay of Antigens」と題されたForrestらの米国特許第4,659,678号、「Immunometric Assays Using Monoclonal Antibodies」と題されたDavidらの米国特許第4,376,110号、「Macromolecular Environment Control in Specific Receptor Assays」と題されたLitmanらの米国特許第4,275,149号、「Reagents and Method Employing Channeling」と題されたMaggioらの米国特許第4,233,402号、および「Heterogenous Specific Binding Assay Employing a Coenzyme as Label」と題されたBoguslaskiらの米国特許第4,230,767号もまた参照のこと。
【0033】
抗体は、公知の技術(例えば、受動的結合)にしたがって、診断アッセイに適している固体支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンのような材料から作られたビーズ、プレート、スライド、またはウェル)に結合させられる。同様に、本明細書中に記載される抗体は、公知の技術にしたがって検出可能な基(例えば、放射標識(例えば、35S、125I、131I)、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、および蛍光標識(例えば、フルオレセイン))に結合させることができる。
【0034】
当業者は、表1のDNARMARKERSのいずれかに対する抗体、核酸プローブ(例えば、オリゴヌクレオチド、アプタマー、siRNA)を日常的に行われているように作成することができる。
【0035】
本発明にはまた、DNARMARKERS検出試薬(例えば、DNARMARKER核酸の一部に相補的である相同な核酸配列(例えば、オリゴヌクレオチド配列)を有していることによって1つ以上のDNARMARKER核酸を特異的に同定する核酸、あるいは、キットの形態で一緒にパッケージされているDNARMARKER核酸によってコードされるタンパク質に対する抗体)も含まれる。オリゴヌクレオチドは、DNARMARKER遺伝子の断片である。例えば、オリゴヌクレオチドは、200、150、100、50、25、10、またはそれ未満のヌクレオチドの長さである。キットには、核酸または抗体(すでに固体マトリックスに結合させられているか、もしくはマトリックスにそれらを結合させるための試薬とは別々にパッケージされているかのいずれか)、対照の処方物(ポジティブおよび/またはネガティブ)、および/または検出標識が容器の中に別々に含まれ得る。アッセイを実施するための説明書(例えば、書面による、テープ、VCR、CD−ROMなど)がキットの中に含まれる場合がある。例えば、アッセイは、当該分野で公知であるように、ノーザンハイブリダイゼーション、またはサンドイッチELISAの形態であり得る。
【0036】
例えば、DNARMARKER検出試薬は、固体マトリックス(例えば、少なくとも1つのDNARMARKER検出部位を形成する多孔性の細片)上に固定される。多孔性の細片の測定または検出領域には、核酸を含む複数の部位が含まれ得る。細片にはまた、ネガティブ対照および/またはポジティブ対照のための部位も含まれ得る。あるいは、対照部位は、試験細片とは別の細片上に配置される。状況に応じて、様々な検出部位には、様々な量の固定された核酸(すなわち、第1の検出部位の中には多量、続く部位にはより少ない量)が含まれ得る。試験試料が添加されると、検出可能なシグナルを提示する部位の数により、試料中に存在するDNARMARKERの量の量的指標が提供される。検出部位は、任意の適切な検出可能な形状になるように構成され得、通常は、試験細片の幅全体に及ぶ棒または点の形状である。
【0037】
あるいは、キットには、1つ以上の核酸配列が含まれている核酸基質アレイが含まれる。アレイ上の核酸は、DNARMARKER1〜259によって提示される1つ以上の核酸配列を特異的に同定する。様々な実施形態においては、DNARMARKER1〜259によって提示される配列のうちの2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、または50、あるいはそれ以上の配列の発現が、アレイへの結合によって同定される。基質アレイは、例えば、「固体の基体」(例えば、米国特許第5,744,305号に記載されているような「チップ」)上であり得る。あるいは、基質アレイは、溶液アレイ(例えば、Luminex,Cyvera,Vitra and Quantum Dots’Mosaic.)であり得る。
【0038】
好ましくは、キットには、DNARMARKERSの検出のための抗体が含まれる。
【0039】
【表1−1】
【0040】
【表1−2】
【0041】
【表1−3】
【0042】
【表1−4】
【0043】
【表1−5】
【0044】
【表1−6】
【0045】
【表1−7】
【0046】
【表1−8】
【0047】
【表1−9】
【0048】
【表1−10】
【0049】
【表1−11】
【0050】
【表1−12】
治療方法
抗原に対する細胞の反応性(例えば、耐性または感受性)は、細胞の中のDNA修復経路の欠損を同定することによって決定される。細胞は、例えば、ガン細胞である。DNA修復経路は、塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、ミスマッチ修復、相同組み換え/ファンコニ貧血(FA)経路、非相同末端結合、または損傷乗り越えDNA合成である(図16〜18)。
【0051】
特定のDNA修復経路における欠損の存在は、細胞が、そのDNA経路に特異的である薬剤に対して耐性であることを示す。一方、欠損がないことは、その細胞がそのDNA経路に特異的な薬剤に対して感受性があることを示す。
【0052】
耐性とは、細胞が薬剤に反応することができないことを意味する。例えば、化学療法薬に対する耐性は、その薬物が損傷を受けないか、または薬物によって死滅させられないことを意味する。感受性とは、細胞が薬剤に対し応答することを意味する。例えば、化学療法薬に対する感受性とは、薬物が損傷を受けるか、または薬物によって死滅させられることを意味する。
【0053】
例えば、DNA架橋剤または電離放射線に対する細胞の反応性は、相同組み換え/FA経路の欠損を同定することによって特定される。相同組み換え/FA経路の欠損の存在は、細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して感受性であることを示す。一方、欠損がないことは、細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して耐性であることを示す。架橋剤としては、例えば、シスプラチンが挙げられる。相同組み換え/FA経路の阻害剤に対するガン細胞の反応性は、ミスマッチ修復DNA経路の欠損を同定することによって特定される。ミスマッチ修復DNA経路における欠損の存在は、細胞が相同組み換え/FA経路の阻害剤に対して感受性であることを示す。一方、欠損がないことは、細胞が、相同組み換え/FA経路の阻害剤に対して耐性であることを示す。相同組み換え/FA経路の阻害剤としては、例えば、クルクミン、ベルケイド(velcade)、またはアルステルパウロン(alsterpaulone)が挙げられる。
【0054】
治療薬に対するガン細胞の感受性は、1つ以上のDNA修復経路のタンパク質または遺伝子の活性を阻害するかまたは低下させることによって増大させられる。正常に作動しないDNA修復経路の数を増大させることによって、ガン細胞がDNA損傷を修復することができる機構の数を減少させ、それによって細胞を治療薬の作用に対してより感受性にすることができる。例えば、相同組み換え/FA経路の阻害因子とガン細胞を接触させることによる、ガン細胞のDNA架橋剤または電離放射線に対する感受性である。適切な阻害剤としては、MAP2KAP2阻害剤が挙げられる。
【0055】
細胞中のDNA修復経路の欠損を決定することにより、特定の細胞について細胞死または損傷を誘導することができる治療薬。その細胞に適している治療薬は、欠損経路以外のDNA経路を特異的に標的化する。標的化される経路は、様々なタイプのDNA損傷を修復する経路である。例えば、欠損している経路が一本鎖の断裂を修復する経路である場合には、標的化される経路は二本鎖の断裂を修復する経路である。同様に、欠損している経路が二本鎖の断裂を修復する経路である場合には、標的化される経路は一本鎖を修復する経路である。
【0056】
あるいは、標的化される経路は、欠損経路の余っていて使われていない(redundant)経路である。「余っていて使われていない(redundant)経路」とは、その経路が同様のDNA損傷を修復することを意味する。例えば、BER、NER、およびMMRは全て、一本鎖の断裂を修復し、したがって、余っていて使われていない経路である。したがって、BER経路が欠損経路である場合には、NERまたはMMR経路が標的化されることが有利である。同様に、NER経路が欠損経路である場合には、BERまたはMMR経路が標的化されることが有利である。同様に、MMR経路が欠損経路である場合には、NERまたはBER経路が標的化されることが有利である。同様に、NHEJ経路が欠損経路である場合には、HR/FA経路が標的化されることが有利である。同様に、HR/FAとNHEJはいずれも二本鎖の断裂を修復し、したがって余っていて使われていない経路である。したがって、FR/FA経路が欠損経路である場合には、NHEJ経路が標的化されることが有利である。同様に、NHEJ経路が欠損経路である場合には、HR/FA経路が標的化されることが有利である。
【0057】
特異的なDNA修復経路を標的化する薬物は当該分野で公知であり、例えば、表2に列挙される薬物が含まれる。
【0058】
【表2−1】
【0059】
【表2−2】
テモゾロミドは、重要な毒性のある損傷の形成を引き起こすアルキル化剤O−6メチルグアニン(O−6MG)である。この損傷を修復するDNA修復タンパク質であるMGMTの不活化は、脳腫瘍の患者のより長い生存性と関係があることが示されている(Hegi ME,ら、Clin Cancer Res 2004;10:1871−4)。手術することができない膠芽細胞腫におけるさらなる実験もまた、テモゾロミドに対する反応がMGMTと関係があることを示していた(Paz MF,ら、Clin Cancer Res 2004;10:4933−8)。
【0060】
PARP1阻害剤は、現在、腫瘍形成性の適応症について最も広く研究されている薬物のクラスのうちの1つである。いくつかの会社が、異なる化学的タイプのPARP1阻害剤の臨床試験を進めている(Ratnam and Low,2007にまとめられている)。BRCA1またはBRCA2の欠損(例えば、乳ガンおよび卵巣ガンについての前兆として遺伝的に分類された女性に起こり、そしてこれらはHR経路の2つの重要な因子である)によっては、腫瘍細胞が、PARP1阻害剤に対して過敏になることが示されている(Bryantら、2005;Farmerら、2005)。これらの研究は、臨床試験でのPARP1阻害剤の使用によって追跡調査されており(Brody,L.C.(2005)Treating cancer by targeting a weakness.N.Engl.J.Med.353,949−950;Turner,N.ら、(2005)Targeting the DNA repair defect of BRCA tumours.Curr.Opin.Pharmacol.5,388−393)、これにより、この腫瘍の弱さを標的とするDNA修復の成分に対する選択的なガン治療の可能性が生じる。HRの欠損のスペクトルの特定は、おそらく、BRCA1およびBRCA2を超えて広がり、おそらく、HR DNA修復タンパク質およびFA DNA修復タンパク質のうちの任意のものが関与している。
【0061】
ATMセリンスレオニンキナーゼは、相同組み換え経路においていくつかの公知の基質を有する。この酵素の阻害は、相同組み換えの不活化を標的化することが明らかにされている(1つの例示的な論文は、Hickson,I.ら、(2004)Identification and characterization of a novel and specific inhibitor of the ataxia−telangiectasia mutated kinase ATM.Cancer Res.64,9152−9159)。
【0062】
DNAPK酵素は、非相同末端結合DNA修復経路のセリンスレオニンキナーゼである。DNAPKのキナーゼ活性は、この経路における不可欠な工程を提供する。酵素活性が失われることによるか、または薬物での処理によるDNAPKの阻害によっては、処理された細胞の、放射線、および鎖の断裂である他の形態のDNAの損傷に対する感受性が導かれる。
【0063】
ユビキチンおよびsumoリガーゼを標的化する化合物もまた、これらの薬剤についての標的酵素が他のDNA修復タンパク質を修飾することが公知であるので、DNA修復の阻害に関係していると考えられている。ユビキチンおよびSUMOリガーゼは、相同組み換え、損傷乗り越え修復、ヌクレオチド除去修復、および塩基除去修復の工程の重要な構成成分である。したがって、このクラスの酵素に対する阻害剤は、指定されたDNA修復経路を遮断するであろう。
【0064】
複数の方法が、被験体のガンまたは細胞増殖性疾患を処置する、その症状を緩和する、その進行をモニターする、またはその発症を遅らせるために有用である。ガンおよび細胞増殖性障害は、例えば、ガン細胞がDNA修復経路にて欠損しているか否かを決定すること、そしてDNA損傷剤または少なくとも1つの異なるDNA修復経路に特異的な阻害剤を投与することによって処置される。状況に応じて、アップレギュレートされているDNA修復経路のタンパク質または遺伝子が細胞の中で同定され、そしてDNA損傷剤または、その中のタンパク質または遺伝子がアップレギュレートされているDNA修復経路に特異的な阻害剤が投与される。
【0065】
DNARMARKERタンパク質、核酸、または代謝物の有効量の発現によってはまた、ガンまたは細胞増殖性障害の処置の経過をモニターすることも可能となる。この方法においては、生物学的試料は、ガンまたは細胞増殖性障害についての処置(例えば、化学療法による処置)を受けている被験体から提供される。所望される場合には、生物学的試料は、処置の前、処置の間、または処置後の様々な時点で被験体から得られる。その後、DNARMARKERタンパク質、核酸、または代謝物の有効量の発現が決定され、参照(例えば、そのガンもしくは細胞増殖性障害の状態が明らかである対照個体または集団)、あるいは指標値に対して比較される。参照試料または指標値は、処置を受けてた1つ以上の個体から得ることができるか、または導くことができる。あるいは、参照試料または指標値は、処置を受けていない1つ以上の個体から得ることができるか、または導くことができる。例えば、試料は、ガンまたは細胞増殖性障害についての最初の処置を受け、処置の進行をモニターするために、その後に糖尿病の処置を受けた被験体から集めることができる。
【0066】
個体の遺伝的構成要素の差異によっては、様々な薬物を代謝するそれらの相対的な能力に差が生じ得る。したがって、本明細書中に開示されるDNARMARKERは、薬剤が被験体のガンまたは細胞増殖性障害を処置または予防するために適しているか否かを決定するために、選択された被験体から、推定される治療薬または予防薬を試験することを可能にする。
【0067】
特異的な被験体に適切である治療薬を同定するためには、DNARMARKERタンパク質、核酸、または代謝物の1つ以上の被験体に由来する試験試料中での発現が、決定される。
【0068】
試験試料中でのDNARMARKERの発現のパターンが測定され、参照プロフィール(例えば、治療用化合物についての参照発現プロフィール)に対して比較される。比較は、同時に測定されたか、または時間的に異なるタイミングで測定された試験試料と参照試料について行うことができる。後者の例は、DNARMARKERSの発現レベルについての情報が集められているコンパイルされた発現情報(例えば、配列データベース)の使用である。
【0069】
参照試料(例えば、対照試料)が治療用化合物に対して感受性のある細胞に由来する場合には、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERタンパク質の量の類似性は、治療用化合物での処置が有効であるであろうことを示す。しかし、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERの量の変化は、その化合物での処置によってあまり好ましくない臨床結果または予後が生じるであろうことを示す。対照的に、参照試料(例えば、対照試料)が治療用化合物に耐性である細胞に由来する場合には、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERタンパク質の量の類似性は、その化合物での処置によってあまり好ましくない臨床結果または予後が生じるであろうことを示す。しかし、試験試料と参照試料の中のDNARMARKERの量の変化は、その治療用化合物での処置が有効であるであろうことを示す。
【0070】
「有効」とは、その処置によって、被験体の中でのDNARMARKERタンパク質の量の減少、その大きさの縮小、罹患率の低下、またはガンの転移の可能性の低下が導かれることを意味する。処置が予防的に適用される場合には、「有効」は、その処置により、ガンまたは細胞増殖性障害の形成を遅らせるか、または防ぐことを意味する。ガンおよび細胞増殖性障害の評価は標準的な臨床的プロトコールを使用して行われる。
【0071】
ガンには、固形腫瘍(例えば、乳ガン、卵巣ガン、前立腺ガン、肺ガン、腎臓ガン、胃ガン、結腸ガン、精巣ガン、頭頸部ガン、膵臓ガン、脳腫瘍、黒色種)、ならびに、組織形成体の他の腫瘍および血液細胞のガン(例えば、リンパ腫および白血病(急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、T細胞リンパ球性白血病、およびB細胞リンパ腫を含む))が含まれる。
【0072】
「細胞増殖性障害」には、細胞の増殖、活性化、接着、成長、分化、または移動のプロセスに影響を与える障害が含まれる。本明細書中で使用される場合は、「細胞増殖、活性化、接着、成長、分化、または移動のプロセス」は、それにより細胞の数、大きさ、活性化状態、または含有量が増大するプロセス、それにより細胞が他の細胞とは異なる特徴の特別なセットを生じるプロセス、あるいは、それによって細胞が特定の位置もしくは刺激により近い範囲に移動するか、または特定の位置もしくは刺激から離れるプロセスである。異常に調節された増殖、活性化、接着、分化、または移動を特徴とする「細胞増殖性障害」には、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性または免疫系の障害、および/あるいは細胞増殖性障害が含まれる。
【0073】
被験体は哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物は、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシである。被験体は、ガンまたは細胞増殖性障害を有しているとすでに診断されており、そしてガンまたは細胞増殖性障害についての処置をすでに受けている可能性がある。
【0074】
被験体は、ガンまたは細胞増殖性障害に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある。ガンまたは細胞増殖性障害に罹患しているか、またはそれらを発症するリスクがある被験体は、当該分野で公知の方法によって同定される。
【0075】
「特定のDNA修復経路に特異的な薬剤」とは、その薬剤によって特定のDNA修復経路が修正するDNA損傷のタイプが誘導されることを意味する。
【0076】
「欠損」とは、細胞が、その経路を通じてDNA損傷を修復する能力が低下しているかまたはその能力が失われている(abrogated)ことを意味する。活性は、(好ましくは、同じ組織に由来する)正常な(すなわち、ガンではない)細胞と比較して決定され得る。経路の欠損は当該分野で公知の方法によって決定される。例えば、HR修復経路の活性は、DNA損傷剤に対して応答する核の中のRad51を含む焦点の形成を測定することによって決定することができる。HR修復経路が欠損している細胞は、そのような焦点を生じる能力がない。Rad51焦点の存在は、標準的な免疫蛍光技術を使用して決定することができる。あるいは、欠損は、発現を測定すること(例えば、対照と比較した増大または低下)、本明細書中に記載される1つ以上のDNARMARKERSの配列のバリエーションまたは翻訳後修飾を検出することによって決定される。
【0077】
翻訳後修飾には、例えば、リン酸化、ユビキチン化、sumo化、アセチル化、アルキル化、メチル化、グリシル化(glycylation)、グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化(lipoylation)、ホスホパンテテイニル化(phosphopantetheinylation)、硫酸化、セレン化(selenation)、およびC末端アミド生成が含まれる。例えば、相同組み換え/FA経路における欠損は、FANCD2のモノユビキチン化を検出することによって決定される。同様に、ガン細胞のMAP2KAP2阻害剤に対する反応性は、MAP2KAP2タンパク質のリン酸化を検出することによって決定される。リン酸化は、細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して反応性であることを示す。対照的に、リン酸化されないことは、細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して耐性であることを示す。
【0078】
変異または多形のような配列のバリエーションには、野生型のヌクレオチド配列と比較した、1つ以上のヌクレオチドの欠失、挿入または置換が含まれ得る。1つ以上のバリエーションは、核酸配列のコード領域の中に存在する場合も、また、非コード領域の中に存在する場合もあり、そして、DNA修復経路の構成成分であるポリペプチドの発現または機能を低下させる場合も、また、完全に失わせる場合もある。言い換えると、変異体核酸は、活性が低下しているかまたは活性を失った変異体ポリペプチドをコードする場合があり、また、例えば、調節エレメントの活性の変化により、細胞の中での発現がほとんどないかもしくは発現が全くない野生型のポリペプチドをコードする場合もある。変異体核酸は、野生型配列と比較して、1個、2個、3個、4個またはそれ以上の変異または多形を有し得る。
【0079】
DNA修復経路の構成成分をコードする核酸の中での1つ以上のバリエーションの存在は、例えば、試験試料の1つ以上の細胞の中で、1つ以上の変異または多形を含むコード核酸配列の存在を検出することによって、あるいは、核酸配列によってコードされる変異体である構成成分のポリペプチドの存在を検出することによって、決定される。
【0080】
個々のものから得られた試料の中での、特定の核酸配列(例えば、DNA修復経路の構成成分の発現もしくは活性を低下させるかまたは失わせる変異あるいは多形を有している核酸配列)の存在あるいはそれが存在しないことを決定するためには、様々な方法を利用できる。さらに、個体または試料の核酸が配列決定されている場合には、配列情報を保有することができ、その後、もともとの核酸自体に頼ることなく検索することができる。したがって、例えば、配列分析ソフトウェアを使用して配列情報のデータベースをスキャンすることにより、配列の変化または変異を同定することができる。
【0081】
本発明のいくつかの態様にしたがう方法には、試料から得られた核酸(例えば、ゲノムDNA、RNA、またはcDNA)に対するオリゴヌクレオチドプローブの結合を決定する工程が含まれ得る。プローブには、1つ以上の変異または多形を含む核酸配列に特異的に結合し、1つ以上の変異または多形を含まない核酸配列には特異的に結合しないヌクレオチド配列が含まれる場合があり、また、その逆である場合もある。オリゴヌクレオチドプローブには標識が含まれる場合があり、プローブの結合は、標識の存在を検出することによって決定することができる。
【0082】
方法には、標的核酸に対する1つ以上(例えば、2つ)のオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーのハイブリダイゼーションが含まれ得る。核酸が二本鎖DNAである場合には、ハイブリダイゼーションの前には、一般的には、一本鎖DNAを生じさせるための変性が行われるであろう。ハイブリダイゼーションは、PCR手順の一部として行われる場合も、また、PCRを含まないプロービング手順の一部として行われる場合もある。1つの例示的な手順は、PCRと低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションの組み合わせである。
【0083】
標的核酸(例えば、DNA)に対するプローブの結合は、当業者の活動場所(disposal)で、様々な技術のうちの任意のものを使用して測定することができる。例えば、プローブは、放射標識される場合も、蛍光標識される場合も、また、酵素標識される場合もある。プローブの標識を使用しない他の方法としては、制限断片長の多形についての試験、PCRを使用する増幅、RN’ase切断、および対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドのプロービングが挙げられる。プロービングでは、標準的なサザンブロッティング技術が使用され得る。例えば、DNAは、細胞から抽出することができ、様々な制限酵素で処理することができる。その後、制限断片が、アガロースゲル上での電気泳動によって分離され、その後、変性、ニトロセルロース膜への移動が行われる。標識されたプローブが、膜上のDNA断片にハイブリダイズさせられ、結合が決定され得る。
【0084】
当業者は、オリゴヌクレオチドの長さと塩基の組成、温度などの要因を考慮して、選択的なハイブリダイゼーションのための所望されるストリンジェンシーに適している条件を使用することが十分に可能である。17から30塩基のオリゴヌクレオチドについての適切な選択的ハイブリダイゼーション条件には、6×SSCの中で42℃で一晩のハイブリダイゼーション、および42℃から65℃まで連続的に温度を上昇させながらの6×SSCの中での洗浄が含まれる。他の適切な条件とプロトコールは、Molecular Cloning:a Laboratory Manual:第3版,Sambrook & Russell(2001)Cold Spring Harbor Laboratory Press NY、およびCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,John Wiley & Sons(1992)に記載されている。
【0085】
核酸は、ゲノムDNA、RNA、もしくはcDNA、またはそれらの増幅させられた領域であり得、これらは、その中に多形または変異が存在することを同定するかあるいは決定するために配列決定され得る。多形または変異は、上記に示されるように、得られた配列をその構成成分のデータベース配列と比較することによって同定することができる。具体的には、ポリペプチド構成成分の機能の、ひいては、DNA修復経路全体としての無効化または喪失を引き起こす、1つ以上の多形または変異の存在が決定され得る。
【0086】
配列決定は、標準的な技術の範囲のうちの任意の1つを使用して行われ得る。増幅産物の配列決定には、例えば、イソプロパノールでの沈殿、再懸濁、およびTaqFS+Dyeターミネーター配列決定キットを使用する配列決定が含まれ得る。伸張産物はABI 377 DNAシーケンサー上に電気泳動され得、Sequence Navigatorソフトウェアを使用してデータが分析され得る。
【0087】
PCRのような、プライマーの1つ以上の対を使用する特異的増幅反応は、核酸配列の中の関心領域(例えば、変異または多形を含むと疑われる配列の部分)を増幅させるために、便利に使用され得る。増幅された核酸は、その後、上記のように配列決定さ得、そして/またはDNA修復経路の構成成分の発現もしくは活性を低下させるかまたは失わせる変異あるいは多形の存在またはそれが存在しないことを決定するために、任意の他の方法で試験される。適切な増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が挙げられる(例えば、「PCR protocols;A Guide to Methods and Applications」,Innisら編,1990,Academic Press,New York,Mullisら、Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.,51:263(1987),Ehrlich(編),PCR technology,Stockton Press,NY,1989、ならびに、Ehrlichら、Science,252:1643−1650(1991)にまとめられている)。
【0088】
ガンと関係している変異および多形はまた、変異体(すなわち、突然変異体または対立遺伝子変異体)ポリペプチドの存在を検出することによって、タンパク質レベルで検出される場合もある。
【0089】
DNA修復の欠損として個体由来の試料中のガン細胞を同定する方法には、試料をその経路の変異体(例えば、突然変異体)ポリペプチド構成成分に対して特異的な結合メンバーと接触させる工程、および試料に対する特異的な結合メンバーの結合を決定する工程が含まれ得る。試料に対する特異的な結合メンバーの結合は、試料中の細胞のDNA修復経路の変異体ポリペプチドである構成成分の存在の指標であり得る。本発明の複数の態様において使用される好ましい特異的結合分子としては、抗体、およびその断片または誘導体(「抗体分子」)が挙げられる。
【0090】
正常な試料と試験試料に対する結合メンバー(例えば、抗体)の反応性は、任意の適切な手段によって決定され得る。個々のレポーター分子でのタグ化が1つの可能性である。レポーター分子は、検出可能な、そして好ましくは測定可能なシグナルを直接、あるいは間接的に生じ得る。レポーター分子の結合は、直接、または間接的な共有結合(例えば、ペプチド結合による)によって行われる場合も、あるいは、共有結合以外の結合によって行われる場合もある。ペプチド結合による連結は、結合分子(例えば、抗体)とレポーター分子をコードする遺伝子融合体の組み換え発現の結果であり得る。
【0091】
本発明の様々な特徴をさらに説明するために、実施例が以下に提供される。これらの実施例はまた、本発明を実施するための有用な方法論を説明する。これらの実施例は、請求される本発明を限定するものではない。
【0092】
(実施例1)
siRNAの同定はFA経路が欠損している細胞に対する選択的毒性を標的化する
EUFA326細胞株は、患者由来のFA−G繊維芽細胞株である。この細胞株を、同系のEUFA326G細胞株を作成するために、FANCGを発現する構築物で予め修正した(Garcia−Higueraら、Blood 96(9):3224−3230,2000)。これらの細胞株は、これらが同等の速度で増殖し、そしてsiRNAオリゴヌクレオチドでの遺伝子のノックダウンについて同等のレベルを示すことが明らかであるので、スクリーニングの目的のために選択した。
【0093】
356のDNA損傷応答遺伝子を標的化するsiRNAオリゴヌクレオチドを含むQiagen DNA修復siRNAライブラリーを、スクリーニングアッセイに使用した。このライブラリーの特徴は、的外れな作用のリスクを低下させるために、それぞれの個々の遺伝子を標的化する2つの個々のsiRNAオリゴヌクレオチドを含むことである。図1は、FA経路が欠損している細胞に必要なDNA損傷応答遺伝子の同定を示す。図1、パネルAは、siRNAスクリーニングの模式図を示す。細胞を、1日目に1ウェルあたり1000個の細胞で、96ウェルプレートにプレートした。2日目には、それぞれのウェルを、1つのDNA損傷応答遺伝子に特異的なsiRNAオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした。6日目には、細胞の生存性を、ATP活性化生体発光アッセイを使用して測定した。スクリーニングを2回繰り返した。
【0094】
siRNAトランスフェクションの後、EUFA326細胞株とEUFA326G細胞株との間での相対的な生存性を、それぞれのオリゴヌクレオチドについて計算した。アッセイを2回繰り返し、EUFA326G細胞株に対するEUFA326細胞株の平均の相対的生存性を、それぞれの遺伝子標的について計算した。それぞれの遺伝子に標的についての平均の標準誤差(SEM)とともに、EUFA326細胞株とEUFA326E細胞株との間での平均の相対的生存性を、4回の別々の測定から計算した。それぞれのsiRNA標的についての4つの生存性の値は、個々の遺伝子を標的化する2つのオリゴヌクレオチドによる2連の結果を示す。表3は、修正されたEUFA326G細胞株と比較して、FA経路が欠損しているEUFA326細胞に対して選択的に毒性である、上位10個のsiRNAオリゴヌクレオチド標的を示す。図1、パネルBには、EUFA326C修正細胞株と比較した場合に、FA経路が欠損しているEUFA326細胞株に対して選択的に毒性である上位10個のsiRNA標的がグラフによって示される。Y軸は、EUFA326修正細胞株と比較したEUFA326細胞株の相対的生存性を示す。4回の測定によるSEMが標的について提供される。GFPは、哺乳動物ではない標的を用いた場合の対照siRNAである。
【0095】
重要なことは、塩基除去修復遺伝子PARP1またはNEIL1のいずれかのノックダウンが、FA経路が欠損している細胞に対して選択的毒性があり、修正された細胞と比較して、PARP1ノックダウンについては64%、そしてNEIL1ノックダウンについては74%の相対的生存率があったことが明らかになったことである。これは、FA経路が欠損しているMEF細胞がPARP阻害剤によるBERの破壊に対して選択的に感受性があるという最近の実験報告(McCabeら、Cancer Res 66(16):8109−8115,2006)と一致しており、スクリーニングアッセイが、新規の標的と、複数のDNA修復経路の間での関係を明らかにするための有効なアプローチであることを示している。加えて、DNA修復経路における他のタンパク質の枯渇もまた、上記実験において細胞の生存性の低下を導く。例えば、EUFA326/EUFA326G生存性の比もまた、他のDNA修復およびDNA損傷応答遺伝子のsiRNAノックダウンによって変化した(表3)。
【0096】
したがって、PARP1および他のBER酵素(例えば、NEIL1、他のウラシルデグリコシラーゼ(Uracil Deglycosylases)、DNAポリメラーゼβ)の阻害剤、ならびに、タンパク質:タンパク質結合の崩壊によるBER作用の阻害剤は、本発明において記載されるように、DNA修復とDNA損傷応答経路の活性/枯渇を監視することを含む、生体マーカーストラテジーを組み入れることによって、臨床において有用性を有し得る。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の調節、ならびに/またはタンパク質レベルを同定するDNAR生体マーカーは、DNA修復および/またはDNA損傷シグナル伝達経路のうちの1つの1つ以上の標的タンパク質メンバーを阻害する薬物、および薬物のクラスに特に関係がある。
【0097】
本実施例に示すように、1つのタイプのPARP1阻害剤(PARP1についてのsiRNA)を、FA遺伝子が枯渇している細胞の過敏性を定義するために使用した。siRNA実験に加えて、PARP1の選択的阻害剤(例えば、低分子、ペプチド、治療用抗体、および他の生物製剤(biotherapeutics))は同様の結果を有するであろうと推測された。PARP1阻害剤は、単剤療法として、あるいは、他の化学療法薬または放射線との併用療法として、腫瘍学における処置の決定のために評価される臨床材料に対して適用されると、選択的有用性を有し得る。ファンコニ貧血経路についてのDNAR生体マーカーによって定義されているガンを有している患者は、PARP1阻害剤に対して特に感受性があるかまたは耐性である患者のサブセットを同定することが期待される。DNA修復および損傷経路の1つ以上のDNA修復状態を理解することは、薬物のクラスの反応性対耐性の重要な決定要因である。
【0098】
本明細書中に示されるようなDNA修復の欠損をモニターすることは、化学療法に加えて、標的特異的治療法に対する腫瘍の反応性を評価することを意味する。DNA修復経路(FA欠損)の分子をモニタリングすることによるDNA修復の変化と、他の経路の変化を同定することとのつながりをさらに評価するために、第2のDNA修復またはDNA損傷タンパク質の阻害剤とのインキュベーションを使用した。変化したDNA修復状態が既知である細胞が他の同定された経路のタンパク質の阻害に対して過敏である場合には、細胞が第2のタンパク質および経路に過剰に依存するようになることの暗示である。
【0099】
したがって、FA欠損とPARP1との間のつながりの同定もまた、PARP1阻害剤に対するこれらの細胞の過敏性を試験することによって試験した。FANCA欠損細胞を、レトロウイルス形質導入によって導入されたFANCA遺伝子で補われたFANCA欠損細胞と比較した。図34に示す実験においては、FANCA欠損細胞は、PARP1阻害剤である4−アミノ−1,8−ナフタリミドに対して特異的感受性があった。この知見は、DNA修復経路の変化(FAの欠損)の一例の評価を、別のタンパク質または経路の阻害剤の適用に直接使用できることを示している。この発見の適用は、腫瘍学における有用な治療用のストラテジーであろう。
【0100】
(実施例2)
FA経路とATM機能を同時に失うことは細胞にとって有毒である
興味深いことに、TP53BP1またはATMのノックダウンは、FA経路が欠損しているEUFA326細胞に対して選択的に毒性であり、EUFA326G細胞株と比較した場合には、それぞれ、60%および70%の相対的生存率を有していた(表3および図1B)。NBS1のノックダウンもまた、EUFA326細胞の選択的毒性を明らかにしたが、対照siGFPオリゴヌクレオチドを用いた場合と、生存性のSEMは重複していた(表3および図1B)。NBS1とTP53BP1は、二本鎖のDNAの断裂(DSB)に対するATMによって媒介される応答に関係していることがこれまでに報告されている。したがって、これらのデータは、FA経路が欠損している細胞におけるATM DSBシグナル伝達経路に対する過剰な依存性を示していた。
【0101】
FA経路が欠損している細胞にATM機能が必要であることを確認するために、EUFA326細胞株とEUFA326G細胞株に別のATM siRNAオリゴヌクレオチドをトランスフェクトした。図2は、FA経路とATM機能が合わせて失われることが細胞にとって有毒であることを示す。図2、パネルAの、ウェスタンブロットのレーン1および3と、グラフの棒1および3は、FA経路が欠損しているEUFA326細胞株を示す。ウェスタンブロットのレーン2および4と、72時間の生存性のグラフの棒2および4は、修正されたEUFA326G細胞株を示す。それぞれの細胞株を、対照であるGFP siRNA(レーン1および2)またはsiRNA標的化ATM(レーン3および4)で、72時間処理した。生存性は、個々の細胞株についてのsiRNA処理を行わなかった対照に対する割合(%)として表す。図2、パネルBにおいては、ウェスタンブロットのレーン1および3と、72時間の生存性のグラフの棒1および3は、ATM欠損AT22細胞株を示し、ウェスタンブロットのレーン2および4と、生存性のグラフの棒2および4は、AT22−ATM修正細胞株を示す。それぞれの細胞株は、対照であるGFP siRNA(レーン1および2)またはsiRNA標的化FANCG(レーン3および4)で72時間処理した。生存性は、個々の細胞株についてのsiRNA処理を行わなかった対照に対する割合として表す。図2、パネルCは、Fancg+/− ATM+/−異種交配マウスの子孫における遺伝子型の頻度のグラフによる提示を示す。黒色の棒は、それぞれの遺伝子型についての測定した頻度を示し、一方、白色の棒は、メンデル遺伝学によって計算した頻度を示す。
【0102】
スクリーニングの結果と一致して、EUFA326細胞株は、EUFA326G細胞株(GFPsi対照の75.5%の生存率)よりもATMノックダウン(GFPsi対照の54.9%の生存率)に対してより感受性が高かった(図2A)。FANCD2モノユビキチン化は、FA経路の活性化のマーカーである(Garcia−Higueraら、Mol Cell 7(2):249−262,2001)。EUFA326G細胞株においては、ATM siRNAでの処理により、GFPsi対照(図2A、レーン2)と比較してウェスタンブロッティングによって示されるように、FANCD2モノユビキチン化が生じ(図2A、レーン4)、このことは、FA経路が、外部からの遺伝子毒性のストレスがない場合にもなお、ATMの発現が失われることによって活性化されることを示している。
【0103】
FA経路が欠損している細胞は、ATMの発現を失うことを寛容できないので、逆もまた真であるかどうか、すなわち、ATM欠損細胞がFA経路の喪失に対して感受性があるかどうかを問うた。ATM欠損AT22細胞、および同系のATM修正細胞株を、siRNA標的化FANCGでトランスフェクトし、細胞の生存性を72時間で測定した(図2B)。ATM欠損細胞株は、修正された細胞株(GFPsi 対照の73.1%の生存性)よりもFANCGの喪失に対して感受性が高く(GFPsi対照の58.3%の生存性)、このことは、FA経路とATM機能の両方を同時に失うことが細胞にとって有毒であるとの仮説をさらにサポートしている。ATM上のセリン1981のリン酸化は、ATM活性化のマーカーとしてこれまでに報告されている(Bakkenist and Kastan,Nature 421(6922):499−506,2003)。FANCGに対するsiRNAでの処理によっては、GFP対照siRNAで処理した同じ細胞株(図2B、レーン2)と比較して、ウェスタンブロットによって測定した場合には、ATM修正細胞株においてATM自己リン酸化が生じた(図2B、レーン4)。これらの結果は、ATMがFA経路の喪失に応答して活性化されることを示していた。
【0104】
ガンの処置におけるDNA応答経路の標的化の確認が、2つのグループによって最近明らかにされている。これらの前臨床的実験においては、塩基除去修復の構成成分であるPARP1の阻害により、BRCA1とBRCA2が欠損している(したがって、相同組み換えが欠損している)細胞に対する特異的な毒性が生じたが、DNA修復の細胞構成成分に対しては小さな影響しか有していなかった(Bryantら、Nature 434(7035):913−917,2005;Farmerら、Nature 434(7035):917−921,2005)。
【0105】
FA経路の欠損は、多数の様々な腫瘍のタイプにおいて報告されており、したがって、別のDNA損傷応答経路の阻害が、FA経路の機能を失った細胞に対して選択的に毒性であり得るかどうかを問うた。siRNAスクリーニングアプローチによって、FA経路が欠損している細胞の生存に必要であるとして、ATM DNA損傷応答キナーゼを同定した。さらに、ATM欠損細胞は、FANCGの喪失に対して感受性があり、このことは、ATMとFA経路機能の両方を合わせて喪失することが細胞にとって有害であることを示している。興味深いことに、FA経路が欠損している細胞は、ATMの構成的活性化を有することが明らかであり、これは、細胞周期のS期の間に優性であった。ATMはFA経路が欠損している細胞の中で活性であったが、活性のレベルは放射線照射した細胞と比較した場合には、比較的低かった。これらのデータは、ATMの活性化を生じる内因性のDNAの損傷は比較的低レベルであり、ほとんどがDNA合成の間に生じることを示している。これは、FANCAまたはFANCD2について免疫枯渇状態にあるアフリカツメガエルの卵細胞が正常な細胞と比較して、DNA複製の間に自発的なDS DNAの断裂を高いレベルで有することを明らかにした最近の研究と一致している(Sobeckら、Mol Cell Biol 26(2):425−437,2006)。ヒトFA細胞株の中で観察された低レベルのATM活性化は、これらの自発的なS期でのDNAの断裂に応答すると予想される。siRNAによるATMの阻害によりFA経路が欠損している細胞において選択的な細胞死を生じることの観察は、このATMのS期活性化が、比較的低いにもかかわらず、細胞の生存に重要であることを示している。
【0106】
したがって、Atmキナーゼおよび他のDNA損傷シグナル伝達工程の阻害剤は、本発明に記載されるように、DNA修復およびDNA損傷応答経路の活性/枯渇を監視することを含む、生体マーカーストラテジーの取り込みにより、臨床で高い有用性を有し得る。DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の調節ならびに/またはタンパク質レベルを同定するDNAR生体マーカーは、DNA修復および/またはDNA損傷シグナル伝達経路のうちの1つの1つ以上の標的タンパク質メンバーを阻害する薬物、ならびにそのような薬物のクラスと特に関係している。
【0107】
実施例2〜7に示すように、Atmの選択的阻害剤(例えば、小分子、ペプチド、治療用抗体、および他の生物製剤)は同様の結果を有するであろうと推測される。Atm阻害剤は、腫瘍学において処置の決定のために評価される臨床材料に対して適用される場合には、単剤療法として、または他の化学療法薬もしくは放射線治療との併用療法として、選択的有用性を有し得る。ファンコニ貧血経路についてのDNAR生体マーカーによって定義されているガンを有している患者は、Atm阻害剤に対して特に感受性があるかまたは耐性である患者のサブセットを同定することが期待されるであろう。DNA修復および損傷経路の1つ以上のDNA修復状態を理解することは、薬物のクラスの反応性対耐性の重要な決定要因である。
【0108】
(実施例3)
マウスのFancgとAtmの二重ノックアウトは胚性致死を生じる
ATM経路は、FANCD2のATMによって媒介されるリン酸化を通じた電離放射線処理後にFA経路に収斂することが知られている(Taniguchiら、Cell 109(4):459−472,2002)。したがって、FAおよびATM経路を、Fancg+/− Atm+/−マウスの異種交配によって研究した。一貫した観察は、Atm−/− Fancg−/−子孫の着床前の致死である(図2C)。表4は、メンデル遺伝学によって推定した頻度と比較した、交配させたFancG+/− Atm+/−マウス由来の子孫の遺伝子型の頻度を示す。興味深いことに、Fancg+/− Atm−/−先祖とFancg−/− Atm+/−先祖もまた、メンデル遺伝学によって予想されたよりも低い頻度を有していた(それぞれ、12.5%対16.47%、および8.54%対12.5%)。FANCG−/− ATM−/−マウスが生存できないこと(図2Eおよび表4)がさらに、FA経路が存在しない状況でのATMの機能の重要性を強調している。これらのデータは、siRNAスクリーニングと一致しており、細胞がATMとFA経路の機能の両方を失うことを寛容できないであろうことを示している。
【0109】
(実施例4)
FA経路が欠損している細胞は、DNAの断裂を防ぐためにATMの構成的な活性化を示す
FA経路が欠損している細胞のATM機能の喪失に対する感受性の根底にある機構もまた研究した。FA経路が機能性である細胞とFA経路が欠損している細胞の同系の対に由来するタンパク質を抽出し、ATMの自己リン酸化をウェスタンブロッティングによって測定した。
【0110】
図3は、FA経路が欠損している細胞がATMの構成的な活性化を示すことを示している。図3、パネルAは、FANCG欠損EUFA326細胞株(レーン1)と同系の修正された細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルBは、FANCC欠損EUFA426細胞株(レーン1)と同系の修正された細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルCは、FANCA欠損EUFA6914細胞株(レーン1)と同系の修正された細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルDは、FancG−/− MEF細胞株(レーン1)とFancG野生型MEF細胞株(レーン2)との間でATMの自己リン酸化を比較するウェスタンブロットを示す。図3、パネルEは、組み換え体p53上のセリン15に対する、FA経路が欠損しているEUFA326細胞とFA経路が完全であるEUFA326G細胞から免疫沈降させたATMのキナーゼ活性を比較するATMキナーゼアッセイを示す。図3、パネルFは、ベースライン(レーン1および2)と10Gyの電離放射線の照射の6時間後(レーン3および4)の、FA経路が欠損しているEUFA326細胞(レーン1および3)とFA経路が修正されたEUFA326G細胞(レーン2および4)の中でのATM自己リン酸化とFANCD2モノユビキチン化を評価するウェスタンブロットを示す。図3、パネルGは、ATMに対するsiRNAでのトランスフェクションの72時間後の、EUFA326G細胞に対してEUFA326細胞中でのDNA断裂を比較するCometアッセイを示す。パネル(i)は、Cometアッセイによって測定したDNA損傷のグラフによる記述を示す。Y軸は、DNA断裂の尺度であるcomet末端の長さを示す。黒色の棒はEUFA326細胞株を示し、白色の棒はEUFA326G細胞株を示す。棒1および2については、細胞を、対照である、GFPに対するsiRNAで処理した。棒3および4については、細胞を、ATMを標的化するsiRNAで処理した。SEMは、2回の実験での100回のカウントにより、それぞれの棒について示す。パネル(ii)は、72時間での、ATM siRNAで処理した326G細胞株の典型的な領域を示す。パネル(iii)は、72時間での、ATM siRNAで処理した326細胞株の典型的な領域を示す。
【0111】
それぞれの場合において、FA欠損細胞株EUFA326(FANCG欠損)、EUFA426(FANCC欠損)、EUFA6914(FANCA欠損)株は、同系の修正された細胞株であるEUFA326+FANCG、EUFA426+FANCC、EUFA6914+FANCA(図3A〜C、それぞれのブロットのレーン2)と比較して、ATMの構成的な活性化を示した(図3A〜C、それぞれのブロットのレーン1)。FANCD2のモノユビキチン化のベースラインレベルにより、対応するFA経路が欠損している細胞株と比較して、それぞれの修正された細胞株において正常なFA経路機能を確認した(図3A〜C、それぞれのブロットにおいてレーン1に対してレーン2を比較)。セリン1987でのAtmの自己リン酸化もまた、Fancg野生型マウスから採取したMEFSに対してFancg欠損マウスに由来する一次MEFSの中でのAtmの活性化の尺度として実験した(図3D)。ヒト繊維芽細胞株と一致して、Fancg欠損MEFSは、Fancg野生型MEFS(図3D、レーン1)と比較すると、Atmのベースライン活性化を有していた(図3D、レーン2)。Fancd2のベースラインのモノユビキチン化もまた、Fancg−/−細胞株と比較してFancg+/+MEF細胞において観察し、これは、野生型細胞における機能性のFA経路を示していた(図3D、レーン1に対してレーン2を比較)。
【0112】
FA細胞の中でのATMの構成的活性化をさらに確認するために、インビトロでのキナーゼアッセイを、EUFA326細胞株とEUFA326G細胞株から採取した溶解物中のATM活性について行った。ウェスタンブロットのデータと一致して、FANCG変異EUFA326細胞株から免疫沈降させたATMは、修正されたEUFA326G細胞株(図3E、レーン2)と比較して、組み換え体p53のATMによって媒介されるリン酸化の増加を示した(図3E、レーン1)。
【0113】
次に、FA経路が欠損している細胞のなかで観察されたATMの活性化が、ATM機能の異常調節が原因であるかどうかを問うた。ATMは、電離放射線によって強く活性化される。したがって、EUFA326細胞とEUFA326G細胞に10Gysの電離放射線を照射し、ウェスタンブロッティングによってATMの自己リン酸化を測定した(図3F)。FA経路が欠損している細胞株(EUFA326)と修正された細胞株(EUFA326G)のいずれにおいても、照射によっては、ATMの自己リン酸化の顕著な増大が生じ、このことは正常なATM活性化を示していた(図3F、レーン1および2をレーン3および4と比較)。興味深いことに、EUFA326細胞株は、修正された細胞株よりも大きなATM活性化を示し(図3F、レーン3と4を比較)、このことは、ATMがDNAの損傷後のFA経路機能の喪失を埋め合わせることができるモデルをサポートしている。
【0114】
ATMは、DNAの中の二本鎖の断裂(DSB)に対する応答に関係している。したがって、FA経路が欠損している細胞の中での構成的なATMの活性化が自発的なDNAの断裂の修復に必要であり得るかどうかを問うた。この疑問に着手するために、FANCG欠損EUFA326細胞株と修正されたEUFA326G細胞株をATMを標的化するsiRNA、または対照GFP配列で処理し、72時間後にそれぞれの細胞株について単細胞電気泳動(Cometアッセイ)を行った。それぞれの細胞株によるComet末端の平均の長さが、細胞1個あたりのDNA断裂の平均数の尺度である。対照siRNAを用いた場合には、EUFA326細胞株は、修正されたEUFA326G細胞株と比較して、2倍多い数のDNA断裂を示した。このことは、FA経路が欠損している細胞が、FA経路が機能的である細胞と比較して、より多量の自発的なDNA断裂を有することが報告された他の実験と一致する。ATMを標的化するsiRNAでの処理の後、EUFA326細胞株は、57.6%のDNA断裂の増加を有していたEUFAG細胞株と比較して、92.0%のDNA断裂の増加を示した。これらのデータは、FA経路が欠損している細胞の中での構成的なATMの活性化が、内因性のDNA損傷後のDNAの断裂の蓄積を防ぐためには不可欠であることを示している。
【0115】
(実施例5)
FA経路が欠損している細胞はATM阻害剤KU55933に対して感受性である
化合物KU55933がATMの高特異的競合ATM結合部位阻害剤であることが、最近報告されている(Hicksonら、Cancer Res 64(24):9152−9159,2004)。siRNAのデータの観点から、FA経路が欠損している細胞がこの阻害剤での処理に対して選択的に感受性であるはずであることが、この理由である。この仮説を試験するために、漸増用量のKU55933で処理した、FA経路が欠損している細胞株と修正された細胞株の同系の対の用量生存性曲線を比較した。図4は、FA経路が欠損している細胞がATM阻害剤KU55933に対して選択的に感受性であることを示している。標準誤差の棒を伴う3回の別々の実験による72時間の用量生存性曲線(未処理の対照に対する割合(%)として計算した)は、漸増濃度のKU55933に対する反応を比較する。図4、パネルAは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCC欠損EUFA426細胞(実線)を示す。図4、パネルBは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCG欠損EUFA326細胞(実線)を示す。図4、パネルCは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCD2欠損PD20細胞(実線)を示す。図4、パネルDは、同系のFA経路が修正された細胞株(点線)に対してFANCE欠損DF1179細胞(実線)を示す。図4、パネルEは、Fancg+/+ MEF細胞(点線)に対してFancg−/− MEF細胞(実線)を示す。図4、パネルFは、同系のFANCCが修正された細胞株(レーン1および2)に対してFANCC変異体EUFA426細胞(レーン1および2)の中のコロニーの数を比較する、14日のコロニーカウントアッセイを示す。レーン1および3は、未処理の対照を示す。レーン2および4は、播種の前に10μMのKU55933で24時間処理した細胞を示す。コロニー数は、それぞれの細胞株について、未処理の対照に対する割合(%)として示す。実験を3回繰り返し、平均の標準誤差をそれぞれのデータのセットについて示す。図4、パネルGは、FANCC変異体EUFA426細胞株(レーン1および3)と同系のFANCCが修正された細胞株(レーン2および4)の中でのFANCD2のモノユビキチン化、ATMの自己リン酸化、およびH2AXのリン酸化を比較するウェスタンブロット示す。レーン1および2は、未処理の対照を示す。レーン3および4は、10μMのKU55933で24時間処理した細胞を示す。KU55933に対するFancG−/− MEFの感受性もまた、野生型MEFと比較して試験した。それぞれの場合において、FA経路が欠損している細胞株は、KU55933に対して高い感受性を示した。それぞれの場合のKU55933についての有効用量の範囲は5μMから20μMの間であり、これは、特異的なATMの阻害についての以前に公開された濃度範囲に相当していた(Hicksonら、2004)。
【0116】
FA経路が欠損している細胞において観察されたKU55933に対する感受性がアッセイ依存性ではないことを確認するために、コロニーカウントを、FANCC変異体細胞株と修正されたEUFA426細胞株を使用して行った。この細胞株は、これが低密度で播種された場合にははっきりと見えるコロニーを形成するとの理由から選択した。それぞれの細胞株を10μMのKU55933で24時間処理し、その後、細胞をコロニーカウントアッセイのために播種した。14日後、FANCC変異体細胞株は、FA経路の能力が高いEUFA426C細胞株と比較して、コロニーのおよそ50%の減少を示した(図4F)。
【0117】
EUFA426細胞とEUFA426C細胞をコロニーカウントアッセイのために播種したのと同時に、一定の割合をウェスタンブロッティングによるATMおよびFANCD2活性の分析のために回収した。KU55933での処理の後は、ATMのリン酸化はもはやEUFA426細胞株の中では観察されず、これは完全な阻害と一致していた(図4G、レーン1および3を比較)。興味深いことに、H2AXのリン酸化もまた減少し、これは、ATMがFA経路が欠損している細胞の中でのH2AXのリン酸化を主に担っていることを示している(図4G、レーン1および3を比較)。FA経路が機能的であるEUFA426C細胞株の中でのFANCD2のモノユビキチン化の増加もまた、未処理の対照(図4G、レーン2)と比較して、KU55933での処理の後に観察された(図4G、レーン4)。この結果は、FA経路がKU55933によるATM活性の阻害後に活性化されることを示している。
【0118】
最近まで、ATMの薬理学的阻害は、ATRおよびDNA−PKをもまた標的化するWortmaninのような薬物を用いた場合には、比較的非特異的であった。最近、特異的ATM阻害剤であるKU55933が開発され、有効濃度でのこれらの的外れな作用を示さないことが報告されている(Hicksonら、2004)。この薬物がFA経路が欠損している細胞に対して選択的に毒性であり得るかどうか、それにより、FA経路が欠損している腫瘍についての可能な処置ストラテジーが提供されるかどうかを問うた。試験したFA細胞株においては、FA経路機能の喪失はKU55933に対して細胞を特異的に感作させ、このことは、この化合物が治療的役割を有している可能性があることを示唆していた。
【0119】
KU55933でのFA経路が欠損している細胞の処理によっては、修正された細胞株と比較して、顕著な染色体の断裂が生じた。これらの染色体の断裂は、ほぼおそらく、S期の間に修復されなかったDS DNAの断裂の残留を示している。興味深いことに、FA経路の能力が高い細胞株においては染色体の断裂の証拠は存在せず、このことは、FA経路がDS DNAの断裂を伴わずに効率よくフォークを修復し、それによってATMの必要性をなくしたか、あるいは、FA経路がATMとは無関係にDS DNAを修復できたかのいずれかを示唆している。第2の仮説のサポートにおいては、FA経路の高い活性が、FANCD2のモノユビキチン化の増大によって測定されるように、KU55933での処理後にFA経路が完全である細胞の中で観察された。
【0120】
まとめると、これらのデータは、FA経路が欠損している細胞に対するKU55933によって媒介される細胞毒性の特異性を示している。ガン治療に関して、これは、これがATM阻害剤についての正常細胞とガン細胞との間での可能な治療ウィンドウを示すとの理由から期待されている。さらに、腫瘍組織の中でのFANCD2のモノユビキチン化の喪失または構成的なATMの活性化の存在の同定により、このタイプの処置について患者を選択するための有用な生体マーカーが示され得る。
【0121】
(実施例6)
KU55933での処理はFA経路が欠損している細胞において染色体の断裂と細胞死を生じる
ATMは主に二本鎖DNAの断裂に応答し、そして上記データはFA経路が欠損している細胞の中での必要性を示していたので、これらの細胞がKU55933での処理の後に染色体の断裂を示す場合があると仮定した。このことを試験するために、FANCE変異体リンパ芽球細胞株(EUFA1179)と修正されたリンパ芽球細胞株(EUFA1179E)を使用した。FANCE修正細胞株EUFA1179については、FANCE変異体EUFA1179細胞株と比較して、マイトマイシンCによって誘導された染色体の断裂の完全な修正が明らかになり、このことは、FA経路の完全な修正を示している。したがって、これらの細胞株は、KU55933での処理の後のゲノムの安定性に対するFA経路の状態の影響を測定するためには理想的であった。
【0122】
図5は、KU55933での処理が、FA経路が欠損している細胞においては選択的な染色体の断裂と細胞死を生じることを示す。図5、パネルAは、20μMのKU55933での処理の0時間後、24時間後、および48時間後の有糸分裂中期スプレッド(metaphase spread)について測定した、細胞1個あたりの染色体断裂の数のグラフによる提示を示す。黒色の棒は、FANCE欠損EUFA130細胞株を示す。白色の棒は、同系のFANCE修正細胞株を示す。平均値は、3回の別々の実験から計算し、SEMをそれぞれの棒について示す。図5、パネルBは、20μMのKU55933での処理の前(パネル1)と処理の72時間後(パネル2)の、同系のFANCE修正細胞株に対するFANCE欠損EUFA130細胞株の細胞周期プロフィールを示している、ヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーを示す。平均の割合は3回の別々の実験から計算し、SEMをそれぞれの値について示す。図5、パネルCは、KU55933での処理の0時間後、24時間後、48時間後、および72時間後に2N未満のDNAを含んでいる細胞(sub−G0集団)のグラフによる提示を示す。黒色の棒はFANCE欠損EUFA130細胞株を示す。白色の棒は同系のFANCE修正細胞株を示す。平均の割合は3回の別々の実験から計算し、SEMをそれぞれの棒について示す。
【0123】
それぞれの細胞株を20μMのKU55933で24時間、および48時間処理し、染色体の断裂を、有糸分裂中期スプレッドについて顕微鏡によって評価した(図5A)。処理前は、修正されたEUFA1179E細胞株と比較して、EUFA1179細胞株においては少数ではあったが、より多数の細胞1個あたりの染色体の断裂が観察され(0.005(SEM 0.005)と比較して0.080(SEM 0.02))、これは、FA細胞について以前に報告された自発的な染色体の損傷と一致した。KU55933での処理の24時間後および48時間後には、EUFA1179細胞株は、細胞1個当たりの染色体の断裂において、9倍(0.710(SEM 0.110))および12倍(1.060(SEM 0.060))の増加を示したが、EUFA1179E細胞株は、染色体の断裂に関してベースラインから有意な変化はなかった。
【0124】
次に、KU55933が細胞周期効果により、FA経路が欠損している細胞におけるその選択的毒性を発揮できるかどうかを問うた。EUFA130細胞株とEUFA130E細胞株は、これらがベースラインで同程度のプロフィールを有しているので、細胞周期の分析に有用である(図5、パネルB1)。それぞれの細胞株をKU55933で処理し、細胞周期プロフィールを、ヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーを使用して、24時間後、48時間後、および72時間後に測定した。24時間では、それぞれの細胞株は、G1期に同程度の中度の蓄積を示した。しかし、それよりも遅い時点では、FANCE変異体EUFA130細胞株は、EUFA130E細胞株と比較して、2N未満のDNA含有量を有している細胞(sub−G0集団)の蓄積の増大を示した(72時間の時点を図5、パネルB2に示す)。このsub−G0集団は細胞死を示し、そしてEUFA130細胞株とEUFA130E細胞株における、Ku55933での処理の24時間後、48時間後、および72時間後をグラフで示す(図4C)。それぞれの時点で、FA経路が欠損しているEUFA130細胞株は、EUFA130E細胞株よりも有意に多い細胞死を示した。まとめると、これらのデータは、FA経路が欠損している細胞の中でのATMの阻害が、壊滅的なDNAの損傷を生じ、結果として細胞死を導くことを示している。
【0125】
(実施例7)
ATMとFA経路との関係
図6は、FA経路とATMが、DNA複製が行き詰った後に互いにどのようにして補い合うことができるかのモデルを示す。図6、パネルAは、内因性のDNA損傷により、複製フォークの行き詰まりを引き起こすDNAの断裂が生じることを示している。フォークの行き詰まりに応答して、ATRは、DNA修復経路をコーディネートするFA経路を活性化させ、それにより、DNA合成を再度確立させる。ATMはまた、DNA複製フォークが行き詰まった二本鎖DNAの断裂を検出することもでき、おそらくは、細胞周期の調節とDNA修復における役割を通じて、FA経路とは無関係にDNA合成を再度確立させることができる。図6、パネルBは、機能性のFA経路が存在しない場合には、細胞は、複製フォークの行き詰まりを修復するためにはATM依存性の経路に頼ることを示している。図6、パネルCは、FA経路が欠損している細胞の中でATM機能が失われている場合には、行き詰まったDNA複製を再度確立するための機構が存在せず、それにより壊滅的なDNAの損傷と死が生じることを示している。
【0126】
図6、パネルAは、内因性の損傷によりDNAの断裂が生じる正常な細胞を示している。DNAの断裂は、ATRを活性化させ、その後、FA経路を活性化させるDNA複製フォークの行き詰まりを引き起こす。FA経路は、その後、フォークを安定化させ、その修復をコーディネートする。別のATMによって媒介される経路もまた存在している。この経路においては、ATMは、フォークが行き詰まったDS DNAの断裂を検出し、細胞周期を停止させている媒介因子であるタンパク質をリン酸化して、修復する。図6、パネルBは、FA経路が欠損している細胞の中での事象の順序を示す。これらの細胞の中では、行き詰まったフォークは主に、ATMに依存する経路によって修復される。DNA複製フォークの行き詰まりに応答するATMの実際の役割は明らかではないが、これは、DNA損傷応答のチェックポイントを活性化させることができ、それにより、相同組み換えまたは非相同末端結合による効率的な修復のための時間を提供することができる。最近のデータもまた、ATMがArtemisのリン酸化により、NHEJに対して直接的なシグナル伝達の役割を有している可能性があることを示唆している(Riballoら、Mol細胞16(5):715−724,2004)。興味深いことに、FA経路が欠損している細胞は、修正された細胞(図4G、レーン2)と比較してH2AXのリン酸化の増加を示した(図4G、レーン1)。KU55933はこのH2AXのリン酸化を阻害した(図4G、レーン3)。H2AXは、ATM、ATR、およびDNA−PKによってリン酸化され得る。このデータは、ATMが主に、FA経路が欠損している細胞の中の崩壊した複製フォークに応答するH2AXのリン酸化に関係していることを示している。
【0127】
ATMによって媒介される経路は、FA経路が存在しない場合にはあまり有効ではない可能性があり、これは、FA細胞の中で見られる散発性の染色体の断裂の主な原因となるが、細胞の大部分が生存することを可能にするには十分である。しかし、FA経路が欠損している細胞に対するKU55933の添加(図6、パネルC)によっては、ATMによって媒介される経路が阻害され、これにより、行き詰まったフォークの修復の機構がないままとなってしまう。これにより、DS DNAの断裂が残ったままとなり、染色体の損傷、そして最終的には細胞死が生じる。マウスモデルにおいては、ATM FANCG二重ノックアウト胚の死は、壊滅的なDNA損傷が原因で極めて早い段階で起こると予想される。
【0128】
(実施例8)
Fancd2、Pkrdc、およびMlh1の分析
いくつかの遺伝的実験を、Fancd2/Pkrdc、Fancd2/Rad52、Fancd2/Mlh1ノックアウトマウスの作成に続いて行った。雄と雌のいずれのFancd2−/−マウスも生殖能力がなく、15〜18ヶ月で上皮腫瘍の発症を示した。わずかな出生率の低下もまた、いくつかの株のバックグラウンドについて観察された。Fancd2/Pkrdcマウスは胚性致死ではなく、生まれた時には正常なメンデル比を示し、そして特筆すべき成体の表現形は示さなかった。
【0129】
本発明者らの発見をさらに裏付けるために、二重変異体マウスに420radsの電離放射線を照射した。11匹のSCIDマウスのうちではわずかに3匹しか同じ線量では死亡しなかったが、3匹の二重変異体マウスのうちの3匹がIRの投与後に極めて迅速に死亡し、このことは、Fancd2がIRによって誘導されるDNA損傷の修復においてNHEJとは異なる経路において機能することを示している(図7)。これらの結果は、二重変異体マウスが高い放射線感受性を有していることを示している。
【0130】
DSBの修復におけるFancd2の役割を調べるために、本発明者らは、SCIDマウスに対してFancd2ノックアウトマウスを交配させた。SCIDマウスは、NHEJに必要なタンパク質であるDNA−PKの触媒サブユニットをコードする遺伝子の中のナンセンス変異が原因で、NHEJの中に欠損を有している。野生型、二重変異体細胞、SCID細胞、および単一変異体Fancd2細胞を、漸増量のIR後に細胞増殖アッセイにおいて比較した。Fancd2細胞と野生型細胞は、漸増量のIRに対して特に感受性ではなかったが、SICD細胞は感受性があった(図8)。興味深いことに、二重変異体細胞はSCID細胞よりも感受性があり、これは、Fancd2が、NHEJとは異なるDSB応答経路において機能することを示している。
【0131】
同じ遺伝子型を、漸増量の光活性化ソラレンに対して暴露させた。SCID細胞は野生型細胞よりも大きな感受性はなかったが、二重変異体はSCID細胞と同じ程度の感受性があった(図9)。これらの結果は、NHEJがICLの修復においてはほとんど役割を果たしていないか、全く役割を果たしていないことを示している。
【0132】
図7〜9の結果は、NHEJが、ICLの修復においてはほとんど役割を果たしていないか、全く役割を果たしていないことを示している。これらの結果はまた、Fancd2が、IRによって誘導された損傷の後に、インビトロおよびインビボのいずれにおいても、NHEJとは異なるDNAの損傷応答経路において機能すること:Fancd2が制限酵素によって誘導されたDSBの修復において機能すること、ならびに、Fancd2が、ICL修復の間に、DSB形成の後の相同組み換え工程を制御するように機能し得ることも示している。
【0133】
Fancd2/Mlh1マウスは胚性致死ではなく、生まれたときには正常なメンデル比を示し、その寿命のうちの遅い時期に腫瘍(例えば、腸の、または白血病)を発症する。Fancd2/Mlh1交配マウスは、1/16の確率で二重変異体を生じると予想される。しかし、二重変異体は得られなかった。具体的には、73の胚を回収し、6の二重変異体が得られると予想して、ED15で培養した。二重変異体は観察されなかった。40の胚を回収し、ED12で培養した場合も、二重変異体は観察されなかった。
【0134】
Mlh1の誘導性のノックダウンをヒトFA−A繊維芽細胞の中で行い、DOXによって誘導されるshRNA(shMlh1AおよびshMlh1B、またはそれらの組み合わせ)の発現を試験した。図10の免疫ブロットの結果は、shMlh1AとshMlh1Bの組み合わせがMlh1タンパク質の発現を効率よくサイレンシングさせたことを示している。図11は、96ウェル増殖アッセイにおける、DOXでの処理の後にshMlh1AとshMlh1Bの組み合わせで処理した細胞の増殖の低下をグラフで示している(n=4)。Mlh1の役割をさらに評価するために、HeLa細胞をMlh1 siRNAで72時間トランスフェクトし、その後、10μMのシスプラチンを伴って、または伴わずに24時間処理した(図12)。これらの結果は、Mlh1 siRNAでの誘導とシスプラチンでの処理の後のFancd2のモノユビキチン化を示している。IRが様々なDNA損傷を誘導するので、Fancd2 cDNAでレトロウイルスによって修正した二重変異体と二重変異体細胞を、PVUIIでエレクトロポレーションした。PVUIIは、平滑末端DSBを生じる制限酵素である。このコロニー形成アッセイは、二重変異体細胞のコロニー形成能力が低下していることを示していた(図13)。タンパク質を取り込む細胞の能力についての対照として、両方の遺伝子型をGFPでエレクトロポレーションした。図14のFACS分析によって示されるように、いずれの遺伝子型も、GFPを取り込むそれらの能力についてはほぼ等しく、これは、PvuIIエレクトロポレーション後の低下したコロニー形成能力が、修正されていない細胞の中でのタンパク質の取り込みの増加が原因ではないことを示している。
【0135】
図10〜14の結果は、Mlh1によって媒介されるS期チェックポイントが、FA変異体細胞の生存に必要であることを示している。これは、Atmによって媒介されるMlh1のリン酸化の結果である可能性がある。しかし、p53の欠失もまた、このチェックポイントを無効にしてしまうが、これは合成致死(synthetic lethal)ではない。結果はまた、組み換えを抑制することができないことにより、細胞分裂異常(mitotic catastrophe)(欠失、転座など)が生じることも示している。Fancd2/Mlh1二重変異体は、初期胚性致死であり、Fancd2−/−/Mlh1+/−とFancd2+/−/Mlh1−/−は少ない(underrepresented)。FANCA繊維芽細胞の中でのMlh1の誘導性のノックダウンは、MMC感受性を有意に増大させることが示されている。この結果は有意である。ヒト結腸ガンのうちの20〜25%が、Mlh1のサイレンシングが原因であるマイクロサテライト不安定性を有するので、FA経路の阻害剤は結腸の腫瘍を特異的に標的化できるからである。
【0136】
(実施例9)
2つの保存されている部位でのFANCEのリン酸化がMMC耐性には必要である
FA/BRCA経路におけるChk1の役割を試験するために、11個のFAタンパク質の一次アミノ酸配列を、Chk1リン酸化コンセンサス配列(−7(Leu/Arg)−6(Xaa)−(Leu/疎水性/Arg)−4(塩基性/Val)−3(Arg/Lys)−2(Tyr/Xaa)−1(Xaa)Ser+1(Phe/Met/疎水性)についてスキャンした(A、B、C、D1、D2、E、F、G、L、M、J)。2つの高度に保存されているリン酸化部位:Thr346とSer374を、FANCEタンパク質のカルボキシ末端領域の中で同定した(図19A)。これらの推定されるリン酸化部位の機能的関係を決定するために、それぞれの部位を、全長のFANCEタンパク質の中で個別に、または組み合わせてのいずれかで変異させた。患者に由来するFA−E細胞株、EUFA130リンパ芽球、およびDF1179線維芽細胞を、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)、変異体FANCE(FLAG−T346AまたはFLAG−S374A)、あるいは、二重点変異体FANCE(FLAG−TS/AA)(図19B)のいずれかをコードするcDNAでレトロウイルス形質導入した(図25)。FLAG−FANCEwtを発現している細胞はMMC耐性であったが、二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を発現している細胞は、MMCに対して過敏なままであった。FANCEの単一点変異体を発現している細胞は、ほとんどMMC感受性を示さなかった(図9B)。
【0137】
FANCD2のモノユビキチン化を回復させるFANCE変異体タンパク質の能力を試験した(図19C)。先に記載したように、FLAG−FANCEwtはFANCD2のモノユビキチン化を回復させ(図19C、レーン6〜10)、そして、IRによって生じたDNA損傷は、FANCD2のモノユビキチン化をさらに活性化させた。二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)もまた、FANCD2のモノユビキチン化を回復させた。二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を発現している細胞は、FANCD2のモノユビキチン化について高い基底レベルを有しており(図19C、レーン11と6を比較)、DNA損傷後にはさらなるFANCD2のモノユビキチン化を示すことはできなかった(図19C、レーン11〜15)。
【0138】
二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を発現しているFA−E細胞の中でのFANCD2核焦点のアセンブリ(図19D、E)を決定した。FANCEの野生型と二重変異体(FLAG−TS/AA)はいずれも、FANCD2焦点の形成を回復した(図19D)。FANCEタンパク質の二重変異体(FLAG−TS/AA)を発現している細胞は、FANCD2焦点について高い基底レベルを有しており、DNA損傷後にFANCD2焦点をアップレギュレートすることはできなかった(図19E)。したがって、FANCD2のモノユビキチン化のレベルと関係している(ウェスタンブロットによる、図19C)。まとめると、これらの結果は、FANCE上のThr346とSer374のリン酸化は、FANCD2のモノユビキチン化と焦点形成には必要ないが、MMC耐性には必要であることを示唆している。
【0139】
(実施例10)
インビトロおよびインビボでのChk1によるFANCEのリン酸化
Chk1がFANCEを直接リン酸化するかどうかを決定するために、2つの高度に保存されているスレオニンとセリンの、インビトロでのChk1によるリン酸化を試験した。FANCEの様々な領域を含むグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)ペプチド融合タンパク質(図20A、左側のパネル)を作成した。Thr346もしくはSer374、または両方の残基のいずれかを含む3種類のGSTペプチド融合タンパク質(332−365)WT、(349−382)WT、および(332−382)WT(しかし、ThrからAla、もしくはSerからAlaの単一変異または二重変異を有しているGST融合タンパク質ではない)を、インビトロでChk1によってリン酸化させた(図20A、右のパネル)。
【0140】
Chk1によるT346およびS374でのFANCEのリン酸化をさらに実験するために、ウサギのポリクローナル抗血清を、推定されるリン酸化された残基を含むFANCEペプチド:SDLGLLRLCpT(346)WL(抗pT346)に対して、またはLFLGRILpS(374)LTSS(抗pS374)に対して作成した。精製した組み換え体であるFANCEタンパク質の野生型(rFANCEwt)または二重変異体(rTS/AA)をChk1とともに、または2つの関連するチェックポイントキナーゼChk2およびMAPKAP2(MK2)とともに、インビトロでインキュベートした(図20B)。FANCEについての抗ホスホ抗体(抗pT346および抗pS374)は、インビトロで、Chk1によりリン酸化された組換え体FANCEタンパク質(rFANCEwt)を特異的に認識した(図20B、レーン3)。組み換え体FANCE(rFANCEwt)は、インビトロでは、Chk2またはMAPKAP2によってはリン酸化されなかった(図20B、レーン4および5)。抗体の特異性は、FANCEの二重変異体タンパク質(rTS/AA)およびGSTとの反応性がないことによって明らかであった(図20B、レーン6〜15)。
【0141】
その後、FANCEが、DNA損傷の後でインビボでリン酸化されるかどうかを決定した(図20C)。FANCEの2つの抗ホスホ抗体(抗pT346,抗pS374)を使用して、FLAG−FANCE免疫複合体を、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)または二重変異体(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞から免疫ブロットした。FA/BRCA経路の強力な活性化因子であるUV線への細胞の暴露の後、抗pT346抗血清と抗pS374抗血清はFANCEwtを検出したが、二重変異体タンパク質(TS/AA)を検出することはなかった。まとめると、これらの結果により、抗体の特異性と、これらの2つの残基のDNA損傷によって誘導されるリン酸化を確認した。
【0142】
免疫蛍光試験を使用して、Chk1によるFANCEのインビボでのリン酸化を明らかにした。抗pT346抗血清は、DNA損傷に対する細胞の暴露の後で、修正されたFA−Eリンパ芽球(EUFA130+FLAG−FANCE)の中の活性化されたFANCEタンパク質を検出したが、ベクターおよび二重変異体(TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞の中では検出することはなかった(図20D、左のパネル)。興味深いことに、抗pT346抗体によって検出されたリン酸化されたFANCEタンパク質は、DNA損傷によって誘導される核焦点にアセンブリしていた(図20D、図S2、AおよびB)。UVもまた、HeLa細胞の中でpT346−FANCE焦点を活性化させ、ATRに特異的なsiRNAまたはChk1は、UV誘導性のpT346−FANCE焦点を減少させた(図20、D〜E)。Chk1阻害剤(Goe6976またはSB218078)での前処理によっては、UV暴露後のpT346−FANCE焦点の形成が減少した(図26、CおよびD)。
【0143】
(実施例11)
Chk1のsiRNAノックダウンによりFANCD2のモノユビキチン化とFANCD2焦点について高い基底レベルが生じる
DNA損傷後のFANCD2のモノユビキチン化とFANCD2焦点形成に対する、Chk1のsiRNAノックダウンの効果を試験した(図21)。Chk1のsiRNAノックダウンは、FANCD2焦点形成(図21A)とFANCD2のモノユビキチン化(図21B、レーン4)についての基底レベルの上昇を生じた。FANCD2のモノユビキチン化と核焦点の形成は、DNA損傷後にさらに増大することはなかった(図21B、レーン4〜6、および図21C)。これらの結果は、Chk1活性の破壊がFANCE(TS/AA)二重変異体の細胞性の表現形を模倣することを示している。
【0144】
(実施例12)
FANCD2焦点とホスホ−T346−FANCE焦点の共局在
DNA損傷後のホスホ−T346−FANCE焦点とFANCD2焦点のアセンブリを試験した(図22)。未処理のHeLa細胞は、ホスホ−T346−FANCE焦点も、またFANCD2焦点も示さなかった(図22A)。UV線によるDNAの損傷は、30分までにT346でのFANCEのリン酸化と焦点形成を活性化させ、これらの焦点は8時間後を超えると観察されなかった。FANCD2焦点は、UV後30分で蓄積し始め、8時間でピークに達した。ホスホ−T346−FANCE焦点形成とFANCD2焦点形成の速度論を図22Bにグラフに示す。二重染色は、pT346−FANCE焦点とFANCD2焦点は一緒に局在化するが(図22C)、異なる速度論を示すことを明らかにした(図22B)。
【0145】
(実施例13)
Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化はMMC耐性に必要であるが、DNA複製または正常な細胞周期の進行には必要はない
最近の実験は、FAコア複合体がさらに別の複製とチェックポイントの活性を有しており、これらはFANCD2のモノユビキチン化とは連動していないことを示している。Chk1によるFANCEのリン酸化が正常なS期への進行に必要であるかどうかを調べるために、本発明者らは、DNA複製とS期への進行を回復する、FANCE野生型(FLAG−FANCEwt)または二重変異体(FLAG−TS/AA)の能力を比較した(図23AおよびB)。MMC処理の24時間後、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)を発現しているFA−E細胞(EUFA130)または二重変異体(FLAG−TS/AA)を発現しているFA−E細胞(EUFA130)はいずれも、DNA複製については同じように完全な能力があり、S期後期およびG2期の細胞周期に蓄積していなかった。予想したとおり、空のベクターを含むFA−E細胞は停止しており、S期後期とG2基に蓄積しており、そしてDNA合成の減少を示した(図23AおよびB)。さらに、二重変異体タンパク質(FLAG−TS/AA)はFAコア複合体を安定化させ、FANCD2のモノユビキチン化を回復した(図19C)。
【0146】
FANCEの二重変異体が、FA−E細胞株の中で発現された場合に、MMCによって媒介される細胞死を防ぐことができるかどうかを試験した。細胞死は核の断片化を生じる(sub−G1集団)。そして、これを、MMC処理の後にフローサイトメトリーによって評価した。図23Cに示すように、同等のレベルのsub−G1細胞が、空のベクターを安定に発現しているFA−E細胞とFANCEの二重変異体(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E細胞の中に、MMC処理後に存在していた。対照的に、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)で修正されたFA−E細胞は、断片化された核を有している細胞について有意に低い割合を示した。これらの結果は、FANCEの二重変異体(FLAG−TS/AA)を含む完全なFAコア複合体は、FA−E細胞の細胞周期異常を修正できるが、MMCに対する耐性を与えることはできないことを明らかにしており、これにより、Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化が架橋耐性(crosslinker resistance)に必要であることが確認される(表5)(図22D)。
【0147】
(実施例14)
Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化はFANCEの分解を促進する
DNA損傷後のホスホ−FANCE−T346焦点の消滅(図22A)は、FANCEが調節されたタンパク質分解を受けるであろうことを示唆していた。この仮説を試験するために、本発明者らは、UV損傷後のFANCEの細胞性レベルを試験した(図24A)。わずか30分後に、Chk1の活性化とFANCD2のモノユビキチン化が観察された(図24A、レーン2)。4時間から6時間までに、FANCD2のモノユビキチン化は最大となり、FANCEレベルは低下し(図24A、レーン4〜6)、そしてFANCEの分解もまた、UV線量依存性の様式で観察された。
【0148】
HeLa細胞を、二重のチミジンブロックでG1期−S期境界に同調させ、DNA損傷による処理の1時間前にS期へと細胞を解放した。FANCEタンパク質のレベルは、遺伝子毒性ストレス(UV、HU、MMC、またはシスプラチン)がDNA複製を受けている細胞に与えられた場合には、有意に低下した(図24B、レーン2〜5)。UV誘導性のFANCEの分解はまた、U2OS、GM0637、およびHEK293T細胞を含む他の細胞株においても観察された(図27B)。
【0149】
Chk1依存性のリン酸化がFANCEの安定性を調節するかどうかを試験した(図24C)。野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)または二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているFA−E(EUFA130)細胞を試験した。UV処理後、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)は分解されたが(図24C、レーン3と4を比較)、二重変異体FANCE(FLAG−TS/AA)は安定であった(図24C、レーン5と6を比較)。
【0150】
FANCEの分解におけるユビキチン−プロテオソーム経路の役割(図24D)を試験した。細胞を、プロテオソーム阻害剤であるMG132の存在下、またはそれが存在しない条件下で、UVで処理した。MG132処理は、FANCEのUV誘導性の分解をブロックした(図24D、レーン3)。HA−ユビキチン構築物をコードするcDNAを、野生型FANCE(FLAG−FANCEwt)または二重変異体(FLAG−TS/AA)を安定に発現しているU2OS細胞に一時的にトランスフェクトした。FLAGタグ化FANCEを免疫沈降させ、抗HA抗体と抗FLAG抗体で免疫ブロットした。UVへの暴露の後、FLAG−FANCEwtのポリユビキチン化産物の高分子量のラダーは、UVへの暴露によって大幅に増加し(図24E、レーン8)、これは、空のベクターまたは二重変異体(FLAG−TS/AA)を発現している細胞の中には存在しなかった(図24E、それぞれ、レーン7および9)。このことは、DNA損傷後には、FANCEのリン酸化がそのポリユビキチン化へと進行することを示している。まとめると、これらの結果は、Chk1によって媒介されるFANCEのリン酸化はユビキチンによって媒介されるFANCEの分解を促進することを示している。FANCEの分解に必要な特異的なE3ユビキチンリガーゼ複合体は判らないままである。
【0151】
(実施例15)
Chk1阻害剤で処理したヒト細胞はファンコニ貧血経路の高い活性を示す
ファンコニ貧血経路の活性は、分子レベルでFANCD2のモノユビキチン化を評価することによってモニターすることができる。ヒトHeLa細胞は、多くの基準により、実行可能なFA−HR経路を有することがこれまでに示されている。阻害剤であるG06976でこれらの細胞を処理することによる、HeLa細胞に対するChk1阻害剤の効果を試験した。処理後、HeLa溶解物を、FANCD2抗体での免疫ブロッティングによって試験した(図28)。大きな移動度のFANCD2−Lバンドは、FANCD2のモノユビキチン化形態である。より移動度の小さいバンドがユビキチン化されていないFANCD2である。G06976で処理したHeLa細胞は、高いレベルのFANCD2−モノユビキチン化を示し、これは、Chek1の阻害により、FA−HR経路に対するこれらの細胞の依存性の増大が導かれることを示している。
【0152】
(実施例16)
FA細胞は、Chk1 siRNAの枯渇によるChk1の阻害に過敏である
EUFA426ヒト細胞は、ファンコニ貧血患者から単離されたFANCC欠損細胞である。これまでの実験で、これらの細胞は分子レベルでFANCCタンパク質が欠損しており、遺伝子毒性の要因および照射による様々なDNA損傷ストレスの後のFANCD2のモノユビキチン化のブロックを含む、ファンコニ貧血−相同組み換え(FA−HR)DNA修復経路において下流の工程を活性化させることができないことが明らかになった。FANCC遺伝子レトロウイルスで補われたEUFA426レベルは、FANCCレベルを回復させ、そして遺伝子毒性のストレスおよび照射に対するこれらの細胞の過敏性を補うことが観察された。
【0153】
EUFA426細胞とEUFA426+C細胞を、これまでの実験での標準的なプロトコールにしたがってChk1キナーゼのsiRNAでトランスフェクトした。対照のために、同じ細胞を、対照であるLacZ siRNAでもまたトランスフェクトした。細胞の生存性を、LacZ siRNAおよびChk1 siRNAを用いた場合と比較して、トランスフェクトしなかった細胞(対照)についてスコアした。EUFA426細胞は、Chk1 siRNAでのトランスフェクションの後に、低い生存性を有していたことが明らかになった(図29)。EUFA426+C細胞(FANCCレベルが回復した)を用いた場合には、Chk1 siRNAの存在下での細胞の生存性のレベルは有意に高くなった。したがって、FANCC欠損細胞は、siRNAの枯渇によるChk1キナーゼ活性の喪失に対して選択的に過敏である。
【0154】
(実施例17)
FA−HR欠損細胞はChk1の阻害に過敏である
ファンコニ貧血欠損細胞の感受性もまた、既知のChk1キナーゼ阻害剤であるG06976を用いて試験することによって試験した。この実験においては、FANCG相補グループの遺伝子が欠損していることが公知であるファンコニ貧血患者から単離したEUFA326細胞を評価した。加えて、レトロウイルス形質導入によりFANCGで補ったEUFA326細胞を比較した。これまでの実験は、免疫ブロッティングによって、これらの細胞はFANCGタンパク質が欠損していること、そして、遺伝子毒性の要因および照射による様々なDNA損傷ストレスの後のFANCD2のモノユビキチン化のブロックを含む、ファンコニ貧血−相同組み換え(FA−HR)DNA修復経路の下流の工程を活性化できないことが明らかにした。FANCG遺伝子レトロウイルスで補われたEUFA326レベルは、FANCGレベルを回復し、そして遺伝子毒性ストレスまたは照射に対するこれらの細胞の過敏性を補うことが観察された(図30)。
【0155】
EUFA326(FANCG欠損)細胞とEUFA326+G(FANCG相補)細胞を、Chk1阻害剤に対する感受性について試験した。細胞の生存性の決定においては、EUFA326細胞は、全ての用量でEUFA326+G細胞と比較して、Chk1阻害剤G06976に対して過敏であった。
【0156】
(実施例18)
Chk1阻害剤でのFA−HR欠損細胞の処理により多数の染色体の損傷と断裂が導かれる
FANCE欠損ヒト線維芽細胞株EUFA130と、レトロウイルスからFANCEの発現が安定に再導入された補われたEUFA130を、ゲノムの安定性と細胞周期の制御についていくつかの試験において比較した。EUFA130+E細胞は、免疫ブロッティングによりFANCEレベルが回復したことが示された。
【0157】
EUFA130細胞とEUFA130+E細胞を低密度でプレートし、その後、1uMのChk1阻害剤G06976で処理し、その後、様々な細胞周期の期での細胞の分布について試験した。Chk1阻害剤が、ヨウ化プロピジウム染色により、G1細胞およびsub−G1細胞集団の細胞の割合の増加を引き起こしたことが明らかとなった。sub−G1細胞は、細胞のアポトーシスへの侵入の指標である。
【0158】
加えて、染色体断裂のレベルを、Chk1阻害剤で処理したEUFA13細胞とEUFA130+E細胞についてスコアした。EUFA130細胞は、低いレベルの染色体断裂を有していた(図31)。Chk1阻害剤とのインキュベーションの後、染色体断裂のレベルは劇的に増加した。対照的に、EUFA130+E細胞は、Chk1阻害剤での処理の後、染色体断裂の低いレベルを回復した。
【0159】
これらの実験は、Chk1阻害剤の存在下での染色体の損傷に対するFA欠損細胞の選択的脆弱性を示している。組み合わせた実験の2つの部分は、Chk1阻害剤がFA欠損細胞を優先的に細胞死へと導くことを示している。
【0160】
(実施例19)
ヒト腫瘍細胞株は、Chk1キナーゼまたはAtmキナーゼの阻害に対して感受性がある
ヒトのガンは、染色体再配置、欠失、増幅、突然変異、および/または多くの遺伝子の後成的なサイレンシングもしくは過剰発現を含む、多くの遺伝的変更を示す。DNA修復およびDNA損傷応答経路の遺伝子の場合には、ヒトのガンにおいてはこれらの遺伝子の修飾の有意な証拠が存在している。ファンコニ貧血−相同組み換え経路については、発現の変化または変異が腫瘍において頻繁に観察されることを示唆する十分な証拠が存在している(図32)。
【0161】
ヒトの卵巣腫瘍細胞株2008は、FA−HR経路が欠損していることが公知である。なぜなら、これらの細胞は、FANCFプロモーターの過剰なメチル化によりFANCF遺伝子の後成的なサイレンシングを有しているからである。FANCFプロモーターの過剰なメチル化はFANCFの転写の減少を導き、結果として、細胞のFANCFタンパク質レベルが有意に低くなる。FANCEの後成的なサイレンシングは、ヒトの腫瘍において頻繁に観察される事象である。2008細胞株をFANCF遺伝子でトランスフェクトし、別々に発現させると、これらの誘導した細胞(2008+F)は、FANCFを高レベルで発現することが示された。
【0162】
その後、卵巣2008細胞と2008+F細胞を、Chk1キナーゼ阻害剤G06976またはAtmキナーゼ阻害剤KU55933での処理の後に細胞の生存性について比較し、そして細胞の生存性と増殖をコロニー形成性のアッセイにおいて試験した。細胞コロニーを標準的な手順によって染色し、視覚化した(図33)。スコアしたコロニー数は、Chk1阻害剤での処理が細胞の生存性の有意な低下を導いたことを示している。したがって、2008細胞はChk1の阻害に対して過敏である。同様に、G06976 Atm阻害剤も、同程度の過敏性を導いた。したがって、FA欠損細胞は、DNAの損傷チェックポイントキナーゼの遮断のうちの2つに対して特に脆弱であり、これは、これらの細胞がそれらの生存についてこれらの経路に依存していることを示している。
【0163】
まとめると、これらの実験は、FA欠損の生体マーカーによる同定により、Chk1阻害剤の適用が有効である細胞のサブグループを同定できることを明らかにしている。Chk1阻害剤の選択的使用は、FANCE欠損細胞(図31)およびFANCF欠損卵巣ヒト腫瘍細胞(図33)を用いてここに示したように、FA欠損について腫瘍の標本を評価することによって定義することができる。
【0164】
この発見は、これが、DNA修復経路の状態が理解される状況下でのChk1キナーゼ阻害剤の治療的有用性を指摘しているので、腫瘍学の臨床的状況において重要な効果を有する。本明細書中に示される例においては、ファンコニ貧血−相同組み換え経路の状態が、Chk1阻害剤に対する腫瘍の過敏性の予測の重要要素であることが明白である。この経路の状態は、おそらくは、経路全体の活性の様々な節点を反映している複数の生体マーカーの構成成分によって同定することができる。本発明によって、1つ、または1つ以上の経路の組み合わせによるDNA修復生体マーカーを評価するための手段が開示される。
【0165】
DNA修復生体マーカーは、いくつかの状況に、特に適用可能である。このタイプの生体マーカーは、前臨床開発に、患者のサブ設定に、臨床試験の過程での薬物動態的生体マーカーとして、そして、臨床腫瘍学において治療の決定を行うために有用であろう。
【0166】
(実施例20)
ヒトのガンにおけるDNA修復タンパク質の変化の証拠
DNA修復経路のタンパク質を、その経路の活性についての生体マーカーとして、経路特異的変化、タンパク質特異的変化、または翻訳後のエピトープ特異的変化を使用して、免疫組織化学(IHC)によってモニターした。
【0167】
ヒトのガンは、標本全体の多数の断片または腫瘍のマイクロアレイ(TMA)を評価することができる、ホルマリンで固定されたパラフィンに包埋された(FFPE)標本の分析によって監視することができる。TMAのために、ガンと診断されたそれぞれの患者について、ヒトのガンを、腫瘍の3つの切片と、病理学的には正常な周辺組織の3つの切片を提示するような形式でアレイした。あるいは、患者に由来する同定された腫瘍の領域のTMAを、互いに比較した。
【0168】
ヒトのガンにおけるDNA修復生体マーカーの発現パターンの動的性質を説明するために、同じガンのタイプのTMA[頭頸部扁平上皮細胞ガン]を広範囲にわたって分析した。図35は、ヒトの頭頸部ガンの腫瘍のTMAを示す。ここでは、腫瘍のコアを、11種類のDNA修復生体マーカーに対する抗体でIHC染色した。生体マーカーには、TMAの連続切片に由来する、FA/HF成分(FANCD2)、非相同末端結合生体マーカー(PT2609 DNAPK)、いくつかのヌクレオチド除去修復成分(XPF、ERCC1)、3個のミスマッチ修復成分(MLH1、MSH2、およびMSH6)、塩基除去修復生体マーカー(PARP1、PAR)、ならびに、DNAの損傷成分(PT334 Mapkapキナーゼ2、S78 HSP27)を含めた。それぞれの抗体は、ヒトのガンの検査に基づいてIHCのために最適化されている。一般的には、DNA修復およびDNAの損傷タンパク質がこれらの組織の中で発現されているが、発現レベルと細胞性の局在化は様々であり得る。
【0169】
画像もまた、図36に示すように、一人の患者の腫瘍コアに基づいて見えるようにできる。この患者のサブセットにおいては、頭頸部ガンに由来する9個の腫瘍のコアの選択が、9人の患者から示される。強調されたコアは、TMA上の同じガンのコアの位置にある。したがって、この説明においては、1つの患者のコアを、それを取り囲むオレンジ色の点線で同定することができ、アレイの中の第2の患者のコアは、それを取り囲む紫色の点線を有する。IHCによる相対的な染色強度とスコアの評価を、比較のために、H:高い、M:中程度、またはL:低いとして列挙した。IHC強度のレベルが患者ごとに相対的分布において変化するいくつかのマーカーが存在することに留意されたい。この実施例は、ガンにおけるDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達経路の複数の生体マーカーを比較することにおけるその有用性を説明する
DNA修復生体マーカーの分析の別の例を、ヒトの前立腺ガンの標本について説明する。図37Aでは、3人の患者の腫瘍の標本の提示が、様々な経路に由来する5種類のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを用いて説明される。同じTMAの連続切片を、5種類の生体マーカーのそれぞれでIHC染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析により読み取るために高倍率でTMAから撮影した。図37Bは、患者1、2、および3について生体マーカーごとのバリエーションを示す。色をつけた出力は、これらの3つの例である標本についての前立腺ガン患者のバリエーションを提示する。重要なことは、DNA修復生体マーカーが患者に応じて様々な程度に変化することである。図37Bは、DNA修復の生体マーカーXPFとFANCD2が、有意に異なる発現の結果を有している範囲を示す。
【0170】
DNA修復生体マーカーの分析についてのさらなる例を、ヒトの非小細胞性肺ガン(NSCLC)の標本について示す。図38Aにおいては、4人の患者の腫瘍標本の提示が、様々な経路に由来する5種類のDNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーとともに説明される。他のTMAを用いた上記の場合と同様に、NSCLC TMAの連続切片を、図に示した5種類の生体マーカーのそれぞれで染色した。腫瘍のコアの画像を、画像分析により読み取るために高倍率でTMAから撮影した。図38Bは、出力を記載するための着色方法を使用する、患者1〜4についての生体マーカーごとのバリエーションを示す。重要なことは、DNA修復の生体マーカーの相対的発現に関しては患者ごとにバリエーションがあることである。
【0171】
ヒトの腫瘍の全切片を、連続切片の視診によって評価した。腫瘍の中の関心領域(ROI)は、ヘマトキシリンとエオシンの染色パターンを考慮することにより、そして、生体マーカーのグループの全体的な染色パターンによって、病理学の研究者のチームによって同定された。画像ファイルを、腫瘍の同じ領域が重なり合うように操作し、注釈をつけた。ROIを、この実施例では、図39の緑色と黄色の四角によって示す。生体マーカーの分析のための6種類のDNA修復抗体を有しているIHCによって染色した、6つの連続切片の1つのグループを示す。ROIの領域が、さらなる画像分析のための個々の切片の比較可能な領域の選択であることが、腫瘍の形態を調べることにより明らかである。標本のスライド上の絶対的な方向は様々であり得るが、ROIの選択が、同じ腫瘍の領域が、様々なDNA修復およびDNAの損傷シグナル伝達の生体マーカーでの別々の染色を用いて評価され得るように図で表現されることに留意されたい。
【0172】
(実施例21)
頭頸部ガンの患者のDNA修復生体マーカーのプロフィールの比較
頭頸部ガンの患者を、以下の図に示すようにDNA修復生体マーカーの1つのグループを使用して評価した。患者を、ドセタキセル、シスプラチン、5−FUを含む化学的アジュバント(誘導)治療で処置し、放射線治療を行った。しかし、この化学的な放射線治療のレジメンに反応する能力があったか、または反応できなかったかの区別は、分子マーカーに関しては理解されていない。腫瘍の生検を治療前に行い、その時点で腫瘍標本をホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。4種類のマーカー(A=FANCD2、B=MLH1、C=XPF、およびD=PT334 MAPKAPキナーゼ2)もまた、6人の患者の腫瘍標本を用いて同時に分析し、結果を図40に示す。図40のサブセクションのそれぞれにおいて、標本材料は患者ごとに図の中の同じ相対的位置とし、患者には匿名で番号を付けた(患者27、26、23、21、16、および9)。
【0173】
DNA修復生体マーカーの病理学的スコアは、日常的に行っている病理学的スコア方法によって行うことができる。例えば、標本は、染色パターンの完全性について試験される。実施例に示すよりも高倍率でのこれらの生体マーカーでの質的分析は、染色が、以下に示す生体マーカーFANCD2、XPF、MLH1、およびKi67について完全な核であることを示す。加えて、生体マーカーPT334 MAPKAPキナーゼ2は、腫瘍の状況に応じた核と細胞質の染色を有している。例えば、卵巣腫瘍は核染色と細胞質染色の組み合わせを示すが、頭頸部ガンは主に核染色を示す。別のストラテジーは、染色パターンを解明するためにIHCシグナルとアルゴリズムの機械によって行われた収集を使用することである。DNA修復タンパク質については、一般的には、IHCパターンは核である。ポジティブピクセル(Positive pixels)は、核または核周辺(subnuclear)の分布のいずれかに見られ、例えば、核焦点を有する。図40A〜Dには、4種類の生体マーカーの核染色を示す。生体マーカーが患者ごとのバリエーションを示し、これらの相違には直接的な相関関係はないが、逆相関の可能性があることに留意すべきである。
【0174】
(実施例22)
卵巣ガン患者のDNA修復生体マーカーのプロフィールの比較
この実験では、全ての患者は、3期または4期の卵巣ガンもしくは腹膜ガンを有しており、外科手術と、その後の白金を用いた化学療法で処置した。卵巣ガンの患者を、図39に示すようにDNA修復生体マーカーの1つのグループを使用して評価した。4種類の生体マーカー(A=FANCD2、B=MLH1、C=XPF、D=PT334 MAPKAPキナーゼ2、E=Ki67)を、6人の患者を用いて示す。図41のそれぞれのサブセクションにおいては、同じ患者を図の中の同じ位置に示し、患者には匿名で番号を付けた(患者37、38、39、4、40、および41)。マーカーKi67はDNA修復マーカーではないが、その代わりに、腫瘍の領域の中の細胞増殖能力の指標である。6人の患者は、この実施例においてはほぼ同じレベルの細胞増殖を有していたことに留意されたい。頭頸部ガンを用いた実施例と同様に、卵巣ガンを、核の生体マーカーの強度と量の差を識別するために、病理学によるスコアリングによって評価した。DNA修復の生体マーカーは、IHCによる染色の強度に関して有意なバリエーションを示し、これは、これらの生体マーカーが患者の階層化、および/または治療に対する反応に関連している可能性があることを示している。
【0175】
(実施例23)
DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーについての患者の集団の分析
病理学的スコアリングを使用して、生体マーカーのそれぞれを用いて発現の変化の傾向を区別した。4人の病理学者によってスコアリングシステムが確立された。ここでは、強度(I)と量(Q)の測定を、それぞれの腫瘍標本から行った。Iスコアは、値1、2、および3までの範囲であり、順に強度が大きくなる。ここでは、1は弱く、2は中程度、そして3は強い。Qスコアは、1(1〜9%)、2(10〜39%)、3(40〜69%)、または4(70〜100%)と、マーカーについてポジティブであった核の割合に基づいて決定した。I×Qの組み合わせたスコアにより、1〜12の範囲でスコアを得た。
【0176】
頭頸部ガンの標本を、互いに対してプロットした生体マーカーについて、個々の患者についての上記の基準とスコアによって評価した(図42)。XPFについては、25/35人の患者が高い範囲の発現を有していた。また、FANCD2生体マーカーについても、19/35人の患者が高い発現レベルを有していた。しかし、同じ患者は、その時間のうちのほとんどについて両方のマーカーについて高い発現のグループにあったわけではない。FANCD2マーカーとXPFマーカーの例を用いると、これは、患者のうちのおよそ半分は、1つのマーカーについて高いレベルを有しており、一方、他の患者は低いレベルを有していることを示す。患者のうちの13/35、すなわち、37%は両方のマーカーについて高いレベルを有していたが、4/35、すなわち、11%は、両方のマーカーについて低いレベルを有していたことを観察した。したがって、ヒトのガン患者を、DNA修復およびDNA損傷の生体マーカーの使用に基づいて、サブグループに分けることができるか、または階層化することができる。
【0177】
(実施例24)
DNA修復およびDNA損傷シグナル伝達の生体マーカーを使用する原発性の症状と再発の症状との関連性の評価
卵巣ガンの患者に由来する腫瘍標本を、一次生検(primary biopsy)(腫瘍の外科手術による切除)において評価し、卵巣ガンがシスプラチンでの化学療法の後に再発した場合には、追跡調査した。患者は、漿液性卵巣ガン、FIGOグレード3、FIGOステージ3cを有していた。DNA修復およびDNAの損傷シグナル伝達の4種類の生体マーカーを同時に調べた:FANCD2、MLH1、XPF、およびPT334 MAPKAPキナーゼ2。図43においては、4種類のマーカーによる画像を縦に並べた。IHC発現パターンが変化していた生体マーカーのいくつかを観察し、これらがマーカーに応じて様々なレベルに変化することを観察した。したがって、いくつかのDNA修復生体マーカーは白金を用いた治療に対する反応を決定することにおいて影響力のあるマーカーであり得る。
【0178】
ファンコニ貧血タンパク質が細胞のシスプラチン感受性の重要な決定要素であることは明らかにされている(Chirnomas and DAndrea,2006)。再発による卵巣ガンの標本の中での強度が増大するFANCD2のような生体マーカーの同定は、FANCD2の増加と治療の間の白金耐性との間の相関の指標である。同様に、Mapkapキナーゼ2酵素とシグナル伝達経路の過剰な活性化の指標であるPT334 Mapkapキナーゼ2生体マーカーが、ヒトのガンの白金を用いた治療に対する適応応答の第2の指標であることを観察した。
【0179】
(実施例25)
一般的方法
細胞培養
HeLa細胞、U2OS細胞、GM6914(FA−A)、PD326(FA−G)、PD426(FA−C)、PD20(FA−D2)、およびEUFA423(FA−D1)は、15%の熱不活化ウシ胎児血清(FCS)を補充したDMEMの中で、加湿した5%のCO2インキュベーターの中で37℃で増殖させた。別のFA−E患者由来のDF1179(FA−E)線維芽細胞は、Chang培地(Irivine Scientific)(Akiko Shimamura,Children’s Hospital,Harvard Medical School,Boston,MAから懇意により提供された)の中で培養した。エプスタイン・バーウイルスEBVで形質転換されたリンパ芽球EUFA130(FA−E)は、15%のFCSを含むRPMI1640の中で維持した。
【0180】
DNA損傷の作成
細胞に、蓋なしの100mmの皿の中でPBSで1回洗浄した後、培地を全く用いることなく50%〜70%の細胞集密度で、Stratalinker(Stratagene)を用いてUVを照射した。UV照射後、新しい培地を加え、示した時間の間培養し続け、その後、溶解させた。γ線の照射は、Gammacell 40装置(MDS Nordion)を使用して行った。MMC(Sigma)処理のためには、細胞を示した時間の間薬物に暴露し続け、その後、溶解させた。ヒトの線維芽細胞とリンパ芽球のMMC感受性アッセイは、原則として、以下のような変更を加えて記載されているように(5、7)行った。ヒトの繊維芽細胞とリンパ芽球を96ウェルマイクロプレートに、適切な培地の中に1000細胞/ウェルの密度で2連で播種した。MMCは、0〜200μMの最終濃度で添加した。その後、細胞を、5%のCO2インキュベーターの中で37℃で5日間インキュベートし、その後、細胞の生存性を、特許権のある色素(CyQUANT;Molecular Probes)で核酸を染色することによって決定し、続いて、製造業者のプロトコールにしたがって蛍光マイクロプレートリーダーによって分析した。
【0181】
プラスミドと組み換えタンパク質の精製
ヒトFANCE cDNA(J.deWinter and H.Joenje,Free University Medical Center,Amsterdam,The Netherlandsから懇意により提供された)を、FANCEのアミノ末端にFLAGタグを付加することによってレトロウイルスベクターpMMP−puroの中にサブクローニングして、pMMP−puro−FLAG−FANCEを作成した。特異的な1つの二重変異(pMMP−FLAG−T346A、pMMP−FLAG−S374A、pMMP−FLAG−T346A/S374A(TS/AA))を、製造業者のプロトコールにしたがって、QuikChange(登録商標)部位特異的突然変異誘発キット(site−directed mutagenesis kit)(Stratagene)を使用して導入した。pGEX−FANCE(332−365)、pGEX−FANCE(349−382)、およびpGEX−FANCE(332−382)の構築のために、対応する断片のPCR産物を、プラスミドpGEX4T−1(Pharmacia)のEcoRI/NotI部位に連結させた。T346A、S374A、およびFANCEの二重変異体(T346A/S374A−TS/AA)のcDNAは、QuikChange(登録商標)部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いて作成した。組み換え体FANCE(149−536)野生型(rFANCEwt)構築物は、pET32a−PPSベクター(Novagen)のEcoRI/HindIII部位にクローニングした。組み換え体である二重変異体FANCE(rTS/AA)については、T346AとS374Aを有している149〜536の断片を、鋳型としてpMMP−FLAG−TS/AAを使用してPCRによって作成した。生成物をpET32a−PPSベクターのEcoRI/HindIII部位にクローニングした。全ての構築物と変異体を、DNA配列決定によって確認した。
【0182】
FANCE配列(332〜382)にまたがるGST−FANCE構築物を大腸菌(E.coli)BL21細胞の中で発現させた。GST−Cdc25C(200〜256)構築物(Michael Yaffe,Massachusetts Institute of Technology,Boston,MAから懇意により提供された)をインビトロでのキナーゼアッセイのポジティブ対照として使用した。その後、GST融合タンパク質をグルタチオンS−セファロースビーズ上で精製し、これをインビトロでのキナーゼ反応において基質として使用した。組み換え体FANCE野生型(rFANCEwt)と二重変異体(rTS/AA)を、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)RP細胞の中で発現させ、その後、ポリヒスチジン(His)結合HiTrapキレート化HPカラム(Pharmacia)を使用して金属アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。組み換え体タンパク質を、正確なプロテアーゼとともにインキュベーションすることによりカラムから溶離させて、そのN末端Hisタグ配列を切断し、HiTrapQFF陰イオン交換カラム(Pharmacia)とS−200ゲル濾過カラムによるさらなる精製を行った。
【0183】
レトロウイルス感染
pMMPレトロウイルス上清の生産と、繊維芽細胞またはリンパ芽球の感染は、これまでに記載されているとおりに行った。
【0184】
抗FANCE抗体、抗FANCE−ホスホスレオニン−T346抗体、抗FANCE−ホスホセリン−S374抗体の作成
FANCEに対するウサギのポリクローナル抗体を、抗原の供給源としてFANCEのC末端ペプチド521〜536を使用してInvitrogen(Zymed)によって作成した。ホスホ特異的抗体(抗pT346−FANCEおよび抗pS374−FANCE)の作成のためには、ウサギを、FANCEのアミノ酸337〜348または367−378から導いた、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)結合FANCEホスホペプチド(SDLGLLRLC(pT)WL)またはホスホペプチド(LFLGRIL(pS)LTSS)でそれぞれ免疫化した。抗体を対応するリン酸化および非リン酸化ペプチド結合ゲルを使用して親和性によって精製した。
【0185】
免疫ブロッティング
細胞を溶解させ、全細胞抽出物についてSDS−PAGEを行い、ニトロセルロース膜に移動させ、ウェスタンブロット分析(5)を行った。以下の抗体を使用した:抗FANCD2(FI−17)(Santa Cruz Biotech.)、抗HA(HA.11、Babcock)、抗FLAG(M2)(Sigma)、抗β−チューブリン(Santa Cruz Biotech.)、抗ATR(N−19)(Santa Cruz Biotech.)、抗ホスホ−317−Chk1(Cell Signaling technology)、抗Chk1(G−4)(Santa Cruz Biotech.)。
【0186】
インビトロでのキナーゼアッセイ
FANCEのGST融合タンパク質(2μg)を、精製した組み換え体Chk1(100ng)(Upstate Technology)とともに、10μCiの[γ32P]−ATPを含む30μlのキナーゼ緩衝液(20mMのTris HCL、10mMのMgCl2、10mMのMnCl2、1mmのDTT、10μMのATP)の中でインキュベートした。キナーゼ反応を30℃で30分間インキュベートし、SDS試料緩衝液の添加によって停止させ、5分間沸騰させ、その後、SDS−PAGEとX線フィルムのオートラジオグラフィーによって分析した。インビトロでのキナーゼアッセイを、ポジティブ対照とネガティブ対照について、GST−Cdc25C(200〜256)およびGSTを使用して行った。アッセイ条件は上記と同じとした。組み換え体FANCEタンパク質(rFANCEwtおよびrTS/AA)(3μg)を100ngの精製した組み換え体Chk1、Chk2、MAPKAP K2(MK2)(Upstate Technology)、またはGSTとともに、あるいはこれらを含まずに、30μlのキナーゼ緩衝液(20mMのTris HCL、10mMのMgCl2、10mMのMnCl2、1mmのDTT、1mMのATP)の中で、30℃で30分間インキュベートした。キナーゼ反応をSDS試料緩衝液の添加によって停止させ、5分間沸騰させ、その後、SDS−PAGEによって、続いて、ウェスタンブロットによって抗pT346−FANCE抗体、抗pS374−FANCE抗体を用いて分析した。
【0187】
免疫沈降
免疫沈降はこれまでに記載されているとおりに行った。
【0188】
siRNAとトランスフェクション
標的遺伝子の発現を、GFPに特異的なsiRNA(5’−AACACTTGTCACTACTTTCTC−3’)、Chk1に特異的なsiRNA(5’−AAGAAGCAGTCGCAGTGAAGA−3’)、ATRに特異的なsiRNA(5’−CAGGCACTAATTGTTCTTCAA−3’)の一時的な発現によってノックダウンさせた。siRNAのトランスフェクションは、製造業者のプロトコールにしたがって、Hiperfect(Qiagen)を使用して行った。トランスフェクションの72時間後、細胞をDNA損傷で処理した。
【0189】
免疫蛍光の顕微鏡試験
免疫蛍光顕微鏡試験のための細胞の準備は記載したとおりに行った、リンパ芽球細胞株を、ポリ−D−リジン(BD Bioscience)でコーティングした培養スライド上で増殖させて、36時間の間、接着を促進させ、その後、処理した。画像を、デジタルカメラを取り付けたAxioplan 2結像型顕微鏡(imaging microscope)(Carl Zeiss)を使用して撮影し、Openlabソフトウェアを使用して処理した。
【0190】
FACS分析
G2/Mチェックポイントの分析とDNAの複製は、これまでに記載されているとおりに行った(30)。sub−G1集団を検出するためには、細胞を、MMC(160ng/ml)での処理の0時間後、24時間後、48時間後、および72時間後に回収し、PBSで洗浄し、4℃で少なくとも1時間かけて70%のエタノールの中で固定し(106細胞/ml)、そして、0.25%のTriton X−100/PBSの中で4℃で15分間、透過処理した。PBSでの洗浄後、細胞を、25/ml μgのヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma)と0.1mg/mlのRNase A(Sigma)を含むPBSの中に再懸濁させ、その後、Becton Dickinson FACSCaliburフローサイトメーターを使用してFACS分析を行った。細胞死は、sub−G1(2N未満のDNA含有量)集団として測定した。
【0191】
変異分析
変異は、特異的なプライマー対を使用した、DF1179細胞(FA−E)とU2OS細胞(対照)から精製した全RNAのRT−PCR増幅によって分析し、その後、両方の細胞株のcDNAを、FANCEのエキソン1からエキソン10までにまたがる様々なプライマーを使用してDNA配列決定によって分析した。
【0192】
【表3】
【0193】
【表4】
【0194】
【表5】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と組み合わせて記載されているが、上記の記載は、本発明を説明するように意図され、添付される特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するようには意図されない。他の態様、利点、および改変も、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、被験体のガンを処置する方法:
a)該ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程;および
b)DNA損傷剤、または工程(a)において同定された経路とは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を、該被験体に投与する工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、被験体のガンを処置する方法:
a)該ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程、
b)該ガン細胞においてアップレギュレートされているDNA修復経路のタンパク質または遺伝子を同定する工程;および
c)DNA損傷剤、または工程(b)において同定された該DNA修復経路のタンパク質もしくは遺伝子に特異的な阻害剤を、該被験体に投与する工程。
【請求項3】
DNA損傷剤、または工程(a)において同定された経路とは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を、前記被験体に投与する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガン細胞が、相同組み換えと架橋修復(FA/HR)によるDNA修復経路を欠損しており、前記薬剤がミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路または非相同末端結合修復(NHEJ)DNA修復経路に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
NHEJに特異的な前記薬剤がATM阻害剤またはDNAPKcs阻害剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ガン細胞が、ミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路または非相同末端結合修復(NHEJ)DNA修復経路を欠損しており、前記薬剤が相同組み換えと架橋修復(FA/HR)によるDNA修復経路に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記DNA損傷剤が、架橋剤、鎖を断裂させる薬剤(strand break agent)、アルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管破壊剤、放射線様作用薬剤、放射線増感剤、挿入剤、DNA複製阻害剤、アントラサイクリン、エトポシド、およびトポイソメラーゼII阻害剤からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、特定のガン細胞について治療薬を選択するための方法:
a)正常な細胞と比較して、該ガン細胞における1つ以上DNA修復経路の欠損を決定する工程;および
b)DNA損傷剤または工程(a)において同定されたDNA経路以外の少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を選択する工程。
【請求項9】
DNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、化学療法薬に対するガン細胞の耐性を決定する方法であって、ここでは、該欠損の存在は、該細胞が該DNA修復経路に特異的な化学療法薬に耐性であることを示す、方法。
【請求項10】
DNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、化学療法薬に対するガン細胞の感受性を決定する方法であって、ここでは、前記欠損が存在しないことは、前記細胞が前記DNA修復経路に特異的な化学療法薬に対して感受性であることを示す、方法。
【請求項11】
前記欠損が、DNARMARKERの発現を測定することによって決定される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記欠損が、DNARMARKERの中の変異を検出することによって決定される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記欠損が、DNARMARKERの翻訳後修飾を検出することによって決定される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記翻訳後修飾が、リン酸化、ユビキチン化、sumo化、アセチル化、アルキル化、メチル化、グリシル化、グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化、ホスホパンテテイニル化、硫酸化、セレン化、およびC末端アミド生成からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記DNA修復経路が以下からなる群より選択される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法:塩基除去修復(BER)、相同組み換えと架橋修復(FA/HR)、ミスマッチ修復(MMR)、非相同末端結合修復(NHEJ)、ヌクレオチド除去修復(NER)、損傷乗り越えDNA合成(TLS)、およびDNA損傷応答の制御(DDR)。
【請求項16】
相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を同定する方法であって、ここでは、該欠損の存在は、該細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して感受性であることを示すが、存在しない場合には、効力は、該細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して耐性であることを示す、方法。
【請求項17】
前記架橋剤が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、マイトマイシンC、またはメルファランである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記FA/HR DNA修復経路の欠損が、FANCD2のモノユビキチン化を検出することによって決定される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ガン細胞を相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の阻害剤と接触させる工程を含む、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を増大させる方法。
【請求項20】
前記架橋剤が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、マイトマイシンC、またはメルファランである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記阻害剤が、MAP2KAP2阻害剤またはFA/HR DNA修復経路の阻害剤である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
MAP2KAP2のリン酸化を検出する工程を含む、MAP2KAP2阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法であって、ここでは、該リン酸化の存在は、該細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、該リン酸化が存在しないことは、該細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して耐性であることを示す、方法。
【請求項23】
ミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、FA/HR DNA修復経路の阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法であって、ここでは、該欠損の存在は、該細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、欠損が存在しない場合には、効力は、該細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して耐性であることを示す、方法。
【請求項24】
前記FA/HR DNA修復経路の阻害剤が、クルクミン、ベルケイド、またはアルステルパウロンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
以下の工程を含む、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法:
(a)第1の時点での該被験体由来の第1の試料中のDNARMARKERS 1〜259からなる群より選択される2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程;
(b)第2の時点での該被験体由来の第2の試料中の2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程;および
(c)工程(a)で検出された2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを工程(b)で検出された量に対して、または参照値に対して比較する工程。
【請求項26】
以下の工程を含む、ガンを有している被験体の処置の有効性を評価する方法:
(a)該被験体由来の試料中のDNARMARKERS1〜259からなる群より選択される2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを測定する工程、および
(b)該2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを参照値に対して比較する工程。
【請求項27】
以下の工程を含む、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法:
(a)該ガン細胞が第1の時点でDNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程;
(b)該ガン細胞が、第2の時点で、工程(a)において同定された該DNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程、
を含む方法であって、ここでは、該DNA修復経路の該欠損の減少は、該処置が有効ではないことを示し、一方、該DNA修復経路の増大またはそれに変化がないことは、該処置が有効であることを示す、方法。
【請求項28】
以下からなる群より選択される2つ以上のDNA修復経路から選択される少なくとも2つのタンパク質を含むパネル:塩基除去修復(BER)、相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)、ミスマッチ修復(MMR)、非相同末端結合修復(NHEJ)、ヌクレオチド除去修復(NER)、損傷乗り越えDNA合成(TLS)、およびDNA損傷応答(DDR)。
【請求項29】
前記BER経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化1】
、およびアプラタキシン(Aptx)。
【請求項30】
前記HR経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化2】
【請求項31】
前記HR/FA経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化3】
【請求項32】
前記MMR経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化4】
【請求項33】
前記DDR経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化5】
【請求項34】
前記NER経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化6】
【請求項35】
前記TLS経路のタンパク質が、以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:DNAPOLη、DNAPOLτ、DNAPOLκ、REV1、DNAPOLζ、DNAPOLθ、PCNA、UBC13、MMS2、RAD5、hRAD6A、hRAD6B、RAD18、WRN、およびUSP1。
【請求項36】
前記NHEJ経路のタンパク質が、以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:SIRT6、H2A、ARP4、ARP8、Ino80、SWR1、KU70、KU80、DNAPKcs、Artemis、PSO2、XRCC4、DNAリガーゼ4、XLF、DNAPOLλ、PNK、METNASE、およびTRF2。
【請求項37】
以下からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質がさらに含まれている、請求項28に記載のパネル:MGMT、TDP1、DNAPOLμ、hABH1、hABH2、hABH3、hABH4、hABH5、hABH6、hABH7、hABH8、TOPO1、TOPOII、UBC9、UBL1、およびMMS21。
【請求項38】
少なくとも1つのファンコニ貧血タンパク質と少なくとも1つのミスマッチ修復タンパク質を含むパネル。
【請求項39】
DNAPKPcsタンパク質またはPARPをさらに含む、請求項38に記載のパネル。
【請求項40】
前記ファンコニ貧血タンパク質が以下からなる群より選択される、請求項38に記載のパネル:FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCJ、FANCL、およびFANCM。
【請求項41】
前記ミスマッチ修復タンパク質が以下からなる群より選択される、請求項38に記載のパネル:MLH1、MSH2、MSH3、MSH4、MSH5、およびMSH6。
【請求項42】
DNA修復またはDNAの損傷の認識および調節タンパク質に関係している経路の指標である1つ以上のDNARMARKERSを含むパネル。
【請求項43】
請求項28〜42のいずれか1項に記載のパネルを検出するための複数の検出試薬を含むアレイ。
【請求項1】
以下の工程を含む、被験体のガンを処置する方法:
a)該ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程;および
b)DNA損傷剤、または工程(a)において同定された経路とは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を、該被験体に投与する工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、被験体のガンを処置する方法:
a)該ガン細胞がDNA修復経路を欠損しているか否かを決定する工程、
b)該ガン細胞においてアップレギュレートされているDNA修復経路のタンパク質または遺伝子を同定する工程;および
c)DNA損傷剤、または工程(b)において同定された該DNA修復経路のタンパク質もしくは遺伝子に特異的な阻害剤を、該被験体に投与する工程。
【請求項3】
DNA損傷剤、または工程(a)において同定された経路とは異なる少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を、前記被験体に投与する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガン細胞が、相同組み換えと架橋修復(FA/HR)によるDNA修復経路を欠損しており、前記薬剤がミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路または非相同末端結合修復(NHEJ)DNA修復経路に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
NHEJに特異的な前記薬剤がATM阻害剤またはDNAPKcs阻害剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ガン細胞が、ミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路または非相同末端結合修復(NHEJ)DNA修復経路を欠損しており、前記薬剤が相同組み換えと架橋修復(FA/HR)によるDNA修復経路に特異的である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記DNA損傷剤が、架橋剤、鎖を断裂させる薬剤(strand break agent)、アルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管破壊剤、放射線様作用薬剤、放射線増感剤、挿入剤、DNA複製阻害剤、アントラサイクリン、エトポシド、およびトポイソメラーゼII阻害剤からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、特定のガン細胞について治療薬を選択するための方法:
a)正常な細胞と比較して、該ガン細胞における1つ以上DNA修復経路の欠損を決定する工程;および
b)DNA損傷剤または工程(a)において同定されたDNA経路以外の少なくとも1つのDNA修復経路に特異的な阻害剤を選択する工程。
【請求項9】
DNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、化学療法薬に対するガン細胞の耐性を決定する方法であって、ここでは、該欠損の存在は、該細胞が該DNA修復経路に特異的な化学療法薬に耐性であることを示す、方法。
【請求項10】
DNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、化学療法薬に対するガン細胞の感受性を決定する方法であって、ここでは、前記欠損が存在しないことは、前記細胞が前記DNA修復経路に特異的な化学療法薬に対して感受性であることを示す、方法。
【請求項11】
前記欠損が、DNARMARKERの発現を測定することによって決定される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記欠損が、DNARMARKERの中の変異を検出することによって決定される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記欠損が、DNARMARKERの翻訳後修飾を検出することによって決定される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記翻訳後修飾が、リン酸化、ユビキチン化、sumo化、アセチル化、アルキル化、メチル化、グリシル化、グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化、ホスホパンテテイニル化、硫酸化、セレン化、およびC末端アミド生成からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記DNA修復経路が以下からなる群より選択される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法:塩基除去修復(BER)、相同組み換えと架橋修復(FA/HR)、ミスマッチ修復(MMR)、非相同末端結合修復(NHEJ)、ヌクレオチド除去修復(NER)、損傷乗り越えDNA合成(TLS)、およびDNA損傷応答の制御(DDR)。
【請求項16】
相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を同定する方法であって、ここでは、該欠損の存在は、該細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して感受性であることを示すが、存在しない場合には、効力は、該細胞がDNA架橋剤または電離放射線に対して耐性であることを示す、方法。
【請求項17】
前記架橋剤が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、マイトマイシンC、またはメルファランである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記FA/HR DNA修復経路の欠損が、FANCD2のモノユビキチン化を検出することによって決定される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ガン細胞を相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)のDNA修復経路の阻害剤と接触させる工程を含む、DNA架橋剤または電離放射線に対するガン細胞の反応性を増大させる方法。
【請求項20】
前記架橋剤が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、マイトマイシンC、またはメルファランである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記阻害剤が、MAP2KAP2阻害剤またはFA/HR DNA修復経路の阻害剤である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
MAP2KAP2のリン酸化を検出する工程を含む、MAP2KAP2阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法であって、ここでは、該リン酸化の存在は、該細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、該リン酸化が存在しないことは、該細胞がMAP2KAP2阻害剤に対して耐性であることを示す、方法。
【請求項23】
ミスマッチ修復(MMR)DNA修復経路の欠損を同定する工程を含む、FA/HR DNA修復経路の阻害剤に対するガン細胞の反応性を同定する方法であって、ここでは、該欠損の存在は、該細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して感受性であることを示し、一方、欠損が存在しない場合には、効力は、該細胞がFA/HR DNA修復経路の阻害剤に対して耐性であることを示す、方法。
【請求項24】
前記FA/HR DNA修復経路の阻害剤が、クルクミン、ベルケイド、またはアルステルパウロンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
以下の工程を含む、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法:
(a)第1の時点での該被験体由来の第1の試料中のDNARMARKERS 1〜259からなる群より選択される2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程;
(b)第2の時点での該被験体由来の第2の試料中の2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを検出する工程;および
(c)工程(a)で検出された2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを工程(b)で検出された量に対して、または参照値に対して比較する工程。
【請求項26】
以下の工程を含む、ガンを有している被験体の処置の有効性を評価する方法:
(a)該被験体由来の試料中のDNARMARKERS1〜259からなる群より選択される2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを測定する工程、および
(b)該2つ以上のDNARMARKERSの有効量のレベルを参照値に対して比較する工程。
【請求項27】
以下の工程を含む、ガンを有している被験体の処置をモニターする方法:
(a)該ガン細胞が第1の時点でDNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程;
(b)該ガン細胞が、第2の時点で、工程(a)において同定された該DNA修復経路において欠損しているか否かを決定する工程、
を含む方法であって、ここでは、該DNA修復経路の該欠損の減少は、該処置が有効ではないことを示し、一方、該DNA修復経路の増大またはそれに変化がないことは、該処置が有効であることを示す、方法。
【請求項28】
以下からなる群より選択される2つ以上のDNA修復経路から選択される少なくとも2つのタンパク質を含むパネル:塩基除去修復(BER)、相同組み換えと架橋による修復(FA/HR)、ミスマッチ修復(MMR)、非相同末端結合修復(NHEJ)、ヌクレオチド除去修復(NER)、損傷乗り越えDNA合成(TLS)、およびDNA損傷応答(DDR)。
【請求項29】
前記BER経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化1】
、およびアプラタキシン(Aptx)。
【請求項30】
前記HR経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化2】
【請求項31】
前記HR/FA経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化3】
【請求項32】
前記MMR経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化4】
【請求項33】
前記DDR経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化5】
【請求項34】
前記NER経路のタンパク質が以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:
【化6】
【請求項35】
前記TLS経路のタンパク質が、以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:DNAPOLη、DNAPOLτ、DNAPOLκ、REV1、DNAPOLζ、DNAPOLθ、PCNA、UBC13、MMS2、RAD5、hRAD6A、hRAD6B、RAD18、WRN、およびUSP1。
【請求項36】
前記NHEJ経路のタンパク質が、以下からなる群より選択される、請求項28に記載のパネル:SIRT6、H2A、ARP4、ARP8、Ino80、SWR1、KU70、KU80、DNAPKcs、Artemis、PSO2、XRCC4、DNAリガーゼ4、XLF、DNAPOLλ、PNK、METNASE、およびTRF2。
【請求項37】
以下からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質がさらに含まれている、請求項28に記載のパネル:MGMT、TDP1、DNAPOLμ、hABH1、hABH2、hABH3、hABH4、hABH5、hABH6、hABH7、hABH8、TOPO1、TOPOII、UBC9、UBL1、およびMMS21。
【請求項38】
少なくとも1つのファンコニ貧血タンパク質と少なくとも1つのミスマッチ修復タンパク質を含むパネル。
【請求項39】
DNAPKPcsタンパク質またはPARPをさらに含む、請求項38に記載のパネル。
【請求項40】
前記ファンコニ貧血タンパク質が以下からなる群より選択される、請求項38に記載のパネル:FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCJ、FANCL、およびFANCM。
【請求項41】
前記ミスマッチ修復タンパク質が以下からなる群より選択される、請求項38に記載のパネル:MLH1、MSH2、MSH3、MSH4、MSH5、およびMSH6。
【請求項42】
DNA修復またはDNAの損傷の認識および調節タンパク質に関係している経路の指標である1つ以上のDNARMARKERSを含むパネル。
【請求項43】
請求項28〜42のいずれか1項に記載のパネルを検出するための複数の検出試薬を含むアレイ。
【図1】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19−1】
【図19−2】
【図20−1】
【図20−2】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24−1】
【図24−2】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35−1】
【図35−2】
【図36】
【図37−1】
【図37−2】
【図37−3】
【図38−1】
【図38−2】
【図38−3】
【図39】
【図40A】
【図40B】
【図40C】
【図40D】
【図41A】
【図41B】
【図41C】
【図41D】
【図41E】
【図42】
【図43】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19−1】
【図19−2】
【図20−1】
【図20−2】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24−1】
【図24−2】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35−1】
【図35−2】
【図36】
【図37−1】
【図37−2】
【図37−3】
【図38−1】
【図38−2】
【図38−3】
【図39】
【図40A】
【図40B】
【図40C】
【図40D】
【図41A】
【図41B】
【図41C】
【図41D】
【図41E】
【図42】
【図43】
【公表番号】特表2010−506939(P2010−506939A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533405(P2009−533405)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/022439
【国際公開番号】WO2008/066624
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(592090692)ダナ ファーバー キャンサー インスティテュート,インコーポレイテッド (20)
【出願人】(509110965)ドナー, インコーポレイテッド (3)
【出願人】(506124239)オレゴン ヘルス アンド サイエンス ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/022439
【国際公開番号】WO2008/066624
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(592090692)ダナ ファーバー キャンサー インスティテュート,インコーポレイテッド (20)
【出願人】(509110965)ドナー, インコーポレイテッド (3)
【出願人】(506124239)オレゴン ヘルス アンド サイエンス ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】
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