説明

キノコ由来成分及びトレハロースを含む組成物

【課題】キノコ由来成分をその生理活性物質の活性を失うことなく飲食品等に添加する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、キノコ由来成分に含まれる生理活性物質の活性が上昇する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ由来成分及びトレハロースを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近キノコ類の栄養効果が注目されている。キノコには、ビタミン、ミネラル、タンパク質(アミノ酸)、βグルカン等の糖類、食物繊維等の多くの栄養素が含まれており、その成分の生理活性が明らかにされてきている。クレスチン、レンチナン、シゾフィラン(いずれも商品名)などの有効成分は、キノコ由来の成分であり、医薬品としてその有用性が認められている。また、免疫賦活作用や抗腫瘍作用を期待して、アガリクス、メシマコブ、霊芝(マンネンタケ)、カバノアナタケ、ハナビラタケ等の子実体や菌糸体の乾燥物や抽出物を健康食品素材として利用することが試みられている(特許文献1、2及び3)。さらに、健康食品素材としてだけでなく、美容を目的とした用途も注目されてきている。
【0003】
皮膚の表皮及び真皮は、表皮細胞、線維芽細胞、及びコラーゲン等の細胞外マトリクスにより構成されている。特に、表皮の底に存在している線維芽細胞が、コラーゲンやエラスチンといった皮膚の弾力を保ち、ハリの元となる物質を生産している。この線維芽細胞は、紫外線の照射や乾燥等の外的因子の影響、又は加齢によって、コラーゲンやエラスチン産生能が低下し、うるおいが失われ、キメが崩れ、シワの原因になると言われている。
【0004】
成長期では、繊維芽細胞のコラーゲン産生量は、古いコラーゲンが廃棄される量よりも多く、常に新しいコラーゲンで満たされているが、成長期を過ぎると、産生されるコラーゲン量が減少し、シワ等の皮膚の老化症状を引き起こす。
これらのことは、コラーゲン産生量減少が老化の初期段階に起こることを示唆し、皮膚のコラーゲン産生量を増加させる食品の開発が進められてきた。
【0005】
キノコ由来のコラーゲン産生促進効果を有する素材としては、カバノアナタケの抽出物が知られている(特許文献4)。さらに、近年、ハナビラタケの抽出物もコラーゲン産生促進効果を有することが報告された(特許文献5)。
【0006】
ハナビラタケは、ヒダナシタケ目に属する非常に僅少なキノコで、歯ごたえがよく、その純白の色合いと葉牡丹のような形態が特徴である。これまで、このハナビラタケは成長が遅く人工栽培は非常に困難であるとされてきたが、最近になって、比較的短期間で栽培可能な新しい栽培法が確立され、商業規模での供給が可能となってきている。また、ヒダナシタケ目に属するキノコで、食用及び/又は薬用として用いられているものとして、ハナビラタケ以外にも霊芝、マイタケ、アンズタケ等がある。
【0007】
ハナビラタケの粉末は、口当たりが悪く、摂取しにくいという問題があった。そのため、粉末を顆粒状や錠剤などに加工したり、カプセルに封入するなどして摂取しやすくすることが行われていた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−10970号公報
【特許文献2】特開2001−131083号公報
【特許文献3】特開2003−183176号公報
【特許文献4】特開2004−203777号公報
【特許文献5】特開2006−137680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、顆粒に加工した場合も、飲み込みにくいと感じる場合があり、摂取する上で問題となっていた。特に、病気で体力の落ちた人にとって食感は重要であり、摂取し続けるためにも摂取する者の嗜好性に合わせた飲食品等への加工が必要であった。したがって、キノコ由来成分を、加工によってもその活性を失うことなく飲食品等に添加するための組成物の開発が必要とされていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、キノコ由来成分をその生理活性物質の活性を失うことなく飲食品等に添加することのできる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、キノコ由来成分及びトレハロースを含む、繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性を有する組成物が提供される。本発明の組成物は、キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇している。
また、本発明によれば、上記組成物を含む食品添加剤が提供される。本発明の食品添加剤は、キノコ由来成分を摂取する者の嗜好性に合わせた飲食品等への加工を可能とするものであり、キノコの食感を改善することができる。キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇していることは言うまでもない。
また、本発明によれば、上記組成物又は上記食品添加剤を含む飲食品が提供される。本発明の飲食品は、キノコ由来成分及びトレハロースを含むことにより、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇しているだけでなく、キノコの食感が改善されている。
また、本発明によれば、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分及びトレハロースを含む組成物が提供される。本発明の組成物は、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分に含まれる生理活性物質の活性が上昇している。
また、本発明によれば、上記組成物を含む食品添加剤が提供される。本発明の食品添加剤は、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分を摂取する者の嗜好性に合わせた飲食品等への加工を可能とするものであり、キノコの食感を改善することができる。ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分に含まれる生理活性物質の活性が上昇していることは言うまでもない。
また、本発明によれば、上記組成物又は上記食品添加剤を含む飲食品が提供される。本発明の飲食品は、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分及びトレハロースを含むことにより、キノコ由来成分の生理活性物質の活性が上昇しているだけでなく、キノコの食感が改善されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キノコ由来成分にトレハロースが加えられているため、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇するという効果を奏する。
また、本発明によれば、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分に含まれる生理活性物質の活性が上昇するという効果を奏する。
本発明の組成物は、飲食品等に添加してもその活性が低下せず、食品添加剤として用いることができる。
本発明の飲食品は、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇しているだけでなく、キノコの食感が改善されており、摂取し続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<発明の経緯>
本発明者は、キノコ由来成分をその生理活性物質の活性を失うことなく飲食品等に添加する技術を提供することを目的として、研究を進めてきた。しかしながら、キノコ由来成分のみを食品に添加しても、キノコ由来成分の有する生理活性物質の活性が失われてしまうという結果が得られた。本発明者は、キノコ由来成分にトレハロースを加えることによって、キノコ由来成分に含まれる生理活性物質の活性が上昇し、飲食品等に添加してもその活性が低下しないことを見出し、本発明を開発するに至った。
【0013】
<用語>
本発明において、キノコとは、担子菌、子のう菌に属し子実体形成するものをいう。
【0014】
また、本発明において、キノコ由来成分とは、キノコに含まれる生理活性物質の活性を有すればよい。好ましくは、キノコ粉末又はキノコ抽出成分であってもよい。さらに好ましくは、キノコの乾燥粉末であってもよい。
【0015】
また、本発明において、キノコ由来成分の生理活性物質の活性とは、繊維芽細胞増殖活性、繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性、免疫増強活性、チロシナーゼ阻害活性、メラニン化抑制活性又はメラニンポリマー還元活性のうち、1又は2以上の活性をいう。
【0016】
<キノコの種類>
以下の実施例においては、ハナビラタケ粉末及びトレハロースを添加して製造したパンを用いて実験を行っているが、本実施形態で用いられるキノコは、キノコ由来成分の生理活性物質の活性を有する担子菌類もしくは子のう菌類のキノコであればハナビラタケでなくてもよい。好ましくは、ハラタケ目もしくはヒダナシタケ目に属するキノコであり、ハラタケ目に属するキノコとしては、ヒラタケ科ではヒラタケ、タモギタケ、シイタケ、エリンギ、バイリング、キシメジ科ではハタケシメジ、ホンシメジ、ブナシメジ、ムラサキシメジ、マツタケ、ニオウシメジ、ナラタケ、ナラタケモドキ、ムキタケ、エノキタケ、オキナタケ科ではヤナギマツタケ、モエギタケ科ではナメコ、クリタケ、イグチ科ではヤマドリタケモドキ、ヒダナシタケ目に属するキノコとしては、アンズタケ科ではアンズタケ、サンゴハリタケ科ではヤマブシタケ、スエヒロタケ科ではスエヒロタケ、ミミナミハタケ科ではイタチナミハタケ、タコウキン科ではアミスギタケ、ツヤウチワタケ、スジウチワタケモドキ、ホウネンタケ、ヒイロタケ、ニッケイタケ、シハイタケ、シロカイメンタケ、クジラタケ、ホウロクタケ、マンネンタケ科ではマンネンタケ、サルノコシカケ科ではマイタケ、サルノコシカケなどがある。
【0017】
<飲食品の種類>
また、キノコ由来成分を添加する飲食品は、パンでなくともよい。パン以外の飲食品としては、穀飯添加剤、菓子類、惣菜類、漬物類、発酵食品(ヨーグルト、納豆、ミソなど)、健康飲料、アルコール飲料、レトルト食品、麺類、水産加工品、肉加工品などがある。
【0018】
<含有量>
また、以下の実施例においては、ハナビラタケ粉末を1g又は2g添加しパンを製造しているが、キノコ由来成分の添加量は、飲食品がキノコ由来成分の生理活性物質の活性を有する量であればよく、1、2若しくは5g以上であってもよい。また、キノコ由来成分の添加量の上限としては、キノコ由来成分を添加して飲食品を製造する上でその妨げにならない量であればよく、30、20若しくは10g以下であってもよい。
【0019】
また、以下の実施例においては、トレハロースを15g添加しパンを製造しているが、トレハロースの添加量は、飲食品がキノコ由来成分の生理活性物質の活性を有する量であればよく、5、10若しくは15g以上であってもよい。また、トレハロースの添加量の上限としては、トレハロースを添加して飲食品を製造する上でその妨げにならない量であればよく、50、40、30若しくは20g以下であってもよい。
【0020】
また、添加するキノコ由来成分とトレハロースの比率は、飲食品がキノコ由来成分の生理活性物質の活性を有する比率であればよく、1:50、2:15、1:5、2:5、3:5、1:1若しくは6:1であってもよい。
【0021】
<作用効果>
以下、本実施形態の作用効果について説明する。
キノコ由来成分及びトレハロースを含む、繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性を有する組成物は、キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、以下の実施例で示されているように、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇している。
ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分及びトレハロースを含む、繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性を有する組成物は、キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、以下の実施例で示されているように、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇している。
ハナビラタケ由来成分及びトレハロースを含む、繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性を有する組成物は、キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、以下の実施例で示されているように、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇している。
また、キノコの乾燥粉末及びトレハロースを含む、繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性を有する組成物は、キノコの乾燥粉末にトレハロースが加えられていることによって、以下の実施例で示されているように、キノコ由来成分の繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性が上昇しているだけでなく、キノコを乾燥することでタンパク質の安定化、ビタミンD量の増加、添加できる量の増加、安定的な長期保管などの作用が得られる。これに対し、生鮮キノコは多量の水分を有するため、酵素による有用成分の分解、栄養成分の不安定化、雑菌汚染、キノコ由来の生理活性成分としての実質的な添加量の制限などの問題が生じる可能性がある。
また、キノコは古くから食用又は薬用として用いられてきたものであり、トレハロースもまた食品添加剤として用いられてきたものであるので、キノコ由来成分及びトレハロースは食品添加剤として使用することが可能である。したがって、キノコ由来成分を、摂取する者の嗜好性に合わせた飲食品等への加工が可能であり、キノコの食感を改善し、摂取し続けることができる。
上記組成物及び食品添加剤を添加してパンを製造することが可能である。パンに添加することにより、以下の実施例で示されているように、飲み込みにくいと感じたりするようなキノコ由来成分を摂取する上での問題は改善された。
ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分及びトレハロースを含む組成物は、キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、以下の実施例に示されているように、キノコ由来成分の生理活性物質の活性が上昇している。
ハナビラタケ由来成分及びトレハロースを含む組成物は、キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによって、以下の実施例に示されているように、ハナビラタケ由来成分の生理活性物質の活性が上昇している。
また、ヒダナシタケ目に属するキノコの乾燥粉末及びトレハロースを含む組成物は、キノコの乾燥粉末にトレハロースが加えられていることによって、以下の実施例で示されているように、キノコ由来成分の生理活性物質の活性が上昇しているだけでなく、キノコを乾燥することでタンパク質の安定化、ビタミンD量の増加、添加できる量の増加、安定的な長期保管などの作用が得られる。これに対し、生鮮キノコは多量の水分を有するため、酵素による有用成分の分解、栄養成分の不安定化、雑菌汚染、添加量の制限などの問題が生じる可能性がある。
また、キノコは古くから食用又は薬用として用いられてきたものであり、トレハロースもまた食品添加剤として用いられてきたものであるので、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分及びトレハロースは食品添加剤として使用することが可能である。したがって、ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分を、摂取する者の嗜好性に合わせた飲食品等への加工が可能であり、キノコの食感を改善することができる。
上記組成物及び食品添加剤を添加してパンを製造することが可能である。パンに添加することにより、以下の実施例で示されているように、飲み込みにくいと感じたりするようなキノコ由来成分を摂取する上での問題は改善された。
上記組成物又は食品添加剤を添加して飲食品を製造することが可能であるので、以下の実施例に示されているように、キノコ由来成分の摂取をする者の嗜好性に合わせた飲食品等へ加工することができるため、キノコの食感を改善し、摂取し続けることができる。
また、キノコ由来成分にトレハロースが加えられていることによってキノコ由来成分の生理活性物質の活性が上昇するメカニズムは明らかとなっていないが、トレハロースが有する、親水性、乾燥保護作用、ミネラル結合作用、不飽和脂肪酸分解保護作用及びSOD様物質の保護作用のうちの1又は2以上の作用による可能性が考えられる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1 ヒト正常線維芽細胞増殖試験及びPIP(コラーゲン産生)試験
1.試験方法
評価に用いたハナビラタケ抽出液は、ハナビラタケ子実体乾燥物を室温にて60分間抽出後、ろ過処理した水溶液と、105℃、60分間抽出後、ろ過処理した熱水抽出液を用いた。細胞培養実験には、さらに0.2μmフィルターによりろ過滅菌して用いた。
(1) 細胞培養
予備試験(data not shown)の結果を基に、培養24時間におけるヒト正常線維芽細胞の増殖率を測定した。測定にはCellTiter96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ株式会社製)を用いた。

(i) ヒト正常線維芽細胞(NBIRGB)を前培養した。
(ii) 前培養し、静止期にある細胞をトリプシン処理して細胞浮遊液を作製、細胞数を計数した。
(iii) 本細胞を96穴マイクロプレートに1×10細胞/wellで播種した。
(iv) 無血清培地で16時間培養した。
(v) 培地を評価サンプル添加培地に交換した。
[1] 対照(ネガティブコントロール、無添加、細胞あり)
[2] 100μg/mlハナビラタケ子実体乾燥物の抽出液(100W)
[3] 1000μg/mlハナビラタケ子実体乾燥物の抽出液(1000W)
[4] 100μg/mlハナビラタケ子実体乾燥物の熱水抽出液(100H)
[5] 1000μg/mlハナビラタケ子実体乾燥物の熱水抽出液(1000H)
(vi) 無血清培地で24時間培養した。
(vii) 培地を回収後、細胞数をCellTiter96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ株式会社製)を使用し、MTS法にて、測定した。
(viii)回収した培地中のプロコラーゲン(PIP)量は、ELISAアッセイキットを用いて定量した。
【0024】
(2)培養中に生産されたI型コラーゲン前躯体(PIP)の定量
ヒト正常線維芽細胞が産生し、培地中に放出されたI型コラーゲン前躯体の定量は、ELISA法によって行った。測定キットは、プロコラーゲン タイプ・Iペプチド(PIP)EIAキット(タカラバイオ株式会社製)を用いた。
定量法は、メーカーの使用手順に従ったが、操作の概要は以下のとおりである。

(i) 標識抗体溶液を100μlずつ抗体プレートの各wellに加えた。
(ii) 所定濃度のPIP標準溶液および検体を20μlずつ各wellに加えた。
(iii) 37℃で2時間インキュベーションして反応させた。
(iv) 反応溶液を捨て、PBSで4回洗浄した。
(v) 基質溶液(TMBZ)を各wellに100μlずつ加えた。
(vi) 室温(20‐30℃)で15分間反応させた。
(vii) Stop Solution(IN硫酸)を100μlずつwellに加え混和し、呈色反応を停止させた。
(viii)波長492nmで各呈色反応の吸光度を測定した。
(ix) 横軸にPIP標準溶液の濃度を、縦軸に対応する吸光度をプロットして、標準曲線を作成した。本標準曲線を基に、各検体の吸光度から対応するPIP濃度を推量した。
【0025】
2.結果
(1)ハナビラタケ抽出液のヒト正常線維芽細胞増殖に対する作用
細胞培養期間を24時間に設定して本期間における細胞増殖を調べ、培養24時間後の細胞増殖の結果を図1に示した。評価サンプルは、水抽出及び熱水抽出液のどちらにおいても細胞増殖を促進した。特に、100μg/ml濃度が最も増殖率が高かった。
また、光学顕微鏡により細胞の形態変化を観察したが、評価サンプル添加によって、特徴的な形態変化は見られなかった。
これらのことにより、評価サンプルの細胞毒性は無いものと考えられた。
(2)ハナビラタケ抽出液のヒト線維芽細胞のプロコラーゲン産生への作用
細胞培養期間を24時間に設定して、本期間におけるプロコラーゲン産生へのハナビラタケ抽出液の作用を調べ、培養24時間後のプロコラーゲン産生量を図2に示した。評価サンプルは、水抽出及び熱水抽出液のどちらにおいてもプロコラーゲン産生量を増加させた。また、評価サンプルのプロコラーゲン産生量は、濃度依存的に増加した。
本結果は、ハナビラタケ抽出液にプロコラーゲンを産生する作用があることを示唆した。
【0026】
3.考察
今回の試験結果から、ハナビラタケ水抽出液および熱水抽出液の両者に、ヒト正常線維芽細胞(NBIRGB)の増殖を促進する作用があることが判明した。中でも熱水抽出液は、水抽出液よりも増殖を促進することが判明した。
またハナビラタケ水抽出液及び熱水抽出液ともに、ヒト正常線維芽細胞(NBIRGB)のプロコラーゲン産生量を促進する作用があることが判明した。プロコラーゲン産生は、濃度依存的であった。
細胞増殖率とプロコラーゲン産生量を比較した場合、増殖率は、低濃度の100μg/mlが高かった。しかし、プロコラーゲン産生量は、高濃度の1000μg/mlが多いという結果であった。
プロコラーゲンには、それが接する細胞に対して、増殖・分化シグナルを与えるという情報伝達の働きも担っていることがわかってきている。100μg/mlでは、細胞増殖率が高かったのに対し、プロコラーゲン産生量は低かった。これらの関係は、産生されたプロコラーゲンにより刺激をうけ、細胞増殖が促進され、その後プロコラーゲンがコラーゲンとして利用されたためではないかと推測している。
以上のことから、ハナビラタケ抽出液には、線維芽細胞増殖作用及び、プロコラーゲン産生促進作用があることが示唆された。
【0027】
実施例2 キノコ由来成分含有食品抽出液のヒト正常線維芽細胞増殖試験
1.試験方法
評価に用いたハナビラタケ由来成分及びトレハロースは、ハナビラタケ粉末及びトレハロースが添加されたパンから熱水で抽出することにより得られた。
ハナビラタケ子実体を40−60℃で熱風乾燥した乾燥物を破砕機で粉砕し、60メッシュパスの粉体を得た。得られたハナビラタケ粉末及び/又はトレハロースを、小麦粉(強力粉)280g、イースト6g、食塩6g、ショートニング12g、水200gに添加し、一般的な方法でパンを製造した。添加するハナビラタケ粉末の量は、0g、1g又は2gとした。添加するトレハロースの量は、0g又は15gとした。いずれの添加量においても、パンの製造を妨げることはなく、食感も良好であった。
製造したパンから、20倍量の蒸留水を用いて60分間熱水抽出した。細胞培養実験には、さらに0.2μmフィルターによりろ過滅菌して用いた。
【0028】
(2) 細胞培養
予備試験(data not shown)の結果を基に、培養24時間におけるヒト正常線維芽細胞の増殖率を測定した。測定にはCellTiter96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ株式会社製)を用いた。

(i) ヒト正常線維芽細胞(NBIRGB)を前培養した。
(ii) 前培養し、静止期にある細胞をトリプシン処理して細胞浮遊液を作製、細胞数を形数した。
(iii) 本細胞を96穴マイクロプレートに1×10細胞/wellで播種した。
(iv) 無血清培地で16時間培養した。
(v) 培地を評価サンプル添加培地に交換した。
[1] 無添加(D.W.)
[2] ハナビラタケ及びトレハロース無添加のパンからの抽出液(パン)
[3] ハナビラタケ1g、トレハロース0g添加したパンからの抽出液(Scr1g)
[4] ハナビラタケ2g、トレハロース0g添加したパンからの抽出液(Scr2g)
[5] ハナビラタケ0g、トレハロース15g添加したパンからの抽出液(Tre15g)
[6] ハナビラタケ1g、トレハロース15g添加したパンからの抽出液(Scr1g+Tre15g)
[7] ハナビラタケ2g、トレハロース15g添加したパンからの抽出液(Scr2g+Tre15g)
(vi) 無血清培地で24時間培養した。
(vii) 培地を回収後、細胞数をCellTiter96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ株式会社製)を使用し、MTS法にて、測定した。
【0029】
2.結果
細胞培養期間を24時間に設定して本期間における細胞増殖を調べ、培養24時間後の細胞増殖の結果を図3に示した。無添加の区、ハナビラタケ及びトレハロース無添加のパンからの抽出液を添加した区ではヒト正常線維芽細胞増殖活性はみられなかった。ハナビラタケのみを添加したパンからの抽出液を添加した区及びトレハロースのみを添加したパンからの抽出液を添加した区においても、ヒト正常線維芽細胞増殖活性がみられなかったのに対し、ハナビラタケ2g、トレハロース15g添加したパンからの抽出液を添加した区では増殖活性がみられた。特に、ハナビラタケ1g、トレハロース15g添加したパンからの抽出液を添加した区と比べても、ハナビラタケ2g、トレハロース15g添加したパンからの抽出液を添加した区では、ヒト正常線維芽細胞増殖活性が著しく上昇していた。
【0030】
3.考察
今回の試験結果から、ハナビラタケ及びトレハロースを添加して製造したパンには、ヒト正常線維芽細胞(NBIRGB)の増殖を促進する活性があることが判明した。
これに対し、ハナビラタケのみ、又はトレハロースのみを添加して製造したパンからの抽出液にはヒト正常線維芽細胞(NBIRGB)の増殖活性がみられなかった。その要因として、ハナビラタケ由来成分は、飲食品に添加されることによりその生理活性物質の活性が低下したと考えられる。また、パンの製造工程には180〜350℃で加熱する工程が含まれるため、生理活性物質の活性が低下したと考えられる。一方、ハナビラタケ2g、トレハロース15g添加したパンからの抽出液を添加した区においてヒト正常線維芽細胞増殖活性が著しく上昇していたのは、トレハロースが有する親水性、乾燥保護作用、ミネラル結合作用、不飽和脂肪酸分解保護作用及びSOD様物質の保護作用のうちの1又は2以上の作用による可能性が考えられる。
以上のことから、ハナビラタケ及びトレハロースを添加することによって、線維芽細胞増殖活性が相乗的に上昇することが示された。
本発明により、キノコ由来成分にトレハロースを加えることによって、キノコ由来成分をその生理活性を失うことなく飲食品に添加する技術が提供された。
【0031】
供試細胞「ヒト正常線維芽細胞(NBIRGB)について」
供試細胞は、独立行政法人 理化学研究所より譲渡されたヒト正常線維芽細胞を使用した。このNBIRGB株は、独立行政法人 理化学研究所で新たに培養化された人新生児皮膚線維芽細胞である。
線維芽細胞には、真皮成分(コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸)を産生する働きやコラーゲンを束ねて真皮の構造を作る働きがある。そこで、化粧品原料の有用性を試験する目的でしばしば、増殖作用試験及びプロコラーゲン産生試験に用いられている細胞である。
培養条件は以下に示したとおりである。
培地:MEM ALPHA +10%PBS(GIBCO社製)
培養温度:37℃
CO2濃度(%):5%
【0032】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。例えば、パンに添加するハナビラタケの量は、2gを超えてもよい。ハナビラタケを7g添加しても、パンを製造することは可能であり、パンの食感も良好であったことが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ヒト正常線維芽細胞増殖試験の結果を示したグラフである。
【図2】ヒト正常線維芽細胞PIP(コラーゲン産生)試験の結果を示したグラフである。
【図3】キノコ由来成分含有食品抽出物のヒト正常線維芽細胞増殖試験の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコ由来成分及びトレハロースを含む、繊維芽細胞増殖活性及び/又は繊維芽細胞のコラーゲン産生促進活性を有する組成物。
【請求項2】
前記キノコがヒダナシタケ目に属するキノコである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キノコがハナビラタケである、請求項2の組成物。
【請求項4】
前記キノコ由来成分がキノコの乾燥粉末である、請求項1から3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の組成物を含む食品添加剤。
【請求項6】
パン用である、請求項5に記載の食品添加剤。
【請求項7】
ヒダナシタケ目に属するキノコ由来成分及びトレハロースを含む組成物。
【請求項8】
前記キノコがハナビラタケである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記キノコ由来成分がキノコの乾燥粉末である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項7から9の何れか1項に記載の組成物を含む食品添加剤。
【請求項11】
パン用である、請求項10に記載の食品添加剤。
【請求項12】
請求項1から11の何れか1項に記載の組成物又は食品添加剤を含む飲食品。
【請求項13】
前記飲食品がパンである、請求項12に記載の飲食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−115135(P2008−115135A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302087(P2006−302087)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(503397421)有限会社月夜野きのこ園 (2)
【Fターム(参考)】