説明

キャップしたポリイミドまたはポリアミドイミドの溶液

本発明は、キャップしたイソシアネート基を含み、ポリイミド構造および所望によりポリアミド構造をも有する、加工が容易であってポリアミドイミドに典型的な優れた熱特性および化学的安定性を有する高価値の非常に柔軟な被覆を与えることができる樹脂の水溶液、該水溶液の製造方法ならびに該水溶液の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド構造を含み、適切な場合にはポリアミド構造をも含み、そしてブロック化イソシアネート基を含む樹脂(以下においては、「ポリイミドまたはポリアミドイミド」あるいは「ポリイミドまたはポリアミドイミド樹脂」と称することもある)の水溶液に関する。該樹脂を、容易に加工して、ポリアミドイミドに特有の優れた特性および化学耐性を有する高グレードの高柔軟性の被覆を得ることができる。また、本発明は、該水溶液の製造方法および該水溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、芳香族ポリイソシアネートおよび三塩基酸無水物を反応させることによって得られる水溶性ポリアミドイミドを記載している。水性製品の良好な被覆特性を達成するために、数平均分子量が5000〜50000g/モルの高分子量ポリマーを水相に導入する。この高分子量は、イソシアネート基の酸基および無水物基に対する当量比の熟考した選択によってもたらされる。5000g/モル未満の分子量は、樹脂の取扱いを簡単にし、従って樹脂の分散を簡単にするが、製品の特性が低下すると言及されている。良好な加工特性を有するが、それと同時に高レベルの特性を有する被覆を導く樹脂およびその溶液が望まれている。
【0003】
また特許文献2は、水溶性ポリアミドイミドを記載している(その溶液は、被覆組成物としての使用を含む可能な用途を有する)。この文献によれば、ポリアミドイミドは、例えば、ポリアミンとわずかに過剰の無水カルボン酸との反応によって得ることができる。
また所望により、得られたポリアミドイミドを、ブロック化または未ブロック化ポリイソシアネートと反応させることもできる。その実施例は、未ブロック化イソシアネートまたはブロック化イソシアネートのどちらとの反応も詳しく記載していない。この特許文献明細書からは、ポリアミドイミドまたはその溶液の加工特性に関する言及を推定することができない。
【0004】
特許文献3は、例えば、ビス(エーテル無水物)とポリアミンとの反応によって得られる水溶性ポリエーテルイミドを記載している。アミンの存在下での水によるイミドの切断の後に、3官能イソシアネート成分の添加により、架橋が生じることができ、この架橋は、該イソシアネートにおけるブロック化によって促進される。その実施例は、ブロック化剤として、アルコールまたはフェノールを使用している。得られる架橋した被覆は、全ての要求に対して十分な柔軟性および接着性を持たない。
【0005】
また非水性の分野において、ポリアミドイミドおよびポリイミドはよく知られている。例えば、特許文献4および5において、高分子量ポリアミドイミドが、ポリカルボン酸無水物、ラクタムおよびポリイソシアネートから合成されており、これらの成分は、ラクタムの開環を伴って互いとの付加反応に供される。得られるポリマーは、特に良好な温度安定性を特徴とするが(特許文献4)、高粘度であり、従って、高温で加工しなければならない。その明細書は、これらフィルムの他の品質に関して何も言及していない。このポリマーと選択したラクタムとのさらなる反応は、特許文献5に記載されるように、良好な機械特性を有する熱可塑性樹脂を導く。
【0006】
特許文献6は、非水性系における、アミド/イミド基を含む低分子量のブロック化ポリイソシアネートであって、任意の順序で、ポリイソシアネートと、イソシアネート基のためのブロック化剤、少なくとも2つのカルボキシル基および/または無水カルボン酸基を含む化合物、および適切な場合にはポリヒドロキシ化合物とを反応させることによって得られるブロック化ポリイソシアネートに関する。これらのペイントイソシアネートは、2つの異なる成分からなる系においてOH官能性バインダーと架橋するのに役立つ。
【0007】
特許文献7および8は、塩基性溶媒の存在下での芳香族ジイソシアネートとトリカルボン酸無水物およびブロック化剤との反応に由来するラクタムおよびブロック化ポリアミドイミド樹脂を報告している。また所望により、ラクタムブロック化ポリアミドイミド樹脂を、塩基、さらなるブロック化イソシアネート、およびポリエステル樹脂と反応させることもできる。これは、これらから得られるフィルムのより迅速な硬化、ならびに、得られる被覆の柔軟性および熱ショックの改善を目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−120134号公報
【特許文献2】米国特許第4259221号明細書
【特許文献3】米国特許第4429073号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第1770202号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第3332033号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第19524437号明細書
【特許文献7】特開昭58−002097号公報
【特許文献8】特開昭59−137454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここに驚くべきことに、ポリアミドイミドまたはポリイミドの水溶液は、具体的にはポリマー鎖のNCO基を製造段階で部分的にブロックしたときに、加工が容易であり、焼付け後に高い耐性および高い柔軟性を有する被覆を与えることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリイミド構造を含み、適切な場合にはポリアミド構造をも含む、数平均分子量(Mn)が1000〜7000g/モルであるNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法であって、初めに、
(a)少なくとも1つのポリイソシアネート、
(b)少なくとも1つのトリカルボン酸一無水物および/または少なくとも1つのテトラカルボン酸無水物、さらに
(b1)適切な場合には、トリカルボン酸および/またはテトラカルボン酸、および
(b2)適切な場合には、ジカルボン酸、
(c)少なくとも1つのNH-官能性ラクタムおよび/または3,5-ジメチルピラゾールおよび/またはブタノンオキシム、
からポリマーを製造し;
これに、適切な場合には、さらなる量の
(d)少なくとも1つのトリカルボン酸一無水物および/または少なくとも1つのテトラカルボン酸無水物、さらに
(d1)適切な場合には、トリカルボン酸および/またはテトラカルボン酸、および
(d2)適切な場合には、ジカルボン酸、
を添加し;
・成分(a)のイソシアネート基の量を、成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)のイソシアネート反応性基の量の総合計に対して、0.90:1〜1.3:1のモル比で使用し;そして
・成分(a)のイソシアネート基の量を、成分(c)のイソシアネート反応性基の量に対して、1:0.05〜1:0.35のモル比で使用し;
次いで、この反応混合物を、
(e)塩基、
と反応させ;
・成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)の酸および/または無水物基の量を、成分(e)の塩基性基の量に対して、1:0.5〜1:4のモル比で使用し;
最後に、得られた樹脂を水に溶解する(水を樹脂に添加することができ、また、樹脂を水に添加することもできる);
ことを特徴とする方法を提供する。
さらに、本発明は、この方法によって得られる水溶液それ自体をも提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的のために、溶液とは、均一溶液またはコロイド溶液ないし微細分割された分散液までを意味する。ここで、用語「水溶性」は、「水分散性」をも包含する。
【0012】
ポリイミド構造を含み、適切な場合にはポリアミド構造をも含む水溶性NCO基ブロック化樹脂は、好ましくは1000〜6000g/モル、より好ましくは1200〜5000g/モルの数平均分子量(Mn)を有する。
【0013】
成分(a)のイソシアネート基の量は、成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)のイソシアネート反応性基の量の総合計に対して、好ましくは0.95:1〜1.15:1のモル比で使用し、成分(a)のイソシアネート基の量は、成分(c)のイソシアネート反応性基の量に対して、好ましくは1:0.05〜1:0.35のモル比で使用し、成分(e)の塩基性基の量は、成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)の酸および/または無水物基の量に対して、好ましくは1:1〜2:1のモル比で使用する。
【0014】
本発明の溶液中に存在する樹脂の製造に適するポリイソシアネート(a)は、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族または脂環式ポリイソシアネートである。好ましいポリイソシアネートは、単位または平均分子量が140〜500g/モルであり、統計学的平均NCO官能価が2.6以下であるポリイソシアネートである。
【0015】
この種のポリイソシアネートは、例えば、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および2,6-ジイソシアナトトルエン(TDI)およびこれら異性体の任意の所望の混合物、4,4'-、2,4'-および2,2'-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)またはこれら異性体の任意の所望の混合物、あるいは、これら異性体とその高級同族体との混合物(アニリン/ホルムアルデヒド縮合物のホスゲン化によって通常のように得られる種類の混合物)、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,4-ブタンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、1,5-ヘキサンジイソシアネート、1,6-ヘキサンジイソシアネート(HDI)、1,3-および1,4-シクロヘキサンジイソシアネートおよびこれら異性体の任意の所望の混合物、2,4-および2,6-ジイソシアナト-1-メチルシクロヘキサンおよびこれら異性体の任意の所望の混合物、3,5,5-トリメチル-3-イソシアナトメチルシクロヘキサンイソシアネート、およびジシクロヘキシルメタン-2,4'-および-4,4'-ジイソシアネートおよびこれらジイソシアネートの任意の所望の混合物である。
【0016】
使用する好ましいポリイソシアネート(a)は、芳香族部分に結合したイソシアネート基を有し、統計学的平均NCO官能価が2〜2.2であり、所望により統計学的平均分子量が174〜300g/モルであるポリイソシアネートである。
使用するのが特に好ましいジイソシアネートは、4,4'-、2,4'-および2,2'-ジイソシアナトジフェニルメタンまたはこれら異性体の任意の所望の混合物である。
【0017】
成分(b)として適するのは、環式トリカルボン酸一無水物、例えば、無水トリメリト酸、無水ヘミメリト酸およびベンゾフェノン-3,4,3'-トリカルボン酸無水物、およびテトラカルボン酸二無水物、例えば、ピロメリト酸無水物およびベンゾフェノン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸二無水物、またはこれら化合物の混合物である。好ましいのは、トリカルボン酸一無水物、例えば、無水トリメリト酸、無水ヘミメリト酸およびベンゾフェノン-3,4,3'-トリカルボン酸無水物である。特に好ましい成分(b)は無水トリメリト酸である。
【0018】
また所望により、加水分解によって成分(b)から生成させたトリカルボン酸および/またはテトラカルボン酸(b1)を、少なくとも部分的に使用することもできる。
【0019】
所望により、要求に合致するように被覆の特性を修飾するために、脂肪族、脂環式または芳香族ジカルボン酸および/またはその無水物(b2)も部分的に使用することができる。このようにして、例えば、被覆を弾性にすることができる。適する成分(b2)には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、o-フタル酸、テトラヒドロフタル酸およびヘキサヒドロフタル酸ならびに酸無水物、例えば無水o-フタル酸または無水コハク酸が含まれる。
【0020】
成分(a)のNCO基のために適するブロック化剤(c)には、3,5-ジメチルピラゾール、ブタノンオキシムおよびラクタム(第二アミド窒素原子を含む)、例えば、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタムおよびブチロラクタムが含まれる。好ましい成分(c)は、3,5-ジメチルピラゾールおよびε-カプロラクタムである。特に好ましい成分(c)はε-カプロラクタムである。同様にブロック化剤(c)として適するのは、上記ブロック化剤(c)の混合物である。特に適するのは、3,5-ジメチルピラゾールとε-カプロラクタムの0.1:0.9〜0.9:0.1のモル比の混合物である。
【0021】
互いに独立して、成分(d)、(d1)および(d2)として適する化合物は、成分(b)、(b1)および(b2)として既に挙げた同じ化合物である。
【0022】
成分(e)として適するのは、例えば、アルキル基置換したアミン(さらなる官能基を持たない)である。これらには、プロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリンおよびN-エチルモルホリンが含まれる。また適するのは、さらなる反応性基を含むさらなる有機アミン(e)、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンおよびトリエタノールアミンなどである。好ましいのは、トリアルキル置換されたアミン、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンおよびトリエタノールアミンである。成分(e)として特に好ましく適する化合物は、第三アミンおよびOH基を持つ化合物、例えば、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンおよびトリエタノールアミンである。
【0023】
樹脂の粘度を低下させるために、樹脂の溶解または分散が可能な溶媒を使用するのが好ましい。適する溶媒は、イソシアネート反応性基を持たず、かつ150℃以下の温度で樹脂を溶解することができる溶媒である。この群の溶媒には、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-シクロヘキシルピロリドン、N-オクチルピロリドン、N-メチルブチロラクタム、N-メチルバレロラクタムおよびN-メチルカプロラクタムが含まれる。好ましい溶媒は、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-メチルブチロラクタム、N-メチルバレロラクタムおよびN-メチルカプロラクタムである。特に好ましい溶媒は、N-メチルピロリドンおよびN-エチルピロリドンである。同様に、上記した溶媒の混合物、より具体的には、N-エチルピロリドンとN-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドまたはジプロピレングリコールジメチルエーテルとの混合物も適する。
【0024】
溶媒の量は、イソシアネート基とカルボン酸基との反応によって生成する二酸化炭素が迅速に逃散することができるように算出する。このようにして、反応容器中での混合物の発泡を防止する。さらに、溶媒の量は、樹脂の粘度が十分に低く、次いで樹脂を水に分散または溶解することができるように選択すべきである。従って、成功裏の分散のために必要な粘度は、分散装置の効率を含む因子にも依存する。
【0025】
溶媒の量は、使用する原料(a)、(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)、(d2)および(c)の合計を基準に、好ましくは20〜100重量%、より好ましくは30〜90重量%、特に好ましくは40〜80重量%である。
【0026】
本発明の溶液は、2つまたはそれ以上の工程で製造する。初めに、成分(a)〜(c)を、互いと任意の順序で、20〜80℃の温度において反応させるが、この際、成分(c)を添加するときには、それを少なくとも等モル量のNCO基によって対抗させて、この成分の完全導入を確実にする。温度処方あるいは成分の添加速度は、CO2の発生が制御され、反応容器からの反応混合物の脱出が防止されるように選択する。さらに、生成する泡の量は、十分な同時混合が確保されるようなものでなければならない。さらなる反応過程において、反応温度が約110〜150℃に上昇するので、時間とともに反応過程は極めて均一である。CO2の蓄積量が、理論の90〜120%、好ましくは95〜110%、非常に好ましくは98〜110%になるまで、反応混合物を最終温度で維持する。
【0027】
1つの好ましい態様において、ブロック化剤(c)ならびに成分(b)、(b1)および(b2)を、全部または部分的にのみ導入し、溶媒の一部あるいは全量で希釈する。成分を10〜150℃の温度において混合することができるが、好ましくは混合を20〜80℃で行う。原料が完全に溶解したときに、成分(a)ならびにいずれかの留保した量の(b)、(b1)、(b2)および/または(c)を、全部または段階的に、20〜80℃の温度で添加する。いずれかの留保した量の溶媒を、任意の所望の時点で計量導入することができる。さらに、上記した操作を行う。
【0028】
同様に、最初に成分(a)を導入し、次いで、成分(b)、(b1)、(b2)および(c)を、個々にまたは混合物として、好ましくは混合物として、全部または段階的に、上記した温度で計量導入するのも好ましい。
【0029】
また、最初に上記態様のいずれかに従って進行させ、次いで成分(d)、(d1)および/または(d2)を、得られるポリマーの溶液に、成分(a)のイソシアネート基の量:成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)のイソシアネート反応性基の量の総合計が0.90:1〜1.3:1、好ましくは0.95:1〜1.15:1のモル比であるように添加することもできる。
【0030】
目標量のCO2が、選択した態様のいずれかにおいて除かれ、適切な場合には、成分(d)、(d1)および/または(d2)がポリマー溶液に添加されたときに、成分(e)を、10〜100℃、好ましくは30〜80℃、より好ましくは40〜80℃の温度で添加し、成分を0.5ないし最大で20時間まで撹拌する。
【0031】
次いで、水を樹脂溶液に剪断しながら添加する。水の量は、水性樹脂の固体含量が、10〜40重量%、好ましくは15〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%になるように算出する。
水の温度は、20〜100℃、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜80℃である。この混合物を、均一溶液または微細分割された分散液が得られるまで、十分にエネルギー投入して撹拌する。この後に、水性供給形態の樹脂を冷却する。
別の態様において、水を樹脂にではなく、樹脂を水に供給する(第1の態様と比較して他の条件は変えずに)。
【0032】
得られる本発明のNCO基ブロック化ポリアミドイミドまたはポリイミド樹脂の水溶液は、被覆組成物として、または被覆組成物を製造するために使用することができる。好ましくは、これらを、熱硬化可能な1成分焼付け系として単独で適用する。別法によれば、これらを、好ましくはOH官能性の、しかしまた、OH不含の水性バインダーとブレンドすることができ、1成分焼付け系として加工することができる。適する水性バインダーには、OH含有またはOH不含の一次または二次ポリアクリレート分散液、二次ポリエステル-ポリアクリレート分散液、およびポリウレタン分散液(これらはペイント化学において典型的なものである)が含まれる。
【0033】
本発明によってさらに提供されるのは、ポリイミド構造を含み、適切な場合にはポリアミド構造をも含む本発明のNCO基ブロック化樹脂の水溶液を用いて得られる被覆組成物、ならびに、それから得られる被覆および被覆された基材である。
【0034】
本発明の被覆組成物は、例えば、金属、プラスチック、ガラスまたは鉱物基材などの基材、ならびに、既に被覆された基材に適用することができる。1つの好ましい適用は、金属上の被覆を製造するための本発明の被覆組成物の使用である。1つの特に好ましい適用は、金属包装形状物を被覆するため、特に缶被覆部分における本発明の被覆組成物の使用である。
【0035】
本発明の被覆組成物は、適切な場合には、ペイント技術から自体既知である助剤および添加剤、例えば充填剤および顔料などを含有することもできる。
本被覆組成物は、既知の方法で、例えば、塗布、流込み、ナイフ被覆、注入、噴霧、スピン被覆、ロール塗りまたは浸漬などによって適用することができる。
【0036】
被覆の焼付けは、室温での被覆の事前乾燥(短時間)の後に、1段階法または多段階法で行う。焼付けは、好ましくは2段階操作で行い、初めに、50〜130℃、好ましくは70〜100℃で1〜20分間、好ましくは2〜10分間、次いで第2工程において、180〜300℃、好ましくは200〜280℃の温度で1〜10分間、好ましくは2〜7分間の乾燥を行う。また、温度の上昇は、最適の焼付けを確実にするために、適当なオーブン中で連続的であってもよい。
【実施例】
【0037】
粘度は、Physika MC 51 コーン/プレート粘度計(Anton Paarから)を用いて測定した。
IR分光法は、MBシリーズ FTIR分光器(Bomemから)により行った。
固体含量の測定方法:強制空気オーブン中、200℃で3時間にわたり水溶液を乾燥。
GPC:使用した溶離液は、流速0.6ml/分のN,N-ジメチルアセトアミドであった。使用した固定相は、4つのカラム、HEMA 3000、HEMA 300、HEMA 40、HEMA 40 (Polymer Standards Service、Mainz、独国)からなっていた。各カラムは、長さ300mmおよび直径8mmを有する。充填物質の粒子サイズは10μmである。
【0038】
実施例1
(a)ポリアミドイミド樹脂1の製造
ε-カプロラクタム(282.5g)および無水トリメリト酸(1920g)を、KPG撹拌機を装着した三口フラスコに量って入れた。反応中に生成したCO2の量を測定するために、ガス取出し管により、フラスコをガスメーターに接続した。N-エチルピロリドン(3932.5g)を原料混合物に添加した。5分間にわたり、4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタン(2500g)を均一混合物に室温で添加し、次いで温度を30分間で80℃まで上昇させた。約65℃から、発熱反応およびガス放出が観察された。温度が83℃に到達したときに、最終温度133℃まで、温度を半時間間隔で10℃ずつ上昇させた。理論的に示されるCO2量の100%(17.5モル)がガスメーターで検出されるまで、該反応混合物を該温度に維持した。反応終了時に、典型的なクムレン領域に約2100cm-1において有意量のNCO基は、もはやIR分光法によって検出されなかった。
粘度(樹脂1重量部とN-エチルピロリドン3重量部の混合物):23℃で1000mPa(D=100s-1)
Mn=3900g/モル;Mw=9112g/モル
【0039】
(b)水溶液1の製造
樹脂溶液(850.4g)を、80℃に加熱し、撹拌しながらジメチルエタノールアミン(254.5g)と混合した。混合物の完全均一化の後、この中和した樹脂を、80℃において、70℃に加熱しておいた水(1000g)と、10分間にわたって混合した。これに続いて、90℃で2時間撹拌した。赤味を帯びた茶色の透明溶液が得られた。
固体含量:21%
粘度:23℃で1900mPa(D=1000s-1)
Mn=3770g/モル;Mw=8098g/モル
【0040】
実施例2
(a)ポリアミドイミド樹脂2の製造
3,5-ジメチルピラゾール(240g)および無水トリメリト酸(1920g)を、KPG撹拌機を装着した三口フラスコに量って入れた。反応中に生成したCO2の量を測定するために、ガス取出し管により、フラスコをガスメーターに接続した。N-エチルピロリドン(3800g)を原料混合物に添加した。5分間にわたり、4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタン(2500g)を均一混合物に室温で添加し、次いで温度を30分間で80℃まで上昇させた。約65℃から、発熱反応およびガス放出が観察された。温度が83℃に到達したときに、最終温度133℃まで、温度を半時間間隔で10℃ずつ上昇させた。理論的に示されるCO2量の104%がガスメーターで検出されるまで、該反応混合物を該温度に維持した。反応終了時に、有意量のNCO基は、もはやIR分光法によって検出されなかった。
粘度(樹脂1重量部とN-エチルピロリドン3重量部の混合物):23℃で4380mPa(D=100s-1)
Mn=4980g/モル;Mw=16740g/モル
【0041】
(b)水溶液2の製造
樹脂溶液(850.4g)を、80℃に加熱し、撹拌しながらジメチルエタノールアミン(254.5g)と混合した。混合物の完全均一化の後、この中和した樹脂を、80℃において、70℃に加熱しておいた水(1000g)と、10分間にわたって混合した。これに続いて、90℃で2時間撹拌した。赤味を帯びた茶色の透明溶液が得られた。
固体含量:22%
粘度:23℃で2510mPa(D=1000s-1)
Mn=4490g/モル;Mw=12990g/モル
【0042】
比較例3(特許文献1:特開2005−120134号の実施例1に類似)
(a)ブロック化剤不含のポリアミドイミド樹脂3の製造
無水トリメリト酸(1920g)を、KPG撹拌機を装着した三口フラスコに量って入れた。反応中に生成したCO2の量を測定するために、ガス取出し管により、フラスコをガスメーターに接続した。N-エチルピロリドン(5508g)を原料混合物に添加した。5分間にわたり、4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタン(2500g)を均一混合物に室温で添加し、次いで温度を30分間で80℃まで上昇させた。80℃に到達したときに、最終温度130℃まで、温度を半時間間隔で10℃ずつ上昇させた。理論的に示されるCO2量の約90%がガスメーターで検出されるまで、該反応混合物を該温度に維持した。
粘度(100%樹脂):23℃で89900mPa(D=100s-1)
Mn=9770g/モル;Mw=40580g/モル
【0043】
(b)水溶液3の製造
ポリアミドイミド溶液3(135g)を、50℃に加熱し、トリエチルアミン(22.4g)と混合し、20分間撹拌した。次いで、水(67g;水温90℃)を、樹脂溶液に30分間にわたって添加し、混合物を2時間撹拌した。これにより透明溶液が得られた。
固体含量:23%
粘度:23℃で1200mPa(D=1000s-1)
【0044】
比較例4(特許文献2:米国特許第4259221号の記載と同様に)
水溶液4の製造
実施例1-(a)からの樹脂(146.3g)を、N-メチルピロリドン中の、完全にε-カプロラクタムでブロックした4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタン(1モル:1モル)の50%濃度溶液(7.7g)と混合し、これらの成分を、80℃で30分間混合した。次いで、同じ温度でジメチルエタノールアミン(59.7g)を添加した。この混合物をさらに30分間撹拌した。次いで、70℃に予備加熱した水(136.3g)を添加し、これらの成分を85℃で2時間撹拌した。これにより透明溶液が得られたが、この溶液は、室温で24時間の貯蔵後に、まず濁り、次いで沈殿し始めた。反応中の温度処方の変更および撹拌条件の変更は、改善をもたらさず、従って、得られた生成物を性能試験に供することは不可能であった。
【0045】
比較例5(特許文献2:米国特許第4259221号の記載と同様に;比較例1と同じ組成物)
(a1)NCO含有ポリアミドイミド樹脂の製造
無水トリメリト酸(1920g)を、KPG撹拌機を装着した三口フラスコに量って入れた。反応中に生成したCO2の量を測定するために、ガス取出し管により、フラスコをガスメーターに接続した。N-エチルピロリドン(3025g)を添加した。5分間にわたり、均一混合物を4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタン(1875g)と室温で混合し、次いで、温度を30分間で80℃まで上昇させた。約65℃から、発熱反応およびそれに付随してガス放出が観察された。83℃に到達したときに、最終温度135℃まで、温度を半時間間隔で10℃ずつ上昇させた。理論的に可能なCO2量の91%がガスカウンターで検出されるまで、該反応混合物を該温度に維持した。さらなる加熱にもかかわらず、100%のCO2は得られなかった。
粘度(樹脂1重量部とN-エチルピロリドン3重量部の混合物):23℃で855mPa(D=100s-1)
【0046】
(a2)部分的にブロックした4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタンの製造
4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタン(625g)をN-エチルピロリドン(907.5g)に溶解し、ε-カプロラクタム(282.5g)を添加した。この混合物を、NCO含量が6.0%(理論NCO含量5.8%)に到達するまで、85℃で5時間撹拌した。
【0047】
(b)水溶液5の製造
(a1)で得られた樹脂溶液(6160g)を、(a2)で得られた溶液(1815g)と50℃で混合し、この温度でトリエチルアミン(70.2g)と混合した。この2相の系がNCO基を含まなくなるまで、混合物を50℃で2時間撹拌した。10分間にわたり、70℃に加熱した水(132.8g)を、十分に撹拌しながら樹脂溶液に添加した。5分後に、濁った低粘度の溶液が得られ、これは、さらに撹拌しても透明にならなかった。室温でちょうど24時間の貯蔵後に、生成物は沈殿を含み、これは、振盪しても再分散することができなかった。
【0048】
比較例6(特許文献3:米国特許第4429073号の記載と同様に)
(a)ブロック化剤不含のポリアミドイミド樹脂の製造[比較例3-(a)を参照]
(b)水溶液6の製造[比較例3-(b)を参照]
比較例3-(b)で得られた透明溶液(500g)を、20分間にわたり、40℃において撹拌しながら、ε-カプロラクタムでブロックした2,4-トリレンジイソシアネートに基づくトリマー(11.5g)と、N-エチルピロリドン(20g)中の溶液において混合した。このトリマーは、14.0重量%のブロック化NCO含量を有していた。3時間にわたる十分な撹拌の後に、濁った溶液が得られた。
固体含量:24%
粘度:23℃で1500mPa(D=1000s-1)
【0049】
生成物のペイント試験
本発明のアミドイミド含有の水性ポリマーと、表1に挙げた成分とを混合することによって、透明なワニスが得られた。
Byk 346:基材湿潤剤(Byk、Wesel、独国から)
Entschaeumer T:消泡剤(Borchers GmbH、Langenfeld、独国から)
【表1】

【0050】
上記の透明ワニスを、Bonder 722 アルミニウムシート(Chemetall、Frankfurt/Main、独国から)に、ドクターブレード(50μm)を用いて塗布し、被覆したプレートを、まず80℃で5分間乾燥し、次いで、強制空気オーブンにおいて260℃で4分間焼付けた。これにより、約8〜10μmの乾燥フィルム被覆厚みが得られた。
比較例3および6の生成物を用いては、密着フィルムを得ることができなかった。
【0051】
試験
DMF耐性(室温で1時間):小さい綿パッドまたは正方形のセルロースを、試験物質で含浸させ、ワニス表面に置いた。時計ガラスで覆うことにより試験物質の蒸発を妨げた。綿パッドまたはセルロースを完全乾燥させなかった。予め決めた暴露時間の後に、試験物質を除去し、暴露した部位を乾燥させ、直ちに検査して、ワニス表面の再生を未然に防止した。
MEK拭き試験(圧力:1kg):金属試験パネルを、フィルムクリップおよび滑り防止フィルムを用いて、秤の重量測定プレートに固定した。100g重量を用いて秤を調整した。MEKで含浸させた綿パッドを、選択した試験圧力に対して、ワニスフィルム上を前後に動かし、これをワニスフィルムが破壊されるまで行った。
【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の実施例1および2の場合に得られた特性スペクトルに基づいて、これらの系は、金属包装形態の被覆に、例えば缶被覆用途に、より具体的にはエアゾール缶の内側被覆に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド構造を含み、適切な場合にはポリアミド構造をも含む、数平均分子量(Mn)が1000〜7000g/モルであるNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法であって、初めに、
(a)少なくとも1つのポリイソシアネート、
(b)少なくとも1つのトリカルボン酸一無水物および/または少なくとも1つのテトラカルボン酸無水物、さらに
(b1)適切な場合には、トリカルボン酸および/またはテトラカルボン酸、および
(b2)適切な場合には、ジカルボン酸、
(c)少なくとも1つのNH-官能性ラクタムおよび/または3,5-ジメチルピラゾールおよび/またはブタノンオキシム、
からポリマーを製造し;
これに、適切な場合には、さらなる量の
(d)少なくとも1つのトリカルボン酸一無水物および/または少なくとも1つのテトラカルボン酸無水物、さらに
(d1)適切な場合には、トリカルボン酸および/またはテトラカルボン酸、および
(d2)適切な場合には、ジカルボン酸、
を添加し;
・成分(a)のイソシアネート基の量を、成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)のイソシアネート反応性基の量の総合計に対して、0.90:1〜1.3:1のモル比で使用し;そして
・成分(a)のイソシアネート基の量を、成分(c)のイソシアネート反応性基の量に対して、1:0.05〜1:0.35のモル比で使用し;
次いで、この反応混合物を、
(e)塩基、
と反応させ;
・成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)の酸および/または無水物基の量を、成分(e)の塩基性基の量に対して、1:0.5〜1:4のモル比で使用し;
最後に、得られた樹脂を水に溶解する;
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
樹脂が数平均分子量(Mn)1200〜5000g/モルを有することを特徴とする請求項1に記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法。
【請求項3】
成分(a)のイソシアネート基の量を、成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)のイソシアネート反応性基の量の総合計に対して、0.95:1〜1.15:1のモル比で使用し;成分(a)のイソシアネート基の量を、成分(c)のイソシアネート反応性基の量に対して、1:0.05〜1:0.35のモル比で使用し;成分(e)の塩基性基の量を、成分(b)、(b1)、(b2)、(d)、(d1)および(d2)の酸および/または無水物基の量に対して、1:1〜2:1のモル比で使用する;ことを特徴とする請求項1または2に記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法。
【請求項4】
ε-カプロラクタムを成分(c)において使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法。
【請求項5】
3,5-ジメチルピラゾールとε-カプロラクタムの混合物を、成分(c)において0.1:0.9〜0.9:0.1のモル比で使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法。
【請求項6】
初めにポリマーを製造するために、ブロック化剤(c)ならびに成分(b)、(b1)および(b2)を、全部または部分的にのみ、最初の導入物として導入して溶解し、次いで、成分(a)ならびに適切な場合には留保した量の(b)、(b1)、(b2)および/または(c)の全部または段階的な添加を、20〜80℃の温度で行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法。
【請求項7】
初めにポリマーを製造するために、成分(a)を最初の導入物として導入し、次いで、成分(b)、(b1)、(b2)および(c)を、個々にまたは混合物として、全部または段階的に、20〜80℃の温度で計量導入することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって得られるNCO基ブロック化樹脂の水溶液。
【請求項9】
被覆組成物における請求項8に記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液の使用。
【請求項10】
請求項8に記載のNCO基ブロック化樹脂の水溶液を用いて得られる被覆が供された基材。
【請求項11】
金属製であることを特徴とする請求項10に記載の基材。
【請求項12】
金属包装形態であることを特徴とする請求項11に記載の基材。

【公表番号】特表2010−508427(P2010−508427A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535593(P2009−535593)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009211
【国際公開番号】WO2008/052688
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】