説明

キャビテーション診断装置および診断方法

【課題】データの準備に要する労力を軽減し、キャビテーションの有無及び状態を診断する。
【解決手段】キャビテーション診断装置は、調節弁1の上流側流体圧力P1と下流側流体圧力P2と調節弁1による圧力損失から回復する途中の流体圧力P3から診断係数を算出する診断係数算出部7と、キャビテーションが発生し始めるときの診断係数であるしきい値σth0、特性圧力比XFzの条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth1、臨界キャビテーションの状態に達したときの診断係数であるしきい値σth2、チョークフローの状態に達したときの診断係数であるしきい値σth3を記憶する記憶部8と、調節弁1の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を求め、算出された診断係数と比較してキャビテーションの有無及び状態を判定する判定部9を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流れる調節弁にキャビテーションが発生したか否かと、キャビテーションの状態とを診断するキャビテーション診断装置および診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、調節弁においては、キャビテーション(流体中の圧力の低下によって気泡の発生と崩壊が生じる現象)により騒音や振動が発生し、キャビテーションが酷い場合には弁本体や下流側の配管を損傷させてしまうという問題があった。この問題は調節弁だけではなく、パイプラインなど流体を扱う機器や設備に共通する。したがって、流体を扱う機器や設備においては、キャビテーションの発生をオンラインで常時診断し、早期に対応することで、キャビテーションが発生して重大な損傷を被ることを未然に防止することが望まれている。
【0003】
キャビテーションの起り難さの指標として、一般的にキャビテーション係数が用いられる(非特許文献1参照)。特許文献1には、キャビテーション係数を用いてキャビテーションの有無を診断する診断装置が開示されている。特許文献1に開示された診断装置では、調節弁に、弁開度を検出する開度指示計と、振動値を検出する振動加速度計とを設けると共に、調節弁の上流側流体圧力を検出する圧力計と、調節弁の上流側流体圧力と下流側流体圧力との差圧を弁差圧として計測する差圧計と、上流側流体圧力と弁差圧と飽和水蒸気圧とに基づいてキャビテーション係数を演算するキャビテーション係数演算器とを設けている。そして、キャビテーションが発生しているときのキャビテーション係数、振動レベル値および弁開度を記録した3次元のデータテーブルをあらかじめ用意しておき、現在計測しているキャビテーション係数、振動レベル値および弁開度と比較することで、キャビテーションの有無を診断するようにしていた。
【0004】
このように、特許文献1に開示された診断装置では、キャビテーション係数を用いてキャビテーションの有無を診断する。しかしながら、流体の流量とキャビテーション係数とが線形の関係でないので、高精度のキャビテーション診断を実現するためには、実験的に弁開度と圧力条件を変えてキャビテーションが発生しているときのキャビテーション係数を多数求めてデータテーブルにあらかじめ記録しておく必要があり、データテーブルの準備に多大な労力を必要とするという問題点があった。
【0005】
一方、特許文献2には、データテーブルを用いることなくキャビテーションの有無を診断することができる診断装置が開示されている。この診断装置は、調節弁の上流側流体圧力の所定期間内の変動の大きさを算出すると共に、調節弁の下流側流体圧力の所定期間内の変動の大きさを算出し、下流側流体圧力の変動の大きさが上流側流体圧力の変動の大きさよりも大きい場合に、調節弁にキャビテーションが発生したと判断するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−094160号公報
【特許文献2】特開2010−127417号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】加藤 洋治,「キャビテーション 基礎と最近の進歩」,槇書店,1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、特許文献1に開示された診断装置では、データテーブルの準備に多大な労力を必要とするという問題点があった。
一方、特許文献2に開示された診断装置では、データテーブルを不要とすることができる。しかしながら、特許文献2に開示された診断装置では、調節弁の上流側流体圧力の変動の大きさと下流側流体圧力の変動の大きさとを用いてキャビテーションの有無を診断するため、流体を圧送するポンプの脈動の影響を受けてキャビテーションの診断精度が悪化する可能性があった。
【0009】
また、キャビテーションの状態には、騒音発生、臨界キャビテーション、チョークフローなどの種類があるが、特許文献1、2に開示された診断装置では、キャビテーションの状態を診断することができないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、データの準備に要する労力を軽減することができ、かつキャビテーションの有無および状態を高精度に診断することができるキャビテーション診断装置および診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のキャビテーション診断装置は、流体が流れる調節弁の上流側の流体圧力P1を検出する上流側流体圧力検出手段と、前記調節弁の下流側の流体圧力P2を検出する下流側流体圧力検出手段と、前記調節弁による圧力損失から回復する途中の流体圧力P3を検出する回復途中流体圧力検出手段と、前記上流側流体圧力検出手段が検出した上流側流体圧力P1と前記下流側流体圧力検出手段が検出した下流側流体圧力P2と前記回復途中流体圧力検出手段が検出した回復途中流体圧力P3とから診断係数を算出する診断係数算出手段と、前記調節弁にキャビテーションが発生し始めるときの診断係数であるしきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係、およびキャビテーションの状態を判定するしきい値σthx(σth1<σthx)と前記調節弁の相対容量係数との関係をあらかじめ記憶する記憶手段と、この記憶手段に記憶されている情報から前記調節弁の現在の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σthxを求め、このしきい値σth0と前記診断係数算出手段が算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの有無を判定し、前記調節弁にキャビテーションが発生していると判定したときには、前記しきい値σthxと前記診断係数算出手段が算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの状態を判定する判定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のキャビテーション診断装置の1構成例において、前記しきい値σthxは、前記調節弁に発生するキャビテーションが特性圧力比XFzの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth1と、キャビテーションが臨界キャビテーションの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth2と、キャビテーションがチョークフローの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth3(σth1<σth2<σth3)とからなり、前記記憶手段は、前記しきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係、前記しきい値σth1と前記調節弁の相対容量係数との関係、前記しきい値σth2と前記調節弁の相対容量係数との関係、および前記しきい値σth3と前記調節弁の相対容量係数との関係をあらかじめ記憶し、前記判定手段は、前記診断係数がしきい値σth0未満の場合、キャビテーションが発生していないと判定し、前記診断係数がしきい値σth0以上しきい値σth1未満の場合、キャビテーションが発生していると判定し、前記診断係数がしきい値σth1以上しきい値σth2未満の場合、特性圧力比XFzの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定し、前記診断係数がしきい値σth2以上しきい値σth3未満の場合、臨界キャビテーションの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定し、前記診断係数がしきい値σth3以上の場合、チョークフローの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定することを特徴とするものである。
また、本発明のキャビテーション診断装置の1構成例において、前記診断係数算出手段は、前記診断係数を(P2−P3)/P1により算出することを特徴とするものである。
また、本発明のキャビテーション診断装置の1構成例において、前記診断係数算出手段は、飽和水蒸気圧をPvとしたとき、前記診断係数を(P2−P3)/(P1−Pv)により算出することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のキャビテーション診断装置の1構成例において、前記診断係数算出手段は、前記上流側流体圧力P1と前記下流側流体圧力P2と前記回復途中流体圧力P3の各々について所定期間内の平均値を算出し、これらの平均値を用いて前記診断係数を算出することを特徴とするものである。
また、本発明のキャビテーション診断装置の1構成例において、前記記憶手段は、前記調節弁の相対容量係数とこれに対応する前記しきい値σth0,σth1,σth2,σth3との組からなるデータをあらかじめ記憶し、前記判定手段は、前記記憶手段から、前記調節弁の現在の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を取得することを特徴とするものである。
また、本発明のキャビテーション診断装置の1構成例において、前記記憶手段は、前記しきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f0、前記しきい値σth1と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f1、前記しきい値σth2と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f2、および前記しきい値σth3と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f3をあらかじめ記憶し、前記判定手段は、前記記憶手段に記憶されている関数f0,f1,f2,f3を用いて、前記調節弁の現在の相対容量係数からしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を算出することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のキャビテーション診断方法は、流体が流れる調節弁の上流側の流体圧力P1を検出する上流側流体圧力検出ステップと、前記調節弁の下流側の流体圧力P2を検出する下流側流体圧力検出ステップと、前記調節弁による圧力損失から回復する途中の流体圧力P3を検出する回復途中流体圧力検出ステップと、前記上流側流体圧力検出ステップで検出した上流側流体圧力P1と前記下流側流体圧力検出ステップで検出した下流側流体圧力P2と前記回復途中流体圧力検出ステップで検出した回復途中流体圧力P3とから診断係数を算出する診断係数算出ステップと、前記調節弁にキャビテーションが発生し始めるときの診断係数であるしきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係、およびキャビテーションの状態を判定するしきい値σthx(σth1<σthx)と前記調節弁の相対容量係数との関係をあらかじめ記憶する記憶手段を参照し、この記憶手段に記憶されている情報から前記調節弁の現在の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σthxを求め、このしきい値σth0と前記診断係数算出ステップで算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの有無を判定し、前記調節弁にキャビテーションが発生していると判定したときには、前記しきい値σthxと前記診断係数算出ステップで算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの状態を判定する判定ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、キャビテーション係数を用いる従来の診断装置に比べて、同等の診断精度を維持しつつ記憶手段に記憶させるデータの量を減らすことができるので、データの準備に要する労力を軽減することができる。また、本発明では、上流側流体圧力の変動の大きさと下流側流体圧力の変動の大きさとを用いる従来の診断装置に比べて、ポンプの脈動の影響を受け難くすることができるので、高精度のキャビテーション診断を実現することができる。さらに、本発明では、キャビテーションの状態を高精度に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るキャビテーション診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る調節弁の水平断面を示す図である。
【図3】上流側流体圧力と下流側流体圧力と回復途中流体圧力との関係を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るキャビテーション診断装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】従来のキャビテーション係数と相対容量係数との関係を示す図、および本発明の第1の実施の形態に係る診断係数と相対容量係数との関係を示す図である。
【図6】従来のキャビテーション係数と相対容量係数との関係を示す図、および本発明の第1の実施の形態に係る診断係数と相対容量係数との関係を示す図である。
【図7】従来のキャビテーション係数と相対容量係数との関係を示す図、および本発明の第1の実施の形態に係る診断係数と相対容量係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係るキャビテーション診断装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態のキャビテーション診断装置は、流体が流れる配管3の途中に調節弁1が設けてある構成において、調節弁1の上流側の流体圧力P1を検出する上流側流体圧力検出器4と、調節弁1の下流側の流体圧力P2を検出する下流側流体圧力検出器5と、調節弁1による圧力損失から回復する途中の流体圧力P3を検出する回復途中流体圧力検出器6と、上流側流体圧力P1と下流側流体圧力P2と回復途中流体圧力P3とから診断係数を算出する診断係数算出部7と、調節弁1にキャビテーションが発生し始めるときの診断係数であるしきい値σth0と調節弁1の相対容量係数との関係、調節弁1に発生するキャビテーションが特性圧力比XFzの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth1と調節弁1の相対容量係数との関係、キャビテーションが臨界キャビテーションの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth2と調節弁1の相対容量係数との関係、およびキャビテーションがチョークフローの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth3(σth0<σth1<σth2<σth3)と調節弁1の相対容量係数1との関係をあらかじめ記憶する記憶部8と、記憶部8に記憶されている情報から調節弁1の現在の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を求め、このしきい値σth0,σth1,σth2,σth3と診断係数算出部7が算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの有無および状態を判定する判定部9と、診断結果を外部に出力する診断結果出力部10と、流体の温度を検出する温度センサ30とを備えている。
【0018】
図2は調節弁1の水平断面を示す図である。調節弁1は、両側に開口する流通路を有する弁本体11と、この弁本体11の内部中央に回動自在に組み込まれたボールプラグ12と、このボールプラグ12を水平方向に回動させる弁軸13とから構成されている。弁本体11には、流体が流入する一次側(上流側)流通路14と、ボールプラグ12が組み込まれるボールキャビティ15と、流体が流出する二次側(下流側)流通路16と、回復途中流体圧力P3の検出用の圧力取り出し口17とが形成されている。
【0019】
ボールプラグ12は、略球状に形成されており、ボールキャビティ15内に回動自在に嵌挿されている。ボールプラグ12には、流入側開口部18と、流体を流す貫通流路19と、流出側開口部20とが形成されている。弁本体11の一次側流通路14に流入した流体は、流入側開口部18からボールプラグ12内に流入し、貫通流路19を通って流出側開口部20から二次側流通路16に排出される。図2の状態は、ボールプラグ12の流入側開口部18が一次側流通路14の位置にあり、一次側流通路14に連通するボールプラグ12の開口部分の断面積が最大の状態、すなわち調節弁1の全開状態を示している。
【0020】
弁軸13の回動によってボールプラグ12を水平方向に回動させると、流入側開口部18が一次側流通路14の位置からずれるので、一次側流通路14に連通するボールプラグ12の開口部分の断面積が減少する。これにより、調節弁1は全開状態から中間の開度状態に移行する。ボールプラグ12が更に回動すると、流入側開口部18が一次側流通路14の位置から完全に外れて、ボールプラグ12の外周壁が一次側流通路14を塞ぐので、一次側流通路14と二次側流通路16は遮断される。こうして、調節弁1は全閉状態に移行する。このように、ボールプラグ12の開口部分の断面積を大きくしたり小さくしたりすることで、調節弁1の開度を調節できるようになっている。
【0021】
図3は上流側流体圧力P1と下流側流体圧力P2と回復途中流体圧力P3との関係を示す図である。図3の縦軸は流体圧力を示し、横軸は調節弁1の上流側の配管3から調節弁1を通って下流側の配管3に至る流路上の位置を示している。調節弁1においては、ボールプラグ12の部分で流路が絞られるために、流体の圧力損失が生じる。このため、流体圧力は、調節弁1の位置でいったん低下し、その後に回復し始め、下流側流体圧力P2で概ね安定する。回復途中流体圧力検出器6は、この圧力低下状態から整定後の下流側流体圧力P2まで回復する途中の流体圧力P3を検出するものである。回復途中流体圧力検出器6は、調節弁1の圧力取り出し口17の位置で回復途中流体圧力P3を検出する。図2の例では、圧力取り出し口17は、ボールプラグ12が組み込まれるボールキャビティ15に形成されている。
【0022】
次に、本実施の形態のキャビテーション診断装置の動作を図4を参照して説明する。なお、以下で述べる圧力P1,P2,P3,Pvは全て絶対圧である。
まず、診断係数算出部7は、上流側流体圧力検出器4が検出した上流側流体圧力P1を読み取る(ステップS1)。同様に、診断係数算出部7は、下流側流体圧力検出器5が検出した下流側流体圧力P2を読み取る(ステップS2)。さらに、診断係数算出部7は、回復途中流体圧力検出器6が検出した回復途中流体圧力P3を読み取る(ステップS3)。
【0023】
続いて、診断係数算出部7は、上流側流体圧力P1と下流側流体圧力P2と回復途中流体圧力P3の各々について所定期間内の平均値を算出する(ステップS4)。平均値を求める算出方法としては、公知の平均値算出方法(例えば移動平均など)を利用することができる。そして、診断係数算出部7は、上流側流体圧力P1と下流側流体圧力P2と回復途中流体圧力P3の各々の平均値を用いて、次式のように診断係数σ2を算出する(ステップS5)。
σ2=(P2−P3)/P1 ・・・(1)
【0024】
診断係数σ2は、飽和水蒸気圧Pvの影響を受ける。そこで、上流側流体圧力P1と下流側流体圧力P2と回復途中流体圧力P3の各々の平均値と、飽和水蒸気圧Pvとを用いて次式のように診断係数σ2を算出することがより好ましい。
σ2=(P2−P3)/(P1−Pv) ・・・(2)
【0025】
周知のとおり飽和水蒸気圧Pvは流体の温度で決まる。そこで、診断係数算出部7は、温度センサ30が検出した流体の温度の値を読み取って、飽和水蒸気圧Pvを計算すればよい。
なお、従来のキャビテーション係数σは、次式により算出することができる。
σ=(P2−Pv)/(P1−P2) ・・・(3)
【0026】
次に、判定部9は、調節弁1の開度を設定する開度設定器2から調節弁1の現在の開度を読み取る(ステップS6)。判定部9は、調節弁1の現在の開度から調節弁1の現在の相対容量係数Cv%を求め、記憶部8から、調節弁1の現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を取得する(ステップS7)。
【0027】
しきい値σth0は、調節弁1にキャビテーションが発生し始めるときの診断係数σ2の値である。σ2=σth0の状態では、調節弁1を流れる流体に気泡が発生しているが、調節弁1や周囲への悪影響は何もない。
【0028】
しきい値σth1は、圧力比XFが、キャビテーションにより騒音レベルが上昇し始めるときの圧力条件である特性圧力比XFzに達したときの診断係数σ2の値である。σth0<σ2<σth1の状態では、キャビテーションの成長や流量増加に合わせて騒音が徐々に増加する。なお、圧力比XFは次式のようになる。特性圧力比XFzについては、例えば日本工業規格JIS2005−8−2に開示されている。
XF=(P1−P2)/(P1−Pv) ・・・(4)
【0029】
しきい値σth2は、キャビテーションが定常的に発達する圧力条件である臨界キャビテーションに達したときの診断係数σ2の値である。σth1<σ2≦σth2の状態は、しきい値σth1を境としてキャビテーションの成長や流量増加に伴う騒音が急激に増加する状態であり、騒音のクレームが発生する可能性がある状態である。臨界キャビテーション(限界キャビテーション)については、例えば文献「“バルブとキャビテーション”,日本バルブ工業会,バルブ技報,No.53,2004」に開示されている。
【0030】
しきい値σth3は、調節弁1の前後差圧(P1−P2)を大きくしても流量が増加しなくなる圧力条件であるチョークフローに達したときの診断係数σ2の値である。σth2<σ2≦σth3の状態は、しきい値σth2を境としてキャビテーションの成長や流量増加に伴う騒音増加がσth1<σ2≦σth2の場合に比べて穏やかになる状態であるが、調節弁1や調節弁1の下流側の配管が損傷する恐れが出てくる状態である。すなわち、臨界キャビテーションとチョークフローとの間の条件でキャビテーション・エロージョンが起る。この間の条件で運用を続けると、調節弁1や下流側配管が損傷する。σ2≧σth3の状態では、流体が流れにくくなり、調節弁1の前後の差圧が増加しても流量が増加しない。チョークフローについては、例えば国際規格IECPub.534−2−3に開示されている。
【0031】
図5(A)、図6(A)、図7(A)は従来のキャビテーション係数σと、調節弁1を流れる流体の相対容量係数Cv%との関係を示す図、図5(B)、図6(B)、図7(B)は本実施の形態の診断係数σ2と相対容量係数Cv%との関係を示す図である。図5(A)、図6(A)、図7(A)におけるしきい値σth4は、特性圧力比XFzの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したときのキャビテーション係数σの値である。しきい値σth5は、臨界キャビテーションの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したときのキャビテーション係数σの値である。しきい値σth6は、チョークフローの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したときのキャビテーション係数σの値である。
【0032】
相対容量係数Cv%は調節弁1が全開状態のときの容量係数Cvに対する容量係数Cvの割合を示す。容量係数Cvはバルブの開度により変化し、その求め方は周知であるので、詳細な説明は省略する。なお、相対容量係数Cv%は調節弁1の流量特性によって異なるが、調節弁1の開度と相対容量係数Cv%との関係を事前に調べておくことにより、調節弁1の現在の開度から調節弁1の現在の相対容量係数Cv%を求めることが可能である。図5(A)、図5(B)は調節弁1の口径が15Aのときの特性を示し、図6(A)、図6(B)は口径が40Aのときの特性を示し、図7(A)、図7(B)は口径が65Aのときの特性を示している。
【0033】
図5(B)、図6(B)、図7(B)のしきい値σth1は、調節弁1の開度を固定し、調節弁1の前後差圧を変えて流体圧力を上昇させながら圧力条件を観測する実験を行い、特性圧力比XFzの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したと判断したときの圧力P1,P2,P3,Pvから計算される診断係数σ2をプロットしたものである。図5(B)、図6(B)、図7(B)のしきい値σth2は、上記の実験において臨界キャビテーションの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したと判断したときの圧力P1,P2,P3,Pvから計算される診断係数σ2をプロットしたものである。図5(B)、図6(B)、図7(B)のしきい値σth3は、上記の実験においてチョークフローの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したと判断したときの圧力P1,P2,P3,Pvから計算される診断係数σ2をプロットしたものである。以上のような診断係数σ2を求める実験を、調節弁1の開度ごとに行えばよい。なお、このときの診断係数σ2の計算には、式(3)を用いている。
【0034】
図5(A)、図6(A)、図7(A)のしきい値σth4は、上記の実験において特性圧力比XFzの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したと判断したときの圧力P1,P2,Pvから計算されるキャビテーション係数σをプロットしたものである。図5(A)、図6(A)、図7(A)のしきい値σth5は、上記の実験において臨界キャビテーションの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したと判断したときの圧力P1,P2,Pvから計算されるキャビテーション係数σをプロットしたものである。図5(A)、図6(A)、図7(A)のしきい値σth6は、上記の実験においてチョークフローの圧力条件を満たすキャビテーションの状態に達したと判断したときの圧力P1,P2,Pvから計算されるキャビテーション係数σをプロットしたものである。
【0035】
図5(A)、図6(A)、図7(A)から明らかなように、特性圧力比XFzの圧力条件、臨界キャビテーションの圧力条件またはチョークフローの圧力条件を満たすときのキャビテーション係数σ(しきい値σth4,σth5,σth6)は、相対容量係数Cv%と線形の関係ではない。このため、キャビテーション係数σを用いて高精度のキャビテーション診断を実現するためには、相対容量係数Cv%とキャビテーション係数σとの組からなるデータをできるだけ細かく求めてデータテーブルにあらかじめ記録しておく必要がある。
【0036】
一方、図5(B)、図6(B)、図7(B)に示すように、特性圧力比XFzの圧力条件、臨界キャビテーションの圧力条件またはチョークフローの圧力条件を満たすときの診断係数σ2(しきい値σth1,σth2,σth3)は、相対容量係数Cv%が大きくなるほど大きくなり、相対容量係数Cv%と概ね線形の関係にあることが分かる。したがって、本実施の形態では、相対容量係数Cv%と診断係数σ2との組からなるデータの数が少ない場合でも、高精度のキャビテーション診断を実現することができる。なお、図5(B)、図6(B)、図7(B)に図示していないが、キャビテーション発生(初生)の圧力条件を満たすときの診断係数σ2(しきい値σth0)についても、相対容量係数Cv%と概ね線形の関係にある。しきい値σth0を求めるには、しきい値σth1,σth2,σth3の場合と同様に、調節弁1の開度を固定し、調節弁1の前後差圧を変えて流体圧力を上昇させながら圧力条件を観測する実験を行い、キャビテーションが発生し始めたと判断したときの圧力P1,P2,P3,Pvから計算される診断係数σ2(=σth0)を求めるようにすればよい。キャビテーションが発生し始めたか否かは、発生した気泡が破裂したときに発生する音(チリチリ音)を聞き取るか、あるいは高周波の圧力振動を振動計で計測するなどの方法で判断する。
【0037】
本実施の形態のキャビテーション診断装置の記憶部8には、以上のようにして求められた、相対容量係数Cv%とこれに対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3との組からなるデータがあらかじめ記録されている。したがって、判定部9は、記憶部8から、調節弁1の現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を取得することができる(ステップS7)。
【0038】
ただし、上記のとおり記憶部8に記録されているデータ数が少ないので、調節弁1の現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth0が記憶部8に記録されていない場合もある。このような場合、判定部9は、記憶部8に記録されているデータのうち、現在の相対容量係数Cv%よりも小さい相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth0のデータと現在の相対容量係数Cv%よりも大きい相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth0のデータとを基に線形補間演算を行い、現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth0を算出すればよい。
【0039】
また、判定部9は、現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth1が記憶部8に記録されていない場合、現在の相対容量係数Cv%よりも小さい相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth1のデータと現在の相対容量係数Cv%よりも大きい相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth1のデータとを基に線形補間演算を行い、現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth1を算出すればよい。同様に、判定部9は、現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth2が記憶部8に記録されていない場合、線形補間演算により現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth2を算出すればよく、現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth3が記憶部8に記録されていない場合、線形補間演算により現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth3を算出すればよい。
【0040】
そして、判定部9は、ステップS5で算出した診断係数σ2とステップS7で取得したしきい値σth0,σth1,σth2,σth3とを比較する(ステップS8,S10,S12)。判定部9は、ステップS5で算出した診断係数σ2がしきい値σth0未満の場合(ステップS8においてNO)、キャビテーションが発生していないと判定し(ステップS9)、診断係数σ2がしきい値σth0以上しきい値σth1未満の場合(ステップS10においてNO)、キャビテーションが発生していると判定する(ステップS11)。
【0041】
また、判定部9は、ステップS5で算出した診断係数σ2がしきい値σth1以上しきい値σth2未満の場合(ステップS12においてNO)、特性圧力比XFzの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定し(ステップS13)、診断係数σ2がしきい値σth2以上しきい値σth3未満の場合(ステップS14においてNO)、臨界キャビテーションの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定し(ステップS15)、診断係数σ2がしきい値σth3以上の場合(ステップS14においてYES)、チョークフローの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定する(ステップS16)。
【0042】
診断結果出力部10は、判定部9による診断結果を出力する(ステップS17)。このときの出力方法としては、診断結果信号の出力、診断結果の表示、あるいは診断結果を知らせるランプの点滅などがある。
以上のステップS1〜S17の処理が、診断装置の動作が終了するまで(ステップS18においてYES)、一定時間ごとに行われる。
【0043】
以上のように、本実施の形態では、特許文献1に開示された診断装置に比べて、同等の診断精度を維持しつつ記憶部8のデータの数を減らすことができるので、データの準備に要する労力を軽減することができる。また、本実施の形態では、特許文献2に開示された診断装置に比べて、ポンプの脈動の影響を受け難くすることができるので、高精度のキャビテーション診断を実現することができる。さらに、本実施の形態では、キャビテーションの状態を診断することができる。
【0044】
なお、ステップS4の平均化処理は必須の処理ではない。基本的には、圧力P1,P2,P3の瞬時値で診断係数σ2を算出してキャビテーションの有無および状態を診断することは可能である。但し、現実には配管内の圧力はポンプの脈動や調節弁の開閉などにより常に変動していることが想定され、圧力P1,P2,P3の出力を収集するにしても、まったく同じ瞬間の圧力にはならないので、診断係数σ2は算出の度にばらつくことになる。診断係数σ2の算出の度にキャビテーションの診断結果が反転することは好ましくない。そこで、本実施の形態では、配管内の圧力変動の外乱の影響により診断結果が不安定になることを避けるために、圧力P1,P2,P3の平均化処理などの処理をステップS4で行っている。
【0045】
安定した診断を行うための方法としては、本実施の形態のように圧力P1,P2,P3の平均値を用いて診断係数σ2を算出する方法の他に、圧力P1,P2,P3の瞬時値を用いて算出した診断係数σ2を所定期間で平均化し、平均化した診断係数σ2でキャビテーションの有無および状態を診断する方法がある。また、圧力P1,P2,P3の瞬時値を用いて診断係数σ2を算出して個々の診断係数σ2ごとに診断結果を求め、キャビテーション無しという診断結果と、キャビテーション発生という診断結果と、特性圧力比XFzの圧力条件を満たすキャビテーションの状態という診断結果と、臨界キャビテーションの圧力条件を満たすキャビテーションの状態という診断結果と、チョークフローの圧力条件を満たすキャビテーションの状態という診断結果の所定期間内での割合から最終的な診断結果を得るようにしてもよい。
【0046】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態においても、キャビテーション診断装置の構成および処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、図1、図4の符号を用いて説明する。第1の実施の形態で説明したとおり、キャビテーション発生(初生)の圧力条件、特性圧力比XFzの圧力条件、臨界キャビテーションの圧力条件またはチョークフローの圧力条件を満たすときの診断係数σ2(しきい値σth0,σth1,σth2,σth3)は、相対容量係数Cv%と概ね線形の関係にある。そこで、しきい値σth0と相対容量係数Cv%との関係を線形近似した関数f0(Cv%)と、しきい値σth1と相対容量係数Cv%との関係を線形近似した関数f1(Cv%)と、しきい値σth2と相対容量係数Cv%との関係を線形近似した関数f2(Cv%)と、しきい値σth3と相対容量係数Cv%との関係を線形近似した関数f3(Cv%)とを記憶部8にあらかじめ登録しておけばよい。
【0047】
本実施の形態の判定部9は、ステップS7において、記憶部8から関数f0(Cv%),f1(Cv%),f2(Cv%),f3(Cv%)を取得し、この関数f0(Cv%),f1(Cv%),f2(Cv%),f3(Cv%)にそれぞれ調節弁1の現在の相対容量係数Cv%を代入して、しきい値σth0=f0(Cv%),σth1=f1(Cv%)、σth2=f2(Cv%)、σth3=f3(Cv%)を算出すればよい。これにより、調節弁1の現在の相対容量係数Cv%に対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を取得することができる。その他の処理は第1の実施の形態と同じである。こうして、本実施の形態では、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
なお、第1、第2の実施の形態では、調節弁の例としてボール弁を例に挙げて説明しているが、他の形式の調節弁にも適用できることは言うまでもない。
第1、第2の実施の形態で説明した診断係数算出部7と記憶部8と判定部9とは、CPU、メモリ及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って第1、第2の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、調節弁にキャビテーションが発生したか否かを診断する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…調節弁、2…開度設定器、3…配管、4…上流側流体圧力検出器、5…下流側流体圧力検出器、6…回復途中流体圧力検出器、7…診断係数算出部、8…記憶部、9…判定部、10…診断結果出力部、11…弁本体、12…ボールプラグ、13…弁軸、14…一次側流通路、15…ボールキャビティ、16…二次側流通路、17…圧力取り出し口、18…流入側開口部、19…貫通流路、20…流出側開口部、30…温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる調節弁の上流側の流体圧力P1を検出する上流側流体圧力検出手段と、
前記調節弁の下流側の流体圧力P2を検出する下流側流体圧力検出手段と、
前記調節弁による圧力損失から回復する途中の流体圧力P3を検出する回復途中流体圧力検出手段と、
前記上流側流体圧力検出手段が検出した上流側流体圧力P1と前記下流側流体圧力検出手段が検出した下流側流体圧力P2と前記回復途中流体圧力検出手段が検出した回復途中流体圧力P3とから診断係数を算出する診断係数算出手段と、
前記調節弁にキャビテーションが発生し始めるときの診断係数であるしきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係、およびキャビテーションの状態を判定するしきい値σthx(σth1<σthx)と前記調節弁の相対容量係数との関係をあらかじめ記憶する記憶手段と、
この記憶手段に記憶されている情報から前記調節弁の現在の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σthxを求め、このしきい値σth0と前記診断係数算出手段が算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの有無を判定し、前記調節弁にキャビテーションが発生していると判定したときには、前記しきい値σthxと前記診断係数算出手段が算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの状態を判定する判定手段とを備えることを特徴とするキャビテーション診断装置。
【請求項2】
請求項1記載のキャビテーション診断装置において、
前記しきい値σthxは、前記調節弁に発生するキャビテーションが特性圧力比XFzの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth1と、キャビテーションが臨界キャビテーションの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth2と、キャビテーションがチョークフローの圧力条件を満たす状態に達したときの診断係数であるしきい値σth3(σth1<σth2<σth3)とからなり、
前記記憶手段は、前記しきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係、前記しきい値σth1と前記調節弁の相対容量係数との関係、前記しきい値σth2と前記調節弁の相対容量係数との関係、および前記しきい値σth3と前記調節弁の相対容量係数との関係をあらかじめ記憶し、
前記判定手段は、前記診断係数がしきい値σth0未満の場合、キャビテーションが発生していないと判定し、前記診断係数がしきい値σth0以上しきい値σth1未満の場合、キャビテーションが発生していると判定し、前記診断係数がしきい値σth1以上しきい値σth2未満の場合、特性圧力比XFzの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定し、前記診断係数がしきい値σth2以上しきい値σth3未満の場合、臨界キャビテーションの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定し、前記診断係数がしきい値σth3以上の場合、チョークフローの圧力条件を満たすキャビテーションの状態であると判定することを特徴とするキャビテーション診断装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のキャビテーション診断装置において、
前記診断係数算出手段は、前記診断係数を(P2−P3)/P1により算出することを特徴とするキャビテーション診断装置。
【請求項4】
請求項1または2記載のキャビテーション診断装置において、
前記診断係数算出手段は、飽和水蒸気圧をPvとしたとき、前記診断係数を(P2−P3)/(P1−Pv)により算出することを特徴とするキャビテーション診断装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のキャビテーション診断装置において、
前記診断係数算出手段は、前記上流側流体圧力P1と前記下流側流体圧力P2と前記回復途中流体圧力P3の各々について所定期間内の平均値を算出し、これらの平均値を用いて前記診断係数を算出することを特徴とするキャビテーション診断装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のキャビテーション診断装置において、
前記記憶手段は、前記調節弁の相対容量係数とこれに対応する前記しきい値σth0,σth1,σth2,σth3との組からなるデータをあらかじめ記憶し、
前記判定手段は、前記記憶手段から、前記調節弁の現在の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を取得することを特徴とするキャビテーション診断装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のキャビテーション診断装置において、
前記記憶手段は、前記しきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f0、前記しきい値σth1と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f1、前記しきい値σth2と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f2、および前記しきい値σth3と前記調節弁の相対容量係数との関係を線形近似した関数f3をあらかじめ記憶し、
前記判定手段は、前記記憶手段に記憶されている関数f0,f1,f2,f3を用いて、前記調節弁の現在の相対容量係数からしきい値σth0,σth1,σth2,σth3を算出することを特徴とするキャビテーション診断装置。
【請求項8】
流体が流れる調節弁の上流側の流体圧力P1を検出する上流側流体圧力検出ステップと、
前記調節弁の下流側の流体圧力P2を検出する下流側流体圧力検出ステップと、
前記調節弁による圧力損失から回復する途中の流体圧力P3を検出する回復途中流体圧力検出ステップと、
前記上流側流体圧力検出ステップで検出した上流側流体圧力P1と前記下流側流体圧力検出ステップで検出した下流側流体圧力P2と前記回復途中流体圧力検出ステップで検出した回復途中流体圧力P3とから診断係数を算出する診断係数算出ステップと、
前記調節弁にキャビテーションが発生し始めるときの診断係数であるしきい値σth0と前記調節弁の相対容量係数との関係、およびキャビテーションの状態を判定するしきい値σthx(σth1<σthx)と前記調節弁の相対容量係数との関係をあらかじめ記憶する記憶手段を参照し、この記憶手段に記憶されている情報から前記調節弁の現在の相対容量係数に対応するしきい値σth0,σthxを求め、このしきい値σth0と前記診断係数算出ステップで算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの有無を判定し、前記調節弁にキャビテーションが発生していると判定したときには、前記しきい値σthxと前記診断係数算出ステップで算出した診断係数とを比較することにより、キャビテーションの状態を判定する判定ステップとを備えることを特徴とするキャビテーション診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−255746(P2012−255746A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130018(P2011−130018)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】