説明

キャブ構造およびこれを備えた建設機械

【課題】キャブ剛性を十分に確保しつつ、溶接作業や溶接部分の検査工程の簡略化を図ることが可能なキャブ構造およびこれを備えた建設機械を提供する。
【解決手段】キャブ20は、ブルドーザ10に搭載されており、複数の柱23a〜23dと、複数の梁部材21b〜21eとを互いに接合して構成される。柱と梁部材とは、所定量ずらした段差部dを形成しつつ接合され、この段差部dを含むようにパッチ32が貼り付けられる。柱と梁部材とパッチ32とは、これらの各部材の接合部分に形成される隅肉溶接になる溶接部Wが形成されて接合が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイルローダやブルドーザ、油圧ショベル等の建設機械に搭載されるキャブ構造およびこれを備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホイルローダやブルドーザ、油圧ショベル等の建設機械には、角鋼管や異形鋼管等を組み合わせて構成されるキャブ(運転室)が搭載されている。
例えば、特許文献1には、六角錐台形状に形成された運転室において、最前面の左右の支柱を上部から中間部にかけて前傾させ、この中間部から底部にかけて順次拡大させた間隔で後傾させ、左右のドア側にオペレータのアイポイントによる拡大した前方視界域を形成したキャブ構造が開示されている。
【0003】
このキャブ構造では、前方作業機であるブレード方向の視界が支柱によって遮られることを回避して、ブレード両端の視界性を向上させている。
【特許文献1】特開平5−106240号公報(平成5年4月27日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のキャブ構造では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示されたキャブ構造では、キャブの剛性を十分に確保するために、略同一の断面を有する複数の柱部材と梁部材とを接合してキャブを構成した場合には、柱部材と梁部材とを接合する部分をフレア溶接や開先溶接を用いて接合すると溶接部分の強度が十分確保できない、溶接作業や溶接部分の検査工程が複雑化する等の問題が発生するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、キャブ剛性を十分に確保しつつ、溶接作業や溶接部分の検査工程の簡略化を図ることが可能なキャブ構造およびこれを備えた建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係るキャブ構造は、複数の柱部材と梁部材とを接合して構成される建設機械のキャブ構造であって、複数の柱部材と、複数の梁部材と、接合部材と、隅肉溶接部と、を備えている。複数の柱部材は、略鉛直方向に沿って配置されている。複数の梁部材は、柱部材に対して所定量ずらして当接されて複数の柱部材の上端部付近同士を連結する。接合部材は、少なくともいずれか一方が中空のパイプ材である柱部材と梁部材とがずれて接合された部分に形成される段差部を含むように柱部材と梁部材とに渡って貼り付けられる。隅肉溶接部は、接合部材と柱部材、および接合部材と柱部材および梁部材との間で接合のために形成される。
【0007】
ここでは、複数の柱部材と梁部材とを組み合わせて構成されるキャブ構造において、少なくとも一方が中空のパイプ材である柱部材と梁部材とをずらして接合させ、かつずらした接合部分の段差部を含むように柱部材と梁部材とに接合部材を貼り付ける。そして、この接合部材と柱部材および梁部材とが交差する面に隅肉溶接を行う。
【0008】
これにより、柱部材と梁部材とを敢えてずらして接合し、この接合部分の段差を含むようにパッチ等の接合部材を貼り付けることで、接合部材および柱部材、梁部材との間において隅肉溶接部を形成することができる。この結果、柱部材と梁部材との接合部分の溶接に隅肉溶接を用いることができるため、フレア溶接や開先溶接等の他の溶接方法を採用した場合と比較して、接合部分の強度を確保しつつ、溶接ロボット等の溶接作業の簡素化、溶接部分の検査工程の簡略化を図ることができる。
【0009】
第2の発明に係るキャブ構造は、第1の発明に係るキャブ構造であって、柱部材と梁部材とは、略同一の断面形状を有している。
ここでは、互いに接合される柱部材と梁部材とを、略同一断面を有するものによって構成している。
【0010】
これにより、略同一の断面を有する柱部材および梁部材は、ほぼ同一の強度を有することになるため、例えば、ROPS(Roll-Over Protective Structure)構造を構成する際には、全体として均一な強度を有するキャブを構成することができる。
【0011】
そして、このような略同一の断面形状を有する柱部材と梁部材とを用いてキャブを構成した場合でも、接合部分においては敢えてずらして接合することで、隅肉溶接用の閉断面を容易に形成することができる。この結果、略同一の断面形状によってキャブの剛性を十分に確保しつつ、隅肉溶接によって溶接部分の強度を十分に確保して、キャブの剛性を向上させることができる。
【0012】
第3の発明に係るキャブ構造は、第1または第2の発明に係るキャブ構造であって、梁部材は、柱部材の側面に対して両端部を当接させた状態で接合される。
ここでは、柱部材と梁部材とを接合する部分において、梁部材の端部を柱部材の側面に対して当接させるようにしてキャブを構成する。
【0013】
これにより、例えば、梁部材を組んで天井部材や床部材を構成した後、柱部材をキャブの側方からはめ込むようにしてキャブを構成することができる。この結果、柱部材と梁部材との接合部分の溶接を、キャブの外周側から実施することができるため、組立工程を簡略化することができる。
【0014】
第4の発明に係るキャブ構造は、第1から第3の発明のいずれか1つに係るキャブ構造であって、柱部材および梁部材の少なくとも一方は、略正方形の断面を有している。
ここでは、柱部材および梁部材の少なくとも一方について、略正方形断面を有する部材を用いている。
【0015】
これにより、キャブの柱部材として略正方形断面の部材を用いた場合には、キャブの前後方向、左右方向いずれの方向からの荷重にも剛性を有するキャブを構成することができる。この結果、部品の種類の削減とともに剛性の異方性を解消したキャブを提供することができる。
【0016】
第5の発明に係るキャブ構造は、第1から第4の発明のいずれか1つに係るキャブ構造であって、接合部材が貼り付けられた段差部は、柱部材または梁部材の中空の端面が露出する面を有する。
これにより、中空の端面が露出した位置に接合部材を貼り付けることで、接合部分に隅肉溶接部を形成することができる。
【0017】
第6の発明に係るキャブ構造は、第1から第5の発明のいずれか1つに係るキャブ構造であって、複数の柱部材は、梁部材に対して垂直に接合されている。
ここでは、複数の柱部材を、梁部材に対して略垂直に接合している。
【0018】
これにより、キャブの上部ほど柱部材の間隔が小さくなる従来のキャブ構造と比較して、視覚的にキャブを大きく見せることができる。また、柱部材と梁部材との接合部分が略直角に統一されるため、接合部分に取り付けられる部品等を共通化してコストダウンを図ることができる。
【0019】
第7の発明に係るキャブ構造は、第1から第6の発明のいずれか1つに係るキャブ構造であって、複数の柱部材のうち、キャブの前側に配置された一対の柱部材は、他の梁部材よりも薄い板材によって形成された梁部材によって接合されている。
ここでは、前方左右に立設された柱部材の上部をつなぐ梁部材として、他の梁部材よりも薄肉の部材を用いている。
【0020】
これにより、柱部材の上端部に側面を揃えるように梁部材を接合することで、天井面からの梁部材の突出量を抑えることができる。この結果、キャブに搭乗したオペレータの前方の頭上空間を容易に確保することができる。
【0021】
第8の発明に係るキャブ構造は、第7の発明に係るキャブ構造であって、板材は、中実の部材によって形成されている。
ここでは、上述した薄肉の梁部材については、中実の部材を用いてキャブを構成している。
これにより、他の梁部材よりも薄肉化したことによる強度低下を最小限とし、キャブの剛性低下を回避することができる。
【0022】
第9の発明に係る建設機械は、第1から第8の発明のいずれか1つに係るキャブ構造を備えている。
ここでは、上述したキャブ構造を採用したキャブを搭載した建設機械を構成している。
これにより、上述したように、キャブ剛性を十分に確保しつつ、溶接作業や溶接部分の検査工程の簡略化を図ることが可能なキャブを構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るキャブ構造によれば、キャブ剛性を十分に確保しつつ、溶接作業や溶接部分の検査工程の簡略化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の一実施形態に係るキャブ構造を採用したキャブ20について、図1〜図9を用いて説明すれば以下の通りである。
[ブルドーザ10の構成]
本実施形態に係る建設機械のキャブ構造は、図1に示すように、ブルドーザ(建設機械)10に搭載されたキャブ20に対して適用されている。
【0025】
ブルドーザ10は、車体11と、車体11を支持しながら履帯を回転させて車体を走行させる走行装置14と、車体11の上部に搭載されたキャブ20と、を備えている。
車体11は、図示しないエンジンを収納するエンジンルーム12と、エンジンからの出力を駆動輪13に伝達するためのパワートレインと、を有している。そして、エンジンからの出力による駆動輪13の回転により、履帯が回転してブルドーザ10が走行する。
【0026】
キャブ20は、複数の鋼管と鋼板とを組み合わせて構成されるオペレータ用の運転室を形成しており、車体11の前後方向における中央部よりもやや後方に配置されている。なお、キャブ20の構成およびその組立方法については、後段にて詳述する。
【0027】
[キャブ20の構造]
キャブ20は、天井部21、柱部23を含むように構成されている。
(天井部21の構成)
天井部21は、キャブ20の上部、つまり運転室の天井を形成する部材であって、図3に示すように、天井板材21a、4本の梁部材21b〜21e、および補強部材(リブ部材)31a、さらにパッチ(接合部材)32(図5参照)を含むように構成されている。
【0028】
天井板材21aは、鋼板によって形成される略六角形の部材であって、この略六角形の四辺に沿って4本の梁部材21b〜21eが固定される。
4本の梁部材21b〜21eは、4本の柱23a〜23dの各側面に対して、両端部が当接した状態で接合されている。
【0029】
梁部材(板材)21dは、キャブ20の前側の梁として用いられており、他の梁部材21b,21c,21eとは異なり、上下方向に薄肉の略長方形の断面であって中実の板材によって構成されている。さらに、梁部材21dとこれに対向する梁部材21eとには、図4に示すように、鋼板を略直角に折り曲げて形成されたボルト受け部33が取り付けられている。これにより、ボルトを用いて天井板材21aと梁部材21d,21eとを容易に取り付けることができる。
【0030】
梁部材21b,21c,21eは、中空鋼管(パイプ材)によって形成される棒状部材であって、上述のように、略六角形の天井板材21aの四辺に沿って、梁部材21bと梁部材21c、そして梁部材21dと梁部材21eとが対辺になるように、それぞれ取り付けられている。また、3本の梁部材21b,21c,21eは、図4等に示すように、全て略正方形の断面形状を有する同一部材である。また、4本の梁部材21b〜21eによって形成される正方形の四隅(梁部材21b〜21e同士の交差部分)には、図4に示すように、それぞれ柱部23の断面形状である略正方形に合わせて形成された接合空間Xが形成される。換言すれば、各梁部材21b〜21eの端部が、接合空間Xに取り付けられる各柱部23の断面形状に合わせて配置されている。各梁部材21b〜21eの交差部分には、略三角形の板材である補強部材31aが配置されている。
【0031】
補強部材31aは、所定の厚みを有する略三角形の板材であって、各梁部材21b〜21eと柱部23との交差部分に配置されている。このように、梁部材21b〜21eと柱部23との間を補強部材31aによってつなぐことにより、キャブ20の剛性を向上させることができる。
【0032】
パッチ32は、略楕円形状の薄肉の板材の中央部分を折り曲げるように加工されて、平面部32a,32aとその間の折り曲げ部32bとを含むように構成されている(図9(a)および図9(b)参照)。そして、後述する、互いにずらして接合された柱23a〜23dと梁部材21b,21c,21eとの段差部dを含むように配置され、柱23a〜23dと梁部材21b,21c,21eとを、後述する隅肉溶接によって接合する。
【0033】
(柱部23の構成)
柱部23は、図2および図5、図6に示すように、4本の柱(柱部材)23a〜23dを有している。そして、4本の柱23a〜23dは、梁部材21b,21c,21eと同一の略正方形の断面形状を有する中空のパイプ材であって、それぞれ天井部材21の四隅に形成された梁部材21b〜21e間の接合空間Xに対して、側方から取り付けられる。これにより、キャブ20の組立工程が簡素化され、かつキャブ20の外周部から溶接を行うことで溶接作業を効率よく実施することができる。
【0034】
また、柱23a〜23dは、梁部材21b〜21eに対して垂直に交差するように取り付けられる。これにより、各柱23a〜23dを略鉛直方向に沿って配置することができるため、キャブ20を視覚的に大きく見せることができる。また、柱23a〜23dと梁部材21b〜21eとが垂直に交差するように接合されているため、その交差部分に設置される補強部材31a,31bとして、略同一形状の部材を用いることができる。
【0035】
また、各柱23a〜23dが取り付けられる天井部材21の接合空間X(図4参照)では、柱23a〜23dの略正方形の断面に合うように梁部材21b〜21eの端部が配置されている。これにより、柱23a〜23dを天井部21に対して側方から取り付けることができるとともに、柱23a〜23dを収まりのよい状態で接合部分に嵌め込むことができる。また、各柱23a〜23dが、各梁部材22b〜22eとほぼ同一の略正方形の断面を有していることで、前後方向、左右方向において剛性に偏りがないキャブ20を構成することができる。
【0036】
<柱23a〜23dと梁部材21b〜21eとの接合>
本実施形態では、図5および図6に示すように、複数の柱23a〜23dと梁部材21b〜21eとの接合部分に、パッチ32を用いている。
ここでは、柱23dおよび梁部材21c,21eの接合部分を例として挙げて、柱23dと梁部材21c,21eとをずらして配置したこと、パッチ32を用いたことによる利点について図7〜図8(b)を用いて説明する。なお、他の柱23a,23b,23cと梁部材21b,21c,21eとの接合部分についても同様である。
【0037】
柱23dと梁部材21c,21eとは、図7および図8(a)、図8(b)に示すように、それぞれの接合部分において、所定量ずらした状態で接合され、接合部分に段差部dが形成されている。換言すれば、柱23dと梁部材21c,21eとは、上述したように、それぞれ同一の略正方形断面を有しているにもかかわらず、敢えてずらして接合することで、段差部dを形成している。より具体的には、梁部材21c,21eともに、図8(b)に示すように、柱23dに対してキャブ20の外周側へ所定量だけずらして接合されている。また、梁部材21c,21eと柱23dとの接合部では、梁部材21c,21eの中空部34が露出している。そして、このずらし接合によって形成された段差部d上には、それぞれパッチ32が中空部34を覆うように貼り付けられている。
【0038】
柱23dと梁部材21cとの接合部分においては、図7および図8(b)に示すように、接合部分に形成された段差dをまたぐようにして、パッチ32が柱23d側から段差部d、梁部材21c側に渡って隅肉溶接による溶接部(隅肉溶接部)Wが形成され、各部材23d,21c,21eを接合している。
【0039】
一方、柱23dと梁部材21eとの接合部分においても同様に、図7および図8(b)に示すように、接合部分に形成された段差dをまたぐようにして、パッチ32が柱23d側から、段差部d、梁部材21e側に渡って隅肉溶接による溶接部Wが形成され、各部材23d,21c,21eを接合している。
【0040】
パッチ32は、図7に示すように、略直交するパッチ32の側面部分と柱23dおよび梁部材21c,21eの側面とによって形成されるL字溶接部S(図8(a)参照)に沿って、隅肉溶接されることによって梁部材21c,21eの端部の中空部34を覆うように貼り付けられる。このとき、上述したように、柱23dと梁部材21c,21eとは、段差部dを形成するようにずらして接合されているが、パッチ32の接合によって、梁部材21c,21eの接合部の四辺全てに隅肉溶接を形成することができ、実質的に溶接閉断面を形成している。
【0041】
このように、隅肉溶接を用いて各部材23d,21c,21eの接合を行うことで、フレア溶接や開先溶接等の他の溶接方法による接合と比較して、溶接作業や溶接部分の検査工程を簡略化し、かつ溶接部分の強度を十分に保持することができる。この結果、キャブ20全体の剛性を確保しつつ、溶接ロボットの制御が容易になり、キャブの製造コストを低減することができる。
【0042】
また、本実施形態のように、接合される各部材23d,21c,21eを所定量ずらして接合し、このずらした段差部d上を覆うようにパッチ32を設けることで、接合部分の四辺に隅肉溶接が可能となり、パイプ材を使用しながら接合部の強度を十分に確保することができる。
【0043】
[本キャブ20の特徴]
(1)
本実施形態のキャブ20は、図1に示すように、ブルドーザ10に搭載されており、図5等に示すように、複数の柱23a〜23dと、複数の梁部材21b,21c,21eとを互いに接合して構成されている。柱23a〜23dと梁部材21b〜21eとは、図7に示すように、所定量ずらした段差部dを形成しつつ接合されており、この段差部dを含むようにパッチ32が貼り付けられる。そして、柱23a〜23dと梁部材21b〜21eとパッチ32とは、これらの各部材の接合部分に形成されるL字溶接部Sに沿って溶接部Wが形成されて接合が行われる。
【0044】
これにより、柱23a〜23dと梁部材21b,21c,21eとをずらして接合したことにより、その段差部dを含むように貼り付けられたパッチ32の周辺等に隅肉溶接用のL字溶接部Sを効果的に形成することができる。このため、溶接強度が大きく、溶接作業や検査工程が簡略化できる等の隅肉溶接による利点を享受しつつ、キャブ20の剛性を向上させることができる。
【0045】
(2)
本実施形態のキャブ20では、図7および図8(b)に示すように、構成部材である柱23a〜23dおよび梁部材21b,21c,21eとして、略同一の断面形状を有する部材を用いている。
【0046】
これにより、複数の柱23a〜23dや梁部材21b,21c,21eの中に強度的に差がある部材をできる限り排除できるため、ROPS構造等を構成する際に強度的に安定したキャブ20を得ることができる。
【0047】
また、このように断面形状が共通の部材(柱23a〜23d、梁部材21b,21c,21e)を組み合わせてキャブ20を構成した場合でも、上述したように、敢えて両部材をずらして接合することにより、隅肉溶接を容易に形成することができる。
【0048】
(3)
本実施形態のキャブ20では、図7等に示すように、複数の梁部材21b〜21eを、柱23a〜23dの側面に当接させた状態で接合している。
これにより、キャブ20を構成する際に、柱23a〜23dを側方から嵌め込むようにして接合することができる。この結果、キャブ20の外周側から溶接作業を行うことが可能となり、キャブ20の製造コストを低減することができる。
【0049】
(4)
本実施形態のキャブ20では、図4および図7に示すように、略正方形の断面形状を有する柱23a〜23d、梁部材21b,21c,21eを用いている。
これにより、前後方向および左右方向において、均一の剛性を有するキャブ20を構成することができる。この結果、キャブ20を構成する部品の種類を削減し、キャブ20の製造コストを低減することができる。
【0050】
(5)
本実施形態のキャブ20では、図4および図7に示すように、柱23a〜23d、梁部材21b,21c,21eとして、中空のパイプ材を用いている。
これにより、中空大断面を構成することで、各部材の剛性を向上させるとともに、各部材を中空にすることでキャブ20の軽量化、コストダウンが図れる。
【0051】
(6)
本実施形態のキャブ20では、図5および図6に示すように、柱23a〜23dが、梁部材21b〜21eに対して垂直に交差するように接合されている。
これにより、通常のキャブと比較して、視覚的に大きく見えるキャブ20を構成することができる。また、梁部材21b〜21eに対する柱23a〜23dの交差部分が全て垂直で統一されるため、交差部分に設置される補強部材31a,31b等の形状を共通化して、部品の種類を削減することができる。
【0052】
(7)
本実施形態のキャブ20では、図5等に示すように、共通の補強部材31a,31bを用いて、柱23a〜23dと梁部材21b〜21eとを接合している。
これにより、キャブ20を構成する補強部材31a,31bの種類を削減して、キャブ20の製造コストを削減することができる。
【0053】
(8)
本実施形態のキャブ20では、図5等に示すように、キャブ20の前方に配置された梁部材21dとして、他の梁部材21b,21c,21eよりも薄い部材を用いている。
これにより、梁部材21dの下方への出っ張り量が少なくなるため、キャブ20内で運転操作等を行うオペレータの前方頭上空間を広く確保することができる。
【0054】
(9)
本実施形態のキャブ20では、図4等に示すように、他の梁部材21b,21c,21eよりも薄い梁部材21dとして、中実の部材を用いている。
これにより、薄肉化したことによる強度低下を回避して、キャブ20において局所的に剛性が低下してしまうことを回避することができる。
【0055】
(10)
本実施形態のブルドーザ10は、図1に示すように、上述したキャブ20を搭載している。
これにより、上述したように、隅肉溶接を多用することで、キャブ20の剛性を十分に確保しつつ、溶接部分の作業や検査工程を簡略化することが可能なキャブ20を構成することができる。
【0056】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施形態では、キャブ20を構成する柱23a〜23dと梁部材21b,21c,21eとして、略同一断面を有する中空のパイプ材を用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
例えば、柱と梁部材として、それぞれ相似形で同一形状の断面を有するパイプ材を用いてもよい。また、梁部材21b,21c,21eを同じ長さの同一部品とすれば、さらに効果的である。
さらには、中空のパイプ材の替わりに、一部が中実の部材を用いてもよい。
【0058】
ただし、中空大断面を有する柱、梁を用いてキャブを構成することで、局所的な剛性の低下を回避しつつキャブの剛性を向上させ、かつキャブの軽量化を図ることができるという点では、上記実施形態のように、略同一断面を有する中空のパイプ材を用いることがより好ましい。
【0059】
(B)
上記実施形態では、キャブ20を構成する柱23a〜23dと梁部材21b,21c,21eとして、略正方形の断面を有するパイプ材を用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、略長方形、あるいは多角形、円形、楕円形等の断面形状を有する柱、梁部材を用いてもよい。
【0060】
(C)
上記実施形態では、柱23a〜23dと梁部材21b,21c,21eとをつなぐ接合部材として、略楕円形状の薄い鋼板を折り曲げるように加工したパッチ32を用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、接合部材として、段差部分に沿って取り付けられるように金属のブロックを加工した部材を用いてもよい。
【0061】
(D)
上記実施形態では、複数の柱23a〜23dを鉛直方向に沿って配置した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、従来のキャブに見られるような、キャブの上方が細くなるように配置された柱部材によって構成されるキャブに対して本発明を適用することも可能である。
【0062】
(E)
上記実施形態では、ブルドーザ10に搭載されるキャブ20の構造に対して本発明を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、本発明に係るキャブ構造が採用される建設機械としては、ブルドーザ以外にも、ホイルローダや油圧ショベル等の建設機械に搭載されるキャブに対しても本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のキャブ構造は、キャブの剛性を十分に確保しつつ、溶接作業の簡素化、溶接部分の検査工程の簡素化が図れるという効果を奏することから、複数の柱部材と梁部材とを組み合わせて構成されるキャブを搭載する各種建設機械に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係るキャブ構造を搭載したブルドーザの全体構成を示す斜視図。
【図2】図1のブルドーザに搭載されたキャブの構造を示す斜視図。
【図3】図2のキャブの天井部分を構成する天井部の構成を示す分解斜視図。
【図4】図3の天井部に含まれる梁部材を組み合わせた際の構成を示す斜視図。
【図5】図2のキャブの骨組み構造を示す前側方斜視図。
【図6】図2のキャブの骨組み構造を示す後側方斜視図。
【図7】図5等のキャブの接合部分の構成を示す部分拡大図。
【図8】(a),(b)は、図7の接合部分を示す側面図および平面図。
【図9】(a),(b)は、図8の接合部分に使用されたパッチの構成を示す平面図および側面図。
【符号の説明】
【0065】
10 ブルドーザ(建設機械)
11 車体
12 エンジンルーム
13 駆動装置
14 走行装置
20 キャブ(キャブ構造)
21 天井部
21a 天井板材
21b 梁部材(梁部材)
21c 梁部材(梁部材)
21d 梁部材(板材)
21e 梁部材(梁部材)
21f 補強梁部材
23 柱部
23a〜23d 柱(柱部材)
31a〜31c 補強部材(リブ部材)
32 パッチ(接合部材)
32a 平面部
32b 折り曲げ部
33 ボルト受け部
34 中空部
d 段差部
S L字溶接部
W 溶接部(隅肉溶接部)
X 接合空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱部材と梁部材とを接合して構成される建設機械のキャブ構造であって、
略鉛直方向に沿って配置された複数の前記柱部材と、
前記柱部材に対して所定量ずらして当接されて複数の前記柱部材の上端部付近同士を連結する前記梁部材と、
少なくともいずれか一方が中空のパイプ材である前記柱部材と前記梁部材とがずれて接合された部分に形成される段差部を含むように前記柱部材と前記梁部材とに渡って貼り付けられた接合部材と、
前記接合部材と前記柱部材、および前記接合部材と前記柱部材および前記梁部材との間で接合のために形成される隅肉溶接部と、
を備えているキャブ構造。
【請求項2】
前記柱部材と前記梁部材とは、略同一の断面形状を有している、
請求項1に記載のキャブ構造。
【請求項3】
前記梁部材は、前記柱部材の側面に対して両端部を当接させた状態で接合される、
請求項1または2に記載のキャブ構造。
【請求項4】
前記柱部材および前記梁部材の少なくとも一方は、略正方形の断面を有している、
請求項1から3のいずれか1項に記載のキャブ構造。
【請求項5】
前記接合部材が貼り付けられた前記段差部は、前記柱部材または前記梁部材の中空の端面が露出する面を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のキャブ構造。
【請求項6】
前記複数の柱部材は、前記梁部材に対して垂直に接合されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載のキャブ構造。
【請求項7】
前記複数の柱部材のうち、前記キャブの前側に配置された一対の柱部材は、他の前記梁部材よりも薄い板材によって形成された梁部材によって接合されている、
請求項1から6のいずれか1項に記載のキャブ構造。
【請求項8】
前記板材は、中実の部材によって形成されている、
請求項7に記載のキャブ構造。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のキャブ構造を備えている、建設機械。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−273410(P2008−273410A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120093(P2007−120093)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】