説明

キャブ

【課題】ヘッダ本体の板厚や形状を変更することなく、外観および視界を損なうことなく、フロントヘッダを補強できるキャブを提供する。
【解決手段】左フロントピラー13Lと右フロントピラー13Rとの前部間に、キャブ本体12の前面部に開口した前窓14を設け、左フロントピラー13Lと右フロントピラー13Rとの上部間に、キャブ本体12の天井面部15に開口した天窓16を設け、これらの前窓14と天窓16との間にフロントヘッダ17を設ける。フロントヘッダ17は、中空パネル形状のヘッダ本体21と、このヘッダ本体21の内部に設けたL形補強部材22とを備えている。このL形補強部材22は、L形断面の長尺部材であり、全長にわたる横断面にてヘッダ本体21と3点で定着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前窓と天窓との間にフロントヘッダが設けられたキャブに関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示されるように、油圧ショベルは、下部走行体1に上部旋回体2が旋回可能に設けられ、この上部旋回体2にキャブ3および作業装置4などが搭載されている。この種の建設機械は、不整地、傾斜地などでも作業をするので、上部旋回体2の旋回角度、作業装置4の作業姿勢およびバケット荷重などによっては機体が横転、転倒するおそれもありうる。機体の横転、転倒時にキャブ3は初めに過大な横荷重Fを受ける。
【0003】
そこで、油圧ショベルなどのキャブ3には、転倒時にキャブ3の内部でシートベルトを付けたオペレータを保護するための転倒時運転者保護構造TOPS(Tip Over Protective Structure)またはROPS(Roll Over Protective Structure)が要求される。
【0004】
転倒時運転者保護構造とするには、キャブ3の前窓と天窓との間に設けられたフロントヘッダを強化し、その座屈を防止する必要があり、その一般的な強化手法としては、フロントヘッダの中空板部材の板厚を上げるか、中実部材とすることであるが、これらの強化手法は、金型を新たに作り直す必要が出てくるため、多くの費用を要する。
【0005】
また、フロントヘッダに沿ってリブを成形することでフロントヘッダを補強するものもあるが、これも金型を新たに作り直す必要がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、フロントヘッダの板厚や形状を変更することなくフロントヘッダを補強する手法として、フロントヘッダの外側にフロントヘッダに沿って補強部材を設置するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2827395号公報(第2頁、第3図)
【特許文献2】特許第3747733号公報(第6頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フロントヘッダの外側にフロントヘッダに沿って補強部材を設置する場合は、補強部材が突出するので外観が損なわれるとともに、補強部材がオペレータの視界を妨げるおそれがあり、さらに、フロントヘッダと補強部材との間に隙間があるため相互に補強し合う効果が弱い問題がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、ヘッダ本体の板厚や形状を変更することなく、外観および視界を損なうことなく、フロントヘッダを補強できるキャブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、キャブ本体と、キャブ本体の前面部に開口された前窓と、キャブ本体の天井面部に開口された天窓と、前窓と天窓との間に設けられたフロントヘッダとを具備し、フロントヘッダは、中空状のヘッダ本体と、このヘッダ本体の内部に、横断面にてヘッダ本体の内面と3点以上で定着するように設けられた補強部材とを具備したキャブである。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のキャブにおけるヘッダ本体が、上方へ膨出状に形成された前下がり傾斜状のヘッダ外側板と、前下がり傾斜状のヘッダ内側板とが、溶接によって中空パネル形状に接合されたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された発明によれば、中空状のヘッダ本体の内部に補強部材を設けたフロントヘッダは、ヘッダ本体の板厚や形状を変更することなく、かつ外観および視界を損なうことなく、内部の補強部材により補強できる。特に、横断面にてヘッダ本体の内面と3点以上で定着された補強部材は、ヘッダ本体内での安定状態を維持できるとともに、ヘッダ本体と補強部材とが相互に補強し合う効果が得られるので、断面空間の少ないフロントヘッダを効果的に補強できる。
【0012】
請求項2に記載された発明によれば、上方へ膨出状に形成された前下がり傾斜状のヘッダ外側板と、前下がり傾斜状のヘッダ内側板とが、溶接によって中空パネル形状に接合されたヘッダ本体は、前窓と天窓との間に設けられた断面空間の少ないフロントヘッダとして適した内外への突出量の少ない形状に形成できるとともに、補強部材を3点以上で定着するのに適した形状に形成でき、ヘッダ本体と補強部材との組合わせにより座屈しにくいフロントヘッダを形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を、図1および図2に示された第1実施の形態、図3に示された第2実施の形態、図4に示された第3実施の形態、図5に示された第4実施の形態、図6に示された第5実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
先ず、図1および図2に示された第1実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、油圧ショベルのキャブ11を示し、そのキャブ本体12は、キャブ前部から上部にわたって、左フロントピラー13Lおよび右フロントピラー13Rが配設され、キャブ後部には、左右のリアピラー、上部のリアヘッダ、下部のリアパネルなどが設けられている。
【0016】
左フロントピラー13Lと右フロントピラー13Rとの前部間には、キャブ本体12の前面部に開口された前窓14が設けられ、左フロントピラー13Lと右フロントピラー13Rとの上部間には、キャブ本体12の天井面部15に開口された天窓16が設けられ、これらの前窓14と天窓16との間にはフロントヘッダ17が設けられ、前窓14の下部には下部フロントクロス部材18が設けられている。
【0017】
図2に示されるように、フロントヘッダ17は、中空パネル形状のヘッダ本体21と、このヘッダ本体21の内部に設けられた補強部材としてのL形補強部材22とを備えている。このL形補強部材22は、L形断面の長尺部材であり、全長にわたる横断面にてヘッダ本体21の内面と3点で定着されているとともに、L形補強部材22の軸方向両端は、ヘッダ本体21の左右両側部に溶接付またはボルトオンにより一体化されている。
【0018】
ヘッダ本体21は、上方へ膨出状に形成された前下がり傾斜状のヘッダ外側板21oと、前下がり傾斜状のヘッダ内側板21iとが、溶接によって中空パネル形状に接合されたもので、ヘッダ外側板21oは、ほぼ水平状の上側板部23に対して前側板部24が前下がり傾斜状に折曲され、ヘッダ内側板21iは、前側板部24より緩勾配の下側板部25に対して略垂直状の後側板部26が折曲形成され、そして、主として上側板部23と前側板部24と下側板部25と後側板部26とにより、無端状に形成された断面形状を有している。
【0019】
L形補強部材22は、角辺部27が下側板部25に定着され、一辺部28が前側板部24に定着され、他辺部29が上側板部23に定着されている。これらの定着部分は、ヘッダ本体21の内面に密着させたままでもよいが、外部からの溶接によりヘッダ本体21に固定すれば、より好ましい強度が得られる。
【0020】
次に、この実施の形態の作用効果を説明する。
【0021】
油圧ショベルなどの転倒時に、キャブ3の上部に横荷重Fが作用した場合は、キャブ構造全体の中では強度の劣るフロントヘッダ17に座屈のおそれがあるが、ヘッダ本体21に作用する曲げ応力および圧縮応力を、ヘッダ本体21の全長にわたる横断面の3点で定着されたL形補強部材22も負担するので、その分、強い曲げ強度または座屈強度が得られ、ヘッダ本体21の座屈を防止できる。
【0022】
中空状のヘッダ本体21の内部にL形補強部材22を設けたフロントヘッダ17は、ヘッダ本体21の板厚や形状を変更する必要がないので、また、ヘッダ本体21に中実部材を用いないので、軽量でコスト安となる。
【0023】
さらに、内部のL形補強部材22により、外観および視界を損なうことなく補強でき、フロントヘッダ17の強度を上げることができる。
【0024】
特に、全長にわたる横断面にてヘッダ本体21の内面と3点以上で定着されたL形補強部材22は、ヘッダ本体21内での安定状態を維持できるとともに、ヘッダ本体21とL形補強部材22とが相互に補強し合う効果が得られるので、断面空間の少ないフロントヘッダ17を効果的に補強できる。
【0025】
また、上方へ膨出状に形成された前下がり傾斜状のヘッダ外側板21oと、前下がり傾斜状のヘッダ内側板21iとが、溶接によって中空パネル形状に接合されたヘッダ本体21は、前窓14と天窓16との間に設けられた断面空間の少ないフロントヘッダとして適した内外への突出量の少ない形状に形成できるとともに、L形補強部材22を3点以上で定着するのに適した形状に形成でき、中空パネル形状のヘッダ本体21とL形補強部材22との組合わせにより座屈しにくいフロントヘッダ17を形成できる。
【0026】
次に、図3に示された第2実施の形態を説明する。
【0027】
フロントヘッダ17は、中空パネル形状のヘッダ本体21と、このヘッダ本体21の内部に設けられた補強部材としての円筒形補強部材31とを備えている。この円筒形補強部材31は、円筒断面の長尺部材であり、全長にわたる横断面にてヘッダ本体21と3点で定着されているとともに、円筒形補強部材31の軸方向両端は、ヘッダ本体21の左右両側部に溶接付またはボルトオンにより一体化されている。
【0028】
ヘッダ本体21は、主として上側板部23と前側板部24と下側板部25と後側板部26とにより、無端状に形成された断面形状を有しているが、円筒形補強部材31は、軸方向第1線条部32が下側板部25に定着され、軸方向第2線条部33が前側板部24に定着され、軸方向第3線条部34が上側板部23に定着されている。これらの定着部分は、ヘッダ本体21の内面に密着させたままでもよいが、外部からの溶接によりヘッダ本体21に固定すれば、より好ましい強度が得られる。
【0029】
そして、この円筒形補強部材31は、図2に示された第1実施の形態と同様の作用効果が得られるとともに、加えて、断面形状が無端閉鎖形であるから、より強い曲げ強度または座屈強度が得られ、座屈しにくい優れた効果を有するとともに、ヘッダ本体21と円筒形補強部材31との定着部が面に近いので、応力集中を防止できる効果がある。また、円筒形補強部材31は中空であるから、軽量にできる。
【0030】
次に、図4に示された第3実施の形態を説明する。
【0031】
フロントヘッダ17は、中空パネル形状のヘッダ本体21と、このヘッダ本体21の内部に設けられた補強部材としての円柱形補強部材41とを備えている。この円柱形補強部材41は、円形断面の長尺円柱部材であり、全長にわたる横断面にてヘッダ本体21と3点で定着されているとともに、円柱形補強部材41の軸方向両端は、ヘッダ本体21の左右両側部に溶接付またはボルトオンにより一体化されている。
【0032】
ヘッダ本体21は、主として上側板部23と前側板部24と下側板部25と後側板部26とにより、無端状に形成された断面形状を有しているが、円柱形補強部材41は、軸方向第1線条部42が下側板部25に定着され、軸方向第2線条部43が前側板部24に定着され、軸方向第3線条部44が上側板部23に定着されている。これらの定着部分は、ヘッダ本体21の内面に密着させたままでもよいが、外部からの溶接によりヘッダ本体21に固定すれば、より好ましい強度が得られる。
【0033】
そして、この円柱形補強部材41は、図2に示された第1実施の形態と同様の作用効果が得られるとともに、加えて、中実断面であるから、より強い曲げ強度または座屈強度が得られ、座屈しにくい優れた効果を有するとともに、ヘッダ本体21と円柱形補強部材41との定着部が面に近いので、応力集中を防止できる効果がある。
【0034】
次に、図5に示された第4実施の形態を説明する。
【0035】
フロントヘッダ17は、中空パネル形状のヘッダ本体21と、このヘッダ本体21の内部に設けられた補強部材としての角柱形補強部材51とを備えている。この角柱形補強部材51は、正方形断面の長尺角柱部材であり、全長にわたる横断面にてヘッダ本体21と3点以上で定着されているとともに、角柱形補強部材51の軸方向両端は、ヘッダ本体21の左右両側部に溶接付またはボルトオンにより一体化されている。
【0036】
ヘッダ本体21は、主として上側板部23と前側板部24と下側板部25と後側板部26とにより、無端状に形成された断面形状を有しているが、角柱形補強部材51は、下面部52が下側板部25に定着され、一方の軸方向角辺部53が前側板部24に定着され、他方の軸方向角辺部54が上側板部23に定着されている。これらの定着部分は、ヘッダ本体21の内面に密着させたままでもよいが、各角辺部53,54を面取した上で、外部からの溶接によりヘッダ本体21に固定すれば、より好ましい強度が得られる。
【0037】
そして、この角柱形補強部材51は、図2に示された第1実施の形態と同様の作用効果が得られるとともに、加えて、中実断面であるから、より強い曲げ強度または座屈強度が得られ、座屈しにくい優れた効果を有するとともに、下面部52では面による定着であるので、応力集中を防止できる効果がある。
【0038】
次に、図6に示された第5実施の形態を説明する。
【0039】
フロントヘッダ17は、中空パネル形状のヘッダ本体21と、このヘッダ本体21の内部に設けられた補強部材としての角筒形補強部材61とを備えている。この角筒形補強部材61は、3角筒形断面の長尺部材であり、全長にわたる横断面にてヘッダ本体21と3点で定着されているとともに、角筒形補強部材61の軸方向両端は、ヘッダ本体21の左右両側部に溶接付またはボルトオンにより一体化されている。
【0040】
ヘッダ本体21は、主として上側板部23と前側板部24と下側板部25と後側板部26とにより、無端状に形成された断面形状を有しているが、角筒形補強部材61は、軸方向第1角辺部62が下側板部25に定着され、軸方向第2角辺部63が前側板部24に定着され、軸方向第3角辺部64が上側板部23に定着されている。これらの定着部分は、ヘッダ本体21の内面に密着させたままでもよいが、各角辺部62,63,64を面取した上で、外部からの溶接によりヘッダ本体21に固定すれば、より好ましい強度が得られる。
【0041】
そして、この角筒形補強部材61は、図2に示された第1実施の形態と同様の作用効果が得られるとともに、加えて、断面形状が無端閉鎖形であるから、より強い曲げ強度または座屈強度が得られ、座屈しにくい優れた効果を有するとともに、角筒形補強部材61は中空であるから、軽量にできる。
【0042】
なお、ヘッダ本体21は、その内部に補強部材22,31,41,51,61を溶接する上で、ヘッダ外側板21oとヘッダ内側板21iとを溶接によって中空パネル形状に接合したものが望ましいが、異形鋼管などで偏平状に成形されたヘッダ本体(図示せず)の一端開口より内部に補強部材31,41,51などを圧入した上で外部から抵抗溶接することも可能である。
【0043】
本発明は、油圧ショベル、ホイールローダなどの建設機械のキャブに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るキャブの一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】同上キャブのフロントヘッダの第1実施の形態を示す断面図である。
【図3】同上フロントヘッダの第2実施の形態を示す断面図である。
【図4】同上フロントヘッダの第3実施の形態を示す断面図である。
【図5】同上フロントヘッダの第4実施の形態を示す断面図である。
【図6】同上フロントヘッダの第5実施の形態を示す断面図である。
【図7】油圧ショベルの背面図である。
【符号の説明】
【0045】
11 キャブ
12 キャブ本体
14 前窓
16 天窓
17 フロントヘッダ
21 ヘッダ本体
21o ヘッダ外側板
21i ヘッダ内側板
22 補強部材としてのL形補強部材
31 補強部材としての円筒形補強部材
41 補強部材としての円柱形補強部材
51 補強部材としての角柱形補強部材
61 補強部材としての角筒形補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブ本体と、
キャブ本体の前面部に開口された前窓と、
キャブ本体の天井面部に開口された天窓と、
前窓と天窓との間に設けられたフロントヘッダとを具備し、
フロントヘッダは、
中空状のヘッダ本体と、
このヘッダ本体の内部に、横断面にてヘッダ本体の内面と3点以上で定着するように設けられた補強部材と
を具備したことを特徴とするキャブ。
【請求項2】
ヘッダ本体は、上方へ膨出状に形成された前下がり傾斜状のヘッダ外側板と、前下がり傾斜状のヘッダ内側板とが、溶接によって中空パネル形状に接合された
ことを特徴とする請求項1記載のキャブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−52574(P2010−52574A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219453(P2008−219453)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】