説明

キュポラ及びその運転方法

【課題】空炉状態での炉床等の予熱を効果的に行うことが可能なキュポラと、そのようなキュポラに最適な運転方法とを提供すること。
【解決手段】キュポラは、炉床11及び円筒状の炉壁12を有する炉体10と、炉壁12の周方向に沿って設けられた複数のバーナー20とを備える。炉床11の最低部には出湯口14が設けられている。炉体10の炉頂域には、排気口15及びそれと対向する吸気口17が設けられている。吸気口17には、吸気通路31、ブロワー32及びダンパー33からなる気流発生手段が連結されている。気流発生手段は、吸気口17から炉体10内に風を吹き込んで吸気口17から排気口15に向かう気流を炉頂域に発生させる。この気流の制御に基づき、バーナー20から噴射された燃焼ガスが排気口15ではなく、主として出湯口14に向かう流れを生じさせ、炉床11及び出湯口14を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キュポラ(溶融炉)及びキュポラの運転方法に関する。特に、ベッドレスタイプのキュポラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳鉄等の金属を溶融する際には、コースクをベッドとして用いるキュポラが多用されている。しかし、従来型のキュポラはそれ自体の熱効率が低いという欠点がある。また、固体炭素燃料としてコークスを使用しているため、金属溶解量に対する二酸化炭素の排出割合が比較的大きいという問題、コークスに含まれる硫黄分により有害な二酸化硫黄を発生するという問題、多量の燃焼残さ(粉塵)を生み出すという問題がある。それ故、これらの問題を解決又は緩和するために、天然ガス等の気体燃料や重油等の液体燃料を使用するバーナーを備えたベッドレスタイプのキュポラが注目されている。
【0003】
例えば特許文献1は、縦型の熔融炉(溶融炉)の底部付近に、炉床に向けて傾斜したバーナーを具備するベッドレスタイプの熔融炉を開示する。バーナーは重油やLPG等を燃料とし酸素を支燃性ガスとして火炎(燃焼ガス)を噴射できるように構成されており、このバーナーから噴射された火炎によって、炉床上に堆積された金属原料(装入材)を直接溶融できる設計となっている。
【0004】
ところで一般にベッドレスタイプのキュポラにあっては、空炉状態で炉床を予熱しておき、その後に溶融対象物たる装入材を炉内に装入するという手順をとる必要がある。というのも、バーナー火炎で装入材を溶かしたとしても、炉床が低温のままだと炉床に滴下した金属溶湯が炉床上で凝固し、炉底の出湯口を塞ぐおそれがあるからである。この点、特許文献1の熔融炉のようにバーナーを炉床に向けて傾斜設置することは、バーナー火炎で炉床を直接加熱することができ、炉床を予熱する上で一見好都合にみえる。しかしながら、非常に高温のバーナー火炎を直接炉床に当てることは、炉床を傷める原因となるため好ましくない。また、バーナーを炉床に向けて傾斜設置すると、装入材の溶解時にバーナー火炎が装入材中に十分に侵入せず溶解効率が低下するおそれがある。
【0005】
バーナー火炎で炉床を傷めず、且つ装入材の溶解効率を高めるためには、バーナーを炉心に向けてほぼ水平に配置することが好ましいが、そうすると、空炉状態での炉床の予熱を効果的に行うことが難しいというジレンマが生ずる。もちろん、炉床の予熱時だけバーナーを傾斜させ予熱完了後はバーナーを水平姿勢に戻すというようにバーナーを角度変更可能に設置することができればよいが、炉壁の耐火構造等に関する技術的制約のために、バーナーを角度変更可能に設置することは非常に難しい(実際上は不可能に近い)。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。
【0006】
【特許文献1】特開平5−271808号公報(要約、図1、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、炉床に対して燃焼ガスを直接当てないようにバーナーが設置されている場合でも、空炉状態での炉床等の予熱を効果的に行うことが可能なキュポラを提供することにある。また、そのようなキュポラに最適な運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のキュポラは、溶融対象物たる装入材を載置可能な炉床及びその炉床から略直立した略円筒状の炉壁を有する炉体と、炉壁の周方向に沿って設けられると共に、気体燃料又は液体燃料を燃焼させた燃焼ガスを噴射可能な複数のバーナーと、炉床又はその近傍に設けられた出湯口と、炉体の炉頂域に設けられた排気口と、炉体の炉頂域において前記排気口と対向する位置に設けられた吸気口と、前記吸気口から炉体内に風を吹き込んで吸気口から排気口に向かう気流を炉頂域に発生させるための気流発生手段とを備えたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明のキュポラでは、炉体内に装入材を入れていない空炉状態において、各バーナーから燃焼ガスを噴射すると共に、気流発生手段により吸気口から炉体内に風を吹き込んで吸気口から排気口に向かう気流を炉頂域に発生させる。すると、吸気口から排気口に向かう気流が強い場合には、各バーナーからの燃焼ガスの多くが当該気流に阻まれて排気口に進入することができず、炉体内を回り巡った末に炉床を経由して出湯口に達し、出湯口から外部に流れ出る。バーナーから噴射された燃焼ガスがこのような炉内巡回を行うことにより、炉床及び出湯口が効果的に加熱(予熱)される。
【0010】
本発明のキュポラにおいて、前記気流発生手段は、吸気口から炉体内に吹き込む風量を変化させることにより、吸気口から排気口に向かう気流の強さを調節可能であることは好ましい(請求項2)。気流発生手段が吸気口から炉体内に吹き込む風量を変化させることにより、これに応じて吸気口から排気口に向かう気流の強さを調節することが可能になる。この気流の強さを適度に弱めることで、バーナーからの燃焼ガスが排気口に進入するのを遮断しようとする当該気流の作用が弱まり、各バーナーから噴射された燃焼ガスが排気口に達する流れと、炉床を経由して出湯口に達する流れとが同時併存的に生み出される。つまり、気流発生手段による吸気口から排気口に向かう気流の強さ調節に基づき、各バーナーから噴射された燃焼ガスが排気口に達する流れと、炉床を経由して出湯口に達する流れとの分配率を変化させることができる。その結果、炉床に載置され炉体内に堆積された装入材の全体を万遍なく効率的に溶融することが可能になる。
【0011】
本発明のキュポラにおいて、前記排気口の開口面積と前記吸気口の開口面積とがほぼ等しいことは好ましい(請求項3)。排気口の開口面積と吸気口の開口面積とをほぼ等しくすることで、吸気口から排気口に向けて一様に流れる強力な気流を生じさせ易くなり、このような気流によって、バーナーからの燃焼ガスの一部が排気口に進入するのを阻止する効果を高めることができる。もし仮に排気口の開口面積と吸気口の開口面積との間に大きな較差があると、吸気口から排気口に向けた気流によって燃焼ガスが排気口に進入するのを阻止する効果が極端に低下するおそれがある。
【0012】
本発明のキュポラにおいて、前記排気口の高さは前記吸気口の高さ以上に設定されていることは好ましい(請求項4)。もし仮に、排気口が吸気口よりも低い位置にあると、気流発生手段によって炉頂域に発生させられる吸気口から排気口に向かう気流が下向き加減の流れとなり、炉体の中下層を流れる燃焼ガスに干渉して燃焼ガスの流れを撹乱するおそれがある。この点、排気口が吸気口の高さ以上に位置していれば、そのような不都合を生ずる心配がない。
【0013】
本発明のキュポラにおいて、前記複数のバーナーは、出湯口から所定の高さ(h)に設けられると共に、噴射口がほぼ炉心を指向するように水平に固定されていることは好ましい(請求項5)。噴射口がほぼ炉心を指向するようにバーナーが水平に固定設置されることで、各バーナーからの燃焼ガスが直接炉床に当らず炉床を傷めるおそれがない。また、装入材の溶解時に燃焼ガスが装入材中に十分に侵入でき、装入材の溶解効率を高めることができる。他方、前述のように気流発生手段の作用によって、炉床及び出湯口の効果的な予熱が可能である。従って、本発明のキュポラによれば、炉床の損傷や装入材の溶解効率の低下を回避するために炉床に対して燃焼ガスを直接当てないようにバーナーが設置されている場合でも、炉床及び出湯口の予熱を効果的に達成することができる。
【0014】
本発明のキュポラの運転方法は、請求項1〜5のいずれかに記載のキュポラの運転方法であって、炉体内に装入材を装入する前に、気流発生手段により吸気口から炉体内に風を吹き込んで吸気口から排気口に向かう気流を炉頂域に発生させた状態でバーナーから燃焼ガスを噴射することにより、燃焼ガスが排気口に向かうのを阻止して燃焼ガスの大部分を炉床を経由して出湯口から排出させ、もって炉床及び出湯口を予熱する予熱工程を備えることを特徴とするものである(請求項6)。
【0015】
上記キュポラの運転方法にあって、前記予熱工程後において炉体内に装入材を装入する装入工程と、装入材の装入後に、気流発生手段による吸気口から排気口に向かう気流を停止することにより、バーナーから噴射された燃焼ガスの大部分を排気口に向かわせ、もって炉体内の装入材を予備的に加熱する工程と、前記予熱工程において気流発生手段により発生させた風量よりも小さな風量となるように風量調節を行いつつ、再び気流発生手段により吸気口から炉体内に風を吹き込んで吸気口から排気口に向かう気流を炉頂域に発生させることにより、バーナーから噴射された燃焼ガスを排気口及び出湯口の双方に向かわせ、もって炉体内の装入材を本格的に加熱溶融する工程とを更に備えることは好ましい(請求項7)。
【0016】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
請求項1〜5において、前記気流発生手段は、ブロワー、前記吸気口と前記ブロワーとをつなぐ吸気通路及びその吸気通路に設けられたダンパーから構成されること。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜5に記載のキュポラによれば、空炉状態での炉床及び出湯口の予熱を効果的に行うことができる。特に、炉床に対して燃焼ガスを直接当てないようにバーナーが設置されている場合でも、気流発生手段の作用により、バーナーからの燃焼ガスの多くが排気口に向かうことなく、炉床を経由して出湯口に達することができるように炉体内での燃焼ガス流れを制御できるため、炉床の損傷や装入材の溶解効率の低下を回避しつつ、空炉状態での炉床及び出湯口の予熱を効果的に達成することができる。
【0018】
請求項6及び7に記載のキュポラの運転方法によれば、空炉状態での炉床及び出湯口の予熱を効果的に行うことができる。また、炉床及び出湯口の予熱時、及び、装入材の本格加熱溶融時に、気流発生手段により炉頂域において吸気口から排気口に向かう気流を発生させることにより、炉頂域の高温化を阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施形態のキュポラ(より具体的にはガスキュポラ)は、直立円筒状の炉体10と、複数本のバーナー20とを少なくとも備えている。
【0020】
炉体10は、溶融対象物たる装入材M(図3参照)を載置可能な炉床11と、その炉床11の周縁から直立した円筒状の炉壁12と、炉壁12の頂上部に配設された炉蓋13とを有している。炉蓋13は図示しない蓋駆動機構によって開閉可能となっており、炉蓋13を開くことで炉体10の上部から炉体内に装入材Mを装入することができる。炉体10の底部を構成する炉床11には緩やかな傾斜が付与されており、傾斜した炉床11の最低部には出湯口14が設けられている。出湯口14は、炉床11に滴下した金属溶湯を炉外に導くための溶湯導出口である。
【0021】
炉壁12には炉床11の最低部又は出湯口14から所定高さhの位置において、複数本のバーナー20が設けられている。バーナー20の数は通常5本又は6本である。これらのバーナー20は、炉壁12の周方向に沿って等角度間隔(仮にバーナーが5本の場合、炉心軸zを中心として72°間隔)で配列されている。即ちこれらのバーナー20は、それぞれの噴射口が炉心軸zを指向するように平面視放射状に設置されている。また、各バーナー20は噴射口から燃焼ガスが水平噴射されるように水平に固定設置されている。なお、バーナー20は、気体又は液体の燃料と助燃気体(例えば酸素)とに基づいて着火状態の高温燃焼ガス(つまり火炎)を噴射する燃焼ガス噴射管である。
【0022】
炉体10の炉頂域(図1では炉蓋13の直下の領域)において炉壁12には、排気口15が開口形成されている。この排気口15は、炉体10の上部に設けられた排気筒16に炉体内部を連通させるための連通口である。また、炉体10の炉頂域において前記排気口15と対向する位置の炉壁12には、吸気口17が開口形成されている。この吸気口17は、炉体10の上部に設けられた吸気通路31を炉体内部に連通させるための連通口であり、吸気通路31を介して炉体10の外に設置されたブロワー32に連結されている。ブロワー32は、吸気通路31に対して風(空気)を強制的に送りこむ送風ポンプである。ブロワー32と吸気口17とをつなぐ吸気通路31の途中には、ダンパー33が設けられている。ダンパー33は、角度変更可能な弁体又はフラップ体を具備した吸気通路31の開度調節装置であり、その弁体又はフラップ体の角度を変化させることで吸気通路31の開度(つまり通路断面積)を調節し、吸気通路31内を流れる風量をゼロから最大風量の範囲で変化させる。
【0023】
本実施形態において、吸気通路31、ブロワー32及びダンパー33は、「吸気口17から炉体10内に風を吹き込んで吸気口17から排気口15に向かう気流を炉頂域に発生させるための気流発生手段」を構成する。そして、この気流発生手段は、ダンパー33の弁体又はフラップ体の角度制御に基づいて吸気口17から炉体10内に吹き込まれる風量を変化させ、もって吸気口17から排気口15に向かう気流の強さを調節する。
【0024】
なお、吸気口17の開口幅については、炉頂域における炉壁12の内周長の1/2を最大幅とすることができる。また、排気口15及び吸気口17については、それぞれが複数の開口部の集合体として構成されてもよい。但し、排気口15及び吸気口17の各々が単数か複数かにかかわらず、排気口15の総開口面積と吸気口17の総開口面積とがほぼ等しくなるように、排気口15及び吸気口17の各開口面積を設定することが好ましい。
【0025】
更に、排気口15と吸気口17との高さ関係については、図1に示すように両者がほぼ同じ高さにあることが好ましいが、両者の高さを異ならせる場合には、吸気口17の高さよりも排気口15の高さを高くすることが好ましい。
【0026】
次に、本実施形態のキュポラの好ましい運転方法(使用方法)について説明する。
【0027】
キュポラの本運転に先立ち、炉床11等の予熱を行う。その際には図2に示すように、炉体10を空炉状態にすると共に、この空炉状態においてバーナー20を点火し、各バーナー20の噴射口から炉心軸zに向けて燃焼ガスを噴射させる。これと同時に、ブロワー32を作動させると共に、ダンパー33によって吸気通路31の開度を全開にする。すると、ブロワー32の送風能力に応じた最大風量の風が吸気口17から炉内に吹き込まれると共に、吸気口17から排気口15に向かう比較的強い空気流が炉頂域に発生する。ブロワー32によって炉内に送り込まれた空気のほとんどが排気口15及び排気筒16を経由して外部に放出されるので、炉頂域に生じた空気流が炉の下層に向けて下降し炉内を撹乱することはほとんどない。
【0028】
この間、各バーナー20から噴射された燃焼ガスは炉心付近で衝突し、上方及び下方に向きを変える。ところが、炉心軸zに沿って上昇する燃焼ガスも、前述の吸気口17から排気口15に向かう比較的強い空気流に阻まれて、排気口15から排気筒16内に進入することができない。このため、一旦は上方に向かった燃焼ガスも、炉壁12に沿って下降し炉床11に達する帰還流を形成する。つまり、気流発生手段(31〜33)の作用により炉頂域において比較的強い空気流が形成されている限り、各バーナー20から水平噴射された燃焼ガスも、炉体10内を回り巡って炉床11に到達する。そして、炉床11に達した燃焼ガスの多くは、炉床11に沿って炉底を通過した後、開口状態の出湯口14を通って炉体10から外に流れ出る。このような燃焼ガスの炉内巡回により、炉床11及び出湯口14が効果的に加熱(予熱)される。また、各バーナー20から噴射された燃焼ガスの上昇流は、前記炉頂域における比較的強い空気流によってそれ以上の上昇を遮断又は阻止されるため、燃焼ガスによって炉蓋13その他の炉頂域構造物が過度に加熱されることもない。
【0029】
なお、ブロワー32によって炉頂域に生じる吸気口17から排気口15に向かう空気流の風量Q1を全バーナー20による燃焼ガスの総噴射量Q2よりも小さく設定すること(Q1<Q2)、あるいは空気流の風量Q1を燃焼ガスの総噴射量Q2に等しく設定すること(Q1=Q2)が好ましい。空気流の風量Q1が燃焼ガスの総噴射量Q2より大きくなると、当該空気流が却って炉内を冷却し、炉床11等の予熱にマイナスに働くおそれがあるからである。ちなみに、本実施形態のキュポラの運転実験では、ブロワー32による空気流の風量Q1を200Nm3/h(毎時ニュートン立方メートル)に設定すると共に、全バーナー20による燃焼ガスの総噴射量Q2を200Nm3/hに設定して炉床11等の予熱を行ったところ、炉頂域の温度を約200℃程度にとどめつつも、炉床11の温度を1600〜1700℃に予熱することができた。
【0030】
炉床11及び出湯口14の予熱が完了したら、図3に示すように、炉蓋13を開いて炉内に装入材M(例えば、鋳鉄や鉄屑など)を素早く装入し、再び炉蓋13を閉じる。そして、装入材Mの予備加熱を行う。具体的には、ダンパー33によって吸気通路31の開度を全閉にし、吸気口17から排気口15に向かう空気流を消失させる(即ちQ1=0)。この空気流の消失に伴って、各バーナー20から噴射された燃焼ガスの上昇流は自然に炉頂域に達し、排気口15から排気筒16を経て外に向かって流れ出す。その結果、炉体10内に堆積された装入材Mの隙間を燃焼ガスが勢いよく上昇する。この上昇する高温の燃焼ガスによって、炉体10内に堆積された装入材Mの下層部が、ある程度溶かされる。また、装入材Mの中層部及び上層部が、装入材内を上昇する燃焼ガス及び溶解した下層部の熱によって予備加熱される。なお、堆積された装入材Mの隙間を燃焼ガスが通過する過程で、燃焼ガスから熱が次第に奪われるため、炉頂域に達した燃焼ガスが炉蓋13その他の炉頂域構造物を過度に加熱することはない。
【0031】
装入材Mの予備加熱が済んだら、装入材Mの本加熱(即ち本格的な溶融)を行う。その際には図4に示すように、ダンパー33によって吸気通路31の開度を中間開度(全開と全閉との間の開度)にする。すると、ブロワー32の送風能力に応じた最大風量よりも少ない風量の風が吸気口17から炉内に吹き込まれ、炉頂域には、吸気口17から排気口15に向かう比較的弱い空気流が発生する。炉頂域における前記空気流が比較的弱いことから、各バーナー20から噴射された燃焼ガスの上昇流の一部が、排気口15から排気筒16に進入することができる。その一方で、各バーナー20から噴射された燃焼ガスの一部は、炉床11を伝って出湯口14にも向かう。つまり、吸気通路31が全開状態の場合における燃焼ガス流れと、吸気通路31が全閉状態の場合における燃焼ガス流れとが、同時併存するような格好の燃焼ガス流れが炉体10内に発生する。このように、各バーナー20から噴射された燃焼ガスが、炉内を勢いよく上昇して排気口15に達する流れと、炉床11に沿って出湯口14に達する流れとができ、これら二種類の燃焼ガス流れによって装入材Mが万遍なく効率的に溶かされる。
【0032】
なお、ダンパー33の弁体又はフラップ体の角度を制御して吸気通路31の中間開度量を調節することにより、排気口15に達する流れと出湯口14に達する流れとの分配率を種々変更することができる。これにより、装入材Mの溶融温度と炉頂域の温度とを適切に調節することが可能になる。ちなみに、本実施形態のキュポラの運転実験では、全バーナー20による燃焼ガスの総噴射量Q2を200Nm3/hに設定した状態で、ブロワー32による空気流の風量Q1を100Nm3/h(つまり炉床予熱時Q1の半分の風量)に調節して装入材Mの本加熱を行ったところ、炉頂域の温度を約250℃程度にとどめつつも、約1300℃にて装入材Mを溶融することができた。
【0033】
[本実施形態の効果]
本実施形態のキュポラによれば、各バーナー20はその噴射口が炉心軸zを指向するように水平に設置されているため、各バーナー20からの燃焼ガスが炉床11に直接当たらず、従って炉床11を傷めることがない。また、各バーナー20が水平に設置されていることで、装入材Mの予備加熱時及び本加熱時に燃焼ガスが装入材M中に十分に侵入でき、装入材Mの溶解効率を高めることができる。
【0034】
その一方で、各バーナー20が水平設置されているにもかかわらず、前記気流発生手段(31〜33)により、吸気口17から排気口15に向かう比較的強い気流を炉頂域に発生させることで、各バーナー20から水平に噴射された燃焼ガスの大部分を、排気口15に向かわせること無く炉床11を経由して出湯口14から排出させ、もって炉床11及び出湯口14を加熱することができる。即ち本実施形態によれば、バーナー20を水平設置して炉床11の損傷や装入材Mの溶解効率の低下を回避することと、炉床11及び出湯口14の効果的な予熱を行うこととを両立させることができる。
【0035】
また、装入材Mの装入後の予備加熱時には炉頂域における上記気流を停止することで、バーナー20からの燃焼ガスにより装入材Mを素早く予備加熱することができる。更に、予備加熱後の本加熱時には、炉頂域における上記気流を弱めることで、バーナー20からの燃焼ガスを排気口15及び出湯口14の双方に向かわせ、もって炉体10内の装入材Mの全体を万遍なく加熱溶融することができる。
【0036】
本実施形態のキュポラによれば、運転時の全過程を通じて炉頂域の温度を最大でも約250℃程度にとどめることができ、炉頂域の過度な高温化を回避することができる。このため、吸気口17の近くに配置されるダンパー33等の制御機器を、通常仕様の機器(つまり特別な耐熱仕様ではない機器)で構成することができ、設備費用の低減を図ることができる。
【0037】
[変更例]本発明の実施形態を以下のように変更してもよい。
上記実施形態では、気流発生手段を、吸気通路31、送風量調節不能なブロワー32及び角度変更可能な弁体又はフラップ体を具備したダンパー33の組合せにより構成した。これに代えて、吸気通路31、例えば可変速モータによって送風量調節可能なブロワー及び(単純な)開閉弁の組合せにより気流発生手段を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】キュポラの概略断面図。
【図2】炉床及び出湯口の予熱時におけるキュポラの概略断面図。
【図3】装入材の予備加熱時におけるキュポラの概略断面図。
【図4】装入材の本加熱時(溶融時)におけるキュポラの概略断面図。
【符号の説明】
【0039】
10…炉体、11…炉床、12…炉壁、14…出湯口、15…排気口、17…吸気口、20…バーナー、31…吸気通路、32…ブロワー、33…ダンパー(31、32及び33は気流発生手段を構成する)、M…装入材(溶融対象物)、z…炉心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融対象物たる装入材を載置可能な炉床及びその炉床から略直立した略円筒状の炉壁を有する炉体と、
炉壁の周方向に沿って設けられると共に、気体燃料又は液体燃料を燃焼させた燃焼ガスを噴射可能な複数のバーナーと、
炉床又はその近傍に設けられた出湯口と、
炉体の炉頂域に設けられた排気口と、
炉体の炉頂域において前記排気口と対向する位置に設けられた吸気口と、
前記吸気口から炉体内に風を吹き込んで吸気口から排気口に向かう気流を炉頂域に発生させるための気流発生手段とを備えたことを特徴とするキュポラ。
【請求項2】
前記気流発生手段は、吸気口から炉体内に吹き込む風量を変化させることにより、吸気口から排気口に向かう気流の強さを調節可能であることを特徴とする請求項1に記載のキュポラ。
【請求項3】
前記排気口の開口面積と前記吸気口の開口面積とがほぼ等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載のキュポラ。
【請求項4】
前記排気口の高さは前記吸気口の高さ以上に設定されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のキュポラ。
【請求項5】
前記複数のバーナーは、出湯口から所定の高さ(h)に設けられると共に、噴射口がほぼ炉心を指向するように水平に固定されていることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載のキュポラ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のキュポラの運転方法であって、
炉体内に装入材を装入する前に、気流発生手段により吸気口から炉体内に風を吹き込んで吸気口から排気口に向かう気流を炉頂域に発生させた状態でバーナーから燃焼ガスを噴射することにより、燃焼ガスが排気口に向かうのを阻止して燃焼ガスの大部分を炉床を経由して出湯口から排出させ、もって炉床及び出湯口を予熱する予熱工程を備えることを特徴とするキュポラの運転方法。
【請求項7】
前記予熱工程後において炉体内に装入材を装入する装入工程と、
装入材の装入後に、気流発生手段による吸気口から排気口に向かう気流を停止することにより、バーナーから噴射された燃焼ガスの大部分を排気口に向かわせ、もって炉体内の装入材を予備的に加熱する工程と、
前記予熱工程において気流発生手段により発生させた風量よりも小さな風量となるように風量調節を行いつつ、再び気流発生手段により吸気口から炉体内に風を吹き込んで吸気口から排気口に向かう気流を炉頂域に発生させることにより、バーナーから噴射された燃焼ガスを排気口及び出湯口の双方に向かわせ、もって炉体内の装入材を本格的に加熱溶融する工程とを更に備えることを特徴とする請求項6に記載のキュポラの運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−51843(P2007−51843A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238430(P2005−238430)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】