説明

キートップ、キーシート、押釦装置、及びキートップの製造方法

【課題】 抜き文字状の表示部をレーザ光により形成した高明度の無彩色や高明度・低彩度の有彩色でなる薄色層を有するキートップについて、高明度の無彩色や高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現すること。
【解決手段】 抜き文字状の表示部を有するキートップについて、視認される側から順に、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層4と、金属調層3と、をキートップ本体2に有し、かつ抜き文字状の表示部6を、それらの各層を同一の所定の抜き文字形状にレーザ光で貫通除去した除去縁7にて形成した。そのため、ありそうでなかった真っ白い白色や鮮明な淡色のキートップ1が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話機、PDA、カーナビゲーション装置、カーオーディオ装置など、各種の押釦装置の操作部に使用する押釦スイッチ用のキートップ、キーシート、押釦装置、及びキートップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前述の各種押釦装置にはキーシートが搭載されている。キーシートは、ゴム状弾性体(例えばシリコーンゴムや熱可塑性エラストマー)でなるベースシートに、複数のキートップを接着剤にて接着し配置した構成となっている。複数のキートップは、その押圧操作により入力ができるようになっており、したがって各キートップにはその押圧操作により入力可能な情報を表示するための表示部が、キートップの天面又は底面に設けられる。
【0003】
このうちキートップの天面に表示部を設けるものには、大別すると、前述の押釦装置の内部光源により照光させると、文字・記号・数字等を抜き文字状に表す抜き文字状の表示部が相対的に明るく見える文字照光タイプと、逆に表示部を除く残余の部分が全面的に相対的に明るく見える全面照光タイプとがある。このうち文字照光タイプは、抜き文字状の表示部を除く残余の面に遮光層を設けることで、キートップを下側から照光したときに、抜き文字状の表示部から光を透過させて、操作者が文字等を明瞭に視認できるようにしたものである。なお、遮光層は光を一切透過しない完全遮光という意味だけでなく、相対的に抜き文字状の表示部が明るく光るように見えるものであればよいので、光が透過するものであってもよい。
【0004】
こうした文字照光タイプにおける抜き文字状の表示部を有する遮光層の形成方法としては、(1)スクリーン印刷やパッド印刷によって抜き文字状にインクを塗布して形成する方法、(2)塗装によってインクを塗布してキートップの天面に全面的に遮光層を形成した後、レーザ光の照射によって文字部分の遮光層を抜き文字状に除去する方法(特許文献1)、とがある。このうち、後者のレーザ光方式は、微細な文字等であっても高品質な抜き文字状の表示部を容易に形成できることから、より好ましい方法とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、携帯電話機等に代表されるように、優れた機能性だけでなく、デザインの独自性が商品力を決める無視できない要素となっている。特に、外観上、抜き文字状の表示部を有する印刷層の色を、純白のような高明度の無彩色としたり、淡い黄色やピンク色といった高明度・低彩度の有彩色とする文字照光タイプのキートップの要請が高くなっている。しかしながら、前述のレーザ光方式により、レーザ光をそのような無彩色や有彩色による薄色層に照射しても、除去しきれずに残ってしまうことがあり、要求品質を充足できる程度に美麗な抜き文字状の表示部を形成することが殆どできなかった。
【0006】
そこで本出願人は、そのような無彩色や有彩色による薄色層の裏面つまりキートップ側に黒色や灰色などの低明度で暗色の中間層を形成し、薄色層の側からレーザ光を低明度で暗色の中間層に対して照射することで、その中間層とともに薄色層を抜き文字状に除去する技術を開発し(特許文献2)、要求品質を充足できる程度に美麗な抜き文字状の表示部を形成することに成功した。ところが、この技術では、薄色層の裏面に低明度で暗色の中間層が存在しているため、中間層が裏写りするような格好で、薄色層が黒ずんだようにして見えてしまい、例えば純白のような高明度の無彩色や高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を得ることができない、という難点があった。
【特許文献1】特開平11−162278号公報
【特許文献2】特開平10−172378号公報
【0007】
以上のような従来技術を背景になされたのが本発明である。その目的は、抜き文字状の表示部をレーザ光により形成した高明度の無彩色や高明度・低彩度の有彩色でなる薄色層を有するキートップについて、高明度の無彩色や高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく本発明は、以下のように構成される。
【0009】
すなわち、本発明は、抜き文字状の表示部を有するキートップについて、視認される側から順に、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層の何れかと、金属調層と、をキートップ本体に有し、かつ抜き文字状の表示部を、それらの各層を同一の所定の抜き文字形状にレーザ光で貫通除去した除去縁にて形成したことを特徴とするキートップを提供する。
【0010】
本発明のキートップは、視認される側から順に、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層と金属調層とをキートップ本体に有する。すなわち、薄色層の下側に金属調層を有することで、薄色層を透過する光は金属調層により反射される。したがって、薄色層が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。また、抜き文字状の表示部は、薄色層と金属調層とを同一の抜き文字形状にレーザ光で貫通除去した除去縁にて形成されることから、微細な文字等であっても高品質な抜き文字状の表示部を実現できる。
【0011】
上記本発明における金属調層は、第1に金属薄膜層として構成される。これによれば、金属薄膜層の金属光沢がもつ反射効果により、薄色層が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。
【0012】
こうした金属薄膜層の材質としては、薄膜形成面(例えば硬質樹脂製のキートップ本体)に薄膜形成しやすい金属が良く、例えばアルミニウム、クロム、ニッケル、亜鉛等にて実現される。そして、このうちアルミニウムにて金属薄膜層を形成すると、容易かつ低コストで薄膜を形成することができる。
【0013】
上記本発明の金属薄膜層は、その層厚は10nm〜100nmとして構成される。層厚が10nm未満では、必要な金属調が得られず薄色層による高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色が変色してしまう。層厚が100nmを超えると、均一な厚みの金属薄膜層が得られにくく加工時間も長くなることから生産性が低下してしまう。
【0014】
また、上記本発明における金属調層は、第2に金属含有塗布層として構成される。これによれば、金属含有塗布層による金属光沢や、メタリック調あるいはパール調といった金属調による反射効果により、薄色層が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。
【0015】
こうした金属含有塗布層の材質は、金属粒子、メタリック顔料、パール顔料を含有する高分子塗料にて実現される。そして、このうちアルミニウムを含有金属とすれば、容易かつ低コストで金属含有塗布層を形成することができる。
【0016】
上記本発明の金属含有塗布層は、その層厚は2μm〜20μmとして構成される。層厚が2μm未満では、必要な金属調が得られず薄色層による高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色が変色してしまう。層厚が20μmを超えると、均一な厚みの金属薄膜層が得られにくく加工時間も長くなり、レーザ光の照射によっても除去しにくくなってしまう。
【0017】
また、上記目的を達成すべく本発明は、複数のキートップをゴム状弾性体でなるベースシートに配置したキーシートについて、キートップとして上記何れかの本発明によるキートップを備えるキーシートを提供する。
【0018】
これによれば、前記キートップによる作用・効果を備えるキーシートが得られる。すなわち、キートップに高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができ、また微細な文字等であっても高品質な抜き文字状の表示部を実現できる。
【0019】
さらに、上記目的を達成すべく本発明は、複数のキートップをゴム状弾性体でなるベースシートに配置したキーシートと、キーシートを内蔵する筐体とを備え、該複数のキートップを筐体に貫通形成した透孔に配置して備える押釦装置について、キートップとして前記何れかの本発明によるキートップをキーシートに備え、少なくともキートップの配置面となる部分における筐体の色を、該キートップの薄色層による高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色と同色としたことを特徴とする押釦装置を提供する。
【0020】
これによれば、少なくともキートップの配置面となる部分における筐体の色を、該キートップの薄色層による高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色と同色としたため、当該部分における筐体の色とキートップの高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色とを同一色としたデザイン性の高い押釦装置を実現できる。なお、こうした押釦装置は、具体的には、携帯電話機、PDA、携帯型音楽再生装置等の携帯情報機器として、またカーナビゲーション装置、カーオーディオ装置などの据置型情報機器として実現される。
【0021】
そして、上記目的を達成すべく本発明は、キートップ本体に、視認される側から順に、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層と、金属調層とを形成し、該薄色層の上方から金属調層に対してレーザ光を照射することで、金属調層と薄色層とを同時に除去し、抜き文字状の表示部を形成するキートップの製造方法を提供する。
【0022】
本発明のキートップの製造方法によれば、視認される側から順に、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層と金属調層とが、キートップ本体に形成される。すなわち、薄色層の下側に金属調層を有することで、薄色層を透過する光は金属調層により反射される。したがって、薄色層が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。また、薄色層の上方から金属調層に対してレーザ光を照射することで、金属調層と薄色層とを同時に除去し、抜き文字状の表示部を形成する。このため、微細な文字等であっても高品質な抜き文字状の表示部を実現できる。
【0023】
上記本発明の製造方法については、金属調層として層厚10nm〜100nmの金属薄膜層を乾式めっき法により形成するものとして構成される。
【0024】
これによれば、金属薄膜層の金属光沢がもつ反射効果により、薄色層が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。そしてこの場合、層厚が10nm未満では、必要な金属調が得られず薄色層が変色してしまい、層厚が100nmを超えると、均一な厚みの金属薄膜層が得られにくく加工時間も長くなることから生産性が低下してしまう。したがって、本発明であれば、こうした不都合がなくキートップを生産することができる。さらに、金属薄膜層を乾式めっき法にて形成するので、層厚10nm〜100nmの金属薄膜層を均一な厚さで効率よく形成できる。その乾式めっき法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンレーティング法などで実施できる。
【0025】
上記本発明の製造方法については、金属調層として層厚2μm〜20μmの金属含有塗布層を印刷法又は塗布法にて形成するものとして構成される。
【0026】
これによれば、金属含有塗布層による金属光沢や、メタリック調あるいはパール調といった金属調による反射効果により、薄色層が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。そしてこの場合、層厚が2μm未満では、必要な金属調が得られず薄色層が変色してしまい、層厚が20μmを超えると、均一な厚みの金属含有塗布層が得られにくく加工時間も長くなり、レーザ光の照射によっても除去しにくくなってしまう。したがって、本発明であれば、こうした不都合がなくキートップを生産することができる。さらに、金属含有塗布層を印刷法又は塗布法にて形成するので、層厚2μm〜20μmの金属含有塗布層を均一な厚さで効率よく形成できる。その印刷法としては、例えばスクリーン印刷、パッド印刷、転写印刷などで実施することができ、塗布法としては、例えば吹付け塗装、静電塗装、電着塗装などで実施することができる。
【0027】
以上のような本発明によるキートップ、キーシート、押釦装置、キートップの製造方法については、キートップ本体として、硬質樹脂の成形体でなるキートップや、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマーといったゴム状弾性体の成形体でなるキートップにて構成できる。また、キートップ本体の天面に、金属調層と薄色層とを積層形成した場合には、キートップ本体の底面に、着色層を設けることができる。これによれば、抜き文字状の表示部に着色層による色彩を付与することができる。さらに、キートップ本体の天面に、金属調層と薄色層とを積層形成した場合には、薄色層を被覆して損傷や摩耗を防ぐ透明保護層を設けることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のキートップ、キーシート、押釦装置、キートップの製造方法によれば、抜き文字状の表示部を有する薄色層が、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色をあらわし、微細な文字等であっても高品質な抜き文字状の表示部を有するキートップを実現できる。このため、ありそうでなかった真っ白い白色(高明度の無彩色)や鮮明な淡色(高明度・低彩度の有彩色)のキートップによって、デザイン性の独自性を追求した商品力の高いキーシート、押釦装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各実施形態で共通する部分については、同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0030】
キートップの第1実施形態〔図1,図2〕; 本実施形態のキートップ1は、図1で示すように、キートップ本体2と、その底面を除く外表面を被覆する「金属調層」としての金属薄膜層3と、金属薄膜層3を被覆する薄色層4と、薄色層4を被覆する透明保護層5と、で構成されている。
【0031】
そして、金属薄膜層3と薄色層4には、抜き文字状の表示部6が形成されている。この表示部6は、金属薄膜層3と薄色層4とを同一の所定の抜き文字形状(図示の例では数字の「0」形状)にレーザ光で貫通除去した除去縁7によって形成されている。前述の透明保護層5は、そこを目地埋めするように充填されることになる。
【0032】
キートップ本体2は、無色透明な硬質樹脂やゴム状弾性体の成形体であり、後述の乾式めっき法により金属薄膜層3を形成することができる素材にて構成される。こうした硬質樹脂としては、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)などを使用することができ、またゴム弾性体としては、天然ゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴム、熱可塑性エラストマーを使用することができる。この中でもポリカーボネート樹脂は、後述の乾式めっき法により金属薄膜層3を直接形成することができることに加え、透明度が特に高く光の透過損失が微小であるため、キートップ1を文字照光タイプのキートップとして使用する場合に、特に望ましい素材として使用することができる。
【0033】
金属薄膜層3は、薄膜形成面となるキートップ本体2に薄膜形成しやすい金属にて形成され、例えば、アルミニウム、クロム、ニッケル、亜鉛等を素材としている。この中でも、アルミニウムを素材とすると、容易かつ低コストで薄膜を形成することができる。また、金属薄膜層3は、層厚が10nm〜100nmのものとなっている。すなわち、層厚が10nm未満では、必要な金属光沢の金属調が得られず薄色層4が見掛け上黒ずんだように変色してしまい、層厚が100nmを超えると、均一な厚みの金属薄膜層が得られにくく加工時間も長くなることから生産性が低下してしまうためである。
【0034】
薄色層4は、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによるインキや塗料によって金属薄膜層3を被覆するように形成した層である。高明度の無彩色でなる薄色層4は、例えば、スクリーン印刷、パッド印刷、転写印刷等の印刷法にて形成した白色インキや、吹付け塗装、静電塗装、電着塗装等の塗布法にて形成した白色塗料にて構成される。高明度・低彩度の有彩色でなる薄色層4も同様に、淡い色、例えば薄い黄色、薄い紅色、薄い緑色などのインキや塗料にて構成される。
【0035】
透明保護層5は、表示部6を目地埋めしつつ薄色層4を被覆するように形成される高分子塗料によって形成される。
【0036】
次に、第1実施形態のキートップ1の製造方法を図2に基づいて説明する。
【0037】
キートップ本体2に、底面を除く残余の外表面に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの乾式めっき法により、層厚10nm〜100nmで金属薄膜層3を形成し、金属薄膜層3の上に薄色層4を、前述した印刷法又は塗布法にて形成する(図2(a))。次に、薄色層4の上方からレーザ光Lを所定の抜き文字形状に沿って金属薄膜層3に対して照射すると(図2(b))、金属薄膜層3とともに薄色層4が除去される(図2(c))。このようにして貫通除去された跡の除去縁7によって抜き文字状の表示部6が形成されることになる。この後は、薄色層4の透明保護層5を形成することで、図1で示すようなキートップ1が得られることとなる。
【0038】
次に、第1実施形態によるキートップ1の作用・効果を説明する。
【0039】
キートップ1は、視認される側から順に、薄色層4と金属薄膜層3とをキートップ本体2に有する。すなわち、薄色層4の裏が金属薄膜層3であるため、薄色層4を透過する光が金属薄膜層3の金属光沢により反射される。したがって、薄色層4が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。
【0040】
抜き文字状の表示部6は、薄色層4と金属薄膜層3とを同一の抜き文字形状にレーザ光で貫通除去した除去縁7にて形成される。このため微細な文字・記号・数字等であっても高品質な抜き文字状の表示部6を実現できる。
【0041】
金属薄膜層3は、アルミニウム、クロム、ニッケル、亜鉛等にて形成できるが、このうち特にアルミニウムにて形成すると、容易かつ低コストで薄膜を形成することができる。
【0042】
金属薄膜層3は、層厚が10nm〜100nmとして形成される。このため、必要な金属光沢を確実に得ることができる。また、厚みを均一にすることができるため、レーザ光Lの出力条件の設定が容易で自動化しやすい。さらに、薄膜の形成時間やレーザ光の照射時間も短くてすみ、生産性が良くリードタイムを短くできる。
【0043】
キートップの第2実施形態〔図3,図4〕; 本実施形態のキートップ8が第1実施形態のキートップ1と相違する点は、図3で示すように、「金属調層」としてキートップ本体2の天面を被覆する金属含有塗布層9を形成した点であり、残余の構成についてはすべて同一である。
【0044】
金属含有塗布層9は、金属粒子、メタリック顔料、パール顔料を含有する高分子塗料によって形成される。このうちアルミニウムを含有金属とすれば、容易かつ低コストで金属含有塗布層9を形成することができる。また、金属含有塗布層9は、層厚は2μm〜20μmとして形成される。すなわち、層厚が2μm未満では、必要な金属光沢の金属調が得られず薄色層4が見掛け上黒ずんだように変色して高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色が得られなくなり、層厚が20μmを超えると、均一な厚みの金属含有塗布層9が得られにくく加工時間も長くなり、レーザ光の照射によっても除去しにくくなってしまうためである。
【0045】
次に、第2実施形態のキートップ8の製造方法を図4に基づいて説明する。
【0046】
キートップ本体2の天面に、吹付け塗装、静電塗装、電着塗装等の塗布法により、層厚2μm〜20μmで金属含有塗布層9を形成する。そして、この金属含有塗布層9の上に薄色層4を、前述の印刷法又は塗布法にて形成する(図4(a))。次に、薄色層4の上方からレーザ光Lを所定の抜き文字形状に沿って金属含有塗布層9に対して照射すると(図4(b))、金属含有塗布層9とともに薄色層4が除去される(図4(c))。このようにして貫通除去された跡の除去縁7によって抜き文字状の表示部6が形成されることになる。この後は、薄色層4の透明保護層5を形成することで、図3で示すようなキートップ8が得られることとなる。
【0047】
次に、第2実施形態による作用・効果を説明する。
【0048】
キートップ8は、視認される側から順に、薄色層4と金属含有塗布層9とをキートップ本体2に有する。すなわち、薄色層4の裏が金属含有塗布層9であるため、薄色層4を透過する光が金属薄膜層3の金属光沢、メタリック調あるいはパール調といった金属調により反射される。したがって、薄色層4が黒ずんだように見えることがなく、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色を実現することができる。
【0049】
キーシート及び携帯電話機の第1実施形態〔図5〕; 図5は、第1実施形態によるキーシート10と、このキーシート10を備える「押釦装置」としての携帯電話機11の要部の概略拡大断面図である。
【0050】
キーシート10は、相互に狭間配置された複数のキートップ1とベースシート12とを備える。なお、図面上は3つのキートップ1が表れているが、実際にはベースシート12の面方向で多行多列で複数のキートップ1を備えている。複数のキートップ1は、第1実施形態に対応するキートップ1であり、それぞれのキートップ1に応じて除去縁7による抜き文字状の形状が異なる表示部6が形成されている。これらキートップ1は透明接着層13によってベースシート12に固着されている。ベースシート12は、シリコーンゴムや熱可塑性エラストマー等の透光性のゴム状弾性体にて形成されている。このキーシート12は、携帯電話機11の筐体14に貫通形成した透孔14a内に複数のキートップ1を一括配置したいわゆる狭間キーシートである(関連する先行技術文献として特開2004−319396号公報を参照。)。このためベースシート12には、その上面側に硬質樹脂製の補強枠15が設けられており、ベースシート12に歪みが発生しないようにされている。
【0051】
ベースシート12の下には基板16が収容されている。基板16には、照光用光源16aが実装されており、これが発光することで光がベースシート12とキートップ本体2を透過し、抜き文字状の表示部6を通じて外部へと照光する。
【0052】
キーシート10と基板16とを収容する筐体14は、少なくともキートップ1の配置面側部分14bの色が、キートップ1の薄色層4による高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色と同色とした、硬質樹脂の成形体にて構成されている。
【0053】
次に、第1実施形態のキーシート10及び携帯電話機11による作用・効果を説明する。
【0054】
本実施形態のキーシート10及び携帯電話機11によれば、前述した第1実施形態のキートップ1と同じ作用・効果を奏することができる。このことに加えて、携帯電話機11の筐体14は、キートップ1の配置面側部分14bの色が、キートップ1の薄色層4の高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色がもつ本来の発色と同じ色となっている。このため、筐体14の色とキートップ1の高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色とを同一色としたデザイン性の高い携帯電話機11を実現することができる。その具体例としては、例えば、外観上の携帯電話機11の筐体14とキートップ1の色とを、真っ白の白色(高明度の無彩色)に統一したデザインとしたり、あるいは淡い色、例えば薄い黄色、薄い紅色、薄い緑色などの淡色(高明度・低彩度の有彩色)にて統一したデザインとすることができる。
【0055】
キーシート及び携帯電話機の第2実施形態〔図6〕; 図6は、第2実施形態によるキーシート17と、このキーシート17を備える「押釦装置」としての携帯電話機11の要部の概略拡大断面図である。なお、第1実施形態によるキーシート10及び携帯電話機11との相違点は、前述した第2実施形態のキートップ8を備える点であり、残余の構成は同一である。
【0056】
本実施形態のキーシート17及び携帯電話機11によれば、前述した第1実施形態のキートップ1と同じ作用・効果を奏することができることに加えて、第1実施形態によるキーシート10及び携帯電話機11と同様に、デザイン性の高い携帯電話機11を実現することができる。
【実施例】
【0057】
次に、実施例を列挙して更に詳細に説明する。
【0058】
実施例1; 実施例1のキートップは、前述の第1実施形態によるキートップ1と同一の製造方法により同一の構成として得たキートップである。実施例1のキートップは、キートップ本体(2)としてポリカーボネート樹脂成形体を用いた。金属薄膜層(3)としては、層厚50nmのアルミニウム金属薄膜層を真空蒸着法により形成した。高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層(4)としては、層厚5μmの白色層を形成した。そして、抜き文字状の表示部(6)は、レーザ光Lを照射して形成した。これによって得られたキートップは、白色層が黒ずんだように見えることがなく、白色がもつ本来の発色を表すことができるものとなった。また、抜き文字状の表示部(6)も、除去縁(7)が微細で高品質なものが得られた。
【0059】
この実施例1のキートップについては、アルミニウム金属薄膜層の層厚を、10nm,20nm,50nm,80nm,100nmとして異ならせて、それぞれ層厚5μmの白色層を積層形成したキートップ(実施例1a、1b、1c、1d、1e)を各々作製して、通常使用時と照光時(緑色LED発光時)における白色層の色調を確認した。なお、比較例として、層厚5nmのアルミニウム金属薄膜層のキートップ(比較例1a)と、層厚110nmのアルミニウム金属薄膜層のキートップ(比較例1b)も作製し、同様に白色層の色調を確認する試験を行った。以上の確認試験の結果を、表1に示す。
【表1】

【0060】
この表1の結果によれば、実施例1a〜1eでは何れも通常時(非照光時)における白色層は何れも黒ずみのない白色に見えるのに対し、アルミニウム金属薄膜層が5nmの比較例1aでは、白色層が灰色に見て取れる結果となった。これは、そのようなアルミニウム金属薄膜層では、白色層を透過した光を反射するのに十分な金属光沢が得られないことが原因と解される。
【0061】
また、実施例1a、1bでは、照光時に白色層が緑色に見て取れるのに対し、実施例1c〜1eでは白色層の白色に見て取れる結果となった。このことから、実施例1a、1bのように層厚10nm,20nmのアルミニウム金属薄膜層では、照光用光源の光を遮光するには厚みが不十分であるのに対し、層厚50nm,80nm,100nmであれば、アルミニウム金属薄膜層によって照光用光源の光を遮光できることが分かる。
【0062】
さらに、アルミニウム金属薄膜層の層厚を110nmとした比較例1bでは、白色層に形成した抜き文字状の表示部に抜け残り、つまりアルミニウム金属薄膜層や白色層を除去しきれず、高品質なキートップが得られないことが分かる。これに対して実施例1a〜1eでは、抜き文字状の表示部に抜け残りが見て取れず、高品質なキートップが得られることを確認できた。
【0063】
実施例2; 実施例2のキートップは、前述の第2実施形態によるキートップ8と同一の製造方法により同一の構成として得たキートップである。実施例2のキートップは、キートップ本体(2)としてポリカーボネート樹脂成形体を用いた。金属含有塗布層(9)としては、層厚4μmのアルミニウム含有塗布層を塗布法により形成した。高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層(4)としては、層厚5μmの白色層を形成した。そして、抜き文字状の表示部(6)は、レーザ光Lを照射して形成した。これによって得られたキートップは、白色層が黒ずんだように見えることがなく、白色がもつ本来の発色を表すことができるものとなった。また、抜き文字状の表示部(6)も、除去縁(7)が微細で高品質なものが得られた。
【0064】
この実施例2のキートップについても、アルミニウム含有塗布層の層厚を、2μm,4μm,10μm,20μmとして異ならせて、それぞれ層厚5μmの白色層を積層形成したキートップ(実施例2a、2b、2c、2d)を各々作製して、通常使用時と照光時(緑色LED発光時)における白色層の色調を確認した。なお、比較例として、層厚1μmのアルミニウム含有塗布層のキートップ(比較例2a)と、層厚25μmのアルミニウム含有塗布層のキートップ(比較例2b)も作製し、同様に白色層の色調を確認する試験を行った。以上の確認試験の結果を、表2に示す。
【表2】

【0065】
この表2の結果によれば、実施例2a〜2dでは何れも通常時(非照光時)における白色層は何れも黒ずみのない白色に見えるのに対し、アルミニウム含有塗布層が1μmの比較例2aでは、白色層に灰色斑が見て取れる結果となった。これは、そのようなアルミニウム含有塗布層では、白色層を透過した光を反射するのに十分な金属光沢が得られないことが原因と解される。
【0066】
また、実施例2a、2bでは、照光時に白色層が緑色に見て取れるのに対し、実施例2c、2dでは白色層の白色に見て取れる結果となった。このことから、実施例2a、2bのように層厚2μm,4μmのアルミニウム含有塗布層では、照光用光源の光を遮光するには厚みが不十分であるのに対し、実施例2c、2dのように層厚10μm,20μmであれば、アルミニウム含有塗布層によって照光用光源の光を遮光できることが分かる。
【0067】
さらに、アルミニウム含有塗布層の層厚を25μmとした比較例2bでは、白色層に形成した抜き文字状の表示部に抜け残り、つまりアルミニウム含有塗布層や白色層を除去しきれず、高品質なキートップが得られないことが分かる。これに対して実施例2a〜2dでは、抜き文字状の表示部に抜け残りが見て取れず、高品質なキートップが得られることを確認できた。
【0068】
実施形態の変形例; 以上説明した実施形態及び実施例は例示であって、様々な変形例による実施が可能である。その一例を説明すると、前記第1実施形態及び第2実施形態のキートップ1,8では、キートップ本体2の天面に薄色層4と、金属薄膜層3と金属含有塗布層9とを形成したが、底面に形成してもよい。すなわちこの場合には、例えばキートップ本体2の底面に薄色層4を形成してから、その薄色層4を覆うように金属薄膜層3又は金属含有塗布層9を形成し、その後、キートップ本体2の上方からレーザ光Lを、キートップ本体2と薄色層4とを透過させて金属薄膜層3又は金属含有塗布層9に照射し、これによって金属薄膜層3又は金属含有塗布層9と薄色層4を除去することで、所定の抜き文字状の表示部6を形成することができる。
【0069】
前記第1実施形態及び第2実施形態のキートップ1,8については、キートップ本体2の底面に着色層を設けるようにしてもよい。こうした着色層を設けることで、抜き文字状の表示部6を通じてその下側が見えないように目隠しすることができたり、また抜き文字状の表示部6に色彩を付与することができ、さらにデザイン性を向上させることができる。この場合には、透明接着層13を有色の透明接着層として構成してもよい。
【0070】
前記第1実施形態及び第2実施形態のキートップ1,8については、透明保護層5を設けるようにしたが、省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態によるキートップを示す図で、分図(a)は平面図、分図(b)はSA−SA線断面図。
【図2】図1のキートップの製造工程を示す図。
【図3】第2実施形態によるキートップを示す図で、分図(a)は平面図、分図(b)はSB−SB線断面図。
【図4】図3のキートップの製造工程を示す図。
【図5】第1実施形態によるキーシート及び携帯電話機を示す要部拡大断面図。
【図6】第2実施形態によるキーシート及び携帯電話機を示す要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0072】
1 キートップ(第1実施形態)
2 キートップ本体
3 金属薄膜層(金属調層)
4 薄色層
5 透明保護層
6 表示部
7 除去縁
8 キートップ(第2実施形態)
9 金属含有塗布層
10 キーシート(第1実施形態)
11 携帯電話機
12 ベースシート
13 透明接着層
14 筐体
14a 透孔
14b 配置面側部分
15 補強枠
16 基板
16a 照光用光源
17 キーシート(第2実施形態)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜き文字状の表示部を有するキートップにおいて、
視認される側から順に、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層と、金属調層と、をキートップ本体に有し、かつ抜き文字状の表示部を、それらの各層を同一の所定の抜き文字形状にレーザ光で貫通除去した除去縁にて形成したことを特徴とするキートップ。
【請求項2】
金属調層が、金属薄膜層である請求項1記載のキートップ。
【請求項3】
金属薄膜層の層厚が10nm〜100nmである請求項2記載のキートップ。
【請求項4】
金属薄膜層がアルミニウム層である請求項2又は請求項3記載のキートップ。
【請求項5】
金属調層が、金属含有塗布層である請求項1記載のキートップ。
【請求項6】
金属含有塗布層の層厚が2μm〜20μmである請求項5記載のキートップ。
【請求項7】
金属含有塗布層の含有金属がアルミニウムである請求項5又は請求項6記載のキートップ。
【請求項8】
複数のキートップをゴム状弾性体でなるベースシートに配置したキーシートにおいて、
キートップとして請求項1〜請求項7何れか1項記載のキートップを備えるキーシート。
【請求項9】
複数のキートップをゴム状弾性体でなるベースシートに配置したキーシートと、キーシートを内蔵する筐体とを備え、該複数のキートップを筐体に貫通形成した透孔に配置して備える押釦装置において、
キートップとして請求項1〜請求項7何れか1項記載のキートップをキーシートに備え、少なくともキートップの配置面となる部分における筐体の色を、該キートップの薄色層による高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色と同色としたことを特徴とする押釦装置。
【請求項10】
キートップ本体に、視認される側から順に、高明度の無彩色又は高明度・低彩度の有彩色の何れかによる薄色層と、金属調層とを形成し、該薄色層の上方から金属調層に対してレーザ光を照射することで、金属調層と薄色層とを同時に除去し、抜き文字状の表示部を形成するキートップの製造方法。
【請求項11】
金属調層として層厚10nm〜100nmの金属薄膜層を乾式めっき法により形成する請求項10記載のキートップの製造方法。
【請求項12】
金属調層として層厚2μm〜20μmの金属含有塗布層を印刷法又は塗布法にて形成する請求項10記載のキートップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−190497(P2006−190497A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381904(P2004−381904)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】