説明

ギアノイズ測定装置

【課題】有害な反射音の発生を防止、又は抑制して、供試体から発せられるノイズの測定精度を高めることである。
【解決手段】ベースに搭載された模擬エンジン用、及び模擬負荷用の各ダイナモD1 〜D3 と、供試体を取付けるための供試体取付ブラケットと、該供試体取付ブラケットに取付けられる前記供試体のみを露出させて、前記各ダイナモ等の全てのノイズ発生体から発生されるノイズを防音すべく前記ノイズ発生体の全てを覆うために、所定間隔をおいて対向配置された一組の防音カバーC1 とを備えたノイズ測定装置であって、前記一組の防音カバーの少なくとも一方の防音カバーC1 の対向面を、供試体ブラケットである小面積のアダプタ22が頂部となるように、複数の傾斜平面1,2と曲面4との組み合わせで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び負荷を模擬した各ダイナモを用いて、試験室において自動車のトランスミッション等の供試体を現実の使用状態のように駆動して、駆動時に発生するギアノイズ(騒音)を測定して評価するためのギアノイズ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10及び図11は、供試体であるFF(Front-Engine・Front-Drive)車のトランスミッションT1 のノイズを測定している状態の従来のギアノイズ測定装置A’の正面図、及び平面図である。ギアノイズ測定装置A’は、模擬エンジンとして作用する第1ダイナモD1 と、模擬負荷として作用する第2及び第3の各ダイナモD2,D3 との3つのダイナモD1 〜D3 を備えている。共通ベースVcの上に、長手方向に所定間隔をおいて各ベースV',V0 が据え付けられて、ベースV' には、第1及び第3の各ダイナモD1,D3 の各軸DS1,DS3 がトランスミッションT1 の入力軸TS0 と第2出力軸TS2 の配置に対応して水平方向、及び垂直方向(高さ方向)にそれぞれ所定間隔をおいて配置され、ベースV0 には、トランスミッションT1 の第1出力軸TS1 の配置に対応して第2ダイナモD2 が配置されている。第1〜第3の各ダイナモD1,D2,D3 の各軸DS1,DS2,DS3 の軸端は、それぞれ中間軸受53,54,55で支持され、各中間軸受53,54,55と各ダイナモD1,D2,D3 との間に露出している各軸DS1,DS2,DS3 は、それぞれ軸カバー56,57,58が覆われている。各軸カバー56,57,58の内部には、接続カップリングと伝達トルク測定のためのトルク計(いずれも図示せず)とが同軸に配置されている。なお、上記説明において「ダイナモの軸」とは、ダイナモに直接に設けられた軸のみならず、当該軸にカップリングを介して接続された(中間)軸を含む概念である。
【0003】
供試体であるトランスミッションT1 は、ベースV’におけるベースV0 と対向する側の端部に垂直に支持された供試体取付ブラケット59の外側の取付け面59aに取付けられている。トランスミッションT1 の入力軸TS0 は、第1ダイナモD1 の軸DS1 に確動継手により連結され、トランスミッションT1 の第1及び第2の各出力軸TS1,TS2 は、第2及び第3の各ダイナモD2,D3 の軸DS2,DS3 にそれぞれフランジ連結される。また、供試体であるトランスミッションT1 を除く他の音発生源(第1〜第3の各ダイナモD1 〜D3 ,各中間軸受53,54,55等)は、各ベースV',V0 と略同一の平面形状を有していて、底面が開口された略直方体箱状の防音カバーC',C0 により覆われている。更に、供試体であるトランスミッションT1 の前方、上方、及び両側方の計4箇所には、供試体であるトランスミッションT1 から発せられるギアノイズを測定するためのマイクロフォンMが供試体に近接して配置されている。
【0004】
しかし、2つの防音カバーC',C0 の対向面61,62が互いに平行であるために、音源である供試体から発せられた直接音と、該直接音が前記対向面61,62に当たって反射する反射音とが重畳され、その重畳状態によっては、直接音と反射音の山側又は谷側が互いに重なることにより大きな波となって、強い音が発生したり、或いは直接音と反射音との一方の山側と他方の谷側とが重なることにより、波が打ち消されて、音が発生しなくなる現象(このような波のことを「定在波」と称されている)が発生する。一方、供試体はベースV’に垂直な平面状であって、しかも面積の大きな供試体取付ブラケット59に取付けられているため、供試体から発せられた直接音は、直ぐ近くの前記ブラケット59により反射されて、直接音と干渉してしまう問題がある。このように、上記した「定在波」の発生、及び供試体の近くのブラケット59による反射音との干渉により、音源である供試体のギアノイズ(騒音)をそのまま正確に測定できないために、測定誤差が不可避的に発生して測定精度が低かった。
【0005】
ここで、上記した「定在波」の発生を抑制するために、各防音カバーC’,C0 の対向面61,62に吸音材を貼り付けることも考えられるが、供試体から発生するノイズの測定精度を満足し得るまでの吸音効果を得るのは難しい。また、特許文献1には、水中音響関連の各種吸音材の吸音率の測定のための「残響水槽」において、水槽の対向壁面を非平行とする技術は存在するが、ギアノイズ測定装置は、一方の防音カバーの対向面に近接して取付けられた供試体のギアノイズを測定するという特殊の条件が加わるために、特許文献1の技術をそのまま援用しても、供試体の発生ノイズの測定精度は向上しない。
【特許文献1】特開昭61−61017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ギアノイズ測定装置において、防音カバー、及び供試体取付ブラケットの各形状の工夫により、有害な反射音の発生を防止、又は抑制して、供試体から発せられるギアノイズの測定精度を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための請求項1の発明は、ベースに搭載された模擬エンジン用、及び模擬負荷用の各ダイナモと、供試体を取付けるために前記ベースに対して略垂直に固定された供試体取付ブラケットと、該供試体取付ブラケットに取付けられる前記供試体のみを露出させて、前記各ダイナモ等の全てのノイズ発生体から発生されるノイズを防音すべく前記ノイズ発生体の全てを覆うために、所定間隔をおいて対向配置された一組の防音カバーとを備え、前記模擬負荷用ダイナモにより供試体に負荷を発生させた状態で、前記模擬エンジン用ダイナモにより供試体を駆動させて生ずるギアノイズを測定するための供試体のノイズ測定装置であって、前記一組の防音カバーの少なくとも一方の対向面は、小面積のアダプタ状の供試体取付ブラケットが頂部となるように、複数の傾斜平面又は連続曲面、或いはこれらの組み合わせで構成されて、前記一組の防音カバーの各対向面が非平行となっていることを特徴としている。
【0008】
請求項1の発明によれば、一組の防音カバーの少なくとも一方の対向面は、供試体取付ブラケットとして機能する小面積のアダプタが頂部となるように、複数の傾斜平面又は連続曲面、或いはこれらの組み合わせで構成されて、一組の防音カバーの各対向面を互いに非平行にしてあるので、供試体から発生されるギアノイズは、複数の傾斜面又は連続曲面で構成された防音カバーの対向面において効果的に拡散されて、従来のように、各対向面が平行な場合に発生し易い「定在波」の発生を抑制できる。また、供試体取付ブラケットは、複数の傾斜平面又は連続曲面、或いはこれらを組み合わせた形状で形成された防音カバーの対向面の略頂部に小面積の「アダプタ状のブラケット」となって配置されているため、アダプタ状の供試体取付ブラケットに取付けられる供試体と、複数の傾斜平面又は連続曲面、或いはこれらの組み合わせで構成される防音カバーの対向面との間に所定の距離が形成されて、供試体からの「直接音」と対向面で反射された「反射音」とが干渉しなくなる。この結果、供試体から発生する「直接音」のみが測定されて、ギアノイズの測定精度が高められる。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、下面が開口した直方体箱状の防音カバーの対向面は三面体で構成されて、前記三面体の上下方向の稜線部に、全面が曲面で構成された拡散バッフル体が下端まで延長して設けられて、前記拡散バッフル体の上端部にアダプタ状の供試体取付ブラケットが配置されていることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明によれば、対向する他方の防音カバーの対向面が垂直平面状であっても、三面体で構成されて、アダプタ状の供試体取付ブラケットを設けた防音カバーの対向面には、他方の防音カバーの垂直平面状の対向面と平行な部分が全くなくなって、供試体から発生されるギアノイズの拡散効果が高められる。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明において、下面が開口した直方体箱状の防音カバーの対向面は二面体で構成されて、前記二面体の上下方向の稜線部に、全面が曲面で構成された拡散バッフル体が全高に亘って設けられて、前記拡散バッフル体の高さ方向の略中央部にアダプタ状の供試体取付ブラケットが配置されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明によれば、アダプタ状の供試体取付ブラケットを設けた防音カバーの対向面が二面体で構成されている点を除いて、請求項2の発明とほぼ同一の作用効果が奏される。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、防音カバーの対向面を構成する複数の傾斜面又は連続曲面と、前記対向面に設けられた拡散バッフル体の表面とには、吸音処理が施されていることを特徴としている。
【0014】
請求項4の発明によれば、防音カバーの対向面、及び供試体取付ブラケットの各形状によって、「定在波」の発生、及び直接音と供試体取付ブラケットで反射された反射音との干渉が抑制されるのに加えて、防音カバーの対向面を構成する複数の傾斜面又は連続曲面と、前記対向面に設けられた拡散バッフル体の表面とに吸音処理を施すことにより、反射音の発生自体を抑制できて、供試体から発せられるギアノイズ測定の精度が一層に高められる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一組の防音カバーの少なくとも一方の対向面は、供試体取付ブラケットとして機能する小面積のアダプタが頂部となるように、複数の傾斜面又は連続曲面、或いはこれらを組み合わせた形状で構成されて、一組の防音カバーの各対向面を互いに非平行にしてあるので、供試体から発生される音(ノイズ)は、複数の傾斜面又は連続曲面で構成された防音カバーの対向面において効果的に拡散されて、従来のように、各対向面が平行な場合に発生し易い「定在波」の発生を抑制できる。この結果、供試体から発生する「直接音」のみが測定されて、ノイズの測定精度が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、最良の実施形態を挙げて本発明について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1ないし図4に、供試体であるFF車のトランスミッションT1 のギアノイズを測定するための本発明の実施例1のギアノイズ測定装置A1 が示されている。図1は、供試体であるFF車のトランスミッションT1 を取付けた状態において、各防音カバーC1 ,C0 の部分を破断したギアノイズ測定装置A1 の正面図であり、図2は、同じく平面図であり、図3は、ベースV1 に搭載された各試験機器を防音カバーC1 で覆った状態における一部を破断した斜視図であり、図4は、ベースV1 に搭載された各試験機器と、防音カバーC1 と、拡散バッフル体B1 との分解斜視図である。なお、「従来技術」で説明した部分と同等又は同一の部分には同一符号を付し、重複説明を避けて、本発明の独自の部分についてのみ説明する。実施例1の防音カバーC1 は、第2ダイナモD2 等を覆っている別の防音カバーC0 と対向する面が略三面体で構成されている点に特徴を有する。即ち、防音カバーC1 は、略直方体箱状であるが、その対向面10は、上傾斜面1と、左右の各側傾斜面2と、各側傾斜面2の稜線部に対応する部分に形成された開口3に配設される拡散バッフル体B1 の前面の曲面4との各部分で構成された非平面となっていて、別の防音カバーC0 の対向面62と非平行となっている。
【0018】
また、ベースV1 の平面形状は、防音カバーC1 の対向面10が略三面体の立体形状に形成されていることに対応していて、一対の長辺11と一つの短辺12の他に、防音カバーC1 の対向面10の各側傾斜面2に対応する一対の傾斜辺13と、前記短辺12と平行であって、防音カバーC1 の開口3に対応する平行短辺14とを備えている。また、ベースV1 は、耐振性を高めるべく、上下の各ベース分割体V11,V12を粘着性樹脂を介して積層させた構造であって、上ベース分割体V11の中央部に形成された略枠状をした被嵌合リブ15に、下ベース分割体V12の中央部に軍艦状に上方に突出して形成された機器据付け部16が嵌合される。なお、上下の各ベース分割体V11,V12のコーナー部には、該コーナー部の角度を二分する方向に放射リブ17が設けられていて、コーナー部の耐振性を高めている。
【0019】
また、上ベース分割体V11の前記平行短辺14の部分には、ブラケット基板18が垂直となって一体に取付けられ、ブラケット基板18は、その背面側において左右一対の傾斜支柱19で支持されている。ブラケット基板18の前面には、第1ダイナモD1 の軸DS1 と同心のアダプタ用円筒体21が固着されていて、該アダプタ用円筒体21の前端面には、供試体であるトランスミッションT1 を取付けるためのアダプタ22が取付けられている。第1ダイナモD1 の軸DS1 の端部を支持する中間軸受53の一部は、前記アダプタ用円筒体21の内部に挿入されている。また、ブラケット基板18の前面における第3ダイナモD3 の軸DS3 の延長線上には、供試体であるトランスミッションT1 の第2出力軸TS2 を挿通させるための軸挿通用ダクト23がブラケット基板18を貫通して一体に取付けられている。トランスミッションT1 の第2出力軸TS2 が挿通される軸挿通用ダクト23内には、防音カバーC1 の内部で発生した音が外部に漏れるのを防止するために、公知の防音手段が設けられている。公知の防音手段としては、例えば軸挿通用ダクトの内周面に多数枚の防音リングを所定間隔をおいて設ける構成が挙げられる。
【0020】
ブラケット基板18の前面には、その前面の平面部を解消するために拡散バッフル体B1 が粘着性樹脂を介して貼り付けられる。拡散バッフル体B1 は、その前面が曲面4で構成されることが重要であって、その材質は問われないが、ブラケット基板18に制振性を付与する観点からは、該ブラケット基板18と同程度の剛性を有することが望ましい。実施例1の拡散バッフル体B1 は、金属板をわん曲させて形成されており、前記アダプタ用円筒体21及び軸挿通用ダクト23を挿通させるための各挿通孔21a,23aが所定位置にそれぞれ形成されている。拡散バッフル体B1 は、前記アダプタ用円筒体21及び軸挿通用ダクト23が斜め方向に配置される部分の幅が最も広くなっていて、当該部分から上方及び下方に向けて幅は徐々に狭くなっている。
【0021】
図3に示されるように、上ベース分割体V11に垂直に取付けられたブラケット基板18の前面に拡散バッフル体B1 を貼り付けると、前記ブラケット基板18の前面、両側端面、及び上端面の全ては拡散バッフル体B1 で覆われて、アダプタ用円筒体21は、拡散バッフル体B1 の表面から長さ(L)〔図1参照〕だけ突出する。アダプタ用円筒体21の拡散バッフル体B1 から突出する長さ(L)は、長い程、防音カバーC1 の対向面10からの供試体の距離が長くなって、後述する反射音の影響を少なくすることができる。ベースV1 を防音カバーC1 で覆って、その下端周縁部に一体に形成された複数の折曲げ片5を下ベース分割体V12の非設置下面に重ね合わせると、防音カバーC1 の対向面10の開口3は、その前面に配置されるブラケット基板18により全体が覆われる。拡散バッフル体B1 は、防音カバーC1 の左右一対の側傾斜面2の稜線部を覆うように配置されて、その上端はカバーC1 の上傾斜面1に接続するために、拡散バッフル体B1 の上端部には、水平面部が形成され、この水平面部は、供試体であるトランスミッションT1 をアダプタ22に取付ける際の部品類、工具類を仮置きするための小物置部24として機能する。防音カバーC1 の内側には、断熱材6が貼り付けられている。なお、ベースV1 に据え付けられたダイナモD1,D3 等の各機器を防音カバーC1 で覆うと、防音カバーC1 の各側傾斜面2とブラケット基板18との間に隙間が形成されるので、前記隙間は、横断面形状が楔状の目地板7(図3参照)により塞がれている。
【0022】
なお、ベースV0 の上面に据え付けられる第2ダイナモD2 ,中間軸受54等の機器の構成、及び前記機器を覆う防音カバーC0 の構成は、いずれも「従来技術」で説明した通りである。
【0023】
このように、所定間隔をおいて対向配置された略直方体箱状をした2つの防音カバーC1,C0 のうち一方の防音カバーC1 の対向面10は、上傾斜面1と左右一対の側傾斜面2と、各側傾斜面2の稜線部に上下方向に配置された拡散バッフル体B1 の前面の曲面4とで構成され、しかも供試体であるトランスミッションT1 を取付けるためのアダプタ22は、前記対向面10のうち最も突出した部分に配置された構成となる。上傾斜面1の傾斜角度(θ)は、大きい程望ましいが、実用的には30°程度が好ましい。このため、他方の防音カバーC0 の対向面62が垂直平面で構成されていても、2つの防音カバーC1,C0 の各対向面10,62は、非平行となる(図1及び図2参照)。
【0024】
このため、図5及び図6に示されるように、トランスミッションT1 から発生した直接音は、防音カバーC1 の対向面10を構成する拡散バッフル体B1 の曲面4を主体にして、上側傾斜面1、左右一対の側傾斜面2においても一次反射された後に、直接音と同一経路を通ることなく、即ち直接音と干渉することなく周囲に拡散されるために、供試体の周囲に配置されたマイクロフォンMにより検知される反射音のレベルは極めて小さくなる。図5及び図6は、トランスミッションT1 から発生された直接音が一次反射により拡散される状態を示す正面図、及び平面図である。しかも、供試体を取付けるためのアダプタ22は、略三面体状をした防音カバーC1 の対向面10の最も突出した頂部に配置されていて、前記アダプタ22に供試体が取付けられるために、略三面体状をした対向面10と供試体との距離は、従来の防音カバーC’の対向面61のように垂直平面の場合に比較して、遥かに長くなる。このため、供試体に近接して配置された各マイクロフォンMにより検知される反射音のレベルは、供試体に近接して垂直平面が存在している場合に比較して極めて小さくなる。
【0025】
上記したように、供試体から発せられた音は、一次反射の時点で周囲に大きく拡散されるために、マイクロフォンMで検知される反射音のレベルは著しく小さくなって「定在波」の発生を防止又は抑制できて、実質的には直接音のみが検知される結果となって、供試体であるトランスミッションT1 から発生されるギアノイズを高精度で測定できる。
【実施例2】
【0026】
次に、FR(Front-Engine・Rear-Drive) 車のトランスミッションT2 のギアノイズを測定するための本発明の実施例2のギアノイズ測定装置A2 について説明する。図7は、FR車のトランスミッションT2 のギアノイズを測定するためのギアノイズ測定装置A2 の各防音カバーC2,C0 の部分を破断した平面図であり、図8は、防音カバーC2 の一部を破断した斜視図である。FR車のトランスミッションT2 は、1本の出力軸TS1 のみを有する構造であるために、防音カバーC2 の対向面10’を前記防音カバーC1 と同様に略三面体で構成する場合には、拡散バッフル体B2 の幅方向の中央にアダプタ用円筒体21’が配置可能となって、拡散バッフル体B2 は、左右対称形状にできる。FR車用のトランスミッションT2 のノイズ測定装置A2 の構成は、基本的にはFF車のトランスミッションT1 のノイズ測定装置A1 と同等であるので、ノイズ測定装置A2 に関しては、前記ノイズ測定装置A1 と同等部分において「同一符号」に「’」を付して図示のみ行なう。
【0027】
FR車のトランスミッションT2 のノイズ測定装置A2 に使用される防音カバーC2 においても、その対向面10’と、別の防音カバーC0 の対向面62とが非平行となって、防音カバーC2 の対向面10’を構成する上傾斜面1、左右一対の側傾斜面2、及び拡散バッフル体B2 の曲面4において、トランスミッションT2 からの音が一次反射される際に、大きく拡散される作用は、上記と同一である。
【実施例3】
【0028】
次に、図9を参照にして、実施例3の防音カバーC3 について説明する。防音カバーC3 は、FR車のトランスミッションT2 のノイズ測定装置に使用されるものであって、前記防音カバーC3 の対向面10’が略三面体で構成されているのに対して、防音カバーC3 の対向面10”は、略二面体で構成されている点が異なる。即ち、防音カバーC3 の対向面10”は、左右一対の側傾斜面2’と、該一対の側傾斜面2’の稜線部に全高に亘って配置された拡散バッフル体B3 の前面の曲面4”とで形成される。このため、防音カバーC3 の天板面8は、対向面10”の部分まで平面を維持して延長されている。この防音カバーC3 の対向面10”によっても、トランスミッションT2 から直接に発せられた音が一次反射する際に、大きく拡散させられる。
【0029】
また、前記実施例1〜3においては、防音カバーの対向面は、傾斜平面と曲面とで構成された略三面体、略二面体の場合について説明したが、本発明においては、対向配置される2つの防音カバーの対向面が非平行になればよいのであるが、対向面の理想形状は、供試体取付ブラケットに取付けられた供試体が空間に浮いているような状態となって、周囲に何も存在しないことであり、この観点からは「コーン形状」が理想形状であるが、ベースに安定して据え付け可能にするために、底面が全面が開口する上記形状を採用している。従って、防音カバーの対向面の形状は、四面以上の多面体形状、複数の傾斜平面と曲面の組み合せ、全体が連続した複数の曲面の組み合わせ等の無数の形状が存在するが、供試体から発せられた音が一次反射する際に、高い拡散機能を有して、「定在波」の発生を防止できればよいので、実施例1〜3で挙げた形状が望ましい。
【0030】
また、対向配置される2つの防音カバーの少なくとも一方の対向面を複数の傾斜平面又は連続曲面、或いはこれらの組み合わせにより形成するのに加えて、対向面に吸音材を貼り付ける等の吸音処理を施すことにより、反射音自体を小さくすることによっても、供試体が発生するノイズの測定精度を一層に高めることができる。
【0031】
また、「定在波」の発生を防止する観点からは、実施例1,2のように、対向配置される2つの防音カバーの一方の対向面のみの形状を上記のように変形させれば十分であるが、各防音カバーの対向面の双方を変形させてもよい。
【0032】
なお、本発明のノイズ測定装置の測定対象ノイズは、トランスミッションのギアノイズに限られず、電気自動車のモータ、シャフト、ジョイント等の他の自動車部品のノイズの測定評価用としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】供試体であるFF車のトランスミッションT1 を取付けた状態において、各防音カバーC1 ,C0 の部分を破断したギアノイズ測定装置A1 の正面図である。
【図2】同じく平面図である。
【図3】ベースV1 に搭載された各試験機器を防音カバーC1 で覆った状態における一部を破断した斜視図である。
【図4】ベースV1 に搭載された各試験機器と、防音カバーC1 と、拡散バッフル体B1 との分解斜視図である。
【図5】トランスミッションT1 から発生された直接音が一次反射により拡散される状態を示す正面図である。
【図6】同じく平面図である。
【図7】FR車のトランスミッションT2 のギアノイズを測定するためのギアノイズ測定装置A2 の各防音カバーC2,C0 の部分を破断した平面図である。
【図8】防音カバーC2 の一部を破断した斜視図である。
【図9】防音カバーC3 の斜視図である。
【図10】FF車のトランスミッションT1 のノイズを測定している状態の従来のギアノイズ測定装置A’の正面図である。
【図11】同じく平面図である。
【符号の説明】
【0034】
1,A2 :ギアノイズ測定装置
1 〜B3 :拡散バッフル体
1 〜C3 :防音カバー
1 〜D3 :ダイナモ(ノイズ発生体)
1 :ベース
1:上傾斜面
2,2’:側傾斜面
4,4',4”:拡散バッフル体の曲面
18:ブラケット基板
21,21’:アダプタ用円筒体
22,22’:アダプタ(供試体取付ブラケット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースに搭載された模擬エンジン用、及び模擬負荷用の各ダイナモと、供試体を取付けるために前記ベースに対して略垂直に固定された供試体取付ブラケットと、該供試体取付ブラケットに取付けられる前記供試体のみを露出させて、前記各ダイナモ等の全てのノイズ発生体から発生されるノイズを防音すべく前記ノイズ発生体の全てを覆うために、所定間隔をおいて対向配置された一組の防音カバーとを備え、
前記模擬負荷用ダイナモにより供試体に負荷を発生させた状態で、前記模擬エンジン用ダイナモにより供試体を駆動させて生ずるギアノイズを測定するためのギアノイズ測定装置であって、
前記一組の防音カバーの少なくとも一方の対向面は、小面積のアダプタ状の供試体取付ブラケットが頂部となるように、複数の傾斜平面又は連続曲面、或いはこれらの組み合わせで構成されて、前記一組の防音カバーの各対向面が非平行となっていることを特徴とするギアノイズ測定装置。
【請求項2】
下面が開口した直方体箱状の防音カバーの対向面は三面体で構成されて、前記三面体の上下方向の稜線部に、全面が曲面で構成された拡散バッフル体が下端まで延長して設けられて、前記拡散バッフル体の上端部にアダプタ状の供試体取付ブラケットが配置されていることを特徴とする請求項1に記載のギアノイズ測定装置。
【請求項3】
下面が開口した直方体箱状の防音カバーの対向面は二面体で構成されて、前記二面体の上下方向の稜線部に、全面が曲面で構成された拡散バッフル体が全高に亘って設けられて、前記拡散バッフル体の高さ方向の略中央部にアダプタ状の供試体取付ブラケットが配置されていることを特徴とする請求項1に記載のギアノイズ測定装置。
【請求項4】
防音カバーの対向面を構成する複数の傾斜面又は連続曲面と、前記対向面に設けられた拡散バッフル体の表面とには、吸音処理が施されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のギアノイズ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−225309(P2007−225309A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43858(P2006−43858)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000002059)神鋼電機株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】