クエン酸系洗浄剤の白化防止方法
【課題】超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、クエン酸を有効成分とした洗浄剤に、イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物を添加して洗浄剤の白化を防止する方法を提供する。
【解決手段】周辺環境の微生物の影響による洗浄剤の白化を防止するとともに、長期保存や小分けによる使用を可能とし、クエン酸の洗浄効果を保つことができる。
【解決手段】周辺環境の微生物の影響による洗浄剤の白化を防止するとともに、長期保存や小分けによる使用を可能とし、クエン酸の洗浄効果を保つことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤の白化防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸は有機酸に属し、天然に存在する物質であるとともに、毒性の低い物質である。また、無機物(中でもカルシウム分)に対し、キレート効果を持つとともに、微生物に対して殺菌効果を有することから、人体や環境に影響しない家庭用や産業用の洗浄剤として幅広く利用されている。
【0003】
例えば、超純水製造設備に使用する洗浄剤は、製品である超純水への品質低下を防ぐため、洗浄剤の選択や洗浄後の残留等に留意する必要があり、また、洗浄排水の環境への影響も留意する必要がある。このような理由から、造水や超純水製造分野における洗浄剤として、クエン酸を有効成分とした洗浄剤が用いられてきた。
【0004】
造水や超純水製造分野における洗浄剤としてのクエン酸の利用例としては、例えば、特許文献1には、有機性廃水に凝集剤を添加して凝集させ、凝集フロックと処理水とに固液分離を行う膜モジュールの洗浄方法において、膜内の廃水を水により押出し洗浄した後、pH3.5〜4.5のクエン酸水溶液を循環させて洗浄し、次に同じ水溶液に膜を浸漬し、さらに膜内に残存するクエン酸水溶液を水により押出し洗浄した後、有効塩素含有アルカリ水溶液を循環させて洗浄し、次に同じ水溶液に膜を浸漬し、水で洗浄することを特徴とする膜モジュールの洗浄方法が開示され、特許文献2には、表流水をろ過して浄化水を得るために用いられる分離膜の薬洗液であって、クエン酸及び洗剤を含有する混合水溶液からなり、該混合水溶液中にクエン酸が0.1〜2重量%、洗剤が0.05〜4重量%含まれ、かつ洗剤に対するクエン酸の含有量の比の値が0.1〜3の範囲にあることを特徴とする分離膜の薬洗液が開示され、特許文献3には、硝酸、硫酸又はこれらの混合物と、有機酸(シュウ酸、クエン酸又はこれらの混合物)を含有する薬液を用いて洗浄することを特徴とする分離膜の洗浄方法が開示されている。
【0005】
また、半導体製造におけるクエン酸を有効成分とした洗浄剤の利用例としては、例えば、非特許文献1には、CMP(ケミカルメカニカルポリッシング)の後の洗浄剤として使用することが開示されている。これによれば、クエン酸を有効成分とした洗浄剤は、酸化鉄等の汚染物質のみを除去可能であり、ウェハ表面に露出しているW、Ti、TiN等の金属には影響を与えない特徴を有するとされている。
【0006】
【特許文献1】特公平8−004728号公報
【特許文献2】特開平11−128700号公報
【特許文献3】特開2002−248325号公報
【非特許文献1】土肥俊郎 編著、「詳説 半導体CMP技術」、工業調査会、 2001年、p143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クエン酸を有効成分とする洗浄剤は、固形状のものと、それを溶解させた水溶液のものが知られている。固形状のものは、使用する度に水に溶解する必要があり、その際、作業員の皮膚に洗浄剤が触れたり、粉を吸い込む危険性があり、作業性に問題があった。他方、クエン酸を有効成分とする水溶液の洗浄剤は、たいていの菌は繁殖しないが、ごく一部の微生物(酢酸菌と考えられる)が特異的にクエン酸を有効成分とした水溶液の洗浄剤に対して繁殖する能力があることが判明した。すなわち、製造する際或いは一旦容器を開封した際、周辺環境に存在する微生物の汚染によってクエン酸が資化され、洗浄剤が白濁・白化する現象が生じる(本発明においてこの現象を白化という)ことがしばしばあった。そのため、長期保存に適さず、一度開封した洗浄剤は使い切らなければならないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、クエン酸を有効成分とした洗浄剤に、イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物を添加して洗浄剤の白化を防止する方法を提供する。
【0009】
本発明の白化防止方法は、周辺環境の微生物の影響による洗浄剤の白化を防止するとともに、長期保存や小分けによる使用を可能とし、クエン酸の洗浄効果を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態に係るクエン酸系洗浄剤の白化防止方法は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、クエン酸を有効成分とした洗浄剤に、イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物を添加して洗浄剤の白化を防止する方法である。
以下、本実施形態に係る洗浄剤の白化防止方法について説明する。
【0011】
本実施形態に係る洗浄剤の白化防止方法は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、有効成分であるクエン酸が完全に水に溶解している洗浄剤であればすべてについて包含する。
【0012】
洗浄剤の有効成分であるクエン酸濃度は、装置洗浄時の所望濃度に応じて設定することができるが、クエン酸の水への溶解度を考慮して、クエン酸濃度が0.1質量%〜60質量%となるように水に溶解させるのが好ましい。
【0013】
クエン酸は、試薬グレード、工業用グレード、食品添加物グレードのものでよく、また、無水結晶や一水塩等の結晶水を有するものでもよい。また、半導体製造において使われるクエン酸はELグレードが好ましい。また、溶解させる水は、純水又は超純水が好ましい。加えて、クエン酸を溶解させる水又は溶解後の洗浄剤のいずれかにおいてUV照射等にて無菌状態にするのもよい。
【0014】
また、洗浄剤は、所望のクエン酸濃度に調整されたクエン酸水溶液にアルカリを添加してpH2〜4になるように調整しても良い。ここで使用されるアルカリとしては、クエン酸の洗浄効果を阻害しないものであればよく、中でもNaOH、KOH、アンモニア等が好ましく、特にアンモニア水(28%濃アンモニア水や1規定アンモニア水として市販されている)が好ましい。また、これらのアルカリの純度は、特級や1級といった試薬グレード或いは工業用グレードのものを使用することができる。これらのアルカリは直接前記クエン酸水溶液に添加してもよく、或いは一旦純水を加えて溶解や希釈した後に添加してもよい。
【0015】
本実施形態に係るイソチアゾリン組成物は、イソチアゾリン化合物を含有すればよく、中でも、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又はその両方を含有するイソチアゾリン組成物であると好ましい。また、イソチアゾリン組成物の濃度は、前記の如く調製されたクエン酸を有効成分とする洗浄剤に対して0.5ppm〜100ppmとなるように添加するとよく、中でも1ppm〜20ppmとなるように添加すると、優れた白化防止効果を発揮できるため好ましい。
【0016】
5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを用いる場合は、それぞれを単独で使用しても、又はその両方を混合して同時に使用しても、洗浄剤の白化防止効果があるため、単独で添加してもよいし、混合して添加してもよい。
【0017】
イソチアゾリン組成物は、液体の原液をクエン酸を有効成分とする洗浄剤に添加して溶解させればよいが、前記の如く添加量が少ないため、一旦純水に溶解させ水溶液として添加すると好適に白化抑制可能な濃度に調整することができる。例えば、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又はその両方を有効成分とし、それらの濃度が1質量%である水溶液であれば、クエン酸を有効成分とする殺菌剤に対し、50ppm〜10000ppm添加すればよく、好ましくは100ppm〜2000ppm添加すればよい。前記比率及び範囲の濃度で添加すると、洗浄剤のクエン酸濃度によらず優れた白化防止効果を発揮するとともに、洗浄後の装置内における洗浄剤の残留の心配が軽減できるため好ましい。
【0018】
また、本実施形態に係る白化防止方法を適用した洗浄剤、すなわち、前記濃度範囲においてクエン酸及びイソチアゾリン組成物を含有する洗浄剤は、長期保存や小分け使用を可能とした洗浄剤であり、かつ、クエン酸の洗浄効果を保つことができる洗浄剤である。
また、本実施形態に係る白化防止方法を適用した洗浄剤を超純水製造装置の洗浄剤として使用すると、超純水製造装置を構成する逆浸透膜装置(逆浸透膜)自体の劣化を引き起こさず、また、製造される超純水への影響がないことから半導体製造の使用にも影響を与えることはなく、好適に使用することができる。
【0019】
ここで、超純水製造に使用する逆浸透膜装置に用いる洗浄剤の使用形態について例示すると、先ず、逆浸透膜装置の通常運転を停止した後、逆浸透膜装置の入り口側から該洗浄剤を注入し、濃縮水側から洗浄剤を回収し、洗浄剤をポンプで循環させる。次いで、ポンプ循環を止め、逆浸透膜装置の原水側と濃縮水側のバルブを閉じ、洗浄剤を逆浸透膜装置の内部に封入し、1〜12時間放置することで逆浸透膜装置の接液部を洗浄する。洗浄後、逆浸透膜装置の原水側と濃縮水側のバルブを開け、分離膜に背圧ができるだけ掛からないように、原水側から純水又は逆浸透膜装置供給水を供給し、濃縮水側から洗浄剤を排出しながら、逆浸透膜装置の内部の接液部に滞留している洗浄剤をフラッシングする。十分にフラッシング行い洗浄剤を洗い流した後、通常運転に切り替える。このような手順によって洗浄剤を使用すると、逆浸透膜装置を好適に洗浄することができる。
【0020】
また、半導体製造に使用する洗浄剤の使用形態について例示すると、半導体製造におけるCMP工程は、ウェハ上に成長させた膜の種類(例えば、SiO2、W、Al、Cu等がある)によって詳細は異なるが、まず、砥粒(シリカが主成分)と分散剤を含むスラリーを用いて、ウェハ表面を研磨して平坦にする。次に、表面に付着した異物、不純物を取り除く。異物の種類によっては純水等によって容易に取り除くことが可能なものもある。しかし、W−CMPの場合、表面にW膜、Ti膜、TiN膜を侵すことなく汚染物質(酸化鉄等)を取り除く必要がある。この場合、該洗浄剤を用いると、選択的に酸化鉄を除去可能である。
【実施例】
【0021】
(参考試験)
クエン酸(37質量%)、アンモニア水(3質量%)を純水に溶解して調製してなる水溶液としての洗浄剤を数ロットに分け、各々プラスチック容器に密閉するか、或いは約半量使用した後密閉した状態で1年間室温下に保管した。その後、洗浄剤を観察すると、いずれの容器内の溶液全体が白化し白色繊維状の浮遊物(図1)が確認された。そこで、すべての容器内に存在していた該白色浮遊物を回収した。
【0022】
(試験)
純水250mlにクエン酸アンモニウム1gを溶解させたクエン酸洗浄液のモデル液を調整し、回収した上記の白色浮遊物をモデル液に添加し、表1に示すような添加剤A又はNaClを加え、室温下に5日間放置した。次いで、寒天培地((株)アテクト社製標準寒天培地)の上に放置後の水溶液の上澄みを3滴滴下し、30℃にて培養し、その後シャーレを観察した。
なお、表1に示す添加剤Aとは、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン0.9質量%及び2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン0.3質量%を純水に溶解した水溶液であり、また、NaClは試薬を用いた。
【0023】
表1に、洗浄剤A又はNaClの添加量とともにシャーレの観察結果を示す。表中のコロニーの有無について、観察結果を以下のように評価した。また、コロニーの有無について、図2〜図9に写真を示す。
◎:コロニー発生を認められない
〇:コロニー発生は認められないが、多少白濁している
△:小さなコロニー発生が認められる
×:コロニー発生が顕著に認められる
【0024】
添加剤Aを100、1000ppm添加した実施例1(図2、図3)及び実施例2(図4、図5)では、1日後、2日後ともシャーレ上に微生物のコロニーは確認できなかった。
一方、NaClを添加した比較例1(図6、図7)及び比較例2(図8、図9)では、室温下に放置した水溶液の白化を防ぐことができたが、その後のシャーレによる培養ではコロニーの発生が確認された。すなわち、NaCl添加によってクエン酸洗浄液の微生物汚染の進行を抑制する効果は認められたが、完全に殺菌するまでには至らないことが分かった。
【0025】
前記白色浮遊物の発生に関する追試として行った添加剤を添加しない比較例3(図10、図11)では、5日間放置後の水溶液において白化が生じ、その後の培養においてもコロニーの発生は顕著であった。従って、1年間室温下で保管したクエン酸洗浄剤の白化の原因は、微生物の汚染によるものであり、これは洗浄剤全体を白化させる(白濁させ白色浮遊物を生ずる)結果を招いたことが分かった。
【0026】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(試験)で確認された白色の繊維状の浮遊物の写真である。
【図2】実施例1における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図3】実施例1における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図4】実施例2における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図5】実施例2における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図6】比較例1における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図7】比較例1における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図8】比較例2における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図9】比較例2における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図10】比較例3における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図11】比較例3における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤の白化防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸は有機酸に属し、天然に存在する物質であるとともに、毒性の低い物質である。また、無機物(中でもカルシウム分)に対し、キレート効果を持つとともに、微生物に対して殺菌効果を有することから、人体や環境に影響しない家庭用や産業用の洗浄剤として幅広く利用されている。
【0003】
例えば、超純水製造設備に使用する洗浄剤は、製品である超純水への品質低下を防ぐため、洗浄剤の選択や洗浄後の残留等に留意する必要があり、また、洗浄排水の環境への影響も留意する必要がある。このような理由から、造水や超純水製造分野における洗浄剤として、クエン酸を有効成分とした洗浄剤が用いられてきた。
【0004】
造水や超純水製造分野における洗浄剤としてのクエン酸の利用例としては、例えば、特許文献1には、有機性廃水に凝集剤を添加して凝集させ、凝集フロックと処理水とに固液分離を行う膜モジュールの洗浄方法において、膜内の廃水を水により押出し洗浄した後、pH3.5〜4.5のクエン酸水溶液を循環させて洗浄し、次に同じ水溶液に膜を浸漬し、さらに膜内に残存するクエン酸水溶液を水により押出し洗浄した後、有効塩素含有アルカリ水溶液を循環させて洗浄し、次に同じ水溶液に膜を浸漬し、水で洗浄することを特徴とする膜モジュールの洗浄方法が開示され、特許文献2には、表流水をろ過して浄化水を得るために用いられる分離膜の薬洗液であって、クエン酸及び洗剤を含有する混合水溶液からなり、該混合水溶液中にクエン酸が0.1〜2重量%、洗剤が0.05〜4重量%含まれ、かつ洗剤に対するクエン酸の含有量の比の値が0.1〜3の範囲にあることを特徴とする分離膜の薬洗液が開示され、特許文献3には、硝酸、硫酸又はこれらの混合物と、有機酸(シュウ酸、クエン酸又はこれらの混合物)を含有する薬液を用いて洗浄することを特徴とする分離膜の洗浄方法が開示されている。
【0005】
また、半導体製造におけるクエン酸を有効成分とした洗浄剤の利用例としては、例えば、非特許文献1には、CMP(ケミカルメカニカルポリッシング)の後の洗浄剤として使用することが開示されている。これによれば、クエン酸を有効成分とした洗浄剤は、酸化鉄等の汚染物質のみを除去可能であり、ウェハ表面に露出しているW、Ti、TiN等の金属には影響を与えない特徴を有するとされている。
【0006】
【特許文献1】特公平8−004728号公報
【特許文献2】特開平11−128700号公報
【特許文献3】特開2002−248325号公報
【非特許文献1】土肥俊郎 編著、「詳説 半導体CMP技術」、工業調査会、 2001年、p143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クエン酸を有効成分とする洗浄剤は、固形状のものと、それを溶解させた水溶液のものが知られている。固形状のものは、使用する度に水に溶解する必要があり、その際、作業員の皮膚に洗浄剤が触れたり、粉を吸い込む危険性があり、作業性に問題があった。他方、クエン酸を有効成分とする水溶液の洗浄剤は、たいていの菌は繁殖しないが、ごく一部の微生物(酢酸菌と考えられる)が特異的にクエン酸を有効成分とした水溶液の洗浄剤に対して繁殖する能力があることが判明した。すなわち、製造する際或いは一旦容器を開封した際、周辺環境に存在する微生物の汚染によってクエン酸が資化され、洗浄剤が白濁・白化する現象が生じる(本発明においてこの現象を白化という)ことがしばしばあった。そのため、長期保存に適さず、一度開封した洗浄剤は使い切らなければならないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、クエン酸を有効成分とした洗浄剤に、イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物を添加して洗浄剤の白化を防止する方法を提供する。
【0009】
本発明の白化防止方法は、周辺環境の微生物の影響による洗浄剤の白化を防止するとともに、長期保存や小分けによる使用を可能とし、クエン酸の洗浄効果を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態に係るクエン酸系洗浄剤の白化防止方法は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、クエン酸を有効成分とした洗浄剤に、イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物を添加して洗浄剤の白化を防止する方法である。
以下、本実施形態に係る洗浄剤の白化防止方法について説明する。
【0011】
本実施形態に係る洗浄剤の白化防止方法は、超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、有効成分であるクエン酸が完全に水に溶解している洗浄剤であればすべてについて包含する。
【0012】
洗浄剤の有効成分であるクエン酸濃度は、装置洗浄時の所望濃度に応じて設定することができるが、クエン酸の水への溶解度を考慮して、クエン酸濃度が0.1質量%〜60質量%となるように水に溶解させるのが好ましい。
【0013】
クエン酸は、試薬グレード、工業用グレード、食品添加物グレードのものでよく、また、無水結晶や一水塩等の結晶水を有するものでもよい。また、半導体製造において使われるクエン酸はELグレードが好ましい。また、溶解させる水は、純水又は超純水が好ましい。加えて、クエン酸を溶解させる水又は溶解後の洗浄剤のいずれかにおいてUV照射等にて無菌状態にするのもよい。
【0014】
また、洗浄剤は、所望のクエン酸濃度に調整されたクエン酸水溶液にアルカリを添加してpH2〜4になるように調整しても良い。ここで使用されるアルカリとしては、クエン酸の洗浄効果を阻害しないものであればよく、中でもNaOH、KOH、アンモニア等が好ましく、特にアンモニア水(28%濃アンモニア水や1規定アンモニア水として市販されている)が好ましい。また、これらのアルカリの純度は、特級や1級といった試薬グレード或いは工業用グレードのものを使用することができる。これらのアルカリは直接前記クエン酸水溶液に添加してもよく、或いは一旦純水を加えて溶解や希釈した後に添加してもよい。
【0015】
本実施形態に係るイソチアゾリン組成物は、イソチアゾリン化合物を含有すればよく、中でも、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又はその両方を含有するイソチアゾリン組成物であると好ましい。また、イソチアゾリン組成物の濃度は、前記の如く調製されたクエン酸を有効成分とする洗浄剤に対して0.5ppm〜100ppmとなるように添加するとよく、中でも1ppm〜20ppmとなるように添加すると、優れた白化防止効果を発揮できるため好ましい。
【0016】
5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを用いる場合は、それぞれを単独で使用しても、又はその両方を混合して同時に使用しても、洗浄剤の白化防止効果があるため、単独で添加してもよいし、混合して添加してもよい。
【0017】
イソチアゾリン組成物は、液体の原液をクエン酸を有効成分とする洗浄剤に添加して溶解させればよいが、前記の如く添加量が少ないため、一旦純水に溶解させ水溶液として添加すると好適に白化抑制可能な濃度に調整することができる。例えば、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又はその両方を有効成分とし、それらの濃度が1質量%である水溶液であれば、クエン酸を有効成分とする殺菌剤に対し、50ppm〜10000ppm添加すればよく、好ましくは100ppm〜2000ppm添加すればよい。前記比率及び範囲の濃度で添加すると、洗浄剤のクエン酸濃度によらず優れた白化防止効果を発揮するとともに、洗浄後の装置内における洗浄剤の残留の心配が軽減できるため好ましい。
【0018】
また、本実施形態に係る白化防止方法を適用した洗浄剤、すなわち、前記濃度範囲においてクエン酸及びイソチアゾリン組成物を含有する洗浄剤は、長期保存や小分け使用を可能とした洗浄剤であり、かつ、クエン酸の洗浄効果を保つことができる洗浄剤である。
また、本実施形態に係る白化防止方法を適用した洗浄剤を超純水製造装置の洗浄剤として使用すると、超純水製造装置を構成する逆浸透膜装置(逆浸透膜)自体の劣化を引き起こさず、また、製造される超純水への影響がないことから半導体製造の使用にも影響を与えることはなく、好適に使用することができる。
【0019】
ここで、超純水製造に使用する逆浸透膜装置に用いる洗浄剤の使用形態について例示すると、先ず、逆浸透膜装置の通常運転を停止した後、逆浸透膜装置の入り口側から該洗浄剤を注入し、濃縮水側から洗浄剤を回収し、洗浄剤をポンプで循環させる。次いで、ポンプ循環を止め、逆浸透膜装置の原水側と濃縮水側のバルブを閉じ、洗浄剤を逆浸透膜装置の内部に封入し、1〜12時間放置することで逆浸透膜装置の接液部を洗浄する。洗浄後、逆浸透膜装置の原水側と濃縮水側のバルブを開け、分離膜に背圧ができるだけ掛からないように、原水側から純水又は逆浸透膜装置供給水を供給し、濃縮水側から洗浄剤を排出しながら、逆浸透膜装置の内部の接液部に滞留している洗浄剤をフラッシングする。十分にフラッシング行い洗浄剤を洗い流した後、通常運転に切り替える。このような手順によって洗浄剤を使用すると、逆浸透膜装置を好適に洗浄することができる。
【0020】
また、半導体製造に使用する洗浄剤の使用形態について例示すると、半導体製造におけるCMP工程は、ウェハ上に成長させた膜の種類(例えば、SiO2、W、Al、Cu等がある)によって詳細は異なるが、まず、砥粒(シリカが主成分)と分散剤を含むスラリーを用いて、ウェハ表面を研磨して平坦にする。次に、表面に付着した異物、不純物を取り除く。異物の種類によっては純水等によって容易に取り除くことが可能なものもある。しかし、W−CMPの場合、表面にW膜、Ti膜、TiN膜を侵すことなく汚染物質(酸化鉄等)を取り除く必要がある。この場合、該洗浄剤を用いると、選択的に酸化鉄を除去可能である。
【実施例】
【0021】
(参考試験)
クエン酸(37質量%)、アンモニア水(3質量%)を純水に溶解して調製してなる水溶液としての洗浄剤を数ロットに分け、各々プラスチック容器に密閉するか、或いは約半量使用した後密閉した状態で1年間室温下に保管した。その後、洗浄剤を観察すると、いずれの容器内の溶液全体が白化し白色繊維状の浮遊物(図1)が確認された。そこで、すべての容器内に存在していた該白色浮遊物を回収した。
【0022】
(試験)
純水250mlにクエン酸アンモニウム1gを溶解させたクエン酸洗浄液のモデル液を調整し、回収した上記の白色浮遊物をモデル液に添加し、表1に示すような添加剤A又はNaClを加え、室温下に5日間放置した。次いで、寒天培地((株)アテクト社製標準寒天培地)の上に放置後の水溶液の上澄みを3滴滴下し、30℃にて培養し、その後シャーレを観察した。
なお、表1に示す添加剤Aとは、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン0.9質量%及び2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン0.3質量%を純水に溶解した水溶液であり、また、NaClは試薬を用いた。
【0023】
表1に、洗浄剤A又はNaClの添加量とともにシャーレの観察結果を示す。表中のコロニーの有無について、観察結果を以下のように評価した。また、コロニーの有無について、図2〜図9に写真を示す。
◎:コロニー発生を認められない
〇:コロニー発生は認められないが、多少白濁している
△:小さなコロニー発生が認められる
×:コロニー発生が顕著に認められる
【0024】
添加剤Aを100、1000ppm添加した実施例1(図2、図3)及び実施例2(図4、図5)では、1日後、2日後ともシャーレ上に微生物のコロニーは確認できなかった。
一方、NaClを添加した比較例1(図6、図7)及び比較例2(図8、図9)では、室温下に放置した水溶液の白化を防ぐことができたが、その後のシャーレによる培養ではコロニーの発生が確認された。すなわち、NaCl添加によってクエン酸洗浄液の微生物汚染の進行を抑制する効果は認められたが、完全に殺菌するまでには至らないことが分かった。
【0025】
前記白色浮遊物の発生に関する追試として行った添加剤を添加しない比較例3(図10、図11)では、5日間放置後の水溶液において白化が生じ、その後の培養においてもコロニーの発生は顕著であった。従って、1年間室温下で保管したクエン酸洗浄剤の白化の原因は、微生物の汚染によるものであり、これは洗浄剤全体を白化させる(白濁させ白色浮遊物を生ずる)結果を招いたことが分かった。
【0026】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(試験)で確認された白色の繊維状の浮遊物の写真である。
【図2】実施例1における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図3】実施例1における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図4】実施例2における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図5】実施例2における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図6】比較例1における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図7】比較例1における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図8】比較例2における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図9】比較例2における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図10】比較例3における1日後のコロニーの有無を示す写真である。
【図11】比較例3における2日後のコロニーの有無を示す写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、クエン酸を有効成分とする洗浄剤に、イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物を添加して洗浄剤の白化を防止する方法。
【請求項2】
イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物が、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又はその両方を含有する組成物であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤の白化を防止する方法。
【請求項3】
洗浄剤に添加するイソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物の濃度が、洗浄剤に対して0.5ppm〜100ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄剤の白化を防止する方法。
【請求項4】
洗浄剤におけるクエン酸濃度が0.1質量%〜60質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄剤の白化を防止する方法。
【請求項1】
超純水製造又は半導体製造に使用する洗浄剤であって、クエン酸を有効成分とする洗浄剤に、イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物を添加して洗浄剤の白化を防止する方法。
【請求項2】
イソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物が、5−クロロ−3−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン或いは2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、又はその両方を含有する組成物であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤の白化を防止する方法。
【請求項3】
洗浄剤に添加するイソチアゾリン化合物を含有するイソチアゾリン組成物の濃度が、洗浄剤に対して0.5ppm〜100ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄剤の白化を防止する方法。
【請求項4】
洗浄剤におけるクエン酸濃度が0.1質量%〜60質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄剤の白化を防止する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−169388(P2006−169388A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364258(P2004−364258)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】
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