説明

クマイ笹抽出物の免疫賦活剤および発癌抑制剤。

【課題】
免疫賦活作用および発癌抑制作用を有するクマイ笹エキスを提供する。
【解決手段】
クマイ笹を、多段階高温高圧水蒸気下に水溶性成分として抽出し、該抽出物中に1、3−β−グルカンと複数のフェノール化合物とを有効成分として含有し、前記抽出物の1kgあたりに、前記1,3−β−グルカンの290乃至340g、波長が200〜350nmに吸光をもつリグナン、フランなどの複数の総フェノール化合物の60乃至70g、及び、アラビノースとキシロースとを有効成分として含有する免疫賦活剤および発癌抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クマイ笹から抽出した免疫賦活剤および発癌抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、多くのきのこ類、微生物菌体などから抽出したβ−グルカン(glucan)、マンナン、キシラン、ガラクタン等の多糖に免疫賦活性があることが知られている。
また、特許文献1に開示されているように、クマイ笹の常圧の熱水抽出物は毒性はないにもかかわらず、抗菌作用、制癌作用があることも知られており、特許文献2に開示されているように、笹エキスを有効成分とする制癌剤も知られている。
ところで、本出願人らは、既に、クマイ笹の多糖類等の有効成分を多く含んだ抽出物を得る方法として、多段階高温高圧水蒸気下に抽出する方法を開発して特許文献3として提供している。
【特許文献1】特開2007−204423号公報
【特許文献2】特開2005−320261号公報
【特許文献3】特許第3212278号掲載公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、クマイ笹の葉や茎を多段階高温高圧水蒸気下で抽出された抽出物が、免疫賦活作用および発癌抑制作用を有することは知られていない。
本発明の課題は、クマイ笹の葉や茎を多段階高温高圧水蒸気下に多糖類等の有効成分を多く含んだ抽出物であって、免疫賦活作用および発癌抑制作用を有する免疫賦活剤および発癌抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、クマイ笹を、多段階高温高圧水蒸気下に水溶性成分として抽出した抽出物であって、該抽出物中に1,3−β−グルカン(glucan)とフェノール化合物とを有効成分として含有することを特徴とする免疫賦活剤および発癌抑制剤である。
請求項2の発明は、前記抽出物の1kgあたりに、前記1,3−β−グルカン(glucan)が290乃至340g(平均316.5g)、波長が200〜350nmに吸光をもつリグナン、フランなどの複数の総フェノール化合物が60乃至70g(65.2g)の有効成分を含有するこを特徴とする請求項1に記載の免疫賦活剤および発癌抑制剤である。
請求項3の発明は、更に、前記抽出物には、アラビノースとキシロースとを有効成分として含有することを特徴とする請求項1又2に記載の免疫賦活剤および発癌抑制剤である。
すなわち、本発明者らは、免疫賦活作用および発癌抑制作用の活性を発揮する中心的な物質が、(1)水溶性の分子量20000以下〜5000以上の、好ましくは5000〜10000の1,3−β−glucanを20〜60%(w/w)、さらに好ましくは30〜40%(w/w)を含み、(2)分子量1000〜2000以下、好ましくは800以下で茶色を示し、波長が200〜350nmに吸光をもつリグナン、フランなどの複数の水溶性芳香族である総フェノール化合物を20〜50%(w/w)、好ましくは30〜40%含有するものであることを初めて見出した。
また、これまで多くのきのこ類、微生物菌体など多糖のβ−グルカン、マンナン、キシラン、ガラクタン等に免疫賦活性があることが知られているが、更に、加圧高温水蒸気による抽出物にはこれまでの常圧煮沸下(100℃)の熱水抽出物の多糖等の収量よりも約5倍の収量があり、さらに免疫賦活活性の比活性は前者に比べ約20倍も高く、極めて高い活性を有する微量活性物質であることを見出した。
更に、クマイ笹の葉や茎を多段階高温高圧水蒸気下に抽出された抽出物中に、免疫の賦活効果も期待され、整腸効果・増殖効果を有するアラビノースとキシロースとが、従来の熱水抽出法で抽出した比較例抽出物に比べて、多量に含有することをも見出した。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、抽出物中に豊富に有効成分として1,3−β−glucanとフェノール化合物とを含有、特に、抽出物の1kgあたりに1,3−β−glucanを290乃至340g(平均=316.5g)と、総フェノール化合物を60乃至70g(平均=65.2g)とを有効成分として含有しているので、毒性はないにもかかわらず、有意に免疫賦活作用および発癌抑制作用を有するクマイ笹エキスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で使用する実施例のクマイ笹エキスの抽出物について説明する。
[クマイ笹エキス抽出方法]
本発明で使用するクマイ笹エキス抽出物は、前掲の特許文献3で開示される多段階高温高圧水蒸気下で抽出するもので、北海道地方を中心として生育するクマイ笹の葉や茎を多段階高温高圧水蒸気下で抽出する次の(1)〜(3)の工程に示すように段階的に高圧下に加熱温度を上昇させ、クマイ笹1kgからの抽出し、その抽出物を得るものである。
実施例の作成:
(1)クマイ笹を、100℃,1気圧の水蒸気下で60分間抽出する(第1段階)。
(2)残渣を120℃,2気圧(高圧)の水蒸気下で30分間抽出する(第2段階)。
(3)さらに、その残渣を196℃,15気圧下(高圧)の水蒸気下で5分間処理後、120℃で30分間抽出を行った(第3段階)。
本発明でいう多段階高温高圧水蒸気下で抽出する抽出物とは、二段階以上の高温高圧水蒸気下で抽出したクマイ笹エキスで、本実施例では前記(3)項の第3段階で得られた抽出水溶液であり、この抽出溶液は、適宜に、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で濃縮する等の処理を行って使用する。
比較例の作成:
本実施例抽出物の成分の比較の為に、従来の熱水抽出法で抽出した次の比較例抽出物を作成した。
クマイ笹1kgを100℃熱水煮沸騰下で5、10、30および60分間の抽出により得た。この抽出溶液はロータリーエバポレーターを用いて減圧下で濃縮し、熱水抽出物とした。
【0007】
ここで、実施例と比較例の各抽出物の糖類は、グルコース換算当量としてフェノール硫酸法によって測定したが、比較例抽出物として熱水抽出物(A)と、本実施例抽出物として循環多段階抽出法での抽出物(B)とを、糖類収量の差として図1に示して説明する。
図1に示すように、比較例抽出物の60minでのグルコース換算当量は、約3g/lであるのに対して、実施例抽出物は約17g/lであり、約5倍の糖(グルコース当量換算)を得ることができた。
【0008】
[クマイ笹エキス抽出物の成分]
クマイ笹エキスの有効成分について、比較例抽出物との成分を比較するために、前記本実施例抽出物(以下、本抽出物)の成分及び比較例抽出物の成分を以下の方法で検証した(抽出物に対するSephadex G−50を用いた分画精製と、抽出物およびその分画物の1,3−β−glucanの定量、総フェノール化合物の定量および過酸化脂質ラジカルに対する抑制効果の実験例)。
本抽出物は、Sephadex G−50 Super Fine column(size:90cm(h)×1.2cm (d)により溶出液:0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(0.14M)(以下、PBS)、pH7.4、GE Healthcare,Uppsala,Sweden)により、0.6ml/minで溶出させ、6ml/tubeでフラクションコレクターを用いて分画を行った。溶出フラクションの各チュ−ブは、波長が280nmおよび370nmの吸光度ならびにフェノール硫酸法による糖含量によりフォローした。
その結果、本抽出物(未精製)から、上記により分画し、3つの主要なフラクションを得た。図2に示すように、画分I(以下、F−I)は糖を含むピークであることがわかった。
さらに、F−IIは、1,3−β−glucan特異検出キット(Maruha、東京)を用いて1,3−β−glucanの定量した。このキットは、リムルス反応を応用し、カブトガニ血球抽出物の血液凝固カスケードのG因子をβ−glucanが活性化する原理を基にしているものである。
F−Iの多糖が1,3−β−glucanであることを確認するため、10mgのF−Iを1mlのPBS(pH7.4)に溶解し、200units/mlの1,3−β−glucanase(Arthrobactor sp.由来、和光純薬、大阪)を加え、25℃で振とうした水浴上で2日間反応させた。反応中に定時にサンプリングし、その反応溶液は、100℃で反応を停止させ、HPLC system (LC−VP;column;Shim−pack ISA−07/S2504,Shimadzu,京都)によりグルコ−スを分離し定量した。
【0009】
次に、本抽出物および本抽出物に含まれる3つの主要なフラクションにおけるフェノール化合物濃度を、Folin−Ciocalteu法により測定した。200μlのMilliQ水に対し12.5μlの本抽出物または各分画物を加え、Folin試薬12.5μlを加え直ちに攪拌し、25℃で3分間静置後、10%炭酸ナトリウム水溶液25μlを加え、1時間静置させ620nmの吸光をマイクロプレ−トリ−ダ−(Immuno Mini NJ−2300、日本インタ−メッド、東京)により測定した。本抽出物および本抽出物に含まれる3つの主要なフラクションの総フェノール化合物濃度は、ケルセチンを標準として用いた検量線より求めた。その結果を図3の[表1A]に示す。
本抽出物および本抽出物中の3つの主要なフラクションの過酸化脂質ラジカルに対する抑制効果は、ヘム鉄と過酸化脂質より生ずる過酸化脂質ラジカルに対する実験により検討した(A.Kanazawa et al,Biofactors,13,187−193(2000);A. Kanazawa et al,Eur.J.Lipid Science Tech.,104,439−447(2002))。この測定は、96穴マイクロプレ−トを用いて行い、本抽出物または3つの主要なフラクションの希釈系列を調製し、過酸化脂質ラジカル(LOO・)による発光を50%抑制する濃度を求めた。各ウェルにPBSを125μl、10mM diethylenetriaminepentaacetic acid(DTPA)を25μl、300mM tert−butylhydroperoxide(t−BuOOH)を25μl、100μMルミノール25μlをキュベットに加え、化学発光測定装置(Labsystems Luminoskan、大日本住友製薬、大阪)にセットした。
本測定は、ヒト体温と同じ37℃で行った。3分30秒下に反応させ、1mg/mlヘモグロビンをPBSで調製し、それを25μl各ウェルに添加し、t−BuOO・を生じさせ(Akaike et al,J.Agric.Fd.Chem.,4,1864−1870(1995))、それにより生じる発光を測定した。発光強度が対照と比較して50%抑制されるときの反応液中のサンプル濃度をIPOX50(過酸化脂質ラジカルを50%抑制する効果濃度)として示した。したがって、IPOX50の値は小さいほど活性が強いことを示す。
図2に示すように、本抽出物は、F−I(5000Da以上)、F−II(1000〜2000Da)およびF−III(1000Da以下)の3つの主要なフラクションを含んでいた。その中で、F−Iは、フェノール硫酸法によって得られた糖含量が、他の2つのフラクションよりも顕著に高かった。
これに対して、比較例抽出物を同様の方法で検証したが、同じ傾向にはあるものの、[表1A]に示すように、本抽出物に比べて、1,3−β−glucan量(グリコース当量)、及び、総フェノール化合物の量は極めて少ない。
【0010】
以上のグラフにおいて、本抽出物と比較例抽出物との分画ピーク中の総フェノール化合物及び過酸化脂肪ラジカル生成抑制活性の数値を、図3の[表1A]に示す。
[表1A]に示すように、本抽出物のほうが、従来行われている比較例抽出物(熱水抽出)よりも、1,3−β−glucan量が圧倒的に多かった。
なお、[表1A]中の1,3−β−glucanの数値において、216.9μg/mgは比較例抽出物についての平均値、本実施例抽出物については、得られた1,3−β−glucanの数値範囲が290〜340μg/mg(290.1、301.4、309.5、314.0、315.7、316.3、317.7、324.5、332.7、338.6μg/mg)で、平均値は316.5μg/mgであった。同様に、総フェノール化合物も、35.1μg/mgは比較例抽出物ついての平均値、本実施例抽出物については、得られた総フェノール化合物の数値範囲が60〜70μg/mg(60.3、64.5、65.3、66.7、69.2μg/mg)で、平均値は65.2μg/mgであった。
また、そのほとんどが、F−Iに含まれることが判った。総フェノール化合物量も、本抽出物のほうが、従来の熱水抽出法より抽出した比較例抽出物と比較して、約2倍に増加した。さらに、過酸化脂質ラジカル生成抑制効果も本物質のほうが約2倍と強かった。その中でも、分画したフラクションに関して、F−IIが総フェノール化合物は、最も多かった。そして、F−I、F−II、F−IIIの中では、F−IIIがもっとも過酸化脂質ラジカル生成抑制活性が強かった。
【0011】
次に、F−1の多糖が1,3−β−glucanであることをさらに確認するため、1,3−β−glucanase(Arthrobactor sp.由来)を用いた酵素消化実験を行った。図4に示すように、1,3−β−glucanaseによりF−1は分解され、48時間後には、約70%のグルコースを生成し、F−1の多糖が1,3−β−glucanであることが分かる。
ここで、[表1A]の本実施例抽出物が以下の各実験結果から、免疫賦活作用および発癌抑制作用の活性を発揮するものであることが確認できるが、本発明者らは、本実施例抽出物の[表1A]の成分分析から、免疫賦活作用および発癌抑制作用の活性を発揮する中心的な物質が、(1)水溶性の分子量20000以下〜5000以上の、好ましくは5000〜10000の1,3−β−glucanを20〜60%(w/w)、さらに好ましくは30〜40%(w/w)を含み、(2)分子量1000〜2000以下、好ましくは800以下で茶色を示し、200〜350nmに吸収をもつリグナン、フランなどの複数の水溶性芳香族を20〜50%(w/w)、好ましくは,30〜40%含有するものであることを初めて見出した。また、これまで、多くのきのこ類、微生物菌体など多糖のβ−グルカン、マンナン、キシラン、ガラクタン等に免疫賦活性があることは知られているが、更に、クマイ笹の循環多段式加圧高温水蒸気による抽出物にはこれまでの常圧煮沸下(100℃)の熱水抽出物の多糖等の収量よりも約5倍の収量があり、さらに免疫賦活活性の比活性は前者に比べ約20倍も高く、極めて高い活性を有する微量活性物質であることを見出した。
【0012】
多段階高温高圧水抽出法で抽出した本実施例抽出物と、従来の100℃の熱水煮沸下で60分間の常圧熱水抽出法で抽出した比較例抽出物との各種の糖類の抽出効率の違いについて、酸加水分解して、高速液体クロマトグラフ法にて分析した結果を図5の[表1B]に示す。
[表1B]は、多糖類のアラビノースとキシロースを酸加水分解して、高速液体クロマトグラフ法にて分析したものである。この分析測定での、加水分解条件は、72%硫酸(室温)で1時間で攪拌後、4%硫酸でオートクレーブ中(121℃)で一時間放置した状態の液を高速液体クロマトグラフ法にて分析した。
この結果、本実施例抽出物には、常圧熱水抽出法(在来法)の比較例抽出物に比べて、アラビノースでは約17.4倍、キシロースでは約131倍と有意に多く含まれていた。本抽出物には、アラビノースおよびキシロースが顕著に含まれていることから、稲わら、麦わらなどに含まれている多糖であるアラビノキシラン (多糖の低分子化物) と同様の成分が含まれることが考えられ、本抽出物には、このキシロース、アラビノースを含むことも特徴である。
本抽出物のゲルろ過による分画では、比較例抽出物と比較すると、セファデックスG-50フラクションF−II(MW:1000 Da〜2000 Da)の分画が有意に増加している。このことから、キシロアラビノオリゴ糖などの比較的低分子の多糖が含まれていると考えられ、その生物活性としてプロバイオティクス作用を介した整腸効果、善玉細菌の増殖効果、さらには免疫の賦活化などが期待できると考えられる。
【0013】
[免疫賦活作用の確認]
In vitro で、本抽出物が、ヒトあるいはマウスのマクロファージの貪食能を活性化することを確認した。即ち、0.1μg/ml以上〜1.0mg/ml以上で、次に示す活性を示もので、in vivoではマウス用飼料(フナバシファームF2)の中に0.1〜10%(w/w)好ましくは、0.1〜0.5%含有するものを経口投与で免疫賦活化活性を示すものである。
【0014】
(1)マウス腹腔滲出マクロファージの調製とin vitroでの貪食能の活性化およびサイトカインの誘導の実験:
マウス腹腔滲出マクロファージの調製法として2mlの10%プロテオ−スペプトン(Becton Dickinson、Franklin Lakes,NJ,米国)をBALB/cマウスの腹腔内に接種した4日後に、5mlの冷PBSを腹腔内に注入し、腹部をよくマッサ−ジした後、10mlシリンジにより滲出液を採取し、腹腔内に滲出したマクロファージを採取した。マクロファージをPBSで洗浄後、1×105cells/シャ−レになるように調製し、そのマクロファージ懸濁液を、カバ−グラスを底面に留置したプラスチックシャ−レ(O30mm)に加え、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。
1時間後、本抽出物を最終濃度0.1〜100mg/mlで添加し、さらに37℃で24時間培養し、洗浄後、3mlの焼酎酵母Saccharomyces cerevisiae懸濁液(107/ml)を加え、さらに37℃で培養50分後、シャーレ底部のカバーグラスを回収し、顕微鏡下に200個以上のマクロファージを観察し、1個のマクロファージあたりの貪食した酵母の数を計測し貪食能活性(%)を算出した。
図6に示すように、本抽出物は、無処置(本抽出物なし(0))、及び、比較例抽出物の対照群と比較して有意にマクロファージの貪食能を活性化した。1.0、10および100mg/mlでいずれの濃度においても、マクロファージの貪食能を無処置、及び、比較例抽出物の対照群と比較して約3倍の上昇をみとめた(p<0.05)。10mg/mlで最も活性を向上させ、その活性の濃度依存性は0.1〜10mg/mlの間で直線的な関係であった。
また、図7に示すように、F−I(1,3−β−glucan)は、本抽出物と同様に有意にマクロファージの貪食能を活性化した。一方で、1,3−β−glucanaseにより酵素消化したF−IおよびF−IIは貪食能を活性化しなかった。F−IIIは高濃度で貪食能の活性化を示したが、F−Iと比較して約10%の活性化を示しただけであった。
【0015】
(2)ヒト末梢血のヒトNK細胞の標的細胞(K562)に対する細胞傷害活性の活性化実験:
健常成人末梢静脈より採取した血液からFicoll−Conray法によって分離したリンパ球画分を、Stem Sep細胞濃縮・除去用磁気分離カラム(StemCell Technologies、バンクーバー、カナダ)にかけ、NK細胞を分離濃縮した。NK細胞の浮遊液に対し、(a)としてヒトIL−2あるいは、(b)として本抽出物をPBSで溶解した溶液を最終濃度0.1〜100μg/mlとなるように添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で48時間作用させた。
対照としては、NK細胞を比較例抽出物のみで処置したものである。(a)および(b)両方のヒトNK細胞を洗浄し、このNK細胞をeffector細胞とし、10%ウシ胎児血清(以下、FBS)を含むRPMI−1640で培養したヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562細胞をtarget細胞として、NK細胞の活性化をtarget細胞K562に対する細胞傷害効果により定量した。
96穴マイクロプレ−トにK562細胞(2×104cells/well)と各NK細胞浮遊液をeffector/target(E/T)比が各5,25および50倍となるように加え、反応(培養)させた。4時間後、NK細胞とK562細胞の生存率をCellTiter−GloTM Luminescent Cell Viability Assayを用いて測定した。標的細胞傷害率(ヒトNK細胞活性化率%)は、K562(target細胞)の生存率を用いて次の式により算出した。
[数式1]細胞傷害率(%)=
(試験群のK562細胞生存率/対照群のK562細胞生存率)×100
図8に示すように、本抽出物は、標的のK562細胞に対するNK細胞の傷害活性はE/T比に比例して高くなった。E/T×50において、1〜100mg/mlの範囲のすべてにおいて、比較例抽出物で処置した対照群と比較して有意に細胞傷害活性が亢進しており(p<0.05)、100mg/mlが最も高い活性を示した。すなわち、本抽出物は比較に用いた純化したIL−2のNK細胞の活性化にほぼ匹敵する高い力価を有することを示した。
【0016】
(3)担癌マウスに対するサイトカインの誘導とNK細胞活性の亢進(in vivoの評価):
C57BL/6Cr Slcマウスの背部2ヶ所に約50mgのマウス大腸腫瘍株Colon 38(C−38)の腫瘍片を組織移植専用注射器(トロ−カ−針)により移植した。
約3週間で成長したC−38固形腫瘍を摘出し、滅菌したPBSにて洗浄し、再度、約30mgの腫瘍組織断片に切断し、別のC57BL/6 Cr Slcマウス背部2ヶ所に移植した。7〜10日経過後、腫瘍直径が約5mm近くに達しているマウスを選択し、2群に分け、1群8匹を用い抗腫瘍試験に使用した。
即ち、(A)この実験群C57BL/6マウスにフナバシファームF2基本食(合成飼料のみの群)、(B)基本食に本抽出物を0.1%添加した実験食の計2群を設けた。各飼料の投与を開始し、21日後に各群のすべてのマウスを屠殺し、腫瘍、脾臓および血液の採取を行なっい比較した(図9)。
治療を開始してから21日間の腫瘍体積、体重および摂食量も経日的に測定した。また、21日目に採取した腫瘍の重量を測定した。脾臓からは常法によりNK細胞を分離・濃縮し、NK細胞の細胞傷害活性を測定した。採取した血液から血清を分離し、血清中のIL−2,IL−12およびIFN−γの濃度をELISA法により測定した。脾臓からのNK細胞の採取は、10%FBSを含んだRPMI−1640を満たしたシャーレ中で、セルストレーナー(0.45μm)を用いて脾臓をホモジナイズした。その細胞溶液を遠心分離し、細胞を回収した。回収した細胞をlysis bufferと懸濁、洗浄して、脾臓リンパ球細胞液を得た。
【0017】
得られたリンパ球細胞液を、NK細胞濃縮・除去用磁気分離カラムにかけ、NK細胞を分離濃縮した。洗浄したNK細胞をeffector細胞とし、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI−1640で培養したYAC−1細胞をtarget細胞として、NK細胞活性を細胞傷害効果により定量した。なお、YAC−1細胞はマウスリンパ腫由来である。
96穴マイクロプレ−トにYAC−1細胞(2×104cells/well)と各NK細胞浮遊液をeffector/target(E/T)比が各5、25および50倍となるように加え、反応させた。4時間後、NK細胞とK562細胞の生存率をCellTiter−GloTM Luminescent Cell Viability Assayにより測定した。標的細胞傷害率(NK細胞活性化率%)は、YAC−1(target細胞)の生存率として次の概算式により求めた。
[数式2] 細胞傷害率(%)=
(試験群のYAC−1細胞生存率/対照群のYAC−1細胞生存率)×100
本抽出物は、治療開始21日後のC−38腫瘍の増殖抑制を傾向的に示し、図9Aに示したように、その腫瘍重量は、無処置の群と比較して有意に軽かった(本物質vs無処置:1.54±0.46g vs 2.65±0.51g)。さらに、図10の[表2]に示したように、治療開始21日後の本抽出物を投与した群は、血清中のIL−2、IL−12およびIFN−gは無処置の群と比較して有意に産生の誘導を亢進した。また図に示したように、本抽出物は、治療開始21日後のC−38担癌マウスの脾臓NK細胞の細胞傷害活性を有意に亢進した(図9B)。
【0018】
(4)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染マウスにおける
本抽出物の生体防御効果の増強
細菌を6週齢の雌ddYマウスの尾静脈より、108〜107cfu/mlのPBS細菌溶液を0.1mlを接種し、このマウスの生存率により、本抽出物の免疫賦活効果を検討した。
この実験は4群に分けて行った。マウスは無処置群の他に、比較例抽出物を上記に準じ、0.5%をフナバシファームF2飼料に混ぜ、感染1週間前より予防的に投与した群(a)、本抽出物を上記に準じ、0.5%をフナバシファームF2飼料に混ぜ、感染1週間前より予防的に投与した群(b)、感染と同時に本物質を与えた群(c)である。
その結果は、図11の[表3]に示すように、Control、(a)比較例抽出物の前投与に比較して、(b)本抽出物の前投与、(c)同時投与ともにマウスの生体防御能を高め、生存率を改善した。即ち、本物質は感染防御能賦活に資するものであることが分かった。
【0019】
[発癌抑制作用の確認]
(1)化学発癌剤によるラット乳癌の発癌抑制(癌予防効果)および癌の増殖抑制:
In vivoでラット用飼料の中に本抽出物を0.03〜10%(w/w)を含有するものを経口投与することにより発癌剤7,12−dimethylbenz[a]anthracene(以下、DMBA)10mgを1mlのコ−ン油に溶解しゾンデで経口投与することによる発癌を抑制する活性を示した。
DMBAの経口投与によりラット乳癌を発癌する発癌実験モデルを用いて本物質の評価を行った。図12に、この実験の(a)、(b)および(c)の実験群の経時的なプロトコールの差を示した。
(a)5週齢雌性SDラットをnormal群(発癌剤の投与なし)、control群(発癌剤の投与のみ)、0.1%本抽出物群の計3群に分けた。フナバシファームのF2飼料に本物質を0.1%(w/w)混ぜ、自由摂取により14日間投与した。
normal群およびcontrol群は、本抽出物を含まないフナバシファームのF2飼料を投与した。14日間経過した後、7週齢雌性SDラットにDMBAを10mg/ml−コーン油でゾンデにより強制経口投与を行った。
DMBA投与した後も引き続き、各実験食の自由摂取により本抽出物の投与を行った。試験期間中における各群のラットの体重および摂食量、乳癌発生マウスの頭数、乳癌発生個数及び生存率を測定し評価を行った。
(b)本抽出物の抗癌作用と濃度相関を検討するため、上記と同様に5週齢雌SDラットをnormal群、control群、0.5%本抽出物群、0.03%本抽出物群の計4群に分けた。(a)に準じて試験群は、自由摂取により本物質を14日間投与した。normal群およびcontrol群は、フナバシファームF2飼料を投与した。本物質投与の14日間経過し、DMBAをゾンデにより強制経口投与を行った後も引き続き、各実験食の自由摂取により本物質の投与し、上記(a)と同様の処置を行い評価した。
(c)さらに、本抽出物の投与のタイミングの違いに対する発癌抑制活性の違いを検討した。7週齢雌SDラットをnormal群、control群、0.1%本抽出物群の計3群に分け、上記と同様にDMBAを投与した。その5週間後に、0.1%本抽出物群に治療食の投与を開始し、評価を行った。
【0020】
図13A〜Fは本抽出物であるクマイ笹高温高圧抽出物のDMBAラット乳癌発癌抑制試験の結果を示すが、本抽出物をDMBA投与の14日前から投与による乳癌発癌抑制の効果(A〜D)をグラフにしたもので、(グラフA,B)は本抽出物0.1%とcontrol(無)、(グラフC,D)は本抽出物0.03および0.5%とcontrol(無)を合成実験飼料(F2,フナバシファーム)に混ぜたものを飼料にて投与したものである。
図13A、13Bに示すように、DMBA投与の14日間前より0.1%本抽出物を投与した群は、約100日目までcontrol群と比較し有意に乳癌の発生を抑制した。さらに、腫瘍の発生総数をcontrol群と比較して約70%に減少させ、有意に抑制した。
また、図13C、13Dに示すように、本抽出物の効果の濃度依存性を検討したところ、0.03%の投与では、発癌剤のみのcontrol群と比較して約100日目までは乳癌の発生率は変わらなかったが、100日目以降から約120日目までは有意に乳癌の発生を抑制した。さらに、約100日目以降より腫瘍の発生総数をcontrol群と比較して約60%に減少させ、有意に抑制した。また、0.5%の本抽出物の投与では、DMBA投与から140日目まで乳癌の発生率を約50%と有意に抑制した。さらに、約100日目までの腫瘍の発生総数をcontrol群と比較して約50%以下に減少させ、約100日目以降でもcontrol群と比較して約60%に減少させ有意に抑制した。
さらに、図13E、13Fに示すように、飼料投与の有効性のタイミングを検討した実験では、約7週齢の雌SDラットにDMBA投与後、12週齢より0.1%本抽出物を投与した。その結果、DMBA投与から106日目まで乳癌の発生率を約60%に抑制した。このように、本抽出物は前投与で乳癌発癌を抑制することがわかった。
【0021】
以上のように、本発明の実施例のクマイ笹抽出物(エキス)は、無処置と対比して有意の免疫賦活作用および発癌抑制作用を有することは勿論のこと、従来のクマイ笹の熱水抽出法による抽出物と対比して有意の免疫賦活作用および発癌抑制作用を有するこが分かる。
本実施例の抽出物の使用方法は、水溶液のまま単独で使用したが、勿論、以下のように処置して投与することが可能である。
(1)本抽出物乾燥品または、10〜40%の水溶液、あるいは水懸濁液として、ヒト成人に対し、1回0.5〜10gを経口的に投与する。それを、さらに3〜4分割し、6〜8時間おきに服用することが望ましい。特に、空腹時の服用が好ましく、1〜3gの服用が好ましい。
(2)本抽出物をペレット(1錠で200〜300mg入り)、カプセル(200〜500mg入り)あるいは粉末を1日0.5〜10gを目安に服用する。好ましくは1日に1〜3gを服用する。この際の粘結剤として、でんぷん、アルギン酸ソ−ダ、ゼラチン、米粉、大豆タンパク、各種物油、その他を適宜添加することが可能である。
(3)上記(1)の水溶液を、経鼻吸入用のエアロゾルとして、投与することも可能である。
なお、本発明の特徴を損なうものでなければ、上記の実施例に限定されるものでないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】比較例抽出物の常圧熱水抽出法による抽出物(A)と、本発明の循環多段階高温高圧抽出法で抽出した本実施例抽出物(B)の糖類収量の差を示すグラフ。
【図2】本実施例抽出物を、SephadexG−50により分画したときの溶出曲線。
【図3】本抽出物と比較例抽出物との分画ピ−ク中の総フェノール化合物及び過酸化脂肪ラジカル生成抑制活性に関する[表1A]。
【図4】F−Iの1,3−β−glucanase酵素消化による経時的なグルコース回収率のグラフ。
【図5】クロマトグラフ法で分析した本抽出物と比較例抽出物との各種の糖の抽出効率の違いの[表1B]。
【図6】マクロファージの貪食能活性化試験のグラフ。
【図7】本抽出物、及び、Sephadex G−50により本抽出物を精製分画した3つの主要フラクションに対するマクロファージ貪食能活性化試験のグラフ。
【図8】E/Tに対する本抽出物の濃度におけるヒトNK細胞の細胞傷害活性の活性化のグラフ。
【図9】本抽出物のC−38に対する抗腫瘍活性(A)と、脾臓NK細胞細胞傷害活性(B)とのグラフ。
【図10】本抽出物のC−38担癌C57BL/6マウスに対する血清中の各種サイトカインの産生誘導亢進に関する[表2]。
【図11】本抽出物の経口投与による感染防御能の増強を示す[表3]。
【図12】DMBAの経口投与によりラット乳癌を発癌する発癌実験モデルを用いた本抽出物の評価の実験プロトコール
【図13A】DMBA投与での本抽出物の総乳がん発生率のグラフ。
【図13B】図13Aでの一群あたりの総乳がん腫瘍個数のグラフ。
【図13C】本抽出物の濃度の違いによる総乳がん発生率のグラフ。
【図13D】図13Cでの一群あたりの総乳がん腫瘍個数のグラフ。
【図13E】飼料投与での本抽出物の総乳がん発生率のグラフ。
【図13F】図13Eでの一群あたりの総乳がん腫瘍個数のグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クマイ笹を、多段階高温高圧水蒸気下に水溶性成分として抽出した抽出物であって、該抽出物中に1,3−β−グルカンとフェノール化合物とを有効成分として含有することを特徴とする免疫賦活剤および発癌抑制剤。
【請求項2】
前記抽出物の1kgあたりに、前記1,3−β−グルカンが290乃至340g、総フェノール化合物が60乃至70gの有効成分を含有するこを特徴とする請求項1に記載の免疫賦活剤および発癌抑制剤。
【請求項3】
前記抽出物には、アラビノースとキシロースとを有効成分として含有することを特徴とする請求項1又2に記載の免疫賦活剤および発癌抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【公開番号】特開2009−102230(P2009−102230A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272921(P2007−272921)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(598014283)
【Fターム(参考)】