説明

クメンヒドロペルオキシドを処理過程において安全に取り扱うための方法と装置

【解決手段】
本発明は、クメンヒドロペルオキシド(CHP)の分解によるフェノール及びアセトンを生産する工程の濃縮されたCHPの処理過程における取り扱い方法と装置を提供するものである。本発明の方法は、蒸留装置から濃縮されたCHPの実用量を蓄積するための管として、チューブ及びシェル型熱交換器を利用する。濃縮されたCHPは、その後前記蓄積された実用量から分解装置に注入される。チューブ及びシェル型熱交換器の使用は、非修飾タンク又はドラムを利用した設計よりも安全性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クメンヒドロペルオキシドの分解によるフェノール及びアセトンの生産に関するものである。より詳細には、本発明は、クメンヒドロペルオキシドの分解によるフェノール及びアセトンの生産工程における濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの安全な取り扱い方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クメンヒドロペルオキシドの分解によるフェノール及びアセトンの生産はよく知られており、1950年代から商業的に実施されている。クメンヒドロペルオキシド(CHP)それ自体は、いわゆる酸化剤ユニット中のクメンの酸化から生産される。このように生産された前記CHPは次に蒸留装置で濃縮され、工程によるが、通常、60%〜92%の濃度に濃縮される。前記濃縮されたCHPは次に、分解(分裂)装置に注入され、そこでは、前記CHPからフェノール、アセトン又はα−メチルスチレンなどの他の生成物への酸性分解が生じる。多くの場合において、前記分解装置に注入する前に前記CHPはクメン及びアセトン又は水で希釈される。
【0003】
いくつかの工程の設計において、蒸留装置から濃縮されたCHPの実用量を中間蓄積管において蓄積し、蒸留装置から直接よりもこの実用量から分解装置に供給することが望ましい。この設計では、濃縮されたCHPとして常に転用される蓄積された前記実用量は分解装置へ供給され、新しい物質は、蒸留装置から蓄積管によって受け取られる。
【0004】
分解装置に注入する実用量を蓄積する目的は、思わぬ事態により酸化剤及び/又は蒸留装置中で一時的に濃縮されたCHPの生産が中断されるという状況下で濃縮されたCHPの供給源を分解装置に提供することである。ここでは特に沸騰している溶媒中でCHPの分解を行う工程が重要であり、そこでは、思わぬ事態の後、工程を立ち上げること又は再スタートは危険性のある操作である。沸騰していない工程中でさえも、酸化剤及び/又は蒸留装置からCHPの供給が中断されるという事態(状況)では、ポンプ中の泡を避けてラインを連結させ、濃縮されたCHPの実用量を注入するのに役立つことが可能である。
【0005】
上述のように濃縮されたCHPの実用量を蓄積することは望ましいと認識されるが、この試行そのものの中に特別な危険性をはらんでいる。濃縮されたCHPの分解は高発熱反応であり、溶液重量の80%にあたる1,421,000ジュール/キログラムの熱を発生する。いくつかの設計においては、数千ガロンの濃縮されたCHPが蓄積される。不運な事故の際のエネルギーの壊滅的解放の可能性は、特別な関心事である。濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量を蓄積する現存する多くの方法は、この安全性問題に取り組むには適切ではない。
【0006】
沸騰しているCHPの分解装置を利用する工程の典型的な配置では、蓄積量の留分が真の実用量として使用されている間のみ事前に冷却されたCHPの蓄積量は、単純に非修飾タンク又はドラムに蓄積されている。そのような設計では、蓄積された物質の大部分が、自然の流動を除く循環又は混成流を有さない停留量として存在する。更には、そのような設計では前記蓄積量を直接的に冷却する手段を提供しない。
【0007】
従って、極度に多量の停留濃縮物を冷却することなく蓄積することに関連した安全性問題を多少なりとも解決する濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量を蓄積する方法を提供することが望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クメンヒドロペルオキシド(CHP)の酸触媒分解によりフェノール及びアセトンを生産する工程における濃縮されたCHPの実用量を蓄積するための改善された方法を提供する。本発明の方法は、濃縮されたCHPの実用量を蓄積するための多くの現在の設計に関連する安全性問題を多少なりとも解決する。
【0009】
本発明に従った方法は、非修飾タンク又は一般的な設計で使用されているドラムの代わりに、チューブ及びシェル型熱交換器を蓄積管として使用することを通じてこの改善を達成している。前記熱交換器は、特定の工場の設計の要求及び空間的制約によって垂直位又は水平位に配向されてもよい。好ましい実施形態における前記熱交換器は、u−チューブ型熱交換器であり、垂直位に配向されている。前記熱交換器のチューブピッチは、特定の工場の要求に応じて変えられるが、典型的には約2インチである。
【0010】
さらに、それぞれのケースでチューブ側又はシェル側に運ばれる熱流体と共に熱交換器のチューブ又はシェル側に濃縮されたCHPが運ばれるために、前記熱交換器は設置される。好ましくは、熱流体はチューブ側に運ばれ、前記濃縮されたCHPは熱交換器のシェル側に運ばれる。濃縮されたCHPが熱交換器のシェル側に運ばれるところに、バッフェルが熱交換シェルの内側に装備され、熱交換器中の蓄積量の混成流を誘導する。
【0011】
加えて熱交換器/蓄積管は、少なくとも1つの温度センサーと少なくとも1つのレベルセンサーを装備しているのが好ましい。
【0012】
一般的な設計で使用されている非修飾タンク又はドラムをチューブ及びシェル型熱交換器に置換することにより、濃縮されたCHPの蓄積された実用量に常時冷却を適用することが可能である。さらに、熱交換器の内部にバッフェルを提供することにより、混成流は、熱交換器中を移動するに伴い、蓄積された物質内に誘導される。また、まさにその設計では前記チューブ及びシェル型熱交換器は、全蓄積量を実用量として使用することを可能にし、それゆえ現在の設計では不可避の多量の停留物質を排出する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
現在の一般的設計で、濃縮されたCHPの実用量の蓄積管として使用されている非修飾ドラム又はタンクの代わりにチューブ及びシェル型熱交換器を利用することで、本発明に従った方法は、現在の設計では不可避の数多くの危険性を多少なりとも解決する。
【0014】
まず第一に、本発明に従ったチューブ及びシェル型熱交換器の使用により濃縮されたCHPの実質実用量に常時冷却を適用することが可能になる。第二に、前記チューブ及びシェル型熱交換器の内側にバッフェルを提供することにより、濃縮されたCHPが熱交換器のシェル側に運ばれる際、濃縮されたCHPが原因で蛇行した流れが生じ、濃縮されたCHPが蓄積管中を移動するに伴い、蓄積物中で混成流が誘導される。第三に、前記チューブ及びシェル型熱交換器に貯蓄されている全量が実用量として使用できるので、必要な全体蓄積量は、現在のものよりも少量となる。
【0015】
蓄積管に蓄積されている濃縮されたCHPの実質実用量は、本発明に従った方法が実施されるそれぞれの工場の要求に依存するであろう。しかしながら、蓄積された実用量は、蒸留装置からの濃縮されたCHPの供給中断という事態の際、濃縮されたCHPの分解装置への連続した供給を典型的な注入速度で、最低2.5分間与えるのに十分であるべきである。それゆえ、本発明に従った方法の特定の応用において使用される熱交換器のサイズ及び規模は、関連する工程及び工場の要求に依存して変えられるであろう。本発明の方法で使用されている濃縮されたCHPは、典型的にはクメンヒドロペルオキシドの重量で約60%〜約92%である。
【0016】
本発明に従った方法で使用されている熱交換器のための材料の選択は、フェノール生産の分野における当業者の能力の範囲内である。しかしながら、好ましい構造材料はステンレススチールである。構造材料として有用であるステンレススチールのグレードはこれに限定されるものではないが、304SS及び316SSを含む。
【0017】
図1を参照すると、本発明に従って使用されている例示的なチューブ及びシェル型熱交換器10が示されている。前記熱交換器10は本質的に円筒形であり、前記チューブの束に熱交換流体を入れるための流入口12及び前記チューブの束に存在する熱交換流体を冷却ループに戻すために流出口14と共に提供されている。前記熱交換器10はさらに、蒸留装置からの濃縮されたCHPを前記熱交換器のシェル側に入れるための流入口16と共に提供される。流出口18は、実用量から濃縮されたCHPをCHP分解(分裂)装置へ移動させるために提供される。流出口20は、圧力孔として提供される。上述したように、本発明に従った方法の特定の実施で使用される熱交換器のサイズ及び規模は変えられ、適切な熱交換器の選択は、熟練した技術者の能力の範囲内である。
【0018】
図1における熱交換器10は、本発明に従った好ましい配向で図示されている。すなわち、熱交換器の主軸は、垂直位に配向されている。さらに、本発明の好ましい実施形態によると、チューブの束の他の配置も本発明の範囲内に考慮されるのではあるが、前記熱交換器はu−チューブ型熱交換器である。あるいは、前記熱交換器は、水平位に主軸が配向されている。この代替の実施形態では、熱交換流体及び濃縮されたCHPの流入口及び流出口の位置は、それに応じて再配置される。
【0019】
前記CHP及び熱交換流体の両者は、本発明に従った熱交換器のシェル側又はチューブ側の一方に運ばれる。しかしながら、本発明の好ましい実施形態における前記濃縮されたCHPは、熱交換器のシェル側に運ばれ、前記熱交換流体はチューブ側に運ばれる。
【0020】
図2を参照すると、本発明の好ましい実施形態に従った例示的u−チューブ型熱交換器22のチューブの束20の俯瞰図が図示されている。前記チューブの束20は、前記熱交換器の円周により定められた円周の中に配置されている。
【0021】
本発明に従って使用されているいかなるチューブ及びシェル型熱交換器における前記チューブピッチは、チューブ及びシェル型の標準熱交換器よりも高いピッチで設定されている。これにより、CHPがシェル側に運ばれて来る際に、同程度の大きさのチューブ及びシェル型熱交換器で可能である量よりも大容量のCHP実用量が可能となる。しかしながら、チューブピッチ、すなわち、束における個々のチューブの間隔は、熱交換器のサイズ、望ましい実用量、及びそれを通るCHPの流出入率に依存して変えられる。本発明に従った例示的チューブピッチは、約2インチである。チューブピッチは、一定の変更が可能な設定になっている。本発明に従った方法が実施される工場の要求に依存して調節可能である。設定により短く低い交換器が要求された場合、増大されたピッチが管容量の必要性に対応すべく使用されるであろう。設定により長めの熱交換器を使用する場合、CHPの容量を減らす目的で、前記チューブピッチが減少させられる。さもなければ、チューブピッチが高いほど容量が蓄積される。
【0022】
図3を参照すると、チューブの束における3つの隣接したチューブを連結している三角形30が図示されている。前記チューブピッチは、チューブの束の2つの隣接した中心点の間の距離として測定される。
【0023】
図4を参照すると、本発明の好ましい実施形態に従って使用されるu−チューブ型熱交換器40の縦断面図が図示されている。前記u−チューブは簡略化のために図では省略されている。図4で示されているように本発明に使用されている好ましい熱交換器40は、内部バッフェル42を装備している。バッフェル42は、熱交換器の流入口44から流出口46へと流れるように濃縮されたCHPの蛇行した流れを作り出す。熱交換器を通してCHPが流れるようにCHPの蛇行した流れを作り出すことにより、混成流は、CHPの中で誘導される。熱交換器の中に提供されているバッフェルの数は、特定の工程での必要性に依存して変えられるが、その数及び間隔は、CHPの蛇行した流れを提供するのに十分であるべきである。蛇行した流れを提供するのに必要とされるバッフェルの数の決定は、熟練した技術者の能力の範囲内である。目標は、蛇行した流れを提供して且つバッフェルの数を最小限にすることである。必要とされるバッフェルの実際の数及び間隔は、設置された熱交換器の規模に依存しており、長いシェルの熱交換器は短めの管より多くのバッフェルを必要とする。
【0024】
少なくとも1つのレベルセンサー及び少なくとも1つの温度センサーを有するチューブ及びシェル型熱交換器に提供するのが望ましい。
【0025】
このように、本発明に従った方法は、一般的な用語で説明されている。本分野の当業者は、本発明から逸脱することなしにCHPの酸触媒分解によるフェノール生産のための工場での必要性に合うように本発明の開示で教示されたことを変更し適合することができる。このような変更及び適合の全ては、本発明の範囲内であると考慮され、ここに添付された請求項によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明に従った蓄積管として用いることができる例示的なチューブ及びシェル型熱交換器を図示している。
【図2】図2は、本発明に従って用いることができる例示的なチューブ及びシェル型熱交換器におけるチューブの束の俯瞰図を図示している。
【図3】図3は、チューブ及びシェル型熱交換器のチューブピッチの測定法を図示している。
【図4】図4は、本発明に従った蓄積管として用いることができる例示的なチューブ及びシェル型熱交換器の縦断面図を図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クメンヒドロペルオキシドの分解によりフェノール及びアセトンを生産する連続工程における濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量を蓄積するための方法であって、
前記濃縮されたクメンヒドロペルオキシドは、連続的に蒸留装置から蓄積管へ、そしてこの蓄積管から分解装置へと注入されるものであり、
前記蒸留装置と前記分解装置との間に蓄積管を提供する工程であって、前記蓄積管はチューブ及びシェル型熱交換器である工程と、
前記蒸留装置から前記蓄積管へと濃縮されたクメンヒドロペルオキシドを注入し、前記蓄積管に前記濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量が蓄積されるようにする工程と、
前記濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量の混成流の定常状態に保つ工程と、
前記濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量に直接冷却を適用する工程と、
前記濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量から前記分解装置に濃縮されたクメンヒドロペルオキシドを注入する工程と
を有するものである方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、前記中間蓄積管の主軸は、垂直位に配向されているものである。
【請求項3】
請求項2の方法において、前記中間蓄積管は、u−チューブ型熱交換器である。
【請求項4】
請求項1の方法において、前記中間蓄積管の主軸は、水平位に配向されているものである。
【請求項5】
請求項1の方法において、前記濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量は、前記チューブ及びシェル型熱交換器のシェル側に蓄積されているものである。
【請求項6】
請求項5の方法において、前記チューブ及びシェル型熱交換器の内部はバッフルを取り付けられているものである。
【請求項7】
請求項1の方法において、前記濃縮されたクメンヒドロペルオキシドの実用量は、前記チューブ及びシェル型熱交換器のチューブ側に蓄積されているものである。
【請求項8】
請求項1の方法において、前記中間蓄積管は、少なくとも1つのレベルセンサーが装備されているものである。
【請求項9】
請求項1の方法において、前記中間蓄積管は、少なくとも1つの温度センサーが装備されているものである。
【請求項10】
請求項1の方法において、前記中間蓄積管は、ステンレススチールから生産されるものである。
【請求項11】
請求項1の方法において、前記チューブ及びシェル型熱交換器のチューブピッチは、約2インチである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−519762(P2007−519762A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552118(P2006−552118)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/000296
【国際公開番号】WO2005/075393
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(501061320)スノコ, インコーポレイテッド(アール アンド エム) (9)
【Fターム(参考)】