説明

クライオスタット

【課題】小型軽量化が容易なクライオスタットを提供する。
【解決手段】被冷却体6を冷却する極低温液体4が収容されたほぼ密閉構造の低温容器3と、低温容器3の周囲に真空断熱空間12を形成する真空容器2と、低温容器3に両端部が支持され、かつ被冷却体6の近傍に取り付けられた外側貫通管5とからなるクライオスタットの外側貫通管5を支持する低温容器3の支持部に、外側貫通管5と低温容器3との熱膨張差を吸収するダイヤフラム3dを形成したもので、 外側貫通管5と低温容器3との熱膨張差をダイヤフラム3dが吸収するため、低温容器3の支持部に歪や応力が発生するのを防止することができると共に、低温容器3の外側へ突出するベローズが不要となるため、低温容器3を収容する真空容器2が小型化でき、これによってクライオスタット全体の小型軽量化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルや超電導センサ等の被冷却体を冷却する液体ヘリウムのような極低温液体を収容するクライオスタットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来超電導コイルや超電導センサ等を使用した各種工業製品や物理化学実験装置、検査装置、医療用装置には、超電導コイルや超電導センサ等の被冷却体を冷却するための極低温液体(寒剤)を収容したクライオスタットが使用されている。
このクライオスタットには、用途に応じて種々の構造のものがあるが、例えば特許文献1に、その一部が記載されている。
前記特許文献1に記載のクライオスタットは、内部に環状の空間が存在するように形成された真空容器と、この真空容器と同心的に収容された液体ヘリウム容器と、この液体ヘリウム容器と真空容器との間に二重構造に配置された輻射熱シールド板と、輻射熱シールドと真空容器との間及び輻射熱シールド板間にそれぞれ配置された多層断熱材とから構成されていて、液体ヘリウム容器内に、超伝導コイルを冷却する液体ヘリウムが収容されている。
【0003】
しかし前記構成のクライオスタットでは、室温から液体ヘリウム温度(−269℃)に冷却する際、一時的に温度分布の不均一が発生して、被冷却体の近傍に設けられた貫通管と液体ヘリウム容器の間に熱膨張差が発生するため、液体ヘリウム容器と貫通管の接続部に歪や応力が発生し、クライオスタットの耐久性や信頼性を低下させる等の問題がある。
かかる問題を解消するため例えば図3に示すように、熱膨張差をベローズにより吸収するようにしたクライオスタットが実用化されている。
【0004】
図4に示すクライオスタットは、内部が真空となった真空容器a内に、液体ヘリウムや液体窒素等の極低温液体bが収容された低温容器cが設けられており、低温容器cの周囲に真空断熱空間kが形成されている。
低温容器cの中心部には、一端が低温容器cの一方の端板dに固着された外側貫通管eが設けられていて、この外側貫通管eの外周面に超電導コイルのような被冷却体fが取り付けられている。
外側貫通管eの他端は、低温容器cの他方の端板dの開口された透孔hより低温容器cの外側へ突出されており、外側貫通管eの先端と透孔hの開口縁の間には、外側貫通管eの線膨張を吸収しつつ、低温容器cの液密を保持する金属製のベローズiが設けられている。
また外側貫通管eの中心部には、外側貫通管eより小径な内側貫通管jが設けられていて、内側貫通管jの両端部は、真空容器aの端面に設けられた端板gに溶接等の手段で気密に固着されていたり、Oリングのようなシール手段を介して気密に接続されている。
【0005】
前記構成のクライオスタットを、例えば食品中の異物を検査する異物検査装置として使用する場合、被検体を内側貫通管j内に置き、極低温液体bにより冷却された被冷却体fに通電して内側貫通管j内に強磁界を発生させることにより、被検体中に金属等の異物が混入していないかを検査するが、室温状態のクライオスタットに極低温液体を供給して被冷却体fを冷却したり、使用を中止してクライオスタットを室温状態に戻す際に、被冷却体fの近傍に設けられた外側貫通管eが膨張したり収縮して、極低温液体を収容した低温容器cとの間で熱膨張差が発生するが、この熱膨張差をベローズiが吸収するため、低温容器cと外側貫通管eの接続部に歪や応力が発生しない構造となっている。
【特許文献1】特開平7−22658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし前記従来のクライオスタットのように、低温容器cと外側貫通管eの熱膨張差をベローズiにより吸収するようにしたものでは、真空容器の内と低温容器c内の圧力差に十分に耐える構造の高価なベローズiを必要とする上、部品点数が多くなるため部品コストが嵩む等の問題がある。
また外側貫通管eの先端と低温容器cの端板dとベローズiの両端を液密に接続する作業に多くの工数を要するため、組み立て時の作業性が悪いと共に、ベローズi部分が低温容器cの外側へ突出するため、低温容器cを収容する真空容器が大型となり、クライオスタットを小型化する際の妨げとなる等の問題がある。
本発明はかかる問題を改善するためになされたもので、組み立て及び小型軽量化が容易なクライオスタットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のクライオスタットは、被冷却体を冷却する極低温液体が収容されたほぼ密閉構造の低温容器と、低温容器の周囲に真空断熱空間を形成する真空容器と、低温容器に両端部が支持され、かつ被冷却体の近傍に取り付けられた外側貫通管とを備えたクライオスタットであって、外側貫通管を支持する低温容器の支持部に、外側貫通管と低温容器との熱膨張差を吸収するダイヤフラムを形成したものである。
【0008】
前記構成により、外側貫通管が膨張しり、収縮したために発生する低温容器との熱膨張差をダイヤフラムが吸収するため、低温容器の支持部に歪や応力が発生するのを防止することができ、これによってクライオスタットの耐久性及び信頼性を向上することができる。
また低温容器にダイヤフラムを形成するだけでよいため、従来のベローズを設けたものに比べて、低温容器と外側貫通管の接続部にベローズの両端を液密に接続する組み立て作業が不要となり、これによってクライオスタットの組み立て性が格段に向上すると共に、低温容器の外側へ突出するベローズが不要となるため、低温容器を収容する真空容器が小型化でき、これによってクライオスタット全体の小型軽量化が図れる。
【0009】
本発明のクライオスタットは、低温容器の支持部周辺の肉厚を、他の部分より薄肉にすることにより、ダイヤフラムを形成したものである。
【0010】
前記構成により、高価なベローズが不要な上、部品点数を少なくできるため、部品コスト削減が図れるようになる。
【0011】
本発明のクライオスタットは、外側貫通管内に、両端が前記真空容器に気密に固着された内側貫通管を設けたものである。
【0012】
前記構成により、各種工業製品や物理化学実験装置、検査装置、医療用装置に容易に適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクライオスタットによれば、外側貫通管と低温容器との熱膨張差をダイヤフラムが吸収するため、低温容器の支持部に歪や応力が発生するのを防止することができると共に、低温容器の外側へ突出するベローズが不要となるため、低温容器を収容する真空容器が小型化でき、これによってクライオスタット全体の小型軽量化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、図面を参照して詳述する。
図1はクライオスタットの断面図、図2はクライオスタットの要部を示す拡大図である。
図1に示すクライオスタット本体1は、密閉構造となった筒状の真空容器2を有している。
真空容器2は軸芯がほぼ水平となる筒体2aと、筒体2aの両端面を閉鎖する端板2bとからなり、全体がステンレスやアルミニウム等の金属、またはガラス繊維や、カーボン繊維により強化された繊維強化プラスチック(FRP)により形成されている。
真空容器2の一方の端板2bは着脱自在となっていて、ボルト等の固着具13により真空容器2の端部に形成されたフランジ2dに固定されており、端板2bとフランジ2dの間には、気密を保持するOリングよりなるシール手段14が介在されている。
真空容器2内には、真空容器2より小径な筒体3aと、筒体3aの両端面を閉鎖する端板3bとからなる低温容器3が同心的に収容されている。
低温容器3は、全体がガラス繊維またはカーボン繊維により強化されたFRPによりほぼ密閉構造に形成されていて、内部に液体ヘリウムや液体窒素からなる極低温液体4が収容されており、真空容器2内を真空状態にすることにより、低温容器3の周囲に真空断熱空間12が形成されている。
【0015】
低温容器3は、図2に示すように一方の端板3bの中心部にねじ孔3cが開口されていて、このねじ孔3cに、低温容器3と同心的に設けられた外側貫通管5の一端が、エポキシ樹脂等の接着剤を塗布した後螺挿されている。
外側貫通管5の一端側には大径部5aが形成されていて、この大径部5aの外周面に、ねじ孔3cに螺挿するねじ部5bが形成されており、外側貫通管5の他端側には、低温容器3の他方の端板3bの中心部に形成された嵌合孔3dに液密に嵌合する嵌合部5cが形成されている。
嵌合部5cの低温容器3内側端部には、端板3bの内側面に当接するストッパ5dが円周方向に環状に突設されており、嵌合部5cのストッパ5dと反対側の端部には、ねじ部5eが形成されていて、このねじ部5eに螺挿したナット6を締め付けることにより、外側貫通管5の他端が低温容器3の他方の端板3bに固着されている。
【0016】
また他方の端板3bの外側面には、嵌合部5cを囲むように環状の凹部3fが形成されている。
この凹部3fの幅Wは、嵌合部5cの外径を例えば50mmとした場合、例えば20mm程度となっており、深さDは、端板3bの厚さTを例えば15mmとした場合、10〜14mmとなっており、これによって凹部3cの内底部に、厚さtが1〜5mmの薄肉なダイヤフラム3dが形成されている。
そしてこのダイヤフラム3dにより後述する作用で、外側貫通管5と低温容器3の熱膨張や熱収縮差を吸収するようになっている。
外側貫通管5の外周部には、図1に示すように超電導コイルよりなる被冷却体6が設けられている。
被冷却体6には、図示しない給電線により電力が供給されるようになっており、低温容器3内に収容された極低温液体4により被冷却体6を冷却することにより、被冷却体6に超電導状態が得られるようになっている。
【0017】
一方、外側貫通管5内には、外側貫通管5より小径な内側貫通管7が同心的に設けられている。
内側貫通管7の一端側は、真空容器2の端板2bの中心部に溶接等の手段で固着され、他端側は端板2bの中心部にOリングのようなシール手段15を介して気密に嵌合されており、各端板2bの外側に開口した端面開口部2cより内側貫通管7内に被検体(図示せず)が挿入できるようになっている。
また真空容器2の上部には、下端が真空容器2の外周面に気密に接続された筒状の導入管8が垂直方向に突設されており、導入管8内に信号線(図示せず)を外部へ引き出す極低温液体注入管9が同心的に設けられている。
極低温液体注入管9の上端は、導入管8の上端面を閉鎖する端板8aに気密に接続されていて、低温容器3や低温容器3内に設けられた被冷却体6の荷重を真空容器2が支持するようになっており、極低温液体注入管9の上面開口は蓋体10により閉鎖されていて、この蓋体10に、低温容器3内へ極低温液体4を注入したり、蒸発ガスを排出するための注入排出口11が設けられている。
【0018】
次に前記構成されたクライオスタットの作用を説明する。
クライオスタット本体1を異物検査装置に使用する場合は、真空容器2の両端板2bの中心部に開口された端部開口部2cより内側貫通管7内に被検体を挿入して、被検体に混入した金属片等の異物検査を行う。
異物検査に当たっては、低温容器3内に充填された極低温液体4により冷却された被冷却体6に通電して内側貫通管7内に強磁界を発生させるが、室温状態のクライオスタット本体1に極低温液体を供給して被冷却体6を冷却すると、低温容器3の内部温度に不均一が発生して、被冷却体6の近傍に設けられた外側貫通管5と極低温液体を収容した低温容器3との間で熱収縮差が発生する。
【0019】
しかし両端が低温容器3の両端板3bに固着された外側貫通管5の他端側には、端板3bにダイヤフラム3dが形成されていて、外側貫通管5が収縮したために発生する低温容器3との熱収縮差をダイヤフラム3dが弾性変形することにより吸収するため、低温容器3と外側貫通管5の取り付け部に歪や応力が発生するのを防止することができる。
また使用を中止してクライオスタット本体1を室温状態に戻す際には、被冷却体6の近傍に設けられた外側貫通管5が熱膨張して、低温容器3と外側貫通管5との間で熱膨張差発生するが、このの熱膨張差をダイヤフラム3dが弾性変形することにより吸収するため、低温容器3と外側貫通管5の取り付け部に歪や応力が発生するのを防止することもできる。
さらに低温容器3の端板3bにダイヤフラム3dを形成するだけでよいため、従来のベローズを設けたものに比べて、低温容器3の端板3b及び外側貫通管5にベローズの両端を液密に接続する組み立て作業が不要となり、これによってクライオスタットの組み立て性が格段に向上すると共に、低温容器の外側へ突出するベローズが不要となるため、低温容器を収容する真空容器2が小型化でき、これによってクライオスタット全体の小型軽量化が図れるようになる。
【0020】
一方前記実施の形態では、内側貫通管7と外側貫通管5を水平方向に設けた横型のクライオスタットについて説明したが、図3に示す変形例のように内側貫通管7と外側貫通管5が垂直となるように真空容器2を縦方向に設置して、縦型のクライオスタットとしてもよい。
この変形例では、低温容器3内に極低温液体を注入する極低温液体注入管9の下端が、低温容器3の端板3b側から低温容器3内に連通されており、極低温液体注入管9の上端側は、真空容器2の端板2bを貫通して真空容器2の上方へ突設されていて、極低温液体注入管9の上端部に、低温容器3内へ極低温液体4を注入したり、蒸発ガスする注入排出口11が設けられている。
【0021】
また極低温液体注入管9の外周面が端板2bに気密に接続されていて、低温容器3や低温容器3内に設けられた被冷却体6の荷重を真空容器2が支持するようになっている。
そして低温容器3の例えば上側の端板3bにダイヤフラム3dが形成されて、外側貫通管5が熱膨張したり、熱収縮したために発生する低温容器3との熱膨張、熱収縮差をダイヤフラム3dが弾性変形することにより吸収するようになっており、これによって低温容器3と外側貫通管5の取り付け部に歪や応力が発生するのを防止できるが、クライオスタット全体としての作用は、前記実施の形態と同様なので、その説明を省略する。
【0022】
なお前記実施の形態及び変形例では、低温容器3の端板3bの一方にのみダイヤフラム3dを形成したが、端板3bの両方にダイヤフラム3dを形成しても勿論よいと共に、外側貫通管5の周囲に環状凹部3cを設けてダイヤフラム3dを形成するようにしたが、外側貫通管5の周囲の同心円上に複数の円形凹部を等間隔に形成してもよく、環状凹部3cを円周方向に複数分割するようにしてもよい。
要は外側貫通管5を支持する低温容器3の支持部周辺の肉厚を、他の部分より薄肉にすることにより、ダイヤフラム3dを形成すればよい。
また被冷却体6としては、超電導コイルの他に、超電導磁気センサや、磁場を遮断する超電導シールド等であってもよく、これらを併用したものであってもよいと共に、前記クライオスタットは、異物検査装置のみならず、各種工業製品や、物理化学実験装置、医療用装置等にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態になるクライオスタットの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態になるクライオスタットの要部を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態になるクライオスタットの変形例を示す断面図である。
【図4】従来のクライオスタットの断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 クライオスタット本体
2 真空容器
3 低温容器
3d ダイヤフラム
4 極低温液体
5 外側貫通管
6 超伝導コイル
7 内側貫通管
12 真空断熱空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却体を冷却する極低温液体が収容されたほぼ密閉構造の低温容器と、前記低温容器の周囲に真空断熱空間を形成する真空容器と、前記低温容器に両端部が支持され、かつ前記被冷却体の近傍に取り付けられた外側貫通管とを備えたクライオスタットであって、前記外側貫通管を支持する前記低温容器の支持部に、前記外側貫通管と前記低温容器との熱膨張差を吸収するダイヤフラムを形成したことを特徴とするクライオスタット。
【請求項2】
前記低温容器の支持部周辺の肉厚を、ほかの部分より薄肉にすることにより、前記ダイヤフラムを形成してなる請求項1に記載のクライオスタット。
【請求項3】
前記外側貫通管内に、両端が前記真空容器に気密に固着された内側貫通管を設けてなる請求項1または2に記載のクライオスタット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−142075(P2007−142075A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332546(P2005−332546)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(505427012)株式会社 フジヒラ (2)
【Fターム(参考)】