説明

クラック深さ測定方法およびクラック深さ測定装置

【課題】きわめて簡易な構成で、被検体のクラック深さを、容易かつ正確に測定することができる超音波TOFD法を用いたクラック深さ測定方法および装置を提供する。
【解決手段】超音波探触子1を用いて被検体2のクラック30周辺を走査してクラック深さdを測定するクラック深さ測定方法および装置であって、超音波探触子1は、中心に孔21を有する焦点型の超音波探触子であり、超音波探触子1が、被検体2表面から反射する表面反射波W1とクラック30の先端で回折した回折波W2とを受波し、前記走査位置に対応した表面反射波W1と回折波W2との干渉状態の変化をもとに、クラック深さdを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷、浸透探傷、磁粉探傷などの非破壊試験によって検出された表面クラックの深さ測定を行うクラック深さ測定方法およびクラック深さ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体のきず端部深さ等を測定する技術としてTOFD(Time of Flight Diffraction)法が広く知られている。このTOFD法は、図7に示すように、被検体102内のきず121を中心に、超音波発生素子131を装着した超音波発生用探触子103と超音波受信素子141を装着した超音波受信用探触子104を対称に配置し、きず121に平行に走査(1次元走査)する方法である。超音波発生素子131から放射された超音波は、被検体102の表面直下をラテラル波として伝搬し、第1波信号として超音波受信素子141に受信される。また、被検体102にきず121がある場合、きず端部121aから回折波が発生し第2波信号として超音波受信素子141に受信される。
【0003】
そして、きず端部121aからの回折波とラテラル波との伝搬時間差から、きず端部深さTが算出される。具体的には、図8に示すように、超音波発生素子131、超音波受信素子141及びきず端部121aがそれぞれ直角三角形の頂点にあるものとして、次式(1)によってきず端部深さTを算出する。
T=(W−S1/2 …(1)
ただし、Tは、きず端部深さであり、Wは、超音波発生素子又は超音波受信素子からきず端部までの距離であり、またSは、素子間距離、すなわち、超音波発生素子と超音波受信素子との間の距離の1/2である。
【0004】
ここで、式(1)中のWは、きず端部121aからの回折波の伝搬時間Bwから算出でき、Sは、ラテラル波の伝搬時間Lwから算出できる。ただし、両伝搬時間には、超音波発生用探触子103及び超音波受信用探触子104のホルダー132、142内の伝搬時間Pdが含まれているので、きず端部深さTは、伝搬時間Bw、Lwから伝搬時間Pdを差し引いて算出する。すなわち、式(1)中の距離Wは、次式(2)で表され、距離Sは、次式(3)で表される。
W={(Bw−Pd)/2}×C …(2)
S={(Lw−Pd)/2}×C …(3)
ここで、Cは被検体の音速であり、距離Sは実測値であるので、式(3)から伝搬時間Pdが算出される。この伝搬時間Pdを式(2)に代入することにより、距離Wが算出される。そして、距離S及び距離Wを式(1)に代入することにより、きず端部深さTが算出される。
【0005】
このように、TOFD法によれば、比較的簡単に、きず端部深さを測定することができる。このため、その適用範囲の拡大、また測定精度・効率の向上等を目的として、様々な改良技術が提案されている(特許文献1〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−316215号公報
【特許文献2】特開2001−50938号公報
【特許文献3】特開2001−215218号公報
【特許文献4】特開2001−228128号公報
【特許文献5】特開2001−305124号公報
【特許文献6】特開2001−324484号公報
【特許文献7】特開2002−5904号公報
【特許文献8】特開2004−53462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれの先行技術も、超音波発信素子と超音波受信素子とが別体となっているため、回折波を効率よく受波するためには両者の正確なアライメントが必要であった。そして、このアライメントには精密な走査装置、あるいは探触子ホルダーなどが必要なため、装置の大型化をまねきやすく、形状が単純ではない物体や狭隘な部位に発生するクラックの深さ測定への適用が難しいという問題があった。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成で、超音波TOFD法を用いて、被検体のクラック深さを、容易かつ正確に測定することができるクラック深さ測定方法およびクラック深さ測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるクラック深さ測定方法は、超音波探触子を用いて被検体のクラック周辺を走査してクラック深さを測定するクラック深さ測定方法であって、前記超音波探触子は、中心に孔を有する焦点型の超音波探触子であり、前記超音波探触子が、前記被検体表面から反射する表面反射波と前記クラックの先端で回折した回折波とを受波し、前記走査位置に対応した前記表面反射波と前記回折波との干渉状態の変化をもとに、前記クラック深さを測定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるクラック深さ測定方法は、上記の発明において、前記超音波探触子が発する超音波の波長毎に、前記干渉状態における隣接する受信ピーク間のピッチとクラック深さとの関係を予め求めておき、前記干渉状態のピッチを求め、該ピッチをもとに前記関係からクラック深さを求めることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるクラック深さ測定装置は、超音波探触子を用いて被検体のクラック周辺を走査してクラック深さを測定するクラック深さ測定装置であって、前記超音波探触子は、中心に孔を有する焦点型の超音波探触子であり、前記被検体表面から反射する表面反射波と前記クラックの先端で回折した回折波とを受波し、前記走査位置に対応した前記表面反射波と前記回折波との干渉状態の変化をもとに、前記クラック深さを測定する測定手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるクラック深さ測定装置は、上記の発明において、前記測定手段は、前記超音波探触子が発する超音波の波長毎に、前記干渉状態における隣接する受信ピーク間のピッチとクラック深さとの関係を予め求めておき、測定時に、前記干渉状態のピッチを求め、該ピッチをもとに前記関係からクラック深さを求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中心に孔を有する超音波探触子を1次元走査するという極めて簡易な操作によって、被検体のクラック深さを、容易かつ正確に測定することができるので、様々な非破壊試験現場におけるクラック深さ測定に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる超音波探傷装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示した超音波探触子の構成を示す断面図である。
【図3】図3は、図2に示した超音波探触子を走査した状態を示す断面図である。
【図4】図4は、超音波探触子が受波した表面反射波と回折波とが干渉した際の受波超音波振幅の位置依存性を示す図である。
【図5】図5は、クラック深さ測定の原理を説明する説明図である。
【図6】図6は、本発明によって測定したクラック深さと切断試験により求めたクラック深さとを対比して示した結果を示す図である。
【図7】図7は、従来のTOFD法を説明するための斜視図である。
【図8】図8は、従来のTOFD法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明にかかるクラック深さ測定方法およびクラック深さ測定装置の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態にかかる超音波探傷によるクラック深さ測定装置の構成を示す模式図である。図1において、超音波探触子1は、図示しない1次元走査装置に取り付けられている。超音波探触子1は、超音波送受信器10に接続され、超音波送受信器10から一定の繰返し周期にて印加される高電圧パルスにより超音波パルスを水中へ送波する。超音波探触子1は、この超音波パルスにより被検体表面からの反射波およびクラック先端からの回折波が重畳された超音波を受波する。超音波送受信器10は、超音波探触子1によって受波され電気信号に変換された信号を適当な振幅に増幅する。増幅後の超音波信号はゲート回路11へ送られ、ゲート回路11は、受波超音波による信号のみを抽出し、ピーク値検出回路12に送る。ピーク値検出回路12は、入力された超音波による信号の振幅を検出し、その結果を制御表示装置13に送る。制御表示装置13は、1次元走査装置の動きを制御しつつ、超音波探触子1の位置と対応付けて超音波による信号の振幅を収集し、この結果に基づいて、クラック深さを演算し、表示する。
【0017】
なお、超音波探触子1には、図示しない給水装置から給水チューブ5を介して水が供給され、超音波探触子1の中央に設けられた給水孔から水が流れ出ることにより、局部水浸法による超音波測定を行うことが可能となる。
【0018】
ここで、上述したクラック深さ測定装置に用いられる超音波探触子の構成について説明する。図2は、超音波探触子1の詳細構成を示す断面図である。また、図3は、図2の状態から超音波探触子1を1次元走査した後の状態を示す断面図である。図2に示すように、この超音波探触子1は、送波器と受波器とを一体化した周知の焦点型超音波探触子の中心に、孔21および給水孔22を設けたものである。また、超音波探触子1は、具体的に、中央に孔21をもったお椀型に成型された超音波振動子20によって実現される。
【0019】
この超音波探触子1を用いたクラック深さ測定は、超音波探触子1と被検体2との間に水を介在させつつ被検体2のクラック30周辺を走査し、被検体2表面からの表面反射波W1およびクラック先端において回折した回折波W2とを受波し、走査にともなう両者(表面反射波W1と回折波W2)の干渉状態の変化に基づいて行われる。
【0020】
なお、超音波探触子1には、お椀型(断面が円弧の球面)の超音波振動子20が設けられるが、入射角が臨界角より小さくなるように、断面円弧の角度は臨界角以下にしている。これは、入射した超音波から漏洩表面波が励起されることにより、受波器が表面反射波W1および回折波W2以外の余分な超音波(漏洩表面波がモード変換された縦波)を受けることがないようにするためである。
【0021】
このような中心に孔21を有する焦点型の超音波探触子1を用いることにより、被検体2の表面反射波W1およびクラック30先端からの回折波W2を受波することができる。この構成では、送波器と受波器が一体化されているので、走査に際して特段のアライメントは不要となる。また、この焦点型の超音波探触子1はその中心に孔21が開いているため、孔21のない焦点型の超音波探触子に比べ、中心に入射した入射波による直接反射波の受波を防止できるため、表面反射波の大きさを格段に低くすることができる。一方、回折波のレベルは、小さいため、これによって、被検体2の表面からの表面反射波W1のレベルとクラック30先端からの回折波W2のレベルとが近くなるため、受波された超音波から両者の干渉現象を観察することが容易となる。
【0022】
ここで、表面反射波W1と回折波W2との干渉について説明する。図3に示すように、超音波探触子1をクラック30周辺で走査すると、クラック30と超音波探触子1との位置関係によって干渉現象が生じる。これは、図2および図3に示した表面反射波W1と回折波W2との位相差が異なるからである。この結果、図4に示すように、クラック30周辺では、超音波探触子1の位置変化によって、超音波探触子1による表面反射波W1と回折波W2とが干渉した受信超音波振幅を検出する。すなわち、クラック30周辺において走査すると、干渉による強めあい、弱めあいによって、受波超音波振幅が波打ったものとなる。この波うちの周期は、クラック深さに比例するので、波うち周期を計測することによりクラック深さdを測定することができる。
【0023】
すなわち、クラック深さdは、次式(4)によって求めることができる。
d=l1/tanθ1=l/tanθ …(4)
ただし、図5に示すように、l1、は、位相が2πずれた隣り合うピーク振幅値をもつ位置P,Pとクラック30の位置Pとの間の距離である。また、θ1,θ2は、クラック30の回折位置における位置P,Pへの回折角である。
【0024】
なお、実際には、距離l,l間の距離(ピッチ)と、クラック30の深さdとは比例関係にあるので、同じ超音波の波長のときの比例関係を予め求めておき、このピッチを測定することによって直ちにクラック30の深さdを求めるようにしている。この場合、超音波探触子1が発する超音波の波長ごとに、ピッチとクラック深さとの関係を予め求めておき、この比例関係を制御表示装置13に予め保持させておき、測定時に、ピッチのみを求め、このピッチから比例関係をもとにクラック深さを求めるようにするとよい。
【0025】
(実施例)
超音波プローブ1として、超音波振動子20の材質をP(VDF−TrFE)、周波数30MHz、超音波振動子直径6mm、水中焦点距離12mm、中心孔径3mmの仕様のものを用いて、クラック深さの測定を行った。図6は、3個のクラックについて、本発明により測定したクラック深さと切断試験により求めたクラック深さとを対比して示した結果である。切断試験によって求めたクラック深さに対して0.01〜0.02mm程度の誤差があったのみで、それぞれ良好な測定となっている。
【0026】
なお、本発明の実施形態では、超音波探触子1を1次元走査装置に取り付け走査したが、超音波探触子1の位置を、位置検出手段によって検知しつつ、超音波探触子1を手持ち走査することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 超音波探触子
2 被検体
5 給水チューブ
10 超音波送受信器
11 ゲート回路
12 ピーク値検出回路
13 制御表示装置
20 超音波振動子
21 孔
22 給水孔
30 クラック
W1 表面反射波
W2 回折波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子を用いて被検体のクラック周辺を走査してクラック深さを測定するクラック深さ測定方法であって、
前記超音波探触子は、中心に孔を有する焦点型の超音波探触子であり、
前記超音波探触子が、前記被検体表面から反射する表面反射波と前記クラックの先端で回折した回折波とを受波し、
前記走査位置に対応した前記表面反射波と前記回折波との干渉状態の変化をもとに、前記クラック深さを測定することを特徴とするクラック深さ測定方法。
【請求項2】
前記超音波探触子が発する超音波の波長毎に、前記干渉状態における隣接する受信ピーク間のピッチとクラック深さとの関係を予め求めておき、
前記干渉状態のピッチを求め、該ピッチをもとに前記関係からクラック深さを求めることを特徴とする請求項1に記載のクラック深さ測定方法。
【請求項3】
超音波探触子を用いて被検体のクラック周辺を走査してクラック深さを測定するクラック深さ測定装置であって、
前記超音波探触子は、中心に孔を有する焦点型の超音波探触子であり、前記被検体表面から反射する表面反射波と前記クラックの先端で回折した回折波とを受波し、
前記走査位置に対応した前記表面反射波と前記回折波との干渉状態の変化をもとに、前記クラック深さを測定する測定手段を備えたことを特徴とするクラック深さの測定装置。
【請求項4】
前記測定手段は、前記超音波探触子が発する超音波の波長毎に、前記干渉状態における隣接する受信ピーク間のピッチとクラック深さとの関係を予め求めておき、測定時に、前記干渉状態のピッチを求め、該ピッチをもとに前記関係からクラック深さを求めることを特徴とする請求項3に記載のクラック深さの測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154747(P2012−154747A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13375(P2011−13375)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】