説明

クラッド電線、リッツ線、集合線およびコイル

【課題】高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減する。
【解決手段】コアとなる銅線(1)と、その外周面に形成されたアルミニウム層(2)とを具備してなる。アルミニウム層(2)の厚さtは、クラッド電線(10)の断面積の5%以上、50%以下である。
【効果】コイルとして使う場合に、周波数によっては、銅線やアルミニウム線を用いた同構造のコイルよりも損失を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド電線、リッツ線、集合線およびコイルに関し、さらに詳しくは、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来るクラッド電線、リッツ線、集合線およびコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョークコイル,トランス,インダクタンスには、複数の絶縁銅線を寄り合わせたリッツ線が一般に用いられている。
また、半田付け性改善のための錫めっき銅線や銅めっきアルミニウム線が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−237674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
銅線、又は、複数の絶縁銅線を撚り合わせたリッツ線でも、高周波においては損失が増加する。
逆にアルミ線や銅めっきアルミ線では、同断面積の銅線より条件によっては高周波で損失が小さくなる場合があるが、直流や低周波では損失が大きくなる。
すなわち、従来の電線では、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において適さない場合がある問題点があった。
そこで、本発明の目的は、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来るクラッド電線、リッツ線、集合線およびコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、電線断面積の5%以上、50%以下の断面積となる厚さのアルミニウム層を銅線の外周面に形成してなるクラッド電線を提供する。
上記第1の観点によるクラッド電線では、直径が0.3mm、アルミ面積率が5%(アルミ厚さ3.8μm)〜10%(7.7μm)の絶縁クラッド電線を使用した152ターンのコイルにおいて、略800kHz以上で、同条件の銅線コイルより損失が減少した。また、略400kHz〜1000kHzの周波数範囲で周波数を変動させた場合、平均した同一実効値電流では、同条件の銅線コイルより損失が低減した。
また、直径が1.1mm、アルミ面積率が5%(アルミ厚さ13.9μm)〜50%(161μm)の絶縁クラッド電線を使用した27ターン2層巻コイルにおいて、略50kHz〜100kHzの範囲で、同条件の銅線より損失が減少した。また、30kHz〜100kHzの周波数範囲で周波数を変動させた場合、平均した同一実効値電流では、同条件の銅線より損失が減少した。
なお、アルミ面積率が50%を越えると、全体損失特性がアルミ線に近づき、直流抵抗や低周波損失が増加するので、好ましくない。
【0005】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点によるクラッド電線に絶縁被覆を施した絶縁電線を素線として含むリッツ線を提供する。
上記第2の観点によるリッツ線でも、上記第1の観点によるクラッド線を用いているため、同様の効果が得られる。
【0006】
第3の観点では、本発明は、前記第1の観点によるクラッド電線に絶縁被覆を施した絶縁電線を複数束ねた集合線を提供する。
上記第3の観点による集合線でも、上記第1の観点によるクラッド線を用いているため、同様の効果が得られる。なお、リッツ線は複数の素線を撚って束ねた電線であり、集合線は複数の素線を撚らずに束ねた電線である。
【0007】
第4の観点では、本発明は、前記第1の観点によるクラッド電線または前記第2の観点によるリッツ電線または前記第3の観点による集合線のいずれかを巻回してなるコイルを提供する。
上記第4の観点によるコイルでは、前記第1の観点によるクラッド電線または前記第2の観点によるリッツ電線または前記第3の観点による集合線を用いているため、同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のクラッド電線、リッツ線、集合線およびコイルによれば、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る。また、軽量化することも出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
図1は、実施例1に係るクラッド電線10を示す断面図である。
このクラッド電線10は、コアとなる銅線1と、その外周面に形成されたクラッドとなるアルミニウム層2とを具備してなる。
【0011】
アルミニウム層2の厚さtは、クラッド電線10の断面積の5%以上、50%以下である。
【実施例2】
【0012】
図2は、実施例2に係る絶縁クラッド電線20を示す断面図である。
この絶縁クラッド電線20は、クラッド電線10の外周面にエナメル絶縁被覆3を形成したものである。
【実施例3】
【0013】
図3は、直径が1.1mm、アルミ面積率が5%〜50%の絶縁クラッド電線を2層27ターンに巻回したソレノイドコイルの特性図である。
この特性図の縦軸は、ソレノイドコイルの高周波抵抗Raを絶縁銅線を用いた同構造のコイルにおける高周波抵抗Rcに対する相対値Ra/Rcで示している。従って、縦軸の値が「1」より小さい周波数領域が、絶縁銅線を用いた同構造のコイルより損失が小さい領域である。
図3から判るように、50kHz〜100kHzで使用すれば、絶縁銅線を用いた同構造のコイルやアルミニウム線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなることが判る。また、200kHzより低い周波数では、アルミニウム線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなることが判る。
【実施例4】
【0014】
図4は、直径が0.14mm、アルミ面積率が10%〜50%の絶縁クラッド電線を素線とする素線数58本のリッツ線を1層21ターンに巻回したソレノイドコイルの特性図である。
図4から判るように、400kHz〜1000kHzで使用すれば、絶縁銅線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなることが判る。また、500kHzより低い周波数では、アルミニウム線を用いた同構造のソレノイドコイルより損失が小さくなることが判る。
【実施例5】
【0015】
図5は、直径が0.05mm、アルミ面積率が10%〜50%の絶縁クラッド電線を素線とする素線数1500本のリッツ線を2層40ターンに巻回した渦巻きコイルの特性図である。
図5から判るように、70kHz〜100kHzで使用すれば、絶縁銅線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなることが判る。また、85kHzより低い周波数では、アルミニウム線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなることが判る。
【実施例6】
【0016】
図6は、直径が0.5mm、アルミ面積率が5%〜30%の絶縁クラッド電線を1層93ターンに巻回したソレノイドコイルの特性図である。
図6から判るように、アルミ面積率が5%のものは、100kHz〜2000kHzで使用すれば、絶縁銅線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなることが判る。
【実施例7】
【0017】
図7は、直径が0.3mm、アルミ面積率が5%〜30%の絶縁クラッド電線を1層125ターンに巻回したソレノイドコイルの特性図である。
図7から判るように、アルミ面積率が5%のものは、500kHz〜1000kHzで使用すれば、絶縁銅線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなることが判る。
【実施例8】
【0018】
図8は、実施例2の絶縁クラッド電線20を撚らずに束ねて被覆チューブ101で被覆した集合線100の斜視図である。
【実施例9】
【0019】
図9の(a)は、実施例2の絶縁クラッド電線20の外周に接着層4を形成した接着層付き絶縁クラッド電線30の斜視図である。
図9の(b)は、接着層付き絶縁クラッド電線30を撚らずに束ねて接着層4で一体化した集合線200の斜視図である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のクラッド電線、リッツ線、集合線およびコイルは、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において好適に使用できる。具体例としては、チョークコイル,トランス,インダクター,TV用偏向ヨークなどの電磁誘導利用装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1に係るクラッド電線を示す断面図である。
【図2】実施例2に係る絶縁クラッド電線を示す断面図である。
【図3】実施例3に係るソレノイドコイルの損失特性を示すグラフである。
【図4】実施例4に係るソレノイドコイルの損失特性を示すグラフである。
【図5】実施例5に係る渦巻きコイルの損失特性を示すグラフである。
【図6】実施例6に係るソレノイドコイルの損失特性を示すグラフである。
【図7】実施例7に係るソレノイドコイルの損失特性を示すグラフである。
【図8】実施例8に係る集合線を示す斜視図である。
【図9】実施例9に係る接着層付き絶縁クラッド電線の断面図および集合線を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 銅線
2 アルミニウム層
3 絶縁被覆
4 被覆チューブ
10 クラッド電線
20 絶縁クラッド電線
30 接着層付き絶縁クラッド電線
100,200 集合線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線断面積の5%以上、50%以下の断面積となる厚さのアルミニウム層を銅線の外周面に形成してなるクラッド電線。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッド電線に絶縁被覆を施した絶縁電線を素線として含むリッツ線。
【請求項3】
請求項1に記載のクラッド電線に絶縁被覆を施した絶縁電線を複数束ねた集合線。
【請求項4】
請求項1に記載のクラッド電線または請求項2に記載のリッツ電線または請求項3に記載の集合線のいずれかを巻回してなるコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−129550(P2009−129550A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300032(P2007−300032)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】