説明

クランクシャフト支持構造及びクランクシャフト

【課題】騒音やフレーキングを抑制しつつ耐久性に優れ、クランクシャフトを円滑に回転可能に支持することが可能なクランクシャフト支持構造及びクランクシャフトを提供する。
【解決手段】軸方向に間隔をあけて複数のジャーナル部及び複数のクランクピン部が設けられたクランクシャフトを、前記ジャーナル部に設けられた軸受によってクランクケースのハウジング内で回転可能に支持すると共に、前記クランクピン部に設けられた軸受によってコンロッドを回転可能に連結するクランクシャフト支持構造であって、前記軸受の少なくとも一方が転がり軸受であり、前記ジャーナル部又はクランクピン部にはクランクシャフト母材上にセラミック層が形成され、セラミック層の表面を転がり軸受の転動体が直接転動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用レシプロ型エンジン等の多気筒内燃機関のクランクシャフトを支持するクランクシャフト支持構造及びクランクシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用エンジンは、環境問題などの取り組みのひとつとして、低燃費化などが進められており、クランクシャフトの支持部であるジャーナル部、またはコンロッドが連結されるクランクピン部に用いられる軸受として、すべり軸受に替えて摩擦抵抗が小さい転がり軸受の適用が検討されている。すべり軸受は、転がり軸受と比較して負荷容量が高いという利点を有している。また、転がり軸受は、すべり軸受と比較して起動時や回転時の摩擦抵抗が小さく、潤滑油の管理が容易なので、回転トルクの低減や軸受部分の給油量を減らすことが可能となるという利点を有している。
【0003】
一方、従来より、このクランクシャフトのジャーナル部またはクランクピン部に使用する軸受は、組立性の問題から円周方向に2分割したものが用いられており、転がり軸受の場合、軌道輪の分割方法として、一体型軌道輪を、いわゆる「自然割り」となる方法で軸方向に沿う割り面にて分割する方法がとられている。また、他の分割方法としては、外輪の分割線が軸方向から見てクランク状又は軌道面に対して斜めに切断するもの等が知られている。
【0004】
この分割型の転がり軸受は、二つ一組の2分割された外輪と、両分割された外輪の各内周面を転動し得るように配設される複数個の転動体であるころと、各ころを円周方向略等間隔に配置するように保持する保持器とを備えている。そして、二つ一組の2分割された内輪が、クランクシャフトのジャーナル部またはクランクピン部に外嵌固定されている。
【0005】
この部分の先行技術としては、エンジン用クランクシャフトに針状ころ軸受を適用してフリクションロスを低減しながら、軸受の保持器に負荷される荷重に応じて各部の強度設計をすることにより、耐久性に優れ、信頼性の高いクランクシャフト支持構造の発明が特許文献1に開示されている。
【0006】
また、クランクシャフトに転がり軸受の転動体が転動する内輪を取り付ける構造において、2分割された内輪を、ジャーナル部の軸方向両側に配置されたクランクアームによって軸方向に挟圧保持することにより、ジャーナル部に対して2分割された内輪を強固に取り付けることができる取付構造が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−247818公報
【特許文献2】特開2010−117008公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この先行技術においては、軌道面が2分割された転がり軸受の継ぎ目部分では、ミクロン単位の段差が不可避的に発生してしまう。この場合、転がり軸受の軌道輪を構成する各軌道輪分割体の継ぎ目部分に形成される端部エッジに転動体が衝突し、騒音又は振動が発生したり、衝突箇所からフレーキングが発生する恐れがある。
【0009】
また、鋳造又は鍛造により一体に製造されるクランクシャフトにおいて、ジャーナル部やクランクピン部は、通常、転がり軸受の内輪に要求される耐摩耗性等の性能を持ち合わせておらず、早期に剥離や摩耗などが生じるという問題がある。そのため、ジャーナル部等に対して別途内輪を取り付ける場合、ジャーナル部の軸方向両側にはクランクアームが存在するため、内輪を二つ割り構造とする必要があり、さらに、クリープが生じないように内輪をジャーナル部に対して強固に取り付ける必要がある。
しかしながら、2分割された内輪は、ジャーナル部等に強く圧接することができないため、強固に取り付けることは困難である。さらに、高速回転する内輪には遠心力により径方向外側への力が働くため、分割された各内輪分割体が開く方向に力が作用し、内輪の継ぎ目部に微小な段差が発生する可能性がある。また、特許文献2のように2分割された内輪をクランクアームで強く侠圧保持した場合、内輪の軌道面にゆがみが生じ、その結果として軸受軌道面の面圧が不均一となり、軸受寿命を短くしてしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、騒音やフレーキングを抑制しつつ耐久性に優れ、クランクシャフトを円滑に回転可能に支持することが可能なクランクシャフト支持構造及びクランクシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するために、軸方向に間隔をあけて複数のジャーナル部及び複数のクランクピン部が設けられたクランクシャフトを、前記ジャーナル部に設けられた軸受によってクランクケースのハウジング内で回転可能に支持すると共に、前記クランクピン部に設けられた軸受によってコンロッドを回転可能に連結するクランクシャフト支持構造であって、前記軸受の少なくとも一方が転がり軸受であり、前記ジャーナル部又はクランクピン部にはクランクシャフト母材上にセラミック層が形成され、セラミック層の表面を転がり軸受の転動体が直接転動することを特徴としている。
以上の構成により、クランクシャフトに継ぎ目の無い強固な軸受軌道面を形成することができるので、騒音やフレーキングを抑制しつつ耐久性に優れたクランクシャフト支持構造を得ることができる。
【0012】
好ましくは、クランクシャフトは、多気筒レシプロ型エンジンに使用される。多気筒レシプロ型エンジンのクランクシャフトには、気筒数に比例した多くのジャーナル部とクランクピン部が存在するので、上記構成のクランクシャフト支持構造を適用することにより、より高い効果が期待できる。
【0013】
本発明は、クランクシャフトであって、上記構成のクランクシャフト支持構造に使用され、鋳造又は鍛造により成型されることを特徴としている。
複雑な形状を有するクランクシャフトを鋳造又は鍛造により一体成形することにより、製造コストを抑えたクランクシャフトを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クランクシャフトのジャーナル部又はクランクピン部の外周面にセラミック層を形成し、継ぎ目のない転がり軸受の軌道面としたことにより、騒音又は振動を抑制し、フレーキングの発生を防止することができる。クランクシャフトは鋳造又は鍛造により一体成形され、製造方法により母材の材質が異なるが、軌道面にセラミックを溶射して強固なセラミック層を形成することにより、母材の材質を問わずに、ジャーナル部又はクランクピン部の外周面を耐久性に優れた転がり軸受の軌道面として適用可能としている。本構成により、クランクシャフト母材への熱的影響を抑えることで一体型クランクシャフトの強度を保ちつつ、継ぎ目の無い転がり軸受の軌道面により円滑に回転可能としたクランクシャフト支持構造及びクランクシャフトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係るクランクシャフトを示す側面図である。
【図2】ジャーナル部に配置された針状ころ軸受を示す断面図である。
【図3】クランクピン部に配置された針状ころ軸受を示す断面図である
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るクランクシャフト支持構造について、図面を参照して詳細に説明する。図1に示す鋳造又は鍛造により製造されたクランクシャフト11は、直列4気筒のレシプロ型エンジンに用いられており、同一軸線上に、軸方向に間隔をあけて複数のジャーナル部12,12が形成されている。
【0017】
このクランクシャフト11には、各気筒の図示しないピストンが取り付けられるコンロッド13が連結される複数のクランクピン部14,14が、ジャーナル部12の軸心に対して偏心した位置に形成されている。また、これらクランクピン部14の両側には、クランクシャフト11に接続される一対のクランクアーム15が形成されている。
上記のクランクシャフト11は、クランクケースのハウジング16内に配置されており、各ジャーナル部12,12に設けられたラジアル針状ころ軸受21,21によってクランクシャフト11がハウジング16内にて回転可能に支持されている。
【0018】
図2で具体的に示すように、ハウジング16は、クランクシャフト11の軸心を含む水平面にて上ハウジング25と下ハウジング26とに分割されており、ジャーナル部12にて、上ハウジング25に形成された円弧状の保持凹部27と、下ハウジング26に形成された円弧状の保持凹部28とによって針状ころ軸受21が上下から保持されている。
【0019】
また、ジャーナル部12に設けられる針状ころ軸受21は、自然割り等によって上側分割体41aと下側分割体41bとに2等分される分割型の外輪41と、この外輪41の内周面とジャーナル部12の外周面との間に配置される複数の針状ころ42,42と、これら針状ころ42を周方向に間隔をあけて転動可能に保持する分割型の保持器43と、を備えている。外輪41は、上側分割体41aと下側分割体41bとを組み合わせることにより、環状に形成され、上側分割体41aが上ハウジング25の保持凹部27に嵌合され、下側分割体41bが下ハウジング26の保持凹部28に嵌合されている。
【0020】
さらに、ジャーナル部12の表面には、クランクシャフト11の母材上にセラミックを溶射して強固なセラミック層44が形成されており、上記針状ころ軸受21の軌道面として、上記セラミック層44の表面上を針状ころ42が直接転動している。
以上の構成により、クランクシャフト11は、針状ころ軸受21によってハウジング16内にて回転可能に支持されている。
【0021】
一方、図3で具体的に示すように、コンロッド13も、ロッド31とキャップ32とに分割されており、クランクピン部14にて、ロッド31とキャップ32によって針状ころ軸受22が保持されている。クランクピン部14に設けられる針状ころ軸受22は、上側分割体51aと下側分割体51bとに2等分される分割型の外輪51と、この外輪51の内周面とクランクピン部14の外周面との間に配置される複数の針状ころ52と、これら針状ころ52を周方向に間隔をあけて転動可能に保持する分割型の保持器53と、を備えている。さらに、クランクピン部14の表面には、クランクシャフト11の母材上にセラミックを溶射して強固なセラミック層54が形成されており、上記針状ころ軸受22の軌道面として、上記セラミック層54の表面上を針状ころ52が直接転動している。
以上の構成により、コンロッド13は、針状ころ軸受22によってクランクピン部14にて回転可能に支持されている。
【0022】
以上説明したように、クランクシャフトのジャーナル部における針状ころ軸受の軌道面と、クランクピン部における針状ころ軸受の軌道面とにセラミック層を形成した。これにより、鋳鉄又は鍛造による一体型クランクシャフトであっても、軸受の軌道面となる部分に強 固なセラミック層を形成することにより、母材の材質を問わずにクランクシャフトの表面を転がり軸受の軌道面とすることが可能である。
さらに、内輪に継ぎ目や段差が無いため、2分割された内輪を用いる場合と比較して、騒音及び振動が低減すると共に耐久性が向上する。
【0023】
セラミック層は、転がり軸受が適用されるジャーナル部又はクランクピン部の少なくとも一箇所に形成されればよい。
また、セラミックとしては、酸化物系セラミック、炭化物系セラミック、窒化珪素セラミックなどを使用することができる。セラミック層の成形方法としては、フレーム溶射、プラズマ溶射、高速フレーム溶射などが適用可能である。セラミック層の成形後、研削又は研磨等によりセラミック層の表面仕上げ加工を行なうこともできる。
【0024】
また、上記の実施の形態においては、外輪と保持器と針状ころとを備えた針状ころ軸受の例を示したが、これに限ることなく、外輪を省略して保持器と針状ころとからなるケージアンドローラ型の転がり軸受であってもよい。この場合、ハウジング内周面又はコンロッド内周面を針状ころが直接転動する。転がり軸受は針状ころ軸受けに限らず、転動体として玉を用いた玉軸受にも適用することができる。
【0025】
さらに、この発明に係るクランクシャフト支持構造は、自動車や二輪車等のあらゆるエンジンのクランクシャフトに適用可能である。また、エンジンの気筒数は単気筒であっても多気筒であってもよいが、両端をクランクアームで挟まれた軸受部を有する多気筒エンジンに使用されるクランクシャフトに適用することにより、より大きな効果が期待できる。
この発明は、図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、レシプロ型エンジンのクランクシャフト支持構造及びクランクシャフトとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0027】
11 クランクシャフト
12 ジャーナル部
13 コンロッド
14 クランクピン部
15 クランクアーム
16 ハウジング
21,22 針状ころ軸受
25 上ハウジング
26 下ハウジング
27,28 保持凹部
31 ロッド
32 キャップ
41,51 外輪
41a,51a 上側分割体
41b,51b 下側分割体
42,52 針状ころ
43,53 保持器
44,54 セラミック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に間隔をあけて複数のジャーナル部及び複数のクランクピン部が設けられたクランクシャフトを、前記ジャーナル部に設けられた軸受によってクランクケースのハウジング内で回転可能に支持すると共に、前記クランクピン部に設けられた軸受によってコンロッドを回転可能に連結するクランクシャフト支持構造であって、
前記軸受の少なくとも一方が転がり軸受であり、前記ジャーナル部又はクランクピン部にはクランクシャフト母材上にセラミック層が形成され、セラミック層の表面を転がり軸受の転動体が直接転動することを特徴とするクランクシャフト支持構造。
【請求項2】
前記クランクシャフトは、多気筒レシプロ型エンジンに使用されることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフト支持構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクランクシャフト支持構造に使用され、鋳造又は鍛造により成型されることを特徴とするクランクシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219882(P2012−219882A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84973(P2011−84973)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】