説明

クランク室油の省燃費性向上剤および摩耗防止剤としての酒石酸誘導体ならびにその調製

本発明は、低硫黄、低灰分、低リンの潤滑剤組成物および内燃機関の潤滑方法に関し、省燃費性および省燃費耐久性の向上ならびに摩耗および摩擦の低減を可能にする。この組成物は、(a)潤滑粘性油と、(b)式Iで表される物質と1個から約150個の炭素原子を有するアルコールまたはアミンおよびそれらの組み合わせとの縮合生成物とを含む。この潤滑剤組成物は、約1.0までの硫酸灰分量、約0.08重量%までのリン含量、および約0.4重量%までの硫黄含量を有する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(以前の出願への相互参照)
本願は、2004年10月12日に出願された米国仮特許出願第10/963,082号の一部継続出願であり、現在では放棄されている。
【0002】
(発明の背景)
本発明は、低硫黄、低灰分、低リンの潤滑剤組成物および内燃機関の潤滑方法に関し、省燃費性および省燃費耐久性の向上ならびに摩耗および摩擦の低減を可能にする。
【0003】
省燃費性は非常に重要であり、例えば、機関内部の摩擦を低減することにより、省燃費性の向上を促進できる潤滑剤は重要な価値がある。本発明は、内燃機関の省燃費性を向上させる添加剤パッケージを含む低硫黄、低灰分、低リンの潤滑剤組成物を提供する。この向上は、摩擦改良剤の成分が、単独で酒石酸イミドまたは酒石酸ジアミド、またはそれらの組み合わせであるか、あるいは大部分がそれらである添加剤パッケージを供給することによりもたらされる。
【0004】
特許文献1(Barrer、1980年12月2日)により、効果的にきしみおよび摩擦を低減し、省燃費性を向上させるための、潤滑剤および燃料への添加物として有用な酒石酸イミドが開示されている。
【0005】
特許文献2(Davisら、1990年8月28日)により、(A)潤滑粘性油、(B)コハク酸アシル化剤を特定のアミンと反応させることで生成されるカルボン酸誘導体、および(C)スルホン酸またはカルボン酸の塩基性アルカリ金属塩を含む内燃機関用潤滑油組成物が開示されている。実例となる潤滑剤組成物(潤滑剤III)には、粘度指数改良剤、塩基性のアルキルベンゼンスルホン酸マグネシウム、過剰に塩基性の(overbased)アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、塩基性のアルキルベンゼンスルホン酸カルシウム、スクシンイミド分散剤およびジチオリン酸亜鉛を含む基油が含まれる。
【0006】
特許文献3(Chamberlin、1982年4月27日)により、内燃機関の省燃費性を向上させるための潤滑剤組成物が開示されている。この組成物には、特定の硫化組成物(カルボン酸エステル系)および塩基性のアルカリ金属スルホン酸塩が含まれる。他の成分として、少なくとも1つの油分散性の洗浄剤または分散剤、増粘剤および特定のリン酸塩を含むこともある。
【特許文献1】米国特許4,237,022号明細書
【特許文献2】米国特許4,952,328号明細書
【特許文献3】米国特許4,326,972号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の概要)
本発明は、内燃機関の潤滑に適した低硫黄、低リン、低灰分の潤滑剤組成物であり、次の成分
(a)潤滑粘性油と、
(b)式Iで表される物質と、1個から約150個の炭素原子を有するアルコールまたはアミンおよびそれらの組み合わせとの縮合生成物とを含む組成物であって、
【0008】
【化4】

Rがそれぞれ独立してHまたはヒドロカルビル基であるか、またはR基が一緒になって環を形成し、RがHの場合、この縮合生成物がアシル化またはホウ素化合物との反応によって任意でさらに官能化され、
前記潤滑剤組成物が、約1.0までの硫酸灰分量、約0.08重量%までのリン含量、および約0.4重量%までの硫黄含量を有する組成物を提供する。
【0009】
本発明は、さらに機関に潤滑剤組成物を供給することを含む内燃機関の潤滑方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
以下に記述する様々な好適な特徴および実施形態は、限定を目的として例示するものではない。
【0011】
本発明は、上述の通りの組成物を提供する。この組成物は、合計で一態様では0.4重量%未満、別の態様では0.3重量%未満、さらに別の態様では0.2重量%以下、さらに別の態様では0.1重量%以下の硫黄を含有していることが多い。本発明の組成物中の主要な硫黄源は、従来の希釈油に由来することが多い。一般に、硫黄は合計で0.1から0.01重量%の範囲で含まれる。
【0012】
この組成物は、合計で組成物の800ppm以下、別の態様では500ppm以下、さらに別の態様では300ppm以下、さらに別の態様では200ppm以下、さらの別の態様では100ppm以下のリンを含有していることが多い。一般に、リンは合計で500から100ppmの範囲で含まれている。
【0013】
この組成物は、合計で組成物の1.0重量%未満、一態様では0.7重量%以下、さらに別の態様では0.4重量%以下、さらに別の態様では0.3重量%以下、さらに別の態様では0.05重量%以下の硫酸灰分を含むことが多く、これはASTM D−874によって測定される。一般に、硫酸灰分は合計で0.7から0.05重量%の範囲で含まれる。
【0014】
潤滑粘性油
低硫黄、低リン、低灰分の潤滑油組成物は、1つ以上の基油からなり、一般には多量に存在する(すなわち、約50重量%を超える量である)。一般には、基油は潤滑油組成物の約60重量%超、約70%超、または約80重量%超の量で存在する。基油の硫黄含量は、一般に0.2重量%未満である。
【0015】
低硫黄、低リン、低灰分の潤滑油組成物は、100℃で約16.3mm/s以下、一実施形態では100℃で5から16.3mm/s(cSt)、一実施形態では100℃で6から13mm/s(cSt)の粘度を有してもよい。一実施形態において潤滑油組成物は、SAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40または10W−50である。
【0016】
低硫黄、低リン、低灰分の潤滑油組成物は、150℃で4mm/s(cSt)以下、一実施形態において3.7mm/s(cSt)以下、一実施形態において2から4mm/s(cSt)、一実施形態において2.2から3.7mm/s(cSt)、一実施形態において2.7から3.5mm/s(cSt)の高温/高せん断粘度を有することもある。これは、ASTM D4683の手順によって測定される。
【0017】
低硫黄、低リン、低灰分の潤滑剤組成物に使用される基油は、天然油、合成油またはそれらの混合物であってもよい。ただし、そのような油の硫黄含量は、本発明の低硫黄、低リン、低灰分の潤滑油組成物に必須である前述の硫黄濃度範囲を超えないものとする。有用な天然油には、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)ならびに液化石油および溶媒処理または酸処理をしたパラフィン系、ナフテン系またはパラフィン―ナフテン混合型の鉱油系潤滑油などの鉱油系潤滑油が含まれる。石炭または頁岩から得られる油も有用である。合成潤滑油には、重合および共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレン共重合体など)などの炭化水素油;ポリ(1−ヘキセン)、ポリ−(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)など、およびそれらの混合物;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼンなど);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニルなど);アルキル化ジフェニルエーテル、およびそれらの誘導体、類似体、同族体ならびに同種のものが含まれる。
【0018】
アルキレンオキシド重合体および共重合体ならびにそれらの誘導体は、末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによって変性された場合、使用可能な別の種類である周知の合成潤滑油となる。エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により調製される油、ポリオキシアルキレン重合体のアルキルエーテルおよびアリールエーテル(例えば、平均分子量約1000のメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、分子量約500〜1000のポリエチレングリコールジフェニルエーテル、分子量約1000〜1500のポリプロピレングリコールジエチルエーテルなど)またはそれらのモノカルボン酸エステルおよびポリカルボン酸エステル(例えば、酢酸エステル、C3〜8の混合脂肪酸エステルまたはテトラエチレングリコールのカルボン酸ジエステル)が例として挙げられる。
【0019】
使用可能な別の適した種類の合成潤滑油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルから成る。これらのエステルの具体例には、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルのエチルヘキサン酸と反応させて生成した複合エステルならびに同種のものが挙げられる。
【0020】
合成油として有用なエステルには、C5からC12のモノカルボン酸ならびに、ネオペンチルグリコール、トリメチオールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのポリオールおよびポリオールエーテルから生成されるものも含まれる。
【0021】
この油は、ポリ−アルファ−オレフィン(PAO)とすることもできる。一般にPAOは、4から30個、4から20個、または6から16個の炭素原子を有する単量体から得られる。有用なPAOの例として、オクテン、デセン、それらの混合物および同種のものから得られるPAOが挙げられる。PAOは、100℃で2から15、3から12、または4から8mm/s(cSt)の粘度を有することもある。有用なPAOの例として、100℃で4mm/s(cSt)のポリ−アルファ−オレフィン、100℃で6mm/s(cSt)のポリ−アルファ−オレフィンおよびそれらの混合物が挙げられる。鉱油と、1つ以上の前述のPAOとの混合物を使用してもよい。
【0022】
本発明の潤滑剤には、上記の種類の天然または合成(ならびにこれらの2つ以上の混合物)の未精製油、精製油および再精製油を使用することができる。未精製油は、天然源または合成源から、追加的な精製処理をすることなく直接得られるものである。例えば、未精製油として考えられるのは、レトルト操作で直接得られ、さらに処理をすることなく使用されるシェール油、一次蒸留で直接得られ、さらに処理をすることなく使用される石油系油分、またはエステル化処理で直接得られ、さらに処理をすることなく使用されるエステル油である。精製油は、1つ以上の特性を改善するために、さらに1つ以上の精製法で処理されたものであることを除けば、未精製油と類似している。溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、ろ過、浸出など多くの精製法が、当業者に知られている。再精製油は、精製油を得るために使用したのと同様のプロセスを、既にそのプロセスを使用した精製油に適用することにより得られる。そのような再精製油は、再生油および再加工油としても知られており、消耗した添加物および油分解生成物を除去するための技術によってさらに処理されることが多い。
【0023】
さらに、フィッシャー−トロプシュ(Fischer−Tropsch)ガス液化合成法により調製した油が周知であるが、これも使用可能である。いそ
摩擦改良剤
本発明の酒石酸エステル、酒石酸イミド、酒石酸ジアミドまたはそれらの組み合わせは、酒石酸と1つ以上のアルコールまたはアミンを反応させることで調製することができる。例えば、アミンは、式RR’NHを有してもよく、RおよびR’はそれぞれ独立してH、炭素原子が1個または8個から30個または150個、つまり原子が1〜150個、8〜30個、1〜30個または8〜150個の炭化水素ベースの基を表す。他のアミンとしては、炭素数の下限が2、3、4、6、10または12個で、上限が120、80、48、24、20、18または16個の範囲で炭素原子を有するものを使用してもよい。一実施形態において、RおよびR’のそれぞれの基が、8から30個の炭素原子を有する。一実施形態において、RおよびR’中の炭素原子の合計は、少なくとも8個である。置換基RおよびR’は、「−R”OR’”」であってもよく、R”は炭素原子が2から6個の二価アルキレン基であり、R’”は炭素原子が5個から150個、148個、146個または144個のヒドロカルビル基である。
【0024】
この酒石酸イミド、酒石酸ジアミド、またはそれらの組み合わせに適したアミンには、式RR’NHで表されるものが含まれる。式中RおよびR’は、Hまたは炭素原子が1から150個のヒドロカルビル基を表す。ただし、ある実施形態においては、RおよびR’中の炭素原子の合計が、少なくとも8個である。一実施形態においては、RまたはR’が8から26個の炭素を含み、別の実施形態においては12から18個の炭素原子を含む。
【0025】
本発明の酒石酸イミド、酒石酸ジアミド、またはそれらの組み合わせは、周知の縮合プロセスによる酒石酸または酒石酸の反応性等価物(エステル、酸ハロゲン化物または無水物など)と1つ以上の対応するアミンとを反応させることによって都合よく調製することもできる。
【0026】
酒石酸エステルの調製に適したアルコールは、同様に炭素原子を1個または8個から30個または150個、つまり1〜150個、8〜30個、1〜30個または8〜150個含むことになる。他のアルコールとしては、炭素数の下限が2、3、4、6、10または12個で、上限が120、80、48、24、20、18または16個の範囲で炭素原子を有するものを使用してもよい。ある実施形態においては、アルコール由来の基中の炭素原子数が、8〜24個、10〜18個、12〜16個、または13個であってもよい。使用されるアルコールは、直鎖または分枝であってもよく、分枝の場合は、分枝が鎖のどこで起こってもよく、分枝がどのような長さであってもよい。
【0027】
少なくとも炭素原子6個のアルコールを使用すると、それより短鎖のアルコールから調製したものに比べて、揮発性の低い生成物がもたらされると考えられている。少なくとも1つの分枝を有するアルコールを使用すると、生成物の油に対する溶解性が高められるとも考えられている。したがって、本発明のある実施形態では、単独の物質または混合物としてのC6〜18またはC8〜18の分枝アルコールまたはC12〜16の分枝アルコールなど、少なくとも炭素原子が6個の分枝アルコールから調製した生成物を使用する。そのような分枝アルコールは、油に対して最大の溶解性および相容性をもたらすこともある。具体例として、2−エチルヘキサノールおよびイソトリデシルアルコールが挙げられ、後者としては、市販等級の様々な異性体の混合物を挙げることもできる。また、本発明のある実施形態では、単独の物質または混合物としてのC6〜18またはC8〜18の直鎖アルコールまたはC12〜16の直鎖アルコールなど、少なくとも炭素原子が6個の直鎖アルコールから調製した生成物を使用する。そのような直鎖アルコールは、油に最良の摩擦性能をもたらす。
【0028】
本発明の酒石酸エステルは、周知の縮合プロセスによる酒石酸または酒石酸の反応性等価物(エステル、酸ハロゲン化物または無水物など)と1つ以上の対応するアルコールとを反応させることによって都合よく調製することもできる。
【0029】
同じく、アミンのアルキル基も同様に直鎖または分枝であってもよい。
【0030】
本発明の酒石酸エステル、酒石酸イミドまたは酒石酸ジアミドの調製に使用される酒石酸としては、(サージェント・ウェルチ(Sargent Welch)から入手される)市販のものが可能である。これは、d−酒石酸、l−酒石酸またはメソ酒石酸などの1つ以上の異性体で存在する場合が多く、原料(天然)または合成方法(例えば、マレイン酸から)によって決まることが多い。これらの誘導体も、当業者がすぐに想到するエステル、酸塩化物、無水物などの二酸の機能的等価物から生成することができる。
【0031】
本発明の酒石酸エステル、酒石酸イミド、酒石酸ジアミドまたはそれらの組み合わせは、酒石酸エステル、酒石酸イミドまたは酒石酸ジアミドの生成に使用される特定のアルコールまたはアミンによって固体になったり、半固体になったり、油状になったりすることができる。潤滑組成物および燃料組成物を含む油性組成物に添加物として使用する場合、酒石酸エステル、酒石酸イミドまたは酒石酸ジアミドは、そのような油性組成物に有利に溶解および/または安定して分散する。したがって、例えば、油に使用することを目的とした組成物は、一般に油溶性であるか、および/または該組成物が使用される油に対して安定して分散する。明細書および添付の特許請求の範囲で使用される用語「油溶性」とは、必ずしも対象となるすべての組成物がどんな割合であってもすべての油に混和性または溶解性があるということを意味しているわけではない。その用語で意味しようとするのは、溶液の作用が1つ以上の所望の特性を示せる程度に、組成物が油(鉱油、合成油など)に溶けていることである。同様に、そのような「溶液」も、必ずしも厳密に物理的または化学的な意味で真の溶液である必要はない。それどころか、本発明では、真の溶液の特性と十分に近い特性を事実上示すマイクロエマルジョンまたはコロイド分散であってもよく、本発明の範囲内においては代替可能である。
【0032】
前述の通り、本発明の酒石酸エステル、酒石酸イミド、酒石酸ジアミド、またはそれらの組成物の組み合わせは、潤滑剤用の添加物として有用であり、潤滑剤中で錆・腐食抑制剤、摩擦改良剤、摩耗防止剤および解乳化剤として、機能することもある。これらは、天然および合成潤滑油ならびにそれらの混合物を含む種々の潤滑粘性油に基づいて様々な潤滑剤に使用することができる。潤滑剤には、自動車およびトラックの機関、2サイクル機関、航空機のピストン機関、船舶および鉄道のディーゼル機関ならびに同種のものを含む火花点火および圧縮点火内燃機関用のクランク室潤滑油が含まれる。また、ガス機関、定置原動機およびタービンならびに同種のものにも使用することができる。オートマティック・トランスミッションフルード、トランスアクスル用潤滑剤、ギア潤滑剤、金属加工用潤滑剤、作動液およびその他の潤滑油ならびにグリース組成物も、本発明の組成物を組み込むことによって利益を得られる。
【0033】
本発明の潤滑剤中に他の摩擦改良剤が存在してもよく、グリセロールモノオレエート、オレイルアミド、ジエタノール脂肪アミンおよびそれらの混合物などのポリオールエステルを含むことができる。有用な摩擦改良剤の一覧は、米国特許第4,792,410号に記載されている。
【0034】
ポリオールエステルには、グリセロール脂肪酸エステルが含まれる。これは、当技術分野で周知の様々な方法により調製することができる。グリセロールモノオレエートおよびモノ牛脂肪酸グリセリドなどのエステルの多くが、商業規模で製造されている。本発明に有用なエステルは、油溶性で、好ましくは天然物中に含まれるようなC〜C22の脂肪酸またはそれらの混合物から調製されたものである。脂肪酸は、飽和または不飽和であってもよい。自然源の酸に含まれる特定の化合物には、1つのケト基を含むリカン酸が含まれることもある。有用なC〜C22の脂肪酸の式は、R−COOHであり、Rがアルキル基またはアルケニル基である。
【0035】
グリセロール脂肪酸モノエステルが、有用である。モノエステルおよびジエステルの混合物を使用することもできる。モノエステルおよびジエステルの混合物は、少なくとも約40%のモノエステルを含むことができる。約40から約60重量%のモノエステルを含むグリセロールのモノエステルおよびジエステルの混合物を使用することができる。例えば、45から55重量%のモノエステルと55から45重量%のジエステルの混合物を含む市販のグリセロールモノオレエートを使用することができる。
【0036】
有用な脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトオレイン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸およびエレオステアリン酸ならびに天然物の獣脂、パーム油、オリーブ油、ピーナッツ油由来の酸である。
【0037】
酒石酸エステルおよびグリセロールモノオレエートなどのポリオールエステルは見た目が同じような分子構造を有するようなこともあるが、これらの特定の物質を組み合わせれば、どちらかの物質を単独で使用した場合より、実際に、より性能(例えば、摩耗防止性)が良くなる場合があることがわかっている。
【0038】
脂肪酸アミドについては、米国特許第4,280,916号に記載されている。適したアミドは、C〜C24の脂肪族モノカルボン酸アミドであり、周知のものである。脂肪酸ベースの化合物をアンモニアと反応させて、脂肪アミドを生成する。脂肪酸および、それらから生成されるアミドは、飽和または不飽和であってもよい。重要な脂肪酸には、ラウリン酸C12、パルミチン酸C16およびステアリン酸C18が含まれる。他の重要な不飽和脂肪酸には、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸が含まれ、すべてC18である。一実施形態において、本発明の脂肪アミドは、C18の不飽和脂肪酸から生成されたものである。
【0039】
脂肪アミン、およびN,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)−タロウアミンなどのジエトキシ化された長鎖アミンは、一般にそれ自身が本発明の成分として有用である。どちらの種類のアミンも市販されている。脂肪アミンおよびエトキシ化脂肪アミンについては、米国特許第4,741,848号により詳細に記載されている。
【0040】
その他
酸化防止剤(つまり、酸化抑制物質)は、2,6,−ジ−t−ブチルフェノールなどのかさ高いフェノール系酸化防止剤および次の式:
【0041】
【化5】

および、特定の実施形態においては、
【0042】
【化6】

で表される種類などのかさ高いフェノール系エステルが含まれる。Rが直鎖または分枝鎖のアルキル基であり、2から10個の炭素原子、一実施形態では2から4個、ならびに別の実施形態では4個の炭素原子を含む。一実施形態では、Rがn−ブチル基である。別の実施形態では、チバ社(Ciba)のIrganox L−135(商標)に見られるのと同様に、Rが炭素8個のものが可能である。酸化防止剤の調製については、特許第6,559,105号で確認できる。
【0043】
別の酸化防止剤としては、ジアルキル(例えば、ジノニル)ジフェニルアミンなどの芳香族第二級アミン系酸化防止剤、硫化フェノール系酸化防止剤、油溶性銅化合物、リン含有酸化防止剤、ジチオカルバミン酸モリブデンなどのモリブデン化合物、有機硫化物、二硫化物および多硫化物(ブタジエンとアクリル酸ブチルとのディールス・アルダー付加体の硫化物など)を挙げることができる。多数の酸化防止剤の一覧は、米国特許6,251,840号で確認できる。
【0044】
本発明と一緒に使用されるEP/摩耗防止剤は、一般にジアルキルジチオリン酸亜鉛の形のものである。そのような機能液と一緒に利用されてもよいと思われる摩擦防止剤には極めて多数の異なった種類のものがあるが、本発明者らは、特にジアルキルジチオリン酸亜鉛系の摩耗防止剤が、他の成分とあわせても首尾よく作用し所望の特性を示すことを発見した。一実施形態において、ジアルキルジチオリン酸のアルキル基(アルコール由来)の少なくとも50%が、二級アルキル基、つまり二級アルコール由来である。別の実施形態では、少なくとも50%のアルキル基が、イソプロピルアルコール由来のものである。
【0045】
無灰洗浄剤および分散剤は、燃焼の際に酸化ホウ素または五酸化リンなど不揮発性物質を生じる構成のものもある。一方、無灰洗浄剤および分散剤は、通常金属を含まないため、燃焼の際に金属含有灰分を生じない。当技術分野では、多種類の無灰分散剤が知られている。そのような物質は、たとえin situで他の原料からの金属イオンと関わりを生じるようなことがあったとしても、一般に「無灰」と称される。
【0046】
(1)「カルボン酸分散剤」は、少なくとも34個、好ましくは少なくとも54個の炭素原子を含むカルボン酸アシル化剤(酸、無水物、エステルなど)の反応生成物であり、窒素含有化合物(アミンなど)、有機ヒドロキシ化合物(一価および多価アルコールを含む脂肪族化合物またはフェノールおよびナフトールを含む芳香族化合物など)および/または塩基性の無機化合物と反応する。この反応生成物には、カルボン酸エステル分散剤のイミド、アミドおよびエステル反応生成物が含まれる。
【0047】
カルボン酸アシル化剤には、脂肪酸、イソ脂肪酸(例えば、8−メチル−オクタデカン酸)、ダイマー酸、ジカルボン酸付加体([4+2]および[2+2]の不飽和脂肪酸の不飽和カルボン酸試薬との付加生成物)、トリマー酸、トリカルボン酸付加体(Empol(登録商標)1040、Hystrene(登録商標)5460およびUnidyme(登録商標)60)およびヒドロカルビル置換カルボン酸アシル化剤(オレフィンおよび/またはポリアルケン由来)が含まれる。一実施形態において、カルボン酸アシル化剤は脂肪酸である。脂肪酸は、一般に8から30個まで、または12から24個までの炭素原子を含む。カルボン酸アシル化剤については、米国特許2,444,328号、米国特許3,219,666号、米国特許4,234,435号および米国特許6,077,909号に示されている。
【0048】
アミンは、モノアミンまたはポリアミンであってもよい。モノアミンは、一般に1から24個の炭素原子、または1から12個の炭素原子を含む少なくとも1つのヒドロカルビル基を有する。モノアミンの例としては、(C8〜30)脂肪族アミン(Armeens(商標))、一級エーテルアミン(SURFAM(登録商標)アミン)、三級脂肪族一級アミン(Primenes(商標))、ヒドロキシアミン(一級、二級または三級アルカノールアミン)、エーテルN−(ヒドロキシヒドロカルビル)アミン、およびヒドロキシヒドロカルビルアミン(Ethomeens(商標)およびPropomeens(商標))が挙げられる。ポリアミンには、アルコキシル化ジアミン(Ethoduomeens(商標))、脂肪族ジアミン(Duomeens(商標))、アルキレンポリアミン(エチレンポリアミン)、ヒドロキシル基含有ポリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(Jeffamines(商標))、縮合ポリアミン(少なくとも1つのヒドロキシ化合物と、少なくとも1つの一級または二級アミノ基を含む少なくとも1つのポリアミン反応物との縮合反応)および複素環式ポリアミンが含まれる。有用なアミンには、米国特許4,234,435号(Meinhart)および米国特許5,230,714号(Steckel)に開示されたものも含まれる。
【0049】
分散剤を生成するポリアミンには、大部分が式
【0050】
【化7】

と一致するアルキレンアミンが主に含まれる。上式のtは、一般に10未満の整数で、Aが水素または、一般に30個までの炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、アルキレン基が一般に8個未満の炭素原子を有するアルキレン基である。アルキレンアミンには、主に、メチレンアミン、エチレンアミン、ヘキシレンアミン、ヘプチレンアミン、オクチレンアミン、その他のポリメチレンアミンが含まれる。具体例として、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、プロピレンジアミン、デカメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ジ(ヘプタメチレン)トリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリメチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(−トリメチレン)トリアミンを挙げる。2つ以上の上述のアルキレンアミンの縮合により得られるような高級同族体も同様に有用である。テトラエチレンペンタミンは、特に有用である。
【0051】
エチレンアミン(ポリエチレンポリアミンとも称される)は、特に有用である。これについては、表題「Ethylene Amines」Encyclopedia of Chemical Technology,Kirk and Othmer,Vol.5,pp.898−905,Interscience Publishers,New York(1950)に多少詳しく記載されている。
【0052】
ヒドロキシアルキル置換アルキレンアミン、つまり、窒素原子上に1つ以上のヒドロキシアルキル置換基を有するアルキレンアミンも同様に有用である。そのようなアミンの例としては、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N‘−ビス(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、モノヒドロキシプロピル)−ピペラジン、ジ−ヒドロキシプロピル置換テトラエチレンペンタミン、N−(3−ヒドロキシプロピル)−テトラ−メチレンジアミン、および2−ヘプタデシル−1−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリンが挙げられる。
【0053】
上述のアルキレンアミンまたはヒドロキシアルキル置換アルキレンアミンのアミノ基を介した、またはヒドロキシル基を介した縮合により得られるような高級同族体も同様に有用である。縮合ポリアミンは、少なくとも1つのヒドロキシ化合物と少なくとも1つの一級または二級アミノ基を含む少なくとも1つのポリアミン反応物との縮合反応により生成され、これは米国特許5,230,714号および米国特許5,296,154号(Steckel)に記載されている。
【0054】
「カルボン酸分散剤」の例は、英国特許1,306,529号および次のものを含む多数の米国特許に記載されている:米国特許3,219,666号、米国特許3,316,177号、米国特許3,340,281号、米国特許3,351,552号、米国特許3,381,022号、米国特許3,433,744号、米国特許3,444,170号、米国特許3,467,668号、米国特許3,501,405号、米国特許3,542,680号、米国特許3,576,743号、米国特許3,632,511号、米国特許4,234,435号、米国特許6,077,909号および米国特許6,165,235号。
【0055】
(2)スクシンイミド分散剤は、カルボン酸分散剤の一種である。これは、ヒドロカルビル置換コハク酸アシル化剤と、有機ヒドロキシ化合物、または窒素原子に結合した少なくとも1つの水素を含むアミン、あるいは前述のヒドロキシ化合物およびアミンの混合物との反応生成物である。用語「コハク酸アシル化剤」は、炭化水素置換コハク酸またはコハク酸を生成する化合物(この用語は酸自体のことも含む)を示す。そのような物質には、一般にヒドロカルビル置換コハク酸、無水物、エステル(半エステルを含む)およびハロゲン化物が含まれる。
【0056】
コハク酸系分散剤は、一般に
【0057】
【化8】

などの構造を含む様々な化学構造を有する。
【0058】
上述の構造において、R
【0059】
【化9】

が500または700から10,000のポリオレフィン由来の基などの、それぞれ独立したヒドロカルビル基である。一般に、ヒドロカルビル基は、アルキル基であり、しばしば分子量が500または700から5000、あるいは1500または2000から5000のポリイソブチル基である。言い換えると、R基は炭素原子を40から500個含むことができ、例えば、脂肪族炭素原子などの炭素原子として少なくとも50、例えば、50から300個の炭素原子を含む。Rはアルキレン基であり、一般にエチレン(C)基である。そのような分子は、一般にアルケニルアシル化剤のポリアミンとの反応により生成され、この2つの部分の間には様々な結合が可能であり、上記の単純なイミド構造のほか、様々なアミドおよび四級アンモニウム塩が含まれる。スクシンイミド分散剤については、米国特許4,234,435号、米国特許3,172,892号および米国特許6,165,235号に詳述されている。
【0060】
置換基を生成するポリアルケンは、一般に単独重合体および炭素原子2から16個、通常2から6個の重合可能なオレフィン単量体の共重合体である。コハク酸アシル化剤と反応して、カルボン酸分散剤組成物を生成するアミンには、前述のモノアミンまたはポリアミンが可能である。
【0061】
スクシンイミド分散剤は、アミン塩またはアミド、イミダゾリンならびにそれらの混合物の形をとることもあるが、通常イミド官能基の構造中に窒素を多く含んでいるため、スクシンイミド分散剤と称される。スクシンイミド分散剤を調製するには、1つ以上のコハク酸を生成する化合物および1つ以上のアミンを、一般には脱水しながら、任意選択で標準的な液体(大抵は、不活性の有機液体溶剤/希釈剤)の存在下で、高温(通常、80℃から混合物または生成物の分解点までの範囲、一般に100℃から300℃)で加熱する。
【0062】
本発明のスクシンイミド分散剤の調製手順のさらなる詳細および例は、例えば、米国特許3,172,892号、米国特許3,219,666号、米国特許3,272,746号、米国特許4,234,435号、米国特許6,440,905号および米国特許6,165,235号に記載されている。
【0063】
(3)「アミン分散剤」は、比較的高分子の脂肪族ハロゲン化物とアミン、好ましくはポリアルキレンポリアミン、との反応生成物である。この例は、例えば、次の米国特許3,275,554号、米国特許3,438,757号、米国特許3,454,555号および米国特許3,565,804号に記載されている。
【0064】
(4)「マンニッヒ分散剤」は、アルデヒド(特に、ホルムアルデヒド)を用いた、アルキル基に少なくとも30個の炭素原子を含むアルキルフェノールとアミン(特に、ポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。次の米国特許に記載された物質が実例である:米国特許3,036,003号、米国特許3,236,770号、米国特許3,414,347号、米国特許3,448,047号、米国特許3,461,172号、米国特許3,539,633号、米国特許3,586,629号、米国特許3,591,598号、米国特許3,634,515号、米国特許3,725,480号、米国特許3,726,882号および米国特許3,980,569号。
【0065】
(5)後処理分散剤は、カルボン酸分散剤、アミン分散剤またはマンニッヒ分散剤と、ジメルカプトチアジアゾール、尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換コハク酸無水物、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物、リン化合物または同種のものなどの反応剤との反応により得られる。この種の典型的な物質は、次の米国特許に記載されている:米国特許3,200,107号、米国特許3,282,955号、米国特許3,367,943号、米国特許3,513,093号、米国特許3,639,242号、米国特許3,649,659号、米国特許3,442,808号、米国特許3,455,832号、米国特許3,579,450号、米国特許3,600,372号、米国特許3,702,757号および米国特許3,708,422号。
【0066】
(6)重合体分散剤は、メタクリル酸デシル、ビニルデシルエーテルおよび極性置換基を含む単量体(例えば、アミノアルキルアクリレート、アミノアルキルアクリルアミドおよびポリ−(オキシエチレン)−置換アクリレート)を有する高分子のオレフィンなどの油溶性単量体の共重合体である。重合体分散剤の例は、次の米国特許に記載されている:米国特許3,329,658号、米国特許3,449,250号、米国特許3,519,656号、米国特許3,666,730号、米国特許3,687,849号および米国特許3,702,300号。
【0067】
この組成物は、1つ以上の洗浄剤を含むこともでき、通常、塩類、特に過剰に塩基性の塩である。過剰に塩基性の塩または過剰に塩基性の物質は、単一の相であり、金属の化学量論に従って存在するであろう金属量を超えた量の金属を含むことを特徴とする均一なニュートン系であり、金属と反応した特定の酸性有機化合物である。過剰に塩基性の物質は、酸性物質(一般に、無機酸または低級カルボン酸、好ましくは二酸化炭素)と、酸性有機化合物、前述の酸性有機物質に対し不活性である少なくとも1つの不活性有機溶媒(鉱油、ナフサ、トルエン、キシレンなど)を含む反応媒質、化学量論的に過剰な金属塩基および促進剤を含む混合物との反応により調製される。
【0068】
本発明の過剰に塩基性の組成物を生成するのに有用な酸性有機化合物には、カルボン酸、スルホン酸、リン含有酸、フェノールまたはそれらの混合物が含まれる。好ましくは、酸性有機化合物が、スルホン基またはチオスルホン基を有するカルボン酸またはスルホン酸(ヒドロカルビル置換ベンゼンスルホン酸など)およびヒドロカルビル置換サリチル酸である。本発明の過剰に塩基性の組成物を生成するのに有用な別の種類の化合物は、サリキサレートである。本発明に有用なサリキサレートについての説明は、国際公開第04/04850号で確認できる。
【0069】
過剰に塩基性の塩を生成するのに有用な金属化合物は、一般に1族または2族の金属化合物(CAS版元素周期律表)である。1族金属の金属化合物には、1a族アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム)ならびに銅などの1b族金属が含まれる。1族金属には、ナトリウム、カリウム、リチウムおよび銅が好ましく、好ましくはナトリウムまたはカリウム、より好ましくはナトリウムである。2族金属の金属塩基には、2a族アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)ならびに亜鉛またはカドミウムなどの2b族金属が含まれる。2族金属は、マグネシウム、カルシウム、バリウムまたは亜鉛が好ましく、好ましくはマグネシウムまたはカルシウム、より好ましくはカルシウムである。
【0070】
本発明の過剰に塩基性の洗浄剤の例としては、スルホン酸カルシウム、石炭酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、カルシウムサリキサレートおよびそれらの混合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0071】
過剰に塩基性の物質(つまり、洗浄剤)が存在する場合、その量は、一実施形態において組成物の0.05から3重量%、または0.1から3重量%、または0.1から1.5重量%、または0.15から1.5重量%の量である。
【0072】
安定した泡沫が形成されるのを低減する、または抑制するために使用される消泡剤には、シリコーンまたは有機高分子が含まれる。これらおよび別の消泡剤組成物の例は、“Foam Control Agents”,by Henry T. Kerner(Noyes Data Corporation,1976),pages 125−162に記載されている。
【0073】
本発明の組成物は、実際には、内燃機関の作動過程において、潤滑油が機関の重要な部分に送達され、機関を潤滑するように、内燃機関(定置式ガソリン内燃機関など)に潤滑剤を供給することにより、潤滑剤として使用される。
【0074】
ここで使用する用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、通常の意味で使用され、当業者にはよく知られている。この用語は、特に、分子の残部に直接結合する炭素原子を有し、主に炭化水素の特性を有する基を示す。ヒドロカルビル基の例には、炭化水素置換基、つまり、脂肪族置換基(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式置換基(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)、ならびに芳香族、脂肪族および脂環式置換の芳香族置換基のほか、分子の別の部分を介して環が完成されている(例えば、2つの置換基が一緒になって1つの環を形成する)環状置換基;置換された炭化水素置換基、つまり、本発明においては、置換基の特徴的な炭化水素性を変化させることのない非炭化水素基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソおよびスルホキシ)を含む置換基;ヘテロ置換基、つまり、本発明においては、主に炭化水素の性質を有すると同時に、環や鎖中に炭素以外を含むが他の部分は炭素原子から成る置換基が挙げられる。ヘテロ原子には、硫黄、酸素、窒素が含まれ、ピリジル基、フリル基、チエニル基およびイミダゾリル基のような置換基が含まれる。全般に、ヒドロカルビル基中に存在する非炭化水素基は炭素原子10個毎に2個以下、好ましくは1個以下となり、典型的には、ヒドロカルビル基中の非炭化水素基は存在しないことになる。
【0075】
上述の物質の一部は、最終配合物において相互に作用することもあり、その結果、最終配合物の成分が初めに添加された成分と異なることもあることが知られている。例えば、(例えば、洗浄剤の)金属イオンは、他の酸または他の分子の陰イオン部分に移動することがある。これにより生じた生成物については、本発明の組成物を目的に応じて使用する際に生じた生成物を含め、簡単には記述できない。それでもなお、そのような変更および反応生成物は、本発明の範囲内に含まれるものであり、本発明は上述の成分の混合により調製した組成物を含むものである。
【実施例】
【0076】
特に有利な実施形態を説明する次の実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。本発明を説明するために実施例を提供するが、これは限定するためのものではない。
【0077】
省燃費性能および耐久性の規格ILSAC GF−4により規定されたシーケンス(sequence)VIB省燃費性試験により、潤滑剤を評価する。
【0078】
次の配合物は、従来の希釈油を含む潤滑粘性油中に調製される。添加成分の量は重量%である。
【0079】
【表1】

n.p.=配合物中に存在しない。
【0080】
結果の示すところによれば、低硫黄、低灰分、低リンのクランク室潤滑剤にオレイルアミン酒石酸イミドを使用した配合物は、グリセロールモノオレエート(従来の摩擦改良剤)を使用した配合物に比べて省燃費性が著しく改善される。これは、シーケンスVIB機関試験により証明された。
【0081】
さらに摩耗および摩擦を低減するために四球低リン/硫黄(四球低PS)試験(4 Ball Low PS Test)、高周波往復運動リグ1%クメンヒドロペルオキシド(HFRR 1%CHP)試験およびキャメロン−プリント高温往復運動摩耗試験(Cameron−Plint High Temperature Reciprocating Wear Test)によって、潤滑剤を評価する。
【0082】
四球低PS手順は、クメンヒドロペルオキシド(CHP)を潤滑剤のプレストレスとして加え、ASTM D4172と同じ試験条件を使用する。四球摩耗試験の基本操作は以下のように説明することができる。3個の直径0.5の固定鋼球ベアリングを三角形状に固定し、4個目の鋼球ベアリングを、3個の固定球に載せて回転させる。顕微鏡を使用して3個の各固定球上の摩耗痕を測定し、平均化して、平均の摩耗痕径をミリメートルで求める。
【0083】
HFRR 1% CHP試験は、リンおよび硫黄の濃度を低下させた潤滑剤の摩擦性能および摩耗性能の評価に使用する。平らな鋼板に接して滑動する往復運動鋼球ベアリングを使用して摩耗痕径および油膜厚率を測定する。この試験の実施には、1%クメンヒドロペルオキシド(CHP)を使用し、高周波往復運動摩耗リグも併せて使用する。これは、トライボロジー試験装置の部品として市販されている。
【0084】
キャメロン−プリント(Cameron−Plint)高温往復運動摩耗試験は、潤滑剤の摩擦性能および摩耗性能の評価に使用する。平らな鋼板に接して滑動する往復運動鋼球ベアリングを使用して摩耗痕径および油膜厚率を得る。この試験は、キャメロン−プリント(Cameron−Plint)往復運動摩耗リグを使用して行なう。これは、トライボロジー試験装置の部品として市販されている。
【0085】
次の配合物は、潤滑粘性油中に調製される。添加成分の量は、別の表示がない限り重量%である:流動点降下剤0.15%(約35%の希釈油を含む)、粘度指数改良剤8%(約91%の希釈油を含む)、希釈油0.89%、スクシンイミド分散剤5.1%(約47%の希釈油を含む)、ジアルキルジチオリン酸亜鉛0.48%(0.98%含有するC3を除く)(それぞれ約9%の希釈油を含む)、過剰に塩基性のスルホン酸カルシウム洗浄剤1.53%(約42%の希釈油を含む)、グリセロールモノオレエート0.1%(約0%の希釈油を含む)、酸化防止剤(約5%の希釈油を含む)、市販の消泡剤90〜100ppmおよび残りの基油。
【0086】
上述の配合物に、次の表に記載の通りの成分を添加し、四球低PS試験、高周波往復運動リグ1%クメンヒドロペルオキシド試験およびキャメロン−プリント(Cameron−Plint)高温往復運動摩耗試験を行う。結果は、以下の表に示す。
【0087】
【表2】

注:n.r.=未報告。
【0088】
結果の示すところによれば、低硫黄、低灰分、低リンの潤滑剤に本発明の酒石酸由来の化合物を使用した調合物(実施例5〜10)は、組成物中に0.05重量%のリンを含むが、酒石酸由来の化合物を含まない低SAPS配合物(C4)と比較して摩耗が低減される。さらに、これよりもリンの多い従来のGF−3規格の配合物(C3)と比較して同等の摩耗保護が得られる。
【0089】
上記の各文献を参照によってここに援用する。実施例、または別に明確に示した場合を除き、明細書中に明記した物質量のすべての数量、反応条件、分子量、炭素原子数および同種のものは、当然のことながら「約」の言葉をつけてもよい。別の表示がない限り、ここで言及されるそれぞれの化学物質または組成物は、市販等級の物質であると解釈されるべきである。この市販等級の物質は、異性体、副産物、誘導体および、通常市販等級で存在していると考えられる他の同等な物質を含んでもよい。一方、それぞれの化学成分の量は、別の表示がない限り、市販の物質であれば通常含まれているような各溶媒または希釈油を除いて示す。当然のことながら、ここで説明した量、範囲および割合の上下限は独立して組み合わせてもよい。同様に、本発明の各成分の範囲および量は、あらゆる他の成分の範囲または量とともに使用することができる。ここで使用する「のみから実質的になる」との表現は、考慮する組成物の基本的または新規の特性に実質的に影響を与えない物質を含むことを認めるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関への使用に適した低硫黄、低リン、低灰分の潤滑剤組成物であって、該組成物は、
(a)潤滑粘性油と、
(b)式Iで表される物質と1個から約150個の炭素原子を有するアルコールまたはアミンおよびそれらの組み合わせとの縮合生成物と、
【化1】

を含み、
Rがそれぞれ独立してHまたはヒドロカルビル基であるか、または該R基が一緒になって環を形成し;そして、RがHの場合、該縮合生成物がアシル化またはホウ素化合物との反応によって任意でさらに官能化され;
該潤滑剤組成物が、約1.0までの硫酸灰分量、約0.08重量%までのリン含量、および約0.4重量%までの硫黄含量を有する、組成物。
【請求項2】
前記縮合生成物量が約0.05から約5.0重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記縮合生成物量が約0.1から約2.0重量%である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記縮合生成物量が約0.25から約1.25重量%である、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
ジアルキルジチオリン酸金属塩をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ジアルキルジチオリン酸金属塩がジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、該アルキル基の少なくとも約50%が二級アルキル基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
分散剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記分散剤がスクシンイミドである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの過剰に塩基性のカルシウム洗浄剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記過剰に塩基性のカルシウム洗浄剤がスルホン酸カルシウム、石炭酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、カルシウムサリキサレートおよびそれらの混合物からなる群から選択された、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの酸化防止剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記酸化防止剤がかさ高いフェノール、アリールアミンおよびそれらの混合物からなる群から選択された、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
(b)以外に追加の摩擦改良剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
グリセロールモノオレエート、オレイルアミド、ジエタノール脂肪アミンおよびそれらの混合物からなる群から選択された、追加の摩擦改良剤。
【請求項15】
消泡剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
内燃機関の潤滑方法であって、該方法は、該機関に潤滑粘性油および、式Iで表される物質と1個から約150個の炭素原子を有するアルコールまたはアミンおよびそれらの組み合わせとの縮合生成物を供給することを含み、
【化2】

該生成物中のRがそれぞれ独立してHまたはヒドロカルビル基であるか、または該R基が一緒になって環を形成し;あるいはRがHの場合、得られるヒドロキシル基がアシル化またはホウ素化合物との反応によってさらに官能化され;
該潤滑剤組成物が、約1.0までの硫酸灰分量、約0.08重量%までのリン含量、および約0.4重量%までの硫黄含量を有する、方法。
【請求項17】
(a)潤滑粘性油と、式Iで表される物質と1個から約150個の炭素原子を有するアルコールまたはアミンおよびそれらの組み合わせとの縮合生成物を混合することを含み、
【化3】

該生成物中のRがそれぞれ独立してHまたはヒドロカルビル基であるか、または該R基が一緒になって環を形成し;あるいはRがHの場合、得られるヒドロキシル基がアシル化またはホウ素化合物との反応によってさらに官能化され;
約1.0までの硫酸灰分量、約0.08重量%までのリン含量、および約0.4重量%までの硫黄含量を有する潤滑剤組成物が得られる、潤滑剤組成物の生成方法。
【請求項18】
前記アルコールまたはアミンが約8から約30個の炭素原子を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記縮合生成物(b)がアルコールとの縮合生成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記アルコールが炭素原子6から約18個の分枝アルコールである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記アルコールが炭素原子6から約18個の直鎖アルコールである、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記縮合生成物(b)が分枝C12〜16アルキル酒石酸エステルである、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記縮合生成物(b)が直鎖C12〜16アルキル酒石酸エステルである、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
追加の摩擦改良剤をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項25】
前記追加の摩擦改良剤がポリオールエステルである、請求項18に記載の組成物。
【請求項26】
前記ポリオールエステルがグリセロールモノオレエートを含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記縮合生成物(b)がアルコールとの縮合生成物である、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
前記アルコールが炭素原子6から約18個の分枝アルコールを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記アルコールが炭素原子6から約18個の直鎖アルコールを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記潤滑組成物がグリセロールモノオレエートをさらに含む、請求項27に記載の方法。

【公表番号】特表2009−526097(P2009−526097A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553496(P2008−553496)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/061428
【国際公開番号】WO2007/092724
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】