説明

クランク装置

【課題】クランク装置をより滑らかに動作させる
【解決手段】このクランク装置100は、クランクケース101と、内周太陽歯車102と、遊星歯車103と、クランク部材104と、連接棒105を備えている。ピン147は、遊星歯車103のピッチ円103cの円周上に配設されている。このクランク装置100は、クランク部材104が回転すると、遊星歯車103の自転および公転に応じてピン147が直線往復動する。連接棒105は、ピン147に連結され、ピン147が直線往復動する直線Lに沿って延びるように配設されている。連接棒105とピン147の連結部分は、連接棒105に対するピン147の交差角が変位可能に連結されている。これにより、連接棒105に軸方向に大きな力が作用し、ピン147が撓むと、それに応じて連接棒105に対するピン147の交差角度が変わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクランク装置に関し、内周太陽歯車と遊星歯車を有する機構を備え、連接棒が直線往復動するクランク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク装置は、例えば、ピストンの直線往復動と、クランク軸の回転運動とを相互に変換する装置として用いられている。本発明者は、例えば、特許2683218号に開示されるように、ピストンに連結した連接棒が実質的に直線往復動するクランク装置を提案している。
【0003】
斯かるクランク装置1は、図1に示すように、内周太陽歯車20と、内周太陽歯車20のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有し、内周太陽歯車20と噛み合って自転および公転する遊星歯車21と、遊星歯車21の中心部12を自転可能に支持するクランク部材10とを備えている。遊星歯車21は、遊星歯車21のピッチ円上に、当該ピッチ円に直交する方向に延びたピン24を備えており、連接棒3は当該ピン24に連結されている。
【0004】
このクランク装置1は、内周太陽歯車20と遊星歯車21の機構によって、連接棒3が実質的に直線往復動する。このため、ピストン15においてサイドスラストによるエネルギ損失の低減を図ることができる。また、シリンダに対するピストンのストロークを長くできるので、圧縮比の向上など、従来のクランク装置では得られない特徴を備えている。斯かるクランク装置1は、シリンダ型の内燃機関やコンプレッサなど種々の装置に適用することができる。
【特許文献1】特許2683218号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、斯かるクランク装置を鋭意研究している。本発明者は、上述したクランク装置を、例えば、シリンダ型の内燃機関やコンプレッサにおいてピストンを直線往復動させる機構として用いた場合に、クランク装置の動きが悪くなる事象を発見し、当該事象の原因を探求した。
【0006】
その結果、遊星歯車が、内周太陽歯車と噛み合って自転および公転する際に、バックラッシュ分、遊星歯車が所定の軌道からずれることがわかった。このため、連接棒は、厳密には往復する際に、所定の直線からずれることがある。また、連接棒3とピン24の連結部分には、滑り材を介在させている。本発明者の研究において、クランク装置の動きが悪くなる原因として、内燃機関やコンプレッサにおいてピストン15に大きな力が作用すると、連接棒3とピン24の連結部分に大きな力が作用し、ピン24が微小ではあるが撓むことが分かった。これによってクランク装置1の滑らかな動きが阻害される場合がある。
【0007】
これらの事象は、それによってクランク装置が動作しないというほどの不具合を生じさせないが、クランク装置をより効率よく、かつ、より滑らかに動作させるためには更なる改良が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクランク装置は、クランクケースに固定的に配設された内周太陽歯車と、内周太陽歯車のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有し、内周太陽歯車と噛み合って自転および公転する遊星歯車と、クランクケースに、内周太陽歯車の中心軸と同軸に回転するように支持されるとともに、遊星歯車を自転可能に支持するクランク部材と、遊星歯車のピッチ円上に配設されたピンと、ピンに直交するように連結された連接棒とを備えている。ピンは遊星歯車の自転および公転に応じて直線往復動し、連接棒はピンが往復動する直線に沿って延び、連接棒とピンの連結部分は、連接棒に対するピンの交差角が変位可能に連結されている。
【0009】
さらに、連接棒の長さ方向の軸線および遊星歯車の回動軸に直交する方向に、ピンが動くことが許容されていてもよい。
【0010】
また、ピンに装着された第1部材と、連接棒に取り付けられた第2部材とからなる一対の滑り部材によって、連接棒に対するピンの交差角が変化するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0011】
このクランク装置は、連接棒とピンの連結部分は、連接棒に対するピンの交差角が変位可能に連結されている。このため、連接棒の軸線方向に力を受けてピンが撓む場合に、これに応じて連接棒に対するピンの交差角が変化する。このため、連接棒は滑らかに直線往復動をすることができる。
【0012】
また、連接棒の長さ方向の軸線および遊星歯車の回動軸に直交する方向に、ピンが動くことが許容されている場合には、遊星歯車が自転および公転する際にバックラッシュ分ずれると、これに応じてピンと連接棒との相対的な位置関係がずれるので、連接棒は滑らかに直線往復動をすることができる。
【0013】
また、ピンに装着された第1部材と、連接棒に取り付けられた第2部材とからなる一対の滑り部材によって、連接棒に対するピンの交差角が変化するように構成されている場合には、連接棒とピンの連結部の製造が容易になり、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両を図面に基づいて説明する。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
このクランク装置100は、図2、図3に示すように、クランクケース101と、内周太陽歯車102と、遊星歯車103と、クランク部材104と、連接棒105を備えている。なお、図3は、クランク装置100の概略図である。
【0016】
≪クランクケース≫
クランクケース101は、クランク装置100の各部材を収容するケースである。この実施形態では、クランクケース101は、底がある筒状の部材であり、図2では、クランクケース101は、底部111を右側に向け、開口112を左側に向け、横向きに配設されている。クランクケース101の内周面には、クランク装置100の各部材を取り付けるための段差が形成されている。また、クランクケース101の底部111の中心部には、後述するクランク部材104の軸部158を挿通させる挿通穴113が形成されている。また、クランクケース101の側面には、クランクケース101の開口112から近い位置に連接棒105を挿通させる挿通穴114(図6参照)が形成されている。この実施形態では、クランクケース101の開口112には、カバー(図示省略)を取り付けている。
【0017】
≪内周太陽歯車≫
内周太陽歯車102は、内周面に歯を有する内歯車であり、クランクケース101の内周面の中間位置に形成された段差121に固定的に配設されている。
【0018】
≪遊星歯車≫
遊星歯車103は、内周太陽歯車102と噛み合って自転および公転する歯車である。この実施形態では、遊星歯車103は、図4(a)に示すように、遊星歯車部材131と遊星軸部材132によって構成されている。遊星歯車部材131は、外周面に歯を有する外歯車であり、内周太陽歯車102のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有している。すなわち、図3に示すように、遊星歯車103のピッチ円103cの半径r1と、内周太陽歯車102のピッチ円102cの半径r2との比は、r1:r2=1:2の関係になっている。この遊星歯車部材131の中心部には、図4(a)に示すように、遊星軸部材132の装着する装着穴141が形成されている。
【0019】
遊星軸部材132は、一端に遊星歯車部材131に装着される装着端部146を備え、他端にピン147と、カウンターウェイト148が設けられている。ピン147とカウンターウェイト148は、遊星軸部材132の当該端部において回転軸c2を中心として対称な位置に配設されている。ピン147は、図3に示すように、遊星歯車103のピッチ円103c上に配設されている。この実施形態では、ピン147は、ピン147の中心軸線c3が当該ピッチ円103cを直交するように、遊星軸部材132の軸方向に延びている。カウンターウェイト148は、図4(a)(b)に示すように、遊星歯車103の自転の慣性力を奏する部位であり、この実施形態では、遊星軸部材132の回転軸c2から半径方向にずれた位置にカウンターウェイト148としての質量部材を取り付けている。
【0020】
≪クランク部材≫
クランク部材104は、内周太陽歯車102の中心軸と同軸に回転可能に配設されるとともに、遊星歯車103を自転および公転可能に支持する部材である。
【0021】
この実施形態では、クランク部材104は、図5(a)に示すように、軸部材であり、片側は太く、反対側は細くなっている。片側の太い軸部151には、図5(a)(b)に示すように、クランク部材104の中心軸c1から、上述した遊星歯車103のピッチ円103cの半径r1分のずれた位置を中心軸c2として、上述した遊星歯車103を装着する装着穴152が形成されている。また、このクランク部材104の中間部は一端の太い軸部151よりも少し細く形成されている。これによって、太い軸部151に形成された装着穴152の底部152aが、クランク部材104の側面に開口している。クランク部材104の太い軸部151の外周面には、装着穴152に貫通したねじ穴156が形成されている。また、この実施形態では、クランク部材104にカウンターウェイト159が取り付けられている。カウンターウェイト159は、クランク部材104の太い軸部151が形成された片側の端面に取り付けられている。このカウンターウェイト159は、クランク部材104の端面に応じた略半円弧形状を有した質量部材であり、円弧の中心部には、装着穴152の中心軸c2を中心とする円弧状の切り欠き159aが形成されている。このクランク部材104の太い軸部151の反対側には、軸受装着部157と、クランクケース101の挿通穴113を挿通し、クランクケース101の外に伸びる軸部158を有している。
【0022】
≪遊星歯車とクランク部材の取り付け構造≫
この実施形態では、図2に示すように、遊星歯車103は、クランク部材104の装着穴152に軸受161、162によって回動自在に装着されている。また、クランク部材104は、クランクケース101に軸受163、164によって内周太陽歯車102のピッチ円102cの中心軸c1と同軸で回転するように、回動自在に装着されている。遊星軸部材132の遊星歯車部材131に装着される装着端部146は、図2に示すように、クランク部材104の装着穴152の底部152aの開口152bに到達している。斯かる装着端部146に取り付けられた遊星歯車部材131の歯面は、クランク部材104の装着穴152の底部152aの開口152bから露出している。また、遊星歯車103のカウンターウェイト148およびピン147は、クランク部材104の装着穴152の外に出ている。この実施形態では、クランク部材104の端面には、クランク部材104のカウンターウェイト159が取り付けられているが、カウンターウェイト159は、図5(b)に示すように、装着穴152の中心軸c2を中心とする円弧状の切り欠き159aが形成されており、遊星歯車103が回転する際、遊星歯車103のカウンターウェイト148およびピン147が、クランク部材104のカウンターウェイト159に干渉しない。
【0023】
≪カラー≫
なお、この実施形態では、遊星歯車103の遊星軸部材132を装着穴152に軸支する2つの軸受161、162の間には、筒状のカラー165が装着されている。このカラー165の軸方向の両端は、軸受161、162の外輪に当っている。また、このカラー165の外周面には、上述したクランク部材104の装着穴152の側面に形成したねじ穴156に軸方向に対応する位置に、周方向に溝166が形成されている。そして、遊星歯車103をクランク部材104に取り付ける際、軸受161、162の間に上記カラー165を取り付けるとともに、クランク部材104の側面に形成したねじ穴156にねじ(図示省略)を取り付ける。このねじは、先端が当該カラー165の溝166に嵌る。これによって、カラー165がクランク部材104に対して軸方向に動くのが規制されており、さらに、軸受161、162および遊星軸部材132が、クランク部材104の装着穴152から抜けるのが防止されている。
【0024】
≪クランクケースへの取り付け構造≫
クランクケース101の中間位置に形成された段差121には、内周太陽歯車102がねじによって固定されている。遊星歯車103およびクランク部材104は、上述したようにクランク部材104の装着穴152に遊星歯車103を装着したアッセンブリの状態で、クランクケース101に装着されている。この際、クランク部材104の軸部158は、クランクケース101の底部111の挿通穴113に挿通されており、クランク部材104の太い軸部151および遊星歯車103はクランクケース101内に配設されている。クランク部材104は、クランクケース101の内側面に装着された軸受163と、クランクケース101の底部111の挿通穴113に装着された軸受164によって、内周太陽歯車102の中心軸c1と同軸で回転するようにクランクケース101に回転自在に装着されている。
【0025】
≪ピンの軌道≫
遊星歯車部材131は、図2に示すように、クランク部材104の装着穴152の底部152aの開口152bから露出しており、内周太陽歯車102に噛み合っている。これによって、遊星歯車103は、内周太陽歯車102との噛み合い、クランク部材104の回転に応じて、自転および公転する。このクランク装置100は、図3に示すように、遊星歯車103のピッチ円103cの半径r1と、内周太陽歯車102のピッチ円102cの半径r2との比は、r1:r2=1:2の関係になっている。
【0026】
遊星歯車103の遊星軸部材132から軸方向に突出したピン147は、遊星歯車103の回転中心軸c2から半径方向にピッチ円103cの半径r1分ずれた位置に配設されている。すなわち、ピン147は、遊星歯車103のピッチ円103cの円周上に配設されている。このクランク装置100は、クランク部材104が回転すると、遊星歯車103は内周太陽歯車102と噛合しながら自転および公転する。遊星歯車103は、1回公転する毎に2回自転する。クランク部材104の装着穴152は、図3に示すように、遊星歯車103の自転および公転を支持する腕部としての機能を奏する。遊星歯車103の自転および公転に応じて、ピン147は直線往復動する。この実施形態では、ピン147は、内周太陽歯車102のピッチ円102cの直径(厳密には、内周太陽歯車102のピッチ円102cの一つの直径に平行な直線L)に沿って直線往復動する。例えば、図3に示す状態では、クランク部材104が図中の矢印の方向eに回転すると、遊星歯車103は矢印fの方向に回転し、ピン147は直線Lに沿って矢印gの方向に移動する。クランク部材104が逆方向に回転すると、遊星方向103の回転方向も逆になり、ピン147は直線Lに沿って矢印gとは反対の方向に移動する。
【0027】
≪連接棒≫
連接棒105は、図2および図6に示すように、ピン147に直交するように連結されており、かつ、図3に示すように、ピン147が直線往復動する直線Lに沿って延びている。この実施形態では、連接棒105とピン147の連結部分は、連接棒105に対するピン147の交差角が変位可能に連結されている。
【0028】
この実施形態では、当該連結部分は、図6に示すように、一対の滑り部材300によって、連接棒105に対するピン147の交差角が変化する。滑り部材300は、ピン147に装着された第1部材301と、連接棒105に取り付けられた第2部材302とからなる。具体的には、この実施形態では、ピン147は連接棒105の中間位置に連結されている。図7(a)(b)に示すように、連接棒105は、長さ方向の中間位置が太くなっており、当該太い部位に、連接棒105の長さ方向の真ん中に、ピン147を連結するべく、幅方向に貫通した略矩形の装着穴303が形成されている。
【0029】
ピン147に装着される第1部材301は、図8(a)〜(c)に示すように、上述した連接棒105の略矩形の装着穴303よりも小さい略矩形のブロック状の部材である。第1部材301の中心には、ピン147が挿入される挿入穴311が形成されている。第1部材301は、外側面に凸円弧面312を有している。この実施形態では、凸円弧面312は、連接棒105に対してピン147が交差する部位の中心Oを円弧の中心にして形成されている。さらに、第1部材301の凸円弧面312は、図2および図6に示すように、連接棒105およびピン147を所定の状態で組み付けたときに、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向(図8(b)中の矢印tの方向)に連続している。この挿入穴311の内径はピン147の外径よりも少し大きく形成されている。なお、この実施形態では、軽量化を図るため、図8(b)に示すように、第1部材301の4隅に穴313を形成している。
【0030】
他方、連接棒105に取り付けられる第2部材302は、図6に示すように、この実施形態では、連接棒105の装着穴303において、連接棒105の軸方向両側面に沿って装着される一対の部材321、322で構成されている。当該両側の各部材321、322は、図6および図9(a)〜(c)に示すように、第1部材301の凸円弧面312と対向する側面において、第1部材301の凸円弧面312を受ける凹円弧面323を有している。第2部材302の凹円弧面323は、凸円弧面312と同様に、連接棒105およびピン147を所定の状態で組み付けたときに、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向に連続している。
【0031】
第2部材302を構成する両側の各部材321、322は、図6に示すように、装着穴303の内側面に沿って装着されている。両側の各部材321、322は、連接棒105の端面に沿って延在するフランジ部324、325を連接棒105の端面にねじで固定して、連接棒105に取り付けられている。第2部材302を構成する両側の各部材321、322の間には、凹円弧面323に凸円弧面312が嵌った状態で、第1部材301が装着されている。ピン147は、斯かる第1部材301の挿入穴311に滑り材331(ブッシュ)を介して装着されている。また、この実施形態では、図6に示すように、ピン147には、内部に給油通路400が形成されている。斯かる給油通路400は、図示は省略するが、クランクケース101、クランク部材104、および、遊星軸部材132、ピン147の内部に形成されている。この実施形態では、図6に示すように、潤滑油は、斯かる給油通路400を通ってブッシュ331に供給され、さらに、ブッシュ331から滴り出る潤滑油が一対の滑り部材の滑り面(この実施形態では、第1部材301の凸円弧面312と第2部材302の凹円弧面312、323)に供給される。これにより、当該滑り面に適度な潤滑が得られ、斯かる滑り面の損傷を防止できる。
【0032】
上述したように、この実施形態では、第1部材301は、凸円弧面312を有し、第2部材302は第1部材301の凸円弧面312を受ける凹円弧面323を有している。凸円弧面312と凹円弧面323は互いに滑り、第1部材301および第1部材301の挿入穴311に挿入されたピン147は、連接棒105に対して回動する。
【0033】
また、第2部材302の凹円弧面323は、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向に連続している。他方、第1部材301の凸円弧面312は、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向に連続している。このため、第1部材301と第2部材302とは、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向に相対的に移動可能である。
【0034】
第1部材301と第2部材302の滑り面が形成されている凸円弧面312と凹円弧面323は、それぞれ滑らかな面で形成しており、上述したピン147の回動や連接棒105に対する相対的な移動は滑らかに行われる。
【0035】
この実施形態では、図3に示すように、クランク装置100の両側には、ピン147が直線往復動する直線Lに沿って、シリンダ型のコンプレッサ201、202が対向配置されている。シリンダ型コンプレッサ201、202は、シリンダ211、212にピストン213、214が装着されており、ピストン213、214をシリンダ211、212内に押し込むことによって、シリンダ211、212内の気体を圧縮させて圧縮ガスを作る装置である。この実施形態では、上述した直線Lに沿って、シリンダ型のコンプレッサ201、202のシリンダ211、212が配設されており、シリンダ型のピストン213、214は、連接棒105の両端に取り付けられている。
【0036】
このような装置では、ピストン213、214を押したり、引いたりするため、連接棒105には、軸方向(直線Lの方向)に大きな力が作用する。このため、連接棒105とピン147の連結部分には大きな力が作用する。ピン147は、図6に示すように、上述したように、遊星軸部材132の一端に片持ち支持された状態で突出しており、連接棒105とピン147の連結部分に大きな力が作用すると、図6に矢印sで示す方向に、ピン147は微小ではあるが連接棒105の軸方向に撓むことがある。
【0037】
また、遊星歯車103が、内周太陽歯車102と噛み合って自転および公転する際に、バックラッシュ分、遊星歯車103が所定の軌道からずれることがある。この場合、図3に矢印tで示す方向に、遊星歯車103のずれに応じてピン147と連接棒105との連結部に大きな力が作用する。
【0038】
この実施形態では、上述したようにピン147は連接棒105に対して回動することができる。このため、連接棒105に軸方向(直線Lの方向)に大きな力が作用し、ピン147が撓むと、それに応じて連接棒105に対してピン147が回動する。これによって、このような場合にピン147が撓むことに影響されずに、連接棒105は滑らかに直線往復動をすることができる。
【0039】
この実施形態では、第1部材301の凸円弧面312は、連接棒105に対してピン147が回動する回動中心を中心とする円弧で形成されている。また、第2部材302は第1部材301の凸円弧面312を受ける凹円弧面323を有している。これによって、第1部材301の凸円弧面312と、第2部材302の凹円弧面323は互いに接触した状態で滑る。このため、ピン147、第1部材301、第2部材302、連接棒105の間で、連接棒105の軸方向に適切に力を伝達することができる。
【0040】
また、遊星歯車103が内周太陽歯車102と噛み合って自転および公転する際に、バックラッシュ分、遊星歯車103が所定の軌道からずれることがある。この場合、図3に矢印tで示す方向に、ピン147の位置は、連接棒105が配設される直線Lから、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向にずれる。この実施形態では、第2部材302の凹円弧面323は、当該方向tに連続しているので、第1部材301は、第2部材302に対して当該方向tに相対的に移動可能である。すなわち、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向tに、ピン147が動くことが許容されている。このため、上述したように自転および公転する際にバックラッシュ分、遊星歯車103が所定の軌道からずれた場合でも、これに応じて第1部材301と第2部材の相対的な位置(ピン147と連接棒105との相対的な位置)がずれる。これによって、連接棒105は滑らかに直線往復動をすることができる。
【0041】
また、この実施形態では、第2部材302の凹円弧面323は、連接棒105の長さ方向の軸線Lおよび遊星歯車103の回動軸c2に直交する方向tに連続している。他方、第1部材301の凸円弧面312は、当該方向tに連続している。このため、第1部材301と第2部材の相対的な位置が当該方向tにずれた場合でも、第1部材301の凸円弧面312と第2部材302の凹円弧面323が面当りした状態が維持され、ピン147、第1部材301、第2部材302、連接棒105の間で、連接棒105の軸方向に適切に力が伝達される。
【0042】
また、この実施形態では、上述したように、連接棒105はピン147が装着される装着穴303を有しており、ピン147に装着される第1部材301と、装着穴303に装着される第2部材302とを備えた一対の滑り部材300によって、連接棒105に対するピン147の動きが許容されている。この場合、斯かる一対の滑り部材300は、適宜に、交換が可能であり、メンテナンスができ、装置の長寿命化を図ることができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態に係るクランク装置を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されず、発明の要旨が変更されない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0044】
例えば、上述した内周太陽歯車102、遊星歯車103、クランクケース101、クランク部材104などの具体的な形状や構造は、種々の変更が可能である。また、ピンが連接棒に対して回動可能に連結さればよく、必ずしも上述した一対の滑り部材を介在させて連結されている必要はない。例えば、所要の機能が奏される場合において、公知のスイベル構造を適用することが可能である。
【0045】
また、上述した実施形態において、一対の滑り部材は、その一例を例示したものに過ぎず、第1部材、第2部材についても上述した実施形態に限定されない。
【0046】
また、上述した実施形態では、図3に示すように、連接棒105の両端に、シリンダ型のコンプレッサ201、202を配し、当該シリンダ型のコンプレッサ201、202のピストンが連結されている。この場合、クランク部材104の軸部へ動力を伝達し、クランク部材104を回転させ、遊星歯車103、ピン147、連接棒105を介して、連接棒105の両側のコンプレッサ201、202を駆動させている。本発明に係るクランク装置は、上述したように、連接棒が直線往復動するので、他の種々の用途に適用可能である。
【0047】
例えば、連接棒の片側に、シリンダ型のコンプレッサを配し、反対側にシリンダ型の内燃機関を配し、連接棒の両端にそれぞれのピストンを連結するようにしてもよい。この場合は、連接棒が直線往復動するので、一方の内燃機関で生じたエネルギによって、連接棒を介して直接反対側のコンプレッサで気体を圧縮させることができるから、極めてエネルギ効率の良いコンプレッサを作ることができる。また、連接棒の両側に内燃機関を設け、クランク部材から回転駆動力を出力するようにしてもよい。また、連接棒の両側にシリンダを対向配置させた形態を例示したが、連接棒の片側のみに、シリンダを配設し、当該シリンダに装着されるピストンを駆動させる装置として用いても良い。
【0048】
また、シリンダ型のコンプレッサや、内燃機関に限定されず、ピストンに永久磁石を取り付け、シリンダ部分にコイルを配線した、リニア発電装置も構成することが可能である。また、連接棒の両側に取り付ける装置は、シリンダとピストンの組み合わせを有する装置である必要もなく、このクランク装置は、直線往復動する駆動体を動作させる装置として種々の用途に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】クランク装置を示す斜視図。
【図2】本発明の一実施形態に係るクランク装置の横断平面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るクランク装置の概略図。
【図4】(a)は本発明の一実施形態に係るクランク装置の遊星歯車を示す側面図であり、(b)はその正面図である。
【図5】(a)は本発明の一実施形態に係るクランク装置のクランク部材を示す側面図であり、(b)はその正面図。
【図6】本発明の一実施形態に係るクランク装置のピンと連接棒との連結部を示す横断平面図。
【図7】(a)は本発明の一実施形態に係るクランク装置の連接棒を示す正面図であり、(b)はその平面図である。
【図8】(a)は本発明の一実施形態に係るクランク装置の滑り部材の第1部材の平面図であり、(b)はその正面図、(c)は(b)のX−X断面矢視図である。
【図9】(a)は滑り部材の第2部材の凹円弧面を示す側面図であり、(b)はその正面図、(c)は(a)のY−Y断面矢視図である。
【符号の説明】
【0050】
100 クランク装置
101 クランクケース
102 内周太陽歯車
102c ピッチ円
103 遊星歯車
103c ピッチ円
104 クランク部材
105 連接棒
111 底部
112 開口
113 挿通穴
114 挿通穴
121 段差
131 遊星歯車部材
132 遊星軸部材
141 装着穴
146 装着端部
147 ピン
148 カウンターウェイト(質量部材)
151 軸部
152 装着穴
152a 底部
152b 開口
157 軸受装着部
158 軸部
159 カウンターウェイト(質量部材)
161〜164 軸受
165 カラー
201、202 シリンダ型コンプレッサ
211、212 シリンダ
213、214 ピストン
300 滑り部材
301 第1部材
302 第2部材
303 装着穴
311 挿入穴
312 凸円弧面
313 穴
323 凹円弧面
324 フランジ部
331 滑り材(ブッシュ)
400 給油通路
c1 内周太陽歯車のピッチ円の中心軸又はクランク部材の回転軸
c2 遊星歯車の回転中心軸、遊星歯車のピッチ円の中心軸又は遊星歯車の回動軸
c3 ピン147の中心軸線
L 連接棒の長さ方向の軸線又はピンが往復動する直線
r1 遊星歯車のピッチ円の半径
r2 内周太陽歯車のピッチ円の半径
t 連接棒の長さ方向の軸線および遊星歯車の回動軸に直交する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復運動と回転運動とを変換するクランク装置であって、
クランクケースに固定的に配設された内周太陽歯車と、
前記内周太陽歯車のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有し、前記内周太陽歯車と噛み合って自転および公転する遊星歯車と、
前記クランクケースに、内周太陽歯車の中心軸と同軸に回転するように支持されるとともに、前記遊星歯車を自転および公転可能に支持するクランク部材と、
前記遊星歯車のピッチ円上に配設されたピンと、
前記ピンに直交するように連結された連接棒と
を備え、
前記ピンは前記遊星歯車の自転および公転に応じて直線往復動し、前記連接棒は前記ピンが往復動する直線に沿って延び、前記連接棒とピンの連結部分は、連接棒に対するピンの交差角が変位可能に連結されているクランク装置。
【請求項2】
前記連接棒の長さ方向の軸線および遊星歯車の回動軸に直交する方向に、前記連接棒に対してピンが動くことが許容されている、請求項1に記載のクランク装置。
【請求項3】
前記ピンに装着された第1部材と、前記連接棒に取り付けられた第2部材とからなる一対の滑り部材によって、前記連接棒に対するピンの交差角が変化する、請求項1又は2に記載のクランク装置。
【請求項4】
前記第1部材は凸円弧面を有し、前記第2部材は前記第1部材の凸円弧面を受ける凹円弧面を有している、請求項3に記載のクランク装置。
【請求項5】
前記第2部材の凹円弧面は、前記連接棒の長さ方向の軸線および遊星歯車の回動軸に直交する方向に連続している、請求項4に記載のクランク装置。
【請求項6】
前記第1部材の凸円弧面は、前記連接棒の長さ方向の軸線および遊星歯車の回動軸に直交する方向に連続している、請求項5に記載のクランク装置。
【請求項7】
前記一対の滑り部材の滑り面に潤滑油を供給する給油通路を有する、請求項1に記載のクランク装置。
【請求項8】
前記給油通路が、前記クランクケース、クランク部材、および、ピンの内部に形成されている、請求項1に記載の記載のクランク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−267468(P2008−267468A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110065(P2007−110065)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(392029971)LWJ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】