説明

クランク角検出システムの異常診断装置

【課題】エンジンを強制的に逆回転させる手段を用いなくても、逆回転検出機能付きのクランク角センサの逆回転側の異常を検出できるようにする。
【解決手段】クランク角センサは、クランク軸の回転方向を判定して正回転と逆回転とで異なるパルス幅のクランク角信号を出力する。第1のクランク角カウンタは、クランク角センサから出力されるクランク角信号を回転方向に応じて加算/減算を切り替えてカウントし、第2のクランク角カウンタは、始動時に気筒判別が完了した後にクランク角センサからクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする。第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出し、第1のクランク角カウンタのカウント値を判定用カウント値と比較して、両者が不一致であればクランク角センサの逆回転側異常と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の逆回転を検出可能なクランク角センサを備えたクランク角検出システムの異常診断装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関の運転中は、カム角センサの出力信号を基準にしてクランク角センサの出力パルスのカウント値に基づいて気筒を判別し且つクランク角を検出して点火制御や燃料噴射制御を行うようにしているが、内燃機関の始動時は、スタータにより内燃機関をクランキングして特定気筒の判別が完了するまで(つまり特定気筒の所定クランク角の信号[欠歯部]を検出するまで)、最初に点火・噴射する気筒が不明である。
【0003】
そこで、従来より、内燃機関の回転停止時のクランク角(回転停止位置)をメモリに記憶しておき、次の内燃機関の始動時における準備期間中に、メモリに記憶された内燃機関の回転停止時のクランク角を基準にパルス列と燃焼サイクルとの関連付けを行い、これにより得られたクランク角に基づき点火制御や燃料噴射制御を開始することで、始動性や始動時のエミッションを向上させるようにしたものがある。
【0004】
しかし、内燃機関の回転が停止する間際に、回転トルクが低下してピストンが圧縮上死点を乗り越えられずに逆回転することがあるため、逆回転を検出できない従来の一般的なクランク角センサでは、回転停止時のクランク角を正確に検出することができない。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1(特開2005−233622号公報)に記載されているように、逆回転検出機能付きのクランク角センサが開発されている。この逆回転検出機能付きのクランク角センサは、クランク軸に固定されたシグナルロータの外周部に沿って2つのセンサ部を所定クランク角間隔で配置し、シグナルロータの回転に同期して2つのセンサ部から位相の異なるパルス信号を周期的に処理回路に出力し、これら2つのパルス信号の関係に基づいてクランク軸の回転方向を判定して、正回転/逆回転に応じて異なるパルス幅のクランク角信号を出力し、正回転のクランク角信号をカウントアップ(インクリメント)し、そのカウント値から逆回転のクランク角信号をカウントダウン(デクリメント)することで、正回転/逆回転のクランク角信号のカウント値に基づいてクランク角を検出できるようになっている。
【0006】
このような逆回転検出機能付きのクランク角センサでも、異常診断機能を持たせる必要がある。そこで、特許文献2(特開2009−24548号公報)では、(1) スタータによって内燃機関のクランク軸を正回転させているときにクランク角センサから逆回転のクランク角信号が出力された場合、或は、(2) モータジェネレータによって内燃機関のクランク軸を強制的に逆回転させているときにクランク角センサから正回転のクランク角信号が出力された場合に、クランク角センサの異常と判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−233622号公報
【特許文献2】特開2009−24548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献2の異常診断方法では、内燃機関の逆回転中におけるクランク角センサの出力の異常(逆回転側の異常)を検出する際に、モータジェネレータによって内燃機関を強制的に逆回転させる必要があるため、内燃機関を強制的に逆回転させる手段(モータジェネレータ等)を持たない車両では、クランク角センサの逆回転側の異常を検出できない。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、内燃機関を強制的に逆回転させる手段を用いなくても、逆回転検出機能付きのクランク角センサの逆回転側の異常を検出できるクランク角検出システムの異常診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関のクランク軸の回転方向を判定して正回転と逆回転とで異なるクランク角信号を出力するクランク角センサと、前記クランク角センサから出力されるクランク角信号を回転方向に応じて加算/減算を切り替えてカウントする第1のクランク角カウンタと、内燃機関の始動時に前記クランク軸が基準位置まで回転して気筒判別が完了した後に前記クランク角センサからクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする第2のクランク角カウンタと、前記第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する前記第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出する判定用カウント値算出手段と、前記第1のクランク角カウンタのカウント値と前記判定用カウント値とを比較してその比較結果に基づいて前記クランク角センサの逆回転側の異常の有無を判定する逆回転側異常診断手段とを備えた構成としたものである。
【0011】
この構成では、クランク角センサから出力されるクランク角信号を回転方向に応じて加算/減算を切り替えてカウントする第1のクランク角カウンタのカウント値は、クランク角センサの逆回転側の異常が発生すると、正常時と異なる挙動を示す。また、内燃機関の始動時に気筒判別が完了する位置は、設計で決められた既知のクランク角であるため、気筒判別完了後にクランク角センサからクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする第2のクランク角カウンタのカウント値は、第1のクランク角カウンタのカウント値が異常な値であっても、正しいカウント値となる。これらの関係から、本発明では、第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出し、第1のクランク角カウンタのカウント値と前記判定用カウント値とを比較してその比較結果に基づいてクランク角センサの逆回転側の異常の有無を判定するものであり、これにより、内燃機関を強制的に逆回転させる手段を用いなくても、逆回転検出機能付きのクランク角センサの逆回転側の異常を検出することが可能となる。
【0012】
この場合、請求項2のように、逆回転側異常診断手段は、第2のクランク角カウンタのカウント値がカウントアップされる毎にクランク角センサの逆回転側の異常の有無を判定し、逆回転側の異常と判定される回数が所定値に達したときに逆回転側の異常の判定を確定させるようにしても良い。このようにすれば、逆回転側の異常判定の信頼性を向上できる。
【0013】
また、請求項3のように、逆回転側の異常の判定確定時に運転者に警告する警告手段を設けても良い。これにより、クランク角センサの逆回転側の異常発生時に、その異常を早期に運転者に知らせてクランク角センサを早期に修理するように促すことができる。
【0014】
また、請求項4のように、逆回転側の異常の判定確定時に、正しいクランク角が検出された後に燃料噴射と点火を許可するようにすると良い。このようにすれば、クランク角を誤検出した状態で燃料噴射と点火を不適正なタイミングで実行することを未然に防止でき、噴射した燃料が不完全燃焼又は未燃状態で排出されてエミッションが増加することを未然に防止できる。
【0015】
また、請求項5のように、逆回転側の異常の判定確定時に、内燃機関を自動停止するアイドルストップ制御を禁止するようにしても良い。この理由は、クランク角センサの逆回転側の異常が発生すると、アイドルストップ制御による内燃機関の停止位置を正確に検出できず、再始動時に誤ったクランク角の情報を基に点火制御や燃料噴射制御が開始されるため、再始動性が悪化してエミッションが増加する原因にもなるためである。
【0016】
また、請求項6のように、逆回転側の異常の判定確定時に、第1のクランク角カウンタのカウント値のずれを第2のクランク角カウンタのカウント値に基づいて補正するようにしても良い。前述したように、気筒判別完了後にクランク角センサからクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする第2のクランク角カウンタのカウント値は、第1のクランク角カウンタのカウント値が異常な値であっても、正しいカウント値となるため、逆回転側の異常の判定確定時に第1のクランク角カウンタのカウント値のずれを第2のクランク角カウンタのカウント値に基づいて補正すれば、第1のクランク角カウンタのカウント値を正しい値に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるエンジン制御システム全体の概略構成図である。
【図2】図2はクランク角検出システムの構成を概略的に示す図である。
【図3】図3(a)と(b)は正回転時と逆回転時の第1センサ出力、第2センサ出力、クランク角信号のパルス幅の関係を説明するタイムチャートである。
【図4】図4は第1センサ出力と第2センサ出力の関係に基づいてクランク軸の回転方向を判定する際に用いる回転方向判定マップを説明する図である。
【図5】図5はクランク角センサの正常時の信号波形、逆回転側異常時の信号波形、6℃A毎クランク角カウンタ信号、30℃A毎クランク角カウンタ信号の関係を説明するタイムチャートである。
【図6】図6は逆回転側異常診断に用いる各カウンタと各フラグの関係を説明するタイムチャートである。
【図7】図7は逆回転側異常診断プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0019】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0020】
一方、エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0021】
また、エンジン11には、吸気バルブ28のバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる吸気側可変バルブタイミング装置29と、排気バルブ30のバルブタイミングを変化させる排気側可変バルブタイミング装置31とが設けられている。エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキング振動を検出するノックセンサ27が取り付けられている。
【0022】
エンジン11のカム軸に取り付けられたシグナルロータ(図示せず)の外周に対向してカム角センサ32が設置されている。このカム角センサ32は、シグナルロータ(カム軸)の回転に同期して所定のカム角でカム角信号(図5参照)を出力するように構成されている。
【0023】
また、図2に示すように、エンジン11のクランク軸33に固定されたシグナルロータ34の外周部には、複数の突起35が所定クランク角ピッチ(例えば6℃Aピッチ)で形成されている。このシグナルロータ34の外周部に対向するようにクランク角センサ36がエンジン11側に固定されている。このクランク角センサ36は、シグナルロータ34の外周部に沿って所定クランク角間隔で配置した第1センサ37(センサ部)と第2センサ38(センサ部)を有する逆回転検出機能付きのクランク角センサである。シグナルロータ34には、特定のクランク角(基準位置)で1〜数個の突起35が欠けた欠歯部39が設けられ、この欠歯部39でクランク角センサ36から出力されるクランク角信号の間隔が長くなることで、欠歯部39が検出される(図5参照)。
【0024】
各センサ37,38は、例えば、電磁誘導方式、ホールセンサ方式のセンサであり、図3に示すように、シグナルロータ34の回転に伴い、その突起35が各センサ37,38と対向する毎に、各センサ37,38の出力がHi→Loに反転し、突起35間の谷間が各センサ37,38と対向する毎に、各センサ37,38の出力がLo→Hiに反転する(ここで、「Hi」は「ハイレベル」、「Lo」は「ローレベル」を意味する)。尚、各センサ37,38のHi/Loの関係は、上記とは反対であっても良い。
【0025】
各センサ37,38から両者の配置間隔に相当する位相差のあるパルス信号が周期的に処理回路40に出力され、これら2つのパルス信号の関係に基づいて図4の回転方向判定マップに従ってクランク軸33の回転方向(正回転/逆回転)が判定されて、当該回転方向(正回転/逆回転)に応じて異なるパルス幅α,βのクランク角信号がエンジン制御回路41に出力される。
【0026】
ここで、本実施例の回転方向(正回転/逆回転)の判定方法を図3、図4を用いて説明する。第1センサ37の出力がHi→Loに反転するタイミング(立ち下がりエッジ)と、Lo→Hiに反転するタイミング(立ち上がりエッジ)で、それぞれ、第2センサ38の出力がHiかLoかを判定し、図4の回転方向判定マップに従って正回転/逆回転を判定する。正回転時には、第1センサ37の出力がHi→Loに反転するタイミング(立ち下がりエッジ)で、クランク角センサ36から小さいパルス幅αのクランク角信号(ローレベル信号)を出力し、逆回転時には、第1センサ37の出力がLo→Hiに反転するタイミング(立ち下がりエッジ)で、クランク角センサ36から大きいパルス幅βのクランク角信号(ローレベル信号)を出力する。尚、Hi/Loの関係は、上記とは反対であっても良い。また、第1センサ37と第2センサ38の関係も、上記とは反対であっても良い。
【0027】
エンジン制御回路41は、マイクロコンピュータを主体として構成され、クランク角センサ36から所定クランク角毎(例えば6℃A毎)に出力されるクランク角信号をカウントする第1のクランク角カウンタとしての機能を備え、この第1のクランク角カウンタのカウント値に基づいてクランク角を検出する。この場合、第1のクランク角カウンタは、クランク角信号が入力される毎に、クランク角信号のパルス幅を所定の閾値(但しα<閾値<β)と比較して小さいパルス幅αか大きいパルス幅βかを判定し、その判定結果に応じて加算/減算(アップカウント/ダウンカウント)を切り替えてクランク角信号をカウントする(正回転時にはアップカウントし、逆回転時にはダウンカウントする)。これにより、逆回転時には、第1のクランク角カウンタのカウント値が逆回転量に応じてダウンカウントされるため、逆回転が発生しても、第1のクランク角カウンタのカウント値から実際のクランク角を正確に検出することができる。
【0028】
更に、エンジン制御回路41は、エンジン始動時にクランク軸33が基準位置(欠歯部39)まで回転して気筒判別が完了した後にクランク角センサ36からクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする第2のクランク角カウンタとしての機能も備えている。本実施例では、図5に示すように、欠歯部39を検出した後に第1のクランク角カウンタからクランク角信号が5個出力された時点で、気筒判別タイミングとなって第2のクランク角カウンタのカウント値が所定値(例えば10)にセットされ、第1のクランク角カウンタからクランク角信号が5個出力される毎(30℃A毎)に第2のクランク角カウンタのカウント値が1ずつカウントアップされる。
【0029】
エンジン制御回路41は、アイドルストップ制御(自動停止・始動制御)を実行する機能も備えている。このアイドルストップ制御では、エンジン運転中に運転者が車両を停止させて自動停止条件(例えばアクセル全閉、ブレーキ操作中、アイドル運転中等の条件)が成立したときに、エンジン11の燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン11を自動的に停止させると共に、回転停止時のクランク角(第1のクランク角カウンタのカウント値)をメモリ44に記憶する。そして、自動停止中に運転者が車両発進のための準備操作(ブレーキ解除、シフトレバー操作等)や発進操作(アクセル踏み込み等)を行って自動再始動条件が成立したときに、スタータ(図示せず)をオンしてエンジン11をクランキングすると共に燃料噴射及び点火を開始してエンジン11を自動的に再始動させる。この再始動時には、メモリ44に記憶された回転停止時のクランク角(第1のクランク角カウンタのカウント値)の情報を基に点火制御や燃料噴射制御を開始することで、再始動性や再始動時のエミッションを向上させるようにしている。
【0030】
ところで、図5に示すように、エンジン11の逆回転中にクランク角センサ36の信号がHi又はLoに固着した逆回転側異常が発生すると、エンジン11が逆回転しても、第1のクランク角カウンタのカウント値はダウンカウントされず、変化しない。このため、クランク角センサ36の逆回転側異常が発生すると、エンジン11の回転停止時に第1のクランク角カウンタのカウント値が正しい値からずれてしまい、エンジン11の回転停止位置を誤検出して、始動性が悪化してエミッションが増加する原因にもなる。
【0031】
そこで、本実施例では、気筒判別完了後にクランク角センサ36からクランク角信号が所定数(例えば5個)出力される毎(例えば30℃A毎)にカウントアップする第2のクランク角カウンタを使用して、次のようにしてクランク角センサ36の逆回転側異常の有無を判定する。まず、第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出し、第1のクランク角カウンタのカウント値と前記判定用カウント値とを比較して、両者が一致しない場合にクランク角センサ36の逆回転側異常と判定する。
【0032】
この場合、エンジン始動時に気筒判別が完了する位置は、設計で決められた既知のクランク角であるため、気筒判別完了後にクランク角センサ36からクランク角信号が所定数(例えば5個)出力される毎(例えば30℃A毎)にカウントアップする第2のクランク角カウンタのカウント値は、第1のクランク角カウンタのカウント値が異常な値であっても、正しいカウント値となる。これらの関係から、本実施例では、第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出し、第1のクランク角カウンタのカウント値と前記判定用カウント値とを比較してその比較結果に基づいてクランク角センサ36の逆回転側異常の有無を判定するものであり、これにより、エンジン11を強制的に逆回転させる手段を用いなくても、クランク角センサ36の逆回転側異常を検出することが可能となる。
【0033】
以上説明した本実施例のクランク角センサ36の逆回転側異常診断処理は、エンジン制御回路41によって図7の逆回転側異常診断プログラムに従って次のようにして実行される。図7の逆回転側異常診断プログラムは、エンジン制御回路41の電源オン期間中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう逆回転側異常診断手段としての役割を果たす。
【0034】
本プログラムが起動されると、まず、ステップ101で、エンジン11の燃焼(燃料噴射や点火)が停止したか否かを判定する。エンジン11の逆回転が発生する領域は、エンジン11の燃焼が停止してエンジン回転が停止する間際の極低回転領域のみであるため、エンジン11の燃焼中(運転中)は、逆回転が発生しない。そこで、ステップ101で、エンジン11の燃焼中(運転中)と判定されれば、逆回転側異常が発生しないと判断して、以降の処理を行わずに本プログラムを終了する。
【0035】
上記ステップ101で、エンジン11の燃焼が停止したと判定されれば、ステップ102に進み、イグニッションスイッチ42がオフ(OFF)されているか否かを判定し、イグニッションスイッチ42がオフされていれば、以降の処理を行わずに本プログラムを終了する。つまり、運転者がイグニッションスイッチ42をオフ操作してエンジン11を手動停止する場合は、ステップ103以降の逆回転側異常診断処理を行わないが、アイドルストップ制御によりエンジン11が自動停止される場合は、上記ステップ102で「Yes」と判定されて、ステップ103以降の逆回転側異常診断処理を次のようにして実行する。
【0036】
まず、ステップ103で、エンジン11の再始動を開始して気筒判別タイミング(図5参照)になったか否かを判定し、まだ気筒判別タイミングになっていなければ、ステップ102に戻って、イグニッションスイッチ42がオフされたか否かを判定し、イグニッションスイッチ42がオフされていれば、エンジン11が手動停止されたと判断して本プログラムを終了する。
【0037】
これに対し、上記ステップ103で、エンジン11の再始動を開始して気筒判別タイミングになったと判定されれば、ステップ104に進み、逆回転側異常診断許可フラグ(図6参照)を「1」にセットして逆回転側異常診断を許可する。この後、ステップ105に進み、第2のクランク角カウンタのカウント値と第1のクランク角カウンタの正常なカウント値との対応関係をテーブル化した判定用カウント値テーブルを参照して、第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出する。このステップ105の処理が特許請求の範囲でいう判定用カウント値算出手段としての役割を果たす。
【0038】
この後、ステップ106に進み、第1のクランク角カウンタのカウント値を上記ステップ105で算出した判定用カウント値と比較して両者が一致するか否かを判定する。この判定は、気筒判別タイミングで行った後は、後述するステップ112の処理により30℃A毎(クランク角センサ36からクランク角信号が5個出力される毎)に行われる。
【0039】
上記ステップ106で、第1のクランク角カウンタのカウント値が判定用カウント値と一致すると判定されれば、逆回転側正常と判断して、ステップ107に進み、判定回数カウンタのカウント値をインクリメントすると共に、次のステップ108で、逆回転側正常判定カウンタをインクリメントする(図6参照)。
【0040】
これに対し、上記ステップ106で、第1のクランク角カウンタのカウント値が判定用カウント値と一致しないと判定されれば、逆回転側異常と判断して、ステップ109に進み、判定回数カウンタのカウント値をインクリメントすると共に、次のステップ110で、逆回転側異常判定カウンタをインクリメントする(図6参照)。
【0041】
その後、ステップ111に進み、判定回数カウンタのカウント値が所定回数以上になったか否かを判定し、判定回数カウンタのカウント値が所定回数未満であれば、ステップ112に進み、30℃A回転したか否か(クランク角センサ36からクランク角信号が5個出力されたか否か)を判定し、30℃A回転するまで待機する。そして、30℃A回転した時点で、上述したステップ105〜111を繰り返す。これにより、30℃A毎に、判定用カウント値を算出して、第1のクランク角カウンタのカウント値が判定用カウント値と一致するか否かを判定し、判定回数カウンタのカウント値をインクリメントすると共に、逆回転側正常判定カウンタ又は逆回転側異常判定カウンタをインクリメントする処理を繰り返す。
【0042】
これにより、ステップ111で、判定回数カウンタのカウント値が所定回数以上になったと判定された時点で、ステップ113に進み、逆回転側異常判定カウンタのカウント値が所定回数以上であるか否かを判定し、逆回転側異常判定カウンタのカウント値が所定回数以上であれば、ステップ114に進み、逆回転側異常確定フラグを「1」にセットして逆回転側異常の判定を確定する。この後、ステップ115に進み、警告ランプ43(警告手段)を点灯又は点滅させたり、或は、運転席のインストルメントパネルの表示部に警告表示したり、警告音を発生したりして、運転者に警告すると共に、次のステップ116で、アイドルストップ制御を禁止する。
【0043】
尚、逆回転側異常の判定確定時には、正しいクランク角が検出された後に燃料噴射と点火を許可するようにすると良い。このようにすれば、クランク角を誤検出した状態で燃料噴射と点火を不適正なタイミングで実行することを未然に防止でき、噴射した燃料が不完全燃焼又は未燃状態で排出されてエミッションが増加することを未然に防止できる。
【0044】
また、逆回転側異常の判定確定時に、第1のクランク角カウンタのカウント値のずれを第2のクランク角カウンタのカウント値に基づいて補正するようにしても良い。具体的には、逆回転側異常の判定確定時に、第1のクランク角カウンタのカウント値を、ステップ105で算出した判定用カウント値に補正するようにしても良い。前述したように、気筒判別完了後にクランク角センサ36からクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする第2のクランク角カウンタのカウント値は、第1のクランク角カウンタのカウント値が異常な値であっても、正しいカウント値となるため、逆回転側異常の判定確定時に第1のクランク角カウンタのカウント値のずれを第2のクランク角カウンタのカウント値に基づいて補正すれば、第1のクランク角カウンタのカウント値を正しい値に補正することができる。
【0045】
前述したステップ113で、逆回転側異常判定カウンタのカウント値が所定回数未満であると判定されれば、ステップ117に進み、逆回転側正常判定カウンタのカウント値が所定回数以上であるか否かを判定し、逆回転側正常判定カウンタのカウント値が所定回数以上であれば、ステップ118に進み、逆回転側正常確定フラグを「1」にセットして逆回転側正常の判定を確定する。
【0046】
エンジン始動時に気筒判別が完了する位置は、設計で決められた既知のクランク角であるため、気筒判別完了後にクランク角センサ36からクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする第2のクランク角カウンタのカウント値は、第1のクランク角カウンタのカウント値が異常な値であっても、正しいカウント値となる。
【0047】
このような関係から、本実施例では、第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出し、第1のクランク角カウンタのカウント値と前記判定用カウント値とを比較してその比較結果に基づいてクランク角センサ36の逆回転側異常の有無を判定するものであり、これにより、エンジン11を強制的に逆回転させる手段を用いなくても、逆回転検出機能付きのクランク角センサ36の逆回転側異常を検出することが可能となる。
【0048】
尚、本実施例では、アイドルストップ制御による再始動時にクランク角センサ36の逆回転側異常の有無を判定するようにしたが、運転者が手動操作でエンジン11を始動する場合にも、クランク角センサ36の逆回転側異常の有無を判定するようにしても良い。この場合は、エンジン制御回路41の電源オフ中でも記憶データを保持するバックアップRAM等の書き替え可能な不揮発性メモリに、エンジン停止時の第1のクランク角カウンタのカウント値を記憶するようにすれば良い。
【0049】
その他、本発明は、クランク角センサ36の構成を変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【符号の説明】
【0050】
11…エンジン(内燃機関)、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、32…カム角センサ、33…クランク軸、34…シグナルロータ、35…突起、36…クランク角センサ、37…第1センサ、38…第2センサ、39…欠歯部、41…エンジン制御回路(逆回転側異常診断手段,判定用カウント値算出手段)、42…イグニッションスイッチ、43…警告ランプ(警告手段)、44…メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の回転方向を判定して正回転と逆回転とで異なるクランク角信号を出力するクランク角センサと、
前記クランク角センサから出力されるクランク角信号を回転方向に応じて加算/減算を切り替えてカウントする第1のクランク角カウンタと、
内燃機関の始動時に前記クランク軸が基準位置まで回転して気筒判別が完了した後に前記クランク角センサからクランク角信号が所定数出力される毎にカウントアップする第2のクランク角カウンタと、
前記第2のクランク角カウンタのカウント値に対応する前記第1のクランク角カウンタの正常なカウント値を判定用カウント値として算出する判定用カウント値算出手段と、
前記第1のクランク角カウンタのカウント値と前記判定用カウント値とを比較してその比較結果に基づいて前記クランク角センサの逆回転側の異常の有無を判定する逆回転側異常診断手段と
を備えていることを特徴とするクランク角検出システムの異常診断装置。
【請求項2】
前記逆回転側異常診断手段は、前記第2のクランク角カウンタのカウント値がカウントアップされる毎に前記クランク角センサの逆回転側の異常の有無を判定し、逆回転側の異常と判定される回数が所定値に達したときに逆回転側の異常の判定を確定させることを特徴とする請求項1に記載のクランク角検出システムの異常診断装置。
【請求項3】
前記逆回転側の異常の判定確定時に運転者に警告する警告手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載のクランク角検出システムの異常診断装置。
【請求項4】
前記逆回転側異常診断手段は、前記逆回転側の異常の判定確定時には正しいクランク角が検出された後に燃料噴射と点火を許可することを特徴とする請求項2又は3に記載のクランク角検出システムの異常診断装置。
【請求項5】
前記逆回転側異常診断手段は、前記逆回転側の異常の判定確定時には内燃機関を自動停止するアイドルストップ制御を禁止することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のクランク角検出システムの異常診断装置。
【請求項6】
前記逆回転側異常診断手段は、前記逆回転側の異常の判定確定時に前記第1のクランク角カウンタのカウント値のずれを前記第2のクランク角カウンタのカウント値に基づいて補正することを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のクランク角検出システムの異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−77646(P2012−77646A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221946(P2010−221946)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】