説明

クリーニング機構を備えた除電器

【課題】電極針を自動的にクリーニングできるとともに、クリーニングにより生じた塵埃等を外部に飛散させない機構を備えた除電器を提供する。
【解決手段】電極針清掃時は、電動機731が回転してシャッタ部材71を第1の位置から第2の位置に移動させ、筺体2の第1の開口部22を閉鎖する。次に電動機731が小刻みに正転と反転とを反復することにより、ブラシ72a、72bがそれぞれ対応する電極針42a、42bをシャッタ部材の移動方向に関して両方向から清掃できるように、シャッタ部材71が往復動する。当該往復動の間は、シャッタ部材71は第1の開口部22を開口しないので、電極針から除去された塵埃等が第1の開口部22から外部に放出されることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極針のクリーニング機構を備えた除電器に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナ放電によりプラスとマイナスのイオンを同時に発生させ、生じたイオンを送風機による気流とともに対象物に向けて搬送して帯電した静電気を中和する、いわゆる送風式除電器は種々のものが開発されている。このような送風式除電器は例えば、半導体部品や電子機器等の組立工程において、当該部品等に帯電した静電気の放電による部品等の破壊を防ぐ目的で使用されている。送風機としてはいくつかの種類が使用可能であり、例えば特許文献1に記載の静電気除去装置では、「送風機としては遠心式のシロッコファンまたは貫流式のクロスフローファンが使用される」とされている。
【0003】
上述の除電器は、コロナ放電を発生させるための電極針(放電針)を有するが、使用により空気中の塵埃が電極針の先端部に吸着されて放電性能が低下するので、電極針は定期的にクリーニングを行う必要がある。例えば特許文献2に記載の送風式イオン生成装置では、「フィン部が気流を受けて可動部材が動作する。そして、可動部材に取り付けられたブラシ部材が放電針の先端に触れ、放電針の先端に付着したダストが除去される」とされている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−151293号公報
【特許文献2】特開2004−234972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
除電器の使用態様によっては、非常に狭い場所や作業者の手の届きにくい場所に除電器が設置されることがあり、このような場合に電極針のクリーニングのために除電器を一旦設置場所から取り外すことは非常に面倒である。
【0006】
一方特許文献2に記載のイオン生成装置のように、除電器を設置場所から取り外さずに電極針を自動的に清掃することは可能である。しかしながら、例えば半導体製造における上工程のように僅かな塵埃でも重大な影響を与え得る環境下で除電器を使用する場合は、電極針のクリーニングにより生じた塵埃を外部に飛散させないことが望まれる。
【0007】
そこで本発明は、電極針を自動的にクリーニングできるとともに、クリーニングにより生じた塵埃等を外部に飛散させない機構を備えた除電器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、コロナ放電によりイオンを生成するための少なくとも1つの電極針と、前記電極針により生成されたイオンを運搬する気流を生成する送風部と、前記送風部による気流が流れる流路、並びに前記流路に連通する第1の開口部を有する筐体と、前記電極針を清掃するためのクリーニング機構であって、前記筐体の前記第1の開口部を開口する第1の位置と、前記第1の開口部を閉鎖する第2の位置とを移動可能に構成されたシャッタ部材、及び前記シャッタ部材が前記第2の位置にあるときに前記電極針を清掃する少なくとも1つの清掃部材を有するクリーニング機構と、前記シャッタ部材が前記第2の位置にあるときに、前記送風部から外部に放出される気流が通過する空気除塵フィルタと、を有する除電器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る除電器では、電極針のクリーニング中は送風機による気流がフィルタを通過するので、クリーニングにより生じた塵埃はフィルタに捕集され、外部には飛散しない。従って本発明に係る除電器は、半導体製造工程のような塵埃が極度に嫌われる場合にも極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る除電器の概略構成を示す図である。なお本実施形態は、直流型及び交流型のいずれの除電器にも適用可能である。除電器1は、概略図示した筺体2と、筺体2の内部に配置された送風部(図示例ではシロッコファン等の遠心ファン)3と、コロナ放電によりイオンを発生させるための1つ以上の電極4と、電極4に高電圧を送出する高電圧電源5とを有する。送風部としては軸流ファン等も使用可能であるが、遠心ファンを使用した場合は、その羽根車の回転軸方向と生じる気流の方向とが異なるので、除電器の最も面積の大きい面(図1では紙面に平行な面)を壁等に密着配置することも可能であり、故に設置場所の自由度が高いという利点がある。
【0011】
遠心ファン3により生じた気流は、筐体2内に形成された流路21を通って、流路21に連通する第1の開口部22から流出し、図示しない対象物に向かう。また筺体2は、流路21に連通する第2の開口部23を有し、第2の開口部23を覆うようにHEPAフィルタ等の空気除塵フィルタ6が設けられる。従って第2の開口部23を通る気流の少なくとも一部、好ましくは実質全ては、HEPAフィルタ6を通過して外部に放出されることになる。
【0012】
図2に示すように、電極4は、略筒状(図示例では対向する1対の面が除去された中空の直方体形状)の電極台41と、少なくとも1つの電極針(本実施形態では42a及び42bの2本)と、各電極針を支持するとともに電極台41の内側に取り付けられた支持部材(図示例では棒状部材)43と、高電圧電源5に接続された電線44とを有する。電極台41は、遠心ファン3からの気流が電極台41内部を流通するように流路21に配置される。高電圧電源5からの電圧は電線44を介して各電極針に印加され、各電極針と、対向電極として作用する電極台41との間にコロナ放電が生じる。電極台41は、図示しない接続部材等によって筺体2を介して接地されている。このコロナ放電により空気イオンが生成され、生成された空気イオンは遠心ファン3により生じる気流とともに、除電すべき図示しない対象物に向けて運搬される。
【0013】
除電器1は、各電極針の清掃を行うクリーニング機構7を有する。クリーニング機構7は、筐体2の流路21(図示例では第1の開口部22)を開閉可能に構成されたシャッタ部材71と、シャッタ部材71に設けられた少なくとも1つの電極針清掃部材(図示例では2つのブラシ72a、72b)と、シャッタ部材71を駆動する駆動機構73と、駆動機構73を制御する制御ユニット74とを有する。なお本実施形態では電極針の個数とブラシの個数は同数であるが、両者は異なっていてもよく、例えば2つの電極針を1つのブラシで清掃する構成とすることもできる。またブラシの代わりに、研磨フィルム等の研磨材を使用することもできる。
【0014】
シャッタ部材71は、筺体2の第1の開口部22を開口する第1の位置(図1参照)と、第1の開口部22を閉鎖する第2の位置(図4参照)との間を移動可能に構成される。シャッタ部材71は、図示例では筺体2の下面(筺体の一側面であって第1の開口部22が形成されている面)24の内側近傍かつ下面24に略平行に設けられた板状部材であり、下面24に平行に移動可能に構成される。ブラシ72a、72bは、シャッタ部材71が第2の位置にあるときに、対応する電極針42a、42bに当接して該電極針を清掃できる位置に配置される。なおシャッタ部材としては、第1の開口部を開閉可能に移動できるものであれば他の構成のものも使用可能である。
【0015】
駆動機構73は、シャッタ部材71を上述の第1の位置と第2の位置との間で移動させるためのものであり、図示例では電動機731と、電動機731の回転軸に取り付けられた歯車732とを有する。一方シャッタ部材71は、第1の開口部22とは反対側の端部に歯付ベルト711を具備しており、電動機731は歯車732が歯付ベルト711に噛み合う位置に配置される。電動機731としてはステッピングモータやソレノイド等を使用することができ、また電動機の駆動は、概略図示した制御ユニット74により制御することができる。なお駆動機構としては、シャッタ部材71を第1の位置と第2の位置との間で移動させることができるものであれば他の構成も使用可能である。
【0016】
次に図3を参照して、除電器1の運転手順について説明する。先ず、除電器1の主電源のスイッチ(図示せず)がオンになると、遠心ファン3が回転し、生じた気流が筺体2の流路21内を流れる。一方電極4ではイオンが発生し、発生したイオンは遠心ファン3による気流とともに第1の開口部22から流出し、図示しない除電すべき対象物に向かう。なおこの通常運転時は、図1又は図3(a)に示すようにシャッタ部材71は第1の位置に位置している。
【0017】
上述の通常運転を所定時間行った後又は電極針が汚れてきた場合には、通常運転を一旦停止して電極針のクリーニングを行う。ここで、図4又は図3(b)に示すように、電動機731が回転してシャッタ部材71を第1の位置から第2の位置に移動させ、これにより筺体2の第1の開口部22が閉鎖する。次に電動機731が小刻みに正転と反転とを反復することにより、図3(b)及び(c)に示すように、ブラシ72a、72bがそれぞれ対応する電極針42a、42bをシャッタ部材の移動方向に関して両方向(図示例では左右両方向)から清掃できるように、シャッタ部材71が往復動する。ここで、当該往復動の間は、シャッタ部材71は第1の開口部22を開口しない。従って電極針の清掃中に、電極針から除去された塵埃等が第1の開口部22から外部に放出されることはない。
【0018】
なお図3(b)及び(c)に示すシャッタ部材の往復動中(電極針の清掃中)も、遠心ファン3は回転を続けていることが好ましい。この間、上述のように第1の開口部22は閉鎖されているので、図4に示すように、遠心ファンからの気流は第2の開口部23を通って、第2の開口部23に取り付けられたHEPAフィルタ6を通過して外部に放出される。従って、電極針から除去された汚れや塵埃等はHEPAフィルタ6に捕集され、外部に放出されることはない。
【0019】
なお上述のシャッタ部材の往復動は、一往復のみ行ってもよいし、数往復行ってもよく、除電器の使用環境や運転時間等に基づいて適宜設定することができる。このような清掃操作を、適当な時間間隔(例えば12〜24時間に1回)で行うことにより、電極針をその性能が発揮できる程度に清浄な状態に保つことができる。電極針の清掃が完了したら、図3(d)に示すように、駆動機構がシャッタ部材71を再度第1の位置に移動させる。なおシャッタ部材71の位置は、筺体2内のシャッタ部材近傍に設けたフォトセンサ25等の位置検出手段によって測定することができる。なお清掃終了後に所定時間送風を行ってから、シャッタ部材71を第1の位置に移動させることもできる。このようにすると、清掃によって生じた粉塵をより確実にフィルタで捕集することができる。
【0020】
このように本発明に係る除電器は、電極針の清掃により生じる汚れや塵埃等を外部に放出しないので、塵埃等を極端に嫌う製造環境等において得に有用である。また図3(a)〜(d)に示した一連の操作は全て自動で行うことができるので、電極針の清掃のために除電器を一旦所定の設置箇所から取り外す必要はなく、作業の手間が大幅に低減される。
【0021】
本実施形態ではシャッタ部材上にブラシを配置しているが、シャッタ部材とブラシとを別々に構成し、シャッタ部材が第1の開口部を閉鎖した後にブラシが電極針を清掃できる位置に移動する構成とすることもできる。但し本実施形態のようにシャッタ部材上にブラシを配置すれば、ブラシを支持し移動させる手段を別途設ける必要がなく、部品数の削減が図られる。
【0022】
図1に示す通常運転時(第1の開口部22が開口しているとき)は、遠心ファン3からの気流は第1及び第2の開口部のいずれからも流出可能であるが、第2の開口部23に設けられたHEPAフィルタ6の圧損により、遠心ファン3からの気流の大半は第1の開口部22から流出する。通常運転時により効率よく気流が第1の開口部22から流出することができるように、図1又は図4に示すように第1の開口部22は、流路21が第1の開口部に連通する部分において流路21の延びる方向(気流方向)の延長上に設けられることが好ましい。
【0023】
上述の第1の実施形態では、シャッタ部材は、第1の開口部を閉鎖するとともにブラシを支持し移動させる機能を兼ねるものである。しかし図5及び図6を用いて以下に説明する第2の実施形態のように、第1の開口部を閉鎖する手段とブラシを支持し移動させる手段とを別部材として構成することも可能である。第2の実施形態では、電極針を有する電極4が流路21において第1の実施形態より上流側に配置され、またそれに伴ってクリーニング機構7も電極針を清掃可能な位置に配置される。第2の実施形態ではさらに、第1の開口部22を開閉可能に構成されたシャッタ部材26が設けられる。シャッタ部材26は、第1の開口部22を開口させる第3の位置(図5)と第1の開口部22を閉鎖する第4の位置(図6)との間で移動可能に構成され、例えば筺体2の角部に設けられた支軸27の回りを旋回可能に構成される。シャッタ部材26の移動は、図示しない制御装置等によって制御可能であり、クリーニング機構7が電極針を清掃している間は第4の位置に位置するように制御される。従って第2の実施形態では、クリーニング機構が第1の開口部を開閉可能な構造を備える必要はない。
【0024】
なおシャッタ部材26は第3の位置において、HEPAフィルタ6に連通する第2の開口部を閉鎖するように構成してもよい。このようにすれば、フィルタの吸入面に付着した塵埃等が通常運転時に脱落して送風とともに搬出されてしまう可能性が低くなり、さらに送風の一部がフィルタ内へ進入することにより対象物の除電に供されるべき送風量が低下することを防止することができる。
【0025】
上述の実施形態はいずれも、筺体2が2つの開口部を有し、シャッタ部材がファンの気流方向を切り替えることで電極清掃時に生じる塵埃等を確実に捕集する構成を有する。ここで筺体に設けられた第2の開口部及び第2の開口部に設けられたHEPAフィルタを有さず、代わりに第1の開口部を閉鎖するシャッタ部材の少なくとも一部を開口して、該開口部分にHEPAフィルタ等のフィルタを設け、電極針清掃中は送風部からの気流がシャッタ部材に設けられたHEPAフィルタを通過するようにすることも可能である。
【0026】
上述の実施形態では2つの電極針を使用した交流型の除電器を例に説明したが、交流型の除電器では、必ずしも電極針を対向した位置に配置する必要はなく、例えば電極針は1つでもよい。また、全ての電極針は、1つの交流電源に電気的に接続可能であり、電極針と対向して配置される対向電極との間でコロナ放電を行う。また本発明を、直流型の除電器に適用することももちろん可能である。
【0027】
なお電極と清掃部材との位置関係は、図示した実施形態のものに限られない。清掃部材は、除電中はファンからの送風の障害とならない位置に待機し、かつ清掃時に電極針を清掃できる位置に移動可能なものであればどのようなものでもよい。また清掃部材の動作も図示例のような直動式のものに限られず、例えば回転動作によって電極針を清掃するものでもよい。
【0028】
また本発明に係る除電器を2つ使用し、或いは1つの筺体に2つの本発明に係る除電器を設け、それぞれにおける電極針の清掃時期をずらすことにより、一方の除電器の電極針が清掃中であっても対象物の除電ができるようにすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る除電器の概略構成図である。
【図2】図1の除電器の電極構造例を示す図である。
【図3】電極針のクリーニング手順を説明する図であって、(a)は通常運転時の状態を示す図であり、(b)及び(c)は電極針を清掃すべくシャッタ部材が往復動している状態を示す図であり、(d)はクリーニングが終了しシャッタ部材が再度通常運転時の状態に戻った状態を示す図である。
【図4】図1に類似する図であって、シャッタ部材が第1の開口部を閉鎖している状態を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る除電器の概略構成図である。
【図6】図5に類似する図であって、シャッタ部材が第1の開口部を閉鎖している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 除電器
2 筺体
21 流路
22 第1の開口部
23 第2の開口部
3 ファン
4 電極
42a、42b 電極針
5 電源
6 HEPAフィルタ
7 クリーニング機構
71 シャッタ部材
72a、72b ブラシ
73 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナ放電によりイオンを生成するための少なくとも1つの電極針と、
前記電極針により生成されたイオンを運搬する気流を生成する送風部と、
前記送風部による気流が流れる流路、及び前記流路に連通する第1の開口部を有する筐体と、
前記電極針を清掃するためのクリーニング機構であって、前記筐体の前記第1の開口部を開口する第1の位置と、前記第1の開口部を閉鎖する第2の位置とを移動可能に構成されたシャッタ部材、及び前記シャッタ部材が前記第2の位置にあるときに前記電極針を清掃する少なくとも1つの清掃部材を有するクリーニング機構と、
前記シャッタ部材が前記第2の位置にあるときに、前記送風部から外部に放出される気流が通過する空気除塵フィルタと、
を有する除電器。
【請求項2】
前記空気除塵フィルタは、前記筐体の前記流路に連通する第2の開口部を覆うように前記筺体に設けられる、請求項1に記載の除電器。
【請求項3】
前記空気除塵フィルタは、前記シャッタ部材の少なくとも一部に形成された開口部分に設けられる、請求項1に記載の除電器。
【請求項4】
前記少なくとも1つの清掃部材は、前記シャッタ部材上に配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の除電器。
【請求項5】
前記シャッタ部材は、前記第2の位置において小刻みに往復動可能に構成される、請求項4に記載の除電器。
【請求項6】
前記第1の開口部は、該第1の開口部に連通する部分における前記流路の延びる方向の延長上に設けられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の除電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−301851(P2009−301851A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154576(P2008−154576)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】