説明

クリープ特性の良好な回転体

【課題】 軽量でクリープ強度が大きく、かつ機械加工が容易な回転体を提供する。
【解決手段】 ほう酸アルミウィスカー又はチタン酸カリウィスカーからなる予備成形体に銅を2%以上含有するアルミニウム合金溶湯を加圧含浸させ、その後当該部品を機械加工して得られる回転体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量でクリープ特性が良好でかつ機械加工の容易なアルミニウム合金基複合材料よりなる回転体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体は動力エネルギーとの関係から軽量であることが望ましく、比重の小さいものが好まれる。現状では、ターボ分子ポンプのローターやモーターの回転子などはアルミニウム合金などが利用されている。しかしながら、アルミニウム合金は150℃以上から急激にクリープ強度が低下する。例えばアルミニウム合金の一種であるA2618は、その中ではクリープ強度は強い方であるが200℃以上では充分なクリープ強度を有するとはいえず又、熱膨張も伸びも大きいので回転体としての性能は不充分なものである。
【0003】
一方で、チタン合金はクリープ特性は200℃以上でも充分な強度を有するが、比重がアルミニウム合金より約1.7倍と大きく、回転体としては適材とはいえない。又、チタン合金は機械加工が容易ではなく例えばターボ分子ポンプのローターでは数百枚以上の羽根を加工で切削するという機械加工がコストの多くを占めるものでは適材ということにはならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、前記のような従来の問題点に鑑み、軽量で機械加工が容易でクリープ強度が大きくかつ伸びの小さい材料よりなる回転体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するためにアルミニウム基複合材料を用いることに着目した。アルミニウム基複合材料は、高温に於ける引張強度が大きく又、クリープ強度が大きくかつ伸びが小さいので好適である。
【0006】
次に、本発明のもう一つの目的である機械加工が容易であることに対しては強化材は炭素、ほう酸アルミ、チタン酸カリの中から選択することとした。一般的によく知られている強化材の炭化珪素やアルミナは硬度が大きく、従ってアルミニウム基複合材料にした時、機械加工が甚だ困難になる。
【0007】
さらに強化材の中の炭素、ほう酸アルミ、チタン酸カリの中で炭素は繊維を利用すれば繊維方向だけが異常に大きな強度を示すがその他の方向はアルミニウムのマトリックス以下の強度しか期待できない。又、炭素の粒子は元来強化材としての意味が薄く、クリープ強度の向上には役立たないことが判明したのでほう酸アルミ又はチタン酸カリのものに限定した。
【0008】
強化材の形状の問題では、体積率がやはり機械加工特性に影響を与えるので最大で30%以下にする必要がある。そのため粒子形状では強化材の予備成形体で体積率を30%以下にするのが困難であるので、本発明の目的を達成するために、ウィスカー形状のものを選択した。
【0009】
強化材に、ほう酸アルミウィスカーやチタン酸カリウィスカー、又はその混合物を使用して予備成形体を形成する時、体積率が5%以下では形成が困難であるし、又クリープ強度の向上もわずかしか望めない。従って強化材の体積率を5〜30%とした。
【0010】
さらに、マトリックスとなるアルミニウム合金の選択であるが強化材がほう酸アルミ、又はチタン酸カリのウィスカーであるので、合金の成分としてマグネシウムを含有すると、強化材とマトリックスの間で反応が起ってしまい、非常に固くもろい反応生成物を形成してしまうので好ましくない。又、ウィスカー強化アルミニウムはマトリックスの強度が支配的になるので銅分が2%以上含む合金を採用することとした。
【0011】
以上のように強化材とマトリックス材とを選定しておき、高圧鋳造含浸凝固方法により、所望の回転体材料としての複合材料を得ることができる。以下、より詳細に製造方法を説明する。先ずウィスカーを所定量計量してこれに有機バインダーや必要に応じて無機バインダーを添加して水中に懸濁させてスラリーとする。この時に使用する有機バインダーはポリビニールアルコールやメチルセルロース、澱粉などの水溶性ポリマーが使用される。又、無機バインダーはシリカゾルやアルミナゾルなどが利用できる。次にこのスラリーを濾過又は加圧成形して乾燥して固化した予備成形体を得る。
【0012】
次にこの成形体を600〜900℃程度に加熱しておき、一方ではアルミニウム合金を溶解しておく。他方で高圧鋳造用金型を200〜300℃程度に加熱しておいてその金型内に加熱された成形体を配置した後、アルミニウム合金溶湯を注ぎ油圧プランジャーにて金型内をおよそ30〜200MPaの圧力をかけて含浸させて凝固させる。この後、凝固物から複合材料部を切り出して回転体の材料とする。
【0013】
以上のようにして得られた複合材料を旋盤、フライス盤、マシニングセンターなどを利用して機械加工を施し、所望の例えばターボ分子ポンプローター、モーター回転子、スクリューコンプレッサーのスクリュー、スクリューコンプレッサーのスクロール、メカニカル真空ポンプのローターやその他の回転体の形状に加工して本発明の課題を解決した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合材料は強化材としてほう酸アルミウィスカー又はチタン酸カリウィスカーの両方又は一方を利用しているので、機械加工に用いる工具は通常の工具で加工可能であり、かなり複雑な形状を有するものでも通常のアルミ材と同程度の加工所要時間で行えるので加工費によるコスト増加は避けることができる。
【0015】
本発明によって得られる複合材料からなる回転体はそのクリープ強度が大きいので回転体として有用であり、特に半導体や液晶、太陽電池の製造装置内を真空に保つポンプ類などの回転体は高温でのクリープ特性が非常に重要な物性であり、従来使われているJIS−A2618の材料が205℃−100時間のクリープ強度が195MPaになっているのに対して本発明品は同条件では280MPa以上になっている。このクリープ強度は他のどのアルミニウム合金では到達不能の値である。かつ、JIS−A2618の200℃での伸びが24%にもなるのに対して本発明品のそれは0.5%以下であるので高温下に於ける回転体としては非常に有用である。
【0016】
さらに本発明は比重が2.75〜3.0とチタンのおよそ65%程度であるので回転体としてのエネルギー消費量も小さい。そしてさらなる発明の効果としてA2618の熱膨張率が22〜23×10−61/Kであるのに対して本発明のそれは14〜20×10−61/Kとなっており回転体の外筒に対する回転体最外周部のクリアランスも設計上小さくできるので高効率な機器を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用される強化材としては直径1μm以下で長さが約20μmのウィスカーであって具体的にほう酸アルミウィスカーとしては四国化成工業株式会社製のアルボレックス、チタン工業株式会社製の六チタン酸カリウィスカーなどが好適である。これらは、マグネシウムを含まないアルミニウム溶湯と1分間以内の接触ならば有害な反応は起きない。
【0018】
本発明に用いられるアルミニウムとしては例えば展伸材では、A2000系の中ではA2025、A2219、A4000系ではA4043などがあり鋳物系合金ではAC1A、AC2A、AC2B、AC4B、ADC10、ADC12などが好適であり、機械的強度や機械加工の容易さからは、A2025、A2219、AC1Aなどがより好適である。
【0019】
本発明ではウィスカーの予備成形体を作成するのであるがその製造方法は多岐に亘っているので限定されるものではないが、例を示すと、以下に明示する方法がある。ポリビニルアルコール溶液に所定量のウィスカーを投入し懸濁させてウィスカー量に対して重量で1%になるようにシリカゾルを添加する。この懸濁液(スラリー)を濾過し、所定の体積になるように濾過後加圧し、濾滓を取り出して100℃にて乾燥させる。その後空気中800℃にて1〜3時間保持して所望の予備成形体を得る。
【0020】
以上のようにして得られた予備成形体を空気中750〜800℃に予熱しておき、一方でアルミニウム溶湯を700〜850℃にて用意しておき、又、図1の金型を(1)を予め200〜300℃に保持しておく。先ず第一に、予熱された予備成形体(4)を配置し、その直後にアルミニウム溶湯(5)を注ぎ、油圧プランジャー(3)で加圧パンチ(2)に加圧する。この時の圧力は30〜200MPaの圧力をかけて2〜20分間程度保持し、アルミニウムを凝固させる。
【0021】
上記の凝固が完了した鋳造物から複合材料のみを切り出す。この複合材料をアルミニウム合金のJIS−A2618を用いているのと同様の刃物、工具で旋盤、マシニングセンターなどを用いて切削加工し所望の回転体を得る。
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0023】
10リットルのポリビニルアルコール5%溶液に、ほう酸アルミウィスカー2770gを投入し、攪拌懸濁させて30重量%シリカゾルを90ml添加した後内直径20cmの濾過器に移して減圧濾過した。このものの濾滓高さが25cmであったのでさらに加圧して20cmの高さに圧縮して100℃の乾燥器に入れて直径20cm高さ20cmの円柱状の予備成形体(4)を得た。このものの体積率は15%であった。これを空気中800℃に保持した。一方でA2219組成のアルミニウム溶湯を750℃にて保持した。又、高圧鋳造用金型(1)内径30cm高さ39cmのものを250℃に加温しておいたその金型内に予備成形体(1)を配置した後、30秒以内にA2219溶湯(5)を注湯完了させるのと同時に油圧プランジャー(3)を作動させて加圧パンチ(2)を介して溶湯(5)に圧力を加えた。圧力は70MPaで8分間保持した後、完全に凝固した鋳造物を取り出し冷却後複合材料部分のみを切り出して本発明の回転体の材料とした。その後、得られた回転体の材料から各種試験片を切り出し室温での引張試験後ヤング率を測定した所、表−1の値を得た。又、205℃で100時間及び1000時間のクリープ強度を測定した所やはり表−1の値を得た。又、比重、伸び、熱膨張率も併せて測定した結果も示す。
【0024】
上記と同様の複合材料をターボ分子ポンプのローターに加工した所、通常のハイスピード鋼工具で充分に切削加工できた。
【0025】
比較例としてJIS−A2618材の各種物性値も表−1に示す。
【0026】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によるウイスカー強化複合材料による回転体はクリープ強度に優れ、伸びも小さく軽量であり、かつ熱膨張率も小さいので効率の良好な回転体となるばかりではなく、長寿命の回転体として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の高圧鋳造装置の一例を示す概略断面説明図
【符号の説明】
【0029】
1 金型
2 パンチ
3 油圧プランジャー
4 ウィスカー予備成形体
5 溶湯アルミニウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほう酸アルミウィスカー又はチタン酸カリウィスカーのいずれか一種又は二種からなる強化材とアルミニウム合金(以下アルミニウム)よりなるマトリックス材よりなる複合材料からなる回転体。
【請求項2】
前記強化材のウィスカーの体積率が5〜30%である請求項1に記載のウィスカー強化アルミニウム材料よりなる回転体。
【請求項3】
205℃100時間でクリープ強度が250MPa以上の請求項1又は2に記載のウィスカー強化アルミニウム材料よりなる回転体。
【請求項4】
前記マトリックスのアルミニウム材料がマグネシウム分を0.3%以下であって、かつ銅分が2%以上の合金である請求項1、2又は3に記載のウィスカー強化アルミニウム材料よりなる回転体。
【請求項5】
前記回転体がターボ分子ポンプローター、モーター回転子、スクリューコンプレッサーのスクリュー、スクロールコンプレッサーのスクロール、メカニカル真空ポンプのローター、その他の回転体であること。
【請求項6】
ほう酸アルミウィスカー又はチタン酸カリウィスカーのいずれか一種又は二種からなる材料を用いて、有機あるいは無機又は両方のバインダーを用いて、体積率が5〜30%になるように予備成形体を作り予熱後、加圧金型内に設置し、該成形体にアルミニウム溶湯を高圧鋳造含浸凝固させて複合材料を作成した後、機械加工にて請求項5記載の回転体を得る製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−188735(P2006−188735A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2240(P2005−2240)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000127592)株式会社エー・エム・テクノロジー (9)
【Fターム(参考)】