説明

クレアチニンセンサーを二価マンガンイオン溶液で安定化または再活性化する方法

クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサーを安定化するための方法が提供されている。クレアチニナーゼは、0.01〜150μMの範囲の濃度の、十分な量の二価マンガンイオンに曝露することによって安定化される。二価マンガンイオンを含んだ溶液にセンサーを曝露することによって、あるいは二価マンガンイオンの持続放出をもたらす組成物をセンサー内部で導入することによって、このような効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサーを安定化または再活性化する方法、安定化されたセンサー、およびクレアチニナーゼを生体活性分子として含んだセンサー膜に関する。本発明はさらに、前記方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生理学的サンプル中のパラメーターを測定するためのセンサーは、化学、生物学、および生理学の種々の分野で広く使用されている。生体活性分子(例えば酵素)によって分解可能な物質の存在と濃度は、適切な酵素を含んだセンサーを使用して調べることができる。このようなセンサーは、バイオセンサーと呼ばれることが多い。電気化学的原理と測光原理の両方を使用するバイアセンサーが知られている。
【0003】
生理液(例えば、全血、血清、または尿)のサンプル中におけるクレアチニンの測定は、腎機能を評価する上で重要である。リン酸クレアチンは脊椎動物の筋肉中に貯蔵され、エネルギーの蓄積をもたらす。リン酸クレアチンは、クレアチニン(分解産物)と高エネルギーリン酸基に不可逆的に転化される。筋肉が通常機能する時に、1日当たりリン酸クレアチンのトータル量の約1〜2%がクレアチニンに転化される。クレアチニンは血液中に放出され、腎臓によって除去される。したがって健常者においては、クレアチニンのレベルは、約35〜約75μMにおいて比較的一定である。血液中のクレアチニンのレベルが増大すると、それは腎臓の何らかの機能不全の徴候かも知れない。このような場合、クレアチニンのレベルは2,000μMという高いレベルにまで増大することがある。
【0004】
クレアチニンは、種々の酵素〔例えば、クレアチニンイミノヒドロラーゼ(NH3の検出による)やクレアチニンアミドヒドロラーゼ〕を含んだバイオセンサーによって測定することができる。クレアチニンアミドヒドロラーゼは“クレアチニナーゼ”とも呼ばれる。
【0005】
クレアチニナーゼの場合、生理液中のクレアチニンのレベルは酵素反応のカスケードによって決定され、この結果H2O2が生成し、次いでこのH2O2を電流測定または測光により検出することができる。システムによっては、さらなる酵素(例えばペルオキシダーゼ)や指示薬(例えばルミノホア)を使用することができる。
【0006】
クレアチニナーゼ酵素(EC3.5.2.10)、クレアチンアミジノヒドロラーゼ酵素(EC3.5.3.3-“クレアチナーゼ”)、およびサルコシンオキシダーゼ(EC1.5.3.1)が関与している酵素反応のカスケードは、下記の反応で示される:
【0007】
【化1】

【0008】
中間産物であるクレアチンはさらに、血液サンプル、血清サンプル、または尿サンプル中にも、そのものとして存在している。したがってクレアチンを上記の酵素反応カスケードによって測定しようとする場合は、デュアルセンサーシステムを使用するのが好ましい。デュアルセンサーシステムを使用すると、クレアチニナーゼは、2種の物質のトータルと中間産物だけとの間の差として測定される。したがって、サンプル中のクレアチニンとクレアチンのトータル濃度を測定するための第1のセンサーにおいては、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、およびサルコシンオキシダーゼが、クレアチニンとクレアチンをH2O2に転化させるために存在している。サンプル中のクレアチンの濃度を測定するための第2のセンサーにおいては、クレアチナーゼとサルコシンオキシダーゼが、クレアチンをH2O2に転化させるために存在している。したがってサンプル中のクレアチニンの濃度は、サンプル中のクレアチニンとクレアチンの合計濃度と、サンプル中のクレアチンの濃度との差から決定される。
【0009】
このようなセンサーシステムが米国特許出願公開2004/0072277〔2002年2月21日付刊行のWO02/14533(ロッシュ・ダイアグノスティクス)に基づく〕に開示されており、該特許出願によれば、生成されるH2O2を電流測定により検出する。酵素阻害剤が存在している可能性が考察されている(特に、クレアチナーゼの阻害)。デュアルセンサーシステムの適切な応答は、約90μMのクレアチニンを含有するウシ血清のサンプルを測定する場合には、少なくとも1週間にわたって得られる。
【0010】
クレアチニナーゼ酵素は、Kaoru Rikitakeらによる“Creatinine Amidinohydrolase (Creatininase) from Pseudomonas putida”, J. Biochem. 1979, 86(4), pp.1109-1117においてその特徴が説明されている。クレアチニナーゼは、2つの亜鉛原子を各サブユニット中に輸送する金属酵素である。精製された酵素は、特に熱処理(精製プロセスの一部である)後において極めて安定なようである。Mn、Co、Mg、Zn、Ni、CaおよびFeの二価金属イオンは、精製・熱処理された酵素の作用を幾らか阻害することがわかっている。更にクレアチニナーゼは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)による阻害をほんのわずかしか示さない。このことから、亜鉛原子が酵素によってしっかり保持されていることがわかる。この観察結果はさらに、亜鉛イオンは、酵素を熱処理する前にのみ除去することができ、熱処理された酵素調製物からは除去されない、という事実によって確認される。細胞消化という特異的な処理によってクレアチニナーゼから亜鉛イオンを除去すると、得られる不活性アポ酵素は、Mn、Co、Mg、Zn、NiまたはFeの、0.5mMの二価金属イオンを加えることによって再活性化されることがわかっている。同様に、Inouyeらによる“Purification and Characterization of Creatine Amidohydroplase of Alcaligenes Origin”, Chem. Pharm. Bull. 34(1) 269-274(1986)では、1.0mMのMnCl2溶液を加えることによって、金属イオンの欠乏したクレアチニナーゼを再活性化することができる、ということが開示されている。
【0011】
クレアチニナーゼのこうした特性決定は、Tadashi Yoshimotoらによる“Crystal Structures of Creatininase Reveal the Substrate Binding Site and Provide an Insight into the Catalytic Mechanism”, J. Mol. Biol. 2004, 337, pp.399-416において確認されている。
【0012】
したがってクレアチニナーゼ酵素は、EDTAや他の阻害剤に対してごくわずかしか応答しない安定な酵素であることが知られている。
さらに、EP0872728A1は、酵素と電子アクセプターとを含んだ反応層を有していて、そして反応層の付近に二価の水溶性塩を有するバイオセンサーを開示している。これらの塩は、カルシウム塩、カドミウム塩、マンガン塩、マグネシウム塩、またはストロンチウム塩であるのが好ましく、塩化物、硝酸塩、または硫酸塩であるのが好ましい。酵素への金属の結合を引き起こすための、金属の最小必須濃度(minimum essential concentration)は、マンガンの場合、約180μMの最小必須モル濃度に相当する0.01mg/mlであると説明されている。
【0013】
上記タイプのデュアルセンサーシステムを生理学的サンプル中のクレアチニンの複数回の測定に対して使用すると、クレアチニンセンサーの応答が、ある特定の時間後に、またはある特定の測定回数後に減少し始める、ということが見出されている。その結果、デュアルセンサーシステムの感度が徐々に低下する。こうした感度の低下は、センサーシステムの使用寿命を短くするので欠点となる。このようなセンサーは、熱処理されているクレアチニナーゼを含有しており、したがって、そのままでは金属イオンの活性化に対して感受性がないと予想される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
金属欠乏酵素の再活性化(Rikitake et al.and Inouye et al.)、又は、バイオセンサー中への組み込み(EP0872728A1)のために必要と思われるマンガンの濃度が比較的高いということは、特にマルチセンサー装置において使用するときには問題とされる場合がある。清浄液又はすすぎ洗浄液中の濃度が高いということは、このような溶液を、異なった塩濃度若しくはpH値を有する他の溶液又は次亜塩素酸塩溶液と混合した場合には特に、マンガン塩の沈殿が生じる原因となることがある。二価マンガンイオンはさらに、電気化学的センサーにおいて不安定なゼロ電流を引き起こすことがある電気活性化学種である。マンガンはさらに、マグネシウムセンサーに対して妨害を引き起こすことがある。
【0015】
本発明は、生理液中のクレアチニンを測定するための新規方法、新規クレアチニンセンサー、新規のクレアチニンセンサー用膜及び新規装置によって、上記問題点に対して適切な解決策をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の1つの態様は、クレアチニンセンサーの安定性を高めるために十分な量の、またはクレアチニンセンサーの活性を高めるために十分な量の二価マンガンイオン溶液にクレアチニナーゼを曝露することを含み、このとき前記溶液が、二価マンガンを0.01〜150μMの範囲の濃度で含む、クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサーを安定化または再活性化する方法に関する。
【0017】
本発明の他の態様は、生体活性分子としてのクレアチニナーゼと、クレアチニンセンサーを安定化または再活性化するために十分な量の二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物とを含む、安定化されたクレアチニンセンサーに関する。
【0018】
本発明のさらに他の態様は、生体活性分子としてのクレアチニナーゼと、センサーを安定化または再活性化するために十分な量の二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物とを含んだ、クレアチニンセンサー用膜に関する。
【0019】
本発明のさらに他の態様は、(i) クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサー、0.01〜150μMの範囲の濃度の二価マンガンイオン溶液、およびクレアチニナーゼを溶液の二価マンガンイオンに曝露するためのデバイスを含む、生理液中のクレアチニンを測定するための装置;(ii) クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサー、湿潤すると二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物を含んだフィルター、0.01〜150μMの範囲の濃度の二価マンガンイオン溶液が得られるよう適切な液体をフィルター上に通すためのデバイス、及びクレアチニナーゼを溶液の二価マンガンに曝露するためのデバイスを含む、生理液中のクレアチニンを測定するための装置;並びに(iii) クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサーを含み、このとき前記クレアチニンセンサーが、本明細書に規定のセンサーまたは本明細書に記載の膜を含んだセンサーである、生理液中のクレアチニンを測定するための装置;に関する。
【0020】
(発明の詳細な説明)
したがって本発明の目的は、クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだセンサーを安定化または再活性化する方法を提供することにある。
【0021】
驚くべきことに、この目的は、少量ではあるが十分な量の二価マンガンイオンにクレアチニナーゼを曝露することを含む本発明の方法を提供することによって達成することができる、ということが見出された。
【0022】
二価マンガンイオンの“十分な量”とは、センサーの安定性または活性を高めるよう影響を及ぼすのに十分な量として定義することができる。センサーに有益な影響を及ぼす二価マンガンイオンの量に対しては、例えば、より高い温度での阻害作用や他の有害な作用のために上限がある。したがって好ましい最高上限は約150μMであると考えられる。二価マンガンイオンの作用可能な範囲と最適レベルは、本発明の方法が実施される環境によって幾らか影響を受けることがある。一般には、二価マンガンイオンの濃度が高くなるほど、観察される安定化または再活性化の程度が高くなり、ついには最適レベルに達して、その後に阻害作用を及ぼす濃度になる。
【0023】
センサーの安定性または活性を高めるのに必要な二価マンガンイオンの“十分な量”は、少なくとも約0.01μM、あるいは少なくとも約0.1μM、あるいは少なくとも約1μM、あるいは少なくとも約2μMである。
【0024】
二価マンガンイオンの最高レベルは、最大で150μM、一般には最大で130μM、あるいは最大100μM、特に最大で50μMであると考えられる。
二価マンガンイオン濃度の好ましい範囲は、たとえば、0.01〜150μMの範囲、あるいは0.01〜130μMの範囲、あるいは0.1〜100μMの範囲、あるいは0.1〜50μMの範囲、あるいは1〜50μMの範囲、あるいは2〜50μMの範囲、あるいは2〜25μMの範囲である。
【0025】
本明細書で使用している“曝露”とは、クレアチニナーゼに対して二価マンガンイオンが所望の相互作用もしくは効果を及ぼすことができる程度に十分に近接していることを意味しており、相互作用する物質同士または何か他の物質との間に実際の接触がある場合を含んでよい。
【0026】
クレアチニンセンサーを使用した実験は、使用時に、クレアチニンに対するクレアチニンセンサーの応答が低下するが、クレアチンに対するクレアチニンセンサーの応答は安定である、ということを示した(相対センサー応答、R)。この観察は、反応カスケードにおける第1の酵素(クレアチニナーゼ)が、その安定な性質にもかかわらず不安定であることを示している。相対センサー応答の低下が始まる時間は、反応カスケードの他の酵素のレベルに対するクレアチニナーゼの初期過剰量に依存する。過剰量が大きくなるほど、低下が始まるまでの時間が長くなる。しかしながら、酵素の濃度を増大させると、密度、ひいていは拡散抵抗が増大し、その結果、応答時間がより長くなり、信号がより少なくなる。したがって、応答時間をできるだけ少なくするには、酵素密度が低いことが望ましい。相対センサー応答の低下が始まる前の時間は、センサーの全体としての耐用年数に密接に関係している。本発明によれば、応答時間を増大させることなく、より長い耐用年数を実現することができる。
【0027】
実際、酵素アッセイにおいては、熱処理されたクレアチニナーゼに対して二価マンガンイオンが好ましい影響を及ぼす、という観察結果が得られた。この観察結果は、Rikitakeらによってなされた観察結果とは著しく異なっている。
【0028】
二価マンガンイオンは、0.01〜150μMの範囲の濃度において、デュアルセンサーシステムの他の酵素に対して悪影響を及ぼすことなく、クレアチニナーゼを活性化することが実証されている。したがってこの二価マンガンイオンは、クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだセンサーの安定化または再活性化での使用に適している。
【0029】
マンガンは、一般的なセンサー酵素(例えば、乳酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、およびウレアーゼ)を不活性化しないことが観察されており、したがって複数検体の血液分析器に対しては、二価マンガンイオンが好ましい。
【0030】
さらに、二価マンガンイオンは、フローシステム内で導かれる種々の液体(例えば、生理学的サンプルの他のパラメーターまたは成分)に対して相溶性があり、フローシステム内で沈殿を生じない、という点が重要である。0.01〜150μMの濃度においては、二価マンガンイオンの有益な効果を利用しつつ、同時に沈殿のリスクを避けることができる。
【0031】
クレアチニンセンサーを二価マンガンイオンに曝露すると、センサーが再活性化または安定化される、ということが発見された。
本明細書で使用している“安定化”および“安定化させる”とは、本来予想されるセンサー応答の低下が避けられるということ、およびセンサー応答が、二価マンガンイオンへのクレアチニナーゼの曝露の直前に存在するセンサー応答レベルに保持されるということを意味している。安定化は、例えば、実施例1において観察され、図3に示されている。約0.8のセンサー応答レベルが、二価マンガンイオンを2μMの濃度にて使用する連続的な処理によって少なくとも5日間にわたって実質的に保持された。しかし、その一方で0.5未満への低下が、最初の2.75日からの外挿に基づいて予測された。
【0032】
本明細書で使用している“再活性化”、“再活性化する”、および“活性化する”とは、本来予想されるセンサー応答の低下が避けられるということ、およびセンサー応答が、二価マンガンイオンへのクレアチニナーゼの曝露の直前に存在するセンサー応答レベルより高いレベルに(場合によっては初期のセンサー応答レベルにまで)増大するということを意味している。再活性化は、例えば、実施例1において観察され、図4に示されている。約0.9(18日)のセンサー応答レベルが、約1.3(初期のレベルに相当する)のレベルにまで増大し、二価マンガンイオンを10μMの濃度にて使用する連続的な処理によって少なくとも5日間にわたってこのレベル保持された。しかし、その一方で0.8未満への低下が、最初の18日からの外挿に基づいて予測された。相対センサー応答(R)の初期レベルに達するかどうかは、他の酵素に対して存在するクレアチニナーゼの初期過剰量に依存する。したがってクレアチニナーゼの100%未満が再活性化される場合、再活性化後に得られるセンサー応答は、それほど過剰ではないクレアチニナーゼが使用されるならば、初期レベルより若干低くなり得る。
【0033】
本発明のセンサーは、従来タイプまたは平面タイプのセンサー(例えば、厚膜センサーや薄膜センサー)に適している。このようなセンサーの酵素膜は層状構造物である場合が多く、層状膜と呼ばれている。これに関する特定の例が実施例のセクションに記載されている。
【0034】
従来タイプの酵素センサーの場合は、一般には膜(例えば、支持体層、酵素層、およびカバー膜を含んだ多層膜)を個別の物品として集成し、次いでこれを電極と組み合わせて(通常は電極の先端部に取り付ける)配置する(図1と2を参照)。このような多層膜を作製する方法は、当業界においてよく知られている(例えば、WO98/21356を参照)。従来タイプの酵素センサーは、溶媒キャスト膜に加えてトラックエッチング処理済みの膜も含んでよい。
【0035】
平面タイプの酵素センサー(例えば、圧膜センサーや薄膜センサー)の場合は、電極、任意のスペーサー層と中間層、酵素層、および任意のカバー膜層に相当する材料を、固体誘電体基板(例えば、セラミックまたはウエハー材料)上に堆積させる(一般には、逐次的および個別的に)ことによって、酵素層とカバー膜とを含んだ酵素膜および電極を配列する。平面センサー構造物の例を図5に示す。平面タイプセンサー(例えば、圧膜センサーや薄膜センサー)の製造方法は、当業界によく知られている(例えば、WO01/90733、WO01/65247とWO90/05910を参照)。平面センサー用のこうしたセンサー膜層に相当する材料は、溶媒キャスティングによって堆積させることが最も多い。
【0036】
本発明の方法は、一般にはマルチユース・センサー(a multi-use sensor)に対して大きな影響を及ぼす。このようなセンサーは、より長い時間にわたって使用されるからである。したがってこれらのセンサーにおいては、不活性化の問題がより重大となる。
【0037】
マルチユース・センサーは、2種以上の測定に対して使用され、したがって2種以上のサンプル体積および/またはキャリブレーション溶液に曝露されるセンサーであると理解すべきである。
【0038】
生理液サンプル中のクレアチニンの測定は、種々の自動および半自動分析器(それらの多くは、複数のパラメーターを測定するために複数のセンサーを使用する)を使用して行うことができる。1つの例はクリニカルアナライザー(特に、血液分析器)である。分析器のフローシステム中に、あるいは分析器中に導入するためのカセットのフローシステム中にサンプルが手動操作で又は自動的に導入される。したがって生理学的サンプルの1つ以上のパラメーターに対するセンサーを、フローシステム中に導入されたサンプルに曝露することができる。
【0039】
もう一つのタイプのアナライザーは、サンプルを反応ゾーンに、そして引き続き検出ゾーンに移送する流動体(a flowing stream)中に生理液サンプルを導入する、というフローインジェクションアナライザーである。この場合、センサーは、検出器を含んだこれらのゾーンであると理解すべきである。生理学的サンプル中のクレアチニナーゼの検出を可能にするために、反応ゾーンは、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、およびサルコシンオキシダーゼを含んでよく、そして検出ゾーンにおいては、指示薬の存在下でH2O2を光度測定により検出することができる。
【0040】
どちらのタイプの分析器においても、センサーは通常、サンプル、センサーに導かれる液、およびセンサーから導かれる液に曝露される。
クレアチニナーゼを取り囲んでいる溶液中に十分な量の二価マンガンイオンを供給するのが好ましい。なぜなら、クレアチニナーゼに十分に影響を及ぼすためには、二価マンガンイオンは、溶解した形で存在する必要があるからである。この結果は、3つの方法、すなわち(i)二価マンガンイオンの予備調製溶液を供給することによる方法、(ii)二価マンガンイオンの溶液を、センサー内にてその場で調製することによる方法、または(iii)二価マンガンイオンの溶液を、センサーと接触させる直前に調製することによる方法、のうちの1つで達成することができる。これに関しては、以下に詳細に説明する。
【0041】
特定の実施態様においては、二価マンガンイオンを含んだ溶液が容器からセンサーに導かれ、したがってクレアチニナーゼが二価マンガンイオンに曝露される。
このような溶液は、二価マンガンイオンの塩を水溶液中に溶解することによって調製することができる。二価マンガンイオンの好ましい塩としては、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、および/または塩化物塩などがある。このような塩の対イオンは、適切な濃度においては、センサーに対して有害な影響を引き起こすとは考えられない。
【0042】
本発明の他の目的は、安定化されたクレアチニンセンサー、またはクレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサーのための安定化用膜を提供することにある。センサーまたは膜はさらに、十分な量の二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物を含む。
【0043】
この特定の実施態様においては、センサーは、サンプルまたは他の適切な液体に曝露されたときに、二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物を含む。ある持続時間は、センサーの所期の使用寿命が尽きるまで、クレアチニナーゼの活性を安定化させるだけの十分に長い時間であると理解すべきである。センサーがサンプルまたは他の適切な液体に曝露されると、マンガンイオンが放出されてセンサー内の溶液中に移され、したがってマンガンイオンがクレアチニナーゼの近くで得られるようになる。センサーの湿潤後、クレアチニナーゼが二価マンガンイオンにほぼ連続的に曝露される。組成物は、センサー膜内に存在するのが好ましい。さらに、クレアチニンセンサー内に二価マンガンイオンが放出されると、マルチセンサー装置中の他のセンサーに対する汚染や妨害のリスクを、ほぼ完全に避けることができる。
【0044】
サンプルまたは他の適切な液体に曝露されると二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物は、二価マンガンイオンを難溶性の塩として含むのが好ましい。適切なマンガンイオンの難溶性の塩の例としては、炭酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、セレン化物、硫化物、水酸化物、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、および亜セレン酸塩などがある。炭酸塩、クエン酸塩、および酒石酸塩が特に有用であると考えられる。最も適切な塩は、塩が溶解する溶液における対イオン(アニオン)濃度を考慮しつつ、当該塩の溶解度積についての知見(例えば、対イオンがOH-の場合はpH)に基づいて選択することができる、と考えられる。これは、溶液が他の目的に対しても役立つ場合(例えば、溶液が、すすぎ洗浄液や清浄液として同時に使用される場合)には特に適している。例えば、炭酸マンガン(MnCO3)の溶解度積は2.2×10-11M2である。適切なすすぎ洗浄液中の炭酸イオン(CO32-)の濃度が1.0×10-6M(1μM)であるとすると、二価マンガンイオンの濃度は、炭酸マンガンを含んだすすぎ洗浄液の飽和状態にて2.2×10-5M(22μM)となる。
【0045】
これとは別に、あるいはこれに加えて、持続的な放出をもたらすイオン交換樹脂に二価マンガンイオンを結合させることもできる。
したがって組成物はさらに、二価マンガンイオンの持続的な放出をもたらすポリマーマトリックスを含んでよい。この場合、二価マンガンイオンは、上記塩のいずれかとして存在してもよいし、あるいはイオン交換樹脂に結合させてもよい。したがって放出速度は、塩の溶解度、およびイオン交換樹脂とポリマーマトリックスとの結合によって制御することができる。適切なポリマーの例としては、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、アクリル酸エステル、セルロースアセテートフタレート、HECフタレート、HPMCフタレートもしくは他のセルロース系ポリマー、ポリウレタン(PUR)、またはこれらの混合物などがある。
【0046】
本発明のさらに他の実施態様においては、分析器内にフィルターが設けられ、このときフィルターは、サンプルまたは他の適切な液体に曝露されたときに、二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物を含む。フィルターはセンサーの前(例えば、装置のための基準液を保持しているカセット中)に配置しなければならない。適切な液体をフィルター上に通すと、二価マンガンイオンを含んだ溶液がフローシステムに供給される。次いでこの溶液をセンサーに導いて、センサー内のクレアチニナーゼをこの溶液に曝露する。フィルター中に使用するためのマンガン塩の選択は、前述したとおりである。
【0047】
第1の実施態様において使用するための溶液、または第2と第3の実施態様において使用するための適切な液体は、約6〜約9(好ましくは約7〜約7.5)の範囲のpHをもたらすよう適切な緩衝液を含有してよい。適切な緩衝液の例としては、イミダゾール緩衝液、TRIS緩衝液、またはリン酸塩緩衝液がある。
【0048】
安定化効果または再活性化効果をより長い時間にわたって得るためには、クレアチニナーゼを二価マンガンイオンに繰り返し曝露するか、あるいは連続的に曝露するのが好ましい。
【0049】
本明細書で使用している“連続的に”とは、センサーを二価マンガンイオンの溶液に、その動作寿命の少なくとも80%にわたって曝露する、ということを意味している。これは、センサー用に適合させたすすぎ洗浄液および/または清浄液中に二価マンガンイオンを含有させることによって簡便に達成することができる。実施例2に示すように、すすぎ洗浄液中に二価マンガンイオンを組み込むことで、センサーを二価マンガンイオンに、その動作寿命の90%以上にわたって曝露することが事実上可能となる。これとは別に、難溶性のマンガン(II)塩を含む組成物(またはフィルター)も、連続的な曝露を得るために使用することができる。
【0050】
本明細書で使用している“繰り返して”とは、センサーを二価マンガンイオンの溶液に、その動作寿命中において1回、または好ましくは数回曝露する、ということを意味している。センサーを二価マンガンイオンの溶液に、その動作寿命中において少なくとも3回(例えば、少なくとも5回、または少なくとも10回)曝露するのが好ましい。したがってセンサーは、生理液サンプルの測定時や測定の合間に、二価マンガンイオンを含有する溶液に連続的に曝露することができる。溶液または適切な液体は水性であるのが好ましく、他の成分(例えば、すすぎ洗浄剤もしくは清浄剤、および/または、基準レベルの測定対象パラメーター)を含んでよい。代表的なすすぎ洗浄剤および/または清浄剤としては、タンパク質切断酵素(例えばプロテアーゼ)、有機溶媒、およびアルカリ性溶媒などがあるが、これらに限定されない。代表的なパラメーターとしては、pH;電解質(例えば、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-、HCO3-、NH3、およびNH4+)の濃度;他の溶解ガス(例えば、酸素や二酸化炭素)の濃度[従来は分圧の形(例えば、pO2やpCO2)で報告されている];ヘモグロビンやヘモグロビン誘導体(例えば、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、メタヘモグロビン、カルボキシヘモグロビン、サルファヘモグロビン、および胎児性ヘモグロビン)の濃度;および代謝因子〔例えば、グルコース、クレアチニン、クレアチン、尿素(BUN)、尿酸、乳酸、ピルビン酸、アスコルビン酸、ホスフェート、タンパク質、ビリルビン、コレステロール、トリグリセリド、フェニルアラニン、およびチロシン〕の濃度;などがある。二価マンガンイオンを含有するこのような溶液は、フローシステムとセンサー表面を清浄にすることができ、且つ/又は、同時にクレアチニンセンサーを安定化または再活性化しながら、センサーをキャリブレートすることができるという点において、同時に幾つかの目的を達成し得る。
【0051】
クレアチニナーゼを十分な量の二価マンガンイオンに曝露するために、クレアチニナーゼを取り囲んでいる溶液は、二価マンガンイオンを0.01〜130μMの範囲(あるいは0.1〜100μMの範囲、あるいは0.1〜50μMの範囲)の濃度で含むのが好ましい。
【0052】
二価マンガンイオンの最も好ましい濃度範囲は、曝露の頻度と持続時間に依存する。例えば、クレアチニナーゼを溶液に所定時間の少なくとも50%にわたって曝露する場合、最も好ましい濃度は約5〜約10μMである。一般には、曝露時間を少なくすると、それにしたがって二価マンガンイオンの濃度を増大させるが、それでも濃度を150μMの上限以下に保持する。
【0053】
二価マンガンイオンとの接触に加えて、好ましくは二価マンガンイオンの約半分の結合が生じる濃度でクレアチニナーゼを錯形成剤に曝露する場合は、ある特定のレベルの安定化効果または再活性化効果を得るのに必要な二価マンガンイオンの有効量が低下する、ということが見出された。言い換えると、ある特定レベルの二価マンガンイオンの効果は、カチオン錯形成剤を加えると一般には増大する。好ましいカチオン錯形成剤はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。EDTAは、二価マンガンイオンと強固に結合し、二価マンガンイオンの濃度の約半分の濃度で加えるのが好ましい。カチオン錯形成剤を加えることによって得られる利点は、カチオン錯形成剤が、センサーの近傍に存在する有害なカチオン〔例えば、銅イオンや水銀イオン(Cu2+やHg2+など);例えば以前のサンプルによって引き起こされる汚染物〕と効率的に結び付く能力にある。このような有害カチオンは、極めて少ない量(例えば、ナノモル、あるいはさらにピコモル)でのみ存在することがあるので、ミクロモル量で加えられるカチオン錯形成剤は、こうした有害カチオンの実質的に全てと結合し、そしてさらに二価マンガンイオンの一部と結合し、このとき二価マンガンイオンの別の一部が、クレアチニナーゼとの相互作用に利用可能な状態のまま残る。カチオン錯形成剤が、二価マンガンイオンの殆ど全てと結合するような濃度で加えられる場合、クレアチニナーゼに曝露するための、未結合の二価マンガンイオンの量は不十分なものとなる。他方、二価マンガンイオンが存在すると、クレアチニナーゼや他の酵素からネイティブ二価カチオン(native divalent cations)が抜き取られるというリスクなしに、カチオン錯形成剤を加えることが可能となる。
【0054】
したがって、クレアチニナーゼを溶液に、所定時間の少なくとも50%にわたって曝露する場合、カチオン錯形成剤の最も好ましい濃度は1〜4μMの範囲である。
クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだセンサーを安定化または再活性化すべく本発明の方法を使用することによって、このようなセンサーの耐用年数を、約1週間から少なくとも約1ヶ月まで、あるいはおそらくは最大で2、3ヶ月にまで延ばすことができる。実際、本発明によってクレアチニナーゼの耐用年数は、クレアチニナーゼセンサーの耐用年数がクレアチニナーゼの耐用年数以外のファクターによって制限される、というような程度にまで延ばすことができる。
【0055】
本発明の方法のさらなる利点は、従来技術において説明されているより精密で且つ正確な測定値をもたらすセンサーが得られる、という点である。その結果、較正はより少なくて済み、また較正点もより少なくて済む。
【0056】
クレアチニナーゼを測定するための電流測定デュアルセンサーシステムにおいては、2種の代表的なセンサーは、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、およびサルコシンオキシダーゼを、サンプル中のクレアチニンとクレアチンのトータル濃度を検出するための生体活性分子として、又、クレアチナーゼとサルコシンオキシダーゼを、サンプル中のクレアチニンの濃度を検出するための生体活性分子として含むのが好ましい。
【0057】
どちらのセンサーも、最終産物であるH2O2を電流測定により検出する。
本発明の説明、実施例、および特許請求の範囲は、クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだセンサーを安定化または再活性化するために、主として二価マンガンイオンを使用することに重点を置いているけれども、他の二価金属イオンも、対応した方法で(すなわち、二価マンガンイオンに関して説明されている通りに)使用することができる、と考えられる。このような代替可能な二価金属イオンの例は、バナジウムイオン、クロムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるイオンである。
【実施例】
【0058】
(実施例)
下記の実施例は、本発明を説明することを意図したものであり、これらの実施例によって本発明が限定されることはない。全ての実施例において、シュードモナス・プチダ由来のクレアチニナーゼ(ドイツ、マンハイムのロシュ・ダイアグノスティクス社から入手)を使用した。
【0059】
代表的なセンサー構造物(従来のセンサー)
デュアルセンサーシステムのクレアチンセンサーとクレアチニンセンサーはいずれも、従来の電流測定センサーとして作製される。図1は、このようなセンサーを示しており、生物学的サンプルにおける検体の濃度を測定するための装置中に据え付けるのに適している〔例えば、ABL(商標)735血液ガス分析器(ラジオメーター・メディカルApS、デンマーク、コペンハーゲン)〕。
【0060】
基本的には、センサー1は、膜リング3が取り付けられる電極2を含む。電極2は、白金ワイヤ5と連結された白金アノード4を含み、白金ワイヤ5は、マイクロプラグを6介して銀アノード接触ボディ7と連結されている。白金アノード4および白金ワイヤ5の下部はガラス体8中にシールされている。ガラス体8とマイクロプラグ6との間では、白金ワイヤ5が熱収縮チューブで保護されている。チューブ状の銀参照電極10がガラス体8の上部を取り囲んでおり、電極2の長さをアノード接触体7まで伸長させている。アノード接触体7は、固定体11とエポキシ12によって参照電極の内部に固定されている。ガラスボディ8の下部は電極ベース13によって取り囲まれており、この電極ベース13に膜リング3が取り付けられている。
【0061】
参照電極10の上部は、電極2を分析装置(図示せず)の対応するプラグ中に据え付けるための、そしてマントル15を固定するためのプラグ部分14によって取り囲まれている。電極2の測定表面に局在する電解質が蒸発しないよう、電極2とマントル15との間にガスケット16と17が配置されている。膜リング3は、マントル15の端部に据え付けられていて、リング20を含む。膜21が、リング20の下部開口上の全体にわたって広がっている。この膜21が、図2に詳細に示されている。
【0062】
図2は、5つの層(電極2の白金アノード4に対向しているノイズ低減層22、干渉抑制膜層23、ガスケット24を取り囲んでいる酵素層25、および約80%の含水量を有するポリウレタンの親水性保護層で被覆されている、拡散抑制多孔質層26)を含んだ膜21の詳細を示している。被覆された膜層26が、分析しようとするサンプルに対向する。
【0063】
ノイズ低減層22は、約21±2μmの厚さを有する、ポリエチレンテレフタレート(PETF)のトラックエッチング処理膜であってよい。干渉抑制膜層23は、約6±2μmの厚さを有する、セルロースアセテート(CA)の多孔質膜であってよい。
【0064】
ガスケット24は、直径が1500μmのセンター穴を有する、30±5μmの両面接着ディスクであってよい。ガスケット24は接着剤により、干渉抑制層23と拡散抑制層26に、酵素の層間での漏出が防止される程度に接着する。
【0065】
クレアチンセンサーの酵素層25は一般に、クレアチナーゼとサルコシンオキシダーゼを、適切な添加剤(例えば緩衝液)と混合したグルタルアルデヒドに架橋して得られる、厚さが約20μmの層である。クレアチニンセンサーの酵素層25は一般に、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、およびサルコシンオキシダーゼを、適切な添加剤(例えば緩衝液)と混合したグルタルアルデヒドに架橋して得られる、厚さが約20μmの層である。
【0066】
拡散抑制多孔質膜層26は、ポリエチレンテレフタレート(PETP)の厚さ約12μmの層(細孔径が約0.1μm;細孔密度が約3×107細孔/cm2)であってよく、約80%の含水量を有するポリウレタンで被覆されている。
【0067】
クレアチニンセンサーにおいては、クレアチンとクレアチニンの両方が過酸化水素に転化される。クレアチンセンサーにおいては、クレアチンだけが過酸化水素に転化される。
電流測定電極において、Ag/AgClに対して+675mVで過酸化水素が陽極酸化される。生成する電流フローは、サンプル中のクレアチニン/クレアチン濃度に比例する。
【0068】
クレアチニンの濃度は、クレアチニンセンサーの信号([クレアチン+クレアチニン]を示している)とクレアチンセンサーの信号(クレアチンを示している)との差から決定される。
【0069】
代表的なセンサー構造物(厚膜センサー)
デュアルセンサーシステムのクレアチンセンサーとクレアチニンセンサーはいずれも、図5に示すように作製される。
【0070】
図5を参照すると、厚さ200μmのアルミナ基板110の一方の表面に、直径1000μmおよび厚さ10μmの円形白金作用電極120;外径3000μm、内径2000μm、および厚さ10μmの環状白金カウンター電極130(作用電極の外周の、30〜330°の角度範囲をカバーしている);ならびに、直径50μmの円形銀/塩化銀参照電極140(作用電極の外周に0°にて配置されている);が設けられている。これら3つの電極構造物はいずれも、基板を通り抜けているホール(図示せず)を介して延びている白金によって、アルミナ基板110を横切ってセンサーエレクトロニクス(sensor electronics)(図示せず)に連結されている。作動すると、作用電極120は、参照電極140に対して+675mVに分極される。
【0071】
アルミナ基板110上にはさらに、ガラスとポリマー封入剤の2層構造物が設けられている。これらの2層構造物は、作用電極120を取り囲んでいる、外径1800μm、内径1200μm、および厚さ50μmの環状構造物160と161、ならびに、電極システムの全体を取り囲んでいる、厚さ50μmの構造物150と151を含む。これら2層構造物のどちらも、英国のESLヨーロッパ社から市販の、厚さ20μmのESLガラス4904のアルミナ基板110に対向している内側層150と160;および米国カリフォルニア州のSenDxメディカル社から市販のポリマー封入剤〔米国カリフォルニア州のSenDxメディカル社による国際特許出願WO97/43634に開示されており、28.1重量%のポリエチルメタクリレート(エルバサイト、パート番号2041、デュポン社から市販)、36.4重量%のカルビトールアセテート、34.3重量%のシリル化カオリン(パート番号HF900、エンゲルハルト社から市販)、0.2重量%のヒュームドシリカ、および1.0重量%のトリメトキシシランを含む〕の外側層151と161;からなる。
【0072】
セルロースアセテートとセルロースアセテートブチレートで構成される、直径1200μmで厚さ10μmの円形内側膜170が、作用電極120を覆っている。
クレアチニンセンサーの場合は、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、およびサルコシンオキシダーゼをグルタルアルデヒドで架橋させて得られる、直径1200μmで厚さ2μmの円形酵素層180が、内側膜170を覆っている。
【0073】
クレアチンセンサーの場合は、クレアチナーゼとサルコシンオキシダーゼをグルタルアルデヒドで架橋させて得られる、直径1200μmで厚さ2μmの円形酵素層180が、内側膜170を覆っている。
【0074】
酵素層180は、グルタルアルデヒドで架橋させた酵素の緩衝溶液0.4μlを、セルロースアセテート膜170上に計量分配することによって作製した。酵素層は、37℃で30分乾燥した。
【0075】
PVC/トリメチルノニル-トリエチレングリコール/ジエチレングリコールで構成される、直径4000μmで厚さ10μmの円形外側膜層190が、作用電極120を中心に位置させた状態で、その上で電極システム全体を覆っている。
【0076】
外側膜は、1.35gのポリ塩化ビニル(アルトセリッチ34,676-4)、0.0149gのトリメチルノニル-トリエチレングリコール(Th.ゴールドシュミット社から市販のテルギトールTMN3)、および0.134gのジエチレングリコールを、21.3gのテトラヒドロフランと7.58gのシクロヘキサノンに加えることによって作製した。本混合物を、PVCが溶解して均一な溶液が得られるまで攪拌した。28.5gのテトラヒドロフランを加えて、PVC/界面活性剤/親水性化合物(90/1/9)の組成の2%溶液を得た。3つの電極が全て覆われるよう、そしてポリマー封入剤151を使用して約0.5mmの重なりが得られるよう、本溶液をセンサーエリアに計量分配した。外側膜は、23±2℃で30分、そして40℃で1.5時間乾燥した。
【0077】
3つの層170、180、190はいずれも、自動分配ユニット(IVEKポンプ)を据え付けたx,y,z-テーブル上に計量分配した。
クレアチニンセンサーにおいては、クレアチンとクレアチニンの両方が過酸化水素に転化される。クレアチンセンサーにおいては、クレアチンだけが過酸化水素に転化される。
【0078】
クレアチニンの濃度は、クレアチニンセンサーの信号([クレアチン+クレアチニン]を示している)とクレアチンセンサーの信号(クレアチンを示している)との差から決定される。
【0079】
実施例1: クレアチニンセンサーの測定値に及ぼすマンガンの影響
ラジオメーター・メディカルApS(デンマーク)から市販の、タイプABL(商標)735の血液分析器を、前述のデュアルセンサーシステム〔“代表的なセンサー構造物(従来のセンサー)”〕を収容するよう変更を加えた。
【0080】
ラジオメーター・リンス液(Radiometer Rinse Solution)S4970のサンプルに、種々の濃度のマンガンを加えた。マンガンを酢酸マンガン(II)の形で加えて、それぞれ約2μMと10μMの濃度を得た。
【0081】
クレアチニンセンサーの安定性は、クレアチニン基質を含有するキャリブレーション液、およびクレアチン基質を含有するキャリブレーション液のぞれぞれに対するセンサー応答を観察することによって試験した。
【0082】
キャリブレーション液は、約200μMのクレアチニンをラジオメーター・キャリブレーション液 1 S1720中に溶解することによって、そして約200μMのクレアチンをラジオメーター・キャリブレーション液 2 S1730中に溶解することによって作製した。これらの溶液を装置中に交互に繰り返し導入し、センサー応答を得た。
【0083】
マンガンを含有しない溶液を導入すると、クレアチニンに対するクレアチニンセンサーの応答が低下するが、クレアチンに対するクレアチニンセンサーの応答は安定である、ということが観察された。こうした観察結果は、反応カスケードにおける最初の酵素であるクレアチニナーゼが不安定であることを示している。センサー応答の低下が直ちに始まるか、あるいはある特定時間後に始まるかは、クレアチナーゼおよび/またはサルコシンオキシダーゼに対するクレアチニナーゼの初期過剰量に依存する。過剰量が多いほど、低下が始まるまでの時間が長くなる。しかしながら酵素密度が高すぎると、拡散抵抗の増大が起こり、したがって応答時間がより長くなり、信号がより弱くなる、という望ましくない結果が生じる。
【0084】
クレアチニンに対するクレアチニンセンサーの応答と、クレアチンに対するクレアチニンセンサーの応答との間の関係は、下記のような比によって表わすのが便利である:
R=[クレアチニンに対する応答]/[クレアチンに対する応答]
Rが一定であれば、クレアチニナーゼの活性は安定している。Rの値の減少は、クレアチニナーゼ活性の全体としての低下を示している。
【0085】
2系列の実験を行った。
第1の実験においては、クレアチニナーゼの初期過剰量がほぼゼロである2つのセンサーをリンス液〔0μMの酢酸マンガン(II)〕に2.75日曝露した。図3に示すように、Rは、実験開始後すぐに低下し始めた。これらのセンサーを引き続き、変性リンス液〔2μMの酢酸マンガン(II)〕に5.5日曝露した。得られた結果(R値)を図3に示す。図3は、センサーを2μMの濃度の二価マンガンイオンに曝露すると、R値を安定化させることができる、ということを示している。
【0086】
クレアチニナーゼの初期過剰量が多めの5つのクレアチニンセンサーを使用して、上記と同じ実験を行った。図4において、この実験に対するRが示されている。マンガンを含有しないリンス液に対して18日間試験した。10μMのマンガンを含有するリンス液〔10μMの酢酸マンガン(II)〕に変えることによってセンサーが再活性化された。図4に示すように、Rは、1週間の試験後に低下し始める。18日後、Rは1.3から0.9に低下した。18日後に10μMのマンガンを含有するリンス液に変えると、センサーが再活性化され、R=1.3の初期レベルが得られた。
【0087】
実施例2: クレアチニンセンサーの操作
ラジオメーター・メディカルApS(デンマーク)から市販の、タイプABL(商標)837の血液分析器に、前述のデュアルセンサーシステムを取り付けるよう変更を加えた。清浄液は、10μMの濃度の二価マンガンイオンを含む。センサー清浄液はさらに、測定とキャリブレーションとの間においてセンサーを保存する際にも使用した。
【0088】
装置に対する標準プロトコルは、4時間ごとのワンポイント・キャリブレーション(1つのキャリブレーション液体)、および8時間ごとのツーポイント・キャリブレーション(2つのキャリブレーション液体)を含む。一般には、一日(24時間)ごとに約40回の測定が行われる。
【0089】
キャリブレーション測定またはサンプル測定を行うときは、清浄液をセンサーから取り除き、キャリブレーション液体またはサンプルをそれぞれセンサーにポンプで送り出す。サンプル/液体を30秒静置する。次いで清浄液で洗い流すことによりキャリブレーション液体またはサンプルを取り除き、次のキャリブレーション液体またはサンプルが導入されるまでセンサーを静置する。したがって、キャリブレーション液体/サンプルは、トータルで約40秒間にわたってセンサーと接触する。
【0090】
“標準的な”作業日は、40回の測定と3+2*3回(すなわち9回)のキャリブレーションを含む。測定は、1作業日あたりトータルで約1960秒(すなわち約33分)続ける。このことは、センサーが、所定時間の少なくとも97%にわたって清浄液と接触する、ということを意味している。
【0091】
上記の詳細な説明は、理解を容易にする目的のためだけに記載されているものであって、種々の変更は当業者には自明であるから、上記説明から無用な限定を考えるべきではない。本発明を、特定の実施態様と関連させて説明してきたが、さらなる変更が可能であること、また本特許出願は、本発明のあらゆるバリエーション、用途、あるいは一般には本発明の原理に従った本発明の適合物、そして本発明の開示内容からの逸脱物(本発明が関係する技術内での公知の又は通常の実施範囲に含まれる逸脱物、ならびに本明細書にて前記した本質的な特徴、および特許請求の範囲に記載の規定に従った本質的な特徴に適用できる逸脱物)を含んだ本発明の適合物を含むよう意図されていることは言うまでもない。
【0092】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願、および刊行物の全開示内容を参照により本明細書に含める。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】電極と膜を含んだ酵素センサーを示している。
【図2】図1のセンサーの膜を詳細に示している。
【図3】クレアチニナーゼの初期過剰量がほぼゼロであるセンサーに関して、クレアチニンに対するクレアチニンセンサーの応答と、クレアチンに対する同じセンサーの応答とを比較している。
【図4】クレアチニナーゼの過剰量が多めであるセンサーに関して、クレアチニンに対するクレアチニンセンサーの応答と、クレアチンに対する同じセンサーの応答とを比較している。
【図5】厚膜センサーを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレアチニンセンサーの安定性を高めるために十分な量の、又は、クレアチニンセンサーの活性を高めるために十分な量の二価マンガンイオン溶液にクレアチニナーゼを曝露することを含み、このとき前記溶液が、二価マンガンを0.01〜150μMの範囲の濃度で含む、クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサーを安定化または再活性化する方法。
【請求項2】
二価マンガンイオンの濃度が0.01〜130μMの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二価マンガンイオンの濃度が0.1〜100μMの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
二価マンガンイオンの濃度が0.1〜50μMの範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
二価マンガンイオンを含んだ溶液をクレアチニナーゼに移送することによって、クレアチニナーゼを所定量の二価マンガンイオンに曝露する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
二価マンガンイオンを放出する組成物を含んだフィルター上に適切な液体をある持続時間にわたって通すことによって溶液を調製してから、クレアチニナーゼを前記溶液に曝露する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
センサー内に存在する、二価マンガンイオンを放出する組成物と適切な液体とを、ある持続時間にわたって接触させることによって、所定量の二価マンガンイオンを溶液として調製し、次いで前記溶液をクレアチニナーゼに曝露する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
組成物が、二価マンガンイオンの難溶性の塩を含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
二価マンガンイオンの難溶性の塩が、炭酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、セレン化物、硫化物、水酸化物、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、亜セレン酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
難溶性の塩が、炭酸塩、クエン酸塩、および酒石酸塩からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
クレアチニナーゼを二価マンガンイオン溶液に、前記ある持続時間の少なくとも50%にわたって曝露し、このとき前記溶液中の二価マンガンイオンの濃度が5〜10μMの範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
クレアチニナーゼを、カチオン錯形成剤を含んだ溶液にさらに曝露する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
カチオン錯形成剤がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
クレアチニナーゼを二価マンガンイオン溶液に、前記ある持続時間の少なくとも50%にわたって曝露し、このときカチオン錯形成剤の濃度が1〜4μMの範囲である、請求項12〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
生体活性分子としてのクレアチニナーゼと、クレアチニンセンサーを安定化または再活性化するために十分な量の二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物とを含む、安定化されたクレアチニンセンサー。
【請求項16】
組成物が、二価マンガンイオンの難溶性の塩を含む、請求項15に記載のセンサー。
【請求項17】
二価マンガンイオンの難溶性の塩が、炭酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、セレン化物、硫化物、水酸化物、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、亜セレン酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項16に記載のセンサー。
【請求項18】
難溶性の塩が、炭酸塩、クエン酸塩、および酒石酸塩からなる群から選択される、請求項17に記載のセンサー。
【請求項19】
組成物がポリマー母材を含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項20】
クレアチニナーゼと組成物が膜中に捕捉される、請求項15〜19のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項21】
センサーがさらに、クレアチナーゼとサルコシンオキシダーゼを生体活性分子として含む、請求項15〜20のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項22】
生体活性分子としてのクレアチニナーゼと、センサーを安定化または再活性化するために十分な量の二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物とを含んだ、クレアチニンセンサー用膜。
【請求項23】
組成物が、二価マンガンイオンの難溶性の塩を含む、請求項22に記載の膜。
【請求項24】
二価マンガンイオンの難溶性の塩が、炭酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、セレン化物、硫化物、水酸化物、シュウ酸塩、オルトリン酸塩、亜セレン酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項23に記載の膜。
【請求項25】
難溶性の塩が、炭酸塩、クエン酸塩、および酒石酸塩からなる群から選択される、請求項24に記載の膜。
【請求項26】
組成物がポリマー母材を含む、請求項22〜25のいずれか一項に記載の膜。
【請求項27】
膜がさらに、クレアチナーゼとサルコシンオキシダーゼを生体活性分子として含む、請求項22〜26のいずれか一項に記載のセンサー。
【請求項28】
クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサー;0.01〜150μMの範囲の濃度の二価マンガンイオン溶液;およびクレアチニナーゼを溶液の二価マンガンイオンに曝露するためのデバイス;を含む、生理液中のクレアチニンを測定するための装置。
【請求項29】
クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサー;湿潤すると、二価マンガンイオンをある持続時間にわたって放出する組成物を含んだフィルター;0.01〜150μMの範囲の濃度の二価マンガンイオン溶液が得られるよう、適切な液体をフィルター上に通すためのデバイス;およびクレアチニナーゼを溶液の二価マンガンに曝露するためのデバイス;を含む、生理液中のクレアチニンを測定するための装置。
【請求項30】
クレアチニナーゼを生体活性分子として含んだクレアチニンセンサーを含み、このとき前記クレアチニンセンサーが、請求項15〜21のいずれか一項に記載のセンサー、または請求項22〜27のいずれか一項に記載の膜を含んだセンサーである、生理液中のクレアチニンを測定するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−541103(P2008−541103A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511553(P2008−511553)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【国際出願番号】PCT/DK2006/000263
【国際公開番号】WO2006/122552
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(500554782)ラジオメーター・メディカル・アー・ペー・エス (20)
【Fターム(参考)】