説明

クレーンの免震支持装置

【課題】簡単な構造で且つバラスト等を一切搭載せずに、クレーンの安定性を高めつつ地震の揺れを効率良く吸収し得るクレーンの免震支持装置を提供する。
【解決手段】固定設置される架台梁12に、該架台梁12を上下から挟み込むように配設される複数組の水平方向の変位吸収手段としての積層ゴム13を介して、ベースフレーム14を支持せしめ、該ベースフレーム14上にマスト2を、該マスト2の軸心と前記各組の積層ゴム13の配設位置との間隔が等しくなるよう立設し、前記マスト2に作用する荷重並びに転倒モーメントを前記積層ゴム13の圧縮で受けるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの免震支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビル等の構築物を建設する際にはクライミングクレーンやタワークレーン等のクレーンが用いられている。
【0003】
図7は従来のクライミングクレーンの一例を示す概略図であって、クライミングクレーン1は、上方へブロック2aを順次継ぎ足し可能なマスト2の頂部に、昇降ユニット3を介して旋回体4を旋回自在に配置し、該旋回体4上にジブ5を起伏自在に取り付け、前記旋回体4に、後方へ延びるカウンタフレーム6を一体に設け、該カウンタフレーム6上に、吊荷用フック7を吊り下げるワイヤロープ8を巻上げ下げするための巻上装置9と、ジブ5の起伏用のワイヤロープ10を巻上げ下げするための起伏装置11とを設置してなる構成を有している。
【0004】
ところで、近年、日本各地において大きな地震が発生しており、なかでも、平成7年1月に発生した兵庫県南部地震の際には、建設現場、或いは工場や港湾施設において、クレーンの大きな被害が発生しており、又、近未来において、東海地震や関東地震の発生が心配されていることから、クレーンの耐震性を向上することが研究され、さまざまな制振構造や免震構造が開発されている。
【0005】
尚、最近のタワークレーンにおいては、マストの基端部をバネ要素(積層ゴム等)で支持すると共に、全体の安定度を確保するために(前記バネ要素としての積層ゴム等に引張力を与えないようにするために)、非常に重いバラストを多く搭載することにより、免震を行うようにしたものがある。
【0006】
又、クレーンの制振構造の一例を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特許第3565294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、既に開発されているクレーンの制振構造や免震構造の場合、動力や複雑な制御装置を必要とするものが多く、簡単な構造で大地震に対応できるものの開発が望まれていた。
【0008】
又、前記バネ要素としての積層ゴム等に引張力が働かないようにするためにバラストを多く搭載するようなものでは、全体の重量が重くなりすぎ、実用的ではないという欠点を有していた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡単な構造で且つバラスト等を一切搭載せずに、クレーンの安定性を高めつつ地震の揺れを効率良く吸収し得るクレーンの免震支持装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、固定設置される架台梁上にマストを立設してなるクレーンの免震支持装置であって、
架台梁に、該架台梁を上下から挟み込むように配設される複数組の水平方向の変位吸収手段を介して、ベースフレームを支持せしめ、該ベースフレーム上にマストを、該マストの軸心と前記各組の変位吸収手段の配設位置との間隔が等しくなるよう立設し、前記マストに作用する荷重並びに転倒モーメントを前記変位吸収手段の圧縮で受けるよう構成したことを特徴とするクレーンの免震支持装置にかかるものである。
【0011】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0012】
前述の如く構成すると、大きな地震が起こって、ベースフレーム上に立設されたクレーンのマストが水平方向へ横変位した場合、該マストの転倒側の架台梁の上側に配設された変位吸収手段が圧縮されると共に、前記マストの反転倒側の架台梁の下側に配設された変位吸収手段が圧縮され、これにより、変位吸収手段に引張力を全く作用させずに、地震の揺れを効率良く吸収することが可能となり、クレーンの倒壊等が回避されることとなる。
【0013】
前記クレーンの免震支持装置においては、水平方向の変位吸収手段を積層ゴムで構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のクレーンの免震支持装置によれば、簡単な構造で且つバラスト等を一切搭載せずに、クレーンの安定性を高めつつ地震の揺れを効率良く吸収し得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1〜図4は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図7と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、固定設置される架台梁12に、該架台梁12を上下から挟み込むように配設される複数組(図の例では四組で合計八個)の水平方向の変位吸収手段としての積層ゴム13を介して、ベースフレーム14を支持せしめ、該ベースフレーム14上にマスト2を、該マスト2の軸心Oと前記各組の積層ゴム13の配設位置との間隔が等しくなるよう立設し、前記マスト2に作用する荷重並びに転倒モーメントを前記積層ゴム13の圧縮で受けるよう構成したものである。
【0017】
本図示例の場合、前記架台梁12は、十字状に組んだ梁によって構成し、基礎フレーム15上に固定設置するようにしてある。
【0018】
前記ベースフレーム14は、前記マスト2を支持する円筒状の本体部14aと、該本体部14aの外周面からその円周方向へ90°ずつ位相を変えて放射状に張り出す四個の中空のアームブロック部14bとを備え、該ベースフレーム14の内部を前記架台梁12が貫通して、その先端部が各アームブロック部14bの開口端から突出するようにしてある。
【0019】
前記変位吸収手段としての積層ゴム13は、多数のゴム板と鋼板とを交互に積層した積層ゴム本体13aを、上フランジ13bと下フランジ13cとで挟持してなる構成を有しており、前記架台梁12の上側に配設される積層ゴム13に関しては、該架台梁12の上面に、前記積層ゴム13の下フランジ13cを固定すると共に、前記ベースフレーム14のアームブロック部14bの内部上面に、前記積層ゴム13の上フランジ13bを固定し、又、前記架台梁12の下側に配設される積層ゴム13に関しては、該架台梁12の下面に、前記積層ゴム13の上フランジ13bを固定すると共に、前記ベースフレーム14のアームブロック部14bの内部下面に、前記積層ゴム13の下フランジ13cを固定するようにしてある。
【0020】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0021】
前述の如く構成すると、クライミングクレーン1のマスト2に対し単なる鉛直下方への荷重が作用している状態では、架台梁12の上側に配設された四個の変位吸収手段としての積層ゴム13が圧縮され、これにより、前記鉛直下方への荷重が支持される。
【0022】
一方、大きな地震が起こって、ベースフレーム14上に立設されたクライミングクレーン1のマスト2が水平方向へ横変位した場合には、該マスト2の転倒側の架台梁12の上側に配設された積層ゴム13が圧縮されると共に、前記マスト2の反転倒側の架台梁12の下側に配設された積層ゴム13が圧縮され、これにより、積層ゴム13に引張力を全く作用させずに、地震の揺れを効率良く吸収することが可能となり、クライミングクレーン1の倒壊等が回避されることとなる。
【0023】
尚、前記積層ゴム13は引張力を支持することはできないが、本図示例の如き構造を採用することにより、どのような方向へ荷重や転倒モーメントが作用したとしても、その力を常に積層ゴム13の圧縮によって受けることが可能となっている。
【0024】
こうして、簡単な構造で且つバラスト等を一切搭載せずに、クライミングクレーン1の安定性を高めつつ地震の揺れを効率良く吸収し得る。
【0025】
図5及び図6は本発明を実施する形態の他の例であって、図中、図1〜図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1〜図4に示すものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図5及び図6に示す如く、二本の梁を水平方向へ所要間隔をあけて平行に配置することにより、架台梁12を構成する一方、ベースフレーム14を中空の箱状体とし、前記平行配置される二本の梁からなる架台梁12が前記ベースフレーム14の内部を貫通し、その各梁の両端部が前記ベースフレーム14の両側面から突出して基礎フレーム15上に固定配置されるようにし、該ベースフレーム14上に立設されるマスト2の軸心Oから等間隔となる前記ベースフレーム14内部の所要位置に、複数組(図の例では四組で合計八個)の変位吸収手段としての積層ゴム13を、該各組の積層ゴム13が架台梁12を上下から挟み込むように配設し、前記マスト2に作用する荷重並びに転倒モーメントを前記積層ゴム13の圧縮で受けるよう構成した点にある。
【0026】
図5及び図6に示す例においても、クライミングクレーン1のマスト2に対し単なる鉛直下方への荷重が作用している状態では、架台梁12の上側に配設された四個の変位吸収手段としての積層ゴム13が圧縮され、これにより、前記鉛直下方への荷重が支持される一方、大きな地震が起こって、ベースフレーム14上に立設されたクライミングクレーン1のマスト2が水平方向へ横変位した場合には、該マスト2の転倒側の架台梁12の上側に配設された積層ゴム13が圧縮されると共に、前記マスト2の反転倒側の架台梁12の下側に配設された積層ゴム13が圧縮され、これにより、積層ゴム13に引張力を全く作用させずに、地震の揺れを効率良く吸収することが可能となり、クライミングクレーン1の倒壊等が回避されることとなる。
【0027】
こうして、図5及び図6に示す例の場合も、図1〜図4に示す例の場合と同様、簡単な構造で且つバラスト等を一切搭載せずに、クライミングクレーン1の安定性を高めつつ地震の揺れを効率良く吸収し得る。
【0028】
尚、本発明のクレーンの免震支持装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、変位吸収手段は、エネルギー吸収効率が高く且つ反発力が小さい弾性体であれば積層ゴム以外のものでも構成することが可能なこと、又、変位吸収手段を配設する組数については、四組に限らず、三組以上であればどのような組数をも選定し得ること、更に又、クライミングクレーンに限らず、マストを有するクレーンであればどのようなクレーンにも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例を示す平面図である。
【図3】本発明を実施する形態の一例を示す側断面図であって、図2のIII−III断面相当図である。
【図4】本発明を実施する形態の一例を示す側面図であって、図2のIV−IV矢視相当図である。
【図5】本発明を実施する形態の他の例を示す平面図である。
【図6】本発明を実施する形態の他の例を示す側面図であって、図5のVI−VI矢視相当図である。
【図7】従来のクライミングクレーンの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0030】
1 クライミングクレーン(クレーン)
2 マスト
12 架台梁
13 積層ゴム(変位吸収手段)
14 ベースフレーム
15 基礎フレーム
O 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定設置される架台梁上にマストを立設してなるクレーンの免震支持装置であって、
架台梁に、該架台梁を上下から挟み込むように配設される複数組の水平方向の変位吸収手段を介して、ベースフレームを支持せしめ、該ベースフレーム上にマストを、該マストの軸心と前記各組の変位吸収手段の配設位置との間隔が等しくなるよう立設し、前記マストに作用する荷重並びに転倒モーメントを前記変位吸収手段の圧縮で受けるよう構成したことを特徴とするクレーンの免震支持装置。
【請求項2】
水平方向の変位吸収手段を積層ゴムで構成した請求項1記載のクレーンの免震支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−169040(P2007−169040A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372632(P2005−372632)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000198363)石川島運搬機械株式会社 (292)
【Fターム(参考)】