説明

クレーン軌道異常検出システム、クレーン軌道異常検出方法、及びコンピュータプログラム

【課題】 天井クレーンの軌道に異常があるかどうかを、可及的に少ない部品数で且つ簡単な処理で、自動的、定量的、且つ早期に検出する。
【解決手段】 天井クレーン100のサドル130a、130bに、天井クレーン100の走行方向(x軸)と、天井クレーン100のサドル130の横行方向(y軸)と、天井クレーン100の高さ方向(z軸)のそれぞれの加速度値を検出する3軸加速度センサ150a、150bを取り付ける。この3軸加速度センサ150a、150bから、天井クレーン100の走行方向及び高さ方向の加速度を取り込み、走行方向の加速度値を使って天井クレーン100の走行方向の現在位置を導出すると共に、高さ方向の加速度値を使って軌道210の異常の有無を検出する。そして、異常のあった場所をコンピュータ画面に表示したり、軌道210に異常があったことをブザーやランプで報知したりする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン軌道異常検出システム、クレーン軌道異常検出方法、及びコンピュータプログラムに関し、特に、天井クレーンが走行する軌道の異常を検出するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所では、酸洗ラインや圧延ラインから出たコイルを中間ヤードに一時的に保管した上で、コイルを次工程に送り出すことがある。このような中間ヤード内におけるコイルの搬送は、天井クレーンにより行われることが多い。
【0003】
天井クレーンは、所定の長さのレールを継ぎ合せて構成された軌道の上を走行する。このような天井クレーンの走行を繰り返しているうちに、軌道(レール)の継ぎ目の間隔が広くなったり、軌道(レール)の変形(垂直方向・水平方向への曲がり)が大きくなったりして、軌道に異常な箇所が生じることがある。このような異常な箇所を天井クレーンが走行すると、天井クレーンは、大きな振動を受け、大きな荷重を受ける。このような荷重の負荷を繰り返し受けると、天井クレーンのガーダ等に疲労き裂等が発生し、天井クレーンが疲労破壊してしまう虞がある。
【0004】
そこで、天井クレーンの軌道の異常を検出する必要がある。従来は、天井クレーンの運転室にいる運転手が、天井クレーンの日常の運転時に、異常な振動を感じることを報告したり、年に1回程度、天井クレーンの操業が行われていないときに検査員が目視で軌道の異常を確認したりすることにより、天井クレーンの軌道に異常があることを検出するようにしている。
しかしながら、このような方法では、軌道に異常があるかどうかの感じ方が、運転手によって異なるため、軌道に異常があるかどうかを定量的に評価することが難しい。また、レールとレールとの間の隙間の寸法には基準がある。よって、検査員が目視により軌道に異常があるか否かを確認する場合には、レールとレールとの間の隙間の寸法が基準内であるかどうかを逐一目視で確認する必要がある。このため、軌道に異常があるかどうかを早期に発見することが難しい。
【0005】
そこで、天井クレーンの軌道に異常があるかどうかを、自動的、定量的且つ早期に評価することが望まれる。特許文献1には、天井クレーンと同様に軌道上を走行する鉄道の軌道の異常を検出する技術が開示されている。特許文献1では、ATC(Automatic Train Control)信号やトランスポンダを用いて、鉄道車両の現在の位置を検出すると共に、加速度センサやジャイロセンサを用いて鉄道車両の振動を検出する。そして、鉄道車両の振動の推定値を算出し、算出した推定値と実際値との残差信号と基準値とを比較し、その結果に基づいて軌道が異常であるか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−67276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、天井クレーンの設備では、鉄道設備のように、地上側に大規模な装置を設けることは容易でない。すなわち、特許文献1に記載の技術のように、ATC信号に相当する信号を生成する装置やトランスポンダに相当する装置を、天井クレーンの設備に設置することは容易でない。また、特許文献1に記載の技術では、振動の推定値を得るために膨大なデータベースを構築する必要があると共に、振動の推定値を得るための演算が複雑なものになる。
【0008】
また、多大な保守費用を天井クレーンに費やすのは現実的ではない。さらに、天井クレーンの軌道の長さは、鉄道車両の軌道に比べれば短いことや、天井クレーンの軌道は直線状であること等の理由から、天井クレーンの軌道については、大まかに異常な箇所を検出できれば、点検員が容易に異常な箇所を目視により特定することができるので、必ずしも異常な箇所を厳密に特定する必要はない。
以上の事情を考慮すると、天井クレーンの軌道に異常があるかどうかを自動的に且つ定量的に検出する場合には、必要な部品数を可及的に少なくし、且つ、異常を検出するための処理を可及的に簡単にすることが望まれる。しかしながら、前述した従来の技術では、天井クレーンの軌道に異常があるかどうかを、可及的に少ない部品数で且つ簡単な処理で、自動的に且つ定量的に検出することが困難であった。
【0009】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、天井クレーンの軌道に異常があるかどうかを、可及的に少ない部品数で且つ簡単な処理で、自動的、定量的且つ早期に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のクレーン軌道異常検出システムは、天井クレーンが走行する軌道の異常を検出するクレーン軌道異常検出システムであって、前記天井クレーンに取り付けられた加速度センサであって、前記天井クレーンの走行方向の加速度と、前記天井クレーンの高さ方向の加速度とを検出する加速度センサと、前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出する位置導出手段と、前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの高さ方向の加速度と、予め設定された異常振動判定値とを比較した結果に基づいて、前記軌道の異常の有無を判定する異常振動判定手段と、前記異常振動判定手段により異常があると判定された場所を示す情報を表示装置に表示する表示手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明のクレーン軌道異常検出方法は、天井クレーンが走行する軌道の異常を検出するクレーン軌道異常検出方法であって、前記天井クレーンに取り付けられた加速度センサであって、前記天井クレーンの走行方向の加速度と、前記天井クレーンの高さ方向の加速度とを加速度センサにより検出する加速度検出工程と、前記加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出する位置導出工程と、前記加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの高さ方向の加速度と、予め設定された異常振動判定値とを比較した結果に基づいて、前記軌道の異常の有無を判定する異常振動判定工程と、前記異常振動判定工程により異常があると判定された場所を示す情報を表示装置に表示する表示工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のコンピュータプログラムは、天井クレーンが走行する軌道の異常を検出することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記天井クレーンに取り付けられた加速度センサであって、前記天井クレーンの走行方向の加速度と、前記天井クレーンの高さ方向の加速度とを検出する加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出する位置導出工程と、前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの高さ方向の加速度と、予め設定された異常振動判定値とを比較した結果に基づいて、前記軌道の異常の有無を判定する異常振動判定工程と、前記異常振動判定工程により異常があると判定された場所を示す情報を表示装置に表示する表示工程と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加速度センサで検出された天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出すると共に、当該加速度センサで検出された天井クレーンの高さ方向の加速度と異常振動判定値とを比較した結果に基づいて、軌道の異常の有無を判定するようにした。したがって、軌道の異常を検出するためのハードウェアとしては、天井クレーンに加速度センサを追加すればよい。また、天井クレーンの走行方向は一定の方向であるので、加速度センサで検出された加速度に対する処理は複雑にならない。よって、天井クレーンの軌道に異常があるかどうかを、可及的に少ない部品数で且つ簡単な処理で、自動的に且つ定量的に且つ早期に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】天井クレーンの一例を俯瞰した様子を示す図である。
【図2】軌道上の天井クレーンの一例を、その走行方向に平行な方向から見た図である。
【図3】軌道上の天井クレーンの一例を、その上方から見た図である。
【図4】リミットスイッチの動作の一例を示す図であり、天井クレーンを、その走行方向から見た図である。
【図5】リミットスイッチの動作の一例を示す図であり、天井クレーンを、その上方から見た図である。
【図6】天井クレーンの軌道の異常を検出するためのコンピュータシステムの機能的な構成の一例を示す図である。
【図7】軌道の異常に関する情報の表示画面700の一例を示す図である。
【図8】情報処理装置の動作の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、天井クレーン100の一例を俯瞰した様子を示す図である。図2は、軌道上の天井クレーン100の一例を、その走行方向に平行な方向から見た図(正面図)である。また、図3は、軌道上の天井クレーン100の一例を、その上方から見た図(上面図)である。尚、各図では、説明の都合上、各部の構成を簡略化して示す共に、各部の構成の一部を省略して示している。
【0016】
図1及び図2において、天井クレーン100は、ガーダ110と、トロリ120と、サドル130と、運転室140とを備えている。
ガーダ110は、天井クレーン100の本体部分の構造物(桁)である。
トロリ120は、荷をつってガーダ110上を、図1の両矢印の方向に移動(横行)する台車である。
【0017】
サドル130a、130bは、それぞれガーダ110の一端、他端に取り付けられ、ガーダ110を支えてクレーンを走行させる車輪131a〜131dを備えた構造物である。
図3に示すように、天井クレーン100は、複数のレール211a〜211j、211k〜211tを継ぎ合せて構成された軌道210a、210bに沿って(図3に示す両矢印の方向に)走行する。
【0018】
また、サドル130aには、天井クレーン100が、それぞれ、軌道の一端(ここでは「北限」と称する)、他端(ここでは「南限」と称する)、天井クレーン100の乗込口320を通過したことを検出するためのリミットスイッチ132a、132b、132cが備わっている。リミットスイッチ132a〜132cは、JIS C 8201-5-1では「位置検出スイッチ(position switch)」と称されるものである。リミットスイッチ132a〜132cは、操作部と可動部(所謂バー)とを有し、可動部が所定の位置に達したとき操作部が作動するパイロットスイッチ(非手動制御スイッチ)である。
【0019】
図3に示すように、軌道210aが敷設されている領域の壁付近には、北限ストライカ330a、乗込口ストライカ330b、及び南限ストライカ330cが設けられている。北限ストライカ330aは、軌道210の一端(北限)に対応する位置に設けられ、乗込口ストライカ330bは、乗込口320に対応する位置に設けられ、南限ストライカ330cは、軌道210の他端(南限)に対応する位置に設けられる。ここで、軌道210の一端(北限)に対応する位置とは、天井クレーン100が、北限に到達したと見なせる位置であり、天井クレーン100がこれ以上北側に進行してはいけないとされる位置である。よって、軌道210の一端(北限)に対応する位置は、軌道210の一端(北限)と厳密に一致する位置である必要はない。このことは、乗込口320に対応する位置と、軌道210の他端(南限)に対応する位置についても同じである。
【0020】
図4は、リミットスイッチ132a〜132cの動作の一例を示す図であり、天井クレーン100を、その走行方向から見た図である。また、図5も、リミットスイッチ132a〜132cの動作の一例を示す図であり、天井クレーン100を、その上方から見た図である。図5では、図に向かって左から右に向かって(図5に付している矢印の方向に)時間が経過するものとしてリミットスイッチ132の動作の一例を示している。
【0021】
図4(a)に示すように、北限ストライカ330a、乗込口ストライカ330b、及び南限ストライカ330cに接触していない状態では、リミットスイッチ132a〜132cの可動部は動かない(図5の左側の図も参照)。
図4(b)に示すように、天井クレーン100が、北限ストライカ330aの配設位置に到達すると、リミットスイッチ132a〜132cのうち、リミットスイッチ132aの可動部のみが、北限ストライカ330aと接触し、天井クレーン100の進行方向と反対方向に回動する(図5の真ん中の図も参照)。そして、天井クレーン100が北限ストライカ330aの配設位置を通過すると、リミットスイッチ132aの可動部は、元の位置に戻る(図5の右側の図を参照)。
【0022】
また、図4(c)に示すように、天井クレーン100が、乗込口ストライカ330bの配設位置に到達すると、リミットスイッチ132a〜132cのうち、リミットスイッチ132bの可動部のみが、乗込口ストライカ330bと接触し、天井クレーン100の進行方向と反対方向に回動する(図5の真ん中の図も参照)。そして、天井クレーン100が乗込口ストライカ330bの配設位置を通過すると、リミットスイッチ132bの可動部は、元の位置に戻る(図5の右側の図を参照)。
【0023】
同様に、図4(d)に示すように、天井クレーン100が、南限ストライカ330cの配設位置に到達すると、リミットスイッチ132a〜132cのうち、リミットスイッチ132cの可動部のみが、南限ストライカ330cと接触し、天井クレーン100の進行方向と反対方向に回動する(図5の真ん中の図も参照)。そして、天井クレーン100が南限ストライカ330cの配設位置を通過すると、リミットスイッチ132cの可動部は、元の位置に戻る(図5の右側の図を参照)。
【0024】
以上のように、北限ストライカ330aは、リミットスイッチ132a〜132cのうち、リミットスイッチ132aの可動部(所謂バー)のみと相互に接触する位置に配置される。乗込口ストライカ330bは、リミットスイッチ132a〜132cのうち、リミットスイッチ132bの可動部のみと相互に接触する位置に配置される。南限ストライカ330cは、リミットスイッチ132a〜132cのうち、リミットスイッチ132cの可動部のみと相互に接触する位置に配置される。
リミットスイッチ132a〜132cは、自身の可動部が作動(回動)している間、そのことを示すオン信号を出力する。
尚、以下の説明では、必要に応じて、リミットスイッチ132aを北限リミットスイッチ132aと称し、リミットスイッチ132bを乗込口リミットスイッチ132bと称し、リミットスイッチ132cを南限リミットスイッチ132cと称する。
【0025】
図1〜図3の説明に戻り、運転室140には、天井クレーン100を運転するための各種の操作盤、制御装置、及び表示装置等が備わっている。本実施形態の天井クレーン100は、運転室140で運転手が運転操作を行うことにより動作する。図3に示す乗込口320は、乗込口320と地上との間を昇降するための不図示の階段と繋がっている。運転手は、この階段を昇って乗込口320から天井クレーン100の運転室140に乗り込む。
【0026】
また、図3に示すように、軌道210a、210bの北限、南限には、それぞれ、天井クレーン100のオーバーランを防ぐバンパストッパ310a・310b、310c、310dが設けられている。
【0027】
尚、建屋の両側の壁に沿って設けられた「天井近くの軌道」上を走行するクレーン(所謂「天井クレーン」)であれば、天井クレーンは、必ずしも図1に示す構成を有していなくてもよい。また、ストライカ(北限ストライカ330a、乗込口ストライカ330b、及び南限ストライカ330c)の配設位置は、図3に示した位置に限定されるものではない。
【0028】
本実施形態では、天井クレーン100のサドル130a、130b(例えばサドル130a、130bの上面)に、それぞれ3軸加速度センサ150a、150bが取り付けられている。3軸加速度センサ150a、150bは、相互に直交する3軸(図3のx軸、y軸、z軸)の各加速度値を検出するセンサであり、本実施形態では、天井クレーン100の走行方向(x軸)と、天井クレーン100のガーダ110の横行方向(y軸)と、天井クレーン100の高さ方向(z軸)のそれぞれの加速度値を検出する。3軸加速度センサ150a、150bは、このような加速度値を検出することができれば、どのようなものでもよいが、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を利用したピエゾ抵抗型の3軸加速度センサを用いることができる。
【0029】
運転室140には、天井クレーン100の軌道210(レール211)の異常を検出するためのコンピュータシステムが設けられている。
図6は、天井クレーン100の軌道210の異常を検出するためのコンピュータシステムの機能的な構成の一例を示す図である。
図6において、天井クレーン100の軌道210の異常を検出するためのコンピュータシステムは、情報処理装置610と、入力装置620と、表示器630と、警報器640とを有する。本実施形態では、このコンピュータシステムと、リミットスイッチ(北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、南限リミットスイッチ132c)と、3軸加速度センサ150a、150bとを用いることにより、クレーン軌道異常検出システムの一例が実現される。
【0030】
情報処理装置610は、リミットスイッチ(北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、南限リミットスイッチ132c)からの信号と、3軸加速度センサ150a、150bからの信号とを受信して、軌道210の異常を検出するための処理を行うものであり、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、及び各種のインターフェース等を用いて構成される。
【0031】
入力装置620は、情報処理装置610に対して、運転手等のオペレータが入力指示を行うためのものであり、例えば、キーボードやマウス等を用いて構成される。
表示器630は、情報処理装置610による処理の結果を表示するためのものであり、例えば、CPU、VRAM、及び各種のインターフェース等を備えたコンピュータディスプレイ等を用いて構成される。
警報器640は、軌道210に異常があることを、音及び光の少なくとも何れか一方を用いて報知するためのものであり、例えば、ブザー及びランプの少なくとも何れか一方を用いて構成される。
尚、以上のコンピュータシステムのハードウェアの少なくとも一部は、運転室140に設けられている既存のコンピュータシステムのハードウェアと共用されるようにしてもよい。
【0032】
以下、図6を参照しながら、天井クレーン100の軌道210の異常を検出するためのコンピュータシステムの機能の一例を説明する。
(情報処理装置610)
本実施形態では、情報処理装置610の以下に示す各ブロックによる処理は、特に断りのない限り、CPUを用いることにより実現され、CPUの1クロック周期の間に、以下に示す各ブロックの処理が1回実行されるものとする。
<異常走行検出部611、異常走行判定値記憶部612>
異常走行検出部611は、3軸加速度センサ150a、150bから、天井クレーン100の走行方向の加速度値の信号を入力し、入力した天井クレーン100の走行方向の加速度値が、異常走行判定値記憶部612に記憶されている上下限値の範囲に入っているか否かを判定する。
【0033】
軌道210に異常があることにより天井クレーン100が通常とは異なる挙動をとると、その挙動が天井クレーン100の走行方向の加速度値に影響を与え、天井クレーン100の走行方向の加速度値が、天井クレーン100の走行能力よりも大きな異常な加速度値となる虞がある。そこで、本実施形態では、このような異常な加速度値を検出するために、天井クレーン100の走行能力よりも大きな値を、前記上下限値として異常走行判定値記憶部612に予め記憶する。尚、例えば、天井クレーン100がレール211の継目を乗り越えるときには、この異常な加速度値は正負の値を示す。この異常な加速度値が正の値であるときには、前記上下限値の上限値を超え(上回り)、負の値であるときには前記上下限値の下限値を超える(下回る)ことになる。尚、異常走行判定値記憶部612は、例えば、HDD等を用いることにより実現される。また、上下限値の代わりに絶対値を用いてもよい。
【0034】
ここで、本実施形態では、情報処理装置610が、入力装置620を用いたオペレータの入力指示に基づいて、3軸加速度センサ150a、150bのうち、何れか一方からの信号を処理する場合を例に挙げて説明する。すなわち、軌道210aの異常を検出したい場合、オペレータは、入力装置620を操作して、3軸加速度センサ150a、150bのうち、3軸加速度センサ150aからの信号を処理することを指示する。一方、軌道210bの異常を検出したい場合、オペレータは、入力装置620を操作して、3軸加速度センサ150a、150bのうち、3軸加速度センサ150bからの信号を処理することを指示する。本実施形態では、情報処理装置610は、これらの指示に基づいて、3軸加速度センサ150a、150bのうち、何れか一方からの信号を処理するものとする。
【0035】
<位置信号導出部613>
位置信号導出部613は、異常走行検出部611により、天井クレーン100の走行方向の加速度値が、予め設定された上下限値の範囲に入っていると判定すると、当該天井クレーン100の走行方向の加速度を時間積分して、天井クレーン100の走行方向の速度を導出し、導出した速度にCPUのクロック周期を乗算して、天井クレーン100の走行方向の位置の変化分を導出する。
本実施形態では、北限ストライカ330aの「天井クレーン100の走行方向における位置」を原点(x=0)として、天井クレーン100の走行方向における位置を表すものとする。天井クレーン100の走行方向の位置の変化分は、正の値及び負の値の何れの値にもなる。天井クレーン100の走行方向の位置の変化分は、例えば、図3に示すx軸方向(矢印の方向)を正とする値であるとする。
尚、位置信号導出部613は、天井クレーン100の走行方向の加速度を2回時間積分して、天井クレーン100の走行方向の位置の変化分を導出してもよい。
【0036】
<現在位置導出部614、リミットスイッチ位置記憶部615>
リミットスイッチ位置記憶部615は、北限ストライカ330a、乗込口ストライカ330b、及び南限ストライカ330cの「天井クレーン100の走行方向における位置」(x軸座標)を予め記憶している。尚、リミットスイッチ位置記憶部615は、例えば、HDD等を用いることにより実現される。
【0037】
前述したように、北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、及び南限リミットスイッチ132cは、可動部が作動(回動)している間、そのことを示すオン信号を出力する。
現在位置導出部614は、北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、又は南限リミットスイッチ132cから、可動部が作動(回動)したことを示すオン信号を受信したか否かを判定する。
【0038】
この判定の結果、北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、又は南限リミットスイッチ132cから、可動部が作動(回動)したことを示すオン信号を受信していない場合、現在位置導出部614は、前回位置記憶部616に記憶されている「天井クレーン100の走行方向における前回の位置」に、位置信号導出部613により導出された「天井クレーン100の走行方向の位置の変化分」を加算した位置を、天井クレーン100の走行方向における現在の位置として導出する。このとき、異常走行検出部611により、天井クレーン100の走行方向の加速度値が上下限値の範囲に入っていないと判定された場合には、天井クレーン100の走行方向の位置の変化分を0(ゼロ)として、天井クレーン100の走行方向における現在の位置を導出する。
【0039】
一方、北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、又は南限リミットスイッチ132cから、オン信号を受信した場合、現在位置導出部614は、当該オン信号の送信元であるリミットスイッチ132a、132b、又は132cの「天井クレーン100の走行方向における位置」を、リミットスイッチ位置記憶部615から読み出し、読み出した位置を、天井クレーン100の走行方向における現在の位置として決定する。
【0040】
以上のように、現在位置導出部614は、北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、又は南限リミットスイッチ132cから、オン信号を受信しない場合には、1クロック周期に1回、位置信号導出部613により導出された「天井クレーン100の走行方向の位置の変化分」を加算する。天井クレーン100の走行方向の加速度値等に誤差があると、この加算を行う度に、誤差が累積されることになる。そこで、本実施形態では、北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、又は南限リミットスイッチ132cから、オン信号を受信すると、当該オン信号の送信元であるリミットスイッチ132a、132b、又は132cの「天井クレーン100の走行方向における位置」を、天井クレーン100の走行方向における現在の位置とすることにより、この誤差の修正を行う。
現在位置導出部614は、以上のようにして1クロック周期に1回「天井クレーン100の走行方向における現在の位置」を決定し、決定した位置を示す現在位置信号を表示器630に出力する。
【0041】
<位置更新部617、前回位置記憶部616>
位置更新部617は、前回位置記憶部616に記憶されている「天井クレーン100の走行方向における前回の位置」を、現在位置導出部614により決定された「天井クレーン100の走行方向における現在の位置」に書き換えて、前回位置記憶部616に記憶されている「天井クレーン100の走行方向における前回の位置」を更新する。尚、前回位置記憶部616は、例えば、RAM又はCPUのレジスタを用いることにより実現される。
【0042】
<異常振動判定部618、異常振動判定値記憶部619>
異常振動判定部618は、3軸加速度センサ150a又は150bから、天井クレーン100の高さ方向の加速度値の信号を入力し、入力した天井クレーン100の高さ方向の加速度値が、異常振動判定値記憶部619に記憶されている上下限値の範囲に入っているか否かを判定する。
軌道210(レール211)の継ぎ目の間隔が広くなったり、軌道210(レール211)の変形(垂直方向・水平方向への曲がり)が大きくなったりして、軌道210に異常が発生すると、当該異常な箇所を走行する天井クレーン100は、主としてその高さ方向への振動が通常と異なる振動になる。そこで、本実施形態では、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が、上下限値の範囲に入っているか否かを判定することにより、軌道210に異常があるか否かを判定する。
【0043】
例えば、天井クレーン100及び天井クレーン100を運転するための設備の構造解析を行ったり、模擬的に異常な状態を作った軌道210に天井クレーン100を走行させたときの天井クレーン100の高さ方向の加速度を測定したりして、軌道210が正常であると見なせるときの「天井クレーン100の高さ方向の加速度値」の上限値と下限値を、異常振動判定値記憶部619に記憶する上下限値とすることができる。ここで、加速度値は、正負の値を示すので、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が正の値のときには、前記上下限値の上限値を超えた(上回った)ときに、軌道210に異常があると判定され、負の値のときには、前記上下限値の下限値を超えた(下回った)ときに、軌道210に異常があると判定される。尚、異常振動判定値記憶部619は、例えば、HDD等を用いることにより実現される。また、上下限値の代わりに絶対値を用いてもよい。
【0044】
異常振動判定部618は、以上のようにして1クロック周期に1回、3軸加速度センサ150a又は150bから、天井クレーン100の高さ方向の加速度値の信号を入力し、入力した「天井クレーン100の高さ方向の加速度値」が上下限値を超えたか否かを判定する。そして、異常振動判定部618は、天井クレーン100の高さ方向の加速度値の信号を、天井クレーン100の高さ方向の振動値を示す振動値信号として、(1クロック周期に1回)表示器630に出力する。また、異常振動判定部618は、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が上下限値を超えた場合には、軌道210に異常があることを示す異常有信号を表示器630に出力する一方、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が上下限値を超えていない場合には、軌道210に異常がないことを示す異常無信号を表示器630に出力する。これら異常有信号及び異常無信号の何れかが、異常有無信号として、(1クロック周期に1回)表示器630に出力される。さらに、異常振動判定部618は、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が上下限値を超えた場合には、異常有信号を、(1クロック周期に1回)警報器640に出力する。
【0045】
(表示器630)
<位置・振動・異常有無取込部631>
位置・振動・異常有無取込部631は、情報処理装置610のCPUの1クロック周期に1回、現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号を、情報処理装置610から取り込み、それらの信号の値を、内部のメモリに順次記憶していく。本実施形態では、位置・振動・異常有無取込部631の内部のメモリには、現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号の値の組を、所定時間分だけ記憶する領域が設けられているものとする。位置・振動・異常有無取込部631は、取り込んだ「現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号の値」の組を、当該メモリの領域の先頭から順番に記憶する。そして、位置・振動・異常有無取込部631は、所定時間分の「現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号の値」の組を記憶した後は、既に記憶されている「現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号の値」のうち、最も早く記憶した「現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号の値」を、新たに取り込んだ「現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号の値」に書き換える。
【0046】
<位置・振動・異常有無表示部632>
位置・振動・異常有無表示部632は、位置・振動・異常有無取込部631により記憶されている「現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号の値」に基づいて、軌道210の異常に関する情報を表示するための表示データを生成してコンピュータ画面に表示する。
図7は、軌道210の異常に関する情報の表示画面700の一例を示す図である。
図7に示す表示画面700には、軌道210の位置と振動との関係をグラフにして示す表示領域710と、軌道210の異常の発生場所と発生時刻とを文字(文章)で表示する表示領域720とが含まれている。
【0047】
図7に示す例では、表示領域710において、異常が検出された場所を他の場所と区別して表示するために、異常が検出された場所に対して矢印711を表示している。ただし、異常が検出された場所を他の場所と区別して表示する方法は、このような方法に限定されない。例えば、異常が検出された場所を他の場所と異なる色で表示してもよい。
また、異常が検出されていない場合には、表示領域720に、その旨が文字(文章)で表示される。
点検員は、このような表示画面700を参照して、異常が発生している場所を大まかに確認して、目視により、実際に異常が発生している場所を特定する。
尚、軌道210に異常が発生している場所を表示していれば、必ずしも図7に示すように、天井クレーン100の振動の情報や、異常が発生した時刻等の情報を表示しなくてもよい。
【0048】
(警報器640)
<警報出力部641>
警報出力部641は、情報処理装置610から、異常有信号を取り込むと、軌道210に異常が発生していることを、警報器640が備えているブザーやランプにより、運転室140にいる運転手に報知する。尚、これらの報知は、例えば、運転手がブザーやランプのスイッチを切ることにより中止される。
【0049】
(動作フローチャート)
次に、図8のフローチャートを参照しながら、情報処理装置610の動作の一例を説明する。
まず、ステップS801において、情報処理装置610は、3軸加速度センサ150から、天井クレーン100の走行方向の3軸の加速度値(3軸加速度信号)を入力する。
次に、ステップS802において、異常走行検出部611は、天井クレーン100の走行方向の加速度値が、異常走行判定値記憶部612に記憶されている上下限値の範囲に入っているか否かを判定する。
【0050】
この判定の結果、天井クレーン100の走行方向の加速度値が上下限値の範囲に入っている場合には、ステップS803に進む。ステップS803に進むと、位置信号導出部613は、天井クレーン100の走行方向の加速度を時間積分して、天井クレーン100の走行方向の速度を導出し、導出した速度にCPUのクロック周期を乗算して、天井クレーン100の走行方向の位置の変化分を導出する。そして、ステップS804の処理に進む。
一方、天井クレーン100の走行方向の加速度値が上下限値の範囲に入っていない場合には、ステップS803の処理を省略してステップS804の処理に進む。
【0051】
ステップS804に進むと、現在位置導出部614は、北限リミットスイッチ132a、乗込口リミットスイッチ132b、又は南限リミットスイッチ132cから、可動部が作動(回動)したことを示すオン信号を受信したか否かを判定する。この判定の結果、オン信号を受信した場合には、ステップS805に進む。
ステップS805に進むと、現在位置導出部614は、当該オン信号の送信元であるリミットスイッチ132a、132b、又は132cの「天井クレーン100の走行方向における位置」を、天井クレーン100の走行方向における現在の位置として決定する。そして、ステップS807の処理に進む。
【0052】
一方、オン信号を受信していない場合には、ステップS806に進む。ステップS806に進むと、現在位置導出部614は、前回位置記憶部616に記憶されている「天井クレーン100の走行方向における前回の位置」に、ステップS803で導出された「天井クレーン100の走行方向の位置の変化分」を加算した位置を、天井クレーン100の走行方向における現在の位置として決定する。そして、ステップS807の処理に進む。尚、ステップS802において、天井クレーン100の走行方向の加速度値が上下限値の範囲に入っていないと判定された場合には、天井クレーン100の走行方向の位置の変化分を0(ゼロ)としてステップS806の処理を行う。
ステップS807に進むと、位置更新部617は、前回位置記憶部616に記憶されている「天井クレーン100の走行方向における前回の位置」を、ステップS805又はS806で決定された「天井クレーン100の走行方向における現在の位置」に書き換えて、前回位置記憶部616に記憶されている「天井クレーン100の走行方向における前回の位置」を更新する。
【0053】
次に、ステップS808において、現在位置導出部614は、ステップS805又はA806で決定した「天井クレーン100の走行方向における現在の位置」を示す現在位置信号を表示器630に出力する。
次に、ステップS809において、異常振動判定部618は、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が、異常振動判定値記憶部619に記憶されている上下限値の範囲に入っているか否かを判定する。
【0054】
この判定の結果、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が入っていない場合には、ステップS810に進む。ステップS810に進むと、異常振動判定部618は、軌道210に異常があることを示す異常有信号を警報器640に出力する。そして、ステップS811の処理に進む。
一方、天井クレーン100の高さ方向の加速度値が入っている場合には、ステップS810の処理を省略してステップS811の処理に進む。
【0055】
ステップS811に進むと、異常振動判定部618は、天井クレーン100の高さ方向の振動値を示す振動値信号と、異常有無信号とを表示器630に出力する。
以上のステップS801〜S811の処理が、情報処理装置610のCPUの1クロック周期に1回行われる。そして、ステップS801の処理に戻り、情報処理装置610のCPUのクロック周期単位でステップS801〜S811の処理が繰り返し行われる。
尚、情報処理装置610の処理の順番は、図8に示す順番に限られない。例えば、ステップS802〜S808の処理と、ステップS809〜S811の処理の順番を入れ替えてもよい。
【0056】
(まとめ)
以上のように本実施形態では、天井クレーン100のサドル130a、130bに、天井クレーン100の走行方向(x軸)と、天井クレーン100のサドル130の横行方向(y軸)と、天井クレーン100の高さ方向(z軸)のそれぞれの加速度値を検出する3軸加速度センサ150a、150bを取り付ける。この3軸加速度センサ150a、150bから、天井クレーン100の走行方向及び高さ方向の加速度を取り込み、走行方向の加速度値を使って天井クレーン100の走行方向の現在位置を導出すると共に、高さ方向の加速度値を使って軌道210の異常の有無を検出する。そして、異常のあった場所をコンピュータ画面に表示したり、軌道210に異常があったことをブザーやランプで報知したりする。
【0057】
したがって、ハードウェアとしては、既存の天井クレーン100に3軸加速度センサ150a、150bを取り付けるだけで、軌道210の異常を自動的に且つ定量的に検出することができる。また、軌道210の長さは、天井クレーン100が敷設される設備に応じた長さに限定されると共に、天井クレーン100の走行方向は図3のx軸の正負の方向に限定されるので、異常として検出された場所を大まかに検出できればよい。よって、その検出精度は、例えば±50cm程度でよい。このため、天井クレーン100の走行方向の加速度値をそのまま用いて天井クレーン100の走行方向における位置を導出することができ、複雑な演算処理を行う必要がない。
【0058】
よって、軌道210の異常の有無を常時判定することにより、軌道210の異常があったことを早期に発見できると共に、異常のあった場所を特定することが、簡易に且つ安価に実現することができる。このように、本実施形態によれば、大規模な設備を導入しなくてもよいので、軌道210の異常を自動的に且つ定量的に検出する仕組みを、数多くの天井クレーンに短期間に導入することができる。例えば、製鉄所では、1つの工場に数多くの天井クレーンが存在するので、製鉄所における天井クレーンの全てに、本実施形態で説明した仕組みを導入しても、多大な費用と時間をかけることなく、老朽化した天井クレーンの延命化や新設する天井クレーンの長寿命化を図ることができる。
【0059】
(変形例)
<変形例1>
本実施形態では、情報処理装置610が、3軸加速度センサ150a、150bのうち、何れか一方からの信号を処理する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。すなわち、3軸加速度センサ150a、150bの双方の信号を情報処理装置610が(CPUの1クロック周期内に)取り込むようにしてもよい。このようにした場合、情報処理装置610は、例えば、表示器630に出力する「現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号」と、警報器640に出力する「異常有信号」とのそれぞれに対し、軌道210a、201bの何れの信号であるのかを識別する軌道識別信号を付与する。このようにすれば、表示器630は、軌道210の位置と振動との関係を示すグラフを軌道210a、210b毎に表示領域710に表示することができると共に、軌道210の異常の発生場所と発生時刻とを軌道210a、210b毎に表示領域720に表示することができる。また、警報器640は、異常のあった軌道210a、210bに応じて異なる態様で、軌道210に異常が発生していることを報知することもできる。
【0060】
<変形例2>
軌道210に異常がある場合であっても、天井クレーン100の高さ方向の加速度は、重力加速度を大きく超えることは想定されづらい。そこで、例えば、天井クレーン100の高さ方向の加速度値の絶対値が、所定の値を超えた場合には、図8のステップS809、S810の処理を行わずに、前回と同じ信号(振動値信号、異常有無信号、異常時には異常有信号)を出力してもよい。
<変形例3>
本実施形態では、天井クレーン100の走行方向の加速度値が、予め設定された上下限値の範囲に入っていない場合には、天井クレーン100の走行方向の加速度値が、天井クレーン100の走行能力よりも大きな異常な加速度値であるものとして、天井クレーン100の走行方向の位置の変化分を「0(ゼロ)」とした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、位置信号導出部613により導出された「天井クレーン100の走行方向の位置の変化分」が、天井クレーン100の走行能力よりも大きな異常な値である場合に、天井クレーン100の走行方向の位置の変化分を「0(ゼロ)」としてもよい。
【0061】
<変形例4>
本実施形態では、現在位置信号、振動値信号、及び異常有無信号を表示器630で相互に関連付けて記憶するようにしたが、これらの信号を情報処理装置610で相互に関連付けて記憶するようにしてもよい。
<変形例5>
本実施形態では、天井クレーン100の振動値・軌道210の異常の有無・異常の発生場所・異常の発生時刻の情報の表示と、軌道210に異常があることの報知とを、運転室140の内部にある装置で行うようにした。しかしながら、これらの表示と報知の少なくとも何れか一方を、運転室140とは別の場所で行うようにしてもよい。例えば、複数の天井クレーン100の運転管理を統括して行っている管理室の装置で、これらの表示と報知の少なくとも何れか一方を行ってもよい。このようにする場合には、天井クレーン100側と、管理室側とで無線通信を行うことができる。
<変形例6>
本実施形態のように、サドル130a、130bに3軸加速度センサ150a、150bを取り付ければ、3軸加速度センサ150a、150bを車輪131a〜131dの近くに容易に配置することができ、軌道210の異常が検出し易くなるので好ましいが、3軸加速度センサ150a、150bを必ずしもサドル130a、130bに取り付ける必要はない。この場合、3軸加速度センサ150a、150bを車輪131a〜131dの近くに配置するのが好ましい。尚、3軸加速度センサ150a、150bをサドル130a、130bに取り付ける場合には、3軸加速度センサ150a、150bを取り付け可能な位置であれば、サドル130a、130bのどこに3軸加速度センサ150a、150bを取り付けてもよい。
<変形例7>
本実施形態のように、3軸加速度センサ150a、150bを用いれば、入手が容易であるので好ましいが、天井クレーン100のガーダ110の横行方向(y軸)の加速度値を必ずしも検出する必要はないので、3軸加速度センサ150a、150bの代わりに、天井クレーン100の走行方向(x軸)と、天井クレーン100の高さ方向(z軸)のそれぞれの加速度値を検出する2軸加速度センサを用いてもよい。また、天井クレーン100の走行方向(x軸)の加速度値を検出する1軸加速度センサと、天井クレーン100の高さ方向(z軸)の加速度値を検出する1軸加速度センサと(の組)を3軸加速度センサ150a、150bの代わりに用いてもよい。
【0062】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0063】
(請求項との対応)
<請求項1、7>
位置導出手段は、例えば、位置信号導出部613、現在位置導出部614、前回位置記憶部616、及び位置更新部617を用いることにより実現される。また、位置導出工程は、例えば、ステップS801、S803、S806、S807の処理を行うことにより実現される。
異常振動判定手段は、例えば、異常振動判定部618及び異常振動判定値記憶部619を用いることにより実現される。また、異常振動判定工程は、例えば、ステップS809の処理を行うことにより実現される。ここで、異常振動判定値は、例えば、異常振動判定値記憶部619に記憶されている上下限値を用いることにより実現される。
表示手段は、例えば、位置・振動・異常有無取込部631及び位置・振動・異常有無表示部632を用いることにより実現される。表示工程は、例えば、位置・振動・異常有無表示部632が図7に示す表示画面700を表示するための処理を行うことにより実現される。
<請求項2、9>
位置記憶手段は、例えば、リミットスイッチ位置記憶部615を用いることにより実現される。位置記憶工程は、例えば、北限ストライカ330a、乗込口ストライカ330b、及び南限ストライカ330cの「天井クレーン100の走行方向における位置」(x軸座標)をHDDに記憶する処理を行うことにより実現される。
位置導出手段は、例えば、位置信号導出部613、現在位置導出部614、前回位置記憶部616、及び位置更新部617を用いることにより実現される。また、位置導出工程は、例えば、ステップS801、S803、S804、S805、S807の処理を行うことにより実現される。
<請求項4、11>
異常走行判定手段は、例えば、異常走行検出部611及び異常走行判定値記憶部612を用いることにより実現される。異常走行判定工程は、例えば、ステップS802の処理を行うことに実現される。
位置導出手段は、例えば、位置信号導出部613、現在位置導出部614、前回位置記憶部616、及び位置更新部617を用いることにより実現される。位置導出工程は、例えば、ステップS803の処理が、ステップS802でYesと判定された場合に行われることにより実現される。
<請求項6、13>
報知手段は、例えば、警報出力部641を用いることにより実現される。報知工程は、例えば、異常有信号の入力に応じてブザーを鳴らしたり、ランプを発光させたりすることにより実現される。
【符号の説明】
【0064】
100 天井クレーン
110 ガーダ
120 トロリ
130 サドル
131 車輪
132 リミットスイッチ
140 運転室
150 3軸加速度センサ
210 軌道
211 レール
310 バンパストッパ
320 乗込口
330 ストライカ
610 情報処理装置
620 入力装置
630 表示器
640 警報器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井クレーンが走行する軌道の異常を検出するクレーン軌道異常検出システムであって、
前記天井クレーンに取り付けられた加速度センサであって、前記天井クレーンの走行方向の加速度と、前記天井クレーンの高さ方向の加速度とを検出する加速度センサと、
前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出する位置導出手段と、
前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの高さ方向の加速度と、予め設定された異常振動判定値とを比較した結果に基づいて、前記軌道の異常の有無を判定する異常振動判定手段と、
前記異常振動判定手段により異常があると判定された場所を示す情報を表示装置に表示する表示手段と、を有することを特徴とするクレーン軌道異常検出システム。
【請求項2】
前記天井クレーンに取り付けられているリミットスイッチであって、当該天井クレーンが所定の位置を通過したときに作動するリミットスイッチと、
前記所定の位置の情報を予め記憶する位置記憶手段と、を有し、
前記位置導出手段は、前記リミットスイッチにより、前記天井クレーンが所定の位置を通過したことが検出されると、前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度を用いずに、当該所定の位置を、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置として導出することを特徴とする請求項1に記載のクレーン軌道異常検出システム。
【請求項3】
前記所定の位置は、前記軌道の一端に対応する位置と、前記軌道の他端に対応する位置と、前記天井クレーンの乗込口に対応する位置と、を含むことを特徴とする請求項2に記載のクレーン軌道異常検出システム。
【請求項4】
前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度が異常であるか否かを判定する異常走行判定手段を有し、
前記位置導出手段は、前記異常走行判定手段により、前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度が異常でないと判定された場合に、前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出システム。
【請求項5】
前記加速度センサは、前記天井クレーンの両端に位置するサドルにそれぞれ取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出システム。
【請求項6】
前記異常振動判定手段により異常があると判定されると、そのことを、前記表示手段とは別の形態で報知する報知手段を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出システム。
【請求項7】
前記加速度センサは、3軸加速度センサであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出システム。
【請求項8】
天井クレーンが走行する軌道の異常を検出するクレーン軌道異常検出方法であって、
前記天井クレーンに取り付けられた加速度センサであって、前記天井クレーンの走行方向の加速度と、前記天井クレーンの高さ方向の加速度とを加速度センサにより検出する加速度検出工程と、
前記加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出する位置導出工程と、
前記加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの高さ方向の加速度と、予め設定された異常振動判定値とを比較した結果に基づいて、前記軌道の異常の有無を判定する異常振動判定工程と、
前記異常振動判定工程により異常があると判定された場所を示す情報を表示装置に表示する表示工程と、を有することを特徴とするクレーン軌道異常検出方法。
【請求項9】
前記天井クレーンに取り付けられているリミットスイッチであって、当該天井クレーンが所定の位置を通過したときに作動するリミットスイッチにより、当該天井クレーンが所定の位置を通過したことを検出する通過検出工程と、
前記所定の位置の情報を予め記憶する位置記憶工程と、を有し、
前記位置導出工程は、前記通過検出工程により、前記天井クレーンが所定の位置を通過したことが検出されると、前記加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度を用いずに、当該所定の位置を、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置として導出することを特徴とする請求項8に記載のクレーン軌道異常検出方法。
【請求項10】
前記所定の位置は、前記軌道の一端に対応する位置と、前記軌道の他端に対応する位置と、前記天井クレーンの乗込口に対応する位置と、を含むことを特徴とする請求項9に記載のクレーン軌道異常検出方法。
【請求項11】
前記加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度が異常であるか否かを判定する異常走行判定工程を有し、
前記位置導出工程は、前記異常走行判定工程により、前記加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度が異常でないと判定された場合に、前記3軸加速度検出工程により検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出することを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出方法。
【請求項12】
前記加速度センサは、前記天井クレーンの両端に位置するサドルにそれぞれ取り付けられていることを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出方法。
【請求項13】
前記異常振動判定工程により異常があると判定されると、そのことを、前記表示工程とは別の形態で報知する報知工程を有することを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出方法。
【請求項14】
前記加速度センサは、3軸加速度センサであることを特徴とする請求項8〜13の何れか1項に記載のクレーン軌道異常検出方法。
【請求項15】
天井クレーンが走行する軌道の異常を検出することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記天井クレーンに取り付けられた加速度センサであって、前記天井クレーンの走行方向の加速度と、前記天井クレーンの高さ方向の加速度とを検出する加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの走行方向の加速度に基づいて、前記天井クレーンの走行方向における現在の位置を導出する位置導出工程と、
前記加速度センサにより検出された、前記天井クレーンの高さ方向の加速度と、予め設定された異常振動判定値とを比較した結果に基づいて、前記軌道の異常の有無を判定する異常振動判定工程と、
前記異常振動判定工程により異常があると判定された場所を示す情報を表示装置に表示する表示工程と、をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−224459(P2012−224459A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95379(P2011−95379)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】