説明

クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物

【課題】本発明は、従来の性能に加え、酸化安定性および耐スカッフィング性を向上させた、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】芳香族分含有量が8.5質量%以上である基油に、組成物全量基準で、(A)アルカリ土類金属フェネートを、フェネート石鹸分として0.005モル/kg以上、(B)アミン系酸化防止剤を0.1〜5質量%、および(C)油溶性モリブデン化合物をモリブデン元素換算で30〜500質量ppm含有し、組成物の塩基価が20〜100mgKOH/g、100℃の動粘度が12.6mm/s以上であることを特徴とするクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッド型ディーゼル機関にはシリンダーとピストン間を潤滑するシリンダー油と、その他の部位の潤滑と冷却を司るシステム油が使用されている。シリンダー油はシリンダーとピストン(ピストンリング)間の潤滑のために必要な適正な粘度と、ピストン、ピストンリングの運動が適正に行われるために必要な清浄性を保つ機能が求められる。さらにこの機関は、その経済性から高硫黄燃料が通常使用されるため、燃焼により生成した硫酸等の酸性成分によるシリンダー腐食の問題を抱えている。この問題を防ぐため、シリンダー油には生成する硫酸等の酸性成分を中和し、腐食を防止する機能も必要である。
【0003】
一方、近年のクロスヘッド型ディーゼル機関は更なる性能の向上のため、シリンダー径の大型化(例えばボアサイズ70cm以上)、ピストンストロークの増大(例えば、平均ピストン速度で8m/s以上となるような超ロングストローク化)、燃焼圧力の増大(例えば、正味有効圧力(BMEP)1.8MPa以上)が進められる傾向にあり、ピストンやシリンダー壁温の上昇につながっている。燃焼圧力の増大は硫酸の滴点上昇を招くため、シリンダーの硫酸腐食が発生しやすい状況になってきた。さらに、この硫酸腐食防止のための方策として、シリンダー壁温を上昇させる傾向(例えば、シリンダー壁温250℃以上)にあり、しかも経済性から、シリンダーに注油される潤滑油量をも削減されつつあるため、シリンダーの潤滑環境は一段と厳しさを増してきた。このような環境変化に伴い、耐スカッフィング性を向上させることが急務となってきた(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
シリンダー油は、全損式の潤滑油であるためこれまで酸化安定性については省みられることはなかった(特許文献1、特許文献2)。本発明者らは、特定の酸化防止剤を添加することにより、酸化防止性のみならず耐スカッフィング性が著しく向上することを見出した。一方、潤滑油において酸化安定性を向上するためには、芳香族成分の少ない基油を用いること、あるいは、酸化防止剤を添加することが知られている。また、モリブデン化合物が酸化防止剤として作用することは知られている(特許文献3、特許文献4)。特許文献3では、硫黄を除去した油溶性モリブデン化合物、油溶性ジアリールアミンおよびアルカリ土類金属のフェネートを水素化分解基油に添加したクランクケース油は、酸化安定性が良好で、タペット摩耗を減少させかつリングおよびバルブの付着物を減少させることを開示している。特許文献4は、芳香族成分が3.0重量%以下の基油にアルキルジフェニルアミン類および/またはフェニル−α−ナフチルアミン類および硫化オキシモリブデンジチオカルバメートおよび/または硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジエートを含有させた潤滑油が高耐熱性、高酸化安定性および低摩擦性を有することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239774号公報
【特許文献2】特開2007−197700号公報
【特許文献3】特許第3507915号公報
【特許文献4】特許第3608805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の性能に加え、酸化安定性および耐スカッフィング性を向上させた、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、芳香族分含有量が8.5質量%以上の基油に、アルカリ土類金属フェネート、アミン系酸化防止剤および油溶性モリブデン化合物を特定割合で配合した潤滑油組成物が、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、芳香族分含有量が8.5質量%以上である基油に、組成物全量基準で、(A)アルカリ土類金属フェネートを、フェネート石鹸分として0.005モル/kg以上、(B)アミン系酸化防止剤を0.1〜5質量%、および(C)油溶性モリブデン化合物をモリブデン元素換算で30〜500質量ppm含有し、組成物の塩基価が20〜100mgKOH/g、100℃の動粘度が12.6mm/s以上であることを特徴とするクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に関する。
【0009】
また本発明は、(B)アミン系酸化防止剤が、アルキルジフェニルアミンおよび/またはN−フェニル−α−ナフチルアミンであることを特徴とする前記記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に関する。
【0010】
また本発明は、(C)油溶性モリブデン化合物がモリブデンジチオカーバメートおよび/またはモリブデンジチオホスフェートであることを特徴とする前記記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に関する。
【0011】
また本発明は、さらに(D)無灰分散剤を組成物全量基準で1〜8質量%含有することを特徴とする前記記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑油組成物は、耐スカッフィング性、耐熱性、酸化安定性に優れ、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として好適であり、特に、平均ピストン速度で8m/s以上、さらには8.5m/s以上となるような超ロングストローク、燃焼圧力が正味有効圧力(BMEP)で1.8MPa以上、さらには1.9MPa以上、シリンダー壁温の最高温度230℃以上、さらには250℃以上、特に270℃以上となるような条件のいずれかあるいは全てを満たす条件で運転される電子制御2ストロークサイクルディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として特に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物(以下、単に本発明の潤滑油組成物という。)において用いる潤滑油基油の種類には特に制限はなく、鉱油、合成油またはこれらの混合物を使用することができる。
【0014】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等を例示することができる。
【0015】
合成油系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;エチレンと炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等を例示することができる。
【0016】
本発明の潤滑油組成物において用いる潤滑油基油としては、鉱油系基油または合成油系基油をそれぞれ1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよいし、また鉱油系基油の1種又は2種以上と合成油系基油の1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0017】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油の芳香族分の下限は、潤滑油基油全量を基準として、8.5質量%以上であることが必要であり、好ましくは12.5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、潤滑油基油の芳香族分の上限は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは49質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。潤滑油基油の芳香族分が8.5質量%未満の場合には、添加剤およびデポジット前駆体の溶解性の低下のおそれがある。49質量%を超えると潤滑油の劣化により堆積物の増大やリング膠着が発生するおそれがある。
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0018】
本発明に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は特に制限されないが、好ましくは40mm/s以下、より好ましくは35mm/s以下、さらに好ましくは30mm/s以下、特に好ましくは20mm/s以下である。一方、当該100℃における動粘度は、好ましくは4mm/s以上、より好ましくは6mm/s以上、さらに好ましくは8mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油の100℃における動粘度が40mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化するおそれがあり、4mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0019】
また、本発明に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は特に制限されないが、好ましくは700mm/s以下、より好ましくは570mm/s以下、さらに好ましくは450mm/s以下、特に好ましくは240mm/s以下である。一方、当該40℃における動粘度は、好ましくは20mm/s以上、より好ましくは30mm/s以上、さらに好ましくは80mm/s以上である。潤滑油基油の40℃における動粘度が700mm/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化するおそれがあり、20mm/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0020】
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は85以上であることが好ましく、より好ましくは90以上、更に好ましくは95以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油も使用することができる。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0021】
また、本発明の潤滑油基油の%Cは1.9以上であることが好ましく、より好ましくは2.7以上、更に好ましくは3.7以上である。潤滑油基油の%Cが1.9未満の場合には、酸化防止効果が十分得られないおそれがある。なお、本発明でいう%Cとは、ASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。
【0022】
本発明の潤滑油組成物においては、(A)成分としてアルカリ土類金属フェネート(以後フェネート系金属清浄剤(A)と呼ぶ)を必須成分として含有する。フェネート系金属清浄剤(A)は、例えば、下記式(1)〜(3)で示される構造のアルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、又はその(過)塩基性塩を含有するフェネート系金属清浄剤である。
上記アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
上記一般式(1)〜(3)中、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示す。炭素数が4より短いと潤滑油基油に対する溶解性に劣るおそれがあり、炭素数が30より長いと製造が難しく、また耐熱性に劣るおそれがある。R〜Rの具体例としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられ、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
、M及びMは、それぞれアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム及び/又はマグネシウムを示し、x、y、zはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、mは0、1又は2、nは0又は1を示す。
【0025】
フェネート系金属清浄剤(A)の塩基価は50〜400mgKOH/gの範囲が好ましく、100〜350mgKOH/gの範囲がより好ましく、120〜300mgKOH/gの範囲が更に好ましい。該塩基価が50mgKOH/g未満の場合は、腐食摩耗が増大するおそれがあり、400mgKOH/gを超える場合は溶解性に問題を生ずるおそれがある。
なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0026】
フェネート系金属清浄剤(A)の金属比は特に制限はないが、下限は1以上、好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上、上限は好ましくは20以下、より好ましくは15以下、特に好ましくは10以下のものを使用することが望ましい。なお、ここでいう金属比とは、フェネート系金属清浄剤(A)における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、せっけん基とはフェノール基を意味する。
【0027】
本発明の潤滑油組成物において、上記(A)成分の含有割合は、組成物全量基準で、石鹸分として0.005モル/kg以上であることが必要であり、好ましくは0.01モル/kg以上、より好ましくは0.015モル/kg以上である。含有割合が0.005モル/kg未満の場合は、必要とする耐熱性およびスカッフィング防止性が得られないおそれがある。
【0028】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油組成物の塩基価を調整するために、前記フェネート系金属清浄剤(A)以外の金属系清浄剤を含有することができる。具体的には、スルホネート系清浄剤、サリチレート系清浄剤、カルボキシレート系清浄剤およびホスホネート系清浄剤から選ばれる1種以上の金属系清浄剤を使用することができる。
【0029】
スルホネート系清浄剤としては、分子量300以上、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0030】
上記アルキル芳香族スルフォン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルフォン酸や合成スルフォン酸等が挙げられる。ここでいう石油スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルフォン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルフォン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルフォン化する際のスルフォン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0031】
サリチレート系清浄剤としては、炭素数1〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリチレート、アルカリ土類金属サリチレート及び/又はその(過)塩基性塩、炭素数20〜40の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属サリチレート、アルカリ土類金属サリチレート及び/又はその(過)塩基性塩、炭素数1〜40の炭化水素基を2つ又はそれ以上有するアルカリ金属サリチレート、アルカリ土類金属サリチレート及び/又はその(過)塩基性塩(これら炭化水素基は同一でも異なっていても良い)等が挙げられる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0032】
本発明において用いる前記フェネート系金属清浄剤(A)以外の金属系清浄剤の塩基価は、100〜500mgKOH/gの範囲であることが好ましく、120〜450mgKOH/gの範囲であることがより好ましく、150〜400mgKOH/gの範囲であることが更に好ましい。かかる金属系清浄剤の塩基価が100mgKOH/g未満の場合には、腐食摩耗が増大するおそれがあり、500mgKOH/gを超える場合には溶解性に問題を生ずるおそれがある。金属比に特に制限はないが、下限は1以上、好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上、上限は好ましくは20以下、より好ましくは15以下、特に好ましくは10以下のものを使用することが望ましい。
【0033】
本発明の潤滑油組成物において、フェネート系金属清浄剤(A)以外の金属系清浄剤の含有量は、組成物全量基準で、潤滑油基油等の希釈剤を含む形で、0〜30質量%、好ましくは0〜20質量%、特に好ましくは0〜15質量%である。
【0034】
本発明の潤滑油組成物は、(B)成分としてアミン系酸化防止剤を必須成分として含有する。本発明におけるアミン系酸化防止剤としては、具体的には、炭素数が4〜20のアルキル基を1個または2個以上含有するジフェニルアミン(以後、単にジフェニルアミンと呼ぶ。)およびN−フェニル−α−ナフチルアミンを挙げることができるが、ジフェニルアミンが好ましい。
【0035】
ジフェニルアミンの置換基の位置はベンゼン環上のいずれの位置でもよく、またアルキル基を2個以上有する場合、それらのアルキル基はいずれのベンゼン環にあってもよい。アルキル基の炭素数は4〜20であることが好ましく、より好ましくは4〜15、更に好ましくは4〜12である。炭素数が4未満の場合、酸化防止性が不十分となるおそれがあり、炭素数が20を超える場合は製造が困難となるおそれがあり好ましくない。
【0036】
ジフェニルアミンとして、具体的には、直鎖または分枝ジブチルジフェニルアミン、直鎖または分枝ジオクチルジフェニルアミン、直鎖または分枝ジノニルジフェニルアミン、直鎖または分枝ジデシルジフェニルアミン、あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、ジブチルジフェニルアミンまたはジオクチルジフェニルアミンが好ましい。
【0037】
本発明における(B)成分の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。その含有量が0.1質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となる傾向にある。一方、(B)成分の含有量が5質量%を超える場合、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0038】
本発明の潤滑油組成物は、(C)成分として油溶性モリブデン化合物を必須成分として含有する。本発明における油溶性モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0039】
また、油溶性モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない油溶性モリブデン化合物を用いることができる。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0040】
これらの油溶性モリブデン化合物の中では、MoDTCおよび/またはMoDTPが好ましく、MoDTCが最も好ましい。
【0041】
本発明の潤滑油組成物に上記(C)成分を含有させる場合の含有割合は、組成物全量基準で、モリブデン元素換算量として30〜500質量ppmであることが必要である。モリブデン元素換算量での含有量の下限値は、好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは80質量ppm以上であり、含有量の上限値は好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下である。モリブデン元素換算量としての含有量が30質量ppm未満では、十分な耐スカッフィング性が得られないおそれがあり、含有量が500質量ppmを超える場合には清浄性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0042】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成に加え、その性能を更に向上させるため又は他に要求される性能を付加するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤をさらに添加することができる。このような添加剤としては、例えば、無灰分散剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤を挙げることができる。
【0043】
本発明の潤滑油組成物は、(D)成分として無灰分散剤を含有することができる。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種あるいは2種以上を配合することができる。
前記含窒素化合物又はその誘導体のアルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は、潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するためそれぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0044】
無灰分散剤としては、例えば、以下の(D−1)成分〜(D−3)成分から選択される1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(D−1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(D−2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(D−3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
【0045】
上記(D−1)成分としては、下記式(4)又は(5)で示される化合物等が例示できる。
【化2】

【0046】
式(4)中、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。一方、式(5)中、R及びRは、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、特に好ましくはポリブテニル基である。また、iは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0047】
(D−1)成分には、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(4)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(5)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれるが、本発明の潤滑油組成物には、それらのいずれも、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよいが、ビスタイプであることがより好ましい。
ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0048】
上記(D−2)成分としては、具体的には下記式(6)で表される化合物等が例示できる。
【化3】

【0049】
式(6)中、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、jは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
この(D−2)成分であるベンジルアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させることにより得られる。
【0050】
(D−3)成分としては、具体的には下記式(7)で表される化合物等が例示できる。
−NH−(CHCHNH)−H (7)
式(7)中、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
この(D−3)成分であるポリアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得られる。
【0051】
前記無灰分散剤の1例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物にホウ素変性、含酸素有機化合物による変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物等が挙げられる。
【0052】
本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で1〜8質量%が好ましい。
【0053】
本発明の潤滑油組成物は極圧剤を含有することができる。用いることができる極圧剤としては、潤滑油に用いられる任意の極圧剤・摩耗防止剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
本発明において、極圧剤・摩耗防止剤としては、ジチオリン酸亜鉛及び/又はポリサルファイド類を使用することが好ましい。
【0054】
本発明の潤滑油組成物において、極圧剤を使用する場合、その含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.2〜1質量%である。本発明において、極圧剤を含有させる場合、0.05質量%未満の場合は、摩耗防止性、耐焼付き性をさらに向上させる効果が少なく、一方、5質量%を超える場合は、組成物の高温清浄性が大幅に悪化するためそれぞれ好ましくない。
【0055】
酸化防止剤としては、前記(B)成分のアミン系酸化防止剤のほかに、フェノール系酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤を含有させることができる。これらの酸化防止剤を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。摩擦調整剤を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
【0056】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。これら粘度指数向上剤の質量平均分子量は、通常10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000である。粘度指数向上剤を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で通常0.1〜20質量%である。
【0057】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0058】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が100〜100,000mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0059】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
【0060】
なお、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は12.6mm/s以上であることが必要であり、好ましくは13mm/s以上、より好ましくは14mm/s以上である。100℃における動粘度が12.6mm/s未満の場合には、油膜形成能が不足し、スカッフィングや過大摩耗が発生するおそれがある。
【0061】
また、本発明の潤滑油組成物の塩基価は、アスファルテンを含有する高硫黄燃料を使用する場合に対しても優れた高温清浄性と酸中和性能を付加するためには、20〜100mgKOH/gであることが必要であり、下限はより好ましくは25mgKOH/g以上、さらに好ましくは30mgKOH/g以上であり、上限はより好ましくは90mgKOH/g以下、さらに好ましくは80mgKOH/g以下である。20mgKOH/g未満の場合は、燃料の燃焼で生じる硫酸等の酸性物質の中和力が十分でなく腐食摩耗が増大するおそれがある。100mgKOH/gを超える場合は、燃料の燃焼で生じる硫酸等の酸性物質の中和に対し過剰であるだけでなく、過剰な塩基分が灰分としてピストンに堆積しスカッフィング等過大摩耗を発生させるおそれがある。
【0062】
本発明の潤滑油組成物の金属量については特に制限はないが、下限は好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上であり、上限は好ましくは3.6質量%以下、より好ましくは3.2質量%以下、さらに好ましくは2.9質量%以下である。金属含有量が0.2質量%未満の場合は、燃焼で生じる酸性物質の中和力が十分でなく、高温清浄性も十分発揮されない。一方、3.6質量%を超える場合は、ピストンに付着し燃焼した後の灰分がピストンに付着し、シリンダーの摩耗を増加させるので好ましくない。
【0063】
また、本発明の潤滑油組成物の硫酸灰分量については特に制限はないが、下限は好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、上限は好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS K2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1〜16、比較例1〜13)
表1および表2に示す本発明の潤滑油組成物(実施例1〜16)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜13)をそれぞれ調製した。得られた組成物について、PDSC酸化安定性試験および高温極圧性試験により、それぞれ酸化安定性および耐スカッフィング性を評価し、その結果を同じく表1および表2に示した。なお、実施例1〜15および比較例1〜12については、添加剤を加えた状態での組成物の100℃における動粘度が20.5mm/sとなるよう2種の基油の配合割合を調整した。また組成物の塩基価が40mgKOH/gになるよう金属系清浄剤を配合した。
【0066】
(基油)
基油A:500ニュートラル(動粘度@100℃:10.8mm/s、粘度指数:97、芳香族分:32.2質量%、%C:7.4%)
基油B:150ブライトストック(動粘度@100℃:31.5mm/s、粘度指数:96、芳香族分:35.7質量%、%C:7.4%)
基油C:250ニュートラル(動粘度@100℃:7.1mm/s、粘度指数:96、芳香族分:34.9質量%、%C:9.3%)
基油D:ポリ−α−オレフィン(PAO)10(動粘度@100℃:10mm/s)
基油E:ポリ−α−オレフィン(PAO)40(動粘度@100℃:39mm/s)
(添加剤)
1)金属系清浄剤
(A)カルシウムフェネート(カルシウム含量:9.2質量%、塩基価:250mgKOH/g、金属比:3.6)
カルシウムスルホネート(カルシウム含量:15.5質量%、塩基価400mgKOH/g)
カルシウムサリシレート(カルシウム含量:8.2質量%、塩基価230mgKOH/g)
2)酸化防止剤
(B−1)ジフェニルアミン(オクチル/t−ブチル混合物)
(B−2)N−フェニル−α−ナフチルアミン
フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール)
3)油溶性モリブデン化合物
(C−1)MoDTC(モリブデン含量10質量%)
(C−2)MoDTP(モリブデン含量8質量%)
(C−3)有機モリブデン錯体(モリブデン含量1.1質量%)
(C−4)モリブデン−アミン錯体(モリブデン含量10質量%)
4)無灰分散剤(アルケニルコハク酸イミド、ビスタイプ、窒素含量:1質量%)
5)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)(2-エチルヘキシル、亜鉛含量9.0質量%、リン含量7.4質量%)
6)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)(アミル、亜鉛含量6.5質量%、硫黄含量12.0質量%)
【0067】
(PDSC酸化安定性試験)
試料油5mgを採取し、圧力2MPaの酸素雰囲気下、温度200℃で酸化し、酸化により急激な発熱が生ずるまでの時間をPDSC誘導時間とする。
(高温極圧性試験)
往復動摩擦摩耗試験機(Plint社製TE77)により評価した。負荷200N、振幅15mm、振動数50Hzにおいて、試験片温度を室温より350℃まで昇温速度5℃/minで上昇させ、この間の摩擦係数を測定する。摩擦係数が急激に上昇する温度をTE77耐スカッフィング温度とする。
【0068】
【表1】

【表2】

【0069】
表1および表2の結果から明らかなように、本発明の潤滑油組成物はいずれもPDSC酸化安定性試験および高温極圧性試験のいずれにおいても良好な成績を示す。これに対し、フェネート系金属清浄剤を含有しない場合(比較例6、7)、アミン系酸化防止剤を含有しない場合(比較例1、3〜5、12)、油溶性モリブデン化合物を含有しない場合(比較例1〜3、8〜9、12)および芳香族分の少ない基油を用いた場合(比較例10、11)には、酸化安定性または耐スカッフィング性のいずれかまたは両方の成績が劣る。100℃の動粘度が12.6未満の場合(比較例13)は、耐スカッフィング性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の潤滑油組成物は、耐熱性に優れ、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として好適であり、特に、最新型の平均ピストン速度で8m/s以上、さらには8.5m/s以上となるような超ロングストローク、燃焼圧力が正味有効圧力(BMEP)で1.8MPa以上、さらには1.9MPa以上、シリンダー壁の最高温度230℃以上、さらには250℃以上、特に270℃以上となるような条件のいずれかあるいは全てを満たす条件で運転される電子制御2ストロークサイクルディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として特に優れた効果を発揮する。また本発明の潤滑油組成物は、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー油以外の各種舶用ディーゼルエンジン油、コジェネレーション用ディーゼルエンジン油としても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族分含有量が8.5質量%以上である基油に、組成物全量基準で、(A)アルカリ土類金属フェネートを、フェネート石鹸分として0.005モル/kg以上、(B)アミン系酸化防止剤を0.1〜5質量%、および(C)油溶性モリブデン化合物をモリブデン元素換算で30〜500質量ppm含有し、組成物の塩基価が20〜100mgKOH/g、100℃の動粘度が12.6mm/s以上であることを特徴とするクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。
【請求項2】
(B)アミン系酸化防止剤が、アルキルジフェニルアミンおよび/またはN−フェニル−α−ナフチルアミンであることを特徴とする請求項1に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。
【請求項3】
(C)油溶性モリブデン化合物がモリブデンジチオカーバメートおよび/またはモリブデンジチオホスフェートであることを特徴とする請求項1または2に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに(D)無灰分散剤を組成物全量基準で1〜8質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。


【公開番号】特開2011−132338(P2011−132338A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292327(P2009−292327)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】