説明

クロマトグラフィー質量分析方法、及びクロマトグラフ質量分析装置

【課題】質量分析の結果を比較し、異なる試料に含まれる個々の成分を対応付け、その結果を確認し、変動成分を抽出する。
【解決手段】複数成分が含まれている試料をクロマトグラフィー質量分析した結果得られる保持時間と質量電荷比に対応するイオン強度について、少なくとも2つの試料を比較する。そこで、質量スペクトルとして観測したイオン群において、それぞれの質量電荷比の一致と、イオン強度が指定した変動内に収まること等を以って、同じ成分が観測されているであろう保持時間として対応付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー質量分析方法、及びクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー質量分析など、分離装置と質量分析装置を連結し、複数成分から成る試料を測定した場合、試料成分がイオンとして順次観測される。その結果、質量電荷比に対するイオン強度から成る質量スペクトルを時間(所謂、保持時間)ごとに集積した、3次元データを得ることができる。このようなデータを用いて、異なる試料に含まれる成分の量的な比較解析が試みられている。しかし、個々の成分の保持時間が再現しない場合が多く、試料間における同一成分の対応付けの方法が求められている。
【0003】
そこで、成分の保持時間が異なっても、観測される順序は変わらないとの前提に立ち、同一成分が同じ保持時間になるように、保持時間を補正する方法が従来より考案されてきた。例えば、同じ成分であれば質量スペクトルが類似することに着目して、保持時間を対応付ける方法が特許文献1と非特許文献1に開示されている。特許文献1と非特許文献1に開示されている方法では、試料を測定した結果得られる個々の質量スペクトルについて、試料間で類似性を計算している。ただし、クロマトグラフィーによる分離が十分でなく、各質量スペクトルにおいて複数成分に由来するイオンが観測されている状況において、個々の試料成分が変動している場合、質量スペクトルが高精度に一致するとは限らない。そこで、動的計画法を用い、試料成分を観測した保持時間の対応関係を順次求めている。
【0004】
【特許文献1】WO 2004/090526 A1
【非特許文献1】Masaya Ono, Miki Shitashige, Kazufumi Honda, Tomohiro Isobe,Hideya Kuwabara, Hirotaka Matsuzuki, Setsuo Hirohashi, and Tesshi Yamada "Label-free Quantitative Proteomics Using Large Peptide Data Sets Generated by Nanoflow Liquid Chromatography and Mass Spectrometry" Mol. Cell. Proteomics, 5: 1338 - 1347 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、血漿などのように多くの種類の成分が含まれている試料のクロマトグラフィー質量分析の結果を用い、異なる試料における個々の成分の量的な比較を行う技術に関する。クロマトグラフィー質量分析によって得られた測定結果において、個々の成分は保持時間と質量電荷比によって特徴付けられたイオン量として観測される。しかし、異なる試料の測定結果においては、同一成分であっても保持時間が必ずしも一致するとは限らない。そのため、試料間で同一成分の対応付けが困難となっている。また、成分の対応付けに関し、その結果を簡単に確認する方法が重要となる。
【0006】
前記従来の方法では、試料間で保持時間が対応する可能性がある質量スペクトルの類似性をあらかじめ求めておく必要があるため計算量が多い。さらに、質量スペクトルを得る時間間隔が粗くなった場合など、保持時間の対応を順次決定すべきはずの質量スペクトルそのものが存在しない場合は、対応付けの精度が落ちる可能性がある。また、非特許文献1などでは、保持時間と質量電荷比を座標軸に取りイオン強度を濃淡で示す表示を、異なる試料ごとに並置する方法が用いられている。しかし、個々の成分に着目し、対応関係を効率よく確認するための手段を提示してはいない。
【0007】
本発明は、異なる試料に含まれる個々の成分の対応付けを、より簡便な計算処理環境で提供するための方法、その結果を効率よく確認するための方法、変動成分を抽出するための方法、又は装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、複数成分が含まれている試料をクロマトグラフィー質量分析した結果得られる保持時間と質量電荷比に対応するイオン強度について、少なくとも2つの試料を比較し、質量スペクトルとして観測したイオン群において、それぞれの質量電荷比の一致と、イオン強度が指定した変動内に収まること等を以って、同じ成分が観測されているであろう保持時間として対応付ける。
【0009】
また、少なくとも2つの試料のクロマトグラフィー質量分析の結果において、保持時間と質量電荷比の座標軸に対しイオン強度を色又は明暗によって示すマップ表示と、着目する成分のマスクロマトグラム又は個々の質量スペクトルの最大値からなるクロマトグラムの表示を、保持時間の軸を共通にして配置し、成分が対応する保持時間を線分結んで示す。また、異なる試料間で対応する保持時間と質量電荷比について、イオン強度の差又は比の値、又は片方の試料のみに存在するイオン強度、又は双方のイオン強度を、その値あるいは由来する試料に応じて色分けし、濃淡のマップとして表示する。さらに、個々の成分をそれぞれの代表点に変換してマップ表示し、比較解析を可能とする。また、マウスによる位置指定や成分の選択などによって、対応する保持時間と質量電荷比の近傍を拡大した、マップ、質量スペクトル、クロマトグラム、及び観測したイオンの特性や同定結果などの情報を表示する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、異なる試料に含まれる個々の成分の対応付けを、簡便な計算処理環境で実行し、その結果を効率よく確認することができる。また、異なる試料間での変動成分を効率よく抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
がんと正常組織、投薬や手術前後の血液や尿、遺伝子破壊株と野性株、表現型が異なる個体由来の組織など、多成分が混在する試料の成分を比較するケースは非常に多い。例えば、健常者と患者から血液や尿などを採取し、その成分を比較することによって、特定の疾患の初期段階においてのみ観測される成分を発見し、診断に利用しようとする試みや、特定の成分と予後の病態の因果関係を立証し、治療方針の立案に役立てようとするなど、様々なアプローチが成されている。
【0012】
本発明は、多成分が混在する血清、血漿、尿、採取した組織、及び酵母などの培養細胞など、生体に由来する同種の試料において、個々の成分の量的な比較を可能にするものである。特に、変動の大きい成分をリストアップし、順次確認するなどの作業において、質量スペクトルの誤判定や同定結果などの検証作業を容易にする。
【0013】
変動した成分を特定することができれば、試料の違いを示すマーカー候補となり、更なる研究対象として重要な意味を持つ。さらに、遺伝子やタンパク質レベルでの変異、代謝経路の違いなどに関する研究に直結し、医学・生化学分野における基礎的な比較実験にも寄与すると考えられる。
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
1.試料特性
本発明は、複数の成分を含有している同種の試料間において、個々の成分の対応付けを行い、量的な知見を得るためのものであり、同種の試料中に含まれている成分の種類と存
在量の特性を利用する。すなわち、同種の試料からは多くの共通する成分を観測することができ、大多数の成分において試料間で量的な変動がある範囲内に収まることを利用する。
【0015】
もし、比較する試料間で共通する成分が多くない場合、比較すべき試料を混合して得た試料を基準試料とし、混合前の各試料を被補正試料として本発明を適用する。すなわち、被補正試料に含まれる全成分が基準試料に含まれているため、多くの共通成分を観測でき、本発明の適用が可能となる。
【0016】
図1は、基準とする試料と比較される試料を想定し、それらに含まれる成分の存在比を示すグラフである。縦軸は個々の成分の存在比を示す対数目盛、横軸は存在比が降順となるように各成分を並べた序数に対応する。従って、グラフの左端には最も増加率の大きい成分が、右端には最も減少率の大きい成分が位置する。このグラフでは、存在比RUとRLの範囲に、C1番目からC2番目までの成分が含まれている。C3が試料に含まれる成分の総数であることを考えれば、限定した存在比の中に大半の成分が含まれる状況となる。
【0017】
2.測定装置
図2は、本発明によるクロマトグラフ質量分析装置の構成例を示す概略図である。
液体クロマトグラフ201で分離された試料成分は、質量分析装置本体202に導入され、イオン源203、質量分離装置204、及び検出器205に至る。さらに、制御装置206を経て、データ処理装置208において質量スペクトルとして順次収集することができる。なお、それぞれの機器及び装置は、信号線207で接続され、制御及び情報収集に利用する。また、データ処理装置は、表示装置209とキーボード210、及びマウス211を有している。図には質量分離装置として、イオントラップ形式のものを示したが、時系列的に試料成分に由来する質量スペクトルを得ることができるものであれば、磁場や四重極などを採用した装置であってもよい。
【0018】
この構成において、液体クロマトグラフによる試料成分の分離開始に同期して、質量電荷比に対するイオン強度から成る質量スペクトルを連続して取得する。さらに、質量スペクトルを、それを観測した保持時間ごとに集積する。
【0019】
イオン化の方法としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)などに代表される、試料成分に極力ダメージを与えない方法(ソフトなイオン化法)が望ましい。分離装置と質量分析装置を接続し、このようなイオン化法を採用した場合、複数の成分からなる試料の測定結果は、個々の試料成分を直接反映している可能性が高い。すなわち、順次測定された質量スペクトルは、理想的には個々の試料成分の質的及び量的な違いを端的に反映している。
【0020】
なお、ESIなどでは、同じ成分でありながら異なる電荷を有するイオン(所謂、多価イオン)が生成される場合がある。また、安定同位体の影響により、近傍に複数のイオンが観測されることが多い。これらについては、必要がない限り言及せず、ここでは成分とイオンが対応するものとして説明する。また、成分にダメージを与えにくい点において、ガスクロマトグラムと化学イオン化などの組合せも本発明を適用できる可能がある。
【0021】
質量分析装置の中には、生成したイオンをガス分子と衝突させることによって活性化させるなどして、イオン分子内の結合を開裂させ、より小さいイオンを生成させた後で質量スペクトル(所謂MS/MSスペクトル)を得ることができるものもある。このMS/MSスペクトルは、成分イオンが開裂して生成されたものであるため、成分イオンの構造などに関連する情報を得ることができる。以下、MS/MSスペクトルに対比し、成分イオンを観測した質量スペクトルを明示する必要がある場合は、MSスペクトルと呼ぶ。また、MS/MSスペクトルを得るために開裂させたイオンは、前駆イオンと呼ばれる。
【0022】
さらに、取得したMSスペクトルから前駆イオンを選択し、リアルタイムにそのMS/
MSスペクトルを測定できるものがある。このような場合、混在するMSスペクトルとMS/MSスペクトルを区別し、MS/MSスペクトルから成分の定性的な情報を得ることができる場合がある。また、その近傍の保持時間において測定したMSスペクトルに含まれる前駆イオンの情報から、量的知見を得ることができる。
【0023】
本発明では、保持時間を補正する候補を離散的に設定するため、MS/MSスペクトルを測定するような測定、すなわちMSスペクトルの取得間隔が粗くなっている場合にも対応できる。
【0024】
3.成分の対応付け方法
同種の異なる試料間での成分の対応付けのため、保持時間と質量電荷比に対するイオン強度の3次元データを比較する。ここで、質量電荷比は成分分子の元素組成に由来する固有の数値であり、一般的には再現性が高く、成分の識別能力に優れている。しかし、保持時間は分離の際の環境に大きく依存しており、比較的再現性がよくない。本発明では、離散的に設定した保持時間の対応について、成分ごとの対応付けを求めている。
【0025】
図3に基本的な処理の流れを示す。まず、比較する試料に対応する測定結果から処理に用いるデータを準備する(301)。続いて、準備したデータから対応する可能性がある保持時間を離散的に抽出し、補正点候補とする(302)。それぞれの補正点候補において観測した質量スペクトルを求め、成分が一致する可能性を評価する(303)。さらに、保持時間の補正に用いる成分を求め補正点リストを作成する(304)。その後、保持時間の補正を行い(305)、個々の成分について対応を求め、変動しているものなどを明示する(306)。
【0026】
なお、本発明では、ステップ303の補正点候補の評価において、図1に示した試料の特性に基づいた判定方法を適用している。その考え方を、図4を用いて説明する。なお、ここでは保持時間の基準とする基準試料と、保持時間を補正されるべき被補正試料を比較する場合を考え、双方の試料に由来する質量スペクトルの対応を評価することを想定した。
【0027】
図4は、基準試料に由来する質量スペクトルを示している。●印401を付与したイオンは、点線で示された閾値402以上の強度を持つイオンを示し、●印を囲む矩形403は被補正試料における変動領域を示している。
【0028】
質量スペクトルを構成する個々のイオンが、試料に含まれる成分を反映しており、その強度が相対的な量を反映していると考えた場合、この矩形の上端下端の位置、すなわち、それぞれのイオン強度の上限値・下限値は図1におけるRU及びRLを用いて次のように定義することができる。
上限値=イオン強度×RU (1)
下限値=イオン強度×RL (2)
【0029】
なお、質量電荷比については、定数、又は質量電荷比の値に比例する値などを誤差(δm)とし、その範囲を設定する。
質量電荷比下限=質量電荷比−δm (3)
質量電荷比上限=質量電荷比+δm (4)
【0030】
また、同様にして保持時間についても誤差(δt)を設け、それ以上の差はないものとして扱う。
保持時間下限=保持時間−δt (5)
保持時間上限=保持時間+δt (6)
【0031】
このように、被補正試料の質量スペクトルにおいて観測すべきイオンの範囲を設定することができる。さらに、閾値以上のイオン強度で観測された全てのイオンが、この範囲に入っている場合、それらの成分が対応しているとみなす。
【0032】
このような方法で求めた保持時間の対応関係は、イオンのセットが共通して観測される事象の確率に依存している。従って、上記のδmやδt以外に、セットとして評価するイオンの選択方法や、想定するイオンの変動範囲、一致していると見なすイオン数の下限などの条件が想定される。このような評価を、離散的に抽出した補正点候補の全ての組合せにおいて実施し、成分が対応するかどうかを求める。
【0033】
なお、本発明は、成分数が多く、クロマトグラフィーによる分離が十分ではない状態において有効である。すなわち、ある保持時間において同時に観測される成分を、その時点での質量スペクトルに求めた。しかし、比較的成分数が少なく、その分離がよい状態においては、近傍のスペクトルを質量電荷比ごとに合算する、もしくは、質量電荷比ごとに近傍の保持時間を検索し、イオン強度の最大値を以って、評価するための質量スペクトルを得ることも考えられる。
【0034】
評価する質量スペクトルには、試料に由来しないケミカルノイズなども含まれている。後の処理への影響を抑えるため、そのようなイオンをあらかじめ除外しておくことが望ましい。
【0035】
また、この例では基準試料と被補正試料の2つを比較している。この考え方を、三つ以上の試料に適用し、強度の平均値の値が最も大きいイオンのセットを基準にするなど、応用を図ることができる。また、観測したイオンが設定された範囲に入っている割合を条件として、成分群の一致を判定するようにしてもよい。
【0036】
4.成分の対応付けの確認手段
試料間で成分が正しく対応付けられていることを視覚的に検証するため、全データを俯瞰した上で、成分ごとに確認する手段を考案した。図5及び図6を用いて説明する。
(1)大域的な確認手段
図5(A)は、保持時間の補正を行う前の基準試料及び被補正試料の測定結果、及びそれらの保持時間や成分の対応関係を示している。この図において、501は基準試料に由来する測定結果を、縦軸に保持時間、横軸に質量電荷比、対応するイオン強度を色又は濃淡で示したマップであり、隣接するクロマトグラム502と保持時間の座標軸を共有する。
【0037】
また、被補正試料のクロマトグラム504とマップ505も同様に同じ保持時間の座標軸を共有している。さらに、双方のクロマトグラムの間に位置する線分503は、それぞれのクロマトグラム及びマップにおける保持時間の対応関係を示している。この線分503の傾きが揃った状態は、保持時間のずれが一様な傾向にあることを意味する。なお、前述した図3のステップ304における補正点リストの作成結果が線分503に反映される。
【0038】
右端の比較解析マップ506は、他のマップ501,505における各点を、対応する保持時間と質量電荷比ごとに比較解析した結果に相当する。このマップにおいては、双方の試料の測定結果を合成した表示、片方の試料でしか観測されていない成分の表示、及び成分ごとの差や比の値など、特徴的なイオンを俯瞰することができる。
【0039】
図5(B)は、図5(A)の状態から保持時間を補正した後の状態を示している。基準
試料の測定結果のマップ507は、補正前のマップ501と同一であるものの、被補正試料のクロマトグラム510とマップ511は保持時間が補正されているため、保持時間方向にずれたイメージとなっている。さらに、保持時間の対応を示す線分509は全て平行になり、保持時間が同じ状態になったことを示す。また、比較解析マップ512も、保持時間の補正に同期して更新される。
【0040】
このように、基準試料の測定結果と、被補正試料の測定結果、保持時間の対応関係、それぞれのデータの比較解析結果を俯瞰することによって、全体をバランスよく検討することが可能となる。
【0041】
また、比較解析マップ506,512は保持時間がずれている場合には双方の試料に由来するイオンがずれて表示されるなど、成分の対応関係を判断する助けとなる。さらに、差や比の値を求めマップ上に表示することによって、特徴的な成分を強調することができ、比較すべき成分の絞り込みが容易になる。
【0042】
(2)局所的な確認手段
上述したマップ内や、保持時間の対応を示す線分をマウスで直接指定し、該当する位置の拡大図を表示することによって、より詳細に対応関係を検証することができる。図6を用いて、説明する。
【0043】
図6(A)の上側のマップ601は、図5における(A)(B)それぞれのマップに相当し、測定データ全体を俯瞰することができる。下側のマップ602は、上側のマップにおいて矩形605で示した領域を拡大表示したものである。また、その下の情報表示領域603には、拡大した位置の中央部に観測されるイオンの強度、保持時間、質量電荷比、1価の場合の質量、イオンの価数などが表示される。さらに○印604は、MS/MSスペクトルを取得した位置や、成分の同定結果などの情報が対応している位置を示している。その内容は、情報表示領域603に、併せて表示する。
【0044】
また、マップ602内に表示されている質量スペクトル606は、拡大した位置の中央部のものであり、質量電荷比の座標軸をマップと共有する。また、中央部の質量電荷比に該当するマスクロマトグラム607も表示することにより、スペクトルとマスクロマトグラムを併せて確認することが可能となる。
【0045】
図6(B)は、図6(A)の状態から成分の代表を抽出したイメージを示している。これは、上述した成分ごとの対応付けの結果に相当し、個々の成分をマスクロマトグラムのピークの1点608に位置付けている。この点は、その成分におけるイオン強度の最大値を与えた位置に対して、例えばその高さや体積を値とすることができる。
【0046】
このように、図5(A)及び図5(B)、図6(A)の表示を、図6(B)のような成分ごとの表示に切り替えることにより、成分を比較する際にポイントを絞り込むことができる。
【0047】
(3)操作性
図6に示す局所的な表示においては、目的の位置を効率よく特定する必要がある。例えば、マップ上の任意の位置をマウスで指定することや、位置の情報を持つリストの指定などが有効となる。特に後者には、保持時間の補正点のリストや、差や比などの計算結果、及び同定結果のリストなど有効なものが多い。
【0048】
そのようなリストの例を図16に示す。図16(A)には保持時間の補正点のリストの例として、基準試料と被補正試料における保持時間と質量電荷比の対応を示している。また、図16(B)には計算結果のリストの例として、保持時間と質量電荷比に対する比の値を、図16(C)には同定結果のリストの例として保持次官と質量電荷比に対応するタンパク質のリストを示した。このようなリストをマウス等で指定することにより、対応する位置の局所的な表示を行う。
【0049】
保持時間の補正点のリストは、保持時間が昇順になるようにソートして表示することにより、補正点を順に確認しやすくなる。また、計算結果のリストにおいては、差や比などの値が降順または昇順になるようにソートすることにより、特徴的な成分の確認が容易になる。同定結果のリストでは、対応するタンパク質の名称、アミノ酸の配列情報、およびタンパク質に関連する機能などを表示することが有効となる。また、特定の文字を含むものをリストに残すことにより、同一名称または同種のタンパク質の確認に寄与することができる。
【0050】
また、大域的なマップごとに局所的な表示を独立して行うか、全てのマップについて共
通した範囲を拡大表示するかをユーザーが指定できる。保持時間を補正した後は、全ての拡大表示において共通した表示を行うことにより、効率よく成分の対応関係を確認することができる。
【0051】
このような表示によって、測定結果の概要を大域的なマップに基づいて把握しつつ、着目する成分を局所的なマップや質量スペクトルの表示に基づいて評価することができる。
【実施例1】
【0052】
これまでに説明した方法について、実施例を挙げて説明する。
この実施例は、基準試料と、被補正試料についてタンパク質を抽出し、酵素消化後に液体クロマトグラフィー質量分析を実施し、その結果から個々の成分の対応を求める例である。
【0053】
1.概要
まず、図3で示した処理の流れをより具体化し、主なデータと処理との関係として図7に示す。
【0054】
最初に、基準試料及び被補正試料の測定データファイル701,702を用意する。測定データファイルには、MSスペクトルの保持時間、質量電荷比とイオン強度等の情報が格納されている。これらのデータを整理し、目的とする質量スペクトルや特定のイオンなどに簡単にアクセスするために、データ準備処理(703,704)を行う。その結果、基準試料及び被補正試料に対応するマップデータ705,706が作成される。マップデータの詳細については、図11を参照して後述する。
【0055】
保持時間の補正点を求めるには、まず各試料の測定結果から補正点の候補となる保持時間を離散的に抽出する(707,708)。ここで得た候補を行及び列に対応させた評価マトリクス709を作成し、補正点候補の評価(710)によってその内容を埋める。この評価において、図1において想定した変動範囲を適用し、成分の対応付けを評価する。さらに偽陽性の可能性を排除するなどして、評価マトリクスを完成する。評価マトリクス709の詳細については後述する。続いて、補正点に対応する一つの成分を選択し補正点リスト712に集積する処理(711)を行う。このような処理によって、異なる試料間で、保持時間の補正に用いる成分を抽出する。
【0056】
保持時間の補正(713)においては、補正点リスト712に基づき、被補正試料のマップデータ706の保持時間を補正する。その際、基準試料と被補正試料において補正点リスト712に登録された成分には、同じ保持時間を与え、その間は補間によって対応づける。なお、ここで更新される被補正試料のマップデータ706は、基本試料のマップデータ705とは、理想的には保持時間が一致している。しかし、質量スペクトルを得たタイミングや頻度が異なるためデータのサイズが合わないなど、このまま比較するには適さない。
【0057】
そこで、成分ごとの対応付け(714)では、まず各試料由来のマップデータ705,706を、図6(B)に示したような成分ごとの代表点に変換する。さらに、被補正試料の個々の成分を基準試料と付き合わせることによって対応付けを行い、マップデータ715を作成する。このマップ715と基準試料のマップ705とは、同一サイズであり、保持時間や質量電荷比を1対1に対応させることができる。従って、個々の成分の量的な比較が容易になる。
【0058】
2.ユーザーインターフェイスの説明
2.1 基本画面
画面表示の例を、図8を用いて説明する。なお、この例は保持時間を補正する前の状態
を例示しているものの、補正点の対応関係や、補正後の状態など、成分の比較解析までに対応できるビュアーの一例である。
【0059】
この図において、上段のマップ801,805,806は、それぞれ基準試料、被補正試料、及び比較解析結果の全体を表示できる。比較解析結果のリスト812には、結果の数値が昇順又は降順になるよう並べ替え、保持時間と質量電荷比からなる位置情報と併せて表示する。比較解析結果のリスト812の詳細は後述する。また、下段のマップ821,825,826には、それぞれ上段のマップの一部を拡大して表示することができる。
【0060】
802と804は、隣接するマップの保持時間の座標軸に一致するマスクロマトグラムかベースピークイオンクロマトグラムを、ユーザーの指定により切り替えて表する。また、保持時間の対応表示領域803は、両側に位置するクロマトグラム及びマップの保持時間の対応関係を線分で示している。従って、上側が大域的な対応関係を、下側はその一部を拡大したものとなる。807は、それぞれの試料において拡大されたマップの中心位置の保持時間に対応する質量スペクトルである。上側は被補正試料、下側は基準試料の質量スペクトルを示している。クロマトグラム及びスペクトルは、折れ線グラフ、又はピークの判定結果を受けた棒グラフ、又はマップの一部を切り出したイメージに相当する色又は濃淡による表示形式をユーザーが指定する。
【0061】
情報表示領域808には、拡大されたマップ821の表示範囲の中心に対応する保持時間、質量電荷比、イオン強度、価数などの情報を表示する。また、同定結果など○印が中心近傍に位置する場合、その内容もここに併せて表示する。さらに、その横のボタン809は、○印の位置に視野の中心を移動するために用いる。上下の三角のボタンを指定することによって、○印の位置の拡大表示を順次切り替えることができる。被補正試料に対応する情報表示領域810及びボタン811についても、同様の機能を実現する。
【0062】
Aボタン813は保持時間の補正点を求める処理、Bボタン814は保持時間を補正する処理、Cボタン815は成分の対応付けを行う。
【0063】
これらの表示及び各ボタンやリスト等の指定により保持時間の補正から成分の対応付けを実現する。さらに、ソートされた比較解析結果のリスト812を指定し、変動の大きい成分を拡大マップに表示させるなどの操作が実施できる。次に、拡大マップや質量スペクトルなどを表示するための方法について示す。
【0064】
2.2 拡大表示操作
図8の画面において、全体を俯瞰する比較的静的な表示と、個々の成分に着目することができる局所的な表示を実現する。ここでは、特に局所的な表示を効果的に実施するための方法を示す。
【0065】
図8の画面例において、局所的な表示を行うための方法を次に例示する。
・大域的なマップ801,805,806上でのマウスの移動又は位置指定
・局所的なマップ821,825,826上でのマウスによる位置指定
・保持時間の対応を示す線分803,823の指定
・質量スペクトルやマスクロマトグラム上でのマウスによる位置指定
・情報の切り替えボタン809,811による情報対応位置の選択
・差や比などの演算結果のリスト812の選択
・マップ上でのマウスのドラッグなどによる拡大範囲の指定
・キー入力などによる拡大倍率の増減指定(ズームインやズームアウト動作)
なお、各マップ、質量スペクトル、及びクロマトグラム等は、表示範囲の変更に同期して更新され整合性を保つ。また、全てのマップを同期して更新するか、個別に更新するか
をユーザーが指定できる。
【0066】
2.3 条件設定画面の表示
図9には、保持時間の補正に関する条件を設定する画面の一例を示した。この画面は、図8の画面からファンクションキーの押下などの操作によって起動される。その結果は、補正点を求める処理などにおいて参照される。ここではベースピークイオンクロマトグラムを利用する場合について説明するが、ベースピークイオンクロマトグラムの代わりに着目する成分のマスクロマトグラムを用いてもよい。
【0067】
図9の画面において、ベースピークイオンクロマトグラムのピーク判定の閾値901、保持時間の許容誤差902、一致イオン数の下限903、質量スペクトルの比較において基準とするイオンの閾値904、試料間の変動比率の範囲905,906を設定する。それぞれの設定例は次のとおり。
(1)ベースピークイオンクロマトグラムのピーク判定の閾値:3%
(2)保持時間の許容誤差(δt):5分
(3)一致イオン数の下限:3本
(4)基準とする試料側のイオンの相対存在量の閾値(TH):50%
(5)変動比率下限(RL):0.05
(6)変動比率上限(RU):20.00
【0068】
ここで、ベースピークイオンクロマトグラムのピーク判定の閾値901は、保持時間補正点の候補の抽出に大きく影響する。多くの補正点を抽出する場合には小さい値を、粗く抽出する場合には大きい値を指定する。保持時間の許容誤差902は、測定データ全域における保持時間の最大ずれ幅を指定する。一致イオン数の下限903を大きくすることは、対応しなければならない成分数が増えることを意味するため、より厳しい評価条件となる。イオンの閾値904は、評価に用いるイオンを選択する閾値であり、図4において点線で示した閾値402に相当する。また、変動比率上限及び下限906,905は、図1におけるRU及びRLに対応している。
【0069】
図10は、成分の対応付けに用いる条件を設定する画面の一例を示した。この画面も、図8の画面からファンクションキーの押下などの操作によって起動される。それぞれの設定値は次のとおり。
(7)保持時間の許容誤差:0.2
(8)演算タイプ:Difference
【0070】
ここで、保持時間の許容誤差1001は、保持時間を補正した後で成分を対応付ける際の許容誤差を示す。また、演算タイプ1002は表示されている方法の一つを選択することができる。
【0071】
演算タイプと表示内容を次に示す。なお、基本的には、試料を色で区別し、値の大小をその色における濃淡で表すものとする。
・Difference:成分の差
・Ratio:成分の比
・Both:イオン強度。試料間で共通する成分は、それぞれの色を合成
・Lone:片方のみ存在する成分のイオン強度
・Merge:試料間で強度の大きい方のイオン強度(試料の区別なし。単色)
【0072】
2.4 保持時間補正から成分の比較解析までの操作
図8の表示画面において、保持時間の補正及び成分の対応付けを行い、差の大きい成分を表示するまでの流れを示す。なお、基本試料及び被補正試料と、対応する同定情報の○印が画面に表示され、図9及び図10の条件が既に指定された状態を想定する。まだ、保
持時間の対応関係が求められていないため、保持時間の対応を示す線分803は表示されていない。また、比較解析マップ806と演算結果のリスト812も空である。
【0073】
このような状態から、ボタンA,B及びCを指定することによって処理を実施する。また、結果の確認のために、演算結果のリスト812を選択する流れとなる。以下に詳述する。
【0074】
(1)ボタンAの処理
この処理は図3における、ステップ302の補正点候補の抽出、ステップ303の補正点候補の評価、及びステップ304の補正点リストの作成に相当する。この処理によって、基準試料と被補正試料における保持時間の対応が求められるため、見かけ上は保持時間の対応を示す線分803が表示される。この状態は、図5(A)の状態に相当する。
【0075】
ここで、保持時間の対応が間違っている場合、画面上の線分803を指定し取り消す機能を備える。また、新たな対応を追加する必要がある場合、双方の試料において拡大表示されている領域の中心位置の対応として追加する機能も備える。また、全てをキャンセルするなど、対応付けに関する編集機能を備える。
【0076】
(2)ボタンBの処理
この処理は図3における、ステップ305の保持時間の補正に相当する。この処理が終了すると、図8は図5(B)のような表示となり、保持時間の補正内容に従って、マップ及びクロマトグラムの表示が更新される。また、保持時間の対応を示す線分803が並行に表示される。
この状態において、図9の条件を変えてボタンAの処理を再度実行するなどし、粗い対応付けから緻密な対応付けを併用するなどの方法が選択できる。
【0077】
(3)ボタンCの処理
この処理は図3における、ステップ306の成分ごとの対応付けに相当する。この処理によって、図8の比較解析マップ806及び演算結果のリスト812が表示される。なお、個々のマップは、図6(B)の状態となり、個々の成分は保持時間と質量電荷比、及びその量を示す1点で表示される。
【0078】
(4)変動成分の確認
これまでの処理を行った時点で、成分の差を求めた上でソートした結果がリスト812に表示されている状態を想定する。この内容は、例えば最も増加した成分から最も減少した成分までを含んでいる。従って、リストの先頭から順に項目を選択することによって、増加している成分の局所的なマップなどを表示させる。同様に、リストの最後から順に選択した場合、減少しているものを順次確認することができる。
【0079】
なお、局所的な表示においては、マップや質量スペクトル、同定結果などを表示しているため、保持時間の対応の是非や、変動成分について、より確かな情報を掴むことができる。
【0080】
なお、このような対応関係をファイルに保存するなどした場合、それぞれの成分の対応を多くの試料について統計的に取り扱うことが可能となる。
【0081】
3.アルゴリズムの説明
図3で示した流れに従い、図7における処理やデータの構造を説明する。なお、画面は図8、条件として図9及び図10の内容が指定されていることを前提としている。
【0082】
3.1 データの準備
データ準備処理(703,704)において、基準試料及び被補正試料の測定データファイル701,702を、それぞれ対応するマップデータ705,706に変換する。このマップデータには、マップを表示するためのデータのみならず、保持時間の補正や成分の対応付けに必要な情報を含んでいる。図11を参照しつつ、その詳細を示す。
【0083】
(1)マップデータ
図11はマップデータを表す模式図である。図11において、それぞれの記号等の意味は次のとおりである。
s:s番目の質量スペクトルの保持時間(1101)
s,m:s番目の質量スペクトルにおける質量電荷比mのイオン強度(1102)
s:s番目の質量スペクトルの最大イオン強度(As,1〜As,Mの最大値)(1103)
s:s番目の質量スペクトルのファイル内での位置(1104)
【0084】
また、添え字の意味は次のとおり。
m:質量電荷比(1からMの整数)
M:質量電荷比の最大値(整数)
s:質量スペクトルの順番(1からSの整数)
S:質量スペクトルの数(整数)
【0085】
ここで、Tは質量スペクトルを観測した保持時間、Aは2次元配列であり、各行は同一保持時間に取得した質量スペクトル、各列は同一質量電荷比のイオン強度の経時変化を示すマスクロマトグラムとなる。
【0086】
すなわち、s番目の質量スペクトルは、As,1〜As,Mとなり、観測した保持時間Tsに対応する。質量スペクトルの一般的なイメージを1105に示した。
【0087】
質量電荷比mを与えるイオンの経時変化はA1,m〜AS,mとして表すことができる。そのイメージを1106に示す。このグラフは質量スペクトルの順番ごとにイオン強度の値をプロットしている。このようなグラフ、又は保持時間T1〜TSに対するA1,m〜AS,mのプロットをマスクロマトグラムと呼ぶ。
【0088】
なお、図11に示すマップデータにおいて、質量電荷比は配列Aの添え字mで示した整数となっている。もし、測定データファイルに登録されている質量スペクトルの質量電荷比が少数点以下の桁を持っている場合には、データ準備処理において整数に丸める処理を施す。さらに、同じ整数値に複数のデータが対応する場合、その最大値を与える。また、質量スペクトルにMS/MSスペクトルなど、MSスペクトル以外が混在している場合、MSスペクトルのみでマップデータを作成する。
【0089】
さらに、図11においてBは個々の質量スペクトルにおけるイオン強度の最大値を意味する。例えば、Bsの値は、As,1〜As,Mの最大値に等しい。また、B1〜BSの値を質量スペクトルの順番又は保持時間T1〜TSに対してプロットしたものを、ベースピークイオンクロマトグラム1107と呼ぶ。
【0090】
また、Pには個々の質量スペクトルの測定データファイル701又は702内での位置を保存しておく。この内容は、拡大したマップに質量スペクトルを重ね書きする際など、高速な処理を実現するために用いる。
【0091】
sの最大値Sは、その測定において取得した質量スペクトルの数であり、測定データフ
ァイルごとに確定する。測定データファイルが異なる場合、MSスペクトルを得る頻度が異なる場合が考えられるため、Sの値は試料間で異なっていることを想定する必要がある。すなわち、基準試料のマップデータのSと被補正試料のマップデータのS’は異なるものとして扱う。以下では、試料間で表記を区別する必要がある場合、被補正試料側の記号にダッシュを付け、S’,T’,A’,B’などとして示す。
【0092】
mの最大値Mについては、後の工程において質量スペクトルの比較を考え、MとM’は同値であることを前提とする。
【0093】
(2)測定データファイル
測定データファイル701,702は、マップデータを作成するに足る、MSスペクトルの保持時間T、質量電荷比とイオン強度Aを抽出できる必要がある。さらに、測定データのファイルには、個々の質量スペクトルを構成する情報が連続して登録されており、その先頭位置に高速にアクセスするため、ファイル内での位置情報Pを取得できるデータの構造を有する。
【0094】
3.2 補正点候補の抽出
続いて、補正点候補の抽出(707,708)について説明する。この処理では、双方の試料に由来するマップデータ705,706を参照し、評価マトリクス709を作成する。ただし、ここではマトリクスの行と列を定義するのみであり、内容の設定は補正点候補の評価(710)に委ねる。
【0095】
保持時間の対応を求める場合、全ての質量スペクトルを評価するのではなく、特徴的な点を離散的に抽出し、評価に利用する。その方法として、ベースピークイオンクロマトグラムのピークを利用する。
【0096】
図12の例を用いて説明する。この図では、基準試料と被補正試料のマップデータから、B,T,B’,T’を抜き出し、そのベースピークイオンクロマトグラム1201,1202を対比して例示している。図には、ピークトップの対応を示す実線又は点線の両端矢印によって、試料間の保持時間TとT’の対応を示している。詳細は後述する。
【0097】
例えば、この図では、T1,T3,T5,T8,T10と、T’2,T’4,T’6,T’8,T’10,T’12にピークが観測されており、補正点の候補として抽出することができる。さらに、これらの候補から評価マトリクスを作成した例を図13に示す。この図では、それぞれのT及びT’の値を各行と列の名称として設定している。
【0098】
なお、B及びB’は、少なくともその値を示す成分が存在することを示している。従って、その成分は、試料間の対応を求める際の候補と成り得る。すなわち、その成分が持つ保持時間と質量電荷比を具体的な補正点として特定することができる。これは、後に補正点を確認する際に、その成分を表示できるため確認作業において有効となる。すなわち、漠然と保持時間の対応関係を表示するのではなく、具体的な成分の局所的な拡大マップ等を利用して対応を確認することができる。
【0099】
図12の例では、ベースピークイオンクロマトグラム1201,1202を用いて保持時間の対応を求めているが、ベースピークイオンクロマトグラムに代えて着目する成分のマスクロマトグラフを用いてもよい。
【0100】
3.3 補正点候補の評価
図7のステップ710の補正点候補の評価とは、図13に示す評価マトリクスを埋める作業に他ならない。具体的な評価の方法を説明する前に、評価マトリクスについて、図1
2と図13の例を用いて説明する。
【0101】
(1)評価マトリクス
図13の評価マトリクスにおいて、各行と列の名称は図12に示すベースピークイオンクロマトグラムのピークの保持時間を転記したものに相当する。評価マトリクスの各行と各列に示されている全ての保持時間候補の組合せについて、成分が対応する可能性があるかどうかを、後述する方法によって評価する。その結果を、評価マトリクスの各々のセルに設定する。図13の例では、○印は成分が対応している可能性がある関係、無印は可能性の無い関係であり、×印は保持時間の差が一定以上であったために可能性がないものと判断したことを意味する。さらに、※印は、保持時間の関係が1対1のものに付与した。
【0102】
ここで、評価マトリクスにおける○印の対応を、図12のピークトップ間の実線又は点線の両端矢印で示した。たとえば、図13におけるT1とT’4、T3とT’2、T5とT’6‥‥の○印が、図12におけるBとB’4、B3とB’2、B5とB’6‥‥のピークを結ぶ実線又は点線に対応する。また、実線は1対1の関係であり、それ以外は点線で示した。
【0103】
図12の点線のように、一つの保持時間に対して複数の対応が示唆される場合は、保持時間の補正点としてふさわしくない。ピーク間を実線で結んだ関係、すなわち評価マトリクスにおいて※印を付与した関係のみを、この後に続く補正点リストの作成(711)において使用する。すなわち、図12及び図13の例では、T3とT’2、T5とT’6、T10とT’12の対応のみを採用する。
【0104】
(2)質量スペクトルの評価
個々の補正点候補の評価、すなわち図13の評価マトリクスにおいて○印を与えるための処理を行う。なお、ここでの評価は、比較すべき保持時間(たとえばT3とT’2)に該当する質量スペクトルA3,1〜A3,MとA’2,1〜A’2,M’(M=M’)の比較に相当する。
【0105】
なお、対応を求める際には、図9の閾値901を適用して離散的に補正候補を抽出し、質量スペクトルの評価において、902から906の条件に基づき判定している。この判定については、双方の試料から求めた当該質量スペクトルにおいて、式(7)の条件を満たす全てのイオンについて、式(8)を満たす場合に一致とみなす。
m≧Imax×TH/100 (7)
×RU ≧I’m かつ I×RL≦I’m (8)
m:基準試料において質量mで観測したイオン強度
I’m:被補正試料において質量mで観測したイオン強度
max:基準試料側のイオン強度の最大値
TH:閾値(904)
RL:変動比率下限(905)
RU:変動比率上限(906)
【0106】
図9の例では、基準試料における質量スペクトルの相対存在量の最大値に対して50%以上のものについて、比較する試料で0.05〜20倍の変動幅に入らない場合を不一致としている。
【0107】
ただし、補正前の保持時間の差が保持時間の許容誤差902の指定値より大きい場合にはこの評価を行わず、対応の可能性がないものとする(評価マトリクスの×印に相当)。また、この条件を満たすイオンの数が、一致イオン数の下限903として指定した値よりも少ない場合にも、一致とは見なさない(評価マトリクスの、空白に相当)。
【0108】
なお、ここで説明したRU、RLは前述した式(1)(2)におけるRU,RLと同じ定義で使用している。また、式(3)、式(4)のδmは0、式(5)、式(6)のδtは保持時間の許容誤差902に対応する。
【0109】
3.4 補正点リストの作成
評価マトリクスにおいて、※印を付与した点が得られた場合、具体的に保持時間を補正するための補正点リスト712を作成する処理(711)を実施する。
【0110】
図14を用いて補正点リストの考え方を示す。なお、この図は補正後のペースピークイオンクロマトグラムの対応を示している。この図において、TとT’は図13の例における※印の例に合致する。さらにmの値は、対応する保持時間Tにおいて観測した質量スペクトルから得た質量電荷比であり、比較した質量スペクトルにおいて共通して観測されるイオンの質量電荷比から選択する。
【0111】
例えば、mとして基準試料側の質量スペクトルにおいてイオン強度の最大値を与えた質量電荷比を採用することができる。この時点で、保持時間の補正点として、特定の成分に対応づけている。
【0112】
なお、ここで得た成分の保持時間は、ベースピークイオンクロマトグラムのピーク位置と完全に一致するとは限らない。そこで、その成分の質量電荷比に対するマスクロマトグラムのピークを検索し、保持時間の補正点を確定する。
【0113】
もし、当該質量スペクトルが保持時間(T)において観測された場合、その最大強度を与えたmを求め、さらにmに相当するマスクロマトグラム(A1,m〜AS,m)においてTsを包含するピークの保持時間をTの最適値とする。同様にして、被補正試料側のT’s’についてもマスクロマトグラム(A’1,m〜A’S’,m)からT’s’に対応するピークを求めT’s’を更新する。こような処理を行うことによって、保持時間の補正に用いるイオンの対(Tにおいて観測されるmと、T’s’において観測されるm)を選択し、補正点リストに加える。このような処理を、評価マトリクスにおいて□印を付与した全てについて実施し、補正点リストを確定する。
【0114】
3.5 保持時間の補正
図7のステップ713における保持時間の補正は、補正点リスト712に登録されている補正点の対応関係を被補正試料のマップデータに反映させる作業となる。それは、図11に示す保持時間T’1101を改変する作業に他ならない。
【0115】
図14の例で説明する。この例は補正後のベースピークイオンクロマトグラムを示している。ここで、被補正試料におけるT’2に観測したピークはT3に補正されるべきものである。同様にT’6はT5に、T’12はT10に対応しているため、各々のT’を基準試料のTの値に変更する。標準試料との対応がない保持時間については、前後の対応する補正点から比例しているものとして補間する。外挿においては、最も近い補正点リストの誤差がそのまま継続されているものとして扱う。
【0116】
このようにして保持時間を補正し、被補正試料のマップデータ706における保持時間T’の全域を更新する。
【0117】
3.6 成分対応付け
成分対応付け(714)の処理においては、それぞれの試料に由来する保持時間を補正した後のマップ705,706を参照し、個々の成分の代表点を求める処理と、指定された演算を試料間で成分ごとに実施し、演算結果のリスト(図8の812)に登録する処理を行う。それぞれについて説明する。なお、演算結果のマップ表示については、この後詳述する。
【0118】
(1)成分の代表抽出
大域的に補正されたそれぞれの試料の測定データにおいても、個々の成分は同位体を含むイオン群の一時的な増減として観測される。個々の成分の対応を求めるには、それらから代表点を、保持時間と質量電荷比の値として抽出する必要がある。その結果は、図6(B)のように表すことができる。
【0119】
成分の代表を求める場合、たとえば全てのマスクロマトグラムについてピークトップを残し代表候補とし、さらに同一保持時間で代表候補が隣接している場合、強度の高い方を選出する方法などが適用できる。
【0120】
また、代表点のイオン強度の値は、残った代表点の高さや、成分の代表抽出によって消された点の体積などを適用して置き換えることができる。
【0121】
(2)成分の対応付け
このようにして抽出された各成分の代表点について、基準試料と被補正試料間で対応付けを行う。具体的には、成分対応付けの結果のマップデータ715を準備し、初期化する。その際、個々の配列の大きさは、基準試料のマップデータ705と同一とする。また、保持時間も同一として複写する。すなわち、基準試料のマップデータ705と成分対応付けの結果のマップデータ715において、配列Aの同じ位置は、同じ保持時間と質量電荷比に対応する。
【0122】
ここで、被補正試料のマップ706の各代表点において、保持時間が図10で指定された誤差1001の範囲内で質量電荷比が同じ成分が基準試料に存在する場合、同一と見なし、マップデータ715に登録する。もし、対応するものがない場合には、被補正試料にのみ存在するものとして、最も近い保持時間と質量電荷比の位置に、その代表点を登録する。このようにして、作成した成分対応付けの結果のマップデータ715は、簡単に基準試料のマップデータと比較することができる。
【0123】
(3)演算と比較解析マップ表示
基準試料のマップ801や被補正試料のマップ805は、イオン強度を色情報に置き換えたものであるが、比較解析マップ806は基準試料のマップデータ705と成分対応付けの結果のマップデータ715を参照して個々の成分の表示色を決定する。
【0124】
図15の例では演算タイプ1002ごとにそれぞれの試料のイオン強度と演算結果、及び表示色を構成する3原色の対応を示した。なお、ここでは演算した値等を3原色にそのまま指定している。実際には、適当な倍率を掛けるなどして上限を規定する。すなわち、3原色ともに上限値の場合は白、3原色ともに0の場合は黒で表示する。
【0125】
また、この例では、基準試料側に強く観測されるイオンを赤で、被補正試料側で強く観測されるイオンを緑で対応付けた。その対応は、差や比の演算結果の表示においても残している。以下に、それぞれの演算タイプごとの詳細を説明する。
【0126】
演算タイプがDifferenceの場合、被補正試料のイオン強度から基準試料のイオン強度を差し引き、演算値とする。さらに、その値が負の場合は赤にその絶対値を、正の場合は緑にその値を設定する。これにより、試料の区別と増減量を色とその濃淡で識別することができる。(No.1,2)
演算タイプがRatioの場合も、被補正試料のイオン強度を基準試料のイオン強度で割る。ただし、被補正試料の方が値が小さい場合は、分母分子を逆転した上で計算した上で(−1)を乗じて負の値とする。さらに、演算値が負の場合は赤にその絶対値を、正の場合は緑にその値を設定する。これにより、試料の区別と比を色とその濃淡で識別することができる。また、結果のリスト812において、負の数値は減少したことを示すため、双方の区別が容易になる。(No.3,4)
Bothの場合は、双方の試料に由来するイオン強度を、赤と緑に設定する。(No.5,6)
Loneも同様だが、対応するものがない場合に限定して示す。すなわち、No.9の例のように、双方の試料に成分が対応している場合、表示の3原色は全て0とする。(No.7,8,9)
Mergeの場合、双方試料において、強い方の値を赤に設定する。ただし、ここで赤は便宜上定めたもので、基準試料を意味するものではない。(No.10,11)
【0127】
このようにして比較解析マップ806を作成する。その内容は、それぞれの試料において変動しているものを俯瞰することができる。さらに、演算結果のリスト812にソートして登録された場合、変動が大きい特徴的な成分を明示することができる。さらには、その成分の位置を拡大表示するなどの操作を可能とする。
【0128】
なお、差又は比以外の演算値として、それぞれの試料のイオン強度の強い方の値を採用するなどして、強く観測している順番を演算結果リストに示すことなども有効である。
【0129】
以上、実施例によって、保持時間の補正から成分の対応付け、及び変動している成分の比較解析などの具体的な手段を説明した。
以下に、本発明の効果をまとめる。
【0130】
1.成分の対応付け方法について
本発明の方法では、成分を対応付ける際に、保持時間に対する依存性が低い。このような特性があるため、MS/MSスペクトルも測定するなど、測定時の選択肢を増やすことができる。以下に一例を示す。
【0131】
(1)成分の同定情報の取得
質量分析において、個々の成分の構造に関する情報を得るために、MS/MSスペクトル等も並行して取得できる。このMS/MSスペクトルから、観測した成分の同定が可能になるものもあり得る。すなわち、一回の測定において成分の同定と、量的な知見の双方を取得することが可能となる。
【0132】
(2)異なる測定モードの比較
MSスペクトルのみを連続して取得して得た測定結果と、MS/MSスペクトルも並行して取得した結果を対比することができる。前者では微量成分も捕捉でき、定量性が向上する。後者は成分の構造情報などを与える。異なる方法による測定結果から量的知見と質的知見を統合することが可能となる。
【0133】
(3)実験条件の検討
保持時間の比較において、保持時間のずれが大きい場合などにも適用できる可能性がある。すなわち、分離などの実験条件を検討する段階でも活用できる。
さらに、採用しているアルゴリズムにより次の効果が見込める。
【0134】
(4)安価な計算機設備の適用
本発明の方法は、比較的計算量が少なく、大規模な記憶容量も要求しない。従って、解析サーバーやPCクラスタなど計算処理環境を用いることなく、保持時間の補正や成分の対応付け、及び変動成分の確認などを実現できる。
【0135】
(5)高速処理の実現
短時間で処理を終了することができるため、比較する試料の特性に応じて条件を変えて結果を検討することが可能となる。例えば、ピーク判定の閾値や、成分の変動範囲の想定値など、試料の特性に依存する条件を簡単に最適化することが可能となる。
【0136】
(6)他の機能との共存
計算機に大きな負荷をかけず、比較的短時間で処理を終了することができるため、ユーザーとの対話形式によって、保持時間の補正や成分の対応付けが実現できる。後述する成分の対応付けを確認する方法などに組み込むことが可能となる。
【0137】
2.成分の対応付けの確認方法について
異なる試料における保持時間の違いや、対応する成分の情報を視覚的に表現し、効率よく確認することは、非常に重要なプロセスとなる。本発明においては、少なくとも2つの試料のクロマトグラフィー質量分析の結果を大域的に確認する方法、及び局所的に存在する個々の成分の対応を効率よく確認する方法が提供される。まず、大域的に確認する方法について、その効果を示す。
【0138】
(1)測定データ全体の表示
比較すべき複数の測定データの全てをマップとして表示できる。保持時間と観測したイオンの質量電荷比、及びその強度を俯瞰することによって、サンプリング又は前処理に起因するイオン強度全体の強弱、ケミカルノイズや大過剰に含まれている成分の状況などを視覚的に確認することができる。これにより、実験そのものの良し悪しや、装置の状態などの判断において重要な情報を与えることができる。
また、MS/MSを取得した位置や同定情報がある位置をマップ上にマークし、具体的な内容を表示することにより、同定処理などの結果の評価にも寄与する。
【0139】
(2)保持時間の対応関係の把握
保持時間の対応状況を、測定の全域において俯瞰できる。もし、保持時間の対応付けにおいて異常があった場合、分離装置のトラブルなどの可能性を提示することができる。
【0140】
(3)成分ごとの対応関係の把握
保持時間の補正を実施した後、異なる試料の個々の成分量について演算した結果を、マップとして表示することができる。これにより、量的な変動差が大きい成分、変動比が大きい成分、片方の試料にのみ観測されている成分などを抽出し、マップで明示することができる。さらに、それらの演算結果をリスト表示することにより、特徴的な成分の判断が容易になる。
また、個々の成分について試料間の対応を裏付けることでできるような局所的な確認作業が効率よく行える。局所的な確認作業に類する効果は次のとおりである。
【0141】
(4)局所的な拡大
大域的な表示を行った各項目について、より詳細に確認することができる。特に、マップ表示では、保持時間と質量電荷比において近傍の状況を試料間で比較することができる。これは、成分の対応付けにおいて重要な決め手となる。
【0142】
(5)質量スペクトルに由来する付帯情報の表示
異なる試料において、対応する成分の質量スペクトルに由来する情報をマップと同時に表示できる。
・質量電荷比、イオンの価数、1価の場合の質量
・MS/MSを取得したかどうか
・実際の質量スペクトル(波形情報)
・同定結果等の表示
【0143】
これらの表示も、成分の対応を評価するためには重要となる。なお、同定結果等の表示内容は外部システムにおいて作成したものをインポートすることを想定している。
【0144】
このような局所的な表示は、上述した演算結果のリストや、全域を示すマップ上の位置、試料間での保持時間の対応関係などを指定することによって実現する。これらの指定は、マウスの移動やリストの指定などの簡単な操作によって行え、指定と同時に表示できる。すなわち、変異の大きい成分などに着目し、質量スペクトルや同定結果などを順次確認することを容易に実現している。
【0145】
大域的な表示によって異なる試料の測定結果及び成分の対応付けなどの状況を俯瞰でき、さらに個々の成分の対応を重要なものから容易に確認できることは、多くの手間と時間の節約に繋がる。
【0146】
3.その他の効果
次に、比較すべき試料を混合したものを基準試料とし、混合前の試料を被補正試料として解析した場合の効果を示す。
【0147】
(1)解析可能な試料の拡大
含まれる成分が異なる試料間でも、比較が可能となる。
【0148】
(2)成分の対応付け精度の向上
理想的には被補正試料における全成分が基準試料でも観測される。従って、対応するイオンが増大し、保持時間の補正点の充実に寄与し、補正精度が向上する。
【0149】
(3)三つ以上の試料の比較
三つ以上の試料の比較において、二つの試料の比較の考え方をそのまま拡張することができる。すなわち、各試料の成分を網羅した基準試料を設定することが可能となるため、上述の効果を複数試料の比較においても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】試料間での成分ごとの量比を降順に並べたモデル図である。
【図2】本発明による質量分析装置の一例である。
【図3】本発明における基本的な処理の流れを説明する図である。
【図4】成分の対応を評価する方法の説明図である。
【図5】測定結果、保持時間の対応及び成分の対応を俯瞰するための方法の説明図である。
【図6】成分の対応を局所的に評価するための方法の説明図である。
【図7】本方法におけるデータと処理の関係の説明図である。
【図8】表示画面の一例を示す図である。
【図9】保持時間補正の条件設定画面の一例を示す図である。
【図10】成分対応付けの条件設定画面の一例を示す図である。
【図11】本発明におけるデータ構造を示す図である。
【図12】保持時間の補正点候補の抽出と対応を説明する図である。
【図13】評価マトリクスの説明図である。
【図14】保持時間の補正を説明する図である。
【図15】演算タイプごとの演算値と表示色の一例を示す図である。
【図16】位置情報を有するリストの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0151】
201 液体クロマトグラフ
202 質量分析装置本体
203 イオン源
204 質量分離装置
205 検出器
206 制御装置
207 信号線
208 データ処理装置
209 表示装置
210 キーボード
211 マウス
401 評価対象イオン
402 閾値レベル
403 判定領域
501 基準試料のマップ表示(補正前)
502 基準試料のクロマトグラム表示(補正前)
503 試料間の保持時間の対応表示(補正前)
504 被補正試料のクロマトグラム表示(補正前)
505 被補正試料のマップ表示(補正前)
506 試料間の比較解析マップ表示(補正前)
507 基準試料のマップ表示(補正後)
508 基準試料のクロマトグラム表示(補正後)
509 試料間の保持時間の対応表示(補正後)
510 被補正試料のクロマトグラム表示(補正後)
511 被補正試料のマップ表示(補正後)
512 試料間の比較解析マップ表示(補正後)
601 マップ表示
602 拡大マップ表示
603 拡大位置の情報表示
604 文字情報対応位置表示
605 拡大範囲表示
606 質量スペクトル表示
607 クロマトグラム表示
608 成分の位置表示801 基準試料のマップ表示
802 基準試料のクロマトグラム表示
803 試料間の保持時間の対応表示
804 被補正試料のクロマトグラム表示
805 被補正試料のマップ表示
806 試料間の比較解析マップ表示
807 マススペクトル表示
808 基準試料の情報表示
809 基準試料の情報表示の切り替えボタン
810 被補正試料の情報表示
811 被補正試料の情報表示の切り替えボタン
812 試料間の比較解析結果のリスト表示と選択ボタン
813 処理ボタンA
814 処理ボタンB
815 処理ボタンC
1101 保持時間の配列
1102 イオン強度の配列
1103 当該質量スペクトルにおける最大イオン強度の配列
1104 当該質量スペクトルのファイル内での位置を示す配列
1105 質量スペクトルの例
1106 マスクロマトグラムの例
1107 ベースピークイオンクロマトグラムの例
1201 基準試料のベースピークイオンクロマトグラム(補正前)
1202 被補正試料のベースピークイオンクロマトグラム(補正前)
1401 基準試料のベースピークイオンクロマトグラム(補正後)
1402 被補正試料のベースピークイオンクロマトグラム(補正後)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの試料をクロマトグラフィー質量分析した結果得られる保持時間と質量電荷比に対応するイオン強度について比較し、質量スペクトルとして観測したイオン群において、それぞれの質量電荷比の一致と、相対存在量が指定した変動内に収まることを以って、同じ成分が観測されている保持時間として対応付けることを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項2】
請求項1記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、
着目する成分のマスクロマトグラム又は個々の質量スペクトルの最大値からなるクロマトグラムのピークを用いて保持時間の補正点を離散的に抽出し、
前記ピーク位置における質量電荷比とイオン強度の変動範囲に基づき成分群の一致を判定し、
保持時間の補正に用いるイオンを選択することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項3】
請求項2記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、前記2つの試料のクロマトグラフィー質量分析の結果を保持時間を共通としてそれぞれ保持時間と質量電荷比の座標軸に対しイオン強度を色又は明暗によってマップ表示し、各試料の前記着目する成分のマスクロマトグラム又は個々の質量スペクトルの最大値からなるクロマトグラムを並べて表示すると共に成分が対応する保持時間を線分で結んで表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項4】
請求項3記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、前記2つの試料間で対応する保持時間と質量電荷比について、イオン強度の差又は比の値、片方の試料のみに存在するイオン強度、又は双方のイオン強度を、その値あるいは由来する試料に応じて色分けし、濃淡のマップとして表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項5】
請求項3記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、保持時間と質量電荷比に対応する同定結果などの情報がある場合、前記マップ上の該当位置にマークを表示し情報の存在を明示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項6】
請求項3記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、マウスによる位置指定あるいは成分の選択がなされたとき、前記マップ上の対応する保持時間と質量電荷比の近傍を拡大したマップ及びクロマトグラム、及び観測したイオンに関する情報を表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項7】
請求項3記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、個々の成分を保持時間と質量電荷比の1点に代表してマップ表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項8】
請求項6記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、保持時間に対応する質量スペクトルを前記拡大したマップに重ね書きして表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項9】
第1の試料をクロマトグラフィー質量分析した結果得られる保持時間と質量スペクトルの関係を表すデータをもとに、着目する成分のマスクロマトグラムあるいは各質量スペクトルにおけるイオン強度の最大値を保持時間に対してプロットしたベースピークイオンクロマトグラムからなる第1のクロマトグラムを作成する工程と、
第2の試料をクロマトグラフィー質量分析した結果得られる保持時間と質量スペクトル
の関係を表す第2のデータをもとに、前記着目する成分のマスクロマトグラムあるいは各質量スペクトルにおけるイオン強度の最大値を保持時間に対してプロットしたベースピークイオンクロマトグラムからなる第2のクロマトグラムを作成する工程と、
前記第1のクロマトグラムのピークの質量スペクトルと前記第2のクロマトグラムのピークの質量スペクトルを比較して、前記第1のクロマトグラムのピークと前記第2のクロマトグラムのピークとの対応付けを行う工程と、
前記工程で対応付けられた第1と第2のクロマトグラムのピークの保持時間が同じになるように前記第2の試料の質量スペクトルの保持時間を補正する工程と
を有することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項10】
請求項9記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、前記第1のクロマトグラムのピークとの保持時間の差が予め設定された時間以下である前記第2のクロマトグラムのピークに着目したとき、その質量スペクトル中で、前記第1のクロマトグラムのピークの質量スペクトル中で予め設定した閾値以上のイオン強度を有するイオンの強度が前記閾値以上のイオン強度に対して予め設定した変動内にあるとき、当該2つのピークを対応付けすることを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項11】
請求項10記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、前記予め設定した閾値以上のイオン強度を有するイオンの数が予め設定した数より多いことを前記2つのピークを対応付けするための条件とすることを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項12】
請求項9記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、前記ピークに基づいて補正された隣接する2つの保持時間の間の保持時間を、当該2つの保持時間の間を比例的に補間して補正することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項13】
請求項1又は9記載のクロマトグラフィー質量分析方法において、比較すべき試料を混合したものを第1の試料とし、混合する前の試料の一つを第2の試料とすることを特徴とするクロマトグラフィー質量分析方法。
【請求項14】
入力された第1の試料の保持時間と質量スペクトルの関係を表すデータと第2の試料の保持時間と質量スペクトルの関係を表すデータを比較して前記第2の試料由来のデータの保持時間を補正するデータ処理部と、
表示部とを有し、
前記データ処理部は、保持時間と質量スペクトルの関係を表すデータから着目する成分のマスクロマトグラムあるいは各質量スペクトルにおけるイオン強度の最大値を保持時間に対してプロットしたベースピークイオンクロマトグラムからなるクロマトグラムを作成し、前記第1の試料に由来するクロマトグラムのピークの質量スペクトルと前記第2の試料に由来するクロマトグラムのピークの質量スペクトルを比較して、ピーク同士の対応付けを行い、対応付けられた第1の試料由来のクロマトグラムのピークの保持時間と第2の試料由来のクロマトグラムのピークの保持時間が同じになるように前記第2の試料の質量スペクトルの保持時間を補正し、
前記表示部は、前記第1の試料に由来するデータと第2の試料に由来するデータを、保持時間を共通の座標軸としてそれぞれ保持時間と質量電荷比の座標軸に対しイオン強度を色又は明暗によってマップ表示し、前記第1の試料に由来するクロマトグラムと第2の試料に由来するクロマトグラムを並べ対応するピーク同士を線分で結んで表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。
【請求項15】
請求項14記載のクロマトグラフィー質量分析装置において、前記第1の試料に由来するクロマトグラムのピークとの保持時間の差が予め設定された時間以下である前記第2の試料由来のクロマトグラムのピークに着目したとき、その質量スペクトル中で、前記第1の試料に由来するクロマトグラムのピークの質量スペクトル中で予め設定した閾値以上のイオン強度を有するイオンの強度が前記閾値以上のイオン強度に対して予め設定した変動内にあるとき、当該2つのピークを対応付けすることを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。
【請求項16】
請求項14記載のクロマトグラフィー質量分析装置において、前記第1の試料と第2の試料間で対応する保持時間と質量電荷比について、イオン強度の差又は比の値、片方の試料のみに存在するイオン強度、又は双方のイオン強度を、その値あるいは由来する試料に応じて色分けし、濃淡のマップとして表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。
【請求項17】
請求項14記載のクロマトグラフィー質量分析装置において、マウスによる位置指定あるいは成分の選択がなされたとき、前記マップ上の対応する保持時間と質量電荷比の近傍を拡大したマップ及びクロマトグラム、及び観測したイオンに関する情報を表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。
【請求項18】
請求項14記載のクロマトグラフィー質量分析装置において、個々の成分を保持時間と質量電荷比の1点に代表してマップ表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。
【請求項19】
請求項17記載のクロマトグラフィー質量分析装置において、保持時間に対応する質量スペクトルを前記拡大したマップに重ね書きして表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。
【請求項20】
請求項16記載のクロマトグラフィー質量分析装置において、前記第1の試料と第2の試料間でイオン強度に違いがある成分をその違いの大きさの昇順又は降順に表示することを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。
【請求項21】
請求項14記載のクロマトグラフィー質量分析装置において、比較すべき試料を混合したものを第1の試料とし、混合する前の試料の一つを第2の試料とすることを特徴とするクロマトグラフィー質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−249440(P2008−249440A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90058(P2007−90058)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】