説明

クロム層を含むマスクの不動態処理方法及びそれを施したマスク

【課題】本発明は、オゾン水等の薬液で洗浄してもマスクのクロム表面の劣化を防止することができる不動態処理方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、アッシング装置内にクロム層を含むマスクを載置し、ガス種として水蒸気を使用して、酸化還元電位と水素イオン指数の関係を制御しながらプラズマ処理することで、クロム層の表面をCr(OH)に不動態化し、マスクをオゾン水で繰り返し洗浄してもクロム層のCD損失を抑えることを特徴とするクロム層を含むマスクの不動態処理方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造において使用するマスクのクロム表面の劣化を防止する不動態処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造のリソグラフィ工程においては、シリコンウエハの表面に感光性樹脂であるフォトレジストを塗布し、露光機でマスクパターンを転写してエッチングすることで回路パターンを作製する。
【0003】
マスクには、単に石英ガラス基板上に遮光膜としてクロム層を設けたバイナリマスクや、基板と屈折率や透過率の異なる物質を付加したり基板の厚みを変えることでその部分を通過する光の位相や強度を変えて解像性を向上させた位相シフトマスク等がある。
【0004】
尚、転写パターンの忠実度を上げるためにマスクパターンの形状補正を行うOPC(光近接効果補正)技術を用いたり、露光機の性能を向上させることで、バイナリマスクでも高い解像度を実現することができる。
【0005】
マスク作製後又は使用済マスクを再利用する際には、付着したパーティクルを除去するために洗浄を行うが、薬液としてオゾン水を用いると、クロム層が酸化されてマスクパターンが徐々に劣化するおそれがある。
【0006】
また、薬液として硫酸と過酸化水素を用いたSPM洗浄や、水酸化アンモニウムと過酸化水素と水を用いたAPM洗浄を行った場合、もやが発生してマスクが曇ることで光の透過率に影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
薬液にもやの原因となる硫黄等が含まれていないものを用い、さらに、薬液によりクロム層がダメージを受けないように対策を施すことで、洗浄を繰り返してもマスクの機能を維持できる手法が求められる。
【0008】
特許文献1に記載されているように、Al(アルミニウム)系金属層パターニング後のレジストマスクアッシングと不動態被膜形成処理を連続的に施すことができるプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法の発明も公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−139004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、プラズマアッシングにより被処理基板のレジストを除去した後、UV(紫外)光照射によりAl系金属配線に不動態被膜を形成するもので、マスクのクロム層を保護することはできない。
【0011】
そこで、本発明は、オゾン水等の薬液で洗浄してもマスクのクロム表面の劣化を防止することができる不動態処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、アッシング装置内にクロム層を含むマスクを載置し、ガス種として、水蒸気、又は水蒸気と酸素、又は水蒸気と水素、又はそれらの混合気体、又はそれらにアルゴン若しくは窒素を含む不活性ガスを添加した混合気体を使用して、水素イオン指数をpH7〜14かつ酸化還元電位を−1.5〜−0.5Vの範囲に制御しながらプラズマ処理することで、クロム層の表面にCr(OH)[水酸化クロム]又はCr[三酸化二クロム]を含むクロムの水酸化物と酸化物からなる不動態の保護膜を形成し、マスクをオゾン水で繰り返し洗浄してもクロム層のCD(クリティカルディメンション)損失を抑えることを特徴とするクロム層を含むマスクの不動態処理方法、及び当該不動態処理方法を施したことを特徴とするクロム層を含むマスクの構成とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、マスク上にパターン形成したクロム層の表面に不動態処理を施すことにより、洗浄を繰り返してもCD損失が少ないマスクを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法の流れを示す図である。
【図2】本発明の比較例としてクロム層を含むマスクを洗浄した時のCD変化量を示す図である。
【図3】本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法で使用するアッシング装置を示す図である。
【図4】本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法におけるプラズマ処理の条件を示す図である。
【図5】本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法を施したマスクの断面を示す図である。
【図6】本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法を施した後の洗浄におけるCD変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、オゾン水等の薬液で洗浄してもマスクのクロム表面の劣化を防止するという目的を、アッシング装置内にクロム層を含むマスクを載置し、ガス種として水蒸気又は水蒸気と酸素を使用して、水素イオン指数をpH7〜14かつ酸化還元電位を−1.5〜−0.5Vの範囲に制御しながらプラズマ処理することで、クロム層の表面にCr(OH)又はCrを含むクロムの水酸化物と酸化物からなる不動態の保護膜を形成し、マスクをオゾン水で繰り返し洗浄してもクロム層のCD損失を抑えることにより実現した。
【実施例1】
【0016】
以下に、添付図面に基づいて、本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法について詳細に説明する。図1は、本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法の流れを示す図である。
【0017】
クロム層を含むマスクの不動態処理方法1は、アッシング装置7内にクロム層6bを含むマスク6を載置し、ガス種として水蒸気又は水蒸気と酸素を使用して、水素イオン指数をpH7〜14かつ酸化還元電位を−1.5〜−0.5Vの範囲に制御しながらプラズマ処理することで、クロム層6bの表面にCr(OH)又はCrを含むクロムの水酸化物と酸化物からなる不動態の保護膜を形成し、マスク6をオゾン水で繰り返し洗浄してもクロム層6bのCD損失を抑えることを特徴とする。
【0018】
クロム層を含むマスクの不動態処理方法1は、クロム層形成2、プラズマ処理3、オゾン水洗浄4、露光5の流れで行う。尚、オゾン水洗浄4を繰り返すことで、露光5を複数回行うことが可能である。
【0019】
クロム層形成2は、マスク6上にクロムでパターンを形成する。マスク6は、主として石英基板6aにクロム層6bを設けたバイナリマスクであり、光を通す透過部と、クロムで光が遮られる遮光部からなる。
【0020】
尚、ハーフトーン型位相シフトマスクのように積層されていてもクロム層6bを含むマスク6であれば良く、クロム層6bをマスクとして半遮光膜のパターンを形成する場合にも適用できる。
【0021】
プラズマ処理3は、マスク6をアッシング装置7内に置き、プラズマを発生させてクロム層6bの表面を不動態化(パッシベーション)させる。尚、アッシング装置7に注入するガス種は、水蒸気、酸素と水蒸気、水素と水蒸気、又はそれらの混合気体であり、Ar(アルゴン)や窒素等の不活性ガスを添加した混合気体でも良い。
【0022】
尚、クロム層6bだけでなく、マスクパターンを形成するその他の層に対し、洗浄時の劣化を防止するために、プラズマ等で表面を不動態化させて保護膜6eを形成することも可能である。
【0023】
オゾン水洗浄4は、オゾン水を用いてマスク6を洗浄する。オゾンは非常に酸化力が強いが、クロム層6bは表面を覆う保護膜6eによりほとんど溶解せず、パーティクルのみが除去される。
【0024】
尚、オゾン水以外の薬液を用いて洗浄する場合においても、使用する薬液の性質に合わせて、クロム層6bやその他のマスクパターンが劣化しないように保護するための処置を施す。
【0025】
露光5は、露光機を使用してマスクパターンをレジストを塗布したウエハに転写する。マスク6は、実際のパターンの数倍のサイズで作製されており、ウエハにはレンズで縮小して投影される。
【0026】
尚、露光機の光源を短波長にすれば高解像度のパターンを実現することが可能である。また、OPC技術を用いてマスクパターンの形状補正を行えば、ウエハに転写されるパターンの忠実度を向上させることができる。
【0027】
図2は、本発明の比較例としてクロム層を含むマスクを洗浄した時のCD変化量を示す図である。尚、CDとは、マスク寸法を示す。
【0028】
従来においては、クロム層形成2を行った後のマスク6をオゾン水で洗浄すると、クロム層6bの表面が削られて、パターン幅6cは狭窄し、パターン間のスペース6dは増大する。洗浄を繰り返すことで、劣化は徐々に拡大する。
【0029】
例えば、オゾン水(濃度30ppm以上)で洗浄するとクロム層6bの両端がそれぞれ約1.5nmエッチングされる場合、1回目の洗浄後のクロム層6b’は、パターン幅6cが約3nm狭窄し、スペース6dが約3nm増大する。
【0030】
10回の洗浄を行うと、パターン幅6cは約30nm狭窄し、スペース6dは約30nm増大する。ウエハに対し4分の1に縮小して転写した場合は、正像からパターン幅6cが約8nm狭窄し、スペース6dが約8nm増大したパターンとなる。
【0031】
ウエハ上に作り込むIC(集積回路)の寸法は、120nm又は90nmから、45nm又は32nmへと、より小さいサイズに高集積化が進んでおり、劣化が激しいとCDを維持するのが困難となる。
【0032】
本発明では、クロム層6bの表面を不動態化して保護膜6eを形成することにより、パターン幅6cの狭窄及びスペース6dの増大を、不動態化しない場合の10分の1以下にすることができる。
【0033】
即ち、10回洗浄しても、ウエハに転写されるパターンの劣化は、正像と比較して、パターン幅6cの狭窄を0.8nm以下、スペース6dの増大を0.8nm以下に抑えることができる。
【0034】
図3は、本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法で使用するアッシング装置を示す図である。
【0035】
アッシング装置7は、マスク6に対しプラズマ処理3を施すための装置であり、水蒸気雰囲気、又は、酸素及び水蒸気雰囲気下でプラズマを発生させ、30秒以上アッシングすることで、クロム層6bの表面を不動態化させて保護膜6eを形成する。
【0036】
まず、チャンバ7a内に設けたステージ7dにマスク6を載置し、チャンバ7a内を真空ポンプ等を用いて真空化する。次に、ガス導入口7bからガスノズル7cを介してガス(水蒸気等)をチャンバ7a内に注入する。
【0037】
チャンバ7a上部に突出した石英ベルジャ7gの周りに配置したコイル7iで磁場を作り、RF導入口7jから高周波電源を供給して、マッチングボックス7fでインピーダンスを整合した上で、アンテナ7hに印加することでプラズマを発生させる。
【0038】
尚、ステージ7dに設けたヒータ7eでチャンバ7a内の温度を上げることでアッシング率を向上させることができるが、逆に、温度が上がり過ぎてポッピング現象が起きないように冷却水導入口7kから冷却水を供給して調整する。
【0039】
図4は、本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法におけるプラズマ処理の条件を示す図である。
【0040】
クロムの溶解・溶質に関するプールベダイアグラム8を利用して、プラズマ処理3を制御する。プールベダイアグラムは、化学種の存在領域を電極電位と水素イオン指数の2次元座標上に図示したものである。
【0041】
クロムについてのプールベダイアグラム8では、クロムが金属の状態で安定する不感域8a、クロムが不動態化する不動態域8b及び不動態域8c、クロムが溶解してイオンの状態で安定する腐食域8dの領域に分かれる。
【0042】
尚、不動態域8bでは表面が主にCr(OH)に変化し、不動態域8cでは表面が主にCrに変化して、クロムの周りを覆う保護膜6eが形成され、クロムは反応しなくなる。
【0043】
また、破線8e及び破線8fは水の生成・分解に関するもので、破線8eより上の領域では酸素が発生し、破線8fより下の領域では水素が発生する。破線8eと破線8fの間の領域が水の安定域である。
【0044】
縦軸は標準水素電極に対する酸化還元電位、横軸は水素イオン指数(pH)であり、不感域8aのクロムは、pH7〜14であれば不動態域8bに移行する場合はあっても、腐食域8dに直接移行することはほとんどない。
【0045】
さらに、水素イオン指数の条件に加え、酸化還元電位が−1.5〜−0.5Vの範囲となるように制御すれば、不動態域8b又は不動態域8cに移行し、腐食域8dに移行することはほとんどない。
【0046】
尚、アッシング装置7に注入したガス種が水蒸気のみの場合は、Cr(OH)になりやすく、ガス種が酸素と水蒸気の場合は、Cr(OH)になるか、Crになるか、その他の不動態になるかは、電位による。
【0047】
即ち、クロムの表面にCr(OH)かCrかCrO3 を含むクロムの水酸化物と酸化物の単結晶又は多結晶又は非晶質の被膜を形成すれば良く、例えば、Cr(OH):CrO2 (単結晶)やCr(OH):CrO3 (多結晶)等のような形態を取る場合もある。
【0048】
図5は、本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法を施したマスクの断面を示す図である。
【0049】
マスク6に対し30秒以上プラズマ処理3を施すと、最初は石英基板6a上のクロム層6bに対し反応が進むが、表面が不動態化されて保護膜6eで覆われると、クロム自体は内部に閉じ込められ、それ以上反応は進まなくなる。
【0050】
保護膜6eはオゾン水で洗浄してもほとんど酸化されないので、クロム層6bによるマスクパターンもほとんど劣化することなく、CDも維持することができる。
【0051】
図6は、本発明であるクロム層を含むマスクの不動態処理方法を施した後の洗浄におけるCD変化量を示す図である。従来法と本発明のクロムのCD変化量を比較する。
【0052】
プラズマ処理3を施すたびに、約0.5nmパターン幅が狭窄され、スペースが増大するので、プラズマ処理3は最初の1回だけ行ってクロム層6bを不動態化しておき、オゾン水洗浄4と露光5を繰り返す。
【0053】
図6の従来法に示すように、プラズマ処理3を施さないマスク6に対し、オゾン水洗浄4を行うと、パターン幅は約3.0nm狭窄し、スペースは約3.0nm増大する。洗浄を繰り返すことでマスクパターンの劣化はより拡大する。
【0054】
図6の本発明に示すように、1回だけプラズマ処理3を施したマスク6に対し、オゾン水洗浄4を行っても、それ以上パターン幅の狭窄及びスペースの増大はほとんどなく、マスクパターンの劣化は洗浄を繰り返したとしても微小である。
【0055】
オゾン水洗浄4と露光5を約10回繰り返し行っても、マスク6のCD損失は少なく、微細なマスクパターンであってもウエハへ忠実に転写することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 クロム層を含むマスクの不動態処理方法
2 クロム層形成
3 プラズマ処理
4 オゾン水洗浄
5 露光
6 マスク
6a 石英基板
6b クロム層
6b’ クロム層
6c パターン幅
6d スペース
6e 保護膜
7 アッシング装置
7a チャンバ
7b ガス導入口
7c ガスノズル
7d ステージ
7e ヒータ
7f マッチングボックス
7g ベルジャ
7h アンテナ
7i コイル
7j RF導入口
7k 冷却水導入口
8 プールベダイアグラム
8a 不感域
8b 不動態域
8c 不動態域
8d 腐食域
8e 破線
8f 破線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッシング装置内にクロム層を含むマスクを載置し、酸化還元電位と水素イオン指数の関係を制御しながらプラズマ処理することで、クロム層の表面にCr(OH)又はCr又はCrOを含むクロムの水酸化物と酸化物からなる不動態の保護膜を形成し、マスクをオゾン水で繰り返し洗浄してもクロム層のクリティカルディメンション損失を抑えることを特徴とするクロム層を含むマスクの不動態処理方法。
【請求項2】
アッシング装置に注入するガス種として、水蒸気、又は水蒸気と酸素、又は水蒸気と水素、又はそれらの混合気体、又はそれらにアルゴン若しくは窒素を含む不活性ガスを添加した混合気体を使用することを特徴とする請求項1に記載のクロム層を含むマスクの不動態処理方法。
【請求項3】
プラズマ処理時の水素イオン指数をpH7〜14かつ酸化還元電位を−1.5〜−0.5Vの範囲とすることで、クロム層を腐食させずに表面を不動態化させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクロム層を含むマスクの不動態処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の不動態処理方法を施したことを特徴とするクロム層を含むマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−210932(P2010−210932A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56786(P2009−56786)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(301028325)株式会社つくばセミテクノロジー (15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】