説明

クロム鉱石の溶融還元方法

【課題】 クロム鉱石を溶融状態で還元してクロム含有溶銑を溶製するにあたり、液相が多く、Al23を多く含有し、且つCr23も含有する生成スラグによるMgO系耐火物からなる炉壁耐火物の損耗を、コストの増大を招くことなく抑制する。
【解決手段】 MgO系耐火物6を内張り耐火物とする転炉型反応容器2に収容された溶銑に、クロム鉱石、炭材及び造滓剤を添加し且つ上吹きランス3から酸素ガスを供給し、前記クロム鉱石を溶融して還元するとともに、生成するスラグ12のMgO含有量がその生成スラグにおける飽和溶解度よりも過剰になるようにMgO源を添加する、クロム鉱石の溶融還元方法において、製錬初期の昇温期に、MgO純分換算で溶銑トンあたり1.0kg以上のMgO源を前記反応容器内に添加し、且つ、製錬進行度の75〜90%の時点で、スラグの塩基度調整用のSiO2源を前記反応容器内に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgO系耐火物を内張り耐火物とする転炉型反応容器内の溶銑上に添加したクロム鉱石を溶融状態で還元してクロムを含有する溶銑(以下、「クロム含有溶銑」と記す)を溶製するためのクロム鉱石の溶融還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、一般的に、炭素などによる還元によって予めクロム鉱石から製造されたフェロクロム合金をステンレス鋼屑などとともに電気炉などで溶解・精錬することによって溶製されるが、フェロクロム合金が高価であることから、その溶製コストが高価になるという問題がある。この問題を解決するべく、粉状のクロム鉱石を、転炉型反応容器に装入された溶銑に炭素含有物質とともに添加し、クロム鉱石を直接溶融還元してクロム含有溶銑を溶製する方法が提案され、実用化されている(例えば特許文献1を参照)。このクロム鉱石の溶融還元法で用いられる転炉型反応容器の耐火物構成は、内張り耐火物(「ワーク耐火物」ともいう)として塩基性のMgO系耐火物がこれまで用いられてきた。
【0003】
クロム鉱石の構成物質は、MgO・Cr23、FeO・Al23(一般的には、(Fe,Mg)O・(Al,Cr)23と記載される)などのスピネル構造を有する化合物であり、この鉱石を還元製錬すると、Al23含有量の多いスラグが形成される。またスラグにはCr23も含有される。スラグ中のCr23は、クロムの還元歩留りを低下させるだけではなく、大気中での放置時にCr3+→Cr6+へと更に酸化され、スラグとして有害になる可能性がある。これを防止するためには、生成するスラグの塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)を適正範囲に調整し、クロムの過酸化を抑制させることが必要である。
【0004】
このような事情から、クロム鉱石の溶融還元製錬時に生成するスラグは、製錬時に液相が多く、Al23を多く含有し、且つCr23も含有するスラグである。このスラグは耐火物中のMgOと反応してMgO・Cr23を生成させることから、転炉型反応容器の内張り耐火物であるMgO系耐火物の損耗が激しくなる。このMgO系耐火物の損耗を抑制するためには、製錬中はスラグ中のMgO濃度を飽和に保つ必要があり(例えば特許文献2を参照)、従って、MgO源の添加によってスラグ成分を調整する具体的な方法が幾つか提案されている。
【0005】
例えば特許文献3には、塩基度が1.7以下のスラグ中にMgOを主成分とする煉瓦破砕物を添加して、スラグ成分をMgOの初晶域となるように調整する耐火物保護方法が提案されている。しかし、転炉型反応容器での製錬、特にクロム鉱石などの固体酸化物を連続的に投入する製錬では、スラグの組成が連続的に変化するので、スラグ成分を特定することが難しく、安定してスラグ成分をMgOの初晶域となるように調整することは極めて困難である。また、特許文献3は、塩基度が1.7以下の低塩基度領域を対象としており、この塩基度領域でスラグ成分をMgO初晶域に制御するためには相当量のMgO源が必要であり、スラグ量の増大を招きかねない。更に、塩基度が1.7を超える範囲では、この方法は適用されない可能性がある。
【0006】
また、特許文献4には、MgO系耐火物を内張りした転炉型反応容器内の溶銑に、金属酸化物及び炭材を投入、酸素吹錬して昇温、溶融し、該金属酸化物を溶融還元するに際して、前記昇温の段階で生成したスラグに含MgO耐火物廃材を添加し、その後、遅くとも溶融還元製錬の終了30分前までに、該含MgO耐火物廃材を易溶解性MgO物質に変更するという、スラグ組成の調整方法が提案されている。この方法は、含MgO耐火物廃材を有効利用してスラグ成分をMgO飽和スラグになるように調整する方法であり、一見有効な手段といえる。しかしながら、この方法ではスラグのMgO飽和溶解度を記載しておらず、スラグ成分の制御について更に検討する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−9959号公報
【特許文献2】特開平7−34144号公報
【特許文献3】特開2006−257519号公報
【特許文献4】特開2000−282125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、MgO系耐火物を内張り耐火物とする転炉型反応容器内の溶銑上に添加したクロム鉱石を溶融状態で還元してクロム含有溶銑を溶製するにあたり、溶融還元製錬時に生成される、液相が多く、Al23を多く含有し、且つCr23も含有するスラグによる前記MgO系耐火物からなる内張り耐火物の損耗を、コストの増大を招くことなく抑制することのできる、クロム鉱石の溶融還元方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明に係るクロム鉱石の溶融還元方法は、MgO系耐火物を内張り耐火物とする転炉型反応容器内の溶銑に、クロム鉱石、炭材及び造滓剤を添加し且つ上吹きランスから酸素ガスを供給し、前記クロム鉱石を溶融して還元するとともに、前記反応容器内に生成するスラグ中のMgO含有量がその生成スラグにおける飽和溶解度よりも過剰になるようにMgO源を添加する、クロム鉱石の溶融還元方法において、製錬初期の昇温期に、MgO純分換算で溶銑トンあたり1.0kg以上のMgO源を前記反応容器内に添加し、且つ、製錬進行度の75〜90%の時点で、スラグの塩基度調整用のSiO2源を前記反応容器内に添加することを特徴とする。
【0010】
第2の発明に係るクロム鉱石の溶融還元方法は、第1の発明において、前記SiO2源を添加後のスラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が1.6〜2.5となるように、SiO2源の添加量を調整することを特徴とする。
【0011】
第3の発明に係るクロム鉱石の溶融還元方法は、第1または第2の発明において、製錬中のスラグのMgO含有量が、そのスラグの飽和溶解度よりも2.0質量%以上過剰になるようにMgO源の添加量を調整することを特徴とする。
【0012】
第4の発明に係るクロム鉱石の溶融還元方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和が45質量%以下となるように、MgO源の添加量を調整することを特徴とする。
【0013】
第5の発明に係るクロム鉱石の溶融還元方法は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記MgO源が使用済みの含MgO耐火物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クロム鉱石の溶融還元製錬において、製錬初期の昇温期からMgO源を添加し、且つ、製錬進行度の75〜90%の時点で、塩基度調整用のSiO2源を添加するので、クロム鉱石の還元反応に悪影響を及ぼすことなく、MgO系耐火物を内張り耐火物とする転炉型反応容器の炉壁耐火物の損耗を抑制することが実現される。また、生成するスラグはSiO2源によって塩基度が調整されるので、冷却後のスラグ中のCr3+の更なる酸化を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】クロム鉱石の溶融還元製錬におけるスラグ組成の変化の例を示す図である。
【図2】スラグによる耐火物の損耗を調査するための実験装置の概略図である。
【図3】耐火物の損耗速度と飽和溶解度の変化量ΔMgOとの関係を示す図である。
【図4】本発明を適用した鉄浴型溶融還元炉設備の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。
【0017】
先にも述べたように、クロム鉱石の構成物質は、MgO・Cr23、FeO・Al23(一般的には、(Fe,Mg)O・(Al,Cr)23と記載される)などのスピネル構造を有する化合物であり、溶融還元製錬において、このクロム鉱石を溶融し、炭材及び溶銑中の炭素によって還元反応を起こすことで、クロム鉱石中のFeO及びCr23は還元されて減少するが、クロム鉱石中のMgO及びAl23は還元されず、高MgO濃度且つ高Al23濃度のスラグが形成される。しかも、Cr23の還元率は100%にはならず、溶融還元製錬で生成されるスラグにはCr23も若干量含有される。
【0018】
生成するスラグにCr23が含有される場合、冷却後のスラグを大気中で長期間放置すると、スラグ中のCr23がCr3+→Cr6+へと更に酸化され、スラグが環境に対して有害になる可能性がある。これを防止するために、生成するスラグの塩基度(=(質量%CaO)/(質量%SiO2))を過剰に高くせず、適正範囲に調整して、クロムの過酸化(Cr3+→Cr6+への酸化)を抑制している。
【0019】
このために、クロム鉱石の溶融還元製錬で生成するスラグは、塩基度が過剰に高くなく、Al23を多く含み、且つCr23も含有している。このようなスラグは、転炉型反応容器の内張り耐火物(「ワーク耐火物」、「ワーク煉瓦」ともいう)であるMgO系耐火物中のMgOと反応し、MgO・Cr23、MgO・Al23などのスピネル系化合物を形成し、その結果、クロム鉱石の溶融還元製錬においては、転炉型反応容器を構成するMgO系耐火物の損耗が極めて激しくなる。従って、耐火物からのMgOの溶出を抑制するために、溶融還元製錬中はスラグ中のMgO濃度を少なくとも飽和溶解度に保つ必要がある。しかしながら、従来、MgOの飽和の度合いとMgO系耐火物の損耗速度との関係については未だ未解明な点がある。
【0020】
そこで、本発明者らは、クロム鉱石の溶融還元製錬時におけるスラグ組成の変化を調査し、スラグのMgOの飽和溶解度の変化とMgO系耐火物の損耗速度との関係について検討した。
【0021】
クロム鉱石の溶融還元製錬におけるスラグ組成の変化の一例を図1に示す。図1の横軸の「製錬進行度」は、製錬開始時を0%とし、所定量の酸素ガスを供給して製錬を終了した時点を100%とする製錬の経過を表示する指標であり、酸素ガス供給量を基準とする指標である。図1に示すように、クロム鉱石の溶融還元製錬においては、製錬後半でスラグの塩基度を調整するためにSiO2源を添加しており、これによってスラグの塩基度は大幅に低下し、この時点でスラグ中のMgOの析出量が大きく低下している。また、SiO2源の投入によってスラグの液相の比率が急激に上昇することが分る。
【0022】
本発明者らは、このSiO2源の投入に伴うスラグ塩基度の急激な低下がMgO系耐火物の損耗に影響を及ぼす可能性があると考え、以下の実験を行った。
【0023】
図2に実験装置の概略図を示す。実験は回転浸食法によって行った。即ち、発熱体18を用いて加熱した黒鉛坩堝17でスラグ20を溶解し、溶解したスラグ20に円筒状のMgO系耐火物試片19を浸漬させ、浸漬させたMgO系耐火物試片19を所定時間回転させてスラグ20と反応させた。実験は、スラグ20の条件を6水準(水準1〜6)に変更して行った。また、MgO系耐火物試片19としては、転炉型反応容器で一般的に使用される黒鉛を20質量%含有するMgO−C煉瓦を使用した。実験条件を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
また、水準1〜6におけるスラグ条件を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
水準1〜3では、スラグのMgO含有量及びAl23含有量を同等とし、スラグの塩基度を3.0、4.0、5.0と変化させた。水準4〜6では、実機操業における塩基度調整のためのSiO2源投入を模して、それぞれ水準1〜3と同様のスラグを溶解させた後、MgO系耐火物試片19をスラグ20に浸漬させる直前に、スラグ20の塩基度が2.0となるように所定量のSiO2源を添加した。スラグ20は1時間毎に新規のスラグ20に交換し、2回交換した後の合計3時間の浸漬時間で耐火物損耗量を評価した。尚、水準1〜6において使用したスラグは全てMgO含有量が飽和溶解度以上になる組成であり、また、水準4〜6では、SiO2源の添加によってMgOの飽和溶解度が変化するようにした。
【0028】
耐火物の損耗量は、3時間の浸漬による溶損量(=実験前の試片の直径(mm)−実験後の試片の直径(mm))を浸漬時間(hr)で除算して定まる損耗速度(mm/hr)で評価した。表3に、水準1〜6における耐火物の損耗速度の調査結果を示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3に示すように、SiO2源を添加しなかった水準1〜3では、スラグ塩基度の大小に拘わらず耐火物の損耗速度は0.2〜0.3mm/hrと小さく、MgO系耐火物の損耗は少ないことが分った。一方、SiO2源を添加した水準4〜6では、耐火物の損耗速度は、0.85〜1.13mm/hrとSiO2源を添加しなかった場合の4倍程度となり、何れもMgO系耐火物の損耗が見られた。また、最も損耗速度が大きくなったのは、スラグ塩基度の変化の最も小さい水準4であった。
【0031】
この原因を検討するために水準4〜6で使用したスラグの1650℃における平衡相を計算した。その結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
また、表4に示す1650℃における平衡相の計算結果から、SiO2源添加の前後での液相スラグにおけるMgOの飽和溶解度の変化量をΔMgO(質量%)として下記の(1)式で定義した。表4には、下記の(1)式で算出される飽和溶解度の変化量ΔMgOを併せて示す。
【0034】
【数1】

【0035】
表3に示す耐火物の損耗速度(mm/hr)とMgO飽和溶解度の変化量ΔMgOとの関係を図3に示す。尚、図3では、変化量ΔMgOがゼロのデータとして水準2のデータを記載している。図3からも明らかなように変化量ΔMgOが大きくなるほど損耗速度が大きくなる傾向であることが分った。
【0036】
水準4において最も損耗速度が大きくなった理由としては、今回の実験ではスラグ質量が800g/回と一定であり、しかも水準4では表4に示すようにスラグの液相率が水準5、6に比較して高くなっていたことから、SiO2源の添加によるスラグ中のMgO飽和溶解度の変化幅が大きく、MgO系耐火物中のMgOのスラグへの溶出が大きくなったためであると考えられる。
【0037】
文献1(水渡ら、東北大学素材工学研究所彙報、No.52、1-2、p.23)によると、CaO−SiO2−Al23−MgO系スラグの1600℃におけるMgO飽和溶解度は、Al23濃度が同一の条件下では、(CaO+MgO)/(CaO+MgO+SiO2)が0.75〜0.80付近で最小となっている。今回の実験は1650℃でのデータであり、文献1よりも高い温度域であるが、スラグ組成とMgO飽和溶解度との関係は文献1と大略一致していることが分る。
【0038】
SiO2源を添加することで耐火物の損耗が増大する理由は、スラグ中に添加されたSiO2源はすぐには均一にならないために、回転初期においてはスラグ中のMgOが一時的に未飽和になり、このMgO未飽和のスラグがMgO系耐火物と接触することで、耐火物中のMgOのスラグへの溶出が起こり、MgO系耐火物の損耗が大きくなると考えられる。
【0039】
以上の結果から、たとえスラグ組成全体はMgO飽和領域であっても、塩基度の急激な低下に伴うMgO飽和溶解度の変化によってMgO系耐火物の損耗が大きくなることが確認できた。また、MgO飽和溶解度の変化量ΔMgOが大きいほど、MgO系耐火物の損耗が大きくなることも確認できた。
【0040】
クロム鉱石の溶融還元製錬において、塩基度調整用のSiO2源を添加しないで溶融還元製錬を実施すればMgO系耐火物の損耗を大幅に改善できるが、クロム鉱石の溶融還元製錬においてSiO2源を添加してスラグの塩基度を低下させる工程は、製錬後のスラグのCr3+の酸化を防止する観点から必須である。但し、上記検討結果から、MgO系耐火物の損耗を抑制するためには、SiO2源の添加による急激な塩基度低下は製錬進行度のより後半に実施することが望ましいことが分った。
【0041】
そこで、SiO2源の投入時期を変更する試験を実機溶融還元設備で実施した。その結果、製錬進行度が75〜90%(最適は85%)の時期にSiO2源を投入すれば、MgO系耐火物の損耗が抑制されることが分った。製錬進行度が90%を超えた時点でSiO2源を添加した場合には、スラグへのSiO2源の溶解不足によってスラグ塩基度の低下を十分に行なうことができない。一方、製錬進行度が75%よりも以前の時点でSiO2源を添加した場合には、早期にスラグ塩基度を低下させてしまうために、MgO系耐火物の損耗を抑制することができない。
【0042】
また、MgO系耐火物の損耗を抑制するためには、MgO源を、製錬初期の昇温期に、MgO純分換算で溶銑トンあたり1.0kg以上添加し、昇温期の後段の溶融還元期の初期の段階から炉内のスラグをMgO飽和状態とする必要があることも分った。製錬初期の昇温期にMgO源を添加することで、スラグ中に滞在する添加したMgOが可溶性に改質され、溶融還元期の初期の段階からスラグのMgO濃度を飽和溶解度に維持することが可能となる。
【0043】
本発明は、これらの知見に基づくもので、MgO系耐火物を内張り耐火物とする転炉型反応容器内の溶銑に、クロム鉱石、炭材及び造滓剤を添加し且つ上吹きランスから酸素ガスを供給し、前記クロム鉱石を溶融して還元するとともに、前記反応容器内に生成するスラグ中のMgO含有量がその生成スラグにおける飽和溶解度よりも過剰になるようにMgO源を添加する、クロム鉱石の溶融還元方法において、製錬初期の昇温期には、MgO純分換算で溶銑トンあたり1.0kg以上のMgO源を前記反応容器内に添加し、且つ、製錬進行度の75〜90%の時点で、スラグの塩基度調整用のSiO2源を前記反応容器内に添加することを特徴とする。
【0044】
MgO源は、そのスラグのMgO飽和溶解度よりも過剰になるように添加し、好ましくは、MgO飽和溶解度よりも2.0質量%以上過剰になるように添加量を調整する。MgO源をMgO飽和溶解度よりも2.0質量%以上過剰に添加することで、スラグ中に溶解しているMgO濃度が、常時、飽和状態に維持され、MgO系耐火物からのMgOの溶出が抑制され、MgO系耐火物の損耗が少なくなる。
【0045】
また、製錬の進行に伴ってスラグ量が増加し、それに伴って飽和溶解度を維持するためのMgO源が増加する。この増加分を見込んで製錬初期の昇温期に全てのMgO源を一括投入してもよく、また、昇温期には、例えばスラグ量の少ない溶融還元期の初期段階で飽和溶解度となる程度のMgO源を添加し、溶融還元精錬の進行に伴うスラグ量の増加に応じて、そのスラグのMgO飽和溶解度よりも常に過剰になるようにMgO源を複数回にわけて追加投入してもよい。
【0046】
MgO源としては、MgO−C煉瓦やアルミナ−マグネシア−炭素質煉瓦などの含MgO耐火物の廃材を利用することが資源の有効活用の観点から好ましいが、MgOクリンカー、ドロマイトなどのMgOを含有する原材料であっても構わない。尚、本発明において、MgO系耐火物とは、MgO−C煉瓦、マグネシア煉瓦、マグネシア−クロム煉瓦などのMgOを主成分とする耐火物を意味し、含MgO耐火物とは、前述のMgO系耐火物のみならず、例えば、アルミナ−マグネシア−炭素質煉瓦、アルミナ−マグネシア不定形耐火物廃材などのMgOを主成分とはしないが、MgOを含有する耐火物までを意味するものである。
【0047】
また、本発明において、SiO2源投入後のスラグの塩基度は2.5以下にすることが好ましい。塩基度が2.5を超えると、製錬終了後のスラグをスラグヤードなどで冷却し、冷却後のスラグを長期間大気中に放置した際にスラグ中に残留するCr23が更に酸化され、Cr6+が生成される虞があり、環境上極めて重大な問題となる虞がある。スラグの塩基度が2.5以下であれば、Cr6+は生成されず、問題とならない。スラグ塩基度の下限はCr23の更なる酸化の観点からは特に規定する必要はないが、塩基度が1.6未満になると、スラグのMgO飽和溶解度が増大し、多量のMgO源が必要となることから、スラグの塩基度は1.6以上とすることが好ましい。
【0048】
更に、本発明においては、スラグ中のMgO含有量とAl23含有量との和を45質量%以下にすることが好ましい。スラグ中のMgO含有量とAl23含有量との和が45質量%を超えると、MgO・Al23のスピネル化合物が形成され、クロム鉱石の還元速度が低下する可能性があるからである。溶融還元製錬の全ての期間で、スラグ中のMgO含有量とAl23含有量との和を45質量%以下にすることが最も望ましいが、部分的な期間であっても、少なくともその期間はクロム鉱石の還元速度が低下する可能性はないことから、例えば製錬終了時などの部分的な期間であっても構わない。
【0049】
クロム鉱石の溶融還元製錬では、クロム鉱石にAl23が不可避的に混入し、スラグ中のAl23が増加する。従って、MgO源の追加装入時には、MgO含有量とAl23含有量との和が45質量%以下となり、且つ、スラグ中のMgO含有量が、そのスラグのMgO飽和溶解度よりも2.0質量%以上過剰になるように、MgO源の添加量を調整することが好ましい。このようにすることで、溶融還元製錬の全ての期間で、スラグ組成を最適な組成に維持することが実現される。
【0050】
上記構成の本発明によれば、クロム鉱石の溶融還元製錬において、クロム鉱石の還元反応に悪影響を及ぼすことなく、MgO系耐火物を内張り耐火物とする転炉型反応容器の炉壁耐火物の損耗を抑制することが実現される。また、生成するスラグはSiO2源によって塩基度が調整されるので、冷却後のスラグ中のCr3+の更なる酸化を未然に防止することができる。
【実施例】
【0051】
図4に示す、転炉型反応容器を備えた鉄浴型溶融還元炉設備において本発明を適用した例(本発明例1〜3)を比較例(比較例1〜3)と対比して説明する。
【0052】
図4において、符号1は鉄浴型溶融還元炉設備、2は転炉型反応容器、3は上吹きランス、4は鉱石投入ランス、5は鉄皮、6はMgO系耐火物、7は底吹き羽口、8は酸素ガス供給管、9は鉱石搬送用管、10は燃料供給管、11は酸素ガス供給管、12はクロム含有溶銑、13はスラグ、14は酸素ガス、15は鉱石、16は火炎であり、上吹きランス3は、転炉型反応容器2の軸心上に設置されており、また、転炉型反応容器2の軸心から離れた位置に設置した鉱石投入ランス4の先端部には、搬送用ガスとともに鉱石15を炉内に吹き込むための流通孔(図示せず)が設けられ、且つ、燃料及び酸素ガスを吹き込む噴射孔(図示せず)からなるバーナーが設けられている。即ち、鉱石投入ランス4の先端部のバーナーから吹き込まれる燃料及び酸素ガスによって形成される火炎16の中を、鉱石15が搬送用ガスとともに通過して炉内に装入されるように構成されている。コークス、石炭などの炭材、生石灰などの造滓剤、珪石、珪砂などのSiO2源、及び、含MgO耐火物の廃材、MgOクリンカー、ドロマイトなどのMgO源は、炉上のホッパー(図示せず)に収容されており、シュート(図示せず)を介して炉口から炉内に投入添加されるように構成されている。
【0053】
転炉型反応容器2に150トンの溶銑を装入し、次いで、底吹き羽口7から攪拌用ガス(窒素ガス)を吹き込みながら、炉内の溶銑に、炭材としてのコークス及び造滓剤としての生石灰を添加し、且つ、上吹きランス3から酸素ガスを吹き付け、溶銑の温度を1550〜1630℃に昇温させるとともに生石灰の一部を滓化させてスラグ13を生成させた(この期間を「昇温期」という)。その後、溶銑の温度を1550〜1630℃に維持した状態で、クロム鉱石15を、火炎16で加熱しつつ鉱石投入ランス4から投入し、更にコークスを上置き添加し、クロム鉱石の溶融還元を行った(この期間を「溶融還元期」という)。クロム鉱石中のクロム分は還元されてクロムを含有するクロム含有溶銑12が生成する。
【0054】
使用したMgO源は、本発明例1、2及び比較例2ではMgOクリンカーを用い、本発明例3及び比較例3では、使用済みのMgO−C煉瓦を使用した。また、SiO2源としては全ての操業で珪石を使用した。表5に本発明例1〜3及び比較例1〜3の操業条件を示す。
【0055】
【表5】

【0056】
表5に示すように、本発明例1では、MgO源としてMgOクリンカーを使用し、吹錬終了時のスラグのMgO含有量がMgO飽和溶解度よりも1.0質量%高くなるように、製錬初期の昇温期にMgOクリンカーを一括投入した。また、SiO2源添加後の塩基度が2.5となるように、スラグの塩基度調整用のSiO2源を製錬進行度の80%の時点で添加した。製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和は42質量%であった。
【0057】
本発明例2では、MgO源としてMgOクリンカーを使用し、吹錬終了時のスラグのMgO含有量がMgO飽和溶解度よりも2.0質量%高くなるように、製錬初期の昇温期にMgOクリンカーを一括投入した。また、SiO2源添加後の塩基度が2.3となるように、スラグの塩基度調整用のSiO2源を製錬進行度の90%の時点で添加した。製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和は44質量%であった。
【0058】
本発明例3では、MgO源として使用済みのMgO−C煉瓦を使用し、吹錬終了時のスラグのMgO含有量がMgO飽和溶解度よりも2.0質量%高くなるように、製錬初期の昇温期に使用済みのMgO−C煉瓦を一括投入した。また、SiO2源添加後の塩基度が2.2となるように、スラグの塩基度調整用のSiO2源を製錬進行度の85%の時点で添加した。製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和が43質量%であった。
【0059】
これに対して比較例1では、MgO源を全く使用しないで、クロム鉱石の溶融還元を行った。また、SiO2源添加後の塩基度が2.5となるように、スラグの塩基度調整用のSiO2源を製錬進行度の60%の時点で添加した。製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和は40質量%であった。
【0060】
比較例2では、MgO源としてMgOクリンカーを使用し、吹錬終了時のスラグのMgO含有量がMgO飽和溶解度よりも0.5質量%高くなるように、製錬初期の昇温期にMgOクリンカーを一括投入した。また、SiO2源添加後の塩基度が2.2となるように、スラグの塩基度調整用のSiO2源を製錬進行度の65%の時点で添加した。製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和が40質量%であった。
【0061】
比較例3では、MgO源として使用済みのMgO−C煉瓦を使用し、吹錬終了時のスラグのMgO含有量が飽和溶解度よりも5.0質量%高くなるように、製錬初期の昇温期に使用済みのMgO−C煉瓦を一括投入した。また、SiO2源添加後の塩基度が2.3となるように、スラグの塩基度調整用のSiO2源を製錬進行度の95%の時点で添加した。製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和が48質量%であった。
【0062】
本発明例及び比較例ともに、一定期間の溶融還元製錬を実施し、炉壁のMgO系耐火物の損耗量(mm/ch)、並びに、還元挙動の指標として、スラグ中のT.Cr濃度及びスラグの滓化状況を調査した。尚、「スラグ中のT.Cr濃度」とはスラグ中に含有される酸化物形態のクロムの量である。表6に調査結果を示す。
【0063】
【表6】

【0064】
本発明例1〜3は、何れも比較例1と比べて炉壁耐火物の損耗量が低減し、スラグ中のT.Cr濃度も低位であり、スラグの滓化も良好であり、安定した操業が実現できた。特に、MgO源を飽和溶解度よりも2.0質量%高くなるように添加した本発明例2、3では耐火物の損耗量が低減した。MgO源として使用済みのMgO−C煉瓦を使用した本発明例3は、MgOクリンカーを使用した本発明例2と同等の効果があり、使用済みのMgO−C煉瓦をMgO源として使用できることが確認できた。
【0065】
これに対して、比較例2では、SiO2源の投入時期が本発明の範囲外であり、炉壁耐火物の損耗量は比較例1に比べると少なかったが、本発明例1〜3よりも多くなった。また、比較例3は、SiO2源の投入が製錬進行度の95%の時点であり、スラグの滓化が悪化した。しかも、MgO源の投入量が飽和溶解度よりも5.0質量%多いことから、炉壁耐火物の損耗量は低減したものの、スラグ中のT.Cr濃度が高く、クロム鉱石の還元挙動は悪化した。
【0066】
これらの結果から、本発明の優位性が明らかとなった。
【符号の説明】
【0067】
1 鉄浴型溶融還元炉設備
2 転炉型反応容器
3 上吹きランス
4 鉱石投入ランス
5 鉄皮
6 MgO系耐火物
7 底吹き羽口
8 酸素ガス供給管
9 鉱石搬送用管
10 燃料供給管
11 酸素ガス供給管
12 クロム含有溶銑
13 スラグ
14 酸素ガス
15 鉱石
16 火炎
17 黒鉛坩堝
18 発熱体
19 MgO系耐火物試片
20 スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO系耐火物を内張り耐火物とする転炉型反応容器内の溶銑に、クロム鉱石、炭材及び造滓剤を添加し且つ上吹きランスから酸素ガスを供給し、前記クロム鉱石を溶融して還元するとともに、前記反応容器内に生成するスラグ中のMgO含有量がその生成スラグにおける飽和溶解度よりも過剰になるようにMgO源を添加する、クロム鉱石の溶融還元方法において、製錬初期の昇温期に、MgO純分換算で溶銑トンあたり1.0kg以上のMgO源を前記反応容器内に添加し、且つ、製錬進行度の75〜90%の時点で、スラグの塩基度調整用のSiO2源を前記反応容器内に添加することを特徴とする、クロム鉱石の溶融還元方法。
【請求項2】
前記SiO2源を添加後のスラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が1.6〜2.5となるように、SiO2源の添加量を調整することを特徴とする、請求項1に記載のクロム鉱石の溶融還元方法。
【請求項3】
製錬中のスラグのMgO含有量が、そのスラグの飽和溶解度よりも2.0質量%以上過剰になるようにMgO源の添加量を調整することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のクロム鉱石の溶融還元方法。
【請求項4】
製錬終了時のスラグのMgO含有量とAl23含有量との和が45質量%以下となるように、MgO源の添加量を調整することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のクロム鉱石の溶融還元方法。
【請求項5】
前記MgO源が使用済みの含MgO耐火物であることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のクロム鉱石の溶融還元方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−67370(P2012−67370A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214637(P2010−214637)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】