説明

クロロプレン系重合体組成物、その製造方法、並びにこれを用いた接着剤

【課題】良好な接着性を維持しつつ、相分離安定性にも優れたクロロプレン系重合体組成
物を提供すること。
【解決手段】クロロプレン単量体単独、又は、クロロプレン単量体及び該クロロプレン単量体と共重合可能な単量体100質量部を、乳化剤としてのロジン酸及び/又はロジン酸の金属塩0.5〜7.0質量部と、該ロジン酸の金属塩100質量部に対してハイドロサルファイトソーダ5〜20質量部の存在下で、重合率60%以上となるまで重合反応させて得られるクロロプレン系重合体組成物とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン系重合体組成物、その製造方法、並びにこれを用いた接着剤に
関する。より詳しくは、接着剤用のクロロプレン系重合体組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン系重合体は、耐熱性、耐候性、耐オゾン性、耐薬品性、難燃性(自己消火
性)等に優れた物質であり、天然ゴムや他の合成樹脂等と比較しても多くの優れた特性を
有する。このように全体的にバランスのとれた物性であるクロロプレン系重合体は、種々
の用途に使用されており、その中の代表例として接着剤としての用途が挙げられる。
【0003】
クロロプレン系重合体を用いたクロロプレン系接着剤は、クロロプレン系重合体や粘着
付与樹脂や金属酸化物等の混合物がトルエンやアセトン等の有機溶剤に溶解されており、
この有機溶剤が揮発することで硬化・接着するものであり初期立ち上り接着強さ等に優れ
ている。このようにクロロプレン系接着剤は優れた接着性を有するため、木工、家具、車
両等といった幅広い分野において汎用されている(例えば、特許文献1,2参照 )。
【0004】
【特許文献1】特開2003−226852号公報。
【特許文献2】特開2005−008713号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記クロロプレン系接着剤は、静置状態で放置すると相分離を引き起こす問題
等がある。そこで、本発明は、良好な接着性を維持しつつ、耐相分離性にも優れたクロロ
プレン系重合体組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本発明は、クロロプレン単量体単独、又は、クロロプレン単量体及び該クロロプ
レン単量体と共重合可能な単量体100質量部を、乳化剤としてのロジン酸及び/又はロジン酸の金属塩0.5〜7.0質量部と、該ロジン酸及び/又はロジン酸の金属塩100質量部に対してハイドロサルファイトソーダ5〜20質量部の存在下で、重合率60%以上となるまで重合反応させて得られるクロロプレン系重合体組成物を提供する。これにより、対相分離性に優れたクロロプレン系重合体組成物とすることができる。
【0007】
続いて、本発明は、前記ハイドロサルファイトソーダの添加量が、ロジン酸の金属塩1
00質量部に対して5〜20質量部であるクロロプレン系重合体組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、クロロプレン単量体、又は、クロロプレン単量体及び該クロロプレン単量体と共重合可能な単量体合わせて100質量部を、乳化剤としてのロジン酸及び/又はロジン酸の金属塩0.5〜7.0質量部と、該ロジン酸の金属塩100質量部に対してハイドロサルファイトソーダ5〜20質量部の存在下で、重合率60%以上となるまで重合反応させるクロロプレン系重合体組成物の製造方法を提供する。これにより、相分離安定性に優れたクロロプレン系重合体組成物を製造することができる。また、本発明は、前記重合反応における重合温度を35℃以上とすることが好ましく、これにより耐相分離性を向上させることができる。
【0009】
更に、本発明は、本発明に係るクロロプレン系重合体組成物と、金属酸化物と、老化防
止剤と、をロール練りせずに、直接有機溶剤に溶解させて得られる接着剤を提供する。こ
れにより、相分離安定性に優れた接着剤とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた接着性を有しながら、相分離安定性にも優れたクロロプレン系
重合体組成物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施例について説明する。なお、以下は本発明に係わる代表的な
実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない

【0012】
本発明において、「クロロプレン系重合体」とは、重合に用いる2−クロロ−1,3−
ブタジエン(以下、「クロロプレン」という。)の単独重合体、又はクロロプレンと該
クロロプレンと共重合可能な他の単量体からなる共重合体をいう。この前記共重合体には
、2種類以上の単量体からなるものも含まれる。
【0013】
本発明において用いられる他の単量体は、クロロプレン単量体と共重合可能な単量体で
あればよく、その種類等については特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリ
ル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸のエステル類や、メタクリル
酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸のエ
ステル類や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ
)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)
アクリレート類や、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタ
ジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、アクリロニトリル等を用いるこ
とができ、必要に応じて、2種類以上を併用することもできる。そして、これらの中でも
、好適には、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いることが望ましく、これにより接
着強度をより向上させることができる点で望ましい。
【0014】
本発明のクロロプレン系重合体を得る重合反応は乳化重合によるものであり、乳化重合
は水等を反応溶媒とし、かつ簡便な方法でありながら接着剤として良質なクロロプレン系
重合体を得ることができる点で望ましい。即ち、クロロプレン単量体、又はクロロプレ
ンと該クロロプレンと共重合可能な単量体を、前記乳化剤や分散剤や重合開始剤や連鎖移
動剤等の存在下で、乳化重合させることで、クロロプレン系重合体を得ることができる。
【0015】
本発明では、少なくとも乳化剤としてロジン酸金属塩を用いる。「ロジン酸」とは、モ
ノカルボン酸系のジテルペン酸であり、分子式C2030で一般的に示される物質である。
そして、本発明ではロジン酸の異性体については限定されず、例えば、アビエチン酸(下
記式1参照)、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ピマール酸、ジヒドロピ
マール酸、イソピマール酸、セコデヒドロアビエチン酸等が挙げられ、これらの単独ある
いは混合物であってもよい。また、オレイン酸やオクタデセン酸等の脂肪酸が含有されて
いてもよい。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明において用いるロジン酸金属塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属
塩、アンモニウム塩等を用いることができるが、好適には、アルカリ金属塩であることが
望ましく、そのなかでもより好適には、ナトリウム塩やカリウム塩であることが望ましい
。かかる金属塩とすることで、取扱い性をより向上させることができる。
【0018】
また、本発明において、ロジン酸金属塩の添加量はクロロプレン単量体100質量部に
対して0.5〜7.0質量部であればよく、好適には、1.0〜5.0質量部であること
が望ましい。0.5質量部未満では、クロロプレンラテックスが不安定なため重合缶に付
着してしまい、7.0質量部を超えて添加するとクロロプレン系重合体を含む接着剤の相
分離性が悪くなる。
【0019】
そして、ロジン酸及び/又はロジン酸金属塩を水溶液とし、この水溶液にハイドロサルファイトソーダを添加する。前記「ハイドロサルファイトソーダ」とは、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)のことをいい、無水物であってもよいし、水和物等であってもよい。また、適宜、炭酸ナトリウム等の安定剤等をロジン酸金属塩に添加してもよい。
【0020】
ハイドロサルファイトの添加量については、特に限定されないが、好適には、ロジン酸
の金属塩100質量部に対して5.0〜20.0質量部であることが望ましく、より好適
には、7.0〜18.0質量部であることが望ましい。5.0質量部未満であれば相分離
の改善効果が不十分であり、20.0質量部を超える場合には、クロロプレン系重合体ラ
テックスの安定性が悪くなり、含有成分が析出してしまう等の問題が発生することを見出
した。
【0021】
本発明の作用機構等は定かではないが、所定量のハイドロサルファイトによりロジン酸及び/又はロジン酸の金属塩が還元処理されるのではないかと考えられる。しかし、本発明の範囲はこれに限定して解釈されるものではないことは勿論である。
【0022】
重合反応の制御を安定化させるために、適宜、他の乳化剤を併用してもよく、例えば、
芳香族スルフォン酸ホルマリン縮合物の金属塩や、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリ
ウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン
酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシエチレン
アルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスル
フォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリ
オキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム等を用いることができる。
【0023】
本発明において、クロロプレン系重合体の色調を制御したい場合には、前記他の乳化剤
についても、着色の少ないものを用いることが望ましく、好適には、ガードナー色数(J
IS K 0071−2)4以下のロジン酸金属塩とアルキルジフェニルエーテルスルフ
ォン酸とを併用することが望ましい。
【0024】
重合反応の重合温度、重合開始剤、連鎖移動剤、重合停止剤、最終重合率等を適宜、選
定・制御することで、重合により得られるクロロプレン系重合体の分子量、分子量分布、
分子末端構造、結晶化速度等を制御することができる。本発明において、前記重合温度に
ついては、特に限定されないが、好適には35℃以上であることが望ましい。35℃以上
の重合温度とすることにより、耐相分離性を向上させることができる。
【0025】
また、重合反応の重合開始剤としては、過硫酸カリウム等の無機過酸化物や、ケトンパ
ーオキサイド類や、パーオキシケタール類や、ハイドロパーオキサイド類や、ジアルキル
パーオキサイド類や、ジアシルパーオキサイド類等の有機化酸化物等を用いることができ
るが、このなかでも好適には、過硫酸カリウムを使用することが望ましい。過硫酸カリウ
ムは安定した重合が行なうことができる点で好ましい。そして、前記触媒の使用条件等に
ついては、特に限定されないが、好適には、0.1〜5質量%の水溶液として使用するこ
とが望ましい。この重合開始剤を添加することで重合反応が開始される。
【0026】
そして、本発明では、前記重合開始剤の活性をより向上させるための添加剤(重合促進
剤)を用いることができ、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カ
リウム、ピロ亜硫酸カリウム、酸化鉄(II)、アントラキノンβスルフォン酸ナトリウ
ム、ホルムアミジンスルホン酸、L−アスコルビン酸等を用いることができる。
【0027】
本発明では、連鎖移動剤を用いることができ、この連鎖移動剤の種類は特に限定されず
、例えば、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルプロピルキサントゲンジスル
フィド等の長鎖アルキルメルカプタン類や、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、
ジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類や、ヨー
ドホルム等を用いることができる。
【0028】
本発明では、重合反応が所望の重合率に達した際に重合反応を停止させるが、この停止
方法は特に限定されず、例えば、重合禁止剤を添加したり、反応温度を変化させること等
により停止させることができる。
【0029】
本発明で用いる重合禁止剤の種類は特に限定されず、例えば、チオジフェニルアミン、
N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、フェノチアジン、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ハイドロキノンメチルエーテル等を用いることができる。
【0030】
本発明において、クロロプレン系重合体の最終重合率については60%以上であればよ
く、その範囲において、所望するクロロプレン系重合体の物性や用途等を考慮して、適宜
、決定できるが、好適には、60〜95%であることが望ましく、より好適には、75〜
92%であることが望ましい。最終重合率が60%未満であれば、接着強度が低くなりす
ぎ、95%を越えると溶剤に不溶のゲル成分が生成するため接着剤等として使い難くなる
。なお、前記連鎖移動剤の種類や使用量や重合率の制御を行なうことで、クロロプレン系
重合体のムーニー粘度も適宜に制御することができる。
【0031】
前記重合反応後の後処理としては、例えば、スチームフラッシュ法や濃縮法により高温
下にさらすことで、未反応の単量体等を除去することができる。そして、前記未反応の単
量体等を除去されたクロロプレン系重合体については、酸性度を中性となるように調整す
る。この際に用いられる中和剤としては、例えば、酢酸、メタクリル酸等の酸性物質の水
溶液や、苛性ソーダ、水酸化カリウム、炭酸ソーダ等の塩基性物質の水溶液等を用いるこ
とができる。このような後処理により、クロロプレン系重合体のブレンドラテックスを得
ることができる。
【0032】
クロロプレン系重合体のブレンドラテックスは、凍結凝固や塩析等の方法で仕上げ乾燥
処理を行った後に、適宜、シート状やチップ状等に成型加工することで接着剤として製品
とすることができる。以下、接着剤について説明する。
【0033】
本発明に係る接着剤では、クロロプレン系重合体に老化防止剤を添加することができ、
例えば、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´
−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−
4−メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチ
ル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−
ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3
,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N´−ヘキサン
−1,6−ジイルビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピ
オナミド)、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステ
ル、ジエチル[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}
メチル]ホスホネート、3,3´,3´´,5,5´,5´´−ヘキサ−t−ブチル−a
,a´,a´´−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、エチレ
ンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)
ポロピオネート]、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフ
ィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等を用いることができる。
【0034】
クロロプレン系重合体には、耐光性を向上させる目的で、ベンゾトリアゾール等の紫外
線吸収剤や、ヒンダードアミン等の光安定剤を添加することもできる。
【0035】
クロロプレン系重合体に対して、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン
(MEK)、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン、
酢酸イソプロピルや、酢酸エチル等の有機溶剤を単独、あるいは混合溶媒として用いるこ
とができる。クロロプレン系重合体を有機溶剤や混合溶剤に溶解させることで接着剤とし
て使用できる。
【0036】
前記接着剤には、所望の物性に応じて、金属酸化物や粘着付与樹脂やホルムアルデヒド
キャッチャー剤や充填剤等を添加できる。
【0037】
前記金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(亜鉛華)や、酸化マグネシウム等を用い
ることができる。前記粘着付与樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂や、ロジン樹脂
や、クマロン樹脂や、石油樹脂等を用いることができる。前記ホルムアルデヒドキャッチ
ャー剤としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、メラミン
、ジシアンジアミド、尿素、エチレン尿素、4,5−ジメトキシエチレン尿素、プロピレ
ン尿素、5−メチルプロピレン尿素、5−ヒドロキシプロピレン尿素、5−メトキシプロ
ピレン尿素、オキサリル尿素(パラバン酸)、ヒドラゾベンゾチアゾール、セミカルバジ
ド、チオセミカルバジドを用いることができ、有害な揮発性物質であるホルムアルデヒド
を捕捉できる。前記充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム等を用いることができる。
【0038】
前記接着剤の製造方法としては、例えば、アルキルフェノール樹脂や酸化マグネシウム(MgO)を有機溶剤に溶解させて25℃で20時間静置した前記反応樹脂溶液に、クロロプレン系重合体、金属酸化物や老化防止剤をロールで混練したものを溶解させる方法が一般的である。しかし、本発明によれば、前記クロロプレン系重合体組成物と、金属酸化物と、老化防止剤と、をロール練りせずに、直接有機溶剤に溶解させて得られる接着剤とすることができる。これにより、前記反応やロール混練等の準備作業を省略することができる。特に生産性等の観点からロールで混練する作業を省略した「直接溶解法」とすることで効率よく接着剤を製造することができる。
【0039】
前記接着剤は、紙、木材、布、皮革、ジャージ、レザー、ゴム、プラスチック、フォー
ム、陶器、ガラス、モルタル、セメント系材料、セラミック、金属等の同種、あるいは異
種の接合・接着用に好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の効果を確かめることを目的に比較実験を行った。即ち、種々の条件のク
ロロプレン系重合体組成物から接着剤を製造し、その比較実験を行った。
【0041】
<実施例1>
水120部、ロジン酸のナトリウム塩(商品名「ロンジス」、荒川化学工業社製)4.
0部及び水酸化カリウム0.5部の乳化剤水溶液にハイドロサルファイトソーダ0.7部
を添加した。その他の添加剤として、β−ナフタレンスルフォン酸ナトリウム塩(商品名
「デモールNL(登録商標)」、花王社製)0.5質量部を仕込んで溶解させた。この溶
液を内容積5リットルの反応器を用いて、撹拌しながらクロロプレン単量体100質量部
とn−ドデシルメルカプタン0.1質量部を加えた。更に、過硫酸カリウム0.1質量部
を触媒として用いて、窒素ガス雰囲気下40℃で重合させ、最終重合率が80%に達した
ところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止させた。そして、減圧下で反応溶液
中の未反応単量体を除去することで、クロロプレン系重合体を得た。
【0042】
<実施例2〜実施例15>
表1に示す条件でそれぞれ重合を行ない、その他の条件は実施例1と同様の条件にてク
ロロプレン系重合体を製造した。
実施例3のみは、添加剤のβ−ナフタレンスルフォン酸ナトリウム塩(商品名「デモールNL」(登録商標)、花王社製)の仕込量を2.5質量部とした。
【0043】
<比較例1〜比較例6>
表2に示す条件でそれぞれ重合を行ない、その他の条件は実施例1と同様の条件にてク
ロロプレン系重合体を製造した。
【0044】
<クロロプレン系重合体のゴムシート作成>
各実施例、各比較例のクロロプレン系重合体のラテックスを5%酢酸水溶液によってp
H7に調整した。そして、凍結凝固乾燥法によりクロロプレン系重合体のゴムシートを得
た。
【0045】
<接着剤の製造>
表3に示す粘着付与樹脂(フェノール樹脂、「タマノル526(登録商標)」)と酸化
マグネシウムを有機溶剤に溶かして25℃で20時間反応させることで樹脂溶液を調製した。そして、この樹脂溶液に、各実施例・比較例のクロロプレン系重合体ゴムシート1
00質量部と老化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−
メチルフェノール、「スミライザーBHT(登録商標)」)1質量部と酸化マグネシウム3
質量部と酸化亜鉛2質量部とを直接溶解させて接着剤を製造した。このようにして得られ
た接着剤について、接着剤粘度安定性、接着剤相分離安定性、接着剥離強度についてそれ
ぞれ評価を行なった。
【0046】
<接着剤粘度安定性>
接着剤溶液をガラス瓶に入れた直後と、50℃で4週間放置後の溶液粘度をブルックフ
ィールド粘度計により測定して比較した。
【0047】
<接着剤相分離安定性の検証>
接着剤溶液をガラス瓶に入れ、50℃で4週間放置後の溶液状態を目視で観察した。「
良」は均一、「可」は少し相分離が発生した状態、「不可」は相分離が顕著な状態を示し
ている。
【0048】
<接着剥離強度>
帆布(25mm×150mm)2枚それぞれに接着剤を200g/m塗布した。そし
て、オープンタイムを30分として、ハンドローラーで5往復した。セットタイム3時間
後の初期強度と2日後の常態強度を200mm/minの引張強度で測定した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
<考察>
ロジン酸の金属塩の添加量が、4質量部(実施例1)、7質量部(実施例2)、0.5
質量部(実施例3)の場合等には、良好な評価となった。
これに対して、7.5質量部(比較例1)、8質量部(比較例2)、10質量部(比較
例3)の場合等では、相分離安定性において「不可」もしくは「可〜不可」の評価となっ
た。また、ロジン酸の金属塩が0.4質量部(比較例4)の場合には、重合しなかった。
【0053】
重合率が52%(比較例5)の場合は、相分離安定性の評価が「不可」となったが、重
合率が60%(実施例5)の場合等では、良好な評価となった。
また、重合率が92%(実施例6)の場合は、50℃4週間後の粘着度が5220mP
a/sであった。これに対して、重合率が95%(実施例7)の場合は、接着剤として使
用できない程度ではないが、50℃4週間後粘の粘着度が6130mPa/sとなり高粘
度となりすぎた。
【0054】
重合温度が30℃(実施例15)の場合には、相分離安定性が「良〜可」であった。
【0055】
ロジン酸の金属塩100質量部あたりのハイドロサルファイトの添加量が、3.75質
量部(実施例9)、25質量部(実施例14)の場合には、接着剤として使用できない程
度ではないが、相分離安定性は「可」であった。そして、140質量部(実施例3)の場
合も接着剤として使用できない程度ではないが、50℃4週間後の粘着度が5800mP
a/sとなり高粘度となりすぎた。
これに対して、ロジン酸の金属塩100質量部あたりのハイドロサルファイトの添加量
が、5質量部(実施例10)、7.1質量部(実施例11)、7.5質量部(実施例12
)、20質量部(実施例13)の場合等は、良好な評価であった。
【0056】
以上より、本発明に係るクロロプレン系重合体組成物やその製造方法、そして、かかる
クロロプレン系重合体組成物を用いた接着剤によれば、良好な接着性を維持しつつ、耐相
分離性にも優れた性質を有することが、本実施例により示された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るクロロプレン系重合体組成物は、紙、木質材、布類、皮革類、ゴム類、プ
ラスティック類、陶器、セラミックス、ガラス、モルタル、セメント、金属類等の幅広い
材料の接着剤等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン単量体単独、又は、クロロプレン単量体及び該クロロプレン単量体と共重合可能な単量体100質量部を、乳化剤としてのロジン酸及び/又はロジン酸の金属塩0.5〜7.0質量部と、該ロジン酸の金属塩100質量部に対してハイドロサルファイトソーダ5〜20質量部の存在下で、重合率60%以上となるまで重合反応させて得られるクロロプレン系重合体組成物。
【請求項2】
前記重合反応における重合温度が、35℃以上であることを特徴とする請求項1記載
のクロロプレン系重合体組成物。
【請求項3】
クロロプレン単量体、又は、クロロプレン単量体及び該クロロプレン単量体と共重合可能な単量体合わせて100質量部を、乳化剤としてのロジン酸及び/又はロジン酸の金属塩0.5〜7.0質量部と、該ロジン酸の金属塩100質量部に対してハイドロサルファイトソーダ5〜20質量部の存在下で、重合率60%以上となるまで重合反応させるクロロプレン系重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記重合反応における重合温度が、35℃以上であることを特徴とする請求項4記載
のクロロプレン系重合体組成物の製造方法。
【請求項5】
少なくとも請求項1又は2のいずれか一項に記載のクロロプレン系重合体組成物と、金属酸化物と、老化防止剤と、をロール練りせずに、直接有機溶剤に溶解させて得られる接着剤。

【公開番号】特開2008−231404(P2008−231404A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304909(P2007−304909)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】