説明

グリチルリチン皮下注射製剤

【課題】 少量でグリチルリチン(GL)の有効量を皮下投与できるGL皮下注射製剤とその製造方法、該GL皮下注射製剤からなる肝臓疾患用剤、皮膚疾患用剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤、虚血性再灌流障害改善薬及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の提供。
【解決手段】 油性基剤中に、GL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末が配合されてなることを特徴とするGL皮下注射製剤。油性基剤とGL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を混合し、油性基剤中に該粉末を均一に分散させてGL皮下注射製剤を得ることを特徴とするGL皮下注射製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリチルリチン皮下注射製剤とその製造方法、ならびに該グリチルリチン皮下注射製剤からなる肝臓疾患用剤、皮膚疾患用剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤、虚血性再灌流障害改善薬及び慢性閉塞性肺疾患治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
グリチルリチン(以下、GLと略記する。)およびその塩は、抗アレルギー作用、抗炎症作用、免疫調節作用、虚血再灌流障害保護作用、肝庇護作用、肝細胞増殖促進作用、抗ウイルス作用、抗血小板作用等の広範な生理活性作用を有することが知られており、古くから臨床薬として用いられている。現在では、単独で、もしくはアミノ酸との配合剤として、肝臓疾患や皮膚疾患、各種アレルギー、炎症等に幅広く使用され、特に、ウイルス性慢性肝疾患の治療薬としての利用が多い。現在のウイルス性慢性肝疾患の治療においては、ウイルスの完全排除を目指し、インターフェロン(IFN)などを用いた根治療法が確立されつつあるが、約半数が根治にいたらない。そのため、肝炎の進行や肝硬変の進展、さらには肝癌の発生等を抑制するために、GL製剤によりトランスアミナーゼを安定化させる長期の肝庇護療法が必要不可欠となっている。
【0003】
GL製剤の投与経路としては、一般的に、静脈内投与と経口投与の二経路がある。しかし、GLを経口投与した場合、その効果が充分に発揮されないため、実際の臨床現場では注射剤による静脈内投与がほとんどである。これは、経口投与では、GLが、中性付近のpHである腸内ではそのほとんどがアニオン性の解離型で存在するため難吸収性であること、また、消化管内で、腸内細菌等により、アグリコンであるグリチルレチン酸(GA)に分解されてしまうことなどから、GLとして胆汁中あるいは血液中への移行は殆ど認められない。そのため、GLは静脈内投与が選択されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、静脈内投与では、血管等を傷つけるなど侵襲性が高く、患者への負担が大きい。特に慢性肝疾患の場合、その治療は長期にわたることから、患者のQ.O.L.(quality of life)を著しく低下させる問題がある。
【0005】
一方、皮下注射は、医学的に許される皮下部分ならどこでも投与でき、将来的に自己投与も可能なプレフィルドシリンジを剤形として選択することで頻繁な通院も必要なくなる。このことは、特に高齢の患者には負担の軽減となり、Q.O.L.の向上が期待される。しかし、水性の溶媒を用いてGLを溶解する場合、GLがゲル化して増粘するため、通常GLの濃度は2質量%程度が溶解限度であり、それ以下の濃度のGL水溶液を製剤として用いる場合、薬効が発揮される量を皮下注射にて投与すると、皮下のふくらみにより痛みを生ずる問題がある。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、少量でGLの有効量を皮下投与できるGL皮下注射製剤とその製造方法、該GL皮下注射製剤からなる肝臓疾患用剤、皮膚疾患用剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤、虚血性再灌流障害改善薬及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明は、油性基剤中に、GL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末が配合されてなることを特徴とするGL皮下注射製剤を提供する。
【0008】
本発明のGL皮下注射製剤において、製剤全量に対し、GL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末が1〜55質量%配合されていることが好ましい。
【0009】
本発明のGL皮下注射製剤において、前記油性基剤中に分散したGL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末の体積平均粒子径が10μm以下であることが好ましい。
【0010】
また本発明は、グリチルリチン及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を、湿式粉砕処理、ジェットミルを用いた乾式粉砕処理、噴霧乾燥、超臨界流体を用いた微細結晶生成からなる群から選択される1種又は2種以上の処理によって体積平均粒子径10μm以下にするとともに、この粉末を油性基剤と混合し、油性基剤中に該粉末を均一に分散させてグリチルリチン皮下注射製剤を得ることを特徴とするグリチルリチン皮下注射製剤の製造方法を提供する。
【0011】
本発明のGL皮下注射製剤の製造方法において、製剤全量に対し、GL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を1〜55質量%配合することが好ましい。
【0012】
本発明のGL皮下注射製剤の製造方法において、油性基剤と、GL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を混合した後、粉砕処理を行い、前記粉末の体積平均粒子径を10μm以下として油性基剤中に分散させてGL皮下注射製剤を得ることが好ましい。
【0013】
また本発明は、前述した本発明に係るGL皮下注射製剤からなる肝臓疾患用剤を提供する。
【0014】
また本発明は、前述した本発明に係るGL皮下注射製剤からなる皮膚疾患用剤を提供する。
【0015】
また本発明は、前述した本発明に係るGL皮下注射製剤からなる抗アレルギー剤を提供する。
【0016】
また本発明は、前述した本発明に係るGL皮下注射製剤からなる抗ウイルス剤を提供する。
【0017】
また本発明は、前述した本発明に係るGL皮下注射製剤からなる虚血再灌流障害改善薬を提供する。
【0018】
また本発明は、前述した本発明に係るGL皮下注射製剤からなる慢性閉塞性肺疾患治療薬を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のGL皮下注射製剤は、油性基剤中にGL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を配合してなるものなので、油性基剤中に高濃度の前記粉末を均一に分散させた状態で配合することができる。GLを高濃度で含む本発明のGL皮下注射製剤は、少量の製剤でGLの有効量を皮下投与でき、投与時の痛みを軽減することができる。また従来の静脈内投与に比べて侵襲度が低くなり、患者のQ.O.L.を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のGL皮下注射製剤は、油性基剤中に、GL及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末(以下、GL(塩)と略記する。)が配合されてなることを特徴としている。本発明のGL皮下注射製剤は、油性基剤中にGL(塩)の粉末が均一に懸濁分散され、皮下注射が可能な粘度を有する液状をなしている。
【0021】
[GL(塩)]
本発明において使用されるGL(塩)としては、例えば、ミノファーゲン製薬より入手することができるものが挙げられる。
ここで、薬学的に許容されるGLの塩としては、例えば、GLモノアンモニウム等のアンモニウム塩;GLモノナトリウム、GLジナトリウム等のナトリウム塩;GLモノカリウム、GLジカリウム等のカリウム塩等が挙げられる。また、これら以外にも、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩や、種々の有機アミン塩等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用される。
【0022】
本発明のGL皮下注射製剤中、GL(塩)の含有量は、製剤全量に対して、1〜55質量%の範囲、好ましくは1〜40質量%の範囲、より好ましくは5〜30質量%の範囲である。GL(塩)の含有量を55質量%以下とすることで、製剤の粘度を皮下投与可能な範囲に保つことができる。また、1質量%以上含有することにより、本発明のGL皮下注射製剤を患者に皮下投与した際に、GL(塩)による効果を十分に得ることができる。
【0023】
また、GL(塩)の含有量を10質量%以上、好ましくは20〜40質量%程度のGL高濃度製剤とすれば、少ない液量でGLの有効量を皮下投与でき、投与液量が少ないことから皮下投与時の痛みを軽減することができる。例えば、既存の静脈内投与GL製剤(0.2質量%)の100倍濃度である20質量%のGLを含有するGL皮下注射製剤の場合、GL製剤の常用量である80〜120mgを投与する場合には投与液量が400〜600μLでよく、GLの一日最大投与量である200mgを投与する場合でも1000μLとなり、既存の静脈内投与用のGL水溶液からなる注射製剤と比べて、著しく投与液量を減らすことができる。
【0024】
本発明のGL皮下注射製剤に用いるGL(塩)の体積平均粒子径は、10nm〜100μm、好ましくは10μm以下であることが好ましい。通常入手可能なGL(塩)の体積平均粒子径は30μm前後であり、それを微細化することにより、油性基剤中のGL微粒子の経時的沈降や偏析を大幅に改善することができる。さらに、GLの体積平均粒子径を10μm以下に微細化することで、該製剤を皮下注射するための注射針を細くすることができ、これによって注射時の痛みの軽減につながる。
【0025】
[油性基剤]
本発明において使用される油性基剤としては、特に限定されず、一般的に皮下注射製剤の油性基剤に用いられているものが使用でき、例えば、ツバキ油、ゴマ油、ヤシ油、パーム核油、大豆油、オリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油、シソ油、アマニ油、ヒマシ油等の植物性脂肪酸グリセリンエステル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、オレイン酸等の脂肪酸、オレイン酸エチルなどの脂肪酸エステルなどが挙げられる。特に、ツバキ油、ゴマ油、オリーブ油、オレイン酸エチルが好ましい。
【0026】
[その他の任意成分]
本発明のGL皮下注射製剤は、前記必須成分のほか、本発明による効果を妨げない範囲内で、薬学的に許容される任意成分を含有してもよい。この任意成分としては、例えば、安定化剤、局部麻酔剤、保存剤、分散剤などが挙げられる。
【0027】
本発明のGL皮下注射製剤は、油性基剤中にGL(塩)を配合してなるものなので、油性基剤中に高濃度の前記粉末を均一に分散させた状態で配合することができる。GLを高濃度で含む本発明のGL皮下注射製剤は、少量の製剤でGLの有効量を皮下投与でき、投与時の痛みを軽減することができる。また従来の静脈内投与に比べて侵襲度が低くなり、患者のQ.O.L.を向上させることができる。
【0028】
本発明のGL皮下注射製剤は、前記油性基剤とGL(塩)を混合し、油性基剤中にGL(塩)の微粒を分散させて懸濁状態とすることにより製造される。この混合には、一般の製薬分野等で使用されている高圧ホモジナイザーなどを用いることができる。混合後、得られたGL皮下注射製剤は、必要に応じて脱気などの処理を行い、適当な容器中に規定量を充填し、あるいは自己投与が可能なプレフィルドシリンジ内に充填され、滅菌工程を経て、製品化し得る。
【0029】
本発明のGL皮下注射製剤を製造する際、使用するバルクを10μm以下にする方法は制限しない(どんな方法を用いてもよい)。例えば、前記混合液を加圧して小さいオリフィスから吐出させる湿式粉砕処理、ジェットミルを用いた乾式粉砕処理、噴霧乾燥、あるいは超臨界流体などを用いた微細結晶生成などが挙げられる。
【0030】
本発明のGL皮下注射製剤は、現在臨床で使用されているGL含有注射剤と同様の疾患、たとえば急性および慢性肝疾患における肝機能障害の改善、湿疹、皮膚炎、蕁麻疹、皮膚そう痒症、薬疹、中毒疹、口内炎、各種アレルギー、各種免疫疾患、各種ウイルス性疾患、虚血再灌流障害、慢性閉塞性肺疾患等に適用できる。
特に、本発明のGL皮下注射製剤は、肝臓疾患用剤、皮膚疾患用剤、抗アレルギー剤等として好適である。特に、実験的に肝障害を起こした動物モデルにおいて、肝障害の指標であるトランスアミナーゼの優れた低下作用を示すことから、肝臓疾患用剤として好適であり、特に、患者に対する侵襲度が低い皮下投与により患者に投与できることから、長期にわたる治療を必要とする慢性肝疾患患者において、従来の静脈内投与用の注射剤に比べて、非常に簡便に使用することができる。
【0031】
本発明の肝臓疾患用剤は、前記本発明のGL皮下注射製剤からなるものである。
GL皮下注射製剤からなる肝臓疾患用剤は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、1日あたり、GLとして200mgを上限として、1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【0032】
本発明の皮膚疾患用剤は、前記本発明のGL皮下注射製剤からなるものである。
GL皮下注射製剤からなる皮膚疾患用剤は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、1日あたり、GLとして200mgを上限として、1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【0033】
本発明の抗アレルギー剤は、前記本発明のGL皮下注射製剤からなるものである。
GL皮下注射製剤からなる抗アレルギー剤は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、1日あたり、グリチルリチンとして200mgを上限として、1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【0034】
本発明の抗ウイルス剤は、前記本発明のGL皮下注射製剤からなるものである。
GL皮下注射製剤からなる抗ウイルス剤は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、1日あたり、グリチルリチンとして200mgを上限として、1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【0035】
本発明の虚血再灌流障害改善薬は、前記本発明のGL皮下注射製剤からなるものである。
GL皮下注射製剤からなる虚血再灌流障害改善薬は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、1日あたり、グリチルリチンとして200mgを上限として、1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【0036】
本発明の慢性閉塞性肺疾患治療薬は、前記本発明のGL皮下注射製剤からなるものである。
GL皮下注射製剤からなる慢性閉塞性肺疾患治療薬は、治療する患者の体重や健康状態等に応じて、適宜、臨床医により処方される。用量としては、例えば、1日あたり、グリチルリチンとして200mgを上限として、1日に1回から複数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0038】
(実施例1〜8)
GLモノアンモニウム(GL−NH4)の粉末と、油性基剤としてゴマ油又はオレイン酸エチルを表1に示す配合比率で混合し、乳鉢内で混合し、均一分散させた。
【0039】
(比較例1)
GLモノアンモニウム(GL−NH4)の粉末と精製水を表1に示す配合比率で混ぜ、乳鉢内で混合した。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜8及び比較例1の各配合における調製時の性状を目視観測し、結果を表1に記した。実施例1〜8は、GL−NH4を高濃度で配合したにもかかわらず、均一に分散させることができた。ただし、実施例4では、調製された製剤がペースト状になり、流動性が悪くなった。
油性基剤の代わりに精製水を用いた比較例1では、GL−NH4が膨潤してダマのあるゲルになり、皮下注射製剤としては不適であった。
【0042】
試験例1<GL皮下注射製剤の吸収性>
8週齢のSD系雄性ラット(体重220〜260g)を24時間絶食した後、ジエチルエーテルおよびウレタン麻酔下にて開腹、胆管挿入を実施した。実施例1と実施例2で調製したGL皮下注射製剤を、GLとして10mg/kgとなるように背部皮下に投与した。投与後、経時的に胆汁を回収しGL量をセミミクロHPLC法にて定量し、各GL皮下注射製剤の吸収率を算出した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に記した通り、平均胆汁中のGL回収率は実施例1及び実施例2のGL皮下注射製剤とも90%以上と高率となることが認められた。
【0045】
試験例2<マウス肝炎モデルにおけるトランスアミナーゼ抑制実験(実施例1及び実施例2のGL皮下注射製剤の薬効評価)>
実施例1及び実施例2で調製したGL皮下注射製剤について、文献(Proc.Japan Acad.,79,Ser.B,p.170−175(2003))に記載の方法に準拠し、リポポリサッカリド(LPS)およびガラクトサミン(GalN)誘発マウス肝炎モデルを用い、肝炎の指標となるトランスアミナーゼ(ALT)の低下効果を下記の手順にて評価した。
【0046】
GL投与量が100mg/kgになるように腹腔内にGL水溶液を、一方、背部皮下に実施例1のGL皮下注射製剤を投与した。30分後、LPS/GalN混合液をマウス尾静脈より注入投与した。その8時間後に心臓採血を行い、遠心分離にて血清を分離した。ALT活性は、SPOT CHEM SP4420(アークレイ社)で算出した。図1に結果を示す。データは平均値±標準誤差で示し、各点の有意差はStudent’s t testを用いた。
【0047】
図1の結果より、本発明に係る実施例1のGL皮下注射製剤は、皮下投与によって、GL水溶液を腹腔内投与した場合とほぼ同程度のトランスアミナーゼ抑制効果を示した。
【0048】
<GLバルクの微粒化処理>
GLバルクをゴマ油及びオレイン酸エチル中に懸濁分散させた後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械)を用いて、オリフィス径500μm、圧力180MPaの条件で粉砕処理を行った。その後、レーザー回折散乱法−粒度分布測定装置LS320(BECKMAN COULTER社)を用いて粒度測定を行った。未処理バルクの体積平均粒子径は27.1μm(S.D.±24.0μm)であった。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示すように、この粉砕処理によって体積平均粒子径が5〜7μm程度のGL微粒子が均一に懸濁分散された実施例9〜12の各GL皮下注射製剤が得られた。
【0051】
<製剤の物性特性>
前記粉砕処理を行って調製した実施例9〜12の各GL皮下注射製剤、及び実施例1,2,5,6の各GL皮下注射製剤について、粘弾性測定装置レオストレスRS600(HAAKE社)を用いて、室温条件下で粘性を測定した。結果を図2及び図3に示す。
図2及び図3の結果から、GL含有量、GLの体積平均粒子径によってGL皮下注射製剤の粘性が著しく変化しないことを確認した。
【0052】
また、前述した各GL皮下注射製剤をそれぞれガラススピッツ管内に充填し、GLが沈降してできた透明層を室温にて経時的に測定し、以下の式により沈降度を算出した。
沈降度(%)=透明層(cm)÷全層(cm)×100
各GL皮下注射製剤の沈降度の経時変化を測定し、その結果を図4及び図5に示す。
【0053】
図4及び図5の結果から、GLを体積平均粒子径5〜7μmに粉砕処理することにより、油性基剤中での沈降を抑制できる。したがって、プレフィルドシリンジ中での粒子の沈降、偏析を防止することができる。また、GL粉末を細かくすることで針の通過性を向上させ、より細い針を選択できるため、投与時の針による痛みを軽減できる。仮に、それでも沈降が生じる場合は、シリンジ内に注射液とともに気体あるいは球状の物体を装填し、それを転倒撹拌することで沈降を解消でき、均一な注射液を得ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】試験例2の結果を示すグラフである。
【図2】ゴマ油を用いた本発明製剤の粘度変化の結果を示すグラフである。
【図3】オレイン酸エチルを用いた本発明製剤の粘度変化の結果を示すグラフである。
【図4】ゴマ油を用いた本発明製剤のGL沈降度の結果を示すグラフである。
【図5】オレイン酸エチルを用いた本発明製剤のGL沈降度の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性基剤中に、グリチルリチン及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末が配合されてなることを特徴とするグリチルリチン皮下注射製剤。
【請求項2】
製剤全量に対し、グリチルリチン及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末が1〜55質量%配合されていることを特徴とする請求項1に記載のグリチルリチン皮下注射製剤。
【請求項3】
前記油性基剤中に分散したグリチルリチン及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末の体積平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリチルリチン皮下注射製剤。
【請求項4】
グリチルリチン及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を、湿式粉砕処理、ジェットミルを用いた乾式粉砕処理、噴霧乾燥、超臨界流体を用いた微細結晶生成からなる群から選択される1種又は2種以上の処理によって体積平均粒子径10μm以下にするとともに、この粉末を油性基剤と混合し、油性基剤中に該粉末を均一に分散させてグリチルリチン皮下注射製剤を得ることを特徴とするグリチルリチン皮下注射製剤の製造方法。
【請求項5】
製剤全量に対し、グリチルリチン及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を1〜55質量%配合することを特徴とする請求項4に記載のグリチルリチン皮下注射製剤の製造方法。
【請求項6】
油性基剤と、グリチルリチン及びその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1種の粉末を混合した後、粉砕処理を行い、前記粉末の体積平均粒子径を10μm以下として油性基剤中に分散させてグリチルリチン皮下注射製剤を得ることを特徴とする請求項4又は5に記載のグリチルリチン皮下注射製剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のグリチルリチン皮下注射製剤からなる肝臓疾患用剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のグリチルリチン皮下注射製剤からなる皮膚疾患用剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のグリチルリチン皮下注射製剤からなる抗アレルギー剤。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載のグリチルリチン皮下注射製剤からなる抗ウイルス剤。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれかに記載のグリチルリチン皮下注射製剤からなる虚血性再灌流障害改善薬。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載のグリチルリチン皮下注射製剤からなる慢性閉塞性肺疾患治療薬。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−219380(P2006−219380A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31511(P2005−31511)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000170358)株式会社ミノファーゲン製薬 (16)
【Fターム(参考)】