説明

グロメット

【課題】低周波数帯にも制振作用を十分に発揮できることが可能なグロメットを提供すること。
【解決手段】グロメット1は、貫通穴6aが設けられたフランジ部6と、貫通穴9aが設けられた内嵌リング部9と、各端がフランジ部6と内嵌リング部9とに連接された柱部8と、フランジ部6の下端面に設けられた支持突起7と、内嵌リング部9の外周に嵌着可能な嵌着穴4aが設けられた可動リング部4と、フランジ部6と可動リング部4とを連結する帯部5とを備える。ボルト25を貫通穴6a、9aに通して被着部材Pに螺入すると、支持突起7が介在するためにフランジ部6が波打ち状に変形する。この変形が柱部8に影響して柱部8同士が平行でなくなる。互いに平行でなくなった柱部8は撓みやすくなり、比較的低い周波数帯にも対応することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロメットの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
筒状体の一端部にフランジを設け、筒状体の他端部にゴムワッシャを嵌合させて、フランジとゴムワッシャとで基板等を挟み、筒状体の内孔に貫通させたボルトにてシャーシ等に固定される防振用のグロメットが知られている(実開昭61−108551号公報)。
【特許文献1】実開昭61−108551号公報(第4図、第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示されているグロメットは、ゴムワッシャを分離できるので、フランジとゴムワッシャとで基板等を挟む作業は簡単であり、基板等に設ける穴も単なる穴でよい(外周からの切り込みは不要)というメリットがある。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている構成であると、防振の対象になる周波数帯が限られてしまい、特に低い周波数帯に対応するのが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載のグロメットは、
第1の貫通穴が設けられた第1のリング部と、
第2の貫通穴が設けられた第2のリング部であり、前記第1の貫通穴と前記第2の貫通穴とを同軸にして前記第1のリング部から離れて配される第2のリング部と、
一端が前記第1のリング部に、他端が前記第2のリング部に連接された複数本の柱部と、
前記第1のリング部の前記柱部が連接された端面とは反対側の端面に設けられた3つ以上の支持突起と、
前記第2のリング部の外周に嵌着可能な嵌着穴が設けられた可動リング部と、
前記第1のリング部と前記可動リング部とを連結する帯部と
を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項1記載のグロメットの本体部は、第1のリング部と第2のリング部とを複数本の柱部によって連結した構造で、この本体部(第1のリング部)可動リング部とを帯部によって連結した構造をしている。
【0007】
本体部については、第1の貫通穴、柱部の内側空間及び第2の貫通穴が連通するので、この空間にボルト等を挿通できる。
基板等に設けられた穴に第2のリング部及び柱部を通してから、可動リング部を嵌着穴にて第2のリング部の外周に嵌着すれば、可動リング部と第1のリング部とで基板等を挟み持つことができる。
【0008】
そして、支持突起をシャーシ等の表面に当接させて、本体部に挿通させたボルトを用いてグロメットをシャーシ等にねじ止めすれば、基板等をシャーシ等に取り付けできる。
第1のリング部とシャーシ等との間に支持突起が介在するので、上記のように取り付けた際に第1のリング部が波打ち状に変形する。この変形が第1のリング部に連接された柱部に影響するので、柱部同士が平行でなくなる。互いに平行でなくなった柱部は撓みやすくなり、より低い周波数帯にまで防振性能を発揮できる。すなわち、比較的低い周波数帯にも対応することが可能になる。
【0009】
特に、請求項3記載のように、前記柱部の本数と前記支持突起の個数を異ならせれば、第1のリング部の周方向に沿った位置関係において柱部と支持突起とが重なり合うのを避けることができ、請求項1による効果を良好にする。
【0010】
また、支持突起が存在するので衝撃を吸収する効果もある。この耐衝撃性は、請求項2記載の構成、すなわち、前記第2のリング部の前記柱部が連接された端面とは反対側の端面には3つ以上の緩衝突起が設けられている構成にすれば、一層向上する。
【0011】
或いは、第1のリング部と第2のリング部とをねじれ方向に変位させることで柱部を倒れ変形させることができ、それによって第1のリング部と第2のリング部との距離を変更できる。すなわち可動リング部と第1のリング部とで挟持する製品の製造ばらつき等の誤差を吸収可能となる。
【0012】
なお、本発明のグロメットにて低減したい振動の周波数が予め分かっていれば、柱部の形状(バネ剛性)や本数、又は支持突起の形状や個数を調節することで容易に対応可能である。
【0013】
請求項4記載のグロメットは、アクリル系ゴムで硬さがJIS A 30〜40、損失係数が0.5以上のものを用いて成形されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のグロメットであるから、高耐熱性、高減衰性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施例等により発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は下記の実施例等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまに実施できることは言うまでもない。
[実施例]
まず、図1を参照して、実施例のグロメット1の構成を説明する。なお、本実施例のグロメット1は、特許第3910958号の制振材料を用いて成形してある。この特許第3910958号の制振材料は、アクリル系ゴムで硬さがJIS A 30〜40、損失係数が0.5以上という物性を有している。特許第3910958号の制振材料でなくても、この物性を有する制振材料であれば本発明のグロメットに使用できることは言うまでもない。
【0015】
図1に示すように、本実施例のグロメット1は、本体部3と可動リング部4とを帯部5によって連結した構造をしている。
本体部3は、第1のリング部に相当するフランジ部6と第2のリング部に相当する内嵌リング部9とを4本の柱部8にて連結した構造である。
【0016】
フランジ部6及び内嵌リング部9の外周は共に円形であり、フランジ部6には円形の貫通穴6aが設けられ、内嵌リング部9には円形の貫通穴9aが設けられている。それら貫通穴6aと貫通穴9aとは同径であり、また同軸でもある。
【0017】
フランジ部6の上端面には柱部8が連接されているが、下端面にはリブ状の支持突起7が、貫通穴6aの軸を中心にして120度ピッチで3箇所に立設されている。一方、内嵌リング部9の上端面には、半球状の緩衝突起10が、貫通穴9aの軸を中心にして90度ピッチで配されている。
【0018】
柱部8は、貫通穴6a(貫通穴9a)の軸を中心にして90度ピッチで配されており、外力が及ぼされていない状態では、4本の柱部8は互いに平行になっている。なお、柱部8が互いに平行というのは設計上であり、実際の製品では正確な平行ではなく、略平行である。
【0019】
柱部8の上端は内嵌リング部9の下端面に、下端はフランジ部6の上端面に連接されているので、貫通穴6aと貫通穴9aとは、4本の柱部8で囲まれる内側空間を介して連通する。このため、ボルト等を、貫通穴6a及び貫通穴9aを共通に貫いて挿通させることができる。
【0020】
フランジ部6の外周面には帯部5の一端が連接されており、帯部5の他端には可動リング部4が連接されている。
可動リング部4は、外周形状はフランジ部6及び内嵌リング部9と同様に円形であり、内側には円形の嵌着穴4aが設けられている。嵌着穴4aの内径は内嵌リング部9の外径と略等しく、内嵌リング部9に外嵌できる。つまり、可動リング部4を内嵌リング部9の外周に嵌着可能である。
【0021】
そして、グロメット1の使用時には、図2に示すように可動リング部4を内嵌リング部9の外周に嵌着して、本体部3と可動リング部4とを一体化させる。すると、可動リング部4とフランジ部6との間に環状の溝が形成されるので、図3に示すように、ここに基板、基板ケースのブラケット等の防振対策を要する部材(この例では、代表例としての基板21)を挟持できる。なお、図3には、図示と説明を簡明にするために基板21の一部だけを示してある。
【0022】
基板21には、本体部3の筒状の部分(内嵌リング部9及び4本の柱部8)の外径をわずかに上回る内径の丸穴22が設けられており、この丸穴22に本体部3を挿通させた後に可動リング部4を内嵌リング部9の外周に嵌着して、図3に示すように可動リング部4とフランジ部6とで基板21を挟持する。
【0023】
そのようにして基板21を挟持したグロメット1を、例えばシャーシ等の被着部材Pに取り付ける。
取り付けられたグロメット1の状態を、図4を参照して説明する。なお、図4では柱部8等の状態を良好に示すために、基板21は図示していない。
【0024】
図4(a)に示すように、ボルト25を、貫通穴6a及び貫通穴9aに挿通させ、ボルトの先端部を被着部材Pに螺入してねじ止めする。この際に支持突起7の先端部が被着部材Pの表面に当接し、また座金26が緩衝突起10の上部に当節する。
【0025】
ボルト25でねじ締めすると、フランジ部6と被着部材Pとの間に支持突起7が介在するので、フランジ部6が波打ち状に変形する。この変形がフランジ部6に連接された柱部8に影響するので、柱部8同士が平行でなくなる。互いに平行でなくなった柱部8は撓みやすくなり、より低い周波数帯にまで防振性能を発揮できる。すなわち、比較的低い周波数帯にも対応することが可能になる。
【0026】
また、柱部8の本数(本例では4本)と支持突起7の個数(本例では3個)を異ならせてあるので、フランジ部6の周方向に沿った位置関係において柱部8と支持突起7とが重なり合うのを避けることができ、上記の効果を良好にしている。
【0027】
そして、支持突起7及び緩衝突起10が存在するので衝撃を吸収する効果もある。
なお、帯部5には、ボルト25を締め付ける際に可動リング部4が相対回転するのを防ぐ機能がある。
【0028】
図4(b)に示すのはフランジ部6と内嵌リング部9とを、それらの中心軸回りに相対回転させてねじれ変位させた例を示している。このようにフランジ部6と内嵌リング部9とをねじれ変位させることで柱部8を倒れ変形させることができ、それによってフランジ部6と内嵌リング部9(可動リング部4)との距離を変更できる。すなわち可動リング部4とフランジ部6とで挟持可能な基板21等の製造ばらつき等の厚み誤差を吸収可能となる。
【0029】
また、本実施例のグロメット1は、アクリル系ゴムで硬さがJIS A 30〜40、損失係数が0.5以上という物性の制振材料を用いて成形されているので、高耐熱性、高減衰性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例のグロメット(展開状態)の平面図(a)、左側面図(b)、正面図(c)、底面図(d)、A−A拡大断面図(e)、C−C断面図(f)、斜視図(g)。
【図2】実施例のグロメット(嵌合状態)の平面図(a)、左側面図(b)、正面図(c)、右側面図(d)、底面図(e)、斜視図(f)。
【図3】実施例のグロメットを基板に装着した状態の平面図(a)、正面図(b)、A−A断面図(c)。
【図4】実施例のグロメットをボルト締めした状態の説明図(a)、ねじれ変位させた状態の説明図(b)。
【符号の説明】
【0031】
1・・・グロメット、
3・・・本体部、
4・・・可動リング部、
4a・・・嵌着穴、
5・・・帯部、
6・・・フランジ部、
6a・・・貫通穴、
7・・・支持突起、
8・・・柱部、
9・・・内嵌リング部、
9a・・・貫通穴、
10・・・緩衝突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の貫通穴が設けられた第1のリング部と、
第2の貫通穴が設けられた第2のリング部であり、前記第1の貫通穴と前記第2の貫通穴とを同軸にして前記第1のリング部から離れて配される第2のリング部と、
一端が前記第1のリング部に、他端が前記第2のリング部に連接された複数本の柱部と、
前記第1のリング部の前記柱部が連接された端面とは反対側の端面に設けられた3つ以上の支持突起と、
前記第2のリング部の外周に嵌着可能な嵌着穴が設けられた可動リング部と、
前記第1のリング部と前記可動リング部とを連結する帯部と
を備えることを特徴とするグロメット。
【請求項2】
前記第2のリング部の前記柱部が連接された端面とは反対側の端面には3つ以上の緩衝突起が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のグロメット。
【請求項3】
前記柱部の本数と前記支持突起の個数を異ならせたことを特徴とする請求項1又は2記載のグロメット。
【請求項4】
アクリル系ゴムで硬さがJIS A 30〜40、損失係数が0.5以上のものを用いて成形されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のグロメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−2003(P2010−2003A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162093(P2008−162093)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】