説明

コア−シェル型ポリマー粒子の製造方法

【課題】親水性のシェルと疎水性のコア構造を有する単分散粒子を、簡易かつ再現性よく、短時間でしかも高い収率性で得ることができる、コア−シェル型ポリマー粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の製造方法は、ポリエチレングリコール鎖又はホスホリルコリン基を有する親水性モノマーと、それらと共重合可能な疎水性モノマーとからなる重合性材料を、溶媒に溶解又は分散させ、濃度1〜40質量%の重合性溶液を調製する工程(A)、該重合性溶液にマイクロ波を照射して共重合させる工程(B)、及び得られた共重合物から平均粒径0.05〜10μmの単分散のコア−シェル型ポリマー粒子を精製する工程(C)とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DDS坦体、集積材料素材、医薬診断薬、粉体塗料、化粧品等の用途が期待されるシャープな粒子分布を有する、単分散のコア−シェル型ポリマー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、親水性マクロモノマーと疎水性ビニルモノマーとのラジカル共重合により、親水性シェル−疎水性コア型ポリマー微粒子が得られることが知られている。例えば、非特許文献1及び2には、水溶性マクロモノマーとスチレンとを、水/エタノール混合溶媒中でラジカル共重合させると、球状のコア−シェル構造を有するポリマー微粒子が生成することが報告されている。しかし、これら文献に記載された方法では、80%以上の収率を得るために12時間以上の反応を行わなければならず、しかもシャープな粒度分布を有するコア−シェル型ポリマー微粒子を製造することが困難であった。
【0003】
一方、非特許文献3には、スチレンモノマーを用い、マイクロ波照射によりポリスチレン微粒子を合成する方法が初めて報告されている。しかし、スチレンモノマーのみを用いるこの方法では、モノマー濃度が3質量%以上になると粒子径分布が広がる傾向にあり、単分散のポリスチレン微粒子を得ることが困難であって、良質のポリマー微粒子は得られていない。
【非特許文献1】明石満、上野真路、芹沢武、馬場昌範、化学工業、52,705 (2001)
【非特許文献2】M. Akashi, D. Chao, E. Yashima, N. Miyauchi, J. Appl. Polym. Sci., 39, 2027 (1990)
【非特許文献3】W. Zhang, J. Gao, C. Wu, Macromolecules, 30, 6388 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、親水性のシェルと疎水性のコア構造を有する単分散粒子を、簡易かつ再現性よく、短時間でしかも高い収率性で得ることができる、コア−シェル型ポリマー粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、重合性材料として、特定の親水性モノマーと、それらと共重合可能な疎水性モノマーとを選択し、且つ溶媒中に特定濃度で溶解又は分散させた重合性溶液に、マイクロ波照射を行うことにより、短時間で効率良く、平均粒子径0.05〜10μmの単分散のコア−シェル型ポリマー粒子が製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明によれば、ポリエチレングリコール鎖又はホスホリルコリン基を有する親水性モノマーと、それらと共重合可能な疎水性モノマーとからなる重合性材料を、溶媒に溶解又は分散させ、濃度1〜40質量%の重合性溶液を調製する工程(A)、該重合性溶液にマイクロ波を照射して共重合させる工程(B)、及び得られた共重合物から平均粒径0.05〜10μmの単分散のコア−シェル型ポリマー粒子を精製する工程(C)とを含むことを特徴とするコア−シェル型ポリマー粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコア−シェル型ポリマー粒子の製造方法は、ポリエチレングリコール鎖又はホスホリルコリン基を有する、特定の親水性モノマーと、それらと共重合可能な疎水性モノマーとからなる重合性材料を用い、該重合性材料を濃度1〜40質量%で含む重合性溶液に、高エネルギーのマイクロ波を照射して共重合させるので、短時間で収率性良く、平均粒子径0.05〜10μmの単分散のコア−シェル型ポリマー粒子を簡易に製造することができる。得られるポリマー粒子は、親水性のシェルと疎水性のコア構造を有する微粒子であるので、DDS坦体、集積材料素材、医薬診断薬、粉体塗料材料、化粧品材料等への使用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の製造方法は、ポリエチレングリコール鎖又はホスホリルコリン基を有する親水性モノマーと、それらと共重合可能な疎水性モノマーとからなる重合性材料を、溶媒に溶解又は分散させ、特定濃度の重合性溶液を調製する工程(A)を行う。
工程(A)に用いる親水性モノマーは、ポリエチレングリコール鎖又はホスホリルコリン基を有する重合性モノマーであれば特に限定されず、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノスチレン等を挙げることができる。特に、ポリエチレングリコール鎖を有するモノマーの場合、該ポリエチレングリコール鎖の数平均分子量は、得られるコア−シェル型ポリマー粒子の分散安定性を高める点から300〜5000とすることが好ましい。
【0009】
工程(A)に用いる疎水性モノマーは、前記親水性モノマーとラジカル共重合可能な公知の疎水性モノマー等であれば特にその種類は限定されず、例えば、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル又はこれらの2種以上の混合物等が挙げられ、好ましくは、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルが挙げられ、特に好ましくは、入手性の点からスチレン、メタクリル酸メチルが挙げられる。
【0010】
工程(A)において重合性材料は、前記親水性モノマー及び疎水性モノマーからなる限り、組成は特に限定されないが、得られるポリマーの粒度分布をより狭い範囲に、即ち、シャープな粒度分布に限定するためには、親水性モノマー1〜95モル%、疎水性モノマー5〜99モル%からなることが好ましい。
【0011】
工程(A)において、前記重合性材料を溶解又は分散させて重合性溶液を調製するための溶媒は、前記親水性モノマー及び疎水性モノマーを溶解又は分散し、且つ共重合後に生成するコア−シェル型ポリマー粒子を溶解しない溶媒であって、後述する工程(B)におけるマイクロ波照射により加熱され易い性質を持つ極性の高い溶媒であれば特に限定されない。このような溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;前記アルコール類から選ばれる1種と水との混合溶媒が好ましく挙げられ、最も好ましくは、生成するポリマー粒子の分散性や未反応モノマーの除去し易さという理由から、水単独、又は水とエタノールとの混合溶媒が挙げられる。
【0012】
工程(A)において、前記重合性溶液中における、親水性モノマーと疎水性モノマーとの混合物からなる重合性材料の濃度は、生成するポリマー粒子同士の凝集を抑制し、微粒子の分散安定性を増加させ、収率を向上させるという理由から1〜40質量%、好ましくは1〜30質量%、最も好ましくは1〜20質量%である。
前記重合性溶液には、溶媒及び重合性材料の他に、ラジカル重合開始剤を含有させることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩、4,4'−アゾビス−4−シアノ吉草酸ナトリウム塩等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド等の過酸化物が好ましく挙げられ、水への溶解性やラジカル重合開始剤の分解温度の点からは、2,2'−アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩が最も好ましく挙げられる。
ラジカル重合開始剤を含有させる場合の配合割合は、適宜決定できるが、通常、重合性溶液中の重合性材料100質量部に対して、通常0.1〜5.0質量部程度である。
【0013】
本発明の製造方法においては、工程(A)で調製した重合性溶液にマイクロ波を照射して共重合させる工程(B)を行う。
マイクロ波の照射は、市販のマイクロ波発生装置を用いて行うことができる。例えば、前記重合性溶液をフラスコや試験管等の容器に入れ、マイクロ波を照射することにより行うことができる。
マイクロ波の照射強度は、重合性溶液中のラジカル重合開始剤がラジカルを発生できる程度の照射強度であれば特に限定されず、例えば、得られるポリマー粒子の粒度分布をより狭い範囲に限定するためには、マイクロ波強度を0.001〜30W/cm3に制御することが好ましい。また、短時間でラジカル重合開始剤からラジカルを発生させるためには、0.05W/cm3以上の照射強度とすることが好ましい。
【0014】
工程(B)において、前記マイクロ波を照射して共重合させるには、重合性溶液の温度を、通常、0〜150℃の範囲、特に40〜100℃の範囲に保持して行うことが好ましい。この際、40℃以上とすることにより共重合時間をより短時間とすることができる。
共重合させるためのマイクロ波の照射時間は、本発明の目的を損なわない限り限定されないが、通常、10〜120分間、好ましくは20〜120分間である。照射時間が10分間より短いと、共重合反応が十分に進行せず、得られるポリマー粒子の分散度が大きくなり、該粒子の粒径制御が困難になる場合があり、また、反応転化率が減少する原因になる。また、共重合は、通常、撹拌下で行うことができる。
【0015】
本発明の製造方法においては、工程(B)により得られた共重合物から平均粒径0.5〜10μmの単分散のコア−シェル型ポリマー粒子を精製する工程(C)を行なうことにより所望のポリマー粒子を得ることができる。
工程(C)において精製は、工程(B)により得られた共重合物を含む溶液から透析等により未反応モノマー等を除去して、凍結乾燥する方法等により行うことができる。
得られるポリマー粒子としては、例えば、親水性モノマーにポリエチレングリコールモノメタクリレートを用い、疎水性モノマーにスチレンを用い、溶媒に水を用いた場合には、スチレンコア−ポリエチレングリコールモノメタクリレートシェル型ポリマー粒子が得られ、親水性モノマーにポリエチレングリコールモノメタクリレートを用い、疎水性モノマーにメタクリル酸メチルを用い、溶媒に水を用いた場合には、メタクリル酸メチルコア−ポリエチレングリコールモノメタクリレートシェル型ポリマー粒子が得られ、親水性モノマーに2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを用い、疎水性モノマーにスチレンを用いた場合には、スチレンコア−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンシェル型ポリマー粒子が得られる。
【0016】
尚、本発明において平均粒径とは、動的光散乱測定装置により測定される値であり、単分散であるとは、合成されたコア−シェル型ポリマー粒子の粒子径の均一性が高く、動的光散乱測定装置を用いて測定した際に粒度分布が10%以内のシャープな粒度分布を示すことを意味する。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜6
30mlのガラス管に、表1に示す組成のモノマー及び開始剤と、水10mlとを入れて重合性溶液を調製した。得られた重合性溶液に、マイクロ波照射装置(グリーン・モチーフ・I、東京電子社製)を用いて、重合性溶液が反応温度の70℃となるまで300Wのマイクロ波を照射した後、続いて、20Wのマイクロ波を1時間照射して共重合反応させた。得られた溶液を冷却後、透析により未反応モノマーを除去し、凍結乾燥によって生成ポリマーを調製した。
得られたポリマーの粒度分布及び粒径を、動的光散乱測定装置(NICOMP 380ZLS Particle Sizer、Particle sizing system社製)により測定し、また収率を測定した。結果を表1及び図1〜4に示す。
更に、得られたポリマー粒子の構造を、X線光電子分析装置(ESCA−3300、島津社製)により測定したところ、疎水性モノマー単位がコアに、親水性モノマー単位がシェルとなった、コア−シェル型ポリマー粒子であることが判った。
尚、表1中のMA-PEG350は、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、商品名:Blemmer PE-350、数平均分子量439)を示し、Stはスチレンを示し、V−50は、2,2'−アゾビス−2−アミジノプロパンの塩酸塩を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例7〜9
実施例1〜6において、モノマー及び開始剤の組成を表2に示す組成のモノマー及び開始剤に代えた以外は実施例1と同様にポリマー粒子を調製した。要するに、実施例7〜9は、実施例1〜6の親水性モノマーとしてのポリエチレングリコールモノメタクリレートの代わりに、親水性モノマーとして2−メタクリロイルオキシエチルホスオリルコリンを用いた例である。収率及び粒径を実施例1と同様に測定した。結果を表2及び図5に示す。
尚、表2中のMPCは2−メタクリロイルオキシエチルホスオリルコリンを示し、他の略号は表1と同じ意味である。
【0020】
【表2】

【0021】
実施例10及び11
実施例1〜6において、モノマー及び開始剤の組成を表3に示す組成のモノマー及び開始剤に代えた以外は実施例1と同様にポリマー粒子を調製した。要するに、実施例10及び11は、実施例1〜6の親水性モノマーとしてのポリエチレングリコールモノメタクリレートとは数平均分子量が異なるポリエチレングリコールモノメタクリレートを用いた例である。収率及び粒径を実施例1と同様に測定した。結果を表3及び図6に示す。
尚、表1中のMA-PEG2000は、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、商品名:Blemmer PE-2000、数平均分子量2000)を示し、他の略号は表1と同じ意味である。
【0022】
【表3】

【0023】
比較例1及び2
実施例1〜6において、モノマー及び開始剤の組成を表2に示す組成のモノマー及び開始剤に代えた以外は実施例1と同様にポリマー粒子を調製した。要するに、比較例1及び2は、実施例1〜6の親水性モノマーとしてのポリエチレングリコールモノメタクリレートの代わりに、親水性モノマーとしてメタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルを用いた例である。収率及び粒径を実施例1と同様に測定した。結果を表4及び図7に示す。
尚、表4中のHEMAはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルエステルを示し、他の略号は表1と同じ意味である。
【0024】
【表4】

【0025】
表1〜表4並びに図1〜図7より、実施例1〜11では、1時間のマイクロ波照射による共重合で、収率良く目的のコア−シェル型ポリマー粒子が得られることが判る。また、実施例に係る方法では、比較例の方法に比して、得られるポリマーの粒度分布が狭く、単分散の粒子が得られることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例2によって得られたコア−シェル型ポリマー粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図2】実施例3によって得られたコア−シェル型ポリマー粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図3】実施例5によって得られたコア−シェル型ポリマー粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図4】実施例6によって得られたコア−シェル型ポリマー粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図5】実施例8によって得られたコア−シェル型ポリマー粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図6】実施例11によって得られたコア−シェル型ポリマー粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図7】比較例1によって得られたコア−シェル型ポリマー粒子の粒度分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール鎖又はホスホリルコリン基を有する親水性モノマーと、それらと共重合可能な疎水性モノマーとからなる重合性材料を、溶媒に溶解又は分散させ、濃度1〜40質量%の重合性溶液を調製する工程(A)、該重合性溶液にマイクロ波を照射して共重合させる工程(B)、及び得られた共重合物から平均粒径0.05〜10μmの単分散のコア−シェル型ポリマー粒子を精製する工程(C)とを含むことを特徴とするコア−シェル型ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール鎖の数平均分子量が、300〜5000である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
重合性材料が、前記親水性モノマー1〜95モル%と、前記疎水性モノマー99〜5モル%からなる請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
工程(B)において、マイクロ波の照射強度が0.05〜30W/cm3である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
工程(B)において、マイクロ波の照射時間が10〜120分である請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−56077(P2007−56077A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240253(P2005−240253)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】