説明

コア−シェル構造粒子、ペースト組成物およびキャパシタ

【課題】均一なシェルを容易に作製でき、電極材料との剥離強度で評価される接着力が大きく、かつ膜内の強度が大きい高誘電率層間絶縁材料を構成するコア−シェル構造粒子、これを用いたペースト組成物、およびペースト組成物を硬化させて得られるキャパシタ用高誘電率層間絶縁材料を提供すること。
【解決手段】ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子を含有するコアと、光重合して得られる(a)重合性基を有する樹脂を含有するシェルを有するコア−シェル構造粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア−シェル構造粒子に関する。より詳しくは、樹脂に分散させて高誘電率層間絶縁材料に好適に用いられるコア−シェル構造粒子、これを用いたペースト組成物およびキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
実装基板に内蔵するキャパシタ用の層間絶縁膜を作製する方法として、高誘電率無機粒子を樹脂中に分散したペースト組成物を塗布、乾燥、硬化させるという方法が知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。しかしながら、単に高誘電率無機粒子を樹脂に分散した組成物では、高誘電率無機粒子の体積含有量が多い場合には層間絶縁膜として十分な膜強度を得ることが困難であり、電極材料との接着力を特にピール強度などの電極材料の剥離強度で評価する場合にその強度が不十分であるという課題があった。
【0003】
一方、ポリマー層でコーティングされたチタン酸バリウムなどの粒子を作製する技術が知られている(例えば、特許文献3〜4参照。)。この技術によれば、分散性の良好なコア−シェル構造の粒子を得ることができる。
【特許文献1】特開2005−38821号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−285105号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2006−298757号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−106650号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献3〜4に記載の方法では、熱重合によりポリマー層を形成するため、重合反応が粒子表面とそれ以外の領域でほぼ均一に起きやすく、粒子表面のみで重合を起こすことが困難であり、均一なシェルを作製することが困難であった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑み、均一なシェルを容易に作製でき、電極材料との剥離強度で評価される接着力が大きく、かつ膜強度が大きい高誘電率層間絶縁材料を構成するコア−シェル構造粒子、これを用いたペースト組成物、およびキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子を含有するコアと、光重合して得られる(a)重合性基を有する樹脂を含有するシェルを有するコア−シェル構造粒子である。また、前記コア−シェル構造粒子と(b)重合性基を有するマトリックス樹脂を含有するペースト組成物、およびこれを用いたキャパシタである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコア−シェル構造粒子を用いることにより、電極材料との接着力や膜強度が大きい高誘電率層間絶縁材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のコア−シェル構造粒子は、コアと、コアを被覆するシェルを有するもので、コアがペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子を含有し、シェルが光重合して得られる(a)重合性基を有する樹脂を含有する。このようなコア−シェル構造粒子をマトリックス樹脂に分散させた場合、コア−シェル構造粒子とマトリクッス樹脂の界面は樹脂−樹脂となるため、コア−シェル構造粒子とマトリックス樹脂との相互作用を強くすることができる。したがって、膜強度が高く、電極材料との接着力に優れた、高誘電率の層間絶縁材料を得ることができる。さらに、シェルが(a)重合性基を有する樹脂を含有するため、特にマトリックス樹脂として(b)重合性基を有するマトリックス樹脂を用いた場合には、(a)重合性基を有するシェル樹脂と(b)重合性基を有するマトリックス樹脂を重合させることにより、シェルとマトリックスの間で単一のポリマーネットワークを形成することができる。したがって、無機粒子と樹脂の複合材料でありながら、樹脂単体のような、より高い膜強度を得ることができ、電極材料との剥離強度で評価接着力をより向上させることができる。また、シェルを形成する方法が光重合によるため、重合反応のための照射光が粒子表面で反射、散乱されることで粒子表面近傍での重合反応がその他の部分より大幅に進みやすく、準選択的なシェル形成が容易にできる。
【0009】
本発明のコア−シェル構造粒子において、シェルを構成する(a)重合性基を有する樹脂(以下、シェル樹脂という)は、コアのペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子と相互作用し表面を被覆する樹脂であれば特に限定されないが、リン酸エステルのアクリレートやメタクリレート、カルボキシル基もしくはエステル基と6員環を有するアクリレートやメタクリレートを用いることができる。
【0010】
これらの中でも、実装基板用樹脂として広く用いられているエポキシ樹脂と重合するものが好ましく、具体的には、2−(メタ)アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェートを光重合して得られる樹脂や、下記一般式(1)〜(4)で表される化合物のいずれか一種以上を光重合して得られる樹脂を好ましく用いることができる。ここで、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0011】
【化1】

【0012】
(上記一般式(1)〜(4)中、Rは重合性基を有する1価の基を示す。Rは水素原子または下記一般式(5)で表される1価の基を示す。)
【0013】
【化2】

【0014】
(上記一般式(5)中、mは1〜3の整数である。)
2−(メタ)アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェート中のリン酸エステル部分や、一般式(1)〜(4)で表される化合物のR以外の部分は、ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の表面に対する相互作用力が大きい。また、アクリレート基やメタクリレート基は容易に光重合させることができるため、これらの分子がペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子と相互作用した後に光重合させることによってシェル化することができる。シェル化した後も重合性基としてグリシジル基やカルボキシル基もしくはエステル末端のヒドロキシル基が残存するため、コア−シェル構造粒子をマトリックス樹脂に分散した後に、熱処理等によりマトリックス樹脂と反応させて単一のポリマーネットワークを形成することができる。
【0015】
一般式(1)〜(4)におけるRが水素原子であると末端がカルボキシル基となり、高誘電率無機粒子との相互作用が強まりシェル形成が容易となり好ましい。
【0016】
高誘電率無機粒子との相互作用が強い点から、特に一般式(1)〜(4)におけるRは下記一般式(6)で示されるものが好ましい。
【0017】
【化3】

【0018】
(上記一般式(6)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。また、nは1〜3の整数である。)
一般式(6)中の重合性基は、Rが水素原子の場合はアクリレート基であり、Rがメチル基の場合はメタクリレート基である。アクリレート基またはメタクリレート基は不飽和結合を有し、光照射や加熱によりラジカル重合をさせることが可能である。Rが水素原子であるアクリレート基の方が、重合性がより良好となり好ましい。
【0019】
一般式(1)〜(4)で表される化合物の中でも、Rが水素原子でありRが一般式(6)で表される1価の基であり、nが2である化合物が好ましい。この化合物を用いると高誘電率無機粒子との相互作用が強まりシェル形成が容易となる。
【0020】
本発明に用いられる一般式(1)〜(4)で表される化合物の具体例としては、下記に表されるような、共栄社化学(株)製の“HOA−HH”(商品名、一般式(1)で表され、Rが水素原子であり、Rが一般式(6)で表されるものであり、nが2であり、Rが水素原子である。)、“HOA−MPL”(商品名、一般式(4)で表され、Rが水素原子であり、Rが一般式(6)で表されるものであり、nが2であり、Rが水素原子である。)、“HOA−MPE”(商品名、一般式(4)で表され、Rが一般式(5)で表されるものであり、mが2である。また、Rが一般式(6)で表されるものであり、Rが水素原子であり、nは2である。)が挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
特に、“HOA−MPL”は高誘電率無機粒子との相互作用が強く、シェル形成が容易である。本発明で用いるシェル形成用樹脂は1種類でもよく、また複数種用いてもよい。シェルはコアを完全に被覆することが好ましいが、コア−シェル構造粒子をマトリックス樹脂に分散し、ポリマーネットワークを完成させた状態で十分な強度が得られる範囲であれば、必ずしもコアを完全に被覆していなくてもよい。
【0023】
シェルの膜厚は特には限定されないが、コア−シェル構造粒子をマトリックス樹脂に分散し、ポリマーネットワークを完成させた状態で十分な強度が得られるという点から、0.05μm以上であることが好ましい。一方、より効果的に高誘電率化するためには、コアに用いるペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の平均粒子径の1/2以下であることが好ましい。
【0024】
本発明のコア−シェル構造粒子は、コアがペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子を含有する。ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子とは、ペロブスカイト型結晶構造、あるいは複合ペロブスカイト型結晶構造を有する、比誘電率が50以上の無機粒子のことである。このような無機粒子として、例えばチタン酸バリウム系、チタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系、二酸化チタン系などの無機粒子を挙げることができる。チタン酸バリウム系とは、チタン酸バリウム結晶内の一部の元素を他の元素で置換したり、結晶構造内に他の元素を侵入させたりしたチタン酸バリウムを母材とする固溶体を含めた総称である。その他のチタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系もいずれも同様で、それぞれを母材とする固溶体を含めた総称である。
【0025】
なお、ペロブスカイト型結晶構造、あるいは複合ペロブスカイト型結晶構造を有する高誘電率無機粒子は、これらのうち1種を単独で用いたり、2種以上を用いたりすることができる。より大きい誘電率を有する誘電体組成物を得る場合には、商業的利便性との両立の点から、主としてチタン酸バリウムからなる化合物を用いることが好ましい。但し、誘電特性や温度安定性を向上させる目的で、シフター、デプレッサー剤などを少量含有してもよい。
【0026】
ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子は、比誘電率が50〜30000であることが好ましい。比誘電率が50以上である高誘電率無機粒子を用いると、得られる誘電体組成物の比誘電率を十分大きくすることができる。また、高誘電率無機粒子の比誘電率が30000以下であると、得られる誘電体組成物の比誘電率の温度依存性を容易に小さくすることができる。ここでいうペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の比誘電率とは、ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子を原料粉末として、加熱、焼成して得られる焼結体の比誘電率をさす。ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の比誘電率は、例えば以下の手順によって測定する。高誘電率無機粒子とポリビニルアルコールのようなバインダー樹脂、有機溶剤もしくは水を混合して、ペースト組成物を作製したのち、ペレット成型器の中に充填して、乾燥させ、ペレット状固形物を得る。そのペレット状固形物を、例えば900〜1200℃程度で焼成することにより、バインダー樹脂を分解、除去し、ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子を焼結させ、無機成分のみからなる焼結体を得ることができる。このとき、焼結体の空隙は十分小さく、理論密度と実測密度から計算した空隙率が1%以下となっていることが必要である。この焼結体ペレットに上下電極を形成し、静電容量および寸法の測定結果から、比誘電率を計算する。
【0027】
ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の作製方法としては、固相反応法、水熱合成法、超臨界水熱合成法、ゾルゲル法、しゅう酸塩法、アルコキシド法などの方法が挙げられる。粒子径が小さく大きさが揃ったペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の作製が容易であるという理由から、水熱合成法、超臨界水熱合成法、ゾルゲル法のいずれかを用いることが好ましい。
【0028】
ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の粒子径は特に限定されないが、0.005μm以上であることや、10μm以下であることが好ましい。高誘電率無機粒子の粒子径が0.005μm以上であると、高誘電率無機粒子の比誘電率を大きくしやすい。高誘電率無機粒子の粒子径が10μm以下であると、キャパシタの静電容量を十分大きくできるように層間絶縁材料の膜厚を薄くすることができ好ましい。
【0029】
ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の形状は、球状、略球状、楕円球状、針状、板状、鱗片状、棒状、立方体(サイコロ)状などが挙げられるが、特に、球形あるいは略球形であることが好ましい。球状あるいは略球状のペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子は、比表面積が小さいために充填時に高誘電率無機粒子の凝集や樹脂流動性低下などを生じにくいからである。これらのうち1種を単独で用いたり、2種以上を用いることができる。
【0030】
コア−シェル構造粒子の製造方法は特に限定されないが、以下のような方法により製造することができる。ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子と(a)重合性基を有するシェル樹脂の溶液を、シェル樹脂が高誘電率無機粒子と十分相互作用するように十分混合する。この混合はホモジナイザー、ボールミル、その他のメディア分散機などを用いることで効率的に行うことができる。次に混合後の液を石英容器などの紫外線を透過させる容器内に入れ、攪拌しながら紫外線を照射し、高誘電率無機粒子と相互作用している高誘電率無機粒子表面のシェル樹脂を光重合し、シェルを形成する。この際、必要に応じて、後述する重合促進剤を添加してもよい。照射された紫外線は高誘電率無機粒子表面で乱反射されるため、高誘電率無機粒子表面近傍のシェル樹脂が効率良く重合し、シェルを形成する。紫外線照射量を適度に調整することにより、高誘電率無機粒子表面から離れた位置に存在する溶液中のシェル樹脂の光重合硬化が進むのを抑え、シェルを形成させやすくすることができる。また、シェル樹脂の溶液濃度を2〜50重量%とすることで、高誘電率無機粒子表面から離れた位置に存在する溶液中のシェル樹脂の光重合硬化が進むのを抑え、シェルを形成させやすくすることができる。シェルが形成されてできたコア−シェル構造粒子は、濾過することで溶液と分離することができる。シェルの重合が不十分な場合は、濾別後のコア−シェル構造粒子に紫外線を再照射し、重合を進めてもよい。
【0031】
重合促進剤としては、紫外線照射によりラジカルを発生するものとしてオキシム系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系などが挙げられ、紫外線照射によりカチオンを発生するものとして、ホスフォニウム系、スルフォニウム系、ヨードニウム系などが挙げられる。
【0032】
本発明のペースト組成物は、前述のコア−シェル構造粒子と、(b)重合性基を有するマトリックス樹脂を含有する。
【0033】
(b)重合性基を有するマトリックス樹脂は、重合性基を有するものであれば特に限定されないが、熱硬化性樹脂が好ましい。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シロキサン樹脂、ポリイミド、アクリル樹脂、シアネート樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂などを挙げることができる。コア−シェル構造粒子の分散性の観点から、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。ここで、エポキシ樹脂とは、分子構造中にエポキシ基(オキシラン環)を2個以上含むプレポリマーを有する樹脂である。
【0034】
また、本発明のペースト組成物は硬化剤を含有してもよい。硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂に使用されている硬化剤を挙げることができ、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤などが例示される。また、これらの硬化剤を2種以上含有してもよい。さらに、硬化剤とともに、または硬化剤を伴わずに硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、トリフェニルホスフィン、トリス(2,4−ペンタジオナト)コバルトなどの金属キレート化合物などが挙げられる。さらに必要に応じて、安定化剤、分散剤、沈降防止剤、可塑剤、酸化防止剤などを含有してもよい。
【0035】
ペースト組成物中のコア−シェル構造粒子の含有量がペースト組成物全量の30重量%以上であると、キャパシタ用の層間絶縁材料として用いるのに比誘電率が十分大きくなりやすく好ましい。ペースト組成物中のコア−シェル構造粒子の含有量がペースト組成物全量の99重量%以下であると、層間絶縁材料膜の強度が大きくなりやすく好ましい。
【0036】
ペースト組成物中のマトリックス樹脂の含有量がペースト組成物全量の1重量%以上であると、層間絶縁材料膜の強度が大きくなりやすく好ましい。ペースト組成物中のマトリックス樹脂の含有量がペースト組成物全量の70重量%以下であると、キャパシタ用の層間絶縁材料として用いるのに比誘電率が十分大きくなりやすく好ましい。
【0037】
本発明のペースト組成物は、コア−シェル構造粒子を(b)重合性基を有するマトリックス樹脂もしくはマトリックス樹脂溶液へ分散させることによって得ることができる。例えば、液状樹脂、もしくは樹脂溶液にコア−シェル構造粒子を加えて混合分散する方法や、予めコア−シェル構造粒子を適当な溶剤中に分散した分散液を作製し、その分散液と液状の(b)重合性基を有するマトリックス樹脂、もしくは(b)重合性基を有するマトリックス樹脂溶液を混合するレットダウン法などによって作製される。(b)重合性基を有するマトリックス樹脂もしくはマトリックス樹脂溶液へコア−シェル構造粒子を分散させる方法は特に限定されず、例えば、超音波分散、ボールミル、ロールミル、クレアミックス、ホモジナイザー、メディア分散機などの方法を用いることができるが、特に、分散性の点でボールミル、ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0038】
シェル樹脂やマトリックス樹脂溶液に用いる溶剤としては、樹脂を溶解するものを適宜選択すればよい。例えば、エタノール、i−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、イソブチルアルコール、メトキシメチルブタノールなどのアルコール類、クロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のセロソルブエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエステル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、アニソールなどのエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラヒドロフラン、イソホロン、トリクロロエチレン、乳酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができ、これらを2種以上含有してもよい。
【0039】
次に、本発明のキャパシタについて説明する。本発明のキャパシタは、下部電極、前記ペースト組成物を硬化させて得られる層間絶縁材料、上部電極がこの順に積層されたものである。
【0040】
上部電極および下部電極は金属箔が好ましく、銅、アルミニウム、金、銀、ステンレス、ニッケル、クロムなどが挙げられる。これらの中でも、銅または銅を含む合金を好ましく用いることができる。その他、上部電極および/または下部電極にはメッキ、蒸着やスパッタリング法などで形成した銅、アルミニウム、金、銀、ステンレス、ニッケル、クロムなどを含む金属層や導電性粒子を樹脂に分散させた導電性ペーストなども用いることができる。
【0041】
本発明のキャパシタにおいて、層間絶縁材料中のペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子含有量は、層間絶縁材料中30重量%以上98重量%以下であることが好ましい。ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の含有量が30重量%以上であれば、層間絶縁材料の比誘電率を十分大きくすることができ、大きな静電容量のキャパシタを得ることができる。一方、ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子の含有量が98重量%以下の場合、シェル樹脂およびマトリックス樹脂により、膜強度をより向上させることができる。
【0042】
本発明のキャパシタを得る方法として、例えば以下のような方法がある。まず、ペースト組成物を作製し、そのペースト組成物を基板上に形成された下部電極上に塗布し、加熱などにより脱溶剤する。続いて、金属箔や電極が形成された基板をラミネートし、樹脂重合のための熱処理を行い、キャパシタを形成する。
【0043】
基板としてはシリコンウェハ、セラミックス類、ガリウムヒ素、有機系回路基板、無機系回路基板、およびこれらの基板に回路の構成材料が配置されたが挙げられるが、これらに限定されない。有機系回路基板の例としては、ガラス布・エポキシ銅張積層板などのガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板などのコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板などの耐熱・熱可塑性基板、ポリエステル銅張フィルム基板、ポリイミド銅張フィルム基板などのフレキシブル基板が挙げられる。また、無機系回路基板の例は、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板などのセラミック基板、アルミニウムベース基板、鉄ベース基板などの金属系基板が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。誘電特性、ピール強度、膜厚は下記の方法に従って測定した。
【0045】
(1)誘電特性
測定用電極は直径10mmの円形パターンとした。測定対象領域の1MHzにおける静電容量をインピーダンスアナライザ4294Aおよびサンプルホルダー16451B(共にアジレントテクノロジー社製)を用いて、JIS K 6911に準じて誘電体組成物の比誘電率を測定した。
【0046】
(2)ピール強度
銅箔を塩化第2鉄溶液でエッチングして2mm幅のパターンを形成した。この2mm幅の銅箔層を“テンシロン”UTM−4−100(TOYO-BOLDWIN社製)にて引っ張り速度50mm/分、90度剥離で測定した。
【0047】
(3)膜厚
塗膜の膜厚は、塗膜と基板の段差をサーフコム1400(東京精密(株)製)を用いて触針法により測定することで求めた。
【0048】
実施例1
チタン酸バリウム(堺化学工業(株)製、BT−03:平均粒径0.3μm)50重量部、2−アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェート100重量部、オキシム系のUV活性型重合促進剤OXE02(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)2重量部、γ−ブチロラクトン200重量部をホモジナイザー“エクセルオート”(商品名、(株)日本精機製作所製)にて、回転刃先端の周速5m/sで1時間処理し、分散液A−1を得た。
【0049】
分散液A−1を500mlビーカー中でマグネティックスターラで攪拌しながら、ビーカー上面から高圧水銀灯を用いて分散液の液面に500mJ/cmの紫外線を照射した。続いて、この液を孔径5μmのフィルターで濾過し、濾液を得た。
【0050】
濾液を遠心分離にかけ沈降物を分取した。遠心分離は、(株)日立ハイテクノロジーズ製の分離用小形超遠心機“himac、CS100GXL”(商品名)に同社製の“S55Aアングル形ローター(商品名)をセットし、50000rpmで、5分間処理を行った。沈殿物を大気中90℃で乾燥し、コア−シェル構造粒子を得た。
【0051】
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート(商品名)YX8000)9.4重量部、フェノールノボラック樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、フェノライト(商品名)VH−4150)5.4重量部、硬化促進剤(北興化学工業(株)製、トリフェニルホスフィン)0.15重量部、γ−ブチロラクトン8.6重量部を混合し、エポキシ樹脂溶液を得た。
【0052】
次に、180重量部のコア−シェル構造粒子と23.6重量部のエポキシ樹脂溶液を混合し、ペースト組成物B−1を得た。
【0053】
ペースト組成物B−1をマイクロバーコーター(井上金属工業(株)製)を用いて、ロール状の厚さ18μmの銅箔(三井金属鉱業(株)製、TQ−VLP)上に塗布後の膜厚が10μmとなるように塗布後、脱溶剤し、さらに膜表面はカバーフィルムをラミネートし、ロール状の銅箔付きBステージ誘電体シートを作製した。カバーフィルムは12μm厚のポリプロピレンフィルムを用いた。銅箔の搬送速度は1.4m/分、乾燥温度は120℃とした。ロール状に巻き取った際にムラ、クラックや割れは生じなかった。
【0054】
銅箔貼りFR−4基板の表面銅箔を黒化処理した後に、前記の銅箔付きBステージ誘電体シートを貼り合わせ、175℃で1時間加熱しながらプレスし、評価用サンプルを作製した。
【0055】
評価用サンプルを用い、もともとBステージ誘電体シート側に形成されていた銅箔のピール強度を測定したところ6N/cmであった。評価用サンプルの、むき出しとなっている黒化処理部の表層のみを0.1Nの硫酸でエッチングし銅が表面に出るようにして下部とり出し電極とした。次にもともとBステージ誘電体シート側に形成されていた銅箔を直径10mmの円形パターンを形成するようにレジストと塩化第二鉄でエッチングして上部電極とし、キャパシタを形成した。キャパシタの層間絶縁材料となった誘電体組成物の比誘電率を測定したところ81であった。
【0056】
実施例2
2−アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェートの代わりに、2−メタクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェートを用いた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。Bステージ誘電体シートをロール状に巻き取った際にムラ、クラックや割れは生じなかった。また、ピール強度は6N/cmであり、比誘電率は80であった。
【0057】
比較例1
チタン酸バリウム(堺化学工業(株)製、BT−03:平均粒径0.3μm)174重量部、γ−ブチロラクトン30重量部、分散剤(リン酸エステル骨格を有する酸基を持つコポリマー、ビックケミー・ジャパン(株)製、BYK−W9010)1.7重量部をホモジナイザーを用いて混練し、分散液A−2を得た。実施例1と同様にして作製した23.6重量部のエポキシ樹脂溶液と、205.7重量部の分散液A−2を混合し、ペースト組成物B−2を得た。
【0058】
ペースト組成物にB−2を用いた以外は実施例1と同様にして評価用サンプルを作製した。Bステージ誘電体シートをロール状に巻き取った際にムラ、クラックや割れは生じなかった。ピール強度を測定したところ、ピール強度は1N/cm、比誘電率は80であった。ピール強度測定後のサンプルを観察したところ、層間絶縁材料膜の強度が小さいために膜内部で凝集破壊が起きていた。膜の凝集破壊によりピール強度が小さい値となった。
【0059】
実施例3
2−アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェートの代わりに、共栄社化学(株)製の“HOA−MPL” を用いた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。Bステージ誘電体シートをロール状に巻き取った際にムラ、クラックや割れは生じなかった。また、ピール強度は6.8N/cmであり、比誘電率は85であった。
【0060】
実施例4
2−アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェートの代わりに、共栄社化学(株)製の“HOA−MPE” を用いた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。Bステージ誘電体シートをロール状に巻き取った際にムラ、クラックや割れは生じなかった。また、ピール強度は6.5N/cmであり、比誘電率は83であった。
【0061】
実施例5
2−アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェートの代わりに、共栄社化学(株)製の“HOA−HH” を用いた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。Bステージ誘電体シートをロール状に巻き取った際にムラ、クラックや割れは生じなかった。また、ピール強度は6.2N/cmであり、比誘電率は82であった。
【0062】
比較例2
オキシム系のUV活性型重合促進剤OXE02(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)2重量部に換えて、加熱によりラジカルを発生する重合促進剤として、パーブチルZ(日油株式会社製)2重量部を用いた以外はA−1と同様にして分散液A−2を作製した。分散液A−2を130℃に加熱しながら、500mlビーカー中でマグネティックスターラで攪拌したところ、チタン酸バリウム粒子を含んだまま内容物全体がゲル化し、コア−シェル粒子を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト系結晶構造を有する高誘電率無機粒子を含有するコアと、光重合して得られる(a)重合性基を有する樹脂を含有するシェルを有するコア−シェル構造粒子。
【請求項2】
前記(a)重合性基を有する樹脂が、2−(メタ)アクリルグリシジルエーテルアシッドフォスフェートを光重合して得られる樹脂を含有する請求項1記載のコア−シェル構造粒子。
【請求項3】
前記(a)重合性基を有する樹脂が、下記一般式(1)〜(4)で表される化合物のいずれか一種以上を光重合して得られる樹脂を含有する請求項1記載のコア−シェル構造粒子。
【化1】

(上記一般式(1)〜(4)中、Rは重合性基を有する1価の基を示す。Rは水素原子または下記一般式(5)で表される1価の基を示す。)
【化2】

(上記一般式(5)中、mは1〜3の整数である。)
【請求項4】
前記一般式(1)〜(4)におけるRが下記一般式(6)で表される1価の基である請求項1記載のペースト組成物。
【化3】

(上記一般式(6)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。また、nは1〜3の整数である。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のコア−シェル構造粒子と(b)重合性基を有するマトリックス樹脂を含有するペースト組成物。
【請求項6】
前記(b)重合性基を有するマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする請求項5記載のペースト組成物。
【請求項7】
下部電極、請求項5または6記載のペースト組成物を硬化させて得られる層間絶縁材料、上部電極がこの順に積層されたキャパシタ。
【請求項8】
前記上部電極および下部電極が金属箔である請求項7記載のキャパシタ。

【公開番号】特開2009−7558(P2009−7558A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135168(P2008−135168)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】