説明

コイルアンテナ装置、非接触式電子カード及び携帯通信機器

【課題】特に共振周波数調整の簡易化かつ確実化に好適なコイルアンテナ装置、非接触式電子カード及び携帯通信機器を提供する。
【解決手段】コイルアンテナ装置は、第1及び第2端子間に接続されたLC共振回路を有し、前記第1、第2端子間に直列接続されたアンテナコイル及び調整用インダクタと、前記調整用インダクタの両端に並列接続された第1調整用スイッチと、前記第1、第2端子間に接続された基準キャパシタと、前記基準キャパシタに並列接続された調整用キャパシタと、前記第1、第2端子間において前記調整用キャパシタに直列接続された第2調整用スイッチとを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルアンテナ装置、非接触式電子カード及び携帯通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触式IC電子カードと一般に称される非接触式電子カードは、電子マネー分野だけでなく乗車券などにも用いられ、その用途は益々拡大傾向にあり、例えば携帯電話機などの携帯通信機器にも応用され始めてきている。このような携帯通信は電磁誘導方式により行われ、その動作周波数は、通常、13.56MHzとされている。そのために、非接触式電子カードに用いられるアンテナ装置の共振周波数(f(Hz)=(1/2π)×(1/√(LC))は前記動作周波数に近い値となるように調整される。
【0003】
しかしながら、非接触式電子カードに組み込まれるコイルやインダクタやキャパシタなどの構成部品の電気的特性のばらつきやカード毎の部品配置のずれなどがあるために、多量生産した非接触式電子カードの中には、その共振周波数が前記動作周波数の許容範囲から離脱するものがあり、このように離脱したものについては、前記許容範囲に収まるように共振周波数の調整が必要とされている。このような共振周波数の調整を可能とする非接触式IC電子カードに関する従来技術の一例としては、次の従来技術1及び従来技術2に示すようなものがある。
【0004】
(従来技術1):非接触式IC電子カードの共振回路に配置した複数の調整用コンデンサの一部を切断することにより、キャパシタンスCによる共振周波数の調整を行うことが記載されている(特許文献1)。
【0005】
ところで、前記動作周波数と同じ共振周波数をもつ非接触式電子カードを同一仕様下で多量生産しても、前述のような構成部品の特性のばらつき等により、共振周波数値にも製品毎にばらつきが生じ、製作過程中における中間製品の共振周波数に対応した数量分布は、一般的に図4(a)に示すような山形の分布線41を呈する。
【0006】
一方、中心線42で示す通信機器の動作周波数に対して例えば±150KHzというようなユーザー規格の範囲43(図中の中心線42を挟む左右の範囲)が許容範囲(良品)として設定されている。そして、前記分布線41の最大値が前記中心線42に一致するような設計仕様で非接触式ICカードを製作した場合、前記分布線41の左右の裾部分41a及び41bに示されているように前記範囲43からはみ出た規格外のものが発生する。
【0007】
従来技術1によれば、前記共振周波数の調整は、キャパシタンスCの低減により共振周波数を増加方向のみの一方向調整に限られるので、前記左側の裾部分41aのものは調整が可能で前記規格範囲43内の良品に持ち込むことができるが、右側の裾部分41bのものは調整不可能であり不良品となってしまう問題がある。
【0008】
そこで、図4(b)に示すように、前記分布線41の最大値を中心線42より左側にシフトさせた分布となるように、設計仕様の共振周波数を動作周波数よりも低めにして製作する場合がある。この場合、前記右側裾部分41bのものは規格範囲43内に含まれ、規格範囲43の左側にはみ出た部分41Aのものは、キャパシタンスCの低減による一方向調整により前記規格範囲43内の良品にシフトさせることができる。その反面、前記はみ出し部分41Aにおける調整対象品数量が著しく多くなるので、調整対象品を一定調整幅毎にグループ分けして調整及び測定する作業を幾度も繰り返さなければならず、ICカードの生産が繁雑であり、生産時間及び製造コストの増大化を招くという問題がある。
【0009】
(従来技術2):アンテナの一端に接続された長尺状の共通接続パッドの長手方向に沿って配列された複数の個別接続パッドを、アンテナの複数の中間端子部にそれぞれ接続し、前記複数の個別接続パッドから選択された一個別接続パッドと共通接続パッドにICチップを実装することによって、インダクタンスによる共振周波数の調整を行うことが記載されている(特許文献2)。
【0010】
この従来技術2では、ICカードを量産する際に各ロット内においてインダクタンス特性の大きなばらつきが発生した場合などには、個々の共振周波数を予測できないことが起きて、ICチップをどの位置の個別接続パッドに接続すればよいのか特定できなかったり、適切な共振周波数調整を行えなかったりする虞がある。また、共振周波数を知るためには、ICチップを実装した上で測定しなければならず、測定結果が規定範囲から外れていた場合は、調整不可能となったりチップの実装し直しが生じるなどの問題がある。
【特許文献1】特開2001− 10264号特許公開公報
【特許文献2】特開2006−217185号特許公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決するものであり、特に共振周波数調整の簡易化かつ確実化に好適なコイルアンテナ装置、非接触式電子カード及び携帯通信機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の本発明のコイルアンテナ装置は、第1及び第2端子間に接続されたLC共振回路を有するコイルアンテナ装置であって、前記第1、第2端子間に直列接続されたアンテナコイル及び調整用インダクタと、前記調整用インダクタの両端に並列接続された第1調整用スイッチと、前記第1、第2端子間に接続された基準キャパシタと、前記基準キャパシタに並列接続された調整用キャパシタと、前記第1、第2端子間において前記調整用キャパシタに直列接続された第2調整用スイッチとを備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のコイルアンテナ装置において、基体としての絶縁基板と、前記絶縁基板の一部に設けられた前記第1、第2端子を構成する第1、第2パッドとを含み、前記アンテナコイルは前記絶縁基板の周辺に沿って配置され、前記調整用インダクタは前記絶縁基板上に設けられたインダクタパターン層からなり、前記第1及び第2調整用スイッチは前記絶縁基板上に設けられた配線パターン層からなることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載のコイルアンテナ装置において、前記アンテナコイルは、前記絶縁基板の周辺に沿って形成されたコイル状パターン層からなることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の本発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか1つに記載のコイルアンテナ装置において、前記第1、第2調整用スイッチをオン状態から選択的にオフ状態にし、前記インダクタのインダクタンスを増加して共振周波数を低減し、相互に並列接続された前記基準キャパシタ及び調整用キャパシタによるキャパシタンスを低減して共振周波数を増加することによって、調整された共振周波数を得ることができるようにしたことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載のコイルアンテナ装置において、前記第1、第2調整用スイッチの選択的オフ状態は、選択された前記第1、第2調整用スイッチを構成する配線パターン層を切断することによって得られることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の本発明の非接触式電子カードは、前記第1、第2端子に接続された能動素子チップ及び請求項1〜請求項5のうちいずれか1つに記載のコイルアンテナ装置を、カード状収容体内に収納したことを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の本発明の携帯通信機器は、請求項1〜請求項5のうちいずれか1つに記載の前記コイルアンテナ装置を携帯通信機器用筐体内に収納したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコイルアンテナ装置、非接触式電子カード及び携帯通信機器は、調整用インダクタ及び調整用キャパシタの双方によって共振周波数を調整することができるために、多量生産における共振周波数の調整対象品数を最小限化して簡易にかつ確実にその共振周波数を規格範囲内に収めることができる。そして、本発明に係わるこれら製品の良品数量を確実に向上させるができ、その製造が簡素化されて生産時間及び製造コストを軽減できるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のコイルアンテナ装置の一実施形態について図1〜図3を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係わるコイルアンテナ装置の回路図、図2は図1に示された回路をコイルアンテナ装置に組み込んだ構造を示す平面図、図3は前記一実施形態のコイルアンテナ装置の共振周波数の調整について説明するための分布図である。
【0021】
まず、図1を参照して、本実施形態におけるLC共振回路を有するコイルアンテナ装置の回路構成について説明すると、第1端子P1及び第2端子P2は、コイルアンテナ装置に実装される例えば半導体ICやLSIなどからなる能動素子チップ1に接続される。
【0022】
そして、前記第1、第2端子P1、P2間には、アンテナコイルL0及び一連の複数の調整用インダクタL1〜Lmが直列に接続されている。前記アンテナコイルL0のインダクタンスは例えば1.8μHのものとし、前記調整用インダクタL1〜Lmは必要に応じて1個だけ(m=1)の場合もあり得、個々の前記調整用インダクタL1〜LmのアンテナコイルL0に対するインダクタンスの比率は例えば1/100程度に設定されている。前記各調整用インダクタL11〜L1mの各両端には、複数の第1調整用スイッチSL1〜SLmがそれぞれ並列接続されている。
【0023】
一方、前記第1、第2端子P1、P2間に接続された共振回路用のキャパシタCは、前記アンテナコイルL0及び複数の調整用インダクタL1〜Lmに対して並列接続されていて、相互に並列接続された基準キャパシタC0及び複数の調整用キャパシタC1〜Cnによって構成されている。前記基準キャパシタC0は例えば60pFのものとし、前記調整用キャパシタC1〜Cnは必要に応じて1個だけ(n=1)の場合もあり得、個々の調整用キャパシタC1〜Cnの基準キャパシタC0に対するキャパシタンスの比率は例えば1/100程度に設定されている。
【0024】
前記各調整用キャパシタC1〜Cnには、複数の第1調整用スイッチSC1〜SCnがそれぞれ直列接続されている。前記第1調整用スイッチSC1〜SCnは、図中では調整用キャパシタC1〜Cnの上側に接続された状態で示されているが、前記第1、第2端子P1、P2間に直列接続されていればよく、調整用キャパシタC1〜Cnの下側に接続するも自由である。
【0025】
また、共振周波数の調整前の前記第1、第2調整用スイッチSL1〜SLm、SC1〜SCnはオン状態にあり、前記調整用キャパシタC1〜Cnは作動可能状態に、前記調整用インダクタL1〜Lmは作動不能状態にある。そこで、共振周波数の調整に当たって、インダクタンスを増加させる場合には、前記第1調整用スイッチSL1〜SLmのうち少なくとも1つを選択的にオフ状態にして調整用インダクタL1〜Lmのうち少なくとも1つを作動可能状態に切り換える(機能開始)。また、キャパシタンスを減少させる場合には、前記第2調整用スイッチSC1〜SCnのうち少なくとも1つを選択的にオフ状態にして調整用キャパシタC1〜Cnのうち少なくとも1つを作動不能状態に切り換える(機能停止)。
【0026】
ところで、コイルアンテナ装置の共振周波数(f(Hz)=(1/2π)×(1/√(LC))は、この装置に適応する通信機器の動作周波数、例えば携帯通信機器に一般的に使用される13.56MHzに対応するように設定される。
【0027】
そこで、設計仕様において、前記共振周波数を前記動作周波数に一致させる際には、前記基準キャパシタC0及び調整用キャパシタC1〜Cnの並列接続構成からなる共振回路用のキャパシタCのキャパシタンス値、及び前記アンテナコイルL0のインダクタンス値は、前述共振周波数13.56MHzとなるように予め設定されている。
【0028】
このように設定されていても、量産されたコイルアンテナ装置は、実際には従来技術の説明において述べたように、図4(a)に示された分布線41にみられるような規格外の共振周波数を含んだ分布をもつことが多い。その場合、前記第1及び第2調整用スイッチを操作すると、前記共振周波数を、調整用インダクタL1〜Lmによるインダクタンスの増加によって低減したり、調整用キャパシタC1〜Cnによるキャパシタンスの低減によって増加するよう、前記分布線の左右両面(側)から調整することができる。
【0029】
次に、前記回路構成を備えたコイルアンテナ装置の構造の一実施例について、図2を参照して説明する。コイルアンテナ装置の構造上の基体となる絶縁基板2は、ここでは、長矩形のカード状に形成されていて、その上表面には、前記能動素子チップ1(図1参照)の実装予定位置に、前記第1及び第2端子を構成する第1及び第2パッド(端子)P1、P2が所定の間隔で配置されている。
【0030】
前記絶縁基板2の周辺位置に配置されたアンテナコイルL0は、絶縁基板2の上表面の長矩形の周辺に沿った螺旋形状を有していて、その一端が前記第2パッド(端子)P2に接続され、他端が一連の調整用インダクタL1〜LmのL1側の一端に接続されている。
【0031】
一連の前記調整用インダクタL1〜Lmは、例えばカーボンペーストをスクリーン印刷することによって前記絶縁基板2の一部上表面に形成された薄膜受動素子であり、例えばクランク蛇行状にパターンニングされたインダクタパターン層により形成されている。勿論、前記調整用インダクタはチップインダクタで構成してもよい。
【0032】
また、一連の前記調整用インダクタL1〜LmのLm側他端は、前記絶縁基板2の上表面に形成された第1配線層3を通じて前記第1パッド(端子)P1に接続されている。個々の前記調整用インダクタL1、〜、Lm毎に、各インダクタの両端に並列接続された第1調整用スイッチSL1〜SLmは、前記各調整インダクタ両端を電気的に短絡しオン状態にするように前記絶縁基板2の上表面に設けられた配線パターン層からなっている。前記配線パターン層は、前記調整用インダクタL1〜Lmと平行な主幹部分と各インダクタの両端に延びる枝部を有する平面パターンとされている。
【0033】
前記絶縁基板2の上表面に形成された第2配線層4は、前記第1配線層3に対して所定の間隔で平行する部分を有していて、その一端が前記第2パッド(端子)P2に接続されている。
【0034】
そして、前記第1配線層3と第2配線層4との間に設けられた共振回路用のキャパシタCは、前記絶縁基板2の上表面に並列して配置された基準キャパシタC0及び複数の調整用キャパシタC1〜Cmで構成されている。これらのキャパシタC0〜Cmは、例えば薄膜キャパシタチップを絶縁基板2上の配線ランド部(図示せず)への実装によって設けられている。
【0035】
前記基準キャパシタC0は、共振回路用のキャパシタCの主体部となっていて常に機能させるものであり、前記第1配線層3と第2配線層4との間に、第3配線層5によって接続されている。また、前記調整用キャパシタC1〜Cmは、前記第1配線層3と第2配線層4との間に、第2調整用スイッチSC1〜SCnをそれぞれ通じて接続されている。前記第2調整用スイッチSC1〜SCnは、前記調整用キャパシタC1〜Cmにそれぞれ直列接続されるように、前記絶縁基板2の上表面にパターンニング形成された配線パターン層からなっている。
【0036】
ところで、前記キャパシタC0〜Cmは、いずれも薄膜チップに限らず、前記絶縁基板2の厚さ方向の全部または一部をキャパシタ用の誘電体として利用し、厚さ方向にキャパシタ両電極を配置することによって内蔵形キャパシタとして構成することもできる。この場合は、図2に示された前記キャパシタC0〜Cmは、各一方のキャパシタ電極を前記絶縁基板2の上表面側に配置し、各他方のキャパシタ電極を下面(裏面)側に配置することによって形成される。従って、前記第2配線層4は、図2に示された形態の代わりに前記絶縁基板2の下面(裏面)側に形成される。また、前記絶縁基板2の表面にキャパシタ両電極に相当する平行な電極パターン層を形成することによってキャパシタを構成してもよい。
【0037】
なお、例えば前記アンテナコイルL0の一端と前記第2パッドP2との接続部分が前記アンテナコイルL0の一部と交差している場合のように、配線の交差箇所には、その絶縁性を保つために、一般的なジャンパー配線やプリント配線におけるスルーホール及びビアホールを利用した層間接続技術などを適用すればよい。また、調整用インダクタL1〜LmやキャパシタC0〜Cmや第1、第2端子P1、P2などの各要素の配置パターンは、図2に示す形態に限らず、用途に応じて他の形態とすることもできる。
【0038】
前記第1、第2調整用スイッチSL1〜SLm、SC1〜SCnをオフ状態にするには、これらのスイッチSL1〜SLm、SC1〜SCnをそれぞれ構成する前記各配線パターン層を例えば機械的けがき或いはレーザカットなどの簡単な手段で切断すればよい。図2を参照すると、共振周波数の調整のために選択された例えば第1調整用スイッチSL1及び第2調整用スイッチSCnをオフ状態にするための切断箇所の一例が×印で示されている。
【0039】
勿論、前記各配線パターン層の一部分を予め分断して、その部分に各スイッチに対応するヒューズ層を設けておき、通電溶断によって切断するなどの他の手段を用いてもよい。しかし、前記機械的けがき或いはレーザカットによる方が、パターン形成や切断作業が簡易であるので好ましい。
【0040】
ここで、前記コイルアンテナ装置の構成材料などについて説明を加える。前記絶縁基板2としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)を用い、前記各スイッチ用の配線パターン層や回路配線層3〜5及びアンテナコイルL0は、前記基板表面に、例えば銀ペーストなどのような導電性ペーストを所望のパーターンでスクリーン印刷することによって薄層状に形成することができる。
【0041】
また、基材として銅張積層基板(CCL)を用い、このCCLの絶縁フィルムを前記絶縁基板2として適用し、その銅箔層に所望のパターンニングを施して前記各スイッチ用の配線パターン層や回路配線層3〜5及びアンテナコイルL0を形成してもよい。前記CCLは、コイルアンテナ装置の適用分野に応じてFPC/RPCタイプを適宜選択して採用すればよい。
【0042】
次に、本発明の一実施形態に係わるコイルアンテナ装置の共振周波数の調整について、図3を参照して説明する。図3の横軸は共振周波数値を表し、縦軸は量産されたコイルアンテナ装置の共振周波数値に対応した数量分布を表している。
【0043】
本実施形態に係わるコイルアンテナ装置においても、製作過程における多数の中間製品の共振周波数に対応する製品数量分布が、従来技術1の場合と同様に分布線10で示すような山形を呈し、携帯通信機器の動作周波数13.56MHzに一致した中心線11の左右に跨るユーザー規格範囲12が例えば±150KHzの範囲として示されている。
【0044】
そして、量産されるコイルアンテナ装置は、設計仕様として、その共振周波数が前記動作周波数に一致する(分布線10の最大値と中心線11が重なる)ように製作されている。しかしながら、前記分布線10の左右の裾部分10a及び10bには、従来技術1の説明の場合と同様に、規格範囲12からはみ出た規格外のものが発生することがある。
【0045】
そこで、左側の裾部分10aに分布するコイルアンテナ装置については、前記第2調整用スイッチSC1〜SCnを選択的にオフ状態にすることによってキャパシタCのキャパシタンスを低減して、共振周波数を規格範囲12内に増加方向にシフトさせる。
【0046】
右側の裾部分10bに分布するコイルアンテナ装置については、前記第1調整用スイッチSL1〜SLmを選択的にオフ状態にすることによってアンテナコイルL0と一部の調整用インダクタとによるインダクタンスを増加して、共振周波数を規格範囲12内に低減方向にシフトさせる。
【0047】
このようにして、初期状態においては規格範囲外の不良品となっている左右の裾部分10a及び41bに分布していたコイルアンテナ装置の全てを調整対象として調整して規格範囲12内(良品)に持ち込むことができる。この結果、規格範囲12に該当するコイルアンテナ装置の数量が増加するので、その増加分が分布線13(破線)で表現されている。この表現において、前記分布線13は、前記裾部分10a及び41bに相当する増加分が存在することを増加分の面積としてとらえ、その曲線形状にこだわるものではない。
【0048】
ところで、共振周波数の規格範囲12が±150KHzの比較的広い範囲である場合は、1回の調整でシフトする量は例えば100KHz程度に大きなシフト量とすることができるので、調整用インダクタ及び調整用キャパシタは、シフト量100KHzに相当するインダクタンス及びキャパシタンスをそれぞれ有する各1個づつとすることができる。このように1回のシフト量を、規格範囲12に収まるようにして、できるだけ大きな量にした場合は、調整回数や調整用インダクタ及びキャパシタの部品点数を最小限にすることができる。
【0049】
そして、前記規格範囲12が±150KHz以下の狭い範囲になるに従って1回の調整でのシフト量も小さく設定する必要があり、ユーザ側の前記規格範囲12の設定幅の多様化要求に対応するために、調整用インダクタL1〜Lm及び調整用キャパシタC0〜Cは、様々なシフト量に対応して、インダクタンス及びキャパシタンスの大小関係が段階的に異なるものを組み込んでおくとよい。
【0050】
また、前記シフト量が例えば50KHz以下の小さい量となるような調整用インダクタ及びキャパシタを組み合わせて設けておけば、規格範囲12内の最外郭近傍に分布する既に良品であるコイルアンテナ装置に対しても調整を施すことによって、分布線10の最大幅を規格範囲12幅より小さくすることができる。即ち、分布線10の尖鋭度を高めて動作周波数により近い共振周波数を有する品質の揃ったコイルアンテナ装置を提供することができる。規格範囲12の両面(両側)からの調整が、このようにシフト量を考慮し、調整数が負担にならない狭い分布範囲のものについて行われると、動作周波数により近い品質の揃ったものが簡易かつ確実に得られるという利点がある。
【0051】
以上のように、本実施形態に係わるコイルアンテナ装置にあっては、前記分布線10の両面(両側)から周波数シフトの調整ができるので、多量生産における共振周波数の調整対象品数を最小限化して簡単かつ確実にその共振周波数を規格範囲内に収めることができる。そして、良品数量を確実に向上させるができ、その製造が簡素化されて生産時間及び製造コストを軽減できる。また、従来技術2におけるようなICチップの実装後の調整不可能等の問題もなく、調整用スイッチの配線パターン層を切断するだけで動作周波数の規格範囲の両面から共振周波数を簡単に調整できる。
【0052】
なお、前記第2調整用スイッチSC1〜SCnは、調整用キャパシタC0〜Cnを選択的にオフ状態にして機能停止させるものであるから、そのオフ状態を得るには、前述のような配線パターン層の切断による手法(第1手法)に代えて、調整用キャパシタC0〜Cn自身を選択的に取り除く手法(第2手法)を採用してもよい。従って、本発明では前記第2調整用スイッチSC1〜SCnは、前記第1、第2手法を含むものとして定義する。
【0053】
本発明は、更に、前述の一実施形態に係わるコイルアンテナ装置を組み込んだ非接触式電子カードを提供するものである。この場合、前記コイルアンテナ装置における絶縁基板2は、カード状或いはタグ状に形成され、実装されるICチップ等の電子部品が過度に突出しないように、その表裏面全体が平坦化された形態とされる。
【0054】
そして、前記絶縁基板2の両面には、カードの種類などが印刷された表面フィルム(図示せず)及び取り扱い説明文が印刷された裏面フィルム(図示せず)がそれぞれ貼着される。このようにして前記絶縁基板2及び表裏面フィルムがカード状収容体(図示せず)を構成し、前記コイルアンテナ装置は前記カード状収容体内に収容若しくは内蔵される。
【0055】
なお、本発明の非接触式電子カードのカードという用語は、ユーザー要求に伴って、カード状、タグ状或いはリボン状などの様々な形状を含むものと定義する。
【0056】
更に、本発明は、前述の一実施形態に係わるコイルアンテナ装置を組み込んだ携帯通信機器を提供するものである。この場合、前記コイルアンテナ装置は、例えば携帯電話機などの携帯通信機器の本体を構成する筐体内に収納される。ところで、前記一実施形態におけるコイルアンテナ装置のアンテナコイルL0は、印刷などにより薄層状に形成されているが、コイル状に巻回されたアンテナ線を用いて構成し、前記筐体のスペースに収納してもよい。
【0057】
このような本発明の非接触式電子カード及び携帯通信機器は、いずれも前記一実施形態に係わるコイルアンテナ装置の場合と同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態のコイルアンテナ装置の回路構成を示す回路図である。
【図2】本発明の一実施形態のコイルアンテナ装置の構造を示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態のコイルアンテナ装置における共振周波数の調整について説明するための分布図。
【図4】従来のコイルアンテナ装置における共振周波数の調整について説明するための分布図である。
【符号の説明】
【0059】
1 能動素子チップ
2 絶縁基板
3 第1配線層
4 第2配線層
5 第3配線層
C 共振回路用のキャパシタ
C0 基準キャパシタ
C1〜Cn 調整用キャパシタ
L0 アンテナコイル
L1〜Lm 調整用インダクタ
SL1〜SLm 第1調整用スイッチ
SC1〜SCn 第2調整用スイッチ
P1 第1端子(パッド)
P2 第2端子(パッド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2端子間に接続されたLC共振回路を有するコイルアンテナ装置であって、前記第1、第2端子間に直列接続されたアンテナコイル及び調整用インダクタと、前記調整用インダクタの両端に並列接続された第1調整用スイッチと、前記第1、第2端子間に接続された基準キャパシタと、前記基準キャパシタに並列接続された調整用キャパシタと、前記第1、第2端子間において前記調整用キャパシタに直列接続された第2調整用スイッチとを備えていることを特徴とするコイルアンテナ装置。
【請求項2】
基体としての絶縁基板と、前記絶縁基板の一部に設けられた前記第1、第2端子を構成する第1、第2パッドとを含み、前記アンテナコイルは前記絶縁基板の周辺に沿って配置され、前記調整用インダクタは前記絶縁基板上に設けられたインダクタパターン層からなり、前記第1及び第2調整用スイッチは前記絶縁基板上に設けられた配線パターン層からなることを特徴とする請求項1に記載のコイルアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナコイルは、前記絶縁基板の周辺に沿って形成されたコイル状パターン層からなることを特徴とする請求項2に記載のコイルアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1、第2調整用スイッチをオン状態から選択的にオフ状態にし、前記インダクタのインダクタンスを増加して共振周波数を低減し、相互に並列接続された前記基準キャパシタ及び調整用キャパシタによるキャパシタンスを低減して共振周波数を増加することによって、調整された共振周波数を得ることができるようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか1つに記載のコイルアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1、第2調整用スイッチの選択的オフ状態は、選択された前記第1、第2調整用スイッチを構成する配線パターン層を切断することによって得られることを特徴とする請求項4に記載のコイルアンテナ装置。
【請求項6】
前記第1、第2端子に接続された能動素子チップ及び請求項1〜請求項5のうちいずれか1つに記載のコイルアンテナ装置を、カード状収容体内に収納したことを特徴とする非接触式電子カード。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のうちいずれか1つに記載の前記コイルアンテナ装置を携帯通信機器用筐体内に収納したことを特徴とする携帯通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−200748(P2009−200748A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39287(P2008−39287)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】