説明

コイル端部の予備メッキ方法

【課題】 銅線のコイル端部を溶融はんだ中に浸漬してはんだで予備メッキすると同時に絶縁被覆材の除去を行う際に見られる、銅食われ (銅線の線径減少) を抑制する。
【解決手段】 主成分がSnであって、Cuを 1.5〜8 質量%、Coを0.01〜2 質量%、場合によりNiを0.01〜1質量%含有する、液相線温度が420℃以下の鉛フリーはんだ合金の溶融はんだにコイル端部を浸漬する。はんだ合金は、さらに、P 、Ge、Gaのような酸化抑制元素を 0.001〜0.5 質量%、および/またはAgのような濡れ性改善元素を 0.005〜2質量%の量で含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルの端部のはんだ付けや予備メッキする方法およびそれにより得られコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器には銅線を巻いたコイル部品が使われている。例えば、コイル部品はトランスに使われるほか、コンピュータのディスクドライブや冷却ファン等のモーターにも使われている。これらのコイルは、導通をとるため、端部が端子とはんだ付けされる。
【0003】
一般にコイル部品の銅線は、絶縁のために、エナメル塗装とその上のポリウレタン樹脂とからなる絶縁材で表面が被覆されているため、このままではコイル端部を端子にはんだ付けすることができない。そこで、はんだ付けするときには、コイル端部のエナメル塗装やポリウレタン樹脂被覆層(以下、絶縁被覆材という)を除去しなければならない。
【0004】
この絶縁被覆材の除去は、機械的に刃物で剥がすことも考えられるが、機械的除去は手間がかかって生産性が悪い。そこでコイル端部の絶縁被覆材の除去は、絶縁被覆材を熱で溶かして除去する方法が採られている。絶縁被覆材を熱で除去する方法とは、具体的には、絶縁被覆材を溶かすのに十分な高温(通常400 ℃前後) の溶融はんだ中にコイル端部を浸漬して、溶融はんだの熱で絶縁被覆材を溶かして除去するものである。
【0005】
ところで、コイル端部を端子にはんだ付けする際には、良好なはんだ付け部を得るため、コイル端部に予め予備メッキを施しておくことが好ましい。一般にコイル端部の予備メッキは、溶融はんだ中にコイル端部を浸漬することにより行われる。
【0006】
従って、溶融はんだへのコイル端部の浸漬は、コイル端部から絶縁被覆材を除去すると同時に、予備メッキを行うことができるという、非常に合理的な作業である。
コイル端部の絶縁被覆材の除去と予備メッキは、コイル端部にフラックスを塗布し、その後、該端部を溶融はんだ中に浸漬することにより行うのが普通である。溶融はんだの熱により絶縁被覆材が溶けると、コイル端部に塗布したフラックスが浸漬したコイル端部の周囲に浮く。その結果、絶縁被覆材が除去され、銅線が露出したところにフラックスが作用して、溶融はんだの銅線への金属結合の形成が助長される。
【0007】
こうして端部をはんだで予備メッキした後、コイルを端子にはんだ付けする。このはんだ付けは、場合により、予備メッキしたはんだだけで行うことができる。予備メッキしたはんだの量が不十分である場合には、追加のはんだを用いてコイル端部を端子にはんだ付けすればよい。追加のはんだは、予備メッキに用いたはんだ合金と同じものでも、または異なるもの(より低融点のものが好ましい) でもよい。
【0008】
電子機器のコイル部品に使われる銅線は直径が100 μm またはそれ以下の非常に細いものがある。このような銅細線を高温となった溶融はんだ中に浸漬すると、銅細線が溶融はんだに溶け出して細くなったり、全く銅線がなくなったりするという、所謂「銅食われ」が起こる。そのような銅食われは、はんだ付け中にもいくらか起こる。そこで、従来から銅細線の銅食われを防ぐ方法が採られていた。
【0009】
銅食われを防ぐ方法として、はんだ合金中にCuを添加しておくことが一般的である。これは、溶融はんだ中に溶解するCu量は決まっており、予めはんだ中にCuを含有させておくと、はんだ付け時にCuが溶けにくくなることを利用したものである。従来コイルの端部に付着させるはんだ合金としては、慣用のPb−Snはんだ合金にCuを添加したものがあった。このPb−Sn−Cuはんだ合金は、銅線に対するはんだ付け性が良好であるため、コイル端部の予備メッキに多く用いられてきたはんだである。
【0010】
しかし、Pb含有のはんだではんだ付けされた電子機器が故障したり古くなって使い勝手が悪くなると、多くは廃棄処分される。コイル部品は再利用が困難なため、多くは埋め立て処分されるが、酸性雨によるPbの溶出に起因する鉛中毒が懸念されることから、最近では、Pbを含まない鉛フリーはんだをコイル端部の予備メッキ用に使用することが求められるようになってきた。
【0011】
コイル端部のメッキに使用する鉛フリーはんだとしては、Snを主成分とし、これに銅食われに効果のあるCuを添加したものに、さらに特性改善のために他の元素を添加したものであった。(例えば、文献1、2を参照)
【特許文献1】特開2001−121286号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開2001−334384号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
溶融はんだにコイル端部を浸漬した際に見られる銅食われは、Sn中にCuが溶解することにより起こる。従って、慣用のPb−Snはんだ合金に比べて、鉛フリーはんだ合金ではSn含有量が非常に高いため、銅食われが激しく起こることになる。その上、液相線温度が高いことから、はんだ付け温度、すなわち溶融はんだの温度を高くするため、銅食われはより激しくなる。
【0013】
その結果、上述した従来の銅食われ防止用の鉛フリーはんだでは、コイル、特に、直径が100 μm 以下の極細といわれるコイルに対しては、銅食われ防止効果が十分ではなかった。本発明の課題は、極細のコイルに対して、銅食われが非常に少ない鉛フリーはんだ合金を使用して予備メッキを行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、Sn主成分に銅食われ防止のあるCuを添加した鉛フリーはんだにおいて、さらに銅食われ防止に効果のある元素について鋭意研究を行った結果、Sn−Cu合金にCoを添加すると銅食われが抑制され、またこのSn−Cu−Co合金にNiを加えると銅食われがより少なくなることを知り、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、下記の態様を含む。
1.Cu:1.5〜8質量%、Co:0.01〜2質量%、残部Snからなり、液相線温度が420 ℃以下である鉛フリーはんだ合金の溶融はんだにコイル端部を浸漬して、コイル端部に該はんだを予備メッキすることを特徴とするコイル端部の処理方法。
【0016】
2.前記鉛フリーはんだ合金が、Cu:1.5〜8質量%、Co:0.01〜2質量%、Ni:0.01〜1質量%、残部Snからなることを特徴とする、上記1記載のコイル端部の処理方法。
【0017】
3.さらに前記鉛フリーはんだ合金が、P 、Ge、Gaからなる群から選ばれる1種以上を合計量で0.001〜0.5 質量%含有することを特徴とする、上記1または2記載のコイル端部の処理方法。
【0018】
4.さらに前記鉛フリーはんだ合金が、Ag :0.05〜2 質量%含有することを特徴とする上記1ないし3のいずれかに記載のコイル端部の処理方法。
【0019】
5.溶融はんだに絶縁被覆層を備えたコイル端部を浸漬することにより、予備メッキと同時に、コイル端部の絶縁被覆の除去を行うことを特徴とする上記1ないし4のいずれかに記載のコイル端部の処理方法。
【0020】
6.上記1〜5のいずれかに記載の処理方法でコイル端部に鉛フリーはんだ合金を付着させたコイル。
【発明の効果】
【0021】
本発明で用いるの鉛フリーはんだ合金は、Cuを溶解しやすいSnを主成分とする合金であるにもかかわらず、銅食われが少ないため、今日のように線径が極めて細くなったコイル部品に対しても線形を細めて断線させたり、或いは銅線を全くなくしたりすることがないという信頼のある予備メッキや絶縁被覆材の除去を行うことが可能となる。その結果、コイルそのものの信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明にかかる鉛フリーはんだ合金は、上記絶縁被覆材で被覆された銅線コイルの端部の絶縁被覆材を除去すると同時に、該端部にはんだで予備メッキするのに特に適している。また、この鉛フリーはんだ合金は、コイル端部を端子にはんだ付けするのに用いるのにも適している。その場合のはんだ付けは、浸漬はんだ付けやコテはんだ付けにより行うことができる。コイル端部が本発明にかかる鉛フリーはんだ合金で予備メッキされている場合には、端子へのはんだ付けは、場合により、予備メッキされたはんだだけで行うことができる。その場合には、予備メッキされたはんだが溶融するように、炉加熱、コテ加熱等の適当な手段で加熱を行えばよい。
【0023】
コイルの絶縁被覆材であるエナメルやポリウレタン樹脂の絶縁被覆材を除去する場合、400 ℃近傍まで加熱しなければならない。溶融はんだに物品を浸漬してはんだ付けする場合の温度は、部品の熱容量にもよるが、液相線温度+20〜50℃で行うのが一般的である。しかしながら、はんだ付け温度が470℃以上になると、コイル端部を溶融はんだに浸漬したときに絶縁被覆材が瞬時に炭化してコイル端部に付着し、これがはんだの金属的接合を妨げるようになる。そこでコイル端部の予備メッキに使用するはんだ合金は、はんだ付け温度が470℃以下となるように、はんだ液相線温度420 ℃以下であることが望ましい。また、はんだ付け温度が470 ℃以上になると、銅食われが激しくなってしまう。
【0024】
本発明で使用する鉛フリーはんだ合金は、 1.5〜8質量%のCuと、0.01〜2質量%のCoとを含有するSn基合金である。好ましくは、Cu含有量は2〜5質量%、Co含有量は0.2〜1質量%である。
【0025】
銅食われ防止効果のあるCuが1.5 質量%よりも少ないと銅食われ防止の効果が現れず、しかるにCuを8 質量%よりも多く添加すると、液相線温度が420 ℃以上となり、銅食われが激しくなるとともに、はんだ付け性が悪くなる。
【0026】
Sn−Cuはんだ合金にCoを添加すると、Sn−Cuはんだ合金の銅食われをさらに低減させるのに非常に有効である。この効果はCo含有量が0.01質量%未満では顕著ではない。一方、Co含有量が2質量%を超えると、上記の効果が飽和する上、液相線温度も上昇する。
【0027】
Sn−Cu−Coはんだ合金にNiを添加すると、さらに銅食われ抑制の効果が向上する。Niの添加量は0.01質量%よりも少ない添加では、その効果が現れず、しかるに1質量%を超えて添加すると液相線温度が本発明が目的とする420 ℃を超えてしまう。Niを添加する場合、その含有量は好ましくは 0.1〜0.5 質量%である。
【0028】
コイル端部の予備メッキは、前述のようにはんだ槽ではんだを溶融状態にしておき、該溶融はんだにコイル端部を浸漬することにより行うが、溶融はんだは400 ℃以上の高温となるため、はんだの酸化が著しくなり、溶融はんだの表面に酸化物が大量に発生する。そこで、溶融はんだの酸化防止に効果のある酸化抑制元素を添加しておくこともできる。酸化抑制元素の例としては、P、Ge、Gaが挙げられる。これらの酸化抑制元素は1種または2種以上を添加することができる。酸化抑制元素を添加する場合、その添加量は、合計で0.001質量%以上は必要であるが、0.5 質量%よりも多く添加すると、はんだ付け性を阻害するようになる。この添加量は、好ましくは0.01〜0.3 質量%である。
【0029】
溶融はんだにコイル端部を浸漬したときに、溶融はんだはコイル端部の浸漬した部分まで十分に濡れなければならないが、Sn−Cu−Co系鉛フリーはんだ合金やSn−Cu−Co−Ni系鉛フリーはんだ合金は濡れ性が十分でなく、溶融はんだに浸漬した部分まで濡れなかったり、未はんだが発生したりすることがある。このような場合、濡れ性改善元素を添加してもよい。濡れ性改善元素の例としてはAgがある。Agの添加が0.05質量%よりも少ないと濡れ性向上効果が現れず、しかるに2質量%より多く添加しても、それ以上の効果は期待できないばかりでなく、高価なAgの大量の添加は経済的に好ましいものではない。Agの添加量は好ましくは 0.1〜2質量%である。
【0030】
本発明の鉛フリーはんだ合金の形態は特に制限されない。予備メッキおよび/または絶縁被覆材の除去のために溶融はんだとして用いる場合には、棒はんだ、プリフォーム等の形態である。はんだ付けに使用する場合には、線はんだ、ヤニ入りはんだ、ソルダペースト等の形態とすることができる。
【0031】
上述したように、コイル端部を溶融はんだに浸漬する前に、コイル端部にフラックスを塗布することが好ましい。フラックスは、溶融はんだの温度で効果を発揮できるものであれば、特に制限されない。例えば、ロジン系フラックスを使用することができる。
【実施例】
【0032】
下記表1に示す組成のはんだを調製し、銅溶解速度 (銅食われの速度) と濡れ性について、下記のように調査した。試験結果も表1に示す。
銅溶解速度:
はんだ槽の中ではんだを400 ℃の温度で溶融状態にしておく。次に、コイルの端部にフラックスを塗布し、該端部をはんだ槽の溶融はんだ中に10秒、20秒、30秒の各時間浸漬して銅線の線径を測定し、銅食われにより銅線の線径減少速度を求め、これを銅溶解速度とする。
【0033】
濡れ性:
ウエッティングバランス法により、10×30×0.3mm のCu板を400 ℃の溶融はんだ中に浸漬した時の濡れ時間 (ゼロクロスタイム) を測定する。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示した実験結果から明らかなように、本発明にかかる鉛フリーはんだ合金は、従来のCu添加の鉛フリーはんだ合金 (試験No. 11〜15) よりCuの溶解速度が遅く、銅食われが抑制されていることが分かる。また、本発明にかかるAgを添加した鉛フリーはんだ合金(試験No.9〜10) は、濡れ時間が短いことから、濡れ性に優れていることも分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:1.5〜8質量%、Co:0.01〜2質量%、残部Snからなり、液相線温度が420 ℃以下である鉛フリーはんだ合金の溶融はんだにコイル端部を浸漬して、コイル端部に該はんだを予備メッキすることを特徴とするコイル端部の処理方法。
【請求項2】
前記鉛フリーはんだ合金が、Cu:1.5〜8質量%、Co:0.01〜2質量%、Ni:0.01〜1質量%、残部Snからなることを特徴とする、請求項1記載のコイル端部の処理方法。
【請求項3】
さらに前記鉛フリーはんだ合金が、P 、Ge、Gaからなる群から選ばれる1種以上を合計量で0.001〜0.5 質量%含有することを特徴とする、請求項1または2記載のコイル端部の処理方法。
【請求項4】
さらに前記鉛フリーはんだ合金が、Ag :0.05〜2 質量%含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のコイル端部の処理方法。
【請求項5】
溶融はんだに絶縁被覆層を備えたコイル端部を浸漬することにより、予備メッキと同時に、コイル端部の絶縁被覆の除去を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のコイル端部の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法でコイル端部に鉛フリーはんだ合金を付着させたコイル。

【公開番号】特開2008−266791(P2008−266791A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134508(P2008−134508)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【分割の表示】特願2003−354962(P2003−354962)の分割
【原出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】