説明

コイル線及び誘導加熱用コイル

【課題】コイル保持部材への保持が確実であり、且つ、200℃程度の環境においてもコイル形状を保持できる誘導加熱用のコイル線及び誘導加熱用コイルを提供すること。
【解決手段】導体線上に、フッ素樹脂からなる絶縁層が押出被覆により形成され、該絶縁層上にポリエステル樹脂からなる融着層が押出被覆により形成されてなり、上記絶縁層を構成するフッ素樹脂の融点が、上記融着層を構成するポリエステル樹脂の融点より高い誘導加熱用のコイル線。上記融着層を構成するポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレートであるコイル線。上記コイル線が渦巻状又は円筒状に巻回された状態で、該コイル線の融着層が溶融固化されて、上記コイル線相互が融着一体化された誘導加熱用コイル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電磁誘導加熱方式を利用した加熱調理器等のコイルなどとして好適に使用することが可能な誘導加熱用のコイル線と誘導加熱用コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁誘導加熱方式を利用した加熱調理器が一般家庭などに普及している。このような誘導加熱調理器用のコイル線として、例えば、絶縁被膜が形成された導体素線を複数本束ねて集合線とし、この集合線を撚り合せて導体線とし、この導体線上に絶縁層が形成され、この絶縁層上に各種の融着層が形成されたものが知られている。絶縁層としては、加熱調理器のような高温環境に耐え得るような優れた耐熱性を有していることが必要であるため、主に、フッ素樹脂が使用されている。また、昨今の家庭用誘導加熱調理器では、透磁率の低い銅鍋やアルミニウム鍋にも対応するためにコイル線に40〜100kHzの高周波を流していることから、耐コロナ性が必要となっており、この点からも誘電率の低いフッ素樹脂が好適に使用されている。このようなコイル線は、渦巻状に巻回されて高出力のコイルとされているが、この際、コイルの形状を安定させるため、融着層を溶融固化してコイル線相互を融着一体化することがなされている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−135157公報:日立AP
【特許文献2】特許第3601533号公報:松下電器産業
【特許文献3】特許第4096712号公報:松下電器産業
【特許文献4】特開2000−58251公報:クラベ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今の高出力化の要求によってコイルの加熱効率を向上する必要が生じているとともに、発熱量は増加に伴って、コイルの耐熱性も向上する必要が生じている。ここで、上記特許文献1によるコイル線は、融着層がPPS(ポリフェニレンサルファイド)のテープを巻回して構成されたものである。このようなテープ巻きの場合、重ね合わせによる段差かギャップ(テープが存在しない間隔)が必ず生じるため、融着できない部分が発生することになり、しっかりと融着一体化がなされなくなってしまう。これにより、渦巻状に巻回されたコイルの形状が崩れてしまい、加熱効率が悪化してしまうことが起こる。また、特許文献2及び3によるコイル線は、融着層が融点の低いフッ素樹脂からなるものである。コイルは、コイル保持部材に保持した後に加熱調理器等に設置されることになるが、フッ素樹脂は接着しにくい材料であるため、特許文献2及び3によるコイル線の場合、接着剤によってコイル保持部材に保持することができない。そのため、固定部材とネジ止め等によってコイル保持部材に保持することになるが、部品点数が増加するとともに作業効率が悪化してしまうことになる。また、コイルをコイル保持部材に保持させるときの作業のバラツキによりコイルとコイル保持部材が完全に固定されないと、コイルの位置ズレが生じることになり、加熱効率の悪化や振動による異音が発生することになってしまう。また、特許文献4によるコイル線は、融着層がポリエステルエラストマー、ポリアミド樹脂またはポリウレタン樹脂のいずれかから構成されたものである。上記の通り、昨今の高出力化により発熱量が増加し、コイル線も200℃程度の高温化に晒されることになっている。上記のような材料は、いずれも融点が200℃以下であるため、高出力化された加熱調理器に適用すると、加熱中に融着層が溶融してしまう。それにより、渦巻状に巻回されたコイルの形状が崩れてしまうことになるとともに、溶融した熱融着層が流動して、加熱調理器の内部または周辺を汚染してしまうことになる。
【0005】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、コイル保持部材への保持が確実であり、且つ、200℃程度の環境においてもコイル形状を保持できる誘導加熱用のコイル線及び誘導加熱用コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1の誘導加熱用コイル線は、導体線上に、フッ素樹脂からなる絶縁層が押出被覆により形成され、該絶縁層上にポリエステル樹脂からなる融着層が押出被覆により形成されてなり、上記絶縁層を構成するフッ素樹脂の融点が、上記融着層を構成するポリエステル樹脂の融点より高いものである。
又、請求項2記載のコイル線は、上記融着層を構成するポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレートであるものである。
又、請求項3記載の誘導加熱用コイルは、上記のコイル線が渦巻状又は円筒状に巻回された状態で、該コイル線の融着層が溶融固化されて、上記コイル線相互が融着一体化されたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、融点が高いポリエステル樹脂を融着層とすることで、200℃程度の環境においても融着層が溶融しなくなり、コイル形状を保持することができる。また、ポリエステル樹脂は接着性が高い材料であるため、接着剤によってコイル保持部材へ固定することができ、確実且つ容易に保持をすることができる。また、ポリエステル樹脂は硬い材料であるため、融着一体化後にコイル線の位置が動いてしまうことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例を示した図であり、誘導加熱用コイル線の構成を示す一部切欠斜視図である。
【図2】本発明の実施例を示した図であり、誘導加熱用コイルの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1を参照して、本発明の実施の形態に係るコイル線10について説明をする。外径0.05mmの軟銅線にポリエステルアミド−ポリイミドアミド絶縁被膜を形成して導体素線とし、この導体素線30本をS撚りして集合線とした後、この集合線40本をZ撚りして直径2.5mmφの導体線1とした。この導体線1の外周に、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を押出成形によって被覆し、肉厚0.25mmの絶縁層2を形成した。このPFAの融点は、310℃である。この絶縁層2の外周に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を押出成形によって被覆し、肉厚0.2mmの融着層3を形成した。このPBTの融点は、225℃である。
【0010】
このようにして得られたコイル線10は、図2に示すように渦巻状又は円筒状に巻回した後、融着層3を溶融固化してコイル線10相互が融着一体化を融着一体化することにより誘導加熱用コイル20となる。このような誘導加熱用コイル20は、接着剤によってコイル保持部材に保持され、また、コイル線10の両端にはヒュージング接続等の手法によって接続端子が接続され、誘導加熱調理器等に設置されることになる。
【0011】
本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。導体線1は、通常コイルとして使用されるような導体線であれば何でもよく、導体素線の構成も目的に応じて適宜設定すれば良い。導体素線に形成される絶縁被膜についても、従来公知の材料を適宜選択すれば良く、場合によっては絶縁被膜を形成しなくても良い。また、導体素線を撚って導体線1とする場合、撚りピッチや撚りの向きは適宜設定すれば良いし、撚った線を更に撚るというような多段撚りを繰り返しても良い。また、素線集合体の形態も同芯円形態に限らず、楕円、扇形、扁平形態でもよい。
【0012】
絶縁層2を構成する材料は、フッ素樹脂であり、例えば、四フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。これらの内の何れのフッ素樹脂を使用しても良いが、耐熱性を考慮した場合には、融点の高いPTFEやPFAを使用することが好ましく、これらの内でも押出成形が可能なPFAを使用することが好ましい。
【0013】
融着層3を構成する材料は、ポリエステル樹脂が使用され、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などの芳香族ポリエステル樹脂が挙げられる。一般的に、融点の高い樹脂材料は硬いものが多く、このような硬い材料を融着層として使用すると、可撓性のないコイル線10になってしまう。このようなコイル線10であると、渦巻状又円筒状に形成する際に、曲げに大きな力が必要になってしまうだけでなく、融着層にひび割れが生じてしまうことにもなる。一方、例えばポリエステルエラストマーのような柔軟な材料を使用すると、誘電加熱用コイル20をコイル保持部材に保持する際の工程などで外力が加わった際、或いは、導体線1や絶縁層2の弾性(復元力)によってコイル線10が位置ズレをしてしまう可能性がある。上記のようなポリエステル樹脂は、融点が200℃以上と高温であるとともに、適度な硬さを有しているものであるため、コイル線10の可撓性を維持し、且つ、コイル線10の位置ズレを防ぐことができる。ポリエステル樹脂の中でも、特に硬さが好適であり、成形性に優れたPBTを使用することが好ましい。また、PBTは配合等により、種々の特性を強化させたグレードあるが、本発明においては、コイル線相互の接着を強固にするため接着性向上グレードを選定するか、または、冷熱サイクルが加わる環境で使用されることから耐ヒートショックグレードを選定することが好ましい。
【0014】
上記絶縁層2を構成するフッ素樹脂の融点は、上記融着層3を構成するポリエステル樹脂の融点より高いことが必要である。これは、絶縁層2上に融着層3を押出被覆する際に、押出成形の熱によって絶縁層2が溶融してしまうことを防止するとともに、融着層3を溶融固化する際に、絶縁層2が溶融してしまうことを防止するためである。
【0015】
本発明においては、上記構成の絶縁電線を渦巻状又は円筒状に巻回した後、該絶縁電線を融着一体化することにより誘導加熱用コイルとする。絶縁電線を融着一体化させる手段としては、従来公知の方法をいずれも採用することができ、特に限定されない。例えば、渦巻状又は円筒状に巻回した絶縁電線を、所定の温度に保持された槽内に所定時間放置して加熱融着により一体化させる方法や、絶縁電線の導体に所定の電流を流すことによって生じる抵抗熱によって融着層を内部から加熱溶融させて一体化させる方法などが挙げられる。
【実施例】
【0016】
上記実施の形態のようにして得られた誘電加熱用コイル20について、耐熱性の試験を行った。誘電加熱用コイル20に通電をして温度上昇させ、コイル表面の温度を200℃で1時間保持した後、表面状態やコイル線10の位置ズレ等を確認した。本実施の形態による誘電加熱用コイル20は、耐熱性試験後においても、表面状態に変化はなく、コイル線10の位置ズレ等も生じていなかった。
【0017】
また、市販の接着剤によって誘導加熱用コイル20をコイル保持部材に保持したが、十分な接着力によって保持されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によるコイル線と誘導加熱用コイルは、コイル保持部材への保持が確実であり、且つ、200℃程度の環境においてもコイル形状を保持できるものである。従って例えば、トッププレートにナベ等を配置して加熱する誘導加熱調理器、電機炊飯器、電気ポットなどに好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0019】
1 導体線
2 絶縁層
3 融着層
10 コイル線
20 誘電加熱用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線上に、フッ素樹脂からなる絶縁層が押出被覆により形成され、該絶縁層上にポリエステル樹脂からなる融着層が押出被覆により形成されてなり、上記絶縁層を構成するフッ素樹脂の融点が、上記融着層を構成するポリエステル樹脂の融点より高い誘導加熱用のコイル線。
【請求項2】
上記融着層を構成するポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレートである請求項1記載の誘導加熱用のコイル線。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のコイル線が渦巻状又は円筒状に巻回された状態で、該コイル線の融着層が溶融固化されて、上記コイル線相互が融着一体化された誘導加熱用コイル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−48972(P2012−48972A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189964(P2010−189964)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】