説明

コミュニケーション支援装置

【課題】共有された仮想世界(SVW)での相互理解を支援する。
【解決手段】コミュニケーション支援装置50はSVW内にオブジェクトを生成し維持するSVW生成部164と、あるエージェントの注目しているSVW内のオブジェクトが別のエージェントの注目しているオブジェクトと同じであるか否かを判断する一致モジュール154と、エージェントが同じオブジェクトに注目しているとわかったときに、注目されているオブジェクトを特定の方法で示すフィードバックモジュール156とを含む。例えば、フィードバックモジュールはLCD62上にそのオブジェクトをハイライト表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は仮想環境でのコミュニケーションに参加しているエージェントを支援するシステムに関し、特に、共有仮想世界(Shared Virtual World:以下「SVW」と称する)での参加者の共通注目点を示す情報を提供するコミュニケーション支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
より洗練された高速のコンピュータと、インターネット等のネットワークインフラストラクチャの進歩とにしたがって、より多くの人々が仮想環境で意思の疎通をはかったり、共同作業を行なったりするようになってきた。この様な意思の疎通を図ろうとする参加者は離れた場所にいることが多いので、従来の、直接顔を合わせての対話に比べ、時に意思の疎通が困難となる。
【0003】
この様な問題の解決策の一つとして考えられるのは、SVWを用いたコミュニケーションである。ここで、「SVW」とは、コミュニケーション環境で参加者(人対人、または人対機械。本明細書ではこれらを総称して「エージェント」と呼ぶ。)によって共有される画像、三次元空間または電子的に生成された環境を意味する。
【0004】
図11は2つのエージェント290および300が歴史のある町を訪ねる案を検討している、という設定を示す。エージェント290はある場所280でコンピュータ292を用い、エージェント300は他の場所282でコンピュータ302を用いている。SVWシステムプログラムがコンピュータ292および302で実行され、コンピュータは互いに音声リンク310と画像リンク312とで通信している。エージェント290および300は音声リンク310を介して、例えば、コンピュータ292および302のモニタスクリーンに表示された町の地図画像について、意見を交わすことができる。地図の画像は、画像リンク312を介して二者に共有されている。この場合、地図の画像がSVWとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コミュニケーションにおいてSVWが利用可能であることは非常に有力なツールではあるが、直接顔を合わせた人対人の対話に比べれば、依然としてその効用は低い。その原因の一つは、SVWの参加者が何に注目しているかに関して、相互の知識が欠如していることである。直接的な対話では、参加者は、グループの共通注目点の情報を、他の参加者の視線、態度、姿勢などから収集することができる。
【0006】
一般に、人対人のコミュニケーションでは、上述の設例の地図等で「その美術館」とか、「通り」といった、曖昧な用語を使うことが多く、そのような言及はそれまでの文脈、または言葉に現れていない他の情報に依存する。直接対話では、参加者は他の参加者の視線、音声、態度、姿勢等からグループの共通注目点の情報を得て、曖昧さを解消することができる。例えば、地図上に3つの美術館がある場合、参加者は自分が言及している美術館を指差すだけで、または他の体の動きで、参照している対象を特定することができる。対面している状況ではまた、発言した人を見て、どこに注目しているのかを観察すれば、言及した先の曖昧さを解消するのに十分な情報を得られるであろう。
【0007】
これに対して、仮想環境でのコミュニケーション、すなわち対面してではないコミュニケーションでは、このような情報を得ることは困難である。図11で説明した状況では、コミュニケーションは仮想的であり(エージェントは顔を合わせて意思の疎通を図っているのではない。)、このため、言葉によらないコミュニケーション経路の多くは効果がない。通常、仮想環境でのコミュニケーション設定でこのような不明瞭さが生じると、会話を一時中断して、参加者の一人がどのオブジェクトについて話しているのかを正確に説明することになる。これは時間のかかる面倒な手順であり、何に言及したのかについて皆が共通に理解したと一旦は思われても、後からそれが正しくなかったと分かる場合もある。したがって、SVWでのコミュニケーションはしばしば曖昧で、時として参加者は、他の参加者が何に注目しているのか確信が持てなくなる。
【0008】
さらに困難なのは、共通注目点を確定することである。共通注目点を確定するのは、効果的なコミュニケーションのために必要であり、時として相互の知識を確立するためにも必要である。ここで、一人、または二人以上のエージェントが同じオブジェクトに注目している状況を、「共通注目点が確定されている」状況であると呼ぶ。あるエージェントがグループの共通注目点を誤って解釈すると(例えば先の設例の地図画像の場合、どの「美術館」または「通り」が話題になっているかを間違えると)、重大な問題を引き起こすことになりかねない。
【0009】
したがって、この発明の目的の一つは、SVWにおいてエージェントの注目点を明らかにすることを支援するシステムを提供することである。
【0010】
この発明の別の目的は、SVWシステムにおけるエージェントの共通注目点を明らかにすることを支援するシステムを提供することである。
【0011】
この発明のさらに他の目的は、SVMシステムにおいて、エージェントが共通に或るオブジェクトに注目しているという知識をエージェントに伝達できるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の一局面にしたがった、複数のエージェントの共通注目点を確定することにより仮想環境でのコミュニケーションを支援するためのコミュニケーション支援装置は、仮想環境内にオブジェクトを生成しこれを更新するための仮想環境生成手段と、コミュニケーション支援装置の第1のエージェントが注目している仮想環境内のオブジェクトが、コミュニケーションに参加している第2のエージェントが注目しているオブジェクトと同一か否かを判定するための判定手段と、判定手段に応答して、第1のエージェントに、第1のエージェントと第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目しているか否かに関する知識を提供するための手段とを含む。
【0013】
複数のエージェント間のコミュニケーションのための仮想環境では、仮想環境生成手段が仮想環境内にオブジェクトを生成しこれを維持する。判定手段が、第1のエージェントが注目しているオブジェクトが、第2のエージェントが注目しているオブジェクトと同一か否かを判定する。提供するための手段は、第1のエージェントに、第1のエージェントと第2のエージェントとが仮想環境内の同じオブジェクトに注目しているか否かの知識を提供する。仮想環境内の同じオブジェクトに注目している、というこの知識が、エージェント同士が同じオブジェクトに注目しているという相互の知識を確立するための基礎となる。エージェントは彼らのコミュニケーションに自信をもつことができ、齟齬が生じる可能性は少ない。
【0014】
好ましくは、仮想環境生成手段は、仮想環境内のオブジェクトデータを記憶するための記憶手段と、仮想環境更新情報にしたがって、記憶手段内のオブジェクトデータを更新するための手段と、記憶手段に記憶されたオブジェクトデータにしたがって、仮想環境の画像を生成するための手段とを含む。
【0015】
仮想環境は、更新情報にしたがって、ダイナミックに更新し変化させることができる。更新情報は仮想環境に参加しているエージェントから、または他のソースから得られる。
【0016】
より好ましくは、提供するための手段は、第1のエージェントと第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していると判定手段により判定されたことに応答して、第1のエージェントおよび第2のエージェントが注目しているオブジェクトの特定の属性をある特定の値に設定するための手段を含む。
【0017】
第1のエージェントと第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していると判定されると、そのオブジェクトの特定の属性が特定の値に設定される。エージェントは、彼らが注目しているオブジェクトの特定の属性が特定の値に設定されるのを見て、彼らが同じオブジェクトに注目していることが分かる。したがって、エージェントは彼らの相互知識に自信を持ち、コミュニケーションが促進される。
【0018】
提供するための手段は、第1のエージェントと第2のエージェントとが注目しているオブジェクトの特定の属性に関する初期設定を記憶するための手段をさらに含んでもよい。設定するための手段は、第1のエージェントと第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していると判定手段により判定されたことに応答して、第1のエージェントと第2のエージェントとが注目しているオブジェクトの特定の属性を初期設定にしたがって修正するための手段を含んでもよい。
【0019】
エージェントが同じオブジェクトに注目していると判定された場合、そのオブジェクトの特定の属性を、記憶手段に記憶された初期設定にしたがって修正する。記憶手段に記憶させる初期設定を変えれば、エージェントが共通に注目しているオブジェクトの表示態様が変わる。したがって、エージェントの各々は彼らの好みに応じて、初期設定を修正できる。
【0020】
好ましくは、提供するための手段は、判定手段により、第1のエージェントと第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していると判定されたことに応答して、所定の音声信号を出力するための手段を含む。
【0021】
エージェントが同じオブジェクトに注目していると判定された場合、その旨がエージェントに音で通知される。エージェントは彼らが同じオブジェクトに注目していることを確実に知ることができる。
【0022】
より好ましくは、コミュニケーション支援装置は、仮想環境内のオブジェクトの中で、第1のエージェントが注目しているオブジェクトを判定するための手段と、判定するための手段により第1のエージェントが注目していると判定されたオブジェクトを特定する情報を別のエージェントに送信するための手段とをさらに含む。
【0023】
第1のエージェントが注目しているオブジェクトを特定する情報を別のエージェントに送信することによって、別のエージェントは彼らが同じオブジェクトに注目しているか否かを知ることができる。
【0024】
さらに好ましくは、コミュニケーション支援装置は、提供するための手段から、第1のエージェントと第2のエージェントとが異なるオブジェクトに注目していることを示す知識が提供されたことに応答して、提供するための手段からの知識により、第1のエージェントと第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していることが示されるようになるまで、第1のエージェントが注目しているオブジェクトとして仮想環境内のオブジェクトを順次選択するための手段をさらに含む。
【0025】
提供するための手段からの知識により、第1のエージェントと第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していることが示されるまで、仮想環境内のオブジェクトを順次選択することにより、エージェントは他のエージェントが注目しているオブジェクトを確実に確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[第1の実施の形態]
<構成>
図1はこの発明の好ましい第1の実施の形態に係るコミュニケーション支援機能を有するSVWコミュニケーションシステム20の全体構成を示す図である。システム20は、各々が音声リンクおよび画像リンク能力を有し、インターネット等のネットワーク26を介して相互に接続される複数のSVWシステム50A、50Bを含む。
【0027】
システム50Aは、ネットワーク26に接続されたコンピュータ28Aと、コンピュータ28Aに接続された液晶ディスプレイ(LCD)30Aとを含む。エージェント22Aがコミュニケーションに参加している。同様に、システム50Bは、ネットワーク26に接続されたコンピュータ28Bと、LCD30Bとを含む。エージェント22Bがコミュニケーションに参加している。SVWシステムプログラムが各コンピュータ28Aおよび28B上で実行される。LCD30Aおよび30BはSVWシステムプログラムによって生成されたSVW内のオブジェクト画像を表示する。
【0028】
図2はSVWシステム50の平面図で、これをSVWシステム50Aとしても50Bとしても用いることができる。図2を参照して、SVWシステム50は、マイクロフォン64と一組のスピーカ78、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)ドライブ70とFD(Flexible Disk)ドライブ72とを有するコンピュータ28、いずれもコンピュータ28に接続されたLCD30とキーボード66とマウス68、およびエージェント(参加者)の視野内でのエージェントの注目位置を決定するための、コンピュータ28に接続された市販の装着型アイトラッカ74を含む。
【0029】
この実施の形態では、マイクロフォン64とスピーカ78とは音声コミュニケーションに用いられるもので、この発明の一部を構成するものではない。したがって、システムのうちマイクロフォン64とスピーカ78とに関連する部分については詳細な説明を省略する。
【0030】
図3はアイトラッカ74の全体図である。図3を参照して、アイトラッカ74は通常のキャップ形のキャップ80と、キャップ80のつばに装着されたプラスチックハウジング82と、ハウジングに取りつけられ端部に鏡88および90を備えたアーム84および86と、ビデオカメラ92と、鏡88および90にそれぞれ反射された眼の画像をキャプチャするための一対のカメラ94および96とを含む。アイトラッカ74は鏡88および90とカメラ94および96とを用いて、参加者の頭部に対する相対的な視線方向を検出し、参加者の視線の正確な画素位置をLCD30上に出力するとともに、ビデオカメラ92によってキャプチャされたビデオイメージを出力するが、これは参加者の頭部に対して相対的な視野を示す。図3には示さない別個のプロセッサが視線位置の計算を行なう。
【0031】
図4はコンピュータ28のハードウェアのブロック図である。図4を参照して、コンピュータ28はシリアルポート116を備えたCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)100と、CPU100に接続されたバス102と、バス102に接続された読出専用メモリ(ROM)104と、バス102に接続されたランダムアクセスメモリ(RAM)106と、バス102に接続されたハードディスクドライブ108と、CD−ROM120からデータを読出すCD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)ドライブ70と、FD122からデータを読出したりFD122にデータを書込んだりするためのFDドライブ72と、バス102に接続され、マイクロフォン64とスピーカ78とが接続されるサウンドボード110と、バス102に接続され、ローカルエリアネットワーク(LAN)等のネットワーク上でのデータコミュニケーション能力を提供するネットワークボード112と、バス102に接続されたアイトラッカ74専用のビデオキャプチャボード114とを含む。
【0032】
ビデオキャプチャボード114は、図3に示されたアイトラッカ74から参加者の視野のビデオ信号をビデオデータのストリームを介して受け、キャプチャされたフレームデータをCPU100に与える。視線位置はアイトラッカ74のプロセッサとポート116とのシリアル接続を介してCPU100に送られる。こうして、CPU100はアイトラッカ74から参加者の視線位置を収集する。
【0033】
コンピュータ28の動作方法自体は周知であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0034】
図5はSVWシステム50の機能とモジュールを示すブロック図である。これらの機能とモジュールとはコンピュータ28上で実行されるソフトウェアで実現しても良い。図5を参照して、SVWシステム50は、他のSVWシステムへデータパケットを送信したり、他のSVWシステムからデータパケットを受信したりする送受信部150と、他のSVWシステムから受信したパケットをそれぞれの宛先モジュールに分配する受信マネージャ152と、他のSVWシステムからのパケットとエージェントの入力とに基づいて、SVW内にオブジェクトデータを生成しこれを更新するためのSVW生成部164と、SVW生成部164によって生成され更新されるオブジェクトデータを記憶するためのオブジェクト記憶部160と、オブジェクト記憶部160に記憶されたオブジェクトデータにしたがってSVWの画像を生成し、生成された画像をLCD62に与えるSVW画像プロセッサ162とを含む。
【0035】
SVWシステム50はさらに、アイトラッカ74からの参加者の視線位置データを受け、データを出力するためのセンサマネージャ140と、センサマネージャ140から受取ったデータに基づき、SVW視界内で参加者がどこに注目しているかを判定するための位置判定部142と、オブジェクト記憶部160に記憶されたオブジェクトのうちエージェントが注目しているオブジェクトがどれかを判定し、注目されているオブジェクトの名称を出力するオブジェクト選択部144と、RAM106(図4を参照)に記憶されコミュニケーションに参加しているSVWシステムのアドレスを列挙した参加者リスト146と、オブジェクト選択部144の出力を受けるように接続されこのSVWシステム50のエージェントが注目しているオブジェクトの名称を参加者リスト146に列挙されたSVWシステムの各々に送受信部150を介して送信する送信マネージャ148とを含む。なお、オブジェクト記憶部160は、このSVWシステム50で更新されたオブジェクトデータを送信マネージャ148を介して別の参加者に送信することができる。
【0036】
さらに、SVWシステム50は、オブジェクト選択部144から出力されたオブジェクトの名称が、送受信部150と受信マネージャ152とを介して受取られた他のSVWシステムから与えられた、他のSVWシステムでエージェントが注目しているオブジェクトの名称と同じか否かを調べ、名称が同じならば一致信号170を出力する一致モジュール154と、一致信号170に応答して、一致したという結果をエージェントに提供するためのフィードバックモジュール156とを含む。フィードバックモジュール156はその際、オブジェクト記憶部160のオブジェクトの中で、オブジェクト選択部144により全ての参加者に注目されていると判定されたオブジェクトを決定し、その予め選択された1または複数の属性を、(フィードバック設定モジュール168の設定に基づき)予め定められた値に設定する。
【0037】
例えば、予め選択された属性はオブジェクトの「色」であっても良く、一致信号170に応答してこれを赤、マゼンタ、シアン、オレンジ等の予め定められた色に変える。これに代えて、予め選択された属性として「ハイライト」を選択してもよい。この場合、注目されたオブジェクトのハイライト属性を、一致信号170に応じて「ハイライト有り」に変える。
【0038】
応用によっては、あるエージェントが注目しているオブジェクトが他のエージェントの注目しているオブジェクトと同じであることを示すために警告音を発生することが有効である。この目的のために、フィードバックモジュール156は所定の警告音信号を発生する能力を有し、SVWシステムはさらに、フィードバックモジュール156からの音声信号に応じてスピーカ78を駆動するためのスピーカドライバ158を含む。
【0039】
SVWシステム50はさらに、入力装置(キーボード66またはマウス68)からの入力を受け、この入力を解釈して解釈された結果をSVW生成部164等の適切な宛先に出力する入力解釈部166と、フィードバックモジュール156によるオブジェクトのフィードバックのための属性およびその値の初期設定値を記憶するためのフィードバック設定記憶部168とを含む。例えば、もしエージェントが音声を「無音」にしようと決めてフィードバック設定を適切に変更すれば、フィードバックモジュール156は音声信号の発生を中止する。同様に、エージェントはフィードバック設定の「色」または「ハイライト」属性を変更することもできるし、全てのエージェントが注目しているオブジェクトの表示方法を任意に変更することができる。
【0040】
アイトラッカ74はエージェントの注目しているオブジェクトを判定するための装置の一例であって、同様の情報を収集する機能があれば、他のどのような装置を用いても良い。例えば、電子グローブ、ライトペン、タッチセンサ、磁気位置センサ、動き検出装置などを使用してもよいし、または通常の入力装置であるマウス等を用いても良い。
【0041】
<動作>
この実施の形態に係るコミュニケーション支援機能を有するSVWシステム50は以下のように動作する。図5を参照して、予め初期設定がフィードバック設定記憶部168に記憶されているものとする。SVWシステム50は、起動時に他の相手と通信して、他の相手と共有されるべきSVW環境を設定する。参加者リスト146はこの処理中に確定される。SVWコミュニケーションのこの部分は、先行技術のSVWソフトウェアで実現可能である。したがって、ここでは詳細な説明は省略する。
【0042】
送受信部150は、パケットを受取ると、このパケットを受信マネージャ152に与える。もしこのパケットが他の相手によって更新されたオブジェクトデータであれば、受信マネージャ152はこのパケットデータをSVW生成部164に与える。SVW生成部164は受信したデータにしたがって、オブジェクト記憶部160に記憶されたオブジェクトデータを更新する。SVW画像プロセッサ162はオブジェクト記憶部160内の更新されたオブジェクトデータにしたがってSVW画像を更新し、SVW画像信号をLCD62に与え、LCD62は与えられた信号にしたがってSVW内にオブジェクトを表示する。
【0043】
もしパケットデータが、別のエージェントが注目しているオブジェクトの名称を含んでいれば、受信マネージャ152はこのパケットデータを一致モジュール154に与える。一方、アイトラッカ74はSVWシステム50のエージェントの視線位置データをセンサマネージャ140に出力し、センサマネージャ140は位置データを位置判定部142に与える。位置判定部142はSVWにおけるエージェントの視線位置を判定して、位置データをオブジェクト選択部144に与える。位置判定部142からの位置データおよびオブジェクト記憶部160内のオブジェクトの位置属性に基づいて、オブジェクト選択部144はエージェントが注目している可能性が最も高いオブジェクトを選択する。オブジェクト選択部144は選択されたオブジェクトの名称を送信マネージャ148に与える。送信マネージャ148は参加者リスト146を読み、このSVWシステム50のエージェントが注目しているオブジェクトの名称を送受信部150を介してSVWコミュニケーションの参加者の各々に送信する。
【0044】
オブジェクト選択部144はまた、注目されているオブジェクトの名称をフィードバックモジュール156と一致モジュール154とに与える。一致モジュール154は注目されているオブジェクトの名称が受信マネージャ152から与えられたオブジェクトの名称と同じか否かを判定する。一致が見出せなければ、一致モジュール154は何もしない。一致があれば、一致モジュール154はフィードバックモジュール156に一致信号170を出力する。一致信号170に応答して、フィードバックモジュール156はオブジェクト選択部144の出力で示されたオブジェクトの特定の属性を特定の値に設定する。これにより、エージェント同士が同じオブジェクトを参照していることが示される。このフィードバック動作のやり方はフィードバック設定記憶部168内のフィードバック設定によって特定される。設定によっては、フィードバックモジュール156は警告音信号を発生してこの信号をスピーカドライバ158に送り、スピーカドライバ158がスピーカ78を駆動して音を発生させる。
【0045】
図6はこのシステムがどのように機能するかを例示する図である。図6を参照して、説明を簡単にするために、システムはそれぞれ場所180および182にいる2当事者を含むのみであると仮定する。当事者は各々、図2〜図5に示すシステムを有する。エージェント190および202が、別々の場所で、SVWシステム50等のシステムの前に座っている。
【0046】
エージェント190のシステムはLCD192およびアイトラッカ194を含むものとする。エージェント202のシステムはLCD200および電子グローブ204を含むものとする。この実施の形態の示唆するところは、注目されているオブジェクトの情報を、ネットワークを介してSVWコミュニケーションの参加者と電子的に共有することができ、必要に応じてこれを活用できる、ということである。
【0047】
図6において、エージェント190は市販の頭部装着型アイトラッカ194を装備している。この装置は、LCD192上で参加者が注目している正確な位置を判定することができる。エージェント202は電子グローブ204を装備している。電子グローブ204は手の位置とその3次元的配置とを解釈し、エージェント202がLCD200のスクリーン上でどこを指しているかを解釈することができる。
【0048】
ここで、エージェント190がLCD192のスクリーン上に示された地図の「美術館」に関する言及を始めたものとし、エージェント202側では何について言及しているか分らずに説明を求めたいと思うかもしれない。エージェント190は、どの美術館を指しているかを明示的に説明するかわりに、地図画面上でエージェント190が意図している美術館のオブジェクトを見るようにし、エージェント202はエージェント190が意図していると思われる美術館のオブジェクトを電子グローブ204を用いて指差す。その場合、センサ、すなわちエージェント190のアイトラッカ194とエージェント202の電子グローブ204とから得られる情報を用いて、彼らが同じオブジェクトを対象としているかどうかが電子的に判定される。
【0049】
図7を参照して、エージェント190と202とが同じ美術館のオブジェクト(LCD192上のオブジェクト196と、LCD200上のオブジェクト206)を対象としていることが分れば、美術館のオブジェクト196と206とは共にハイライトされて、エージェント190と202との両者の注目対象が一致していることを知らせる。このハイライトは、彼らが同じオブジェクトを意図していることに関する相互知識を確立する基礎となる。
【0050】
これとは逆の状況を図8に示す。ここでは、エージェント190はLCD192上のある美術館を見ており、一方エージェント202はLCD200上の別の美術館を電子グローブ204で指差している。このため、一致は得られず、ハイライトは起こらない。このような場合、疑問が解消しない方のエージェント(ここではエージェント202)は、ハイライトが起こるまで、地図上の全ての美術館を順にスキャンすることになるかも知れない。ここでは、ハイライトが起こらないことが、齟齬が生じているという相互知識を与える役割を果たしている。
【0051】
[第2の実施の形態]
同様の技術を用いて、人と機械との対話を支援することもできる。第2の実施の形態では、図9に示すように、場所180にいる人のエージェント190が場所220のソフトウェアエージェント222と、LCD192に表示された地図画像224を参照しながら駐車に関してコミュニケーションをしている。同じ地図データが場所220にも記憶されており、エージェント222はこれにアクセスすることができる。エージェント190は、市役所近くの駐車場がいっぱいか否かを尋ねたいと考えている。市役所近くには、例えば3箇所の市営駐車場がある。地図画像上で、駐車場と市役所とをそれぞれシアンの箱とマゼンタの箱として表示しているものとすれば、大きなマゼンタの箱の周囲に3個のシアンの箱があることになり、このため質問が曖昧になる。
【0052】
ここで、要求を出した後に、エージェント190はエージェント190が意図している駐車場を見、エージェント222はエージェント190が言及しているものと考える駐車場に注目する。第1の実施の形態と同様に、もし合致しなければ、エージェント222はハイライトが起こるまで、注目する先を順次変更していくことができる。一致して、ハイライトによって両者が同じオブジェクトに注目しているという明確な確認ができれば、ソフトウェアエージェント222はエージェントの質問を処理して、求められた情報を提供することができる。
【0053】
[第3の実施の形態]
これまでの実施の形態では、エージェントのコンピュータが互いに直接通信している。しかしながら、この発明はこのような実施の形態に限定されない。エージェントのコンピュータはサーバを介して互いに通信してもよい。この場合、全てのエージェントが参加者リストを持つことが必要になるか、または、サーバが第1の実施の形態で示された一致モジュール154の役割を果たすことが必要になる。第3の実施の形態は、サーバが一致モジュール154の役割を果たす責任を負うシステムに関するものである。
【0054】
エージェントは人間であっても、ソフトウェアプログラムであっても良い。全てのエージェントがサーバの維持する共通のSVWを共有しこれにアクセスする。このSVWは静的なものでなくても良い。SVWは、時間と共に変化し、エージェントによって変更が可能である。これらの変更はサーバと通信するエージェント間で同時に共有される。
【0055】
図10を参照して、この発明の第3の実施の形態にしたがったSVWコミュニケーションシステム240は、場所180、182、250および220にある複数の当事者、およびこれらの当事者のSVWシステムの各々と通信可能なサーバ254を含む。場所180のエージェント190はアイトラッカ194とLCD192とを備える。場所182のエージェント202はLCD200と電子グローブ204とを備える。場所250のエージェント260はアイトラッカ262、LCD264および電子グローブ266を備える。最後に、場所220でソフトウェアエージェント222が実行されている。当事者の各々は第1の実施の形態にしたがったSVWシステムプログラムを備えている。
【0056】
この実施の形態では、サーバと、場所180、182、250および220の当事者とが全てネットワークに接続されており、場所180、182、250および220の当事者の各々がサーバ254と通信する。これに代えて、場所180、182、250および220の当事者はサーバ254とネットワークを通じて、または専用線を通じて接続されていても良い。
【0057】
この実施の形態では、当事者は図5に示される参加者リスト146を持つ必要はない。当事者が知る必要があるのはサーバ254のアドレスのみである。これに対して、サーバは参加者リストとエージェントの注目対象とを維持し、該当する場合には、全てのエージェントが注目しているオブジェクト(共通注目点)が何かを判定する責任を負う。
【0058】
この例では、エージェント260は2つの異なる注目点に関する情報収集機能を備え、これらを連携して用いてエージェント260の現在の注目点を判定する。
【0059】
本実施の形態では、SVW内のあるオブジェクトは、エージェントの大部分がそれに注目していると共通注目点としてハイライトされる。例えば一部のエージェント202がそのオブジェクトに注目しているのではない場合でもハイライトしてよい。しかし、フィードバックメカニズムは必ずしもすべての当事者に対し同じである必要はない。当事者に対するフィードバック方法は、個々の当事者がカスタマイズできる。これは、図5に示された入力解釈部166、キーボード66およびマウス68等の入力装置を介して、図5に示されたフィードバック設定記憶部168のフィードバック設定を修正することで実現される。
【0060】
上述の通り、エージェントは人間のエージェントでも、ソフトウェアエージェントでも良い。人間のエージェントについては以下が必要である。
【0061】
すなわち、ネットワークに接続されたパーソナルコンピュータと、コンピュータスクリーンまたはSVWにおけるエージェントの注目点の正確な位置をコンピュータに通信することが可能な、1または2以上の、注目点に関する情報収集装置とが必要である。エージェントがコンピュータの前に座っている間、エージェントの注目点に関する情報収集装置の各々は、エージェントが見ている画素に対応するXおよびY座標の形で(3D SVWの場合にはX、Y、Z座標の形で)エージェントの注目するスクリーン上の場所を送信し続ける。
【0062】
人間のエージェントの場合、SVWは典型的にはコンピュータスクリーンに表示されるが、これは別の方法で表示されても良い。ソフトウェアエージェントの場合、SVWの状態とこれに生じる何らかの変化に対し、エージェントは電子的にアクセスできる。
【0063】
図5に示されるSVW生成部164等の特別なソフトウェアが、各エージェントのコンピュータ上で実行される。このソフトウェアはSVWの内容を解釈してこの内容を別個のオブジェクトに分離することができる。これらのオブジェクトはSVWの一部であっても、場所であっても、イベントであっても、または他の特徴であっても良く、図5に示されるオブジェクト記憶部160に記憶可能である。SVWのこのような個々のオブジェクトへの分割は、対話に関わる全てのエージェント間で一貫した方法でなされる。このソフトウェアはエージェントの注目点に関する情報の収集装置から座標を、または現在のソフトウェアエージェントの関心の対象を連続して受信し、エージェントが現在注目しているオブジェクトを連続して判定する。
【0064】
各エージェントの機械のソフトウェアがエージェントの注目するオブジェクトを判定すると、この情報がコミュニケーションの他の全ての参加者に伝えられる。個々の装置は、全ての(または大多数の)エージェントが関心を持っている場所を判定して、彼らのエージェントに対し適切なフィードバックを与えることができる。このフィードバックは全てのエージェントに対して同じ方法で行なっても良いし、いずれかのエージェントの特定の要求に応じるようカスタマイズしても良い。このようなフィードバックの例としては、スクリーン上のオブジェクトの外観を変更すること、音での応答、触覚的フィードバック等がある。
【0065】
LAN接続の場合、接続はブロードキャストメカニズムを用いたポイント−ツー−ポイントであっても良く、この場合サーバは不要である。各エージェントのコンピュータが参加者リストとそれぞれの注目点とを維持する必要がある。エージェントのコンピュータはまた、第1の実施の形態で説明したように、参加者の注目点に基づいて共通注目点を判定し、エージェントの注目点が共通注目点と合致するかを判定し、さらにエージェントに対しフィードバックを提供する必要がある。
【0066】
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明を用いることができる設定の一例を示す図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態のシステムを示す図である。
【図3】図2に示されたシステムで用いられるアイトラッカを示す図である。
【図4】図2に示されたシステムで用いられるコンピュータのハードウェアブロック図である。
【図5】第1の実施の形態にしたがったシステムの機能ブロック図である。
【図6】この発明の第1の実施の形態の動作を示す概略図である。
【図7】エージェントが共通に注目するオブジェクトをハイライトする方法を示す図である。
【図8】当事者が異なるオブジェクトを注目している場合の、この発明の第1の実施の形態の動作を示す図である。
【図9】エージェントがソフトウェアエージェントである、この発明の第2の実施の形態の動作を示す図である。
【図10】複数のエージェントがサーバを介して通信する、この発明の第3の実施の形態を示す図である。
【図11】共有された仮想世界の参加者間で意思の疎通に齟齬が生じうる設定の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
20,240 SVWコミュニケーションシステム
22A,22B,190,202,260,290および300 エージェント
26 ネットワーク
28,28Aおよび28B コンピュータ
30,30A,30B,62,192,200,264,292および302 LCD
50,50Aおよび50B SVWシステム
74,194および262 アイトラッカ
78 スピーカ
144 オブジェクト選択部
152 受信マネージャ
154 一致モジュール
156 フィードバックモジュール
158 スピーカドライバ
160 オブジェクト記憶部
162 SVW画像プロセッサ
164 SVW生成部
166 入力解釈部
168 フィードバック設定記憶部
204および266 電子グローブ
222 ソフトウェアエージェント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエージェントの共通注目点を確定することにより仮想環境でのコミュニケーションを支援するコミュニケーション支援装置であって、
前記仮想環境内にオブジェクトを生成しこれを更新するための仮想環境生成手段と、
前記コミュニケーション支援装置の第1のエージェントが注目している前記仮想環境内のオブジェクトが、コミュニケーションに参加している第2のエージェントが注目しているオブジェクトと同一か否かを判定するための判定手段と、
前記判定手段に応答して、前記第1のエージェントに、前記第1のエージェントと前記第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目しているか否かに関する知識を提供するための手段とを含む、コミュニケーション支援装置。
【請求項2】
前記仮想環境生成手段は、
前記仮想環境内のオブジェクトデータを記憶するための記憶手段と、
仮想環境更新情報にしたがって、前記記憶手段内の前記オブジェクトデータを更新するための手段と、
前記記憶手段に記憶されたオブジェクトデータにしたがって、前記仮想環境の画像を生成する手段とを含む、請求項1に記載のコミュニケーション支援装置。
【請求項3】
前記提供するための手段は、前記第1のエージェントと前記第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していると前記判定手段により判定されたことに応答して、前記第1のエージェント及び前記第2のエージェントが注目しているオブジェクトの特定の属性をある特定の値に設定するための手段を含む、請求項1または請求項2に記載のコミュニケーション支援装置。
【請求項4】
前記提供するための手段は、前記判定手段により、前記第1のエージェントと前記第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していると判定されたことに応答して、所定の音声信号を出力するための手段を含む、請求項1または請求項2に記載のコミュニケーション支援装置。
【請求項5】
前記仮想環境内のオブジェクトの中で、前記第1のエージェントが注目しているオブジェクトを判定するための手段と、
前記判定するための手段により前記第1のエージェントが注目していると判定されたオブジェクトを特定する情報を別のエージェントに送信するための手段とをさらに含む、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のコミュニケーション支援装置。
【請求項6】
前記提供するための手段から、前記第1のエージェントと前記第2のエージェントとが異なるオブジェクトに注目していることを示す知識が提供されたことに応答して、前記提供するための手段からの知識により、前記第1のエージェントと前記第2のエージェントとが同じオブジェクトに注目していることが示されるようになるまで、前記第1のエージェントが注目しているオブジェクトとして仮想環境内のオブジェクトを順次選択するための手段をさらに含む、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のコミュニケーション支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−107281(P2006−107281A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295280(P2004−295280)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「超高速知能ネットワーク社会に向けた新しいインタラクション・メディアの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(596138804)クイーン・メアリー・アンド・ウエストフィールド・カレッジ (3)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】