説明

コルジセピンを含有する肥満治療および予防用薬学組成物

コルジセピンを有効成分とする肥満治療および予防用薬学組成物を開示する。コルジセピンは、脂肪組織生成および脂肪生成に関与する必須因子であるC/EBPα、PPARγおよび抗−レプチンの発現を抑え、線維芽細胞(3T3−L1細胞)の脂肪細胞への分化およびトリアシルグリセロールの合成を阻害する効果を示すので、肥満を根本的に治療し予防するだけでなく、症状を緩和および改善させることに広く使用できる。また、冬虫夏草は既に健康食品として承認された品目なので、この冬虫夏草から抽出された本発明のコルジセピンも毒性および副作用などの問題が全くない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルジセピン(Cordycepin)を有効成分とする肥満治療および予防用薬学組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、C/EBPα、PPARγおよび抗−レプチンの発現度合いを抑えることにより、線維芽細胞(3T3−L1細胞)の脂肪細胞への分化および細胞におけるトリアシルグリセロールの合成を阻害する、コルジセピンを含有する薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満とは、体内に脂肪が過度に蓄積されている状態であって、体重における脂肪の占有比率が高い状態をいう。現代人の生活が過去に比べて一層複雑且つ多様になるにつれて、様々な要因、例えば歪んだ生活習慣、摂取する栄養素の不均衡、運動不足、飲み過ぎなどによって肥満が発生する。
【0003】
菜食中心の食生活によって肥満の頻度数が多くなかった東洋においても、近年、西洋文物の影響で食生活、習慣、住居環境などが変わって肥満症の頻度が著しく増加した。
【0004】
肥満は、各種成人病、例えば高血圧、心臓病、糖尿病などの原因となっており、慢性疾病の罹病率を増加させ、人間の寿命を短縮させるなど、深刻な健康上の問題を引き起こしている。
【0005】
このような肥満の原因としては、遺伝的な素因や環境因子など、様々な原因が知られている。特に、父母の両方ともが肥満の場合、子供が肥満になる確率は50%以上であり、父母の一方が肥満の場合には、約25%の肥満確率を示す。このことからみて、遺伝の影響は非常に大きい。
【0006】
生活習慣の変化によるカロリーの過剰摂取、運動不足、環境的な要因によるエネルギー消費の減少も肥満の主要な原因である。
【0007】
肥満の治療に主に用いられる方法としては、生活習慣を矯正する方法、例えば食餌療法、運動療法、行動療法などがある。この他にも、肥満の治療に用いられる方法としては、薬物治療および手術的治療がある。
【0008】
生活習慣を矯正することは容易でないうえ、体重の減少には限界があるので、生活習慣の矯正と共に薬物治療が必要である。
【0009】
肥満治療のための薬物使用はずっと前から試みられてきたが、人体のエネルギー恒常性の調節に関与するものと解明された多くの物質をターゲットとする肥満治療薬物は副作用のため臨床的な適用に限界がある。
【0010】
現在、米国FDAが長期使用を承認した肥満治療薬物は、2種であって、ノルエピネフリン(norepinephrine)とセロトニン(serotonin)の再吸収を抑える作用を持つシブトラミン(sibutramine)と、膵臓および消化器系から分泌される脂質分解酵素(lipase)を抑えて抗肥満効果を示すオーリスタット(orlistat)がある。
【0011】
ところが、シブトラミンの場合、血圧上昇、不眠症、口腔乾燥、目眩などの副作用がよく発生し、心血管疾患または調節されない高血圧を持つ患者には使用することができないという欠点がある。また、オーリスタットは、下痢、脂肪便、便秘などの副作用を示し、韓国人のように脂肪摂取が西洋人と比較して少ない場合には薬物の効果が著しくないという点で使用が制限的である。
【0012】
したがって、最近、天然物由来の生理活性物質を用いて安全に肥満を治療することが可能な方法の開発に関する研究が盛んに行われている。
【0013】
【表1】

冬虫夏草は、カビの一種である冬虫夏草菌が、主に温度、湿度が高くなる時期に、生きている昆虫の身の中に入り込んで発育増殖しながら寄主昆虫を殺し、しかる後に、子実体を昆虫の表皮に形成する一種の薬用キノコである。もともと、冬虫夏草は、コウモリガ科(Hepialidae)の幼虫から出た冬虫夏草(Cordyceps sinensis)を自称するものであるが、今日は昆虫の他にもクモ、菌類などから出たキノコを全て総称する。
【0014】
植物分類体系上、冬虫夏草は、子嚢菌門(Ascomycota)、麦角菌目(Clavicipitales)、麦角菌科(Clavicipitaceae)に属し、コルジセプス(Cordyceps)、ポドネクテリア(Podonectria)、トルビエラ(Torrubiella)などの3種があるが、それらの中で最も代表的なものがコルジセプス種である(Kobayasi Y.,Trans Mycol.Soc.Japan,23.329-364,1982)。全世界的に現在まで約800余種の冬虫夏草菌が知られており、これらの中でも韓国内で採集および分類されたものは78種である。冬虫夏草は、寄主特異性が低いため様々な昆虫を寄主とする場合が多く、一般に菌名を用いて命名されるが、天然から得られる自然産の冬虫夏草は非常に稀であって確保し難い。したがって、多様な種類の冬虫夏草が人工栽培されており、これに関する成分および効能研究が行われている。
【0015】
コルジセプスシネンシス(Codyceps sinensis)は、最も価値のある生薬の一つである。野生のコルジセプスシネンシスは稀であるうえ、人工的に培養することも非常に難しいため、中国科学者らは発酵能のあるCs−4菌株を開発した。コルジセプスシネンシスは多様な薬学的効能、すなわち酸素遊離ラジカル消去能、抗老化、内分泌の活性化、性機能の回復、並びに呼吸器、肝臓循環器、癌および腎臓の疾患に対する効果を示すことが、Zhuによってよくまとめられている(Zhu,J.S.,J.Altern.Complement.Med.,4:289-303 1998)。コルジセプスミリタリス(Cordyceps militaris)は、コルジセプスの別の種であって、中国と韓国で幅広く用いられている。
【0016】
コルジセピン(3−デオキシアデノシン)は、コルジセプスシネンシスの有効成分の一つとして思われている。ずっと以前に、カニガム(Cunningham)は、コルジセプスミリタリスからバシラスサブチルス成長阻害能のある産出物を分離した。この化合物は後でコルジセピンと同定された(Kaczka E.A.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,14:456-457 1964)。構造が確認された後、コルジセピンの多様な生物学的効果が研究されたが、例えば抗菌活性、抗−マラリア活性、抗−ヘルペス活性、抗−腫瘍形成活性、抗−白血病活性に対する研究が報告されたことがある。
【0017】
一方、コルジセピンは、これまでは癌細胞に対する細胞毒性を示すポリアデニル化阻害剤として知られていたが、最近、米国で抗白血病治療剤として臨床実験段階にある薬物である(Eiichi N,Biochemical Phar.,59:273-281,2000)。
【0018】
ところが、前記文献の何処にもコルジセピンの抗肥満活性に対するいずれの教示も示唆されたことがない。
【0019】
そこで、本発明者は、天然物を用いた肥満治療剤などを開発するために努力を行い続けた結果、コルジセプスミリタリス冬虫夏草から分離されたコルジセピンが3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化を抑えるうえ、トリアシルグリセロールの合成を阻害することを確認し、前記コルジセピンの肥満治療剤としての用途を提供することにより、本発明を成功的に完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、コルジセピンを有効成分とする肥満治療および予防用薬学組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、コルジセピンを有効成分として含有する肥満予防および治療用薬学組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明の前記および他の目的、特徴および他の利点は、添付図面を参照する次の説明からさらに明確に理解されるのであろう。
【図1】図1は本発明に係る活性物質のHPLCプロファイルである。
【図2】図2は本発明に係る活性物質のH NMRスペクトルである。
【図3】図3は本発明に係る活性物質の13C NMRスペクトルである。
【図4】図4は本発明に係るコルジセピンの濃度別3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化抑制率を示すグラフである(NC:陰性対照区(DMEM)、PC:陽性対照区(MSDおよびMDI)、C4:コルジセピン4μM、C16:コルジセピン16μM、C32:コルジセピン32μM)。
【図5】図5は本発明に係るコルジセピンの濃度別3T3−L1細胞のトリアシルグリセロールの合成に及ぼす効果を示すグラフである(NC:陰性対照区(DMEM)、PC:陽性対照区(MSDおよびMDI)、C4:コルジセピン4μM、C16:コルジセピン16μM、C2:コルジセピン32μM)。
【図6】図6はコルジセピンおよび/またはアデノシンの存在有無による3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化抑制率を示す写真である(NC:陰性対照区(DMEM)、PC:陽性対照区(MSDおよびMDI)、C32:コルジセピン32μM、A32:アデノシン32μM、CA:コルジセピン32μM+アデノシン32μM)。
【図7】図7はコルジセピンによって誘導されるトリアシルグリセロールの合成抑制に対するアデノシンの効果を示すグラフである(NC:陰性対照区(DMEM)、PC:陽性対照区(MSDおよびMDI)、C32:コルジセピン32μM、A32:アデノシン32μM、CA:コルジセピン32μM+アデノシン32μM)。
【図8】図8は3T3−L1細胞におけるC/EBPα、PPARγおよび抗−レプチンタンパク質の発現に対するコルジセピンの効果を示すウエスタンブロット写真である(NC:陰性対照区(DMEM)、PC:陽性対照区(MSDおよびMDI)、C32:コルジセピン32μM、A32:アデノシン32μM、CA:コルジセピン32μM+アデノシン32μM)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明によれば、コルジセピン(Cordycepin)を有効成分とする肥満治療および予防用薬学組成物を提供する。
【0025】
本発明において、コルジセピンは、市中から購入して使用し、或いはコルジセプスミリタリス冬虫夏草から分離精製したものを使用することができ、好ましくはコルジセプスミリタリス冬虫夏草から分離精製して使用することを特徴とする。
【0026】
本発明のコルジセピンの抗肥満効果を測定した結果、脂肪組織生成(adipogenesis)および脂肪生成(lipogenesis)に関与するC/EBPα、PPARγおよび抗−レプチンタンパク質の発現を効率よく抑えることにより、線維芽細胞(3T3−L1)の脂肪細胞への分化を抑え、ATP、NAD、NADP、CoAおよびFADの前駆体であるアデノシンと競争的に作用することにより、トリアシルグリセロール(TAG)の合成を効果的に阻害することを確認することができる。
【0027】
また、本発明のコルジセピンは、容量依存的に線維芽細胞の脂肪細胞への分化およびトリアシルグリセロールの合成を阻害することを確認することができる。
【0028】
本発明の薬学的組成物を、当該用途に応じて、薬学的に許容可能な担体または賦形剤と共に独立にまたは薬品添加剤として使用されるか、或いはヒトへの投与に適したその他の全形態として使用できる。本発明の薬学的組成物に含有できる担体としては、増量剤、高繊維添加剤、カプセル化剤および脂質などがあり、このような担体の例は当業界における公知のものである。
【0029】
本発明の薬学的組成物は、疾患の進行程度、年齢、性別、身体状態、投与期間、投与方法、患者の体重、食事、排出速度などによって容量を異ならせて投与できる。
【0030】
ところが、好ましい効果のために、本発明の薬学的組成物を1日、体重1kg当たり0.01〜100μgの範囲で非経口または経口投与することが良い。投与は1日に1回行ってもよく、数回に分けて行ってもよい。前記投与量はいずれの面でも本発明の範囲を限定しない。
【0031】
以下、本発明を下記の実施例によってさらに詳しく説明する。これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
【0032】
実施例1:活性物質の分離および同定
コルジセプスミリタリス冬虫夏草は、キョンドン市場(ソウル市、韓国)から購入したものを乾燥させて使用した。前記乾燥させたコルジセプスミリタリス冬虫夏草を粉砕機で粉砕して粉末化した後、10mL/gの80%エタノールを加えて80℃で3時間3回還流冷却熱湯抽出を行い、減圧濃縮装置で濃縮してエタノール粗抽出物を製造した。
【0033】
前記エタノール粗抽出物は、蒸留水に溶解してブタノールを1:1の割合(v/v)で混合して二相間の分配を3回繰り返し行い、ブタノール抽出物を減圧、濃縮、乾燥させた。
【0034】
前記乾燥物に対して、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=7:3)を行って活性分画を再び減圧、乾燥させた後、少量のメタノールに20μg/mLの濃度で溶解させてミリポア(0.45mm)で濾過してHPLC(カラム:ODS20×250mm、15%メタノール:ジエチルアミン緩衝溶液pH4.0.10mL/分)で活性物質を分取した。
【0035】
図1〜図3は本発明に係る活性物質のHPLCプロファイル、Hおよび13
NMRスペクトルを示す。
【0036】
前記結果より、本発明に係る活性物質は下記化学式(1)で表現される3’−デオキシアデノシン(コルジセピン)であることを確認することができた。
【0037】
【化1】

実験例1:線維芽細胞の脂肪細胞への分化抑制効果の測定
1−1.細胞培養および脂肪細胞分化の誘導
線維芽細胞(3T3−L1細胞、CL−173)をATCC(American Type Culture Collection)から購入してフロストアンドレーンのプロトコルに基づいて培養および分化を誘導した(Frost and Lane,1985)。
【0038】
すなわち、線維芽細胞の増殖のためのサブマージド培地(10%BCS、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンで充填されたDMEM培地)が含まれた100mmプレートを用いて37℃の5%CO条件で培養した。細胞数4.0×10cells/mLの6ウェルプレートでコンフルエント状態(カルチャーディッシュ全体に細胞が充満するように数的に成長した状態)になるまで培養してコンフルエント細胞を得た。コンフルエント状態に到達した二日後、細胞を分化誘導用培地(MDI、1μM DEX、0.5mMIBMXおよび10μg/mLインスリンが含まれたDMEM)で二日間培養することにより、脂肪細胞への分化を誘導した後、7日間分化誘導用培地(10%BCSおよび5μg/mLインスリンが充填されたMFI)で分化状態を維持させた。MDI培地は7日間48時間間隔で交換し、分化および維持に使用された培地の組成は下記表2の通りである。
【0039】
また、前記実施例1で分離精製したコルジセピンは、最終濃度がそれぞれ4、16、32μMとなるように培地に添加した。
【0040】
【表2】

DMEM:Dulbecco's modified Eagle's medium
BCS:Bovine calf serum
FBS:Fetal Bovine serum
DEX:Dexamethasone、IBMX:1-methyl-3-isobutylxanthine。
【0041】
1−2.オイルレッドO(Oil-red O)染色
前記1−1で得られた細胞をPBS(pH7.4)で2回洗浄し、10%ホルマリンによって室温で1時間固定した後、蒸留水で3回洗浄した。前記細胞を濾過した0.5%オイルレッドOを用いて10分間染色した後、再び蒸留水で3回洗浄した。染色された細胞をオリンパス顕微鏡(CKX−41、東京、日本)で観察し、オイルレッドOで染色された細胞の密度を、プロパノールで溶出して分光器(DU−70、Beckman、Fullerton、CA)によって518nmで吸光度を測定することにより算出した。
【0042】
その結果、図4に示すように、本発明に係るコルジセピンが3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化を容量依存的に抑えることを確認することができ(図4参照)、32μMコルジセピンが添加された場合は3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化をほぼ完全に抑制することを確認することができた。
【0043】
実験例2:トリアシルグリセロールの合成抑制効果の測定
本発明に係るコルジセピンが3T3−L1細胞のトリアシルグリセロール(TG)の合成に及ぼす効果を確認するために、それぞれのグループで培養した細胞をEDTA(0.416mg/mK)が含まれたトリス−HClバッファ(pH7.5)で脱着した後、超音波粉砕器で細胞を粉砕した。BCAタンパク質定量キット(BCA protein assay kit)に表記された使用説明書に基づいて標準液の検量線を作り、細胞から得た脱着物をキット試薬に一定量希釈した後、37℃で30分間加温し、しかる後に、10分以内に562nmで吸光度を測定してタンパク質を定量した。タンパク質の定量後、BCS中性脂肪測定用キット(BCS Triacylglycerol kit)の使用説明書に基づいて、細胞から得た脱着物をキット酵素溶液に希釈させた後、37℃で10分間加温し、60分以内に試薬ブランクを対照として波長550nmで吸光度を測定し、計算式に従って細胞内タンパク質当たりトリアシルグリセロールの量(μg/mgタンパク質)を測定した。
【0044】
その結果、図5に示すように、本発明に係るコルジセピンが3T3−L1細胞のトリアシルグリセロールの合成を容量依存的に抑制することが分かった。
【0045】
実験例3:コルジセピンの分化およびトリアシルグリセロール合成の抑制に対するアデノシンの効果
コルジセピンが3T3−L1の脂肪細胞への分化およびトリアシルグリセロールの合成を抑制する活性に対するアデノシンの効果を調べるために、コルジセピン同族体の一つであるアルデノシンをコルジセピンと同一のモル濃度(32μM)で分化開始のための分化用サブマージド培地に添加した。
【0046】
その結果、図6および図7に示すように、コルジセピンが3T3−L1の脂肪細胞への分化およびトリアシルグリセロールの合成を抑制する効果がアデノシンによって抑えられることを確認することができた。
【0047】
上記の結果より、本発明のコルジセピンはATP、NAD、NADP、CoAおよびFADの前駆体であるアデノシンと競争的に作用することにより、トリアシルグリセロールの合成を抑制することが分かった。
【0048】
実験例4:ウエスタンブロット分析
脂肪細胞分化過程が、脂肪組織生成(adipogenesis)および脂肪生成(lipogenesis)に関与する必須因子であるC/EBPα、PPARγおよび抗−レプチンタンパク質などの因子によって調節されるので、前記因子に対するコルジセピンの効果を調べるために、ウエスタンブロット分析を行った。
【0049】
3T3−L1を冷たいPBで3回洗っだ後、14000rpmで1分間マイクロ遠心分離して細胞ペレットを得た。その後、細胞ペレットを0.2mLの冷たいRIPAバッファ(50mM Tris−HCl、pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、1%NP40、0.25%デオキシコール酸塩)およびタンパク質阻害剤(Complete Mini Protease Inhibitor Tablets、Roche、Indianapolis、IN)で懸濁した。前記懸濁液を20ゲージの針を用いて剪断させ、30分間氷で培養した後、4℃、14000rpmで20分間遠心分離した。上澄み液を集めた後、BCAアッセイキットを用いてタンパク質濃度を測定した。細胞溶解物は、Laemmli SDSローディングバッファ(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)と同量で混合された。同量の溶解タンパク質(30mg)をSDS−PAGEにローディングされた。電気泳動は、タンパク質がニトロセルロースメンブレイン(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)に転移される前に施行させた。メンブレインは、0.05%ツイン−20(USB Corp.,Cleveland、USA)および5%脱脂粉乳が含まれたPBSで1時間遮断し、PBS/ツイン−20で3回10分間洗浄した後、C/EBPα、PPARγ(Santa Cruz、CA)および抗−レプチン(Sigma)抗体と共に培養した。次いで、ブロットをHRP(horseradish peroxidase)とコンジュゲートされた適当な2次抗体によって室温で1時間処理した後、PBS−Tで10分間3回洗浄した。反応合成物をECL(enhanced chemiluminescence system、Amersham International plc、Little Chalfont Buckinghamshire、England)を用いてX線フィルムに露出させた。
【0050】
その結果、図8に示すように、DMEM培地で培養された陰性対照群におけるC/EBPαおよび抗−レプチンタンパク質の発現度合いは無視できる程度であり、PPARγの発現度合いは陽性対照群に比べて顯著に低かった。これに対し、コルジセピンは、C/EBPα、PPARγ、および抗レプチンタンパク質の発現を 顯著に抑えることを確認することができた。また、アデノシンの場合、PPARγおよび抗−レプチンタンパク質の発現にはあまり影響を及ぼさなかったが、C/EBPαの発現は阻害することを確認することができた。
【0051】
すなわち、コルジセピンとアデノシンが併用投与した場合、陽性対照群に比べてC/EBPα、PPARγおよび抗−レプチンタンパク質の発現度合いは顯著に減少するが、C32(コルジセピン32μM単独添加)に比べてC/EBPαの発現度合いは増加することが分かった。
【0052】
前述したような結果より、本発明のコルジセピンはPPARγおよびC/EBPα−媒介脂肪組織生成過程によって脂肪細胞の分化を、すなわち肥満を抑制することを確認することができた。
【0053】
以上、本発明の内容の特定部分を詳細に述べたが、当業界における通常の知識を有する者であれば、このような具体的技術は好適な実施様態に過ぎず、これらの実施様態に本発明の範囲が制限されるのではないことは明白であろう。従って、本発明の実質的な範囲は請求の範囲とそれらの等価物によって定義されるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上述したように、本発明に係るコルジセピンは、脂肪組織生成および脂肪生成に関与するC/EBPα、PPARγおよび抗−レプチンタンパク質の発現を抑えることにより、線維芽細胞(3T3−L1細胞)の脂肪細胞への分化およびトリアシルグリセロールの合成を抑制することができるので、肥満を根本的に治療し予防するだけでなく、症状を緩和および改善させることに広く使用できる。
【0055】
また、冬虫夏草は既に健康食品として承認された品目なので、この冬虫夏草から抽出された本発明のコルジセピンも毒性および副作用などの問題が全くない。從って、本発明は、人体に無害なコルジセピンを有効成分とする肥満治療および予防用薬学組成物だけでなく、健康食品などに有用に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コルジセピンを有効成分として含有する肥満治療および予防用薬学組成物。
【請求項2】
前記コルジセピンは、コルジセプスミリタリス(Cordyceps militaris)冬虫夏草から分離精製したことを特徴とする請求項1に記載の肥満治療および予防用薬学組成物。
【請求項3】
前記組成物は、経口または非経口的に投与されることを特徴とする請求項1に記載の肥満治療および予防用薬学組成物。
【請求項4】
前記コルジセピンは、容量依存的に線維芽細胞の脂肪細胞への分化およびトリアシルグリセロールの合成を阻害することを特徴とする請求項1に記載の肥満治療および予防用薬学組成物。
【請求項5】
前記コルジセピンは、PPARγおよびC/EBPα−媒介脂肪組織生成過程によって線維芽細胞の脂肪細胞への分化を抑えることにより抗肥満効果を示すことを特徴とする、請求項1または4に記載の肥満治療および予防用薬学組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−503729(P2010−503729A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529131(P2009−529131)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004668
【国際公開番号】WO2008/038973
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509080082)コングック ユニヴァーシティ インダストリアル コーペレーション コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】