コロイダルダンパ
【課題】実用性の高いコロイダルダンパを提供する
【解決手段】車体32と車輪保持部材26との相対動作を、多孔質体82の細孔に対して作動液84が流入・流出することによって減衰させるとともに、シリンダ装置40が有する連通路120,122における2つのチャンバ60,62の間の作動液84の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成する。そのことにより、2種類の減衰特性により当該コロイダルダンパの減衰特性の適切化を図ることが可能であり、2つの物の相対動作に適応した減衰特性とすることで、それらの相対動作を効果的に減衰させることが可能となる。
【解決手段】車体32と車輪保持部材26との相対動作を、多孔質体82の細孔に対して作動液84が流入・流出することによって減衰させるとともに、シリンダ装置40が有する連通路120,122における2つのチャンバ60,62の間の作動液84の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成する。そのことにより、2種類の減衰特性により当該コロイダルダンパの減衰特性の適切化を図ることが可能であり、2つの物の相対動作に適応した減衰特性とすることで、それらの相対動作を効果的に減衰させることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔を有する多孔質体と液体とが混合されたコロイド溶液を含んで構成され、その多孔質体の細孔に対する液体の流出入による作用を利用して外部から加えられたエネルギを散逸させることが可能なコロイダルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献に記載されているコロイダルダンパは、疎水化多孔質シリカゲル等の多孔質体と液体とが混合されたコロイド溶液を用いたものであり、そのコロイド溶液において、多孔質体が有する細孔に対し、液体が表面張力の作用下で繰り返し流入・流出することにより、外部から加えられたエネルギを散逸させるように構成されている。そのコロイダルダンパは、例えば、エネルギの散逸量が振幅に依存した大きさになることなど、従来の液圧式ダンパにはない特徴を有しており、種々の分野への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/029501号パンフレット
【特許文献2】特開2008−309250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載のコロイダルダンパは、未だ開発途上であり、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、そのコロイダルダンパの実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いコロイダルダンパを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のコロイダルダンパは、(a)相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、(b)そのハウジング内を2つのチャンバに区画するピストンと、(c)一端部がピストンに連結されるとともに、他端部がハウジングから延び出して相対動作する2つの物の他方に連結されるピストンロッドとを備えたシリンダ装置と、ハウジング内に収容された(A)多数の細孔を有する多孔質体および(B)作動液とを含み、相対動作する2つの物の相対動作の際に、多孔質体の細孔に対して作動液が流入・流出することによって、それらの相対動作を減衰させるように構成されたものであり、シリンダ装置が、さらに、2つのチャンバを連通させる連通路を有してその連通路における2つのチャンバ間の作動液の流通に対して抵抗を付与する機構を含んで構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコロイダルダンパは、2つの物の相対動作を、多孔質体の細孔に対して作動液が流入・流出することによって減衰させることに加えて、2つのチャンバ間の作動液の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成されており、2種類の減衰特性を併せ持つものとなる。本発明のコロイダルダンパによれば、それら2種類の減衰特性によって当該コロイダルダンパの減衰特性の適切化を図ることが可能であり、2つの物の相対動作に適応した減衰特性とすることで、それらの相対動作を効果的に減衰させることが可能となる。そのような利点を有することで、本発明のコロイダルダンパは、実用性の高いものとなる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、その請求項1に(2)項の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(3)項の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項2に(4)項の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(11)項の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項5に(15)および(17)項の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項5または請求項6に(15)項および(18)項の技術的特徴を付加したものが請求項7に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)(a)相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、(b)そのハウジング内を2つのチャンバに区画するとともにそのハウジング内を摺動可能なピストンと、(c)前記2つのチャンバのうちのいずれかを貫通して配設され、一端部が前記ピストンに連結されるとともに、他端部が前記ハウジングから延び出して前記2つの物の他方に連結されるピストンロッドとを備えたシリンダ装置と、
前記ハウジング内に収容された(A)多数の細孔を有する多孔質体および(B)作動液と
を含んで構成され、
前記2つの物の相対動作の際に、前記多孔質体の細孔に対して前記作動液が流入・流出することによって、それら2つの物の相対動作を減衰させるように構成されたコロイダルダンパであって、
前記シリンダ装置が、さらに、
前記2つのチャンバを連通させて前記ピストンの摺動に伴う前記2つのチャンバ間の前記作動液の流通を許容する連通路を有し、その連通路における前記作動液の流通に対して抵抗を付与する流通抵抗付与機構を備えたコロイダルダンパ。
【0010】
本項に記載のコロイダルダンパは、2つの物の相対動作を、多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出によって減衰させるだけでなく、2つのチャンバ間の作動液の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成される。そして、多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出による減衰特性は、エネルギ散逸量が2つの物の相対動作の振幅に依存する減衰特性であり、作動液の流通に対して抵抗を付与することによる減衰特性は、2つの物の相対動作の速度に依存する減衰特性であり、本項に記載のコロイダルダンパは、それら2種類の特性を併せ持つもの、換言すれば、それら2種類の減衰特性が組み合わさった特性を有するものとなっている。したがって、それら2種類の減衰特性によって、当該コロイダルダンパの減衰特性を種々に設定することが可能であり、本項の態様によれば、例えば、2つの物の相対振動の周波数帯や振幅など、2つの物の相対動作に適応するように、当該コロイダルダンパの減衰特性の適切化を図ることが可能となる。
【0011】
なお、以下の説明において、多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出による減衰特性をコロイド溶液依存減衰特性と呼び、作動液の流通に対して抵抗を付与することによる減衰特性を流通抵抗依存減衰特性と呼ぶ場合がある。また、コロイダルダンパが発生させる減衰力のうちの多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出に起因して発生することになる減衰力を、コロイド溶液依存減衰力と呼び、コロイダルダンパが発生させる減衰力のうちの流通抵抗付与機構が付与する抵抗に起因して発生することになる減衰力を、流通抵抗依存減衰力と呼ぶ場合がある。
【0012】
本項に記載のコロイダルダンパには、「多孔質体」および「作動液」が混合されたコロイド溶液が用いられる。それら「多孔質体」および「作動液」の種類は、特に限定されないが、互いに親和性が低く、容易に結合しにくいものどうしであること、平たく言えば、多孔質体が作動液に溶けにくいことが望ましい。その「多孔質体」には、nm(ナノメータ)オーダの細孔を有するμm(マイクロメータ)オーダの粒状物(マイクロ粒子)を採用可能であり、例えば、疎液性を有して作動液に容易に溶けないものや、疎液性の物質により被覆されたものを採用することが可能である。具体的には、例えば、その多孔質体には、シリカゲル,アエロゲル,セラミックス,ゼオライト,多孔質ガラス,多孔質ポリスチレン等を採用可能である。また、「作動液」には、例えば、水,水と不凍剤(エタノール,エチレングリコール,プロピレングリコール,グリセリン等)との混合液,水銀,溶融金属等を採用可能である。なお、水は表面張力が比較的大きいため、作動液として水を採用した場合には、多孔質体の細孔に水が流入・流出する際に、その大きな表面張力によって、大きな力を発生させるコロイダルダンパが実現する。なお、作動液に水を用いる場合には、上述したように、多孔質体には、親水性の低いものや、疎水化処理したものを用いることが望ましい。
【0013】
多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出による減衰特性を、単純な構成のコロイダルダンパを例に、具体的に言えば、シリンダ装置が、ハウジングとピストンとによって1つのチャンバが形成されてその1つのチャンバに上記「多孔質体」と「作動液」とが混合されたコロイド溶液が充填された構成のコロイダルダンパを例に、詳しく説明する。そのような構成のコロイダルダンパにおいて、ハウジングとピストンとに対してチャンバの容積を減少させるような力が加わると、まず、コロイド溶液においては、作動液の液圧が高められる。作動液の液圧がある大きさまで高まると、作動液は、その作動液の表面張力に抗して、多孔質体の細孔に流入するのである。そして、その作動液の細孔への流入によって、チャンバの容積が減少するように、ハウジングとピストンとが相対動作することになる。一方、ハウジングとピストンとに対して加わっている力が無くなれば、作動液の液圧が低下し、作動液の液圧が低下する。作動液の液圧が低下すると、作動液は、多孔質体の細孔から流出するのである。そして、その作動液の細孔からの流出によって、チャンバの容積が増大するように、ハウジングとピストンとが相対動作することになる。
【0014】
上述したように、上記の構成のコロイダルダンパにおいては、ハウジングとピストンとの相対位置と、作動液の多孔質体への流入量とが、互いに関係する。また、作動液の多孔質体への流入量に応じて、チャンバ内の圧力が変化する。つまり、ハウジングとピストンとの相対位置と、チャンバ内の圧力とが、互いに関係することになる。そして、多孔質体と作動液との間の状態を、それらの間の接触角を用いて説明すれば、多孔質体へ作動液が流入する際に接触角が大きい状態となり、多孔質体から作動液が流出する際に接触角が小さい状態となる。そのため、作動液流入時(収縮時)のチャンバ内の圧力と、作動液流出時(伸張時)のチャンバ内の圧力とには、差が生じる。つまり、ハウジングとピストンとの相対動作位置の変化に対するチャンバ内の圧力の変化に、ヒステリシスが生じるのであり、そのことによって、コロイダルダンパは、例えば、相対動作する2つの物の運動エネルギを散逸して、相対動作する2つの物の相対動作を減衰させる構成とされている。
【0015】
本項に記載の「流通抵抗付与装置」が有する「連通路」は、2つのチャンバを区画するピストンや、ハウジングに設けられてもよく、ピストンとハウジングとによって形成されてもよい。また、その連通路は、作動液の流通を許容するものであればよく、作動液とともに多孔質体をも通過させるものであってもよい。しかしながら、後に詳しく説明するが、チャンバ内にコロイド溶液が充填される構成のコロイダルダンパにおいては、多孔質体によって、シリンダ装置の内部が摩耗するという問題がある。つまり、連通路が形成されたものの摩耗を防止するという観点からすれば、本項に記載のコロイダルダンパは、後に詳しく説明するように、多孔質体が連通路を通過しないように構成されることが望ましい。なお、本項に記載の「流通抵抗付与装置」は、その構成が特に限定されるものではない。例えば、上記の連通路に設けられたオリフィス,絞り弁等によって構成することが可能である。
【0016】
(2)当該コロイダルダンパが、
可撓性を有し、自身のみによって若しくは自身と前記ハウジングとによって前記2つのチャンバの一方の内部に密封空間を形成するとともにその密封空間に前記多孔質体と前記作動液の一部とをそれらが混合した状態で密封し、自身が変形することによって、前記多孔質体の細孔に対する前記作動液の一部の流入・流出に伴う前記密封空間の容積の変化を許容する密封部材を含んで構成された(1)項に記載のコロイダルダンパ。
【0017】
上述したように、チャンバ内にコロイド溶液が充填される構成のコロイダルダンパにおいては、多孔質体によって、シリンダ装置の内部が摩耗するという問題がある。特に、ピストンのシール部材や、ハウジングのピストンが摺動する部分等の摩耗は、コロイド溶液の漏れに繋がるため、大きな問題となる。さらに、先にも述べたように、2つのチャンバが連通路によって連通される本コロイダルダンパにおいては、その連通路を構成する部材等が摩耗する虞がある。そのような問題に対応すべく、フィルタや容器によって、ハウジングのピストンが摺動する部分から多孔質体を隔離する構成のコロイダルダンパも存在する。しかしながら、多孔質体は、ストレス等によって、粉砕されて小さくなる場合がある。つまり、フィルタや容器によって多孔質体を隔離した構成のコロイダルダンパは、そのフィルタや容器が作動液を通過させるものであるために、粉砕されて小さくなった多孔質体が、そのフィルタや容器に目詰まりしたり、それを通過したりしてしまうという問題がある。
【0018】
上記のような構成のコロイダルダンパに対して、本項に記載のコロイダルダンパは、コロイド溶液が密封部材によって形成される空間に密封されており、多孔質および作動液がその密封空間外へは流出しないように構成されている。つまり、本項の態様は、多孔質体がピストンと擦れ合うことがなく、シリンダ装置内の摩耗を防止することが可能である。また、上述したように、多孔質体が粉砕されて小さくなったとしても、当然、密封空間外へ流出することもない。したがって、本項の態様によれば、耐久性に優れたコロイダルダンパが実現することになる。なお、本項の態様は、ハウジングとピストンとの相対動作の際、多孔質体に対して作動液が流入・流出してコロイド溶液密封体の体積が変化することで、シリンダ装置のチャンバの容積の変化、つまり、シリンダ装置のストローク動作が許容されるように構成することが可能である。
【0019】
本項に記載の態様においては、密封部材によって密封空間内に隔離された作動液の一部を除いた作動液の残部は、2つのチャンバのうちの密封部材が設けられた方における密封空間の外部、および、2つのチャンバのうちの密封部材が設けられていない方の内部に存在することになる。つまり、本項の態様は、シリンダ装置に加わる力を、密封部材内のコロイド溶液に、作動液の残部である密封空間外作動液を介して伝達するように構成された態様である。本項に記載の「作動液の一部(以下、「密封空間内作動液」という場合がある。)」と、上記の「作動液の残部(密封空間外作動液)」とは、同一の液体であってもよく、性質において互いに異なる液体であってもよい。なお、シリンダ装置に加えられた力の伝え易さという観点からすれば、上記の密封空間外作動液には、粘度の高いものを採用することが望ましい。
【0020】
本項に記載の「密封部材」は、コロイド溶液を密封した状態を保持しつつ、多孔質体への作動液の流入・流出に伴うコロイド溶液の体積の変化を許容するためのものである。その密封部材は、密封部材のみでコロイド溶液を密封する空間を形成するものであってもよく、ハウジングと協同してコロイド溶液を密封する空間を形成するようなものであってもよい。詳しく言えば、密封部材のみでコロイド溶液を密封する空間を形成する態様は、例えば、コロイド溶液を内部に充填させる容器状の密封部材とすることで実現可能である。また、密封部材がハウジングと協同してコロイド溶液を密封する空間を形成する態様は、例えば、ハウジング内面に可撓性のある部材の外周部を固着させることで実現可能である。また、密封部材は、自身の変形に対して復元する力を発生させるものであってもよく、その復元する力を発生させないものであってもよい。具体的には、例えば、袋状のもの,伸縮性を有するもの,弾性を有するものなど、種々のものを採用可能である。
【0021】
(3)前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通していない方の内部に設けられた(2)項に記載のコロイダルダンパ。
【0022】
(4)前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通している方の内部に設けられた(2)項に記載のコロイダルダンパ。
【0023】
上記2つの項に記載の態様は、2つのチャンバのうちのいずれに、密封空間を形成するかを限定した態様である。それらのいずれの態様においても、2つの物が接近動作する場合、換言すれば、シリンダ装置が収縮する場合に、ハウジング内の圧力が増加し、多孔質体の細孔に対して作動液が流入し、2つの物が離間動作する場合、換言すれば、シリンダ装置が伸張する場合に、ハウジング内の圧力が減少し、多孔質体の細孔から作動液が流出するように構成される。
【0024】
ただし、本コロイダルダンパは、ハウジングが2つのチャンバに区画されてシリンダ装置が流通抵抗付与機構を備えているため、シリンダ装置が伸縮している過程においては、2つのチャンバの間に差圧が生じることになる。具体的には、シリンダ装置が収縮している過程において、ピストンロッドが貫通していない方のチャンバ内の圧力が、ピストンロッドが貫通している方のチャンバ内の圧力より高くなり、シリンダ装置が伸張している過程において、ピストンロッドが貫通している方のチャンバ内の圧力が、ピストンロッドが貫通していない方のチャンバ内の圧力より高くなる。つまり、2つの項のうちの前者の態様によれば、先に述べた単純な構成のコロイダルダンパに比較して、密封部材が設けられた方のチャンバ内の圧力、つまり、密封空間に加わる力を、シリンダ装置の収縮時に増大させ、シリンダ装置の伸張時に減少させることができる。一方、2つの項のうちの後者の態様によれば、密封空間に加わる力を、シリンダ装置の収縮時に減少させ、シリンダ装置の伸張時に増大させることができる。ちなみに、前者の態様は、密封部材が設けられた方のチャンバ内の圧力における収縮時の大きさと伸張時の大きさとの差を、先に述べた単純な構成のコロイダルダンパに比較して大きくすることになるため、1サイクルで散逸可能なエネルギを大きくすることが可能である。
【0025】
(5)前記密封部材が、
前記2つのチャンバのうちの自身が設けられた方の内部において、前記ピストンから離れた端に前記密封空間を形成するように設けられた(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0026】
本項に記載の態様は、密封空間を形成する位置を限定した態様であり、本項の態様によれば、密封部材が、ピストンの動作に干渉しないようにすることが可能であり、ハウジング内におけるピストンの摺動の妨げとなることを確実に防止することが可能である。
【0027】
(6)前記密封空間に密封された前記作動液の一部が、水である(2)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0028】
(7)前記多孔質体が、疎水化処理された多孔質シリカゲルである(6)項に記載のコロイダルダンパ。
【0029】
上記2つの項に記載の態様は、コロイド溶液の構成に限定を加えた態様である。先にも述べたように、水は表面張力が大きいため、コロイダルダンパの作動液として好適である。そして、作動液を水とした場合には、多孔質体は、疎水性を有するものであることが望ましく、後者の態様は、その望ましい態様である。
【0030】
(8)前記密封空間に密封された前記作動液の一部を、第1作動液とした場合に、
前記作動液の残部が、第2作動液として、前記2つのチャンバのうちの前記密封部材が設けられた方の前記密封空間の外部および前記2つのチャンバのうちの前記密封部材が設けられていない方の内部に収容された(2)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0031】
本項に記載の「第1作動液」は、密封空間の内部に収容された作動液であり、密封空間内作動液と言うこともでき、一方、「第2作動液」は、密封空間の外部に存在する作動液であり、密封空間外作動液と言うこともできる。それら「第1作動液」と「第2作動液」とは、先にも述べたように同一の液体であってもよく、例えば、性質,特性,種類等において互いに異なる液体であってもよい。
【0032】
(9)前記第1作動液と前記第2作動液とが、性質において互いに異なる(8)項に記載のコロイダルダンパ。
【0033】
先にも述べたように、コロイド溶液に混合される第1作動液は、大きな表面張力を有するものであることが望ましく、第2作動液は、シリンダ装置に加わる力を密封空間に効率的に伝達可能なものであることが望ましい。本項の態様は、そのような要望等に応じて、第1作動液と第2作動液とを、それぞれ適切な液体を採用した態様とすることが可能である。本項の態様において、第1作動液と第2作動液とは、例えば、水とオイルのように種類の異なる液体であってもよく、高粘度のオイルと低粘度のオイルのように、同じ種類の液体で性質,特性が異なるものであってもよい。
【0034】
(10)前記第2作動液が、オイルである(8)項または(9)項に記載のコロイダルダンパ。
【0035】
本項に記載の態様は、第2作動液を限定した態様であり、例えば、鉱物油や、合成油であるシリコンオイル等を採用可能である。例えば、本項の態様と、先に述べた第1作動液を水とした態様とを合わせた構成のコロイダルダンパを考える。一般的に、オイルの粘度は水の粘度より高いため、シリンダ装置に加わる力を、密封空間内のコロイド溶液に効率的に伝達することが可能である。また、例えば、コロイダルダンパが、サスペンション装置を構成して車体を支持するような構成である場合、シリンダ装置のチャンバ内を高圧に保持するために、ハウジングに設けられるシールの密封性を確保する必要がある。粘度の高いオイルは、シールから漏れにくく、上記のようなチャンバ内を高圧に保持する必要のあるコロイダルダンパにおいて、特に有効である。また、一般的に、オイルは、潤滑性も良好であり、ハウジング内におけるピストンの摺動を円滑なものとすることが可能である。
【0036】
また、一般的に、オイルの凝固温度は、水の凝固温度より低い。例えば、第2作動液が凝固し始めると、シリンダ装置に加わる力に対して、密封空間内のコロイド溶液に伝達される力が変動してしまう虞がある。しかしながら、本項の態様によれば、その凝固しにくいオイルによって、シリンダ装置に加わる力をコロイド溶液に確実に伝達することが可能である。
【0037】
さらに、一般的に、オイルの熱伝導率は、水の熱伝導率より低い。コロイド溶液内の水は、外気温の低下によって凝固する虞があるが、密封空間をオイルで覆うように構成することによって、熱伝導率の低いオイルによってコロイド溶液内の水の温度が外部に逃げることを抑え、水が凝固することを防止することが可能である。
【0038】
(11)前記2つの物が、車体と、車輪を回転可能に保持する車輪保持部材であって、
前記ハウジングが、前記車体と前記車輪保持部材との一方に連結されるとともに、前記ピストンロッドの前記他端部が、前記車体と前記車輪保持部材との他方に連結され、
当該コロイダルダンパが、前記車体を懸架するための車両用サスペンション装置を構成するものとされた(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0039】
本項に記載の態様は、コロイダルダンパを、車両用サスペンション装置の一構成要素とした態様である。詳しく言えば、少なくとも、車体と車輪保持部材との相対動作を減衰させるショックアブソーバとして機能させる態様である。
【0040】
(12)当該コロイダルダンパが、
前記多孔質体に前記作動液が流入した状態における前記ハウジング内の圧力によって、前記車体を支持するように構成された(11)項に記載のコロイダルダンパ。
【0041】
(13)当該コロイダルダンパが、
前記多孔質体に前記作動液が流入した状態における前記ハウジング内の圧力によって、自身に対応する車輪の分担荷重のすべてを受け持つように構成された(12)項に記載のコロイダルダンパ。
【0042】
上記2つの項に記載の態様は、コロイダルダンパによって、自身に対応する車輪の分担荷重(いわゆる、1W)の少なくとも一部を受け持つ態様である。つまり、上記2つの項の態様は、コロイダルダンパを、ショックアブソーバとしてだけでなく、ばねとしても利用する態様である。なお、後者の態様は、その1Wのすべてを受け持つことが可能とされた態様であり、後者の態様によれば、別途、サスペンションスプリングを設ける必要がなく、コンパクトなサスペンション装置が実現することになる。
【0043】
(14)当該コロイダルダンパが、
前記車体と前記車輪保持部材が相対動作する範囲において、前記ハウジング内の圧力が、前記多孔質体へ流入した前記作動液の量に比例した大きさとなるように構成された(12)項または(13)項に記載のコロイダルダンパ。
【0044】
従来の研究や実験によって、一般的なコロイダルダンパの特性として、チャンバ内の圧力と、作動液の多孔質体への流入量とが、ほぼリニアな関係にある範囲が存在することが解っている。本項の態様は、例えば、シリンダ装置のストローク範囲、あるい、相対動作する2つの物の相対動作する範囲が、そのチャンバ内の圧力と作動液の流入量とがリニアな関係にある範囲内となるように構成することができる。本項の態様は、コロイダルダンパによって、車体を常時支えること、換言すれば、コロイダルダンパを常時サスペンションスプリングとして機能させることが可能となる。
【0045】
上述した態様である、シリンダ装置のストローク範囲がチャンバ内の圧力と作動液の流入量とがリニアな関係にある範囲内となるような態様は、例えば、以下のように構成することが可能である。まず、作動液の多孔質体への流入量は、2つのチャンバ内の圧力が等しいと仮定した場合において、ピストンロッドのハウジング内へ進入した体積分に略等しい。そのことを考慮して、まず、多孔質体の量を、シリンダ装置がフルリバウンド位置からフルバウンド位置までストロークした場合のピストンロッドのハウジング内へ進入した体積と同じ量の作動液を流入させることが可能な量に決定する。次に、作動液の量を、その多孔質体に流入する量(=ピストンロッドのハウジング内へ進入した体積)より多い量に決定する。つまり、それらを混合させたコロイド溶液を備えさせることで、上記の態様のコロイダルダンパを構成することができる。
が望ましい。
【0046】
(15)前記流通抵抗付与機構によって前記作動液の流通に対して付与される抵抗に依存して当該コロイダルダンパが発生させる減衰力の大きさの基準が、流通抵抗依存減衰係数として定義された(11)項ないし(14)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0047】
(16)前記流通抵抗付与機構が、
前記車体と前記車輪保持部材との離間動作における前記流通抵抗依存減衰係数が、前記車体と前記車輪保持部材との接近動作における前記流通抵抗依存減衰係数より大きくなるように構成された(15)項に記載のコロイダルダンパ。
【0048】
本項の態様によれば、接近動作における減衰係数が離間動作における減衰係数より小さくされているため、路面の凸部を走行する際の衝撃を効果的に緩和することが可能である。
【0049】
(17)前記流通抵抗付与機構が、
前記流通抵抗依存減衰係数が、前記車体と前記車輪保持部材との相対振動におけるばね下共振周波数域の成分の振動を減衰させるのに適した減衰係数となるように構成された(15)項または(16)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0050】
多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出によって散逸できるエネルギは、車体と車輪保持部材との相対振動の振幅が小さくなるほど小さくなる。つまり、一般的なコロイダルダンパは、ばね上共振周波数域の振動であるばね上振動のように、比較的振幅が大きくなる振動は効果的に減衰可能である。しかしながら、ばね下共振周波数域の振動であるばね下振動のように、車体と車輪保持部材との相対動作の速度が速くても振幅が小さい振動に対しては、十分な減衰力が得られない虞がある。本項に記載のコロイダルダンパは、流通抵抗付与機構によってばね下振動を減衰させることができるため、車体と車輪保持部材との間の振動を効果的に減衰することが可能である。
【0051】
(18)前記流通抵抗付与機構が、
前記車体と前記車輪保持部材との接近動作における前記流通抵抗依存減衰係数の臨界減衰係数に対する比が、0.1以上かつ0.3以下となるように構成された(15)項ないし(17)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0052】
本項に記載の「流通抵抗依存減衰係数の臨界減衰係数に対する比」とは、流通抵抗付与機構によって車体と車輪保持部材との接近動作を減衰させる能力の基準となるものであり、いわゆる減衰比である。本項の態様は、その流通抵抗付与機構の減衰させる能力に限定を加えた態様であり、接近動作における減衰比が、比較的低めに設定された態様、つまり、接近動作における減衰係数が、比較的低めに設定された態様である。つまり、本項の態様は、比較的周波数の高い振動を効果的に減衰可能とされた態様であり、先に述べた態様である、流通抵抗依存減衰係数がばね下振動を減衰させるのに適した減衰係数に設定された態様の一態様と考えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパを一構成要素とした車両用サスペンション装置の正面図である。
【図2】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパの正面断面図である。
【図3】図2に示すコロイド溶液を構成する多孔質体を模式的に示す断面図である。
【図4】図2に示すコロイダルダンパを拡大して示す正面断面図であり、シリンダ装置が伸縮する場合の作動液の流れを示す図である。
【図5】従来から知られている簡便な構成のコロイダルダンパの正面断面図である。
【図6】図5に示すコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストロークとシリンダ装置の内圧との関係を示す図である。
【図7】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストロークと、2つのチャンバの各々の内圧が等しいと仮定した場合のシリンダ装置の内圧との関係を示す図である。
【図8】シリンダ装置のストローク速度とコロイダルダンパが発生させる減衰力との関係を示す図である。
【図9】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストローク動作の振幅と散逸エネルギとの関係を示すための図である。
【図10】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストロークとコロイド溶液密封体が収容された方のチャンバの内圧との関係を示す図である。
【図11】変形例のコロイダルダンパの正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、請求可能発明の代表的な実施形態を、実施例およびその変形例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0055】
<サスペンション装置の構成>
本実施例のコロイダルダンパ10は、図1に示すように、車両用サスペンション装置の一構成要素とされている。その車両用サスペンション装置は、車両が有する車輪12の各々に対応して設けられる独立懸架式のものであり、マルチリンクサスペンション装置とされている。サスペンション装置は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム20,第2アッパアーム22,第1ロアアーム24,第2ロアアーム26,トーコントロールアーム28を備えている。5本のアーム20,22,24,26,28のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪12を回転可能に保持する車輪保持部材としてのアクスルキャリア30に回動可能に連結されている。それら5本のアーム20,22,24,26,28により、アクスルキャリア30は、車体に対して一定の軌跡に沿った上下動が許容されている。本コロイダルダンパ10は、車体の一部であるタイヤハウジングに設けられたマウント部32と、上記第2ロアアーム26との間に配設されている。
【0056】
図2に、コロイダルダンパ10の正面断面図を示す。コロイダルダンパ10は、シリンダ装置40を主体とするものであり、そのシリンダ装置40が、マウント部32と第2ロアアーム26との間に配設されている。シリンダ装置40は、概して円筒状のハウジング42と、そのハウジング42に対して摺動可能に配設されたピストン44と、そのピストン44に下端部が連結されて上端部がハウジング42の上部から延び出すピストンロッド46とを含んで構成されている。そして、ピストンロッド46が、上端部において防振ゴム50を含んで構成されるアッパサポート52を介してマウント部32の下面側に連結され、ハウジング42が、それの下端部において、ブシュ54を介して第2ロアアーム26に連結されている。つまり、ハウジング42と、ピストンロッド46およびそれに連結されたピストン44とは、車体(マウント部32)と車輪12(アクスルキャリア30)との接近・離間に応じて軸線方向に相対移動可能とされている。換言すれば、車体と車輪12との接近・離間に応じて、シリンダ装置40が伸縮可能とされているのである。
【0057】
ピストン44は、ハウジング42の内部を、自身を挟んで2つのチャンバである上室60と下室62とに区画している。また、ピストン44は、テフロンコーティングされたバンド64が外周に装着されたものであり、ハウジング42に対して円滑に摺動するようになっている。なお、シリンダ装置40は、カバーチューブ70を備えており、そのカバーチューブ70は、上記ピストンロッド46およびハウジング42の上部を収容し、外部からの塵埃,泥等の侵入を防止するようにされている。
【0058】
ハウジング42内の下端部には、ゴム製のベローズ80が固定されており、下室62に収容されている。そのベローズ80には、疎水化多孔質シリカゲル82と、第1作動液としての水84とが混合されたコロイド溶液90が充填された状態で密封されている。つまり、そのベローズ80は、自身のみによってコロイド溶液90を密封する密封部材として機能するものとなっており、本コロイダルダンパ10は、ベローズ80とコロイド溶液90とを含んで構成されたコロイド溶液密封体92を備えたものとなっている。
【0059】
図3に、疎水化多孔質シリカゲル82の1つの粒子の断面図を模式的に示す。疎水化多孔質シリカゲル粒子100は、外径Dが数μm〜数十μmオーダで、かつ、細孔102の内径dが数nm〜数十nmオーダの球形シリカゲル粒子を、それの表面(細孔内も含む)を疎水性物質で疎水化処理したものである。つまり、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の各々が、多孔質体として機能するものとなっている。
【0060】
上室60には、上記コロイド溶液密封体92が収容された状態で、第2作動液としての鉱物油110が充填されている。また、下室62にも、鉱物油110が充填されている。先にも述べたように、ハウジング42の内部は、ピストン44によって、上室60と下室62とによって区画されている。図4に示すように、そのピストン44には、上室60から下室62に接続するための3本の連通路120と、下室62から上室60に接続するための3本の連通路122とが、軸線周りを6等配した位置に互い違いに設けられている(図4には、1本ずつが図示されている)。
【0061】
ピストン44の下面には、弾性材製の円形をなす3枚の弁板124が配設されている。通常時は、その弁板124によってピストン44の連通路120がほぼ塞がれている。そして、上室60の液圧が下室62の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が小さい場合には、それら弁板124と連通路120との隙間がオリフィスとして機能し、上室60から下室62への鉱物油110の流れが許容される。また、上室60の液圧が下室62の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が大きい場合には、弁板124が撓められて上室60から下室62への鉱物油110のより大きな流れが許容されるようになっている。
【0062】
また、ピストン44の上面には、弾性材製の円形をなす1枚の弁板126が配設されている。通常時は、その弁板126によってピストン44の連通路122がほぼ塞がれている。そして、下室62の液圧が上室60の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が小さい場合には、それら弁板126と連通路122との隙間がオリフィスとして機能し、下室62から上室60への鉱物油110の流れが許容される。また、下室62の液圧が上室60の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が大きい場合には、弁板126が撓められて下室62から上室60への鉱物油110のより大きな流れが許容されるようになっている。
【0063】
ちなみに、後に詳しく説明するが、ハウジング42の内部は高圧になるため、ハウジング42の上方側の蓋部、および、下方側の蓋部には、鉱物油110の漏れを防止するために、複数の高圧シール130,132が設けられている。特に、ピストンロッド46が摺動する上方側の蓋部には、そのピストンロッド46の摺動面に接する2つのシール132が設けられている。それら2つのシール132の間には、グリースが密封されており、シール性が高められている。
【0064】
コロイダルダンパ10は、車体と車輪との接近離間動作を規制する機構、いわゆるバウンドストッパ、および、リバウンドストッパを有している。具体的には、バウンドストッパは、カバーチューブ70の内側の上端に貼着された環状の緩衝ゴム140を含んで構成され、ハウジング42の上端部が、緩衝ゴム140を介してカバーチューブ70に当接するように構成されている。また、リバウンドストッパは、ハウジング42の上方側の蓋部の下面に貼着された環状の緩衝ゴム142を含んで構成され、ピストン44の上面とハウジング42の上方側の蓋部とが、緩衝ゴム142を介して当接するように構成されている。
【0065】
<コロイダルダンパの特性>
i)一般的なコロイダルダンパの特性
上述したように、本サスペンション装置は、コロイダルダンパ10を主体として構成されるものである。そのコロイダルダンパ10の機能について、以下に詳しく説明する。まず、本コロイダルダンパ10について説明する前に、図5に示す簡便な構成のコロイダルダンパ150を例に、コロイダルダンパの一般的な特性について、図6をも参照しつつ詳しく説明する。コロイダルダンパ150は、ハウジング152と、そのハウジング152内を摺動するピストン154とを含んで構成されるシリンダ装置156を備えている。そして、コロイダルダンパ150は、それらハウジング152とピストン154とによって形成されるチャンバ158内に、多孔質体160と作動液162とが混合されたコロイド溶液164が充填されたものである。
【0066】
図6は、ハウジング152とピストン154との相対動作量S(シリンダ装置156のストローク,)と、チャンバ158の内圧pとの関係を示す図である。コロイダルダンパ150において、シリンダ装置156を収縮させる力が外部から加わると、まず、チャンバ158内の作動液162の液圧が大きく(急な勾配で)上昇する(図6における(I)の範囲)。作動液162の液圧が、ある高さ付近まで上昇すると、作動液162は、その作動液162の表面張力に抗して多孔質体160の細孔に流入し始め、加わる力の大きさに比例した量だけ作動液162が流入することになる(図6における(II)の範囲)。その多孔質体160への作動液162の流入によって、コロイド溶液164の容積が減少し、シリンダ装置156が収縮するようにストロークすることになる。つまり、作動液162の流入量とチャンバ158の容積変化とは等しいのであり、作動液162の流入量とシリンダ装置156のストロークとは、リニアな関係にあると言える。また、作動液162の流入量が多くなれば、チャンバ158の内圧も大きくなる。つまり、図6における(II)の範囲に示すように、シリンダ装置156のストロークSと、チャンバ158の内圧pとは、リニアな関係となっている。そして、作動液162が、流入できる限界付近まで多孔質体160内に流入すると、作動液の162の液圧が大きく上昇し始めるのである(図6における(III)の範囲)。
【0067】
次に、シリンダ装置156に加えていた力を取り除くと、作動液162の液圧が大きく(急な勾配で)低下する(図6における(IV)の範囲)。その後、作動液162の液圧が低下すると、多孔質体160の細孔から作動液162が流出するのである(図6における(V)の範囲)。その多孔質体160からの作動液162の流出によって、コロイド溶液164の容積が増加し、シリンダ装置156が伸張するようにストローク動作することになる。なお、この図6における(V)の範囲に示す作動液162が流出する場合も、作動液162が流入するときと同様に、シリンダ装置156のストロークSと、チャンバ158の内圧pとは、リニアな関係となっている。
【0068】
多孔質体160と作動液162との間の状態を、それら多孔質体160と作動液162との間の接触角を用いて説明すれば、多孔質体160へ作動液162が流入する際に接触角が大きく、多孔質体160から作動液162が流出する際に接触角が小さくなる。そのため、図6に示したように、作動液流入時(収縮時)のチャンバ158の内圧と、作動液流出時(伸張時)のチャンバ158の内圧とには、差が生じる。つまり、図6に示すように、シリンダ装置156のストロークSの変化に対するチャンバ158の内圧pの変化に、ヒステリシスが生じるのである。そして、そのことによって、コロイダルダンパ150は、エネルギを散逸して2つの相対動作する物の相対動作を減衰させる構成とされている。ちなみに、図6のヒステリシスによって囲まれた部分の面積が、散逸したエネルギに相当する。
【0069】
ii)本コロイダルダンパの特性
本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液90がベローズ80内に密封されているが、シリンダ装置40に加えられた力は、鉱物油110を介してコロイド溶液密封体92に伝達される。そして、コロイド溶液密封体92は、自身に力が加わると、ベローズ80内に収容された水84の液圧が上昇する。その水84の液圧が、ある高さまで上昇すると、その水84は、表面張力に抗して疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102内に流入する。それに伴って、ベローズ80は収縮しつつ、第1コロイド溶液密封体92は、体積が減少することになるのである。一方、自身に加わる力がなくなると、水84の液圧が低下し、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102から水84が流出する。それに伴って、ベローズ80は伸張しつつ、コロイド溶液密封体92は、体積が増加することになる。つまり、本コロイダルダンパ10も、上述したコロイダルダンパ150と同様の特性を有している。なお、図7に、本コロイダルダンパ10におけるシリンダ装置40のストロークSと、下室62の内圧pとの関係を示している。
【0070】
ちなみに、シリンダ装置40がストローク中の場合には、上室60の内圧と下室62の内圧との間には、差が生じることになるが、図7に実線で示した特性線は、シリンダ装置40がそのストローク位置において停止していると仮定した場合のもの、換言すれば、そのストローク位置において上室60の内圧と下室62の内圧とが釣り合ったと仮定した場合のものである。なお、その上室60の内圧と下室62の内圧との差圧を考慮した場合については、後に詳しく説明する。
【0071】
<本コロイダルダンパの機能>
i)サスペンションスプリングとしての機能
本コロイダルダンパ10は、上述したように、サスペンション装置の構成要素の主体となるものである。まず、本コロイダルダンパ10は、サスペンションスプリングとしての機能を有するものとなっている。コロイダルダンパ10は、外部からシリンダ装置40にある大きさの力が加わると、シリンダ装置40の内圧は、その大きさの力に応じた大きさまで上昇し、シリンダ装置40が発生させる力が外部から加えられている力と釣り合うことになる。したがって、本コロイダルダンパ10は、自身が設けられた車輪12の分担荷重(いわゆる、1Wである)を、疎水化多孔質シリカゲル100の細孔102に水84がある量だけ流入した状態において生じるシリンダ装置40の内圧によって受け持つようになっている。
【0072】
そして、図7に示すように、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92が収容された下室62の容積が減少するようにシリンダ装置40がストローク動作する場合、平たく言えば、シリンダ装置40が収縮するようにストローク動作する場合に、シリンダ装置40の内圧が、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水84の流入量に比例した大きさとなるように構成されている。換言すれば、シリンダ装置40の内圧が、シリンダ装置40のストローク量に比例した大きさとなるように構成されている。さらに詳しく言えば、本コロイダルダンパ10は、シリンダ装置40がストローク動作する範囲において、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102からすべての水84が流出しないように、かつ、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水84の流入量が流入できる限界値には達しないように構成されている。つまり、本コロイダルダンパ10は、リバウンドストッパおよびバウンドストッパによって定まるシリンダ装置40の全ストローク範囲において、1Wを支える力を発生させていると考えることができるのである。
【0073】
ちなみに、本コロイダルダンパ10においては、シリンダ装置40の内圧が疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水84の流入量に比例する範囲内で、シリンダ装置40がストロークするように、コロイド溶液密封体92の各々に収容する疎水化多孔質シリカゲル86の量(体積)と水84の量(体積)が定められている。まず、シリンダ装置40において、標準状態(例えば、車両に一人も乗車しておらず、かつ、何も積載しておらず、さらに、水平面上において停車している状態)における中立位置である標準位置から、バウンド方向にストローク量Sb,リバウンド方向にストローク量Srだけストロークできるようにすると、シリンダ装置40の上室60と下室62とを合わせた容積変化ΔVは、フルバウンド時とフルリバウンド時とで、次式のように求まる。
ΔV=A・(Sb+Sr)
ここで、Aは、ハウジング42内の圧力がピストン44に作用する面積である受圧面積であり、シリンダ装置40においては、ピストンロッド46の断面積が相当する。
【0074】
そして、本コロイダルダンパ10においては、この容積変化ΔVに等しい量の水84を疎水化多孔質シリカゲル86に流入できる必要がある。つまり、疎水化多孔質シリカゲル86の容積に対する疎水化多孔質シリカゲル86の水84を流入できる限界値の比をηとすれば、疎水化多孔質シリカゲル86の必要最低量(体積である)VSminが、次式によって定まる。
VSmin=ΔV/η
なお、疎水化多孔質シリカゲル86は、疎水化処理の際に、全てが疎水化されずに吸水性を有するシリカゲルが残ってしまう場合がある。例えば、疎水化処理を行った全量に対する、疎水化されなかったシリカゲルの量を除いた疎水化されたシリカゲルの量の割合を、疎水化率βと定義すれば、その疎水化率のばらつき等に対応するために、実際の疎水化多孔質シリカゲル86の量(体積である)VSは、次式によって決められ、疎水化多孔質シリカゲル86のその必要最低量VSminより多くされている。
VS=VSmin/β
また、水84の量VFは、ΔV/β以上であればよいため、本コロイダルダンパ10においては、VF=VSとされている。
【0075】
ii)コロイド溶液密封体のショックアブソーバとしての機能
本コロイダルダンパ10は、運転者が乗車して水平面上で停車している状態における位置である中立位置からの1サイクルの動作におけるシリンダ装置40の内圧の変化を、シリンダ装置40のストロークSとの関係で示せば、図7に示す二点鎖線のようになる。コロイダルダンパ10は、先に説明した一般的なコロイダルダンパ150と同様に、作動液流入時(収縮時)のシリンダ装置40の内圧と、作動液流出時(伸張時)のシリンダ装置40の内圧とに差が生じ、図7に示すように、シリンダ装置40のストロークSの変化に対するシリンダ装置40の内圧の変化に、ヒステリシスが生じる。そして、その図7の二点鎖線によって囲まれた面積が、1サイクルの動作において散逸したエネルギに相当する。つまり、本コロイダルダンパ10は、車体と車輪12との相対動作を減衰させることになるのであり、ショックアブソーバとして機能することとなる。
【0076】
なお、本コロイダルダンパ10は、先に説明したように、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に水84が流入した状態におけるハウジング152内の圧力によって車体を支持するように構成され、サスペンションスプリングとして機能する。そして、シリンダ装置40が収縮するようにストローク動作する場合に、シリンダ装置40の内圧が、シリンダ装置40のストローク量に比例した大きさになるように構成されている。つまり、サスペンションスプリングとしてコロイダルダンパ10が発生させる力であるばね力Frは、シリンダ装置40の収縮時の内圧pCに比例した大きさとなる。
Fr=A・pC
一方、シリンダ装置40が伸張する場合において、コロイダルダンパ10が発生させる力FE(=A・pE)は、図7に示すように、そのリバウンド方向のばね力Frと、バウンド方向の力Fbとを合成した力と考えることができる。
FE=Fr−Fb
そして、そのバウンド方向の力Fbは、シリンダ装置40の伸張するストローク動作に対する抵抗力、つまり、減衰力となるのである。つまり、コロイド溶液密封体92による減衰力Fbは、次式で示すように、シリンダ装置40の収縮時の内圧pCと、シリンダ装置40の伸張時の内圧pEとの差分に比例した大きさとなるのである。
Fb=Fr−FE
=A・(pC−pE)
したがって、コロイド溶液密封体92による減衰力は、シリンダ装置40が伸張する場合に発生すると考えられるのである。
【0077】
iii)流通抵抗付与機構による減衰機能
ピストン44が先に述べたような構造とされていることにより、例えば、ピストン44がハウジング42内を上方に移動させられる場合には、上室60の液圧が下室62の液圧より高くなるため、上室60内の鉱物油110の一部が連通路120を通って下室62へ流れることになる。その際、鉱物油110が連通路120と弁板124とによって形成されるオリフィスを通過すること、あるいは、鉱物油110が弁板124を撓ませて下室62内へ流入することで、ピストン44の上方への移動に抵抗力が付与され、その抵抗力によって、車体と車輪12との離間動作に対する減衰力が発生させられる。
【0078】
また、逆に、ピストン44がハウジング42内を下方に移動する場合には、下室62の液圧が上室60の液圧より高くなるため、下室62内の鉱物油110の一部が、連通路122を通って下室62から上室60へ流れることになる。その際、鉱物油110が連通路122と弁板126とによって形成されるオリフィスを通過すること、あるいは、鉱物油110が弁板126を撓ませて上室60内へ流入することで、ピストン44の下方への移動に抵抗力が付与され、その抵抗力によって、車体と車輪12との接近動作に対する減衰力が発生させられる。
【0079】
つまり、連通路120,122、弁板124,126等を含んで、上室60と下室62との間の鉱物油110の流通に対して抵抗を付与する流通抵抗付与機構が構成されている。なお、その流通抵抗付与機構による減衰特性は、車体と車輪12とが離間する場合と、接近する場合とで異なるものとされている。具体的には、車体と車輪12との離間動作に対する減衰係数と、それらの接近動作に対する減衰係数が異なる大きさとなるように、流通抵抗付与機構が構成されている。図8に、流通抵抗付与機構の減衰特性を、シリンダ装置40のストローク速度Vと減衰力Fとの関係で示す。その図8に示すように、流通抵抗付与機構の減衰特性は、接近動作に対する減衰係数が、比較的低めの1500N・sec/m(減衰比で言えば、0.15程度)に設定さている。一方、離間動作に対する減衰係数は、その接近動作に対する減衰係数より大きな値に設定されている。具体的には、離間動作に対する減衰係数は、4000N・sec/m(減衰比で言えば、0.4程度)とされ、コンベンショナルなショックアブソーバに設定される程度の大きさに設定されている。
【0080】
<本コロイダルダンパの特徴>
【0081】
上述したように、本コロイダルダンパ10は、ショックアブソーバとしての機能だけでなく、サスペンションスプリングとしての機能をも有することから、サスペンションスプリングを設ける必要がなく、本コロイダルダンパ10を用いた車両用サスペンション装置は、簡便な構成のものとなっている。
【0082】
本コロイダルダンパ10は、多孔質体と作動液とからなるコロイド溶液が密封容器内に密封されており、作動液がその密封容器外へは流出しないように構成されている。つまり、本コロイダルダンパ10は、比較的硬度の高い疎水化多孔質シリカゲル粒子100がハウジング42やピストン44と擦れ合うことがなく、シリンダ装置40内の摩耗を防止することが可能である。また、例えば、フィルタや容器によって、ハウジングのピストンが摺動する部分から多孔質体を隔離する構成のコロイダルダンパも存在する。しかしながら、そのフィルタや容器によって多孔質体を隔離した構成のコロイダルダンパは、ストレス等によって粉砕されて小さくなった多孔質体が、そのフィルタや容器に目詰まりしたり、それを通過したりしてしまうという問題がある。それに対して、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液が密封容器に密封されているため、多孔質体が粉砕されて小さくなったとしても、当然に密封容器外へ流出することがない。したがって、本コロイダルダンパ10は、耐久性に優れたコロイダルダンパとなっている。
【0083】
また、本コロイダルダンパ10は、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に流出入させる第1作動液(容器内作動液)と、シリンダ装置40に加えられる力をコロイド溶液密封体92に伝達するためにチャンバ60,62内に充填された第2作動液(容器外作動液)とが、異なる液体とされて、互いに異なる性質,特性を有するものとなっている。具体的に言えば、容器外作動液である鉱物油110と、容器内作動液である水84とは、動粘度が互いに異なり、容器外作動液の動粘度が、容器内作動液の動粘度より高いものとなっている。それによって、容器外作動液である鉱物油110は、シリンダ装置40に加えられる力をコロイド溶液密封体92に効率的に伝達することが可能である。また、本コロイダルダンパ10は、1Wを受け持つために、シリンダ装置40の内圧を高圧に保持することが必要となる。本コロイダルダンパ10は、容器外作動液である鉱物油110が粘度の高いものとされているため、ハウジング40に設けられるシール130,132の密封性が確保されたものとなっている。
【0084】
また、容器外作動液である鉱物油110と、容器内作動液である水84とは、熱伝導率が互いに異なり、容器外作動液の熱伝導率が、容器内作動液の熱伝導率より低いものとなっている。本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92が鉱物油110によって覆われるような構成とされている。つまり、本コロイダルダンパ10は、容器内作動液である水84は、外気温が低下すると凝固する虞があるが、熱伝導率の低い鉱物油110によって水84の温度が外部に逃げることを抑え、水84の温度低下を抑制することが可能とされているのである。
【0085】
さらに、容器外作動液である鉱物油110と、容器内作動液である水84とは、凝固温度が互いに異なり、容器外作動液の凝固温度が、容器内作動液の凝固温度より低いものとなっている。例えば、容器外作動液が凝固し始めると、シリンダ装置40に加わる力に対して、コロイド溶液密封体92に伝達される力が変動してしまう虞がある。しかしながら、本コロイダルダンパ10は、その凝固しにくい鉱物油110によって、シリンダ装置40に加わる力をコロイド溶液密封体92に確実に伝達することが可能とされている。
【0086】
本コロイダルダンパ10は、車体と車輪保持部材との相対動作を、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に対する水84の流入・流出によって減衰させるだけでなく、2つのチャンバ60,62の間の鉱物油110の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成される。つまり、本コロイダルダンパ10の減衰特性は、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に対する水84の流入・流出による減衰特性(コロイド溶液依存減衰特性)と、2つのチャンバ60,62の間の鉱物油110の流通に対して抵抗を付与することによる減衰特性(流通抵抗依存減衰特性)とが組み合わわれたものとなっている。そのコロイド溶液依存減衰特性は、先にも述べたように、シリンダ装置40が伸張する場合に減衰力を発生させるものである。それに対して、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92によっては、ほとんど減衰されることがないシリンダ装置40の収縮する動作を、流通抵抗付与機構によって減衰させることが可能とされている。
【0087】
また、コロイド溶液密封体92によって散逸できるエネルギは、図9からも解るように、車体と車輪12との相対振動の振幅に依存し、振幅が小さくなるほど小さくなる。つまり、コロイド溶液依存減衰特性は、ばね上共振周波数域の振動であるばね上振動や、車両の旋回による車体のロール,車両の加減速による車体のピッチ等のように、比較的振幅が大きくなる振動や動作は、効果的に減衰可能である。しかしながら、ばね下共振周波数域の振動であるばね下振動のように、速度が速くても振幅が小さい振動に対しては、十分な減衰力が得られない虞がある。それに対して、本コロイダルダンパ10は、流通抵抗付与機構の接近動作における減衰係数が、ばね下振動を減衰可能な比較的低めの値に設定されているため、そのコロイド溶液密封体92によっては十分に減衰できない虞があるばね下振動を、流通抵抗付与機構によって効果的に減衰させることが可能である。以上のことから、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92による減衰、および、流通抵抗付与機構による減衰によって、車体と車輪保持部材との間の振動を効果的に減衰することが可能とされている。
【0088】
さらに、本コロイダルダンパ10は、シリンダ装置40がストロークしている場合、上室60と下室62との間に差圧が生じることになる。具体的には、シリンダ装置40が収縮している場合、下室62の圧力が上室60の圧力より高くなり、シリンダ装置40が伸張している場合に、下室62の圧力は上室60の圧力より低くなる。つまり、下室62の圧力は、図7に示したシリンダ装置40の内圧に比較して、シリンダ装置40が収縮している場合に高くなり、伸張している場合に低くなるため、1サイクル動作した場合において、図10に示すように変化することになる。したがって、その図10からも解るように、1サイクル動作した場合に散逸できるエネルギが大きくなり、車体と車輪12との相対動作を効率的に減衰することが可能となる。また、図10から解るように、シリンダ装置40が伸張動作から接近動作に切り換わる場合、および、接近動作から伸張動作に切り換わる場合に、より詳しく言えば、疎水化多孔質シリカゲル100の細孔102に対して水84が流入する状態と流出する状態との間で切り換わる場合に、内圧の変化勾配が急になっている。つまり、本コロイダルダンパ10においては、疎水化多孔質シリカゲル100の細孔102に対して水84が流入する状態と流出する状態との間での切り換わりを、比較的早くすることが可能となる。
【0089】
<変形例>
図11に、変形例のコロイダルダンパ200の正面断面図を示す。上記実施例のコロイダルダンパ10が、2つのチャンバ60,62のうちのピストンロッド46が貫通していない方のチャンバである下室62に、コロイド溶液が密封されていたが、本変形例のコロイダルダンパ200は、2つのチャンバ60,62のうちのピストンロッド46が貫通している方のチャンバである上室62に、コロイド溶液が密封されている。以下に、その変形例のコロイダルダンパ200について詳しく説明する。シリンダ装置202は、ハウジング42の上部において接続された球状のケース204を備えている。そのケース204は、内部にゴム製のダイヤフラム206が設けられ、そのダイヤフラム206によって2つの容積変化室に区画されたものである。それら2つの容積変化室のうちの左側の容積変化室208が、ハウジング42内の上室60に連通され、第2作動液である鉱物油110が充填されている。一方、右側の容積変化室210は、密封空間とされており、疎水化多孔質シリカゲル82と、第1作動液としての水84とが混合されたコロイド溶液90が充填されている。つまり、ダイヤフラム206が、コロイド溶液90を密封するための密封部材として機能する。
【0090】
本変形例のコロイダルダンパ200は、上記実施例のコロイダルダンパ10と同様に、車体と車輪12とが接近動作する場合、換言すれば、シリンダ装置202が収縮する場合に、そのシリンダ装置202内の圧力が増加して疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に対して水84が流入し、車体と車輪12とが離間動作する場合、換言すれば、シリンダ装置202が伸張する場合に、シリンダ装置202内の圧力が減少して疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102から水84流出するように構成される。つまり、本変形例のコロイダルダンパ200において、コロイド溶液90による減衰特性は、上記実施例のコロイダルダンパ10と同様に、図7に示した特性となる。
【0091】
本変形例のコロイダルダンパ200においても、流通抵抗付与機構によって、シリンダ装置202がストロークしている場合、上室60および容積変化室208,210からなる第1チャンバと、第2チャンバである下室62との間には、差圧が生じることになる。しかし、本変形例のコロイダルダンパ200は、コロイド溶液90が、ピストンロッド46が貫通している方の第1チャンバに収容されているため、その第1チャンバの圧力は、先に述べた仮想内圧に比較して、シリンダ装置40が収縮している場合に低くなり、伸張している場合に高くなるように構成されているのである。
【符号の説明】
【0092】
10:コロイダルダンパ 12:車輪 26:第2ロアアーム 30:アクスルキャリア(車輪保持部材) 32:マウント部(車体の一部) 40:シリンダ装置 42:ハウジング 44:ピストン 60:ピストン本体 62:上室(チャンバ) 64:下室 68:ピストンロッド 80:ベローズ(密封部材) 82:疎水化多孔質シリカゲル 84:水(第1作動液) 90:コロイド溶液 92:コロイド溶液密封体 100:疎水化多孔質シリカゲル粒子(多孔質体) 102:細孔 110:鉱物油(第2作動液) 120,122:連通路 124,126:弁板 200:コロイダルダンパ 202:シリンダ装置 204:ケース 206:ダイヤフラム(密封部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔を有する多孔質体と液体とが混合されたコロイド溶液を含んで構成され、その多孔質体の細孔に対する液体の流出入による作用を利用して外部から加えられたエネルギを散逸させることが可能なコロイダルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献に記載されているコロイダルダンパは、疎水化多孔質シリカゲル等の多孔質体と液体とが混合されたコロイド溶液を用いたものであり、そのコロイド溶液において、多孔質体が有する細孔に対し、液体が表面張力の作用下で繰り返し流入・流出することにより、外部から加えられたエネルギを散逸させるように構成されている。そのコロイダルダンパは、例えば、エネルギの散逸量が振幅に依存した大きさになることなど、従来の液圧式ダンパにはない特徴を有しており、種々の分野への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/029501号パンフレット
【特許文献2】特開2008−309250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載のコロイダルダンパは、未だ開発途上であり、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、そのコロイダルダンパの実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いコロイダルダンパを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のコロイダルダンパは、(a)相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、(b)そのハウジング内を2つのチャンバに区画するピストンと、(c)一端部がピストンに連結されるとともに、他端部がハウジングから延び出して相対動作する2つの物の他方に連結されるピストンロッドとを備えたシリンダ装置と、ハウジング内に収容された(A)多数の細孔を有する多孔質体および(B)作動液とを含み、相対動作する2つの物の相対動作の際に、多孔質体の細孔に対して作動液が流入・流出することによって、それらの相対動作を減衰させるように構成されたものであり、シリンダ装置が、さらに、2つのチャンバを連通させる連通路を有してその連通路における2つのチャンバ間の作動液の流通に対して抵抗を付与する機構を含んで構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコロイダルダンパは、2つの物の相対動作を、多孔質体の細孔に対して作動液が流入・流出することによって減衰させることに加えて、2つのチャンバ間の作動液の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成されており、2種類の減衰特性を併せ持つものとなる。本発明のコロイダルダンパによれば、それら2種類の減衰特性によって当該コロイダルダンパの減衰特性の適切化を図ることが可能であり、2つの物の相対動作に適応した減衰特性とすることで、それらの相対動作を効果的に減衰させることが可能となる。そのような利点を有することで、本発明のコロイダルダンパは、実用性の高いものとなる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、その請求項1に(2)項の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(3)項の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項2に(4)項の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(11)項の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項5に(15)および(17)項の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項5または請求項6に(15)項および(18)項の技術的特徴を付加したものが請求項7に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)(a)相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、(b)そのハウジング内を2つのチャンバに区画するとともにそのハウジング内を摺動可能なピストンと、(c)前記2つのチャンバのうちのいずれかを貫通して配設され、一端部が前記ピストンに連結されるとともに、他端部が前記ハウジングから延び出して前記2つの物の他方に連結されるピストンロッドとを備えたシリンダ装置と、
前記ハウジング内に収容された(A)多数の細孔を有する多孔質体および(B)作動液と
を含んで構成され、
前記2つの物の相対動作の際に、前記多孔質体の細孔に対して前記作動液が流入・流出することによって、それら2つの物の相対動作を減衰させるように構成されたコロイダルダンパであって、
前記シリンダ装置が、さらに、
前記2つのチャンバを連通させて前記ピストンの摺動に伴う前記2つのチャンバ間の前記作動液の流通を許容する連通路を有し、その連通路における前記作動液の流通に対して抵抗を付与する流通抵抗付与機構を備えたコロイダルダンパ。
【0010】
本項に記載のコロイダルダンパは、2つの物の相対動作を、多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出によって減衰させるだけでなく、2つのチャンバ間の作動液の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成される。そして、多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出による減衰特性は、エネルギ散逸量が2つの物の相対動作の振幅に依存する減衰特性であり、作動液の流通に対して抵抗を付与することによる減衰特性は、2つの物の相対動作の速度に依存する減衰特性であり、本項に記載のコロイダルダンパは、それら2種類の特性を併せ持つもの、換言すれば、それら2種類の減衰特性が組み合わさった特性を有するものとなっている。したがって、それら2種類の減衰特性によって、当該コロイダルダンパの減衰特性を種々に設定することが可能であり、本項の態様によれば、例えば、2つの物の相対振動の周波数帯や振幅など、2つの物の相対動作に適応するように、当該コロイダルダンパの減衰特性の適切化を図ることが可能となる。
【0011】
なお、以下の説明において、多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出による減衰特性をコロイド溶液依存減衰特性と呼び、作動液の流通に対して抵抗を付与することによる減衰特性を流通抵抗依存減衰特性と呼ぶ場合がある。また、コロイダルダンパが発生させる減衰力のうちの多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出に起因して発生することになる減衰力を、コロイド溶液依存減衰力と呼び、コロイダルダンパが発生させる減衰力のうちの流通抵抗付与機構が付与する抵抗に起因して発生することになる減衰力を、流通抵抗依存減衰力と呼ぶ場合がある。
【0012】
本項に記載のコロイダルダンパには、「多孔質体」および「作動液」が混合されたコロイド溶液が用いられる。それら「多孔質体」および「作動液」の種類は、特に限定されないが、互いに親和性が低く、容易に結合しにくいものどうしであること、平たく言えば、多孔質体が作動液に溶けにくいことが望ましい。その「多孔質体」には、nm(ナノメータ)オーダの細孔を有するμm(マイクロメータ)オーダの粒状物(マイクロ粒子)を採用可能であり、例えば、疎液性を有して作動液に容易に溶けないものや、疎液性の物質により被覆されたものを採用することが可能である。具体的には、例えば、その多孔質体には、シリカゲル,アエロゲル,セラミックス,ゼオライト,多孔質ガラス,多孔質ポリスチレン等を採用可能である。また、「作動液」には、例えば、水,水と不凍剤(エタノール,エチレングリコール,プロピレングリコール,グリセリン等)との混合液,水銀,溶融金属等を採用可能である。なお、水は表面張力が比較的大きいため、作動液として水を採用した場合には、多孔質体の細孔に水が流入・流出する際に、その大きな表面張力によって、大きな力を発生させるコロイダルダンパが実現する。なお、作動液に水を用いる場合には、上述したように、多孔質体には、親水性の低いものや、疎水化処理したものを用いることが望ましい。
【0013】
多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出による減衰特性を、単純な構成のコロイダルダンパを例に、具体的に言えば、シリンダ装置が、ハウジングとピストンとによって1つのチャンバが形成されてその1つのチャンバに上記「多孔質体」と「作動液」とが混合されたコロイド溶液が充填された構成のコロイダルダンパを例に、詳しく説明する。そのような構成のコロイダルダンパにおいて、ハウジングとピストンとに対してチャンバの容積を減少させるような力が加わると、まず、コロイド溶液においては、作動液の液圧が高められる。作動液の液圧がある大きさまで高まると、作動液は、その作動液の表面張力に抗して、多孔質体の細孔に流入するのである。そして、その作動液の細孔への流入によって、チャンバの容積が減少するように、ハウジングとピストンとが相対動作することになる。一方、ハウジングとピストンとに対して加わっている力が無くなれば、作動液の液圧が低下し、作動液の液圧が低下する。作動液の液圧が低下すると、作動液は、多孔質体の細孔から流出するのである。そして、その作動液の細孔からの流出によって、チャンバの容積が増大するように、ハウジングとピストンとが相対動作することになる。
【0014】
上述したように、上記の構成のコロイダルダンパにおいては、ハウジングとピストンとの相対位置と、作動液の多孔質体への流入量とが、互いに関係する。また、作動液の多孔質体への流入量に応じて、チャンバ内の圧力が変化する。つまり、ハウジングとピストンとの相対位置と、チャンバ内の圧力とが、互いに関係することになる。そして、多孔質体と作動液との間の状態を、それらの間の接触角を用いて説明すれば、多孔質体へ作動液が流入する際に接触角が大きい状態となり、多孔質体から作動液が流出する際に接触角が小さい状態となる。そのため、作動液流入時(収縮時)のチャンバ内の圧力と、作動液流出時(伸張時)のチャンバ内の圧力とには、差が生じる。つまり、ハウジングとピストンとの相対動作位置の変化に対するチャンバ内の圧力の変化に、ヒステリシスが生じるのであり、そのことによって、コロイダルダンパは、例えば、相対動作する2つの物の運動エネルギを散逸して、相対動作する2つの物の相対動作を減衰させる構成とされている。
【0015】
本項に記載の「流通抵抗付与装置」が有する「連通路」は、2つのチャンバを区画するピストンや、ハウジングに設けられてもよく、ピストンとハウジングとによって形成されてもよい。また、その連通路は、作動液の流通を許容するものであればよく、作動液とともに多孔質体をも通過させるものであってもよい。しかしながら、後に詳しく説明するが、チャンバ内にコロイド溶液が充填される構成のコロイダルダンパにおいては、多孔質体によって、シリンダ装置の内部が摩耗するという問題がある。つまり、連通路が形成されたものの摩耗を防止するという観点からすれば、本項に記載のコロイダルダンパは、後に詳しく説明するように、多孔質体が連通路を通過しないように構成されることが望ましい。なお、本項に記載の「流通抵抗付与装置」は、その構成が特に限定されるものではない。例えば、上記の連通路に設けられたオリフィス,絞り弁等によって構成することが可能である。
【0016】
(2)当該コロイダルダンパが、
可撓性を有し、自身のみによって若しくは自身と前記ハウジングとによって前記2つのチャンバの一方の内部に密封空間を形成するとともにその密封空間に前記多孔質体と前記作動液の一部とをそれらが混合した状態で密封し、自身が変形することによって、前記多孔質体の細孔に対する前記作動液の一部の流入・流出に伴う前記密封空間の容積の変化を許容する密封部材を含んで構成された(1)項に記載のコロイダルダンパ。
【0017】
上述したように、チャンバ内にコロイド溶液が充填される構成のコロイダルダンパにおいては、多孔質体によって、シリンダ装置の内部が摩耗するという問題がある。特に、ピストンのシール部材や、ハウジングのピストンが摺動する部分等の摩耗は、コロイド溶液の漏れに繋がるため、大きな問題となる。さらに、先にも述べたように、2つのチャンバが連通路によって連通される本コロイダルダンパにおいては、その連通路を構成する部材等が摩耗する虞がある。そのような問題に対応すべく、フィルタや容器によって、ハウジングのピストンが摺動する部分から多孔質体を隔離する構成のコロイダルダンパも存在する。しかしながら、多孔質体は、ストレス等によって、粉砕されて小さくなる場合がある。つまり、フィルタや容器によって多孔質体を隔離した構成のコロイダルダンパは、そのフィルタや容器が作動液を通過させるものであるために、粉砕されて小さくなった多孔質体が、そのフィルタや容器に目詰まりしたり、それを通過したりしてしまうという問題がある。
【0018】
上記のような構成のコロイダルダンパに対して、本項に記載のコロイダルダンパは、コロイド溶液が密封部材によって形成される空間に密封されており、多孔質および作動液がその密封空間外へは流出しないように構成されている。つまり、本項の態様は、多孔質体がピストンと擦れ合うことがなく、シリンダ装置内の摩耗を防止することが可能である。また、上述したように、多孔質体が粉砕されて小さくなったとしても、当然、密封空間外へ流出することもない。したがって、本項の態様によれば、耐久性に優れたコロイダルダンパが実現することになる。なお、本項の態様は、ハウジングとピストンとの相対動作の際、多孔質体に対して作動液が流入・流出してコロイド溶液密封体の体積が変化することで、シリンダ装置のチャンバの容積の変化、つまり、シリンダ装置のストローク動作が許容されるように構成することが可能である。
【0019】
本項に記載の態様においては、密封部材によって密封空間内に隔離された作動液の一部を除いた作動液の残部は、2つのチャンバのうちの密封部材が設けられた方における密封空間の外部、および、2つのチャンバのうちの密封部材が設けられていない方の内部に存在することになる。つまり、本項の態様は、シリンダ装置に加わる力を、密封部材内のコロイド溶液に、作動液の残部である密封空間外作動液を介して伝達するように構成された態様である。本項に記載の「作動液の一部(以下、「密封空間内作動液」という場合がある。)」と、上記の「作動液の残部(密封空間外作動液)」とは、同一の液体であってもよく、性質において互いに異なる液体であってもよい。なお、シリンダ装置に加えられた力の伝え易さという観点からすれば、上記の密封空間外作動液には、粘度の高いものを採用することが望ましい。
【0020】
本項に記載の「密封部材」は、コロイド溶液を密封した状態を保持しつつ、多孔質体への作動液の流入・流出に伴うコロイド溶液の体積の変化を許容するためのものである。その密封部材は、密封部材のみでコロイド溶液を密封する空間を形成するものであってもよく、ハウジングと協同してコロイド溶液を密封する空間を形成するようなものであってもよい。詳しく言えば、密封部材のみでコロイド溶液を密封する空間を形成する態様は、例えば、コロイド溶液を内部に充填させる容器状の密封部材とすることで実現可能である。また、密封部材がハウジングと協同してコロイド溶液を密封する空間を形成する態様は、例えば、ハウジング内面に可撓性のある部材の外周部を固着させることで実現可能である。また、密封部材は、自身の変形に対して復元する力を発生させるものであってもよく、その復元する力を発生させないものであってもよい。具体的には、例えば、袋状のもの,伸縮性を有するもの,弾性を有するものなど、種々のものを採用可能である。
【0021】
(3)前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通していない方の内部に設けられた(2)項に記載のコロイダルダンパ。
【0022】
(4)前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通している方の内部に設けられた(2)項に記載のコロイダルダンパ。
【0023】
上記2つの項に記載の態様は、2つのチャンバのうちのいずれに、密封空間を形成するかを限定した態様である。それらのいずれの態様においても、2つの物が接近動作する場合、換言すれば、シリンダ装置が収縮する場合に、ハウジング内の圧力が増加し、多孔質体の細孔に対して作動液が流入し、2つの物が離間動作する場合、換言すれば、シリンダ装置が伸張する場合に、ハウジング内の圧力が減少し、多孔質体の細孔から作動液が流出するように構成される。
【0024】
ただし、本コロイダルダンパは、ハウジングが2つのチャンバに区画されてシリンダ装置が流通抵抗付与機構を備えているため、シリンダ装置が伸縮している過程においては、2つのチャンバの間に差圧が生じることになる。具体的には、シリンダ装置が収縮している過程において、ピストンロッドが貫通していない方のチャンバ内の圧力が、ピストンロッドが貫通している方のチャンバ内の圧力より高くなり、シリンダ装置が伸張している過程において、ピストンロッドが貫通している方のチャンバ内の圧力が、ピストンロッドが貫通していない方のチャンバ内の圧力より高くなる。つまり、2つの項のうちの前者の態様によれば、先に述べた単純な構成のコロイダルダンパに比較して、密封部材が設けられた方のチャンバ内の圧力、つまり、密封空間に加わる力を、シリンダ装置の収縮時に増大させ、シリンダ装置の伸張時に減少させることができる。一方、2つの項のうちの後者の態様によれば、密封空間に加わる力を、シリンダ装置の収縮時に減少させ、シリンダ装置の伸張時に増大させることができる。ちなみに、前者の態様は、密封部材が設けられた方のチャンバ内の圧力における収縮時の大きさと伸張時の大きさとの差を、先に述べた単純な構成のコロイダルダンパに比較して大きくすることになるため、1サイクルで散逸可能なエネルギを大きくすることが可能である。
【0025】
(5)前記密封部材が、
前記2つのチャンバのうちの自身が設けられた方の内部において、前記ピストンから離れた端に前記密封空間を形成するように設けられた(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0026】
本項に記載の態様は、密封空間を形成する位置を限定した態様であり、本項の態様によれば、密封部材が、ピストンの動作に干渉しないようにすることが可能であり、ハウジング内におけるピストンの摺動の妨げとなることを確実に防止することが可能である。
【0027】
(6)前記密封空間に密封された前記作動液の一部が、水である(2)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0028】
(7)前記多孔質体が、疎水化処理された多孔質シリカゲルである(6)項に記載のコロイダルダンパ。
【0029】
上記2つの項に記載の態様は、コロイド溶液の構成に限定を加えた態様である。先にも述べたように、水は表面張力が大きいため、コロイダルダンパの作動液として好適である。そして、作動液を水とした場合には、多孔質体は、疎水性を有するものであることが望ましく、後者の態様は、その望ましい態様である。
【0030】
(8)前記密封空間に密封された前記作動液の一部を、第1作動液とした場合に、
前記作動液の残部が、第2作動液として、前記2つのチャンバのうちの前記密封部材が設けられた方の前記密封空間の外部および前記2つのチャンバのうちの前記密封部材が設けられていない方の内部に収容された(2)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0031】
本項に記載の「第1作動液」は、密封空間の内部に収容された作動液であり、密封空間内作動液と言うこともでき、一方、「第2作動液」は、密封空間の外部に存在する作動液であり、密封空間外作動液と言うこともできる。それら「第1作動液」と「第2作動液」とは、先にも述べたように同一の液体であってもよく、例えば、性質,特性,種類等において互いに異なる液体であってもよい。
【0032】
(9)前記第1作動液と前記第2作動液とが、性質において互いに異なる(8)項に記載のコロイダルダンパ。
【0033】
先にも述べたように、コロイド溶液に混合される第1作動液は、大きな表面張力を有するものであることが望ましく、第2作動液は、シリンダ装置に加わる力を密封空間に効率的に伝達可能なものであることが望ましい。本項の態様は、そのような要望等に応じて、第1作動液と第2作動液とを、それぞれ適切な液体を採用した態様とすることが可能である。本項の態様において、第1作動液と第2作動液とは、例えば、水とオイルのように種類の異なる液体であってもよく、高粘度のオイルと低粘度のオイルのように、同じ種類の液体で性質,特性が異なるものであってもよい。
【0034】
(10)前記第2作動液が、オイルである(8)項または(9)項に記載のコロイダルダンパ。
【0035】
本項に記載の態様は、第2作動液を限定した態様であり、例えば、鉱物油や、合成油であるシリコンオイル等を採用可能である。例えば、本項の態様と、先に述べた第1作動液を水とした態様とを合わせた構成のコロイダルダンパを考える。一般的に、オイルの粘度は水の粘度より高いため、シリンダ装置に加わる力を、密封空間内のコロイド溶液に効率的に伝達することが可能である。また、例えば、コロイダルダンパが、サスペンション装置を構成して車体を支持するような構成である場合、シリンダ装置のチャンバ内を高圧に保持するために、ハウジングに設けられるシールの密封性を確保する必要がある。粘度の高いオイルは、シールから漏れにくく、上記のようなチャンバ内を高圧に保持する必要のあるコロイダルダンパにおいて、特に有効である。また、一般的に、オイルは、潤滑性も良好であり、ハウジング内におけるピストンの摺動を円滑なものとすることが可能である。
【0036】
また、一般的に、オイルの凝固温度は、水の凝固温度より低い。例えば、第2作動液が凝固し始めると、シリンダ装置に加わる力に対して、密封空間内のコロイド溶液に伝達される力が変動してしまう虞がある。しかしながら、本項の態様によれば、その凝固しにくいオイルによって、シリンダ装置に加わる力をコロイド溶液に確実に伝達することが可能である。
【0037】
さらに、一般的に、オイルの熱伝導率は、水の熱伝導率より低い。コロイド溶液内の水は、外気温の低下によって凝固する虞があるが、密封空間をオイルで覆うように構成することによって、熱伝導率の低いオイルによってコロイド溶液内の水の温度が外部に逃げることを抑え、水が凝固することを防止することが可能である。
【0038】
(11)前記2つの物が、車体と、車輪を回転可能に保持する車輪保持部材であって、
前記ハウジングが、前記車体と前記車輪保持部材との一方に連結されるとともに、前記ピストンロッドの前記他端部が、前記車体と前記車輪保持部材との他方に連結され、
当該コロイダルダンパが、前記車体を懸架するための車両用サスペンション装置を構成するものとされた(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0039】
本項に記載の態様は、コロイダルダンパを、車両用サスペンション装置の一構成要素とした態様である。詳しく言えば、少なくとも、車体と車輪保持部材との相対動作を減衰させるショックアブソーバとして機能させる態様である。
【0040】
(12)当該コロイダルダンパが、
前記多孔質体に前記作動液が流入した状態における前記ハウジング内の圧力によって、前記車体を支持するように構成された(11)項に記載のコロイダルダンパ。
【0041】
(13)当該コロイダルダンパが、
前記多孔質体に前記作動液が流入した状態における前記ハウジング内の圧力によって、自身に対応する車輪の分担荷重のすべてを受け持つように構成された(12)項に記載のコロイダルダンパ。
【0042】
上記2つの項に記載の態様は、コロイダルダンパによって、自身に対応する車輪の分担荷重(いわゆる、1W)の少なくとも一部を受け持つ態様である。つまり、上記2つの項の態様は、コロイダルダンパを、ショックアブソーバとしてだけでなく、ばねとしても利用する態様である。なお、後者の態様は、その1Wのすべてを受け持つことが可能とされた態様であり、後者の態様によれば、別途、サスペンションスプリングを設ける必要がなく、コンパクトなサスペンション装置が実現することになる。
【0043】
(14)当該コロイダルダンパが、
前記車体と前記車輪保持部材が相対動作する範囲において、前記ハウジング内の圧力が、前記多孔質体へ流入した前記作動液の量に比例した大きさとなるように構成された(12)項または(13)項に記載のコロイダルダンパ。
【0044】
従来の研究や実験によって、一般的なコロイダルダンパの特性として、チャンバ内の圧力と、作動液の多孔質体への流入量とが、ほぼリニアな関係にある範囲が存在することが解っている。本項の態様は、例えば、シリンダ装置のストローク範囲、あるい、相対動作する2つの物の相対動作する範囲が、そのチャンバ内の圧力と作動液の流入量とがリニアな関係にある範囲内となるように構成することができる。本項の態様は、コロイダルダンパによって、車体を常時支えること、換言すれば、コロイダルダンパを常時サスペンションスプリングとして機能させることが可能となる。
【0045】
上述した態様である、シリンダ装置のストローク範囲がチャンバ内の圧力と作動液の流入量とがリニアな関係にある範囲内となるような態様は、例えば、以下のように構成することが可能である。まず、作動液の多孔質体への流入量は、2つのチャンバ内の圧力が等しいと仮定した場合において、ピストンロッドのハウジング内へ進入した体積分に略等しい。そのことを考慮して、まず、多孔質体の量を、シリンダ装置がフルリバウンド位置からフルバウンド位置までストロークした場合のピストンロッドのハウジング内へ進入した体積と同じ量の作動液を流入させることが可能な量に決定する。次に、作動液の量を、その多孔質体に流入する量(=ピストンロッドのハウジング内へ進入した体積)より多い量に決定する。つまり、それらを混合させたコロイド溶液を備えさせることで、上記の態様のコロイダルダンパを構成することができる。
が望ましい。
【0046】
(15)前記流通抵抗付与機構によって前記作動液の流通に対して付与される抵抗に依存して当該コロイダルダンパが発生させる減衰力の大きさの基準が、流通抵抗依存減衰係数として定義された(11)項ないし(14)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0047】
(16)前記流通抵抗付与機構が、
前記車体と前記車輪保持部材との離間動作における前記流通抵抗依存減衰係数が、前記車体と前記車輪保持部材との接近動作における前記流通抵抗依存減衰係数より大きくなるように構成された(15)項に記載のコロイダルダンパ。
【0048】
本項の態様によれば、接近動作における減衰係数が離間動作における減衰係数より小さくされているため、路面の凸部を走行する際の衝撃を効果的に緩和することが可能である。
【0049】
(17)前記流通抵抗付与機構が、
前記流通抵抗依存減衰係数が、前記車体と前記車輪保持部材との相対振動におけるばね下共振周波数域の成分の振動を減衰させるのに適した減衰係数となるように構成された(15)項または(16)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0050】
多孔質体の細孔に対する作動液の流入・流出によって散逸できるエネルギは、車体と車輪保持部材との相対振動の振幅が小さくなるほど小さくなる。つまり、一般的なコロイダルダンパは、ばね上共振周波数域の振動であるばね上振動のように、比較的振幅が大きくなる振動は効果的に減衰可能である。しかしながら、ばね下共振周波数域の振動であるばね下振動のように、車体と車輪保持部材との相対動作の速度が速くても振幅が小さい振動に対しては、十分な減衰力が得られない虞がある。本項に記載のコロイダルダンパは、流通抵抗付与機構によってばね下振動を減衰させることができるため、車体と車輪保持部材との間の振動を効果的に減衰することが可能である。
【0051】
(18)前記流通抵抗付与機構が、
前記車体と前記車輪保持部材との接近動作における前記流通抵抗依存減衰係数の臨界減衰係数に対する比が、0.1以上かつ0.3以下となるように構成された(15)項ないし(17)項のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【0052】
本項に記載の「流通抵抗依存減衰係数の臨界減衰係数に対する比」とは、流通抵抗付与機構によって車体と車輪保持部材との接近動作を減衰させる能力の基準となるものであり、いわゆる減衰比である。本項の態様は、その流通抵抗付与機構の減衰させる能力に限定を加えた態様であり、接近動作における減衰比が、比較的低めに設定された態様、つまり、接近動作における減衰係数が、比較的低めに設定された態様である。つまり、本項の態様は、比較的周波数の高い振動を効果的に減衰可能とされた態様であり、先に述べた態様である、流通抵抗依存減衰係数がばね下振動を減衰させるのに適した減衰係数に設定された態様の一態様と考えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパを一構成要素とした車両用サスペンション装置の正面図である。
【図2】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパの正面断面図である。
【図3】図2に示すコロイド溶液を構成する多孔質体を模式的に示す断面図である。
【図4】図2に示すコロイダルダンパを拡大して示す正面断面図であり、シリンダ装置が伸縮する場合の作動液の流れを示す図である。
【図5】従来から知られている簡便な構成のコロイダルダンパの正面断面図である。
【図6】図5に示すコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストロークとシリンダ装置の内圧との関係を示す図である。
【図7】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストロークと、2つのチャンバの各々の内圧が等しいと仮定した場合のシリンダ装置の内圧との関係を示す図である。
【図8】シリンダ装置のストローク速度とコロイダルダンパが発生させる減衰力との関係を示す図である。
【図9】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストローク動作の振幅と散逸エネルギとの関係を示すための図である。
【図10】請求可能発明の実施例であるコロイダルダンパにおけるシリンダ装置のストロークとコロイド溶液密封体が収容された方のチャンバの内圧との関係を示す図である。
【図11】変形例のコロイダルダンパの正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、請求可能発明の代表的な実施形態を、実施例およびその変形例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0055】
<サスペンション装置の構成>
本実施例のコロイダルダンパ10は、図1に示すように、車両用サスペンション装置の一構成要素とされている。その車両用サスペンション装置は、車両が有する車輪12の各々に対応して設けられる独立懸架式のものであり、マルチリンクサスペンション装置とされている。サスペンション装置は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム20,第2アッパアーム22,第1ロアアーム24,第2ロアアーム26,トーコントロールアーム28を備えている。5本のアーム20,22,24,26,28のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪12を回転可能に保持する車輪保持部材としてのアクスルキャリア30に回動可能に連結されている。それら5本のアーム20,22,24,26,28により、アクスルキャリア30は、車体に対して一定の軌跡に沿った上下動が許容されている。本コロイダルダンパ10は、車体の一部であるタイヤハウジングに設けられたマウント部32と、上記第2ロアアーム26との間に配設されている。
【0056】
図2に、コロイダルダンパ10の正面断面図を示す。コロイダルダンパ10は、シリンダ装置40を主体とするものであり、そのシリンダ装置40が、マウント部32と第2ロアアーム26との間に配設されている。シリンダ装置40は、概して円筒状のハウジング42と、そのハウジング42に対して摺動可能に配設されたピストン44と、そのピストン44に下端部が連結されて上端部がハウジング42の上部から延び出すピストンロッド46とを含んで構成されている。そして、ピストンロッド46が、上端部において防振ゴム50を含んで構成されるアッパサポート52を介してマウント部32の下面側に連結され、ハウジング42が、それの下端部において、ブシュ54を介して第2ロアアーム26に連結されている。つまり、ハウジング42と、ピストンロッド46およびそれに連結されたピストン44とは、車体(マウント部32)と車輪12(アクスルキャリア30)との接近・離間に応じて軸線方向に相対移動可能とされている。換言すれば、車体と車輪12との接近・離間に応じて、シリンダ装置40が伸縮可能とされているのである。
【0057】
ピストン44は、ハウジング42の内部を、自身を挟んで2つのチャンバである上室60と下室62とに区画している。また、ピストン44は、テフロンコーティングされたバンド64が外周に装着されたものであり、ハウジング42に対して円滑に摺動するようになっている。なお、シリンダ装置40は、カバーチューブ70を備えており、そのカバーチューブ70は、上記ピストンロッド46およびハウジング42の上部を収容し、外部からの塵埃,泥等の侵入を防止するようにされている。
【0058】
ハウジング42内の下端部には、ゴム製のベローズ80が固定されており、下室62に収容されている。そのベローズ80には、疎水化多孔質シリカゲル82と、第1作動液としての水84とが混合されたコロイド溶液90が充填された状態で密封されている。つまり、そのベローズ80は、自身のみによってコロイド溶液90を密封する密封部材として機能するものとなっており、本コロイダルダンパ10は、ベローズ80とコロイド溶液90とを含んで構成されたコロイド溶液密封体92を備えたものとなっている。
【0059】
図3に、疎水化多孔質シリカゲル82の1つの粒子の断面図を模式的に示す。疎水化多孔質シリカゲル粒子100は、外径Dが数μm〜数十μmオーダで、かつ、細孔102の内径dが数nm〜数十nmオーダの球形シリカゲル粒子を、それの表面(細孔内も含む)を疎水性物質で疎水化処理したものである。つまり、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の各々が、多孔質体として機能するものとなっている。
【0060】
上室60には、上記コロイド溶液密封体92が収容された状態で、第2作動液としての鉱物油110が充填されている。また、下室62にも、鉱物油110が充填されている。先にも述べたように、ハウジング42の内部は、ピストン44によって、上室60と下室62とによって区画されている。図4に示すように、そのピストン44には、上室60から下室62に接続するための3本の連通路120と、下室62から上室60に接続するための3本の連通路122とが、軸線周りを6等配した位置に互い違いに設けられている(図4には、1本ずつが図示されている)。
【0061】
ピストン44の下面には、弾性材製の円形をなす3枚の弁板124が配設されている。通常時は、その弁板124によってピストン44の連通路120がほぼ塞がれている。そして、上室60の液圧が下室62の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が小さい場合には、それら弁板124と連通路120との隙間がオリフィスとして機能し、上室60から下室62への鉱物油110の流れが許容される。また、上室60の液圧が下室62の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が大きい場合には、弁板124が撓められて上室60から下室62への鉱物油110のより大きな流れが許容されるようになっている。
【0062】
また、ピストン44の上面には、弾性材製の円形をなす1枚の弁板126が配設されている。通常時は、その弁板126によってピストン44の連通路122がほぼ塞がれている。そして、下室62の液圧が上室60の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が小さい場合には、それら弁板126と連通路122との隙間がオリフィスとして機能し、下室62から上室60への鉱物油110の流れが許容される。また、下室62の液圧が上室60の液圧より高く、それら2つのチャンバ60,62の液圧差が大きい場合には、弁板126が撓められて下室62から上室60への鉱物油110のより大きな流れが許容されるようになっている。
【0063】
ちなみに、後に詳しく説明するが、ハウジング42の内部は高圧になるため、ハウジング42の上方側の蓋部、および、下方側の蓋部には、鉱物油110の漏れを防止するために、複数の高圧シール130,132が設けられている。特に、ピストンロッド46が摺動する上方側の蓋部には、そのピストンロッド46の摺動面に接する2つのシール132が設けられている。それら2つのシール132の間には、グリースが密封されており、シール性が高められている。
【0064】
コロイダルダンパ10は、車体と車輪との接近離間動作を規制する機構、いわゆるバウンドストッパ、および、リバウンドストッパを有している。具体的には、バウンドストッパは、カバーチューブ70の内側の上端に貼着された環状の緩衝ゴム140を含んで構成され、ハウジング42の上端部が、緩衝ゴム140を介してカバーチューブ70に当接するように構成されている。また、リバウンドストッパは、ハウジング42の上方側の蓋部の下面に貼着された環状の緩衝ゴム142を含んで構成され、ピストン44の上面とハウジング42の上方側の蓋部とが、緩衝ゴム142を介して当接するように構成されている。
【0065】
<コロイダルダンパの特性>
i)一般的なコロイダルダンパの特性
上述したように、本サスペンション装置は、コロイダルダンパ10を主体として構成されるものである。そのコロイダルダンパ10の機能について、以下に詳しく説明する。まず、本コロイダルダンパ10について説明する前に、図5に示す簡便な構成のコロイダルダンパ150を例に、コロイダルダンパの一般的な特性について、図6をも参照しつつ詳しく説明する。コロイダルダンパ150は、ハウジング152と、そのハウジング152内を摺動するピストン154とを含んで構成されるシリンダ装置156を備えている。そして、コロイダルダンパ150は、それらハウジング152とピストン154とによって形成されるチャンバ158内に、多孔質体160と作動液162とが混合されたコロイド溶液164が充填されたものである。
【0066】
図6は、ハウジング152とピストン154との相対動作量S(シリンダ装置156のストローク,)と、チャンバ158の内圧pとの関係を示す図である。コロイダルダンパ150において、シリンダ装置156を収縮させる力が外部から加わると、まず、チャンバ158内の作動液162の液圧が大きく(急な勾配で)上昇する(図6における(I)の範囲)。作動液162の液圧が、ある高さ付近まで上昇すると、作動液162は、その作動液162の表面張力に抗して多孔質体160の細孔に流入し始め、加わる力の大きさに比例した量だけ作動液162が流入することになる(図6における(II)の範囲)。その多孔質体160への作動液162の流入によって、コロイド溶液164の容積が減少し、シリンダ装置156が収縮するようにストロークすることになる。つまり、作動液162の流入量とチャンバ158の容積変化とは等しいのであり、作動液162の流入量とシリンダ装置156のストロークとは、リニアな関係にあると言える。また、作動液162の流入量が多くなれば、チャンバ158の内圧も大きくなる。つまり、図6における(II)の範囲に示すように、シリンダ装置156のストロークSと、チャンバ158の内圧pとは、リニアな関係となっている。そして、作動液162が、流入できる限界付近まで多孔質体160内に流入すると、作動液の162の液圧が大きく上昇し始めるのである(図6における(III)の範囲)。
【0067】
次に、シリンダ装置156に加えていた力を取り除くと、作動液162の液圧が大きく(急な勾配で)低下する(図6における(IV)の範囲)。その後、作動液162の液圧が低下すると、多孔質体160の細孔から作動液162が流出するのである(図6における(V)の範囲)。その多孔質体160からの作動液162の流出によって、コロイド溶液164の容積が増加し、シリンダ装置156が伸張するようにストローク動作することになる。なお、この図6における(V)の範囲に示す作動液162が流出する場合も、作動液162が流入するときと同様に、シリンダ装置156のストロークSと、チャンバ158の内圧pとは、リニアな関係となっている。
【0068】
多孔質体160と作動液162との間の状態を、それら多孔質体160と作動液162との間の接触角を用いて説明すれば、多孔質体160へ作動液162が流入する際に接触角が大きく、多孔質体160から作動液162が流出する際に接触角が小さくなる。そのため、図6に示したように、作動液流入時(収縮時)のチャンバ158の内圧と、作動液流出時(伸張時)のチャンバ158の内圧とには、差が生じる。つまり、図6に示すように、シリンダ装置156のストロークSの変化に対するチャンバ158の内圧pの変化に、ヒステリシスが生じるのである。そして、そのことによって、コロイダルダンパ150は、エネルギを散逸して2つの相対動作する物の相対動作を減衰させる構成とされている。ちなみに、図6のヒステリシスによって囲まれた部分の面積が、散逸したエネルギに相当する。
【0069】
ii)本コロイダルダンパの特性
本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液90がベローズ80内に密封されているが、シリンダ装置40に加えられた力は、鉱物油110を介してコロイド溶液密封体92に伝達される。そして、コロイド溶液密封体92は、自身に力が加わると、ベローズ80内に収容された水84の液圧が上昇する。その水84の液圧が、ある高さまで上昇すると、その水84は、表面張力に抗して疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102内に流入する。それに伴って、ベローズ80は収縮しつつ、第1コロイド溶液密封体92は、体積が減少することになるのである。一方、自身に加わる力がなくなると、水84の液圧が低下し、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102から水84が流出する。それに伴って、ベローズ80は伸張しつつ、コロイド溶液密封体92は、体積が増加することになる。つまり、本コロイダルダンパ10も、上述したコロイダルダンパ150と同様の特性を有している。なお、図7に、本コロイダルダンパ10におけるシリンダ装置40のストロークSと、下室62の内圧pとの関係を示している。
【0070】
ちなみに、シリンダ装置40がストローク中の場合には、上室60の内圧と下室62の内圧との間には、差が生じることになるが、図7に実線で示した特性線は、シリンダ装置40がそのストローク位置において停止していると仮定した場合のもの、換言すれば、そのストローク位置において上室60の内圧と下室62の内圧とが釣り合ったと仮定した場合のものである。なお、その上室60の内圧と下室62の内圧との差圧を考慮した場合については、後に詳しく説明する。
【0071】
<本コロイダルダンパの機能>
i)サスペンションスプリングとしての機能
本コロイダルダンパ10は、上述したように、サスペンション装置の構成要素の主体となるものである。まず、本コロイダルダンパ10は、サスペンションスプリングとしての機能を有するものとなっている。コロイダルダンパ10は、外部からシリンダ装置40にある大きさの力が加わると、シリンダ装置40の内圧は、その大きさの力に応じた大きさまで上昇し、シリンダ装置40が発生させる力が外部から加えられている力と釣り合うことになる。したがって、本コロイダルダンパ10は、自身が設けられた車輪12の分担荷重(いわゆる、1Wである)を、疎水化多孔質シリカゲル100の細孔102に水84がある量だけ流入した状態において生じるシリンダ装置40の内圧によって受け持つようになっている。
【0072】
そして、図7に示すように、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92が収容された下室62の容積が減少するようにシリンダ装置40がストローク動作する場合、平たく言えば、シリンダ装置40が収縮するようにストローク動作する場合に、シリンダ装置40の内圧が、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水84の流入量に比例した大きさとなるように構成されている。換言すれば、シリンダ装置40の内圧が、シリンダ装置40のストローク量に比例した大きさとなるように構成されている。さらに詳しく言えば、本コロイダルダンパ10は、シリンダ装置40がストローク動作する範囲において、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102からすべての水84が流出しないように、かつ、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水84の流入量が流入できる限界値には達しないように構成されている。つまり、本コロイダルダンパ10は、リバウンドストッパおよびバウンドストッパによって定まるシリンダ装置40の全ストローク範囲において、1Wを支える力を発生させていると考えることができるのである。
【0073】
ちなみに、本コロイダルダンパ10においては、シリンダ装置40の内圧が疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水84の流入量に比例する範囲内で、シリンダ装置40がストロークするように、コロイド溶液密封体92の各々に収容する疎水化多孔質シリカゲル86の量(体積)と水84の量(体積)が定められている。まず、シリンダ装置40において、標準状態(例えば、車両に一人も乗車しておらず、かつ、何も積載しておらず、さらに、水平面上において停車している状態)における中立位置である標準位置から、バウンド方向にストローク量Sb,リバウンド方向にストローク量Srだけストロークできるようにすると、シリンダ装置40の上室60と下室62とを合わせた容積変化ΔVは、フルバウンド時とフルリバウンド時とで、次式のように求まる。
ΔV=A・(Sb+Sr)
ここで、Aは、ハウジング42内の圧力がピストン44に作用する面積である受圧面積であり、シリンダ装置40においては、ピストンロッド46の断面積が相当する。
【0074】
そして、本コロイダルダンパ10においては、この容積変化ΔVに等しい量の水84を疎水化多孔質シリカゲル86に流入できる必要がある。つまり、疎水化多孔質シリカゲル86の容積に対する疎水化多孔質シリカゲル86の水84を流入できる限界値の比をηとすれば、疎水化多孔質シリカゲル86の必要最低量(体積である)VSminが、次式によって定まる。
VSmin=ΔV/η
なお、疎水化多孔質シリカゲル86は、疎水化処理の際に、全てが疎水化されずに吸水性を有するシリカゲルが残ってしまう場合がある。例えば、疎水化処理を行った全量に対する、疎水化されなかったシリカゲルの量を除いた疎水化されたシリカゲルの量の割合を、疎水化率βと定義すれば、その疎水化率のばらつき等に対応するために、実際の疎水化多孔質シリカゲル86の量(体積である)VSは、次式によって決められ、疎水化多孔質シリカゲル86のその必要最低量VSminより多くされている。
VS=VSmin/β
また、水84の量VFは、ΔV/β以上であればよいため、本コロイダルダンパ10においては、VF=VSとされている。
【0075】
ii)コロイド溶液密封体のショックアブソーバとしての機能
本コロイダルダンパ10は、運転者が乗車して水平面上で停車している状態における位置である中立位置からの1サイクルの動作におけるシリンダ装置40の内圧の変化を、シリンダ装置40のストロークSとの関係で示せば、図7に示す二点鎖線のようになる。コロイダルダンパ10は、先に説明した一般的なコロイダルダンパ150と同様に、作動液流入時(収縮時)のシリンダ装置40の内圧と、作動液流出時(伸張時)のシリンダ装置40の内圧とに差が生じ、図7に示すように、シリンダ装置40のストロークSの変化に対するシリンダ装置40の内圧の変化に、ヒステリシスが生じる。そして、その図7の二点鎖線によって囲まれた面積が、1サイクルの動作において散逸したエネルギに相当する。つまり、本コロイダルダンパ10は、車体と車輪12との相対動作を減衰させることになるのであり、ショックアブソーバとして機能することとなる。
【0076】
なお、本コロイダルダンパ10は、先に説明したように、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に水84が流入した状態におけるハウジング152内の圧力によって車体を支持するように構成され、サスペンションスプリングとして機能する。そして、シリンダ装置40が収縮するようにストローク動作する場合に、シリンダ装置40の内圧が、シリンダ装置40のストローク量に比例した大きさになるように構成されている。つまり、サスペンションスプリングとしてコロイダルダンパ10が発生させる力であるばね力Frは、シリンダ装置40の収縮時の内圧pCに比例した大きさとなる。
Fr=A・pC
一方、シリンダ装置40が伸張する場合において、コロイダルダンパ10が発生させる力FE(=A・pE)は、図7に示すように、そのリバウンド方向のばね力Frと、バウンド方向の力Fbとを合成した力と考えることができる。
FE=Fr−Fb
そして、そのバウンド方向の力Fbは、シリンダ装置40の伸張するストローク動作に対する抵抗力、つまり、減衰力となるのである。つまり、コロイド溶液密封体92による減衰力Fbは、次式で示すように、シリンダ装置40の収縮時の内圧pCと、シリンダ装置40の伸張時の内圧pEとの差分に比例した大きさとなるのである。
Fb=Fr−FE
=A・(pC−pE)
したがって、コロイド溶液密封体92による減衰力は、シリンダ装置40が伸張する場合に発生すると考えられるのである。
【0077】
iii)流通抵抗付与機構による減衰機能
ピストン44が先に述べたような構造とされていることにより、例えば、ピストン44がハウジング42内を上方に移動させられる場合には、上室60の液圧が下室62の液圧より高くなるため、上室60内の鉱物油110の一部が連通路120を通って下室62へ流れることになる。その際、鉱物油110が連通路120と弁板124とによって形成されるオリフィスを通過すること、あるいは、鉱物油110が弁板124を撓ませて下室62内へ流入することで、ピストン44の上方への移動に抵抗力が付与され、その抵抗力によって、車体と車輪12との離間動作に対する減衰力が発生させられる。
【0078】
また、逆に、ピストン44がハウジング42内を下方に移動する場合には、下室62の液圧が上室60の液圧より高くなるため、下室62内の鉱物油110の一部が、連通路122を通って下室62から上室60へ流れることになる。その際、鉱物油110が連通路122と弁板126とによって形成されるオリフィスを通過すること、あるいは、鉱物油110が弁板126を撓ませて上室60内へ流入することで、ピストン44の下方への移動に抵抗力が付与され、その抵抗力によって、車体と車輪12との接近動作に対する減衰力が発生させられる。
【0079】
つまり、連通路120,122、弁板124,126等を含んで、上室60と下室62との間の鉱物油110の流通に対して抵抗を付与する流通抵抗付与機構が構成されている。なお、その流通抵抗付与機構による減衰特性は、車体と車輪12とが離間する場合と、接近する場合とで異なるものとされている。具体的には、車体と車輪12との離間動作に対する減衰係数と、それらの接近動作に対する減衰係数が異なる大きさとなるように、流通抵抗付与機構が構成されている。図8に、流通抵抗付与機構の減衰特性を、シリンダ装置40のストローク速度Vと減衰力Fとの関係で示す。その図8に示すように、流通抵抗付与機構の減衰特性は、接近動作に対する減衰係数が、比較的低めの1500N・sec/m(減衰比で言えば、0.15程度)に設定さている。一方、離間動作に対する減衰係数は、その接近動作に対する減衰係数より大きな値に設定されている。具体的には、離間動作に対する減衰係数は、4000N・sec/m(減衰比で言えば、0.4程度)とされ、コンベンショナルなショックアブソーバに設定される程度の大きさに設定されている。
【0080】
<本コロイダルダンパの特徴>
【0081】
上述したように、本コロイダルダンパ10は、ショックアブソーバとしての機能だけでなく、サスペンションスプリングとしての機能をも有することから、サスペンションスプリングを設ける必要がなく、本コロイダルダンパ10を用いた車両用サスペンション装置は、簡便な構成のものとなっている。
【0082】
本コロイダルダンパ10は、多孔質体と作動液とからなるコロイド溶液が密封容器内に密封されており、作動液がその密封容器外へは流出しないように構成されている。つまり、本コロイダルダンパ10は、比較的硬度の高い疎水化多孔質シリカゲル粒子100がハウジング42やピストン44と擦れ合うことがなく、シリンダ装置40内の摩耗を防止することが可能である。また、例えば、フィルタや容器によって、ハウジングのピストンが摺動する部分から多孔質体を隔離する構成のコロイダルダンパも存在する。しかしながら、そのフィルタや容器によって多孔質体を隔離した構成のコロイダルダンパは、ストレス等によって粉砕されて小さくなった多孔質体が、そのフィルタや容器に目詰まりしたり、それを通過したりしてしまうという問題がある。それに対して、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液が密封容器に密封されているため、多孔質体が粉砕されて小さくなったとしても、当然に密封容器外へ流出することがない。したがって、本コロイダルダンパ10は、耐久性に優れたコロイダルダンパとなっている。
【0083】
また、本コロイダルダンパ10は、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に流出入させる第1作動液(容器内作動液)と、シリンダ装置40に加えられる力をコロイド溶液密封体92に伝達するためにチャンバ60,62内に充填された第2作動液(容器外作動液)とが、異なる液体とされて、互いに異なる性質,特性を有するものとなっている。具体的に言えば、容器外作動液である鉱物油110と、容器内作動液である水84とは、動粘度が互いに異なり、容器外作動液の動粘度が、容器内作動液の動粘度より高いものとなっている。それによって、容器外作動液である鉱物油110は、シリンダ装置40に加えられる力をコロイド溶液密封体92に効率的に伝達することが可能である。また、本コロイダルダンパ10は、1Wを受け持つために、シリンダ装置40の内圧を高圧に保持することが必要となる。本コロイダルダンパ10は、容器外作動液である鉱物油110が粘度の高いものとされているため、ハウジング40に設けられるシール130,132の密封性が確保されたものとなっている。
【0084】
また、容器外作動液である鉱物油110と、容器内作動液である水84とは、熱伝導率が互いに異なり、容器外作動液の熱伝導率が、容器内作動液の熱伝導率より低いものとなっている。本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92が鉱物油110によって覆われるような構成とされている。つまり、本コロイダルダンパ10は、容器内作動液である水84は、外気温が低下すると凝固する虞があるが、熱伝導率の低い鉱物油110によって水84の温度が外部に逃げることを抑え、水84の温度低下を抑制することが可能とされているのである。
【0085】
さらに、容器外作動液である鉱物油110と、容器内作動液である水84とは、凝固温度が互いに異なり、容器外作動液の凝固温度が、容器内作動液の凝固温度より低いものとなっている。例えば、容器外作動液が凝固し始めると、シリンダ装置40に加わる力に対して、コロイド溶液密封体92に伝達される力が変動してしまう虞がある。しかしながら、本コロイダルダンパ10は、その凝固しにくい鉱物油110によって、シリンダ装置40に加わる力をコロイド溶液密封体92に確実に伝達することが可能とされている。
【0086】
本コロイダルダンパ10は、車体と車輪保持部材との相対動作を、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に対する水84の流入・流出によって減衰させるだけでなく、2つのチャンバ60,62の間の鉱物油110の流通に対して抵抗を付与することによっても減衰させるように構成される。つまり、本コロイダルダンパ10の減衰特性は、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に対する水84の流入・流出による減衰特性(コロイド溶液依存減衰特性)と、2つのチャンバ60,62の間の鉱物油110の流通に対して抵抗を付与することによる減衰特性(流通抵抗依存減衰特性)とが組み合わわれたものとなっている。そのコロイド溶液依存減衰特性は、先にも述べたように、シリンダ装置40が伸張する場合に減衰力を発生させるものである。それに対して、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92によっては、ほとんど減衰されることがないシリンダ装置40の収縮する動作を、流通抵抗付与機構によって減衰させることが可能とされている。
【0087】
また、コロイド溶液密封体92によって散逸できるエネルギは、図9からも解るように、車体と車輪12との相対振動の振幅に依存し、振幅が小さくなるほど小さくなる。つまり、コロイド溶液依存減衰特性は、ばね上共振周波数域の振動であるばね上振動や、車両の旋回による車体のロール,車両の加減速による車体のピッチ等のように、比較的振幅が大きくなる振動や動作は、効果的に減衰可能である。しかしながら、ばね下共振周波数域の振動であるばね下振動のように、速度が速くても振幅が小さい振動に対しては、十分な減衰力が得られない虞がある。それに対して、本コロイダルダンパ10は、流通抵抗付与機構の接近動作における減衰係数が、ばね下振動を減衰可能な比較的低めの値に設定されているため、そのコロイド溶液密封体92によっては十分に減衰できない虞があるばね下振動を、流通抵抗付与機構によって効果的に減衰させることが可能である。以上のことから、本コロイダルダンパ10は、コロイド溶液密封体92による減衰、および、流通抵抗付与機構による減衰によって、車体と車輪保持部材との間の振動を効果的に減衰することが可能とされている。
【0088】
さらに、本コロイダルダンパ10は、シリンダ装置40がストロークしている場合、上室60と下室62との間に差圧が生じることになる。具体的には、シリンダ装置40が収縮している場合、下室62の圧力が上室60の圧力より高くなり、シリンダ装置40が伸張している場合に、下室62の圧力は上室60の圧力より低くなる。つまり、下室62の圧力は、図7に示したシリンダ装置40の内圧に比較して、シリンダ装置40が収縮している場合に高くなり、伸張している場合に低くなるため、1サイクル動作した場合において、図10に示すように変化することになる。したがって、その図10からも解るように、1サイクル動作した場合に散逸できるエネルギが大きくなり、車体と車輪12との相対動作を効率的に減衰することが可能となる。また、図10から解るように、シリンダ装置40が伸張動作から接近動作に切り換わる場合、および、接近動作から伸張動作に切り換わる場合に、より詳しく言えば、疎水化多孔質シリカゲル100の細孔102に対して水84が流入する状態と流出する状態との間で切り換わる場合に、内圧の変化勾配が急になっている。つまり、本コロイダルダンパ10においては、疎水化多孔質シリカゲル100の細孔102に対して水84が流入する状態と流出する状態との間での切り換わりを、比較的早くすることが可能となる。
【0089】
<変形例>
図11に、変形例のコロイダルダンパ200の正面断面図を示す。上記実施例のコロイダルダンパ10が、2つのチャンバ60,62のうちのピストンロッド46が貫通していない方のチャンバである下室62に、コロイド溶液が密封されていたが、本変形例のコロイダルダンパ200は、2つのチャンバ60,62のうちのピストンロッド46が貫通している方のチャンバである上室62に、コロイド溶液が密封されている。以下に、その変形例のコロイダルダンパ200について詳しく説明する。シリンダ装置202は、ハウジング42の上部において接続された球状のケース204を備えている。そのケース204は、内部にゴム製のダイヤフラム206が設けられ、そのダイヤフラム206によって2つの容積変化室に区画されたものである。それら2つの容積変化室のうちの左側の容積変化室208が、ハウジング42内の上室60に連通され、第2作動液である鉱物油110が充填されている。一方、右側の容積変化室210は、密封空間とされており、疎水化多孔質シリカゲル82と、第1作動液としての水84とが混合されたコロイド溶液90が充填されている。つまり、ダイヤフラム206が、コロイド溶液90を密封するための密封部材として機能する。
【0090】
本変形例のコロイダルダンパ200は、上記実施例のコロイダルダンパ10と同様に、車体と車輪12とが接近動作する場合、換言すれば、シリンダ装置202が収縮する場合に、そのシリンダ装置202内の圧力が増加して疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に対して水84が流入し、車体と車輪12とが離間動作する場合、換言すれば、シリンダ装置202が伸張する場合に、シリンダ装置202内の圧力が減少して疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102から水84流出するように構成される。つまり、本変形例のコロイダルダンパ200において、コロイド溶液90による減衰特性は、上記実施例のコロイダルダンパ10と同様に、図7に示した特性となる。
【0091】
本変形例のコロイダルダンパ200においても、流通抵抗付与機構によって、シリンダ装置202がストロークしている場合、上室60および容積変化室208,210からなる第1チャンバと、第2チャンバである下室62との間には、差圧が生じることになる。しかし、本変形例のコロイダルダンパ200は、コロイド溶液90が、ピストンロッド46が貫通している方の第1チャンバに収容されているため、その第1チャンバの圧力は、先に述べた仮想内圧に比較して、シリンダ装置40が収縮している場合に低くなり、伸張している場合に高くなるように構成されているのである。
【符号の説明】
【0092】
10:コロイダルダンパ 12:車輪 26:第2ロアアーム 30:アクスルキャリア(車輪保持部材) 32:マウント部(車体の一部) 40:シリンダ装置 42:ハウジング 44:ピストン 60:ピストン本体 62:上室(チャンバ) 64:下室 68:ピストンロッド 80:ベローズ(密封部材) 82:疎水化多孔質シリカゲル 84:水(第1作動液) 90:コロイド溶液 92:コロイド溶液密封体 100:疎水化多孔質シリカゲル粒子(多孔質体) 102:細孔 110:鉱物油(第2作動液) 120,122:連通路 124,126:弁板 200:コロイダルダンパ 202:シリンダ装置 204:ケース 206:ダイヤフラム(密封部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、(b)そのハウジング内を2つのチャンバに区画するとともにそのハウジング内を摺動可能なピストンと、(c)前記2つのチャンバのうちのいずれかを貫通して配設され、一端部が前記ピストンに連結されるとともに、他端部が前記ハウジングから延び出して前記2つの物の他方に連結されるピストンロッドとを備えたシリンダ装置と、
前記ハウジング内に収容された(A)多数の細孔を有する多孔質体および(B)作動液と
を含んで構成され、
前記2つの物の相対動作の際に、前記多孔質体の細孔に対して前記作動液が流入・流出することによって、それら2つの物の相対動作を減衰させるように構成されたコロイダルダンパであって、
前記シリンダ装置が、さらに、
前記2つのチャンバを連通させて前記ピストンの摺動に伴う前記2つのチャンバ間の前記作動液の流通を許容する連通路を有し、その連通路における前記作動液の流通に対して抵抗を付与する流通抵抗付与機構を備えたコロイダルダンパ。
【請求項2】
当該コロイダルダンパが、
可撓性を有し、自身のみによって若しくは自身と前記ハウジングとによって前記2つのチャンバの一方の内部に密封空間を形成するとともにその密封空間に前記多孔質体と前記作動液の一部とをそれらが混合した状態で密封し、自身が変形することによって、前記多孔質体の細孔に対する前記作動液の一部の流入・流出に伴う前記密封空間の容積の変化を許容する密封部材を含んで構成された請求項1に記載のコロイダルダンパ。
【請求項3】
前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通していない方の内部に設けられた請求項2に記載のコロイダルダンパ。
【請求項4】
前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通している方の内部に設けられた請求項2に記載のコロイダルダンパ。
【請求項5】
前記2つの物が、車体と、車輪を回転可能に保持する車輪保持部材であって、
前記ハウジングが、前記車体と前記車輪保持部材との一方に連結されるとともに、前記ピストンロッドの前記他端部が、前記車体と前記車輪保持部材との他方に連結され、
当該コロイダルダンパが、前記車体を懸架するための車両用サスペンション装置を構成するものとされた請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【請求項6】
前記流通抵抗付与機構によって前記作動液の流通に対して付与される抵抗に依存して当該コロイダルダンパが発生させる減衰力の大きさの基準を、流通抵抗依存減衰係数と定義した場合において、
前記流通抵抗付与機構が、
前記流通抵抗依存減衰係数が、前記車体と前記車輪保持部材との相対振動におけるばね下共振周波数域の成分の振動を減衰させるのに適した減衰係数となるように構成された請求項5に記載のコロイダルダンパ。
【請求項7】
前記流通抵抗付与機構によって前記作動液の流通に対して付与される抵抗に依存して当該コロイダルダンパが発生させる減衰力の大きさの基準を、流通抵抗依存減衰係数と定義した場合において、
前記流通抵抗付与機構が、
前記車体と前記車輪保持部材との接近動作における前記流通抵抗依存減衰係数の臨界減衰係数に対する比が、0.1以上かつ0.3以下となるように構成された請求項5または請求項6に記載のコロイダルダンパ。
【請求項1】
(a)相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、(b)そのハウジング内を2つのチャンバに区画するとともにそのハウジング内を摺動可能なピストンと、(c)前記2つのチャンバのうちのいずれかを貫通して配設され、一端部が前記ピストンに連結されるとともに、他端部が前記ハウジングから延び出して前記2つの物の他方に連結されるピストンロッドとを備えたシリンダ装置と、
前記ハウジング内に収容された(A)多数の細孔を有する多孔質体および(B)作動液と
を含んで構成され、
前記2つの物の相対動作の際に、前記多孔質体の細孔に対して前記作動液が流入・流出することによって、それら2つの物の相対動作を減衰させるように構成されたコロイダルダンパであって、
前記シリンダ装置が、さらに、
前記2つのチャンバを連通させて前記ピストンの摺動に伴う前記2つのチャンバ間の前記作動液の流通を許容する連通路を有し、その連通路における前記作動液の流通に対して抵抗を付与する流通抵抗付与機構を備えたコロイダルダンパ。
【請求項2】
当該コロイダルダンパが、
可撓性を有し、自身のみによって若しくは自身と前記ハウジングとによって前記2つのチャンバの一方の内部に密封空間を形成するとともにその密封空間に前記多孔質体と前記作動液の一部とをそれらが混合した状態で密封し、自身が変形することによって、前記多孔質体の細孔に対する前記作動液の一部の流入・流出に伴う前記密封空間の容積の変化を許容する密封部材を含んで構成された請求項1に記載のコロイダルダンパ。
【請求項3】
前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通していない方の内部に設けられた請求項2に記載のコロイダルダンパ。
【請求項4】
前記密封部材が、前記2つのチャンバのうちの前記ピストンロッドが貫通している方の内部に設けられた請求項2に記載のコロイダルダンパ。
【請求項5】
前記2つの物が、車体と、車輪を回転可能に保持する車輪保持部材であって、
前記ハウジングが、前記車体と前記車輪保持部材との一方に連結されるとともに、前記ピストンロッドの前記他端部が、前記車体と前記車輪保持部材との他方に連結され、
当該コロイダルダンパが、前記車体を懸架するための車両用サスペンション装置を構成するものとされた請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のコロイダルダンパ。
【請求項6】
前記流通抵抗付与機構によって前記作動液の流通に対して付与される抵抗に依存して当該コロイダルダンパが発生させる減衰力の大きさの基準を、流通抵抗依存減衰係数と定義した場合において、
前記流通抵抗付与機構が、
前記流通抵抗依存減衰係数が、前記車体と前記車輪保持部材との相対振動におけるばね下共振周波数域の成分の振動を減衰させるのに適した減衰係数となるように構成された請求項5に記載のコロイダルダンパ。
【請求項7】
前記流通抵抗付与機構によって前記作動液の流通に対して付与される抵抗に依存して当該コロイダルダンパが発生させる減衰力の大きさの基準を、流通抵抗依存減衰係数と定義した場合において、
前記流通抵抗付与機構が、
前記車体と前記車輪保持部材との接近動作における前記流通抵抗依存減衰係数の臨界減衰係数に対する比が、0.1以上かつ0.3以下となるように構成された請求項5または請求項6に記載のコロイダルダンパ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−97853(P2012−97853A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246953(P2010−246953)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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