説明

コロイド状三元ナノ結晶の生産

三元半導体ナノ結晶のコロイド溶液を生産する方法を提供する。まず二元半導体コアを準備し、その表面上に第1シェルを形成する。第1シェルは、その二元半導体コアを組成している成分のうち一元と、その二元半導体と結合して三元半導体を発生させる別の成分とを含有するよう形成する。そして、第1シェルの形成によって発生するコアシェル構造ナノ粒子をアニーリングすることにより、合金組成勾配のある三元半導体ナノ結晶を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド状三元ナノ結晶コロイド分散系の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイド状半導体ナノ結晶は様々な分野で研究の的となっており、そのうち量子ドット用のものはコロイド状量子ドットと呼ばれている。以下、これらを単に「ナノ結晶」「量子ドット」とも呼ぶ。コロイド状量子ドットは自己集積化量子ドットに比べ大量生産が容易であり、分散媒中に分散しているため生体用にも適しており、且つ低コストな成長プロセスで生産可能である。そのため、LEDを初めとする発光デバイスの分野や、太陽電池、レーザ光源、量子情報処理装置及び量子暗号化装置を初めとする電子デバイスの分野で関心を集めている。ただ、自己集積化量子ドットに比べ潜在的な用途が広いとはいえ、コロイド状量子ドットにもやはり、相対的に見て劣っている面が幾つかある。例えば、自己集積化量子ドットはその輻射寿命が1n秒オーダと比較的短いのに対し、コロイド状量子ドットの輻射寿命は20〜200n秒オーダとなるのが普通である。更に、コロイド状量子ドットではドット毎のブリンキングが発生する。この単分子ブリンキングは輻射が瞬いてひどく間欠的になる現象であり、自己集積化量子ドットには見られないものである。
【0003】
なかでも注目されているのはII−VI族半導体ナノ結晶である。この族のナノ結晶には、そのルミネッセンス輻射波長を全可視スペクトル域に亘り粒子サイズで調整できる性質がある。即ち、様々なサイズのドットを単一光源で同時に励起させることができ、また粒子サイズ変更で輻射波長を連続的に調整することができるため、この族の半導体ナノ結晶はフォトルミネッセンスの分野で好適に使用することができる。更に、この族の半導体ナノ結晶は、こうしたフォトルミネッセンス適性を有するのに加えて蛋白質、核酸等の生体分子と接合可能であるため、古くから生体医学分野で利用されてきた有機蛍光染料の後継と目されている。加えて、この族の半導体ナノ結晶は、その輻射波長を調整できるためフルカラー表示用量子ドットや照明用量子ドットとしても申し分ない。その研究が最も広範に行われているのは、非特許文献1記載の如く高温有機金属合成法が十分に確立されているCdSeナノ結晶であろう。このナノ結晶では、その粒子サイズでフォトルミネッセンス輻射波長を可視スペクトル域横断的に調整することができる。
【0004】
非特許文献2記載の如く、コロイド状量子ドットは有機染料に比べ輝度や光安定性も高いため、特に生体医学分野で注目を浴びている。コロイド状量子ドットでは、公開文献に記載の通り、ポリマやバンドギャップが広い半導体層で表面をパッシベートすることで、量子収量、光褪色等を含めその光学的特性を高めることができる。反面、コロイド状量子ドットではブリンキングという現象が発生する。この現象は、一般に、克服困難な生来的障害と見なされている。このことは残念なことである。なぜなら、瞬かないで長時間発光し続ける単一分子輻射源を実現できれば、単一光子源を利用した量子情報処理、単一生体分子分光等といった成長分野に大きく貢献できるからである。例えば、昨今の単一ドットイメージング装置では、細胞膜受容体の追尾が記録のストロボ性によって阻害される、といったことがしばしば起きている。ブリンキングによる信号飽和でアンサンブルイメージング時輝度が低下することもあり得る。
【0005】
特に生体医学の分野では、コロイド状量子ドットで生じるこのブリンキング問題を解消するため、二、三のグループが研究を重ねている。まず、2004年には、その表面にチオールモイエティによるパッシベーションを施すと量子ドットにおけるブリンキングが抑制されることが、非特許文献2に記載の如く既に見出されている。同文献には、このことを裏付ける実験結果として、生来的にブリンキング性を呈するCdSeコア/ZnSシェル構造ナノ粒子を用いた実験の結果が示されている。更に、非特許文献3記載の如く、水溶性のCdSeコア/ZnSシェル構造ナノ粒子を量子ドットとして用い、それを両親媒性ポリマでくるむことも研究されている。但し、非特許文献2及び3記載の手法は、いずれも、本質的問題の解決でドットのブリンキングを解消しているわけではなく、ドット表面環境の制御で問題を緩和しているだけである。更に、いずれの手法も、液内環境で実行でき独特な表面パッシベーションを施せるような、ある限られた用途にしか適用することができない。
【0006】
このブリンキング問題に加え、コロイド状量子ドットには、自己集積化量子ドットに比べてその輻射寿命が長いという問題もある。輻射寿命は、フェルスター共鳴エネルギ移動、ショックレーリードホール(SRH)再結合等、非輻射性再結合現象との競合を有利に制するには短い方がよい。輻射寿命が短いコロイド状量子ドットがあれば、在来型又は単一光子型LEDで輻射源として好適に使用でき、また表示装置用又は照明装置用の蛍光体として好適に使用できるはずである。
【0007】
まず、在来型LEDには、コロイド状量子ドットを使用するものとして、量子ドット含有型無機LEDのほかに有機LED(OLED)がある。1990年代後半には、非特許文献4によって、性能向上のため有機物輻射源及び量子ドットを併含させたOLEDが既に提案されている。LEDの輻射層に量子ドットを添加するメリットは、そのLEDの色域を拡げることができ、量子ドットの粒子サイズ変更だけで輻射光の色を赤、緑及び青のいずれにもすることができ、しかもその製造コストを下げることができる点にある。ただ、輻射層内で量子ドットが凝集する等の問題もあり、この種のOLEDの効率は通常のOLEDに比べやや低くなる。非特許文献5記載の如くニートな量子ドット膜を輻射層として使用した場合も、その量子ドット膜に絶縁性があるため低効率になる。非特許文献6記載の如く、有機物の正孔輸送層と電子輸送層との間に位置するよう量子ドット単分子膜を成長させると約1.5cd/Aまで効率が高まるが、その量子ドットでのルミネッセンス発生は主として有機分子上の励起子に発するフェルスター共鳴エネルギ移動、即ちその有機分子上での電子正孔再結合によるものであることが判っている。仮に、その効率が改善されることがあったとしても、こうした複合的なLEDでは、純粋なOLEDに備わるどの短所も免れえない。
【0008】
他方、ほぼ全体が無機物で形成されている無機LEDのなかにも、最近、真空中で成長させたn−GaN層及びp−GaN層と、それらのGaN層間に挟まれるようCdSeコア/ZnSシェル構造ナノ粒子を単分子厚の膜にした量子ドット膜とを有するものが現れている。非特許文献7を参照されたい。この無機LEDには、外部量子効率が低く0.001〜0.01%に留まるという難点がある。その一因は、報告によれば、有機配位子となるTOPO(trioctylphosphine oxide)及びTOP(trioctylphosphine)の後成長と関連している。絶縁性の配位子を使用しているため量子ドットへの電子注入や正孔注入が貧弱になるのであろう。加えて、電子や正孔をキャリアとする半導体層を成長させるのに高真空技術を使用することや、使用する基板がサファイア基板であることから、残りの構成部分の製造コストも嵩みがちである。
【0009】
また、正確なタイミング乃至クロックで光子を1個ずつ生成する単一光子源、例えば単一光子LEDは、非特許文献9記載の量子鍵配送、非特許文献8記載の量子情報処理、光子の量子ビット即ちキュービットに基づくネットワーキング等を実現する上で鍵を握っている。そうした単一光子源の品質を評価する際勘案される指標としては、効率の高さ、二次コヒーレンス乃至相関関数g(2)(0)で測った多光子確率の低さ、並びに量子状態識別不能性の高さがある。非特許文献9記載の如くBB84プロトコルに準拠する一部の量子暗号化装置では、効率の低さやg(2)(0)の小ささは必要だが量子状態識別不能性は不要である。しかし、非特許文献8記載のLOQC(linear optics quantum computation)のように、それ以外のほとんど全ての量子情報システム内装置では、光子を多光子干渉させる都合上、量子状態識別不能性も必要とされる。
【0010】
その単一光子LEDには非特許文献10記載のような光励起型と非特許文献16記載のような電気励起型とがあるが、どちらの型でも自己集積化量子ドットが輻射種として使用されることが多い。その効率改善策としては、多くの場合、微細空洞への量子ドット閉じ込めという策が執られる。最善の結果が得られるのは全三方向に亘り閉じ込めた場合である。こうした閉じ込めを実行すると、パーセル効果でそのLEDの内部量子効率即ちIQEが高まり、また出力モードの発生個数が大きく減るためその捕集効率が大きく高まる。それらのうちIQE向上に関わるのは、量子ドット輻射寿命が大幅短縮され、約1/5倍に当たる約100〜200p秒になっていることである。この輻射寿命短縮は、非特許文献11記載の如く量子状態識別不能性向上にもつながっている。このように、高い効率,量子状態識別不能性の双方共に、その実現の鍵は輻射寿命の短さである。そのため、輻射寿命が短いコロイド状量子ドットを実現することが、量子暗号化装置や量子情報処理装置の分野で大いに望まれている。
【0011】
そして、照明用の高効率白色固体光源を実現したい場合、それを実現する近道は、青、紫又は近紫外LEDを適当な蛍光体と組み合わせることである。その蛍光体としては古くから光励起蛍光体が用いられている。これを量子ドット蛍光体に置き換えることで実現できる効果は数多い。例えば、光散乱の大幅低減、色チューニングの容易化、CRI(color rendering index)値の改善、成長プロセスの低コスト化、光励起時より広い波長スペクトラム等を実現することができる。そうした長所があるにもかかわらず量子ドット蛍光体を使用した品が未だ市販されていないのは、大きな短所が幾つかあるためである。例えば、その温度安定性が低いことや、その量子ドットを高密度実装して蛍光体膜を形成したときの量子収量が10〜30%と低いことである。そのため、多くの研究者が、量子ドットに適当なフィラ、例えばポリマかエポキシを差し挟んで実装密度を下げ、それによって量子収量を向上させることを提案しているが、このやり方には短所がある。それは、このやり方で得られる量子ドット蛍光体膜の厚みが1mm程にもなり、期待される10μm程度の厚みからかけ離れていることである。非特許文献12で指摘されているように、実装密度の高い膜で量子収量が上がらない主因は、ナノ粒子間相互作用によって、輻射中の量子ドットから非輻射中の量子ドットへの励起子移動乃至フェルスター共鳴エネルギ移動が引き起こされることにある。フェルスター共鳴エネルギ移動の速度は距離dが増すと1/d6に比例し急激に低下するので、この現象を含め上掲の諸問題を抑えるには、形成する膜を低実装密度の膜にすればよい。より望ましいのは、量子ドット蛍光体の輻射寿命を短縮することで、フェルスター共鳴エネルギ移動のプロセスとの競合をより有利に制し、且つ高実装密度の量子ドット蛍光体膜を実現することである。非特許文献13記載の計測実験結果によれば、量子ドット滴下膜におけるフェルスター共鳴エネルギ移動にはナノ秒オーダの時間がかかるので、それとの競合を制することができればよい。総じて、温度安定性が高く且つ輻射寿命が短い蛍光体をコロイド状量子ドットで形成することができれば、目下の二大ハードルを取り払い、表示や照明の分野における量子ドット蛍光体の商業利用を広範に拡げることができるであろう。
【0012】
また、量子ドットのなかで最も研究が進み最もよく理解されているのは恐らくCdSeコアを有する量子ドットであるが、研究者のなかには、二元組成ではなく三元組成を有するより複雑な量子ドットに着目している者もいる。特許文献1(発明者:Han et al.)には、三元ナノ結晶及び四元ナノ結晶の形成プロセスや量子ドットとしての用法が示されている。但し、特許文献1に記載の量子ドットは、コアシェル構造ナノ粒子というより均質的に合金化されたナノ結晶即ちナノアロイであり、ブリンキング問題への対処については特許文献1中に記載がない。これに対し、非特許文献14には、ナノアロイ型ドットの形成プロセス及びそのプロセスで形成されたドットにおけるフォトルミネッセンス時のブリンキングについて記載がある。具体的には、単結晶Zn0.42Cd0.58Seで形成された平均直径6.2nmの量子ドットでフォトルミネッセンス時にブリンキングが生じることが記載されているが、それら三元ナノ結晶の輻射寿命についての記載は見られない。ただ、非特許文献15に、コロイド状ZnCdSe三元半導体で形成されたナノロッドの輻射寿命に関して、対照サンプルであるCdSeコア/ZnSeシェル型ナノロッドに比べやや長いとの記載がある。具体的には、CdSeコア/ZnSeシェル型ナノロッドの輻射寿命が約173n秒であるのに対し、ZnCdSe三元ナノロッドの最短輻射寿命は277n秒であるとの知見が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第7056471号明細書
【特許文献2】米国特許第6322901号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Murray et al., "Synthesis and Characterization of Nearly Monodisperse CdE (E=S,Se,Te) Semiconductor Nanocrystallites", J.Am.Chem.Soc.115, 8706-8715, 1993
【非特許文献2】S. Hohng et al., "Near Suppression of Quantum Dot Blinking in Ambient Conditions", J.Am.Chem.Soc.126, 1324-1325, 2004
【非特許文献3】Larson et al., "Water-Soluble Quantum Dots for Multiphoton Fluorescence Imaging in Vivo", Science 300, 1434-1436, 2003
【非特許文献4】Matoussi et al., "Electorluminescence from Heterostructures of poly(phenylene vinylene) and Inorganic CdSe Nanocrystals", J.Appl.Phys.83, 7965, 2003
【非特許文献5】Hikmet et al., "Study of Conduction Mechanism and Electroluminescence in CdSe/ZnS Quantum Dot Composites", J.Appl.Phys.93, 3509, 2003
【非特許文献6】Coe et al., "Electroluminescence from Single Monolayers of Nanocrystals in Molecular Organic Devices", Nature 420, 800, 2002
【非特許文献7】Mueller et al., "Multilayer Light-Emitting Diodes Based on Semiconductor Nanocrystals Encapsulated in GaN Charge Injection Layers", Nano Letters 5, 1039, 2005
【非特許文献8】Knill et al., "A Scheme for Efficient Quantum Computation with Linear Optics", Nature V409, 46-52, 2001
【非特許文献9】Gisin et al., "Quantum Cryptography", Rev.Mod.Phys.74, 145, 2002
【非特許文献10】Santori et al., "Indistinguishable Photons from a Single Photon Device", Nature 419, 594, 2002
【非特許文献11】Shields, "Semiconductor Quantum Light Sources", Nature Photon 1, 215, 2007
【非特許文献12】Achermann et al., "Nanocrystal Based Light Emitting Diodes Using High Efficiency Nanoradiative Energy Transfer for Color Conversion", Nano Lett.6, 1396, 2006
【非特許文献13】Achermann et al., "Picosecond Energy Transfer in Quantum Dot Langmuir-Blodgett Nanoassemblies", J.Phys.Chem.B107, 13782, 2003
【非特許文献14】Stefani et al., "Memory in Quantum-dot Photoluminescence Blinking", New Jour. of Physics 7, 197, 2005
【非特許文献15】Lee et al., "Synthesis and Characterization of Colloidal Ternary ZnCdSe Semiconductor Nanorods", Jour. of Chemical Physics 125, 164711, 2006
【非特許文献16】Z. Yuan et al., Science 295, 102, 2002
【非特許文献17】M. Nirmal et al., Nature 383, 802, 1996
【非特許文献18】P. Anderson, Phys.Rev.109, 1492, 1958
【非特許文献19】E. Economou et al., Phys.Rev.Lett.25, 520, 1970
【非特許文献20】R. Bailey et al., JACS 125, 7100, 2003
【非特許文献21】C. B. Murray et al., Annu.Rev.Mater.Sci.30, 545, 2000
【非特許文献22】O. Masala and R. Seshadri, Annu.Rev.Mater.Res.34, 41, 2004
【非特許文献23】R. Rossetti et al., J.Chem.Phys.80, 4464, 1984
【非特許文献24】M. A. Hines et al., J.Phys.Chem.100, 468, 1996
【非特許文献25】A. R. Kortan et al., J.Am.Chem.Soc.112, 1327, 1990
【非特許文献26】Zhong et al., JACS 125, 8589, 2003
【非特許文献27】R. Hanbury et al., Nature 177, 27, 1956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、光電子デバイス、生物学、医学等の分野で研究されてはいるが、本質的にブリンキングが発生せず又はその輻射寿命が短いコロイド状ナノ結晶乃至量子ドットは、これまで実現されていなかった。即ち、従来の非ブリンキングドット形成手法は適用できる用途が限られていて、量子ドット利用が望ましい様々な技術分野で汎用的に適用できるものではなかった。自己集積化量子ドットならば輻射寿命が短いものもあるが、コロイド状量子ドットでそのような性質を有するものは報告されていない。従って、生来的にブリンキング挙動を示さず生体用や光電子デバイス用に適するコロイド状量子ドットや、その輻射寿命が短く蛍光体や光電子デバイスで使用できるコロイド状量子ドットが、いま求められているといえよう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、三元ナノ結晶のコロイド溶液を効率的に生産する方法として、
(a)二元半導体コアを準備するステップと、
(b)その二元半導体コアを組成している成分のうち一元及びその二元半導体と結合して三元半導体を発生させる別の成分を含有する第1シェルを、準備した二元半導体コア上に形成するステップと、
(c)それによって発生するコアシェル構造ナノ粒子をアニーリングすることにより、合金組成勾配を有する三元半導体ナノ結晶を発生させるステップと、
を含む方法を提案する。
【0017】
本発明では、また、より秀逸な三元半導体ナノ結晶として、
(a)本ナノ結晶の中核部では第1格子構造となり表層部ではまた別の第2格子構造となる格子構造と、
(b)それら中核部と表層部の間に発生した格子構造遷移部と、
を有する三元半導体ナノ結晶を提案する。
【0018】
本発明では、更に、より秀逸な三元半導体ナノ結晶として、
(a)本ナノ結晶の中核部では第1合金組成を呈し表層部ではまた別の第2合金組成を呈する三元半導体と、
(b)それら中核部と表層部の間に発生した合金組成遷移部と、
を有する三元半導体ナノ結晶を提案する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高温アニーリングを含む手順でコロイド状の三元半導体ナノ結晶を発生させることができる。それによって得られる三元半導体ナノ結晶には優れた特色がある。例えば、単分子ブリンキングを1分超に亘り抑えることができる。輻射寿命を10ns未満に短縮することができる。発光をより安定にすることができる。そうしたブリンキング抑圧や輻射寿命短縮を実現できるのは、重要なことに、本方法で得られる三元半導体ナノ結晶の合金組成に勾配があるためである。また、本発明によれば、そうした優れた特色のあるコロイド状の三元半導体コアシェル構造ナノ粒子を提供することができ、ひいては従来より優れた量子ドット蛍光体、医用センサ、生体用センサ、単一光子LED、高効率LED、高効率レーザ光源等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】本発明に従い合金組成勾配付き三元ナノ結晶を形成する手順の一例を示す模式図である。
【図1B】その続きを示す模式図である。
【図2】合金組成勾配付き三元ナノ結晶をコアとする本発明の三元コアシェル構造ナノ粒子を示す模式図である。
【図3】発明品たる三元コアシェル構造ナノ粒子を捉えた透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す図である。
【図4】発明品たる三元コアシェル構造ナノ粒子を捉えた走査型TEM(STEM)画像を示す図である。
【図5A】発明品たる三元コアシェル構造ナノ粒子での蛍光強度経時化例を示す図である。
【図5B】発明品たる三元コアシェル構造ナノ粒子での蛍光強度経時変化例を示す図である。
【図6】従来品たるナノ結晶での蛍光強度経時変化例を示す図である。
【図7A】発明品たる三元コアシェル構造ナノ粒子における二次コヒーレンス関数g(2)(τ)を示す図である。
【図7B】従来品たるナノ結晶における二次コヒーレンス関数g(2)(τ)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、ナノ結晶の光学特性や電気特性に対する表面状態の悪影響を抑える手法としては、そのナノ結晶の表面積対体積比が小さくなるよう、形成するナノ結晶の粒子サイズを大きくする手法が知られている。このことは、赤,緑,青の各色で輻射する可視光輻射源を提供可能なII−VI族半導体ナノ結晶、例えば緑色輻射源であるCdSeナノ結晶を量子ドットとして使用する場合にも当てはまる。ここに、量子ドットの長さスケールは量子サイズ効果によって支配されているので、その半導体素材のバンドギャップが拡がるよう三元合金にすることで、輻射光の色を変えずに粒子サイズを大きくすることが可能である。例えば、幾ばくかのZnをCdSeナノ結晶に添加してバンドギャップを拡げCdZnSeへと三元合金化することで、輻射光の色を緑色に保ちながら、その粒子サイズが大きなCdSeベース量子ドットを実現することができる。
【0022】
ただ、いま求められているのは、発明が解決しようとする課題の欄でも述べたように、輻射寿命が短くブリンキングも生じないナノ結晶を得ることである。そもそも、ナノ結晶における単分子ブリンキングは、非特許文献17記載の如く、ナノ結晶が多光子励起されて複数の電子正孔対が発生することで始まる。発生した電子正孔対のエネルギは、輻射再結合で解放されるのではなく、オージェ再結合を通じ他のいずれかの電子正孔対へと逃れていく。そのエネルギで励起された電子や正孔は、ナノ結晶周囲のマトリクスへと放出される。従ってそのナノ結晶はイオン化されていく。この過程では、放射再結合に対しオージェ再結合が卓越しているため、励起が何回繰り返されてもそのナノ結晶は暗状態のままである。暗状態が解消されるのは、放出されたキャリアがトンネリング等でナノ結晶内に戻り、その結果そのナノ結晶が非帯電状態に戻ったときである。こうした現象論的モデルから判るように、ブリンキングを抑え又は防ぐには、ナノ結晶内部からのキャリア放出を妨げればよい。自己集積化量子ドットに倣い極厚の半導体シェルを付加するのが最も素直な解決法であるが、これは、現実的には実行困難な方法でもある。シェル内における格子不整合性欠陥の発生で厚みが制約されるからである。そのシェル内に欠陥のあるナノ粒子では、その欠陥で電荷が捕獲されるためブリンキングは防げるものの、量子効率の低下も発生する。従って、何か別の方法を見つけてナノ粒子内にキャリアを閉じ込めることで、表層部からキャリアを引き離しておく必要がある。その点、ナノ粒子中核部ならば、一見して判る通り、表層部から最も離れているので、電子や正孔を最も堅牢に閉じ込めることができる。パーセル効果が生じるので、ナノ粒子中核部に閉じ込めることで電子及び正孔の輻射寿命も短縮される。
【0023】
物体中に帯電キャリアを閉じ込めるには、周知の如く、原子エネルギレベル又は原子位置を少々、例えば15%ほど無秩序化し、非特許文献18記載のアンダーソン局在現象を発生させればよい。半導体置換型合金の場合は、非特許文献19記載の如く、原子エネルギ準位に無秩序なばらつきが生じて電荷の偏在が顕在化する。このことを踏まえると、キャリア偏在的なナノ粒子を得る手法の見当が付く。高秩序な中核コアを形成し、低秩序な合金で中層シェルを形成し、そして高秩序な外殻シェルを形成する、という手法である。高秩序な外殻シェルを付したのは、コアや中層シェルの内部に、電子及び正孔をしっかりと閉じ込められるようにするためである。次に、この高度なナノ粒子を生成する手法について説明する。
【0024】
まず、三元合金で半導体ナノ結晶を生成する際には、通常であれば、非特許文献20記載の如く、CdZnSe結晶等ならカチオン、CdSeTe結晶等ならアニオンを適当な比率で合成反応用混合物に添加し、合成反応を開始させるものである。しかし、この手順でナノ結晶を発生させると、合金組成がナノ結晶内空間全体に亘り均質になってしまう。低秩序な合金からなる中層シェル、例えばCdZnSeの中層シェルを設けるには、まずCdSeコアを生成し、それにZnSeシェルを被せ、そしてそれを適当な条件でアニーリングする、という方法の方がよい。周知の通り拡散現象が生じるので、アニーリングが済んだナノ粒子では表層部付近でZn濃度が最高値となる。そのナノ粒子の中核部は、対照的にZn量がかなり少ないため高Cd/Zn比CdZnSeからなるコアとなる。即ち、アニーリングによるナノ粒子内Zn浸透度は中心に近いほど低いので、その表面付近が最高度に低秩序な合金としての属性を呈するのに対し、中心付近はほとんどCdSe結晶のような挙動を呈することとなる。こうしたCdSe的なナノ粒子中核部に存する電子正孔対は、表層部を形作っているCdZnSeのバンドギャップが広いのに加え、その周囲にある合金部分の低秩序性によってキャリア局在が引き起こされるため、その中核部内に閉じ込められることになる。そして、アニーリングが済んだナノ粒子の外面に、ZnSeS、ZnS等の広バンドギャップ素材を使用し、前述の外殻シェルを付加することで、低秩序CdZnSe合金部分を含めそのコア及び中層シェル内に、キャリアをしっかりと閉じ込めることができる。
【0025】
図1A、図1B及び図2にこの方法のより全体的な描像を示す。本方法によれば、その中核部に帯電キャリアが強く局在するコロイド状の三元コアシェル構造ナノ粒子145を生産することができる。その冒頭工程ではまず二元半導体ナノ結晶を合成する。その合成には既存の合成法、例えば非特許文献21記載の配位溶媒内分子プレカーサ高温分解法、非特許文献22記載のソルボサーマル法、非特許文献23記載の停滞析出法等を使用することができる。適する素材はII−VI族、III−V族又はIV−VI族の半導体素材であり、例えばII−VI族半導体素材のなかではCdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS、ZnTe等の二元半導体化合物が適している。その次の工程では、こうして生成された二元半導体コア110上に第1シェル120を形成する。形成するシェル110には、後に三元半導体ナノ結晶125を発生させることができるよう、コア110を組成する成分のうちいずれかと、そのコア110の素材と結合して三元半導体を発生させる別の成分とを含有させておく。このシェル形成には既存の手法、例えば非特許文献24記載の配位溶媒内分子プレカーサ高温分解法、非特許文献25記載のリバースミセル法等を使用することができる。ナノ結晶コア上への半導体シェル形成については非特許文献22や特許文献2も参照されたい。適する素材はII−VI族、III−V族又はIV−VI族の半導体素材であり、例えばII−VI族半導体素材のなかではCdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS、ZnTe等の二元半導体化合物が適している。その次の工程では、こうして形成されたコアシェル構造ナノ粒子105を周知手順に従いアニーリングし、それによってコア形成半導体素材とシェル形成半導体素材の間に相互拡散を引き起こすことで、その合金組成に勾配のある三元半導体ナノ結晶125を発生させる。三元合金であるので、その相互拡散が起こるのは、CdZnSe結晶等ならばカチオン副格子、CdSeTe結晶等ならばアニオン副格子の上だけである。このアニーリングは、250〜350℃の温度で10〜60分かけて実行するのが望ましい。対象となるナノ粒子105がCdSeコア110及びZnSeシェル120を有するナノ粒子ならば、アニーリングに伴いシェル110内のZnがコア110内に拡散するため、そのZn濃度に勾配のあるCdZnSeナノ結晶125が発生する。発生するナノ結晶125の合金組成はシェル120の厚みで左右されるので、例えばCdSeコア110及び厚めのZnSeシェル120を有するナノ粒子105からは、そのZn量が多めのCdZnSeナノ結晶125が得られる。
【0026】
その次の工程では、アニーリングで形成された三元半導体ナノ結晶125上に第2シェル150を成長させる。このシェル形成に使用する素材は、三元ナノ結晶表層部130に比べバンドギャップが広い半導体素材である。III−V族化合物やIV−VI族化合物でのシェル形成には若干問題があるので、二元組成か三元組成のII−VI族半導体素材、例えばZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnTeS等でシェル150を形成するのが望ましい。シェル150の形成は、配位溶媒にナノ結晶125を入れた分散系にゆっくりと分子プレカーサを添加する手順等、既知の手順で実行することができる。また、シェル120を多層シェル構造にすること、例えばZnSe/ZnSeS構造、ZnSeS/ZnS構造、ZnSe/ZnSeS/ZnS構造等にすることもできる。
【0027】
そして、その次の工程でアニーリングを再実行するようにしてもよい。第2シェル150の形成を経てできた三元コアシェル構造ナノ粒子145について、その熱安定性をチェックするためである。このアニーリングは、300〜350℃の温度で10〜60分かけて実行するのが望ましい。再アニーリングを経ても量子収量やフォトルミネッセンススペクトル応答があまり変化していなければ、そのナノ粒子145は温度安定性が良好であるといえよう。
【0028】
なお、本方法では、三元半導体ナノ結晶125やその第2シェル150の形成に当たりプレカーサを使用する場合がある。カチオン性プレカーサを使用するのであれば、IIb族、IIIa族、IVa族等の物質を使用するのが望ましい。IIb族ではCd(Me)2、CdO、CdCO3、Cd(Ac)2、CdCl2、Cd(NO32、CdSO4、ZnO、ZnCO3、Zn(Ac)2、Zn(Et)2、Hg2O、HgCO3、Hg(Ac)2等が、またIIIa族ではIn(Ac)3、InCl3、In(acac)3、In(Me)3、In23、Ga(acac)3、GaCl3、Ga(Et)3、Ga(Me)3等がそれぞれカチオン性プレカーサに適している。無論、カチオン性プレカーサに適する物質はほかにもあり得る。
【0029】
三元半導体ナノ結晶125やその第2シェル150の形成に当たりアニオン性プレカーサを使用するのであれば、S、Se、Te、N、P、As又はSbを含有する物質を使用するのが望ましい。この条件を満たすものには、ビス(トリメチルシリル)スルフィド、トリ−n−アルキルホスフィンスルフィド、硫化水素、トリ−n−アルケニルホスフィンスルフィド、アルキルアミノスルフィド、アルケニルアミノスルフィド、トリ−n−アルキルホスフィンセレニド、アルケニルアミノセレニド、トリ−n−アルキルアミノセレニド、トリ−n−アルケニルホスフィンセレニド、トリ−n−アルキルホスフィンテルリド、アルケニルアミノテルリド、トリ−n−アルキルアミノテルリド、トリ−n−アルケニルホスフィンテルリド、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン、トリエチルホスファイト、亜燐酸ナトリウム、亜燐酸カリウム、トリメチルホスフィン、トリス(トリメチルシリル)アーセナイド、ビス(トリメチルシリル)アーセナイド、砒化ナトリウム、砒化カリウム等がある。無論、アニオン性プレカーサに適する物質はほかにもあり得る。
【0030】
そうしたプレカーサから高温下で産生される金属イオンを安定化するには合成用配位子(coordination ligand)を使用すればよい。反応素材となりうる化合物のなかには、より重要な機能である合成用配位子としての機能も果たせるような、便利な高沸点化合物も数多くある。それらはまた、粒子成長の制御やナノ結晶へのコロイド性付与も助長してくれる。合成用配位子に適する化合物には、アルキルホスフィン、アルキルホスフィンオキサイド、アルキルホスフェート、アルキルアミン、アルキルホスホン酸、脂肪酸等がある。その長さが炭素原子数で4超30未満の炭化水素鎖をアルキル鎖とする化合物は、合成用配位子として特に好適に使用することができる。飽和型でも不飽和型でもオリゴマー的でも構わない。その構造中に芳香族が含まれていても構わない。
【0031】
合成用配位子に適する化合物の具体例としては、トリオクチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(ドデシル)ホスフィン、トリオクチルホスフィンオキサイド、亜燐酸トリブチル、トリオクチルデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリス(トリデシル)ホスフェート、トリイソデシルホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(トリデシル)ホスフェート、ヘキサデシルアミン、オレイルアモン(oleylamone)、オクタデシルアミン、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、シクロドデシルアミン、n,n−ジメチルテトラデシルアミン、n,n−ジメチルドデシルアミン、フェニルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、プロピルホスホン酸、アミノヘキシルホスホン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、デカン酸等や、その混合物を挙げることができる。無論、これら以外を使用できないわけではない。
【0032】
合成用配位子を1−ノナデセン、1−オクタデセン、シス−2−メチル−7−オクタデセン、1−ヘプタデセン、1−ペンタデセン、1−テトラデセンジオクチルエーテル、ドデシルエーテル、ヘキサデシルエーテル等の溶媒又はその混合物で希釈して使用することも可能である。
【0033】
使用した合成用配位子は、ナノ粒子表面を官能化しうる適当な有機物に置き換えるのが望ましい。三元コアシェル構造ナノ粒子145を、様々な溶媒中に分散可能にするためである。使用する手順は既知の手順でよい。また、ナノ粒子145を様々な溶媒中に分散させうるようにする有機物、即ち表面官能化用配位子(surface functionalization ligand)はXx(Y)nZzで表すことができる。この表記中、XはSH、NH2、P、P=O、CSSH、芳香族複素環等であり、ZはOH、NH2、NH3+、COOH、PO32-等であり、(Y)nは飽和又は不飽和炭化水素鎖構造を主体とする物質、XとYをつなぐアリール等である。使用する物質はピリジン、ピリジン誘導体、メルカプト−アルキル酸、メルカプト−アルケニル酸、メルカプト−アルキルアミン、メルカプト−アルケニルアミン、メルカプト−アルキルアルコール、メルカプト−アルケニルアルコール、ジヒドロリポル酸(dihydrolipolic acid)、アルキルアミノ酸、アルケニルアミノ酸、アミノアルキルカルボイック酸(aminoalkylcarboic acid)、ヒドロキシアルキルカルボイック酸(hydroxyalkylcarboic acid)、ヒドロキシアルケニルカルボイック酸(hydroxyalkenylcarboic acid)等から選ぶのが望ましい。無論、これ以外の物質を使用できないわけではない。
【0034】
また、本方法に従い合成される三元コアシェル構造ナノ粒子145のサイズは20nm未満とするのが望ましいが、それ以外のサイズにすることも可能である。
【0035】
更に、CdZnSe三元半導体ナノ結晶125を例にして説明した通り、ZnSeシェル120に発するZn拡散の特性は、三元ナノ結晶表層部130にてナノ結晶内Zn濃度が最高になるのに対して、三元ナノ結晶中核部140はZn量がかなり少ないため高Cd/Zn比CdZnSeになる、というものである。後の諸段落で例示説明する通り、このZn拡散には予想を上回る効果がある。それは、そのCdZnSeナノ結晶125内の格子構造に、中核部140ではウルツ鉱型、表層部130では立方晶又は閃亜鉛鉱型、という差異が生じることである。即ち、中核部140・表層部130間に格子構造遷移部が生まれ、格子構造がそこでウルツ鉱型から閃亜鉛鉱型へと変転している。この格子構造変転が生じる理由に関していえることは、高Cd/Zn比CdZnSeで形成されている中核部140ではCdSeの室温時格子構造であるウルツ鉱型構造が現れるのに対し、1未満Cd/Zn比CdZnSe、例えばそのCd/Zn比が1よりかなり小さいCdZnSeで形成されている表層部130ではZnSeの室温時格子構造である閃亜鉛鉱型が現れる、ということである。この中核部140・表層部130間格子構造変転の物理的帰結は、中核部140への帯電キャリア局在が強まることである。この局在強化は、現象論的には次のように理解することができる。即ち、ウルツ鉱型の中核部140内に存する電子は、中核部140内伝搬を経て閃亜鉛鉱型の表層部130に進入しようとしても、格子構造の変転が原因で電子波が散乱され、中核部140に閉じ込められる、というものである。但し、15%ほどの僅かさであれ格子位置に無秩序性があると生じる前述のアンダーソン局在に加え、こうした格子構造変転による閉じ込めが生じるのは、その三元合金の素材となった二種類の二元化合物間でその室温時格子構造が異なる場合だけである。一般的なII−VI族二元化合物の例でいえば、CdSe及びCdSはウルツ鉱型、CdTe、ZnS、ZnSe及びZnTeは閃亜鉛鉱型のナノ結晶を形成するので、三元合金CdZnSなら格子構造変転が生じるがZnSeTeでは生じない。なお、CdTeコア及びCdSシェルを有する構造のナノ粒子105をアニーリングした場合、アニオン副格子上で相互拡散が生じ、それによって閃亜鉛鉱型格子構造の中核部140及びウルツ鉱型格子構造の表層部130を有する三元半導体ナノ結晶125が形成されることとなろう。ただ、非特許文献26記載の如く、アニオン副格子上での相互拡散はカチオン副格子上でのそれに比べゆっくりと進行するので、相互拡散が所望程度まで進行するようアニーリング条件を調整する必要があろう。
【0036】
まとめると、上掲の実施形態に係る三元半導体ナノ結晶125の中核部140でキャリア閉じ込めが生じるのは、拡散現象をベースとして(1)中核部140よりも表層部130の方がバンドギャップが広くなる、(2)中核部140に比べ表層部130の合金組成がかなり低秩序になるためアンダーソン局在が生じる、(3)中核部140では例えばウルツ鉱型だが表層部130では例えば閃亜鉛鉱型というように格子構造が異なってくるため散乱局在が生じる、という三現象によるものと考えられる。主因は(1)であろう。加えて、コアシェル構造ナノ粒子105をアニーリングして三元半導体ナノ結晶125を発生させた後に、第2シェル150を1個又は複数個設けると、電子及び正孔が表層部130から遠ざかるため更に閉じ込め性が向上する。そのシェル150の格子構造は、例えば表層部130の格子構造と同じ構造にするとよい。
【0037】
従って、上掲の実施形態に係る三元半導体ナノ結晶125は、その表層部130から中核部140にかけて合金組成勾配のある三元半導体ナノ結晶125として捉えることが可能である。例えば、その中核部140における合金組成の三元性が低くてほとんど二元組成のような半導体素材になっており、そうした二元的な三元組成から表層部130における低秩序な三元組成へと中核部140・表層部130間の合金組成遷移部で合金組成が遷移するナノ結晶125である。電子や正孔をよりしっかりと閉じ込めることができるよう、こうした合金組成勾配のあるナノ結晶125に1個又は複数個の第2シェル150を付加して三元コアシェル構造ナノ粒子145に転化させてもよい。これら、ナノ結晶125又はそれに1個若しくは複数個のシェル150を付加したナノ粒子145は、ナノドット、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノテトラポッド或いは更に高次の形状にすることができる。量子閉じ込め効果が現れうるナノスケール粒子形状であればよい。また、ナノ結晶125の形成素材としては、II−VI族、III−V族又はIV−VI族の半導体素材、例えばCdZnSe、CdZnS、InGaAs、PbSeS等の三元半導体素材を使用するとよい。そのナノ粒子145にシェル(群)150を形成するための素材としては、II−VI族、III−V族又はIV−VI族の半導体素材、特にII−VI族半導体素材を使用するとよい。II−VI族が望ましいのは、ナノ結晶125上にシェル150を好適に形成できるからである。ZnSe、CdS、ZnS、ZnSeS、CdZnSeS等、二元、三元及び四元化合物のいずれでもシェル(群)150を形成することができる。
【0038】
更に、上掲の実施形態に係る三元半導体ナノ結晶125は、その表層部130から中核部140にかけて格子構造が第1格子構造から第2格子構造へと変化する三元半導体ナノ結晶125として、捉えることも可能である。例えば、その中核部140・表層部130間の格子構造遷移部で格子構造が第1格子構造から第2格子構造へと遷移するナノ結晶125である。ナノ結晶125内でこうした格子構造遷移を発生させるには、合金組成勾配が生じるようそのナノ結晶125を形成すればよい。その他の既知手法を応用して格子構造遷移を発生させてもよい。先の説明では第1格子構造がウルツ鉱型、第2格子構造が閃亜鉛鉱型の例を使用したが、その逆に第1格子構造が閃亜鉛鉱型、第2格子構造がウルツ鉱型でも構わない。電子、正孔等のキャリアをよりしっかりと閉じ込めることができるよう、そのナノ結晶125に1個又は複数個の第2シェル150を付加して三元コアシェル構造ナノ粒子145に転化させてもよい。前述した通り、そのシェル150の格子構造は表層部130のそれと同じ第2格子構造にするのが望ましい。例えば第1格子構造がウルツ鉱型、第2格子構造が閃亜鉛鉱型なら、シェル150の格子構造は閃亜鉛鉱型にするのが望ましい。これら、ナノ結晶125又はそれに1個若しくは複数個のシェル150を付加したナノ粒子145は、ナノドット、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノテトラポッド或いは更に高次の形状にすることができる。量子閉じ込め効果が現れうるナノスケール粒子形状であればよい。また、ナノ結晶125の形成素材としては、II−VI族、III−V族又はIV−VI族の半導体素材、例えばCdZnSe、CdZnS、InGaAs、PbSeS等の三元半導体素材を使用するとよい。そのナノ粒子145にシェル(群)150を形成するための素材としては、II−VI族、III−V族又はIV−VI族の半導体素材、特にII−VI族半導体素材を使用するとよい。II−VI族が望ましいのは、現状ではナノ結晶125上にシェル150を最も好適に形成できるからである。ZnSe、CdS、ZnS、ZnSeS、CdZnSeS等、二元、三元及び四元化合物のいずれでもシェル(群)150を形成することができる。
【0039】
次に、理解促進のため本発明の実施例を示す。以下の記載を以て本発明の要旨が限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
[非ブリンキング三元CdxZn1-xSeコア/ZnSeシェル構造ナノ粒子の調製]
本実施例では、ドライボックス及びシュレンクラインを用い標準的な無気手順で合成プロセス全体を実行した。その冒頭工程は、三元コアの材料になるCdSeコア群を形成する工程である。この工程では、まず、三口フラスコにTDPA(1- tetradecylphosphonic acid)を0.0755g、脱気済TOPOを4g、HDA(hexadecylamine)を2.5g入れ、そのフラスコ内の混合物を100℃で30分かけて脱気した。次いで、1モルTOPSe原液を1ml加えた上でフラスコ内の混合物を300℃で加熱し、更にその混合物中にカドミウム原液を手早く注入した。使用した液のうち、1モルTOPSe原液は0.01モルのセレンを10mlのTOPに溶かして作成した液であり、カドミウム原液は0.06gのCdAc2を3mlのTOPに加えて作成した液である。カドミウム原液注入は、CdSeナノ結晶の核生成が進むようその混合物を強く撹拌しながら行った。そして、温度を260℃に設定してその結晶を成長させた。5〜10分経過後に加熱を止め、フラスコを放置して室温に戻した。
【0041】
次に、こうして得られたCdSeコア入り原液を2.5ml、300℃まで30分かけて再昇温させた。更に、ドライボックス内で作成したZnEt2溶液及びTOPSe溶液を互いに別々の1ml容量注射器に装填し、それら二種類の液を高温になったCdSeコア入り原液にその注射器から注入した。即ち、CdSeコア入り原液の温度が300℃まで高まった直後に、まずZnEt2溶液を0.35ml注入し、次いでTOPSe溶液を0.35ml注入した。使用した液のうち、ZnEt2溶液は0.14mlの1モルZnEt2(ヘキサン溶液)を0.56mlのTOPに加えた液であり、TOPSe溶液は0.14mlの1モルTOPSe(TOP溶液)を0.56mlの別のTOPに加えた液である。両液の注入は合わせて20秒以内で行い、また注射器が両方とも空になるまで20秒間隔で繰り返した。その後は、反応が進むようその混合物を更に5分加熱した上で、加熱を止めてその反応を停止させた。
【0042】
本合成プロセスの最終工程は、こうして得られたCdZnSe三元コアにシェルを付加する工程である。この工程では、まず、反応用の三口フラスコにCdZnSe三元コア入り原液を入れて190℃まで加熱した。次いで、ZnEt2(1モル,0.625ml)及びTOPSe(1モル,1.25ml)のTOP溶液を1ml、フラスコ内を強く撹拌しながらゆっくりとフラスコ内に滴下させた。それが済んだ後、温度を180℃まで下げた上で、1時間撹拌し続けることでアニーリングを施し、CdxZn1-xSeコア/ZnSeシェル構造のナノ粒子を発生させた。
【実施例2】
【0043】
[非ブリンキング三元CdxZn1-xSeコア/ZnSeSシェル構造ナノ粒子の調製]
本実施例では、ドライボックス及びシュレンクラインを用い標準的な無気手順で合成プロセス全体を実行した。その冒頭工程は、三元コアの材料になるCdSeコア群を形成する工程である。この工程では、まず、0.2mモルのCdO及び0.5gのステアリン酸を三口フラスコに入れて180℃まで昇温させ、その混合物が透明になるまで待った。次いで、ドライボックス内でその混合物に3mlのHDA及び6mlのTOPOを添加し、強く撹拌しながらその混合物をシュレンクライン上で310℃まで昇温させ、そしてそこに1モルTOPSeを1ml注入した。その後は温度を290〜300℃まで下げて更に10分間撹拌した。
【0044】
次の工程は、こうして形成したCdSeコア上にZnSeシェルを形成する工程である。この工程では、まず、CdSeコア入り原液を室温まで冷まし、再び190℃まで昇温させた。次いで、注射器に1モルジエチル亜鉛ヘキサン溶液を260μl、1モルTOPSeを260μl、TOPを2ml入れ、その注射器の中身を10ml/時の速度でCdSeコア入り原液に添加した。それが済んだ後、その混合液の温度を180℃まで下げて45〜90分保持することで、その三元コアシェル構造ナノ粒子をアニーリングした。この180℃アニーリングが済んだ後、その混合液の温度を室温まで戻した。その後、再アニーリングを300℃で30分かけて行うことで、その合金組成に勾配のある三元ナノ結晶に転化させた。
【0045】
本合成プロセスの最終工程は、こうして得られたCdZnSe三元コアにZnSeS三元シェル、例えば後述のZnSe0.330.67三元シェルを付加する工程である。この工程では、まず、新たな三口フラスコにCdZnSe三元コア入りの液を1.5ml、TOPOを4ml、HDAを3ml入れ、その混合物を190℃まで加熱した。次いで、注射器に、1モルのジエチル亜鉛ヘキサン溶液を804μl、1モルのTOPSeを268μl、0.25モルのビス(トリメチルシリル)スルフィドのヘキサン溶液を536μl、そしてTOPを2.5ml入れ、その中身を10ml/時の速度でCdZnSe三元コア入りの液に添加した。それが済んだ後温度を180℃まで下げ、形成されているCdZnSeコア/ZnSeSシェル構造ナノ粒子を45〜90分かけてアニーリングした。
【0046】
図3に、本実施例の三元コアシェル構造ナノ粒子のTEM画像を示す。図示の如くこのナノ粒子は光を輻射する性質のナノロッドであり、そのアスペクト比は約2.5:1となっている。また、図4にそのナノロッド単体のSTEM画像を示す。この画像は、そのナノロッドを(−2 1 0 0)ウルツ鉱軸に沿って倍率=500万倍で撮影したものである。このナノロッドでは、画像中心部で格子フリンジがうねっていることから判るように、その中核部の格子構造がウルツ鉱型になっている。同じく、画像辺縁部で格子フリンジがまっすぐなことから判るように、その表層部の格子構造が立方晶型乃至閃亜鉛鉱型になっている。本実施例に係る三元ナノ粒子のコア、即ち外側のシェルを除くナノ結晶の部分については、その中核部におけるウルツ鉱型格子構造から表層部における立方晶型乃至閃亜鉛鉱型格子構造への格子構造遷移を示すSTEM画像も得られている。
【0047】
[単分子ブリンキング及びアンチバンチングの計測]
次に、実施例1及び2に係る三元コアシェル構造ナノ粒子について、標準的手法に従い単分子ブリンキング及びアンチバンチングの計測を行った。比較のため、従来のCdTeナノ結晶(量子収量=80%;Quantum Dot Corporation社の品)についても計測を行った。単分子ブリンキングの計測に当たっては、発明品及び従来品のいずれについても標準的な手法を使用し、水晶オーバスリップ上に形成したナノ結晶の極希薄膜を試料として用いた。具体的には、波長=532nmの緑色連続レーザ光で試料を励起しつつ、またそのレーザ光のパワー密度を約0.1〜10kW/cm2の範囲内で変化させつつ、実施例1及び2の品並びに従来品についてニコン社の共焦点顕微鏡で光学計測を行った。励起用レーザ光は、NA=1.5の油浸対物系を使用し回折限界スポット径に相当する約400nmまで合焦させた。試料からの輻射光は、それと同じ対物系で集光し、532nmの成分をフィルタで除去した後、シリコン製アバランシェフォトダイオード(SAPD)に入射させた。蛍光強度経時変化は、このSAPD出力を積分時間=1〜30m秒/binのTTLマルチチャネルスケーラに送ることで求めた。他方のアンチバンチングに関しては、50/50ビームスプリッタ及び単一光子計数型SAPD2個を、Hanbury−Brown及びTwissが非特許文献27で示した設定で使用して計測した。それら2個のSAPDは、タイムビン別光子計数カードにその出力が保存されるよう、時間波高変換器のスタート入力及びストップ入力に接続した。
【0048】
図5A及び図5Bに、実施例1に係る三元コアシェル構造ナノ粒子における蛍光強度経時変化の計測結果を示す。図5Aに示したデータはそのパワー密度が約1kW/cm2のレーザ光を使用し30m秒の捕集タイムビンで計測したデータ、図5Bに示したデータはそのパワー密度が約10kW/cm2のレーザ光を使用し10m秒の捕集タイムビンで計測したデータである。図5Bでは約10分のオン時間でターンオフしているが、これは光褪色したことによるものであり、ブリンキング現象によるものではない。実際、励起光パワー密度=1kW/cm2のケースでは、三元ナノ粒子が高度に光安定で、オン時間が数時間にも達するという結果が得られている。また、タイムビンのサイズを1m秒以下にしても同様の経時変化となること、即ちごく短時間のスケールでブリンキングが発生しているわけではないことも確かめた。更に、図5Bにて、約10分を超えると全ての三元ナノ粒子が一斉にターンオフしていることから判るように、そのパワー密度が10kW/cm2と高めのレーザ光を使用したときに約10分の時点で生じるターンオフは、それらのナノ粒子が光褪色したことによるものである。実施例2に係る三元ナノ粒子についても、そのオン時間が10分を上回る長時間となり、そのターンオフが光褪色で生じることが判った。
【0049】
対比のため、図6に、従来品たるCdTeナノ結晶について蛍光強度経時変化の計測結果を示す。計測に使用した励起光は10kW/cm2のパワー密度を有するレーザ光、捕集タイムビンのサイズは10m秒であった。図示した経時変化は他の文献で報告されているナノ結晶膜でのそれとよく似ており、そのオン時間が文献記載の約1分という最長値を超えるには至っていない。このことから判るように、発明品たる三元コアシェル構造ナノ粒子における単分子蛍光の途切れ方は、文献記載乃至従来品に係るナノ結晶におけるそれと大きく異なる態様になっている。
【0050】
実施例1の三元コアシェル構造ナノ粒子に係る二次コヒーレンス関数g(2)(τ)の計測結果を図7Aに、また従来品たるCdTeナノ結晶に係るそれを図7Bにそれぞれ示す。そのコヒーレンス関数から読み取れるように、実施例1に係るコヒーレンス関数ではτ=0にて明らかにアンチバンチング(反集群)挙動が発生している。発明品たるナノ粒子でこの挙動が発生したことはとりわけ重要である。なぜなら、非ブリンキング性の発生原因が個別ナノ粒子にあることの証左となっているからである。また、図示の通り、発明品たる三元コアシェル構造ナノ粒子の輻射寿命は、従来品たるCdTeナノ結晶のそれが平均20n秒であるのに対し、平均4〜5n秒とかなり短くなっている。参考のために述べると、ナノロッドの輻射寿命(アンチバンチング計測値)は20〜200n秒の範囲内、自己集積化量子ドットのそれは1〜2n秒の範囲内である。なお、実施例2に係る三元コアシェル構造ナノ粒子については、光褪色現象が障害になり、アンチバンチング計測で輻射寿命を求めることができなかった。
【0051】
[量子収量計測]
次に、実施例1及び2に係る三元コアシェル構造ナノ粒子で組成されたナノ結晶濃厚膜について、積分球を使用し量子収量の絶対値を計測した。実施例1に関する計測に当たっては、TOPO、HDA及びTOP配位子を除去してHDA配位子のみに置き換える標準的な配位子交換を施すことで、その末端にHDAが付いているナノ粒子を作成し、そのナノ粒子をトルエン中に分散させた濃縮分散系をガラススライド上に滴下した。その試料について計測した量子収量の絶対値は、対応する分散媒の相対量子収量が約80%であるのに対し約75%となった。また、実施例2に関する計測に当たっては、成長に寄与した配位子をピリジンに置き換える配位子交換を施し、エタノールを分散媒とする濃縮分散系を作成し、その濃縮分散系をガラススライド上に滴下した。その膜について計測したところ、対応する分散媒のそれが約36%であるのに対して、その量子収量の絶対値は約40%となった。どちらの計測でも、分散媒自体の量子収量と濃厚膜の量子収量の間に、実験誤差の範囲を超える大きな劣化乃至計測誤差は見られなかった。対照的に、通常のナノ結晶では、非特許文献12記載の通り、膜の量子収量が分散媒のそれに対し2乃至3分の1以下に低下することが周知である。
【0052】
このように、実施例1及び2に係る三元コアシェル構造ナノ粒子は、そのオン時間が数時間以上にもなる高い非ブリンキング性、4〜5n秒と自己集積化量子ドットに匹敵する極短輻射寿命、並びにナノ結晶蛍光体濃厚膜内近接消光に対する耐性を呈するものであった。
【符号の説明】
【0053】
105 コアシェル構造ナノ粒子、110 二元半導体コア、120 第1シェル、125 三元半導体ナノ結晶、130 三元ナノ結晶表層部、140 三元ナノ結晶中核部、145 三元コアシェル構造ナノ粒子、150 第2シェル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三元半導体ナノ結晶のコロイド溶液を生産する方法であって、
(a)二元半導体コアを準備するステップと、
(b)その二元半導体コアを組成している成分のうち一元及びその二元半導体と結合して三元半導体を発生させる別の成分を含有する第1シェルを、準備した二元半導体コア上に形成するステップと、
(c)それによって発生するコアシェル構造ナノ粒子をアニーリングすることにより、合金組成勾配のある三元半導体ナノ結晶を発生させるステップと、
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、更に、その三元半導体ナノ結晶上に第2シェルを形成することで三元コアシェル構造ナノ粒子を発生させるステップを有する方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、その二元半導体コアがII−VI族、III−V族又はIV−VI族半導体素材を含有する方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法であって、そのII−VI族半導体素材がCdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS又はZnTeである方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、その第1シェルがII−VI族、III−V族又はIV−VI族半導体素材を含有する方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法であって、そのII−VI族半導体素材がCdSe、CdS、CdTe、ZnSe、ZnS又はZnTeである方法。
【請求項7】
請求項2記載の方法であって、その第2シェルが、二元又は三元のII−VI族、III−V族又はIV−VI族半導体素材を含有する方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法であって、その二元又は三元II−VI族半導体素材がZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnSeTe又はZnTeSである方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法であって、そのアニーリングを250〜350℃の温度で実行する方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法であって、そのアニーリングを10〜60分かけて実行する方法。
【請求項11】
請求項2記載の方法であって、更に、第2シェルが形成された後再アニーリングを実行するステップを有する方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法であって、その中核部ではウルツ鉱型格子構造、表層部では閃亜鉛鉱型格子構造を呈するように、その三元半導体ナノ結晶を発生させる方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法であって、閃亜鉛鉱型格子構造を呈するよう、三元半導体ナノ結晶上に第2シェルを形成する方法。
【請求項14】
(a)本ナノ結晶の中核部では第1格子構造となり表層部ではまた別の第2格子構造となる結晶構造と、
(b)それら中核部と表層部の間に発生した格子構造遷移部と、
を有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項15】
請求項14記載の三元半導体ナノ結晶であって、更に、その表面上に1個又は複数個形成された第2格子構造のシェルを有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項16】
請求項14記載の三元半導体ナノ結晶であって、その中核部の格子構造がウルツ鉱型、表層部の格子構造が閃亜鉛鉱型である三元半導体ナノ結晶。
【請求項17】
請求項16記載の三元半導体ナノ結晶であって、閃亜鉛鉱型格子構造を呈するシェルを1個又は複数個有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項18】
請求項14記載の三元半導体ナノ結晶であって、II−VI族、III−V族又はIV−VI族半導体素材を含有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項19】
(a)本ナノ結晶の中核部では第1合金組成を呈し表層部ではまた別の第2合金組成を呈する三元半導体と、
(b)それら中核部と表層部の間に発生した合金組成遷移部と、
を有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項20】
請求項19記載の三元半導体ナノ結晶であって、その表面上に1個又は複数個形成されたシェルを有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項21】
請求項19記載の三元半導体ナノ結晶であって、II−VI族、III−V族又はIV−VI族半導体素材を含有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項22】
請求項21記載の三元半導体ナノ結晶であって、その半導体素材がCdZnSe、CdZnS、InGaAs又はPbSeSである三元半導体ナノ結晶。
【請求項23】
請求項20記載の三元半導体ナノ結晶であって、そのシェルがII−VI族、III−V族又はIV−VI族半導体素材を含有する三元半導体ナノ結晶。
【請求項24】
請求項23記載の三元半導体ナノ結晶であって、そのシェルがZnSe/ZnSeS構造又はZnSeS/ZnS構造である三元半導体ナノ結晶。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2011−505432(P2011−505432A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530993(P2010−530993)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/009834
【国際公開番号】WO2009/058173
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】