コンクリート側壁の構築方法およびその構造
【課題】工期の短縮化と工費の低減化とを可及的に図れるコンクリート側壁の構築方法及びその構造を提供する。
【解決手段】所定の厚みと高さとを有して上部荷重を支持するコンクリート側壁12を、地中掘削壁面に沿わせて吹き付けコンクリートで形成するにあたって、該地中掘削壁面に沿わせて、該コンクリート側壁12の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材30を配置して、該定規材30で規定される空間内にコンクリート40を複数回に分けて吹き付け施工して多層に充填していくことで所望形状のコンクリート側壁12に形成する。
【解決手段】所定の厚みと高さとを有して上部荷重を支持するコンクリート側壁12を、地中掘削壁面に沿わせて吹き付けコンクリートで形成するにあたって、該地中掘削壁面に沿わせて、該コンクリート側壁12の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材30を配置して、該定規材30で規定される空間内にコンクリート40を複数回に分けて吹き付け施工して多層に充填していくことで所望形状のコンクリート側壁12に形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート側壁の構築方法およびその構造に係わり、特に、地中掘削壁面に沿って形成されて上部荷重を支持するコンクリート側壁を、吹き付けコンクリートで形成可能となして工期の短縮化と工費の低減化とを大幅に図れるようにしたコンクリート側壁の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地中掘削壁面に沿って形成されて上部荷重を支持するコンクリート側壁としては、例えば、側壁導坑式トンネル工法において一次覆工体の一部として形成されるコンクリート側壁を挙げ得る。この側壁導坑式トンネル工法は、地盤支持力が不足したり、土被りが小さい土砂地山で地表面沈下防止する必要があるような大断面トンネルの構築に適した方法として、従来から良く知られている。
【0003】
図5〜図10はこの側壁導坑式トンネル工法によるトンネル構築方法を示したものであり、図5はその構築途中の状態を示す概略平面図である。また、図6〜図10は図5中にVI−VI線〜X−X線にて示してある各部位の工程別の矢視断面図である。
【0004】
図5に示すように、側壁導坑式トンネル2にあっては、構築しようとする大断面のトンネル本坑4の掘削に先立って、当該トンネル本坑4の両側部に位置させて一対の側壁導坑6,6を掘削し、その内周面に支保工7とインバート8とを仮設していく(図6参照)。そして、この側壁導坑6,6の形成が終了すると、次にこの一対の側壁導坑6,6内にトンネル本坑4の支保工10を支持して上部荷重を負担するためのコンクリート側壁12を、当該側壁導坑6,6の相互に外側となる地中壁面に沿わせて形成する(図7参照)。そして、当該コンクリート側壁12,12が硬化してから側壁導坑6,6間上部の地山を掘削して大断面のトンネル本坑4の上半部を掘坑しつつ、両コンクリート側壁12,12の天端間に掛け渡してその掘坑の内周面上側部に支保工10を逐次設置していく(図8参照)。この後、側壁導坑6,6間を掘削してトンネル本坑4の下半部を掘坑して、その底面にインバート14を打設形成していく(図9参照)。爾後、コンクリート側壁12,12と支保工10との内側にインバート14に連続させて二次覆工体のアーチコンクリート16を打設して、トンネル本坑4の内周面に本坑全断面を閉合した強固な覆工体18を形成して側壁導坑式トンネル2を完成させていく(図10参照)。
【0005】
ここで、上記コンクリート側壁12の形成にあたっては、図11に示すように移動式の鋼製型枠であるセントル20を設置してコンクリートを打設し、所定長ずつコンクリート側壁12を打ち継いでいくようにしている。図11では紙面の手前方向にセントル20が移動してコンクリート側壁12を打ち継ぎ形成していく様になっているが、図示するように、セントル20はコンクリート側壁の内面部を区画形成する鋼板製の内面部型板20aと次の打ち継ぎ面となる褄部面を区画形成する鋼板製の褄部型板20bとを有している。そして、これらの型板20a,20bはそれぞれ作業足場を兼用する走行架台21a,21bによって移動可能に支持されている。
【0006】
褄部型枠20bを支持する走行架台21bは、所定長ずつ先行形成された側壁コンクリート12の基盤部12a上に敷設されたレール22上を走行移動するようになっており、褄部型枠20bの外面側を支持すると共に、内面部型枠20aの端部を支持している。また、内面部型枠20aはその下端部が基盤部12aの側面に当接されて側壁導坑6を横断する鋼材23を介してジャッキ24で押圧支持されるようになっており、このジャッキ23は側壁導坑6の他方側の内壁面で支持反力を得るようになっている。
【0007】
そして内面部型枠20aを支持する走行架台21aは、上記鋼材23上に敷設されたレール25上を側壁導坑6の長手方向に走行移動するようになっており、当該鋼材23とジャッキ24及びレール25とは、セントル20がトンネル形成方向の前方に向けて次のコンクリート側壁形成部位に移動される度に、さらにその前方部位に逐次移設されていくようになっている。
【0008】
なお、上記のような側壁導坑式トンネルに関する特許文献としては下記の公報等がある。
【特許文献1】特開平8−28191号公報
【特許文献2】特開平8−184283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記従来のようなコンクリート側壁の構築方法にあっては、コンクリート側壁12を鋼製型枠20a,20bを用いて形成していたので、以下のような課題があった。
【0010】
即ち、鋼製型枠20a,20bを前方に移動させながらコンクリート側壁12を打ち継ぎ形成していくので、鋼製型枠20a,20bの脱型、解体、移動、再組み立てに時間を要し、しかもコンクリートを打設してから脱型するまでに1昼夜の待機時間を要するので、工期が長引くとともに工費も高騰してしまう。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、地中掘削壁面に沿って形成されて上部荷重を支持するコンクリート側壁を、鋼製型枠を用いずに簡易に短時間で形成することができ、工期の短縮化と工費の低減化とを大幅に図れるコンクリート側壁の構築方法およびその構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明に係るコンクリート側壁の構築方法にあっては、所定の厚みと高さとを有して上部荷重を支持するコンクリート側壁を、地中掘削壁面に沿わせて吹き付けコンクリートで形成するにあたって、該地中掘削壁面に沿わせて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材を配置して、該定規材で規定される空間内にコンクリートを複数回に分けて吹き付け施工して多層に充填していくことで所望形状のコンクリート側壁に形成することを特徴とする。
【0013】
ここで、前記定規材は、前記天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて前記内面部ラインを規定するとともに該ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、次の打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とを備えている構成となし得る。
【0014】
また、上記の目的を達成するために本発明に係るコンクリート側壁構造にあっては、上部荷重を支持すべく、所定の厚みと高さとを有して地中掘削壁面に沿わされて吹き付けコンクリートで形成されるコンクリート側壁は、該地中掘削壁面に沿って配設されて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材と、該定規材の内部に複数回に分けて吹き付け施工されて多層に充填形成されたコンクリートと、を備え、該定規材は、該天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて該内面部ラインを規定するとともに該天面部ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とからなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記のようにしてなる本発明のコンクリート側壁の構築方法及びその構造によれば、鋼製型枠を用いずに、これに代えてコンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材を設置して、この定規材の内部空間にコンクリートを吹き付け機で多層に吹き付け充填することで、コンクリート側壁を所定の厚みと高さを有した所望形状に精度良く容易に形成することができる。また、鋼製型枠を用いないので型枠の脱型,移動,再組み立て等の作業は必要なく、しかも定規材は埋め殺すので、コンクリートの吹き付け作業が終了すれば、待機することなく直ぐに次の打ち継ぎ作業を開始することができ、工期の短縮化と工費の削減化とを大幅に図れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係るコンクリート側壁の構築方法及びその構造の好適な一実施の形態について、側壁導坑式トンネルのコンクリート側壁を形成する場合を例示して、添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は側壁導坑式トンネルの構築途中状態を概略的に示す概略平断面図である。また、従来例として示した図6〜図10の各断面図は本実施形態にも共通するものであって、それぞれ図1中においてVI−VI線乃至X−X線にて示す部位の矢視断面図となっている。なお従来例と共通する部材には同一の符号を付して説明する。
【0018】
図1に示すように、側壁導坑式トンネルを構築するにあたっては、先ず、最初の工程として、側壁導坑掘削工程とこれに続く仮設の支保工設置工程とが順次に行われる。即ち、従来と同様に、構築しようとする大断面のトンネル本坑4の掘削に先立って、当該トンネル本坑4の両側部に位置させて一対の側壁導坑6,6を掘削し、その内周面に支保工7とインバート8とを仮設していく(図6参照)。
【0019】
ここで、上記側壁導坑掘削工程では、所定のトンネル設置計画ラインに沿って掘削機械等を用いて切り羽6aを掘削・ズリ出しして側壁導坑6,6を形成していく。そして、掘削した側壁導坑6,6の内周には、逐次に吹き付コンクリートとH型鋼とからなる支保工7を設置して土砂の崩落の防止を図る。当該吹き付コンクリートは1次吹き付け層と2次吹き層とからなり、H型鋼は1次吹き付け層の内側に沿わせて逐次に建て込んで設置していく。このH型鋼は側壁導坑6の長手方向に所定の間隔を空けて設けられ、当該H型鋼の設置後にそれらの間を埋めるようにして更にコンクリートの2次吹き付けが行われる。つまり、この2次吹き付け層によって吹き付けコンクリート層の強度向上が図られる。
【0020】
上記側壁導坑6,6の形成が終了すると、次にこの一対の側壁導坑6,6内にコンクリート側壁12を形成するコンクリート側壁形成工程が行われる。このコンクリート側壁形成工程は、側壁導坑6,6の切り羽6aから所定長後方部位に位置した側壁形成域にて、トンネル本坑4の支保工10の脚部10aを支持して上部荷重を負担するためのコンクリート側壁12が形成されていく。当該コンクリート側壁12は側壁導坑6,6の相互に外側となる壁面に沿わされて、トンネル長方向に所定長ずつ打ち継ぎ形成されていく(図7参照)。
【0021】
ところで、本発明では、図2の拡大縦断面図に示すように、上記コンクリート側壁12はコンクリート 吹き付け機44によるコンクリートの吹き付け施工にて形成される。ここで、当該コンクリート側壁12は支保工10と共にトンネル本坑4の一次覆工体の一部をなすものであって、支保工10の脚部10aを支持して鉛直荷重を負担するため、相応の壁厚と高さとが必要であると共に、支保工10の脚部10aを支持する天端面はその凹凸を極力なくして平坦に形成する必要がある。さらには、爾後に施工される二次覆工体16の被りコンクリート厚をも確保しなければならないので、この二次覆工体16の内面形状に相応させて、コンクリート側壁12の内周面側の形状もある程度精度良く形成する必要がある。しかし、従来において行われていたコンクリート吹き付け施工では、その十分な壁厚と外形形状精度とを確保して形成することが困難であった。
【0022】
そこで、本発明では、図示するように、コンクリート側壁12の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材30を側壁導坑6,6の壁面に沿わせて配置し、この定規材30で規定される空間内にコンクリート40を複数回に分けて多層に吹き付け充填していくことで所望形状のコンクリート側壁12に形成するようにした。
【0023】
即ち、上記定規材30は図3の斜視図にも示すように、上記天面部ラインを規定する天面部ラス板32と、上下方向に延びて配設されて前記内面部ラインを規定するとともに上記天面部ラス板32を支持する鉄筋34(または鋼材としても良い)と、次の打ち継ぎ面となる褄部側に配設された褄部ラス板36とを備えている。ここで、上記天面部及び褄部のラス板32,36にはラス金網または無数の孔が開口形成されているパンチングボード等を使用し得るが、本実施形態ではラス金網を採用している。天面部ラス板32は当該天面部位置の壁厚に相応した幅を有して側壁導坑6に沿って所定の長さに亘って設けられるようになっており、複数の鉄筋34によって下面を支持されている。
【0024】
上記鉄筋34は上記天面部ラス板32を支持すべく上部側が天面部ラインに沿わされてほぼ水平に折り曲げられて延設されており、その水平延設部34aの先端が側壁導坑6の内壁面に当接されて止着されるようになっている。また、上記水平延設部34aから屈曲して下方に延びる内面部ラインの規定部34bは二次覆工体16の湾曲形状に相応されて湾曲形成されており、下端部は脚部34cとして直線状に形成されて、インバート8の上面にほぼ鉛直に当設して載置されるようになっている。
【0025】
上記鉄筋34は所定のピッチで(1〜3m程度が好ましい)、複数本配設される。図示例にあっては、天面部ラス板32はトンネル長手方向の長さが2mに設定されていて、鉄筋34は1mピッチで2本設けられており、当該天面部ラス板32はその長手方向の中央部と次の打ち継ぎ面側となる一方の端部とが鉄筋34で支持されている。そして、天面部ラス板32は、その側壁導坑6の内方側端32aが当該鉄筋34の内面部ライン規定部34bに沿って下方に所定長折り曲げられて角部を覆う垂下部32aが形成されている。また、上記した次の打ち継ぎ面側となる一方の端部に配設された鉄筋34には、これに支持されて次の打ち継ぎ面となる褄部を画成するための褄部ラス板36が取り付けられている。
【0026】
そして、このように形成された定規材30は、図4に示すように、既に形成されている後方のコンクリート側壁12の褄部に連続されて側壁導坑6の壁面に止着配置され、当該定規材30と既形成されている側壁コンクリート12の褄部面とによって区画形成される空間内にコンクリート40が吹き付け充填されて、コンクリート側壁12が所望形状に逐次に打ち継ぎ形成されていく。
【0027】
上記コンクリート40の吹き付け充填は、図2の(a)または(b)に示すように、自走車両42上に搭載されたコンクリート吹き付けロボット44によって、定規材30の内部空間内に向けて複数回に分けて行い、段階的にコンクリート層40aを多層に積層しながら所定の厚みと高さとを有した所望形状に形成していく。また定規材30は埋め殺しにされていく。なお、諸条件の相違によって異なるものになるが、強度面からすると上記コンクリート側壁12に要求される最大壁厚は2.0m程度となる。ここで、図2(a)はその吹き付けコンクリート層40aを斜めにして下部から順次多層に積層充填していく場合を示し、図2(b)はその吹き付けコンクリート層40aを側壁導坑の壁面に沿わせて略鉛直にして多層に積層充填していく場合を示しているが、コンクリート層40aの1回の吹き付け厚みを従来から施工実績のある20cmにすると、図2(b)の場合ではその吹き付け回数は10回前後となり、その吹き付け充填に要する時間は概ね120分程度となる。なお、コンクリート層40aは、図2(a)に示すように、下部から斜めに形成して順次多層に積層充填していくようにする方がその施工上において好ましい。この場合にあって、コンクリート層40aの1回の吹き付け厚みを20cmにすると、コンクリート側壁12の高さが4mを超えていると20数回の吹き付け作業が必要となるが、このように斜めにコンクリート層40aを吹き付け形成して積層していくようにすると、コンクリートの垂れ等が生じ難くなるので、1回の塗布厚みを20cm以上にしてコンクリート層40aを吹き付け形成することができるようになる。つまり、その1回の塗布厚みは実際には40cm程度にまで増大可能であり、よって10数回の塗布作業で済ませることも可能である。また、全塗布量自体は変わりがないので、その塗布時間にはそれほどの差は生じない。
【0028】
即ち、上記コンクリート側壁12は、当該コンクリート側壁12の天面部ラインを規定する天面部ラス板32と、縦方向に延びて配設されて当該コンクリート側壁12の内面部ラインを規定するとともに上記天面部ラス板32を支持する鉄筋34(または鋼材)と、打ち継ぎ面の褄部に配設された褄部ラス板36とからなる定規材を有し、当該定規材の内部空間には、複数回に分けて吹き付け施工されたコンクリート40が多層に充填されている構造になっている。
【0029】
そして、上記コンクリート側壁形成工程が終了すると、そのコンクリート側壁12の所定の固化養生時間の経過後に、トンネル本坑形成工程が行われる。このトンネル本坑形成工程は、従来と全く同様に、トンネル本坑4の上半部を形成する上半部形成工程(図8参照)と下半部を形成する下半部形成工程(図9参照)との2段階に分けられて行われる。
【0030】
即ち、上半部形成工程は側壁形成域の後方部に位置する上半部掘削域にて行われ、側壁導坑6,6間上部の地山が掘削されると共に、側壁導坑6,6の天部に仮設された支保工7が撤去される。そして側壁導坑6,6内に形成された一対のコンクリート側壁12,12の天端間に掛け渡されてその掘坑の内周面上側部に沿って本設の支保工10が逐次設置されていく。また、下半部形成工程は上半部掘削域の後方部に位置する下半部掘削域にて行われ、側壁導坑6,6間の地山が掘削されると共に、側壁導坑6,6の側部に仮設された支保工7と底面に仮設されたインバート8とが撤去されてトンネル本坑4の下半部が掘削され、このトンネル本坑4の底面に本設のインバート14が打設形成されていく。
【0031】
そして、トンネル本坑4の下半部の掘削形成が終了すると、この下半部掘削域の後方部に位置する二次覆工形成域にて、二次覆工体形成工程が行われる。この二次覆工体形成工程では、上記コンクリート側壁12,12と支保工10とからなる一次覆工体の内周面に沿って上記インバート14に連続する二次覆工体のアーチコンクリート16が打設形成される。これにより、トンネル本坑4の内周面に本坑全断面を閉合する強固な覆工体18が形成されて、側壁導坑式トンネル2が所定長ずつ逐次に完成されていく(図10参照)。
【0032】
従って、以上のようにして構築されていく側壁導坑式トンネル2にあっては、側壁導坑6,6内に形成するコンクリート側壁12を、上述してあるような定規材30を用いてコンクリート40の吹き付け施工で形成するので、従来のような移動式の鋼製型枠であるセントル20を用いることなく、当該コンクリート側壁12に要求される形状精度を十分に確保しつつ、所定の厚みと高さとを有した所望形状に形成していくことができる。
【0033】
また、移動式鋼製型枠のセントル20を用いずに定規材30を埋め殺してコンクリート側壁12,12を打ち継ぎ形成して行くので、従来のように、鋼製型枠の脱型,移動,再組み立てといった作業がなくなり、簡易に短時間に施工することができるようになる。しかも、鋼製型枠のセントル20を用いていた従来にあっては、コンクリートを打設してから脱型するまでに1昼夜の待機時間を要していたが、吹き付け施工でコンクリート側壁12を形成すれば、その施工時間は数時間で終わり、従来のような型枠の脱型までの待機時間も不必要なので、直ぐに次の打ち継ぎ作業に取りかかれるので、施工時間の短縮化と工費の低減化とを大幅に図ることができるようになる。
【0034】
なお、上記コンクリート側壁12を形成するにあたっては、その1施工ブロック長を2.0mに設定して、定規材30のトンネル長手方向の長さを2.0mに形成してコンクリートの吹き付け施工を行うようにしているが、当該施工ブロック長は6.0m程度まで十分に延長可能であり、その施工ブロック長は諸条件を勘案して任意に設定し得る。
【0035】
また、上述の実施形態では、側壁導坑式トンネルのコンクリート側壁を形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、地下構造物等のような上部荷重を支持するコンクリート側壁を、地中掘削壁面に沿って所定厚みと高さとを有して所望の形状に形成する場合について、全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るコンクリート側壁の構築方法が適用された側壁導坑式トンネルの施工途中状態を概略的に示す平断面図である。
【図2】本発明に係るンクリート側壁の構築方法によって施工される側壁導坑内のコンクリート側壁を、一方の側壁導坑を拡大して示してある断面図であり、(a)は吹き付けコンクリート層を斜めにして多層に積層していく場合を示し、(b)は吹き付けコンクリート層を側壁導坑に沿わせて略鉛直にして多層に積層していく場合を示している。
【図3】図2中に示される定規材の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示す定規材を側壁導坑内の打ち継ぎ部に設置した状態を示す斜視図である。
【図5】従来における側壁導坑式トンネルの構築途中状態を概略的に示す平断面図である。
【図6】本発明と従来例とに共通する、図1中と図5中とにVI−VI線にて示す部位の矢視断面図である。
【図7】同上、図1中と図5中とにおいてVII−VII線にて示す部位の矢視断面図である。
【図8】同上、図1中と図5中とにおいてIIX−IIX線にて示す部位の矢視断面図である。
【図9】同上、図1中と図5中とにおいてIX−IX線にて示す部位の矢視断面図である。
【図10】同上、図1中と図5中とにおいてX−X線にて示す部位の矢視断面図である。
【図11】従来のコンクリート側壁形成工程における一方の側壁導坑の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0037】
2 側壁導坑式トンネル
4 トンネル本坑
6 側壁導坑
10 トンネル本坑の支保工
10a 支保工脚部
12 コンクリート側壁
14 トンネル本坑のインバート
16 二次覆工体
30 定規材
32 天面部ラス板
34 鉄筋
36 褄部ラス板
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート側壁の構築方法およびその構造に係わり、特に、地中掘削壁面に沿って形成されて上部荷重を支持するコンクリート側壁を、吹き付けコンクリートで形成可能となして工期の短縮化と工費の低減化とを大幅に図れるようにしたコンクリート側壁の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地中掘削壁面に沿って形成されて上部荷重を支持するコンクリート側壁としては、例えば、側壁導坑式トンネル工法において一次覆工体の一部として形成されるコンクリート側壁を挙げ得る。この側壁導坑式トンネル工法は、地盤支持力が不足したり、土被りが小さい土砂地山で地表面沈下防止する必要があるような大断面トンネルの構築に適した方法として、従来から良く知られている。
【0003】
図5〜図10はこの側壁導坑式トンネル工法によるトンネル構築方法を示したものであり、図5はその構築途中の状態を示す概略平面図である。また、図6〜図10は図5中にVI−VI線〜X−X線にて示してある各部位の工程別の矢視断面図である。
【0004】
図5に示すように、側壁導坑式トンネル2にあっては、構築しようとする大断面のトンネル本坑4の掘削に先立って、当該トンネル本坑4の両側部に位置させて一対の側壁導坑6,6を掘削し、その内周面に支保工7とインバート8とを仮設していく(図6参照)。そして、この側壁導坑6,6の形成が終了すると、次にこの一対の側壁導坑6,6内にトンネル本坑4の支保工10を支持して上部荷重を負担するためのコンクリート側壁12を、当該側壁導坑6,6の相互に外側となる地中壁面に沿わせて形成する(図7参照)。そして、当該コンクリート側壁12,12が硬化してから側壁導坑6,6間上部の地山を掘削して大断面のトンネル本坑4の上半部を掘坑しつつ、両コンクリート側壁12,12の天端間に掛け渡してその掘坑の内周面上側部に支保工10を逐次設置していく(図8参照)。この後、側壁導坑6,6間を掘削してトンネル本坑4の下半部を掘坑して、その底面にインバート14を打設形成していく(図9参照)。爾後、コンクリート側壁12,12と支保工10との内側にインバート14に連続させて二次覆工体のアーチコンクリート16を打設して、トンネル本坑4の内周面に本坑全断面を閉合した強固な覆工体18を形成して側壁導坑式トンネル2を完成させていく(図10参照)。
【0005】
ここで、上記コンクリート側壁12の形成にあたっては、図11に示すように移動式の鋼製型枠であるセントル20を設置してコンクリートを打設し、所定長ずつコンクリート側壁12を打ち継いでいくようにしている。図11では紙面の手前方向にセントル20が移動してコンクリート側壁12を打ち継ぎ形成していく様になっているが、図示するように、セントル20はコンクリート側壁の内面部を区画形成する鋼板製の内面部型板20aと次の打ち継ぎ面となる褄部面を区画形成する鋼板製の褄部型板20bとを有している。そして、これらの型板20a,20bはそれぞれ作業足場を兼用する走行架台21a,21bによって移動可能に支持されている。
【0006】
褄部型枠20bを支持する走行架台21bは、所定長ずつ先行形成された側壁コンクリート12の基盤部12a上に敷設されたレール22上を走行移動するようになっており、褄部型枠20bの外面側を支持すると共に、内面部型枠20aの端部を支持している。また、内面部型枠20aはその下端部が基盤部12aの側面に当接されて側壁導坑6を横断する鋼材23を介してジャッキ24で押圧支持されるようになっており、このジャッキ23は側壁導坑6の他方側の内壁面で支持反力を得るようになっている。
【0007】
そして内面部型枠20aを支持する走行架台21aは、上記鋼材23上に敷設されたレール25上を側壁導坑6の長手方向に走行移動するようになっており、当該鋼材23とジャッキ24及びレール25とは、セントル20がトンネル形成方向の前方に向けて次のコンクリート側壁形成部位に移動される度に、さらにその前方部位に逐次移設されていくようになっている。
【0008】
なお、上記のような側壁導坑式トンネルに関する特許文献としては下記の公報等がある。
【特許文献1】特開平8−28191号公報
【特許文献2】特開平8−184283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記従来のようなコンクリート側壁の構築方法にあっては、コンクリート側壁12を鋼製型枠20a,20bを用いて形成していたので、以下のような課題があった。
【0010】
即ち、鋼製型枠20a,20bを前方に移動させながらコンクリート側壁12を打ち継ぎ形成していくので、鋼製型枠20a,20bの脱型、解体、移動、再組み立てに時間を要し、しかもコンクリートを打設してから脱型するまでに1昼夜の待機時間を要するので、工期が長引くとともに工費も高騰してしまう。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、地中掘削壁面に沿って形成されて上部荷重を支持するコンクリート側壁を、鋼製型枠を用いずに簡易に短時間で形成することができ、工期の短縮化と工費の低減化とを大幅に図れるコンクリート側壁の構築方法およびその構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明に係るコンクリート側壁の構築方法にあっては、所定の厚みと高さとを有して上部荷重を支持するコンクリート側壁を、地中掘削壁面に沿わせて吹き付けコンクリートで形成するにあたって、該地中掘削壁面に沿わせて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材を配置して、該定規材で規定される空間内にコンクリートを複数回に分けて吹き付け施工して多層に充填していくことで所望形状のコンクリート側壁に形成することを特徴とする。
【0013】
ここで、前記定規材は、前記天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて前記内面部ラインを規定するとともに該ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、次の打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とを備えている構成となし得る。
【0014】
また、上記の目的を達成するために本発明に係るコンクリート側壁構造にあっては、上部荷重を支持すべく、所定の厚みと高さとを有して地中掘削壁面に沿わされて吹き付けコンクリートで形成されるコンクリート側壁は、該地中掘削壁面に沿って配設されて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材と、該定規材の内部に複数回に分けて吹き付け施工されて多層に充填形成されたコンクリートと、を備え、該定規材は、該天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて該内面部ラインを規定するとともに該天面部ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とからなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記のようにしてなる本発明のコンクリート側壁の構築方法及びその構造によれば、鋼製型枠を用いずに、これに代えてコンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材を設置して、この定規材の内部空間にコンクリートを吹き付け機で多層に吹き付け充填することで、コンクリート側壁を所定の厚みと高さを有した所望形状に精度良く容易に形成することができる。また、鋼製型枠を用いないので型枠の脱型,移動,再組み立て等の作業は必要なく、しかも定規材は埋め殺すので、コンクリートの吹き付け作業が終了すれば、待機することなく直ぐに次の打ち継ぎ作業を開始することができ、工期の短縮化と工費の削減化とを大幅に図れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係るコンクリート側壁の構築方法及びその構造の好適な一実施の形態について、側壁導坑式トンネルのコンクリート側壁を形成する場合を例示して、添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は側壁導坑式トンネルの構築途中状態を概略的に示す概略平断面図である。また、従来例として示した図6〜図10の各断面図は本実施形態にも共通するものであって、それぞれ図1中においてVI−VI線乃至X−X線にて示す部位の矢視断面図となっている。なお従来例と共通する部材には同一の符号を付して説明する。
【0018】
図1に示すように、側壁導坑式トンネルを構築するにあたっては、先ず、最初の工程として、側壁導坑掘削工程とこれに続く仮設の支保工設置工程とが順次に行われる。即ち、従来と同様に、構築しようとする大断面のトンネル本坑4の掘削に先立って、当該トンネル本坑4の両側部に位置させて一対の側壁導坑6,6を掘削し、その内周面に支保工7とインバート8とを仮設していく(図6参照)。
【0019】
ここで、上記側壁導坑掘削工程では、所定のトンネル設置計画ラインに沿って掘削機械等を用いて切り羽6aを掘削・ズリ出しして側壁導坑6,6を形成していく。そして、掘削した側壁導坑6,6の内周には、逐次に吹き付コンクリートとH型鋼とからなる支保工7を設置して土砂の崩落の防止を図る。当該吹き付コンクリートは1次吹き付け層と2次吹き層とからなり、H型鋼は1次吹き付け層の内側に沿わせて逐次に建て込んで設置していく。このH型鋼は側壁導坑6の長手方向に所定の間隔を空けて設けられ、当該H型鋼の設置後にそれらの間を埋めるようにして更にコンクリートの2次吹き付けが行われる。つまり、この2次吹き付け層によって吹き付けコンクリート層の強度向上が図られる。
【0020】
上記側壁導坑6,6の形成が終了すると、次にこの一対の側壁導坑6,6内にコンクリート側壁12を形成するコンクリート側壁形成工程が行われる。このコンクリート側壁形成工程は、側壁導坑6,6の切り羽6aから所定長後方部位に位置した側壁形成域にて、トンネル本坑4の支保工10の脚部10aを支持して上部荷重を負担するためのコンクリート側壁12が形成されていく。当該コンクリート側壁12は側壁導坑6,6の相互に外側となる壁面に沿わされて、トンネル長方向に所定長ずつ打ち継ぎ形成されていく(図7参照)。
【0021】
ところで、本発明では、図2の拡大縦断面図に示すように、上記コンクリート側壁12はコンクリート 吹き付け機44によるコンクリートの吹き付け施工にて形成される。ここで、当該コンクリート側壁12は支保工10と共にトンネル本坑4の一次覆工体の一部をなすものであって、支保工10の脚部10aを支持して鉛直荷重を負担するため、相応の壁厚と高さとが必要であると共に、支保工10の脚部10aを支持する天端面はその凹凸を極力なくして平坦に形成する必要がある。さらには、爾後に施工される二次覆工体16の被りコンクリート厚をも確保しなければならないので、この二次覆工体16の内面形状に相応させて、コンクリート側壁12の内周面側の形状もある程度精度良く形成する必要がある。しかし、従来において行われていたコンクリート吹き付け施工では、その十分な壁厚と外形形状精度とを確保して形成することが困難であった。
【0022】
そこで、本発明では、図示するように、コンクリート側壁12の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材30を側壁導坑6,6の壁面に沿わせて配置し、この定規材30で規定される空間内にコンクリート40を複数回に分けて多層に吹き付け充填していくことで所望形状のコンクリート側壁12に形成するようにした。
【0023】
即ち、上記定規材30は図3の斜視図にも示すように、上記天面部ラインを規定する天面部ラス板32と、上下方向に延びて配設されて前記内面部ラインを規定するとともに上記天面部ラス板32を支持する鉄筋34(または鋼材としても良い)と、次の打ち継ぎ面となる褄部側に配設された褄部ラス板36とを備えている。ここで、上記天面部及び褄部のラス板32,36にはラス金網または無数の孔が開口形成されているパンチングボード等を使用し得るが、本実施形態ではラス金網を採用している。天面部ラス板32は当該天面部位置の壁厚に相応した幅を有して側壁導坑6に沿って所定の長さに亘って設けられるようになっており、複数の鉄筋34によって下面を支持されている。
【0024】
上記鉄筋34は上記天面部ラス板32を支持すべく上部側が天面部ラインに沿わされてほぼ水平に折り曲げられて延設されており、その水平延設部34aの先端が側壁導坑6の内壁面に当接されて止着されるようになっている。また、上記水平延設部34aから屈曲して下方に延びる内面部ラインの規定部34bは二次覆工体16の湾曲形状に相応されて湾曲形成されており、下端部は脚部34cとして直線状に形成されて、インバート8の上面にほぼ鉛直に当設して載置されるようになっている。
【0025】
上記鉄筋34は所定のピッチで(1〜3m程度が好ましい)、複数本配設される。図示例にあっては、天面部ラス板32はトンネル長手方向の長さが2mに設定されていて、鉄筋34は1mピッチで2本設けられており、当該天面部ラス板32はその長手方向の中央部と次の打ち継ぎ面側となる一方の端部とが鉄筋34で支持されている。そして、天面部ラス板32は、その側壁導坑6の内方側端32aが当該鉄筋34の内面部ライン規定部34bに沿って下方に所定長折り曲げられて角部を覆う垂下部32aが形成されている。また、上記した次の打ち継ぎ面側となる一方の端部に配設された鉄筋34には、これに支持されて次の打ち継ぎ面となる褄部を画成するための褄部ラス板36が取り付けられている。
【0026】
そして、このように形成された定規材30は、図4に示すように、既に形成されている後方のコンクリート側壁12の褄部に連続されて側壁導坑6の壁面に止着配置され、当該定規材30と既形成されている側壁コンクリート12の褄部面とによって区画形成される空間内にコンクリート40が吹き付け充填されて、コンクリート側壁12が所望形状に逐次に打ち継ぎ形成されていく。
【0027】
上記コンクリート40の吹き付け充填は、図2の(a)または(b)に示すように、自走車両42上に搭載されたコンクリート吹き付けロボット44によって、定規材30の内部空間内に向けて複数回に分けて行い、段階的にコンクリート層40aを多層に積層しながら所定の厚みと高さとを有した所望形状に形成していく。また定規材30は埋め殺しにされていく。なお、諸条件の相違によって異なるものになるが、強度面からすると上記コンクリート側壁12に要求される最大壁厚は2.0m程度となる。ここで、図2(a)はその吹き付けコンクリート層40aを斜めにして下部から順次多層に積層充填していく場合を示し、図2(b)はその吹き付けコンクリート層40aを側壁導坑の壁面に沿わせて略鉛直にして多層に積層充填していく場合を示しているが、コンクリート層40aの1回の吹き付け厚みを従来から施工実績のある20cmにすると、図2(b)の場合ではその吹き付け回数は10回前後となり、その吹き付け充填に要する時間は概ね120分程度となる。なお、コンクリート層40aは、図2(a)に示すように、下部から斜めに形成して順次多層に積層充填していくようにする方がその施工上において好ましい。この場合にあって、コンクリート層40aの1回の吹き付け厚みを20cmにすると、コンクリート側壁12の高さが4mを超えていると20数回の吹き付け作業が必要となるが、このように斜めにコンクリート層40aを吹き付け形成して積層していくようにすると、コンクリートの垂れ等が生じ難くなるので、1回の塗布厚みを20cm以上にしてコンクリート層40aを吹き付け形成することができるようになる。つまり、その1回の塗布厚みは実際には40cm程度にまで増大可能であり、よって10数回の塗布作業で済ませることも可能である。また、全塗布量自体は変わりがないので、その塗布時間にはそれほどの差は生じない。
【0028】
即ち、上記コンクリート側壁12は、当該コンクリート側壁12の天面部ラインを規定する天面部ラス板32と、縦方向に延びて配設されて当該コンクリート側壁12の内面部ラインを規定するとともに上記天面部ラス板32を支持する鉄筋34(または鋼材)と、打ち継ぎ面の褄部に配設された褄部ラス板36とからなる定規材を有し、当該定規材の内部空間には、複数回に分けて吹き付け施工されたコンクリート40が多層に充填されている構造になっている。
【0029】
そして、上記コンクリート側壁形成工程が終了すると、そのコンクリート側壁12の所定の固化養生時間の経過後に、トンネル本坑形成工程が行われる。このトンネル本坑形成工程は、従来と全く同様に、トンネル本坑4の上半部を形成する上半部形成工程(図8参照)と下半部を形成する下半部形成工程(図9参照)との2段階に分けられて行われる。
【0030】
即ち、上半部形成工程は側壁形成域の後方部に位置する上半部掘削域にて行われ、側壁導坑6,6間上部の地山が掘削されると共に、側壁導坑6,6の天部に仮設された支保工7が撤去される。そして側壁導坑6,6内に形成された一対のコンクリート側壁12,12の天端間に掛け渡されてその掘坑の内周面上側部に沿って本設の支保工10が逐次設置されていく。また、下半部形成工程は上半部掘削域の後方部に位置する下半部掘削域にて行われ、側壁導坑6,6間の地山が掘削されると共に、側壁導坑6,6の側部に仮設された支保工7と底面に仮設されたインバート8とが撤去されてトンネル本坑4の下半部が掘削され、このトンネル本坑4の底面に本設のインバート14が打設形成されていく。
【0031】
そして、トンネル本坑4の下半部の掘削形成が終了すると、この下半部掘削域の後方部に位置する二次覆工形成域にて、二次覆工体形成工程が行われる。この二次覆工体形成工程では、上記コンクリート側壁12,12と支保工10とからなる一次覆工体の内周面に沿って上記インバート14に連続する二次覆工体のアーチコンクリート16が打設形成される。これにより、トンネル本坑4の内周面に本坑全断面を閉合する強固な覆工体18が形成されて、側壁導坑式トンネル2が所定長ずつ逐次に完成されていく(図10参照)。
【0032】
従って、以上のようにして構築されていく側壁導坑式トンネル2にあっては、側壁導坑6,6内に形成するコンクリート側壁12を、上述してあるような定規材30を用いてコンクリート40の吹き付け施工で形成するので、従来のような移動式の鋼製型枠であるセントル20を用いることなく、当該コンクリート側壁12に要求される形状精度を十分に確保しつつ、所定の厚みと高さとを有した所望形状に形成していくことができる。
【0033】
また、移動式鋼製型枠のセントル20を用いずに定規材30を埋め殺してコンクリート側壁12,12を打ち継ぎ形成して行くので、従来のように、鋼製型枠の脱型,移動,再組み立てといった作業がなくなり、簡易に短時間に施工することができるようになる。しかも、鋼製型枠のセントル20を用いていた従来にあっては、コンクリートを打設してから脱型するまでに1昼夜の待機時間を要していたが、吹き付け施工でコンクリート側壁12を形成すれば、その施工時間は数時間で終わり、従来のような型枠の脱型までの待機時間も不必要なので、直ぐに次の打ち継ぎ作業に取りかかれるので、施工時間の短縮化と工費の低減化とを大幅に図ることができるようになる。
【0034】
なお、上記コンクリート側壁12を形成するにあたっては、その1施工ブロック長を2.0mに設定して、定規材30のトンネル長手方向の長さを2.0mに形成してコンクリートの吹き付け施工を行うようにしているが、当該施工ブロック長は6.0m程度まで十分に延長可能であり、その施工ブロック長は諸条件を勘案して任意に設定し得る。
【0035】
また、上述の実施形態では、側壁導坑式トンネルのコンクリート側壁を形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、地下構造物等のような上部荷重を支持するコンクリート側壁を、地中掘削壁面に沿って所定厚みと高さとを有して所望の形状に形成する場合について、全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るコンクリート側壁の構築方法が適用された側壁導坑式トンネルの施工途中状態を概略的に示す平断面図である。
【図2】本発明に係るンクリート側壁の構築方法によって施工される側壁導坑内のコンクリート側壁を、一方の側壁導坑を拡大して示してある断面図であり、(a)は吹き付けコンクリート層を斜めにして多層に積層していく場合を示し、(b)は吹き付けコンクリート層を側壁導坑に沿わせて略鉛直にして多層に積層していく場合を示している。
【図3】図2中に示される定規材の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示す定規材を側壁導坑内の打ち継ぎ部に設置した状態を示す斜視図である。
【図5】従来における側壁導坑式トンネルの構築途中状態を概略的に示す平断面図である。
【図6】本発明と従来例とに共通する、図1中と図5中とにVI−VI線にて示す部位の矢視断面図である。
【図7】同上、図1中と図5中とにおいてVII−VII線にて示す部位の矢視断面図である。
【図8】同上、図1中と図5中とにおいてIIX−IIX線にて示す部位の矢視断面図である。
【図9】同上、図1中と図5中とにおいてIX−IX線にて示す部位の矢視断面図である。
【図10】同上、図1中と図5中とにおいてX−X線にて示す部位の矢視断面図である。
【図11】従来のコンクリート側壁形成工程における一方の側壁導坑の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0037】
2 側壁導坑式トンネル
4 トンネル本坑
6 側壁導坑
10 トンネル本坑の支保工
10a 支保工脚部
12 コンクリート側壁
14 トンネル本坑のインバート
16 二次覆工体
30 定規材
32 天面部ラス板
34 鉄筋
36 褄部ラス板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の厚みと高さとを有して上部荷重を支持するコンクリート側壁を、地中掘削壁面に沿わせて吹き付けコンクリートで形成するコンクリート側壁の構築方法であって、
該地中掘削壁面に沿わせて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材を配置して、該定規材で規定される空間内にコンクリートを複数回に分けて吹き付け施工して多層に充填していくことで所望形状のコンクリート側壁に形成することを特徴とするコンクリート側壁の構築方法。
【請求項2】
前記定規材が、前記天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて前記内面部ラインを規定するとともに該ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、次の打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート側壁の構築方法。
【請求項3】
上部荷重を支持すべく、所定の厚みと高さとを有して地中掘削壁面に沿わされて吹き付けコンクリートで形成されるコンクリート側壁構造であって、
該コンクリート側壁は、
該地中掘削壁面に沿って配設されて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材と、該定規材の内部に複数回に分けて吹き付け施工されて多層に充填形成されたコンクリートと、
を備え、
該定規材は、該天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて該内面部ラインを規定するとともに該天面部ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とからなる、
ことを特徴とするコンクリート側壁構造。
【請求項1】
所定の厚みと高さとを有して上部荷重を支持するコンクリート側壁を、地中掘削壁面に沿わせて吹き付けコンクリートで形成するコンクリート側壁の構築方法であって、
該地中掘削壁面に沿わせて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材を配置して、該定規材で規定される空間内にコンクリートを複数回に分けて吹き付け施工して多層に充填していくことで所望形状のコンクリート側壁に形成することを特徴とするコンクリート側壁の構築方法。
【請求項2】
前記定規材が、前記天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて前記内面部ラインを規定するとともに該ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、次の打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート側壁の構築方法。
【請求項3】
上部荷重を支持すべく、所定の厚みと高さとを有して地中掘削壁面に沿わされて吹き付けコンクリートで形成されるコンクリート側壁構造であって、
該コンクリート側壁は、
該地中掘削壁面に沿って配設されて、該コンクリート側壁の天面部ラインと内面部ラインとを規定する定規材と、該定規材の内部に複数回に分けて吹き付け施工されて多層に充填形成されたコンクリートと、
を備え、
該定規材は、該天面部ラインを規定する天面部ラス板と、縦方向に延びて配設されて該内面部ラインを規定するとともに該天面部ラス板を支持する鉄筋または鋼材と、打ち継ぎ面となる褄部に配設された褄部ラス板とからなる、
ことを特徴とするコンクリート側壁構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−308836(P2008−308836A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155617(P2007−155617)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]