説明

コンクリート埋設物

【課題】
コンクリート埋設物に突出状態で取付けられた釘材の先端部が、埋設物本体から突出しないようにすると共に、多数個のコンクリート埋設物を嵩張らせることなく保管・運搬可能にすることである。
【解決手段】
吊下げ具本体Kを構成する嵌合部1の外径D1 が、側壁部3の下端開口の内径D2 よりも僅かに大きくさせ、前記嵌合部1と前記側壁部3の下端開口を嵌合させたときに両者が摩擦力で保持させるようにして、多数個の吊下げ具A1 を積み重ね可能にすると共に、各吊下げ具A1 が積み重ねられた状態において、一の吊下げ具A1 の嵌合部1から上方に突出されている釘Nの突出部4が、直上の吊下げ具A1 の側壁部3の内側に突出状態で設けられた釘案内部13に案内されて釘収容空間V2 に収容されるように位置決めさせて、前記側壁部3の内周面近傍の線材収容空間V1 に収容された吊下げ線材Wと干渉しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートスラブ内に埋設すべく、釘材によりコンクリート型枠に固定されるコンクリート埋設物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート埋設物の一つとして、鉄筋コンクリート構造の建築物において、天井面を構成するコンクリートスラブ(以降、単に「スラブ」と記載する)の下方に電線等の配線、水道管等の配管材を吊り下げるための吊下げ具が挙げられる。これらの配線・配管材は、前記吊下げ具から垂れ下がる吊下げ線材に巻き付けられて支持される(図3参照)。
【0003】
前記吊下げ具には、例えば、特許文献1に開示される技術が存している。特許文献1には、「下端を開口とした収容空間を有する吊下げ具本体と、該吊下げ具本体をコンクリート型枠に固定すべく前記吊下げ具本体を貫通する釘材と、前記収容空間に引出し可能に収容された配線・配管材を吊り下げるための吊下げ線材とを備えた配線・配管材の吊下げ具。」が記載されている。前記釘材は、吊下げ具本体に形成された釘筒に挿通されて吊下げ具本体の上方に突出した状態で保持されており、吊下げ具本体の開口側をコンクリート型枠(以降、単に「型枠」と記載する)に当接させた状態で釘打ち固定することができるようになっている。しかしながら、従来の吊下げ具は、釘材が上方に突出しており、該釘材に外力が加わることによって下端から釘材の先端部が突出して危険であるにもかかわらず、何ら対策が施されていなかった。また、吊下げ具の保管・運搬時において、嵩張っていた。
【0004】
一方、スラブを形成するための型枠には、該スラブから垂れ下げる吊下げ線材の間隔に対応して、多数の吊下げ具を釘材により型枠に固定する必要がある。従来の吊下げ具においては、型枠に吊下げ具を固定する毎に、多数の吊下げ具をばら状態で収容した容器から吊下げ具を1個ずつ取り出して型枠に固定していたので、吊下げ具の固定作業の能率も悪かった。同様の不具合は、下面が開口した埋設物本体の収容空間に、埋設物本体を型枠に固定するための釘材が部分収容されて、残りの部分が上方に突出した構成の他のコンクリート埋設物に対しても発生する。
【特許文献1】特開2004−132090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した不具合に鑑み、埋設物本体の収容空間に釘材が上方に突出した状態で部分収容されたコンクリート埋設物を積み重ね可能にして、取扱い中に釘材の先端部が埋設物本体から突出する危険をなくすと共に、嵩張らないで保管・運搬可能にし、更に型枠へのコンクリート埋設物の固定時においてコンクリート埋設物を1個ずつ拾い出す面倒をなくして、コンクリート埋設物の固定作業の能率を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、コンクリートスラブ内に埋設すべく、釘材によりコンクリート型枠に固定されるコンクリート埋設物であって、下端を開口とした収容空間を有する埋設物本体と、該埋設物本体を前記型枠に固定すべく、前記収容空間に部分収容された状態で、前記埋設物本体に保持される釘材とを備え、前記釘材は、前記保持状態で埋設物本体の下方に突出することなく、しかも前記埋設物本体の上方に前記収容空間の高さと同一又はこれよりも短い寸法で突出する長さに形成されて、一のコンクリート埋設物の釘材の上方突出部を他のコンクリート埋設物の収容空間内に収容した状態で前記コンクリート埋設物どうしを積み重ね可能な位置に保持され、一のコンクリート埋設物と他のコンクリート埋設物とを積み重ねることにより、一のコンクリート埋設物の下端開口が他のコンクリート埋設物の上面に横ずれすることなく当接する構成であることを特徴としている。
【0007】
請求項1の発明によれば、一のコンクリート埋設物の下端開口を他のコンクリート埋設物の上面に当接させて、埋設物本体どうしが横ずれしないようにして、2つのコンクリート埋設物どうしを積み重ねると、一のコンクリート埋設物に保持された釘材の略下半部、及び上方突出部は、一のコンクリート埋設物の収容空間、及び他のコンクリート埋設物の収容空間にそれぞれ収容されて、一のコンクリート埋設物の釘材は、二つのコンクリート埋設物の外部に全く突出することなく、その全てが収容される。よって、多数のコンクリート埋設物を上記のようにして積み重ねると、下端開口が開放されていない側の端部の一つのコンクリート埋設物に保持された釘材の略上半部のみが外部に突出して、残りの全てのコンクリート埋設物に保持された釘材の略下半部は、自身の収容空間に収容されると共に、その略上半部は、積み重ねられた別のコンクリート埋設物の収容空間に収容される。
【0008】
また、多数のコンクリート埋設物を積み重ねることにより、コンクリート埋設物の釘材の突出部は他のコンクリート埋設物の収容空間に収容されて、釘材の全体が互いに重なり合った二つのコンクリート埋設物の各収容空間に収容されるために、取扱い中において釘材の先端部が埋設物本体から突出する危険がなくなる。また、多数のコンクリート埋設物を上記のように積み重ねることにより、釘材の突出部が殆どない状態で、収容箱等に嵩張ることなく整然と収容して、保管・運搬できるので、コンクリート埋設物の保管・運搬が容易になると共に、保管・運搬に要する占有空間も小さくできる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明を前提として、前記埋設物本体の上端部は、積み重ねられた他のコンクリート埋設物の下端開口に嵌合する嵌合部となっていることを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明によれば、一のコンクリート埋設物の上端部と他のコンクリート埋設物の下端開口が嵌合されて、積み重ねられるコンクリート埋設物どうしが一体に連結されるために、多数のコンクリート埋設物を積み重ねた状態で、コンクリート埋設物がばらけなくなる。このため、多数のコンクリート埋設物を積み重ねて行う上記保管・運搬を一層確実に行える。また、型枠には所定間隔をおいて多数のコンクリート埋設物の釘材が固定されることがあり、コンクリート埋設物が小型である場合には、この固定作業において、作業者は、一方の手で打ち込み用のハンマーを持ち、他方の手で互いに連結された多数のコンクリート埋設物を持って作業することにより、一個のコンクリート埋設物を固定した後に、他のコンクリート埋設物を保管場所から一個ずつ拾い上げることなく、他方の手で持っている連結されたコンクリート埋設物を一個ずつ取り外すことにより、型枠に対するコンクリート埋設物の固定作業を連続して迅速に行える。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記収容空間には、コンクリート埋設物を積み重ねた際に、他のコンクリート埋設物の釘材の突出部の側方に配置されて、コンクリート埋設物どうしを積み重ねる際の案内部が形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明によれば、埋設物本体の収容空間に形成された案内部と、他のコンクリート埋設物の釘材の突出部とを合致させることにより、前記案内部がコンクリート埋設物を積み重ねる際の埋設物本体どうしの周方向の位置決め部となって、コンクリート埋設物の積み重ねの作業が容易となる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記埋設物本体の収容空間内には、釘材を保持する保持筒が形成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項4の発明によれば、釘材のうち埋設物本体の収容空間に収容される部分は、該収容空間内に形成された保持筒に挿入して保持されているため、釘材を型枠に固定するまでの間においては、埋設物本体に対する釘材の保持状態が安定すると共に、型枠に釘材を打ち込んで固定する際には、保持筒が釘材の打込み案内を行うために、型枠に対する釘材の打ち損じがなくなる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記コンクリート埋設物は、配線・配管材を吊り下げるための吊下げ具であって、前記収容空間内には、配線・配管材を吊り下げるための吊下げ線材が巻回されて収容されていることを特徴としている。
【0016】
請求項5の発明によれば、吊下げ線材は、配線・配管材を吊下げ可能な長さを有する長尺状であるが、巻回することにより吊下げ具の収容空間に全部を収容可能となるため、吊下げ具の取扱い中において、吊下げ線材の一部が外部に突出して、周辺物品等に引っ掛かることにより、吊下げ線材の全てが引き出されて、吊下げ具の取り扱いがやっかいとなる不具合を解消できる。
【0017】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記案内部は、吊下げ具本体の側壁部と間隔を有して形成され、前記案内部と前記側壁部との間に吊下げ線材が挿入されて、収容空間に巻回状に収容された吊下げ線材に囲まれる部分が釘材の収容空間となっていることを特徴としている。
【0018】
吊下げ具本体に形成された収容空間は、吊下げ線材と釘材の各収容空間に半径方向に沿って分離されるために、収容空間への長尺状の吊下げ線材の収容を確実に行えると共に、収容空間内において吊下げ線材と釘材とを整然と収容できて、吊下げ線材と釘材との絡み付きもなくなる。このため、吊下げ線材が巻回状となって収容空間内に収容されている状態で行う「釘打ち作業」も支障なく行える。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記吊下げ具本体の収容空間内に釘材の略下半部を保持するために形成された保持筒と前記案内部とは、周方向に沿って位相が180°異なる位置に対向して形成されていることを特徴としている。
【0020】
保持筒及び案内部は、周方向に沿って位相が180°異なって対向配置されているために、保持筒及び案内部の外側と吊下げ具本体の外壁部との間で形成される環状をした収容空間に収容される吊下げ線材の収容状態が最も安定し、吊下げ具の取扱い途中において吊下げ線材は容易には抜け出なくなる。
【0021】
請求項8の発明は、請求項4の発明において、前記埋設物本体の上面には、積み重ねられた他のコンクリート埋設物の保持筒の下端部が嵌合される嵌合凹部が形成されていることを特徴としている。
【0022】
請求項8の発明によれば、コンクリート埋設物どうしが積み重ねられたとき、積み重ねられたコンクリート埋設物の保持筒の下端部は、他の埋設物本体の嵌合凹部に嵌合されるため、干渉することが回避されると共に、前記嵌合凹部がコンクリート埋設物を積み重ねる際の埋設物本体どうしの周方向の位置決め部となって、コンクリート埋設物の積み重ねの作業が容易となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、コンクリートスラブ内に埋設すべく、釘材によりコンクリート型枠に固定されるコンクリート埋設物であって、下端を開口とした収容空間を有する埋設物本体と、該埋設物本体を前記型枠に固定すべく、前記収容空間に部分収容された状態で、前記埋設物本体に保持される釘材とを備え、前記釘材は、前記保持状態で埋設物本体の下方に突出することなく、しかも前記埋設物本体の上方に前記収容空間の高さと同一又はこれよりも短い寸法で突出する長さに形成されて、一のコンクリート埋設物の釘材の上方突出部を他のコンクリート埋設物の収容空間内に収容した状態で前記コンクリート埋設物どうしを積み重ね可能な位置に保持され、一のコンクリート埋設物と他のコンクリート埋設物とを積み重ねることにより、一のコンクリート埋設物の下端開口が他のコンクリート埋設物の上面に当接して、埋設物本体どうしが周方向に位置決めされることを特徴としている。このため、多数個のコンクリート埋設物が積み重ねられた状態で、釘材の上方突出部が直上のコンクリート埋設物の収容空間に収容されるため、取扱い中において釘材の先端部が、埋設物本体から突出しなくなると共に、多数個のコンクリート埋設物を積み重ね状態で収容箱等に収容させて保管・運搬できるため、保管・運搬に要する占有空間が小さくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。図1は第1実施例の吊下げ具A1 の上方からの斜視図、図2は同じく一部を破断した下方からの斜視図、図3は使用状態における吊下げ具A1 の下方からの斜視図、図4の(イ)は、本発明の第1実施例の吊下げ具A1 の底面図であり、(ロ)は、従来の吊下げ具A’の底面図、図5の(イ)は、図4の(イ)のX−X線断面図であり、(ロ)は同じくY−Y線断面図、図6は積み重ねられた状態の吊下げ具A1 の正面断面図である。
【実施例1】
【0025】
本発明の第1実施例の吊下げ具A1 について説明する。図1ないし図3に示されるように、第1実施例の吊下げ具A1 は、樹脂材(本実施例の場合、ABS樹脂)を射出成形することによって成形された吊下げ具本体Kと、該吊下げ具本体Kを型枠T(図6参照)に固定するための釘Nと、配線Pを吊下げ状態で保持するための吊下げ線材Wとから構成されている。吊下げ具本体Kについて説明する。図1及び図2に示されるように、吊下げ具本体Kは、上端部に短い寸法で立ち上がって設けられた円板状の嵌合部1と、前記嵌合部1の下端縁部から周方向に張出し状態で延設され、ひっくり返した皿形状の抜止め部2と、前記抜止め部2の底面部から下方に延設された薄肉円筒状の側壁部3とから構成されている。前記嵌合部1の外周面と前記側壁部3の内周面には、射出成形の利便を図るため、僅かな抜き勾配が設けられている。図4ないし図6に示されるように、前記嵌合部1は、別の吊下げ具A1 を積み重ね状態で嵌合保持するためのものであり、直上段に積み重ねられた別の吊下げ具A1 の側壁部3の下端開口が嵌合される。このため、嵌合部1の上端部の外径D1 は、側壁部3の下端部の内径D2 よりも僅かに小さい。これにより、嵌合部1の外周面と側壁部3の下端開口とが相互に嵌合され、両者の間に作用する摩擦力によって嵌合状態が保持される。この結果、多数個の吊下げ具A1 を積み重ね状態で保持することができ、保管・運搬時に多数個の吊下げ具A1 がばらけなくなると共に、収容箱B(図8参照)において多数個の吊下げ具A1 が占有する空間を小さくできる。
【0026】
前記抜止め部2は、スラブS(図3参照)に埋設された吊下げ具A1 が抜け出ることを防止するためのものである。図5に示されるように、抜止め部2の上面部は緩やかな凸状にわん曲していて、打設されたコンクリートを流れ易くしていると共に、その底面部から側壁部3の上端部にかけての部分が断面略三角形状に切除されていて、切除部2aが形成されている。これにより、打設されたコンクリートが側壁部3の外周面の全体に回り込み易くなり、吊下げ具A1 の抜止めが確実に図られる。
【0027】
図4及び図5に示されるように、前記側壁部3の底面部3aで、厚み方向のほぼ中央部には、断面略三角形状の突起部3bが全周に亘って設けられている。これにより、底面部3aと突起部3bとの間に僅かな段差eが設けられている。後述するように、本実施例の吊下げ具A1 が型枠Tの所定位置に固定された後、コンクリートが打設されてスラブSが形成される。該コンクリートは、外側の底面部3aにも流れ込む。型枠Tが取り外された後、スラブSから露出するのは、内側の底面部3a及び突起部3bの内周面部分のみであり、外側の底面部3a及び突起部3bの外周面部分はスラブSに隠蔽される。これにより、スラブSの底面部の見栄えが良好となる。
【0028】
図4の(イ)及び図5に示されるように、前記側壁部3の内側部分には、吊下げ線材Wと、積み重ね状態における下段の吊下げ具A1 の釘Nの突出部4を収容するための収容空間(後述)が形成されている。底面視における吊下げ具本体Kのほぼ中央部(吊下げ具本体Kの軸心Cの部分)には、吊下げ線材Wを支持するために断面略方形の棒状の線材支持部5が円筒状をした吊下げ具本体Kの直径方向に沿って設けられている。そして、嵌合部1の上面部1aのほぼ中央部には、前記嵌合部1を貫通する方形の線材挿通孔6が設けられている。該線材挿通孔6の一辺は、線材支持部5の幅よりも長い。このため、線材支持部5における長手方向のほぼ中央部で幅方向の両側部には、長尺状の吊下げ線材Wを挿通するための一対の線材挿通空間6aが直線状に設けられる。吊下げ具本体Kの下方から一方側の線材挿通空間6aに挿通されて、嵌合部1の上方に突出された吊下げ線材Wは、折り返されて、他方側の線材挿通空間6aに挿通される。一対の線材挿通空間6aに挿通された吊下げ線材Wは、全長のほぼ中央部分でねじられ、線材支持部5に巻き付けられる。本実施例の吊下げ線材Wは針金であり、線材支持部5に巻き付けられることによって塑性変形し、そのままの状態で保持される。
【0029】
図1及び図2に示されるように、吊下げ具本体Kには、吊下げ具A1 を型枠Tに固定するための釘Nが取付けられていて、嵌合部1の上面部1aから釘Nの上半部(突出部4)が突出されている。前記線材保持部5の一側方には、吊下げ具A1 どうしの積み重ねを可能にすべく、吊下げ具本体Kの軸心Cから所定長だけずれた位置に略円筒状の釘保持筒部7が下方に突出して形成され、前記釘Nの下半部は釘保持筒部7に挿入されて保持されている(即ち、部分収容された状態で保持されている)。釘保持筒部7について説明する。図5の(イ)に示されるように、釘保持筒部7の軸心部分には、釘Nを挿入するための釘挿入孔7aが設けられている。該釘挿入孔7aの内周面には、僅かに抜き勾配が設けられている。即ち、釘挿入孔7aの上半部は、下方に向かって先細のテーパ状になっていて、同じく下半部は、先太の逆テーパ状になっている。そして、釘挿入孔7aの最も狭い部分の内径は、釘Nの外径よりも僅かに狭い。このため、前記釘挿入孔7aに挿通された釘Nは、釘挿入孔7aの内周面に僅かに押圧されて保持される。これにより、釘保持筒部7に挿入された釘Nが抜け出ることが防止される。
【0030】
前記釘保持筒部7の上端部には、側面視において略逆L字状の線材引掛け部8が、側壁部3の内周面に向かって延設されている。前記線材引掛け部8の先端部8aは、側壁部3の内周面の手前側で、下方に向かってほぼ90°に屈曲されている。図1に示されるように、嵌合部1の上面部1aにおいて、前記釘保持筒部7及び前記線材引掛け部8と対応する部分には、それらの外周縁形状に沿って凹部9と溝部11が形成されている。釘保持筒部7の上端部は、凹部9の底面部から僅かに突出されていると共に、前記凹部9の外径は、釘Nの頭部4aの外径よりも少し大きい。そして、釘保持筒部7と線材引掛け部8の各外周縁部は、凹部9及び溝部11に対して薄肉の連結部12をもって連結されている。後述するように、スラブSに埋設された吊下げ具A1 の釘保持筒部7は、釘Nと共に吊下げ具本体Kから分離される。前記連結部12が薄肉であるため、該連結部12を破断させる作業が容易である。
【0031】
図4の(イ)及び図5に示されるように、側壁部3の内側で、線材支持部5の側方部分の他方側には、積み重ねられて直下に配設された別の吊下げ具A1 の釘Nの突出部4を案内配置させるための釘案内部13が設けられている。釘案内部13について説明する。嵌合部1の底面部で、釘保持筒部7の軸心位置とほぼ対称の位置には、円板状の台座部14が設けられていて、該台座部14に釘案内部13が垂下されている。釘案内部13は、底面視において円弧状(本実施例の場合、円周の約1/3程度の円弧状)であり、台座部14における線材支持部5から遠い側の周縁部に、釘保持筒部7と対向して設けられている。ねじり状態で線材支持部5に支持された吊下げ線材Wは、それらの両端部が重ねられた状態で釘案内部13の背面部に回り込み、側壁部3の近傍部分で釘保持筒部7及び釘案内部13との間に設けられた環状の線材収容空間V1 に、吊下げ具本体Kの軸心Cを中心とする渦巻き状に巻回される。作業者は、釘保持筒部7と釘案内部13の各外周面に、吊下げ線材Wを押し付けながら巻回することができるので、容易に渦巻き形状を形成することができる。また、長尺状の吊下げ線材Wを巻回させることにより、該吊下げ線材Wの全てを線材収容空間V1 に収容させることができる。更に、吊下げ線材Wを釘保持筒部7と釘案内部13に押し付けることにより、巻回状態の吊下げ線材Wは、確実に線材引掛け部8の先端部8aよりも内側に配置される。渦巻き状に巻回された吊下げ線材Wは、塑性変形してそのままの状態で保持される。
【0032】
前記釘案内部13の内径は、釘Nの頭部4aの外径よりも大きい。そして、前記吊下げ線材Wは、釘案内部13の背面部に回り込んで巻回されている。これにより、釘案内部13の内周面の部分から台座部14にかけての部分で、前記釘案内部13の背面部に回り込んで巻回される吊下げ線材Wに囲まれる部分に、釘Nの突出部4を配置させるための釘収容空間V2 が形成される。そして、図5の(イ)に示されるように、吊下げ具A1 において、釘Nの突出部4の突出長H1 は、釘案内部13の台座部14からの突出長H2 よりも少し低い(H1 <H2)。このため、図6に示されるように、2つの吊下げ具A1 が周方向に沿って位相を180°ずらして積み重ねられたとき、下段の吊下げ具A1 の釘Nの突出部4は、釘案内部13に案内されて釘収容空間V2 に配置され、台座部14の直下に近接配置される。この結果、積み重ね状態における釘Nの突出部4が、線材支持部5や吊下げ線材W等と干渉することはない。同様に、積み重ねられた吊下げ具A1 を取り外すとき、取り外される吊下げ具A1 の釘Nの突出部4は釘案内部13に案内されて移動し、線材支持部5や吊下げ線材W等と干渉することはない。
【0033】
ここで、釘Nの突出部4の突出長H1 ができるだけ短くなるように、釘保持筒部7の突出長H2 をできるだけ長くすることが望ましい。この結果、2つの吊下げ具A1 が、周方向に沿って位相を180°ずらして積み重ねられたとき、釘保持筒部7の下端部が直下の吊下げ具A1 の嵌合部1に干渉するおそれがある。しかし、本実施例の吊下げ具A1 の場合、図1及び図5の(イ)に示されるように、嵌合部1の上面部1aで台座部14の直上の位置に、有底の円形孔より成る凹部15が設けられている。しかも、該凹部15の内径は、釘保持筒部7の外径よりも少し大きい。このため、2つの吊下げ具A1 が重ね合わせられるとき、一方の吊下げ具A1 の釘保持筒部7の下端部は、前記凹部15に嵌まり込む。これにより、一方の吊下げ具A1 の釘保持筒部7の下端部と他方の吊下げ具A1 の嵌合部1との干渉が防止される。また、作業者は、一方の吊下げ具A1 の釘保持筒部7の下端部を、他方の吊下げ具A1 の凹部15に嵌まり込ませるようにして重ね合わせることができる。即ち、前記凹部15は、2つの吊下げ具A1 を重ね合わせる際の位置決め部としての機能をも有している。
【0034】
ここで、図4の(イ)に示されるように、本実施例の吊下げ具A1 において、側壁部3の線材収容空間V1 に渦巻き状態で配置された吊下げ線材Wの最大半径をRとして、従来の吊下げ具A’との比較を行う。各吊下げ具A1,A’において、抜止め部2,51の外径と吊下げ線材W,W’の長さは同一であるとする。従来の吊下げ具A’の場合、図4の(ロ)に示されるように、釘保持筒部52の中心は、吊下げ具本体K’の中心部C’から距離δだけずれて(偏心して)設けられている。ねじり状態で線材支持部53に支持された吊下げ線材W’は、釘保持筒部52の外周面に押し付けられながら渦巻き状に巻回される。このときの吊下げ線材Wの最大半径R’が、本実施例の吊下げ具A1 の最大半径Rと等しいとすると(R=R')、従来の吊下げ具A’における側壁部54の内径は、少なくとも[2×(δ+R')]としなければならない。これにより、側壁部54の外径が大きくなり、それに伴って抜止め部51の底面部の面積が小さくなってしまうため、前記抜止め部51に係止突部51aを設けざるを得ない。
【0035】
しかし、本実施例の吊下げ具A1 の場合、巻回状態の吊下げ線材Wの巻回中心は、吊下げ具本体Kの軸心Cとほぼ合致しているため、側壁部3の内径は、吊下げ線材Wの最大半径Rの2倍よりも僅かに大きくするだけで済む。これにより、側壁部3の外径を大きくしなくても、抜止め部2の底面部の面積が十分に確保され、係止突部51aが不要となり、吊下げ具A1 の製作型の構成を簡単なものにすることができる。
【0036】
第1実施例の吊下げ具A1 の吊下げ線材Wは、針金である。このため、吊下げ線材Wを渦巻き状に巻回する作業が容易であると共に、塑性変形された吊下げ線材Wが有する形状保持力により、渦巻き状の巻回状態が保持され、垂れ下がりの防止が図られている。
【0037】
第1実施例の吊下げ具A1 の保管・運搬時の作用について説明する。吊下げ具A1 が単体で存しているとき、吊下げ線材Wは、側壁部3の内側に形成された線材収容空間V1 に渦巻き状に巻回されて収容されている。そして、該吊下げ線材Wが有する形状保持力により、そのままの収容状態が保持されるため、吊下げ線材Wが飛び出したり、垂れ下がったりするおそれはない。また、釘Nの鋭利な先端部4bは釘保持筒部7に挿入状態(釘保持筒部7の下端部から突出していない状態)で保持されているため、該釘Nの先端部4bが突出しにくく、作業者が吊下げ具A1 を取り扱うときに支障となることはない。
【0038】
図6に示されるように、多数個の吊下げ具A1 が、周方向に沿って位相を180°ずらして積み重ねられているとき、下段の吊下げ具A1 の釘保持筒部7に挿入され、嵌合部1の上方に突出された釘Nの突出部4は、上段の吊下げ具A1 の釘案内部13の釘収容空間V2 に配置される。即ち、各吊下げ具A1 が重ね合わせられるとき、下段の吊下げ具A1 の釘Nの突出部4は、上段の吊下げ具A1 の釘案内部7の内周面の近傍部分に案内され、前記内周面の近傍部分にほぼ沿って移動され、台座部14の直下に配置される。これにより、釘Nの突出部4が、上段の吊下げ具A1 の釘保持筒部7又は吊下げ線材Wと干渉するおそれはない。また、上段の吊下げ具A1 の釘保持筒部7の下端部は、下段の吊下げ具A1 の嵌合部1に設けられた凹部15に嵌まり込む。これにより、前記釘保持筒部7の下端部と、前記嵌合部1とが干渉することはないと共に、各吊下げ具A1 を重ね合わせる際に、それらの周方向の位置決めが容易である。上記した結果、最上段の吊下げ具A1 を除いて各釘Nの突出部4は、直上段の吊下げ具A1 の釘収容空間V2 に配置され、各釘Nの突出部4に外力が作用するおそれは全くない。このため、釘Nの先端部4bが釘保持筒部7から突出することもない。また、最上段の吊下げ具A1 における釘Nの突出部4に何らかの外力が作用したときであっても、該釘Nの先端部4bは、直下段の吊下げ具A1 の凹部15に嵌まり込んでいるため、釘Nの先端部4bが吊下げ具A1 の外部に突出するおそれはない。これにより、保管・運搬時に、釘Nの先端部4bが突出する危険がなくなる。
【0039】
図7に示されるように、多数個の吊下げ具A1 は、積み重ねられた状態で収容箱Bに収容される。このとき、一連の吊下げ具A1(この状態の吊下げ具A1 を、「吊下げ具群E」と記載する)は、長さ方向の位置を僅かにずらして収容される。吊下げ具群Eの各抜止め部2が、隣接する吊下げ具群Eの各側壁部3の部分に配置されることにより、双方の吊下げ具A1 の抜止め部2が重なり状態で配置され、各吊下げ具群Eが占有する空間の幅を更に小さくできる。同様にして、上段に配置される各吊下げ具群Eは、下段に配置された各吊下げ具群Eと向きを反対にして、しかも、2列の吊下げ具群Eどうしの間に配置することにより、各吊下げ具群Eが占有する空間の高さを更に小さくできる。上記した結果、多数個の吊下げ具A1 は、重ね合わせられた状態で収容箱Bに整列して収容される。即ち、多数個の吊下げ具A1 が、収容箱Bに嵩張ることなく整然として収容される。このため、1つの収容箱Bに収容される吊下げ具A1 の個数を多くできる。逆に、収容される吊下げ具A1 の個数が同一であれば、収容箱Bの大きさを小さくでき、吊下げ具A1 の保管・運搬が一層容易になる。
【0040】
次に、本実施例の吊下げ具A1 の使用時の作用について説明する。図8に示されるように、作業者は、収容箱Bから、積み重ね状態で収容されている1つの吊下げ具群Eを取り出し、該吊下げ具群Eから1個の吊下げ具A1 を取り外す。そして、型枠Tの所定位置に吊下げ具A1 を配置し、各釘Nをハンマー16で打ち込む。積み重ね状態の各吊下げ具A1 は、嵌合部1の外周面と側壁部3の下端開口とが嵌合され、それらの嵌合状態が摩擦力によって保持されているのみであり、各吊下げ具A1 を分離させる作業は容易である。このため、作業者が一方の手に打ち込み用のハンマー16を持ち、他方の手に吊下げ具群Eを持って作業することもでき、従来のように収容箱Bから吊下げ具A1 を1個ずつ拾い出す作業が不要である。また、ハンマー16で釘Nを打ち込むかたわら、吊下げ具群Eから1個の吊下げ具A1 を取り外す作業もできるため、型枠Tに対する吊下げ具A1 の固定作業を連続して迅速に行える。
【0041】
各吊下げ具A1 が取り外されるとき、上段の吊下げ具A1 の釘収容空間V2 に収容された下段の吊下げ具A1 の釘Nの突出部4は、前記上段の吊下げ具A1 の釘案内部13に案内されて移動される。しかも、吊下げ線材Wは、前記釘収容空間V2 と離隔した線材収容空間V1 に収容されている。これにより、釘Nの突出部4が、上段の吊下げ具A1 の釘保持筒部7や吊下げ線材Wを引っ掛けるおそれはない。このため、吊下げ線材Wは、線材収容空間V1 に収容されたままの状態で保持される。換言すれば、移動する釘Nの突出部4が吊下げ線材Wを無用に引っ掛けて引き出してしまい、作業者が吊下げ線材Wを再び押し込む作業が不要である。
【0042】
図9−Aの(イ)に示されるように、型枠Tに釘Nが打ち込まれる。前記釘Nは釘保持筒部7に挿入されていて、該釘保持筒部7が釘Nの打込み案内を行うため、釘Nが安定して打ち込まれ、打ち損じが防止されると共に、前記釘Nが吊下げ線材Wを引っ掛けて損傷させるおそれはない。これにより、各吊下げ具A1 が型枠Tの所定位置に固定される。次に、図9−Aの(ロ)に示されるように、型枠Tにコンクリートが打設される。打設されたコンクリートは、吊下げ具本体Kの周辺部及び抜止め部2の切除部2aに入り込んで固化し、スラブSを形成する。前記抜止め部2が、スラブSに対してアンダーカット部(引掛かり部)として機能するため、型枠Tが取り外されても、スラブSから吊下げ具A1 が抜け出ることが確実に防止される。吊下げ線材Wは、自身の有する形状保持力により、線材収容空間V1 に収容されたまま保持され、自重で垂れ下がることはない。また、釘Nの先端部4bは、釘保持筒部7の下端面から下方に突出されている。
【0043】
図9−Bの(ハ)に示されるように、スラブSの底面部から突出された釘Nの先端部4bをペンチ17等の工具で把持し、そのまま引き下げる。釘保持筒部7と凹部9、及び線材引掛け部8と溝部11との各連結部12の肉厚は薄いので、各連結部12が容易に破断され、前記釘保持筒部7と線材引掛け部8は釘Nと一体となって落下する。このとき、吊下げ線材Wは、線材引掛け部8の先端部8aに引っ掛けられて、線材収容空間V1 から容易に抜け出される。そして、図9−Bの(ニ)に示されるように、吊下げ具A1 の直下に配置された配線Pに吊下げ線材Wが巻き付けられて、該配線Pが吊下げ状態で支持される。
【実施例2】
【0044】
次に、第2実施例の吊下げ具A2 について説明する。図10に示されるように、各吊下げ具A2 の抜止め部2の上面部に、半径方向に沿って第1位置決め線18が設けられていると共に、側壁部3の外周面において、前記第1位置決め線18と周方向に沿って位相を180°ずらした位置に高さ方向に沿って第2位置決め線19が設けられている。一の吊下げ具A2 の嵌合部1と他の吊下げ具A2 の側壁部3の下端開口とを嵌合させる際に、抜止め部2に設けられた第1位置決め線18と、側壁部3に設けられた第2位置決め線19とを合致させる。各吊下げ具A2 は、自動的に周方向に位相を180°ずらした位置決め状態で積み重ねられ、一の吊下げ具A2(下側の吊下げ具A2)の釘Nの突出部4は、他の吊下げ具A2(上側の吊下げ具A2)の釘収容空間V2 に収容される。
【0045】
第2実施例の吊下げ具A2 の場合、第1及び第2の各位置決め線18,19を合致させるだけで済む。しかも、各位置決め線18,19は、外部から視認できる位置に設けられているため、多数個の吊下げ具A2 を無造作に積み重ねることができる。なお、各位置決め線18,19は、周方向に沿って位相が180°ずれていれば、いかなる位置であっても設けることができる。
【実施例3】
【0046】
次に、第3実施例の吊下げ具A3 について説明する。図11に示されるように、各吊下げ具A3 の側壁部3の内周面に、高さ方向に沿って係合突部21が突設されていると共に、嵌合部1の外周面において、前記係合突部21と周方向に沿って位相を180°ずらした位置に凹部22が設けられている。一の吊下げ具A3 の嵌合部1と他の吊下げ具A3 の側壁部3の下端開口とを嵌合させる際に、側壁部3に設けられた係合突部21を、嵌合部1に設けられた凹部22に嵌合させる。各吊下げ具A3 は、自動的に周方向に位相を180°ずらした位置決め状態で積み重ねられ、一の吊下げ具A3(下側の吊下げ具A3)の釘Nの突出部4は、他の吊下げ具A3(上側の吊下げ具A3)の釘収容空間V2 に収容される。この結果、第2実施例の吊下げ具A2 とほぼ同一の作用効果が奏される。更に、第3実施例の吊下げ具A3 の場合、係合突部21と凹部22とが合致していない状態で各吊下げ具A3 を積み重ねることはできないので、誤った状態で積み重ねられることが確実に防止されるという利点がある。
【0047】
上記した各実施例の吊下げ具A1 〜A3 は、予め、吊下げ線材Wが線材収容空間V1 に収容された形態である。しかし、前記吊下げ線材Wが、後から取付けられる形態であってもよい。この場合であっても、複数個の吊下げ具A1 〜A3 が積み重ねられて吊下げ具群Eが形成されるため、収容箱Bに収容された各吊下げ具群Eが嵩張ることなく整然として収容される。そして、吊下げ線材Wの長さを自在に設定できると共に、積み重ね状態の吊下げ具A1 を重ね合わせたり、取り外したりするときに、釘Nの突出部4が吊下げ線材Wを引っ掛けるおそれが全くなくなるという利点がある。
【実施例4】
【0048】
次に、第4実施例の吊下げ具A4 について、第1実施例の吊下げ具A1 と異なる部分についてのみ説明する。図12に示されるように、吊下げ具A4 の上端部には、側壁部3と略同一径で円板状の上板部23が設けられている。該上板部23は、第1実施例の吊下げ具A1 における嵌合部1に相当する。そして、前記上板部23の上面部23aに、上板部23と同心にして環状の係止溝24が設けられている。前記係止溝24の溝径は、側壁部3の突起部3bの外径とほぼ同一であり、同じく溝深さは、前記突起部3bの段差e[図5の(イ)参照]よりも少し深い。図13に示されるように、各吊下げ具A4 が周方向に沿って位相を180°ずらして重ね合わせられたとき、上段の吊下げ具A4 の突起部3bが、下段の吊下げ具A4 の係止溝24に入り込んで係止される。これにより、各吊下げ具A4 が横ずれすることはない。また、上段の吊下げ具A4 の底面部3aが、下段の吊下げ具A4 の上板部23の上面部23aに載置される。しかも、下段の吊下げ具A4 から突出されている釘Nの突出部4は、重ね合わせられる吊下げ具A4 の釘案内部13に案内されて収容される。なお、図13は各吊下げ具A4 の係止状態を示す図であるため、吊下げ線材Wの図示を省略してある。
【0049】
第4実施例の吊下げ具A4 においても、一方の吊下げ具A4 の突起部3bが、他方の吊下げ具A4 の係止溝24に係止されて、二つの吊下げ具A4 が横ずれしなくなるため、前記各吊下げ具A1 〜A3 と同様に、前記した収容箱Bに多数の吊下げ具A4 を積み重ねた状態で収容できる。
【0050】
なお、上記各実施例では、コンクリートスラブ内に埋設され、天井に沿って配線・配管材を吊り下げるのに使用される吊下げ具に対して本発明を実施した例であるが、下面が開口した埋設物本体の収容空間に、埋設物本体を型枠に固定するための釘材が部分収容されて、残りの部分が上方に突出した構成の他のコンクリート埋設物に対しても実施可能である。他のコンクリート埋設物の例としては、下面が開口した埋設物本体の対向側壁に、電線管等を接続するための接続部が一体に形成されて、埋設物本体の天井壁に該埋設物本体を型枠に固定する釘材の一部が埋設物本体の内部空間に部分収容されたものを挙げることができる。このコンクリート埋設物は、前記釘材により埋設物本体を型枠に固定して、前記各接続部に電線管等をそれぞれ接続した状態で、型枠上にコンクリートが打設されることにより、コンクリート内に埋設される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1実施例の吊下げ具A1 の上方からの斜視図である。
【図2】同じく一部を破断した下方からの斜視図である。
【図3】使用状態における吊下げ具A1 の下方からの斜視図である。
【図4】(イ)は、本発明の第1実施例の吊下げ具A1 の底面図であり、(ロ)は、従来の吊下げ具A’の底面図である。
【図5】(イ)は、図4の(イ)のX−X線断面図であり、(ロ)は同じくY−Y線断面図である。
【図6】積み重ねられた状態の吊下げ具A1 の正面断面図である。
【図7】多数個の吊下げ具A1 が収容箱Bに収容されている状態の斜視図である。
【図8】作業者が、一方の手に一連の吊下げ具A1 を持ったまま、他方の手で型枠Tに設置された吊下げ具A1 の釘Nを打ち込む状態を示す図である。
【図9−A】(イ)は、吊下げ具A1 の釘Nが型枠Tに打ち込まれた状態の作用説明図であり、(ロ)は、型枠Tを取り外した後で、釘Nを引っ張る状態の作用説明図である。
【図9−B】(ハ)は、破断された釘保持筒部7が吊下げ線材Wを引き出す状態の作用説明図であり、(ニ)は、吊下げ線材Wによって配線Pを吊り下げた状態の作用説明図である。
【図10】第2実施例の吊下げ具A2 を重ね合わせる状態の作用説明図である。
【図11】第3実施例の吊下げ具A3 を重ね合わせる状態の作用説明図である。
【図12】第4実施例の吊下げ具A4 の上方からの斜視図である。
【図13】積み重ねられた状態の吊下げ具A4 の正面断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 〜A4 :吊下げ具(コンクリート埋設物)
K:吊下げ具本体(埋設物本体)
N:釘(釘材)
P:配線(配線・配管材)
S:スラブ
T:型枠
1 :線材収容空間(収容空間)
2 :釘収容空間(収容空間)
W:吊下げ線材
1:嵌合部
3:側壁部
4:突出部
7:釘保持筒部(保持筒)
13:釘案内部(案内部)
15:凹部(嵌合凹部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートスラブ内に埋設すべく、釘材によりコンクリート型枠に固定されるコンクリート埋設物であって、
下端を開口とした収容空間を有する埋設物本体と、
該埋設物本体を前記型枠に固定すべく、前記収容空間に部分収容された状態で、前記埋設物本体に保持される釘材とを備え、
前記釘材は、前記保持状態で埋設物本体の下方に突出することなく、しかも前記埋設物本体の上方に前記収容空間の高さと同一又はこれよりも短い寸法で突出する長さに形成されて、一のコンクリート埋設物の釘材の上方突出部を他のコンクリート埋設物の収容空間内に収容した状態で前記コンクリート埋設物どうしを積み重ね可能な位置に保持され、
一のコンクリート埋設物と他のコンクリート埋設物とを積み重ねることにより、一のコンクリート埋設物の下端開口が他のコンクリート埋設物の上面に横ずれすることなく当接する構成であることを特徴とするコンクリート埋設物。
【請求項2】
前記埋設物本体の上端部は、積み重ねられた他のコンクリート埋設物の下端開口に嵌合する嵌合部となっていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート埋設物。
【請求項3】
前記収容空間には、コンクリート埋設物を積み重ねた際に、他のコンクリート埋設物の釘材の突出部の側方に配置されて、コンクリート埋設物どうしを積み重ねる際の案内部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート埋設物。
【請求項4】
前記埋設物本体の収容空間内には、釘材を保持する保持筒が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のコンクリート埋設物。
【請求項5】
前記コンクリート埋設物は、配線・配管材を吊り下げるための吊下げ具であって、前記収容空間内には、配線・配管材を吊り下げるための吊下げ線材が巻回されて収容されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のコンクリート埋設物。
【請求項6】
前記案内部は、吊下げ具本体の側壁部と間隔を有して形成され、前記案内部と前記側壁部との間に吊下げ線材が挿入されて、収容空間に巻回状に収容された吊下げ線材に囲まれる部分が釘材の収容空間となっていることを特徴とする請求項5に記載のコンクリート埋設物。
【請求項7】
前記吊下げ具本体の収容空間内に釘材の略下半部を保持するために形成された保持筒と前記案内部とは、周方向に沿って位相が180°異なる位置に対向して形成されていることを特徴とする請求項6に記載のコンクリート埋設物。
【請求項8】
前記埋設物本体の上面には、積み重ねられた他のコンクリート埋設物の保持筒の下端部が嵌合される嵌合凹部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のコンクリート埋設物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−A】
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【図9−B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−113317(P2007−113317A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307347(P2005−307347)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】