説明

コンクリート接合構造

【課題】コンクリート構造躯体と2次部材との接合部に発生する曲げモーメントをコンクリート構造躯体に簡単に伝達することができる、コンクリート構造躯体と2次部材との接合構造を提供する。
【解決手段】梁12の接合凹部16に庇14を挿入して接合する。そして、少なくとも庇14の自重又は庇14が外部から受ける荷重より梁12の接合凹部16に発生する曲げモーメントを、上側支圧面18A及び下側支圧面18Bが支圧によって梁12に伝達することで、庇14を支持する。また、地震時等においては、接合凹部16に作用する慣性力を、コッター20が梁12に伝達するため、地震時においても庇14を拘束し、支持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造躯体と2次部材とのコンクリート接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート(以下、「PCa」という)梁とPCa2次部材とを接合する工法の一つとして、図9に示すように、構造物の外壁に面して設置されたPCa梁100と外壁面から張り出したPCa庇102とをボルト104及びナット106により接合する工法が知られている。この工法では、PCa梁100に形成された貫通孔108に、PCa庇102に一部埋設されると共にPCa庇102から突出したボルト104を挿入し、構造物の内部側からナット106で締め付けて定着させた後、貫通孔108にグラウト110を注入して、ボルト104と貫通孔108との隙間を埋めるものである。
【0003】
しかしながら、この工法では、グラウト注入後も貫通孔108を伝って外部から構造物内部に雨水等が流入(矢印A)して内装や仕上げ材が汚れたり、また、ナット106に錆び生じる等の種々の問題がある。
【0004】
一方、特許文献1には、図10に示すように、ボルト等を用いずに、プレキャスト化した大梁と小梁とを接合する工法が提案されている。
【0005】
この工法は、プレキャスト大梁114の仕口部に、プレキャスト小梁116の小口の端面116A、左右側面116B、底面116Cの4面を囲む面118A、118B、118Cを有する凹部118を備えたブラケット120を形成し、プレキャスト小梁116の小口をプレキャスト大梁114のブラケット120の凹部118に挿入した後、接合面の間隙に膨張モルタルを充填して、プレキャスト大梁114とプレキャスト小梁116とを接合するものである。
【0006】
ところで、プレキャスト小梁116は、両端の小口がプレキャスト大梁114のブラケット120の底面118Cに単純支持されるため、ブラケット120の上部は開口し、プレキャスト小梁116の小口の挿入口となっている。このため、片持ばりとしたプレキャスト小梁116の支持部としてブラケット120を用いた場合、プレキャスト小梁116の自重による曲げモーメントをプレキャスト大梁114に伝達する受け部がなく、プレキャスト小梁116を片持ばりとすることができない。
【0007】
また、特許文献1のようなプレキャスト小梁116の両端部を下から単純に支持するような小梁においても接合部に曲げモーメントを発生させてプレキャスト大梁114に伝達することにより、小梁に生じる撓みを小さく抑えることが望まれる。
【特許文献1】特開平3−257234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事実を考慮し、コンクリート構造躯体と2次部材との接合部に発生する曲げモーメントをコンクリート構造躯体に簡単に伝達することができる、コンクリート構造躯体と2次部材との接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、コンクリート構造躯体と、前記コンクリート構造躯体に接合される2次部材との接合構造であって、前記2次部材が挿入接合される前記コンクリート構造躯体の接合凹部は、少なくとも前記2次部材の自重又は前記2次部材が外部から受ける荷重により該2次部材の接合凹部に発生する曲げモーメントを支圧によって前記コンクリート構造躯体に伝達する曲げ伝達部と、地震時に前記2次部材の接合凹部に作用する慣性力を前記コンクリート構造躯体に伝達する慣性力伝達手段と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
上記の構成では、コンクリート構造躯体の接合凹部に2次部材が挿入されている。そして、少なくとも2次部材の自重又は2次部材が外部から受ける荷重よりコンクリート構造躯体の接合凹部に発生する曲げモーメントを、支圧によって曲げ伝達部がコンクリート構造躯体に伝達することで、2次部材を支持している。従って、2次部材を接合凹部に挿入するという簡易な工法によって2次部材を接合でき、施工の簡略化、工期の短縮化等を図ることができる。
【0011】
また、地震時等においては、接合凹部に作用する慣性力を、慣性力伝達手段がコンクリート構造躯体に伝達するため、地震時においても2次部材を拘束し、支持することができる。ここで、2次部材とは、プレキャスト化されたコンクリート構造又は鉄筋コンクリート構造の主要構造部材以外の部材のことをいい、施工中の埋設型枠として使用するプレキャスト部材も含む概念である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記曲げ伝達部は、前記コンクリート構造躯体から突出し前記接合凹部を形成する突出部を備え、前記慣性力断伝達手段は、少なくとも前記接合凹部の内面又は前記2次部材に形成され、地震時に前記2次部材の慣性力により該2次部材の接合凹部に発生するせん断力を前記コンクリート構造躯体に伝達するコッターを備え、前記接合凹部と前記2次部材との間にはセメント系充填材が充填されていることを特徴としている。
【0013】
上記の構成では、コンクリート構造躯体から突出した突出部を備える曲げ伝達部が、コンクリート構造躯体の接合凹部に発生する曲げモーメントを支圧によってコンクリート構造躯体に伝達することで、2次部材を支持している。また、接合凹部と2次部材との間にセメント系充填材が充填されているため、コンクリート構造躯体と2次部材との付着度合いが高められ、コンクリート構造躯体への曲げモーメントの伝達を更に良好なものとしている。
【0014】
また、接合凹部の内面又は2次部材の少なくとも一方にはコッターが形成され、コッターに充填されたセメント系充填材によって、コンクリート構造躯体と2次部材とがより強固に接合されている。地震時には、2次部材に作用する慣性力により該2次部材の接合凹部にせん断力が発生するが、コッターを介してコンクリート構造躯体にせん断力を伝達できるため、地震時においても、2次部材を拘束、支持することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記曲げ伝達部は、前記コンクリート構造躯体から突出し前記接合凹部を形成する突出部を備え、前記慣性力伝達手段は、前記突出部と前記2次部材を連結し、地震時に前記2次部材の接合凹部に作用する慣性力を前記コンクリート構造躯体に伝達する連結部材を備え、前記接合凹部と前記2次部材との間に弾性体を配置したことを特徴としている。
【0016】
上記の構成では、地震時に接合凹部に慣性力が作用しても、突出部と2次部材とを連結する連結部材を介して、慣性力がコンクリート構造躯体に伝達されるため、2次部材が拘束、支持される。更に、コンクリート構造躯体と2次部材との間に弾性体を配置しているため、セメント系充填材を充填せずとも、コンクリート構造躯体と2次部材との密着度合いを高めることができる。セメント系充填材を用いる場合は、硬化するまで少なからず時間を要するが、弾性体であれば、このような時間を省くことができ、工期の短縮を図ることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記コンクリート構造躯体がプレキャストコンクリート梁であり、2次部材がプレキャストコンクリート梁から張り出したプレキャストコンクリート片持構造部材であることを特徴としている。
【0018】
上記の構成では、プレキャストコンクリート梁からプレキャストコンクリート片持構造部材が張り出すように接合され、プレキャストコンクリート片持構造部材が、いわゆる片持ちばりとして支持されている。突出部を備える曲げ伝達部が接合凹部に発生する曲げモーメントをプレキャストコンクリート梁に伝達するため、プレキャストコンクリート片持構造物を接合凹部に挿入するだけで確実に接合し、支持することができる。また、外壁面から張り出したバルコニー、庇等の片持ばりとの接合においても、構造物内部へ通じるボルト接合用の貫通孔等をプレキャストコンクリート梁に設ける必要がないので、貫通孔を通じて構造物内部に雨水等が流入することがなく、内装や仕上げ材等を汚すことがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記の構成としたので、コンクリート構造躯体と2次部材との接合部に発生する曲げモーメントをコンクリート構造躯体に簡単に伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態に係るコンクリート接合構造について説明する。
【0021】
先ず、第1の実施形態では、図1、図2に示すように、構造躯体10の一部を構成するプレキャスト・鉄筋コンクリート(以下、「PCa・RC」という)造の梁12とPCa・RC造の庇14とを接合する例を説明する。なお、鉄筋等の図示は省略している。
【0022】
梁12は、側面から張り出した上側突出部16Aと、上側突出部16Aに対向して側面から張り出した下側突出部16Bと、を備えており、上側突出部16Aと下側突出部16Bとから接合凹部16が構成されている。上側突出部16Aの下面は、庇14の端部の上面14Aから曲げモーメントを受ける上側支圧面18Aとされ、下側突出部16Bの上面は、庇14の端部の下面14Bから曲げモーメントを受ける下側支圧面18Bとされている。上側支圧面18Aには、庇14の端部の上面14Aと同じ傾斜が付けられ、上側支圧面18Aが曲げモーメントを受け易くしている。
【0023】
接合凹部16の奥面18Cには、梁12の長手方向に沿って、所定の間隔で複数の凹部20Aが形成され、また、庇14の端面14Cには、凹部20Aに対応する複数の凹部20Bが形成されている。そして、凹部20A及び凹部20Bには、後述するグラウト26がそれぞれ充填され、接合凹部16に発生するせん断力を梁12に伝達するコッター20が構成される。更に、接合凹部16と庇14の端部との間にも、グラウト26が充填されている。
【0024】
次に、梁12と庇14との接合工法の例について説明する。
【0025】
図1〜3に示すように、梁12の接合凹部16に庇14の端部を挿入(矢印B)し、接合凹部16と庇14の端部との間にスペーサを挿入することにより、グラウト26を充填するための目地空間24を形成する。次に、ゴム等の弾性素材からなるエアチューブ(不図示)を目地空間24の開口周縁に沿って配置し、エアチューブに空気を吹き込んで膨張させて目地空間24を密閉する。接合凹部16と庇14の上面14A及び下面14Bとの間には、グラウト26を注入する注入口(矢印C)及びグラウト26が充填されたことの確認を行う充填確認口(矢印D)が形成されており、この注入口からグラウト26を注入して目地空間24を埋め、充填確認口おいてグラウト26が充填されたことを確認する。これにより、コッター20の各凹部20A、20Bにグラウト26が充填される。グラウト26が硬化した後、エアチューブから空気を除去して収縮させ、エアチューブを目地空間24の開口周縁から除去する。このように、グラウト26を目地空間24に充填することにより、梁12と庇14とが隙間なく強固に付着する。
【0026】
なお、本実施形態では、エアチューブによって目地空間24を密封したが、これに限られず、スポンジ状の発泡性材や南洋材型枠に注入口を設けて、この注入口からグラウト26を注入しても良い。セメント系充填材としてグラウトを用いたがこれに限られず、モルタル等であっても良い。
【0027】
次に、本発明の第1の実施形態に係るコンクリート接合構造の作用及び効果について説明する。
【0028】
図3に示すように、梁12と庇14との接合凹部16には、庇14の自重よる長期荷重や風圧、積雪等の短期荷重によって、曲げモーメントMが発生する。この曲げモーメントMは、上側支圧面18Aを上方へ押し上げる向きに作用し、また、下側支圧面18Bを下方へ押し下げる向きに作用する。これに対し、目地空間24に充填されたグラウト26を介して、上側支圧面18Aが庇14の端部の上面14Aを支圧(R1)し、また、下側支圧面18Bが庇14の端部の下面14Bを支圧(R2)することによって、梁12の回転が拘束され、曲げモーメントMが梁12に伝達される。
【0029】
このように、接合凹部16に梁12の端部を挿入するだけで、接合凹部16に発生する曲げモーメントMを梁12に伝達することができるため、庇14を確実に接合し、支持することができる。また、梁12と庇14とを接合するボルト等が不要となり、構造躯体10の内部へ通じるボルト接合用の貫通孔等を設ける必要がないので、貫通孔を通じて構造躯体10内部に雨水等が流入することがなく、内装や仕上げ材等を汚すことがない。
【0030】
また、地震時においては、梁12及び庇14に地震力(慣性力)が作用する。この地震力は、接合凹部16にせん断力として作用するが、目地空間24及びコッター20に充填されたグラウト26を介して、せん断力が梁12に伝達される。このように、コッター20を設けることにより、接合凹部16と庇14との接合力が増して、梁12にせん断力が良好に伝達される。
【0031】
なお、本実施形態では、接合凹部16の奥面18C及び庇14の端面14Cに凹部20A、20Bをそれぞれ形成したが、何れか一方にのみ形成しても良い。
【0032】
また、コッター20の形状は、庇14を拘束し、支持することができれば良く、図3に示す四角錐台の形状に限られない。別の断面形状をしたコッターの例を図4に示す。
【0033】
接合凹部16の奥面18C及び庇14の端面14Cには、蟻型の断面形状を有するコッター32を構成する凹部32A、32Bがそれぞれ形成されている。そして、凹部32A、32Bに充填されたグラウト26によって、梁12と庇14との接合力が増加するため、梁12にせん断力が良好に伝達される。これは、コッター32の断面が蟻型に形成されているため、梁12と庇14とを接合する楔として機能し、矢印E方向のせん断抵抗力が増大するからである。
【0034】
このように、コッター20の形状は、接合凹部16に作用するせん断の大きさにより適宜設計変更して適用すれば良い。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係るコンクリート接合構造について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0036】
第2の実施形態は、図5に示すように、第1の実施形態における慣性力伝達手段としてのコッター20に替えてコミ栓36を用いた例であり、梁12と庇14とをコンクリート造のコミ栓36によって連結する構成である。
【0037】
梁12の上側突出部16A、下側突出部16B及び庇14の端部には、コミ栓36を打ち込むための貫通する貫通孔38A、38B、38Cがそれぞれ形成され、梁12の上側突出部16Aの上方から円柱形のコミ栓36が打ち込まれている。また、貫通孔38Aの上部には、貫通孔38Aより径の大きいサグリ部40が形成され、コミ栓36の上部に形成されたつば部42が挿入される。そして、つば部42とサグリ部40とが係合することにより、コミ栓36が抜け落ちないように支持されている。
【0038】
庇14の端部の上面14Aと上側支圧面18Aとの間、及び庇14の端部の下面14Bと下側支圧面18Bとの間には、施工時の誤差を吸収すると共に密着度合いを高めるシート状の弾性体シート44A、44Bがそれぞれ配置されている。また、弾性体シート44A、44Bには、コミ栓36が貫通する貫通孔38D、38Eが形成されている。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態に係るコンクリート接合構造の作用及び効果について説明する。
【0040】
図5に示すように、梁12と庇14との接合凹部16には、庇14の自重による長期荷重や風圧、積雪等の短期荷重によって、曲げモーメントMが発生する。
【0041】
この曲げモーメントは、第1の実施形態と同様に、上側支圧面18A、下側支圧面18Bが庇14の端部の上面14A、下面14Bをそれぞれ支圧(R1、R2)することにより、梁12に伝達される。
【0042】
そして、本実施形態では、弾性体シート44A、44Bを用いて、接合凹部16と庇14との密着度合いを高めているため、グラウト26を用いる必要がなく、工期の短縮を図ることができる。
【0043】
また、地震時においては、梁12及び庇14に地震力(慣性力)が作用する。この地震力は、梁12と庇14とを一体的に連結するコミ栓36を介して、梁12に伝達される。従って、地震時においても、庇14を拘束し、支持することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、弾性体シート44A、44Bを用いたが、これに限られない。例えば、楔状の弾性体を庇14の長手方向に沿って所定の間隔で配設しても良い。更に、弾性体に限られず、発泡性材であっても良い。
【0045】
次に、本発明の第3の実施形態に係るコンクリート接合構造について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0046】
第3の実施形態は、図6に示すように、構造躯体10の一部を構成するPCa・RC造の梁12と、PCa・RC造のバルコニー46との接合構造である。
【0047】
バルコニー46の先端部には、手摺柱48を介して手摺50が取付けられている。バルコニー46の端部の上面46A及び下面46Bには、長手方向に沿って長溝52A、52Bがそれぞれ形成されている。上側支圧面18A及び下側支圧面18Bには、長溝52A、52Bに係合する長細い棒状のリブ54A、54Bが梁12の長手方向に沿って、それぞれ形成されている。
【0048】
バルコニー46は、矢印Fの方向から接合凹部16に挿入され、長溝52A、52Bとリブ54A、54Bとがそれぞれ係合している。梁12の接合凹部16とバルコニー46との目地空間24には、グラウト26が充填され、このとき、長溝52A、52Bとリブ54A、54Bとの間の目地空間24にも、グラウト26が隙間なく充填される。
【0049】
次に、本発明の第3の実施形態に係るコンクリート接合構造の作用及び効果について説明する。
【0050】
図6に示すように、梁12とバルコニー46との接合凹部16には、バルコニー46の自重による長期荷重や積載荷重、風圧、積雪等の短期荷重によって、曲げモーメントMが発生する。この曲げモーメントは、第1の実施形態と同様に、上側支圧面18A、下側支圧面18Bがバルコニー46の端部の上面46A、下面46Bをそれぞれ支圧(R1、R2)することにより、梁12に伝達される。
【0051】
更に、長溝52A、52Bとリブ54A、54Bとの係合部において、目地空間24に充填されたグラウト26を介して、リブ54Aの側面が対向する長溝52Aの側面を支圧(R3)し、また、リブ54Bの側面が対向する長溝52Bの側面を支圧(R4)することによって、曲げモーメントMが梁12に伝達される。
【0052】
従って、接合凹部16に、長溝52A、52Bとリブ54A、54Bとの係合部を設けることで、曲げモーメントの伝達性能が更に良好なものとなり、積載荷重等によって大きな曲げモーメントが発生するバルコニー46の接合構造においても本発明の接合構造を適応することができる。
【0053】
また、地震時においては、梁12及びバルコニー46に地震力(慣性力)が作用する。この地震力は、第1の実施形態と同様、コッター20に充填されたグラウト26を介して梁12に伝達される。更に、長溝52A、52Bとリブ54A、54Bとの係合部が、コッターとして機能するため、せん断力の伝達性能が更に向上されている。
【0054】
次に、本発明の第4の実施形態に係るコンクリート接合構造について説明する。
【0055】
第4の実施形態は、図7(a)に示すように、構造躯体10の一部を構成するPCa・RC造の大梁58AとPCa・RC造の大梁58Bとの間に、渡すようにPCa・RC造の小梁60を接合する接合構造である。
【0056】
小梁60の接合端部は、大梁58A、58Bの接合凹部16に挿入されている。また、大梁58A、大梁58Bの各接合凹部16と小梁60の接合端部との間に形成された目地空間24には、グラウト26が充填されている。
【0057】
次に、本発明の第4の実施形態に係るコンクリート接合構造の作用及び効果について説明する。
【0058】
小梁60には、小梁60の自重による長期荷重や風圧、積雪等の短期荷重によって、曲げモーメントが発生する。ここで、大梁58A、58Bの各接合凹部16の上側支圧面18A、下側支圧面18Bが、小梁60の接合端部の上面60A、下面60Bをそれぞれ支圧することによって、小梁60が固定されている。
【0059】
ここで、小梁60に作用する荷重を自重による長期荷重に限定すると、小梁60に発生する曲げモーメントは、等分布荷重を受ける両端固定ばりに発生する曲げモーメントに相当し、小梁60の曲げモーメントの分布は、図7(b)に示すようになる。また、比較例として、等分布荷重を受ける単純支持ばり(両端ピン接合)に発生する曲げモーメントの分布を図7(c)に示す。
【0060】
小梁60と大梁58Aの接合凹部16には、目地空間24に充填されたグラウト26を介して、上側支圧面18A、下側支圧面18Bが接合端部の上面60A、下面60Bを支圧することで、反時計回りの曲げモーメントM1が発生している。また、小梁60と大梁58Bの接合凹部16においても、上側支圧面18A、下側支圧面18Bが接合端部の上面60A、下面60Bを支圧することで、時計回りの曲げモーメントM2が発生している。このように、各接合凹部16に、小梁60の中央部に発生する曲げモーメントM3と反対方向に作用する曲げモーメントM1、M2を発生させることで、曲げモーメントM3を相対的に小さく抑えることができ、小梁60の設計強度を下げることができる。
【0061】
単純支持ばりと比較すると、図7(c)に示すように、単純支持ばりの両端部はピン接合となるため、曲げモーメントが発生せず、はりの中央部で曲げモーメントが最大となり、曲げモーメントに応じて小梁の撓み量も大きくなる。
【0062】
これに対して本実施形態では、小梁60の接合端部を固定することで、小梁60の中央部に発生する曲げモーメントM3を小さく抑え、曲げモーメントM3に応じた小梁60の撓み量を小さく抑えることができる。
【0063】
なお、小梁60に作用する荷重を、自重による長期荷重に限定して説明したが、風圧、積雪等の短期荷重を加えても、小梁60に生じる撓み量を相対的に小さく抑えることができる点は変わりない。
【0064】
また、地震時においては、大梁58A、58B及び小梁60に地震力(慣性力)が作用する。この地震力は、第1の実施形態と同様に、コッター20に充填されたグラウト26を介して、大梁58A、58Bに伝達される。
【0065】
従って、地震力によって接合凹部16にせん断力が発生しても、コッター20を介して大梁58A、58Bにせん断力が伝達されるため、小梁60を支持することができる。
なお、接合端部に発生するモーメントM1、M2は、ねじり剛性を高めた大梁58A、58Bのねじれ剛性で抵抗しても良いし、また、同様に端部剛接合とした小梁を連続的に設置して、連続梁構造として抵抗しても良い。
【0066】
次に、本発明の第5の実施形態に係るコンクリート接合構造について説明する。
【0067】
第5の実施形態は、図8に示すように、構造躯体10の一部を構成するPCa・RC造の柱64とPCa・RC造の埋設型枠66とを接合する接合構造である。なお、柱64の鉄筋は、図が煩雑となるので省略する。
【0068】
柱64の仕口部には、梁68、70が設置され、梁68の端面68Aから突出した梁主筋72と、梁70の端面70Aから突出した梁主筋74と、が筒状の機械式継手76に挿入され、定着されている。
【0069】
埋設型枠66は、梁68の側面68B及び梁70の側面70Bに当接して型枠として使用される型枠部78と、型枠部78から突出した接合端部80と、を備えている。
【0070】
柱64の仕口部には、梁68、70の長手方向に沿って深い溝状の接合凹部82が形成され、接合凹部82に接合端部80が挿入されている。
【0071】
接合凹部82の内壁面のうち、内側の内壁面は、接合端部80の側面80Aから曲げモーメントを受ける内側支圧面82Aとされ、外側の内壁面は、接合端部80の側面80Bから曲げモーメントを受ける外側支圧面82Bとされている。
【0072】
また、内側支圧面82Aと接合端部80の側面80Aとの間、外側支圧面82Bと接合端部80の側面80Bとの間には、施工時の誤差を吸収すると共に密着度合いを高めるシート状の弾性体シート44A、44Bがそれぞれ配置されている。
【0073】
柱64の仕口部及び埋設型枠66の接合端部80には、コミ栓88を挿入するための貫通した貫通孔がそれぞれ形成され、柱64の仕口部の外側から円柱形のコミ栓88が打ち込まれている。
【0074】
次に、本発明の第5の実施形態に係るコンクリート接合構造の作用及び効果について説明する。
【0075】
梁68と梁70の間に設けた内側型枠(不図示)と埋設型枠66との間にコンクリートが打設されると、コンクリートの側圧等により、柱64の接合凹部82に曲げモーメントMが発生する。この曲げモーメントMは、第1の実施形態と同様に、内側支圧面82A、外側支圧面82Bが接合端部80の側面80A、側面80Bを支圧(R1、R2)することにより、柱64に伝達される。
【0076】
従って、接合凹部82に埋設型枠66を挿入するだけで、接合凹部82に発生する曲げモーメントMを柱64に伝達することができるため、埋設型枠66を確実に接合し、支持することができる。
【0077】
また、柱64と埋設型枠66とを接合するだけで外側型枠を構築できるため、型枠作業に伴う足場を仮設する必要がなく、施工性が向上する。更に、外側型枠と柱64とを一体化したプレキャスト部材を製作する場合に比べ、柱64に接合凹部82を形成するだけでよいため、柱64自体の製作が単純化され、製作コストを抑えることができる。
【0078】
また、地震時においては、柱64及び埋設型枠66に地震力(慣性力)が作用する。この地震力は、第2の実施形態と同様、コミ栓88を介して柱64に伝達される。従って、地震時においても、埋設型枠66を拘束し、支持することができる。
【0079】
なお、本実施形態では、弾性体シート44A、44Bを用いたが、これに限られない。例えば、楔状の弾性体を接合凹部82の長手方向に沿って所定の間隔で配設しても良い。更に、弾性体に限られず、発泡性材料であっても良い。
【0080】
また、埋設型枠66の接合凹部82に作用する慣性力を柱64に伝達する手段としてコミ栓88を用いたが、これに限らず少なくとも接合凹部82の内壁面又は埋設型枠66の接合端部80にコッターを形成してグラウトを注入しても良い。
【0081】
更に、上記の全ての実施形態は、PCa・RC造の部材を接合する接合構造の例を示したが、これに限られずプレキャスト・鉄骨鉄筋コンクリート造又はプレキャスト・プレストレスコンクリート造等のプレキャスト製の部材を接合する接合構造にも適用可能である。更に、構造躯体10の一部を構成する梁12、大梁58A、58B、柱64は、PCa工法によるものに限られず、現場打ち工法によるものであっても良い。
【0082】
以上、本発明の第1〜第5の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1〜第5の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るコンクリート接合構造を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るコンクリート接合構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るコンクリート接合構造を示す図2の1−1線断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るコンクリート接合構造の変形例を示す図2の1−1線断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るコンクリート接合構造を示す図2の1−1線断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るコンクリート接合構造を示す斜視図である。
【図7】(a)は、本発明の第4の実施形態に係るコンクリート接合構造を示す側面図であり、(b)は、本発明の第4の実施形態に係るコンクリート接合構造における小梁に発生する曲げモーメント図であり、(c)は、単純支持ばりに発生する曲げモーメント図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係るコンクリート接合構造を示す斜視図である。
【図9】従来の接合構造を示す説明図である。
【図10】従来の接合構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0084】
10 構造躯体(コンクリート構造駆体)
12 梁(コンクリート構造駆体)
14 庇(2次部材)
16 接合凹部(曲げ伝達部)
16A 上側突出部(曲げ伝達部)
16B 下側突出部(曲げ伝達部)
20 コッター(慣性力伝達手段)
26 グラウト(慣性力伝達手段)
32 コッター(慣性力伝達手段)
36 コミ栓(慣性力伝達手段)
44 弾性体シート(慣性力伝達手段)
46 バルコニー(2次部材)
60 小梁(2次部材)
64 柱(コンクリート構造駆体)
66 埋設型枠(2次部材)
82 接合凹部(曲げ伝達部)
88 コミ栓(慣性力伝達手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造躯体と、前記コンクリート構造躯体に接合される2次部材との接合構造であって、
前記2次部材が挿入接合される前記コンクリート構造躯体の接合凹部は、
少なくとも前記2次部材の自重又は前記2次部材が外部から受ける荷重により該2次部材の接合凹部に発生する曲げモーメントを支圧によって前記コンクリート構造躯体に伝達する曲げ伝達部と、
地震時に前記2次部材の接合凹部に作用する慣性力を前記コンクリート構造躯体に伝達する慣性力伝達手段と、
を備えていることを特徴とするコンクリート接合構造。
【請求項2】
前記曲げ伝達部は、前記コンクリート構造躯体から突出し前記接合凹部を形成する突出部を備え、
前記慣性力断伝達手段は、少なくとも前記接合凹部の内面又は前記2次部材に形成され、地震時に前記2次部材の慣性力により該2次部材の接合凹部に発生するせん断力を前記コンクリート構造躯体に伝達するコッターを備え、
前記接合凹部と前記2次部材との間にはセメント系充填材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート接合構造。
【請求項3】
前記曲げ伝達部は、前記コンクリート構造躯体から突出し前記接合凹部を形成する突出部を備え、
前記慣性力伝達手段は、前記突出部と前記2次部材を連結し、地震時に前記2次部材の接合凹部に作用する慣性力を前記コンクリート構造躯体に伝達する連結部材を備え、
前記接合凹部と前記2次部材との間に弾性体を配置したことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート接合構造。
【請求項4】
前記コンクリート構造躯体がプレキャストコンクリート梁であり、前記2次部材が前記プレキャストコンクリート梁から張り出したプレキャストコンクリート片持構造部材であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−84888(P2009−84888A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256556(P2007−256556)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】