説明

コンクリート構造体

【課題】コンクリート中において、鉄筋表面での水素発生を抑えることができ、鉄筋の腐食を止めることが可能になるコンクリート構造体を提供する。
【解決手段】コンクリート構造体10中でコンクリート1中の鉄筋2に対して貴な電位を示す金属又は合金3を鉄筋と電気的に接続させて、水素を貴な電位を示す金属又は合金3表面に発生させ、鉄筋表面には水素を発生させない構成とする。具体的には、コンクリート構造体10を、コンクリート1と前記コンクリート中に埋設された鉄筋2と、前記鉄筋2に電気的に接続され鉄に対して貴な電位を示す金属又は合金3とを含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋を腐食させないコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造体は、建築や土木の構造体として多く用いられてきた(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、補強されていないコンクリート構造体の圧縮強度は引張強度の10倍程度であるため(例えば、非特許文献2を参照。)、引張応力に抗する補強を必要としていた。例えば、補強に鉄筋を用いることにより、鉄筋がコンクリート構造体に加えられる引張応力を負担し、コンクリート構造体及び鉄筋がコンクリート構造体に加えられる圧縮応力を負担する。なお、コンクリート構造体の材料であるコンクリート中は水酸化カルシウムや、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属イオンによってアルカリ性に保たれているため、鉄筋は不働態と呼ばれる状態となり、極めて腐食しにくくなることが知られている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【0003】
しかし、鉄筋を補強材として用いたコンクリート構造体においては、まれに鉄筋の腐食が発生する。腐食が生じる理由としては、大気中の二酸化炭素によりアルカリ性が中和され、不働態状態が維持できなくなり、鉄がイオン化するアノード化と空気中の酸素がイオン化し、水中の水素イオンが水素に戻るカソード化とが進行し、鉄筋表面に水素が発生する。この水素が鉄筋に侵入し、腐食を引き起こすとされている(例えば、非特許文献2を参照。)。以下に、腐食の過程を概説する。水素発生の際には、数式1に示す鉄筋表面の一部分において鉄が腐食してイオン化する反応と釣り合うように、数式2及び数式3に示す鉄筋表面の他の部分においてコンクリート中の水分に含まれる水素イオンが水素となる反応を生じる。
【数1】

【数2】

【数3】

この際に生じた水素が鉄筋表面に吸着されて鉄筋中に侵入すると考えられている。対策として、鉄筋への水素の侵入を軽減する方法、鉄筋の合金組成を変える方法、鉄筋に侵入した水素を金属組織内に強く束縛する方法等が検討された。
【非特許文献1】Hiroyuki SAITO著、「CORROSION RATE OF STEEL BARS IN CONCRETE IN THE INDOOR AND OUTDOOR CONDITIONS」、Proceedings of 13th Asian−Pacific Corrosion Control Conference、N−09,16−21,November,2003
【非特許文献2】齋藤博之著、「鉄筋コンクリート柱の耐久性劣化対策」、平成20年度ウェザリング技術研究成果発表会予稿集、平成20年11月27、28日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの対策は鉄筋表面における水素の発生を抑えることはできないため、根本的には鉄筋の腐食を止めることはできない。
【0005】
そこで本発明では、コンクリート中において、別の金属又は合金の表面に限って水素を発生させることで、鉄筋表面には水素を発生させないコンクリート構造体を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るコンクリート構造体は、コンクリート中の鉄筋の鉄に対して貴な電位を示す金属又は合金を、鉄筋と電気的に接続させて、水素を貴な電位を示す金属又は合金表面に発生させ、鉄筋表面には水素を発生させない構成とした。
【0007】
具体的には、本発明に係るコンクリート構造体は、コンクリートと、前記コンクリート中に埋設された鉄筋と、前記鉄筋に電気的に接続され、鉄に対して貴な電位を示す金属又は合金と、を含んで構成した。
【0008】
この構成によれば、コンクリート構造体は、鉄筋表面における水素の発生を妨ぐことができるので、腐食を防ぐことができる。
【0009】
また、本発明に係る、前記鉄筋は、さらに、鉄に対して卑な電位を示す金属又は合金と、電気的に接続されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、鉄筋は、導線の役割をするので、鉄筋の鉄はイオン化することはなくなる。
【0011】
また、本発明に係る、前記鉄筋は、緊張材として前記コンクリート中に埋設されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、鉄筋が、プレストレスト・コンクリートに緊張を与える緊張材であっても、腐食を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明に係る、前記貴な電位を示す金属又は合金は、非緊張材として前記コンクリート中に埋設されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、貴な電位を示す金属又は合金は、プレストレスト・コンクリート中に、緊張材と共に補強材として埋設されるため、緊張材である鉄筋の腐食を防ぎつつ、高い強度を保つことができる。
【0015】
なお、上記構成は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コンクリート中において、別の金属又は合金の表面に限って水素を発生させることで、鉄筋表面には水素を発生させないコンクリート構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一の実施形態に係るコンクリート構造体10の断面概略図である。図1において、1はコンクリート、2は鉄筋、3は鉄よりも貴な電位を示す金属又は合金である。
【0019】
図1において、本発明にかかるコンクリート構造体10は、コンクリート1と、コンクリート1中に埋設された鉄筋2と、鉄筋2に電気的に接続され、鉄に対して貴な電位を示す金属又は合金3と、によって構成される。
【0020】
コンクリート1は、セメントと水とを原料として混合して生成される。混合される水の量は、コンクリート構造体10の使用目的に応じて設定される。一般的な土木、建築の用途であれば、水とセメントとの重量比を5〜60%が好ましい。そして、コンクリート1の体積を補充する目的で、砂や砂利等の骨材を混合する。適当な硬度があり、泥などの有機物を含有、付着せず、吸水量及び塩分が少なく、粒径が均一である等の条件を満たしている必要がある。また、強度を向上させる目的で繊維を混合することもある。繊維は、直線又は曲線形状であり、金属、有機物、無機物であることが好ましい。鉄筋2は、鉄鋼を主原料とする構造用材料である。
【0021】
鉄より貴な電位を示す金属又は合金3は、ニッケル、コバルト、ニッケル−鉄合金、コバルト−鉄合金、銅及びその合金などが好ましい。pH=10〜12.5の範囲で、鉄筋の鉄より貴な電位を示す金属又は合金3を用いることが好ましい。
【0022】
図1において、コンクリート1中に埋設された鉄筋2は、鉄より貴な電位を示す金属又は合金3と、電気的に接続されている。すなわち、鉄より貴な電位を示す金属又は合金3はカソードとなり、鉄筋2の鉄はアノードとなる。よって、鉄筋2の鉄はアノード反応のみを生じ、水素の発生点はカソードである鉄より貴な電位を示す金属又は合金3の周辺に限られることになり、水素が鉄筋2から発生することを防止することができる。ここで、鉄より貴な電位を示す金属又は合金3を鉄筋2から隔離する、又は水素が透過しない被膜又は隔離壁により鉄筋2から隔離することが好ましい。
【0023】
また、鉄筋2は、緊張材としてコンクリート1中に埋設されていてもよい。緊張材とは、あらかじめ引張応力を加えられてからコンクリート1中に埋設され、コンクリート1に緊張を与える鉄筋2のことを示す。このようにして構成されたコンクリート1を、プレストレスト・コンクリートと呼ぶ。プレストレスト・コンクリートであっても、本発明における構成を用いることで、鉄筋2の腐食を防ぐことができる。
【0024】
さらに、鉄より貴な電位を示す金属又は合金3は、非緊張材としてコンクリート1中に埋設されていてもよい。プレストレスト・コンクリートは、あらかじめ引張応力を加えた緊張材と、引張応力を加えない通常の鉄筋2とを併用することも可能であり、この場合の鉄筋2を非緊張材と呼ぶ。ここで、鉄より貴な電位を示す金属又は合金3を非緊張材としてプレストレスト・コンクリートに埋設することにより、鉄より貴な電位を示す金属又は合金3を埋設するためのスペースを確保する必要はなくなり、従来のプレストレスト・コンクリートと同様の構造で、緊張材として用いられる鉄筋2の腐食を防ぐことができる。
【0025】
(第二実施形態)
図2は、本発明の第二の実施形態に係るコンクリート構造体11の断面概略図である。図2において、1はコンクリート、2は鉄筋、3は鉄よりも貴な電位を示す金属又は合金、4は鉄よりも卑な電位を示す金属又は合金である。
【0026】
図2において、本発明に係るコンクリート構造体11は、第一の実施形態の構成に加え、鉄筋2は、さらに、鉄に対して卑な電位を示す金属又は合金4と、電気的に接続されていることを特徴とする。この構成によれば、鉄より貴な電位を示す金属又は合金3がカソードとなり、鉄より卑な電位を示す金属又は合金4がアノードとなる。鉄筋2は、これらアノードとカソードの間で電流を通過させる導線の役目を担う。よって、鉄筋2の鉄がアノードとしてイオン化する可能性はなくなる。なお、鉄に対して卑な電位を示す金属又は合金4は、例えば鉛やアルミニウム、マグネシウムなどが挙げられる。
【0027】
なお、これらの鉄より貴な電位を示す金属又は合金3及び鉄より卑な電位を示す金属又は合金4は、いずれか、或いは両方を複数としてもよい。また、鉄筋2に一定間隔で配置してもよい。さらに、鉄筋2に対して複数の場所で電気的に接続させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のコンクリート構造体は、例えば、電柱などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るコンクリート構造体10の断面概略図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係るコンクリート構造体11の断面概略図である。
【符号の説明】
【0030】
1:コンクリート
2:鉄筋
3:鉄より貴な電位を示す金属又は合金
4:鉄より卑な電位を示す金属又は合金
10:第一の実施形態に係るコンクリート構造体
11:第二の実施形態に係るコンクリート構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートと、
前記コンクリート中に埋設された鉄筋と、
前記鉄筋に電気的に接続され、鉄に対して貴な電位を示す金属又は合金と、
を含んで構成されるコンクリート構造体。
【請求項2】
前記鉄筋は、さらに、鉄に対して卑な電位を示す金属又は合金と、電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体。
【請求項3】
前記鉄筋は、緊張材として前記コンクリート中に埋設されていることを特徴とする請求項1、2に記載のコンクリート構造体。
【請求項4】
前記貴な電位を示す金属又は合金は、非緊張材として前記コンクリート中に埋設されていることを特徴とする請求項3に記載のコンクリート構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150623(P2010−150623A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331849(P2008−331849)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】