説明

コンクリート構造物の施工方法

【課題】電気防食用電極と鉄筋との電気的な短絡の防止を容易に実現することが可能なコンクリート構造物の施工方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物の施工方法として、下層側コンクリート上に電気防食用電極を敷設する第1の工程と、前記下層側コンクリート上において前記電気防食用電極を覆うように保護用コンクリートを打設する第2の工程と、前記保護用コンクリートの打設後に鉄筋を組み立てる第3の工程と、前記鉄筋の組み立て後に上層側コンクリートを打設する第4の工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来におけるコンクリート構造物の施工方法としては、図2に示すように、基礎スラブコンクリートの打設前に、捨てコンクリート1上に電気防食用のMMO(Mixed Metal Oxide:複合金属酸化物)アノード電極2を敷設し、その上部にスラブ鉄筋4を組み立て、スラブ鉄筋4とMMOアノード電極2との電気的な短絡が無いことを確認した後、基礎スラブコンクリートを打設するという施工方法が知られている。
【0003】
一般的なMMOアノード電極2は、チタン等の非消耗金属を主成分とするMMO細線をメッシュ状に織り込んで薄板状に形成したものであることが多い。電気防食とは、このようなMMOアノード電極2に正極性の電圧を印加すると共に、スラブ鉄筋4に負極性の電圧を印加して、MMOアノード電極2とスラブ鉄筋4との間に電位差を生じさせることにより、スラブ鉄筋4の腐食を防止する技術である。
【0004】
MMOアノード電極2とスラブ鉄筋4との間の距離(ギャップ)は、両者間に生じさせる電位差やコンクリートの成分等に応じて理論的に導出することが可能であり、施工時においては、予め理論的に求めておいたギャップを目標として、MMOアノード電極2上の所定位置にスラブ鉄筋4を組み立てることになる。この時、図2に示すように、スラブ鉄筋4同士を結束する番線5がMMOアノード電極2に接触しただけで、スラブ鉄筋4とMMOアノード電極2との電気的な短絡が生じてしまい、その原因特定に大きな労力と時間を費やすことになるため、スラブ鉄筋4の組み立てには細心の注意を払う必要がある。
【0005】
これに対し、例えば下記特許文献1には、チタンを主成分とする非消耗電極をモルタルまたはコンクリートで被覆して角棒を形成し、該角棒の長手方向端面に上記非消耗電極の端部が露出した接続片を設けたアノード電極体を製作し、このアノード電極体を電気防食用の電極として使用することで、鉄筋と非消耗電極との電気的な短絡を防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−213804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術では、予め非消耗電極をモルタルまたはコンクリートで被覆して所定寸法の角棒を形成しておく必要があるため、個々の施工現場の状況に応じてフレキシブルに寸法変更等の設計変更を行うことが困難である。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、電気防食用電極と鉄筋との電気的な短絡の防止を容易に実現することが可能なコンクリート構造物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、コンクリート構造物の施工方法に係る第1の解決手段として、下層側コンクリート上に電気防食用電極を敷設する第1の工程と、前記下層側コンクリート上において前記電気防食用電極を覆うように保護用コンクリートを打設する第2の工程と、前記保護用コンクリートの打設後に鉄筋を組み立てる第3の工程と、前記鉄筋の組み立て後に上層側コンクリートを打設する第4の工程とを含むことを特徴とする。
また、本発明では、コンクリート構造物の施工方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記下層側コンクリートは捨てコンクリートであり、前記鉄筋はスラブ鉄筋であり、前記上層側コンクリートは基礎スラブコンクリートであることを特徴とする。
また、本発明では、コンクリート構造物の施工方法に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記電気防食用電極は、チタンを主成分とする複合金属酸化物から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、鉄筋の組み立て前に、下層側コンクリート上に敷設された電気防食用電極を覆うように保護用コンクリートを打設することにより、電気防食用電極と鉄筋との電気的な短絡を防止することができる。つまり、本発明によると、施工工程に保護用コンクリートの打設工程という簡易な工程を追加するだけで良く、上記特許文献1のような設計変更が困難な電極入りの角棒などを使用する必要がないため、電気防食用電極と鉄筋との電気的な短絡の防止を容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態におけるコンクリート構造物の施工方法の各工程を表す模式図である。
【図2】従来におけるコンクリート構造物の施工方法を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態におけるコンクリート構造物の施工方法の各工程を表す模式図である。この図1において、図2と共通する部分には同一符号を付すものとする。まず、コンクリート構造物の施工方法における第1の工程として、図1(a)に示すように、下層側コンクリートとして予め打設された捨てコンクリート1上に、電気防食用電極としてMMOアノード電極2を敷設する。
【0013】
MMOアノード電極2としては、チタン等の非消耗金属を主成分とするMMO細線をメッシュ状に織り込んで薄板状に形成したものを使用しても良いし、MMOそのものを薄板状に形成したものを使用しても良い。また、電気防食用電極として使用可能な金属材料としては、チタン等の非消耗金属を主成分とするMMOだけでなく、被防食物である鉄筋(鉄)より自然電位が高ければ、ニッケル、鉛、錫、銅、銀、金、白金など及びこれらの合金材を使用することができる。
【0014】
続いて、コンクリート構造物の施工方法における第2の工程として、図1(b)に示すように、捨てコンクリート1上においてMMOアノード電極2を覆うように保護用コンクリート3を打設する。既に述べたように、予め理論的に求めておいたMMOアノード電極2と後述のスラブ鉄筋4との間の距離(ギャップ)を目標として、MMOアノード電極2上の所定位置にスラブ鉄筋4を組み立てることになるため、そのギャップを考慮しながら保護用コンクリート3の厚さを適切に設定する必要がある。なお、保護用コンクリート3の厚さが薄過ぎると、後述の番線5が保護用コンクリート3を貫通してMMOアノード電極2に接触する虞があるため、少なくとも30mm以上の厚さに設定することが好ましい。
【0015】
続いて、コンクリート構造物の施工方法における第3の工程として、図1(c)に示すように、保護用コンクリート3の打設後に、予め理論的に求めておいたギャップを目標として、MMOアノード電極2上の所定位置にスラブ鉄筋4を組み立てる。この時、図1(c)に示すように、番線5によるスラブ鉄筋4同士の結束作業が行われるが、MMOアノード電極2は保護用コンクリート3によって覆われているため、番線5がMMOアノード電極2に接触する、つまりスラブ鉄筋4とMMOアノード電極2が電気的に短絡することを確実に防止することができる。
【0016】
続いて、コンクリート構造物の施工方法における第4の工程として、図1(d)に示すように、スラブ鉄筋4の組み立て後に、上層側コンクリートとして基礎スラブコンクリート6を打設する。このように、基礎スラブコンクリート6の打設前に、保護用コンクリート3を打設することにより、スラブ鉄筋4とMMOアノード電極2との電気的な短絡発生のリスクを完全に排除することができ、計画通りの費用と工程で残りの施工を続けることができる。
【0017】
以上説明したように、本実施形態では、スラブ鉄筋4の組み立て前に、捨てコンクリート1上に敷設されたMMOアノード電極2を覆うように保護用コンクリート3を打設することにより、MMOアノード電極2とスラブ鉄筋4との電気的な短絡を防止することができる。つまり、本実施形態によると、施工工程に保護用コンクリート3の打設工程という簡易な工程を追加するだけで良く、上記特許文献1のような設計変更が困難な電極入りの角棒などを使用する必要がないため、MMOアノード電極2とスラブ鉄筋4との電気的な短絡の防止を容易に実現することが可能となる。
【0018】
なお、上記実施形態では、捨てコンクリート1上に敷設されたMMOアノード電極2を覆うように保護用コンクリート3を打設し、その上部にスラブ鉄筋4を組み立てた後、基礎スラブコンクリート6を打設する場合を例示して説明したが、本発明はこれに限らず、下層側コンクリート上に敷設された電気防食用電極と、その上部に組み立てられる鉄筋との電気的な短絡を防止する技術として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0019】
1…捨てコンクリート(下層側コンクリート)、2…MMOアノード電極(電気防食用電極)、3…保護用コンクリート、4…スラブ鉄筋(鉄筋)、5…番線、6…基礎スラブコンクリート(上層側コンクリート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層側コンクリート上に電気防食用電極を敷設する第1の工程と、
前記下層側コンクリート上において前記電気防食用電極を覆うように保護用コンクリートを打設する第2の工程と、
前記保護用コンクリートの打設後に鉄筋を組み立てる第3の工程と、
前記鉄筋の組み立て後に上層側コンクリートを打設する第4の工程と、
を含むことを特徴とするコンクリート構造物の施工方法。
【請求項2】
前記下層側コンクリートは捨てコンクリートであり、
前記鉄筋はスラブ鉄筋であり、
前記上層側コンクリートは基礎スラブコンクリートであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の施工方法。
【請求項3】
前記電気防食用電極は、チタンを主成分とする複合金属酸化物から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252276(P2011−252276A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124842(P2010−124842)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】