説明

コンクリート構造物の補修方法

【課題】優れた耐腐食性(特に耐酸性)と接着性とを兼ね備えたモルタル硬化体を形成可能で、且つ施工性に優れたコンクリートの補修方法を提供すること。
【解決手段】コンクリート構造体の一部を除去した箇所に、高耐酸水硬性組成物と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、モルタル組成物を硬化させて、上記箇所にモルタル硬化体を形成する硬化体形成工程と、を有するコンクリート構造物の補修方法であって、高耐酸水硬性組成物は、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム、細骨材及び炭酸リチウムを含み、高炉スラグの20〜90質量%が、6000〜10000cm/gのブレーン比表面積を有するものであり、アルミナセメント100質量部に対し、シリカフュームを1〜12質量部含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築施設などのコンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場、汚泥処理場、下水管渠などの下水処理施設等では、廃水中に含まれる硫酸塩や有機酸が、硫酸塩還元菌によって分解されて硫化水素が発生する。その硫化水素は、下水処理施設等で用いられているコンクリート構造物の内壁表面に生息する硫黄酸化菌によって硫酸に変化する。硫酸がそのまま内壁表面に留まると、コンクリート構造物の内壁表面が硫酸酸性雰囲気に曝され続けることとなり、コンクリートの溶出すなわち腐食が発生する。
【0003】
コンクリート構造物の腐食が進むと、下水の漏洩に繋がることはもとより、施設そのものの崩壊に繋がりかねないことから、コンクリート構造物の腐食の抑制は、下水道の発達した都市における重要な課題となっている。このような状況下において、種々の腐食抑制方法が提案されている。
【0004】
例えば、耐酸性セメントを使用したモルタル、抗菌剤混入モルタル、超微粉スラグ混入モルタル等、構成成分によって耐腐食性を高める手法が既に知られており、そのような手法を利用した製品が市場に出ているものの、その耐酸性は十分に高いものではない。
【0005】
一方、耐酸性材料で防食被覆するライニング工法は、高い効果を有するものの、施工欠陥を生じ易く、且つ耐摩耗性に弱いため、容易に孔が開いてしまう。このため、所望の防食効果を持続させることが通常困難である。また、施工期間及び技術に制約があり、費用も嵩むという欠点がある。
【0006】
従来から、主成分としてアルミナセメント系材料を含む耐酸性能を有する種々の材料が提案されている。例えば、特許文献1では、アルミナセメント20〜90重量%及びブレーン比表面積3000〜15000cm/gのスラグ粉末10〜80重量%からなる混合物に、保水剤、遅延剤等を使用することによって、耐酸性及び硬化体表面での脆弱性を改善した水硬性組成物が提案されている。
【0007】
特許文献2では、アルミナセメントとアルミナセメントクリンカー骨材とを必須成分とする腐食環境施設用モルタル組成物が提案されている。特許文献3では、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー骨材および製鋼ダストを含有することで、耐酸性、接着性を改善した耐酸性セメント組成物が提案されている。特許文献4では、カルシウムアルミネート系化合物と高炉フュームとを含有することで、カルシウムアルミネート系化合物のコンバージョンの防止に効果を有し、耐酸性が向上するセメント組成物が提案されている。
【0008】
特許文献5では、カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタル又はコンクリート表面に、有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングすることで、耐酸性とひび割れ抵抗性を併せ持ち、塗膜層の腫れや剥がれを抑制することが可能な防食性複合体が提案されている。
【0009】
特許文献6には、アルミナセメント100質量部に対してアルミナセメントクリンカー20〜330質量部、及びホルマイト系粘土鉱物0.1〜5.0質量部を含むことで、鏝塗り作業性を改善した耐酸性モルタル組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−192423号公報
【特許文献2】特開2003−261372号公報
【特許文献3】特開2004−292245号公報
【特許文献4】特開2006−151733号公報
【特許文献5】特開2007−001803号公報
【特許文献6】特開2007−070153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のセメント組成物やモルタル組成物は、耐酸性を高めたものであっても、強度発現性及び接着性が必ずしも十分でなく、また得られるモルタル硬化体の耐腐食性も十分ではなかった。このため、コンクリート構造物の長期耐久性向上の観点、及びコンクリート構造物のライフサイクルコスト低減の観点から、優れた耐腐食性を有するモルタル硬化体を形成することが可能なコンクリート構造体の補修方法が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、優れた耐腐食性(特に耐酸性)と接着性とを兼ね備えたモルタル硬化体を形成可能で、且つ施工性に優れたコンクリートの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム、細骨材及び炭酸リチウムを含む高耐酸水硬性組成物を用いることによって、施工性が改善されるとともに、耐腐食性と接着性に優れたモルタル硬化体が得られることを見出し、本発明に完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、コンクリート構造体の一部を除去した箇所に、高耐酸水硬性組成物と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、モルタル組成物を硬化させて、上記箇所にモルタル硬化体を形成する硬化体形成工程と、を有するコンクリート構造物の補修方法であって、高耐酸水硬性組成物は、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム、細骨材及び炭酸リチウムを含み、高炉スラグの20〜90質量%が、6000〜10000cm/gのブレーン比表面積を有するものであり、アルミナセメント100質量部に対し、シリカフュームを1〜12質量部含む、コンクリート構造物の補修方法を提供する。
【0015】
本発明のコンクリート構造物の補修方法は、優れた強度発現性を有するモルタル組成物を用いていることから、優れた施工性を有する。このため、左官工法又は吹き付け工法によるコンクリート構造物の改修や補修に好適に適用することができる。また、特定の高耐酸水硬性組成物を用いていることから、優れた耐腐食性(特に耐酸性)と優れた接着性を兼ね備えたモルタル硬化体を形成することができる。したがって、耐腐食性に優れたコンクリート構造体を形成することができる。
【0016】
すなわち、本発明のコンクリート構造物の補修方法では、モルタル組成物をコンクリート構造物の表面に施工し、硬化させて一体化することで、優れた耐腐食性と接着性を兼ね備えたコンクリート構造物を得ることができる。このようなコンクリート構造物は、優れた長期耐久性を有し、ライフサイクルコストを低減することができる。したがって、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、下水処理施設、農業集落廃水施設、及び温泉排水施設などの腐食環境下にあるコンクリート構造物の補修に特に適している。
【0017】
本発明のコンクリート構造物の補修方法に用いられる高耐酸水硬性組成物の好ましい態様[(1)〜(5)]を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることがより好ましい。
【0018】
(1)高耐酸水硬性組成物は、アルミナセメント100質量部に対し、高炉スラグを1〜100質量部含むことが好ましい。これによって、一層優れた耐腐食性と接着性とを兼ね備えたモルタル硬化体を得ることができる。また、一層優れた強度発現性を有するモルタル組成物を得ることが可能となり、施工性を一層向上することができる。
【0019】
(2)高耐酸水硬性組成物は、アルミナセメント100質量部に対し、炭酸リチウムを0.001〜0.1質量部含むことが好ましい。これによって、一層優れた耐腐食性と接着性とを兼ね備えたモルタル硬化体を得ることができる。また、一層優れた強度発現性を有するモルタル組成物を得ることが可能となり、施工性を一層向上することができる。
【0020】
(3)高耐酸水硬性組成物は、アルミナセメントクリンカーに対するアルミナセメントの質量比が0.3〜2.5であることが好ましい。これによって、一層優れた耐腐食性と接着性とを兼ね備えたモルタル硬化体を得ることができる。また、一層優れた強度発現性を有するモルタル組成物を得ることが可能となり、施工性を一層向上することができる。
【0021】
(4)高耐酸水硬性組成物におけるシリカフュームは、BET比表面積が15〜23m/gであり、且つ嵩比重が100〜600kg/mであることが好ましい。これによって、一層優れた耐腐食性と接着性とを兼ね備えたモルタル硬化体を得ることができる。また、一層優れた強度発現性を有するモルタル組成物を得ることが可能となり、施工性を一層向上することができる。
【0022】
(5)高耐酸水硬性組成物における高炉スラグは、互いに異なるブレーン比表面積を有する第1の高炉スラグと第2の高炉スラグとを含有し、第1の高炉スラグのブレーン比表面積が6000〜10000cm/gであり、第2の高炉スラグのブレーン比表面積が3000〜5800cm/gであることが好ましい。このように互いに異なるブレーン比表面積を有する複数種の高炉スラグを含むことによって、一層優れた耐腐食性を有するモルタル硬化体を形成することができる。したがって、コンクリート構造物の耐腐食性を一層向上することができる。
【0023】
本発明のコンクリート構造物の補修方法に用いられるモルタル組成物は、合成樹脂エマルジョンを含むことが好ましい。これによって、一層優れた耐腐食性と接着性とを兼ね備えたモルタル硬化体を形成することができる。
【0024】
本発明では、また上述のモルタル組成物を硬化して得られるモルタル硬化体を提供する。本発明のモルタル硬化体は、上記特徴を有する高耐酸水硬性組成物及びモルタル組成物を含有することから、優れた耐腐食性と接着性とを兼ね備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明のコンクリート構造物の補修方法によれば、優れた耐腐食性(特に耐酸性)と接着性を兼ね備えたモルタル硬化体を形成可能で、且つ施工性に優れたコンクリートの補修方法を提供することができる。このコンクリートの補修方法は、優れた強度発現性を有するモルタル組成物を用いていることから、施工期間を短縮することが可能であり、また、左官工法又は吹き付け工法によるコンクリート構造物の改修や補修に好適に適用することができる。
【0026】
本発明のコンクリート構造物の補修方法によって形成されるモルタル硬化体は、耐腐食性を向上させた従来のアルミナセメント系耐酸モルタルよりも耐腐食性、特に耐酸性がさらに優れているため、合成樹脂等のライニング工法と併用しなくても十分に優れた長期耐久性を有する。このため、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、コンクリート構造物建設のイニシャルコストを抑制するとともに、長期耐久性の向上及びライフサイクルコストの低減などにも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のコンクリート構造物の補修方法の一実施形態が適用される、腐食部及び剥落部を有するコンクリート構造体の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のコンクリート構造物の腐食部を除去した後のコンクリート構造体を模式的に示す断面図である。
【図3】表面にプライマー層が形成されたコンクリート構造体を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明のコンクリート構造物の補修方法の一実施形態におけるモルタル施工工程を説明するための模式断面図である。
【図5】本発明のコンクリート構造物の補修方法に係る一実施形態の変形例におけるモルタル施工工程を説明するための模式断面図である。
【図6】本発明のコンクリート構造物の補修方法に係る一実施形態の変形例において、プライマー層が形成されたコンクリート構造体を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明のコンクリート構造物の補修方法の別の実施形態において、モルタル施工工程を説明するための模式断面図である。
【図8】吹き付け工法による施工方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係るコンクリート構造物の補修方法の好適な実施形態を以下に説明する。本実施形態のコンクリート構造物の補修方法は、コンクリート構造体の劣化部を除去する劣化コンクリート除去工程と、除去した箇所に、所定の成分を含む耐酸性水硬性組成物と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、モルタル組成物を硬化させて、上記箇所にモルタル硬化体を形成する硬化体形成工程と、を有するコンクリート構造物の補修方法(補修工法)である。ここで、高耐酸水硬性組成物は、高い耐酸性を有する水硬性組成物である。以下、各工程の詳細について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、場合により重複する説明を省略する。
【0029】
図1は、本実施形態のコンクリート構造物の補修方法が適用される、劣化部を有するコンクリート構造物10の一部の断面を模式的に示す断面図である。
【0030】
図1に示すコンクリート構造物10は、内側から健全部11、腐食部12、及び剥落部13を順次有する。コンクリート構造物10は、新設時には表面10aを有していたが、腐食環境下で生じた腐食によって表面部分が腐食して、表面側にコンクリートの一部が剥落した剥落部13が発生している。このため、場合によって腐食部12の一部がコンクリート構造物10の表面に露出している。本実施形態の補修方法では、新設時と同様の形状とするために、コンクリート構造物10の表面部分を補修して、新設時の表面10aを形成する。なお、コンクリート構造物10は、内部に鉄筋を有していてもよい。ここでは、コンクリート構造物の内部の鉄筋までは腐食が到達していない場合について説明する。
【0031】
劣化コンクリート除去工程は、コンクリート構造物10の劣化部を含む部分を除去する工程である。具体的には、まず、外観観察や打音法等の調査によって、劣化したコンクリート部(腐食部12)を特定する。次に、コンクリート構造物10から劣化した腐食部12が完全に除去されるように、腐食部12をはつり取る。
【0032】
図2は、図1のコンクリート構造物の腐食部12を除去した後のコンクリート構造体を模式的に示す断面図である。腐食部12をはつり取る場合は、例えば吐出圧200MPa以上のウォータージェット等を用いる。腐食部12をはつり取る深さは、フェノールフタレインを塗布してはつり取ったコンクリート表面が赤色に呈色し、引張強度が1.5N/mm以上となる面が現れるまでとする。これによって、腐食部12が十分に除去され、コンクリート構造物を十分に健全な状態に補修することができる。鉄筋が配筋されている部分まで腐食部12が到達していた場合は、鉄筋の腐食の程度によって、鉄筋の防錆処理や新たな補強等を適宜行うことが好ましい。
【0033】
腐食部12をはつり取ったコンクリート面には、吸水調整剤(プライマー)を塗布し、当該吸水調整剤を乾燥させて、プライマー層15を形成することが好ましい。吸水調整剤は、合成樹脂エマルジョンを水で希釈したものを好適に用いることができる。吸水調整剤は、刷毛やリシンガン等を適宜選択して塗布することができる。
【0034】
図3は、はつり取った箇所の表面にプライマー層15が形成されたコンクリート構造体を模式的に示す断面図である。このようなプライマー層15を形成することによって、コンクリート構造体とモルタル硬化物との接着性を一層向上することができる。
【0035】
図4は、本実施形態のモルタル施工工程を説明するための模式断面図である。モルタル施工工程では、所定の成分を含む耐酸性水硬性組成物と水とを配合し混練して、高耐酸モルタル組成物16(以下、単に「モルタル組成物16」という場合もある。)を調製する。モルタル組成物16は、高耐酸水硬性組成物と水とを所定量で配合し、ミキサ等を用いて均一な状態になるまで混練する。ミキサは、ハンドミキサやモルタルミキサ等を適宜選択して用いることができる。
【0036】
調製したモルタル組成物16を、プライマー層15の表面を覆うようにして数回に分けて塗りつけて、コンクリート構造体の新設時の表面10aの位置までモルタル組成物16を充填する。なお、モルタル組成物の内容については後述する。
【0037】
硬化体形成工程では、塗布・充填したモルタル組成物16を硬化させて、腐食部12をはつり取った箇所にモルタル硬化体を形成する。以上の工程によって、耐腐食性に優れたモルタル硬化体によって補修されたコンクリート構造物を得ることができる。
【0038】
図5は、上記実施形態に係るコンクリート構造物の補修方法の変形例におけるモルタル施工工程を説明するための模式断面図である。この変形例では、プライマー層15を形成した後、汎用品であり耐硫酸性を有しない又は耐硫酸性の低い断面修復用のモルタル組成物17を、プライマー層15の表面を覆うようにして数回に分けて塗りつける。この際、腐食環境条件にもよるが、モルタル組成物17をコンクリート構造体の新設時の表面10aがあった位置から5mm以上の未塗布部分が残るように施工する。施工したモルタル組成物17が硬化した後に、このモルタル組成物17の硬化体の表面に吸水調整剤(プライマー)を塗布する。
【0039】
図6は、本変形例において、プライマー層15が形成されたコンクリート構造体を模式的に示す断面図である。プライマー層15は、モルタル組成物17の硬化体の表面に塗布した吸水調整剤を乾燥して形成することができる。
【0040】
図7は、本変形例において、モルタル施工工程を説明するための模式断面図である。図7に示すように、形成されたプライマー層15の表面を覆うようにして、高耐酸モルタル組成物16を塗布する。このように、モルタル組成物16を仕上げ材として施工することもできる。
【0041】
モルタル施工工程後、上記実施形態と同様に、モルタル組成物16を硬化させて、モルタル硬化体を形成する硬化体形成工程を行う。これによって、優れた耐腐食性と優れた接着性を兼ね備えたモルタル硬化体によって補修されたコンクリート構造物を得ることができる。
【0042】
本実施形態において、モルタル組成物16を施工する面積が10m未満の場合、モルタル施工工程では、左官工法を用いることが好ましい。左官工法では、左官職人が鏝板に、適量のモルタル組成物16を載せ、腐食部12をはつり取った箇所に、金鏝等を用いて高耐酸モルタルを塗り付ける。一般的に、初めの1層目は、5mmを超えない程度の厚みで塗り付ける。そして、2層目以降は、10〜15mmの厚さで塗り付けを繰り返し、1日の塗り厚さを30mm程度とし、最終層では、コンクリート構造物と一体化するように表面を鏝で平坦に仕上げる。モルタル施工工程が1日で終了せず、翌日以降にモルタル施工工程を再開する場合、コンクリート構造物の一体化という観点から、高耐酸モルタル硬化体の表面に吸水調整剤(プライマー)15を塗布して乾燥し、プライマー層15を形成した後に、モルタル組成物16を塗り付けることが好ましい。
【0043】
一方、高耐酸モルタル組成物16を施工する面積が10〜100mの場合、吹き付け工法を用いることが好ましい。図8は、吹き付け工法による施工方法を示す模式図である。吹き付け工法は、コンクリート構造物10にモルタル組成物16を吹き付けることによって、腐食部をはつり取った箇所にモルタル組成物16を充填する方法である。図8に示すように、吹き付け工法に用いる装置は、ミキサ21、ホッパ付きモルタルポンプ22、エアー源23、耐圧ホース24及び吹き付けガン25を備えたものを用いることができる。吹き付け工法に用いる装置としては、ホッパとモルタルポンプが分離しているものであってもよい。
【0044】
吹き付け工法では、腐食部をはつり取った箇所に、モルタル組成物16を数回に分けて吹き付けることが好ましい。1回目の施工では、例えば5〜10mm程度の厚みとなるようにモルタル組成物16を吹き付ける。そして、2回目以降の施工は、それぞれ30mm以内の厚さとなるようにモルタル組成物16の吹き付けを繰り返す。最終回の施工は、15mm程度の厚みとなるようにモルタル組成物16を吹き付ける。その後、コンクリート構造物10とモルタル組成物16とが一体化するように、モルタル組成物16の表面を鏝で平坦に仕上げる。
【0045】
モルタル施工工程が1日で終了せず、翌日以降にモルタル施工工程を再開する場合、高耐酸モルタル硬化体の表面に吸水調整剤(プライマー)15を塗布し、乾燥させて形成したプライマー層15の表面に、モルタル組成物16を吹き付ける。これによってコンクリート構造物を一体化することができる。
【0046】
以上説明した本実施形態のコンクリート構造物の補修方法は、用いるモルタル組成物16が優れた強度発現性を有するため施工性に優れる。また、補修箇所に形成されたモルタル硬化体が優れた耐酸性と優れた接着性を有するので、コンクリート構造物の長期耐久性の向上やライフサイクルコストの低減が可能となる。
【0047】
次に、本実施形態のコンクリート構造物の補修方法に用いられる高耐酸水硬性組成物、モルタル組成物、及びモルタル硬化体について、以下に説明する。この高耐酸水硬性組成物は、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム、細骨材及び炭酸リチウムを含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0048】
アルミナセメントは、本来耐酸性に優れたものであり、鉱物組成の異なるものが数種知られている。本実施形態の高耐酸水硬性組成物には、いずれのアルミナセメントを用いてもよい。これらのなかでも、モノカルシウムアルミネート含有量が50質量%以上のアルミナセメントを使用することが好ましい。
【0049】
本実施形態の高耐酸水硬性組成物におけるアルミナセメントの含有量は、好ましくは30〜50質量%であり、より好ましくは32〜45質量%である。
【0050】
アルミナセメントクリンカーは、アルミナセメントと鉱物組成が基本的に同じであることから、耐酸性に優れている。しかも、アルミナセメントクリンカーは、アルミナセメントとの結合性も非常に良好である。また、アルミナセメントは、継続して水和反応するため、アルミナセメント水和物の転移を抑制し、これによって優れた耐腐食性を長く持続させることができる。
【0051】
本実施形態の高耐酸水硬性組成物におけるアルミナセメントクリンカーの含有量は、好ましくは30〜60質量%であり、より好ましくは32〜55質量%である。
【0052】
アルミナセメントクリンカーに対するアルミナセメントの質量比(アルミナセメント/アルミナセメントクリンカー)は、好ましくは0.3〜2.5であり、より好ましくは0.5〜2.0である。高耐酸水硬性組成物におけるアルミナセメントとアルミナセメントクリンカーの合計含有量は、好ましくは65〜90質量%であり、より好ましくは70〜85質量%である。
【0053】
アルミナセメントクリンカーの含有量が少なすぎる場合、又は上記質量比が大きすぎる場合、十分に優れた強度発現性や耐酸性が得られ難くなる場合がある。一方、アルミナセメントクリンカーの含有量が多すぎる場合、又は上記質量比が小さすぎる場合、硬化時の収縮やクラックが発生し易くなる傾向、及び鏝塗り作業性が低下する傾向にある。
【0054】
アルミナセメントクリンカーは、粒子径が、好ましくは150μm〜4mmであり、より好ましくは150μm〜2.5mmであり、さらに好ましくは150μm〜2.0mmある。アルミナセメントクリンカーの最大粒子径は、好ましくは2.0mm以下である。これによって、吹き付け作業性や鏝塗り作業性をより向上することができる。アルミナセメントクリンカーの粒子径は、JIS Z 8801−2006に規定される呼び寸法の異なる数個の篩を用いて測定することができる。
【0055】
高炉スラグは、セメント混和材として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。これらのなかでも、JIS A 6206−1997「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定される高炉スラグ微粉末を用いることが好ましい。高炉スラグは、潜在水硬性による硬化体強度を向上させる作用とともに、アルミナセメントクリンカーと同様に、アルミナセメント水和物の転移に起因する強度低下を抑制する作用を有する。上述の高炉スラグ微粉末を用いることによって、化学的反応性、特に耐酸性に優れたモルタル硬化体を形成することができる。
【0056】
高炉スラグのブレーン比表面積は、2000〜10000cm/gの範囲であることが好ましい。また、高炉スラグ全体に対し、6000〜10000cm/gのブレーン比表面積を有する高炉スラグ(第1の高炉スラグ)の比率は20〜90質量%である。上記比率は、
30〜80質量%であることがより好ましく、
35〜70質量%であることがさらに好ましく、
40〜60質量%であることが特に好ましい。
【0057】
高炉スラグ全体に対し、ブレーン比表面積7000〜9000cm/gを有する高炉スラグの比率は、
20〜90質量%であることが好ましく、
30〜80質量%であることがより好ましく、
35〜70質量%であることがさらに好ましく、
40〜60質量%であることが特に好ましい。
【0058】
高炉スラグは、上述のブレーン比表面積を有する第1の高炉スラグと、第1の高炉スラグよりも小さいブレーン比表面積を有する第2の高炉スラグと、を含有することが好ましい。第2の高炉スラグのブレーン比表面積は、好ましくは6000cm/g未満であり、より好ましくは3000〜5800cm/gである。
【0059】
上記所定のブレーン比表面積を有するそれぞれの高炉スラグを所定の割合で含むことにより、耐酸性や強度発現性を一層向上させることができる。ブレーン比表面積が大きい第1の高炉スラグの割合が多くなると、耐酸性は向上する傾向にあるものの、鏝作業性が低下する傾向、クラックが発生する傾向にある。一方、ブレーン比表面積が小さい第2の高炉スラグの割合が多くなると、十分に優れた耐酸性や強度発現性が得られ難くなる傾向にある。したがって、所定のブレーン比表面積を有する第1の高炉スラグを上記範囲で含有することによって、一層優れた特性を有するモルタル組成物及びモルタル硬化体を得ることができる。
【0060】
高炉スラグの含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、
好ましくは1〜100質量部であり、
より好ましくは3〜50質量部であり、
更に好ましくは7〜30質量部であり、
特に好ましくは10〜20質量部である。
【0061】
高炉スラグの含有量を、上記範囲に調整することにより、耐酸性及び初期強度発現性を一層向上することができる。
【0062】
シリカフュームは、セメント混和材として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。これらのなかでも、JIS A 6207−2006「コンクリート用シリカフューム」で規定されるシリカフュームを用いることが好ましい。このようなシリカフュームは、硬化体強度を向上させる効果と共に、ベアリング効果によって鏝作業性を向上させる作用を有する。また、耐久性に一層優れたモルタル硬化体を形成することができる。
【0063】
シリカフュームのBET比表面積は、
好ましくは15〜23m/gであり
より好ましくは16〜22m/gであり、
さらに好ましくは17〜21m/gであり、
特に好ましくは18〜20m/gである。
【0064】
シリカフュームの嵩比重は、
好ましくは100〜600kg/mであり
より好ましくは150〜400kg/mであり、
さらに好ましくは200〜350kg/mであり、
特に好ましくは250〜300kg/mである。
【0065】
シリカフュームのBET比表面積及び嵩比重を、上記範囲とすることにより、鏝作業性を向上するとともに、強度発現性及び耐久性を一層向上することができる。
【0066】
シリカフュームの含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、
好ましくは1〜12質量部であり、
より好ましくは2〜10質量部であり、
さらに好ましくは3〜8質量部であり、
特に好ましくは4〜6質量部である。
【0067】
シリカフュームの含有量を、上記範囲とすることにより、鏝作業性を向上するとともに、強度発現性及び耐久性を一層向上することができる。一方、シリカフュームの含有量が上記範囲よりも多くなると、粘性の増加によって鏝作業性が低下する傾向、及び十分に優れた耐酸性が損なわれる傾向にある。
【0068】
細骨材としては、細骨材全体に対し、粒子径1200μm以上の粒子の質量割合が30質量%未満のものが好ましい。このような最骨材として、例えば、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。
【0069】
細骨材の粒子径は、JIS Z 8801−2006に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本明細書において、「粒子径1200μm以上の粒子の質量割合」とは、篩目1200μmの篩いを用いたときの篩上残分の粒子の質量割合のことをいう。
【0070】
細骨材中に1200μm以上の粒子径を有する粗粒分を20質量%以上含む場合、高耐酸水硬性組成物の鏝作業性が低下する傾向にある。上記粗粒分の下限値に特に制限はなく、0質量%であってもよい。優れた鏝作業性を得るため、細骨材中の粗粒分は、
好ましくは0〜20質量%であり、
より好ましくは5〜17質量%であり、
さらに好ましくは8〜15質量%であり、
特に好ましくは10〜13質量%である。
【0071】
細骨材の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、
好ましくは5〜90質量部であり、
より好ましくは10〜70質量部であり、
さらに好ましくは15〜50質量部であり、
特に好ましくは10〜40質量部である。
【0072】
細骨材の含有量を上記範囲に調整することにより、鏝作業性を良好にしつつ、耐酸性及び強度を一層向上することができる。
【0073】
炭酸リチウムは、高耐酸水硬性組成物の特性を妨げない粒子径のものを用いることが好ましい。炭酸リチウムの最大粒子径は、
好ましくは50μm以下であり、
より好ましくは30μm以下であり、
さらに好ましくは20μm以下であり、
特に好ましくは10μm以下である。
【0074】
炭酸リチウムの最大粒子径を上記範囲とすることによって、炭酸リチウムの溶解度を十分に大きくすることが可能となり、強度発現性及び耐酸性を一層向上することができる。
【0075】
炭酸リチウムの含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、
好ましくは0.001〜0.1質量部であり、
より好ましくは0.004〜0.07質量部であり、
さらに好ましくは0.007〜0.04質量部であり、
特に好ましくは0.01〜0.02質量部である。
【0076】
炭酸リチウムの含有量を上記範囲に調整することにより、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグの水和を促進し、強度発現性及び耐酸性を一層向上することができる。
【0077】
本実施形態に係る高耐酸水硬性組成物に、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム及び炭酸リチウムを上述の好ましい範囲で併用することによって、強度発現性及び接着性を十分に向上し、耐酸性に一層優れた高耐酸水硬性組成物を得ることができる。
【0078】
本実施形態の高耐酸水硬性組成物は、上述の必須成分に加えて、必要に応じて滑性粉体、流動化剤、凝結遅延剤、合成樹脂繊維、及び合成樹脂エマルジョン等を含んでもよい。
【0079】
滑性粉体は、本実施形態の高耐酸水硬性組成物の特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。滑性粉体を用いることによって、鏝塗り作業性や吹き付け作業性を調整することができる。
【0080】
滑性粉体は、例えば鏝塗り作業において、モルタル組成物と鏝との摩擦を適度に低減する作用を有する。滑性粉体としては、ろう石、及び滑石等の軟質無機成分を好ましく用いることができる。滑性粉体の粒子径の分布(粒度分布)は、
好ましくは0.05〜1500μmであり、
より好ましくは0.09〜1000μmであり、
さらに好ましくは0.12〜700μmであり、
特に好ましくは0.15〜500μmである。
【0081】
滑性粉体の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、
好ましくは1〜30質量部であり、
より好ましくは5〜25質量部であり、
さらに好ましくは7〜10質量部であり、
特に好ましくは9〜15質量部である。
【0082】
滑性粉体の粒子径及び添加量を上述の範囲に調整することにより、好ましい滑性付与効果を得ることができる。また、鏝塗り作業性や吹き付け作業性を良好にすることができる。
【0083】
流動化剤は、本発明の特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。高耐酸水硬性組成物における流動化剤の含有量を適宜調整すれば、高耐酸水硬性組成物と水とを混練して調製されるモルタル組成物のフロー値を調整することができる。
【0084】
流動化剤は、減水効果、好適な流動性を併せ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルカルボン酸などの市販の流動化剤から選択することができる。本実施系の高耐酸水硬性組成物に含まれる流動化剤としては、特にポリエーテル系、ポリエーテルカルボン酸などの市販の流動化剤を用いることが好ましい。耐酸性を保ちつつ所定の流動性を付与する観点から、流動化剤はポリカルボン酸エステルを含むことが好ましい。
【0085】
流動化剤の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、
好ましくは0.02〜1.00質量部、
より好ましくは0.04〜0.50質量部、
さらに好ましくは0.07〜0.30質量部、
特に好ましくは0.10〜0.20質量部である。
【0086】
流動化剤の含有量を上述の範囲に調整することにより、好ましい流動性を付与することができ、鏝塗り作業性や吹き付け作業性を良好にすることができる。
【0087】
凝結遅延剤は、本発明の特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、可使時間(鏝塗り作業又は吹き付け作業可能時間)を調整することができる。
【0088】
凝結遅延剤としては、公知のものを用いることができる。一例として、オキシカルボン酸類等の有機酸や、グルコース、マルトース、デキストリン等の糖類、及び重炭酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等から選ばれる1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
オキシカルボン酸類としては、オキシカルボン酸及びこれらの塩が挙げられる。オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシ酸が挙げられる。
【0090】
オキシカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩等)を挙げることができる。これらのなかでも、ナトリウム塩が好ましい。また、酒石酸ナトリウムが、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面からより好ましく、この酒石酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムとを併用することがさらに好ましい。
【0091】
凝結遅延剤の含有量は、アルミナセメント100質量部に対して、
好ましくは0.01〜2質量部であり、
より好ましくは0.1〜1.5質量部であり、
さらに好ましくは0.2〜1.0質量部であり、
特に好ましくは0.3〜0.5質量部である。
【0092】
凝結遅延剤の含有量を上述の範囲に調整することにより、好適な可使時間(鏝塗り作業又は吹き付け作業可能時間)を確保することができる。
【0093】
合成樹脂繊維は、本発明の特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。合成樹脂繊維は、鏝塗り作業性向上、及びモルタル硬化体の耐クラック性向上の作用を有する。
【0094】
合成樹脂繊維としては、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ビニロン及びポリ塩化ビニル等の合成樹脂成分からなるものを用いることができる。合成樹脂繊維は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
合成樹脂繊維の繊維長は、高耐酸水硬性組成物との混合時のハンドリング性や高耐酸モルタル組成物中での分散性向上、及びモルタル硬化体の特性向上の点から、
好ましくは0.5〜15.0mmであり、
より好ましくは1.0〜12.0mmであり、
さらに好ましくは2.0〜8.0mmであり、
特に好ましくは2.5〜7.0mmである。
【0096】
合成樹脂繊維の含有量は、アルミナセメント100質量部に対し、
好ましくは0.01〜3質量部であり、
より好ましくは0.03〜1質量部であり、
さらに好ましくは0.04〜0.3質量部であり、
特に好ましくは0.05〜0.15質量部である。
【0097】
合成樹脂繊維の繊維長及び含有量を上述の範囲に調整することにより、鏝塗り作業性の向上やモルタル硬化体の耐クラック性を向上することができる。
【0098】
合成樹脂エマルジョンは、本発明の特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。合成樹脂エマルジョンは、コンクリートとの接着性や耐酸性を向上する作用を有する。ここで、合成樹脂エマルジョンとは、合成樹脂粒子が水又は含水溶媒に乳化分散されたものをいう。
【0099】
合成樹脂エマルジョンは、含まれる合成樹脂成分のガラス転移温度(Tg)が好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。このような合成樹脂エマルジョンを用いると、コンクリート下地が湿潤状態であっても優れた接着性を有し、また作業性も良好となる。
【0100】
合成樹脂エマルジョンに含まれる合成樹脂成分のガラス転移温度(Tg)は、ガラス板の上にエマルジョンを適量滴下して、乾燥して乾燥塗膜を得た後、示差走査熱量計を用い下記の条件で測定することにより測定することができる。具体的には、まず、乾燥塗膜を室温から150℃まで10分間で昇温する条件で加熱し、150℃で10分間保持した後に、計算で得られた試料のTgより50℃低い温度まで温度を下げる。温度が下がったら、再度150℃まで10分間で昇温する。その過程で1回目のガラス転移温度(Tg)を測定し、次に1回目で測定したTgより50℃低い温度まで下げる過程で、2回目のTgの測定を行い、この2回目のTgの測定値を合成樹脂エマルジョンのガラス転移温度とする。
【0101】
合成樹脂エマルジョンとしては、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョンなどの公知の建築材料用エマルジョンを用いることができる。すなわち、合成樹脂エマルジョンの合成樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル酸誘導体、エチレン、酢酸ビニルなどのα−オレフィン化合物、スチレンなどのビニル化合物、ブタジエンなどの重合成分の重合体又は共重合体を用いることができる。
【0102】
合成樹脂エマルジョンとしては、耐酸性の観点から、アクリル系エマルジョンが好ましい。アクリル系エマルジョンとしては、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル;(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル酸誘導体の重合体;(メタ)アクリル酸誘導体とスチレンとの重合体などが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0103】
合成樹脂エマルジョンの含有量は、高耐酸水硬性組成物の粉体部100質量部に対し、固形分量に換算して、
好ましくは1〜10質量部であり、
より好ましくは2〜7質量部であり、
さらに好ましくは2.5〜6質量部
特に好ましくは3〜5質量部である。
【0104】
なお、合成樹脂エマルジョンの固形分量とは、合成樹脂エマルジョン中の水分を蒸発させて残った固形分の質量である。合成樹脂エマルジョンから固形分を差し引いたものを合成樹脂エマルジョン中の水分とする。また、高耐酸水硬性組成物の粉体部とは、高耐酸水硬性組成物が液状の成分を含む場合に、液体成分を除いた粉体部分のことをいう。高耐酸水硬性組成物が液状の成分を含まず粉体成分のみからなる場合には、高耐酸水硬性組成物の粉体部とは、高耐酸水硬性組成物全体を意味することとなる。
【0105】
合成樹脂エマルジョンの含有量を上述の範囲に調整することにより、コンクリートとの接着性や耐酸性を一層向上することができる。
【0106】
次に、本実施形態のコンクリート構造物の補修方法に用いられるモルタル組成物(高耐酸モルタル組成物)について説明する。モルタル組成物は、上述の高耐酸水硬性組成物と水とを配合して混練することにより調製することができる。ここで、水の配合量を適宜変更することにより、モルタル組成物のフロー値及び単位容積質量を調整することができる。したがって、用途に適したモルタル組成物を調製することができる。ここで、フロー値とは、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値であり、単位容積質量とは、JIS A 1171−2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値(単位:kg/L)である。
【0107】
水の配合量は、高耐酸水硬性組成物の粉体部100質量部に対し、
好ましくは2〜18質量部であり、
より好ましくは4〜16質量部であり、
さらに好ましくは8〜12質量部であり、
特に好ましくは9〜11質量部である。
【0108】
モルタル組成物が合成樹脂エマルジョンを含有する場合、水の配合量は、合成樹脂エマルジョン中の水分の量を考慮する必要がある。したがって、配合する水と合成樹脂エマルジョン中の水分の合計量が、上述の好ましい水の配合量となるように調整する。
【0109】
本実施形態のモルタル組成物のフロー値は、
好ましくは145〜200mmであり、
より好ましくは150〜190mmであり、
さらに好ましくは155〜180mmであり、
特に好ましくは160〜170mmである。
【0110】
モルタル組成物のフロー値を上述の範囲とすることによって、鏝塗り作業性及び吹き付け作業性を良好にすることができる。
【0111】
本実施形態のモルタル組成物の単位容積質量は、
好ましくは2.05〜2.55kg/L(リットル)であり、
より好ましくは2.10〜2.50kg/Lであり、
さらに好ましくは2.15〜2.45kg/Lであり、
特に好ましくは2.20〜2.40kg/Lである。
【0112】
単位容積質量を上述の範囲とすることによって、鏝塗り作業性及び吹き付け作業性を良好にすることができる。
【0113】
本実施形態のモルタル組成物を硬化することによって形成されるモルタル硬化体は、耐腐食性(特に耐酸性)に優れる。次に、本発明のコンクリート構造体の補修方法によって形成されるモルタル硬化体(高耐酸モルタル硬化体)について説明する。
【0114】
モルタル硬化体は、上述のモルタル組成物を硬化して形成することができる。このようにして形成される高耐酸モルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するに際し、優れた強度(圧縮強度、曲げ強度及び接着強度)を有しており、コンクリート構造物の補修用モルタル硬化体として好適である。
【0115】
ここで、圧縮強度及び曲げ強度は、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値である。また、接着強度とは、「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル(日本下水道事業団編著、財団法人下水道業務管理センター発行、平成19年7月)」に記載の接着強さ試験に準拠して測定される値である。
【0116】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢3日の圧縮強度は、
好ましくは39N/mm以上であり、
より好ましくは40N/mm以上であり、
さらに好ましくは41N/mm以上であり、
特に好ましくは42N/mm以上である。
【0117】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢3日の曲げ強度は、
好ましくは8.5N/mm以上であり、
より好ましくは9.0N/mm以上であり、
さらに好ましくは9.5N/mm以上であり、
特に好ましくは10.0N/mm以上である。
【0118】
圧縮強度及び曲げ強度を上述の範囲内とすることによって、モルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するに際し、優れた強度発現性を有する。
【0119】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢7日の接着強度は、
好ましくは1.9N/mm以上であり、
より好ましくは2.0N/mm以上であり、
さらに好ましくは2.1N/mm以上であり、
特に好ましくは2.2N/mm以上である。
【0120】
接着強度を上述の範囲内とすることによって、モルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するに際し、優れた接着性を有する。
【0121】
本実施形態におけるモルタル硬化体は、優れた耐酸性を有しており、コンクリート構造物の腐食を長期間抑制することができる。耐酸性の指標としては、硫酸浸透深さ(mm)が挙げられる。この硫酸浸透深さは、「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル(日本下水道事業団編著、財団法人下水道業務管理センター発行、平成19年7月)」に記載の試験方法(硫酸浸透深さ)に準拠して測定される値である。本明細書では、この試験方法を便宜上JS法と呼ぶ。また、JS法を一部変更した後述の促進法及び超促進法でも硫酸浸透深さを測定して耐酸性を評価することができる。
【0122】
JS法で測定されるモルタル硬化体の硫酸浸透深さは、
好ましくは0.80mm以下であり、
より好ましくは0.70mm以下であり、
さらに好ましくは0.50mm以下であり、
特に好ましくは0.30mm以下である。
【0123】
促進法で測定されるモルタル硬化体の硫酸浸透深さは、
好ましくは1.20mm以下であり、
より好ましくは1.10mm以下であり、
さらに好ましくは1.00mm以下であり、
特に好ましくは0.90mm以下である。
【0124】
超促進法で測定されるモルタル硬化体の硫酸浸透深さは、
好ましくは1.00mm以下であり、
より好ましくは0.90mm以下であり、
さらに好ましくは0.70mm以下であり、
特に好ましくは0.60mm以下である。
【0125】
硫酸浸透深さを上述の範囲内とすれば、モルタル硬化体は、一層優れた耐酸性を有するため、コンクリート構造物の腐食を長期間抑制することができる。
【0126】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0127】
実施例及び比較例を用いて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0128】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
[高耐酸水硬性組成物の調製]
以下(1)〜(11)に示す原材料を準備した。
【0129】
(1)アルミナセメント
・アルミナセメント(ケルネオス社製、ブレーン比表面積:3100cm/g、モノカルシウムアルミネート含有率:53質量%)
(2)アルミナセメントクリンカー
・アルミナセメントクリンカー(ケルネオス社製、粒子径:1.0mm以下、アルミナ含有率:40質量%)
(3)高炉スラグ
・高炉スラグA(JIS A 6206−1997、ブレーン比表面積4660cm/g)
・高炉スラグB(JIS A 6206−1997、ブレーン比表面積8320cm/g)
【0130】
(4)シリカフューム
・シリカフューム(JIS A 6207−2006、BET比表面積:19m/g、嵩比重:280kg/m
(5)細骨材
・珪砂(1200μm以上の粒子径を有する粗粒分:11.7質量%)
(6)炭酸リチウム
・炭酸リチウム(最大粒子径:3μm)
【0131】
(7)滑性粉体
・ろう石(粒度分布:0.2〜120μm)
(8)流動化剤
・流動化剤(ポリカルボン酸エステル系流動化剤)
(9)凝結遅延剤
・凝結遅延剤A(重炭酸ナトリウム)
・凝結遅延剤B(酒石酸ナトリウム)
【0132】
(10)合成樹脂繊維
・ビニロン繊維(繊維長:6mm)
(11)合成樹脂エマルジョン
・アクリル系共重合樹脂エマルジョン(固形分の含有量:50質量%、ガラス転移温度(Tg):23℃)
【0133】
上述のアルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム、細骨材、炭酸リチウム、滑性粉体、流動化剤、凝結遅延剤、及び合成樹脂繊維を表1に示す割合で配合し、各実施例及び各比較例の高耐酸水硬性組成物を調製した。
【0134】
【表1】

【0135】
[モルタル組成物の調製]
表1に示す配合割合で配合した高耐酸水硬性組成物100質量部に対し、水及び合成樹脂エマルジョンを表2に示す割合で配合して混練し、モルタル組成物を調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ホバートミキサーを用いて低速で3分間混練した。このようにして得られたモルタル組成物の物性を以下の方法で評価した。
【0136】
[モルタル組成物の物性の評価方法]
(1)フロー値の測定方法
JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠してフロー値を測定した。測定結果を表2に示す。
(2)単位容積質量の測定方法
JIS A 1171−2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載の試験方法に準拠して単位容積質量を測定した。測定結果を表2に示す。
【0137】
[モルタル硬化体の作製]
調製した各実施例及び各比較例のモルタル組成物を用いて、コンクリート構造体の補修を行った。そして、モルタル硬化体の曲げ強度、圧縮強度及び接着強度を測定した。各測定は、以下に示す方法で行った。
【0138】
[モルタル硬化体の評価]
(1)圧縮強度及び曲げ強度の測定方法
JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して材齢28日の圧縮強度及び曲げ強度を測定した。測定結果を表2に示す。
(2)接着強度の測定方法
「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル(日本下水道事業団編著、財団法人下水道業務管理センター発行、平成19年7月)」に記載の試験方法(接着強さ試験)に準拠して測定した。測定結果を表2に示す。
【0139】
(3)硫酸浸透深さの測定方法
「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル(日本下水道事業団編著、財団法人下水道業務管理センター発行、平成19年7月)」に記載の試験方法(硫酸浸透深さ)に準拠して測定した。具体的には、まず、測定用試験体を以下の手順で作製した。なお、硫酸浸透深さ測定用試験体は以下の各方法につき3個ずつ作製した。
【0140】
・JS法
試験体の作製方法は、JIS A 1132−2006に準拠し、直径7.5cm、高さ15cmの円柱型枠にモルタル組成物を成形し、1日後に脱型してモルタル硬化体を得た。材齢28日まで20±2℃の水道水中で水中養生して試験体を作製した。この試験体を5質量%硫酸水溶液(試験液)に28日間浸漬した。この間、試験液は、7日毎に全量を取り替えた。浸漬終了後、試験液から取り出した試験体を、蛇口を完全開放した水道水の水圧で全面を均等に1分間洗浄し、その後、表面の水分を拭き取り、硫酸浸透深さ測定用試験体を得た。なお、試験液の基準量は、1試験体あたり0.0044m(4.4L)とした。
【0141】
・促進法
試験体の作製方法は、JIS A 1132−2006に準拠し、直径7.5cm、高さ15cmの円柱型枠にモルタル組成物を成形し、1日後に脱型してモルタル硬化体を得た。材齢7日まで20±2℃の水道水中で水中養生して試験体を作製した。この試験体を5質量%硫酸水溶液(試験液)に28日間浸漬した。この間、試験液は、7日毎に全量を取り替えた。浸漬終了後、試験液から取り出した試験体を、蛇口を完全開放した水道水の水圧で全面を均等に1分間洗浄した。その後、表面の水分を拭き取り、硫酸浸透深さ測定用試験体を得た。なお、試験液の基準量は、1試験体あたり0.0044m(4.4L)とした。
【0142】
・超促進法
試験体の作製方法は、JIS A 1132−2006に準拠し、直径7.5cm、高さ15cmの円柱型枠にモルタル組成物を成形し、1日後に脱型してモルタル硬化体を得た。材齢7日まで20±2℃の水道水中で水中養生して試験体を作製した。試験体を10質量%硫酸水溶液(試験液)に10日間浸漬した。浸漬終了後、試験体を試験液から取り出し、蛇口を完全開放した水道水の水圧で全面を均等に1分間洗浄した。その後、表面の水分を拭き取り、硫酸浸透深さ測定用試験体を得た。なお、試験液の基準量は、1試験体あたり0.0044m(4.4L)とした。
【0143】
上述の3つの方法で作製した硫酸浸透深さ測定用試験体を、ダイヤモンドカッター等で円柱の高さが半分になるように切断して、切断面にフェノールフタレイン1質量%溶液を噴霧し、試験体の赤く発色した部分の直径方向の長さをノギスで5箇所測定した。この測定値の平均値から試験体の幅の初期値(75mm)を差し引き、その値の1/2を硫酸浸漬深さ(mm)とした。各方法について、3つの測定用試験体の硫酸浸漬深さ(mm)の平均値を求めた。測定結果(平均値)を表2に示す。
【0144】
【表2】

【0145】
表2に示すとおり、実施例1〜4で用いたモルタル組成物のフロー値は160〜170mmの範囲内であった。この結果から、実施例1〜4で用いたモルタル組成物は、良好な鏝塗り作業性及び吹き付け作業性を有することが確認された。
【0146】
実施例1〜4で用いたモルタル組成物の単位容積質量は2.15〜2.35kg/Lの範囲内であった。この結果から、実施例1〜4で用いた高耐酸水硬性組成物が良好な鏝塗り作業性及び吹き付け作業性を有することが確認された。
【0147】
高炉スラグの50質量%以上がブレーン比表面積8320cm/gであり、且つ炭酸リチウムを含有する実施例1で用いたモルタル組成物は、比較例1〜3で用いたモルタル組成物と比較して、圧縮強度、曲げ強度、及び接着強度の全てにおいて優れた強度発現性を示した。そして、JS法及び促進法による硫酸浸透深さは、それぞれ0.61mm及び1.13mmであり、優れた耐酸性を有することが確認された。
【0148】
シリカフュームを12.5質量部含む比較例4のモルタル組成物と比較して、実施例1で用いたモルタル組成物は、促進法による硫酸浸透深さが1.13mmであり、優れた耐酸性を有することが確認された。
【0149】
超促進法によるモルタル組成物の硫酸浸透深さについては、実施例1のモルタル組成物が好ましい値(0.96mm)を示し、実施例3のモルタル組成物がより好ましい値(0.63mm)を示し、実施例2及び実施例4のモルタル組成物が、さらに好ましい値(それぞれ0.59mm及び0.60mm)を示した。
【0150】
以上のことから、実施例1〜4のように、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム、細骨材及び炭酸リチウムを含む高耐酸水硬性組成物であって、高炉スラグ100質量%中に、ブレーン比表面積6000〜10000cm/gを有する高炉スラグを20〜90質量%含み、アルミナセメント100質量部に対して、シリカフュームを1〜12質量部含む高耐酸水硬性組成物は、従来のアルミナセメント系耐酸モルタルよりも耐酸性が優れていることが確認された。このように耐酸性に優れていることから、ライニング工法を併用する必要がなく、コンクリート構造物建設のイニシャルコストを抑制することができる。また、コンクリート構造物の長期耐久性の向上、及びライフサイクルコストの低減などにも貢献できることが確認された。
【0151】
また、実施例1〜4で用いた高耐酸水硬性組成物は、強度発現性に優れていることから施工期間を短縮することができる。また、接着性にも優れていることからコンクリート構造物と一体化して、長期耐久性を向上すること、及びライフサイクルコストを低減することも可能である。
【0152】
(実施例5)
<外部環境下におけるコンクリート構造物の補修試験>
各原料を表1に示す割合で混合して、実施例1の高耐酸水硬性組成物を20kg調製した。得られた粉末状の高耐酸水硬性組成物20kgに対し、水1.4kg及び上述の合成樹脂エマルジョン1.6kgを配合した。すなわち、高耐酸水硬性組成物100質量部に対し、水7質量部、合成樹脂エマルジョン8質量部を配合した。この配合物を、ハンドミキサー(回転数、750rpm)を用いて2分間混練してモルタル組成物を得た。ここで、この混練作業は、気温16℃、水温14℃の外部環境下において行った。得られたモルタル組成物のフロー値は180mmであった。なお、フロー値の測定方法は上述のとおりである。
【0153】
コンクリート構造物の施工面に、吸水調整剤(プライマー)として、上述の合成樹脂エマルジョンを水で5倍希釈したものを塗布し、プライマー層を形成した。このようにして形成したプライマー層に対し、市販のポンプ(友定建機社製、型式:TS−055M)を用いて、上述のモルタル組成物の吹き付け施工を行った。ここで、ホースは、長さ10m及び内径25mmのものを用い、吹き付けガンは、友定建機社製のTPG−25(型式)を用いた。
【0154】
モルタル組成物の吹き付け量は、約0.4m/時間とし、一回の吹き付け施工で10mm程度の厚みを施工した。その後、モルタル組成物の表面を鏝で平坦に仕上げた。ここで、施工面積は、約10mであった。このモルタル組成物は、良好な鏝塗り性及び吹き付け性を有していた。このため、施工性に優れたコンクリートの補修方法であることが確認された。
【0155】
モルタル組成物を吹き付け施工してから、7日及び28日後にモルタル硬化体の状態を確認したところ、クラックの発生は認められなかった。また、タイル・モルタルの剥離検査用ハンマーを用いた打診検査でも剥離や浮きは認められなかった。このことから、モルタル硬化体はコンクリート構造物と一体化しており、十分に優れた長期耐久性を有するモルタル硬化体及びコンクリート構造物を形成可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0156】
10…コンクリート構造物、10a…表面、11…健全部、12…腐食部、13…剥落部、15…プライマー層、16…(高耐酸)モルタル組成物、17…(耐硫酸性を有しない又は耐硫酸性の低い断面修復用の)モルタル組成物、21…ミキサ、22…モルタルポンプ、23…エアー源、24…耐圧ホース、25…ガン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体の一部を除去した箇所に、高耐酸水硬性組成物と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、
前記モルタル組成物を硬化させて、前記箇所にモルタル硬化体を形成する硬化体形成工程と、を有するコンクリート構造物の補修方法であって、
前記高耐酸水硬性組成物は、アルミナセメント、アルミナセメントクリンカー、高炉スラグ、シリカフューム、細骨材及び炭酸リチウムを含み、
前記高炉スラグの20〜90質量%が、6000〜10000cm/gのブレーン比表面積を有するものであり、
前記アルミナセメント100質量部に対し、前記シリカフュームを1〜12質量部含むコンクリート構造物の補修方法。
【請求項2】
前記高耐酸水硬性組成物は、前記アルミナセメント100質量部に対し、前記高炉スラグを1〜100質量部含む、請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
前記高耐酸水硬性組成物は、前記アルミナセメント100質量部に対し、前記炭酸リチウムを0.001〜0.1質量部含む、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
前記アルミナセメントクリンカーに対する前記アルミナセメントの質量比が、0.3〜2.5である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
前記シリカフュームは、BET比表面積が15〜23m/gであり、且つ嵩比重が100〜600kg/mである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】
前記高炉スラグは、互いに異なるブレーン比表面積を有する第1の高炉スラグと第2の高炉スラグとを含有し、
前記第1の高炉スラグのブレーン比表面積が6000〜10000cm/gであり、
前記第2の高炉スラグのブレーン比表面積が3000〜5800cm/gである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項7】
前記モルタル施工工程において、
前記モルタル組成物は、前記高耐酸水硬性組成物及び前記水とともに、合成樹脂エマルジョンを配合し混練して調製される、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−214369(P2012−214369A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−66241(P2012−66241)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】