説明

コンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造

【課題】最下段側壁ブロックと底版との間以外にプレストレスを導入することなく、最下段側壁ブロックと底版との間にプレストレスを導入することを目的とする。
【解決手段】プレストレス導入装置1の支承ホルダー30とエンドホルダー20との間における中空鋼棒10の外面側に中間ナット40を設け、中間ナット40と支承ホルダー30との間における中空鋼棒10の外面側に被覆されるアンボンド層41を設ける。中間ナット40とエンドホルダー30との間の中空鋼棒10が、側壁52を構成する最下段側壁ブロック54と底版51との間を跨るように配置される。支承ホルダー30による定着を解放することによって中空鋼棒10に導入された緊張力が、エンドホルダー20と中間ナット40との間で中空鋼棒10に付着したコンクリートのみにプレストレスとして導入され、底板51と側壁52とが接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造に関し、特に、プレストレス導入装置を用いて接合されるコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より提案されているLNG(Liquefied Natural Gas)やLPG(Liquefied Petroleum Gas)貯蔵用の地上タンクや地下タンク等の容器構造物は、底版と、底版上に立設される側壁と、側壁の上端に接続される平板状又はドーム状の天井とから構成されている。このような容器構造物は、その規模が大きくなるにつれて、内部に収容される貯蔵物からの水平荷重等に十分抵抗可能となるように耐久性や液密性が要求されてくるため、鉄筋コンクリート構造物として現場施工されるのが一般的である。
【0003】
このような容器構造物において、底版と側壁との接合部は、側壁の主鉄筋が所定長さ底版内に埋め込まれて剛結合を形成し、側壁下部に生じる曲げモーメント等を底版に伝達する構造となっているのが一般的である。しかし、容器構造物の規模が大きくなるにつれて、底版と側壁との接合部では、発生する曲げモーメント等が過大となり、接合部において使用される鉄筋量が著しく増加してしまう。このため、鉄筋量の低減やひびわれ防止等を目的として、接合部においては、特許文献1〜5に示されるようなプレストレス導入装置を用いてプレストレスを導入する手法が一般に用いられている。
【0004】
図9は、これら特許文献1〜5に示される、従来から用いられているプレストレス導入装置100の共通の構成を示している。このプレストレス導入装置100は、中空鋼棒101と、中空鋼棒101の内部に配置される反力体としての中実鋼棒102と、中空鋼棒101の基端側に設けられるエンドホルダー103と、中空鋼棒101の先端側に設けられる支承ホルダー104とを備えている。中実鋼棒102には、エンドホルダー103と支承ホルダー104との間で挟圧されることによって圧縮力が導入されている。中空鋼棒101には、この圧縮力が加えられている中実鋼棒102を反力体として、緊張力が導入されている。なお、支承ホルダー104よりもエンドホルダー103寄りの中空鋼棒101外面にはアンカー部材105が、支承ホルダー104の先端にはストッパ106が設けられている。
【0005】
このような構成からなるプレストレス導入装置100を用いてコンクリート構造物間にプレストレスを導入する場合、その施工区間にプレストレス導入装置100を配置し、その後にプレストレス導入装置100のほぼ全長を埋め込むようにコンクリートを打設する。そして、所定のコンクリート圧縮強度の発現を確認した後に、プレストレス導入装置100の先端側の支承ホルダー104のストッパ106を後退移動させる。これによって支承ホルダー104によって定着されていた中実鋼棒102の圧縮力が解放され、中空鋼棒101に導入された緊張力(引張力)が中空鋼棒101に付着しているコンクリートに圧縮力として導入されて、コンクリート構造物間にプレストレスが導入される。
【0006】
【特許文献1】特開平08−135194号公報、
【特許文献2】特開平08−139173号公報、
【特許文献3】特開2001−207590号公報
【特許文献4】特開2006−45997号公報
【特許文献5】特開2005−90124号公報
【特許文献6】特許第3287820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10は、上述のような構成からなるプレストレス導入装置100を用いて、コンクリート製タンク150における底版151と側壁152とにプレストレスを導入する場合の状態を示している。
【0008】
底版151と側壁152との間にプレストレスを導入する場合、図10(a)に示すように、プレストレス導入装置100のエンドホルダー103側を底版151中に埋め込み固定されるようにコンクリートを打設する。そして、底版151のコンクリートの圧縮強度の発現を確認した後、プレストレス導入装置100の支承ホルダー104以外の全長を埋め込むように、側壁152を構成する最下段の側壁ブロック153を構成するコンクリートを打設する。このとき、プレストレス導入装置100は、鉛直上方に延長されるように直線的に配置され、最下段側壁ブロック153の上端部153aから支承ホルダー104が露出されるようにコンクリートが打設される。この後、最下段側壁ブロック153の強度発現を確認した後、プレストレス導入装置100の支承ホルダー104を後退移動させて、定着を解放し、底版151と最下段側壁ブロック153間にプレストレスが導入される。
【0009】
ここで、底版151と最下段側壁ブロック153間にプレストレスを導入する場合は、プレストレス導入装置100の支承ホルダー104を後退移動させることができるスペースを確保する必要がある。このため、図10(a)に示す例では、支承ホルダー104が最下段側壁ブロック153の上端部153aから露出された状態に形成されている。しかし、このような状態の場合、最下段側壁ブロック153の上端部153aから上方に新たな側壁ブロック154を構築するためには、支承ホルダー104を後退移動させるのを待つこと、即ち、最下段の側壁ブロック153の強度発現を待つことを必要としていた。
【0010】
このようにしていたのでは施工期日がその分長引いてしまうため、最下段の側壁ブロック153の強度発現を待つことなく、二列目以降の側壁ブロック154を構築可能とする構成が望まれる。このような構成としては、例えば、図13(b)に示すように、プレストレス導入装置100を、上方に向かうにつれて支承ホルダー104が側壁内周面に近接するように鉛直方向に対して傾斜して配置させ、二列目以降の側壁ブロック154の側壁内周面に開口された箱抜き部155から露出させることが考えられる。また、この例と同様に、図13(c)に示すように、プレストレス導入装置100をその上部において支承ホルダー104が側壁内周面に近接するようにその上部を曲線状に形成させ、二列目以降の側壁ブロック154の側壁内周面に開口された箱抜き部155から露出させることも考えられる。
【0011】
しかしながら、いずれの場合においても、プレストレス導入装置100の中空鋼棒101の全長に付着しているコンクリートに対してプレストレスが導入されることになるため、本来プレストレスを導入しようとしていた底版151と最下段側壁ブロック153との間の接合部以外の部位(例えば、最下段側壁ブロック153と二列目以降の側壁ブロック154との間の接合部)に対してもプレストレスが導入されてしまっていた。このように、二列目以降の側壁ブロック154内等にプレストレスが導入される場合、二列目以降の側壁ブロック154が所定の強度の発現をしてから支承ホルダー104による定着を解放しなければ、これら側壁ブロック154を構成する未硬化のコンクリートが破壊されてしまうため、二列目以降の側壁ブロック154の強度発現を待つ必要があった。
【0012】
ところで、近年においては、耐震設計上の観点から、プレストレスが導入された構造体が意図した態様で崩壊可能となるように、構造体のみならずプレストレス導入装置等の構造部材の靭性を考慮しての部材設計がなされている。このような構造部材の靭性を考慮した耐震設計法では、ヒンジ発生の想定される部位に配置される部材について、強度のみならず塑性変形能力(靭性)を確保することが必要とされる。
【0013】
このような問題を改善する方法として、PC鋼棒を使用してのプレストレス導入方法において、コンクリート内に配置されるPC鋼棒の一部をコンクリートと付着させず、PC鋼棒の残部と付着しているコンクリートに対してのみプレストレスを導入させる方法(パーシャルアンボンド工法)が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0014】
この方法においては、コンクリートを打設しようとする所定区間にボンドシースを配置し、このボンドシースの一部の外側にボンドシースとコンクリートとを非付着状態にするためのアンボンドシースを設け、これらボンドシース及びアンボンドシースを埋め込むようにコンクリートを打設する。打設したコンクリートの強度の発現後、ボンドシース内に挿通されたPC鋼棒を緊張、定着することによって、コンクリートにプレストレスが導入される。
【0015】
この方法は、いわゆるボンド方式及びアンボンド方式と呼ばれるそれぞれの工法の利点を生かした工法であり、PC鋼棒中の任意の区間をコンクリートとの付着のないアンボンド区間(アンボンドシースのある区間)とし、PC鋼棒の残りの区間をコンクリートとの付着のあるボンド区間(ボンドシースのみある区間)とできる。アンボンド区間においては、PC鋼棒がコンクリートとグラウトモルタルによって変形が拘束されず、プレストレスが導入された構造体に変形が発生した場合に、PC鋼棒そのものが塑性変形することによって、PC鋼棒の破断を防ぐことができる。また、ボンド区間においては、PC鋼棒とコンクリートとが結合一体化されているため、単純にPC鋼棒全長をアンボンド区間とした場合に発生するようなコンクリートの圧縮破壊を防止することができる。
【0016】
このように、PC鋼棒を使用してのプレストレス導入方法においては、ボンドシースとアンボンドシースとを巧みに組み合わせることにより、プレストレスが導入される構造体の変形性能を改善可能となる。しかし、この方法においては、PC鋼棒、ボンドシース及びアンボンドシースをセットした状態で維持しておくことが難しく、現場作業時にこれらを種々組み合わせる必要があり、現場作業が必然的に増加し、現場作業における作業性が悪いという問題点があった。
【0017】
このような背景の下、上述したような中実鋼棒と中空鋼棒とからなるプレストレス導入装置100においては、部分的にアンボンド部を設けた構成が未だ提案されていなかった。このようなプレストレス導入装置100によって部分的にアンボンド部を設けてプレストレスを導入することが可能となれば、上述したような、底版151と最下段側壁ブロック153との間の接合部以外の部位に対してプレストレスが導入されることがなくなると考えられ、プレストレス導入装置100の靭性を考慮したうえで所望のプレストレスを導入することが可能になると思われる。
【0018】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、最下段側壁ブロックと底版との間にプレストレスを導入してこれらを接合する場合において、最下段側壁ブロックより上段側の二列目以降の側壁ブロックの施工を妨げることがなく、更に、最下段側壁ブロックと底版との間にのみ部分的にプレストレスを導入可能な、コンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上述した課題を解決するために、プレストレス導入装置における支承ホルダーとエンドホルダーとの間における中空鋼棒の外面側に中間ナットを設け、中間ナットと支承ホルダーとの間における中空鋼棒の外面側に被覆されるアンボンド層を設け、エンドホルダーが底版に埋め込み固定されるとともに、中間ナットが側壁を構成する最下段の側壁ブロックに埋め込み固定され、支承ホルダーによる定着を解放することによって中空鋼棒に導入された緊張力が、エンドホルダーと中間ナットとの間で中空鋼棒に付着したコンクリートのみにプレストレスとして導入され、底板と側壁とが接合されていることを特徴とするコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造を発明した。
【0020】
即ち、本願請求項1に係る発明は、コンクリート製タンクの底版と、当該底版上に立設される側壁とを互いに接合する際に適用されるコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造において、中空鋼棒と、上記中空鋼棒の内部に配置される中実鋼棒と、上記中空鋼棒の両端側に設けられるエンドホルダーと支承ホルダーと、上記支承ホルダーと上記エンドホルダーとの間における上記中空鋼棒の外面側に設けられる中間ナットと、上記中間ナットと上記支承ホルダーとの間における上記中空鋼棒の外面側に被覆されるアンボンド層とを備え、上記エンドホルダー及び上記支承ホルダーによって上記中実鋼棒を反力体として上記中空鋼棒に導入される緊張力を保持可能に構成されたプレストレス導入装置における上記中間ナットと上記エンドホルダーとの間の中空鋼棒が、上記側壁を構成する最下段の側壁ブロックと上記底版との間を跨るように配置され、上記支承ホルダーによる定着を解放することによって上記中空鋼棒に導入された緊張力が、上記エンドホルダーと上記中間ナットとの間で中空鋼棒に付着したコンクリートのみにプレストレスとして導入され、上記底版と上記側壁とが接合されていることを特徴とする。
【0021】
また、本願請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、上記中空鋼棒は、直列に配列された複数の中空鋼棒ユニットが中間ナットにより接続されてなることを特徴とする。
【0022】
また、本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の発明において、上記プレストレス導入装置は、鉛直方向に対して傾斜して配置される、若しくはその長手方向の全長又は一部が曲線状とされることにより、当該プレストレス導入装置が内部に配置されているコンクリート体の側部表面に開口された箱抜き部から上記支承ホルダーが露出されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本願請求項1に係る発明においては、これに用いられるプレストレス導入装置1がその全長でなく部分的にのみプレストレスを導入可能に構成されているため、これを利用して、底版51と最下段側壁ブロック54との間においてのみプレストレスが導入されている。このため、プレストレスの導入が必要とされない部位である、最下段側壁ブロック54と上段側壁ブロック55との間等にプレストレスの影響を及ぼすことなく、底版51と側壁52との接合が可能となる。
【0024】
本願請求項2に係る発明においては、中空鋼棒体10を分割してこれを中間ナット40によって連結することによって、一本の中空鋼棒ユニット11からなる中空鋼棒体11の所定の位置にまで中間ナット40を移動可能とする雄ねじ部を設け、またその位置にまで中間ナットを移動させる加工性、作業性の問題が生じない。
【0025】
本願請求項3に係る発明においては、箱抜き部58を設けることにより、支承ホルダー30をコンクリート打設後においても露出した状態にさせることができるため、プレストレスを導入する際に必要となる所定の強度が最下段側壁ブロック54に発現されるのを待たずに、上段側壁ブロック55の構築が可能となり、施工の効率性が向上し、ひいては工期の短縮を図れる。特に、プレストレス導入装置1の支承ホルダー30側には、アンボンド区間が設けられているため、支承ホルダー30が露出されている箱抜き部58近傍の、例えば上段側壁ブロック55等のコンクリート体に対してプレストレスの影響が及ぶことなく、このような効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を適用したコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造に関し、図面を参照にしながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の適用の対象となるコンクリート製タンク50の縦断側面図を示している。このコンクリート製タンク50は、地盤上に構築されるコンクリート製底版51と、底版51上に立設される円筒形のコンクリート製側壁52と、側壁52の上端部に接続されるドーム状のコンクリート製天井53とから構成される。
【0028】
このコンクリート製タンク50は、例えば、LNGやLPG貯蔵用の地上タンクや地下タンク等によって具体化される。以下の説明では、側壁52が略円筒形で、天井がドーム状の地上タンクを例に説明するが、コンクリート製タンクの形状はこれに限定されるものでないことは勿論である。
【0029】
側壁52は、複数の側壁ブロックを鉛直方向に順次連結配置することによって構成されており、底版51上に直接連結配置されている側壁ブロックを最下段側壁ブロック54、それ以外の側壁ブロックを上段側壁ブロック55という。
【0030】
底版51や天井53の内部には、図示しない鉄筋等が配設されている。また、上段側壁ブロック55の内部には、円周方向に延長されて配設された横鉄筋56と、円周方向に所定の間隔を空けて配設される鉛直方向に延長されてなる縦鉄筋57とが格子状をなして配設されている。この縦鉄筋57の一部は、最下段側壁ブロック54から上段側壁ブロック55の間を跨ぐように配設されている。これらの横鉄筋56と縦鉄筋57とによって、各上段側壁ブロック55間と、最下段側壁ブロック54と上段側壁ブロック55とが接合されている。上段側壁ブロック55は、いわゆるRC(Reinforced-Concrete)構造を呈している。
【0031】
底版51と最下段側壁ブロック54との間は、鉄筋によって接合すると莫大な量の鉄筋量を必要とするため、主としてプレストレスを導入することによって接合している。図2には、本発明を適用したコンクリート製タンクの底版51と最下段側壁ブロック54との接合構造の一形態を示している。図2に示すように、底版51と最下段側壁ブロック54とは、プレストレス導入装置1をその内部に多数配置することによって接合される。なお、図2に示す例では、縦鉄筋等を省略している。また、プレストレス導入装置1は、底版51、側壁51内の円周方向に所定間隔をあけて多数配置されている。
【0032】
以下、コンクリート製タンクの底版51と側壁52との接合構造について説明する前に、これに用いられるプレストレス導入装置1の構成について説明する。
【0033】
図3〜図5は、コンクリート製タンクの底版51と側壁52との接合構造に用いられるプレストレス導入装置1の第1の実施形態を示すものである。
【0034】
図3(a)に示すように、プレストレス導入装置1は、中空鋼棒体10と、中空鋼棒体10の基端側に設けられるエンドホルダー20と、中空鋼棒体10の先端側に設けられる支承ホルダー30と、エンドホルダー20と支承ホルダー30との間における中空鋼棒体10の外面側に設けられる中間ナット40とから構成される。
【0035】
図3に示す一形態における中空鋼棒体10は、複数本の中空鋼棒ユニット11(図中では二本)を直列に配置し、これらをカプラーからなる中間ナット40によって連結することによって一体的に構成されている。この中空鋼棒ユニット11は、長手方向の一端側(基端側)外周面に雄ねじ部12を有し、長手方向の他端側(先端側)外周面に雄ねじ部13を有している。以下、プレストレス導入装置1の各部材の説明において、プレストレス導入装置1の長手方向の一端側に位置する各部材の一端側の部位を単に基端側といい、プレストレス導入装置1の長手方向の他端側に位置する各部材の他端側の部位を単に先端側というものとする。
【0036】
中空鋼棒体10の内部には、中実鋼棒体15が配置されている。この中実鋼棒体15は、複数本の中実鋼棒ユニットを中空鋼棒体10内に直列に配置することによって構成されている。この中実鋼棒ユニットのうち最も先端側に位置する中実鋼棒ユニットは、その基端側が中空鋼棒体10内に配置され、その先端側が中空鋼棒体10の先端側から突出するように配置されており、これを撤去用中実鋼棒ユニット17とする。また、中実鋼棒ユニットのうち撤去用中実鋼棒ユニット17以外をノンプル用中実鋼棒ユニット16とする。撤去用中実鋼棒ユニット17の基端側は、互いに隣接するノンプル用中実鋼棒ユニット16の先端側と当接されている。
【0037】
エンドホルダー20は、雌ねじ孔21aを有するアンカー材21と、アンカー材21の雌ねじ孔21a内にねじ込まれる支承用雄ねじ部材22から構成されている。このアンカー材21は、中空鋼棒体10における基端側の雄ねじ部12に、その雌ねじ孔21aが着脱自在にねじ込まれている。また、支承用雄ねじ部材22は、その先端側表面が、中空鋼棒体10の基端側及び中実鋼棒体15の基端側に当接されている。
【0038】
支承ホルダー30は、基端側の雌ねじ孔31aと先端側の雄ねじ孔31bとを有する異径スリーブからなる支承筒31と、支承筒31の内部に配置される押圧係止片32と、支承筒31内にねじ込まれるストッパ33とから構成される。
【0039】
この支承筒31は、中空鋼棒体10における先端側の雄ねじ部13に、その基端側の雄ねじ孔31aが着脱自在にねじ込まれて連結されている。また、この支承筒31の先端側の雌ねじ孔31bには、ストッパ33の基端側外面に設けられた雄ねじ部33aがねじ込まれ、位置調整可能に取り付けられている。
【0040】
ストッパ33は、中空の鋼製筒状の形状からなり、先端側外面に、多角形形状の回動工具係合用外面33bが形成されている。また、支承筒31の外面にも、多角形形状の回動工具係合用外面31cが形成されている。
【0041】
ストッパ33の基端側端部は、支承筒31の内部に配置され、押圧係止片32の先端側端面に係合される。
【0042】
押圧係止片32は、基端側に凹部32aを有しており、この凹部32a内に、撤去用中実鋼棒ユニット17の先端側が嵌合されている。
【0043】
ここで、本発明において用いられるプレストレス導入装置1には、図3等に示すように、中間ナット40と支承ホルダー30との間において、中空鋼棒体10の外面にアンボンド層41が被覆されている。このアンボンド層41は、中間ナット40と支承筒31とに当接するように被覆配置されている。
【0044】
このアンボンド層41は、中空鋼棒体10の外周面上に被覆されることにより、中空鋼棒体10とこの周囲に打設されるコンクリートとの間の付着を防止(絶縁)し、力の伝達作用がほんどない非付着状態(分離状態)とすることを可能とするものである。このアンボンド層41は、その材料として、例えばアスファルト含浸テープ、合成樹脂製発泡シート、ゴムスポンジシート等のテープ状またはシート状軟質材料等が挙げられ、これらを中空鋼棒体10の外周面に巻き付け又は貼り付けてシース状(筒状)にすることによって具体化される。または、このアンボンド層41は、アスファルト、合成樹脂又は合成ゴム等のペースト状のシーリング材を直接中空鋼棒体10の外周面上に塗布することによって具体化してもよい。このようなシーリング材を塗布する場合、ワックス、グリース等の油脂を介して中空鋼棒体10に塗布することが望ましい。
【0045】
このアンボンド層41を設けることにより、コンクリート内にプレストレス導入装置1を埋め込むように配置した場合に、このアンボンド層41が設けられている区間の中空鋼棒体10の外面がコンクリートと付着するのが防止されることになる。
【0046】
このようにして構成されるプレストレス導入装置1は、以下に説明するように、エンドホルダー20と支承ホルダー30とによって、中実鋼棒体15を反力体として中空鋼棒体10に導入される緊張力(引張力)を保持可能に構成されている。以下、プレストレス導入装置1の中空鋼棒体10に緊張力を導入させるまでの手順について説明する。
【0047】
まずは、図4(a)に示すように、中空鋼棒体10内にノンプル用中実鋼棒ユニット16と、撤去用中実鋼棒ユニット17とが配置される。この次に、押圧係止片32の凹部32a内に撤去用中実鋼棒ユニット17の先端側を嵌合させた状態で、支承筒31の雌ねじ孔31a内に対してストッパ33の雄ねじ部33aをねじこませて、ストッパ33の基端側端部を押圧係止片32の先端側端面に係合させる。
【0048】
そして、油圧ジャッキ等によってプレストレス導入装置1の長軸方向に駆動可能な押し込み棒34を、中空のストッパ33内部に挿入し、押圧係止片32の先端側端面を図4(a)に示すような方向Pに向けて押圧し、押し込み棒34と支承用雄ねじ部材22との間において中実鋼棒体15が挟圧されることにより中実鋼棒体15に圧縮力を導入し、更にこれを反力体として中空鋼棒体10に緊張力(引張力)が導入される。
【0049】
このとき、ストッパ33の回動工具係合用外面33bと支承筒31の回動工具係合用外面31cとに、図示しない回動工具を係合させて、支承筒31又はストッパ33を回転させることによって、押圧係止片32の先端側端面に接近する方向に移動させる。図4(b)に示すように、ストッパ33の基端側端部を押圧係止片32の先端側端面に係合させれば、中実鋼棒体15に導入された圧縮力が保持されることになり、これに伴って、中空鋼棒体10に導入された緊張力が保持されることになる。
【0050】
このように、プレストレス導入装置1のエンドホルダー20と支承ホルダー30とによって、中実鋼棒体15を反力体として中空鋼棒体10に緊張力が導入され、支承ホルダー30によってこの中空鋼棒体10の緊張力が定着されることになる。なお、図4(b)に示される中実鋼棒ユニット16、17内の矢印Qは部材内に導入される圧縮力を示し、中空鋼棒ユニット11近傍の矢印Rは部材内に導入される緊張力を示す。
【0051】
次に、このような構成からなるプレストレス導入装置1を用いて、コンクリート内にプレストレスを導入する手順について説明する。
【0052】
コンクリート打設用の型枠内に複数のプレストレス導入装置1を配設し、これらのプレストレス導入装置1を埋め込むように型枠内にコンクリート60を打設する。コンクリートが所定の強度を発現したのを確認した後、図5(a)に示すように、支承ホルダー30におけるストッパ33を電動式レンチ等によって回転させて、押圧係止片32の先端側端面と離間する方向(矢印Sが示す方向)にストッパ33を位置移動させ、支承ホルダー30によって定着された中実鋼棒体15に導入された圧縮力を解放させ、これに伴い、中空鋼棒体10に導入された緊張力(引張力)も解放される。
【0053】
このとき、中空鋼棒体10に導入された緊張力は、図5(b)に示すように、これに直接付着しているコンクリート、即ち、アンボンド層41の設けられていない区間の中空鋼棒体10に直接付着しているコンクリートに対して、圧縮力(プレストレス)として導入されることになる。そして、アンボンド層41の設けられている区間の中空鋼棒体10にアンボンド層41を介して付着しているコンクリートには、圧縮力が導入されないことになる。なお、図5(b)に示される中実鋼棒ユニット16、17内の矢印Tは部材内で解放される圧縮力を示し、矢印Uはコンクリートに導入される圧縮力を示す。
【0054】
即ち、図3に示すように、エンドホルダー20と中間ナット40との間は、アンボンド層41が設けられておらず、この区間における中空鋼棒体10の外面は、コンクリートとの付着が可能なボンド区間Bとして機能する。この一方で、支承ホルダー30と中間ナット40との間は、アンボンド層41が設けられているため、この区間における中空鋼棒体10の外面は、コンクリートとの付着されないアンボンド区間Aとして機能することになる。
【0055】
そして、このアンボンド区間Aにおける中空鋼棒体10の外周面(アンボンド層41の外周面)に打設されたコンクリートは、中空鋼棒体10との間で力の伝達作用がほとんどないことから、プレストレスが導入されないことになる。この一方で、ボンド区間Bにおける中空鋼棒体10の外周面に打設されたコンクリートには、従来どおり、プレストレスが導入されることになる。
【0056】
なお、この後には、支承ホルダー30を取り外し、撤去用中実鋼棒ユニット17のみを取り外す。ノンプル用中実鋼棒ユニット16は、回収せずにそのまま中実鋼棒体10内部に据え置く。そして、撤去用中実鋼棒ユニット17を取り外した後、中空鋼棒体10の先端側には、キャップが嵌設されることになる。
【0057】
なお、このプレストレス導入装置1における中間ナット40の位置は、製造時において適宜設定され、これによって、アンボンド区間やボンド区間の長さを適宜調整できる。
【0058】
このようなプレストレス導入装置1の構成、作用に関する説明を踏まえて、本発明を適用したコンクリート製タンク51の底版51と側壁52(最下段側壁ブロック54)との接合構造について説明する。
【0059】
図2に示すように、図3〜図5で示された一形態のプレストレス導入装置1は、そのエンドホルダー20が底版51内に埋め込み固定され、その中間ナット40が最下段側壁ブロック54内に埋め込み固定され、プレストレス導入装置1全体が、エンドホルダー20から上方に向けて延長されるように側壁52内に配置される。このとき、プレストレス導入装置1全体は、エンドホルダー20から上方に向かうにつれて、側壁内周側に近接するように鉛直方向に対して傾斜した状態で配置されており、これによって、支承ホルダー30が、上段側壁ブロック55の側壁内周側に開口された箱抜き部58から露出可能となるように構成されている。
【0060】
図3〜図5で示されたプレストレス導入装置1は、上述したように、中間ナット40とエンドホルダー20との間をボンド区間とし、中間ナット40と支承ホルダー30との間をアンボンド区間としている。これにより、ボンド区間であるエンドホルダー20と中間ナット40との間において中空鋼棒体10に付着しているコンクリートのみ、即ち、底版51と最下段側壁ブロック54との間においてのみ、プレストレスが導入されることになり、これによって、底版51と側壁52とが強固に接合されることになる。
【0061】
このように、本発明を適用したコンクリート製タンクの底版51と側壁52との接合構造は、これに用いられるプレストレス導入装置1がその全長でなく部分的にのみプレストレスを導入可能に構成されているため、これを利用して、底版51と最下段側壁ブロック54との間においてのみプレストレスを導入することが可能となる。このため、プレストレスの導入が必要とされない部位である、最下段側壁ブロック54と上段側壁ブロック55との間や、箱抜き部58周囲のコンクリート等にまでプレストレスによる影響を及ぼすことなく、底版51と最下段側壁ブロック54との間にプレストレスを導入しての接合が可能となる。
【0062】
特に、この中間ナット40の位置を適宜調整することによって、プレストレス導入装置1の長さにとらわれることなくボンド区間とアンボンド区間の長さを適宜設定することができるため、ボンド区間の長さと最下段側壁ブロック54の長さを底版51と側壁52との接合に必要な長さのみとして、最下段側壁ブロック54に打設されるコンクリート量を低減させることにより、最下段側壁ブロック54に所定の強度が発現されるまでの期間を短縮させることができる。
【0063】
因みに、このような効果を得つつ、底版51と最下段側壁ブロック54との間にプレストレスを導入するためには、プレストレス導入装置1の中間ナット40とエンドホルダー20との間における中空鋼棒11、即ち、ボンド区間が、最下段側壁ブロック54と底版51との間を跨るように配置されていればよい。
【0064】
なお、この箱抜き部58は、側壁52を構成するコンクリートの打設時に図示を省略する分割形の型枠等を利用することによって設けられた開口部のことをいう。因みに、プレストレス導入装置1を、鉛直方向と略同一方向に延長されるように配置し、支承ホルダー30を露出可能となるようにこの箱抜き部58を設けることも一応可能である。しかし、LNG又はLPG貯蔵用のタンクのように、側壁52の厚みを大きく要求されるコンクリート製タンクの場合、このような箱抜き部58を設けるとなると、側壁52の下部において大きな開口部を多数設け、その分コンクリート打設量が低減された状態で上部側壁ブロック55を打設することになり、構造設計上望ましくない。
【0065】
このような箱抜き部58を設けることにより、支承ホルダー30をコンクリート打設後においても露出した状態にさせることができるため、プレストレスを導入する際に必要となる所定の強度が最下段側壁ブロック54に発現されるのを待たずに、上段側壁ブロック55の構築が可能となり、施工の効率性が向上し、ひいては工期の短縮を図れる。特に、プレストレス導入装置1の支承ホルダー30側には、アンボンド区間が設けられているため、支承ホルダー30が露出されている箱抜き部58近傍の、例えば上段側壁ブロック55等のコンクリート体に対してプレストレスの影響が及ぶことなく、このような効果を奏する。
【0066】
なお、この箱抜き部58は、プレストレス導入装置1が内部に配置されている、例えば上段側壁ブロック55等がなすコンクリート体の側部表面に開口されていればよい。
【0067】
次に、このような底版51と側壁52とを接合する方法について説明する。
【0068】
まず、床版51を構成する型枠内にコンクリートを打設する前に、プレストレス導入装置1のエンドホルダー20を型枠内に配置し、その後に型枠内にコンクリートを打設し、エンドホルダー20を底版51内に埋め込み固定する。
【0069】
次に、底版51上に最下段側壁ブロック54を構成する型枠を配置し、この型枠内にコンクリートを打設する。このとき、最下段側壁ブロック54内に中間ナット40が配置されるようにする。また、上段側壁ブロック54内に配設するための縦鉄筋57も、このとき配置しておく。
【0070】
最下段側壁ブロック54のコンクリートが、その上部に上段側壁ブロック55等を更に配置してもよい程度の強度の発現を確認した後、最下段側壁ブロック54の上部に、上段側壁ブロック55の型枠を配置すると共に、最下段側壁ブロック54からの縦鉄筋57と接続するように更に縦鉄筋等を配筋した後、上段側壁ブロック55内にコンクリートを打設する工程を進行させる。
【0071】
このとき、プレストレス導入装置1の中間ナット40とエンドホルダー20との間のボンド区間が、底版51と最下段側壁ブロック54との間に位置するように配置されているため、上段側壁ブロック55内に中空鋼棒体10の一部が配置されていても、上段側壁ブロック55の強度の発現を待つことなく、最下段側壁ブロック54の所定の強度の発現を確認した後に、支承ホルダー30による定着を解放し、底版51と最下段側壁ブロック54との間にのみプレストレスを導入することができる。
【0072】
なお、底版51と側壁52との接合時においては、プレストレス導入装置1のアンボンド区間を地震時に大きなひずみを受ける部分に設け、ボンド区間をプレストレスが必要とされる底版51と最下段側壁ブロック54との接合部周囲にのみ設けることにより、地震時における構造体の変形に対応可能なコンクリート製タンクを得ることができる。
【0073】
因みに、本発明においては、以下のような態様で底版51と側壁52とを接合するようにしてもよい。なお、以下において、前述した構成と同一の構成については、同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0074】
図6は、本発明を適用した接合構造に用いられるプレストレス導入装置1の第2の実施形態を示している。この第2の実施の形態におけるプレストレス導入装置1は、支承ホルダー30が側壁内周面に近接するように、プレストレス導入装置1の長手方向の支承ホルダー30側の一部が曲線状に形成されており、これによって、側壁表面に開口された箱抜き部58から支承ホルダー30が露出されている。また、図7は、プレストレス導入装置1の第3の実施形態を示している。この第3の実施の形態におけるプレストレス導入装置1も同様に、プレストレス導入装置1の長手方向の支承ホルダー30側の一部が曲線状をなしており、更にこの実施形態においては、プレストレス導入装置1の長手方向のエンドホルダー20側の一部も曲線状をなすように形成されている。
【0075】
第2、第3何れの実施形態のプレストレス導入装置1においても、側壁52内周面に近接するようにその支承ホルダー30側の一部が曲線状をなすように形成されており、これによって、プレストレス導入装置1が内部に配置されているコンクリート体の側部表面に開口された箱抜き部58から支承ホルダー30を露出可能とされている。このため、上述したように、最下段側壁ブロック54の強度の発現を待つこと無く、上段側壁ブロック55の構築が可能となり、施工の効率性が向上し、工期の短縮が図れることになる。また、これらの実施形態のプレストレス導入装置1の場合、最下段側壁ブロック54と底版51との間において、プレストレス導入装置1を鉛直方向に傾斜させずに配置することができるため、これら接合部間近傍において鉛直方向にのみ効率よくプレストレスを導入できる。
【0076】
因みに、プレストレス導入装置1は、これら実施形態に示されるように、その長手方向の一部のみが曲線状とされている場合のみならず、その長手方向の全長が曲線状とされていてもよい。
【0077】
なお、このように、プレストレス導入装置1の長手方向の全長又は一部を曲線状をなすように形成する場合、必要となるプレストレス量を計算した上で、曲線部の曲げ半径を考慮する。特に、曲げられた中空鋼棒体10内に中実鋼棒ユニット16を挿入することが難しくなるので、これら中実鋼棒ユニット16は細かく分割し、中空鋼棒体10内に配置した場合に、これら互いに隣接する中空鋼棒ユニット16間で圧縮力が正確に伝達されるように、中空鋼棒ユニット16間を面タッチさせて、又は凹凸を設けて嵌合させて接続させる。
【0078】
図8は、プレストレス導入装置1の第4の実施形態を示している。この第4の実施の形態におけるプレストレス導入装置1では、エンドホルダー20と支承ホルダー30との間において、二つの中間ナット40が設けられており、中空鋼棒体10の外周面に、エンドホルダー20側から順に、ボンド区間、アンボンド区間、ボンド区間が設けられている。
【0079】
このように、プレストレス導入装置1では、少なくとも一つ以上の中間ナット40を設け、ボンド区間とアンボンド区間とを複数設けるようにしてもよい。この場合、プレストレスが必要とされる部位にボンド区間、構造設計上靭性が要求される部位にアンボンド区間を設けることになる。これにより、一層プレストレスを導入しようとする部位を一定の範囲に限定することができ、構造設計上の自由度が向上する。
【0080】
因みに、本発明において用いられるプレストレス導入装置1のアンボンド層41は、中空鋼棒体10の外周面にシースを設け、このシースと中空鋼棒体10との間にセメント系遅延硬化性の充填材を充填するように構成してもよい。このように、遅延硬化性の充填材を充填し、例えば、3日〜6ヶ月と設定した期間経過した後に充填材が硬化するようにすれば、この期間の間にのみ中実鋼棒体10とコンクリートとの付着を防止し、この期間の経過後に中実鋼棒体10とアンボンド層41とコンクリートとの付着を図り、これらの一体化をすることができる。
【0081】
この第5の実施形態で用いられるセメント系遅延硬化性充填材としては、例えば、特許第3909034号公報において開示されているセメント系グラウト組成物を適用することが出来る。
【0082】
このセメント系グラウト組成物の一形態としては、ビーライト(2CaO・SiO)を40質量%以上含有する高ビーライト系ポルトランドセメントと、石灰石微粉末を含む平均粒径200μm以下の無機質混和材と、凝結遅延剤と、分散剤と、分離低減剤とを含み、前記高ビーライト系ポルトランドセメントと、前記無機質混和材との質量比が30:70〜95:5であり、かつ前記石灰石微粉末の配合割合が、前記高ビーライト系ポルトランドセメントと前記無機質混和材との合計量100質量部に対して、20〜60質量部であるセメント系グラウト組成物が挙げられる。因みに、このセメント系グラウト組成物は、プレグラウティング工法用のセメント系グラウト組成物として使用することができる。
【0083】
このセメント系グラウト組成物は、前記凝結遅延剤、前記分散剤及び前記分離低減剤の配合割合が、それぞれ前記高ビーライト系ポルトランドセメントと前記無機質混和材との合計量100質量部に対して、0.15〜1.0質量部、0.05〜1.5質量部及び0.05〜0.5質量部であるグラウト組成物でもよい。
【0084】
また、このセメント系グラウト組成物は、前記凝結遅延剤が、リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩、ポリオール有機酸誘導体又はこれらの組み合わせであり、前記分散剤がポリカルボン酸系高分子化合物、ナフタレンスルホン酸系高分子化合物、アルキルアリルスルホン酸系高分子化合物、メラミンスルホン酸系高分子化合物、アミノスルホン酸系高分子化合物、又はこれらの組み合わせであり、前記分離低減剤が、セルロースエーテル系、アクリルポリマー系、グリコール系、バイオポリサッカライド系、繊維素誘導体ポリマー系若しくは澱粉系の分離低減剤又はこれらの組み合わせであるグラウト組成物でもよい。
【0085】
また、このセメント系グラウト組成物は、前記無機質混和材が、シリカフュ−ム、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ又はこれらの組み合わせを更に含むグラウト組成物でもよい。
【0086】
また、このセメント系グラウト組成物は、低級アルコールのアルキレンオキシド付加物系、ポリエーテル系、アルコール系、低分子量アルキレンオキシド共重合体系若しくはグリコールエーテル・アミノアルコール誘導体系の有機系収縮低減剤又はこれらの組み合わせである有機系収縮低減剤をさらに含む、グラウト組成物でもよい。
【0087】
因みに、このようなセメント系遅延硬化性の充填材は、アンボンド層41としてのシースと中空鋼棒体10との間のみでなく、中空鋼棒体10と中実鋼棒体15との間に充填するようにしてもよい。これによって、プレストレス導入装置1がコンクリート内に埋め込み配置されることによって、コンクリート構造物全体の終局耐力を向上させることができる。
【0088】
また、プレストレス導入装置1において中空鋼棒体10内に配置される中実鋼棒体15は、これを構成する撤去用中実鋼棒ユニット17とノンプル用中実鋼棒ユニット16との長さ寸法の和が、中空鋼棒体10の長さ寸法よりも長くなるように構成し、中空鋼棒体10の他端側(先端側)から突出するようにされる。この突出した寸法が、油圧ジャッキ等によって押し込むことができるプレストレス量の最大値になる。
【0089】
また、中空鋼棒ユニット11や中実鋼棒ユニット16、17は、例えば、PC鋼材によって製作されることになる。
【0090】
また、押圧係止片32と撤去用中実鋼棒ユニット17は、一体化されたものを用いてもよい。
【0091】
また、中空鋼棒体10や中実鋼棒体15は、複数本の中空鋼棒ユニット11や中実鋼棒ユニット16、17によって構成せず、一本の中空鋼棒ユニット11等によって構成するように設定することも可能である。しかしながら、このような場合、中間ナット40を所定の位置に装着させる場合に、一本の長尺の中空鋼棒ユニット11の中間ナット40を設けようとする位置にまで雄ねじ部12、13を設けた上で、その位置にまで中間ナット40を回転させて移動させる必要があり、加工性、作業性の観点から望ましくない。このため、中空鋼棒体10は、複数本の中空鋼棒ユニット11から構成し、長さの長いカップラーからなる中間ナット40によってこれら中空鋼棒ユニット11を連結することよって構成することが好ましい。因みに、これら複数本の中空鋼棒ユニット11や中実鋼棒ユニット16、17の長さを異なる長さに設定することも可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】コンクリート製タンクの構成を示す縦断面図である。
【図2】コンクリート製タンクにおける底版と側壁との接合構造の一形態を示す一部縦断側面図である。
【図3】プレストレス導入装置の構成を示す図であり、(a)はその側面図、(b)はその縦断側面図である。
【図4】プレストレス導入装置に緊張力を導入する方法を説明する縦断側面図である。
【図5】プレストレス導入装置を用いてコンクリート内にプレストレスを導入する方法を説明する一部縦断側面図である。
【図6】コンクリート製タンクにおける底版と側壁との接合構造の他の形態を示す一部縦断側面図である。
【図7】コンクリート製タンクにおける底版と側壁との接合構造の他の形態を示す一部縦断側面図である。
【図8】プレストレス導入装置の他の構成を示す側面図である。
【図9】従来のプレストレス導入装置の構成を示すものであり、(a)はその側面図、(b)はその縦断側面図である。
【図10】従来のコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造を示すものである。
【符号の説明】
【0093】
1 プレストレス導入装置
1a 上部
1b 下部
10 中空鋼棒体
11 中空鋼棒ユニット
12 雄ねじ部(基端側)
13 雄ねじ部(先端側)
15 中実鋼棒体
16 ノンプル用中実鋼棒ユニット
17 撤去用中実鋼棒ユニット
18 充填体
20 エンドホルダー
21 アンカー材
21a 雌ねじ孔
22 支承用雄ねじ部材
30 支承ホルダー
31 支承筒
31a 雌ねじ孔(基端側)
31b 雌ねじ孔(先端側)
31c 回動工具係合用外面
32 押圧係止片
32a 凹部
33 ストッパ
33a 雄ねじ部
33b 回動工具係合用外面
40 中間ナット
41 アンボンド層
50 コンクリート製タンク
51 底版
52 側壁
53 天井
54 最下段側壁ブロック
55 上段側壁ブロック
56 横鉄筋
57 縦鉄筋
58 箱抜き部
60 コンクリート
100 プレストレス導入装置
101 中空鋼棒
102 中実鋼棒
103 エンドホルダー
104 支承ホルダー
150 コンクリート製タンク
151 底版
152 側壁
153 最下段側壁ブロック
154 側壁ブロック
155 箱抜き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製タンクの底版と、当該底版上に立設される側壁とを互いに接合する際に適用されるコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造において、
中空鋼棒と、上記中空鋼棒の内部に配置される中実鋼棒と、上記中空鋼棒の両端側に設けられるエンドホルダーと支承ホルダーと、上記支承ホルダーと上記エンドホルダーとの間における上記中空鋼棒の外面側に設けられる中間ナットと、上記中間ナットと上記支承ホルダーとの間における上記中空鋼棒の外面側に被覆されるアンボンド層とを備え、上記エンドホルダー及び上記支承ホルダーによって上記中実鋼棒を反力体として上記中空鋼棒に導入される緊張力を保持可能に構成されたプレストレス導入装置における上記中間ナットと上記エンドホルダーとの間の中空鋼棒が、上記側壁を構成する最下段の側壁ブロックと上記底版との間を跨るように配置され、
上記支承ホルダーによる定着を解放することによって上記中空鋼棒に導入された緊張力が、上記エンドホルダーと上記中間ナットとの間で中空鋼棒に付着したコンクリートのみにプレストレスとして導入され、上記底版と上記側壁とが接合されていること
を特徴とするコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造。
【請求項2】
上記中空鋼棒は、直列に配列された複数の中空鋼棒ユニットが中間ナットにより接続されてなること
を特徴とする請求項1記載のコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造。
【請求項3】
上記プレストレス導入装置は、鉛直方向に対して傾斜して配置される、若しくはその長手方向の全長又は一部が曲線状とされることにより、当該プレストレス導入装置が内部に配置されているコンクリート体の側部表面に開口された箱抜き部から上記支承ホルダーが露出されていること
を特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート製タンクの底版と側壁との接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−133157(P2009−133157A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311315(P2007−311315)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000103769)オリエンタル白石株式会社 (136)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】