説明

コンタクトレンズの膨潤を減少させるための方法および組成物

本発明は、ポリエーテルの眼の涙液膜への制御放出のための、ソフトコンタクトレンズ用の眼用溶液に関する。本発明の溶液のポリエーテル成分は、ソフトコンタクトレンズ材料マトリックスから長期間にわたって放出され、より長く持続する湿潤性能、潤滑の向上、一日中の快適性の向上、および装用コンタクトレンズ由来の乾燥感の低減をもたらす。本発明はまた、高濃度のポリエーテルの吸収により代表的に引き起こされるヒドロゲルコンタクトレンズの膨潤を制御するための、カチオン性高分子電解質の使用を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、レンズの膨潤を制御しかつ視力を維持するために、ヒドロゲル生体材料による溶液の快適にする成分の吸収および制御放出のための、溶液およびその溶液を使用する方法に関する。より詳細には、本発明は、ヒドロゲル生体材料(例えば、コンタクトレンズの生体材料)への素早い吸収、およびより長く持続する湿潤性能のために水性環境下での長期間にわたるゆっくりした放出を示すポリエーテルを含む眼用溶液に関する。本発明の眼用溶液は、高濃度のポリエーテルの吸収により引き起こされるレンズの膨潤を制御するのに機能する少なくとも1種のカチオン性高分子電解質を含む。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
今日広く使用されているコンタクトレンズは、2つの一般的な部類に分かれる。一つ目は、アクリル酸エステル(例えば、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA))の重合化により調製される材料から形成される硬質(hard)または硬性(rigid)な型のレンズが存在する。2つ目としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のようなモノマーを重合化することにより作製されるゲル、ヒドロゲルもしくはソフト型レンズが存在するか、または長時間装用レンズの場合、シリコン含有モノマーもしくは高分子モノマーを重合化することにより作製されるゲル、ヒドロゲルもしくはハード型レンズが存在する。眼の中への挿入の前にレンズを湿潤する溶液は、ハード型コンタクトレンズおよびソフト型コンタクトレンズの両方に必要とされるが、ハード型レンズおよびソフト型レンズ用の溶液の処方物は、溶液の種々の所望の特性に基づいて異なる傾向がある。レンズ型に拘らず、コンタクトレンズが眼に挿入された後、再湿潤すること、潤滑すること、および/または装用の快適さを高めるための眼用溶液が、時々、点眼剤により眼に適用される。
【0003】
眼の中のコンタクトレンズに直接添加されることによりソフトコンタクトレンズ装用の快適さを向上するための等張性溶液が、公知である。このような溶液は、代表的には、増粘剤、滑沢剤、界面活性剤、緩衝剤、防腐剤および塩を含有する。例えば、Shermanは、米国特許第4,529,535号に、硬性シリコーンコポリマーコンタクトレンズ(連続装用レンズを含む)に特に有用である再湿潤溶液を開示する。1つの実施形態において、上記再湿潤溶液は、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(ビニルアルコール)およびポリ(N−ビニルピロリドン)の組み合わせを含有する。
【0004】
Ogunbiyiらは、米国特許第4,786,436号に、コラーゲンおよび他の粘滑剤(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)を含む湿潤溶液を開示する。
【0005】
Suらは、米国特許第4,748,189号に、ヒドロゲルコンタクトレンズの下の領域での流体の交換を改善し、涙の交換を起こさせ、それによりレンズの下の老廃物および残屑の蓄積を防ぐための眼用溶液を開示する。この溶液は、ヒドロゲルを平らにする薬剤(例えば、尿素、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、またはアミノ−エタノール)を含有する。この溶液に有用な界面活性剤としては、ポロキサマーおよびチロキサポールが挙げられる。適切な滑沢剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(ビニルアルコール)、およびポリ(N−ビニルピロリドン)が挙げられる。
【0006】
Wintertonらは、米国特許第5,209,865号に、ポロキサミン界面活性剤およびポロキサマー界面活性剤(各々は、7以下のHLB(親水性−新油性のバランス)を有する)の組み合わせを含有するコンタクトレンズ用の調整溶液を開示する。本発明に従う溶液は、レンズ表面上に、タンパク質が非常に小さい親和性を有する均一な親水性フィルムを形成する。従って、溶液により接触されるコンタクトレンズは、レンズに保護効果を提供するコーティングを有するといわれる。
【0007】
Zhangらは、米国特許第5,604,189号および米国特許第5,773,396号に、コンタクトレンズを洗浄および湿潤するための組成物を開示し、この組成物は、(i)少なくとも約18のHLBを有する非アミンポリエチレンオキシ含有化合物、(ii)コンタクトレンズ沈着物に対して洗浄活性を有し、18未満のHLBを有し得る界面活性剤、および(iii)湿潤剤を含有する。このような組成物は、湿潤剤として、Ellisらへの米国特許第5,401,327号にもまた開示されるようなエトキシル化グルコース誘導体(例えば、グルカン)を含有し得る。チロキサポールは、例えば、AllerganのCompleteTM多目的溶液に使用される従来的な界面活性剤であり、この薬剤は、コンタクトレンズ沈着物に対して洗浄活性を有し、そして18未満のHLBを有する。
【0008】
ハードレンズと異なり、ソフト型コンタクトレンズは、有意により多くの流体を吸収する傾向がある。コンタクトレンズ装用快適性を増大させることが望ましいが、レンズの膨潤により製造者の最終製品の規格からレンズの寸法を変えることは望ましくない。コンタクトレンズ装用快適性を増大させるための眼用溶液に有用ないくつかの化合物は、視力の低下をもたらすレンズ膨潤を引き起こし得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、コンタクトレンズに適用され得、レンズを再湿潤するだけでなく、このようなレンズが眼から取り外されて洗浄または処分されるまでの長期間にわたるレンズの制御放出湿潤も提供する、眼用溶液を有することが所望される。高濃度のポリエーテルで処理されたヒドロゲルコンタクトレンズに代表的に関連するレンズ膨潤を制御することにより視力を維持する眼用溶液を有することもまた、所望される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、ヒドロゲル生体材料(例えば、ソフトコンタクトレンズの形態のヒドロゲル生体材料)による溶液の快適にする成分の吸収および制御放出のための溶液および方法に関し、このヒドロゲル生体材料は、レンズ膨潤が制御されており、視力を維持する。本発明の眼用溶液は、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)(すなわち、(PEO−PPO−PEO))、もしくはポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)(すなわち、(PPO−PEO−PPO))、またはこれらの組み合わせに基づくポリエーテルを含有する。PEO−PPO−PEOおよびPPO−PEO−PPO(例えば、ポロキサマーおよびポロキサミン)は、商品名PluronicsTM、R−PluronicsTM、TetronicsTM、およびR−TetronicsTM(BASF Wyandotte Corp.,Wyandotte,Michigan)で市販されている。本発明の眼用溶液中のポリエーテルは、ヒドロゲル生体材料(例えば、ソフト型コンタクトレンズの製造で使用されるヒドロゲル生体材料)への素早い吸収を示す。本発明の眼用溶液中のポリエーテルは、ヒドロゲル生体材料へ高濃度になるまで吸収した後、水性環境下でヒドロゲル生体材料からの長期間にわたるゆっくりした放出を示す。本発明に従って、1種以上のポリエーテルは、長期間にわたって装用コンタクトレンズから眼の涙液膜へゆっくりと放出してより長く持続する湿潤性能、潤滑性の向上、一日中の快適性の向上および装用コンタクトレンズ由来の乾燥感の減少を引き起こす。本発明の眼用溶液は、1種以上のポリエーテルに加えて、レンズの膨潤(特にアニオン性コンタクトレンズの膨潤)を制御するように機能する少なくとも1種のカチオン性高分子電解質を同様に含む。レンズの膨潤を制御することにより、視力は維持される。コンタクトレンズの多目的処理用の本発明の眼用溶液は、眼に装着している間にコンタクトレンズを消毒することおよびコンタクトレンズを再湿潤することに効果的であり、この眼用溶液はまた、レンズパッケージング溶液としての使用に適している。
【0011】
従って、レンズ膨潤が制御されているヒドロゲルコンタクトレンズに対してより長く持続する湿潤性能を提供する眼用溶液を提供することが本発明の目的である。
【0012】
本発明の別の目的は、眼用溶液を使用して、レンズ膨潤が制御されているヒドロゲルコンタクトレンズに対してより長く持続する湿潤性能を提供するための方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、コンタクトレンズの潤滑性および一日中の快適性を向上させる眼用溶液およびこの眼用溶液を使用するための方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、装用コンタクトレンズ由来の眼の乾燥感を低減する眼用溶液およびこの溶液を使用するための方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、ヒドロゲル生体材料への素早い吸収を示す快適にする成分を有する眼用溶液を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、ヒドロゲル生体材料から水性環境へゆっくり放出する快適にする成分を有する眼用溶液を提供することである。
【0017】
本発明のこれらの目的および利点ならびに他の目的および利点(これらのいくつかは具体的に記載され、その他のものは具体的に記載されていない)は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなる。
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ヒドロゲル生体材料(例えば、ソフトコンタクトレンズの形態のヒドロゲル生体材料)による溶液の快適成分の吸収および制御放出のための溶液およびその溶液を使用する方法に関する。本発明の眼用溶液は、好ましくは、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)(すなわち、(PEO−PPO−PEO))、もしくはポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)(すなわち、(PPO−PEO−PPO))、またはこれらの組み合わせに基づく、約1重量%より多いポリエーテルを含む。PEO−PPO−PEOおよびPPO−PEO−PPOは、商品名PluronicsTM、R−PluronicsTM、TetronicsTM、およびR−TetronicsTM(BASF Wyandotte Corp.,Wyandotte,Michigan)で市販されている。より好ましくは、本発明の眼用溶液は、約1.5〜14重量%のポリエーテルを含み、最も好ましくは約2〜5重量%の間のポリエーテルを含む。本発明の眼用溶液中のポリエーテルは、ヒドロゲル生体材料(例えば、ソフト型コンタクトレンズの製造に使用されるヒドロゲル生体材料)への素早い吸収を示す。本明細書中で記載される、本発明の、コンタクトレンズの材料マトリックスへのポリエーテルの吸収は、Salpekarら、米国特許第6,440,366号で開示されるようなコンタクトレンズ表面への界面活性剤の吸収と異なる。本発明の眼用溶液中のポリエーテルは、ヒドロゲル生体材料により高濃度まで吸収した後、図1〜図4の図に例示されるような水性環境下で、長期間にわたるヒドロゲル生体材料からのゆっくりの放出を示す。本発明に従って、ポリエーテルは、装用されたコンタクトレンズから眼の涙液膜へ長期間に亘ってゆっくりと放出し、より長く持続する湿潤性能、潤滑性の向上、一日中の快適性の向上および装用コンタクトレンズ由来の乾燥感の低減を引き起こす。
【0019】
本発明の眼用溶液は、ポリエーテルに加えて、高濃度のポリエーテルの吸収により引き起こされるレンズの膨潤を制御するように機能する、1種以上(しかし少なくとも1種)のカチオン性高分子電解質を含む。レンズ膨潤を制御することにより、視力が維持される。適切なカチオン性高分子電解質としては、例えば、ポリクオタニウム10、ポリクオタニウム11、ポリクオタニウム16、ポリクオタニウム44およびポリクオタニウム46が挙げられるが、これらに限定されず、しかし商品名LuviquatTM FC370(BASF Wyandotte Corp.)で入手可能なポリクオタニウム16、または商品名ポリマーJR(BASF Wyandotte Corp.)で入手可能なポリクオタニウム10が好ましい。好ましくは、本発明の眼用溶液は、レンズ膨潤の制御のために約0.001〜5重量%の1種以上のカチオン性高分子電解質を含み、およびより好ましくは約0.01〜0.5重量%の1種以上のカチオン性高分子電解質を含む。
【0020】
本発明に従って、本発明の眼用溶液は、コンタクトレンズを消毒するのに効果的な多目的溶液である。本発明の眼用溶液は、眼への装着の前にコンタクトレンズを処理するために使用されるか、または点眼剤の形態で眼へ投与することにより使用されるか、またはコンタクトレンズをパッケージングするために使用される。この目的のために、本発明の溶液は、消毒剤または防腐剤として1種以上の抗細菌剤を含み得る。適切な抗細菌剤としては、例えば、以下が挙げられるが、これらに限定されない:1,1’−ヘキサメチレン−ビス[5−(p−クロロフェニル)ビグアニド](クロルヘキシジン)、クロルヘキシジンの水溶性塩、1,1’−ヘキサメチレン−ビス[5−(2−エチルヘキシル)ビグアニド](アレキシジン)、アレキシジンの水溶性塩、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)の水溶性塩、四級アンモニウムエステルなど。ビグアニドは、米国特許第5,990,174号;同第4,758,595号および同第3,428,576号に記載され、これらの特許は各々、本明細書中でその全体が参考として援用される。市販されていて即座に入手し得ることに起因して好ましいビグアニドは、ポリ(アミノプロピルビグアニド)(PAPB)(ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)(PHMB)とも一般的に呼ばれる)である。
【0021】
本発明の溶液は、約6.0〜8.0のpHを有し、より好ましくは約6.5〜7.8のpHを有する。最終pHを調整するために、1種以上の適切な緩衝剤が本発明の溶液に添加され得、この緩衝剤としては、例えば以下であるが、これらに限定されない:エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、ホウ酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸水素塩、および種々の混合された緩衝剤または緩衝系。一般的に、緩衝剤は、約0.05〜2.5重量%の範囲にある量で、および好ましくは0.1〜1.5重量%の範囲にある量で使用される。
【0022】
代表的には、本発明の眼用溶液は、重量オスモル濃度が約200〜400mOsm/kg(しかし好ましくは約250〜350mOsm/kg)であるような等張性溶液またはほぼ等張性の溶液を提供するために、1種以上(しかし少なくとも1種)の張性調整剤を必要に応じて緩衝剤の形態で含む。適切な張性調整剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、デキストロース、マンノース、グリセリン、プロピレングリコール、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムが挙げられるが、これらに限定されない。これらの薬剤は、代表的には、約0.01〜2.5重量%の範囲にある量で、および好ましくは約0.1〜1.5重量%の範囲にある量で別々に使用される。
【0023】
必要に応じて、本発明の溶液中に1種以上の水溶性粘度ビルダー(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(N−ビニルピロリドン)およびポリ(ビニルアルコール)であるが、これらに限定されない)を含むこともまた、所望され得る。これらの粘滑効果の理由で、粘度ビルダーは、レンズ表面上の、眼に対する衝撃を和らげるフィルムによりレンズ装着者の快適性をさらに高める傾向がある。
【0024】
本発明の溶液は、加熱または滅菌濾過により滅菌され、そして密封される。コンタクトレンズパッケージング溶液として使用される場合、この溶液は、加熱により滅菌され、そしてブリスター包装でコンタクトレンズと一緒に密封される。加熱滅菌されて密封された場合、本発明の溶液は、抗細菌剤の非存在下で使用され得る。
【0025】
本発明の溶液は、以下の実施例になおより詳細に記載される。
【実施例】
【0026】
(実施例1:ポリエーテル誘導性レンズ膨潤を制御するためのポリクオタニウム16の使用)
SureVueTMレンズ(Johnson & Johnson)を、以下の表1で特定している基礎試験溶液に、4時間、以下の表2の縦列1で特定しているような、その溶液に添加された特定量のポリエーテルと一緒に浸漬した。次いで、このレンズを顕微鏡下に配置した。顕微鏡下にある間、このレンズを、事前に4時間浸漬した溶液と同じ溶液に浸漬した。この顕微鏡に連結された画像化ソフトウエアを使用して、レンズの直径の長さを、以下の表2に示すように測定および記録した。測定および記録の前に、顕微鏡を、既知の9.6mm直径の円盤を使用して最初に較正した。SureVueTMレンズは、元々のパッケージング溶液中では直径が14.0mmである。種々の量のポリエーテルを含むコントロール1溶液は、ポリエーテルの濃度に依存する様式でレンズ直径を増大させることが見出され、これは、Luviquat FC550およびLuviquat FC370(ポリクオタニウム16)をこの溶液に添加した場合に効果的に制御された。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

(実施例2:ポリエーテル誘導性レンズ膨潤を制御するためのポリクオタニウム10の使用)
ポリエーテル誘導性のレンズ膨潤を制御することにおけるカチオン性高分子電解質の効果をさらに説明するために、以下の表3で特定している基礎試験溶液を、上記の実施例1に記載した試験手順に従って試験した。この試験結果を、以下の表4に要約する。ポリクオタニウム10化合物(ポリマーJR 400、ポリマーLR 400およびポリマーLKと表している)は、レンズ膨潤を制御することに効果的であると見出された。
【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

(実施例3:ホウ酸塩−リン酸塩緩衝剤を使用する好ましい処方物)
以下の表5で溶液Fと特定している多目的レンズケア処方物は、ホウ酸塩−リン酸塩緩衝剤を使用した本発明の好ましい実施形態の例示である。
【0031】
【表5】

(実施例4:トリエタノールアミン緩衝剤を使用する好ましい処方物)
以下の表6で溶液G〜Jと特定している以下の多目的レンズケア処方物は、トリエタノールアミン緩衝剤を使用した本発明の好ましい実施形態の例示である。
【0032】
【表6】

(実施例5:抗細菌効力研究)
本発明の有用性をさらに例示するために、上記の実施例3および4で特定している、本発明に従って調製した溶液の抗細菌効力を研究するための試験を行った。コンタクトレンズの化学的消毒用の種々の組成物のうちの各々の抗細菌効力を、10%の有機土壌の存在下で評価した。抗細菌負荷(challenge)接種材料を、Pseudomonas aeruginosa(ATCC 9027)、Staphylococcus aureus(ATCC 6538)、Serratia marcescens(ATCC 13880)、Candida albicans(ATCC 10231)およびFusarium solani(ATCC 36031)を使用して調製した。この試験生物体を、適切な寒天上で培養し、そしてこの培養物を、無菌性のダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水および0.05重量/体積%のポリソルベート80(DPBST)または適切な希釈剤を使用して収集し、そして適切な容器に移した。胞子懸濁液を無菌ガラスウールに通して濾過し、菌糸フラグメントを取り除いた。必要に応じて、Serratia marcescensを1.2μmのフィルターに通して濾過し、懸濁液を清澄にした。収集後、この懸濁液を5000×gで、最長30分間、20〜25℃で遠心分離した。その上清を注いで取り出し、そしてDPBSTまたは他の適切な希釈液中に再懸濁した。その懸濁液を2度目の遠心分離をし、そしてDPBSTまたは他の適切な希釈液中に再懸濁した。負荷細菌細胞懸濁液および負荷真菌細胞懸濁液を、DPBSTまたは他の適切な希釈剤を用いて1×10〜1×10cfu/mLに調整した。適切な細胞濃度は、例えば、事前に選択した波長(例えば490nm)で分光光度計を使用して懸濁液の濁度を測定することにより推定され得る。1つの負荷生物体当たり最少で10mLの試験溶液を含む1本のチューブを調製した。試験するべき溶液の各チューブを、1×10〜1×10cfu/mLの最終数を与えるのに十分な試験生物体の懸濁液(サンプル体積の1%を超えない接種材料の体積)で接種した。接種材料の分散を、サンプルを少なくとも15秒間ボルテックスすることにより確実にした。接種した産物を、10〜25℃で保存した。消毒の一定時間後に生存数を決定するために、1.0mLの量のアリコートを、接種した産物から取り出した。提唱されたレジメンの浸漬時間が4時間であった場合、細菌についての時点は、例えば、1時間、2時間、3時間および4時間であった。酵母およびカビを、16時間(4倍のレジメン時間)のさらなる時点で試験した。上記懸濁液を、少なくとも5秒間激しくボルテックスすることによりしっかりと混合した。特定の時間間隔で取り出した1.0mLのアリコートを、有効な中和培地において適切な一連の10倍希釈に供した。上記懸濁液を、激しく混合し、そして適切な時間インキュベートし、抗細菌剤の中和を可能にした。生物体の生存数を、適切な希釈法で、細菌についてはトリプチカーゼ(trypticase)大豆寒天(TSA)ならびにカビおよび酵母についてはサブローデキストロース寒天(SDA)の3つのプレートを調製することにより、決定した。細菌回収プレートを、30〜35℃で、2〜4日間インキュベートした。酵素回収プレートを、20〜30℃で2〜4日間インキュベートした。カビ回収プレートを、20〜25℃で、3〜7日間インキュベートした。コロニー形成単位の平均数を、数を数え得るプレート上で決定した。数を数え得るプレートとは、コロニーが10希釈プレートまたは10−1希釈プレートだけで観察される場合を除いて、細菌および酵母については30〜300cfu/プレート、ならびにカビについては8〜80cfu/プレートをいう。次いで、微生物の減少を、特定の時点で計算した。試験生物体の増殖のために使用した培地の適切性を実証するために、および最初の接種材料濃度を推定するために、上に列挙したような生物体を懸濁することに使用した同容積の希釈液を使用して、同一の接種材料のアリコートを適切な希釈液(例えばDPBST)に分散することにより、接種材料のコントロールを作製した。有効な中和ブロスで接種し、適切な時間インキュベートした後、接種材料のコントロールは1.0×10〜1.0×10cfu/mLの間でなければならない。
【0033】
「産物を消毒するための単独手順(Stand−Alone Procedure for Disinfecting Products)」(本明細書中で「単独試験」と呼ぶ)と呼ばれ、U.S.Food and Drug Administration, Division of Ophthalmic Devicesにより作成された製品についての消毒効力試験(Disinfection Efficacy Testing for Products)(1997年5月1日)基づく性能要件に基づいて、上記溶液を評価した。この性能要件は、こする手順を包含しない。この性能要件は、コンタクトレンズの消毒についての現在のISO規格(1995年改訂)に匹敵する。この単独試験は、代表的な範囲の微生物の標準的な接種材料を含む産物を消毒する工程を検証し、そして産物が使用され得る間の生存度と比較し得る、事前決定された時間間隔での生存度の減少の程度を立証する。所定の消毒時間の第一の判定基準(潜在的な最小推奨消毒時間に対応する)は、1mL当たりの回収された細菌の数が、所定の消毒時間内で、3.0ログ以上の平均値で減少されなければならないことである。1mL当たりの回収されたカビおよび酵母の数は、4倍の最小推奨消毒時間において増加することなく、最小推奨消毒時間内で、1.0ログ以上の平均値で減少されなければならない。微生物研究の結果を、以下の表7に示す。試験した全ての処方物が、第一の判定基準を通過した。
【0034】
【表7】

本明細書中では、眼用溶液、ヒドロゲル基質ならびにこの眼用溶液を作製および使用する方法が示され、記載されているが、根底にある本発明の概念の精神および範囲を逸脱することなく種々の改変がなされ得ることが当業者に明らかである。同様に、本発明は、添付の特許請求の範囲により示される範囲以外で本明細書中に記載される特定の眼用溶液、基質または方法に限定されることを意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、1%のポリエーテル溶液の放出が制御されたグループIのグラフである。
【図2】図2は、5%のポリエーテル溶液の放出が制御されたグループIのグラフである。
【図3】図3は、1%のポリエーテル溶液の放出が制御されたグループIVのグラフである。
【図4】図4は、5%のポリエーテル溶液の放出が制御されたグループIVのグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲル生体材料への吸収および該ヒドロゲル生体材料からの長時間にわたる制御放出のための溶液であって、溶液中に1種以上のポリエーテルおよび1種以上のカチオン性高分子電解質を含む、溶液。
【請求項2】
前記溶液が、約1.0重量%より多いポリエーテルを含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記溶液が、約1.5〜14重量%のポリエーテルを含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
前記溶液が、約2〜5重量%のポリエーテルを含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項5】
前記溶液が、約0.001〜5重量%のカチオン性高分子電解質を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項6】
前記溶液が、約0.01〜0.5重量%のカチオン性高分子電解質を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項7】
前記溶液が、約6.0〜8.0のpHを有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項8】
前記溶液が、約6.5〜7.8のpHを有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項9】
前記溶液が、約0.05〜2.5重量%の緩衝剤を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項10】
前記溶液が、約0.1〜1.5重量%の緩衝剤を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項11】
前記溶液が、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、ホウ酸塩、クエン酸塩、リン酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種以上の緩衝剤を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項12】
前記溶液が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、デキストロース、マンノース、グリセリン、プロピレングリコール、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムからなる群より選択される1種以上の張性調整剤を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項13】
前記溶液が、約0.01〜2.5重量%の張性調整剤を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項14】
前記溶液が、約0.1〜1.5重量%の張性調整剤を含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項15】
前記溶液が、1種以上の粘度ビルダーを含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項16】
前記溶液が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(N−ビニルピロリドン)およびポリ(ビニルアルコール)からなる群より選択される1種以上の粘度ビルダーを含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項17】
前記溶液が、約200〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項18】
前記溶液が、約250〜350mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項19】
前記ポリエーテルが、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)に基づく、請求項1、2、3または4に記載の溶液。
【請求項20】
前記1種以上のカチオン性高分子電解質が、ポリクオタニウム10、ポリクオタニウム11、ポリクオタニウム16、ポリクオタニウム44およびポリクオタニウム46からなる群より選択される、請求項1に記載の溶液。
【請求項21】
請求項1に記載の溶液を使用する方法であって、該方法は、以下:
ヒドロゲル生体材料と該溶液とを接触させる工程
を包含する、方法。
【請求項22】
ヒドロゲル生体材料への吸収および該ヒドロゲル生体材料からの長時間にわたる制御放出のための溶液を作成する方法であって、該方法は、
溶液中に1種以上のポリエーテルおよび1種以上のカチオン性高分子電解質を添加する工程
を包含する、方法。
【請求項23】
約1.0重量%より多いポリエーテルが添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
約1.5〜14重量%のポリエーテルが添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
約2.0〜5.0重量%のポリエーテルが添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリエーテルが、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)に基づく、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
1種以上の張性調整剤が添加され、そして必要に応じて1種以上の粘度ビルダーが添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
ヒドロゲル生体材料への吸収および該ヒドロゲル生体材料からの長時間にわたる制御放出のための溶液であって、該溶液は、以下:
ホウ酸、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、1種以上のポリエーテル、1種以上のカチオン性高分子電解質および必要に応じて1種以上の抗菌因子物質
を含む、溶液。
【請求項29】
ヒドロゲル生体材料への吸収および該ヒドロゲル生体材料からの長時間にわたる制御放出のための溶液であって、該溶液は、以下:
トリエタノールアミン、塩化ナトリウム、1種以上のポリエーテル、1種以上のカチオン性高分子電解質および必要に応じて1種以上の抗菌因子物質
を含む、溶液。
【請求項30】
ヒドロゲル生体材料への吸収および該ヒドロゲル生体材料からの長時間にわたる制御放出のための溶液であって、該溶液は、以下:
緩衝系、1種以上の張性調整剤、1種以上のポリエーテル、1種以上のカチオン性高分子電解質および必要に応じて1種以上の抗菌因子物質
を含む、溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−520793(P2006−520793A)
【公表日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507301(P2006−507301)
【出願日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/008237
【国際公開番号】WO2004/084960
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
【Fターム(参考)】